IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 宮川工機株式会社の特許一覧

特開2023-55308木造構造物設計支援装置、木材加工装置及び設計支援プログラム
<>
  • 特開-木造構造物設計支援装置、木材加工装置及び設計支援プログラム 図1
  • 特開-木造構造物設計支援装置、木材加工装置及び設計支援プログラム 図2
  • 特開-木造構造物設計支援装置、木材加工装置及び設計支援プログラム 図3
  • 特開-木造構造物設計支援装置、木材加工装置及び設計支援プログラム 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023055308
(43)【公開日】2023-04-18
(54)【発明の名称】木造構造物設計支援装置、木材加工装置及び設計支援プログラム
(51)【国際特許分類】
   G06F 30/13 20200101AFI20230411BHJP
   E04B 1/26 20060101ALI20230411BHJP
   E04B 1/00 20060101ALI20230411BHJP
   G06Q 50/08 20120101ALI20230411BHJP
   G06Q 50/04 20120101ALI20230411BHJP
   B27C 9/00 20060101ALI20230411BHJP
【FI】
G06F30/13
E04B1/26 A ESW
E04B1/26 G
E04B1/00
G06Q50/08
G06Q50/04
B27C9/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021164564
(22)【出願日】2021-10-06
(71)【出願人】
【識別番号】390017385
【氏名又は名称】宮川工機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100155549
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 敏之
(72)【発明者】
【氏名】菊池 歳男
【テーマコード(参考)】
5B146
5L049
【Fターム(参考)】
5B146AA04
5B146DC01
5B146DE12
5L049CC03
5L049CC07
(57)【要約】
【課題】 木造構造物に用いられる構造部材を好適に製造することを可能とする木造構造物設計支援装置、木材加工装置及び設計支援プログラムを提供する。
【解決手段】 木造構造物設計支援装置としてのプレカット工場PCは、オス材51の長さ寸法として短縮長さを設定すると判定した場合、短縮長さよりもオス材51の長さ寸法が短縮されていない標準長さを設定すると判定した場合とは形状の異なる短縮長さに対応した凸状部61(蟻部61d)の形状データを設定する。短縮長さに対応する凸状部61の形状データは、標準長さの形状データよりも、オス材51の長さ方向においてメス材52に対してオス材51を嵌め込み可能な位置を許容する許容長さが大きい形状データにより構成される。
【選択図】 図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
木造構造物の設計に利用することが可能な木造構造物設計支援装置であって、
前記木造構造物を構成する1の構造部材と他の構造部材とを接合する接合部の形状を設定可能な接合部形状設定手段と、
その接合部形状設定手段により設定された前記接合部の形状データを含む構造部材の加工データを生成可能な加工データ生成手段とを備え、
前記接合部形状設定手段は、前記接合部の形状として、第1構造部材に設けられて凹状に形成された凹状部分と、前記第1構造部材に接合可能な第2構造部材に設けられて前記凹状部分に嵌め込み可能な凸状部分とに対応する形状を設定可能であって、
前記凹状部分として、当該凹状部分の奥側より外面に近い側の方が小さく形成された部位を含み、
前記凸状部分として、当該凸状部分の基端側より先端に近い側の方が大きく形成された部位を含み、
前記加工データ生成手段は、前記第2構造部材の長さ寸法として、前記木造構造物に必要な長さより短い所定の第1長さが設定された加工データを生成可能に構成され、
前記接合部形状設定手段は、前記第2構造部材の長さ寸法として前記第1長さが設定される場合に、該第1長さよりも前記第2構造部材の長さ寸法が短縮されていない所定の第2長さが設定される場合に対して、前記凹状部分と前記凸状部分との少なくとも一方の形状データが異なる前記接合部の形状データを設定可能であり、
前記接合部の形状データとして、前記第2構造部材の長さ寸法として前記第1長さが設定された場合には、前記第2構造部材の長さ寸法として前記第2長さが設定された場合よりも、前記第2構造部材の長さ方向において前記第1構造部材に対して前記第2構造部材を嵌め込み可能な位置を許容する許容長さが大きい形状データを設定することを特徴とする木造構造物設計支援装置。
【請求項2】
前記第2構造部材が、前記所定の短縮条件の成立する構造部材であるか否かを判定する判定手段を備え、該判定手段により前記短縮条件の成立する構造部材であると判定された前記第2構造部材に対して前記第1長さが設定され、当該第1長さに対応した前記接合部の形状データを用いて前記第1構造部材と前記第2構造部材との加工データが前記加工データ生成手段により生成されることを特徴とする請求項1に記載の木造構造物設計支援装置。
【請求項3】
前記第1長さに対応した前記接合部の形状データを用いて前記第1構造部材と前記第2構造部材との加工データが生成されたか否かを識別可能な接合部形状識別情報を、前記第1構造部材と前記第2構造部材との少なくともいずれかの加工データに対応させて出力可能な接合部形状識別情報出力手段を備えていることを特徴とする請求項1又は2のいずれかに記載の木造構造物設計支援装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の木造構造物設計支援装置によって生成された加工データに基づいて、前記第1長さに対応した前記接合部を含む前記第1構造部材と前記第2構造部材とを、加工材料に対しての切削加工により製造することが可能に構成されていることを特徴とする木材加工装置。
【請求項5】
請求項1から3のいずれかに記載の木造構造物設計支援装置としてコンピュータを機能させることが可能に構成されていることを特徴とする設計支援プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木造構造物に用いられる構造部材を好適に製造することを可能とする木造構造物設計支援装置、木材加工装置及び設計支援プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、設計支援装置としてのCADを利用して木造住宅などの木造構造物を設計し、この設計データを用いて木造構造物を構成する構造部材のプレカット加工を行うためのデータ(プレカット加工データ)を生成することが知られている。このプレカット加工データを、木材の加工が可能な装置(木材加工装置)に入力することにより、プレカット工場において木造構造物に必要な構造部材を加工することができ、建築現場で効率良く木造構造物を製造することができる。設計支援装置においては、間取り等の仕様データが入力されることで、木造構造物の材幅や材成などの断面の大きさや、構造部材同士を接合する接合部の仕様など、各構造部材の詳細な仕様がプログラムや部材データにより設定され、設計作業を行う作業者の負担が軽減可能に構成されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016-001368号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、木造構造物において複数の構造部材を接合する仕口や継手などの接合部の形状を設定するための設計支援装置の構成について、未だ改良の余地がある可能性があった。
