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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023055378
(43)【公開日】2023-04-18
(54)【発明の名称】レーザ増幅器及びレーザ増幅システム
(51)【国際特許分類】
   H01S 3/10 20060101AFI20230411BHJP
   H01S 3/094 20060101ALI20230411BHJP
   H01S 3/042 20060101ALI20230411BHJP
【FI】
H01S3/10 D
H01S3/094
H01S3/042
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021164709
(22)【出願日】2021-10-06
(71)【出願人】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】永田 毅
(72)【発明者】
【氏名】緒方 大志
(72)【発明者】
【氏名】井上 和行
(72)【発明者】
【氏名】馬庭 裕二
【テーマコード(参考)】
5F172
【Fターム(参考)】
5F172AL04
5F172EE13
5F172NN20
5F172NR28
5F172NS03
5F172NS05
(57)【要約】
【課題】レーザ増幅器の構成を簡易にしつつ、増幅媒質の蓄積エネルギーをシードレーザに効率よく与える。
【解決手段】レーザ増幅器10は、増幅媒質11によってシードレーザSを増幅させる。増幅媒質11は、シードレーザSが入射するシード入射面12と、増幅媒質11を通過するシードレーザSの進行方向Lにおいてシード入射面12とは反対側に配置され且つシードレーザSが出射するシード出射面13と、進行方向Lに垂直な横断面11aにおける径方向Rの外側に配置された外周面14と、を含む。外周面14のうちの第1側面14aには、励起レーザEが入射する励起入射部15が設けられている。増幅媒質11を通過するシードレーザSのビーム形状は、扁平形状である。シードレーザSは、シード入射面12とシード出射面13との間を往復することなく、増幅媒質11を通過する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
増幅媒質によってシードレーザを増幅させるレーザ増幅器であって、
前記増幅媒質は、前記シードレーザが入射するシード入射面と、前記増幅媒質を通過する前記シードレーザの進行方向において前記シード入射面とは反対側に配置され且つ前記シードレーザが出射するシード出射面と、前記進行方向に垂直な横断面における径方向の外側に配置された外周面と、を含み、
前記外周面のうちの少なくとも一部には、励起レーザが入射する励起入射部が設けられており、
前記増幅媒質を通過する前記シードレーザのビーム形状は、扁平形状であり、
前記シードレーザは、前記シード入射面と前記シード出射面との間を往復することなく、前記増幅媒質を通過する、レーザ増幅器。
【請求項2】
請求項1に記載のレーザ増幅器であって、
前記シード入射面及び前記シード出射面は、それぞれ、前記シード入射面と前記シード出射面との対向方向において互いに対向しない部分を含む、レーザ増幅器。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のレーザ増幅器であって、
前記外周面における前記励起入射部に対向する部分には、前記励起レーザを反射する反射膜が設けられている、レーザ増幅器。
【請求項4】
請求項3に記載のレーザ増幅器であって、
前記シードレーザは、前記増幅媒質における前記反射膜側よりも前記励起入射部側を通過する、レーザ増幅器。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1つに記載のレーザ増幅器であって、
前記外周面のうちの少なくとも一部には、前記増幅媒質を冷却する冷却部が設けられている、レーザ増幅器。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1つに記載のレーザ増幅器であって、
