(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023055377
(43)【公開日】2023-04-18
(54)【発明の名称】ボールペンレフィル、及びボールペン
(51)【国際特許分類】
B43K 7/02 20060101AFI20230411BHJP
【FI】
B43K7/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021164708
(22)【出願日】2021-10-06
(71)【出願人】
【識別番号】390039734
【氏名又は名称】株式会社サクラクレパス
(74)【代理人】
【識別番号】100100480
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 隆
(72)【発明者】
【氏名】富田 尚利
【テーマコード(参考)】
2C350
【Fターム(参考)】
2C350GA03
2C350NC04
2C350NC20
(57)【要約】
【課題】レフィル表面の滑り性が良好で取扱い性が高く、かつインキ内の気泡抑制に優れるボールペンレフィルを提供する。
【解決手段】ボールペンレフィル1は、円筒状のインキ収容筒2と、インキ収容筒2の先端部に装着されたボールペン用チップ3と、インキ収容筒2内に収容されたインキ5とを備えている。インキ収容筒2はポリオレフィン製である。インキ収容筒2は、インキ5が充填されており、かつボールペン用チップ3とインキ5との接触面6を含む領域であって、外周面にポリ塩化ビニリデンからなる円筒状の被覆層10が設けられた第一領域11と、第一領域11以外の領域であって、外周面に被覆層10が設けられていない第二領域12とを有する。被覆層10の厚みは13μm以上、第一領域11の軸方向の長さは5mm以上である。第二領域12の軸方向の長さはインキ収容筒2の全長の少なくとも50%を占めている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状のインキ収容筒と、前記インキ収容筒の先端部に装着されたボールペン用チップと、前記インキ収容筒内に収容されたインキとを備えたボールペンレフィルであって、
前記インキ収容筒はポリオレフィン製であり、
前記インキ収容筒は、
前記インキが充填されており、かつ前記ボールペン用チップと前記インキとの接触面を含む領域であって、外周面にポリ塩化ビニリデンからなる円筒状の被覆層が設けられた第一領域と、
前記第一領域以外の領域であって、外周面に前記被覆層が設けられていない第二領域とを有し、
前記被覆層の厚みは13μm以上であり、
前記第一領域の軸方向の長さは5mm以上であり、
前記第二領域の軸方向の長さは、前記インキ収容筒の全長の少なくとも50%を占めていることを特徴とするボールペンレフィル。
【請求項2】
前記ポリオレフィンは、ポリプロピレンであることを特徴とする請求項1に記載のボールペンレフィル。
【請求項3】
前記被覆層の厚みは、前記インキ収容筒の肉厚の0.03倍~0.2倍であることを特徴とする請求項1又は2に記載のボールペンレフィル。
【請求項4】
前記被覆層の厚みは、110μm以下であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のボールペンレフィル。
【請求項5】
前記インキは、20℃で、せん断速度1s-1として測定した粘度が0.05Pa・s~8Pa・sの水性インキであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載のボールペンレフィル。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載のボールペンレフィルを備えたことを特徴とするボールペン。
【請求項7】
ノック式ボールペンであることを特徴とする請求項6に記載のボールペン。
【請求項8】
前記ボールペンレフィルを複数備え、前記ボールペンレフィルを選択的に出没させる複式筆記具であることを特徴とする請求項6又は7に記載のボールペン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボールペンレフィル及びボールペンに関する。本発明のボールペンレフィルは、レフィル表面の滑り性が良好で取扱い性が高く、かつインキ内の気泡抑制に優れるものである。
【背景技術】
【0002】
ボールペンに装着されるレフィル(ボールペンレフィル)として、例えば、ポリオレフィン製のインキ収容筒の内部にインキが収容され、先端部にボールペン用チップが装着されたものが公知である。
