(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023055384
(43)【公開日】2023-04-18
(54)【発明の名称】H形断面部材及び支持構造
(51)【国際特許分類】
E04C 3/06 20060101AFI20230411BHJP
E04B 7/04 20060101ALI20230411BHJP
【FI】
E04C3/06
E04B7/04 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021164721
(22)【出願日】2021-10-06
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】廣嶋 哲
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 圭一
(72)【発明者】
【氏名】宍戸 唯一
【テーマコード(参考)】
2E163
【Fターム(参考)】
2E163FA12
2E163FB02
(57)【要約】
【課題】断面形状を合理的に構成したH形断面部材を提供する。
【解決手段】第1フランジ26と、第2フランジ27と、第1フランジ及び第2フランジを互いに接合するウェブ28と、を備える鋼製のH形断面部材25であって、第1フランジを間に挟んでウェブの反対側に配置されるとともにH形断面部材の材軸方向に並べられた複数の板状部材が、直接又は仕口部材を介して第1フランジにそれぞれ取り付けられ、第2フランジの幅は、第1フランジの幅よりも広い。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1フランジと、
第2フランジと、
前記第1フランジ及び前記第2フランジを互いに接合するウェブと、を備える鋼製のH形断面部材であって、
前記第1フランジを間に挟んで前記ウェブの反対側に配置されるとともに前記H形断面部材の材軸方向に並べられた複数の板状部材が、直接又は仕口部材を介して前記第1フランジにそれぞれ取り付けられ、
前記第2フランジの幅は、前記第1フランジの幅よりも広い、H形断面部材。
【請求項2】
第1フランジと、
第2フランジと、
前記第1フランジ及び前記第2フランジを互いに接合するウェブと、を備える鋼製のH形断面部材であって、
前記第1フランジを間に挟んで前記ウェブの反対側に配置されるとともに前記H形断面部材の材軸方向に並べられた複数の板状部材が、直接又は仕口部材を介して前記第1フランジにそれぞれ取り付けられ、
前記第2フランジの厚さは、前記第1フランジの厚さよりも厚い、H形断面部材。
【請求項3】
前記複数の板状部材は屋根葺材を構成する、請求項1又は2に記載のH形断面部材。
【請求項4】
前記複数の板状部材は外壁材を構成する、請求項1又は2に記載のH形断面部材。
【請求項5】
溶接軽量H形鋼である、請求項1から4のいずれか一項に記載のH形断面部材。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載のH形断面部材と、
前記複数の板状部材と、
を備える、支持構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、H形断面部材及び支持構造に関する。
【背景技術】
【0002】
床スラブや屋根を支持する梁、屋根を支持する母屋、壁材を支持する胴縁等、建築物の多くの部材で、H形断面の鋼材(部材)が用いられている(例えば、特許文献1から3参照)。支持される部材の質量や外力によって支持する部材に曲げモーメントが生じる場合、鋼材重量に対する強軸回りの曲げ性能が高く断面効率が良いH形断面部材を、支持する部材として用いるのが合理的である。このため、支持する部材として、H形断面部材が一般的に用いられている。
H形断面部材は、2枚のフランジと、それらを繋ぐウェブと、で構成されている。曲げを受けるH形断面部材では、一方のフランジが圧縮力を負担し、もう一方のフランジが引張力を負担する。通常、それらの圧縮力の大きさと引張力の大きさとは互いに等しいため、2枚のフランジは、幅が互いに等しく、厚さが互いに等しい断面形状とするのが一般的である。このため、一般的なH形断面部材は、H形断面部材の材軸方向に見たときに、ウェブに直交する軸に対して対称の断面となる。さらに、2枚のフランジの幅の中央にウェブがそれぞれ接合している場合は、H形断面部材の前記断面は、2軸対称の形状となる。
【0003】
なお、建築物の床を支持する小梁に用いられるH形断面部材では、H形断面部材の圧縮側に、圧縮耐力を負担することが可能なコンクリートを用いた床スラブが取り付けられる。このとき、H形断面部材の2枚のフランジの断面寸法が、互いに異なる場合がある。この場合、H形断面部材の圧縮側フランジが負担する圧縮力をコンクリートが負担するため、圧縮側フランジの断面寸法を小さくすることが可能である。
しかし、このようにH形断面部材に作用する応力の一部を板状部材(面材)に負担させようとした場合、耐力負担が可能な1枚の板状部材が、H形断面部材の材軸方向に切れ目なく設置されている必要がある。しかし、薄鋼板による折板屋根等(複数の板状部材)では、耐力負担が期待できない。
【0004】
また、折板屋根や外壁材等の複数の板状部材では、施工性や輸送性の観点から規格寸法が定まっている。H形断面部材に複数の板状部材が取り付けられる場合には、複数の板状部材が、材軸方向に連続的に並べて施工されている。そのため材軸方向に隣り合う板状部材間には微小な空隙がある場合もあり、板状部材の材軸方向の耐力負担は期待できない。そのため、2枚のフランジの断面寸法が異なるH形断面部材の使用は、コンクリートを用いた床スラブが取り付けられる場合に実質的に限られている。
【0005】
以上の事項が、現状の設計において2軸対称の形状を有するH形断面部材が一般的に使用されている理由である。
H形断面部材では、強軸まわりの断面性能に優れるものの、弱軸まわりの断面性能は低い。このため、H形断面部材の横座屈(H形断面部材が捩れながら、面外方向へ移動する変形を生じつつ座屈すること)が問題となる。横座屈が生じると、急激な耐力劣化が生じ、H形断面部材の挙動が不安定になる。従って、横座屈が生じないように、H形断面部材を設計する必要がある。
