(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023055417
(43)【公開日】2023-04-18
(54)【発明の名称】農作業機
(51)【国際特許分類】
A01F 15/08 20060101AFI20230411BHJP
A01F 25/13 20060101ALI20230411BHJP
【FI】
A01F15/08 R
A01F25/13 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021164781
(22)【出願日】2021-10-06
(71)【出願人】
【識別番号】000198330
【氏名又は名称】株式会社IHIアグリテック
(74)【代理人】
【識別番号】110000626
【氏名又は名称】弁理士法人英知国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】森 素広
(72)【発明者】
【氏名】宮田 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】廣川 雄亮
【テーマコード(参考)】
2B100
【Fターム(参考)】
2B100AA06
2B100BA09
2B100JA01
(57)【要約】
【課題】SDGs目標12の「作る責任・つかう責任」を果たしながらも適正に駆動できる農作業機を提供すること。
【解決手段】本発明は、入力軸と作業部と制御部と補正制御部を備え、入力軸は、作業部に適合した定格回転数が決められており、作業部は、種々の作動部材を有し、制御部は、作動部材の駆動を制御するものであり、補正制御部は、定格回転数と異なる入力軸回転数を検出する場合、または、定格回転数と異なる入力軸回転数の設定となった場合、補正する作動部材を選びその駆動を補正することを特徴とする農作業機とすることで、課題を解決することができた。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力軸と作業部と制御部と補正制御部を備え、
入力軸は、作業部に適合した定格回転数が決められており、
作業部は、種々の作動部材を有し、
制御部は、作動部材の駆動を制御するものであり、
補正制御部は、定格回転数と異なる入力軸回転数を検出する場合、または、定格回転数と異なる入力軸回転数の設定となった場合、補正する作動部材を選びその駆動を補正することを特徴とする農作業機。
【請求項2】
前記駆動の補正は、当該種々の作動部材の駆動を継続する時間、駆動を開始する時間、駆動を終了する時間または駆動速度を補正することを特徴とする請求項1記載の農作業機。
【請求項3】
前記異なる入力回転数が、定格回転数より低い回転数である請求項1または2のいずれか1項に記載の農作業機。
【請求項4】
前記異なる入力回転数が、定格回転数より高い回転数である請求項1または2のいずれか1項に記載の農作業機。
【請求項5】
前記農作業機が、ラッピングマシンである請求項1~4のいずれか1項に記載の農作業機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、農作業機に関する。
【背景技術】
【0002】
農作業機として、特許文献1には、圃場に載置されたロールベールを拾い上げ、フィルムでラッピングするラッピングマシンが記載されている。
【0003】
農作業機には、ある決まったシーケンス、例えば、ラッピングマシンなら、圃場に置かれたロールベールを拾い上げ、ターンテーブルに乗せ、ターンテーブルを回転させてラップフィルムを巻き、ラップフィルムの巻かれたロールベールを再び圃場に置くという一連のシーケンスがある。それらの一連のシーケンス中に、様々な流体圧シリンダや流体圧モータなどの作動部材が駆動し、ロールベールにフィルムを巻く作業を行うようになっている。
【0004】
一連のシーケンスの中で、制御部は、流体圧シリンダや流体圧モータなどの作動部材が駆動する適正なタイミングとなるよう制御する。
制御を正しく機能させるため。ラッピングマシンの入力軸の回転数は、例えば、540回転、1080回転などと決められており、定められた回転数(以下、「定格回転数」という。)で運用するようマニュアルで決められている。
作業者は、農作業機の入力軸回転数を定格回転数とするため入力軸変速を1速や2速などに操作することとなる。制御部による制御は、定格回転数に最適化されており、作業部の種々の作動部材を正確なタイミングで動作させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】農林水産省生産局編・社団法人日本農業機械化協会編、「地球温暖化対策 農業機械の省エネ利用マニュアル―平成20年度 数値化改訂版―」、平成21年3月発行、URL:https://www.maff.go.jp/j/seisan/sien/sizai/s_kikaika/pdf/nouki_manual2.pdf