【0003】
ボールペンレフィルにおいては、収容されているインキの溶媒の蒸発防止や、インキの劣化防止等を目的として、インキ収容筒のガスバリア性を高める方策が検討されている。特許文献1には、筆記具用インク(インキ)を収容するためのインク収容管において、インク収容管の全面に、ガス透過性の低い樹脂からなるバリア樹脂層を設ける構成が記載されている。特許文献2には、ポリプロピレン製の軸本体を使用した塗布具において、軸本体の表面に、ガスバリア性を備えたラベル、シール、又は収縮フィルムを設けた構成が記載され、当該塗布具としてボールペンが例示されている。特許文献3には、ボールペンのチップホルダー部分にガス透過性の低い樹脂層を設ける構成が記載されている。特許文献1~3のいずれの方策においても、インキが収容等される部材のガスバリア性を高めることにより、インキ(溶媒)の蒸発防止、インキの劣化防止といった効果が得られている。ガスバリア性を付与する材料としては、ポリ塩化ビニリデンが挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-31077号公報
【特許文献2】特開平9-141180号公報
【特許文献3】特開2013-136165号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ボールペンにおいては、ボールペンレフィル内のインキに気泡が生じると、筆記時にカスレが生じる原因となる。そのため、インキ内の気泡をできるだけ抑える方策が求められる。ここで、インキ内に気泡が生じる原因の一つとして、レフィル外部から空気が侵入することが考えられる。例えば、インキ収容筒とチップとの接続部分から空気が侵入し、インキ内に気泡を生じさせることが考えられる。その他、インキ収容筒がポリオレフィン等のガス透過性材料からなる場合には、インキ収容筒の表面から空気が侵入することが考えられる。
【0006】
レフィル内に空気の侵入することを防ぐためには、インキ収容筒とチップとの接続をより強固なものとしたり、インキ収容筒自体をガスバリア性にすることが考えられる。しかし、そのような方策によれば、レフィル自体の取扱い性が損なわれるおそれがある。例えば、ポリ塩化ビニリデンの被覆層をインキ収容筒全体に設けると、優れたガスバリア性を得ることはできるが、インキ収容筒の滑り性が悪くなり、レフィル自体の取扱い性が低下する。
【0007】
そこで本発明は、レフィル表面の滑り性が良好で取扱い性が高く、かつインキ内の気泡抑制に優れるボールペンレフィルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、ボールペンレフィルのインキ内に気泡が生じる機構として、「気泡の発生」と「気泡の成長」の2つの段階があると考えた。まず気泡の発生は、主に物理的衝撃によって起こると考えた。例えば、ノック式ボールペンにおいて、ノック時の衝撃によってレフィルの先端部分にキャビテーションが生じ、微小な気泡が発生することとなる。また気泡の発生は、チップの近傍で起こりやすい。一方、気泡の成長は、主にレフィル表面から空気が侵入することによって起こると考えた。すなわち、インキ収容筒がガス透過性材料からなる場合には、レフィル表面から空気が侵入し、発生した微小な気泡に空気が供給され、気泡が成長する。そして本発明者は、この機構を考慮して、レフィルにガスバリア性を付与する領域を限定し、インキ内の気泡抑制とレフィル自体の高い取扱い性を両立するボールペンレフィルを提供することに成功した。
【0009】
本発明の一つの態様は、円筒状のインキ収容筒と、前記インキ収容筒の先端部に装着されたボールペン用チップと、前記インキ収容筒内に収容されたインキとを備えたボールペンレフィルであって、前記インキ収容筒はポリオレフィン製であり、前記インキ収容筒は、前記インキが充填されており、かつ前記ボールペン用チップと前記インキとの接触面を含む領域であって、外周面にポリ塩化ビニリデンからなる円筒状の被覆層が設けられた第一領域と、前記第一領域以外の領域であって、外周面に前記被覆層が設けられていない第二領域とを有し、前記被覆層の厚みは13μm以上であり、前記第一領域の軸方向の長さは5mm以上であり、前記第二領域の軸方向の長さは、前記インキ収容筒の全長の少なくとも50%を占めていることを特徴とするボールペンレフィルである。
【0010】
