(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023055340
(43)【公開日】2023-04-18
(54)【発明の名称】電動巻上機および電動巻上機の監視方法
(51)【国際特許分類】
F16D 66/02 20060101AFI20230411BHJP
F16D 67/06 20060101ALI20230411BHJP
F16D 66/00 20060101ALI20230411BHJP
B66B 5/00 20060101ALI20230411BHJP
B66B 11/08 20060101ALI20230411BHJP
【FI】
F16D66/02 F
F16D67/06 C
F16D66/00 Z
B66B5/00 D
B66B11/08 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021164630
(22)【出願日】2021-10-06
(71)【出願人】
【識別番号】502129933
【氏名又は名称】株式会社日立産機システム
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】出口 見多
(72)【発明者】
【氏名】金子 悟
(72)【発明者】
【氏名】家重 孝二
(72)【発明者】
【氏名】堀川 康治
(72)【発明者】
【氏名】及川 裕吾
(72)【発明者】
【氏名】百瀬 峻也
(72)【発明者】
【氏名】竹脇 僚哉
【テーマコード(参考)】
3F304
3F306
3J058
【Fターム(参考)】
3F304BA13
3F304BA16
3F304EA29
3F304ED05
3F304ED13
3F306AA02
3F306BA09
3J058AA43
3J058AA47
3J058AA53
3J058AA68
3J058AA78
3J058AA88
3J058AB33
3J058BA60
3J058CC07
3J058CC13
3J058CC66
3J058CC72
3J058CC77
3J058DA03
3J058DB06
3J058DB29
3J058FA39
(57)【要約】
【課題】電流の位相が異なる場合であっても同一の指標で電動巻上機のブレーキの摩耗量の検出を可能にする。
【解決手段】電動巻上機を、巻上用モータと、電磁ブレーキ部と、巻上用モータと電磁ブレーキ部に電力を供給する電源部と、電磁ブレーキ部の摩耗状態を推定する診断部と、診断結果出力部とを備えて構成し、電磁ブレーキ部は、巻上用モータと連結しているブレーキホイールと、このブレーキホイールに固定されたブレーキライニングと、このブレーキライニングに対向するブレーキディスクと、ブレーキディスクのブレーキライニングへの押付け・解除を行うリンク機構部と、このリンク機構部を駆動するブレーキソレノイドを備え、診断部は、電源部から電磁ブレーキ部に供給する交流電流を計測して得られたデータに基づいてブレーキライニングの摩耗量を推定し、予め設定した値を超えたときに診断結果出力部に警報を出力するようにした。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
巻上用モータと、電磁ブレーキ部と、前記巻上用モータと前記電磁ブレーキ部に電力を供給する電源部と、前記電磁ブレーキ部の摩耗状態を推定する診断部と、診断結果出力部とを備えた電動巻上機であって、
前記電磁ブレーキ部は、前記巻上用モータと連結しているブレーキホイールと、前記ブレーキホイールに固定されたブレーキライニングと、前記ブレーキライニングに対向するブレーキディスクと、前記ブレーキディスクの前記ブレーキライニングへの押付け・解除を行うリンク機構部と、前記リンク機構部を駆動するブレーキソレノイドを備え、
前記診断部は、前記電源部から前記電磁ブレーキ部に供給する交流電流を計測して得られたデータに基づいて前記ブレーキライニングの摩耗量を推定し、前記推定した前記ブレーキライニングの摩耗量に関する情報が予め設定した値を超えたときに前記診断結果出力部に警報を出力することを特徴とする電動巻上機。
【請求項2】
請求項1記載の電動巻上機であって、