【0005】
本発明は上述した問題点を解決するためになされたものであり、木造構造物に用いられる構造部材を好適に製造することを可能とする木造構造物設計支援装置、木材加工装置及び設計支援プログラムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的を達成するために、請求項1に記載の木造構造物設計支援装置は、
木造構造物の設計に利用することが可能な木造構造物設計支援装置であって、
前記木造構造物を構成する1の構造部材と他の構造部材とを接合する接合部の形状を設定可能な接合部形状設定手段と、
その接合部形状設定手段により設定された前記接合部の形状データを含む構造部材の加工データを生成可能な加工データ生成手段とを備え、
前記接合部形状設定手段は、前記接合部の形状として、第1構造部材に設けられて凹状に形成された凹状部分と、前記第1構造部材に接合可能な第2構造部材に設けられて前記凹状部分に嵌め込み可能な凸状部分とに対応する形状を設定可能であって、
前記凹状部分として、当該凹状部分の奥側より外面に近い側の方が小さく形成された部位を含み、
前記凸状部分として、当該凸状部分の基端側より先端に近い側の方が大きく形成された部位を含み、
前記加工データ生成手段は、前記第2構造部材の長さ寸法として、前記木造構造物に必要な長さより短い所定の第1長さが設定された加工データを生成可能に構成され、
前記接合部形状設定手段は、前記第2構造部材の長さ寸法として前記第1長さが設定される場合に、該第1長さよりも前記第2構造部材の長さ寸法が短縮されていない所定の第2長さが設定される場合に対して、前記凹状部分と前記凸状部分との少なくとも一方の形状データが異なる前記接合部の形状データを設定可能であり、
前記接合部の形状データとして、前記第2構造部材の長さ寸法として前記第1長さが設定された場合には、前記第2構造部材の長さ寸法として前記第2長さが設定された場合よりも、前記第2構造部材の長さ方向において前記第1構造部材に対して前記第2構造部材を嵌め込み可能な位置を許容する許容長さが大きい形状データを設定することを特徴としている。
【0007】
この請求項1に記載の木造構造物設計支援装置によれば、第2構造部材の長さ寸法として第1長さが設定された場合には、第1長さよりも長さ寸法が短縮されていない第2長さが設定される場合に対して、凹状部分と凸状部分との少なくとも一方の形状データが異なる接合部の形状データが設定される。そして、第2構造部材の長さ寸法として第1長さが設定された場合には、第2長さが設定された場合よりも、第2構造部材の長さ方向において第1構造部材に対して第2構造部材を嵌め込み可能な位置を許容する許容長さ(以下、「嵌め込み許容長さ」ともいう。)が大きい形状データが設定される。
【0008】
第2構造部材の第1長さは、第2長さが設定される場合より長さ寸法が短縮されているため、基準となる長さ寸法よりも短めの第2構造部材が基本的には製造されることとなる。このため、大型の木造構造物が製造される場合において、多数の第2構造部材が所定の方向に連続して配置される場合に、第2構造部材の多くが許容寸法の範囲内で大きめに製造されたとしても、全体としての大きさを一定範囲内に抑えることができる。
【0009】
また、第1長さが設定された状況において、第1長さに一致する長さに第2構造部材が製造された場合でも、第2長さに近い長めに第2構造部材が製造された場合でも、嵌め込み許容長さが大きい形状データが設定されることで、第1構造部材を第2構造部材に嵌め込んだ状態としては設計値に近づけて各構造部材を配置することができる。このため、大型の木造構造物や、所定の方向に仕口や継手などの接合部が多数並ぶことでバラツキが積み重なって大きな寸法誤差が生じ得る木造構造物であっても、設計値に近い大きさに木造構造物を製造し易くすることができる。
【0010】
なお、請求項1の記載において、凹状部分と凸状部分との少なくとも一方の形状データが異なる接合部の形状データとしては、凹状部分のみの形状データが異なっても、凸状部分のみの形状データが異なってもよいものであり、構造部材としては、凹状部分を備える第1構造部材のみの形状データが異なってもよいし、凸状部分を備える第2構造部材のみの形状データが異なってもよい。また、形状データが異なる接合部の形状データは、一定の断面形状により構成される構造部材の有効長さに相当する部分に対して設けられる凹状部分及び凸状部分の少なくとも一部(例えば、蟻部)の大きさと形状とのいずれか一方が異なる形状データであってもよいし、両方が異なる形状データであってもよい。
【0011】
また、請求項1の記載において、第2構造部材の長さ寸法は、仕口や継手の形状部分を除いた有効長さとしてもよく、例えば、端部に仕口(例えば、大入れ蟻仕口)が設けられる場合には略一定の断面形状により形成される胴付間の長さ寸法(胴付長)が例示され、端部に継手(例えば、腰掛け鎌継ぎ)が設けられる場合には、継手として機能するように設けられた突出部分を除いた長さ寸法が例示される。
【0012】
請求項2に記載の木造構造物設計支援装置は、請求項1に記載の木造構造物設計支援装置において、前記第2構造部材が、前記所定の短縮条件の成立する構造部材であるか否かを判定する判定手段を備え、該判定手段により前記短縮条件の成立する構造部材であると判定された前記第2構造部材に対して前記第1長さが設定され、当該第1長さに対応した前記接合部の形状データを用いて前記第1構造部材と前記第2構造部材との加工データが前記加工データ生成手段により生成されることを特徴とする。
【0013】
この請求項2に記載の木造構造物設計支援装置によれば、判定手段を用いて所定の短縮条件の成立する構造部材であることを容易に判定することができるので、第1長さの設定が必要な多数の構造部材に対して第1長さの設定と第1長さに対応した加工データの設定とを容易に行うことができる。
【0014】
請求項3に記載の木造構造物設計支援装置は、請求項1又は2に記載の木造構造物設計支援装置において、前記第1長さに対応した前記接合部の形状データを用いて前記第1構造部材と前記第2構造部材との加工データが生成されたか否かを識別可能な接合部形状識別情報を、前記第1構造部材と前記第2構造部材との少なくともいずれかの加工データに対応させて出力可能な接合部形状識別情報出力手段を備えていることを特徴とする。
【0015】