具体的には、「平成13年国土交通省告示第1024号 特殊な許容応力度及び特殊な材料強度を定める件」において、曲げ材の座屈の許容応力度が規定されている。この告示では、横座屈が生じ得る部材長さが長い場合等には、許容応力度を低減することとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4826807号公報
【特許文献2】特開2020-153125号公報
【特許文献3】特許第6892010号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、H形断面部材の長さが長い場合やH形断面部材の幅が狭い場合等の横座屈が生じやすい条件においては、許容応力度が低下し、H形断面部材が本来有している断面性能を発揮しない。従って、H形断面部材の断面を大きくする必要が生じて、H形断面部材を構成するための鋼材量が増えてしまい、非経済的な設計となる。
また、横座屈による許容応力度の低下を防ぐ方法として、H形断面部材に横座屈防止用の補剛材を設置する場合もある。この場合、十分な数の補剛材が設けられていれば許容応力度の低下は生じないが、補剛材の加工や施工による手間やコストが生じてしまい、非経済的である。
【0008】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであって、断面形状を合理的に構成したH形断面部材、及びこのH形断面部材を備える支持構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するために、この発明は以下の手段を提案している。
本発明のH形断面部材は、第1フランジと、第2フランジと、前記第1フランジ及び前記第2フランジを互いに接合するウェブと、を備える鋼製のH形断面部材であって、前記第1フランジを間に挟んで前記ウェブの反対側に配置されるとともに前記H形断面部材の材軸方向に並べられた複数の板状部材が、直接又は仕口部材を介して前記第1フランジにそれぞれ取り付けられ、前記第2フランジの幅は、前記第1フランジの幅よりも広いことを特徴としている。
【0010】
一般的に、鋼製のH形断面部材の第1フランジに、第1フランジを間に挟んでウェブの反対側に配置されるとともに材軸方向に並べられた複数の板状部材が直接又は仕口部材を介して取り付けられていても、これら複数の板状部材では、H形断面部材に要求される程度の面内の曲げ耐力の負担が期待できないと考えられる。
この発明では、発明者等は鋭意検討の結果、耐力負担が期待できない複数の板状部材に第1フランジが取り付けられている場合でも、例えば両フランジの材軸方向に直交する断面積の合計が一定の時に、両フランジの幅が互いに等しい場合に比べて、第2フランジの幅が第1フランジの幅よりも広い、本発明のH形断面部材の弾性座屈耐力が大きくなることを見出した。
従って、第2フランジの幅が第1フランジの幅よりも広くてH形断面部材の弾性座屈耐力が大きくなることにより、H形断面部材の断面形状を合理的に構成することができる。
【0011】
また、本発明の他のH形断面部材は、第1フランジと、第2フランジと、前記第1フランジ及び前記第2フランジを互いに接合するウェブと、を備える鋼製のH形断面部材であって、前記第1フランジを間に挟んで前記ウェブの反対側に配置されるとともに前記H形断面部材の材軸方向に並べられた複数の板状部材が、直接又は仕口部材を介して前記第1フランジにそれぞれ取り付けられ、前記第2フランジの厚さは、前記第1フランジの厚さよりも厚いことを特徴としている。
この発明では、発明者等は鋭意検討の結果、耐力負担が期待できない複数の板状部材に第1フランジが取り付けられている場合でも、例えば両フランジの材軸方向に直交する断面積の合計が一定の時に、両フランジの厚さが互いに等しい場合に比べて、第2フランジの厚さが第1フランジの厚さよりも厚い、本発明のH形断面部材の弾性座屈耐力が大きくなることを見出した。
従って、第2フランジの厚さが第1フランジの厚さよりも厚くてH形断面部材の弾性座屈耐力が大きくなることにより、H形断面部材の断面形状を合理的に構成することができる。
【0012】
また、前記H形断面部材において、前記複数の板状部材は屋根葺材を構成してもよい。
この発明では、屋根葺材に直接又は仕口部材を介して第1フランジが取り付けられることにより、H形断面部材で屋根葺材を支持することができる。
【0013】
また、前記H形断面部材において、前記複数の板状部材は外壁材を構成してもよい。
この発明では、外壁材に直接又は仕口部材を介して第1フランジが取り付けられることにより、H形断面部材で外壁材を支持することができる。
【0014】
また、前記H形断面部材において、鋼帯から連続した高周波抵抗溶接、又はこれと高周波誘導溶接との併用によって製造された溶接軽量H形鋼であってもよい。
この発明では、溶接軽量H形鋼によりH形断面部材を比較的軽く構成することができる。
【0015】
また、本発明の支持構造は、前記に記載のH形断面部材と、前記複数の板状部材と、を備えることを特徴としている。
この発明では、断面形状を合理的に構成したH形断面部材を用いて支持構造を構成することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明のH形断面部材及び支持構造では、断面形状を合理的に構成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施形態のH形断面部材及び支持構造が用いられた建築物の一部を破断した斜視図である。
【
図4】地震時を想定した逆対称の曲げモーメントの一例を示す図である。
【
図5】常用時を想定した積載荷重による曲げモーメントの一例を示す図である。
【
図6】H-400で地震時に第1フランジの拘束をしない場合の、(L/H)の値に対する弾性座屈耐力の変化を表す図である。
【
図7】H-900で地震時に第1フランジの拘束をしない場合の、(L/H)の値に対する弾性座屈耐力の変化を表す図である。
【
図8】H-400で地震時に第1フランジの横移動が拘束されている場合の、(L/H)の値に対する弾性座屈耐力の変化を表す図である。
【
図9】H-900で地震時に第1フランジの横移動が拘束されている場合の、(L/H)の値に対する弾性座屈耐力の変化を表す図である。
【
図10】H-400で常用時に第1フランジの拘束をしない場合の、(L/H)の値に対する弾性座屈耐力の変化を表す図である。
