(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023055336
(43)【公開日】2023-04-18
(54)【発明の名称】原子炉格納容器用ベントバルブシステム
(51)【国際特許分類】
G21C 9/004 20060101AFI20230411BHJP
G21C 13/00 20060101ALI20230411BHJP
【FI】
G21C9/004 100
G21C13/00 600
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021164624
(22)【出願日】2021-10-06
(71)【出願人】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(71)【出願人】
【識別番号】000123170
【氏名又は名称】岡野バルブ製造株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000115500
【氏名又は名称】ラサ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124257
【弁理士】
【氏名又は名称】生井 和平
(72)【発明者】
【氏名】奈良林 直
(72)【発明者】
【氏名】木倉 宏成
(72)【発明者】
【氏名】高橋 秀治
(72)【発明者】
【氏名】濱田 信善
(72)【発明者】
【氏名】酒村 恵介
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 好司
(72)【発明者】
【氏名】石川 慶浩
【テーマコード(参考)】
2G002
【Fターム(参考)】
2G002CA03
2G002DA01
2G002EA01
(57)【要約】
【課題】全交流電源喪失があっても作動可能であり、ベントした際の原子炉格納容器内の圧力の途中変化に影響を受けず、また、動作テストも可能で再利用も可能な原子炉格納容器用ベントバルブシステムを提供する。
【解決手段】原子炉格納容器用ベントバルブシステムは、バルブ10と、開弁作動制御部20と、開弁保持部30とからなる。バルブ10は、原子炉格納容器2からフィルタベント装置3へ排気する際に開閉作動可能なものである。開弁作動制御部20は、原子炉格納容器2内の圧力が限界圧力近傍まで上昇するとバルブ10を開弁作動する。開弁保持部30は、開弁作動制御部20によりバルブ10が開弁状態となった後に原子炉格納容器2内の圧力が外気圧近傍に下降するまでバルブ10の開弁状態を保持すると共に、原子炉格納容器2内の圧力が外気圧近傍まで下降するとバルブ10を閉弁作動する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子炉格納容器とフィルタベント装置との間のベントバルブシステムであって、該原子炉格納容器用ベントバルブシステムは、
原子炉格納容器からフィルタベント装置へ排気する際に開閉作動可能なバルブと、
原子炉格納容器内の圧力が限界圧力近傍まで上昇すると前記バルブを開弁作動する開弁作動制御部と、
前記開弁作動制御部により前記バルブが開弁状態となった後に原子炉格納容器内の圧力が外気圧近傍に下降するまで前記バルブの開弁状態を保持すると共に、原子炉格納容器内の圧力が外気圧近傍まで下降すると前記バルブを閉弁作動する開弁保持部と、
を具備することを特徴とする原子炉格納容器用ベントバルブシステム。
【請求項2】
請求項1に記載の原子炉格納容器用ベントバルブシステムにおいて、前記バルブは、
原子炉格納容器からの開口部に設けられる弁座と、
前記弁座を開閉可能な弁体と、
前記弁体が連結される弁棒と、
原子炉格納容器内の圧力との力関係で弁体により弁座を開閉可能なように、弁体が弁座方向に押圧されるように弁棒を付勢する弁ばねと、
を具備する安全弁からなることを特徴とする原子炉格納容器用ベントバルブシステム。
【請求項3】
請求項2に記載の原子炉格納容器用ベントバルブシステムにおいて、前記開弁作動制御部は、原子炉格納容器内の圧力が限界圧力近傍まで上昇すると安全弁が開弁作動するように付勢力が調整される、安全弁の弁ばねであることを特徴とする原子炉格納容器用ベントバルブシステム。
【請求項4】
請求項2又は請求項3に記載の原子炉格納容器用ベントバルブシステムにおいて、前記開弁作動制御部は、
原子炉格納容器内の圧力に応じて作動する圧力制御棒と、
前記圧力制御棒により付勢されることで原子炉格納容器内の圧力が限界圧力近傍に上昇するまで弁棒を弁座方向に押さえ付けると共に、原子炉格納容器内の圧力が限界圧力近傍まで上昇すると弁棒の押さえ付けを解除するトグル機構と、
を具備する安全弁アダプタからなることを特徴とする原子炉格納容器用ベントバルブシステム。
【請求項5】
請求項2乃至請求項4の何れかに記載の原子炉格納容器用ベントバルブシステムにおいて、前記開弁保持部は、
前記安全弁の開弁状態を保持するように弁ばねの付勢力に対抗する荷重を弁棒に付勢可能な強制開弁シリンダと、
前記安全弁が全開した状態を検知する全開センサと、
前記全開センサの検知により作動するエアオペレートバルブと、
前記エアオペレートバルブが作動することにより安全弁の開弁状態を保持するように強制開弁シリンダに制御空気を供給する空気アキュムレータと、
からなることを特徴とする原子炉格納容器用ベントバルブシステム。
【請求項6】
請求項2乃至請求項4の何れかに記載の原子炉格納容器用ベントバルブシステムにおいて、前記開弁保持部は、係止棒と、安全弁が全開した際に係止棒が係止するように弁棒に設けられる係止穴とを有するラッチ構造からなることを特徴とする原子炉格納容器用ベントバルブシステム。
【請求項7】
請求項6に記載の原子炉格納容器用ベントバルブシステムにおいて、前記係止棒は、原子炉格納容器内の圧力が外気圧近傍になるまで下降すると、安全弁の弁ばねによる付勢力によりせん断されるせん断強さを有することを特徴とする原子炉格納容器用ベントバルブシステム。
【請求項8】
請求項6に記載の原子炉格納容器用ベントバルブシステムにおいて、前記ラッチ構造は、シリンダと、シリンダ内で原子炉格納容器内の圧力に応じて移動可能に構成されるピストンと、ピストンに固定され係止棒となるピストンロッドと、からなるエアシリンダを有し、
前記エアシリンダは、原子炉格納容器内の圧力が上昇すると係止棒に対し弁棒の方向に付勢力を与えると共に、原子炉格納容器内の圧力が外気圧近傍になるまで下降すると、係止棒が係止穴から引き抜かれる方向に付勢力を与える、