この請求項3に記載の木造構造物設計支援装置によれば、木材加工装置(例えば、木材加工装置の一部を構成する制御装置)で、第1長さに対応した第1構造部材又は第2構造部材であることを特定可能とすることができ、構造部材の加工時において更に第1長さを変更したり、第1長さへの変更をキャンセルするなどの対応を可能とすることができる。また、第1長さに対応した構造部材であることを、木材加工装置側で識別し易くすることができるので、構造部材自体に第1長さに対応した構造部材であることを印字することができる。このため、建築現場において第1長さに対応した部材であることを判別し易くすることができる等、プレカット加工データを生成した後の工程において第1長さに対応した構造部材であることを識別した上で各工程での作業を実行し易くすることができる。
【0016】
請求項4に記載の木材加工装置は、請求項1から3のいずれかに記載の木造構造物設計支援装置によって生成された加工データに基づいて、前記第1長さに対応した前記接合部を含む前記第1構造部材と前記第2構造部材とを、加工材料に対しての切削加工により製造することが可能に構成されていることを特徴とする。
【0017】
なお、請求項4に記載の木材加工装置を制御する制御手段に、木造構造物設計支援装置により設定された接合部の形状データ(例えば、嵌め込み許容長さ)と、第1長さ又は第2長さ(例えば、胴付長)とを変更可能な変更手段を備える構成としてもよい。この変更手段を備えることにより、木造構造物設計支援装置により予め設定された接合部を、木材加工装置による加工の段階において必要に応じて修正する等の対応を取り易くすることができる。
【0018】
請求項5に記載の設計支援プログラムは、請求項1から3のいずれかに記載の木造構造物設計支援装置としてコンピュータを機能させることが可能に構成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、木造構造物に用いられる構造部材を好適に製造することを可能とする木造構造物設計支援装置、木材加工装置及び設計支援プログラムを提供することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】(A)は、本発明のプレカット加工システムの一例を示す模式図、(B)は、プレカット工場PCのブロック図
図2】(A)は、設計図面の一例の模式図、(B)は、仕口の形状の一例を示した斜視図
図3】2つの構造部材が接合される場合の各構造部材の形状を例示した図であり、(A)は、標準長さの構造部材を用いた場合の模式図、(B)は、短縮長さの構造部材を用いた場合の模式図、(C)は、短縮長さの構造部材が長く製造された場合を示す模式図
図4】プレカット工場PCでの接合部形状設定プログラムによる処理を示したフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について、添付図面を参照して説明する。図1(A)は、本発明のプレカット加工システム10の構成を示す模式図、図1(B)は、プレカット工場PC20のブロック図である。
【0022】
プレカット加工システム10は、プレカット加工を用いて木造構造物の設計を行うと共に、その木造構造物を構成する構造部材(部品)を製造可能なシステムであり、大型の木造構造物を含む多様な木造構造物に対してプレカット加工を適用可能な構成としている。具体的には、プレカット加工システム10は、2つの構造部材を接合する接合部が設けられた構造部材の長さ寸法を、構造部材の使用される状況に応じて標準長さと短縮長さとに切り替えて設定可能とし、短縮長さを設定をした場合には、接合部の形状を、標準長さの形状とは異なる別形状にすることで、構造部材を嵌め込み可能な位置を許容する許容長さを大きくするように構成されている。
【0023】
プレカット加工システム10は、図1(A)に示すように、プレカット工場PC20と、プレカット加工装置30とを含めて構成されている。プレカット工場PC20には、制御プログラム21として、接合部形状設定プログラム21aとプレカット加工データ生成プログラム21bが記憶(記録)されており、部材データ22として、標準接合部形状データ22aと、短縮接合部形状データ22bとが記憶されている。プレカット工場PC20における接合部形状設定プログラム21aは、構造部材の長さ寸法として、標準長さが設定されている場合には、標準接合部形状データ22aを用いて接合部の形状を設定し、短縮長さが設定されている場合には、短縮接合部形状データ22bを用いて接合部の形状を設定する。これにより、構造部材の長さ寸法として、標準長さを設定した場合と、短縮長さを設定をしたとにおいて、異なる接合部の形状を有する構造部材を製造可能なプレカット加工データを設定することができる。
【0024】
プレカット加工データ生成プログラム21bは、作業者の入力操作により設定された各構造部材の形状データに対応したプレカット加工データを生成するプログラムである。プレカット加工データとしては、構造部材の細部を含む外形形状のデータと、構造部材の配置位置や種別等を含む部材情報とを含めて構成される。本実施形態のプレカット工場PC20は、構造部材の長さ寸法を設定し、長さ寸法に対応した接合部の形状を設定するものであり、出力されるプレカット加工データとしては従来と同様の処理によってデータを出力することができる。このため、プレカット加工データ生成プログラム21bは、従来のプレカット加工データを生成するプログラムと同様に構成することができ、詳細な説明は省略する。
【0025】
以下においては、まず、図1を参照してプレカット加工システム10の概要を説明し、その後、図2を参照して、構造部材の長さ寸法として短縮長さの設定を必要とする状況の具体例について説明し、更に、図3及び図4を参照して、標準長さと短縮長さとにそれぞれ対応した接合部を含む構造部材の具体的な構成と、長さ設定の制御方法とについて順に説明する。
【0026】
プレカット工場PC20は、例えば、プレカット加工装置30が設置されるプレカット工場に設けられ、木造構造物の設計(製図)作業が可能なCAD(木造構造物設計支援装置)として機能する装置である。プレカット工場PC20には、コンピュータによって動作可能なCADソフトが記憶され、このCADソフトを用いて木造構造物の設計図面を製図(作図)することができる。設計図面は、木造構造物を製造するために必要なプレカット加工データを生成可能とする設計データに基づいて出力可能な図面である。設計データとしては、3次元空間内に構造部材を配置した3次元データとして製図する場合と、平面図(伏図)や側面図などを組み合わせた複数の2次元データとして製図する場合とが例示される。
【0027】
プレカット工場PC20には、コンピュータによりCADソフトを機能させるための制御データとして、制御プログラム21と、部材データ22とが記憶されている。これらの制御データを利用して、設計作業を行う作業者は、コンピュータの表示画面(表示部113)に木造構造物の設計データを表示しながら、設計仕様に対応した木造構造物の入力データを入力して製図作業を行う。製図作業が完了すると、木造構造物に必要な各構造部材の長さや断面サイズ(高さ、幅など)、仕口や継手の仕様など、各部位の詳細形状が、制御プログラム21と部材データ22とを利用して決定(選定)される。構造部材の詳細形状が決定されると、その詳細形状に対応したプレカット加工データが生成され、プレカット加工装置30に対してプレカット加工データが出力される。