【
図11】H-900で常用時に第1フランジの拘束をしない場合の、(L/H)の値に対する弾性座屈耐力の変化を表す図である。
【
図12】H-400で常用時に第1フランジの横移動が拘束されている場合の、(L/H)の値に対する弾性座屈耐力の変化を表す図である。
【
図13】H-900で常用時に第1フランジの横移動が拘束されている場合の、(L/H)の値に対する弾性座屈耐力の変化を表す図である。
【
図14】地震時に第1フランジの拘束をしない場合の、(L/H)の値に対する弾性座屈耐力の変化を表す図である。
【
図15】地震時に第1フランジの横移動が拘束されている場合の、(L/H)の値に対する弾性座屈耐力の変化を表す図である。
【
図16】常用時に第1フランジの拘束をしない場合の、(L/H)の値に対する弾性座屈耐力の変化を表す図である。
【
図17】常用時に第1フランジの横移動が拘束されている場合の、(L/H)の値に対する弾性座屈耐力の変化を表す図である。
【
図18】地震時に第1フランジの横移動が拘束され第1,2フランジの反りが拘束されている場合の、(L/H)の値に対する弾性座屈耐力の変化を表す図である。
【
図19】風荷重負圧時に第1フランジの横移動が拘束され材軸方向の両端がピン接合されている場合の、(L/H)の値に対する弾性座屈耐力の変化を表す図である。
【
図20】風荷重による負圧を想定した曲げモーメントの一例を示す図である。
【
図21】地震時に第1フランジの横移動が拘束される場合の、第2フランジの幅に対する断面効率の変化を表す図である。
【
図22】常用時に第1フランジの横移動が拘束される場合の、第2フランジの幅に対する断面効率の変化を表す図である。
【
図23】H形断面部材に対する、板状部材による補剛効果を説明するための模式図である。
【
図24】地震時に第1フランジの横移動がバネ拘束されている場合の、第2フランジの幅に対する断面効率の変化の一例を表す図である。
【
図25】地震時に第1フランジの横移動がバネ拘束されている場合の、第2フランジの幅に対する断面効率の変化の他の例を表す図である。
【
図26】常用時に第1フランジの横移動がバネ拘束されている場合の、第2フランジの幅に対する断面効率の変化の一例を表す図である。
【
図27】常用時に第1フランジの横移動がバネ拘束されている場合の、第2フランジの幅に対する断面効率の変化の他の例を表す図である。
【
図28】本発明の一実施形態の第1変形例の支持構造が用いられた建築物の一部を破断した斜視図である。
【
図29】本発明の一実施形態の第2変形例の支持構造が用いられた建築物の一部を破断した斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係るH形断面部材及び支持構造の一実施形態を、
図1から
図29を参照しながら説明する。
【0019】
〔1.H形断面部材及び支持構造が用いられた建築物の構成〕
本実施形態の後述するH形断面部材15,25及び支持構造46,47は、
図1に示す建築物1に用いられている。建築物1は、複数の柱10と、複数の大梁である第1H形断面部材(H形断面部材)15と、複数の小梁である第2H形断面部材(H形断面部材)25と、折板屋根35と、を備えている。
柱10は、上下方向に沿って延びている。複数の柱10は、互いに間隔を開けて配置されている。柱10は、鋼製、RC(Reinforced Concrete)製、SRC(Steel Reinforced Concrete)製等である。
【0020】
第1H形断面部材15及び第2H形断面部材25は、それぞれ鋼製である。
第1H形断面部材15は、第1フランジ16と、第2フランジ17と、ウェブ18と、を備えている。第1フランジ16、第2フランジ17、及びウェブ18は、それぞれ鋼板により形成されている。第1フランジ16及び第2フランジ17は、それぞれ水平面に沿うように配置され、互いに上下方向に対向している。第1フランジ16は、第2フランジ17よりも上方に配置されている。
ウェブ18は、第1フランジ16と第2フランジ17との間に配置されている。ウェブ18は、第1フランジ16の幅方向の中心及び第2フランジ17の幅方向の中心を互いに接合している。
【0021】
大梁である第1H形断面部材15のウェブ18等には、図示しないガセットプレートが溶接等により接合されている。
第1H形断面部材15は、隣り合う柱10の間にかけ渡され、水平面に沿う方向に延びている。第1H形断面部材15の両端部は、柱10に溶接等でそれぞれ接合されている。
【0022】
図1から
図3に示すように、第2H形断面部材25は、第1フランジ26と、第2フランジ27と、ウェブ28と、を備えている。第1フランジ26、第2フランジ27、及びウェブ28は、それぞれ鋼板により形成されている。第1フランジ26及び第2フランジ27は、それぞれ水平面に沿うように配置され、互いに上下方向に対向している。第1フランジ26は、第2フランジ27よりも上方に配置されている。
ウェブ28は、第1フランジ26と第2フランジ27との間に配置されている。ウェブ28は、第1フランジ26の幅方向の中心及び第2フランジ27の幅方向の中心を互いに接合している。
H形断面部材15,25の材軸方向に直交する断面形状は、それぞれH形状である。
なお、H形断面部材15,25が配置される向きは、これに限定されない。第2H形断面部材25及び第1H形断面部材15は、圧延H形鋼であってもよいし、溶接組立H形鋼であってもよい。
【0023】
ここで、
図3に示すように、第2H形断面部材25の寸法を規定する。
第1フランジ26の幅を、B
1(mm)とする。第1フランジ26の厚さを、t
f1(mm)とする。第2フランジ27の幅を、B
2(mm)とする。第2フランジ27の厚さを、t
f2(mm)とする。ウェブ28の厚さを、t
w(mm)とする。第2H形断面部材25の高さ(せい)を、H(mm)とする。
第2H形断面部材25における、第2H形断面部材25の材軸方向に直交する断面積を、A(mm
2)とする。
図2に示すように、第2H形断面部材25の長さを、L(mm)とする。
【0024】
図1に示すように、第2H形断面部材25は、対向する第1H形断面部材15の間にかけ渡され、水平面に沿う方向に延びている。第2H形断面部材25における材軸方向の両端部は、第1H形断面部材15のガセットプレートに、図示しない高力ボルト等により接続されている。