ことを特徴とする原子炉格納容器用ベントバルブシステム。
【請求項9】
請求項2乃至請求項8の何れかに記載の原子炉格納容器用ベントバルブシステムにおいて、前記バルブは、付勢力の異なる弁ばねを用いる2つの安全弁を組み合わせてなり、
それぞれの安全弁の前記開弁作動制御部は、一方の安全弁が開弁作動する前に他方の安全弁を開弁作動させ、
それぞれの安全弁の前記開弁保持部は、一方の安全弁の閉弁作動よりも後に他方の安全弁を閉弁作動させる、
ことを特徴とする原子炉格納容器用ベントバルブシステム。
【請求項10】
請求項1乃至請求項9の何れかに記載の原子炉格納容器用ベントバルブシステムにおいて、前記開弁作動制御部及び開弁保持部は、
原子炉格納容器内の圧力を検出し電気信号に変換する圧力発信器と、
前記圧力発信器からの電気信号に基づき前記バルブを制御するコントローラと、
を具備することを特徴とする原子炉格納容器用ベントバルブシステム。
【請求項11】
請求項1に記載の原子炉格納容器用ベントバルブシステムにおいて、前記バルブは、エア駆動可能なバルブからなり、
前記開弁作動制御部は、原子炉格納容器からの開口部に設けられる弁座と、前記弁座を開閉可能な弁体と、前記弁体が連結される弁棒と、原子炉格納容器内の圧力との力関係で弁体により弁座を開閉可能なように、弁体が弁座方向に押圧されるように弁棒を付勢する弁ばねと、を具備する安全弁からなり、
前記開弁保持部は、前記安全弁の開弁状態を保持するように弁ばねの付勢力に対抗する荷重を弁棒に付勢可能な強制開弁シリンダと、前記安全弁が全開した状態を検知する全開センサと、前記全開センサの検知により作動するエアオペレートバルブと、前記エアオペレートバルブが作動することにより安全弁の開弁状態を保持するように強制開弁シリンダに制御空気を供給する空気アキュムレータと、からなり、
前記バルブは、全開センサの検知により、開弁状態を保持するように空気アキュムレータからの制御空気が供給される、
ことを特徴とする原子炉格納容器用ベントバルブシステム。
【請求項12】
請求項1に記載の原子炉格納容器用ベントバルブシステムにおいて、前記バルブは、エア駆動可能なバルブからなり、
前記開弁作動制御部は、
前記バルブを開弁作動させるオンスイッチと、
シリンダと、シリンダ内で原子炉格納容器内の圧力に応じて移動可能に構成されるピストンと、ピストンに固定されるピストンロッドと、からなるエアシリンダであって、原子炉格納容器内の圧力が限界圧力近傍まで上昇すると、オンスイッチを押すようにピストンロッドに付勢力を与える、エアシリンダと、
からなり、
前記開弁保持部は、バルブを閉弁作動させるオフスイッチを有し、
前記エアシリンダは、原子炉格納容器内の圧力が外気圧近傍になるまで下降すると、オフスイッチを押すようにピストンロッドに付勢力を与える、
ことを特徴とする原子炉格納容器用ベントバルブシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は原子炉格納容器用ベントバルブシステムに関し、特に、動作テストも可能で再利用も可能な原子炉格納容器用ベントバルブシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
原子炉格納容器の過圧破損を防ぎ、原子炉格納容器外への放射性物質の放出を防止するためのフィルタベント装置が従来から知られている。フィルタベント装置は、原子炉格納容器内の圧力が高まった場合に、圧力抑制室(ウェットウェル)から外部へ通じるベントバルブを開け減圧するものである。その際に、原子炉格納容器内の汚染空気がそのまま大気へ放出されないように、フィルタベント装置により水や金属フィルタ等を通すことで放射性物質を削減している。汚染空気を通す水は一般的にスクラビング水(除染水)と呼ばれ、水酸化ナトリウムやチオ硫酸ナトリウム等が添加されている。また、金属フィルタとしては、銀ゼオライト等が用いられている。
【0003】
原子炉格納容器とフィルタベント装置とは、ベントバルブにより隔離されている。通常、ベントバルブの開閉は、電気信号によるモータ制御や人手によるシャフトの回転動作により行われている。しかしながら、重大事故発生時等、全交流電源喪失や作業員が近寄れなくなった場合には、ベントバルブの開閉が行えなくなってしまう。ベントバルブが開けずベント不能となった場合、原子炉格納容器内の圧力が高まり、最悪の場合、冷却用の注水ができなくなったり、原子炉格納容器が破損したりするおそれがある。
【0004】
このような重大事故発生時であっても、受動的にベントが可能なように構成される格納容器ベント装置も知られている(例えば特許文献1)。特許文献1の装置は、原子炉格納容器とフィルタベント装置の間の通路に、破壊板(ラプチャーディスク)を設けたものである。破壊板は、ある圧力以上で破壊されることで、ベントバルブを介さずにベントが可能なものである。即ち、原子炉格納容器内の圧力が所定の圧力まで上昇すると、破壊板が受動的に破壊され(パッシブ起動)、原子炉格納容器を減圧するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1のような破壊板を用いたフィルタベント装置は、全交流電源喪失があったとしてもパッシブ起動する一方、一度破壊された破壊板は再利用できるものではなかった。また、どの程度の圧力で破壊板が破壊されるか動作テストを行おうとしても、一度破壊された破壊板は再利用できないため、同じ破壊板での動作テストもできなかった。さらに、破壊板の破壊圧力を正確に設定できないという問題もあった。
【0007】
さらに、既存の安全弁を用いて、原子炉格納容器内の圧力が異常に上昇した際に自動的に圧力を逃がすようにすることも考えられる。しかしながら、既存の安全弁を用いて原子炉格納容器内の圧力が異常に上昇した際にベントできた場合であっても、原子炉格納容器内の圧力は、燃料棒の冷却のために注水が行われるため単調に減少するわけではなく、再び上昇に転ずる場合もある。このような場合、原子炉格納容器内の圧力の変化に応じて安全弁の開閉が頻繁に繰り返し行われると、フィルタベント装置の金属フィルタに水蒸気が凝縮する事象が頻発する。これにより水蒸気の分だけ圧力が減ることになり、相対的に水素濃度が上昇してしまうため、水素爆発のおそれが高まってしまう。
【0008】
したがって、全交流電源喪失があっても作動可能であり、ベントした際の原子炉格納容器内の圧力の途中変化の影響を受けず、また、動作テストも可能で再利用も可能なベントバルブシステムの開発が望まれていた。
【0009】
