IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本エイアンドエル株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023005526
(43)【公開日】2023-01-18
(54)【発明の名称】熱可塑性樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 51/04 20060101AFI20230111BHJP
   C08F 279/00 20060101ALI20230111BHJP
   C08F 255/00 20060101ALI20230111BHJP
   C08F 265/00 20060101ALI20230111BHJP
   C08F 283/12 20060101ALI20230111BHJP
   C08F 212/10 20060101ALI20230111BHJP
   C08L 51/06 20060101ALI20230111BHJP
   C08L 51/08 20060101ALI20230111BHJP
   C08F 257/00 20060101ALI20230111BHJP
【FI】
C08L51/04
C08F279/00
C08F255/00
C08F265/00
C08F283/12
C08F212/10
C08L51/06
C08L51/08
C08F257/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021107510
(22)【出願日】2021-06-29
(71)【出願人】
【識別番号】399034220
【氏名又は名称】日本エイアンドエル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【弁理士】
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(72)【発明者】
【氏名】岩井 健祐
(72)【発明者】
【氏名】小法師 大輔
(72)【発明者】
【氏名】市原 将平
【テーマコード(参考)】
4J002
4J026
4J100
【Fターム(参考)】
4J002BC06Y
4J002BN06W
4J002BN10W
4J002BN12W
4J002BN12X
4J002BN14W
4J002BN16X
4J002BN17W
4J002GQ00
4J026AA12
4J026AA13
4J026AA14
4J026AA45
4J026AA49
4J026AA55
4J026AA67
4J026AA68
4J026AA69
4J026AB44
4J026AC01
4J026AC02
4J026AC08
4J026AC09
4J026AC10
4J026AC11
4J026BA05
4J026BA27
4J026BA31
4J026BB04
4J026DA04
4J026DA07
4J026DA09
4J026DA14
4J026DB04
4J026DB08
4J026DB10
4J026DB15
4J026GA01
4J026GA09
4J100AB02P
4J100AM02Q
4J100CA04
4J100DA09
4J100EA01
4J100JA43
(57)【要約】
【課題】
耐衝撃性及び発色性をバランス良く両立することが可能な熱可塑性樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】
ゴム状重合体に、シアン化ビニル系単量体及び芳香族ビニル系単量体を含むビニル系単量体をグラフト重合してなるグラフト共重合体樹脂(A)であって、当該グラフト共重合体樹脂(A)中に含まれるフリーレジン等について所定の要件を満たすグラフト共重合体樹脂(A)と、(メタ)アクリル酸エステル由来の構成単位を含むゴム状重合体に芳香族ビニル系単量体を含むビニル系単量体をグラフト重合してなるグラフト共重合体樹脂(B)であって、当該グラフト共重合体樹脂(B)におけるゴム状重合体の平均粒子径が50nm~150nmであるグラフト共重合体樹脂(B)と、芳香族ビニル系単量体及びシアン化ビニル系単量体を含むビニル系単量体を共重合してなる共重合体(C)と、を含む熱可塑性樹脂組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム状重合体に、シアン化ビニル系単量体及び芳香族ビニル系単量体を含むビニル系単量体をグラフト重合してなるグラフト共重合体樹脂(A)であって、当該グラフト共重合体樹脂(A)中に含まれるフリーレジンは、当該フリーレジン全量を基準として、アルキル基の炭素数が4以上である(メタ)アクリル酸アルキルエステル由来の構成単位を10~35質量%含み、且つ下記要件(1)及び(2)のうち少なくとも一方を満たすグラフト共重合体樹脂(A)と、
(メタ)アクリル酸エステル由来の構成単位を含むゴム状重合体に芳香族ビニル系単量体を含むビニル系単量体をグラフト重合してなるグラフト共重合体樹脂(B)であって、当該グラフト共重合体樹脂(B)におけるゴム状重合体の平均粒子径が50nm~150nmであるグラフト共重合体樹脂(B)と、
芳香族ビニル系単量体及びシアン化ビニル系単量体を含むビニル系単量体を共重合してなる共重合体(C)と、
を含む熱可塑性樹脂組成物。
(1)前記グラフト共重合体樹脂(A)におけるゴム状重合体が、アルキル基の炭素数が4以上である(メタ)アクリル酸アルキルエステル由来の構成単位を含む。