前記シードレーザは、ブリュースタ角で前記シード入射面に入射する、レーザ増幅器。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1つに記載のレーザ増幅器であって、
前記増幅媒質は、前記進行方向を長手方向とする直方体状に形成されている、レーザ増幅器。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1つに記載のレーザ増幅器と、
前記シードレーザを出射するシードレーザ出射部と、
前記励起レーザを出射する励起レーザ出射部と、を備える、レーザ増幅システム。
【請求項9】
請求項8に記載のレーザ増幅システムであって、
前記増幅媒質よりも上流側に配置され、前記シードレーザのビーム形状を扁平形状にするための集光レンズを備える、レーザ増幅システム。
【請求項10】
請求項8又は9に記載のレーザ増幅システムであって、
前記励起レーザ出射部から出射される前記励起レーザのパルス幅は、前記増幅媒質の蛍光寿命以上であり、
前記励起レーザのパルスエンドの直前に、前記シード入射面に前記シードレーザが入射されるように、前記シードレーザ出射部を制御する制御部を備える、レーザ増幅システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、レーザ増幅器及びレーザ増幅システムに関する。
【背景技術】
【0002】
増幅媒質によってシードレーザを増幅させるレーザ増幅器がある。特許文献1に開示の光増幅装置(レーザ増幅器)は、増幅媒質と、2つの反射ミラーと、を備える。増幅媒質は、互いに反対側に位置する入射面及び出射面を有する。レーザ発振器から放出されるシードレーザは、増幅媒質の入斜面に入射するとともに、増幅媒質の出射面から出射する。増幅媒質は、2つの反射ミラーの間に配置されている。
【0003】
シードレーザは、2つの反射ミラーによって、入射面と出射面との間を複数回往復しながら、増幅媒質を通過する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015-035602号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
増幅媒質の蓄積エネルギーをシードレーザが効率よく吸収するためには、シードレーザが増幅媒質を通過する断面積を励起エリアに合わせる必要がある。特許文献1では、2つの反射ミラーによりシードレーザを入射面と出射面との間で複数回往復させることによって、増幅媒質を通過する断面積を大きくして、増幅媒質の蓄積エネルギーをシードレーザに効率よく与えている。
【0006】
しかしながら、特許文献1では、シードレーザが増幅媒質を正しく往復できるように、反射ミラーの反射角度やシードレーザの入射角度を正確に調整する必要がある。このため、レーザ増幅器の構成が複雑になったり、レーザ増幅器の設置が難しくなったりするという問題があった。
【0007】
本開示は斯かる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、レーザ増幅器の構成を簡易にしつつ、増幅媒質の蓄積エネルギーをシードレーザに効率よく与えることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示に係るレーザ増幅器は、増幅媒質によってシードレーザを増幅させるレーザ増幅器であって、上記増幅媒質は、上記シードレーザが入射するシード入射面と、上記増幅媒質を通過する上記シードレーザの進行方向において上記シード入射面とは反対側に配置され且つ上記シードレーザが出射するシード出射面と、上記進行方向に垂直な横断面における径方向の外側に配置された外周面と、を含み、上記外周面のうちの少なくとも一部には、励起レーザが入射する励起入射部が設けられており、上記増幅媒質を通過する上記シードレーザのビーム形状は、扁平形状であり、上記シードレーザは、上記シード入射面と上記シード出射面との間を往復することなく、上記増幅媒質を通過する。
【0009】
本発明に係るレーザシステムは、上記レーザ増幅器と、上記シードレーザを出射するシードレーザ出射部と、上記励起レーザを出射する励起レーザ出射部と、を備える。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、レーザ増幅器の構成を簡易にしつつ、増幅媒質の蓄積エネルギーをシードレーザに効率よく与えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本開示の一実施形態に係るレーザ増幅器を備えるレーザ増幅システムを示す概略構成図である。