本発明は、斯かる実情に鑑み、全交流電源喪失があっても作動可能であり、ベントした際の原子炉格納容器内の圧力の途中変化に影響を受けず、また、動作テストも可能で再利用も可能な原子炉格納容器用ベントバルブシステムを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した本発明の目的を達成するために、本発明による原子炉格納容器用ベントバルブシステムは、原子炉格納容器からフィルタベント装置へ排気する際に開閉作動可能なバルブと、原子炉格納容器内の圧力が限界圧力近傍まで上昇するとバルブを開弁作動する開弁作動制御部と、開弁作動制御部によりバルブが開弁状態となった後に原子炉格納容器内の圧力が外気圧近傍に下降するまでバルブの開弁状態を保持すると共に、原子炉格納容器内の圧力が外気圧近傍まで下降するとバルブを閉弁作動する開弁保持部と、を具備するものである。
【0011】
ここで、バルブは、原子炉格納容器からの開口部に設けられる弁座と、弁座を開閉可能な弁体と、弁体が連結される弁棒と、原子炉格納容器内の圧力との力関係で弁体により弁座を開閉可能なように、弁体が弁座方向に押圧されるように弁棒を付勢する弁ばねと、を具備する安全弁からなるものであれば良い。
【0012】
また、開弁作動制御部は、原子炉格納容器内の圧力が限界圧力近傍まで上昇すると安全弁が開弁作動するように付勢力が調整される、安全弁の弁ばねであれば良い。
【0013】
また、開弁作動制御部は、原子炉格納容器内の圧力に応じて作動する圧力制御棒と、圧力制御棒により付勢されることで原子炉格納容器内の圧力が限界圧力近傍に上昇するまで弁棒を弁座方向に押さえ付けると共に、原子炉格納容器内の圧力が限界圧力近傍まで上昇すると弁棒の押さえ付けを解除するトグル機構と、を具備する安全弁アダプタからなるものでも良い。
【0014】
また、開弁保持部は、安全弁の開弁状態を保持するように弁ばねの付勢力に対抗する荷重を弁棒に付勢可能な強制開弁シリンダと、安全弁が全開した状態を検知する全開センサと、全開センサの検知により作動するエアオペレートバルブと、エアオペレートバルブが作動することにより安全弁の開弁状態を保持するように強制開弁シリンダに制御空気を供給する空気アキュムレータと、からなるものでも良い。
【0015】
また、開弁保持部は、係止棒と、安全弁が全開した際に係止棒が係止するように弁棒に設けられる係止穴とを有するラッチ構造からなるものでも良い。
【0016】
また、係止棒は、原子炉格納容器内の圧力が外気圧近傍になるまで下降すると、安全弁の弁ばねによる付勢力によりせん断されるせん断強さを有するものであれば良い。
【0017】
また、ラッチ構造は、シリンダと、シリンダ内で原子炉格納容器内の圧力に応じて移動可能に構成されるピストンと、ピストンに固定され係止棒となるピストンロッドと、からなるエアシリンダを有し、エアシリンダは、原子炉格納容器内の圧力が上昇すると係止棒に対し弁棒の方向に付勢力を与えると共に、原子炉格納容器内の圧力が外気圧近傍になるまで下降すると、係止棒が係止穴から引き抜かれる方向に付勢力を与える、ものであっても良い。
【0018】
また、バルブは、付勢力の異なる弁ばねを用いる2つの安全弁を組み合わせてなり、それぞれの安全弁の開弁作動制御部は、一方の安全弁が開弁作動する前に他方の安全弁を開弁作動させ、それぞれの安全弁の開弁保持部は、一方の安全弁の閉弁作動よりも後に他方の安全弁を閉弁作動させる、ものであっても良い。
【0019】
また、開弁作動制御部及び開弁保持部は、原子炉格納容器内の圧力を検出し電気信号に変換する圧力発信器と、圧力発信器からの電気信号に基づきバルブを制御するコントローラと、を具備するものであっても良い。
【0020】
また、バルブは、エア駆動可能なバルブからなり、開弁作動制御部は、原子炉格納容器からの開口部に設けられる弁座と、弁座を開閉可能な弁体と、弁体が連結される弁棒と、原子炉格納容器内の圧力との力関係で弁体により弁座を開閉可能なように、弁体が弁座方向に押圧されるように弁棒を付勢する弁ばねと、を具備する安全弁からなり、開弁保持部は、安全弁の開弁状態を保持するように弁ばねの付勢力に対抗する荷重を弁棒に付勢可能な強制開弁シリンダと、安全弁が全開した状態を検知する全開センサと、全開センサの検知により作動するエアオペレートバルブと、エアオペレートバルブが作動することにより安全弁の開弁状態を保持するように強制開弁シリンダに制御空気を供給する空気アキュムレータと、からなり、バルブは、全開センサの検知により、開弁状態を保持するように空気アキュムレータからの制御空気が供給される、ものであっても良い。
【0021】
また、バルブは、エア駆動可能なバルブからなり、開弁作動制御部は、バルブを開弁作動させるオンスイッチと、シリンダと、シリンダ内で原子炉格納容器内の圧力に応じて移動可能に構成されるピストンと、ピストンに固定されるピストンロッドと、からなるエアシリンダであって、原子炉格納容器内の圧力が限界圧力近傍まで上昇すると、オンスイッチを押すようにピストンロッドに付勢力を与える、エアシリンダと、からなり、開弁保持部は、バルブを閉弁作動させるオフスイッチを有し、エアシリンダは、原子炉格納容器内の圧力が外気圧近傍になるまで下降すると、オフスイッチを押すようにピストンロッドに付勢力を与える、ものであっても良い。
【発明の効果】
【0022】
本発明の原子炉格納容器用ベントバルブシステムには、全交流電源喪失があっても作動可能であり、ベントした際の原子炉格納容器内の圧力の途中変化に影響を受けず、また、動作テストも可能で再利用も可能であるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】
図1は、本発明の原子炉格納容器用ベントバルブシステムの概要を説明するための概略ブロック図である。
【
図2】
図2は、本発明の原子炉格納容器用ベントバルブシステムのバルブの構成を説明するための概略側断面図である。
【
図3】
図3は、本発明の原子炉格納容器用ベントバルブシステムの安全弁に安全弁アダプタを設けた例を説明するための概略図である。
【
図4】
図4は、本発明の原子炉格納容器用ベントバルブシステムの開弁保持部がラッチ構造からなる例を説明するための概略図である。
【
図5】
図5は、本発明の原子炉格納容器用ベントバルブシステムの開弁保持部が他のラッチ構造からなる例を説明するための概略図である。
【
図6】
図6は、本発明の原子炉格納容器用ベントバルブシステムの他のバルブの例を説明するための概略図である。
【
図7】
図7は、