【0028】
プレカット加工装置30は、材料木材から構造部材を切削加工により製造することが可能な機構部分により構成される木材加工部32と、木材加工部32の動作を制御可能な制御部31とを含めて構成されている。プレカット工場PC20から出力されたプレカット加工データは、プレカット加工装置30の制御部31に入力される。制御部31は、パーソナルコンピュータ等の制御装置により構成され、入力されたプレカット加工データと、制御プログラム31a(動作制御プログラム31b)とを用いて、木材加工部32の駆動機構の動作を制御する。動作制御プログラム31bとしては、構造部材の各形状を製造するために必要な加工具の種類(キリ、丸鋸、カッター等)を選定し、選定された加工具を駆動部分に取り付けるプログラムや、材料木材に対して必要な加工位置に移動する移動動作に関するプログラム、加工具を回転させる駆動動作に対応したプログラム等が例示される。この制御部31による木材加工部32の動作制御によって、プレカット加工装置30は、プレカット加工データに対応した形状の構造部材を製造することができる。
【0029】
制御部31には、制御プログラム31aの一部として、接合部形状変更プログラム31cが記憶されている。接合部形状変更プログラム31cは、プレカット工場PC20によって設定された接合部の形状を変更可能とするプログラムであり、詳細については後述する。
【0030】
次に、CADとして機能するプレカット工場PC20の構成例について、図1(B)を参照して説明する。プレカット工場PC20は、図1(B)に示すように、例えば、本体としての筐体101内に、演算処理装置としてのCPU102、演算データを一時的に記憶するRAM103、ROM104、補助記憶装置としてのハードディスク装置(HDD105)、入出力インターフェース(I/O106)等が設置され、各部位がバスラインによって接続されて構成される。HDD105には、CADソフトを含む制御プログラム21と、各種の部材データ22とが記憶される。
【0031】
また、プレカット工場PC20は、データを送受信可能な入出力装置111、キーボードやマウス等の操作部112、液晶ディスプレイ等の表示部113を含めて構成される。作業者は、プレカット工場PC20の入出力装置111を利用し、例えば、携帯型記憶装置(例えば、USBメモリ)の差込口を通じて設計図面の基礎となる設計データ(例えば,DXF形式のデータ)を入力したり、有線ネットワークや無線ネットワークに接続可能な通信デバイスを通じてプレカット加工データをプレカット加工装置30へ出力可能に構成される。
【0032】
次に、図2を参照して、構造部材の長さ寸法として短縮長さの設定を必要とする状況の具体例について説明する。図2(A)は、設計図面の一例を示す模式図であり、図2(B)は、仕口の形状の一例を示した斜視図である。図2(A)に例示するように、木造構造物40は、複数の構造部材41の端部が他の構造部材41に接合されて構成される。構造部材41の接合される部位(接合部)の数は、木造構造物40の大きさが大きくなるほど増加し易く、また、木造構造物40の間取りや用途によっても異なってくる。構造部材41の接合部としては、1の構造部材41の連続する方向に交差するように他の構造部材41を接合する仕口42と、1の構造部材41の連続する方向に沿って他の構造部材41を接合する継手43とに大別できる。図2(A)に示す木造構造物40は、多数の仕口42が所定の一方向(図2(A)の水平方向)に並んで配置(連結)された多数の構造部材41を含む大型の木造構造物40として例示している。
【0033】
図2(B)には、接合部の一例としての仕口42の形状を例示しており、具体的には、大入蟻仕口の形状を例示している。仕口42は、上側から嵌め合わされる構造部材41(第2構造部材としてのオス材51)の一部と、下側に位置する構造部材41(第1構造部材としてのメス材52)の一部とに設けられる部位である。オス材51の端部には、凸状に形成された凸状部61が設けられ、メス材52の一部には、凸状部61を嵌め込み可能に凹状に形成された凹状部62が設けられている。
【0034】
大入れ蟻仕口の凸状部61は、蟻部61aと、腰掛部61bとを備えた構成であり、蟻部61aは、図2(B)に示すように、オス材51の凸状部61の基端側より先端に近い側の方が大きく形成された形状部分によって構成される。腰掛部61bは、蟻部61aよりも凸状部61の先端から遠い根元側(基端側)に位置し、蟻部61aより外形形状が大きく一定の断面の大きさに形成された部分によって構成される。
【0035】
メス材52には、蟻部61aと腰掛部61bとに対応した凹み形状となるように、凹状部62が形成される。凹状部62には、凹状部分の奥側より外面62aに近い側の方が小さく形成されて蟻部61aを嵌め込み可能な凹み部分を含むようにして構成される。このように凹状部62と凸状部61とが形成されることにより、2つの構造部材41としてのオス材51とメス材52とを直交するようにして接合することができる。
【0036】
なお、図2(B)には、メス材52の外面62aに、欠き取り加工を施すことにより凹むように形成された欠き取り部62bが設けられる場合を例示している。この欠き取り部62bにより形成される奥側の面に対して、オス材51の凸状部61の根元側で基準となる面(基準面61c)が、メス材52の外面62aより一段内側に入り込んだ位置に配置される。このように欠き取り部62bが設けられることにより、メス材52の幅寸法が、切削加工前の材料木材毎に僅かに変動しても、オス材51の基準面61cをメス材52の幅中心に対して適切な位置に配置可能とし、腰掛部61bを凹状部62で確実に支持可能とすることができる。
【0037】
ここで、接合部として、図2(B)には大入れ蟻仕口を例示したが、木造構造物40に用いる接合部としては、種々の形状を用いることができ、これら種々の接合部は、大別すると、蟻部61aのように、メス材52の凹状部62に嵌め込み可能なオス材51の凸状部61として基端側より先端に近い側の方が大きく形成されてオス材51がメス材52から離れる方向側への移動を制限する構造(以下、「位置決め構造」ともいう。)を有する接合部(例えば、大入れ蟻仕口)と、位置決め構造を有しない接合部(例えば、大入仕口)とに分類できる。木造構造物においては、施工後の強度上の観点などから、水平方向に連続する土台や梁、横架材等の接合部には、位置決め構造を有する接合部が多数用いられ、大入れ蟻仕口以外にも、仕口42としては、腰掛部61bのない蟻仕口が用いられ、継手43としては、蟻継ぎや鎌継ぎなどが用いられる。
【0038】
位置決め構造を有する接合部は、組み立て後において複数の構造部材41の相対位置が定められてしまうことから、木造構造物の全体の大きさ(長さ)に影響し易く、設計値に対して実寸を変動させる1つの要素となる。このため、1つの接合部分に対して僅かな大きさで構造部材41の相対位置にズレが生じた場合に、小型の木造構造物では問題とならないようなズレ量であっても、接合部が1の方向(例えば、図2(A)の左右方向)に多数設けられる木造構造物の場合、建築現場で組み立てられた長さ(大きさ)が設計値と比較して相当大きくなってしまう場合が生じ得る。
【0039】