図2図2は、レーザ増幅器を示す平面図である。
図3図3は、レーザ増幅器を示す正面図である。
図4図4は、レーザ増幅器を示す側面断面図である。
図5図5は、レーザエネルギーのタイミングチャートを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本開示、その適用物あるいはその用途を制限することを意図するものでは全くない。
【0013】
(レーザ増幅システム)
図1は、レーザ増幅システム1を示す。レーザ増幅システム1は、シードレーザ素子励起レーザ2と、集光レンズ3と、シードレーザ素子4と、ベンドミラー5と、3つの励起レーザ出射部(増幅媒質励起レーザ)6と、駆動電源7と、レーザ増幅器10と、を備える。シードレーザ素子励起レーザ2、集光レンズ3及びシードレーザ素子4は、シードレーザ出射部8を構成する。
【0014】
シードレーザ出射部8について、詳細に説明する。シードレーザ素子励起レーザ2は、半導体レーザであり、シードレーザ素子4用の励起レーザS’を、集光レンズ3に向けてパルス出射する。励起レーザS’は、波長808nmであって、シート状(板状)である。
【0015】
集光レンズ3は、後述するシードレーザSのビーム形状を扁平形状にするために、レーザ増幅器10の後述する増幅媒質11よりも、レーザ流れの上流側に配置されている。集光レンズ3は、例えば、シリンドリカルレンズである。詳細には、集光レンズ3は、シードレーザ素子励起レーザ2から出射されたシート状の励起レーザS’をシードレーザ素子4に合わせて横方向(図1の左右方向)にのみ適度に集光することによって、励起レーザS’のビーム形状を、横長の扁平形状に変形(縮小)する。これにより、後述するシードレーザSのビーム形状は、増幅媒質11を通過可能な横長の扁平形状(具体的には長円形状)になる(図4参照)。集光レンズ3を通過した励起レーザS’は、シードレーザ素子4に入射する。
【0016】
シードレーザ素子4は、マイクロチップレーザ素子であり、ドープ量1~2%のNd:YAGセラミックスと過飽和吸収体であるCr:YAGセラミックスとを拡散接合してコンポジットすることで形成される。Nd:YAGセラミックスは、シードレーザ素子励起レーザ2側(入射面側)に配置されており、入射面には808nmの反射防止コート及び1064nmの高反射コートが施されている。Cr:YAGセラミックスは、シードレーザ素子励起レーザ2とは反対側(出射面側)に配置されており、出射面には一部反射ミラーコートが施されている。
【0017】
シードレーザ素子励起レーザ2から出射された励起レーザS’を励起光としてシードレーザ素子4に入力(入射)して、励起レーザS’のエネルギーをシードレーザ素子4に一定程度蓄積させる。これにより、シードレーザ素子4のパッシブQスイッチ動作によって、1064nmのシードレーザS(種光)が、シードレーザ素子4からパルス出力(出射)される。
【0018】
換言すると、シードレーザ素子励起レーザ2、集光レンズ3及びシードレーザ素子4で構成されたシードレーザ出射部8は、シードレーザSを出射する。また、集光レンズ3が励起レーザS’のビーム形状を扁平形状に変形することによって、シードレーザ出射部8から出射されるシードレーザSのビーム形状は、後述する増幅媒質11を通過可能な扁平形状(具体的には長円形状)になる。
【0019】
ベンドミラー5は、シードレーザ出射部8から出射されたシードレーザSを、レーザ増幅器10における後述する増幅媒質11のシード入射面12に向けて、反射する。これにより、シードレーザSは、方向転換する。ベンドミラー5の傾きは、モータやピエゾ素子等からなるアクチュエータによって、変化可能でもよい。ベンドミラー5の傾きを変化させると、レーザ増幅器10における後述する増幅媒質11のシード入射面12に対する入射角度θが、変化する。また、ベンドミラー5は、平行移動調整機構(例えば、ねじ締め等)を有してもよい。ベンドミラー5を平行移動させると、シードレーザSは、上記入射角度θを変えずに平行移動する。
【0020】