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年、SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)が、国連サミットで採択され、持続可能な消費と生産のパターンを確保するという目標12の「作る責任・つかう責任」を農業においても果たそうという機運が高まってきた。次の非特許文献1に記載のように、入力軸の定格回転数がマニュアルで決められた農作業機においても、燃料消費量を抑え、目標12の「作る責任・つかう責任」を果たしたいという要望が出てきた。
【0008】
非特許文献1の第8頁の「(1)適正なエンジン回転で作業する」という項には、次のように記載されている。
「(1) 適正なエンジン回転で作業する
一般に、必要以上に高いエンジン回転で作業すると、燃費が悪化します。
<例> 30馬力級のトラクターで、最大出力の50%程度の負荷のロータリー耕を行う場合、走行速度段とPTO速度段を調節して走行速度とPTO回転速度を変えずに、エンジン回転を定格(2,600rpm)から1,800rpmに下げて作業すると約20%(約3.5リットル/ha)、最大出力の20%程度の負荷のブロードキャスターによる施肥作業を行う場合、同様に走行速度とPTO回転速度を変えずに、エンジン回転を定格(2,600rpm)から1,800rpmに下げて作業すると約30%(約0.2リットル/ha)燃料消費量を節減できるという測定例があります。
負荷の状態に合った適正なエンジン回転で作業しましょう。
ブロードキャスター、ライムソワー、ブームスプレーヤーなど、使用するPTO回転速度が決められている作業機でエンジン回転を定格より低くする場合は、所定のPTO回転速度となるPTO速度段とエンジン回転に設定しましょう。」
【0009】
PTO軸などの入力軸の回転数が定格に決められた農作業機において、燃料を節約するためエンジン回転数を落とし、農作業機の走行速度を低下させることで、入力軸の回転数を落とさないことも可能であるが、その加減は難しく、結果的に定格回転数より低い入力軸の回転数となることがあった。農作業機の作業部への入力軸の回転数が定格回転数に決められている農作業機において、エンジン回転数を低く又は高く設定することで意図せず入力軸の回転数が定格回転数より低く又は高くなってしまう場合や、意図的に入力軸の回転数を定格回転数より低く又は高くした場合、作業部の種々の作動部材が動くタイミングがずれ、うまく作業工程をこなせないことがあった。
本発明は、SDGs目標12の「作る責任・つかう責任」を果たしながらも適正に駆動できる農作業機を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、入力軸と作業部と制御部と補正制御部を備え、入力軸は、作業部に適合した定格回転数が決められており、作業部は、種々の作動部材を有し、制御部は、作動部材の駆動を制御するものであり、補正制御部は、定格回転数と異なる入力軸回転数を検出する場合、または、定格回転数と異なる入力軸回転数の設定となった場合、補正する作動部材を選びその駆動を補正することを特徴とする農作業機とすることで課題を解決した。
【発明の効果】
【0011】
定格回転数より低いまたは高い入力軸の回転数となったとしても、作業部の作業部材を適正に駆動させることが可能となった。本発明は、SDGs目標12の「作る責任・つかう責任」に寄与できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】ラッピングマシンの説明図である。(A)ラッピングマシンをトラクター側から観た正面図である。(B)ラッピングマシンの斜視図である。(C)ラッピングマシンの側面図である。(D)ロールベールを積み込み、積み降ろす側となるラッピングマシンの背面図である。
【
図2】ラッピング前のロールベールの積み込み工程直前のリフトアームの位置を説明する説明図である。(A)ラッピングマシンのラッピング前のロールベールを積み込む前の作業姿勢を示す斜視図である。(B)ラッピング前のロールベールの積み込み工程中のリフトアームの位置を説明する説明図である。
【
図3】積み降ろし工程の説明図である。(A)から(B)の順でロールベールが積み降ろされる。
【
図4】縦置き工程の説明図である。(a)~(e)の順で縦置かれる。
【
図5】ラッピングマシンの制御に関する説明図である。
【