前記診断部は、
前記電源部から前記電磁ブレーキ部に供給する前記交流電流を計測する電流計測部と、
前記電流計測部で計測して得られた交流電流値の時系列データを算出する時系列データ算出部と、
前記時系列データ算出部で算出した前記時系列データのうち予め設定した閾値以上となる前記時系列データの時間幅を算出する時間算出部と、
前記時間算出部で算出した時間幅に基づいて前記ブレーキライニングの前記摩耗量を推定するブレーキ摩耗量推定部と
を備えることを特徴とする電動巻上機。
【請求項3】
請求項2記載の電動巻上機であって、
前記ブレーキ摩耗量推定部は、前記時間算出部で算出した時間幅に基づいて推定した前記ブレーキライニングの前記摩耗量に基づいて前記ブレーキディスクの前記ブレーキライニングへの押付け・解除を行う前記リンク機構部の調整の回数が予め設定した所定の回数に達したか否かを判定して前記調整の回数が前記所定の回数に達したときに前記診断結果出力部に警報を出力することを特徴とする電動巻上機。
【請求項4】
請求項2記載の電動巻上機であって、
前記時系列データ算出部は、前記時系列データとして、前記電流計測部で計測して得られた前記交流電流値の所定の時間区間ごとの実効値又は標準偏差値の時系列データを算出することを特徴とする電動巻上機。
【請求項5】
請求項2記載の電動巻上機であって、
前記時系列データ算出部は、前記時系列データとして、前記電流計測部で計測して得られた前記交流電流値の任意区間ごとの最大値ないしは最小値の時系列データを算出することを特徴とする電動巻上機。
【請求項6】
巻上用モータと、電磁ブレーキ部と、前記巻上用モータと前記電磁ブレーキ部に電力を供給する電源部と、前記電磁ブレーキ部の摩耗状態を推定する診断部と、診断結果出力部とを備えた電動巻上機であって、
前記診断部は、前記電源部から前記電磁ブレーキ部に供給する交流電流を計測して得られた交流電流値の任意区間ごとの時系列データに基づいて前記電磁ブレーキ部の摩耗量を推定し、前記推定した前記電磁ブレーキ部の摩耗量が予め設定した値を超えたときに前記診断結果出力部に警報を出力することを特徴とする電動巻上機。
【請求項7】
請求項6記載の電動巻上機であって、
前記診断部は、
前記電源部から前記電磁ブレーキ部に供給する交流電流を計測する電流計測部と、
前記電流計測部で計測して得られた前記交流電流値の任意区間ごとの実効値ないしは標準偏差値の時系列データを算出する時系列データ算出部と、
前記時系列データ算出部で算出した前記時系列データのうち予め設定した閾値以上となる前記時系列データの時間幅を算出する時間算出部と、
前記時間算出部で算出した時間幅に基づいて前記電磁ブレーキ部の前記摩耗量を推定するブレーキ摩耗量推定部と
を備えることを特徴とする電動巻上機。
【請求項8】
請求項7記載の電動巻上機であって、
前記時系列データ算出部は、前記時系列データとして、前記電流計測部で計測して得られた前記交流電流値の所定の時間区間ごとの実効値又は標準偏差値の時系列データを算出することを特徴とする電動巻上機。
【請求項9】
請求項7記載の電動巻上機であって、
前記時系列データ算出部は、前記時系列データとして、前記電流計測部で計測して得られた前記交流電流値の任意区間ごとの最大値ないしは最小値の時系列データを算出することを特徴とする電動巻上機。
【請求項10】
巻上用モータと、電磁ブレーキ部と、前記巻上用モータと前記電磁ブレーキ部に電力を供給する電源部とを備えた電動巻上機の監視方法であって、
前記電動巻上機は前記電磁ブレーキ部の摩耗状態を推定する診断部と、診断結果出力部とを更に備え、
前記診断部は、前記電源部から前記電磁ブレーキ部に供給する交流電流を計測して得られた交流電流値の任意区間ごとの時系列データに基づいて前記電磁ブレーキ部の摩耗量を推定し、前記推定した前記電磁ブレーキ部の摩耗量に関する情報が予め設定した値を超えたときに前記診断結果出力部に警報を出力することを特徴とする電動巻上機の監視方法。
【請求項11】
請求項10記載の電動巻上機の監視方法であって、