各励起レーザ出射部6は、半導体レーザであり、波長808nmの励起レーザEを、レーザ増幅器10における後述する増幅媒質11の励起入射部15に向けて、パルス出射する。各励起レーザ出射部6は、上下調整機構を有してもよい。上下調整機構によって、シードレーザSの光軸と励起レーザEの光軸とを、上下方向(図1の紙面垂直方向)に最適に合わせることができる。
【0021】
駆動電源7は、制御部を内蔵する(以下、「制御部7」という場合がある)。制御部7は、例えば、マイクロコンピュータ及びプログラムによって構成される。制御部7は、シードレーザ出射部8のシードレーザ素子励起レーザ2、及び励起レーザ出射部6を、任意のタイミングで駆動させる。
【0022】
(レーザ増幅器)
次に、レーザ増幅器10について、図2~4を参照しながら説明する。図2は、レーザ増幅器10を示す平面図である。図3は、レーザ増幅器10を示す正面図である。図4は、レーザ増幅器10を示す側面断面図である。図2は、図3におけるII矢視を示す。図3は、図2におけるIII矢視を示す。図4は、図2におけるIV-IV断面を示す。
【0023】
レーザ増幅器10は、スラブ状の増幅媒質11を備える。増幅媒質11は、Nd:YAGで形成されている。レーザ増幅器10は、シードレーザSを増幅媒質11に通過させることによって、シードレーザSのエネルギーを増幅させる。
【0024】
図2,3に示すように、増幅媒質11は、増幅媒質11を通過するシードレーザSの進行方向(光軸方向)Lを長さ方向(長手方向)とする直方体状に、形成されている(以下、「長さ方向L」ともいう)。すなわち、増幅媒質11は、進行方向Lに垂直な横断面(垂直断面)11a(図4参照)における径方向Rよりも、進行方向Lに長手に構成されている。
【0025】
図4に示すように、径方向Rは、互いに直交する幅方向B及び厚み方向Tを、含む。図2に示すように、増幅媒質11は、厚み方向Tに見て、長方形を除く平行四辺形である。図4に示すように、増幅媒質11の横断面11aは、厚み方向Tよりも幅方向Bに長手の長方形状(扁平形状)である。図3,4に示すように、増幅媒質11の長さ寸法をL1で示す。増幅媒質11の幅寸法をB1で示す。増幅媒質11の厚み寸法をT1で示す。
【0026】
本実施形態では、L1=90mm、B1=5mm、T1=3mmである。後述するように、励起レーザ出射部6から出射された励起レーザEは、増幅媒質11内を幅方向Bに1往復するので、増幅媒質11の幅寸法をB1は、吸収率=1-exp(-α×2×B1)に基づいて、設定される。例えば、増幅媒質11(Nd:YAG)のNdドープが1.1%の場合、吸収係数αは3.88cm-1である。この場合、95%以上の吸収率を実現するには、上式より、B1>3.9mmとなる。B1=5mmの場合、吸収率は98%となる。
【0027】
増幅媒質11の長さ寸法L1は、励起レーザ出射部6のサイズ及び個数により決定される。
【0028】
図2,3に示すように、増幅媒質11は、シード入射面12と、シード出射面13と、外周面14と、を含む。シード入射面12には、ベンドミラー5(図1参照)で反射されたシードレーザSが、入射角度θで入射する。入射角度θは、ブリュースタ角であり、61.2°である。
【0029】
シード出射面13は、シードレーザSの進行方向Lにおいて、シード入射面12とは反対側に配置されている。シード出射面13からは、増幅媒質11を通過したシードレーザSが、出射する。
【0030】
増幅媒質11は、励起レーザEの寄生共振を抑制するための非共振構造となっている。図2に示すように、シード入射面12及びシード出射面13は、それぞれ、シード入射面12とシード出射面13との対向方向(垂線方向)Aにおいて互いに対向しない(オーバラップしない)非対向部分を、含む。本実施形態では、次式B1/sinθ<L1を満たすことによって、シード入射面12の全部及びシード出射面13の全部が、非対向部分となっている。
【0031】
図4に示すように、外周面14は、増幅媒質11の横断面11aにおける径方向R(幅方向B、厚み方向T)の外側に、配置されている。外周面14は、幅方向B一方側の第1側面14aと、幅方向B他方側の第2側面14bと、厚み方向T一方側の第3側面14cと、厚み方向T他方側の第4側面14dと、で構成されている。第1側面14aと第2側面14bとは、幅方向Bに互いに対向する。第3側面14cと第4側面14dとは、厚み方向Tに互いに対向する。各側面14a,14b,14c,14dは、進行方向(長さ方向)Lに延びている。