設計値に対して木造構造物の実寸が大きく異なると、鉄筋コンクリート等で製造された基礎に対して適切な位置に各構造部材41を配置することができず、基礎より外側に構造部材41の一部がはみ出してしまうといった重大な問題が生じる可能性がある。このため、大型の木造構造物40など一部の木造構造物においては、プレカット工場で木造構造物の構造部材41の切削加工の全てを実施しておくことが難しく、建築現場で長さが合うように仕口等の切削加工を行って木造構造物を製造するといった対応が必要となる可能性があった。
【0040】
これに対して、本実施形態のプレカット加工システム10においては、大型の木造構造物40等を構成する一部の構造部材41に対しては、設計した大きさに対応した標準長さよりも短い短縮長さを設定可能とし、この短縮長さが設定された場合には、接合部の形状として、標準形状とは別形状が設定され、構造部材41を嵌め込み可能な位置を許容する許容長さが大きくなるように構成される。このため、設計した大きさに対して木造構造物の一部の実寸が大きくなる可能性があったとしても、短縮長さの設定により構造部材41の長さを短縮しつつ許容長さを大きく設定したことで、接合部の嵌め込み位置により構造部材41の配置位置を調整し、木造構造物の全体としての大型化を回避することができる。よって、仕口等の接合部が1の方向に多数並んでしまうような構造部分を備えた集合住宅や校舎等に代表される大型の木造構造物40にプレカット加工を適用しても、設計値に近い大きさに木造構造物の実寸を収めやすくすることができる。また、一般的な住宅等の木造構造物には、標準長さの設定によって従来通りの接合部の形状を設定することができ、従来と同様の工程を経て木造構造物を製造することができる。すなわち、プレカット加工システム10における短縮長さの設定と、接合部の別形状の設定とを実施可能とすることで、大型の木造構造物40を含む多様な木造構造物の構造部材41をプレカット加工により好適に製造可能とすることができる。
【0041】
次に、図3を参照して、標準長さと標準形状の接合部としての凸状部61が設定された標準長さの構造部材41(オス材51)と、短縮長さと別形状の接合部としての凸状部61が設定された短縮長さの構造部材41との具体的な構成について説明する。
【0042】
図3(A)は、標準長さの構造部材41(標準長さのオス材51a)を用いた場合の模式図、図3(B)は、短縮長さの構造部材41(短縮長さのオス材51b)を用いた場合の模式図、図3(C)は、短縮長さの構造部材41(短縮長さのオス材51b)が長く製造された場合を示す模式図である。
【0043】
木造構造物においては、図3(A)に示すように、凹状部62が設けられたメス材52(第1構造部材)に対して、両端側に凸状部61が設けられたオス材51a(第2構造部材)が上方側(図3(A)の紙面垂直方向手前側)から嵌め込まれる構造が用いられる場合がある。オス材51aを嵌め込み可能な位置としては、従来のプレカット加工において製造される構造部材41では、図3(A)に示すように、設計値とほぼ一致する配置位置となるように、オス材51aの長さ寸法が設定される。
【0044】
オス材51aの長さ寸法は、凸状部61の先端でなく、オス材51aとして機能する外面(胴付)の間の長さ寸法(胴付長L1、以下、「有効長さ」ともいう。)を基準とし、胴付長L1が、プレカット工場PC20のCADソフトのデータとして記録(記憶)される。胴付長L1は、仕口の構造が変更された場合(例えば、蟻部61aの大きさや長さが変動した場合)でも、長さ寸法の変動が生じないことから、構造部材41の設計上におけるデータ管理を容易にすることができる。なお、オス材51aの長さ寸法の基準(有効長さ)として、必ずしも胴付長L1を基準とする必要はなく、メス材52の外面62aの間の長さなど、別の部位をCADソフトのデータの基準として記録してもよい。
【0045】
ここで、図3(A)には、オス材51aの凸状部61が凹状部62にはめ込まれた場合に、オス材51aの長さ方向(図3(A)の左右方向)において嵌め込み許容長さが「ゼロ」であり、オス材51aの位置調整を可能とする隙間がなく、オス材51aとメス材52とが完全に位置決め固定される場合を例示している。このオス材51aとメス材52との嵌め込み許容長さは、必ずしも「ゼロ」とする必要はなく、オス材51aの凸状部61が、凹状部62に対してオス材51aの長さ方向(図3(A)の左右方向)において一定の隙間(クリアランス)が設けられ、オス材51aの凸状部61を、凹状部62に対してオス材51aの長さ方向において一定の許容長さ範囲内(例えば、0.2mmの長さ範囲内)で移動させて組み付けることを可能に構成してもよい。
【0046】
次に、短縮長さが設定される場合について、図3(B)及び図3(C)を参照して説明する。なお、図3(A)から図3(C)には、オス材51の両端側に位置してオス材51aが嵌め込まれるメス材52の材幅の中心に一点鎖線を付し、2つのメス材52が離間している距離(離間長さ)を「S」として表し、図3(A)から図3(C)において距離Sが一致している場合を例示している。
【0047】
プレカット工場PC20には、オス材51やメス材52を含む構造部材41の配置数や断面サイズを、設計データに応じた強度計算を行うことで選定する機能が備えられ、選定された構造部材41の配置数や断面サイズを基にして、構造部材41の長さ寸法や接合部の種類等の具体的な仕様を決定する機能が備えられている。これらの機能により、プレカット工場PC20は、プレカット加工を可能とする詳細形状に対応した構造部材41のプレカット加工データを出力可能に構成される。この場合に、従来においては、設計データに対しての強度計算を行うことにより、構造部材41の長さ寸法と、構造部材41の基準となる外形部分の断面サイズ(柱における水平方向の長さ幅、土台や梁、横架材等における材幅及び材成)とが決定され、断面サイズによって接合部の詳細な仕様として接合部の種類やサイズが決定されていた。
【0048】
これに対し、プレカット工場PC20は、構造部材41の基準となる外形部分の断面サイズが同一であっても、図3(A)に示すように、標準長さのオス材51aを設定する場合と、図3(B)に示すように、標準長さのオス材51aより短い胴付長L2を設定した短縮長さのオス材51bを設定する場合とがあるように構成される。そして、短縮長さが設定された場合には、仕口の形状として標準長さの場合とは異なる形状の仕口が設定される。
【0049】
具体的には、図3(B)に示すように、蟻部61aの先端部分の大きさが標準長さの場合より小さく形成された蟻部61dの形状が設定される。蟻部61dの根元側(基端側)の幅(図3(B)の上下方向の長さ)は、標準長さの蟻部61aより細幅に設定され、凹状部62において隙間幅が狭くなっていく部分の形状に蟻部61dの外形が一致する形状に設定される。オス材51bの凸状部61は、凹状部62に対してオス材51bの長さ方向において一定の許容長さ(嵌め込み許容長さ)の範囲内(例えば、1.0mmの長さ範囲内)で移動させて組み付けることを可能に構成され、嵌め込み許容長さは、標準長さが設定された場合の許容長さ(例えば、「ゼロ」)より大きな長さが設定される。これにより、短縮長さが設定された場合において、短縮長さに対応した胴付長L2より長い胴付長L3となってオス材51bが製造されてしまった場合であっても、メス材52の配置位置はそのままで、短縮長さに設定されたオス材51bの凸状部61をメス材52の凹状部62に嵌め込むことができる(図3(C)参照)。