前記診断部において、前記電源部から前記電磁ブレーキ部に供給する前記交流電流を計測し、前記計測して得られた交流電流値の時系列データを算出し、前記算出した前記時系列データのうち予め設定した閾値以上となる前記時系列データの時間幅を算出し、前記算出した時間幅に基づいて前記電磁ブレーキ部の前記摩耗量を推定することを特徴とする電動巻上機の監視方法。
【請求項12】
請求項11記載の電動巻上機の監視方法であって、
前記交流電流値の前記時系列データを算出することを、前記計測して得られた前記交流電流値の所定の時間区間ごとの実効値又は標準偏差値の時系列データを算出することにより行うを特徴とする電動巻上機の監視方法。
【請求項13】
請求項11記載の電動巻上機の監視方法であって、
前記交流電流値の前記時系列データを算出することを、前記計測して得られた前記交流電流値の所定の時間区間ごとの最大値又は最小値の時系列データを算出することにより行うを特徴とする電動巻上機の監視方法。
【請求項14】
請求項10記載の電動巻上機の監視方法であって、
前記電磁ブレーキ部は、前記巻上用モータと連結しているブレーキホイールと、前記ブレーキホイールに固定されたブレーキライニングと、前記ブレーキライニングに対向するブレーキディスクと、前記ブレーキディスクの前記ブレーキライニングへの押付け・解除を行うリンク機構部と、前記リンク機構部を駆動するブレーキソレノイドを備え、
前記診断部において、前記電磁ブレーキ部に供給する前記交流電流を計測して得られた前記時系列データに基づいて前記ブレーキライニングの摩耗量を推定し、前記推定した前記ブレーキライニングの前記摩耗量に基づいて前記ブレーキディスクの前記ブレーキライニングへの押付け・解除を行う前記リンク機構部の調整の回数が所定の回数に達したときに前記診断結果出力部に警報を出力することを特徴とする電動巻上機の監視方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動巻上機および電動巻上機の監視方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ホイストなどの電動巻上機は、クレーンフックに取り付けた吊荷を、モータを備えた巻上装置でワイヤーロープを巻上げることで上昇移動させ、巻下げることで下降移動させる産業機械である。ホイストのブレーキは、モータの回転軸には電磁ブレーキが装着されており、電磁ブレーキを動作させることでモータを停止させて吊荷を任意の位置で吊り下げた状態で保持することが可能となる。
【0003】
電磁ブレーキは、モータの回転軸に締結されているブレーキホイールと、ブレーキホイールに設けられているブレーキライニングに摩擦接触するブレーキディスクで構成されている。ブレーキライニングを介してブレーキホイールとブレーキディスクが密着している間はブレーキが作動している状態であり、逆に密着が解除されている間はブレーキが開放された状態となる。ブレーキディスクはブレーキレバーによって駆動される。ブレーキ機構はリンク機構でソレノイドの可動コアに締結されており、ソレノイドに電流を通電させたり通電を停止することで可動コアが移動し、リンク機構を通じてブレーキレバーも移動する。
【0004】
ホイストのブレーキは、ブレーキ動作を繰り返すことで徐々にブレーキライニングが摩耗する。ブレーキライニングの摩耗量が大きくなるにつれて、ブレーキ時にブレーキホイールとブレーキディスクの摩擦力が減少するため、吊荷を停止させる際にスリップが発生する恐れがある。そこで、定期的にブレーキ部分の点検を実施し、ライニングの摩耗量を確認することが重要となる。
【0005】
ブレーキの点検方法は、作業員によるブレーキ部品を分解して目視点検する方法や、ホイストに設置した各種センサ情報を用いてライニングの推定摩耗量を算出する方法がある。センサ情報でライニングの摩耗量を推定する手法の場合、ブレーキを開放点検する必要がないため、常時監視することが可能となる。センサ情報を用いてブレーキライニングの摩耗量を推定する手法として特許文献1に記載の技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2020/044569号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1では、「耗量推定部は、ブレーキ装置のブレーキコイルに流れる電流を検出する電流センサの出力に基づいて、ブレーキディスクの摩擦材の摩耗量を推定する」旨の記載がある。ここでの摩擦材とは、本発明におけるブレーキライニングに相当する。また、「摩擦材の摩耗量が増加すると、ブレーキ作動時のアーマチュアとフィールドコアとの距離が増加するため、アーマチュアの吸引に要する時間が長くなる」旨の記載がある。