(2)前記グラフト共重合体樹脂(A)におけるビニル系単量体が、アルキル基の炭素数が4以上である(メタ)アクリル酸アルキルエステルを更に含む。
【請求項2】
前記グラフト共重合体樹脂(A)におけるビニル系単量体が、当該ビニル系単量体全量を基準として、アルキル基の炭素数が4以上である(メタ)アクリル酸アルキルエステルを10~30質量%含む、請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
前記グラフト共重合体樹脂(A)におけるゴム状重合体が、当該ゴム状重合体全量を基準として、アルキル基の炭素数が4以上である(メタ)アクリル酸アルキルエステル由来の構成単位を50質量%以上含む、請求項1又は2に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
前記グラフト共重合体樹脂(A)におけるゴム状重合体のゲル含有率が75~90%である、請求項1~3のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
前記共重合体(C)におけるビニル系単量体が、当該ビニル系単量体全量を基準として、シアン化ビニル系単量体を28質量%以上含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
アクリルゴム系グラフト共重合体等を含むゴム強化熱可塑性樹脂組成物は、一般的に、成形加工性、耐衝撃性、耐候性、耐薬品性、熱安定性等に優れることから、電気・電子機器分野、OA機器分野等の広範な分野で用いられている。その中で近年、高品位な外観を必要とする用途への適用が検討されており、発色性に優れたゴム強化熱可塑性樹脂組成物が求められている。
【0003】
例えば、特許文献1には、所定の要件を備えるアクリルゴム系グラフト共重合体を含む熱可塑性樹脂組成物によれば、耐衝撃性、耐薬品性、成形品の表面外観(光沢や発色性)および高温成形時の熱安定性に優れることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-029545号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、本発明者等が検討した結果、耐衝撃性及び発色性の両立に関して、特許文献1等の従来のゴム強化熱可塑性樹脂組成物には改善の余地があることが明らかとなった。
【0006】
そこで本発明は、耐衝撃性及び発色性をバランス良く両立することが可能なゴム強化熱可塑性樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために本発明者等は鋭意検討した結果、以下の[1]~[5]に記載の発明を見出すに至った。
[1] ゴム状重合体に、シアン化ビニル系単量体及び芳香族ビニル系単量体を含むビニル系単量体をグラフト重合してなるグラフト共重合体樹脂(A)であって、当該グラフト共重合体樹脂(A)中に含まれるフリーレジンは、当該フリーレジン全量を基準として、アルキル基の炭素数が4以上である(メタ)アクリル酸アルキルエステル由来の構成単位を10~35質量%含み、且つ下記要件(1)及び(2)のうち少なくとも一方を満たすグラフト共重合体樹脂(A)と、
(メタ)アクリル酸エステル由来の構成単位を含むゴム状重合体に芳香族ビニル系単量体を含むビニル系単量体をグラフト重合してなるグラフト共重合体樹脂(B)であって、当該グラフト共重合体樹脂(B)におけるゴム状重合体の平均粒子径が50nm~150nmであるグラフト共重合体樹脂(B)と、
芳香族ビニル系単量体及びシアン化ビニル系単量体を含むビニル系単量体を共重合してなる共重合体(C)と、
を含む熱可塑性樹脂組成物。
(1)グラフト共重合体樹脂(A)におけるゴム状重合体が、アルキル基の炭素数が4以上である(メタ)アクリル酸アルキルエステル由来の構成単位を含む。
(2)グラフト共重合体樹脂(A)におけるビニル系単量体が、アルキル基の炭素数が4以上である(メタ)アクリル酸アルキルエステルを更に含む。
[2] グラフト共重合体樹脂(A)におけるビニル系単量体が、当該ビニル系単量体全量を基準として、アルキル基の炭素数が4以上である(メタ)アクリル酸アルキルエステルを10~30質量%含む、[1]に記載の熱可塑性樹脂組成物。
[3] グラフト共重合体樹脂(A)におけるゴム状重合体が、当該ゴム状重合体全量を基準として、アルキル基の炭素数が4以上である(メタ)アクリル酸アルキルエステル由来の構成単位を50質量%以上含む、[1]又は[2]に記載の熱可塑性樹脂組成物。
[4] グラフト共重合体樹脂(A)におけるゴム状重合体のゲル含有率が75~90%である、[1]~[3]のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
[5] 共重合体(C)におけるビニル系単量体が、当該ビニル系単量体全量を基準として、シアン化ビニル系単量体を28質量%以上含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【発明の効果】
【0008】
本発明のゴム強化熱可塑性樹脂組成物によれば、耐衝撃性及び発色性をバランス良く両立することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。なお、本明細書中、「(メタ)アクリル酸エステル」とは、アクリル酸エステル又はメタクリル酸エステルを示し、「(メタ)アクリレート」等の類似の表現についても同様である。