【0032】
図1に示すように、3つの励起レーザ出射部6は、増幅媒質11よりも幅方向B一方側において、進行方向Lに沿って1列に並んでいる。
【0033】
図4に示すように、外周面14のうちの幅方向B一方側の第1側面14aには、進行方向Lの全領域に亘って、励起入射部15が設けられている。励起入射部15には、3つの励起レーザ出射部6から出射された励起レーザEが、入射する。励起レーザEが励起入射部15を介して増幅媒質11に入射することによって、励起レーザEのエネルギーが増幅媒質11に蓄積される。励起エリアは、厚み方向Tの中央部において、励起入射部15における励起レーザEの幅と同じ1mmの厚みとなる。
【0034】
外周面14における励起入射部15(第1側面14a)に対向する部分、具体的には幅方向B他方側の第2側面14bには、反射膜16が設けられている。反射膜16は、波長808nmの励起レーザEを反射する。反射膜16は、進行方向Lの全領域に亘って、第2側面14bをミラーコーティングすることで構成されている。
【0035】
詳細には、図4に示すように、幅方向B一方側の励起入射部15(第1側面14a)を介して増幅媒質11の内部に入射した励起レーザEは、幅方向B他方へ移動した後(図4のE1参照)、反射膜16(第2側面14b)によって幅方向B一方へ反射される。そして、励起レーザEは、幅方向B一方へ移動して(図4のE2参照)、励起入射部15(第1側面14a)を介して増幅媒質11の外部へ出ていく。すなわち、励起レーザEは、増幅媒質11内を幅方向Bに、1往復する。
【0036】
すなわち、増幅媒質11における励起レーザEの蓄積範囲(励起エリア)は、幅方向Bの全範囲(5mm)且つ厚み方向T中央部の一部(1mm)である。増幅媒質11における励起レーザEの蓄積エネルギーは、幅方向Bにおいて、反射膜16(第2側面14b)側よりも励起入射部15(第1側面14a)側の方が、大きい。
【0037】
なお、反射膜16による励起レーザEの反射光(戻り光)が、励起レーザ出射部6に当たらないように、励起レーザ出射部6は、増幅媒質11の幅方向Bに対してシード入射面12側に15°傾いた状態で、励起レーザEを出射している。また、隣り合う励起レーザ出射部6に反射光が当たらないよう、隣り合う励起レーザ出射部6同士の間には、パーティションが設けられてもよい。隣り合う励起レーザ出射部6から出射される励起レーザEは、進行方向Lにおいて、互いにオーバラップしてもよく、また互いにオーバラップしなくてもよい。
【0038】
本実施形態では、増幅媒質11(Nd:YAG)のNdドープが1.1%、吸収係数αが3.88cm-1、増幅媒質11の幅方向Bに対する励起レーザ出射部6の傾斜角度が15°である。この場合、増幅媒質11における励起入射部15(第1側面14a)からの幅方向Bの距離(mm)と、増幅媒質11に蓄積された励起レーザEの蓄積エネルギー割合(%)と、の関係は、次表の通りである。
【0039】
【表1】
【0040】
図4に示すように、増幅媒質11を通過するシードレーザSのビーム形状は、増幅媒質11の横断面11aの形状に対応するように、厚み方向Tよりも幅方向Bに長手の扁平形状、具体的には長円形状である。換言すると、増幅媒質11を通過するシードレーザSのビーム形状は、励起レーザEの入射方向(幅方向B)に長手の扁平形状(長円形状)である。増幅媒質11を通過するシードレーザSの幅寸法をB2で示す。増幅媒質11を通過するシードレーザSの厚み寸法をT2で示す。
【0041】
ここで、シードレーザ出射部8から出射されるシードレーザSの厚み寸法は、1mmであり、そのまま増幅媒質11に導入される。すなわち、増幅媒質11を通過するシードレーザSの厚み寸法T2は、1mmである。一方、シードレーザ出射部8から出射されるシードレーザSの幅寸法は2mmであるが、増幅媒質11のシード入射面12への入射角(ブリュースタ角)θが61.2°であるため、増幅媒質11を通過するシードレーザSの幅寸法B2は、2/cosθ=2/cos61.2°≒約4.2mmに広がる。
【0042】
シードレーザSは、増幅媒質11における励起レーザEの蓄積範囲(励起エリア)を、進行方向(長さ方向)Lに通過することによって、励起レーザEの蓄積エネルギーを吸収する。これにより、シードレーザSのエネルギーは、増幅する。