図6に示される本発明の原子炉格納容器用ベントバルブシステムの制御による原子炉格納容器内の圧力の時間変化を説明するための概略グラフである。
【
図8】
図8は、本発明の原子炉格納容器用ベントバルブシステムのバルブとしてエア駆動可能なバルブを用いた例を説明するための概略図である。
【
図9】
図9は、本発明の原子炉格納容器用ベントバルブシステムのバルブとしてエア駆動可能なバルブを用いた他の例を説明するための概略図である。
【
図10】
図10は、本発明の原子炉格納容器用ベントバルブシステムを電気制御する例を説明するための概略ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を実施するための形態を図示例と共に説明する。
図1は、本発明の原子炉格納容器用ベントバルブシステムの概要を説明するための概略ブロック図である。図示の通り、本発明の原子炉格納容器用ベントバルブシステム1は、原子炉格納容器2とフィルタベント装置3との間に用いられるものである。なお、原子炉格納容器2は、ベントが必要なものであれば、その原子炉が沸騰水型軽水炉や加圧水型軽水炉の何れであっても良い。また、原子炉格納容器2は、原子炉圧力容器を収納するドライウェルとウェットウェルとに区分けされている。本発明の原子炉格納容器用ベントバルブシステム1は、例えばウェットウェルの貫通孔から配管を引き出し接続されれば良い。しかしながら、本発明はこれに限定されず、ウェットウェルだけでなくドライウェルの貫通孔から配管を引き出し接続されるものであっても良い。原子炉格納容器2は、従来の又は今後開発されるべきあらゆるものが適用可能である。
【0025】
フィルタベント装置3は、原子炉格納容器2内の圧力が高まった場合に、原子炉格納容器2内の圧力を減圧するものである。その際に、フィルタベント装置3は、原子炉格納容器2内の汚染空気がそのまま大気へ放出されないように、スクラビング水や金属フィルタ等を通すことで放射性物質を削減するものである。フィルタベント装置3も、従来の又は今後開発されるべきあらゆるものが適用可能である。
【0026】
本発明の原子炉格納容器用ベントバルブシステム1は、このような原子炉格納容器2とフィルタベント装置3との間に接続されるものである。原子炉格納容器用ベントバルブシステム1は、バルブ10と、開弁作動制御部20と、開弁保持部30とから主に構成されている。バルブ10は、原子炉格納容器2からフィルタベント装置3へ排気する際に開閉作動可能なものである。即ち、原子炉格納容器2の圧力が高まった場合に減圧するために開弁されるものである。ここで、従来技術では、このバルブを破壊板により構成していたが、本発明では後ほど詳説するように、開閉作動可能、即ち、再利用可能なものを用いる。
【0027】
開弁作動制御部20は、原子炉格納容器2内の圧力が限界圧力近傍まで上昇するとバルブ10を開弁作動するものである。即ち、原子炉格納容器2内の圧力に応じてバルブ10を開弁作動させるように、パッシブ起動するものである。開弁作動制御部20は、バルブ10自体が有する機能であっても良いし、バルブ10に対して設定した圧力になった際に弁が開くようにバルブ10を開弁制御するものであっても良い。ここで、フィルタベント装置3のスクラビング水への排出ガス圧(背圧)が低いと、スクラビング水で十分な除染が行えなくなる場合がある。したがって、開弁作動制御部20は、具体的には出力側の圧力である背圧を、バルブ10のポッピング時の入力側の圧力である吹出し圧力の40%程度となるように開弁制御可能なものであれば良い。背圧の影響を受けないようにするために、例えば本願出願人の一人である岡野バルブ製造株式会社の特許第1459926号に示されるようなウイングジスク構造を採用した安全弁を用いることも可能である。
【0028】
そして、開弁保持部30は、開弁作動制御部20によりバルブ10が開弁状態となった後に、原子炉格納容器2内の圧力が外気圧近傍に下降するまでバルブ10の開弁状態を保持するものである。さらに、開弁保持部30は、原子炉格納容器2内の圧力が外気圧近傍まで下降すると、バルブ10を閉弁作動するものである。即ち、開弁保持部30は、バルブ10が開弁状態となると全開状態を保持したままにして原子炉格納容器2の圧力を外気圧近傍まで下降させた後にバルブ10を閉弁作動させるものである。なお、外気圧近傍まで下降させるとは、原子炉格納容器2内の圧力が完全にゼロになるまで下降させる必要は必ずしもない。ベントが不要な程度まで十分に圧力が下がっていれば良い。
【0029】
上述の発明が解決しようとする課題でも説明した通り、原子炉格納容器内の圧力の変化に応じてベントバルブの開閉制御を頻繁に繰り返し行うと、フィルタベント装置の金属フィルタに水蒸気が凝縮する事象が頻発し、相対的に水素濃度が上昇してしまい、水素爆発のおそれが高まってしまう。したがって、本発明では、原子炉格納容器2内の圧力が外気圧近傍に下降するまでバルブ10の開弁状態を保持し続けることで、このような原子炉格納容器内の圧力の途中変化の影響を受けないようにしている。また、外気圧近傍まで下降した際には閉弁作動することで、原子炉格納容器側に逆流することも防止可能である。
【0030】
以下、本発明の原子炉格納容器用ベントバルブシステムのバルブの詳細について
図2を用いて具体的に説明する。
図2は、本発明の原子炉格納容器用ベントバルブシステムのバルブの構成を説明するための概略側断面図である。図中、
図1と同一の符号を付した部分は同一物を表している。図示例は、バルブ10が安全弁11からなるものである。原子炉格納容器2の例えばウェットウェルの貫通孔から配管を引き出し、配管の開口部に安全弁11の入力側が接続されれば良い。安全弁11は、密閉型のもので、弁作動時に汚染空気が周囲に吹き出さないものが好ましい。なお、図示例では、後述の開弁保持部30として強制開弁シリンダ31を用いたものを示した。
【0031】
図2に示されるように、安全弁11は、例えば、弁座12と、弁体13と、弁棒14と、弁ばね15と、から主に構成されている。弁座12は、原子炉格納容器2からの開口部に設けられる。弁座12は、例えばリング状のものであり、後述の弁体13により閉じられたり開かれたりするものである。弁体13は、弁座12を開閉可能なものである。弁体13は、例えば円盤状のものであり、所定の圧力以上の圧力が安全弁11の入力側に与えられると持ち上げられ吹き出すように構成されている。弁棒14は、弁体13が連結されている。即ち、円盤状の弁体13の中心軸に弁棒14が連結されている。そして、弁ばね15は、原子炉格納容器2内の圧力との力関係で弁体13により弁座12を開閉可能なように、弁体13が弁座12方向に押圧されるように弁棒14を付勢するものである。即ち、弁ばね15の付勢力により、安全弁11の開弁作動圧力が決定される。
