(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023055214
(43)【公開日】2023-04-17
(54)【発明の名称】HIF-1活性化剤
(51)【国際特許分類】
A61K 36/63 20060101AFI20230410BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230410BHJP
A61P 7/06 20060101ALI20230410BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20230410BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20230410BHJP
A61P 3/00 20060101ALI20230410BHJP
A61P 15/00 20060101ALI20230410BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20230410BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20230410BHJP
A61P 17/14 20060101ALI20230410BHJP
A61P 17/02 20060101ALI20230410BHJP
A61P 1/10 20060101ALI20230410BHJP
A61P 19/10 20060101ALI20230410BHJP
A61P 19/02 20060101ALI20230410BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20230410BHJP
A61P 25/14 20060101ALI20230410BHJP
A61P 25/16 20060101ALI20230410BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20230410BHJP
A61P 25/08 20060101ALI20230410BHJP
A61K 31/7048 20060101ALI20230410BHJP
A61K 8/9789 20170101ALI20230410BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20230410BHJP
A61Q 19/08 20060101ALI20230410BHJP
A61K 8/60 20060101ALI20230410BHJP
A23L 33/105 20160101ALI20230410BHJP
【FI】
A61K36/63
A61P43/00 111
A61P7/06
A61P9/00
A61P9/10
A61P3/00
A61P15/00
A61P17/00
A61P29/00
A61P17/14
A61P17/02
A61P1/10
A61P19/10
A61P19/02
A61P25/28
A61P25/14
A61P25/16
A61P25/00
A61P25/08
A61K31/7048
A61K8/9789
A61Q19/00
A61Q19/08
A61K8/60
A23L33/105 ZNA
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022159727
(22)【出願日】2022-10-03
(31)【優先権主張番号】P 2021164352
(32)【優先日】2021-10-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 健食原料・OEM展 2022 展示日:令和4年4月20日 [刊行物等] 健食原料・OEM展 2022 開催日:令和4年4月21日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、国際科学技術共同研究推進事業地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム「食薬・油糧植物の機能性解析と有効性検討」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】502418826
【氏名又は名称】株式会社ニュートリション・アクト
(71)【出願人】
【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【弁理士】
【氏名又は名称】武居 良太郎
(72)【発明者】
【氏名】礒田 博子
(72)【発明者】
【氏名】近藤 真司
(72)【発明者】
【氏名】フェルドウシ ファラハナ
(72)【発明者】
【氏名】石川 雅仁
(72)【発明者】
【氏名】渡邊(内藤) 陽子
(72)【発明者】
【氏名】山内 健
(72)【発明者】
【氏名】横澤 美紀
【テーマコード(参考)】
4B018
4C083
4C086
4C088
【Fターム(参考)】
4B018MD48
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4B018MF04
4B018MF06
4C083AA111
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4C086ZA55
4C086ZA72
4C086ZA81
4C086ZA89
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4C086ZA97
4C086ZC02
4C086ZC21
4C088AB64
4C088AC05
4C088BA09
4C088BA13
4C088CA05
4C088CA11
4C088CA17
4C088NA14
4C088ZA01
4C088ZA02
4C088ZA06
4C088ZA08
4C088ZA15
4C088ZA16
4C088ZA36
4C088ZA55
4C088ZA72
4C088ZA81
4C088ZA89
4C088ZA96
4C088ZA97
4C088ZC02
4C088ZC21
(57)【要約】
【課題】HIF-1活性の低下に伴う疾患又は症状を治療、予防、軽減、改善又は回復するためのHIF-1活性化剤、該活性化剤を含有する医薬組成物、化粧品、及び食品組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明によれば、オリーブ葉エキスを含有するHIF-1活性剤が提供される。また、HIF-1活性化を介して幹細胞の未分化性を維持し、及び/又は幹細胞の分化異常を改善するためのHIF-1活性化剤が提供される。
【選択図】
図11
【特許請求の範囲】
【請求項1】
オリーブ葉エキスを含有するHIF-1活性化剤。
【請求項2】
HIF-1活性化を介して幹細胞の未分化性を維持し、及び/又は幹細胞の分化異常を改善するための請求項1に記載のHIF-1活性化剤。
【請求項3】
HIF-1活性化を介して多能性幹細胞若しくは多分化幹細胞の分化を誘導及び/又は促進するための請求項1に記載のHIF-1活性化剤。
【請求項4】
HIF-1活性化を介して多能性幹細胞又は多分化幹細胞の未分化性を維持し、及び/又は自己複製を促進するための請求項1に記載のHIF-1活性化剤。
【請求項5】
多能性幹細胞が、体性幹細胞、胚性幹細胞(ESC)、人工多能性幹細胞(iPSC)、及び胚性生殖幹細胞(EGC)からなる群から選択される、請求項3又は4に記載のHIF-1活性化剤。
【請求項6】
体性幹細胞が、造血幹細胞、皮膚幹細胞、表皮幹細胞、真皮幹細胞、神経幹細胞、間葉系幹細胞、肝幹細胞、及び膵幹細胞からなる群から選択される、請求項5に記載のHIF-1活性化剤。
【請求項7】
HIF-1活性の低下に伴う疾患又は症状を治療、予防、軽減、改善又は回復するための請求項1~6のいずれか1項に記載のHIF-1活性化剤。
【請求項8】
疾患又は症状が、造血機能不全に伴う疾患若しくは症状、低酸素応答機能低下に伴う疾患若しくは症状、血管新生能力不全に伴う疾患若しくは症状、虚血性脳疾患、及び虚血性心疾患からなる群から選択される、請求項7に記載のHIF-1活性化剤。
【請求項9】
造血、血管新生、血管機能、鉄代謝恒常性、及び酸素運搬性を促進し及び/又は改善するための請求項1~8のいずれか1項に記載のHIF-1活性化剤。
【請求項10】
HIF-1活性化による造血幹細胞の活性化に基づく赤血球増加に伴う酸素運搬能向上、貧血、鉄欠乏、生理不順、息切れ、疲労感、倦怠感、めまい、立ちくらみ、頭の重さ、頭痛、肌色暗化、及び高山病からなる群から選択される症状を治療、予防、軽減、及び/又は改善するための請求項1~9のいずれか1項に記載のHIF-1活性化剤。
【請求項11】
HIF-1活性化による幹細胞の活性化に基づく血管新生と血管機能改善に伴って、血行不良、血流停滞、肌色くすみ、生理痛、爪の異常、むずむず脚症候群、むくみ、腰痛、肩凝り、関節痛、冷え性、脱毛、創傷治癒遅延、便秘、目の下のくま、しみ、しわ、肌の弾力性低下、肌のバリア機能低下、赤ら顔からなる群から選択される症状を治療、予防、軽減、及び/又は改善するための請求項1~10のいずれか1項に記載のHIF-1活性化剤。
【請求項12】
HIF-1活性化による幹細胞の活性化に基づいて、肌老化、サルコペニア、骨粗しょう症、変形性関節炎、及び脳老化からなる群から選択される症状を改善するための請求項1~11のいずれか1項に記載のHIF-1活性剤。
【請求項13】
HIF-1活性化による神経幹細胞の活性化に基づいて、加齢や脳血流低下に伴う脳老化、認知機能低下、記憶力低下、物忘れ、軽度認知障害、認知症、集中力低下、加齢に伴う脳委縮、脳神経細胞内のATP量の減少、神経新生低下、クロイツフェルト・ヤコブ病、アルツハイマー病、ハンチントン病、レビー小体病、パーキンソン病、ピック病、筋萎縮性側索硬化症、神経線維腫症、てんかん、脳損傷、脳卒中、多発性硬化症、虚血性低酸素症、脊髄損傷、記憶喪失、及び多発梗塞性認知症からなる群から選択される症状を治療、予防、軽減、及び/又は改善するための請求項1~12のいずれか1項に記載のHIF-1活性化剤。
【請求項14】
オリーブ葉エキスが、オレウロペイン及びオレウロシド、及び/又はそれらの誘導体の一方若しくは両方を有効成分として含む、請求項1~13のいずれか1項に記載のHIF-1活性化剤。
【請求項15】
オレウロペイン又はその誘導体、及びオレウロシド又はその誘導体を100:1~1:100(重量比)で含有する、請求項1~14のいずれか1項に記載のHIF-1活性化剤。
【請求項16】
請求項1~15のいずれか1項に記載のHIF-1活性化剤を含有する医薬組成物。
【請求項17】
請求項1~15のいずれか1項に記載のHIF-1活性化剤を含有する化粧品。
【請求項18】
請求項1~15のいずれか1項に記載のHIF-1活性化剤を含有する食品組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オリーブ葉エキスを含有するHIF-1活性化剤に関し、より具体的には、オリーブ葉エキス又はそれに含まれる成分を用いて、HIF-1活性化を起点とした幹細胞を分化誘導するためのHIF-1活性化剤又は分化誘導剤に関する。
【背景技術】
【0002】
HIF-1(Hypoxia-inducible factor-1)は、酸素恒常性の主要調節子として、血管新生、赤血球形成、糖分解、がんの転移に関与する様々な遺伝子の発現を開始する転写誘導因子である(非特許文献1)。HIF-1は、HIF-1α及びHIF-1βで構成され、HIF-1αは、正常酸素状態でユビキチン-プロテアソームシステムによって迅速に減少し、HIF-1βレベルは、一定に維持される(非特許文献2)。
【0003】
HIF-1の発現及び転写活性は、細胞内酸素濃度が減少すると著しく増加する。HIFによりトランス活性化される標的遺伝子として、VEGF(血管内皮細胞増殖因子)、エリスロポイエチン(EPO)、グルコース輸送体、及び解糖酵素をコードする遺伝子などが同定されている(非特許文献3参照)。本発明者らは、遺伝子発現の包括的なトランスクリプトーム解析により、HIF-1α活性化に起因したEPO又はVEGF、GATA-1を経由したシグナル伝達により造血幹細胞を赤血球に分化誘導する造血作用の分子メカニズムを明らかにした(非特許文献4)。
【0004】
また、HIF-1α活性化は、造血作用に限らず、各種生理学的作用に関連付けられ、例えば、骨格筋の肥大(非特許文献5)や骨形成の促進(非特許文献6)等に関与していることも知られている。
【0005】
これまで、本発明者らは、オリーブやイボタノキの葉などに含まれるポリフェノール化合物(例えば、オレウロペイン)が、ブラックチョークベリーの果実に含有されるトリテルペンとともに適用されることにより、脳機能を顕著に改善又は向上させることを報告した(特許文献1)。しかしながら、オリーブ葉に含まれるオレウロペインが、HIF-1を誘導することは報告されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Masson N. and Ratcliffe P. J., J. Cell Sci., vol.116, p.3041-3049, 2003
【非特許文献2】Huang L. E., et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, vol.95. p.7978-7992, 1998
【非特許文献3】Semenza, G. L., Ann. Rev. Cell. Dev. Biol., vol.15: p.551-578, 1999
【非特許文献4】Kondo, S. ,et al., J. Cell Mol. Med., DOI;10.1111/jcmm.16752
【非特許文献5】坂本多穂、日薬雑誌、150巻、201~203頁、2017年
【非特許文献6】Ying Wang, et al., J. Clin. Invest., vol.117, p.1616-1626
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、HIF-1活性の低下に伴う疾患又は症状を治療、予防、軽減、改善又は回復するためのHIF-1活性化剤、該活性化剤を含有する医薬組成物、化粧品、及び食品組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明者らは鋭意研究を行った結果、オリーブ葉エキス、及びオレウロペインとオレウロシドとの混合物がHIF-1活性化をもたらすことを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明の態様には、これらに限定されるわけではないが、以下の発明が含まれる。
