(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023005540
(43)【公開日】2023-01-18
(54)【発明の名称】処置システム
(51)【国際特許分類】
A61C 3/025 20060101AFI20230111BHJP
【FI】
A61C3/025
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021107532
(22)【出願日】2021-06-29
(71)【出願人】
【識別番号】000130776
【氏名又は名称】株式会社サンギ
(74)【代理人】
【識別番号】110002354
【氏名又は名称】弁理士法人平和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐久間 周治
【テーマコード(参考)】
4C052
【Fターム(参考)】
4C052AA17
4C052BB12
4C052HH08
(57)【要約】
【課題】処置システムによる歯牙への成膜効率を向上させる。
【解決手段】処置システム1は、被処置者91の歯牙93に向けて帯電した粉体98を噴射して歯牙93に粉体98を付着させて成膜するように構成された処置装置10と、歯牙93の電位を制御するように構成された電位制御装置60とを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処置者の歯牙に向けて帯電した粉体を噴射して当該歯牙に当該粉体を付着させて成膜するように構成された処置装置と、
前記歯牙の電位を制御するように構成された電位制御装置と
を備える処置システム。
【請求項2】
前記電位制御装置は、前記被処置者を接地するように構成された接地電極を有する、請求項1に記載の処置システム。
【請求項3】
前記電位制御装置は、前記被処置者と前記処置装置を操作する術者とを電気的に接続する配線を有する、請求項1に記載の処置システム。
【請求項4】
前記電位制御装置は、前記歯牙を除電するように構成されたイオナイザーを有する、請求項1に記載の処置システム。
【請求項5】
前記電位制御装置は、前記歯牙を正に帯電させるように構成された歯牙帯電装置を有する、請求項1に記載の処置システム。
【請求項6】
前記処置装置は、前記粉体の流路に設けられ、前記粉体が通過することで当該粉体が帯電するように構成されたフィルタを有する、請求項1乃至5の何れかに記載の処置システム。
【請求項7】
前記処置装置は、前記粉体を帯電させるように構成された粉体帯電装置を有し、
前記電位制御装置は、前記歯牙の電位を帯電した前記粉体と逆の極性に帯電させるように構成された歯牙帯電装置を有する、
請求項1に記載の処置システム。
【請求項8】
前記被処置者の口腔内を除湿するように構成された除湿装置をさらに備える、請求項5又は7に記載の処置システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、処置システムに関する。
【背景技術】
【0002】
常温大気圧環境下で微小な粉体を対象物に高速で吹き付けることで、当該対象物の表面に膜を形成するパウダージェットデポジション(PJD)法が知られている。歯科分野においても、PJD法によりハイドロキシアパタイトの微小粒子を歯牙に吹き付けることで、歯牙の表面に膜が形成されることが知られている。このような技術について、例えば特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、PJD法を用いた処置システムにおける歯牙への成膜効率を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様によれば、処置システムは、被処置者の歯牙に向けて帯電した粉体を噴射して当該歯牙に当該粉体を付着させて成膜するように構成された処置装置と、前記歯牙の電位を制御するように構成された電位制御装置とを備える。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、PJD法を用いた処置システムにおける歯牙への成膜効率が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、第1の実施形態に係る処置システムの構成例の概略を模式的に示す図である。
【
図2】
図2は、第2の実施形態に係る処置システムの構成例の概略を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[第1の実施形態]
第1の実施形態について図面を参照して説明する。本実施形態は、常温大気圧下において微小な無機粉体を歯牙に噴射することで、歯牙の表面に膜を形成する歯科用の処置システムに関する。この処置システムは、例えば、窩洞の充填、露出した象牙細管の封鎖、変色した歯の色調改善などに用いられ得る。この処置システムでは、常温大気圧環境下において対象物に粉体を吹き付けて当該対象物に当該粉体を付着させて膜を形成するパウダージェットデポジション(PJD)法が用いられている。
