(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023055287
(43)【公開日】2023-04-18
(54)【発明の名称】プロジェクション溶接方法とプロジェクション溶接装置
(51)【国際特許分類】
B23K 11/02 20060101AFI20230411BHJP
【FI】
B23K11/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021164489
(22)【出願日】2021-10-06
(71)【出願人】
【識別番号】302068955
【氏名又は名称】株式会社住吉製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100144749
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 正英
(74)【代理人】
【識別番号】100076369
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 正治
(72)【発明者】
【氏名】橋本 文秀
(57)【要約】
【課題】 部材が無垢材であってもプロジェクション溶接できるようにする。
【解決手段】母材の開口部に無垢の部材を挿入し、開口部から突出している部材の突出部をプロジェクション溶接装置の一方の電極で保持し、母材の開口部周縁を他方の電極で加圧して、開口部周縁を開口部の内側に突出させて突出部を形成し、開口部周縁を加圧した電極で突出部を加圧しながら突出部と部材を通して両電極間に通電し、突出部を抵抗発熱させて母材と部材を溶接するプロジェクション溶接方法。母材と部材を溶接する二つの電極を備え、一方の電極は母材の開口部に挿入された部材を保持でき、他方の電極は母材の開口部周縁を加圧する加圧部を備え、加圧部を備えた電極は他方の電極側に接近させると母材の開口部周縁を加圧して、開口部周縁を開口部の内側に押し出して突出部を形成することができ、両電極は互いに接触する母材の突出部と部材を通して通電して、母材の突出部と部材を抵抗発熱させて母材と部材を溶接できるプロジェクション溶接装置。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
母材の開口部に無垢の部材を挿入し、
開口部から突出している部材の突出部を、二つの電極を備えたプロジェクション溶接装置の一方の電極で保持し、
母材の開口部周縁を他方の電極で加圧して、当該開口部周縁を開口部の内側に突出させて、部材に接触する突出部を形成し、
開口部周縁を加圧した電極で突出部を加圧しながら、突出部と部材を通して両電極間に通電して、突出部を抵抗発熱させて母材と部材を溶接する、
ことを特徴とするプロジェクション溶接方法。
【請求項2】
無垢の部材を電極で挟着保持し、
挟着保持された部材に母材の開口部を被せて、部材を開口部から突出させ、
母材の開口部周縁を電極で加圧して、当該開口部周縁を開口部の内側に突出させて、部材に接触する突出部を形成し、
開口部周縁を加圧した電極で突出部を加圧しながら、突出部と部材を通して両電極間に通電して、突出部を抵抗発熱させて母材と部材を溶接する、
ことを特徴とするプロジェクション溶接方法。
【請求項3】
母材と部材を溶接する二つの電極を備えたプロジェクション溶接装置において、
少なくとも一方の電極は母材の開口部に挿入された部材を保持することができ、
他方の電極は母材の開口部周縁を加圧する加圧部を備えており、
加圧部を備えた電極は他方の電極側に接近させると母材の開口部周縁を加圧して、当該開口部周縁を開口部の内側に押し出して部材に接触する突出部を形成することができ、
両電極は互いに接触する母材の突出部と部材を通して通電することができ、通電により母材の突出部と部材を抵抗発熱させ、その熱で母材と部材を溶接できる、
ことを特徴とするプロジェクション溶接装置。
【請求項4】
請求項3記載のプロジェクション溶接装置において、
部材を保持することができる電極は、固定電極と可動電極を備え、両電極が互いに接近・離間可能であり、接近時に部材を保持でき、離間時に部材を解放できる、
ことを特徴とするプロジェクション溶接装置。
【請求項5】
請求項3記載のプロジェクション溶接装置において、
部材を保持することができる電極は、内部空間に部材を挿入可能な収容空間を備えたリング状であり、内部空間を収縮・拡大可能であり、
収縮時に部材を保持でき、拡大時に部材を解放できる、
ことを特徴とするプロジェクション溶接装置。
【請求項6】
請求項3から請求項5のいずれか1項に記載のプロジェクション溶接装置において、
母材の開口部周縁を加圧して、開口部の内側に突出させて突出部を形成する加圧部が、電極の底面よりも下方に突出している、