[1]オリーブ葉エキスを含有するHIF-1活性化剤。
[2]HIF-1活性化を介して幹細胞の未分化性を維持し、及び/又は幹細胞の分化異常を改善するための[1]に記載のHIF-1活性化剤。
[3]HIF-1活性化を介して多能性幹細胞若しくは多分化幹細胞の分化を誘導及び/又は促進するための[1]に記載のHIF-1活性化剤。
[4]HIF-1活性化を介して多能性幹細胞又は多分化幹細胞の未分化性を維持し、及び/又は自己複製を促進するための[1]に記載のHIF-1活性化剤。
[5]多能性幹細胞が、体性幹細胞、胚性幹細胞(ESC)、人工多能性幹細胞(iPSC)、及び胚性生殖幹細胞(EGC)からなる群から選択される、[3]又は[4]に記載のHIF-1活性化剤。
[6]体性幹細胞が、造血幹細胞、皮膚幹細胞、表皮幹細胞、真皮幹細胞、神経幹細胞、間葉系幹細胞、肝幹細胞、及び膵幹細胞からなる群から選択される、[5]に記載のHIF-1活性化剤。
[7]HIF-1活性の低下に伴う疾患又は症状を治療、予防、軽減、改善又は回復するための[1]~[6]のいずれかに記載のHIF-1活性化剤。
[8]疾患又は症状が、造血機能不全に伴う疾患若しくは症状、低酸素応答機能低下に伴う疾患若しくは症状、血管新生能力不全に伴う疾患若しくは症状、虚血性脳疾患、及び虚血性心疾患からなる群から選択される、[7]に記載のHIF-1活性化剤。
[9]造血、血管新生、血管機能、鉄代謝恒常性、及び酸素運搬性を促進し及び/又は改善するための[1]~[8]いずれかに記載のHIF-1活性化剤。
[10]HIF-1活性化による造血幹細胞の活性化に基づく赤血球増加に伴う酸素運搬能向上、貧血、鉄欠乏、生理不順、息切れ、疲労感、倦怠感、めまい、立ちくらみ、頭の重さ、頭痛、肌色暗化、及び高山病からなる群から選択される症状を治療、予防、軽減、及び/又は改善するための[1]~[9]いずれかに記載のHIF-1活性化剤。
[11]HIF-1活性化による幹細胞の活性化に基づく血管新生と血管機能改善に伴って、血行不良、血流停滞、肌色くすみ、生理痛、爪の異常、むずむず脚症候群、むくみ、腰痛、肩凝り、関節痛、冷え性、脱毛、創傷治癒遅延、便秘、目の下のくま、肌色くすみ、しみ、しわ、肌の弾力性低下、肌のバリア機能低下、赤ら顔からなる群から選択される症状を治療、予防、軽減、及び/又は改善するための[1]~[10]いずれかに記載のHIF-1活性化剤。
[12]HIF-1活性化による幹細胞の活性化に基づいて、肌老化、サルコペニア、骨粗しょう症、変形性関節炎、及び脳老化からなる群から選択される症状を改善するための[1]~[11]のいずれかに記載のHIF-1活性剤。
[13]神経幹細胞の活性化に基づいて、加齢や脳血流低下に伴う脳老化、認知機能低下、記憶力低下、物忘れ、軽度認知障害、認知症、集中力低下、加齢に伴う脳委縮、脳神経細胞内のATP量の減少、神経新生低下、クロイツフェルト・ヤコブ病、アルツハイマー病、ハンチントン病、レビー小体病、パーキンソン病、ピック病、筋萎縮性側索硬化症、神経線維腫症、てんかん、脳損傷、脳卒中、多発性硬化症、虚血性低酸素症、脊髄損傷、記憶喪失、及び多発梗塞性認知症からなる群から選択される症状を治療、予防、軽減、及び/又は改善するための[1]~[12]のいずれかに記載のHIF-1活性化剤。
[14]オリーブ葉エキスが、オレウロペイン及びオレウロシド、及び/又はそれらの誘導体の一方若しくは両方を有効成分として含む、[1]~[13]のいずれかに記載のHIF-1活性化剤。
[15]オレウロペイン又はその誘導体、及びオレウロシド又はその誘導体を100:1~1:100(重量比)で含有する、[1]~[14]のいずれか1項に記載のHIF-1活性化剤。
[16][1]~[15]のいずれかに記載のHIF-1活性化剤を含有する医薬組成物。
[17][1]~[15]のいずれかに記載のHIF-1活性化剤を含有する化粧品。
[18][1]~[15]のいずれかに記載のHIF-1活性化剤を含有する食品組成物。
【発明の効果】
【0011】
本発明のオリーブ葉エキスを含有するHIF-1活性剤により、HIF-1活性化を起点とした幹細胞を分化誘導することができ、一方、幹細胞の未分化性を維持し、及び幹細胞の分化異常を改善することができ、HIF-1活性化を起点とした各種疾患等を治療又は予防等に貢献することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】オリーブ葉抽出物粉末の成分分析を行った結果の一例を示す。
【
図2】オリーブ葉エキスにおける遺伝子発現を検討した結果を示す。
【
図3】マウスに対してオリーブ葉エキスの投与の有無による赤血球数の増加等の変化を比較した図である。
【
図4】マウスにおける貧血に対するオリーブ葉エキスの投与による貧血の改善を示す図である。
【
図6】オリーブ葉熱水抽出物による抗貧血作用を検討した結果を示す。
【
図7】様々な比のオレウロシド(OS)及びオレウロペイン(OP)によるGYPA遺伝子発現の作用について検討した結果を示す。
【
図8】異なるオリーブ葉抽出物によるGYPAの遺伝子発現への作用の相違について検討した結果を示す。Ctrl:対照;PC:陽性対照(50μMアピゲニン);抽出物A:本発明のオリーブ葉抽出物;抽出物B:対称オリーブ葉抽出物。
【
図9】被験者にオリーブ葉エキスを摂取させた場合の赤血球(RBC)及びヘモグロビン濃度の経時的変化を調べた結果を示す。
【
図10】各種被験物質による血管新生の増強効果を検討した結果を示す。
【
図11】各種被験物質によるHUVEC培養細胞におけるHIF-1αタンパク質産生を検討した結果を示す。
【
図12】各種被験物質によるTie2遺伝子発現促進作用を検討した結果を示す。
【
図13】オリーブ葉抽出物を用いた、ヒト皮膚組織片における皮膚老化の改善を示す図である。
【
図14】オレウロシド(OS):オレウロペイン(OP)の比率変更によるHIF-1活性化効果を示す図である。
【
図15】ヒトオープンラベル試験による毛細血管新生促進効果を毛細血管数のカウントによって検討した図である。
【
図16】ヒトオープンラベル試験による肌機能改善効果を頬の経皮水分蒸散量の測定によって検討した図である。
【
図17】ヒトオープンラベル試験による肌機能改善効果を頬の角質水分量の測定によって検討した図である。
【
図18】ヒトオープンラベル試験による肌機能改善効果を下眼瞼(涙袋及び目袋)の肌色測定によって検討した図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0014】
1.HIF-1
低酸素誘導因子-1(Hypoxia-inducible factor-1;HIF-1)(「HIF転写複合体」とも称することがある)は、代謝適応、解糖(グルコーストランスポーター、GLUT1及び解糖酵素)、増殖(インスリン様成長因子1及び2)、及び血管新生(VEGF、エリスロポエチン)に関連するキー遺伝子をアップレギュレートすることによって、腫瘍進行に関与する。HIF-1は、調節性のαサブユニット及び構成的に発現したβサブユニットを含む二量体転写因子である。HIF-αは、半減期が極めて短いタンパク質である。通常の酸素分圧下では、HIF-αタンパク質のプロリン残基が、プロリン水酸化酵素(PHD)により水酸化を受ける。このプロリン残基を水酸化されたHIF-αには、Von Hippel-Lindauタンパク質を含むユビキチンリガーゼ複合体が結合する。これに伴い、HIF-αのユビキチン化が起こり、続いて、HIF-αはプロテアゾームで分解される。一方、低酸素環境下では、PHDの酵素活性が低下するため、この一連の反応が停止する。結果として、HIF-αの分解が抑制され、HIF-αとHIF-βの複合体形成が促進される。HIF-αとHIF-βの複合体は、低酸素応答配列(HRE;Hypoxia responsive element)に結合し、転写因子として機能することが知られている。本発明によれば、HIF-1活性化剤を提供する。
【0015】
細胞は、一般的に、低酸素下に曝露されると、細胞内代謝や遺伝子発現の変化などを通じて低酸素に適応し、その障害に備える。こうした遺伝子発現の制御において中心を担うのがHIF-1転写因子であり、HIF-1が効率的に活性化されることが、低酸素ストレス応答においては極めて重要である(Semenza, G. L., Trends Mol. Med., vol. 7, p.345-50, 2001)。酸素分圧が低下すると構成的に発現しているHIF-1タンパク質の安定性が増し、細胞内のHIF-1タンパク質量が増加する。核に移行したHIF-1は、応答遺伝子群の低酸素応答領域に結合し、遺伝子発現を転写レベルで誘導する。
【0016】
HIF-1は赤血球産生を調節するエリスロポエチン(EPO)の転写活性化因子として見出されたが、その後、血管内皮細胞増殖因子VEGF、エノラーゼ1、トランスフェリン、アルドラーゼAなどのプロモーター領域にHIF-1の結合部位が見出されている(Wenger, R. H. and Gassmann, M., Biol. Chem., vol. 378, p.609-616, 1997)。また、グルコーストランスポーターや解糖系代謝酵素などのエネルギー産生に関わる遺伝子群の発現制御にも関わることが知られている。
【0017】
また、HIF-1の活性化(又は安定化)は、造血作用に関与するだけでなく、例えば、骨格筋の肥大(坂本多穂、日薬雑誌、150巻、201~203頁、2017年)、サルコペニアの予防及び治療(石井直方、Functional Food Research, vol.14, p.88-98,2018; Julia von Maltzahn, et al., Natl. Cell Biol., vol.14, p.186-191, 2012)、骨形成の促進(Ying Wang, et al., J. Clin. Invest., vol.117, p.1616-1626)、低酸素環境下での軟骨細胞活性及び機能維持(遊道和雄ら、Inflammation and Regeneration, vol.25, p.164-168, 2005)、脳老化及び虚血性脳疾患(Y. Avramovich-Tirosh, et al., Current Alzheimer Research, vol.7, p.300-306, 2010;吾郷哲朗、臨床神経学、59巻、707-715頁、2019年;瀧澤俊也ら、臨床神経、52巻、911~912頁、2012年)、虚血性心疾患(Huan-Xin Zhao, et al., Basic Res. Cardiol., vol.105, p.109-118, 2010; Michel R. Hoenig, et al., Current Molecular Medicine, vol.8, p.754-767, 2008)、抗老化薬(Ranjana Mehta, et al., Science, vol. 324, p.1196-1198, 2009; Ara B. Hwang and Seung-Jae Lee, Aging, vol.3, p.304-310, 2011)に関与していることが知られている。
【0018】
2.HIF-1活性化剤
本発明によれば、オリーブ葉エキスを含有するHIF-1活性化剤、又は該オリーブ葉エキスに含まれるオレウロペイン及びオレウロシド、又はそれらの誘導体を用いることにより、HIF-1活性化を起点として関与する様々な事象の制御を可能にする。本明細書で使用する場合、用語「HIF-1活性化剤」とは、細胞内においてHIF-1を起点とした各種シグナル伝達を活性化するための作用物質、化合物、又はその誘導体を指す。一方、別の態様として、本発明のHIF-1活性剤は、HIF-1の活性化を介して、幹細胞の分化や各種遺伝子発現を誘導することができる。したがって、本明細書で使用される場合、「HIF-1活性化」なる用語はまた、上記の定義に限定されず、幹細胞の分化に関連する多数の事象の積極的な関与を包括的に含有するものとする。
【0019】
(1)オリーブ葉エキス
本発明のHIF-1活性化剤に使用されるオリーブ葉エキスは、オリーブ(Olea europea L.)の葉から、後述する抽出方法により分離されるエキスである。オリーブの葉の全部又は一部から、抽出溶媒を用いて分離してもよく、又は圧搾により分離してもよい。後述するように、本発明で使用するオリーブ葉エキスは、HIF-1活性化に対して相乗効果を示すオレウロペイン(OP)とオレウロシド(OS)を含有することを特徴とするが、OP及びOSを含むオリーブ葉エキス、又は原料としてのオリーブ葉であれば特に限定されない。後述する実施例1に記載されるように、本発明では、典型例として、オリーブ葉の世界有数のオリーブ生産国であるチュニジアより輸入したオリーブ葉を使用しているが、当業者であれば、その輸入、使用、加工などの実施については制限がない。
【0020】
抽出溶媒としては、一般的に、例えば、水、有機溶媒(例えば、アルコール、アセトンなどから選ばれる1種の溶媒、又は2種以上の混合溶媒)、又は水と有機溶媒との混合液を使用することができる。このうち、水、水とアルコールとの混合液、及びアルコールの使用が好ましい。アルコールとしては、エタノール又はメタノールであり得る。抽出時間及び温度は、オリーブ葉エキスの抽出部位、溶媒の種類などによって適宜決定することができる。オリーブ葉エキスは、オリーブ葉から抽出された粗抽出物であってもよく、粗抽出物に濃縮、乾燥及び粉砕などの加工を施したものであってもよい。さらに、分配法による処理、精製処理(例えば、イオン交換樹脂、カラムなどを利用して吸着処理した後、溶媒による溶出、その後必要によりさらに濃縮処理)により不純物を除去したものも使用することができる。
【0021】
本発明においては、オリーブ葉エキスをHIF-1活性化剤としてそのまま使用することができるが、必要に応じて、適宜、希釈したもの使用してもよい。
【0022】
オリーブ葉エキスの一例として、チュニジア共和国シリアナ県で採取されたオリーブ葉から水抽出されたエキスを使用することができる。このエキス中に含まれる成分をHPLC分析により調べたところ、下記の表1に示される成分と各成分の平均含有量が得られた。
【0023】
【0024】