図6】入力軸の回転数算出処理のフローを示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の実施例を説明する。以下の説明で、異なる図における同一符号は同一機能の部位を示しており、各図における重複説明は適宜省略する。
【0014】
農作業機として、ラッピングマシン1を例に挙げて説明するが、本発明は、ラッピングマシン1に限らず、定格回転数で使用することがマニュアルで決められている農作業機であれば適用可能である。例を挙げれば、ブロードキャスター、ライムソワー、ブームスプレーヤー、テッダなどがある。
【0015】
本発明でいうロールベールRは、作物をロールベーラなどのロールベール成形装置によって、円柱状に圧縮成型したものであり、ラップフィルムでラッピング(巻回)された状態のものである。「ラッピング前のロールベールR」などと特に断りのない限り、単に「ロールベールR」というときは、ラップフィルムがラッピング(巻回)された状態のものをいう。
【0016】
ロールベールRは、実施例のラッピングマシン1によって縦置きした状態で圃場に置かれる。ここで、ロールベールRが倒れた状態とは、ロールベールRの軸線が圃場面と平行である状態であり、円柱状のロールベールRの円柱の周面が接地するように倒れた状態である。他方、ロールベールRを縦置きした状態とは、ロールベールRの軸線が圃場面に対して鉛直である状態であり、円柱状のロールベールRの底面を接地させて立てた状態である。
【0017】
実施例で使われている種々の油圧シリンダは、複動型であり、伸ばす場合にも縮める場合にも油圧を必要とする。
【0018】
(実施例)
実施例は、ラッピングマシン1を本発明の農作業機とした例である。
先ず、本発明のラッピングマシン1の構造などを説明する。ラッピングマシン1は、圃場からラッピング前のロールベールRを拾い上げ、表面を樹脂製のラップフィルムでラッピングする農作業機である。円柱状のラッピング前のロールベールRは、ラッピング後に底面、上面、周面の全てがラップフィルムで覆われることとなる。
【0019】
ロールベールRの底面(上面)は円柱状のロールベールRの周面と比べ、ラップフィルムの重なりが多重で厚い。そこで、ロールベールRを、ラップフィルムが多重で厚い底面を下にして縦置くことで、残幹などの突起物が刺さりにくく、ラップフィルムに穴が開きにくくする技術が開発されてきた。いわゆる、ロールベールRの縦置き機構である。ロールベールRの縦置き機構は、ロールベールRの周面を圃場に接地させるのではなく、ラップフィルム層が厚いロールベールRの底面を圃場に接地させる機構である。実施例は、縦置き機構を備えたラッピングマシン1に係る。
【0020】
図1は、ラッピングマシン1の説明図であり、
図1(A)はラッピングマシン1をトラクター側から観た正面図である。ラッピングマシン1のトラクター側には、トラクターのPTO軸と連結するための入力軸4が設けられている。入力軸4から受け取った動力は、機種や農作業機の種類によって異なるが、ギア機構などそのまま機械的な動力として作動部材を機械駆動させることに使われることもある。また、入力軸4から受け取った動力は、油圧ポンプ駆動に使われ、油圧シリンダや油圧モータなどの油圧作動部材を駆動するのに使用されることもある。
【0021】
図1(C)はラッピングマシン1の側面図である。
図1(A)と
図1(C)に図示されている符号2は、電磁制御弁ブロックである。電磁制御弁ブロック2は、制御部6で開け閉めが制御されている。オイルタンク41から図示されていない油圧ポンプで昇圧されたオイルは、電磁制御弁ブロック2を介してラッピングマシン1に搭載されている様々な油圧駆動アクチュエータに送られる。リフトアーム123は、リフトアームシリンダ121で駆動され、リフトアーム回動軸125を軸に回動する。
【0022】
定格回転数で使うようマニュアルで決められている農作業機の場合、定格回転数で駆動されることを前提に機械駆動や油圧駆動する作動部材の作動タイミング等が制御されている。定格回転数を守らないことにより、これら機械駆動や油圧駆動する作動部材の作動タイミングがずれ、正常な動作ができないことが起き得る。以下、実施例のラッピングマシン1の油圧シリンダやモータなどの作動を説明しながら、定められた定格回転数でなくとも正常な動作ができる本発明の実施例について説明する。
【0023】
実施例のラッピングマシン1は、入力軸4の回転数を図示されていないエンコーダーにより検出すように構成されている。入力軸4の回転数は、後述する補正制御部71による補正に使われる。なお、入力軸4の回転数に代えて、PTO軸の回転数を測定してもよいし、トラクターがPTO軸の回転数を検出するセンサを搭載している場合は、そのデータを制御部6へ入力できるようにしてもよい。要は、ラッピングマシン1(農作業機)に入力される動力を検出できればよく、その検出手段を問わない。