【0008】
当該文献に記載された構成では、電流センサの出力値が直流量である(特許文献1の
図4)であるため、交流駆動の電磁ブレーキにはそのまま適用することが困難である。さらに、電磁ブレーキの駆動源が商用交流電源の場合には、動作ごとに電流の位相も異なるため、位相が異なる場合であっても同一の指標でブレーキの摩耗量が検出できる方法が望まれている。
【0009】
本発明は、上記した従来技術の課題を解決して、交流駆動の電磁ブレーキを備えた電動巻上機において、電流の位相が異なる場合であっても同一の指標でブレーキの摩耗量の検出を可能にした電動巻上機および電動巻上機の監視方向を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述の課題を解決するために、本発明では、電動巻上機を、巻上用モータと、電磁ブレーキ部と、巻上用モータと電磁ブレーキ部に電力を供給する電源部と、電磁ブレーキ部の摩耗状態を推定する診断部と、診断結果出力部とを備えて構成し、電磁ブレーキ部は、巻上用モータと連結しているブレーキホイールと、このブレーキホイールに固定されたブレーキライニングと、このブレーキライニングに対向するブレーキディスクと、ブレーキディスクのブレーキライニングへの押付け・解除を行うリンク機構部と、このリンク機構部を駆動するブレーキソレノイドを備え、診断部は、電源部から電磁ブレーキ部に供給する交流電流を計測して得られたデータに基づいてブレーキライニングの摩耗量を推定し、この推定したブレーキライニングの摩耗量に関する情報が予め設定した値を超えたときに診断結果出力部に警報を出力するようにした。
【0011】
また、上術の課題を解決するために、本発明では、電動巻上機を、巻上用モータと、電磁ブレーキ部と、巻上用モータと電磁ブレーキ部に電力を供給する電源部と、電磁ブレーキ部の摩耗状態を推定する診断部と、診断結果出力部とを備えて構成し、診断部は、電源部から電磁ブレーキ部に供給する交流電流を計測して得られた交流電流値の任意区間ごとの時系列データに基づいて電磁ブレーキ部の摩耗量を推定し、この推定した電磁ブレーキ部の摩耗量が予め設定した値を超えたときに診断結果出力部に警報を出力するようにした。
【0012】
さらに、上述した課題を解決するために、巻上用モータと、電磁ブレーキ部と、巻上用モータと電磁ブレーキ部に電力を供給する電源部とを備えた電動巻上機の監視方法において、電動巻上機は電磁ブレーキ部の摩耗状態を推定する診断部と、診断結果出力部とを更に備えて構成し、診断部は、電源部から電磁ブレーキ部に供給する交流電流を計測して得られた交流電流値の任意区間ごとの時系列データに基づいて電磁ブレーキ部の摩耗量を推定し、この推定したブレーキ部の摩耗量に関する情報が予め設定した値を超えたときに診断結果出力部に警報を出力するようにした。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、電動巻上機の電磁ブレーキの摩耗量を、高精度に推定することが可能となる。
本発明の他の課題・構成・効果は、以下の記載から明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明を適用した実施例1による診断システムの一例を示す模式図である。
【
図2】実施例1によるブレーキ作動状態を示す模式図である。
【
図3】実施例1によるブレーキ解除状態を示す模式図である。
【
図4】実施例1によるブレーキ摩耗時のブレーキ作動状態を示す模式図である。
【
図5A】実施例1によるソレノイド電流の実測結果の一例を示す模式図である。
【
図5B】実施例1による時系列データ算出部の計算結果の一例を示す模式図である。
【
図5C】実施例1によるブレーキ摩耗診断部の診断モデルの一例を示す模式図である。