後述の実施例において実証するように、本発明者らは、オリーブ葉エキスに含まれる各種成分のうち、オレウロペイン及びオレウロシドの組み合わせがHIF-1活性化(特に、HIF-1α活性化)に顕著な効果を奏することを見出した。本発明によれば、オリーブ葉エキスには、オレウロペインが1重量%以上含まれることが好ましく、またオレウロシドが0.1重量%以上含まれることが好ましい。
【0025】
(2)オレウロペイン及びその誘導体
本発明のHIF-1活性化剤に含まれるオレウロペインには、天然由来の抽出物に限定されず、化学合成によって得られたもの又は市販品であってもよい。当業者に周知であるように、「オレウロペイン」は、オリーブに含まれる成分であり、ポリフェノールの一種である。オレウロペインは、単独で、抗ウイルス活性、抗原虫活性、抗菌活性が注目されており、またカテコールアミン誘導作用を有することも知られている。しかしながら、後述するように、オレウロペインは、オレウロシドと併用してHIF-1活性化を促進することは知られていない。
【0026】
本発明で使用されるオレウロペインは、下記の式(I):
【0027】
【0028】
の構造を有する。
【0029】
本発明では、オレウロペインに限定されず、その誘導体を使用することができる。本明細書で使用される場合、「オレウロペイン誘導体」とは、インビトロ及び/又はインビボにおいて、オレウロシドと協働して、上記の式(I)で示されるオレウロペインと実質的に同一のHIF-1活性化を有する化合物を意味する。具体的には、オレウロペインから酸化/還元、加水分解/脱水、メチル化/脱メチル化、エステル化、脱炭酸反応等の生体内反応によって生じ得る化合物であってもよい。
【0030】
(3)オレウロシド及びその誘導体
本発明のHIF-1活性化剤に含まれるオレウロシドには、天然由来の抽出物に限定されず、化学合成によって得られたもの又は市販品であってもよい。オレウロシドについては、これまでにその活性や機能について詳細に検討された報告例が殆どなく、例えば、SY5Y-APP 695細胞においてATP産生を有意に増加させるが、ミトコンドリア活性には影響しないということが知られている(Rekha Grewal, et al., Exp. Neurol, 2020 Feb 18: 113248)。しかしながら、後述するように、オレウロシドは、オレウロペインと併用してHIF-1活性化を促進することは知られていない。
【0031】
本発明で使用されるオレウロペインは、下記の式(II):
【0032】
【0033】
本発明では、オレウロシドに限定されず、その誘導体を使用することができる。本明細書で使用される場合、「オレウロシド誘導体」とは、インビトロ及び/又はインビボにおいて、オレウロペインと協働して、上記の式(II)で示されるオレウロシドと実質的に同一のHIF-1活性化を有する化合物を意味する。具体的には、オレウロシドから酸化/還元、加水分解/脱水、メチル化/脱メチル化、エステル化、脱炭酸反応等の生体内反応によって生じ得る化合物であってもよい。
【0034】
(4)オレウロペインとオレウロシドの組成物(混合物)
本発明のHIF-1活性化剤は、オレウロペインとオレウロシドを含有することを特徴とする組成物である。これまで、オレウロペインとオレウロシドを含有する組成物が、顕著に造血作用を促進し、又はHIF-1活性の低下に伴う疾患又は症状を治療、予防、軽減、改善又は回復することについては、これまで報告された例がない。本発明の組成物に含有するオレウロペインとオレウロシドの組成比(割合)は、適切な任意の割合であってもよく、例えば、これらの割合は、5:95~95:5(重量比)、例えば、10:90~90:10(重量比)、15:85~85:15(重量比)、20:80~80:20(重量比)、30:70~70:30(重量比)、40:60~60:40(重量比)、50:50~50:50(重量比)、60:40~40:60(重量比)、70:30~30:70(重量比)、80:20~20:80(重量比)、85:15~15:85(重量比)、90:10~10:90(重量比)、95:5~5:95(重量比)である。好ましくは、上記組成比は、例えば、100:1~1:100(重量比)、50:1~1:50(重量比)、30:1~1:30(重量比)、20:1~1:20(重量比)、10:1~1:10(重量比)である。これらの比の範囲には、その範囲に含まれる比として、限定されないが、例えば、100:1、90:1、80:1、70:1、60:1、50:1、40:1、30:1、20:1、15:1、10:1、9:1、8:1、7:1、6:1、5:1、4:1、3:1、2:1、1:1、1:2、1:3、1:4、1:5、1:6、1:7、1:8、1:9、1:10、1:15、1:20、1:30、1:50、1:60、1:70、1:80、1:90、1:100(重量比)等が挙げられる。
【0035】
別の態様では、本発明の組成物に含有するオレウロペインとオレウロシドの総量は、1重量%以上であればよい。好ましくは2重量%以上、より好ましくは3重量%以上、さらに好ましくは4重量%以上、さらにより好ましくは5重量%以上である。また、本発明の組成物中のオレウロペインの含有量としては、1重量%以上であればよく、例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、30、40、50、60、70、80、90重量%以上である。一方、本発明の組成物中のオレウロシドの含有量としては、0.1重量%以上であればよく、例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、30、40、50、60、70、80、90重量%以上である。後述するように、所定の割合でオレウロペインとオレウロシドを含有した本発明の組成物は、オレウロペインの単独投与又はオレウロシドの単独投与と比較して、オレウロペイン及びオレウロシドの持つ生理活性、具体的には、HIF-1活性化を促進する特徴を有する。
【0036】
本発明の組成物を製造する方法は、特に限定されるものではなく、例えば、本発明の組成物は、オレウロペイン及びオレウロシドの単品を所望の比率で配合して製造することが可能である。その際、オレウロペイン及びオレウロシドの単品は、天然物であれば、所定の原材料から抽出等により入手可能である。また、当業者であれば、それらの誘導体についても周知の方法によって得ることができる。なお、単品は、他の適切な方法で得てもよい。
【0037】
本発明の別の態様は、本発明の組成物は、オレウロペイン及びオレウロシドを含む原料混合物の両成分の重量比を求め、該混合物に、所定のオレウロペイン及びオレウロシドの組成比になるまでそれぞれの単品を添加して得てもよく、又はオレウロペイン若しくはオレウロシドの一方を他方より多く含む混合物を添加して得てもよい。
【0038】
なお、本発明の実施に際して、原料混合物及び本発明の組成物中のオレウロペイン及びオレウロシドの組成は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)等の公知の分析方法により容易に求めることができる。
【0039】
3.HIF-1活性化剤の作用効果
本発明によれば、HIF-1活性化剤に含まれるか又はHIF-1活性化剤として使用されるオリーブ葉エキスを生体(細胞、組織、及び臓器)に適用させることにより、HIF-1活性化を起点として、様々な生理活性を促進させることができる。一実施形態によれば、本発明にかかるHIF-1活性化剤は、幹細胞の未分化性を維持し、分化異常を改善し、分化を誘導及び/又は誘導し、ならびに/あるいは自己複製を促進することができる。
【0040】
(1)幹細胞の分化促進
本発明のHIF-1活性化剤は、幹細胞の分化を誘導することができる。用語「幹細胞」とは、限定されないが、単一細胞レベルで、子孫細胞を産生するために自己複製する能力と、分化する能力との両方により定義される未分化の細胞、例えば、自己複製する前駆体、複製しない前駆体、及び最終的に分化した細胞を含む。例えば、「幹細胞」は、(a)全能性幹細胞;(b)多能性幹細胞;(c)多分化能幹細胞;(d)少能性幹細胞;及び(e)単能性幹細胞を含み得る。
【0041】
本明細書で用いられる用語「全能性」とは、成体における全ての細胞並びに胚外組織、例えば、胎盤を作る発生能力を有する細胞を指す。受精卵(接合体)は、桑実胚(受精後の16細胞段階まで)の細胞(割球)であるため、全能性である。
【0042】
「多能性幹細胞」とは、あらゆる組織の細胞へと分化する能力(分化多能性)を有する幹細胞を指す。限定されないが、多能性幹細胞には、体性幹細胞、胚性幹細胞(ESC)、人工多能性幹細胞(iPSC)、及び胚性生殖幹細胞(EGC)等が含まれる。多能性幹細胞としては公知の任意のものを使用可能であるが、例えば、国際公開第2009/123349号に記載の多能性幹細胞を使用することができる。
【0043】
「体性(組織)幹細胞」とは、分化可能な細胞系列が特定の組織に限定されているが、多様な細胞種へ分化可能な能力(分化多能性)を有する幹細胞を意味する。例えば骨髄中の造血幹細胞は血球のもととなり、神経幹細胞は神経細胞へと分化する。このほかにも肝臓をつくる肝幹細胞、皮膚組織になる皮膚幹細胞など様々な種類がある。体性幹細胞の例としては、造血幹細胞、皮膚幹細胞、表皮幹細胞、真皮幹細胞、神経幹細胞、間葉系幹細胞、肝幹細胞、及び膵幹細胞などが列挙される。
【0044】
「胚性幹細胞(ESC)」とは、胚性幹細胞は、胚盤胞として知られる初期胚の内部細胞塊に由来する幹細胞を指す(本明細書では「ES細胞」と称することがある)。ES細胞は、3種の一次胚葉である外胚葉、内胚葉及び中胚葉のあらゆる派生体へと分化することができる。
【0045】
「人工多能性幹細胞(iPSC)」とは、中胚葉、内胚葉及び外胚葉の組織へと分化することが可能な細胞へと再プログラムされた細胞を指す(本明細書では「iPS細胞」と称することがある)。
【0046】
「胚性生殖幹細胞(EGC)」とは、自己複製が可能であり、分化して生物体のあらゆる種類の細胞を生じることが可能であり、生殖細胞及び生殖細胞前駆細胞、例えば始原生殖細胞、すなわち精子及び卵子になる細胞に由来する細胞を指す(本明細書では「EG細胞」と称することがある)。
【0047】
「多分化能幹細胞」とは、1又は2以上の胚葉の細胞に分化する発生能力を有するが、3つ全ての胚葉の細胞に分化する発生能力を有さない細胞を指す。多分化能細胞を「部分的に分化した細胞」と呼ぶこともできる。多分化能細胞は当該技術分野で周知であり、多分化能細胞の例としては、例えば、造血幹細胞及び神経幹細胞などの成体幹細胞が挙げられる。「多分化能」は、細胞が所与の系列の多くの細胞型を形成し得るが、他の系列の細胞を形成しないことを示す。例えば、多分化能造血細胞は、多くの異なる型の血液細胞(赤血球、白血球、血小板など)を形成することができるが、ニューロンを形成することはできない。従って、用語「多分化能性」とは、全能性及び多能性未満である一定程度の発生能力を有する細胞の状態を指す
【0048】
「少能性前駆細胞」とは、数種類の細胞型にのみ分化できる能力を有する幹細胞を指し、リンパ芽球や骨髄系前駆細胞が挙げられる。また、「単能性幹細胞」とは、特定の組織や細胞へ分化し得る能力を有する幹細胞を指す。
【0049】
「分化」又は「細胞の分化」とは、形態的及び機能的に特定の特徴を有さないいわゆる未分化な細胞から、その細胞の分裂により形態的及び機能的に特定の特徴を有する細胞が生じることをいう。また、分化の過程において、未分化の細胞には認められなかった特定の遺伝子が発現する。このような遺伝子の発現も「分化」に含まれる。「分化を誘導する」とは、未分化な細胞から形態的及び機能的特徴を有する細胞を生じさせることをいう。また、未分化な細胞には認められなかった特定の遺伝子を発現させることも「分化を誘導する」ことに含まれる。
【0050】
(2)幹細胞の自己複製及び未分化性維持
本発明のHIF-1活性化剤は、幹細胞の自己複製促進、未分化性を維持することができる。用語「幹細胞」とは、限定されないが、単一細胞レベルで、子孫細胞を産生するために自己複製する能力と、分化する能力との両方により定義される未分化の細胞、例えば、自己複製する前駆体、複製しない前駆体、及び最終的に分化した細胞を含む。例えば、「幹細胞」は、(a)全能性幹細胞;(b)多能性幹細胞;(c)多分化能幹細胞;(d)少能性幹細胞;及び(e)単能性幹細胞を含み得る。
【0051】
「自己複製」とは、形態的及び機能的に特定の特徴を有さないいわゆる未分化な細胞から、その細胞の分裂により母細胞と形態的及び機能的に同等の特徴を有する娘細胞が生じることをいう。「未分化性維持」とは、未分化な細胞が分化しない状態で保たれていることをいう。
【0052】
(2)HIF-1活性化に関連した疾患の治療等
本発明によれば、HIF-1活性の低下に伴う疾患又は症状を治療、予防、軽減、改善又は回復することができる。本明細書で使用される「治療すること」、「治療する」、又は「治療」とは、少なくとも症状が現れ始めた後、その疾患、障害、又は状態の症状を少なくとも改善する治療的介入、一連の行動、又はプロトコールを指す。「予防すること」、「予防する」、又は「予防」とは、疾患、異常、もしくは状態、又は症状の発症又は進行を予防、阻害、又は遅延するようにその疾患、障害、又は状態の症状の発現前に開始される治療的介入、一連の行動、又はプロトコールを指す。「回復すること」、「回復する」、又は「回復」とは、比較できる通常の対象(例えば、健常な対象、それに由来する組織又は細胞)の機能に等しい又はそれより高いレベルに、健常でない対象(例えば、疾患のある個体、それに由来する組織又は細胞)の機能をもたらすことを指す。「軽減すること」、「軽減する」、又は「軽減」とは、対象における疾患又は障害の少なくとも1つの症状の重症度又は頻度を低下させることを指す。
【0053】
本発明のHIF-1活性化剤によって治療等の目的とする疾患又は症状は、限定されないが、造血機能不全に伴う疾患若しくは症状、低酸素応答機能低下に伴う疾患若しくは症状、血管新生能力不全に伴う疾患若しくは症状、肌老化、サルコペニア、骨粗しょう症、変形性関節炎、脳老化、虚血性脳疾患、虚血性心疾患、血流停滞、肌色くすみ、及び肌色暗化などが挙げられる。
【0054】