【0025】
折板屋根35は、屋根葺材である。例えば、折板屋根35は、金属板を折り曲げて構成されている。折板屋根35は、水平面に沿う第1水平方向Uに延びる波形部材36が、水平面に沿うとともに第1水平方向Uに直交する第2水平方向Vに複数並べられて構成されている。
波形部材36は、底板37と、第1傾斜板38と、天板39と、第2傾斜板40と、を有している。底板37、第1傾斜板38、天板39、及び第2傾斜板40は、それぞれ板状部材(面材)である。
【0026】
底板37及び天板39は、水平面に沿うように配置されている。天板39は、底板37よりも上方に配置されている。
第1傾斜板38は、底板37における第2水平方向Vの第1側V1の端部から、第1側V1に向かうに従い漸次、上方に向かうように傾斜している。
天板39は、第1傾斜板38における第1側V1の端部から、第1側V1に向かって延びている。第2傾斜板40は、天板39の第1側V1の端部から、第1側V1に向かうに従い漸次、下方に向かうように傾斜している。第2傾斜板40は、第1側V1に隣り合う波形部材36の底板37における、第2水平方向Vのうち第1側V1とは反対側の第2側V2の端部に連なっている。
【0027】
折板屋根35は、第1H形断面部材15において、第1フランジ16を間に挟んでウェブ18の反対側(上方)に配置されている。
折板屋根35の底板37、第1傾斜板38、天板39、及び第2傾斜板40は、第2H形断面部材25において、第1フランジ26を間に挟んでウェブ28の反対側(上方)に配置されるとともに、第2H形断面部材25の材軸方向である第2水平方向Vに並べられている。
折板屋根35の底板37は、第1H形断面部材15の第1フランジ16及び第2H形断面部材25の第1フランジ16に、底板37の下方から支持されている。この例では、折板屋根35の底板37、第1傾斜板38、天板39、及び第2傾斜板40は、公知の金具及び締結部材等の仕口部材(不図示)を介して、H形断面部材15,25の第1フランジ16,26にそれぞれ取り付けられている。
【0028】
なお、第1H形断面部材15及び折板屋根35で、支持構造46が構成される。第2H形断面部材25及び折板屋根35で、支持構造47が構成される。
折板屋根35の底板37、第1傾斜板38、天板39、及び第2傾斜板40は、H形断面部材15,25の第1フランジ16,26にそれぞれ直接取り付けられていてもよい。
【0029】
以下では、H形断面部材15,25のうち第2H形断面部材25を例にとって、フランジ26,27の幅及び厚さの影響を検討した結果について説明する。
【0030】
〔2.支持構造におけるフランジの幅の影響の検討〕
フランジ26,27の幅が互いに等しい第2H形断面部材25(以下、単にH形断面部材25とも言う)の横座屈性状、及びフランジ26,27の幅が互いに異なるH形断面部材25の横座屈性状について、FEM(Finite Element Method。有限要素法)を用いて検討を行った。
図2に、H形断面部材25の解析モデルを示す。解析モデルでは、H形断面部材25を4節点シェル要素によって構成している。H形断面部材25の材軸方向に、x軸を規定した。フランジ26,27が対向する方向にy軸を規定し、ウェブ28の厚さ方向に、z軸を規定した。
【0031】
第1フランジ26に板状部材が取り付けられる場合には、
図2における上側の第1フランジ26の断面中心である位置26aにおける節点のz軸方向の移動(横移動)を拘束する(dz(uz。z軸方向の移動による変位)=0)とした。第1フランジ26に板状部材が取り付けられない場合には、第1フランジ26の位置26aにおける節点のz軸方向の移動を拘束しないとした。
また、H形断面部材25の材軸方向の両端は、H形断面部材25のねじれに対して固定端、フランジ26,27の反りに関しては自由端とした。すなわち、H形断面部材25の材軸方向の第1端25aにおいて、dx=0,dy=0,dz=0,rotx(x軸回りの回転)=0とした。H形断面部材25の材軸方向における第1端25aとは反対の第2端25bにおいて、dy=0,dz=0,rotx=0とした。
【0032】
この解析モデルに対して、材軸方向の端におけるz軸回りの曲げモーメントや、第1フランジ26におけるy軸方向の分布荷重により、H形断面部材25に曲げモーメントが作用する場合について、弾性座屈解析(固有値解析)を行った。
なお、第1フランジ26は第2フランジ27の下方に配置されてもよいし、フランジ26,27が水平面に沿って並べて配置されてもよい。すなわち、H形断面部材25が配置される向きは、これに限定されない。
【0033】
次に、解析モデルにおける各ケースについて説明する。
ここでは、JIS規格で定められたH形鋼である、断面寸法がH-400x200x8x13であるH形鋼(以下、H-400と言う)と、断面寸法H-900x300x16x28(以下、H-900と言う)を基準に、フランジ26,27の幅を変更させる形でパラメータを振っている。表1に解析対象のケースの一覧を示す。なお、フランジ26,27の厚さは、互いに等しい。
【0034】
【0035】
H-400であるケースa100~a300については、フランジ26,27の幅を50mm刻みで変更しており、H-900であるケースb100~b500については、フランジ26,27の幅を100mm刻みで変更している。H-400及びH-900について、その他の断面寸法は変更していない。
なお、第2フランジ27の幅を広げた場合は、第2フランジ27の拡幅分だけ第1フランジ26の幅を狭めている。第2フランジ27の幅を狭めた場合は、その分だけ第1フランジ26の幅を広げている。すなわち、フランジ26,27の幅を変更した場合についても、H形断面部材25の断面積Aは、基準とするフランジ26,27の幅が互いに等しいケースa200,b300の断面積Aと同等である。H形断面部材25の単位長さ当たりの質量も、ケース200a,b300の単位長さ当たりの質量と同等となる。
各ケースについて、地震時を想定した逆対称の曲げモーメント、常用時を想定した積載荷重による曲げモーメント、の2種類の曲げモーメントが作用する場合について、H形断面部材25の高さHに対する長さLの比(L/H)が6~50の範囲で、長さLを変更して解析を行った。
【0036】