本態様のボールペンレフィルは、ポリオレフィン製のインキ収容筒を有するものである。そしてインキ収容筒が、ポリ塩化ビニリデンからなる被覆層が設けられた上記第一領域と、被覆層が設けられていない上記第二領域、とを有している。さらに、被覆層の厚みと第一領域の軸方向の長さの下限値が特定され、かつ第二領域がインキ収容筒の全長の少なくとも50%を占めている。本態様では、ガスバリア性を有する第一領域が、気泡の発生が起こりやすいボールペン用チップとインキとの接触面を含む領域(すなわち、レフィルの先端部分)に設けられているので、空気の侵入による気泡の成長を効率よく抑制することができる。また本態様では、ポリ塩化ビニリデンの被覆層を有さない第二領域がインキ収容筒の全長の少なくとも50%を占めている。そのため、レフィル表面の滑り性が確保されている。これにより、複数のレフィル同士が接触するような場面(例えば、レフィルの製造時)や、レフィルと他部材が接触するような場面(例えば、複式筆記具におけるレフィルの前後移動時)においても、無用に引っ掛かることが無い。本態様によれば、インキ内の気泡抑制と取扱い性の両方に優れたボールペンレフィルを提供することができる。
【0011】
好ましくは、前記ポリオレフィンは、ポリプロピレンである。
【0012】
好ましくは、前記被覆層の厚みは、前記インキ収容筒の肉厚の0.03倍~0.2倍である。
【0013】
好ましくは、前記被覆層の厚みは、110μm以下である。
【0014】
好ましくは、前記インキは、20℃で、せん断速度1s-1として測定した粘度が0.05Pa・s~8Pa・sの水性インキである。
【0015】
本発明の別の態様は、上記いずれかのボールペンレフィルを備えたことを特徴とするボールペンである。
【0016】
好ましくは、前記ボールペンはノック式ボールペンである。
【0017】
好ましくは、前記ボールペンは、前記ボールペンレフィルを複数備え、前記ボールペンレフィルを選択的に出没させる複式筆記具である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、レフィル表面の滑り性が良好で取扱い性が高く、かつインキ内の気泡抑制に優れるボールペンレフィルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の一実施形態に係るボールペンレフィルの構成を表す断面図であり、(a)はボールペンレフィル全体を表し、(b)はインキとボールペン用チップとの接触面を含む部分を拡大して表している。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、発明の理解を容易にするために、各図面において、各部材の大きさや厚みについては一部誇張して描かれており、実際の大きさや比率等とは必ずしも一致しないことがある。また以下の説明における上下方向と左右方向は、
図1の姿勢を基準とする。
図1の左側がボールペンレフィルの先端側、右側がボールペンレフィルの後端側に相当し、左右方向が軸方向に相当する。また、
図1ではハッチングを一部省略している。
【0021】
図1(a)に示す本発明の一実施形態に係るボールペンレフィル(以下、レフィルと略記する)1は、インキ収容筒2と、インキ収容筒2の先端部に装着されたボールペン用チップ(以下、チップと略記する)3と、インキ収容筒2内に収容されたインキ5とを基本構成として備えるものである。
【0022】
インキ収容筒2は、インキ5を収容するための部材であり、レフィル1の大部分を占めている。インキ収容筒2は細長い円筒状である。またインキ収容筒2は細長の管であり、その内部は空洞である。
インキ収容筒2の軸方向の長さLは60~100mm程度、肉厚は0.3~0.8mm程度、内径は1.0~5.0mm程度である。
インキ収容筒2はポリオレフィン製であり、ガス透過性を有する。ポリオレフィンの具体例としては、ポリプロピレン、ポリエチレン、等が挙げられる。
【0023】
チップ3はインキ収容筒2の先端部に装着されている。具体的には、インキ収容筒2の一方の端部にチップ3の一部が挿入され、接合されている。チップ3の中には筆記用ボール(図示せず)が回転可能に保持されており、インキ収容筒2内のインキ5を筆記用ボールに導き、筆記用ボールの回転に応じてインキ5を紙等に付着させる。チップ3は、例えばステンレススチール等の金属からなる一般的なものである。
図1(a)(b)ではチップ3の断面は描いていない。
【0024】