【
図6】実施例1によるブレーキ摩耗診断フローを示す模式図である。
【
図7A】実施例1によるブレーキ摩耗診断の結果、異常がないことを表示する表示画面の正面図である。
【
図7B】実施例1によるブレーキ摩耗診断の結果、異常であることを表示する表示画面の正面図である。
【
図7C】実施例1によるブレーキ摩耗診断の結果、異常であることを表示する表示画面の正面図である。
【
図8】実施例2によるブレーキ自動調整機能を適用したときの構成を示す模式図である。
【
図9】実施例2によるブレーキ自動調整機能を考慮した診断結果の一例を示す模式図である。
【
図10】実施例2によるブレーキ自動調整機能を考慮した診断フローを示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、ブレーキ診断システムを備えた電動巻上機及び巻上機の監視方法に関するものである。
【0016】
詳しくは、電磁ブレーキ部を駆動する交流電流を計測する電流計測部と、この電流計測部で計測した交流電流値の任意区間ごとの時系列データを算出する時系列データ算出部と、この時系列データ算出部の値が閾値以上となる時間を算出する時間算出部と、この時間算出部で算出した時間に基づいて電磁ブレーキ部の摩耗量を推定するブレーキ摩耗量推定部とを有するブレーキ診断システムを備えた電動巻上機及び電動巻上機の監視方法に関するものである。
【0017】
本発明によるブレーキ診断システムを備えた電動巻上機によれば、電動巻上機の電磁ブレーキ部の摩耗量を高精度に推定して、適切なタイミングで電磁ブレーキ部のメンテナンスの警告を発することを可能にした。
【0018】
以下に、本発明を実施するための形態について図面を用いて詳細に説明する。本実施の形態を説明するための全図において同一機能を有するものは同一の符号を付すようにし、その繰り返しの説明は原則として省略する。
【0019】
ただし、本発明は以下に示す実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。本発明の思想ないし趣旨から逸脱しない範囲で、その具体的構成を変更し得ることは当業者であれば容易に理解される。
【実施例0020】
図1に、本実施例の電動巻上機に係るホイストの巻上用モータ10と電磁ブレーキ部60の電力系統図を示す。巻上用モータ10には、商用の3相電源100が接続されており、3相の電力が巻上用モータ10に印加されることで正転および逆転を行い、図示していない吊荷を巻上げおよび巻下げする。電磁ブレーキ部60はブレーキ機構部20、リンク機構部30、ブレーキソレノイド40を備えている。ブレーキソレノイド40への電力は、3相電源100のうち任意の2相の電流を分岐させることで供給している。
【0021】
巻上用モータ10に3相電源100から電流が通電されると、ブレーキソレノイド40にも同時に通電される。ブレーキソレノイド40に電流が通電されるとリンク機構部30を介して、ブレーキ機構部20が巻上用モータ10の回転軸を解放してブレーキが解除となるため、吊荷が巻上用モータ10の回転に伴って上昇および下降することが可能となる。
【0022】
一方、巻上用モータ10への通電が遮断されると、ブレーキソレノイド40への電流も遮断される。これによりブレーキ機構部20が作動して巻上用モータ10の回転軸が機械的にロックされて吊荷がその位置で停止した状態となる。このように、巻上用モータ10とブレーキソレノイド40の動作は連動する。電磁ブレーキ部60の詳細な動作については後述する。
【0023】
次に、本実施例に係る診断装置50の構成を説明する。診断装置50は、時系列データ算出部52と、時間算出部53,ブレーキ摩耗量推定部54を備え、ブレーキ摩耗量推定部54で推定したブレーキ摩耗に関する情報は、診断結果出力部55に出力される。
【0024】
