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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023055454
(43)【公開日】2023-04-18
(54)【発明の名称】台車及びそれを備えた検査装置
(51)【国際特許分類】
   G01M 99/00 20110101AFI20230411BHJP
【FI】
G01M99/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021164851
(22)【出願日】2021-10-06
(71)【出願人】
【識別番号】320005154
【氏名又は名称】日本製鋼所M&E株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】森元 雄大
(72)【発明者】
【氏名】宇川 祐丞
【テーマコード(参考)】
2G024
【Fターム(参考)】
2G024AD34
2G024BA01
2G024BA11
2G024EA14
(57)【要約】
【課題】磁性体構造物の検査装置に好適な台車を提供すること。
【解決手段】一実施形態に係る台車において、第1の磁石車輪は、電磁石を含む。第1の磁石車輪を後輪として当該後輪が突起を乗り越えようとする際、第1の磁石車輪の磁力を一時的に小さくし、第1の磁石車輪を磁性体構造物の本体部から浮上させ、第1の磁石車輪が突起に乗り上げる。
【選択図】図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に突起を有する磁性体構造物の前記表面を自走可能な台車であって、
前記磁性体構造物に吸着可能な第1及び第2の磁石車輪と、
前記第1及び第2の磁石車輪のそれぞれを回転駆動する第1及び第2の駆動源と、を備え、
前記第1の磁石車輪は、電磁石を含み、
前記第1の磁石車輪を後輪として当該後輪が前記突起を乗り越えようとする際、前記第1の磁石車輪の磁力を一時的に小さくし、前記第1の磁石車輪を前記磁性体構造物の前記表面から浮上させ、前記第1の磁石車輪が前記突起に乗り上げる、
台車。
【請求項2】
前記第2の磁石車輪は、電磁石を含み、
前記第2の磁石車輪を後輪として当該後輪が前記突起を乗り越えようとする際、前記第2の磁石車輪の磁力を一時的に小さくし、前記第2の磁石車輪を前記磁性体構造物の前記表面から浮上させ、前記第2の磁石車輪が前記突起に乗り上げる、
請求項1に記載の台車。
【請求項3】
前記第1及び第2の磁石車輪は、永久磁石をさらに含む、
請求項2に記載の台車。
【請求項4】
前記第1及び第2の磁石車輪において、
前記永久磁石は、車軸方向中央部に設けられており、
前記電磁石は、前記永久磁石を介して対向するように一対設けられている、
請求項3に記載の台車。
【請求項5】
前記第1及び第2の磁石車輪において、
前記電磁石は、車軸方向中央部に設けられており、
前記永久磁石は、前記電磁石を介して対向するように一対設けられている、
請求項3に記載の台車。
【請求項6】
前記第1及び第2の磁石車輪が、樹脂材料によって被覆されている、
請求項1に記載の台車。
【請求項7】
前記樹脂材料が、ウレタン樹脂である、
請求項6に記載の台車。
【請求項8】
表面に突起を有する磁性体構造物を前記表面から検査するプローブと、
前記プローブが搭載されると共に、前記磁性体構造物の前記表面を自走可能な台車と、を備えた検査装置であって、
前記台車は、
前記磁性体構造物に吸着可能な第1及び第2の磁石車輪と、
前記第1及び第2の磁石車輪のそれぞれを回転駆動する第1及び第2の駆動源と、を備え、
前記第1の磁石車輪は、電磁石を含み、
前記第1の磁石車輪を後輪として当該後輪が前記突起を乗り越えようとする際、前記第1の磁石車輪の磁力を一時的に小さくし、前記第1の磁石車輪を前記磁性体構造物の前記表面から浮上させ、前記第1の磁石車輪が前記突起に乗り上げる、
検査装置。
【請求項9】
前記第2の磁石車輪は、電磁石を含み、
前記第2の磁石車輪を後輪として当該後輪が前記突起を乗り越えようとする際、前記第2の磁石車輪の磁力を一時的に小さくし、前記第2の磁石車輪を前記磁性体構造物の前記表面から浮上させ、前記第2の磁石車輪が前記突起に乗り上げる、
請求項8に記載の検査装置。
【請求項10】
前記第1及び第2の磁石車輪は、永久磁石をさらに含む、
請求項9に記載の検査装置。
【請求項11】
前記第1及び第2の磁石車輪において、
前記永久磁石は、車軸方向中央部に設けられており、
前記電磁石は、前記永久磁石を介して対向するように一対設けられている、
請求項10に記載の検査装置。
【請求項12】
前記第1及び第2の磁石車輪において、
前記電磁石は、車軸方向中央部に設けられており、
前記永久磁石は、前記電磁石を介して対向するように一対設けられている、
請求項10に記載の検査装置。
【請求項13】
前記第1及び第2の磁石車輪が、樹脂材料によって被覆されている、
請求項8に記載の検査装置。
【請求項14】
前記樹脂材料が、ウレタン樹脂である、