【0010】
本実施形態の熱可塑性樹脂組成物は、グラフト共重合体樹脂(A)と、グラフト共重合体樹脂(B)と、共重合体(C)とを含む。以下、各成分について説明する。
【0011】
[グラフト共重合体樹脂(A)]
グラフト共重合体樹脂(A)は、ゴム状重合体にビニル系単量体をグラフト重合してなる。グラフト共重合体樹脂(A)は、ゴム状重合体にビニル系単量体がグラフト重合したグラフト共重合体の他、ビニル系単量体同士が重合したフリーレジンを含み、未反応のビニル系単量体等を含み得る。なお、グラフト共重合体樹脂(A)に含まれるフリーレジンは、ゴム状重合体の製造の際に生成したものであってもよく、ゴム状重合体の製造の際に未反応であった単量体がグラフト重合の際に反応して生成したフリーレジンであってもよい。
【0012】
上記ゴム状重合体としては、例えば、ポリブタジエン、スチレン-ブタジエン共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体などのブタジエン系ゴム状重合体;エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体などのエチレン-プロピレン系ゴム状重合体;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシルなどの(メタ)アクリル酸エステル系単量体を主成分とする(メタ)アクリル系ゴム状重合体;シリコーン系ゴム状重合体;ブタジエン系ゴム状重合体/(メタ)アクリル系ゴム状重合体の複合ゴム状重合体;シリコーン系ゴム状重合体/(メタ)アクリル系ゴム状重合体の複合ゴム状重合体、及び塩素化ポリエチレンゴムなどが挙げられる。これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0013】
これらのゴム状重合体の中で、耐候性をより向上させる観点から、(メタ)アクリル系ゴム状重合体が好ましく、アルキル基の炭素数が4以上である(メタ)アクリル酸アルキルエステル由来の構成単位を含む(メタ)アクリル系ゴム状重合体が好ましい。(メタ)アクリル系ゴム状重合体におけるアルキル基の炭素数が4以上である(メタ)アクリル酸アルキルエステル由来の構成単位の含有量は、耐候性をより向上させる観点から、50質量%以上であると好ましく、60質量%以上であるとより好ましく、70質量%以上であると更に好ましい。(メタ)アクリル系ゴム状重合体におけるアルキル基の炭素数が4以上である(メタ)アクリル酸アルキルエステル由来の構成単位の含有量の上限は特に限定されないが、例えば95質量%以下とすることができる。
【0014】
アルキル基の炭素数が4以上である(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル等が挙げられる。アルキル基の炭素数が4以上である(メタ)アクリル酸アルキルエステルにおけるアルキル基の炭素数の上限は、特に限定されないが、例えば、15以下又は10以下とすることができる。
【0015】
アクリル系ゴム状重合体は、架橋剤により架橋されたものであってもよい。架橋剤としては、例えば、ジビニルベンゼン、アリル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジアリルフタレート、ジシクロペンタジエンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート等が挙げられる。
【0016】
架橋剤により架橋されたゴム状重合体における架橋剤由来の構成単位の含有量は、例えば、0.1質量%~5質量%とすることができる。
【0017】
アクリル系ゴム状重合体は、上記の単量体以外の単量体由来の構成単位、例えば共役ジエン系単量体、芳香族ビニル系単量体、シアン化ビニル系単量体由来の構成単位を有していてもよい。
【0018】
共役ジエン系単量体としては、1,3-ブタジエン、イソプレン、2-クロロ-1,3-ブタジエン、クロロプレン、2-メチル-1,3-ブタジエン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン等が挙げられ、一種又は二種以上用いることができる。
【0019】
芳香族ビニル系単量体としては、スチレン、α-メチルスチレン、パラメチルスチレン、ブロムスチレン等が挙げられ、一種又は二種以上用いることができる。
【0020】
シアン化ビニル系単量体としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、エタクリロニトリル、フマロニトリル等が挙げられ、一種又は二種以上用いることができる。
【0021】
ゴム状重合体における共役ジエン系単量体、芳香族ビニル系単量体又はシアン化ビニル系単量体由来の構成単位の含有量は、それぞれ独立に、例えば30質量%以下、より好ましくは20質量%以下、更に好ましくは10質量%以下とすることができる。ゴム状重合体がこれらの構成単位を含む場合の含有量の下限は特に限定されないが、それぞれ独立に、例えば1質量%以上とすることができる。
【0022】
ゴム状重合体は、従来公知の方法、例えば乳化重合により製造することができる。乳化重合の際には、重合開始剤、乳化剤、重合調整剤等を用いてもよい。
【0023】