図1において、ブレーキソレノイド40に流れる交流電流を計測するために、電線に電流センサ51を設置する。時系列データ算出部52では、電流センサ51で計測した交流電流を任意区間毎に分割して実効値ないしは標準偏差値を計算してその時系列データを算出する。時間算出部53では、時系列データ算出部52で算出した時系列データの値がある閾値以上となる時間を診断特徴量として算出する。ブレーキ摩耗量推定部54では、時間算出部53で抽出した診断特徴量に基づいてブレーキの摩耗量を推定する。推定した結果は、例えば診断結果出力部55に表示される。なお、各計算方法の詳細については後述する。
【0025】
図2を用いて、電磁ブレーキ部60の構成と、電磁ブレーキ部60が作動(ブレーキソレノイドが無通電状態)するときの動作について述べる。電磁ブレーキ部60のブレーキ機構部20は、ブレーキホイール21,ブレーキライニング22、ブレーキディスク23,突起部23b、ブレーキレバー24を備えている。リンク機構部30は、駆動ロッド31,駆動リンク32,駆動リンク32の支点33,ブレーキばね34を備えている。ブレーキソレノイド40は、コイル41、可動コア42、調整ねじ44を備えている。また、ブレーキばね34の一端、コイル41、調整ねじ44は、ブレーキスタンド43に支持されている。
【0026】
同図に示すように、巻上用モータ10の回転軸12がモータケース11から露出している部分には、ブレーキ機構部20のブレーキホイール21が取り付けられている。また、ブレーキホイール21に対向するように、移動可能なブレーキディスク23が設けられている。ブレーキホイール21には、ブレーキライニング22が設けられており、ブレーキディスク23がリンク機構部30によりブレーキホイール21に押し付けられる場合に、ブレーキディスク23とブレーキライニング22との間に摩擦力が作用して巻上用モータ10の回転軸12をロックすることが可能となる。なお、本実施例では、ブレーキホイール21とブレーキディスク23がそれぞれ1枚の場合を例として説明したが、ブレーキホイール21とブレーキディスク23の枚数は任意の枚数とすることが可能である。
【0027】
次にブレーキディスク23の動作について述べる。ブレーキディスク23には、突起部23bが設けられている。ブレーキレバー24は調整ねじ44との接触面を支点として揺動自在となっている。ブレーキレバー24の調整ねじ44と接触する側とは反対側に駆動ロッド31が取り付けられている。ブレーキレバー24はブレーキディスク23の中心部に設けられた突起部23bにも接触している。
【0028】
駆動ロッド31には圧縮型のブレーキばね34が装着されており、ブレーキソレノイド40が作動していないときには、ブレーキばね34の弾性力によって図示していない直線ガイド機構にガイドされ矢印方向に押されてブレーキディスク23の方向に押し付けられる。その結果、ブレーキレバー24は調整ねじ44との接触点を支点として
図2で反時計回りに回動し、突起部23bを介してブレーキディスク23をブレーキホイール21側に押し付けてブレーキが作動した状態となる。
【0029】
図3を用いて、ブレーキが解除(ブレーキソレノイド40が通電状態)されるときの動作について述べる。同図に示すように、駆動ロッド31には駆動リンク32が接続されており、駆動リンク32のもう一端はブレーキソレノイド40の可動コア42に接続されている。。可動コア42は、コイル41に沿って図の上下方向に往復動する。
【0030】
すなわち、コイル41に通電していない状態では、ブレーキばね34でブレーキディスク23の側に押し出された駆動ロッド31と駆動リンク32で接続されている可動コア42は、
図2に示したようにコイル41から距離Sだけ浮いた状態になっている。
【0031】
一方、コイル41に通電すると可動コア42が吸引されて
図3に示すような状態になり、駆動リンク32を介して駆動ロッド31をブレーキディスク23とは反対方向(矢印の方向)に移動する。このとき、駆動ロッド31がひきつけられる力がブレーキばね34の弾性力を上回るタイミングで駆動ロッド31が矢印方向への移動を開始する。これにより、ブレーキレバー24による突起部23bの押し付けが解放されブレーキホイール21とブレーキディスク23の密着が解除されて、ブレーキが開放状態となる。
【0032】
なお、コイル41と可動コア42で構成されるブレーキソレノイド40と、駆動ロッド31と駆動リンク32とブレーキばね34で構成されるリンク機構部30と、調整ねじ44は、ブレーキスタンド43に固定されている。