インキ5はインキ収容筒2に収容されている。インキ5はインキ収容筒2の全長の60~80%を占めるように充填されている。インキ5の先端はチップ3の後端と接触し、接触面6を構成している。インキ5は、油性インキ、水性インキのいずれでもよい。1つの実施形態では、インキ5は、20℃で、せん断速度1s-1として測定した粘度が0.05Pa・s~8Pa・sの水性インキである。
インキ5の後端には、インキ5の蒸発防止用の逆流防止剤8が収容されている。
【0025】
インキ収容筒2の外周面には、ポリ塩化ビニリデンからなる円筒状の被覆層10が設けられている。
図1(a)に示すように、被覆層10は、インキ収容筒2の先端から中央付近までの領域に設けられており、インキ収容筒2の全体には設けられていない。
被覆層10の厚みは13μm以上である。厚みが13μm未満であると、被覆層10のガスバリア性が低く、気泡の成長を十分抑制できないおそれがある。被覆層10の厚みの上限は特になく、インキ収容筒2の肉厚等に応じて適宜選択すればよい。上限の一例として、110μmを挙げることができる。
また、被覆層の厚みは、インキ収容筒の肉厚の0.03倍~0.2倍に設定することができる。
【0026】
被覆層10を構成するポリ塩化ビニリデンには、塩化ビニリデンの単独重合体と塩化ビニリデンを主体とする共重合体の両方が含まれるが、塩化ビニリデンを主体とする共重合体であることが好ましい。塩化ビニリデンを主体とする共重合体の例としては、塩化ビニリデン-塩化ビニル共重合体、塩化ビニリデン-アクリロニトリル共重合体、塩化ビニリデン-メタクリル酸共重合体、塩化ビニリデン-アクリレート共重合体、塩化ビニリデン-メタクリレート共重合体、塩化ビニリデン-酢酸ビニル共重合体、等が挙げられる。
【0027】
インキ収容筒2は、その軸方向に沿って区分された第一領域11と第二領域12を有する。
図1(a)に示すように、第一領域11は、インキ5が充填されている領域であって、インキ5とチップ3の後端との接触面6(
図1(b)参照)を含み、かつ被覆層10が設けられている領域である。第一領域11はガスバリア性を有するので、気泡の成長抑制に寄与する領域である。第一領域11の軸方向の長さL1が大きいほど、気泡の成長抑制効果が高くなる。
図1(a)に示すように、第二領域12は、第一領域11以外の領域であって、被覆層10が設けられていない領域である。第二領域12は被覆層10(ポリ塩化ビニリデン)を有さないので、主にレフィル1の滑り性に寄与する部分である。第二領域12の軸方向の長さL2が大きいほど、レフィル1の滑り性が高くなる。
なお、インキ収容筒2の先端から接触面6までの領域は、被覆層10が設けられているが、インキ5が充填されていないので、第一領域11には含まれない。
【0028】
本実施形態では、第一領域11の軸方向の長さL1が5mm以上である。L1が5mm以上あれば、特に気泡が発生しやすいレフィル1の先端部分であっても、空気の侵入を十分に防ぐことができ、気泡の成長を十分に抑制することができる。
L1の上限は、後述する第二領域12を確保できる範囲であれば特に制限はない。
【0029】
本実施形態では、第二領域12の軸方向の長さL2は、インキ収容筒2の全長Lの少なくとも50%を占めている。換言すれば、第二領域12の軸方向の長さL2がインキ収容筒2の全長Lに占める割合は、50%以上である。当該割合は、好ましくは55%以上、より好ましくは60%以上、さらに好ましくは70%以上、特に好ましくは80%以上、である。当該割合の上限は、前述した第一領域11を確保できる範囲であれば特に制限はない。
【0030】
本実施形態のボールペンレフィル1は、ノック式ボールペン、キャップ式ボールペンのいずれにも適用できるが、ノック時の物理的衝撃によりインキ5に気泡が発生しやすいノック式ボールペンに適用すると、より効果を発揮する。
【0031】
また本実施形態のボールペンレフィル1は、複数のボールペンレフィルを選択的に出没させる複式筆記具(多色ボールペン)にも好適に使用される。すなわち、複数のボールペンレフィルを備えた複式筆記具は、通常、複数の貫通孔を有するガイド部材を含む。そして、各貫通孔に各ボールペンレフィルを貫通させることにより、ガイド部材を、ボールペンレフィルを前後に移動させるためのガイドとして機能させる。複式筆記具に本実施形態のボールペンレフィル1を適用すると、インキ内の気泡抑制を実現できるとともに、ボールペンレフィル1が前後移動する際に、ガイド部材に対する引っ掛かりが小さく、よりスムーズな前後移動を実現できる。
【実施例0032】
1.インキの調製
下記の組成(単位:重量部)からなるボールペン用インキを調製した。
<組成>
防腐・防カビ剤:0.44
水溶性有機溶剤:6.00