上記重合開始剤としては、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等の水溶性重合開始剤、クメンハイドロパーオキサイド、過酸化ベンゾイル、t-ブチルハイドロパーオキサイド、アセチルパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、1,1,3,3-テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド等の油溶性重合開始剤が挙げられる。
【0024】
上記乳化剤としては、例えば、カルボン酸塩、硫酸エステル塩、スルホン酸塩等が挙げられる。好ましく用いられる乳化剤の具体例としては、オレイン酸カリウム、アルケニルコハク酸ジカリウム、ロジン酸ナトリウム、ロジン酸カリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等が挙げられる。
【0025】
上記重合調整剤としては、例えば、n-ドデシルメルカプタン、t-ドデシルメルカプタン等のアルキルメルカプタン等が挙げられる。
【0026】
上記ゴム状重合体は、グラフト共重合体樹脂(A)の耐衝撃性を向上させる観点から、ゲル含有率が75~90%であると好ましい。ゴム状重合体のゲル含有量は、例えば、後述する実施例の方法により測定される。
【0027】
また、上記ゴム状重合体における平均粒子径は、特に限定されないが、例えば100nm超800nm以下、好ましくは150nm超500nm以下とすることができる。なお、本明細書中、ゴム重合体における平均粒子径は、例えば、JIS Z8826に準拠し、光子相関法による平均粒子径を動的光散乱法により測定することができる。
【0028】
グラフト共重合体樹脂(A)は、耐衝撃性と発色性のバランスの観点から、上記ゴム状重合体を10~90質量%含むことが好ましく、30~80質量%含むことがより好ましく、40~70質量%含むことが更に好ましい。
【0029】
上記グラフト重合に用いられるビニル系単量体は、シアン化ビニル系単量体及び芳香族ビニル系単量体を含む。当該ビニル系単量体は、更にアルキル基の炭素数が4以上である(メタ)アクリル酸アルキルエステルを含むことが好ましい。シアン化ビニル系単量体、芳香族ビニル系単量体、及びアルキル基の炭素数が4以上である(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、上記と同様のものを好適に用いることができる。
【0030】
上記グラフト重合に用いられるシアン化ビニル系単量体の含有量は、ビニル系単量体全量を基準として、例えば10~40質量%、好ましくは15~35質量%、より好ましくは20~30質量%とすることができる。上記グラフト重合に用いられる芳香族ビニル系単量体の含有量は、ビニル系単量体全量を基準として、例えば40~80質量%、好ましくは45~75質量%、より好ましくは50~70質量%とすることができる。
【0031】
上記グラフト重合に用いられるビニル系単量体におけるアルキル基の炭素数が4以上である(メタ)アクリル酸アルキルエステルの含有量は、耐薬品性をより向上させる観点から、ビニル系単量体全量を基準として、10~30質量%であることが好ましい。
【0032】
グラフト共重合体樹脂(A)中に含まれるフリーレジンは、フリーレジン全量を基準として、10~35質量%のアルキル基の炭素数が4以上である(メタ)アクリル酸アルキルエステル由来の構成単位を含む。当該要件を満たすことにより、耐薬品性が向上する。
【0033】
グラフト共重合体樹脂(A)は、従来公知の方法により製造することができるが、例えば、乳化重合法、懸濁重合法、塊状重合法等の重合法を用いることができる。乳化重合法を用いた場合、上述のゴム状重合体に上述のビニル系単量体をグラフト重合することによって、グラフト共重合体樹脂(A)のラテックスを得ることができる。グラフト共重合体樹脂(A)のラテックスは、公知の方法により凝固され、洗浄、脱水、乾燥工程を経ることでグラフト共重合体樹脂(A)のパウダーを得ることができる。
【0034】
本明細書中、フリーレジンとは、以下に示す手順(ア)及び(イ)によりグラフト共重合体樹脂(A)から分離できるものをいう。
(ア)グラフト共重合体樹脂(A)にアセトンを加え、その後遠心分離等により不溶分と溶解液を分別する。これにより、グラフト共重合体を不溶分として分離する。
(イ)得られた溶解液を、メタノール等の貧溶媒を用いて再沈殿させて、沈殿物をろ過等により回収する。これにより、未反応のビニル系単量体等が溶解液側に分離される。残った沈殿物を乾燥させることにより、分析対象となるフリーレジンが得られる。
【0035】
フリーレジン中に含まれる構成単位の種類は、熱分解ガスクロマトグラフィー等の公知の手法を適用することによって判別することができる。また、フリーレジン中に含まれる構成単位、特にシアン化ビニル系単量体、芳香族ビニル系単量体及び(メタ)アクリル酸アルキルエステル由来の構成単位の含有量は、実施例に記載のCHN分析、酸素分析等を適用して各構成単位の含有量を求め、算出することができる。
【0036】
グラフト共重合体樹脂(A)中のフリーレジンの含有量は、例えば以下の方法(ア)~(ウ)により調整することができる。
(ア)グラフト重合に用いられるビニル系単量体におけるアルキル基の炭素数が4以上である(メタ)アクリル酸アルキルエステルの含有量を調整して、例えば10~30質量%とする。
(イ)ゴム状重合体の製造の際に用いる乳化剤として、例えばロジン酸又はその誘導体を用いる。