【0024】
(ラッピングマシンの主な作動部材)
図1(B)の斜視図、
図1(C)の側面図、
図1(D)の背面図に図示されているリフトアーム12は、ラッピング前やラッピング後のロールベールRを抱え込むものである。リフトアーム12の先端には、一対の回転ローラ123を軸支するヘッド122が設けられている。各々の回転ローラ123は、ローラ回転軸124を中心に回転自在に構成されている。
【0025】
図1(A)はリフトアーム12がロールベールRを抱え込んだ状態を示している。リフトアーム12は、リフトアームシリンダ121によって駆動されている。リフトアームシリンダ121の駆動は、制御部6の制御を受ける。
【0026】
図1(B)はラッピングマシン1の斜視図であり、
図1(C)はラッピングマシン1の側面図である。ターンテーブル13は、一対のローラ133の間にかけ渡されたベルト134を備えており、ベルト134に載置されたラッピング前の円筒状のロールベールRをその軸線を中心に回転できるようになっている。ベルト134の回転は、制御部6の制御を受ける。
【0027】
図1(C)の機台135は、ターンテーブル13とリフトアーム12を共に支えるものである。
図2(A)は、ラッピングマシン1のラッピング前のロールベールRを積み込む前の作業姿勢を示す斜視図である。ダンプシリンダ131は、ラッピングマシン1の走行機枠15に収められている。ダンプシリンダ131は、一端が走行機枠15に取り付けられており、他端が機台135に取り付けられている。ダンプシリンダ131は、
図1(C)の機台135を
図2の姿勢に動かすものであり、
図1(C)の機台回動軸136を軸として、ターンテーブル13とリフトアーム12を
図2(A)の状態にまで動かす。
ダンプシリンダ131の駆動は、制御部6の制御を受ける。
【0028】
図1(D)はロールベールRを積み込み、積み降ろす側となるラッピングマシン1の背面図である。縦置きアーム5の詳細については後述するが、縦置きアーム5は、通常水平状態になっており、ロールベールRを縦置く際に図示されるように立ち上がる。縦置きアーム5は立ち上げシリンダ51で駆動され、立ち上げシリンダ51は制御部6の制御を受ける。
【0029】
以下の、積み込み工程から縦置き工程は、制御部6による制御により自動化されており、作業者は、特段の操作することなく、自動的にロールベールRがラッピングされ縦置かれる。
【0030】
(積み込み工程)
図2(B)はラッピング前のロールベールRの積み込み工程中のリフトアーム12の位置を説明する説明図である。作業者は、ラッピングマシン1を運転し、圃場に倒れて置かれたラッピング前のロールベールRの円周面が略垂直になるまで回動されたターンテーブル13に面するように運転する。その後、作業者はリフトアーム12を降下させ、一対の回転ローラ123とターンテーブル13の間にロールベールRを挟むように動かす。回転ローラ123は、ラッピング前のロールベールRを積み込む際にターンテーブル13から落ちないように強くロールベールRを押圧する。
【0031】
その後、ダンプシリンダ131が駆動し、ラッピング前のロールベールRはラッピングマシン1に積み込まれる。
図1(C)には、ロールベールRが説明のため図示されていないが、積み込まれたラッピング前のロールベールRは
図1(C)に図示されたターンテーブル13上に円周面を当接させて載置された状態となる。
この時の、ダンプシリンダ131の駆動は、制御部6の制御を受ける。
【0032】
実施例の積み込み工程は、定格回転数を守らないことにより影響を受けにくい工程である。
実施例において、ラッピング前のロールベールRの積み込み完了は、走行機枠15に設けられた図示しないセンサに機台135が接触したことにより検出される。実施例の制御部6は、センサでロールベールRの積み込み完了を判断し、この工程の制御を終了する。ダンプシリンダ131の駆動は、油圧が低ければ遅い速度で駆動するが、積み込みが終わるまでの時間が変わるだけであり、最終的にセンサにターンテーブル13が接触するまで続くので、途中でターンテーブル13が停止してしまうなどのことは起きない。
【0033】