【0033】
図4を用いて、ブレーキが摩耗したときの状態について述べる。ブレーキを繰り返し使用することで、ブレーキホイール21とブレーキディスク23との間に設けられているブレーキライニング22が摩耗する。ブレーキライニング22の摩耗量をdとすると、ブレーキホイール21とブレーキディスク23とのギャップはG-d(健全なときのギャップGとする)となる。その結果、突起部23bの位置も摩耗量dだけブレーキホイール21側に移動するため、ブレーキを作動させるためには、ブレーキレバー24と駆動ロッド31が正常時よりもブレーキライニング22の摩耗量dに対応する分前進した位置となる。
【0034】
このときの駆動ロッド31の前進量をd´(ブレーキライニング22の摩耗量dに依存)とすると、駆動リンク32を介して結合されている可動コア42のストローク量はS+d‘’(健全なときのストローク量Sとする)となる。
【0035】
ブレーキが摩耗したときにリンク機構部30に及ぼす影響について述べる。ブレーキライニング22がdだけ摩耗することで、ブレーキ作動時の駆動ロッド31の位置がd´前進するため、ブレーキばね34のストロークが伸びてブレーキばね34の弾性力が低下する。これにより、ブレーキばね34で押された駆動ロッド31によりブレーキレバー24を介してブレーキディスク23を押し付ける力も低下する。
【0036】
ブレーキライニング22の摩耗量がある所定値を超えると、ブレーキライニング22とブレーキディスク23との間でスリップが発生する恐れがある。そこで、このスリップの発生を防ぐために、スリップが発生する前に電磁ブレーキ部60の調整を行えるようにするためのブレーキライニング22の摩耗量を推定する方法の一例を示す。
【0037】
図5Aは、ブレーキソレノイド40のコイル41に流れる交流電流(以下、ソレノイド電流と呼称)の時間変化を計測した結果を示すグラフである。501の時間は、コイル41に電流が流れ始めた直後で電流が安定するまでの過渡期間、502の時間は、コイル41に流れる電流が一定になった静定期間を示している。
【0038】
図5Bには、
図5Aのグラフのソレノイド電流の任意区間t
dltの標準偏差値STを時系列で表したグラフである。標準偏差値STは、コイル41に通電した直後に波形511に示すように大きく上昇する。その後、ソレノイド電流が安定するのに伴って標準偏差値STも波形512に示すように一定値に収束する。
【0039】
ここで任意区間tdltの長さは、3相電源100からブレーキソレノイド40のコイル41に流れる交流電流の1周期以上の長さであればよい。
【0040】
標準偏差値STが閾値510よりも大きくなる時間幅をT
fとしたとき、時間幅T
fとブレーキライニング22の摩耗量との関係を実測した結果の一例を
図5C示す。同図に示すように、ブレーキライニング22の摩耗量が増加するにつれて時間幅T
fが増加する傾向を示すことが分かる。これは、ブレーキライニング22の摩耗量が増加すると、ブレーキソレノイドの可動コア42のストローク量が増加し、それに伴い無通電状態から可動コア42の吸引が完了するまでの時間(
図5Aの時間501に相当)も増加するためである。
【0041】
ここで、正常範囲の時間幅Tfを予め実験的に求めておき、正常範囲の時間幅Tfをt2と定義すると、時間幅Tf≧t2となったタイミングを検出することで、電磁ブレーキ部60が正常の動作する限界を予知することができ、異常を発報することができる。
【0042】
なお、
図5Bでは任意区間の標準偏差値から閾値よりも大きくなる時間を求めて異常を検出する例について説明したが、標準偏差値に替えて、ソレノイド電流の任意区間ごとの最大値ないしは最小値の時系列データを用いて異常を検出するようにしてもよい。
【0043】
本実施例は、上記した新たな見解に基づくものであり、ブレーキライニング22の摩耗量を推定し診断して、異常事態が発生する前に異常(電磁ブレーキのメンテナンス時期)を予知して発報することを可能にしたものである。
【0044】
図6に本実施例によるブレーキの摩耗を診断するフローを示す。