【0043】
増幅媒質11を通過するシードレーザSは、励起レーザEの蓄積範囲(励起エリア)とできるだけオーバラップすることが好ましい。
【0044】
本実施形態では、厚み方向Tにおける励起レーザEの蓄積範囲(励起エリア)1mmに対して、シードレーザSは、厚み寸法T2=1mmで100%オーバラップしている。また、幅方向Bにおける励起レーザEの蓄積範囲(励起エリア)5mmに対して、シードレーザSは、幅寸法B2=約4.2mmで、ほぼ80%オーバラップしている。
【0045】
上記表に示すように、増幅媒質11における励起レーザEの蓄積エネルギーは、幅方向Bにおいて、反射膜16(第2側面14b)側よりも励起入射部15(第1側面14a)側の方が、大きい。したがって、シードレーザSは、幅方向Bにおいて、増幅媒質11における反射膜16(第2側面14b)側よりも励起入射部15(第1側面14a)側(寄り)を、通過することが好ましい(図4の二点鎖線参照)。
【0046】
図2に示すように、シードレーザSは、シード入射面12とシード出射面13との間を往復することなく、増幅媒質11を通過する。
【0047】
図4に示すように、外周面14のうちの厚み方向T両側の第3側面14c及び第4側面14dには、進行方向Lの全領域に亘って、冷却部17,18が設けられている。詳細には、厚み方向T一方側の第3側面14cには、第1冷却部17が設けられている。厚み方向T他方側の第4側面14dには、第2冷却部18が設けられている。第1冷却部17及び第2冷却部18は、増幅媒質11を冷却する。
【0048】
第1冷却部17及び第2冷却部18は、ヒートシンク、放熱フィン、又はペルチェ素子、等で構成されている。各冷却部17,18は、熱伝導率の高いインジウムシートや導電性シートを含んでもよい。
【0049】
第1冷却部17及び第2冷却部18は、励起レーザ出射部6から出射されて増幅媒質11に蓄積された励起レーザEの蓄積エネルギーのうち、シードレーザSの増幅に利用されなかった熱を、冷却により除去する。
【0050】
第1冷却部17及び第2冷却部18は、増幅媒質11の最大発熱量よりも十分大きな冷却能力を持つことが好ましい。
【0051】
図5は、レーザエネルギーのタイミングチャートを示すグラフである。横軸は時間、縦軸はエネルギーを示す。上から1番目のグラフは、励起レーザ出射部6から増幅媒質11に入力(入射)される増幅媒質11用励起レーザEのエネルギーを示す。上から2番目のグラフは、増幅媒質11に蓄積される励起レーザEの蓄積エネルギーを示す。上から3番目のグラフは、シードレーザ素子励起レーザ2からシードレーザ素子4に入力(入射)されるシードレーザ素子4用励起レーザS’のエネルギーを示す。上から4番目のグラフは、シードレーザ素子4から出力(出射)されて増幅媒質11に入力(入射)されるシードレーザSのエネルギーを示す。
【0052】
図5に示すように、励起レーザ出射部6から増幅媒質11に励起レーザEを入射すると、増幅媒質11は励起状態となり、時間の経過に伴い、増幅媒質11に蓄積される励起レーザEの蓄積エネルギーが増大する。各励起レーザ出射部6から出射される励起レーザEのパルス幅は、増幅媒質11の蛍光寿命(本例では220μs、図示せず)以上である。蛍光寿命とは、励起状態における分子数が蛍光(光エネルギーの放出)によって基底状態になることで減少して、元の分子数の1/e(約37%)になるまでの時間である。
【0053】
図5に示すように、制御部(駆動電源)7は、各励起レーザ出射部6から出射される励起レーザEのパルスエンドの直前に、増幅媒質11のシード入射面12にシードレーザSが入射されるように、シードレーザ出射部8におけるシードレーザ素子励起レーザ2を制御する。なお、「励起レーザEのパルスエンドの直前」とは、例えば、励起レーザEのパルスエンドと同時、乃至、励起レーザEのパルスエンドから20μsec前(好ましくは10μsec前)、程度のことをいう。
【0054】