【0050】
ここで、短縮長さが設定された場合における嵌め込み許容長さの設定は、オス材51bが長く製造された場合であっても、設計値に近い大きさに木造構造物の実寸を収めやすくすることが好ましい。本実施形態においては、短縮長さ(胴付長L2)が設定された場合において、標準長さ(胴付長L1)と同一の長さにオス材51bが製造された場合(図3(C)参照)であっても、2つのメス材52の離間長さSを異ならせることなく、オス材51bをメス材52に嵌め込み可能に設定された場合を例示している。この嵌め込み許容長さの設定としては、必ずしも標準長さと同一の長さにオス材51bが製造された場合までメス材52の離間長さSを異ならせることなく嵌め込み可能とする必要はなく、短縮長さが設定された場合に標準長さでオス材51bが製造された場合は離間長さSが長くなるように、本実施形態より嵌め込み許容長さを短く設定してもよい。
【0051】
また、短縮長さが設定された場合における嵌め込み許容長さの設定は、オス材51bが長く製造された場合だけでなく、短く製造された場合に対応する隙間を設ける設定としてもよい。この場合には、長く製造された場合と短く製造された場合の両方向に対応する隙間を、両方向に均等な大きさで設ける設定としてもよいし、片側が大きく設定される(例えば、長く製造された場合に対しての隙間(許容長さ)が大きく設定される)ように不均等に設ける設定としてもよい。
【0052】
また、短縮長さが設定された場合における仕口の形状は、標準長さが設定された場合に対して蟻部61aの大きさを小さくした形状(蟻部61d)とする場合について説明したが、標準長さを設定した場合よりも嵌め込み許容長さが大きい形状であれば他の形状であってもよい。例えば、短縮長さが設定された場合には、蟻部61aの大きさを単に小さくするのではなく、蟻部61aの先端側の大きさは小さく形成しつつ根元側は凹状部62の最小の隙間部分に入り込み可能な細幅に設定された一定の幅で連続する部位(一定の断面サイズの部位)を含むようにしてもよい。
【0053】
また、オス材51に短縮長さが設定された場合に、必ずしも凹状部62と凸状部61とのうち凸状部61の形状のみを異ならせる必要はない。オス材51bに短縮長さが設定された場合には、凹状部62と凸状部61とのうち少なくとも一方の形状が異なる接合部の形状を設定すればよく、例えば、短縮長さが設定された場合に、接合部の形状として、メス材52の凹状部62を標準長さが設定された場合より大きくして嵌め込み許容長さを長くしてもよいし、メス材52の凹状部62と、オス材51の凸状部61との両方を、標準長さの形状に対して異ならせて嵌め込み許容長さを大きくしてもよい。
【0054】
次に、図4を主に参照して、仕口が設けられる構造部材(以下、仕口有構造部材)に対して、短縮長さの設定を可能とする接合部形状設定プログラム21aの処理について説明する。図4は、プレカット工場PC20での接合部形状設定プログラム21aによる処理を示したフローチャートである。
【0055】
プレカット工場PC20においては、オス材51(第2構造部材)の長さ寸法として、標準長さだけでなく、短縮長さを設定可能とし、短縮長さが設定された場合の方が、嵌め込み許容長さが大きい形状データが仕口の形状データとして設定される。具体的には、プレカット工場PC20には、標準長さに対応した仕口の形状データとして、図3(A)に示す大入れ蟻仕口の形状データを含む標準接合部形状データ22aが記憶され、この標準接合部形状データ22aとは別に、図3(B)に示す大入れ蟻仕口の形状データを含む短縮長さに対応した仕口の形状データとして短縮接合部形状データ22bが記憶されている(図1参照)。これら標準接合部形状データ22a及び短縮接合部形状データ22bは、数値情報によりプレカット工場PC20に記憶されていてもよいし、形状データとして記憶されていてもよいし、数値情報と形状データとを組み合わせて記憶されていてもよい。また、標準接合部形状データ22aと短縮接合部形状データ22bとは、プログラムの一部に記憶されていてもよいし、プログラムとは別の記憶領域に読み出し可能な情報として記憶されていてもよい。
【0056】
接合部形状設定プログラム21aは、プレカット工場PC20のCADソフトの一部を構成するプログラムであり、設計図面の外形や間取りの入力作業が行われた後、プレカット加工データを出力するまでの間において実行されるプログラムである。例えば、作業者が、プレカット加工データを出力する操作を実行した場合において、接合部形状設定プログラム21aが実行され、これにより、仕口が設けられる構造部材(以下、「仕口有構造部材」という。)に対して、短縮長さの設定をするか否かが決定され、短縮長さが設定された場合には、仕口有構造部材に対して短縮接合部形状データ22bが設定される。なお、接合部形状設定プログラム21aは、作業者が意図するタイミングで、設計図面の作成途中などのCADソフトの操作中において実行可能とするなど、他のタイミングで実行可能としてもよい。
【0057】
接合部形状設定プログラム21aが開始された場合には、図4に示すように、まず、木造構造物の外形長さデータを読み込む処理が実行され(S11)、読み込まれた木造構造物の外形(例えば、直交するようにして土台や梁、横架材等が配置される2つの方向のそれぞれに沿った水平方向の長さ)が予め定めた長さ(例えば、20m)以上であるか否かが判定される(S12)。
【0058】
ここで、木造構造物の外形長さが一定以上である場合、接合部を多数含むこととなり易く、その分、構造部材の寸法や組付時のバラツキにより、木造構造物の外形長さのバラツキが大きくなって、鉄筋コンクリート製の基礎部分と木造構造の部分との位置ずれを生じる可能性がある。また、同一の階層においても平行して連続する構造部材(例えば、梁)の数が異なると全体の長さにズレが生じ、平面視において直交すべき構造部材(例えば、梁の一部)が斜めに配置されてしまう可能性もある。上下で階層が異なる梁の長さに大きなズレが生じた場合にも、側面視において直交すべき柱と梁が直交しなくなってしまう可能性もある。これらの場合において、構造部材の少なくとも一部に短縮長さを設定し、構造部材の接合部においての嵌め込み許容長さを大きくすることで、木造構造物の外形長さのバラツキを接合部で吸収することができる。これにより、大型の木造構造物を製造するために必要となる構造部材をプレカット加工によってプレカット工場で製造しても、建築現場において、全体としての外形長さを設計値に近付け易くすることができる。
【0059】
木造構造物の外形長さにより短縮長さを設定する判定基準としての長さは、CADソフトを製造する製造業者において、短縮長さを設定した方が良いと考えられる経験上の数値を初期値として入力しておいてもよいし、また、CADソフトを使用する建築業者において各業者毎に特有の数値を入力設定可能に入力機能を付加しておいてもよい。
【0060】
S12の処理において、木造構造物の外形が20m以上であると判定された場合には(S12:Y)、仕口有構造部材のうちオス材に相当する第2構造部材に対して短縮長さを設定する(S21)。