なお、地震時を想定した逆対称の曲げモーメントの一例を、
図4に示し、常用時を想定した積載荷重による曲げモーメントの一例を、
図5に示す。
図4及び
図5において、横軸は、H形断面部材25の材軸方向の無次元化座標を表し、縦軸は、H形断面部材25に作用する無次元化曲げモーメントを表す。無次元化座標は、長さLに対する、H形断面部材25の材軸方向の座標(x座標)の比である。無次元化曲げモーメントは、H形断面部材25に作用する曲げモーメントの絶対値の最大値に対する、H形断面部材25の材軸方向の各位置に作用する曲げモーメントの比である。
【0037】
図6から
図9に、地震時を想定した逆対称の曲げモーメントが作用する場合の固有値解析結果を示す。
図6及び
図7は、第1フランジ26が拘束されていない場合であり、
図8及び
図9は、第1フランジ26の横移動(z軸方向の移動)が拘束されている場合である。
以降に示す図においては、縦軸は、固有値解析による弾性座屈耐力を表し、横軸は、H形断面部材25の高さHに対するH形断面部材25の長さLの比(L/H)を表す。
【0038】
図10から
図13に、常用時を想定した積載荷重による曲げモーメントが作用する場合の固有値解析結果を示す。
図10及び
図11は、第1フランジ26が拘束されていない場合であり、
図12及び
図13は、第1フランジ26の横移動が拘束されている場合である。
【0039】
図6及び
図7より、地震時に第1フランジ26が拘束されていない場合は、フランジ26,27の幅が互いに等しい状態から、フランジ26,27の幅が互いに異なるように変更することにより、弾性座屈耐力が低下している。また、
図10及び
図11の常用時についても、フランジ26,27の幅が互いに等しい状態から、フランジ26,27の幅が互いに異なるように変更することにより、弾性座屈耐力が低下している。つまり、地震時及び常用時の荷重条件に係わらず、第1フランジ26が拘束されていない場合は、フランジ26,27の幅が互い異なる断面を用いると、弾性座屈耐力の低下を招き、非効率な設計となる。
一方で、
図8、
図9、
図12、及び
図13に示す第1フランジ26の横移動が拘束されている場合においては、地震時及び常用時の荷重条件に係わらず、第2フランジ27の幅を広げて第1フランジ26の幅を狭めた場合は、フランジ26,27の幅が互いに等しい場合よりも弾性座屈耐力が大きくなる。第2フランジ27の幅を狭めて第1フランジ26の幅を広げた場合は、フランジ26,27の幅が互いに等しい場合よりも弾性座屈耐力が小さくなる。
【0040】
つまり、第1フランジ26の横移動が拘束される条件下においては、第2フランジ27の幅が広く第1フランジ26の幅の狭いフランジ26,27の幅が互いに異なる断面を用いることで、フランジ26,27の幅が互いに等しい断面と同じ鋼材量でより高い横座屈耐力(弾性座屈耐力)を発揮することができる。
この傾向はH-400とH-900でH形断面部材25の断面寸法が変わっても同様の傾向を示しており、あらゆるH形断面部材25について同様の傾向を示すと考えられる。
すなわち、第1フランジ26の横移動が拘束される条件下においては、第2フランジ27の幅が第1フランジ26の幅よりも広い非対称のH形断面部材25を用いる方が、フランジ26,27の幅が互いに等しい場合に比べてある横座屈耐力を発揮する上で必要な鋼材量を少なくすることができ、効率的な設計が可能となる。
【0041】
なお、
図8及び
図9において、(L/H)の値が小さい範囲で、第2フランジ27の幅が広いケースの弾性座屈耐力が頭打ちしているのは、H形断面部材25が局部座屈するためである。本発明が対象とする横座屈とは異なる座屈現象によるためである。局部座屈が発生しているのは横座屈耐力が十分に大きい場合であり、この局部座屈による耐力も、H形断面部材25の降伏耐力に比べて十分に大きい領域で生じており、問題とはならない。
一方で、フランジ26,27が極端に薄い場合には、局部座屈が問題になる可能性が想定される。このため、フランジ26,27の幅厚比は、告示昭55建告第1792号第3による梁部材の種別FCの規定値である、15.5√(235/F)以下とするのが好ましい。ただし、Fは、H形断面部材25の基準強度である。
【0042】
〔3.支持構造におけるフランジの厚さの影響の検討〕
次に、フランジ26,27の厚さを変数とした弾性座屈解析の解析ケースについて述べる。ここでは、H-400x200x8x13の断面寸法を基準にフランジ26,27の厚さを変更する形でパラメータを振っている。表2に解析対象のケースの一覧を示す。なお、フランジ26,27の幅は、互いに等しい。
【0043】
【0044】
ここでは、フランジ26,27の厚さを3mm刻みで変更しており、その他の断面寸法は変更していない。なお、第2フランジ27の厚さを増やした場合はその増厚分だけ第1フランジ26の厚さを減らしており、第2フランジ27の厚さを減らした場合はその減厚分だけ第1フランジ26の厚さを増やしている。
すなわち、フランジ26,27の厚さを変更した場合についても、H形断面部材25の断面積Aは、基準とするフランジ26,27の厚さが互いに等しいケースc13の断面積Aと同等である。H形断面部材25の単位長さ当たりの質量も、ケースc13の単位長さ当たりの質量と同等となる。
各ケースについて、地震時を想定した逆対称の曲げモーメント、常用時を想定した積載荷重による曲げモーメント、の2種類の曲げモーメントが作用する場合について、(L/H)の値が6~50の範囲で、長さLを変更して解析を行った。
【0045】
図14及び
図15に、地震時を想定した逆対称の曲げモーメントが作用する場合の固有値解析結果を示す。
図14は、第1フランジ26が拘束されていない場合であり、
図15は、第1フランジ26の横移動が拘束されている場合である。
図16及び
図17に、常用時を想定した積載荷重による曲げモーメントが作用する場合の固有値解析結果を示す。
図16は、第1フランジ26が拘束されていない場合であり、
図17は、第1フランジ26の横移動が拘束されている場合である。
【0046】
図14より、地震時において第1フランジ26が拘束されていない場合は、フランジ26,27の厚さを変更しても弾性座屈耐力はほとんど変わらないことがわかる。