具体的には、励起レーザEのパルスエンドの直前にシードレーザ素子4からシードレーザSが出射されるように、シードレーザ素子励起レーザ2によるシードレーザ素子4への励起レーザS’の出射タイミングを、調整する。シードレーザ素子励起レーザ2によるシードレーザ素子4への励起レーザS’の出射タイミングと、シードレーザ素子4から増幅媒質11へのシードレーザSの出射タイミングとの間に、ジッターが生じる場合には、シードレーザ素子励起レーザ2によるシードレーザ素子4への励起レーザS’の出射タイミングを、当該ジッター分だけ早くオフセットする。なお、通常、ジッターは1~2μsec程度なので、考慮しなくても差し支えない。
【0055】
(作用効果)
本実施形態に係るレーザ増幅器10によれば、シードレーザSのビーム形状を扁平形状とすることによって、シードレーザSが増幅媒質11を通過する断面積を大きくすることができる。これにより、シードレーザSは、増幅媒質11における励起レーザEの蓄積範囲(励起エリア)に対して、より大きくオーバラップすることができる。したがって、シードレーザSがシード入射面12とシード出射面13との間を往復することなく増幅媒質11を通過したとしても、励起入射部15から入射して増幅媒質11に蓄積された励起レーザEの蓄積エネルギーを、シードレーザSに効率よく与えることができる。
【0056】
シードレーザSをシード入射面12とシード出射面13との間で往復させるための往復用反射ミラーを、増幅媒質11の長さ方向L両側に配置する必要がないので、レーザ増幅器10の構成が簡単になる。また、往復用反射ミラーの調整作業が不要となるので、レーザ増幅器10の設置(設定)が簡単になる。
【0057】
以上、レーザ増幅器10の構成を簡易にしつつ、増幅媒質11の蓄積エネルギーをシードレーザSに効率よく与えることができる。
【0058】
さらに、往復用反射ミラーが不要なので、シードレーザSの光軸ずれの抑制に寄与することができる。これにより、レーザ増幅器10を、ロボットアームなどの可動部分に適用したり、リモート加工機等の用途に応用したりすることができる。
【0059】
増幅媒質11のシード入射面12及びシード出射面13は、それぞれ、シード入射面12とシード出射面13との対向方向(垂線方向)Aにおいて互いに対向しない(オーバラップしない)非対向部分を、含む。特に本実施形態では、次式B1/sinθ<L1を満たすことによって、シード入射面12の全部及びシード出射面13の全部が、非対向部分となっている。これにより、非共振構造を有する増幅媒質11を構成することができる。すなわち、シードレーザSが増幅媒質11に入射しない場合において、励起レーザEが増幅媒質11において進行方向(長さ方向)Lに寄生共振しないようにすることができる。
【0060】
外周面14における励起入射部15(第1側面14a)に対向する第2側面14bに反射膜16が設けられているので、励起レーザEを、増幅媒質11内で幅方向Bに1往復させることができる。これにより、励起レーザEが増幅媒質11内で幅方向Bに往復しない場合に比較して、励起レーザEのエネルギーを、増幅媒質11により多く蓄積することができる。
【0061】
シードレーザSが増幅媒質11における反射膜16(第2側面14b)側よりも励起入射部15(第1側面14a)側を通過するので、シードレーザSが増幅媒質11における幅方向B中央部や反射膜16(第2側面14b)側を通過する場合に比較して、増幅媒質11におけるより多くの励起レーザEの蓄積エネルギーを、シードレーザSに与えることができる。
【0062】
第3側面14c及び第4側面14dに冷却部17,18を設けることによって、増幅媒質11の加熱を抑制することができる。
【0063】
シードレーザSがブリュースタ角θで増幅媒質11のシード入射面12に入射するので、偏光のシードレーザSがシード入射面12で反射することを抑制して、反射損失を低減することができる。これにより、より多くのシードレーザSを、増幅媒質11に通過させることができる。
【0064】
増幅媒質11が直方体状なので、増幅媒質11を簡単に形成することができる。
【0065】
シードレーザ出射部8とレーザ増幅器10の増幅媒質11との間にベンドミラー5が設けられているので、ベンドミラー5の傾きを微調整することによって、増幅媒質11のシード入射面12に対する入射角度θを微調整することができる。また、ベンドミラー5を平行移動させることによって、シードレーザSを、増幅媒質11のシード入射面12に対する入射角度θを変えずに、平行移動させることができる。ベンドミラー5が傾き変化機能及び平行移動機能を併せ持つことによって、ベンドミラー5の個数を削減することができる。