(ウ)ゴム状重合体の製造の際に重合調整剤、例えばt-ドデシルメルカプタンを加える。
【0037】
熱可塑性樹脂組成物におけるグラフト共重合体樹脂(A)の含有量は、熱可塑性樹脂組成物全量を基準として、例えば5~60質量%、好ましくは10~50質量%、より好ましくは15~40質量%とすることができる。
【0038】
[グラフト共重合体樹脂(B)]
グラフト共重合体樹脂(B)は、(メタ)アクリル酸エステル由来の構成単位を含むゴム状重合体に、芳香族ビニル系単量体を含むビニル系単量体をグラフト重合してなる。グラフト共重合体樹脂(B)は、ゴム状重合体にビニル系単量体がグラフト重合したグラフト共重合体の他、ビニル系単量体同士が重合したフリーレジンを含み、未反応のビニル系単量体等を含み得る。
【0039】
なお、グラフト共重合体樹脂(B)は、概念上、グラフト共重合体樹脂(A)と重複し得るが、それぞれ独立した成分として熱可塑性樹脂組成物中に存在する必要がある。すなわち、グラフト共重合体樹脂(A)及びグラフト共重合体樹脂(B)の要件を満たすグラフト共重合体樹脂を用いた場合であっても、熱可塑性樹脂組成物は更にグラフト共重合体樹脂(A)又はグラフト共重合体樹脂(B)を含む必要がある。
【0040】
上記ゴム状重合体としては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル等の(メタ)アクリル酸エステル系単量体を主成分とする(メタ)アクリル系ゴム状重合体;ブタジエン系ゴム状重合体/(メタ)アクリル系ゴム状重合体の複合ゴム状重合体;シリコーン系ゴム状重合体/(メタ)アクリル系ゴム状重合体の複合ゴム状重合体などが挙げられる。これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0041】
これらのゴム状重合体の中で、耐候性をより向上させる観点から、(メタ)アクリル系ゴム状重合体が好ましく、(メタ)アクリル酸アルキルエステル由来の構成単位を含む(メタ)アクリル系ゴム状重合体がより好ましく、アルキル基の炭素数が4以上である(メタ)アクリル酸アルキルエステル由来の構成単位を含む(メタ)アクリル系ゴム状重合体が更に好ましい。(メタ)アクリル系ゴム状重合体における(メタ)アクリル酸アルキルエステル(特にアルキル基の炭素数が4以上である(メタ)アクリル酸アルキルエステル)由来の構成単位の含有量は、耐候性をより向上させる観点から、50質量%以上であると好ましく、60質量%以上であるとより好ましく、70質量%以上であると更に好ましい。(メタ)アクリル系ゴム状重合体における(メタ)アクリル酸アルキルエステル由来の構成単位の含有量の上限は特に限定されず、例えば、全量が(メタ)アクリル酸アルキルエステル由来の構成単位であってもよく、(メタ)アクリル酸アルキルエステル由来の構成単位が95質量%以下であってもよい。
【0042】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル等が挙げられる。
【0043】
上記ゴム状重合体は、架橋剤により架橋されたものであってもよい。架橋剤としては、例えば、ジビニルベンゼン、アリル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジアリルフタレート、ジシクロペンタジエンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート等が挙げられる。
【0044】
架橋剤により架橋されたゴム状重合体における架橋剤由来の構成単位の含有量は、例えば、0.1質量%~5質量%とすることができる。
【0045】
上記ゴム状重合体は、上述の(メタ)アクリル酸アルキルエステル以外の単量体由来の構成単位、例えば共役ジエン系単量体、芳香族ビニル系単量体、シアン化ビニル系単量体由来の構成単位を有していてもよい。共役ジエン系単量体、芳香族ビニル系単量体及びシアン化ビニル系単量体としては、上記グラフト共重合体樹脂(A)で例示したものと同様のものを適用することができる。
【0046】
上記ゴム状重合体における共役ジエン系単量体、芳香族ビニル系単量体又はシアン化ビニル系単量体由来の構成単位の含有量は、それぞれ独立に、例えば30質量%以下、より好ましくは20質量%以下、更に好ましくは10質量%以下とすることができる。ゴム状重合体がこれらの構成単位を含む場合の含有量の下限は特に限定されないが、それぞれ独立に、例えば1質量%以上とすることができる。
【0047】
上記ゴム状重合体は、上記グラフト共重合体樹脂(A)の場合と同様に、従来公知の方法、例えば乳化重合により製造することができる。
【0048】
上記ゴム状重合体における平均粒子径は、50nm~150nmであり、55nm~135nmであると好ましく、60nm~120nmであるとより好ましい。これにより、耐衝撃性及び発色性をバランス良く向上させることができる。
【0049】
上記グラフト共重合体樹脂(B)は、耐衝撃性のバランスの観点から、上記ゴム状重合体を10~90質量%含むことが好ましく、30~80質量%含むことがより好ましく、40~70質量%含むことが更に好ましい。
【0050】
上記グラフト重合に用いられるビニル系単量体は、芳香族ビニル系単量体を含む。当該ビニル系単量体は、更にシアン化ビニル系単量体を含むことが好ましい。芳香族ビニル系単量体、シアン化ビニル系単量体としては、上記と同様のものを好適に用いることができる。
【0051】