【0061】
S21の処理後、仕口有構造部材に対して短縮接合部形状データ22bを設定する(S22)。この短縮接合部形状データ22bの設定は、メス材52(第1構造部材)と、オス材51(第2構造部材)との少なくとも一方に対して、短縮長さに対応した短縮接合部形状データ22bを設定すればよく、短縮接合部形状データ22bとして第1構造部材と第2構造部材との両方の形状データを標準長さの場合と異ならせる場合、両方の構造部材に対して短縮接合部形状データ22bを設定する。
【0062】
S22の処理後、仕口有構造部材に対して短縮接合部情報を付加する(S23)。この短縮接合部情報は、構造部材に対して短縮長さが設定されたことを識別可能な接合部形状識別情報として機能する情報であり、例えば、構造部材に対して短縮長さが設定されたことを示す専用の情報により構成される。例えば、短縮長さが設定されたか否かを示す構造部材の情報データとして、胴付長や全長、配置位置情報などを含む各項目に対応した情報テーブルの中に、項目として短縮長さの設定に対応する項目を付加し、その項目に対応する情報(例えば、1ビットの情報)を、標準長さの場合は標準接合部情報に対応した「0」とし、短縮長さの場合は短縮接合部情報に対応した「1」とする。
【0063】
この短縮接合部情報は、構造部材の形状データや印字データに対応付けされた状態で、プレカット加工データとして、プレカット工場PC20から出力することが好ましい。これにより、プレカット加工装置30においては、短縮長さが設定された第2構造部材であることを、短縮接合部情報に基づいて識別することができるので、プレカット加工データの出力後の各工程において短縮長さが設定されたことに対応した処理を実施し易くすることができる。例えば、標準長さが設定された構造部材(完成部品)には、「標準」の文字情報を印字し、短縮長さが設定された場合には、「短縮」の文字情報を印字することで、建築現場で短縮長さが設定された構造部材であることを識別して木造構造物を製造することができる。また、短縮接合部情報は、従来用いられている情報の一部に付加することができ、例えば、部品の全長を示す長さ情報に含める形で短縮接合部情報を付加してもよいし、部品の全長に付加する形で構造部材に印字をしてもよい。例えば、標準長さの場合は「1800」のように長さに対応した数字のみが印字され、短縮の場合は「1800s」と印字されて、最後の「s」の文字の有無で短縮長さが設定された構造部材であることを識別可能としてもよい。
【0064】
また、短縮接合部情報は、1ビットに限らず2ビット以上の情報により構成してもよく、例えば、短縮長さとして2種以上の長さ寸法を設定可能とし、各短縮長さが設定される場合において、その短縮した長さの程度に応じて、「1」,「2」,「3」といった異なる情報が付加され、いずれかの情報がプレカット加工装置30に短縮接合部情報として出力されるように構成してもよい。これにより、各短縮長さを示す情報として、「s1」、「s2」、「s3」のように異なる情報を構造部材に印字することができる等、短縮した長さの程度を識別し易くすることができる。
【0065】
S12の処理において、木造構造物の外形が20m以上でないと判定された場合には(S12:N)、構造部材の配置データを読み込み(S13)、仕口により構造部材を連結した箇所の数が一定数以上(例えば、10以上)であるか否かを判定する(S14)。
【0066】
S14の処理において、仕口により構造部材を連結した箇所の数が一定数以上であると判定された場合には(S14:Y)、S21からS23の処理を実行して、仕口有構造部材に対して、短縮長さを設定し、短縮接合部形状データ22bを設定し、短縮接合部情報を付加して、接合部形状設定プログラム21aによる処理を終了する。
【0067】
このS14の処理は、仕口により構造部材を連結した箇所の数が多い場合に全体の長さの誤差が大きくなる可能性に対応した処理であり、この場合にも、連結した箇所の数が多いと判定された構造部材に対して短縮長さが設定される。これにより、大型の木造構造物や、間取り等により仕口が多数使用される状況において、全体の長さの誤差に対応し易い構造部材を、プレカット加工装置30によって製造し易くすることができる。
【0068】
ここで、S14の処理において仕口により構造部材を連結した箇所の数は、所定の方向(例えば、図2(A)の左右方向)における仕口の数と、所定の方向に交差する方向(例えば、図2(A)の上下方向)における仕口の数とをそれぞれ計数し、それぞれの方向に沿って配置される構造部材に対して短縮長さを設定するか否かを判定し、S14の処理の条件を満たす構造部材に対して短縮長さに対応したS21~S23の処理を実施することが好ましい。
【0069】
S14の処理において、仕口による構造部材の連結数が一定数以上でないと判定された場合には(S14:N)、「仕口有構造部材に対して短縮対応をする?」の文字を表示画面に表示し(S15)、作業者による入力操作が「短縮対応」の選択である場合には(S16:Y)、作業者が指定した構造部材に対して、短縮長さに対応したS21~S23の処理を実施する。このS15及びS16の処理により、作業者の意図によっても、作業者が選択した構造部材に対して短縮長さに対応した設定を実行することができる。
【0070】
作業者による入力操作が「短縮対応」の選択でなければ(S16:N)、仕口有構造部材のうちオス材に相当する第2構造部材に対して設計基準データに相当する標準長さを設定する(S17)。S17の処理の後には、仕口有構造部材に対して標準接合部形状データ22aを設定し(S18)、また、仕口有構造部材に対して標準接合部情報を付加して(S19)、接合部形状設定プログラム21aによる処理を終了する。
【0071】
このように、プレカット工場PC20によれば、オス材51の長さ寸法として短縮長さ(第1長さ)が設定された場合には、短縮長さよりもオス材51の長さ寸法が短縮されていない標準長さ(第2長さ)が設定される場合に対して、凸状部61の形状データが異なる接合部の形状データが設定される。そして、オス材51の長さ寸法として短縮長さが設定された場合には、オス材51の長さ寸法として標準長さが設定された場合よりも、嵌め込み許容長さが大きい形状データが設定される。
【0072】
オス材51の短縮長さは、標準長さが設定される場合より長さ寸法が短縮されているため、基準となる長さ寸法(設計値)よりも短めのオス材51となる。このため、大型の木造構造物が製造される場合において、多数のオス材51が所定の方向に連続して配置される場合に、オス材51の多くが許容寸法の範囲内で大きめに製造されたとしても、全体としての大きさを一定範囲内に抑えることができる。
【0073】
すなわち、短縮長さに一致する大きさにオス材51が製造された場合であっても、短縮長さより大きくオス材51が製造された場合であっても、標準長さよりも短縮された長さが設定されている分、木造構造物が大きくなってしまうことがない。また、仕口による接合部が多数設けられた場合に、全体としての木造構造物の大きさが大きくなり過ぎたり、所定の方向における長さが長くなり過ぎたりする可能性があるものの、接合部が多数設けられた木造構造物に対して短縮長さを容易に設定可能とすることで、プレカット加工を用いつつ木造構造物を設計値に近い大きさに製造し易くすることができる。よって、プレカット加工を用いて、大型の木造構造物や、所定の方向に仕口が多数並ぶように配置されるような木造構造物を含む多種の木造構造物を設計値に近い大きさに製造し易くすることができる。