図16では、常用時においては第2フランジ27の厚さを厚くした場合の方が弾性座屈耐力が小さくなり、第2フランジ27の厚さを薄くしたほうが弾性座屈耐力が大きくなる結果となっている。つまり、第1フランジ26が拘束されていない場合は、第2フランジ27の厚さを厚くして第1フランジ26の厚さを薄くすると、フランジ26,27の厚さが互いに等しい場合に比べて、弾性座屈耐力が同等あるいは低下する傾向にあり、非効率な設計となる。
一方で
図15及び
図17に示す地震時及び常用時において第1フランジ26の横移動が拘束されている場合においては、第2フランジ27の厚さを厚くして第1フランジ26の厚さを薄くした場合は、フランジ26,27の厚さが互いに等しい場合よりも弾性座屈耐力が大きくなる。第2フランジ27の厚さを薄くして第1フランジ26の厚さを厚くした場合は、フランジ26,27の厚さが互いに等しい場合よりも弾性座屈耐力が小さくなる。
【0047】
つまり、地震時及び常用時の荷重条件に係わらず、第1フランジ26の横移動が拘束される条件下においては、第2フランジ27の厚さが厚く第1フランジ26の厚さが薄い、フランジ26,27の厚さが互いに異なる断面を用いることで、フランジ26,27の厚さが互いに等しい断面と同じ鋼材量でより高い弾性座屈耐力を発揮することが出来る。すなわち、第1フランジ26の横移動が拘束される条件下においては、第2フランジ27の厚さが第1フランジ26の厚さよりも厚い非対称のH形断面部材25を用いる方が、フランジ26,27の厚さが互いに等しい場合に比べて、ある弾性座屈耐力を発揮する上で必要な鋼材量を少なくすることができ、効率的な設計が可能となる。
【0048】
なお、
図14及び
図15において、(L/H)の値が小さい範囲で、一部の解析ケースの弾性座屈耐力が頭打ちしているのは、厚さの薄いフランジの局部座屈によるためである。本発明が対象とする横座屈とは異なる、座屈現象によるためである。
図8及び
図9の場合と同様に、局部座屈が発生しているのは横座屈耐力が十分に大きい場合である。この局部座屈による耐力も、H形断面部材25の降伏耐力に比べて十分に大きい領域で生じており、問題とはならない。
一方で、フランジ26,27が極端に薄い場合には、局部座屈が問題になる可能性が想定される。このため、フランジ26,27の幅厚比は、告示昭55建告第1792号第3による梁部材の種別FCの規定値である15.5√(235/F)以下とするのが好ましい。
【0049】
〔4.H形断面部材の端の固定度や曲げモーメント分布の影響についての検討〕
これまでの検討は、H形断面部材25の材軸方向の端のフランジ26,27の反りに関して自由端とし、これら材軸方向の端にはz軸回りの曲げモーメントを作用させたモデルについての検討であった。以下では、表1のH-400についての5ケースを対象に、H形断面部材25の材軸方向の端の固定度や曲げモーメント分布が異なる条件についても検討する。
図18に、材軸方向の端におけるフランジ26,27の反りが固定された場合に、地震時を想定した逆対称の曲げモーメントが作用した場合の解析結果を示す。
図19に、材軸方向の端がそれぞれピン接合されたとして、材軸方向の端におけるz軸回りの曲げモーメントが作用せずに第1フランジ26に風荷重による負圧を想定したy軸方向の分布荷重のみが作用する場合の解析結果を示す。
図18及び
図19のいずれにおいても、第1フランジ26の横移動が拘束されているとした。
なお、風荷重による負圧を想定した曲げモーメントの一例を、
図20に示す。
【0050】
図18及び
図19のどちらの条件も前述の解析結果と同様に、第1フランジ26の横移動が拘束される条件下においては、第2フランジ27の幅が広く第1フランジ26の幅が狭いフランジ26,27の幅が互いに異なる断面を用いることで、フランジ26,27の幅が互いに等しい断面と同じ鋼材量で、より高い弾性座屈耐力を発揮することが出来ている。
よって、本発明では、材軸方向の端の固定度や曲げモーメント分布が異なる条件においても、同様の効果が期待できる。
【0051】
〔5.第2フランジの幅と断面効率の関係についての検討〕
図21及び
図22に、
図8、
図9、
図12、及び
図13に示した第1フランジ26の横移動拘束された場合の弾性座屈解析結果のうち、(L/H)の値が20の場合を対象に第2フランジ27の幅と断面効率の関係を示す。
図21及び
図22において、縦軸は、断面効率(弾性座屈耐力をH形断面部材25の単位長さ当たりの質量で除した値)を表し、横軸は、第2フランジ27の幅を表す。
図21及び
図22より、第2フランジ27の幅が広がるほど縦軸の値が大きくなり、鋼材質量に対する弾性座屈耐力が大きくなることが分かった。よって、弾性座屈耐力の観点からは、第1フランジ26の横移動拘束された場合については、第1フランジ26の幅を極力減らし第2フランジ27の幅を極力広げたほうが断面効率の大幅な向上が期待できる。
【0052】
一方で、第1フランジ26の幅は、折板屋根35及び床等の複数の板状部材を取り付ける際の施工性の観点から最低40mm程度は必要であり、H形断面部材25の設置位置によっては建方の際の安全確保から最低100mm程度は必要である。
また、H形断面部材25では、強軸回りの断面効率の観点から、フランジ26,27の幅はH形断面部材25の高さHと同等以下とするのが一般的である。フランジ26,27の幅が互いに異なる場合においても、第2フランジ27の幅は、高さH以下であることが好ましい。
【0053】
〔6.第1フランジの横移動を弾性バネ拘束した場合についての検討〕
次に、第1フランジ26の横移動を弾性バネ拘束した場合の弾性座屈解析を行う。
これまでの解析結果では、第1フランジ26の横移動を完全に拘束していた。しかし、実際には、第1フランジ26に取り付けられる板状部材の剛性に応じた弾性バネ拘束となる。
図23に、横座屈が生じるH形断面部材25に対する、板状部材50による補剛効果の模式図を示す。なお、
図23では、板状部材50を二点鎖線で示している。以下では、横座屈が生じる対象とするH形断面部材25を、H形断面部材25Aとも言う。
図23中に、H形断面部材25Aが横座屈変形した形状を、二点鎖線L1で示す。
H形断面部材25は、母屋にも相当する。
【0054】