このように、定格回転数が守られなくとも影響を受けない工程もある。ただし、影響を受けるか受けないかは、工程の種類だけではなく、様々な要因により影響を受ける。制御のやり方によっては、定格回転数が守られないことにより大きな影響を受けることもある。入力軸4からの動力は、油圧ポンプを駆動し、油圧回路の油圧を上昇させる。入力軸4の回転数は油圧の高さに影響を与える。定格回転数が守られていることを前提に、制御部6が所定時間ダンプシリンダ131を駆動するように制御しているラッピングマシン1の場合、ダンプシリンダ131の駆動速度は、油圧の高さで異なるため、積み込み完了までの時間が変化する。ダンプシリンダ131は、油圧が低いと積み込みが完了しないまま所定時間が経過し駆動が途中停止することとなる。また、ダンプシリンダ131は、油圧が高いと短時間で積み込みが完了し動けなくなる。しかし、その後も所定時間経過するまでオイルは送られ続け、油圧回路内の圧力が高まり油圧回路を守るリリーフ弁が作動してしまうこともあり得る。結果的に無駄な動力を使うこととなる。
【0034】
また、積み込み工程開始直後のリフトアーム12の動きは、ロールベールRに当接するまで全く負荷がかからない。すなわち、油圧が高かろうが低かろうが作動時間はほとんど変わらず、定格回転数が守られなくても影響を受けにくい。もっとも、リフトアーム12は、ラッピング前のロールベールRを強い力でターンテーブル13側に押し付け、ロールベールRが落ちないように保持する役割も果たす。そのため、油圧の高い又は低いことにより、リフトアーム12がラッピング前のロールベールRを保持する力に影響を及ぼす可能性は残る。
このように、定格回転数が守られないことによる影響は、様々な要因により変わり得るものである。
【0035】
(ラッピング工程)
ラッピング前のロールベールRは、
図1(C)に図示されたように水平になっているターンテーブル13の上に置かれる。ターンテーブル13は、回転軸132を中心に載置されたロールベールRと共に回転する。回転するラッピング前のロールベールRの周囲にはラッピング機構部14により繰り出されたラップフィルムが巻き付けられる。その際、ベルト134上に載置されたラッピング前のロールベールRは、ローラ133の駆動により動くベルト134上を回転する。また、ターンテーブル13は、図示されていない油圧モータで回転している。ラッピング前のロールベールRは、ターンテーブル13の回転と、ベルト134(ローラ133)の回転が相まって、周囲にラップフィルムが巻かれて行く。ターンテーブル13とベルト134を駆動するローラ133の回転の回数は、それぞれ図示していないセンサによりカウントされている。ターンテーブル13の油圧モータと、ベルト134を駆動するローラ133は、ロールベールRの周囲が完全にラップフィルムで覆われるように制御部6の制御を受ける。
【0036】
実施例のラッピング工程は、ターンテーブル13とベルト134を駆動するローラ133の回転の回数による制御を受けるため、所定回数カウントされるまで動き続ける。ターンテーブル13とローラ133の速度が遅かろうが、速かろうが、所定回数カウントされるまで制御がなされるため、定格回転数が守られなくても影響を受けにくい。仮に、回転の回数による制御ではなく、回転時間による制御を行う場合は、定格回転数を守らない影響を受けやすくなる。定格回転数が守られないことにより、ターンテーブル13の回転速度が変わり、制御部6が命令する時間どおり回転が行われたとしても、ロールベールRの周囲が完全にラップフィルムで覆われないままラッピング工程が終了したり、または、周囲が完全にラップフィルムで覆われてもなおラッピング工程が続き、無駄にラップフィルムで覆われたりする不具合が起き得る。
【0037】
(積み下ろし工程)
図1(D)はロールベールRを積み込み、積み降ろす側となる背面図である。縦置きアーム5は、ロールベールRの積み降ろし工程および縦置き工程で使われる部材である。その他の作業工程では水平、すなわち、ラッピングマシン1の走行機台と平行となるように倒された状態となっている。
図1(C)や
図1(D)の縦置きアーム5の状態は、積み降ろし時の状態を示している。立ち上げシリンダ51は、縦置きアーム5を立ち上げたり寝かしたりする際に駆動する部材であり、制御部6の制御を受ける。縦置きアーム5の角度は、図示しない角度センサにより検出され、縦置きに最適になる角度に制御される。
【0038】
ターンテーブル13上に置かれたラッピング済みのロールベールRは、積み降ろす際に転げ落ちないようにリフトアーム12の回転ローラ123でターンテーブル13側に押圧される。その後、ダンプシリンダ131が駆動し、一旦ターンテーブル13は機台回動軸136を軸にして持ち上がる。ターンテーブル13が所定の高さ(頂点)まで持ち上がるまでは、ダンプシリンダ131の力が必要となるが、頂点を超えると、ターンテーブル13はロールベールRの自重で降下し始める。
図3は積み降ろし工程の説明図であり、(A)から(B)の順でロールベールRが積み降ろされる。やがて、ロールベールRが接地することで、回動が終了する。
【0039】
(縦置き工程)