本発明のHIF-1活性化剤は、造血機能不全に伴う疾患若しくは症状を治療、予防、軽減、改善又は回復させることができ、造血作用を促進させることができる。「造血機能不全」とは、造血系における骨髄系、赤血球系、リンパ球系、若しくは巨核球系の細胞、又はそれらの組み合わせの減少を指し、例えば、赤血球系細胞系統、顆粒球細胞系統、マクロファージ細胞系統、巨核球細胞系統、又はリンパ球系細胞系統の、遺伝した若しくは獲得された、遺伝的欠損、貧血若しくは免疫不全を引き起こす不十分な造血能、又は造血毒性を含む。より具体的には、例として、鎌状赤血球貧血、再生不良性貧血、脊髄異形成症候群、放射線への偶発的な曝露、及び狼瘡のような生命を脅かす自己免疫疾患が挙げられる。
【0055】
本発明者らは、造血作用に関して、遺伝子発現の包括的なトランスクリプトーム解析により、HIF-1活性化(又は安定化)を起点として、順にEPOR活性化、リボソーム生合成活性化、GATA-1活性化が行われ、造血作用(赤芽球への分化、網赤血球への分化、赤血球への分化、ヘモグロビンの増加)が促進されることを明らかにした(Kondo,S.,et al.,J.Cell Mol.Med.,DOI;10.1111/jcmm.16752を参照されたい)。
【0056】
本明細書で使用する場合、「造血」とは、一般的に、造血幹細胞からの細胞分化又は特定の専門化された血球の形成のプロセスを指す。「造血幹細胞(HSC)」は、各種血球タイプを生じる多能性(pluripotent)幹細胞又は多分化能(multipotent)幹細胞のいずれかに関し、これらのタイプとしては、骨髄系統(例えば、単球及びマクロファージ、好中球、好塩基球、好酸球、赤血球、巨核球/血小板、樹状細胞)、及びリンパ球系統(例えば、T細胞、B細胞、NK細胞)、ならびに当該技術分野において公知である他のものが挙げられる。「幹細胞」は、代表的には、複数の細胞タイプを形成するそれらの能力(すなわち、多能性)及びそれらの自己再生能力によって定義される。
【0057】
「造血作用」には、限定されないが、貧血の改善・予防、鉄欠乏性貧血、溶血性貧血、老人性貧血、腎性貧血の改善・予防、フレイルの予防などが挙げられる。HIF-1活性化剤を対象に適用した場合、HIF-1活性化剤を適用していない対照と比較して、例えば、HSCから各種血球タイプへの分化が、少なくとも1%、2%、3%、4%、5%、10%、15%、20%、25%、30%、50%、60%、70%、80%、90%、又はそれ以上増加することを指す。あるいは、ヘモグロビンが、対照と比較して、少なくとも1%、2%、3%、4%、5%、10%、15%、20%、25%、30%、50%、60%、70%、80%、90%、又はそれ以上増加することを指す。別の態様では、各種血球タイプにおいて特定の遺伝子発現が、対照と比較して、少なくとも1%、2%、3%、4%、5%、10%、15%、20%、25%、30%、50%、60%、70%、80%、90%、又はそれ以上増加することを指す。後述する実施例に記載されるように、本発明のHIF-1活性化剤により、赤血球が増加しヘモグロビン量を向上することができる。
【0058】
また、本発明によれば、HIF-1活性化を起点として、VEGFを媒介するカスケードを辿ることにより、真皮顆粒層血管新生増大→真皮幹細胞・表皮幹細胞の低酸素・血管ニッチ改善→幹細胞の維持・回復→繊維芽細胞回復→基底膜改善→表皮細胞ターンオーバー改善→肌バリア、しわ、保湿改善、血流増→肌色くすみ改善が企図される。哺乳動物の造血システムの恒常性は、骨髄の微小環境(ニッチ)に存在する造血幹細胞によって制御されている。造血幹細胞は、細胞老化を防ぐために細胞周期の静止期性や代謝恒常性を維持しながら、適切なタイミングで細胞周期へ進入して分裂し、必要に応じて分化細胞を産生する。こうしたイベントを制御するのが骨髄ニッチを構成するニッチ細胞や低酸素環境である。HIF-1による低酸素環境ニッチ、血管新生による血管ニッチの形成が幹細胞に維持に必要であることから、造血幹細胞、表皮幹細胞、真皮幹細胞、神経幹細胞、その他、組織幹細胞の低酸素ニッチ及び血管新生を介した幹細胞の血管ニッチの改善を通じた幹細胞機能の改善が望まれる。
【0059】
別の態様では、本発明のHIF-1活性化剤は、低酸素応答機能低下に伴う疾患又は症状、及び血管新生能力不全に伴う疾患又は症状を治療、予防、軽減、改善又は回復させることができる。本明細書で使用される場合、「低酸素応答機能低下」とは、低酸素応答とは生体における低酸素状態からの防御機構であり、低酸素応答機能低下とは、虚血や低酸素環境下等、酸素が不足した状況で働く、酸素レベルのセンシング能力と対応する遺伝子発現制御をする応答機能が低下している状態を指す。また、「血管新生能力不全」とは、血管新生とは既存の血管から新しい血管が形成される事であり、血管新生能力不全とは、正常な血管を形成する能力が加齢、疾病等によって衰える状態を指す。
【0060】
(3)肌抗老化
「肌老化」は、加齢又は光(特に、紫外線)に起因する肌の外観変化を指す。肌老化の徴候は、例えば、シワ及び小ジワ、肌のゆるみ、変色した肌(肌焼け)、薄くなった肌及びつやのない及び/又は活力のない肌の出現、ならびに肌の弾力及び/又は張りの欠如、バリア機能の低下である。一方、肌老化の徴候には、組織的には外観変化を生じない肌の内的な変化、例えば、肌の内的な分解、特にコラーゲン分解を挙げることもできる。本明細書で使用する場合、「肌抗老化」には、限定されないが、抗シワ、保湿、キメ・肌色改善、バリア機能改善、弾力性改善、幹細胞枯渇防止などが例示される。
【0061】
肌老化は、生体における代謝と関連付けられるが、代謝プログラムにより幹細胞の機能が制御されることが知られている(田久保圭誉、領域融合レビュー、2、e012、2013参照)。また、創傷治癒過程において、血管網の再構築が表皮幹細胞の分裂制御に果たすことも報告されている(水谷健一、コスメトロジー研究報告、vol.27、2019参照)。
【0062】
HIF-1活性化を起点として検討すると、VEGF→Ang-1/Tie-2経路により真皮レベルで血管新生を促し、基底膜構造の回復及び維持により幹細胞の微小環境ニッチが維持され、また、HIF-1により幹細胞の維持に必須の低酸素環境維持を通じて、肌幹細胞の機能回復、枯渇抑制を介して、肌全体の状態が回復させることができる。また、HIF-1は血管新生以外の経路としても幹細胞の維持、増殖作用を有する。HIF-1はインテグリンβ1、ラミニン332の発現を促し、基底膜の安定化を介して、表皮の恒常性、老化を回復することが知られている(Hamid Reza Rezvani et al., J Cell Sci. vol.124(Pt 24):4172-83,2011)が、表皮基底膜は表皮幹細胞のインテグリンと結合する事で表皮幹細胞ニッチとして機能しており、幹細胞の維持及び増殖に必須である(Hye-Ryung Choi et al., World J Stem Cells. vol. 7(2): 495-501,2015)。
【0063】
(4)サルコペニア
「サルコペニア」とは、老化等に起因して、筋肉量が減少して筋力低下、又はさらに身体機能低下をきたした状態を指す。筋細胞への低酸素の直接効果が検証され、例えば、C2C12細胞株(培養マウス骨格筋細胞株)をインビトロで分化誘導すると、通常酸素環境でHIF-1が増加することが知られている(坂本多穂、日薬雑誌、150巻、201~203頁、2017年参照)。一方、一過性低酸素刺激によりHIF-1タンパク質が安定化し、これに基づくWnt7a→Fzd7→PI3K→AKT→mTOR→S6K経路を介して筋肥大へと導くことが想定され、筋肥大におけるHIF-1の関与が示唆されている(坂本多穂、前掲)。
【0064】
また、HIF-1を介した筋肉への作用に関するメカニズムも明らかにされつつあり、例えば、幹細胞の自己複製にはHIF-1の活性化がNotchシグナルを介して筋衛生細胞が維持されることが知られている(Xin Yand, et al., J. Biol. Chem., 10.1074/jbc.M116.756312)。さらに、HIF-1活性化が、Wnt7aを介して衛生細胞の分化を促し、筋形成を促進することができることも報告されている(Andrew, S. Brack, et al., Cell Stem Cell, vol.2, p.50-59, 2008)。これらの所見から、NotchとWntシグナルは、そのステージに応じたクロストークにより調整され、筋細胞の恒常性が維持されることから、HIF-1は、筋衛生細胞の分化と複製の双方にメカニズム的にかかわっていることが示唆される。
【0065】
(5)骨粗しょう症
「骨粗しょう症」とは、骨の強度が低下して骨折が起きる可能性の高い状態を意味し、遺伝的要因、早期閉経、薬剤又は喫煙などに起因した骨疾患を指す。骨粗しょう症発症の分子メカニズムも解明しつつあり、HIF-1が骨芽細胞のVEGFレベルを上昇させることによって血管新生と骨形成を促進することが知られている(Ying Wang, et al., J. Clin. Invest., vol.117, p.1616-1626)。また、Cbfa1を介して、ALP活性、I型コラーゲン、III型コラーゲンの産生を促し、間葉系幹細胞の骨形成系統への分化を促すことも知られている。(Jiao Huang, et al., Tohoku J. Exp. Med., vol. 224(1) p.7-12, 2011)。当該HIF―1活性化剤は造血幹細胞を血球系の前駆細胞系列への分化(MEP)を特異的に促し、破骨細胞の前駆細胞である単球・マクロファージ、顆粒球の前駆細胞系列(GMP)への分化は抑制されている。間葉系の骨芽細胞及び骨形成の分化を促す一方、造血系の骨吸収を促す破骨細胞への分化を抑制する(Kondo, S., et al., J. Cell Mol. Med., DOI;10.1111/jcmm.16752)。
【0066】
(6)変形性関節炎
「変形性関節炎」とは、関節を構成する骨の間にある軟骨が劣化により関節に痛みや腫れが生じ、最終的には関節の変形をきたす変形性疾患を指す。HIF-1との関連では、HIF-1は、変形性関節炎における軟骨変性部に高発現し、これは軟骨変性度を相関することが知られており、HIF-1が低酸素環境における軟骨細胞活性・機能維持のための必須因子であることが示されている。(遊道和雄ら、Inflammation and Regeneration, vol.25, p.164-168, 2005)。
【0067】
(7)脳抗老化及び虚血性脳疾患
「脳老化」とは、加齢や脳血流低下に伴う認知機能低下、記憶力低下、物忘れ、軽度認知障害、認知症、集中力低下、加齢に伴う脳委縮、脳神経細胞内のATP量の減少、神経新生低下を指す。HIF-1は神経幹細胞の分化誘導、維持に関与しており、神経幹細胞におけるHIF1の発現はHIF-1-VEGFの経路を介した成体の脳下室体(SVZ)の神経幹細胞周囲血管ニッチの安定化及び、神経幹細胞の維持に不可欠であること(Lu Li, et al., J. Neurosci., vol. 34(50):16713-16719, 2014)、低酸素応答によりHIF-1は神経分化の抑制シグナルBMP4を阻害し、直接神経分化マーカーSox1の発現を正に制御し、マウス胚性幹細胞の神経分化を正に制御すること(Yang, Zhao, et al., Stem Cells Dev. 23(18): 2143-2155, 2014)が知られている。また、「虚血性脳疾患」とは、脳の虚血が原因で発症する疾患を指すが、心原性脳梗塞、アテローム血栓性脳梗塞又はラクナ梗塞等の非心原性脳梗塞、脳梗塞による認知症等が挙げられる。HIF-1の活性化を図ることにより、脳保護するための新規化合物の開発が進められている(瀧澤俊也ら、臨床神経、52巻、911~912頁、2012)。
【0068】
(8)虚血性心疾患
「虚血性心疾患」とは、心筋の酸素要求と酸素供給の妥当性との間の不均等から生じる任意の障害を指し、虚血性心疾患の多くは、アテローム性動脈硬化症又は他の血管障害において生じるように、冠状動脈の狭窄から生じる。分子メカニズムとしては、HIF-1が心筋障害の減弱に関与していること(Huan-Xin Zhao, et al., Basic Res. Cardiol., vol.105, p.109-118, 2010)、加齢に伴う血管修復と血管新生の減少においてHIF-1が関与することもまた知られている(Michel R. Hoening, et al., Current Molecular Medicine, vol.8, p.754-767, 2008)。
【0069】
(9)抗老化薬
「抗老化薬」とは、老化の兆候を抑え健康寿命を延伸する剤をいう。低酸素応答のプロテアソーム制御は、線虫の老化を調節することが知られている(Ranjana Mehta, et al., Science, vol.324, p.1196-1198, 2009)。また、ミトコンドリア呼吸による寿命の調節には、HIF-1とROSの結びつきが関与することが報告されている(Ara B. Hwang and Seung-Jae Lee, Aging, vol.3, p.304-310, 2011)。
【0070】
4.その他の組成物
本発明のオレウロペインとオレウロシドを含む組成物は、医薬組成物及び/又は食品組成物(若しくは飲食物)の形態で好適に使用できる。医薬組成物又は食品組成物に添加する本発明の組成物の割合は、その機能を有する限り特に制限されないが、通常0.01~100重量%の範囲から適宜選択することができる。ここで、本発明の組成物の割合が100重量%である場合とは、本発明の医薬組成物及び/又は食品組成物が、本発明の組成物からなる場合を意味する。
【0071】
医薬組成物又は食品組成物に含有するオレウロペイン及びオレウロシドは、各々、例えば、一回の経口摂取あたり、0.01~500mg、好ましくは0.05~300mg、より好ましくは0.1~150mg、さらに好ましくは0.5~100mg、さらにより好ましくは1~80mg、なおより好ましくは2~50mgであり、例えば、5~50mgであり得る。
【0072】
本発明のオレウロペイン及びオレウロシドを含む組成物を含有する医薬組成物又は食品組成物の製造は、本発明の組成物を医薬組成物又は食品組成物に添加することによって行ってもよい。両化合物の重量比の調節は、本発明の組成物の製造に関連して記載された方法を適宜用いればよい。
【0073】
本発明の医薬組成物又は食品組成物は、その形態を特に制限するものではなく、例えば粉末状、顆粒状、錠剤状などの固体状、液状、乳液状等の溶液状又はこれら溶液状の組成物を充填したカプセル剤、又はペースト状等の半固体状などの、任意の形態に調製することができる。本発明の医薬組成物の投与量は、錠剤の種類、投与方法、投与対象の年齢や体重、症状等を考慮して決定されるものである。本発明の飲食品も同様に、その摂取量を適宜調整することができる。