上記グラフト重合に用いられる芳香族ビニル系単量体の含有量は、ビニル系単量体全量を基準として、例えば50~90質量%、好ましくは55~85質量%、より好ましくは60~80質量%とすることができる。上記グラフト重合に用いられるシアン化ビニル系単量体の含有量は、ビニル系単量体全量を基準として、例えば10~40質量%、好ましくは15~35質量%、より好ましくは20~30質量%とすることができる。
【0052】
上記グラフト共重合体樹脂(B)は、上記グラフト共重合体樹脂(A)の場合と同様に、従来公知の方法により製造することができるが、例えば、乳化重合法、懸濁重合法、塊状重合法等の重合法を用いることができる。乳化重合法を用いた場合、上述のゴム状重合体に上述のビニル系単量体をグラフト重合することによって、グラフト共重合体樹脂(B)のラテックスを得ることができる。グラフト共重合体樹脂(B)のラテックスは、公知の方法により凝固され、洗浄、脱水、乾燥工程を経ることでグラフト共重合体樹脂(B)のパウダーを得ることができる。
【0053】
熱可塑性樹脂組成物におけるグラフト共重合体樹脂(B)の含有量は、熱可塑性樹脂組成物全量を基準として、例えば0.5~40質量%、好ましくは1~35質量%、より好ましくは1.5~30質量%とすることができる。
【0054】
[共重合体(C)]
共重合体(C)は、芳香族ビニル系単量体及びシアン化ビニル系単量体を含むビニル系単量体を重合してなる。
【0055】
芳香族ビニル系単量体及びシアン化ビニル単量体としては、上記と同様のものを好適に用いることができる。
【0056】
上記ビニル系単量体における芳香族ビニル系単量体の含有量は、ビニル系単量体全量を基準として、例えば50~95質量%、好ましくは55~90質量%、より好ましくは60~85質量%とすることができる。上記ビニル系単量体におけるシアン化ビニル単量体の含有量は、ビニル系単量体全量を基準として、例えば5~50質量%、好ましくは10~45質量%、より好ましくは15~40質量%とすることができる。
【0057】
上記ビニル系単量体は、更に(メタ)アクリル酸エステル単量体、マレイミド系単量体を含んでいてもよい。(メタ)アクリル酸エステル単量体としては、上記と同様のものを好適に用いることができる。マレイミド系単量体としては、例えば、N-フェニルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド等が挙げられる。これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0058】
上記ビニル系単量体が(メタ)アクリル酸エステル単量体及び/又はマレイミド系単量体を含む場合のその含有量は、それぞれ独立に、例えば50質量%以下、好ましくは30質量%以下、より好ましくは10質量%以下とすることができる。これらの単量体を含む場合の含有量の下限は特に限定されないが、それぞれ独立に、例えば1質量%以上とすることができる。
【0059】
共重合体(C)の具体例としては、スチレン・アクリロニトリル共重合体(AS樹脂)、α-メチルスチレン・アクリロニトリル共重合体(αMS-ACN樹脂)、メタクリル酸メチル・アクリロニトリル・スチレン共重合体(MAS樹脂)、スチレン・N-フェニルマレイミド・アクリロニトリル共重合体(S-A-NPMI樹脂)等が挙げられる。
【0060】
共重合体(C)は、従来公知の方法、例えば乳化重合により、上記ビニル系単量体を重合させることにより得ることができる。乳化重合の際には、上記グラフト共重合体樹脂(A)の場合と同様に、重合開始剤、乳化剤、重合調整剤等を用いてもよい。共重合体(C)は、上記グラフト共重合体樹脂(A)の場合と同様に、パウダー化することもできる。
【0061】
熱可塑性樹脂組成物における共重合体(C)の含有量は、熱可塑性樹脂組成物全量を基準として、例えば40~90質量%、好ましくは45~85質量%、より好ましくは50~80質量%とすることができる。
【0062】
本実施形態の熱可塑性樹脂組成物には、必要に応じて各種添加剤、例えば公知の酸化防止剤、光安定剤、滑剤、可塑剤、帯電防止剤、着色剤、難燃剤、艶消し剤、充填剤、ガラス繊維等を適宜添加することができる。
【0063】
本実施形態の熱可塑性樹脂組成物は、バンバリーミキサー、ロールミル、二軸押出機等の公知の装置を用い溶融混練することによりペレット状にて得ることができる。またこのようにして得られた熱可塑性樹脂組成物は、射出成形、押出し成形、圧縮成形、射出圧縮成形、ブロー成形等により成形することができる。
【0064】
本実施形態の熱可塑性樹脂組成物から成形される成形体は、耐衝撃性、発色性などに優れるので、車両内外装部品、OA機器、建材等に好適に適用することができる。
【実施例0065】
以下に実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらによって何ら制限されるものではない。なお、実施例中にて示す%は質量に基づくものである。
【0066】
[架橋アクリル酸ブチルゴムラテックス(a―1)の製造]
窒素置換したガラスリアクターに、脱イオン水219質量部、スチレン10質量部、アクリル酸ブチル5.0質量部、メタクリル酸アリル0.035質量部、t-ドデシルメルカプタン0.011質量部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.15質量部(固形分換算)、過硫酸カリウム0.15質量部、を仕込み、65℃で1時間反応させた。