【0032】
本発明の原子炉格納容器用ベントバルブシステムでは、このバルブ10として用いられる安全弁11の弁ばね15により、開弁作動制御部20を実現させている。即ち、開弁作動制御部20は、原子炉格納容器2内の圧力が限界圧力近傍まで上昇すると安全弁11が開弁作動するように付勢力が調整された安全弁11の弁ばね15である。弁ばね15の付勢力は、原子炉格納容器2内の圧力が限界圧力近傍まで上昇した際に安全弁11が全開作動するようばね定数が調整されれば良い。安全弁11は、原子炉格納容器2内の圧力に応じて開弁作動制御されるものであるため、全交流電源喪失があっても作動可能である。
【0033】
そして、この例では、開弁保持部30として強制開弁シリンダ31を用いている。即ち、図示の安全弁11は、強制開弁シリンダ31により逃がし弁機能を有するものである。開弁保持部30は、強制開弁シリンダ31と、全開センサ32と、エアオペレートバルブ33と、空気アキュムレータ34とから構成されている。
【0034】
強制開弁シリンダ31は、安全弁11の開弁状態を保持するように弁ばね15の付勢力に対抗する荷重を弁棒14に付勢可能なものである。即ち、安全弁11に強制開弁シリンダ31を用いて逃し弁機能を持たせたものである。図示例では、強制開弁シリンダ31は、ピストンとピストンロッドとばねを有するものであり、ピストンロッドにリンクが接続されている。リンクの作用点にピストンロッドが接続されており、リンクの力点に弁棒14が接続されており、リンクの力点の外側の支点が安全弁11に接続されている。強制開弁シリンダ31は、制御空気によりピストンを移動可能であり、これにより弁棒14に対して弁ばね15の付勢力に対抗する荷重を付勢可能となる。
【0035】
全開センサ32は、安全弁11が全開した状態を検知するものである。例えば安全弁11が全開した際に弁棒14の上部端が達する位置に全開センサ32が設けられれば良い。全開センサ32は、例えばプッシュボタンを有する空気切換え弁等のメカニカルバルブであれば良い。即ち、安全弁11が全開したことによりメカニカルバルブがオンになり、後述のエアオペレートバルブ33に空気を供給可能なものであれば良い。供給する空気は、例えば後述の空気アキュムレータ34から供給されれば良い。
【0036】
エアオペレートバルブ33は、全開センサ32の検知により作動するものである。即ち、全開センサ32からの空気の入力により制御されるものであれば良い。エアオペレートバルブ33は、具体的には、例えば3ポートエアオペレートバルブであれば良い。3ポートエアオペレートバルブは、パイロット部に全開センサ32が接続されている。全開センサ32が全開を検知し全開センサ32から空気がパイロット部に供給されると、3ポートエアオペレートバルブが開弁作動する。
【0037】
空気アキュムレータ34は、エアオペレートバルブ33が作動することにより、安全弁11の開弁状態を保持するように強制開弁シリンダ31に制御空気を供給するものである。即ち、全開センサ32が全開を検知し全開センサ32から空気がパイロット部に供給され、3ポートエアオペレートバルブが開弁作動すると、空気アキュムレータ34から強制開弁シリンダ31に空気が供給される。これにより、強制開弁シリンダ31のピストンが上部に移動し、安全弁11の開弁状態を保持するように弁ばね15の付勢力に対抗する荷重を弁棒14に付勢することになる。
【0038】
強制開弁シリンダ31は、すべての制御が原子炉格納容器内の圧力や空気により行われ、外部電源不要で作動するものであるため、全交流電源喪失があっても作動可能である。また、破壊板のように破壊されるものではないため、動作テストも可能で再利用も可能である。
【0039】
全開センサ32は、原子炉格納容器2内の圧力が外気圧近傍まで下降するまでオンになるように構成されれば良い。即ち、弁棒14が全開となる最大高さから最小高さとなるまでのストロークに合わせて、メカニカルバルブがオンになるように構成されれば良い。例えばメカニカルバルブのプッシュボタンを弾性体で構成することで、オンになっている範囲を調整することが可能である。
【0040】
また、全開センサ32が、安全弁11が全開時のみオンになるものの場合には、安全弁11が全開となった後に原子炉格納容器2内の圧力が低下し、原子炉格納容器2内の圧力が外気圧近傍まで下降する前に全開センサ32がオフになってしまう。こうなると、エアオペレートバルブ33のパイロット部への空気の供給が止まり、エアオペレートバルブ33が閉弁してしまう。したがって、このように全開センサ32がオフになってしまう場合には、全開センサ32とエアオペレートバルブ33のパイロット部との間に適宜ロックアップバルブ35等を設け、エアオペレートバルブ33のパイロット部への空気の供給を維持するようにしても良い。
【0041】
ここで、吹き始め圧力が低いと吹出し量も下がり、フィルタベント装置3におけるスクラビング水で十分な除染が行えなくなるおそれもある。したがって、以下に説明するように、原子炉格納容器2内の圧力が限界圧力近傍に上昇するまで安全弁11の弁棒14を弁座方向に押さえ付けるようにして限界圧力近傍まで安全弁11が開弁作動しないように構成しても良い。
【0042】
図3は、本発明の原子炉格納容器用ベントバルブシステムの安全弁に、安全弁アダプタを設けた例を説明するための概略図である。
図3(a)が低圧時の状態であり、
図3(b)が吹出し直前の状態であり、
図3(c)が吹出し時の状態を表している。図中、
図2と同一の符号を付した部分は同一物を表している。また、安全弁11については弁棒14のみを示し他の部分は図示を省略した。この例は、開弁作動制御部20として安全弁アダプタ21を用いたものである。図示の通り、安全弁アダプタ21が安全弁11に設けられている。安全弁アダプタ21は、圧力制御棒22と、トグル機構23とから構成されている。
【0043】
圧力制御棒22は、原子炉格納容器2内の圧力に応じて作動するものである。具体的には、圧力制御棒22は、原子炉格納容器2内の圧力が上昇してくると、後述のトグル機構23側に押し出される方向に移動するものである。圧力制御棒22は、具体的には例えば、原子炉格納容器2に接続されるシリンダと、シリンダ内で原子炉格納容器2内の圧力に応じて移動可能に構成されるピストンと、ピストンに固定され圧力制御棒22となるピストンロッドと、からなるエアシリンダからなるものであれば良い。シリンダが原子炉格納容器に接続されており、原子炉格納容器2内の圧力が高まるとピストンが押され、ピストンロッドが押し出される。