ことを特徴とするプロジェクション溶接装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はプロジェクション溶接方法とプロジェクション溶接装置の改良に関し、特に、孔のあいている母材に棒状の部材を差し込んで溶接するのに適したプロジェクション溶接方法及びプロジェクション溶接装置に関する。
【背景技術】
【0002】
二以上の鋼材を溶接する方法としてプロジェクション溶接が知られている。プロジェクション溶接には、エンボスプロジェクションタイプとソリッドプロジェクションタイプの二種類がある。エンボスプロジェクションは溶接時に、溶接する母材を加工して突起を作り、その突起を加圧しながら突起に電流を流して抵抗発熱させ、その熱で母材と部材を溶接する方法である。ソリッドプロジェクションタイプは溶接する部材に存在している既存の突起を利用し、その突起を加圧しながら突起に電流を流して抵抗発熱させて、その熱で母材と部材とを溶接する方法である。
【0003】
エンボスプロジェクションタイプは平板同士を重ねて溶接するのに適し、ソリッドプロジェクションタイプは平板鋼板(母材)の上に、突起のあるボルトやナット等(部材)を載せて溶接するのに適する。
【0004】
溶接は平板同士の溶接や、平板の上に突起のある部材を載せて溶接する場合だけではなく、平板状の母材に開口している孔にパイプを差し込んで、母材にパイプをプロジェクション溶接することもある。その一例として、特許文献1がある。
【0005】
特許文献1のプロジェクション溶接は、平板鋼板(母材)の孔内にパイプ(部材)を差し込んで鋼板の裏面にパイプの膨出部を接触させ、突起を加圧しながら突起を通して上下の電極間に電流を流して膨出部を抵抗発熱させ、その熱で母材とパイプを溶接する方法である。また、大径パイプ(母材)の空間内に膨出部のある小径パイプ(部材)を差し込んで、大径パイプの表面に小径パイプの膨出部を接触させ、膨出部を通して上下の電極間に電流を流して膨出部を抵抗発熱させることによって、母材とパイプを溶接する方法である。
【0006】
特許文献1は溶接するもの(部材)がパイプであるため、プロジェクション溶接時に、パイプに膨出部を形成することができるが、
図5のように、部材Aが金属の丸棒(無垢材:中実材)の場合は、母材Bの孔Cに差し込んだ部材Aの外周面に突起を形成するのが難しいため、母材Bと部材Aとをプロジェクション溶接をすることは困難であった。このことは、部材Aが角棒や他の形状の無垢材の場合も同様であった。このため、無垢材の場合はアーク溶接やレーザ溶接しているのが一般的であった。
【0007】
アーク溶接やレーザ溶接では溶接に時間がかかる、アーク溶接では母材や部材に歪が生じることがある、熟練を要するといった難点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の解決課題は、部材が無垢材であってもプロジェクション溶接できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
[プロジェクション溶接方法]
本発明のプロジェクション溶接方法は、母材の開口部に無垢の部材を挿入し、母材の開口部から突出している部材の突出部を、二つの電極を備えたプロジェクション溶接装置の一方の電極で保持する。部材挿入後に、母材の開口部周縁を電極で加圧して当該開口部周縁を開口部の内側(中心側)に突出させて突出部を形成する。突出部を加圧しながら、突出部と部材を通して両電極間に通電して、突出部を抵抗発熱させて母材と部材を溶接する方法である。
【0011】
[プロジェクション溶接装置]
本発明のプロジェクション溶接装置は、既存のプロジェクション溶接装置と同様に母材と部材を溶接する二つの電極を備えている。少なくとも一方の電極は母材の開口部に挿入された部材を保持することができ、他方の電極は母材の開口部周縁を加圧する加圧部を備えている。加圧部を備えた電極は他方の電極側に接近させると母材の開口部周縁を加圧して、当該開口部周縁を開口部の内側に押し出して部材に接触する突出部を形成することができる。両電極は互いに接触する母材の突出部と部材を通して通電して抵抗発熱し、その熱で母材と部材を溶接できるようにしてある。
【発明の効果】
【0012】
本発明のプロジェクション溶接方法は、母材の開口部周縁を一方の電極で加圧して、その開口部周縁に突出部を形成するので、無垢の部材であっても母材とプロジェクション溶接することができる。
【0013】
本発明のプロジェクション溶接装置は、電極が母材を加圧する加圧部を備えているので、部材が無垢材であっても、母材に突出部を形成しながら、母材と部材をプロジェクション溶接することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明のプロジェクション溶接装置の概要図。