その後、アクリル酸ブチル85質量部、メタクリル酸アリル0.60質量部、t-ドデシルメルカプタン0.189質量部の混合液及び脱イオン水24質量部にドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.75質量部(固形分換算)を溶解した乳化剤水溶液を3時間かけて連続的に添加した。滴下後、3.5時間保持して、架橋アクリル酸ブチルゴムラテックス(a―1)を得た。
【0067】
<ゲル含有量測定方法>
架橋アクリル酸ブチルゴムラテックス(a-1)のゲル含有量を以下の方法で測定した。
架橋アクリル酸ブチルゴムラテックス(a-1)を乾燥後、0.25gをトルエン100mlに48時間浸漬させた後に、300メッシュの金網で濾過し、その濾過残渣を完全乾燥させた。トルエン浸漬前乾燥後の重量(W0)と、完全乾燥させた濾過残渣の重量(W1)を測定し、下記式からゲル含有量を算出した。その結果、架橋アクリル酸ブチルゴムラテックス(a-1)のゲル含有量は、85%であった。
(W1/W0)×100=ゲル含有量[%]
【0068】
[グラフト共重合体樹脂(a―2)の製造]
窒素置換したガラスリアクターに、架橋アクリル酸ブチルゴムラテックス(a-1)50質量部(固形分換算)を仕込み窒素置換を行った。窒素置換後、槽内を昇温し60℃に到達したところで、ブドウ糖0.40質量部、無水ピロリン酸ナトリウム0.025質量部及び硫酸第一鉄0.001質量部を脱イオン水9.0質量部に溶解した水溶液を添加した。65℃に到達後、アクリロニトリル(ACN)11.7質量部、スチレン(STY)33.3質量部、アクリル酸ブチル5質量部、t-ドデシルメルカプタン0.1質量部の混合液及び脱イオン水16質量部にオレイン酸カリウム1.0質量部及びt-ブチルハイドロパーオキサイド0.28質量部(固形分換算)を溶解した乳化剤水溶液を6時間かけて連続的に滴下した。滴下後、2時間保持してグラフト共重合体樹脂(a―2)を得た。
【0069】
[グラフト共重合体樹脂パウダー(A)の製造]
撹拌翼を備えた単槽式の凝固槽中に脱イオン水を、固形分換算で100質量部のグラフト共重合体樹脂(a-2)を全量槽内添加完了した際にスラリー濃度が18%になるように仕込んだ。その後、硫酸マグネシウム4.0質量部を添加し85℃に昇温した。85℃到達後、グラフト共重合体樹脂(a-2)100質量部、不均化ロジン酸カリウム1.3質量部を添加した。添加後、95℃まで昇温し1分間保持した後に水洗、脱水し、熱風乾燥器で90℃、14時間乾燥させてグラフト共重合体樹脂パウダー(A)を得た。
【0070】
<フリーレジン組成分析>
グラフト共重合体樹脂パウダー(A)について、フリーレジン組成分析を行った。具体的には、以下の方法で調製した測定サンプルについて、下記CHN分析により窒素量からアクリロニトリル量を算出し、下記酸素(O)分析により酸素量からアクリル酸ブチル量を算出し、アクリロニトリルとスチレンとアクリル酸ブチルの合計を100%として、算出したアクリロニトリル、アクリル酸ブチル量を引いた残りをスチレン量として算出した。アクリロニトリル量、アクリル酸ブチル量及びスチレン量に基づいて、フリーレジン中のアクリル酸ブチル量を算出した。その結果、グラフト共重合体樹脂パウダー(A)におけるフリーレジン中のアクリル酸ブチル量は14.0%であった。
【0071】
(測定サンプルの調製)
グラフト共重合体樹脂パウダー4.0gを秤量し、アセトン50mLを加え16時間放置し、その後、遠心分離(20000rpm・1時間)により不溶分と溶解液を分別した。溶解液を濃縮後、アセトンに溶解しメタノールで再沈殿させろ過し、ろ物を乾燥させて固形物を得た。この固形物を測定サンプルとした。
【0072】
(CHN分析条件)
装置:(株)ジェイ・サイエンス・ラボ製JM10
標準試料:アセトアニリド、フェナセチン、アンチピリン
温度:1000℃
【0073】
(酸素分析条件)
装置:ヤナコ分析工業(株)製MO-20
標準試料:コレステロール
温度:1000℃
【0074】
[架橋アクリル酸ブチルゴムラテックス(b-1)の製造]
窒素置換したガラスリアクターに、脱イオン水206質量部、アクリル酸ブチル100質量部、メタクリル酸アリル0.64質量部、アルケニルコハク酸ジカリウム3.0質量部(固形分換算)、t-ブチルハイドロパーオキサイド0.010質量部(固形分換算)を仕込み、槽内を40℃まで昇温させた。
槽内が40℃に到達したところで、ホルムアルデヒドナトリウムスルホキシレート0.020質量部、エチレンジアミン四酢酸四ナトリウム塩0.010質量部及び硫酸第一鉄0.001質量部を脱イオン水10.0質量部に溶解した水溶液を添加した。
添加後、5.0時間保持して、架橋アクリル酸ブチルゴムラテックス(b-1)を得た。
【0075】
[架橋アクリル酸ブチルゴムラテックス(b-2)の製造]
窒素置換したガラスリアクターに、脱イオン水206質量部、アルケニルコハク酸ジカリウム3.0質量部(固形分換算)、t-ブチルハイドロパーオキサイド0.050質量部(固形分換算)を仕込み、槽内を40℃まで昇温させた。
槽内が40℃に到達したところで、ホルムアルデヒドナトリウムスルホキシレート0.050質量部、エチレンジアミン四酢酸四ナトリウム塩0.010質量部及び硫酸第一鉄0.001質量部を脱イオン水10.0質量部に溶解した水溶液を添加した。