【0066】
また、ベンドミラー5を平行移動させることによって、簡単に、シードレーザSを、増幅媒質11における反射膜16(第2側面14b)側よりも励起入射部15(第1側面14a)側に、寄せることができる。
【0067】
増幅媒質11よりも上流側に配置されているシードレーザ素子4を励起するレーザに、シート状のシードレーザ素子励起レーザ2やシリンドリカルの集光レンズ3を使うことで、シードレーザSが増幅媒質11のシード入射面12に入射する前に、シードレーザSのビーム形状を、増幅媒質11を通過可能な扁平形状にすることができる。
【0068】
励起レーザEのパルスエンドの直前に、シードレーザSを増幅媒質11のシード入射面12に入射することによって、さらに効率よく、増幅媒質11における励起レーザEの蓄積エネルギーを、シードレーザSに与えることができる。
【0069】
(その他の実施形態)
以上、本開示を好適な実施形態により説明してきたが、こうした記述は限定事項ではなく、勿論、種々の改変が可能である。
【0070】
増幅媒質11は、直方体状ではなく、例えば円柱形状等でもよい。
【0071】
増幅媒質11は、Nd:YAGに限定されず、例えばNd:YVO4等で形成されてもよい。
【0072】
冷却部17,18は、第1側面14aや第2側面14bに設けられてもよい。
【0073】
シードレーザ素子励起レーザ2とレーザ増幅器10との間には、パッシブQスイッチ動作を行うシードレーザ素子(マイクロチップレーザ素子)4ではなく、他のシードレーザ素子(例えば、アクティブQスイッチ動作を行うレーザ素子など)が設けられてもよい。
【0074】
シードレーザSのビーム形状は、長円形状ではなく、例えば楕円形状等でもよい。
【0075】
励起入射部15は、外周面14のうちの全ての側面14a,14b,14c,14dに設けられてもよい。
【0076】
集光レンズ3は、点状・真円状等のような非扁平形状のレーザ光を線状・長円状・楕円状等のような扁平形状に変形するシリンドリカルレンズでもよい。シードレーザ素子励起レーザ2が非扁平形状の励起レーザS’を出射する場合、集光レンズ3は、シードレーザ素子4よりもレーザ進行方向の下流側に配置されてもよく、シードレーザ素子4から出射されるシードレーザSを扁平形状にしてもよい。集光レンズ3は、ウェッジプリズムやビームエキスパンダなどでもよい。
【0077】
増幅媒質11は、厚み方向Tに見て、シード入射面12及びシード出射面13が互いに平行しない台形状でもよい。この場合でも、非共振構造を有する増幅媒質11を構成することができる。また、増幅媒質11は、非共振構造を有さなくてもよい。
【0078】
励起入射部15は、外周面14における幅方向B一方側の第1側面14aではなく、厚み方向T一方側の第3側面14c又は厚み方向T他方側の第4側面14dに、設けられてもよい。この場合、増幅媒質11を通過するシードレーザSのビーム形状は、励起レーザEの入射方向(厚み方向T)に短手の扁平形状となる。
【0079】
増幅媒質11の寸法、シードレーザS及び励起レーザEの波長、又はシードレーザSのビーム形状・寸法等の数値は、上記実施形態の数値に限定されない。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本開示は、レーザ増幅器及びレーザ増幅システムに適用できるので、極めて有用であり、産業上の利用可能性が高い。
【符号の説明】
【0081】
L 進行方向(長さ方向)
L1 長さ寸法
R 径方向
B 幅方向
B1 幅寸法
B2 幅寸法
T 厚み方向
T1 厚み寸法
T2 厚み寸法
A 対向方向
S シードレーザ
S’ シードレーザ素子用励起レーザ
E 増幅媒質用励起レーザ
θ 入射角度(ブリュースタ角)
1 レーザ増幅システム
2 シードレーザ素子励起レーザ
3 集光レンズ
4 シードレーザ素子
5 ベンドミラー
6 励起レーザ出射部
7 駆動電源(制御部)
8 シードレーザ出射部
10 レーザ増幅器
11 増幅媒質
11a 横断面
12 シード入射面
13 シード出射面
14 外周面
14a 第1側面
14b 第2側面
14c 第3側面
14d 第4側面
15 励起入射部
16 反射膜
17 第1冷却部
18 第2冷却部
図1
図2
図3
図4
図5