【0044】
トグル機構23は、圧力制御棒22により付勢されることで原子炉格納容器2内の圧力が限界圧力近傍に上昇するまで弁棒14を弁座12方向に押さえ付けると共に、原子炉格納容器2内の圧力が限界圧力近傍まで上昇すると弁棒14の押さえ付けを解除するように構成されるものである。図示例のトグル機構23は、2本のリンクがジョイントで繋がれたものである。また、リンクの上部には、弁棒14を弁座12方向に押さえ付ける際の付加力を与えるための付加力ばね24が設けられている。
図3(a)に示されるように、原子炉格納容器2内の圧力が低圧時の場合には、トグル機構23は図面上、左方向に屈折した状態となっている。低圧時のため弁棒14は持ち上がらず、圧力制御棒22もトグル機構23も作動していない状態である。
図3(b)に示されるように、原子炉格納容器2内の圧力が上昇してくると、圧力制御棒22が押し出されてきてトグル機構23を押圧する。これにより、トグル機構23の2本のリンクが付加力ばね24と弁棒14との間で突っ張る状態となり、弁棒14が弁座12方向に押さえ付けられ、弁棒14が持ち上がらない状態となる。このとき押さえ付け力が最大となる。したがって、原子炉格納容器2内の圧力が限界圧力近傍に上昇する前に安全弁11が吹き出すことはない。そして、
図3(c)に示されるように、原子炉格納容器2内の圧力が限界圧力近傍に達すると、さらに圧力制御棒22が押し出されてトグル機構23を押圧し、トグル機構23が図面上、右方向に屈折した状態となる。この状態となると、トグル機構23による弁棒14の押さえ付けが解除されるため、弁棒14が上昇し、安全弁11が全開となる。
【0045】
原子炉格納容器内の圧力が限界圧力近傍まで上昇すると初めて安全弁11が開弁作動するように弁ばね15の付勢力が調整される場合であっても、限界圧力近傍まで上昇するまえに開弁作動してしまうおそれもある。この場合には、吹出し量が十分でなくフィルタベント装置3におけるスクラビング水で十分な除染が行えなくなる可能性もあるが、上述の安全弁アダプタ21を開弁作動制御部20として用いることで、原子炉格納容器2内の圧力が限界圧力近傍まで上昇するまで開弁作動しないように構成することができ、確実に除染が行えるようになる。
【0046】
安全弁アダプタ21は、原子炉格納容器2に接続され原子炉格納容器2内の圧力に応じて作動するものであるため、全交流電源喪失があっても作動可能である。また、破壊板のように破壊されるものではないため、動作テストも可能で再利用も可能である。
【0047】
次に、本発明の原子炉格納容器用ベントバルブシステムの開弁保持部がラッチ構造からなる例について説明する。
図4は、本発明の原子炉格納容器用ベントバルブシステムの開弁保持部がラッチ構造からなる例を説明するための概略図である。
図4(a)が低圧時の状態であり、
図4(b)が全開時の状態を表している。図中、
図2と同一の符号を付した部分は同一物を表している。また、安全弁11については弁棒14のみを示し他の部分は図示を省略した。この例は、開弁保持部30としてラッチ構造40を用いたものである。図示の通り、ラッチ構造40は、係止棒41と、係止穴42とからなるものである。
【0048】
係止棒41は、後述の係止穴42に係止するものであり、ばね等により弁棒14側に付勢されている。係止穴42は、安全弁11が全開した際に係止棒41が係止するように弁棒14に設けられる穴である。
図4(a)に示されるように、低圧時の状態では係止棒41は弁棒14には影響を与えることなく、弁棒14は上下に移動可能である。一方、
図4(b)に示されるように、安全弁11が全開して弁棒14が上昇した場合には、係止棒41が係止穴42に係止される。即ち、安全弁11の全開時に弁棒14が最上部まで持ち上がったところで係止棒41が係止穴42に係止される位置に、係止穴42が設けられれば良い。これにより、安全弁11の開弁状態を保持することが可能となる。
【0049】
さらに、係止棒41が所定のせん断強さを有するように構成すれば、原子炉格納容器2内の圧力が外気圧近傍まで下降した際に安全弁11を閉弁作動させることも可能である。即ち、原子炉格納容器2内の圧力が外気圧近傍になるまで下降すると、係止棒41が、安全弁11の弁ばね15による付勢力によりせん断されるようなせん断強さを有するように構成すれば良い。このように構成されることで、安全弁11が開弁状態となった後に原子炉格納容器2内の圧力が外気圧近傍に下降するまで、係止棒14が係止穴42に係止されて安全弁11の開弁状態を保持すると共に、原子炉格納容器2内の圧力が外気圧近傍になるまで下降すると、係止棒41がせん断され安全弁11が閉弁作動するようになる。
【0050】
次に、本発明の原子炉格納容器用ベントバルブシステムの開弁保持部が他のラッチ構造からなる例について説明する。
図5は、本発明の原子炉格納容器用ベントバルブシステムの開弁保持部が他のラッチ構造からなる例を説明するための概略図である。
図5(a)が低圧時の状態であり、
図5(b)が全開時の状態を表している。図中、
図4と同一の符号を付した部分は同一物を表している。また、安全弁11については弁棒14のみを示し他の部分は図示を省略した。この例は、開弁保持部30に他のラッチ構造としてエアシリンダ43を用いたものである。図示の通り、エアシリンダ43は、シリンダ44と、ピストン45と、ピストンロッド46とを有している。シリンダ44は、原子炉格納容器2に接続され、原子炉格納容器2内の圧力に応じて後述のピストン45が押圧されるように構成されている。ピストン45は、シリンダ44内で原子炉格納容器2内の圧力に応じて移動可能に構成されている。ピストンロッド46は、ピストン45に固定され、係止棒として用いられるものである。低圧時の状態では、係止棒であるピストンロッド46は弁棒14には影響を与えることなく、弁棒14は移動可能である。そして、エアシリンダ43は、原子炉格納容器2内の圧力が上昇してくるとピストンロッド46に対し弁棒14の方向に付勢力を与える。その後、
図5(b)に示されるように、安全弁11が全開して弁棒14が上昇した場合には、付勢力を与えられたピストンロッド46が係止穴42に係止される。これにより、安全弁11の開弁状態を保持することが可能となる。
【0051】