【0009】
〈システムの構成〉
図1は、本実施形態の処置システム1の構成例の概略を模式的に示す図である。処置システム1は、処置装置10を備える。処置装置10は、被処置者91の歯牙93に向けて帯電した粉体98を噴射して当該歯牙93に当該粉体98を付着させて成膜するように構成された装置である。処置装置10は、ハンドピース20と、気体供給ユニット32と、粉体供給ユニット34とを備える。
【0010】
ハンドピース20は、術者によって把持されるように構成された部分である。ハンドピース20は、その先端に噴射口21を有する。ハンドピース20は、噴射口21から粉体98を噴射するように構成されている。
【0011】
気体供給ユニット32は、ハンドピース20及び粉体供給ユニット34に気体を供給するように構成されている。気体は、例えば空気又は窒素などのガスである。
【0012】
粉体供給ユニット34は、粉体98を分級し、分級した粉体98をハンドピース20に供給するように構成されている。粉体98は、例えば、ハイドロキシアパタイト(HAP)の粒子である。粉体供給ユニット34は、気体供給ユニット32から供給された気体を用いて、例えば、0.1μmから500μmのHAP粒子を分級する。成膜効率を考慮すると、0.1μmから10μmのHAP粒子を得ることがさらに好ましい。粉体供給ユニット34は、分級したHAP粒子の粉体98を、気体供給ユニット32から供給された気体中に分散させた状態でハンドピース20に供給する。
【0013】
ハンドピース20は、気体供給ユニット32から供給された気体を噴射口21から高速で噴出させる。ハンドピース20は、この高速の気体に粉体供給ユニット34から供給された粉体98を混合し、噴射口21から粉体98を高速で噴出させる。
【0014】
処置装置10では、粉体供給ユニット34から噴射口21に至るまでの粉体98の流路41のどこかにフィルタ42が設けられ得る。フィルタ42が設けられる理由、フィルタ42が設けられる位置、フィルタ42の形態などは、種々あり得る。例えば、フィルタ42は、粉体供給ユニット34内に、分級のために設けられ得る。また、フィルタ42は、管内を流れる気体及び粉体98の整流のために設けられる仕切りなどであり得る。また、フィルタ42は、例えばハンドピース20内の噴射口21の近くに凝集した粉体98を破砕するために設けられる網のような構造物などであり得る。
【0015】
処置システム1は、被処置者91の歯牙93の電位を制御するように構成された電位制御装置60を備える。単純な構成の一例としては、電位制御装置60は、導電性ケーブル及び端子を有する接地電極を含む。接地電極の一端は接地され、他端は被処置者91の何れかの部位に接続される。接地電極は、例えば、歯牙93の付近に接続されるものであってもよいし、被処置者91の例えば手首にバンド状に巻かれるもの等であってもよい。
【0016】
〈システムの動作〉
処置システム1の動作について説明する。被処置者91には、例えば接地電極といった電位制御装置60が取り付けられる。術者は、ハンドピース20を把持して、噴射口21を被処置者91の歯牙93に向ける。
【0017】
術者による操作によって、以下が行われる。気体供給ユニット32から粉体供給ユニット34に供給された気体によって、粉体供給ユニット34内でHAP粒子が分級され、例えば10μm以下の粉体98が気体に分散した状態でハンドピース20に供給される。この粉体98は、気体供給ユニット32から供給された気体によって加速され、噴射口21から歯牙93に向けて噴射される。歯牙93の表面に衝突した粉体98は、歯牙93の表面に付着し、歯牙93の表面に膜が形成される。
【0018】
ハンドピース20の噴射口21から噴射される粉体98は、粉体供給ユニット34から流路41を経て噴射口21に至る。この間、粉体98は、流路41に設けられたフィルタ42や流路壁と接触する。粉体98は、フィルタ42や流路壁との摩擦によって帯電し得る。粉体98は、例えば負に帯電しやすい。
【0019】
仮に、電位制御装置60が設けられていないとき、次のようになる。すなわち、例えば負に帯電した粉体98が歯牙93の表面に吹き付けられて、歯牙93の表面に付着する。このため、歯牙93は負に帯電していく。歯牙93が負に帯電していくと、負に帯電した粉体98が歯牙93に付着しにくくなる。その結果、付着せずに飛散する粉体98の割合が高くなり、成膜効率が低下する。
【0020】
これに対して、本実施形態の処置システム1では、例えば、接地電極である電位制御装置60が設けられており、被処置者91が接地されている。このため、負に帯電した粉体98が歯牙93の表面に吹き付けられて粉体98が歯牙93の表面に付着したとき、歯牙93は、接地されているので、帯電しにくい。その結果、上述のような歯牙93が負に帯電することによる粉体98の付着しにくさは抑制され、成膜効率の低下が防止される。すなわち、電位制御装置60が設けられていない場合と比較すると、本実施形態の処置システム1では、成膜効率が向上する。