【0074】
この場合、本発明の組成物に、さらに希釈剤、担体又は添加剤等の成分を配合して任意の製剤化処理を行い、製剤として調製することができる。ここで希釈剤又は担体としては、オレウロペイン及び/又はオレウロシドの生理活性を妨げないものであれば特に制限されず、例えばスクロース、グルコース、果糖、マルトース、トレハロース、乳糖、オリゴ糖、デキストリン、デキストラン、サイクロデキストリン、澱粉、水飴、異性化液糖などの糖類、エタノール、プロピレングリコール、グリセリン等のアルコール類、ソルビトール、マンニトール、エリスリトール、ラクチトール、キシリトール、マルチトール、還元パラチノース、還元澱粉分解物等の糖アルコール類、トリアセチン等の溶剤、アラビアガム、カラギナン、キサンタンガム、グァーガム、ジェランガム、ペクチン等の多糖類、又は水を挙げることができる。また添加剤としては、キレート剤等の助剤、香料、香辛料抽出物、防腐剤などを挙げることができる。使用上の利便等から、これらの希釈剤、担体又は添加剤を用いて上記製剤を調製する場合は、本発明の組成物が、製剤100重量%中に、0.01~100重量%、好ましくは0.1~50重量%の割合で含まれるように調製することが望ましい。
【0075】
本発明のオレウロペイン及びオレウロシドを含む組成物を含有する食品組成物としては、例えば、サプリメントのように上記本発明の組成物そのものを有効成分とする飲食品、ならびに一般の食品に上記本発明の組成物を1成分として配合して、その飲食品にオレウロペイン及びオレウロシドの生理活性を付与してなる機能性食品(特定保健用食品、栄養機能食品、機能性表示食品が含まれる)を挙げることができる。なお、これらの食品組成物には、HIF-1α活性化の促進を始めとする生理作用を有することを容器や説明書に表示した、本発明の所定の重量比でオレウロペイン及びオレウロシドを含有又は添加したことを特徴とする食品組成物も含まれる。なお、食品組成物としては、上記の機能性食品の他に、例えば、健康食品、栄養補助食品、経腸栄養食品などを挙げることができる。
【0076】
対象とする飲食品としては、制限されないが、果汁飲料、清涼飲料、スポーツ飲料、アルコール飲料、茶、栄養ドリンク等の飲料、パン、めん類、ごはん、菓子類(ビスケット、ケーキ、キャンデー、チョコレート、和菓子)、豆腐及びその加工品などの農産食品、清酒、薬用酒、みりん、食酢、醤油、味噌などの発酵食品、ドレッシング、マヨネーズ、バター、マーガリン、ショートニング、食用油脂などの油脂食品、ヨーグルト、ハム、ベーコン、ソーセージなどの畜農食品、かまぼこ、揚げ天、はんぺんなどの水産食品等を挙げることができる
【0077】
5.化粧品
本発明のオレウロペインとオレウロシドを含む組成物は、化粧品の形態で好適に使用できる。化粧品に添加する本発明の組成物の割合は、その機能を有する限り特に限定されないが、通常0.01~100重量%の範囲から適宜選択することができる。ここで、本発明の組成物の割合が100重量%である場合とは、本発明の化粧品が、本発明の組成物からなる場合を意味する。
【0078】
本発明のオレウロペイン及びオレウロシドを含む組成物を含有する化粧品としては、化粧水、乳液、クリーム、軟膏、ジェル、ローション、オイル、パック、ミスト及び顔面用化粧シートなどの基礎化粧料、ファンデーション、頬紅などのメークアップ化粧品などが挙げられる。これらの化粧品は、周知の方法に従って製造することができ、その際に、本発明の効果を損なわない範囲で周知の添加剤を適宜、添加してもよい。このような添加剤としては、油脂類、ロウ類、鉱物油、脂肪酸類、アルコール及び多価アルコール類、エステル類、金属セッケン類、ガム質及び糖類などの水溶性高分子化合物、界面活性剤、各種ビタミン類、各種アミノ酸類、植物又は動物系原料由来の種々の添加物、海藻類、動物系原料由来の素材、海洋成分、微生物培養代謝物、無機顔料、紫外線吸収/遮断剤、美白剤、チロシナーゼ活性阻害剤、メラニン色素還元/分解物質、細胞賦活物質、収斂剤、活性酸素消去剤、抗酸化剤、過酸化脂質生成抑制剤、抗炎症剤、抗菌・殺菌・消毒薬、保湿剤、香料、色素、その他ホルモン類、金属イオン封鎖剤、pH調整剤、キレート剤、防腐・防バイ剤、清涼剤、安定化剤、乳化剤、動・植物性蛋白質及びその分解物、動・植物性多糖類及びその分解物、動・植物性糖蛋白質及びその分解物、血流促進剤、抗炎症剤・消炎剤・抗アレルギー剤、創傷治療剤、増泡剤、増粘剤、酵素及び精製水(例えばミリポア(登録商標)水、イオン交換水、イオン交換蒸留水及び電子水)などが挙げられる。
【実施例0079】
以下の実施例は、本開示の様々な態様を例証する。材料と方法の両方に対する多数の修飾は、本開示の範囲から逸脱せずに実施されてもよいことは当業者に明らかである。市販品供給業者から購入される全ての試薬及び溶媒は、さらに精製又は加工することなしに使用される。
【0080】
実施例1:HIF-1α活性化剤の調製
2018年12月中旬にチュニジア中西部のシリアナ県の農場からオリーブの新鮮葉を収穫し、20~25℃で室内乾燥させた。乾燥葉をフードプロセッサー(MK-K48、パナソニック、日本)で粉末化した。この粉末25gを滅菌蒸留水500mlに浸し、ウォーターバス(WBS-80A、ASONE、日本)で90℃、30分間抽出した。抽出後、室温で冷却した煎じ液をstericup and steritop vacuum driven sterile filters(孔径0.22μm、SCGPT05RE、Merck、ドイツ)で濾過した。得られたろ液を真空ポンプ(DIVAC 1.2L、Leybold、ドイツ)、冷却水循環装置(CCA-1110、EYELA、日本)及びロータリーエバポレーター(N-1000、EYELA)を組み合わせた遠心濃縮システムにて半量まで蒸発させ抽出液とした。複数回の凍結融解を防ぐため0.6mlチューブに分注し、アルミホイルで遮光し、使用までディープフリーザー(CLN-50U、日本フリーザー、日本)で-80℃保存した。
【0081】
ここで、使用されるオリーブ葉抽出物(エキス)の成分について、オリーブ葉抽出物から得た抽出粉末をMeOHに溶解し、50mg/1mLの濃度で得た後、0.22μmフィルターで濾過した。その後、HPLC(島津、日本)を下記の条件で用いて、オリーブ葉抽出物の成分分析を行った。
【0082】
<分析条件>
カラム:TSKgel ODS-100V(3μm、2.0mm×15cm)
流速:0.2mL/分
UV検出 :254nm又は331nm
試料体積:10μL
溶出液:0.5%CH3COOH/ACN
勾配:0分、5%→5分、15%→25分、30%→35分、35%
カラム温度:40℃
MS:ESI
【0083】
上記分析により、使用されるオリーブ葉抽出物には、少なくともオレウロペイン及びオレウロシドが含有されていることが示された(
図1参照)。
【0084】
実施例2:HIF-1α活性化剤の作用機序
HIF-1α→EPO→EPOR→CASP3→GATA-1→GYPA→赤血球・ヘモグロブリン増加
<細胞培養とサンプル処理>
ヒト骨髄CD34+前駆細胞(Lonza Inc.,Switzerland)を購入し、この細胞をStemPro(登録商標)-34完全培地(Gibco,USA)を用いて、37℃、加湿95%、5%CO2で7日間(0日目~7日目)、60mmディッシュで維持した。8日目に、培地に2×104細胞/mlの濃度となるように24ウェルプレートに播種した。9日目から21日目(D0~D12)までは、オリーブ葉エキス0又は40μg/mLの濃度で細胞を処理した。培地は3日ごとに交換した。
【0085】
<免疫蛍光分析>
処理後の細胞のタンパク質を免疫蛍光染色するために、24ウェルプレートのウェルの底面に2.0×107細胞の造血幹細胞をプレーティングした後、風乾して表面を付着させた。細胞は4%パラホルムアルデヒドで10分間、室温で固定した。Hbサブユニットを検出するために、細胞を0.1%Triton X-100(MERCK KGAA,Germany)で10分間、室温で透過させ、PBSで3回洗浄した。細胞を5%ヤギ血清で室温で1時間ブロックした。すべての一次抗体:抗GYPA抗体(ab129024)、抗TFRC抗体(ab1086)、抗CD47抗体(ab175388)、抗HBA抗体(ab92492)、抗HBB抗体(ab214049)、及び抗HBG抗体は、Abcam(UK)から購入した。ブロッキングした細胞を、1%ヤギ血清で1:1000に希釈した各一次抗体とともに4℃で一晩インキュベートし、PBSで3回洗浄した。Alexa二次抗体:ヤギ抗ウサギIgG Alexa Fluor 488(A32731)及びヤギ抗マウスIgG Alexa Fluor 594(ab150116)をそれぞれThermo Fisher Scientific(USA)及びAbcamから購入した。続けて、細胞を1%ヤギ血清で1:1000に希釈した各二次抗体と1時間インキュベートし、PBSで3回洗浄した。核は1μg/mLのHoechst 33342(H21492,Thermo Fisher Scientific)で10分間染色し、PBSで3回洗浄した。染色された細胞は、オリンパスIX83倒立顕微鏡(オリンパスライフサイエンス、日本)で、cellSensイメージングソフトウェア(オリンパスライフサイエンス)を用いて可視化した。
【0086】
<RNA抽出>
RNA抽出用試薬Isogen(311-02501,Nippon Gene,日本)を用いて、6日間処理したK562細胞、及び9日目(処理前のD0)と21日目(処理後のD12)のhHSCsから、製造元の説明書に従ってトータルRNAを抽出した。トータルRNAの濃度は、NanoDrop 2000分光光度計(Thermo Scientific、USA)を用いて定量した。
【0087】
結果を
図2に示す。コントロールと比較して、本オリーブ葉エキスではHIF-1α、ARNT(HIF-1β)の遺伝子発現が有意に増加していた。GYPA遺伝子発現が増加しており、赤血球への分化がコントロールと比較して有意に増加していた。また、ヘモグロビンのα鎖、β鎖、γ鎖、δ鎖の遺伝子発現もコントロールと比較して有意に増加していた。
【0088】
<動物予備試験>
本実験で用いられたICRマウス(10匹、雄、4週齢)は日本チャールズ・リバー(日本)から購入した。全マウスは個別ケージに入れられ、温度(21~23℃)と光の条件(明:暗12:12時間)が保持された飼育室で、餌と水を自由摂取できる状態で1週間実験室環境に馴化させた。馴化後、マウスはNormal Saline(NS)投与control群(n=4)とオリーブ葉の水抽出物(WOL)投与群(n=6)に分けられた。WOL投与群は、生理食塩水で150mg/kg体重の用量に調製されたWOLを、ゾンデを用いて25日間毎日経口投与された。投与最終日に、イソフルラン麻酔下でマウス下大静脈から全血が採取された。採取された全血はヘパリンを用いて凝固防止処理が行われた。さらに血漿鉄濃度分析のため、全血を遠心(3,000rpm、15分)し血漿を採取した。赤血球数(RBC)、ヘモグロビン量(HGB)、ヘマトクリット値(HCT)、網赤血球数(Reticulocyte)及び血漿鉄濃度(Plasma Fe)等の血液学検査は株式会社安評センター(日本)に委託した。RBC、HGB、HCT及びReticulocyteは総合血液学検査装置ADVIA 120(SIMENS Healthineers,Germany)を用いて測定された。また血漿鉄濃度測定にはNitroso-PSAP法が用いられた。
【0089】
結果を
図3に示す。コントロール群と比較してオリーブ葉エキスを投与した群では有意に赤血球、ヘモグロビン、ヘマトクリット値、網状赤血球が増加していた。血漿鉄は17日で有意に増加していた。24日後にはコントロール群と同程度に減少しており、鉄が赤血球に取り込まれたと考えられる。
【0090】
<溶血性貧血動物試験>
本実験で用いられたICRマウス(67匹、雄、4週齢)は日本チャールズ・リバーから購入した。全マウスは個別ケージに入れられ、温度(21~23℃)と光の条件(明:暗12:12時間)が保持された飼育室で、餌と水を自由摂取できる状態で1週間実験室環境に馴化させた。馴化後、マウスはNormal Saline(NS)投与群(n=20)、溶血性貧血誘導剤Phenylhydrazine(PHZ)投与群(n=20)及びWOL+PHZ投与群(n=27)に分けられた。WOL+PHZ投与群は、生理食塩水で150mg/kg 体重の用量に調製されたWOLを、ゾンデを用いて25日間毎日経口投与された。同様にその期間NS投与群及びPHZ投与群には生理食塩水が経口投与された。経口投与開始18日目、PHZ投与群及びWOL+PHZ投与群に60mg/kg体重のPHZを単回腹腔内投与した。同様にNS投与群に生理食塩水を単回腹腔内投与した。PHZ投与1、3、5、7日後に、イソフルラン麻酔下でマウス下大静脈から全血が採取された。採取された全血はヘパリンを用いて凝固防止処理が行われた。赤血球数(RBC)及び網赤血球数(Reticulocyte)等の血液学検査は株式会社安評センターに委託した。RBC及びReticulocyteは総合血液学検査装置ADVIA 120(SIMENS Healthineers)を用いて測定された。
【0091】
結果を
図4に示す、PHZ投与による貧血を起こした後、網状赤血球率が有意に増加し、溶血性貧血改善促進効果が示唆された。
【0092】
<造血幹細胞の調製及びリボソーム合成>
1.被験物質調製
実施例1で調製したオリーブ葉エキス末は、Hematopoietic Stem Cell Basal Medium(Cat.No.620-50,TOYOBO,日本)を用いて20mg/mL溶液を作成し、滅菌フィルターにて濾過したものをストック溶液として使用した。
【0093】
2.細胞調製
凍結ヒト造血幹細胞(Cat.No.490BM05A,Lot.No.3335, TOYOBO)(5×105細胞/mL)を湯煎(37℃)にて融解(90秒以内)し、融解液を10mLのHematopoietic Stem Cell Basal Mediumに加え、400×gで10分間、遠心分離した。沈殿(細胞)に再びHematopoietic Stem Cell Basal Mediumを加え、2.5×105細胞/mLとなるように調製し、これを細胞溶液とした。
【0094】
3.細胞培養(本試験)