さらに、原子炉格納容器2内の圧力が外気圧近傍になるまで下降すると、ピストンロッド46が係止穴42から引き抜かれる方向に付勢力が与えられている。図示例では、ピストンロッド46が係止穴42から引き抜かれる方向に付勢力を与えるばね47がシリンダ44内に設けられている。ピストン45を押圧している原子炉格納容器2内の圧力は外気圧近傍にまで下降しているため、ばね47の付勢力によりピストンロッド46が係止穴42から引き抜かれる。
【0052】
このように構成されることで、安全弁11が開弁状態となった後に原子炉格納容器2内の圧力が外気圧近傍に下降するまで、ピストンロッド46が係止穴42に係止されて安全弁11の開弁状態を保持すると共に、原子炉格納容器2内の圧力が外気圧近傍になるまで下降すると、ピストンロッド46が引き抜かれ安全弁11が閉弁作動するようになる。即ち、
図5(b)の状態から再度
図5(a)の状態となる。したがって、本発明の原子炉格納容器用ベントバルブシステムは、動作テストも可能で再利用も可能である。また、エアシリンダ43の制御は原子炉格納容器内の圧力や空気により行われ、外部電源不要で作動するものであるため、全交流電源喪失があっても作動可能である。
【0053】
次に、本発明の原子炉格納容器用ベントバルブシステムの他の例について説明する。
図6は、本発明の原子炉格納容器用ベントバルブシステムの他のバルブの例を説明するための概略図である。図中、
図2と同一の符号を付した部分は同一物を表している。図示の通り、この例では、大きさの異なる2つの安全弁11a,11bを用いた例である。即ち、バルブ10は、付勢力の異なる弁ばね15a,15bを用いる2つの安全弁11a,11bを組み合わせてなるものである。図示の通り、2つの安全弁11a,11bは、並列に接続されている。そして、2つの安全弁11a,11bは、それぞれ開弁保持部30として強制開弁シリンダ31a、31bを用いた例を示した。即ち、安全弁11a,11bは、
図2を用いて説明したものと同様の構造である。しかしながら、本発明はこれに限定されず、上述の図示例のようなラッチ構造40を用いたものであっても良い。
【0054】
このような2つの安全弁11a,11bを用いて、それぞれの安全弁の開弁作動や閉弁作動を以下のように行えば良い。まず、開弁作動制御部として用いられる弁ばね15a,15bにより、安全弁11aが開弁作動する前に安全弁11bを開弁作動させるようにする。そして、開弁保持部として用いらえる強制開弁シリンダ31a、31bにより、安全弁11aの閉弁作動よりも後に安全弁11bを閉弁作動させるようにする。即ち、安全弁11aの吹出し圧力及び吹止まり圧力を、安全弁11bの吹出し圧力及び吹止まり圧力と比べて高くなるように構成する。これにより、安全弁11aに比べて安全弁11bの開弁状態の時間を長くすることが可能となる。
【0055】
図7は、
図6に示される本発明の原子炉格納容器用ベントバルブシステムの制御による原子炉格納容器内の圧力の時間変化を説明するための概略グラフである。図示の通り、原子炉格納容器内の圧力が高まってくると、まず安全弁11bが開弁作動する。これは原子炉格納容器内の圧力が限界圧力近傍まで上昇する前に開弁作動するように調整されている。その後、限界圧力近傍まで上昇すると、安全弁11aが開弁作動する。これにより原子炉格納容器内の圧力が下がってくる。そして、所定の圧力まで下がると安全弁11aが閉弁作動する。安全弁11aが閉弁しても、安全弁11bはまだ閉弁作動しないため、引き続き圧力が下がる。その後、原子炉格納容器内の圧力が外気圧近傍に下降するまで開弁保持部30として機能する強制開弁シリンダ31により開弁状態が保持され、外気圧近傍まで下降すると閉弁作動する。
【0056】
安全弁は何れも上述のようにすべての制御が原子炉格納容器内の圧力や空気により行われ、外部電源不要で作動するものであるため、全交流電源喪失があっても作動可能である。
【0057】
次に、本発明の原子炉格納容器用ベントバルブシステムのバルブとしてエア駆動可能なバルブを用いた例について説明する。
図8は、本発明の原子炉格納容器用ベントバルブシステムのバルブとしてエア駆動可能なバルブを用いた例を説明するための概略図である。図中、
図2と同一の符号を付した部分は同一物を表している。この例では、バルブとしてエア駆動可能なバルブを用いている。具体的には、バタフライ弁50を用いている。本発明の原子炉格納容器用ベントバルブシステムを用いて既設のバタフライ弁に対しても開閉弁作動を行えるようにしたものである。バタフライ弁50は、バタフライ弁用エアオペレートバルブ51を有している。また、開弁作動制御部20として、安全弁11を用いている。そして、開弁保持部30として、安全弁11に強制開弁シリンダ31を用いたものである。即ち、安全弁11と強制開弁シリンダ31は、
図2を用いて説明したものと同様の構造である。なお、バルブとしてはバタフライ弁50に限らず、ボール弁等、エア駆動可能なバルブであれば適用可能である。
【0058】
原子炉格納容器2内の圧力が限界圧力近傍まで上昇すると、安全弁11が全開し、全開センサ32の検知によりエアオペレートバルブ33が作動して空気アキュムレータ34からの制御空気が強制開弁シリンダ31に供給され、安全弁11の開弁状態が保持される。そして、バタフライ弁用エアオペレートバルブ51も全開センサ32の検知により作動し、空気アキュムレータ34からの制御空気がバタフライ弁50にも供給され、バタフライ弁50の開弁状態が保持される。
【0059】
原子炉格納容器2内の圧力が外気圧近傍になるまで下降すると、安全弁11が閉弁作動すると共に、バタフライ弁用エアオペレートバルブ51が閉弁作動してバタフライ弁50が閉弁する。
【0060】
このような構成の本発明の原子炉格納容器用ベントバルブシステムは、既設のバタフライ弁やボール弁等に対して適用することが可能である。何れも制御には原子炉格納容器内の圧力や空気を用いており、全交流電源喪失があっても作動可能である。
【0061】
さらに、本発明の原子炉格納容器用ベントバルブシステムのバルブとしてエア駆動可能なバルブを用いた他の例について説明する。
図9は、本発明の原子炉格納容器用ベントバルブシステムのバルブとしてエア駆動可能なバルブを用いた他の例を説明するための概略図である。
図9(a)が全開時の状態であり、
図9(b)が低圧時の状態を表している。図中、