【0021】
〈電位制御装置について〉
本実施形態の電位制御装置60は、上述のように機能するので、その態様は種々あり得る。被処置者91の歯牙93との間に電気的な回路が形成されるように、上述の例では、ハンドピース20は、接地されている。同様の回路が形成されるように、電位制御装置60として、例えば、被処置者91の手首とハンドピース20を把持する術者の手首とが電気的に接続されてもよい。
【0022】
また、電位制御装置60は、歯牙93を除電するように構成されたイオナイザーを有していてもよい。イオナイザーは、例えば、被処置者91の口腔95に正負のイオンを当てて、歯牙93を含む口腔95を除電してもよい。イオナイザーは、ハンドピース20に設けられていてもよい。
【0023】
また、電位制御装置60は、歯牙93を正に帯電させるように構成された歯牙帯電装置として機能する帯電装置であってもよい。歯牙93を正に帯電させた場合には、歯牙93が接地されている場合よりも、負に帯電した粉体98は、より歯牙93に付着しやすくなり、成膜効率がさらに向上する。
【0024】
帯電装置は、被処置者91の電位を接地電位よりも正の電位にするような回路構成を有していてもよい。また、帯電装置は、コロナ放電により発生させた正のイオンを歯牙93に当てるようなものであってもよい。このような帯電装置は、ハンドピース20に設けられていてもよい。なお、粉体98が正に帯電する場合は、電位制御装置60の帯電装置は、歯牙93を負に帯電させるように構成されればよい。このように帯電装置は、前記歯牙93の電位を帯電した前記粉体98と逆の極性に帯電させる。
【0025】
本実施形態の処置システム1によれば、歯牙93の電位が制御されることで、粉体98が歯牙93に付着しやすい電気的な環境が整えられ、成膜効率が向上する。
【0026】
[第2の実施形態]
第2の実施形態について説明する。ここでは、第1の実施形態との相違点について説明し、同一の部分については、同一の符号を付してその説明を省略する。第2の実施形態では、粉体98を積極的に帯電させる。
【0027】
図2は、本実施形態の処置システム2の構成例の概略を模式的に示す図である。この処置システム2は、第1の実施形態の処置システム1の構成に加えて、粉体帯電装置70及び除湿装置80を備える。
【0028】
粉体帯電装置70は、粉体供給ユニット34から供給された粉体98を帯電させる。粉体帯電装置70は、例えば、粉体供給ユニット34からハンドピース20の噴射口21に至る粉体98の流路の何れかの位置に設けられる。粉体帯電装置70は、
図2に示すように、粉体供給ユニット34からハンドピース20に至る流路の途中に設けられてもよいし、ハンドピース20内に設けられてもよい。
【0029】
粉体帯電装置70は、例えば、コロナ放電を行うための高電圧発生器とコロナ電極とを有していてもよい。例えば、ハンドピース20内の流路にコロナ電極が設けられてもよい。粉体帯電装置70は、コロナ放電により、粉体98を帯電させることができる。粉体98の帯電の極性は、正負いずれであってもよい。
【0030】
電位制御装置60は、歯牙93を接地するものであってもよいが、粉体帯電装置70により帯電させた粉体98の極性と逆の極性に歯牙93を帯電させるものであることが好ましい。このようにすることで、静電吸着により、粉体98の歯牙93への付着頻度が高くなり、成膜効率が向上する。
【0031】
口腔95内の湿度が高いと歯牙93及び粉体98が帯電しにくくなるので、本実施形態の処置システム2は、口腔95を除湿する除湿装置80を備える。除湿装置80は、例えば、口腔95内に温風を送風する温風装置であってもよい。除湿により、歯牙93等がより帯電しやすくなり、粉体98の付着による成膜効率がさらに向上する。除湿装置80は、ハンドピース20に設けられていてもよい。
【0032】
なお、除湿装置80は、粉体帯電装置70を有しない第1の実施形態の処置システム1に適用されてもよい。電位制御装置60により、歯牙93を例えば正に帯電させるときに効果を奏する。
【0033】
第2の実施形態の処置システム2によれば、粉体98の静電吸着により、高い成膜効率が得られる。
【0034】
以上、本発明について、好ましい実施形態を示して説明したが、本発明は、前述した実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の範囲で種々の変更実施が可能であることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0035】
1 処置システム
2 処置システム
10 処置装置
20 ハンドピース
21 噴射口
32 気体供給ユニット
34 粉体供給ユニット
41 流路
42 フィルタ
60 電位制御装置
70 粉体帯電装置
80 除湿装置
91 被処置者
93 歯牙
95 口腔
98 粉体