図4は縦置き工程の説明図であり、(a)~(e)の順で縦置かれる。実施例においては、定格回転数が守られない場合に、最も影響を受ける工程である。縦置き開始(
図4(a))時には、縦置きアーム5は、ロールベールRの周面に当接しており、ロールベールRは圃場とロールベールRの間に挟まっている。縦置きが開始されると、ロールベールRは、縦置きアーム5に支えられながら、ダンプシリンダ131の駆動により、ターンテーブル13ごと持ち上げられる。この時、ロールベールRは、ターンテーブル13から離れる方向に転がることがあり、そうなるともはや縦置きはできなくなる。縦置きアーム5がロールベールRの周面に円筒状のロールベールRの軸と平行に立ち上げられていると、縦置きアーム5がガイドなって、ターンテーブル13から離れた方向に動きやすくなってしまう。そのまま圃場にロールベールRが転がり、縦置きが失敗する可能性が高くなる。これを防ぐために、縦置きアーム5は
図1(D)に図示される縦置きアーム5のように、ロールベールRの軸方向よりも斜めになるように傾けて立ち上げられる。この時の、縦置きアーム5の角度は、図示していない縦置きアーム角度センサで検出される。制御部6は、縦置きアーム角度センサの検出値が所定の値になるまで縦置きアーム5の立ち上げシリンダ51を制御する。
また、リフトアーム12の回転ローラ123は、軽くロールベールRの周面に当接するように制御部6で制御され、ロールベールRが転がり落ちることを防止する。
【0040】
ロールベールRは、縦置きアーム5で一方が支えられ、他方は圃場に接地し支点R1を軸にして回動を始める(
図4(b))。制御部6は、設定時間の間、ダンプシリンダ131を制御し、所定の高さまで縦置きアーム5と共にロールベールRを持ち上げ止まる。この設定時間は、定格回転数が守られていることを前提として決められている。定格回転数より低い回転数となっている場合には、ロールベールRの一端を載せた縦置きアーム5をターンテーブル13ごと持ち上げるダンプシリンダ131が途中で停止してしまい、縦置きが失敗することがある。
【0041】
さらに、リフトアーム12は、縦置き工程開始(
図4(a))から、設定時間後(
図4(e))にロールベールRから離れる(リリースする)ように制御部6の制御を受けている。定格回転数より高い回転数となっている場合、ダンプシリンダ131が縦置きアーム5をターンテーブル13ごと持ち上げる速度が速くなり、設定時間経過すると縦置きアーム5が、高く持ち上げられる。同時に、リフトアーム12がロールベールRから離れるタイミングは、定格回転数が守られないことで狂ってくる。このため、ロールベールRは縦置きに失敗し、倒れてしまう。ロールベールRは、勢いよく倒れると、周面が圃場に残った残幹で穴が開くこともあり得る。
【0042】
(補正制御)
図5はラッピングマシン1の制御に関する説明図である。コントローラ7は、運転席等に設けることができ、CAN通信等により制御部6と接続されている。作業者は、コントローラ7をラッピングマシン1に接続することで、補正制御部71が機能する。これにより、入力軸4の定格回転数が決められたラッピングマシン1は、定格回転数と異なる回転数で使うことが可能となる。なお、実施例は、コントローラ7を後付けできる態様のため、運転席に設置可能としたが、ラッピングマシン1に搭載された制御部6に補正制御部71の機能を持たせることもできる。補正制御部71の位置は、適宜である。また、補正制御部71はソフトウエア上のモジュールでもよく、実体物として存在する必要はない。
【0043】
コントローラ7は、着脱自在である。コントローラ7を取り外してしまうと、定格回転数で作業することがマニュアルで規定されている農作業機(ラッピングマシン1)は、搭載された制御部6による制御を受ける。また、センサは、これらアクチュエータの動きを検出し、制御部6にフィードバックをかけるなどに使われる。
【0044】
入力軸4の回転数は、図示されていないエンコーダーでパルス波として検出される。得られた入力データは、制御部6を経由して外付けしたコントローラ7へと送られる。コントローラ7には、設定等に使う数々のスイッチが設けられている。また、コントローラ7に設けられた表示器は、作業者に向けて様々な情報を表示する。そして、制御部6から送られた入力データ(入力軸4の回転数情報を含むパルス波)は、補正制御部71へと送られる。
図6は、入力軸4の回転数算出処理のフローを示す説明図である。
【0045】
図6は補正制御の説明図である。補正制御部71は、入力軸4に設けられたエンコーダーからのパルス信号を含む入力データを受け取ると、ステップS1Aでパルス間隔t測定を行う。補正制御部71は、