図8と同一の符号を付した部分は同一物を表している。なお、開弁作動制御部20及び開弁保持部30のみを示し他の部分は図示を省略した。この例では、開弁作動制御部20として、オンスイッチ60とエアシリンダ61とを用いている。また、開弁保持部30として、オフスイッチ65とエアシリンダ61とを用いている。このオンスイッチ60及びオフスイッチ65は、これまで説明したように適宜エアオペレートバルブや空気アキュムレータ等を用いて作動するように構成すれば良い。以下ではバルブとして具体的にはバタフライ弁を用いた場合について説明するが、本発明はこれに限定されず、エア駆動可能なバルブであればボール弁等であっても良い。
【0062】
オンスイッチ60は、バタフライ弁50を開弁作動させるものである。オンスイッチ60としては、例えばメカニカルバルブを用いれば良い。メカニカルバルブは、プッシュボタンを有する空気切換え弁等であれば良い。オンスイッチ60がオンになると、バタフライ弁50を開弁作動させるように、バタフライ弁50のバタフライ弁用エアオペレートバルブ51のパイロット部への空気の供給を維持すれば良い。
【0063】
エアシリンダ61は、シリンダ62と、ピストン63と、ピストンロッド64とを有している。シリンダ62は、原子炉格納容器2に接続され、原子炉格納容器2内の圧力に応じて後述のピストン63が押圧されるように構成されている。ピストン63は、シリンダ62内で原子炉格納容器2内の圧力に応じて移動可能に構成されている。ピストンロッド64は、ピストン63に固定される。図示例のピストンロッド64は、シリンダ62を貫通しており、図面上、シリンダ62の左右から突出するように構成されている。原子炉格納容器2内の圧力が上昇してくるとピストン63が左側に移動してくる。そして、
図9(a)に示されるように、限界圧力近傍まで上昇すると、オンスイッチ60を押すようにピストンロッド64に付勢力を与える。原子炉格納容器2内の圧力に対抗する荷重を付勢するばね65がシリンダ62内に設けられ、ばね定数を適宜調整することで原子炉格納容器2内の圧力が限界圧力近傍まで上昇した際にオンスイッチ60を押せるように構成すれば良い。
【0064】
そして、開弁保持部30として用いられるオフスイッチ65は、バタフライ弁50を閉弁作動させるものである。オフスイッチ65としては、例えばメカニカルバルブを用いれば良い。メカニカルバルブは、プッシュボタンを有する空気切換え弁等であれば良い。オフスイッチ65がオンになると、バタフライ弁50を閉弁作動させるように、バタフライ弁50のバタフライ弁用エアオペレートバルブ51のパイロット部への空気の供給を止めれば良い。
【0065】
開弁保持部30の動作としては、エアシリンダ61が、原子炉格納容器2内の圧力が下降してくると右側に移動してくる。そして、
図9(b)に示されるように、外気圧近傍になるまで下降すると、バタフライ弁50を閉弁作動させるオフスイッチ65を押すようにピストンロッド64に付勢力を与える。
【0066】
このような構成であっても、既設のバタフライ弁やボール弁等に対して本発明の原子炉格納容器用ベントバルブシステムを適用することが可能である。何れも制御には原子炉格納容器内の圧力や空気を用いており、全交流電源喪失があっても作動可能である。
【0067】
なお、これまで説明した例は、何れも制御には原子炉格納容器内の圧力や空気を用いており、全交流電源喪失があってもパッシブ起動するものである。しかしながら、例えばバッテリ等の直流電源を緊急時用に用意できる場合には、圧力を電気信号に変換して制御するシステムも利用可能である。
図10は、本発明の原子炉格納容器用ベントバルブシステムを電気制御する例を説明するための概略ブロック図である。なお、開弁作動制御部20及び開弁保持部30のみを示し他の部分は図示を省略した。図示の通り、本発明の原子炉格納容器用ベントバルブシステムの開弁作動制御部20及び開弁保持部30は、圧力発信器70と、コントローラ71とからなる。圧力発信器70は、原子炉格納容器2内の圧力を検出し電気信号に変換するものである。具体的には、圧力発信器70は、原子炉格納容器2内の圧力を検出し、制御用の電気信号に変換する。そして、コントローラ71は、圧力発信器70からの電気信号に基づきバルブ10を制御するものである。なお、バルブ10は、制御信号により制御可能なものであれば良い。例えば、制御信号により制御可能なモータと減速歯車等により作動する電動弁であれば良い。または、エア駆動可能なバルブに制御空気を供給する空気アキュムレータを、制御信号により制御可能な電磁弁で作動するものであっても良い。具体的には、コントローラ71からの制御信号で制御可能な電磁弁を用いて空気アキュムレータを制御して、バルブ10として用いられるエア駆動バタフライ弁を開閉弁作動するように構成しても良い。これらの圧力発信器70やコントローラ71は、バッテリ72の直流電源で駆動される。
【0068】
例えば、コントローラ71は、所定の吹出し圧力や吹止まり圧力を任意に設定可能なものである。圧力発信器70の出力信号をコントローラ71が受けることで、設定された吹出し圧力になるとバルブ10が開弁作動するように、適宜電磁弁やモータ等を制御する制御信号を出力すれば良い。そして、原子炉格納容器2内の圧力が外気圧近傍に下降するまでバルブ10の開弁状態を保持する。その後、原子炉格納容器2内の圧力が外気圧近傍まで下降すると、電磁弁やモータ等を制御してバルブ10を閉弁作動すれば良い。
【0069】
このように、圧力発信器70やコントローラ71をバッテリ72の直流電源で駆動し、制御信号により制御可能なバルブ10を制御すれば良い。これにより、直流電源の確保は必要であるが、全交流電源喪失があっても作動可能となる。
【0070】
なお、本発明の原子炉格納容器用ベントバルブシステムは、上述の図示例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。例えば、上述の図示例を種々組み合わせて用いても良い。
【符号の説明】
【0071】
1 原子炉格納容器用ベントバルブシステム
2 原子炉格納容器
3 フィルタベント装置
10 バルブ
11 安全弁
12 弁座
13 弁体
14 弁棒
20 開弁作動制御部
21 安全弁アダプタ
22 圧力制御棒
23 トグル機構
24 付加力ばね
30 開弁保持部
31 強制開弁シリンダ
32 全開センサ
33 エアオペレートバルブ
34 空気アキュムレータ
35 ロックアップバルブ
40 ラッチ構造
41 係止棒
42 係止穴
43 エアシリンダ
44 シリンダ
45 ピストン
46 ピストンロッド
47 ばね
50 バタフライ弁
51 バタフライ弁用エアオペレートバルブ
60 オンスイッチ
61 エアシリンダ
62 シリンダ
63 ピストン
64 ピストンロッド
65 オフスイッチ
70 圧力発信器
71 コントローラ
72 バッテリ