請求項13に記載の検査装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、台車及びそれを備えた検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1、2には、煙突等の高所配管を検査するため、検査対象である配管の外周面を自走可能な台車が開示されている。なお、本明細書において、配管は、煙突を含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10-071976号公報
【特許文献2】特開2002-087342号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
発明者は、表面に突起を有する配管等の磁性体構造物の当該表面を自走可能な台車の開発に際し、様々な課題を見出した。
その他の課題と新規な特徴は、本明細書の記述及び添付図面から明らかになるだろう。
【課題を解決するための手段】
【0005】
一実施形態に係る台車において、第1の磁石車輪は、電磁石を含む。第1の磁石車輪を後輪として当該後輪が突起を乗り越えようとする際、第1の磁石車輪の磁力を一時的に小さくし、第1の磁石車輪を磁性体構造物の表面から浮上させ、第1の磁石車輪が突起に乗り上げる。
【発明の効果】
【0006】
前記一実施形態によれば、磁性体構造物の検査装置に好適な台車を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】比較例に係る台車の構成を模式的に示す側面図である。
図2】比較例に係る台車の構成を模式的に示す側面図である。
図3】第1の実施形態に係る台車の構成を模式的に示す斜視図である。
図4】第1の実施形態に係る台車の構成を模式的に示す正面図である。
図5】プラットフォームPFに対する磁石車輪MW1、MW2の操舵動作を示す模式平面図である。
図6】第1の実施形態に係る台車の動作を説明するためのタイミングチャートである。
図7図6の時刻t1における台車の姿勢を模式的に示す側面図である。
図8図6の時刻t2における台車の姿勢を模式的に示す側面図である。
図9図6の時刻t3における台車の姿勢を模式的に示す側面図である。
図10図6の時刻t4における台車の姿勢を模式的に示す側面図である。
図11図6の時刻t5における台車の姿勢を模式的に示す側面図である。
図12図6の時刻t6における台車の姿勢を模式的に示す側面図である。
図13図6の時刻t7における台車の姿勢を模式的に示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、具体的な実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。ただし、以下の実施形態に限定される訳ではない。また、説明を明確にするため、以下の記載及び図面は、適宜簡略化されている。
【0009】
(第1の実施形態)
<発明者による事前検討>
まず、図1図2を参照して、発明者が事前に検討した比較例に係る台車の構成について説明する。図1図2は、比較例に係る台車の構成を模式的に示す側面図である。
なお、図1図2及びその他の図面に示した右手系xyz直交座標は、構成要素の位置関係を説明するための便宜的なものであって、図面間で共通である。
【0010】
図1図2に示すように、比較例に係る台車は、プラットフォームPF、一対の車輪支持部材WS1、WS2、及び一対の磁石車輪MW1、MW2を備えている。ここで、図1図2には、検査対象である配管10の断面図が示されている。図1図2に示すように、配管10は、複数のパイプから構成される。各パイプは、本体部11とフランジ部12とを含み、フランジ部12同士が連結部材13によって連結されている。連結部材13は、ボルト13a及びナット13bを含む。ここで、配管10は、鋼等の磁石が吸着可能な金属から構成される。図1図2は、台車が、配管10の長手方向(x軸方向)に進行する様子を示している。
【0011】
このように、配管10は、表面(外周面)に突起(フランジ部12)を有する磁性体構造物である。配管10が外周面に有する突起は、フランジ部12に限らず、例えばスティフナ等でもよい。
比較例に係る台車は、検査対象である磁性体構造物の表面を自走可能な磁性体構造物検査装置用の台車である。検査対象である磁性体構造物は、表面に突起を有する磁性体からなる構造物であれば、何ら限定されず、例えば、煙突を含む配管、タンク等である。
【0012】
プラットフォームPFは、台車の本体部であって、配管を外側から検査するプローブが搭載される板状部材である。
ここで、図1には、プラットフォームPFに搭載されたプローブPR及びプローブPRを支持するアームARが図示されている。図1に示す例では、L字形状のアームARの根元部がプラットフォームPFに回動可能に支持されると共に、アームARの先端部にプローブPRが固定されている。プローブPRは、例えば超音波検査プローブである。図1に二点鎖線で示すように、配管10の外周面にプローブPRを近付けて、超音波を照射して配管10の肉厚測定や内部探傷等の検査を行う。なお、図2には台車のみが図示されており、プローブPR及びアームARは図示されていない。
【0013】
車輪支持部材WS1は、磁石車輪MW1を回転可能に支持すると共に、磁石車輪MW1をプラットフォームPFに連結する。同様に、車輪支持部材WS2は、磁石車輪MW2を回転可能に支持すると共に、磁石車輪MW2をプラットフォームPFに連結する。
【0014】