図5のエンコーダーの出力から、t1、t2などのパルス幅を計算する。ステップS1Bは、得られたパルス間隔tから入力軸4の回転数を算出するステップである。実施例は、回転数の算出をパルス間隔tの測定により行う方式を採用しているが、単位時間当たりのパルス数等の適宜な手段で代替えできる。
続くステップS1Cは、定格回転数との差が算出するステップである。この一連のステップは、
図7のステップS1(回転数算出処理)の処理であり、得られた定格回転数との差は
図7のステップS2へと送られる。
【0046】
図7は、補正制御の概要を示す説明図である。ステップS2は、ステップS1から送られた定格回転数との差が許容範囲内かどうかを判断するステップである。Yesであれば、ステップS8で定格回転数に基づく制御がなされ、その制御通りにステップS7でアクチュエータが駆動する。これは、本来の定格回転数で作業するように決められたラッピングマシン1で行われる制御そのものである。他方、Noであれば、補正制御部71は、ステップS3において定格回転数との差の程度に基づき補正すべき工程の選定を行う。
【0047】
(補正すべき工程の選定)
前述したように、定格回転数が守られなくとも、すべての工程で不具合が生じるわけではない。補正制御部71は、補正情報データベースを有している。ステップS3は、補正情報データベースからの情報を加味して、補正すべき工程を選定する。次いで、ステップS4は、補正すべき工程中に作動するアクチュエータの中から補正すべきアクチュエータを選定する。縦置き工程であれば、縦置きアーム5の回動は、図示していない縦置きアーム角度センサによって所定角度となるよう、立ち上げシリンダ51の作動が制御されている。当該回動は、定格回転数が守られなくとも、回動速度が速くなるか遅くなるか程度の違いしか生じず、定格回転数との差が大きくともステップS4で補正すべきアクチュエータには選ばれない。他方、ダンプシリンダ131とリフトアームシリンダ121は、縦置きの成否に重大な影響を及ぼすアクチュエータであり、ステップS4で補正すべきアクチュエータに選ばれる。
図7に示した選定されたアクチュエータA(ダンプシリンダ131)と選定されたアクチュエータB(リフトアームシリンダ121)は、補正すべきアクチュエータとして選ばれたことを示している。
これらの選定は、前述したように補正情報データベースからの情報を参酌することで選定される。
【0048】
(補正情報データベース)
補正情報データベースは、予め農作業機や機種に応じて作られていてもよいが、作業者自らが自作することもできる。作業者は、農作業機(ラッピングマシン1)を自動作業モードから手動作業モードに切り替え、例えば、定格回転数より低い入力軸4の回転数に設定し、縦置き工程を繰り返す。補正制御部71は、縦置きに成功したデータを集め、最適なデータを求める。そして、縦置きが成功する適正なアクチュエータの動きを、補正対象となる工程、補正対象となるアクチュエータ、補正パラメータと補正値の組み合わせとして記憶する。ここで、補正パラメータとは、時間で制御するのか、速度で制御するのか、シリンダの伸縮長さによって制御するのか等、補正の対象となるパラメータを意味する。
すなわち、補正情報データベースで記憶される情報は、定格回転数との差(例えば、1分間にマイナス300回転等)、対象工程(縦置き工程等)、対象アクチュエータ(ダンプシリンダ131等)、制御パラメータ(作動時間等)、補正値(プラス5秒等)のようにセットの情報となる。補正される時間は、駆動を継続する時間、駆動を開始する時間、駆動を終了する時間など対象工程によって様々でありえる。
【0049】
(補正パラメータ)
補正パラメータは、対象となる農作業機の対象となる機種の対象となるアクチュエータの制御パラメータと同じパラメータであることが好ましい。例えば、作業者が所有するラッピングマシン1の機種は、ダンプシリンダ131の制御を、作動時間(制御パラメータ)で制御している場合、補正パラメータは作動時間であることが好ましい。その場合、補正値は、プラス3秒などという時間となる。仮に、補正パラメータを、ダンプシリンダ131の伸長した長さとしてしまうと、ダンプシリンダ131に長さを測定する新たなセンサを取り付ける必要が生じ、コストが高くなる。
しかしながら、農作業機の種類や機種によって、センサを追加することが必要な場合もあり、補正パラメータを対象機種の制御パラメータと一致させない態様を排除するものではない。
【0050】
さらに、ダンプシリンダ131を作動時間で制御しているラッピングマシン1があるとする。入力軸4の回転数は、入力軸4によって駆動する油圧ポンプの出力(油圧値)に影響し、入力軸4の回転数と作動時間からダンプシリンダ131の作動速度を間接的に導き出すことができる場合がある。このような場合にあっては、補正パラメータとして作動速度を選ぶことも可能である。
【0051】