【0074】
また、木材加工部32を備えたプレカット加工装置30の制御部31においては、短縮長さに対応したメス材52又はオス材51であることを、プレカット工場PC20によって付加される短縮接合部情報の有無により識別することができる。このため、プレカット加工装置30でプレカット加工を行う工程において短縮長さを更に変更したり、短縮長さへの変更をキャンセルするなどの対応を可能とすることができる。また、短縮長さに対応した部材であることをプレカット加工装置30によって印字することができ、建築現場において短縮長さに対応した構造部材であることを判別し易くすることができる。
【0075】
ここで、プレカット加工装置30には、図1に示すように、制御プログラム31aの一部として、接合部形状変更プログラム31cが設けられることが好ましい。接合部形状変更プログラム31cは、標準長さに設定された構造部材を、短縮長さに変更して設定可能なプログラムであり、プレカット工場PC20に設けられる接合部形状設定プログラム21aと同様に構成することができる。また、接合部形状変更プログラム31cは、標準長さに設定された構造部材について短縮長さに変更すると共に標準接合部形状データ22aを短縮接合部形状データ22bに変更可能であり、標準接合部情報を短縮接合部情報に変更可能に構成されることが好ましい。
【0076】
また、接合部形状変更プログラム31cには、プレカット工場PC20で設定した短縮長さを標準長さに戻し、短縮接合部形状データ22bを標準接合部形状データ22aに戻し、短縮接合部情報を標準接合部情報に復帰させる機能に対応するプログラムが設けられることが好ましい。また、短縮長さが設定された構造部材に対して短縮長さ量を変化させたり、短縮接合部形状データ22bとして、第2構造部材の長さ方向における嵌め込み許容長さを大きくする、又は、小さくするように変化させることも可能に構成することが好ましい。これにより、プレカット工場PC20の作業者だけでなくプレカット加工装置30を操作する作業者によっても短縮長さに対応した処理を実行することができるので、木造構造物の建築現場における状況に対応した構造部材を製造し易いシステムとすることができる。
【0077】
なお、本発明は、上記実施形態に限られるものでなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変更が可能であることは容易に推察できるものであり、例えば、以下に記載するように変形して実施してもよい。
【0078】
上記実施形態においては、仕口が設けられた構造部材に対して短縮長さを設定する場合について説明したが、短縮長さを設定するのは、仕口に限るものでなく、継手が設けられた構造部材に対して短縮長さを設定可能としてもよい。すなわち、短縮長さが設定された場合の方が、継手によって連続する2つの構造部材の長さ方向において、一方の構造部材を他方の構造部材に嵌め込み可能な位置を許容する嵌め込み許容長さが大きい形状データを、継手の形状データとして設定されるように構成してもよい。
【0079】
上記実施形態においては、各構造部材に対して同一の短縮長さを設定する場合について説明したが、異なる長さを設定するようにしてもよい。例えば、複数の構造部材に対して合計の短縮長さ量を設定し、その短縮長さ量を、使用する構造部材の数で除算して、1つの構造部材に対する短縮長さを設定してもよい。例えば、図2(A)における一番上段の水平方向における仕口42と継手43の総数が「5」、中段の水平方向における仕口42と継手43の総数が「10」、下段の水平方向における仕口42の数が「30」である場合、下段の水平方向における仕口を備えた構造部材41に対して「0.5mm」の短縮長さ量を設定し、中段の水平方向における仕口又は継手を備えた各構造部材41に対して下段の3倍に相当する「1.5mm」の短縮長さ量を設定し、上段の水平方向における仕口又は継手を備えた各構造部材41に対して下段の6倍に相当する「3.0mm」の短縮長さ量を設定し、各短縮長さ量に一致する嵌め込み許容長さを設けるようにしてもよく、これにより、上段と中段と下段とにおいて設定される隙間(クリアランス)の総計を一致させることができ、構造部材41の長さの違いに寄与しないでバランスよくクリアランスを設定することができる。また、上層と下層とにおいてそれぞれ配置される各構造部材に対しても、合計の短縮長さ量を設定し、上層と下層とにおける接合部の数に応じて各構造部材に短縮長さ量及び嵌め込み許容長さを振り分けるようにしてもよい。
【0080】
また、上記実施形態においては、接合部形状設定プログラム21aの処理として、短縮長さを設定する条件を満たした構造部材41の全てに対して一定の短縮長さに対応した処理を実行する場合について説明したが、短縮長さを設定する条件を満たした構造部材41に対して複数種類の短縮長さに対応した処理を実行してもよいし、一部の構造部材41についてのみ短縮長さに対応した処理を実行し、残りの構造部材41には標準長さに対応した処理を実行してもよい。例えば、木造構造物の端側に近い一部の構造部材41に対して一定の短縮長さに対応した処理を実行し、中央側に近い残りの構造部材41に対しては、端側よりも短縮する長さが小さい短縮長さに対応した処理を実行してもよいし、標準長さに対応した処理を実行するようにしてもよい。
【0081】
また、上記実施形態においては、接合部形状設定プログラム21aの処理として、木造構造物の大きさに対応した条件(S11及びS12の処理)と、仕口の数に対応した条件(S13及びS14の処理)との両方を実施して短縮長さに対応した処理を実行する場合について説明したが、必ずしも両方設定する必要はなく、いずれか一方を省略してもよいし、また、他の条件を加えて構成してもよい。例えば、継手の数に対応する条件を加えて仕口と継手の総数が所定の方向において一定数以上配置される場合を条件としてもよいし、仕口又は継手を有する構造部材の数を用いた条件を用いて短縮長さに対応した処理を実行する構成としてもよい。また、作業者の入力操作によって短縮長さの設定を実行可能とする処理(S15及びS16の処理)は必ずしも必要でなく、省略してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0082】
以上説明したように、この発明は、木造構造物に用いられる構造部材を好適に製造することを可能とする木造構造物設計支援装置、木材加工装置及び設計支援プログラムに適している。
【符号の説明】
【0083】
10:プレカット加工システム、
20:プレカット工場PC(木造構造物設計支援装置)
21a:接合部形状設定プログラム(接合部形状設定手段、接合部形状識別情報出力手段の一部)
21b:プレカット加工データ生成プログラム(加工データ生成手段)
30:プレカット加工装置(木材加工装置)
31b:接合部形状変更プログラム(変更手段)
40:木造構造物
41:構造部材
51,51a,51b:オス材(第2構造部材)
52:メス材(第1構造部材)
61:凸状部(凸状部分)
62:凹状部(凹状部分)
図1
図2
図3
図4