【
図2】(a)は本発明のプロジェクション溶接装置の下部電極で部材を保持する場合の説明図、(b)は下部電極で保持された部材に母材を被せる場合の説明図、(c)は母材と部材をプロジェクション溶接する場合の説明図。
【
図3】(a)は本発明のプロジェクション溶接装置の上部電極を部材に被せる場合の説明図、(b)は上部電極を被せた部材に突出部を形成する場合の説明図、(c)は(b)のD部詳細図。
【
図4】本発明のプロジェクション溶接装置の上部電極の説明図であり、(a)は加圧部側の斜視説明図、(b)はプロジェクション溶接装置への取付け側(頭部側)の斜視説明図。
【
図5】母材に無垢の部材をプロジェクション溶接する場合の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[平板状の母材、無垢材の部材]
本発明のプロジェクション溶接方法は、各種形状、構造の母材と部材を溶接することができるが、以下の説明では、
図2(b)のように母材1が平板であり、部材2が棒状の無垢材である場合を一例として説明する。
【0016】
[プロジェクション溶接方法]
本発明のプロジェクション溶接方法は、
図1のプロジェクション溶接装置を使用する場合を一例として説明する。
図1のプロジェクション溶接装置は基本的構成が既存のプロジェクション溶接装置と同様に上部電極3と下部電極4を備えているが、下部電極4は二つの電極(この実施形態では、説明の便宜上、一方を可動電極5、他方を固定電極6という。)に分かれており、
図2(a)のように、互いに接近したり離れたりすることができ、接近時に部材2を挟着保持できるようにしてある。
【0017】
本発明のプロジェクション溶接方法は、次の工程で行うことができる。
(1)可動電極5を固定電極6に接近させて、両電極5、6間に棒状の無垢の部材2を挟着保持(セット)する(
図2(a)(b))。
(2)挟着保持した部材2に平板状の母材1の開口部又は孔(以下「開口部」という。)7を被せる(
図2(b))。
(3)上部電極3を降下させて、上部電極3の加圧部8(
図3(a)(c))で母材1の開口部周縁9(
図3(a)(c))を加圧して、開口部周縁9を開口部7の内側(中心側)に突出させて突出部10(
図3(c))を形成する。突出部10は部材2の外周面に接触するまで突出させる。
(4)互いに接触する突出部10と部材2を通して、上部電極3と下部電極4間に通電して、突出部10と部材2を抵抗発熱させて突出部10(母材1)と部材2を溶接する。
【0018】
突出部10の形状は通電により抵抗過熱し易い形状、例えば、リング状、多数の突出部がリング状に突出しているもの等であってもよい。
【0019】
上部電極3の加圧力は突出部10を形成するのに適する圧力、例えば、既存のプロジェクション溶接装置の上部電極の加圧力と同程度とすることができる。
【0020】
前記実施形態は、可動電極5と固定電極6で挟着保持した部材2に、母材1の開口部7を被せる場合であるが、部材2を電極5、6で保持する前に母材1の開口部7へ差し込み、その後に部材2を可動電極5と固定電極6で挟着保持することもできる。
【0021】
本発明のプロジェクション溶接方法は、前記プロジェクション溶接装置以外のプロジェクション溶接装置を使用して行うこともできる。
【0022】
[プロジェクション溶接装置]
本発明のプロジェクション溶接装置の基本的な構成及び動作は、汎用のプロジェクション溶接装置と同様に上部電極3と下部電極4を備えているが、下部電極4が可動電極5と固定電極6に分かれていることにおいて汎用のプロジェクション溶接装置と異なる。
【0023】
[上部電極]
上部電極3は上部取付け座11に装着されており、上部取付け座11がシリンダ12の昇降動作に伴って上下移動(昇降)可能である。シリンダ12の構成、昇降動作は、既存のプロジェクション溶接装置のシリンダの昇降機構と同様とすることができる。
【0024】
上部電極3は一例として
図4(a)(b)のような外観であり、金属製の取付け部13の先に金属製の頭部14があり、取付け部13は上方に先細りであり、頭部14は筒状である。取付け部13は上部取付け座11に着脱可能である。着脱機構は任意とすることができる。頭部14の先端にはリング状の加圧部8がある。
【0025】
加圧部8は
図4(a)のように頭部14の先端面15よりも先方(
図3(a)では下方)に突出しており、上部電極3をシリンダ12により降下すると、母材1の開口部周縁9(
図3(a)(c))を加圧して、当該開口部周縁9を開口部7の内側に押し出して突出部10を形成することができるようにしてある。加圧部8は部材2に被せることができるように円筒状にしてある。加圧部8は部材2に被せることができれば、円筒状以外の形状であってもよい。