また、補正パラメータは様々な態様があり得る。縦置き工程であれば、
図4(e)のように、補正パラメータは、リフトアーム12を立ち上げるタイミング(リフトアームシリンダ121作動のタイミング)とすることもあり得る。また、アクチュエータの作動終了のタイミングを補正パラメータとすることもあり得る。補正パラメータは、回転ローラ123を強くロールベールRに当接させる、弱くロールベールRに当接させる等、強弱も補正パラメータとなり得る。このように、農作業機の種類、機種、工程の種類、アクチュエータの種類、センサの種類等に応じて、補正パラメータは様々に変わり得る。
【0052】
なお、アクチュエータの速度を制御する場合、制御部6は、リリーフ弁の設定値を制御する、デューティー比により弁を開閉し制御するなどの手法で、油圧回路の油圧を下げることが可能である。
【0053】
(補正値・補正アクチュエータの表示)
ステップS6は、ステップS3で選定された工程、ステップS4で選定されたアクチュエータ、ステップS5で決定された補正パラメータと補正値などを、コントローラ7の表示部に表示するステップである。圃場の状態などの外因により、補正情報データベースの情報では、縦置きがうまく行かない場合もある。作業者は、縦置き失敗の状態を見て、補正値をプラスしたりマイナスしたりして調整することも可能となる。
【0054】
(アクチュエータの駆動)
ステップS7は、選定された補正パラメータと補正値を用いて、選定されたアクチュエータをそれぞれ駆動する工程である。実施例は、補正制御部71の機能により、定格回転数で作業することをマニュアルで規定された農作業機でも、定格回転数と異なる入力軸4の回転数でも、良好に使えるようにできる。
【0055】
(変形例)
実施例は、入力軸4の回転数をエンコーダーで検出し、
図6の回転数算出処理を行う態様であった。入力軸4の回転数を検出することに代えて、定格回転数と異なる入力軸4の回転数(PTO回転数)に設定したことを検出してもよい。例えば、トラクターは、540回転の1速と1080回転の2速の2つのギアにより、PTO軸の回転数を選ぶことができる。いずれを選択したかを検出することで回転数算出処理を省くことも可能である。
【0056】
(まとめ)
以上の実施例をまとめると次のようなる。
実施例は、入力軸4と作業部と制御部6と補正制御部71を備え、入力軸4は、作業部に適合した定格回転数が決められているラッピングマシン1である。
作業部は、ダンプシリンダ131のような種々の作動部材を有する。定格回転数が守られている場合、制御部6は、作動部材の駆動を制御する。補正制御部71は、定格回転数と異なる入力軸回転数を検出する場合、または、定格回転数と異なる入力軸回転数の設定となった場合、補正する作動部材を選びその駆動を補正するものである。
【0057】
(SDGsへの貢献)
実施例では、定格回転数と異なる入力軸4の回転数は、定格回転数より低い入力回転数としても、高い入力回転数でもよいことを説明してきた。特に、燃料消費を抑えるために定格回転数より低い入力軸4の回転数とすることは、SDGs目標12の「作る責任・つかう責任」に寄与できるものである。
他方、定格回転数より高い入力軸4の回転数とすることは、一見するとSDGs目標12の「作る責任・つかう責任」に寄与出来ないようにみえる。しかしながら、例えば、雨が降る前に素早く農作業を終えないとならないなどの状況はよくあることであり、このような場合、エンジンの回転数を上げ、定格回転数より高い入力回転数で作業することが求められる。ロールベールRのラッピング作業でも、刈草が濡れてしまうとロールベールRの発酵がうまく行かず品質が落ちることもあるため、素早い作業が求められることがある。本発明は、このような場合であっても、結果的に品質の良いロールベールサイレージが多く得られ、品質不良で廃棄されるロールベールサイレージを少なくできるから、SDGs目標12の「作る責任・つかう責任」に寄与できるものである。
【0058】
また、随所で変更し得る例を説明してきたが、その目的および構成等に特に矛盾や問題がない限り、互いの技術を流用して組み合わせることが可能である。
【符号の説明】
【0059】
1 ラッピングマシン
12 リフトアーム
121 リフトアームシリンダ
122 ヘッド
123 回転ローラ
124 ローラ回転軸
125 リフトアーム回動軸
13 ターンテーブル
131 ダンプシリンダ
132 ターンテーブル回転軸
133 ローラ
134 ベルト
135 機台
136 機台回動軸
14 ラッピング機構部
15 走行機枠
2 電磁制御弁ブロック
4 入力軸
41 オイルタンク
5 縦置きアーム
51 立ち上げシリンダ
6 制御部
7 コントローラ
71 補正制御部
R ロールベール
R1 支点