ヒト造血幹細胞溶液を7.8×104細胞/200μL/ウェルで48ウェルプレートに播種し、CO2インキュベーター内(5%CO2、37℃)で1日間培養した。その後、被検物質(2倍濃度)を含む増殖培地200μL/ウェルを追加添加し、0日、4日、8日、12日間培養した。処理日数区においてRibosomal Protein解析用として60μL(3900細胞)、遺伝子発現解析用として40μL(2600細胞)、生細胞数測定用として20μL(1300細胞)を回収した。回収後の各測定を以下に示す。
【0095】
4.生細胞数測定
培養した細胞溶液20μLを96ウェルプレートウェルに添加した。各ウェルに30μLのHematopoietic Stem Cell Basal Mediumを加え、さらに50μLの生細胞測定試薬SFを添加した。添加後、すぐに及び60分後に培養上清の吸光度(測定波長450nm、参照波長595nm)を測定した。直後及び60分後の値から1時間あたりの吸光度変化量を算出し相対生細胞数とした。
【0096】
5.遺伝子発現解析
細胞からのトータルRNAの回収及びcDNA化はFastLane Cell RT-PCRキット(Cat.No.215011,QIAGEN,Germany)の手順に従って行った。
(1)上記3で回収した細胞を400×gで10分間、遠心分離し、沈殿(細胞)に80μLのBuffer FCWを添加、再び400×gで10分間、遠心分離した。
(2)沈殿(細胞)に30μLのBuffer FCPを添加、室温(25℃)で5分間インキュベート後、チューブを-80℃にて次のcDNA化作業まで保存した。
(3)室温で上述のライセートを溶解した。新たなPCRチューブに2μLのgDNA Wipeout Buffer、1μLのFastLaneライセート、11μLのRNaseフリー水を添加し、42℃にて5分間反応させた。その後、すぐに氷上へ移した。
(4)(3)で得られた反応液14μLに逆転写反応マスターミックス(1μLのQuantiscript Reverse Transcriptase、4μLのQuantiscript RT Buffer、1μLのRT Primer Mix/チューブ)を6μL添加し、42℃、30分間インキュベートした。
(5)反応液を95℃、3分間処理することで逆転写酵素を失活させた。この反応液を合成cDNAとしてリアルタイムPCR(Realtime PCR Eco、illumina、USA)に用いた。解析に用いるまで-80℃で保存した。
【0097】
<リアルタイムPCR法>
Real-time PCR専用チューブに以下のように反応液を調製し、PCR反応を行った。
【0098】
【0099】
試験に使用した各遺伝子の特異的プライマー(FASMAC、日本)及びPCR反応条件を以下に示す。
【0100】
【0101】
反応条件(PCR温度条件、サイクル数)は以下の通りである:
(a)ポリメラーゼ活性化:95℃で30秒;
(b)PCRサイクリング:95℃で10秒、60℃で30秒を60サイクル
(c)融解曲線:95℃15秒、55℃で15秒、95℃で15秒
【0102】
相対定量の算出法
各遺伝子の増幅曲線と閾値線との交点より、Ct値(PCRサイクル数)を算出した。目的遺伝子のCt値より内部標準GAPDH遺伝子のCt値を引いたCt(目的遺伝子)-Ct(内部標準)=ΔCt値である。さらにΔCt値よりブランクの平均ΔCt値を引いたΔCt(サンプル処理区)-ΔCt(ブランク区)=ΔΔCt値とする。ΔΔCt値を乗数項に代入した2-ΔΔCt値が相対発現量となる。
【0103】
<ELISA法による40Sリボソームタンパク質S10量の測定>
細胞中の40Sリボソームタンパク質の測定は、ヒト40Sリボソームタンパク質S10 ELISAキット(Cat.No.MBS7246235、MyBioSource.com,USA)を使用した。方法はキット説明書に従って実施した。詳細を以下に記載する。
(1)上記3で回収した細胞を400×gで10分間、遠心分離し、沈殿(細胞)に200μLのPBSを添加、洗浄し、再び400×gで10分間、遠心分離した。
(2)沈殿(細胞)に150μLのPBSを添加し凍結/融解を3回繰り返した(細胞破砕処理)。破砕液を1000×gで15分間、遠心分離し上清をリボソームタンパク質測定用検体として使用した。
(3)キット付属のマイクロプレートに100μLのスタンダード(0、1.0、2.5、5.0、10、25ng/mLリボソームタンパク質)、検体(原液)を添加した。
(4)検体を添加したウェルに10μLのBalance Solutionを添加した。
(5)各ウェルに50μLのコンジュゲートを添加し、37℃で1時間反応させた。
(6)各ウェルを200μLの1×washで洗浄した。この操作を5回繰り返した。
(7)各ウェルに50μLの基質A及び50μLの基質Bを添加し、37℃で20分間処理した。
(8)各ウェルに50μLの停止溶液を添加し、プレートリーダーにてウェルの吸光度(450nm)を測定し、標準曲線からリボソームタンパク質量を算出した。
【0104】
<タンパク質濃度の測定>
(1)タンパク質濃度を測定するため、TaKaRa BCA Protein Assay Kit(Cat.No.T9300A、TAKARA,日本)のBSA濃縮標準液(80μg/ml)を滅菌水を用いて80、40、20、10、5、2.5、1.25μg/mlのBSA標準溶液を調製した。
(2)BSA標準溶液及び測定用サンプル(PBSにて5倍希釈)を、それぞれのウェルに100μl添加した。
(3)反応液を各ウェルに100μl添加し、プレートミキサーで1分間撹拌した。
(4)37℃で2時間インキュベートした(発色反応)。
(5)プレートリーダーで各ウェルの吸光度を測定した(測定波長562nm)。
(6)標準曲線から、測定用サンプルのタンパク濃度(mg/mL)を算出した。
【0105】
<40Sリボソームタンパク質S10量の算出>
上記で得られたリボソームタンパク質量及びタンパク質量からタンパク質量当たりのリボソームタンパク質量(ng/μgタンパク質)を算出した。
【0106】
リボソームRNA(rRNA)遺伝子発現及びリボソーム生合成が有意に増加していた。赤血球への分化の要因の一つとしてリボソーム生合成促進作用が示唆された(
図5参照)。
【0107】
<オリーブ葉熱水抽出物が有する抗貧血作用の検討>
溶血性貧血動物試験に用いたマウスから全血を採取後、各臓器組織(肝臓、脾臓、小腸)を採取した。組織をPBSにて洗浄後、Isogen(ニッポンジーン、日本)を添加してホモジナイズし、製造元の説明書に従ってトータルRNAを抽出した。RNA濃度は、NanoDrop 2000 spectrometer(Thermo Scientific,USA)を用いて測定された。cDNA合成のために、4μl SuperScript IV VILO Master Mix(Invitrogen,USA)と16μlのトータルRNA溶液(最終RNA濃度:10ng/20μl)をPCRチューブの中で混合し、サーマルサイクラーMiniAmp Plus(Applied Biosystems,USA)を用いて逆転写反応を行った。サーマルサイクルを25℃で10分間、50℃で10分間、85℃で5分間、4℃で1分間とした。遺伝子発現量解析を行うため、定量リアルタイムPCRを行った。標的遺伝子発現解析に用いられたTaqmanプライマー及びプローブセットは、以下の通りである:Hamp(Mm04231240 s1)、Fpn(Mm00489837 m1)。内在性標準としてActb(Mm02619580 g1)が用いられた。10μLのTaqMan Gene Expression Master Mix(Applied Biosystems)、1μLの各プライマー及びプローブセット、並びに9μLのcDNA(最終cDNA濃度:200ng/20μL)を96ウェルPCRプレートにて混合し、AB7500 Fast Real-Time PCRシステム(Applied Biosystems)を用いてTaqmanリアルタイムPCR増幅反応及び遺伝子発現量定量が行われた。サーマルサイクルを50℃で2分間、95℃で10分間、95℃で15秒間、50サイクル、60℃で1分間とした。遺伝子発現量はΔΔCt法にて算出された。
【0108】
結果を
図6に示す。PHZ投与後の5日目にPHZ群の肝臓Hamp発現量は有意に減少した。一方、WOL投与はその発現量減少をさらに促進した。また、PHZ投与後の5日目に、WOL群の小腸/脾臓Fpn発現量がPHZ群に比べ上昇した。一方、肝臓/骨髄Fpn発現量に変化が認められなかった(データ示さず)。このことから貧血回復時に、WOLは食物由来Feの腸管吸収促進作用と脾臓マクロファージからのFe放出促進作用を有することが示唆された。
【0109】
実施例3:GYPAを指標としたOP/OSの相乗効果
<細胞培養とサンプル処理>
K562細胞(Riken Cell Bank)が2×104細胞/mlの濃度となるように10%FBSと1%ペニシリン/ストレプトマイシン溶液を添加したRPMI1640培地(Gibco Waltham,MA,USA)を用いて、6ウェルプレートへ播種し、37℃、加湿95%、5%CO2で培養した。翌日、オレウロペイン(OP)とオレウロシド(OS)を混合溶解させた培地へ交換し、6日間反応させた。各混合割合は以下の通り:(a)35.36μMのOPとOS各濃度(1.18、3.54、5.23、7.10、17.68、23.57、35.36、43.85μM)の組合せ処理、(b)5.23μMのOSとOP各濃度(0.52、2.62、5.23、10.46、20.92、35.36、41.84、52.30μM)の組合せ処理。培地は3日ごとに交換した。
【0110】
<定量リアルタイムPCRを用いた遺伝子発現量解析>
反応6日後、細胞から培地を除去しIsogen(ニッポンジーン)を添加してソニケーションし、製造元の説明書に従ってトータルRNAを抽出した。RNA濃度はNanoDrop 2000 spectrometer(Thermo Scientific)を用いて測定された。cDNA合成のために、4μl SuperScript IV VILO Master Mix(Invitrogen)と16μlのトータルRNA溶液(最終RNA濃度:10ng/20μl)をPCRチューブの中で混合し、サーマルサイクラーMiniAmp Plus(Applied Biosystems)を用いて逆転写反応を行った。サーマルサイクルを25℃で10分間、50℃で10分、85℃で5分間、4℃で1分間とした。遺伝子発現量解析を行うため、定量リアルタイムPCRを行った。標的遺伝子発現解析に用いられたTaqmanプライマー及びプローブセットは、以下の通りである:GYPA(Hs011068079 s1)。内在性標準としてACTB(Hs03023880 g1)が用いられた。TaqmanリアルタイムPCR増幅反応及び遺伝子発現量定量は10μL TaqMan Gene Expression Master Mix(Applied Biosystems)、1μLの各プライマー及びプローブセット及び9μL cDNA(最終cDNA濃度:100ng/20μL)を混合し、AB 7500 FastリアルタイムPCRシステム(Applied Biosystems)を用いて行われた。サーマルサイクルを50℃で2分間、95℃で10分間、95℃で15秒間、50サイクル、60℃で1分間とした。遺伝子発現量はΔΔCt法にて算出された。
【0111】
結果を
図7に示す。オレウロシド:オレウロペイン1:10~10:1の範囲の比で含む場合に有意にGYPA遺伝子発現が増加しており、オレウロペインとオレウロシドの特定の比で赤血球への分化促進作用が現れることが示唆された。
【0112】
K562細胞へオレウロペインとオレウロシドの含有比が異なるオリーブ葉エキス2種を処理し、赤血球系分化マーカーであるGYPAの遺伝子発現量をリアルタイムPCRを用いて測定した。被験物質として、オリーブ葉抽出物A:120μg/mL(オレウロシド1.89μg:オレウロペイン15.44μg)(「抽出物A」という;本発明に対応する)、及びオリーブ葉抽出物B:120μg/mL(オレウロシド1.56μg:オレウロペイン40.26μg)(「抽出物B」という)を用いた。その結果、GYPA発現が有意に増加したのは、抽出物Aのみであった(
図8参照)。オレウロシド:オレウロペイン比の違いにより活性が異なることが示唆された。
【0113】
実施例4:HIF-1α活性化剤による造血作用
<ヒトプレ試験方法>
20歳以上50歳未満の女性健常者を対象とし、被験者にオリーブ葉エキスを1日当り500mg、8週間摂取させた。開始前、摂取6週間後、摂取8週間後に採血を行い、赤血球及びヘモグロビン濃度を測定した。結果を
図9に示す、摂取6週後及び8週後において摂取前と比較して赤血球とヘモグロビン濃度が有意に増加しており、ヒトにおいても造血幹細胞からの赤血球への分化誘導効果が示唆された。
【0114】
GYPAを指標としたOP/OS 10:1~1:10での相乗効果と同様の方法で、オリーブ葉に含まれるヒドロキシチロソール、オレウロペイン、オレウロシド、アピゲニン、アピゲニン7グルコシド、アピゲニン7-O-ルチノシド、ルテオリン、ルテオリン-7-O-グルコシドをそれぞれ単独又は組合せてGYPA遺伝子発現効果を測定した。結果を以下の表4-1に示す。オレウロシドとオレウロペインの組合せのみでGYPA遺伝子発現が増加していた。オレウロシド単独、オレウロペイン単独では効果が見られなかった。
【0115】
【0116】
【0117】
<HUVEC細胞を用いた毛細血管形成促進試験>
試験方法
(1)被験物質
被験物質として、オリーブ葉エキス、オレウロシド、オレウロペイン、及びCoCl2(陽性対照物質)を使用した。
(2)細胞
実験には、ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)(pre-screened)(Cat.No.C2519AS,Lot.No.0000635747、LONZA)を使用した。
(3)試薬及び機器
・EGM(商標)-2、BulletKit(商標)(Cat.No.CC-3162, LONZA)
・DMSO(Cat.No.13445-74,Nacalai tesque,日本)
・オレウロペイン(Cat.No.O0420,Lot.No.5GACK-WA、TCI,日本)
・オレウロシド(Cat.No.orb594438,Biorbyt,UK)
・塩化コバルト(II)六水和物(Cat.No.036-03682,Wako,日本)
・2.5g/l-トリプシン/1mmol/l-EDTA溶液(Cat.No.32777-44、Nacalai tesque)
・PBS(Code 05913、日水製薬株式会社、日本)