【0026】
加圧部8の材質は母材1の材質、硬度、肉厚等によっても異なるが、母材1の開口部周縁9を開口部7の内側に突出させて突出部10を形成するのに適する材料、母材1よりも硬い材質、例えば、銅、その他の硬質材であって開口部周縁9を押し出し易いものが適する。また、導電材とする。
【0027】
[下部電極、固定電極、可動電極]
下部電極4は可動電極5と固定電極6に分かれており(
図1、
図2(a)~(c))、可動電極5は
図2(a)の矢印方向に移動して固定電極6に接近し、逆方向に移動して固定電極6から離れる(離間する)ようにしてある。下部電極4の往復移動は図示しない駆動装置、例えば、シリンダ装置で行うことができる。
【0028】
前記実施形態の下部電極4は、一方を可動電極5、他方を固定電極6としてあるが、本発明では、双方を可動電極とし、両可動電極を互いに接近・離間可能として、両可動電極の接近時にその間に部材を挟着保持でき、離間時に部材を解放できるようにすることもできる。
【0029】
図2(a)のように、可動電極5の内側面5aには半円筒状の縦長の嵌合凹部5bがあり、固定電極6の内側面6aには半円筒状の縦長の嵌合凹部6bがある。両嵌合凹部5b、6bは対向位置にあり、同じ内径であり、丸棒状の部材2が収まる径にしてあり、可動電極5と固定電極6が接近すると、部材2が両嵌合凹部5b、6b間に挟まれて保持されるようにしてある。
【0030】
固定電極6の嵌合凹部6bの下部には位置決め用のストッパー20(
図2(a))が固定されている。
図2(a)ではストッパー20にボルトを使用し、その頭部21を下にして、嵌合凹部6bの下部に固定してある。嵌合凹部6bのうち、ストッパー20の上面22よりも上の部分は凹陥した半円状のままにして、丸棒状の部材2が嵌入できる嵌合空間23としてある。
【0031】
図2(a)の嵌合凹部5b、6bの形状は、丸棒状の部材2を挿入できるように半円形にしてあるが、その形状は各種形状の部材2を挿入できるように、部材2の形状に合わせて変えることができる。例えば、角棒状の部材を挿入できるように半割角形とすることができる。
【0032】
前記実施形態の下部電極4は、可動電極5と固定電極6に分かれているが、本発明の下部電極4はそれ以外であってもよく、例えば、中央に部材2を挿入可能な孔(収容空間)を備えたリング状であって、その内径が収縮・拡大可能であり、収縮時に部材2を挟着保持でき、拡大時に部材2を解放できるようなものであってもよい。
【0033】
図1~
図3(a)(b)における30、31は電極5、6を取り付ける受け座、32、33は受け座30、31を取り付ける台座である。台座32は図示しないシリンダと駆動装置で移動可能であり、台座33は固定である。
図3(a)~(c)の35は上部電極3と下部電極4を絶縁するシート状の絶縁材であり、中央部に加圧成形される突出部10が入り込む開口部36(
図3(c))がある。突出部10は開口部36から突出して部材2に接触するようにしてある。
【0034】
[プロジェクション溶接装置の使用例]
本発明のプロジェクション溶接装置(
図1)の使用例を以下に説明する。
【0035】
[母材、部材のセット]
(1)可動電極5と固定電極6の間に棒状の無垢の部材2をセットする(
図2(a)(b))。
(2)セットした部材2に平板状の母材1の開口部7を被せる(
図2(b))。
(3)上部電極3を降下させて、上部電極3の加圧部8で母材1の開口部周縁9を加圧して、開口部周縁9を開口部7の内側(中心側)に突出させて突出部10を形成する(
図3(a)(b))。
(4)突出部10と部材2を通して、上部電極3と下部電極4間に通電して、部材2の突出部10と部材2を抵抗発熱させて、母材1と部材2を溶接する。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明のプロジェクション溶接方法及びプロジェクション溶接装置は、他の形状、材質の母材と部材の溶接にも利用可能であり、母材と部材の形状、材質等に合わせて、母材と部材の溶接に適するように設計変更可能である。
【符号の説明】
【0037】
1 母材
2 部材
3 上部電極
4 下部電極
5 可動電極
5a (可動電極の)内側面
5b (可動電極の)嵌合凹部
6 固定電極
6a (固定電極の)内側面
6b (固定電極の)嵌合凹部
7 (母材の)開口部
8 加圧部
9 開口部周縁
10 突出部
11 上部取付け座
12 シリンダ
13 取付け部
14 頭部
20 ストッパー
21 (ストッパーの)頭部
22 (ストッパーの)上面
23 嵌合空間
30、31 受け座
32、33 台座
35 絶縁材
36 (絶縁材の)開口部
A 部材
B 母材
C 孔