添加後、アクリル酸ブチル100質量部、メタクリル酸アリル0.64質量部の混合溶液を3時間かけて連続的に添加した。添加後、3.5時間保持して、架橋アクリル酸ブチルゴムラテックス(b-2)を得た。
【0076】
[グラフト共重合体樹脂(b-3)の製造]
ガラスリアクターに、架橋アクリル酸ブチルゴムラテックス(b-1)50質量部(固形分換算)を仕込み窒素置換を行った。窒素置換後、槽内を昇温し60℃に到達したところで、ブドウ糖0.80質量部を脱イオン水10.0質量部に溶解した水溶液を添加した。65℃に到達後、アクリロニトリル(ACN)12.5質量部、スチレン(STY)37.5質量部、t-ドデシルメルカプタン0.05質量部の混合液及び脱イオン水10質量部にアルケニルコハク酸ジカリウム0.60質量部及びt-ブチルハイドロパーオキサイド0.28質量部(固形分換算)を溶解した乳化剤水溶液を6時間かけて連続的に滴下した。滴下後、2時間保持してグラフト共重合体樹脂(b-3)を得た。
【0077】
[グラフト共重合体樹脂(b-4)の製造]
ガラスリアクターに、架橋アクリル酸ブチルゴムラテックス(b-2)70質量部(固形分換算)を仕込み窒素置換を行った。窒素置換後、槽内を昇温し60℃に到達したところで、ブドウ糖0.24質量部を脱イオン水10.0質量部に溶解した水溶液を添加した。65℃に到達後、アクリロニトリル(ACN)7.5質量部、スチレン(STY)22.5質量部、t-ドデシルメルカプタン0.060質量部の混合液及び脱イオン水10質量部にアルケニルコハク酸ジカリウム0.36質量部及びt-ブチルハイドロパーオキサイド0.17質量部(固形分換算)を溶解した乳化剤水溶液を4時間かけて連続的に滴下した。滴下後、2時間保持してグラフト共重合体樹脂(b-4)を得た。
【0078】
[グラフト共重合体樹脂パウダー(B-1)の製造]
撹拌翼を備えた単槽式の凝固槽中に脱イオン水を、固形分換算で100質量部のグラフト共重合体樹脂(b-3)を全量槽内添加完了した際にスラリー濃度が18%になるように仕込んだ。その後、硫酸マグネシウム4.0質量部を添加し70℃に昇温した。70℃到達後、グラフト共重合体樹脂(b-3)100質量部を添加した。添加後、90℃まで昇温し1分間保持した後に水洗、脱水し、熱風乾燥器で90℃、14時間乾燥させてグラフト共重合体樹脂パウダー(B-1)を得た。
【0079】
[グラフト共重合体樹脂パウダー(B-2)の製造]
撹拌翼を備えた単槽式の凝固槽中に脱イオン水を固形分換算で100質量部のグラフト共重合体樹脂(b-4)を全量槽内添加完了した際にスラリー濃度が18%になるように仕込んだ。その後、硫酸マグネシウム4.0質量部を添加し70℃に昇温した。70℃到達後、グラフト共重合体樹脂(b-4)100質量部を添加した。添加後、90℃まで昇温し1分間保持した後に水洗、脱水し、熱風乾燥器で90℃、14時間乾燥させてグラフト共重合体樹脂パウダー(B-2)を得た。
【0080】
[共重合体(C)の製造]
公知の塊状重合法により、スチレン67.3質量部、アクリロニトリル32.7質量部からなる共重合体(C)を得た。得られた共重合体(C)の還元粘度を下記方法にて測定した結果、還元粘度は0.52dl/gであった。
N,N-ジメチルホルムアミドに溶解し、0.4g/100mlの濃度の溶液とした後、キャノン・フェンスケ型粘度管を用い30℃で測定した流下時間より還元粘度を求める。
【0081】
[合成樹脂用着色剤(D)]
カーボンブラック(住化カラー株式会社製 ブラックPAB―8A3645 AS樹脂とカーボンブラックの混合物 カーボンブラック含有率45%)
【0082】
<架橋アクリル酸ブチルゴムラテックスの平均粒子径測定>
架橋アクリル酸ブチルゴムラテックスを水で希釈させ、大塚電子(株)製FPAR―1000により平均粒子径を測定した。その結果を表1に示す。
【0083】
【表1】
【0084】
<熱可塑性樹脂組成物の評価>
表2に記載の添加量(単位:質量部)で、グラフト共重合体樹脂パウダー(A)、(B-1)及び(B-2)、共重合体(C)、並びに合成樹脂用着色剤(D)を混合した後、26mmφ二軸押出機を用いて240℃にて溶融混練し、ペレット化することで熱可塑性樹脂組成物のペレットを得た。得られたペレットより、250℃に設定した射出成形機にて種々の成形品を成形し、以下に示す方法で各測定及び評価を行った。評価結果を表2に示す。
【0085】
<シャルピー衝撃強度(NC)>
上記ペレットを用いISO294に準拠して各種試験片を成形し、耐衝撃性(単位:kJ/m)を測定した。具体的には、ISO179に準拠し、4mm厚みでノッチ付きシャルピー衝撃値を測定した。
そして、以下の判断基準で耐衝撃性を評価した。
A:10kJ/m以上
B:4kJ/m以上10kJ/m未満
C:4kJ/m未満
【0086】
<発色性(漆黒性)評価>
上記ペレットを用い、射出成形機で各種試験片を成形した。成形金型として、金型表面を#1,500で磨き上げた鏡面金型を備え付けた55mm×90mm×2.5mm厚の漆黒性測定用平板金型を用いて、シリンダー温度250℃、金型温度60℃、射出圧は3MPaの成形条件で、成形を行った。
得られた成形体における平板鏡面部の漆黒性を株式会社村上色彩技術研究所製CMS―35SPJC2で測定した。なおL*値(SCE)の値が小さいほど漆黒性が良好であることを示す。なお、漆黒性が良好であることは、同一着色剤を同量添加した際の発色性に優れることをも意味する。
そして、以下の判断基準で発色性(漆黒性)を評価した。
A:L*値5未満
B:L*値5以上
【0087】
【表2】