・血管新生アッセイキット(Tube Formation)(PromoKine、Cat.No.PK-CA577-K905、PromoCell、Germany)
・75cm2細胞培養フラスコ(Cat.No.3276、Corning,USA)
・接着細胞培養プレート96F(Cat.MS-8096F、SUMILON,日本)
・1.5mLリングロックミクロチューブ(Cat.No.BM-15、ビーエム機器,日本)
・倒立型位相差顕微鏡(CKX53、オリンパス、日本)
【0118】
方法
(1)HUVEC細胞の培養
HUVEC細胞は専用培地を用いてT75フラスコにてCO2インキュベーター(5%CO2、37℃)内で必要細胞数に達するまで前培養した。細胞の継代にはトリプシン/EDTA溶液を用いて細胞をフラスコから剥離し試験培地でトリプシンを中和後に遠心で細胞を回収、再び試験培地に細胞を再懸濁し細胞懸濁液として使用した。
【0119】
(2)サンプル調製
オリーブ葉エキスは45.8mg/mLで蒸留水に溶解し、十分に撹拌後に0.4μm滅菌フィルターにて濾過滅菌しストック溶液として使用した。オレウロシド及びオレウロペインはそれぞれ5.04mg/mL、41.2mg/mLとなるようにDMSOに溶解しストック溶液として使用した。塩化コバルト(III)六水和物は10mMとなるように蒸留水に溶解しストック溶液として使用した。
【0120】
(3)血管新生試験
(a)マトリゲルウェルの準備
前日より4℃にて融解した細胞外マトリックス溶液を96ウェルプレートの各ウェルに50μLずつ分注し、37℃で1時間加温することでゲルの固化を行った。
(b)細胞溶液の準備
(1)にて細胞懸濁液を2.5×104細胞/50μLになるようにHUVEC専用培地で調製した。
(c)被験物質溶液の調製
(2)で調製した各ストック溶液を用いて終濃度の2倍濃度となるようにHUVEC専用培地で調製した。
(d)で準備したゲル上に50μLの細胞溶液(b)及び50μLの被験物質溶液(c)を添加しプレートをCO2インキュベーター(5%CO2、37℃)にて培養を開始した。
(e)培養開始後0から20時間の随時各ウェルを位相差顕微鏡にて観察、血管新生の状態を確認した。処理区間で差異のあった状態(培養開始9時間)で写真撮影し、顕微鏡画像から血管新生状態を定量化した。
(f)画像解析
ウェル中央部の観察像をもとに画像解析ソフトを用いてチューブ長(μm)、枝分かれ数(分岐数)、を計測した。
【0121】
結果を
図10に示す。オリーブ葉エキス、オレウロペインとオレウロシドの組合せともにコントロールと比較しtube長、分岐数が有意に増加していた。血管新生促進作用が示唆された。
【0122】
<HIF-1αタンパク産生促進試験>
試験方法
(1)被験物質
被験物質として、オリーブ葉エキス、オレウロシド、オレウロペイン、及びCoCl2(陽性対照物質)を使用した。
(2)細胞
実験には、ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)(pre-screened)(Cat.No.C2519AS,Lot.No.0000635747、LONZA)を使用した。
(3)試薬及び機器
・EGM(商標)-2、BulletKit(商標)(Cat.No.CC-3162、LONZA)
・DMSO(Cat.No.13445-74、Nacalai tesque)
・オレウロペイン(Cat.No.O0420,Lot.No.5GACK-WA、TCI、日本)
・オレウロシド(Cat.No.orb594438, Biorbyt)
・塩化コバルト(II)六水和物(Cat.No.036-03682、富士フィルム和光純薬、日本)
・2.5g/l-トリプシン/1mmol/l-EDTA溶液(Cat.No.32777-44、Nacalai tesque)
・PBS(Code 05913、日水製薬株式会社)
・ヒトHIF-1アルファELISAキット(Cat.No.ab171577、Abcam)
・BCAタンパク質アッセイキット(Cat.No.T9300、TAKARA)
・吸光、蛍光、発光プレートリーダー(Varioskan LUX、ThermoFisher)
・75cm2細胞培養フラスコ(Cat.No.3276、Corning)
・接着細胞培養プレート96F(Cat.MS-8096F、SUMILON)
・接着細胞培養プレート6F(Cat.MS-8060F、SUMILON)
・1.5mLリングロックミクロチューブ(Cat.No.BM-15、ビーエム機器)
【0123】
方法
(1)HUVEC細胞の培養
HUVEC細胞は専用培地を用いてT75フラスコにてCO2インキュベーター(5%CO2、37℃)内で必要細胞数に達するまで前培養した。細胞の継代にはトリプシン/EDTA溶液を用いて細胞をフラスコから剥離し試験培地でトリプシンを中和後に遠心で細胞を回収、再び試験培地に細胞を再懸濁し細胞懸濁液として使用した。
【0124】
(2)サンプル調製
オリーブ葉エキスは45.8mg/mLで蒸留水に溶解し、十分に撹拌後に0.4μm滅菌フィルターにて濾過滅菌しストック溶液として使用した。オレウロシド及びオレウロペインはそれぞれ5.04mg/mL、41.2mg/mLとなるようにDMSOに溶解しストック溶液として使用した。塩化コバルト(III)六水和物は10mMとなるように蒸留水に溶解しストック溶液として使用した。
【0125】
(3)細胞培養
(1)で調製したHUVEC細胞を、専用培地を用いて3×105細胞/2mL/ウェルで6ウェルプレートに播種した。CO2インキュベーター(5%CO2、37℃)で1日培養した。その後、被験物質を含む専用培地を2mL/ウェルで置換し培養した。培養開始、0、4、12、24時間後に培養上清を除去し、2mLのPBSを添加し洗浄、除去した。タンパク質測定までプレートを-80℃で保管した。
【0126】
(4)HIF-1αタンパク質量測定
HIF-1αタンパク質の測定は、ヒトHIF-1アルファELISAキット(Abcam)のプロトコールに従って行った。結果を
図11に示す。オリーブ葉エキス、オレウロペインとオレウロシドの組み合せの添加によりHIF-1αのタンパク質量が有意に増加しており、HIF-1αが安定化しタンパクレベルの蓄積が起こることが確認された。
【0127】
<Tie2遺伝子発現促進作用>
試験方法
前述のHIF-1αタンパク測定の方法に準じて試験を行ったが、一部、下記の通り、変更した。
【0128】
(5)細胞培養
(1)で調製したHUVEC細胞を、専用培地を用いて3×105細胞/1mL/ウェルで12ウェルプレートに播種した。CO2インキュベーター(5%CO2、37℃)で1日培養した。その後、被験物質を含む専用培地を1mL/ウェルで置換し培養した。培養開始、0、2、4、8時間後に培養上清を除去し、1mLのPBSを添加し洗浄、除去した。RNA抽出までプレートを-80℃で保管した。
【0129】
(6)トータルRNAの回収
RNeasy Plus Miniキット(QIAGEN)にてトータルRNAを抽出した。詳細を以下に記載した。
(i)(5)で回収したプレートウェルに350μLのRLT Plusバッファーを添加した。
(ii)ホモジェナイズ液をQIAshredderに移し、15000×g、2分間遠心分離した。
(iii)コレクションチューブ中の上清をgDNA Eliminatorのカラムに入れ、8000×g、30秒間遠心分離した。
(iv)フロースルー液に同量(350μL)の70%エタノールを添加し、ピペッティングで混和した。
(v)700μLの(iv)溶液をRNeasyスピンカラムに移し、8000×g、20秒間遠心分離した。フロースルー液を廃棄した。
(vi)700μLのBuffer RW1をRNeasyスピンカラムに添加し、8000×g、20秒間遠心分離した。フロースルー液を廃棄した。
(vii)500μLのRPEバッファーをRNeasyスピンカラムに添加し、8000×g、20秒間遠心した。フロースルー液を廃棄した。
(viii)500μLのRPEバッファーをRNeasyスピンカラムに添加し、8000×g、2分間遠心した。フロースルー液を廃棄した。
(ix)RNeasyスピンカラムを新しい2mLコレクションチューブに移し、15000×g、1分間遠心した。
(x)RNeasyスピンカラムを新しい1.5mLコレクションチューブに移し、10μLのRNaseフリー水を添加し8000×g、1分間遠心した。フロースルーに集まった溶液をトータルRNAとして使用した。
【0130】
(7)cDNA化
トータルRNAのcDNA化はPrimeScript(商標)RT試薬キットに添付された手順に従って行った。詳細を以下に記載した。
(a)PCRチューブに以下の組成となるように各溶液を添加した。
トータルRNA:5μL
5×PrimeScriptバッファー:2μL
PrimeScript RT酵素ミックス:0.5μL
オリゴdTプライマー:0.5μL
ランダム6mer:0.5μL
RNaseフリーdH2O:1.5μL
(b)チューブを37℃で15分間、85℃で5秒、4℃にて処理した。
以上の溶液をcDNA液としてリアルタイムPCRの鋳型として使用した。
【0131】
(8)リアルタイムPCR法
(a)リアルタイムPCR専用チューブに以下のように反応液を調製し、PCR反応を行った。
dsH2O 2.4μl
SYBER Premix Ex Taq 4.0μl
フォワードプライマー(20μM) 0.3μl
リバースプライマー(20μM) 0.3μl
合成cDNA 1.0μl
総体積 8.0μl
【0132】
試験に使用した各遺伝子の特異的プライマー及びPCR反応条件を以下に示す。
【0133】
【0134】
反応条件(PCR温度条件、サイクル数)は以下の通りである:
(a)ポリメラーゼ活性化:95℃で30秒;
(b)PCRサイクリング:95℃で10秒、60℃で30秒を60サイクル
(c)融解曲線:95℃15秒、55℃で15秒、95℃で15秒
【0135】
(2)相対定量の算出法
各遺伝子の増幅曲線と閾値線との交点より、Ct値(PCRサイクル数)を算出した。目的遺伝子のCt値より内部標準GAPDH遺伝子のCt値を引いたCt(目的遺伝子)-Ct(βACT)=ΔCt値である。さらにΔCt値よりブランクの平均ΔCt値を引いたΔCt(サンプル処理区)-ΔCt(ブランク区)=ΔΔCt値とした。ΔΔCt値を乗数項に代入した2
-ΔΔCt値が相対発現量となる。結果を
図12に示す。Ang/Tie2シグナル経路が活性化することが示唆された。HIF-1シグナルはAng/Tie2を調節し、造血幹細胞とニッチとの接着を強化し幹細胞の未分化性を維持する可能性が示唆された。
【0136】
実施例5:エクスビボ試験
ヒト皮膚組織片のエクスビボ培養試験は、Laboratoire BIO-EC(フランス)の方法(Asserin et al.、 2015)に従い、同社にて実施した。皮膚組織片は、腹壁形成術により生じた、フィッツパトリック皮膚色分類によるフォトタイプIIの55歳白色人種女性由来のものであり、平均直径が12±1mmになるように加工したものを使用した。培養液にはBIO-EC’s explants medium complete(BIO-EC、フランス)を使用し、37℃で5%CO2の条件下にて組織片を10日間培養した。
【0137】
組織対照群(T0)、対照群(T)、WOL(120μg/mL)処理群(P1)、WOL(240μg/mL)処理群(P2)の4群を設定した。WOL(120μg/mL)処理群ではWOLを120μg/mLの濃度になるように添加、WOL(240μg/mL)処理群ではWOLを240μg/mLの濃度になるように添加した。
【0138】
培養液は3、4、5、6、7日目に交換し、実験は1群あたり3組織片で行った。培養0日目にT0の3組織片をそれぞれ3つの部分に分けて切断した。1/3はホルマリン緩衝液で固定し、1/3は-80℃で凍結し、1/3はゲノム解析のためにRNA later bufferで保存した。培養5日目と10日目は、各群の3組織片をT0と同様の方法で処理した。
【0139】
各群のホルマリン緩衝液で固定した組織片は固定後脱水しパラフィン包埋した。その後切片を作成し、オリンパスBX43又はBX63顕微鏡(オリンパス)を用いて顕微鏡観察を行った。写真は、オリンパスDP72又はDP74カメラ(オリンパス)とcellSens storingソフトウェア(オリンパス)を用いてデジタル化した。表皮及び真皮構造の細胞生存率を、マッソンゴールドナー染色後のホルマリン固定パラフィン包埋皮膚切片(FFPE)を顕微鏡で観察することにより評価した。
【0140】
<表皮―真皮接合部(Dermal-epidermal junction:DEJ)の評価>
DEJ relief indexは、DEJの長さと表皮の長さの比であり、比が大きいほど基底膜に凹凸があり若い状態を表す。すべての群のDEJ relief indexを、染色の各写真で測定した。測定は、画像解析ソフトウェアcellSensの測定モジュールを用いた。
【0141】
<HIF-1α、PECAM-1タンパク定量>
FFPE切片に、PBS-BSA(0.3%)-Tween 20(0.05%)で1:100に希釈した抗HIF-1α抗体(Ref.HPA001275、Sigma-Aldrich、USA)又は抗Pecam-1抗体(ref.sc-376764、Santa Cruz、USA)を用い免疫染色した。Vectastain Kit Vector amplifier system avidin/biotinを用いて、室温で1時間インキュベートし、VIP(Ref.SK-4600、Vector laboratories、USA)で染色した。免疫染色は顕微鏡観察で評価し、画像解析した。染色された表面積と全体の面積の割合を計算し染色面積(%)で表した。画像解析は、1群あたり合計9画像で行い、平均値にて評価した。画像解析結果の群間比較では、Student’s t検定を用いて検定を行い、統計学的な有意水準は両側5%とした。
【0142】
<真皮幹細胞数評価>
真皮幹細胞として真皮乳頭層のCD271陽性/NG2陽性細胞の増加(高濃度10日目)を検討した。
・CD271及びNG2の二重免疫染色