横座屈が生じ得るH形断面部材25Aに板状部材50が取り付けられる場合、板状部材50の軸剛性、せん断剛性、ずれ剛性による抵抗機構として周囲の部材に荷重が伝達される。しかし、ここでは簡単のため、板状部材50の軸剛性のみを考慮した安全側の検討とすることとする。板状部材50を介して対象とするH形断面部材25Aに隣接する部材(例えば、H形断面部材25Aに隣り合うH形断面部材25(以下、H形断面部材25Bとも言う))に荷重が伝達されるものとした、軸剛性を用いる。板状部材50による補剛剛性を、バネ51として概念的に示している。バネ51は、H形断面部材25AとH形断面部材25Bとを接続している。
ここでは、板状部材50の一例として折板屋根を想定してバネ剛性を略算し、解析条件に設定する。折板屋根には様々なタイプがあるが、ここでは折板屋根としては、比較的薄い0.6mmの鋼板1枚で構成された簡易なものを想定する。折板屋根の山谷形状を無視して、折板屋根を平鋼板として考える。そして、折板屋根による補剛剛性Kを、(1)式にて略算的に評価する。
【0055】
【0056】
ただし、Eは板状部材50のヤング係数(N/mm2)であり、tpは板状部材50の厚さ(mm)であり、lpは剛性に寄与する板状部材50の長さ(mm)である。
例えば、長さlpは、隣接する部材までの距離、すなわちH形断面部材25A,25B間の距離である。
長さlpを2.5mと仮定すると、厚さtpが0.6mmであることから、(1)式により、折板屋根のH形断面部材25に対して直交方向の変形に対する補剛剛性Kは、98.4N/mm2となる。以下では、この補剛剛性Kを100N/mm2と近似して扱う。
【0057】
解析は、表1に示す10ケースのH形断面部材25を対象とした。バネ剛性を、5種類に変化させた。5種類のうちの3種類は、バネ剛性を前述の100N/mm2としたものと、その1/10、1/100である10N/mm2、1N/mm2としたものである。5種類のうちの残りの2種類は、第1フランジ26の横移動を完全に拘束した、バネ剛性が無限大のものと、第1フランジ26の横移動を拘束しない、バネ剛性が0のものである。
以上の5種類のバネ剛性による第1フランジ26の拘束条件に対して、検討を行った。
【0058】
図24から
図27に、(L/H)の値が20の場合を対象に、第2フランジ27の幅と断面効率の関係を示す。
図24から
図27では、縦軸は、断面効率を表し、横軸は、第2フランジ27の幅を表す。
図24から
図27より、バネ剛性を100N/mm
2とした結果は、第1フランジ26の横移動を完全に拘束した結果とほぼ同等の断面効率となっている。このため、板状部材50による拘束は、横移動拘束と見なすことができる。
また、バネ剛性を1/10である10N/mm
2とした場合についても、横移動を完全に拘束した場合に比べて断面効率の低下は限定的である。取り付けられる板状部材の剛性が多少低い場合にも変わらずに、第2フランジ27の幅を広げることによって横座屈に対して断面効率の良いH形断面部材25とすることができる。
【0059】
また、バネ剛性を1/100である1N/mm2とした場合については、横移動を完全に拘束した場合に比べて断面効率は低下する。しかしフランジ26,27の幅が互いに等しい断面から、第2フランジ27の幅を広げた場合に、断面効率が向上している。つまり、極端に剛性の低い板状部材が取り付けられたとしても、第2フランジ27の幅を広げることによって、横座屈に対して断面効率の良いH形断面部材25とする効果が期待できる。
【0060】
〔7.本実施形態の効果〕
以上説明したように、本実施形態のH形断面部材25では、第2フランジ27の幅が第1フランジ26の幅よりも広い場合がある。
一般的に、鋼製のH形断面部材の第1フランジに、第1フランジを間に挟んでウェブの反対側に配置されるとともに材軸方向に並べられた複数の板状部材が直接又は仕口部材を介して取り付けられていても、これら複数の板状部材では、H形断面部材に要求される程度の面内の曲げ耐力の負担が期待できないと考えられる。
発明者等は鋭意検討の結果、耐力負担が期待できない折板屋根35に第1フランジ26が取り付けられている場合でも、例えば両フランジ26,27の材軸方向に直交する断面積の合計が一定の時に、両フランジ26,27の幅が互いに等しい場合に比べて、第2フランジ27の幅が第1フランジ26の幅よりも広い、本実施形態のH形断面部材25の弾性座屈耐力が大きくなることを見出した。
従って、第2フランジ27の幅が第1フランジ26の幅よりも広くてH形断面部材25の弾性座屈耐力が大きくなることにより、H形断面部材25の断面形状を合理的に構成することができる。
【0061】
また、本実施形態のH形断面部材25では、第2フランジ27の厚さが第1フランジ26の厚さよりも厚い場合がある。
発明者等は鋭意検討の結果、耐力負担が期待できない折板屋根35に第1フランジ26が取り付けられている場合でも、例えば両フランジ26,27の材軸方向に直交する断面積の合計が一定の時に、両フランジ26,27の厚さが互いに等しい場合に比べて、第2フランジ27の厚さが第1フランジ26の厚さよりも厚い、本実施形態のH形断面部材25の弾性座屈耐力が大きくなることを見出した。
従って、第2フランジ27の厚さが第1フランジ26の厚さよりも厚くてH形断面部材25の弾性座屈耐力が大きくなることにより、H形断面部材25の断面形状を合理的に構成することができる。
【0062】
底板37、第1傾斜板38、天板39、及び第2傾斜板40である複数の板状部材は、屋根葺材を構成する。従って、屋根葺材に仕口部材を介して第1フランジ26が取り付けられることにより、H形断面部材25で屋根葺材を支持することができる。
また、本実施形態の支持構造46,47では、断面形状を合理的に構成したH形断面部材15,25を用いて支持構造46,47を構成することができる。
前記H形断面部材25の効果は、第1H形断面部材15についても当てはまる。
【0063】
〔8.その他の検討〕
本実施形態のH形断面部材25及び支持構造46,47は、以下に説明するようにその構成を様々に変形させることができる。
板状部材は、床スラブを除く部材であれば、特に限定されない。一般的に、床スラブであれば、建設現場でコンクリートを打設してH形断面部材の全長にわたって一枚の面材を構築するので、H形断面部材に要求される程度の面内の曲げ耐力の負担が期待できる。一方で、床スラブを除く部材では、一般的に工場で製作された規格寸法の板状部材を建設現場でH形断面部材の材軸方向に複数並べて面を構築する。このため、鋼製のH形断面部材の第1フランジに、床スラブを除く板状部材であって、第1フランジを間に挟んでウェブの反対側に配置された板状部材が直接又は仕口部材を介して取り付けられていても、この板状部材では、H形断面部材に要求される程度の耐力負担が期待できないと考えられる。この場合、板状部材は、第1フランジ26を間に挟んでウェブ28の反対側に配置される。