S101では、ブレーキソレノイドのコイル41に流れる交流電流(以下、ソレノイド電流と呼称)を電流センサ51で計測して、診断装置50の時系列データ算出部52において
図5Aに示したようなデータを取得する。電流センサ51を電線にクランプして計測する方法のほか、既設の電流計測手段(例えば、インバータの制御に用いるための電流センサなど)で計測した値を用いる方法がある。
【0045】
S102では、S101で取得したデータに基づいて時系列データ算出部52においてソレノイド電流の任意区間t
dltの標準偏差値STを計算して
図5Bに示したような標準偏差値STの時系列データを得る。。同図に示すように、標準偏差値STは、コイル41に通電した直後に大きく上昇する。その後、ソレノイド電流が安定するのに伴って標準偏差値STも一定値に収束する。
【0046】
S103では、時系列データ算出部52で算出したソレノイド電流の任意区間tdltの標準偏差値STに基づいて、時間算出部53において標準偏差値STが予め設定した閾値以上となる時間幅Tfを算出する。閾値は標準偏差値STが収束する一定値よりも大きな値を設定する。
【0047】
S104では、時間算出部53におい算出した標準偏差値STが予め設定した閾値以上となる時間幅T
fに基づいて、ブレーキ摩耗量推定部54において時間幅T
fが正常範囲かどうかを判定する。
図5Cで説明したように、ブレーキライニング22の摩耗量が増加するにつれて時間幅T
fが増加する傾向を示すことに基づいて、正常範囲の時間幅T
f<t
2と定義すると、S104では、時間幅T
f<t
2の場合は時間幅T
fが正常範囲である(Yes)と判定し、時間幅T
f≧t
2となったタイミングで異常(No)と判定する。
【0048】
S104で時間幅T
fが正常範囲である(Yes)と判定した場合は、S105に進み、診断結果出力部55において
図7Aに示すように、表示画面551のブレーキ摩耗診断結果表示領域552の表示部553に「正常」を表示し、次にS107に進んで計測を継続するか否かを判定する。S107でYesの場合はS101に戻って計測を継続し、Noの場合には計測を終了する。
【0049】
一方、S104で時間幅T
fが異常である(No)と判定した場合は、S106に進み、診断結果出力部55において
図7Bに示すように、表示画面551のブレーキ摩耗診断結果表示領域552の表示部553に「異常」を表示し、電磁ブレーキのメンテナンスの警告を発して計測を終了する。この時、表示部553に「異常」を表示するとともに、診断結果出力部55から警報音を発報するようにしてもよい。また、
図7Bの表示に替えて、
図7Cに示すように、「ブレーキライニング交換」などのような、異常対策の具体的な内容を表示するようにしてもよい。
【0050】
本実施例によれば、ブレーキソレノイド40のコイル41に流れる交流電流(ソレノイド電流)を常時計測しておくことでブレーキライニング22の摩耗量を推定し診断することが可能となり、適切なタイミングで電動巻上機の電磁ブレーキのメンテナンスの警告を発することが可能になった。
ホイストには、ブレーキの摩耗量が一定以上進行した場合に、駆動ロッド31の押し付け力を自動調整機能が搭載されている場合がある。そのため、本実施例においては、自動調整機能が搭載されている場合のブレーキ摩耗診断方法について述べる。
これにより、過度な頻度でメンテナンスする必要がなくなるため、保守費の抑制やダウンタイムコストの削減に貢献することができる。また、定期メンテナンスの場合と異なり、ブレーキの摩耗が急激に進展した場合で合っても、ブレーキの摩耗を随時診断すること可能であるため、ホイストのブレーキが故障することで発生するダウンタイムコストの削減にも貢献できる。
また、ここまで説明したブレーキはホイストの巻上用モータのブレーキに適用した事例について説明したが、横行部や走行部に用いられているブレーキにも適用することが可能となる。さらに、同様の駆動原理で動作する電磁ブレーキであれば、ホイストや巻上機に限ることなく本技術を適用することが可能となる。
以上、本発明者によってなされた発明を実施例に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。