FEPE切片を、PBS-BSA(0.3%)-Tween 20(0.05%)で1:50に希釈した抗CD271モノクローナル抗体(ref.MA5-13314、Invitrogen)、及びPBS、BSA(0.3%)-Tween 20(0.05%)で1:100に希釈した抗NG2モノクローナル抗体(ref.ab255811、Abcam)を用いて免疫染色した。CD271は、AF488(Lifetechnologies、ref.A11001、Abcam)(緑色染色)により、一方、NG2は、AF594(ref.A11012、Lifetechnologies、USA)(赤色染色)により明瞭化された。核をDAPIで対比染色した(青色染色)。免疫染色によってCD271陽性/NG2陽性細胞の数をカウントし、真皮乳頭層1mm2あたりのCD271陽性/NG2陽性細胞の数として表した。
【0143】
<遺伝子発現解析>
RNAの抽出
ReliaPrep RNA Kit(fibrous tissue)(Promega、USA)を用いて、培養5日目、10日目の皮膚切片からキットの使用法通りにRNAサンプルを抽出した。抽出した100ngのRNAをiScript(Bio-Rad、USA)を用いてcDNAに逆転写し、スパイク(exogen RNA)コントロールを用いてRT反応を検証した。目的遺伝子の発現をqPCRarrayで評価した。遺伝子発現の定量化にあたっては、2つの参照遺伝子(GAPDH及びB2M)に従ってサイクル数を正規化した。
【0144】
結果
DEJ relief index改善効果
培養10日後、DEJ relief indexは、T群:1.25±0.21(平均±SD.)、P1群:1.45±0.26であり、WOL添加により有意にDEJ relief indexが改善された。真皮乳頭層の凹凸が増加し基底膜が改善されており、皮膚の老化特徴が改善された。
【0145】
HIF-1α誘導効果
培養10日後のHIF-1α(表面%)分析結果、T群:82.6±4.8%、P1群:94.6±2.3%であり、WOL添加により有意(p<0.05)にHIF-1αが増加していた。WOLは皮膚でもHIF-1αを誘導しタンパクレベルで増加することが示唆された。HIF-1αの有意な発現増加は、HES1(hes family bHLH transcription factor 1)やFLG(フィラグリン)の誘導と正の相関関係にあることが報告されており、(PMID:26094772、PMID:24999590)、ケラチノサイトの分化や表皮のバリア機能に必須の制御因子であるHIF-1αが誘導されたため、表皮ターンオーバーを促進していると考えられる。
【0146】
PECAM1誘導効果
培養5日後のPECAM1(表面%)分析結果、T群:0.8±0.3%、P2群:1.1±0.5%であり、WOL添加により有意(p<0.05)にPECAM1が増加した。血管内皮前駆細胞マーカーであるPECAM1が増加していたことから、WOLにより血管新生作用があることが示唆された。
【0147】
真皮幹細胞増加効果
培養10日後のCD271陽性/NG2陽性細胞数カウント結果、真皮乳頭層において、T群では178±54、P2群では228±33(平均±SD)であり、有意に増加(Tに対しp<0.05)していた。真皮乳頭層における真皮幹細胞数の増加促進効果が示唆された。
【0148】
【0149】
これにより、真皮乳頭層でCD271陽性/NG2陽性細胞が増加しており、真皮幹細胞マーカーの発現増加効果が示唆された。
【0150】
遺伝子発現誘導効果
培養10日後のHes1遺伝子発現解析結果、T群を1とした場合、P1群では1.27であり、P2群では1.51であり、また、P2群ではT群と比較して有意に発現が増加していた(
図13、p<0.05)。WOL添加によりHes1が増加したことは、表皮幹細胞の表皮への分化誘導が進行したことを表している。フィラグリンが発現増加傾向にあり(p=0.08)、表皮幹細胞の分化促進により表皮ターンオーバーが促進されたと考えられる。
【0151】
ヒト皮膚エクスビボ試験によるHIF-1及び表皮幹細胞活性化効果
HIF-1α、フィラグリン、ラミニン5、及びCK15を指標として、表皮幹細胞増加及び分化を検討した。なお、CK15は、表皮幹細胞のマーカーであることが示されている(Bose et al., Keratin K15 as a Biomarker of Epidermal Stem Cells, Int. J. Mol. Sci. 2013, 14, 19385-19398)を参照されたい。
【0152】
上記と同様に、ヒト皮膚組織片のエクスビボ培養試験は、Laboratoire BIO-EC(フランス)の方法に従い、同社にて実施した。皮膚組織片は、腹壁形成術により生じた、フィッツパトリック皮膚色分類によるフォトタイプIIの52歳白色人種女性由来のものであり、平均直径が12±1mmになるように加工したものを使用した。培養液にはBIO-EC’s explants medium complete(BIO-EC)を使用し、37℃で5%CO2の条件下にて組織片を9日間培養した。
【0153】
組織対照群(T0)、対照群(T)、WOL(100μg/mL)処理群(P)の3群を設定した。WOL(100μg/mL)処理群ではWOLを100μg/mLの濃度になるように添加した。
【0154】
培養液は1、2、5、6、7、8日目に交換し、実験は1群あたり3組織片で行った。培養0日目にT0の3組織片をそれぞれ3つの部分に分けて切断した。1/3はホルマリン緩衝液で固定し、1/3は-80℃で凍結し、1/3はゲノム解析のためにRNA later bufferで保存した。培養5日目と9日目は、各群の3組織片をT0と同様の方法で処理した。
【0155】
各群のホルマリン緩衝液で固定した組織片は固定後脱水しパラフィン包埋した。その後切片を作成し、Leica DMLB(Leica、ドイツ)又はオリンパスBX43又はBX63(オリンパス)顕微鏡を用いて顕微鏡観察を行った。写真は、オリンパスDP72又はDP74とcellSens storingソフトウェア(オリンパス)を用いてデジタル化した。表皮及び真皮構造の細胞生存率を、マッソンゴールドナー染色後のホルマリン固定パラフィン包埋皮膚切片(FFPE)を顕微鏡で観察することにより評価した。
【0156】
FEPEの組織免疫染色を、HIF-1α抗体(HPA001275、Sigma-Aldrich)、抗フィラグリン抗体(sc-66192,clone AKH1、Santa Cruz)、抗CK15抗体(sc-70912,clone O.N.360、Santa Cruz)、抗ラミニン5抗体(sc-13587,clone P3E4、Santa Cruz)をPBS-BSA 0.3%-Tween 20 0.05%でそれぞれ希釈したものを用いて室温で1時間インキュベートし、Vectastain Kit Vector amplifier system avidin/biotin,VIP(SK-4600、Vector laboratories)で明らかにした。核をヨウ化プロピジウムで対比染色した。
【0157】
免疫染色は顕微鏡観察により評価し、画像解析により半定量化した。その結果、培養9日目において、T群に対しP群は、それぞれHIF-1α(21.0±8.0に対し27.6±2.3、p<0.05)、フィラグリン(31.3±9.0に対し42.0±9.2、p<0.05)、CK15(6.1±2.6に対し11.5±6.6、p<0.05)、及びラミニン5(26.5±8.7に対し44.3±8.2、p<0.01)となり、HIF-1αの発現が有意に増加し、HIF-1によって調節を受けるラミニン5が増加し、表皮幹細胞のマーカーCK15の発現が増加し、表皮顆粒層の分化マーカーであるフィラグリンの発現が増加したことが観察された。これらの結果により、HIF-1発現増加により表皮幹細胞の自己増殖とともに分化が促進されたことが示唆された。
【0158】
実施例6:オレウロシド(OS):オレウロペイン(OP)の比率変更によるHIF-1活性化効果
新たにOS:OPの比率を変えてHIF-1発現への影響を確認するための追加実験をおこなった。
被験物質調整
OS(Cat.No.HYN6906、MedChemExpress、USA)及びOP(Cat.No.02420、TCI)がそれぞれ10mg/mL及び100mg/mLとなるようにDMSOに溶解し、ストック溶液として使用した。
細胞調整
K562細胞(Cat.No.JCRB0019,Lot.No.06032020、JCRB、日本)は増殖培地RPMI-1640(Cat.No.R8758-500ML、Sigma-Aldrich)、10%FBS(Cat.No.F7524、Sigma-Aldrich)(非動化済)を使用しT75フラスコにてCO2インキュベーター(5%CO2、37℃)内で必要細胞数に達するまで培養した。
細胞培養
K562細胞を、増殖培地を用いて1×107細胞/10mLでT25フラスコに播種し、CO2インキュベーター内(5%CO2、37℃)で1日間培養した。被検物質(2倍濃度)を含む増殖培地10mLを追加し、0、10、30分、1、2、3、及び5時間後に、採取した培養液1mLを1.5mLチューブに回収し、1,000rpm、5分間遠心後、上清を除去した。沈殿物(細胞)に1mLのPBSを加え、再び1,000rpm、5分間遠心後に、得られた沈殿物に100μLのRIPA Lysisバッファー(Cat.No.SC-24948、Santa Cruz)を添加し、懸濁させた。4℃で10分間溶出させ、12,000rpm、10分間、遠心分離後に、上清に1/4量の4×Laemmli Sampleバッファー(Cat.No.1610747、BIO-RAD)を添加し、95℃で5分間反応させ、電気泳動で使用するまで-20℃で保存した。
【0159】
ウェスタン解析
SDS-PAGE、及びメンブレンへの転写
e-PAGEL HR SDS-PAGEゲル(EHR-T15L,Cat.No.2331965、ATTO,日本)を電気泳動槽(AE-6530、ATTO)に設置し、下槽及び上槽を1×泳動用緩衝液(Cat.No.184-01291,富士フィルム和光純薬,日本)で満たした。10mAで10分間通電した。各ウェルに25μLのタンパク質抽出液及びPrecision Plus Protein Dual Color Standards(Cat.No.161-0394、BIO RAD)(3μL/ウェル)及びBiotinylated Protein Ladder Marker(10μL/ウェル)をロードした。CC 30mAでブロモフェノールブルーラインがゲル最下端に達するまで電気泳動した。電気泳動後のゲルをガラスプレートから剥離し、EzBlot(Cat.No.2332600、ATTO)を用いてPVDF膜にATTOの手法に従い転写した。
【0160】
ウェスタンブロッティング
転写後のメンブレンを25mLの1×TBS(pH 7.4)(Cat.No.317-90175、ニッポンジーン)で洗浄した後、室温で25mLのブロッキングバッファー(0.5%BSA)(Cat.No.017-15141、富士フィルム和光純薬)を含むTBST(0.05%Tween-20含有(Cat.No.23926-35、nacalai tesque)1×TBS))に浸漬し、インキュベートした。15mLのTBSTで各5分間、3回洗浄した。ハイブリバックにメンブレンと抗HIF-1α抗体(Cat.No.GTX127309,GENETEX,Inc.、USA)(1/1000量)又は抗体βAct抗体(Cat.No.GTX109639、GENETEX,Inc.)(1/3000量)及び0.05%アジ化ナトリウム(Cat.No.197-11091、富士フィルム和光純薬)を含む10mL TBST-BSA(0.5%BSA)を添加し、気泡が入らないようにシールした。メンブレンを室温下で一晩反応させた(一次抗体反応)。続いて、メンブレンを15mLのTBSTで各5分間、3回洗浄した。ハイブリバックにメンブレンと抗ウサギIgG、HRP結合抗体(Cat.No. 7074S,Cell Signaling technology、USA)(1/2000量)を含む10mLブロッキングバッファーを添加し、気泡が入らないようにシールした。メンブレンを室温で1時間反応させた(二次抗体反応)。次に、メンブレンを15mLのTBSTで各5分間、3回洗浄した。10mLのEzWestLumiOne(Cat.No.2332530、ATTO)とメンブレンを1分間インキュベートし、過剰な溶液を取り除いた後、化学発光スキャナー(C-DiGit、LI-COR、日本)にてバンドを検出した。
【0161】
バンドの定量化
ウェスタンブロッティング解析により得られた画像を画像解析ソフトImage Jにてバンドのシグナルを定量化した。被験試料処理5時間後において、コントロールを1とした時、OS:OP=1:30、OS:OP=1:7、OS:OP=50:1、及びOS:OP=100:1の比率でそれぞれ2.2、2.3、2.4、及び3.4倍に発現が増加した(
図14参照)。
【0162】
実施例7:ヒトオープンラベル試験による肌機能改善効果
健康な男女10名(40~70歳代)にヒフワンステム125mg含有ハードカプセルを12週間、1日4粒摂取させた。摂取前、摂取4週間後、摂取8週間後、及び摂取12週間後にそれぞれ左手又は右手薬指爪郭部の毛細血管数、頬の水分蒸散量、頬の角質水分量、並びに下眼瞼(涙袋及び目袋)の肌色測定を行った。なお、上記ヒフワンステム含有ハードカプセルの処方は、以下の表7に示す通りである。
【0163】
【0164】
毛細血管数は、B-Scan ZD(GOKO映像機器、日本)を用いて爪郭部の毛細血管を撮影し、1mm中の毛細血管の本数をカウントした。経皮水分蒸散量は、テヴァメーターTM300MP(Courage+Khazaka、ドイツ)を用いて、右頬部を2回測定して平均した。また、角質水分量は、コルネオメーターCM825MP(Courage+Khazaka、ドイツ)を用い、右頬部を10回測定して平均した。さらに、肌色測定は、色差計CM700d(コニカミノルタ、日本)を用い、左右の下眼瞼のL値、a値、及びb値を10回測定し平均した。Student’s t検定を用いて検定を行い、統計学的な有意水準は両側5%とした。
【0165】
その結果、毛細血管の本数は、摂取前と比較して8週後及び12週後では有意に増加し、血管新生効果が示唆された(
図15)。経皮水分蒸散量は、摂取前と比較して12週後では有意に改善し、皮膚のバリア機能の改善効果が示唆された(
図16)。また、角質水分量は、摂取前と比較して12週後では増加傾向にあり、皮膚の保湿力向上効果が示唆された(
図17)。さらに、下眼瞼のL値は、摂取前と比較して4週後から12週後では有意に増加し、明度が上がることによる肌色改善効果が示唆された(
図18)。
上記で実証したように、本発明におけるHIF-1α活性化剤は、オリーブ葉エキスの優れたHIF-1α活性化作用により、幹細胞を分化誘導、又は分化能を維持することができる。