例えば、第2フランジ27の幅は第1フランジ26の幅よりも広い。
発明者等は鋭意検討の結果、耐力負担が期待できない板状部材に第1フランジ26が取り付けられている場合でも、例えば両フランジ26,27の材軸方向に直交する断面積の合計が一定の時に、両フランジ26,27の幅が互いに等しい場合に比べて、第2フランジ27の幅が第1フランジ26の幅よりも広いH形断面部材25の弾性座屈耐力が大きくなることを見出した。
従って、第2フランジ27の幅が第1フランジ26の幅よりも広くてH形断面部材25の弾性座屈耐力が大きくなることにより、H形断面部材25の断面形状を合理的に構成することができる。
【0064】
また、前記変形例において、第2フランジ27の厚さは第1フランジ26の厚さよりも厚くてもよい。
発明者等は鋭意検討の結果、耐力負担が期待できない板状部材に第1フランジ26が取り付けられている場合でも、例えば両フランジ26,27の材軸方向に直交する断面積の合計が一定の時に、両フランジ26,27の厚さが互いに等しい場合に比べて、第2フランジ27の厚さが第1フランジ26の厚さよりも厚いH形断面部材25の弾性座屈耐力が大きくなることを見出した。
従って、第2フランジ27の厚さが第1フランジ26の厚さよりも厚くてH形断面部材25の弾性座屈耐力が大きくなることにより、H形断面部材25の断面形状を合理的に構成することができる。
【0065】
図28に示すように、建築物1Aでは、大梁である第1H形断面部材15に、母屋である第2H形断面部材25を介して、折板屋根35が取り付けられている。
さらに、柱10に、胴縁である第2H形断面部材25が固定され、この第2H形断面部材25に、外壁材55が仕口部材(不図示)を介して取り付けられている。なお、第2H形断面部材25及び外壁材55で、支持構造57が構成される。
例えば、外壁材55は、複数のサイディングボード(板状部材)56を有している。各サイディングボード56は、セメント製であり、上下方向に沿って延びている。複数のサイディングボード56は、第2H形断面部材25の材軸方向に並べられている。複数のサイディングボード56は、第1フランジ26を間に挟んでウェブ28の反対側に配置されるとともに、仕口部材(不図示)を介して第1フランジ26にそれぞれ取り付けられている。
【0066】
図29に示すように、建築物1Bでは、胴縁である第2H形断面部材25が上下方向に沿って延び、この第2H形断面部材25に、外壁材60が図示しない仕口部材を介して取り付けられている。なお、第2H形断面部材25及び外壁材60で、支持構造62が構成される。
例えば、外壁材60は、複数のサイディングボード61を有している。各サイディングボード61は、水平面に沿って延びている。複数のサイディングボード61は、第2H形断面部材25の材軸方向に並べられている。複数のサイディングボード61は、第1フランジ26を間に挟んでウェブ28の反対側に配置されるとともに、仕口部材を介して第1フランジ26にそれぞれ取り付けられている。
【0067】
板状部材の素材として想定される木材やALC(Autoclaved Lightweight aerated Concrete)等は、鋼板に比べてヤング係数が低い。しかし、その代わりとして、木材やALC等の厚さは、鋼板の厚さに比べて厚くなる。例えば、木材では、ヤング係数が鋼材の約1/20だが、構造用合板は12mm以上の厚さの物が一般的である。この場合は、前述の折板屋根と同程度の剛性が期待できる。つまり、素材が変わることにより極端に上フランジ拘束部の剛性が低下する可能性は低く、上記の解析結果を踏まえると様々な面材について、第1フランジ26に対する十分な拘束効果が期待できる。このため、板状部材には金属材料に限らず、木質系や窯業系、樹脂系等の素材を使用することができる。
【0068】
なお、これまでの検討では、ウェブ28がフランジ26,27の幅方向の中心に取り付けられるH形断面部材25を対象に検討を行っている。しかし、ウェブ28がフランジ26,27の幅方向の中心に取り付けられないH形断面部材25に対しても、同様の効果を期待できる。
また、第1フランジ26又は第2フランジ27が、材軸方向に直交する断面内で折れ曲がっている場合についても、同様の効果は期待できる。しかし、製造面や施工面を考えると、フランジ26,27はそれぞれ平板状であるのが好ましい。
【0069】
H形断面部材25は、圧延H形鋼に限らず、溶接組立H形鋼であっても構わない。また、溶接軽量H形鋼(軽量H形鋼)は、熱間圧延鋼帯、冷間圧延鋼帯、又はめっき鋼帯から、連続した高周波抵抗溶接、又はこれと高周波誘導溶接との併用によって製造される。この溶接軽量H形鋼は、1枚の鋼帯をスリッターで分断して2枚のフランジとするため、分断する際に等分せずに2枚のフランジの幅に差をつけることが出来、上下フランジの幅が異なるH形断面を容易に製造することができることから、H形断面部材25は、溶接軽量H形鋼であることが好ましい。ここで言う溶接軽量H形鋼とは、JIS G 3353:2011で規定されるものや、建築基準法に基づく指定建築材料に関する大臣認定を受けたものが含まれる。
この場合、溶接軽量H形鋼によりH形断面部材25を比較的軽く構成することができる。
H形断面部材25は、一般的なH形鋼であってもよい。
【0070】
以上、本発明の一実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の構成の変更、組み合わせ、削除等も含まれる。
【符号の説明】
【0071】
10 柱
15 第1H形断面部材(H形断面部材)
16,26 第1フランジ
17,27 第2フランジ
18,28 ウェブ
25 第2H形断面部材(H形断面部材)
35 折板屋根
36 波形部材
37 底板(板状部材)
38 第1傾斜板(板状部材)
39 天板(板状部材)
40 第2傾斜板(板状部材)
46,47,57,62 支持構造
50 板状部材
55,60 外壁材
56,61 サイディングボード(板状部材)