イオン交換水:68.26
増粘剤:0.26
安息香酸ソ-ダ:0.26
苛性ソーダ:0.34
リン酸系界面活性剤:0.75
湿潤剤:14.0
カ-ボンブラック:8.01
分散剤:1.60
防錆剤:0.08
【0033】
2.ボールペンレフィルの作製
ポリ塩化ビニリデンをテトラヒドロフラン(THF)に溶解させ、ポリ塩化ビニリデンの20%溶液を調製した。インキ収容筒として、円筒状のポリプロピレン製パイプ(全長(L)85mm、内径1.6mm、肉厚0.5mm)を準備した。前記溶液に、パイプを先端から所定の位置まで浸漬し、直ちにパイプを取り出し、1分間乾燥した。この操作を繰り返すことにより、所望の厚みを有する被覆層を得た(コーティング)。顕微鏡を用いてコーティング前後のパイプ径を測定し、差分を被覆層の厚みとした。厚み測定は任意の3点で行い、平均値を算出した。これにより、所定の長さと厚みを有するポリ塩化ビニリデンの被覆層が設けられた。
【0034】
パイプの先端にボールペン用チップを挿入して装着した(挿入深さ5mm)。パイプに上記インキを充填し、さらに、インキの後端に逆流防止剤を充填した。遠心処理により、インキと逆流防止剤をチップ側に寄せ、ボールペンレフィルとした。表1に示す、第一領域/第二領域の長さと被覆層の厚みが異なる複数種のボールペンレフィルを、各々5本作製した。
【0035】
3.気泡発生率の評価方法
作製したボールペンレフィルをノック式ボールペン本体(バネ圧縮荷重70gf)に装着し、10℃の条件下で10回ノックした。ボールペンレフィルを本体から外し、50℃で3日間保存した。保存後、X線照射観察により、気泡が発生した本数を数えた。試験に使用した本数(5本)に対する気泡が発生した本数の割合を気泡発生率(%)とした。
【0036】
4.滑り性の評価方法
各々のボールペンレフィルに対応するポリプロピレン製パイプ(チップ未装着、インキ未充填)を20本準備した。内10本のパイプを、端面を揃えて隙間なく平行に並べて簾状とし、平滑な板の上に両面テープで固定した(パイプ列A)。同様に、残り10本のパイプを、端面を揃えて隙間なく平行に並べて簾状とし、崩れないように一方の表面をセロハンテープで固定した(パイプ列B)。水平な台の上に、平滑な板が底面、パイプが天面となるようにパイプ列Aを置いた。この水平姿勢のパイプ列Aの上に、パイプ同士が対向するようにパイプ列Bを乗せた。この際、パイプ列Aの各パイプ間の溝部分にパイプ列Bの各パイプが嵌るように重ね、かつパイプ列Aとパイプ列Bの第一領域同士、第二領域同士が接触するようにした。さらに、パイプ列Bの天面(セロハンテープを貼付した面)に20gの重りを乗せた。パイプ列Aの後端面(各パイプの第二領域側の端面が揃っている側)を支点とし、パイプ列Aの前端側(第一領域側、被覆層側)を持ち上げて水平姿勢から徐々に傾けて、パイプ列Bが軸方向に滑り出すときの角度(滑り出し角)をもって、滑り性を評価した。滑り出し角が20度以下である場合を「滑り性:良」、20度超である場合を「滑り性:不良」とした。
【0037】
5.結果
結果を表1に示す。
被覆層の厚みが15μm以上、第一領域の長さL1が5mm以上、かつ第二領域が全長に占める割合(L2/L×100)が53%以上である実験例1~6では、気泡発生率が0%で気泡発生が抑えられており、かつレフィル同士の滑り性も良好であった(評価:〇)。
被覆層を設けなかった実験例7では、滑り性は良好であったが、気泡発生率が100%であり、気泡の発生を抑えられなかった(評価:×)。
被覆層の厚みが10μm、第一領域の長さL1が35mm、かつ第二領域が全長に占める割合が53%である実験例8では、滑り性は良好であったが、気泡発生率が100%であり、気泡の発生を抑えられなかった(評価:×)。
被覆層の厚みが10μm、第一領域の長さL1が75mm、かつ第二領域が全長に占める割合が5.9%である実験例9では、気泡発生率が100%であり、気泡の発生を抑えられなかった。さらに、レフィル同士の滑り性も不良であった(評価:×)。
被覆層の厚みが10μm、第一領域の長さL1が55mm、かつ第二領域が全長に占める割合が29%である実験例10では、気泡発生率が100%であり、気泡の発生を抑えられなかった。さらに、レフィル同士の滑り性も不良であった(評価:×)。
【0038】
以上より、被覆層の厚みが13μm程度以上、かつ第一領域の長さL1が5mm以上であれば、気泡の発生が高度に抑制できることが示された。また、第二領域が全長に占める割合が50%程度以上であれば、高い滑り性を確保できることが示された。
【0039】