磁石車輪MW1、MW2は、永久磁石から構成される車輪であり、モータ等の駆動源(不図示)によって、回転駆動される。磁石車輪MW1、MW2は、鋼等から構成される配管10に吸着しつつ、配管10の外周面上を進行できる。
【0015】
図1図2に示すように、台車がx軸正方向に進行する場合、磁石車輪MW1が後輪となり、磁石車輪MW2が前輪となる。反対に、台車がx軸負方向に進行する場合、磁石車輪MW1が前輪となり、磁石車輪MW2が後輪となる。すなわち、磁石車輪MW1、MW2は、台車の進行方向に応じて、前輪もしくは後輪となり得る。
【0016】
ここで、図1に示すように、磁石車輪MW1、MW2には、磁力による吸着力がz軸負方向に作用する。また、図1に示すように、台車がx軸正方向に進行する場合、前輪である磁石車輪MW2には、磁石車輪MW1の駆動トルクに応じたモーメント反力がz軸正方向に作用する。そのため、磁石車輪MW2には、吸着力から反力を減じた力がz軸負方向に作用する。従って、図2に示すように、前輪である磁石車輪MW2は、容易にフランジ部12に乗り上げることができる。
【0017】
他方、後輪である磁石車輪MW1には、磁石車輪MW2の駆動トルクに応じたモーメント反力がz軸負方向に作用する。そのため、磁石車輪MW1には、吸着力に反力を加えた力がz軸負方向に作用する。従って、図2に示すように、後輪である磁石車輪MW1は、配管10の本体部11に吸着したまま浮上できず、フランジ部12に乗り上げることができない。
【0018】
図2に示す例では、後輪である磁石車輪MW1が、配管10の本体部11に吸着したまま空回りしてしまい、フランジ部12に乗り上げることができない。さらに、磁石車輪MW1、MW2の駆動トルク(図2に示す反力)に対して、磁石車輪MW1、MW2を構成する永久磁石の磁力(図2に示す吸着力)を相対的に小さくすると、二点鎖線で示すように、前輪である磁石車輪MW2がフランジ部12から浮上し、台車が後転してしまう。
【0019】
このように、比較例に係る台車では、磁石車輪MW1、MW2の駆動力を調整したり、磁力を変更したりしても、後輪が配管10のフランジ部12を乗り越えようとする際、後輪が配管10の本体部11に吸着したまま浮上できない。その結果、比較例に係る台車は、フランジ部12を乗り越えられないという問題があった。
なお、当然のことながら、図2において、台車には鉛直下方向に重力が作用する。図2において、例えばz軸負方向が鉛直下方向であるが、これに限定されない。
【0020】
<第1の実施形態に係る台車の構成>
次に、図3図4を参照して、第1の実施形態に係る台車の構成について説明する。図3は、第1の実施形態に係る台車の構成を模式的に示す斜視図である。図4は、第1の実施形態に係る台車の構成を模式的に示す正面図である。
【0021】
図3に示すように、第1の実施形態に係る台車は、図1に示す比較例に係る台車と同様に、プラットフォームPF、一対の車輪支持部材WS1、WS2、及び一対の磁石車輪MW1、MW2を備えている。
【0022】
ここで、図1に示す比較例に係る台車では、磁石車輪MW1、MW2が永久磁石から構成されている。これに対し、第1の実施形態に係る台車では、図4に示すように、磁石車輪MW1、MW2が、永久磁石から構成された永久磁石部材PMに加え、電磁石から構成された電磁石部材EM1、EM2を備えている。すなわち、第1の実施形態に係る台車では、磁石車輪MW1、MW2の磁力(配管10に対する吸着力)をダイナミックに変更できる。
【0023】
プラットフォームPFは、台車の本体部であって、配管を外側から検査するプローブが搭載される板状部材である。図3に示すプラットフォームPFは、xy平面視矩形状の板状部材であるが、プローブを搭載できれば形状は限定されない。
なお、第1の実施形態に係る台車に搭載されるプローブの構成例は、例えば図1に示した比較例の場合と同様である。
【0024】
車輪支持部材WS1は、磁石車輪MW1を回転可能に支持すると共に、磁石車輪MW1をプラットフォームPFに連結する。同様に、車輪支持部材WS2は、磁石車輪MW2を回転可能に支持すると共に、磁石車輪MW2をプラットフォームPFに連結する。
【0025】
より詳細には、図3に示すように、車輪支持部材WS1、WS2のそれぞれは、プラットフォームPFと対向する天板と、天板の長手方向(y軸方向)両端から略垂直に立ち上がった一対の側壁とを備えたyz断面において角U字状の部材である。
【0026】
車輪支持部材WS1、WS2は同様の構成を有するため、車輪支持部材WS1のみについて説明する。
車輪支持部材WS1の一対の側壁は、磁石車輪MW1の車軸WSFの両端を回転可能に支持している。
【0027】
車輪支持部材WS1の天板は、プラットフォームPFに対し、z軸に平行な回転軸を軸として回動可能に連結されている。そのため、図5に示すように、磁石車輪MW1もプラットフォームPFに対し、z軸に平行な回転軸を軸として回動でき、本実施形態に係る台車は操舵可能である。図5は、プラットフォームPFに対する磁石車輪MW1、MW2の操舵動作を示す模式平面図である。
【0028】
このように、本実施形態に係る台車は操舵可能であり、配管の長手方向に沿って前進もしくは後退するだけでなく、配管の周方向にも螺旋状に移動できる。さらに、特に限定されないが、図5に示すように、本実施形態に係る台車では、磁石車輪MW1、MW2を同位相で操舵できる。
【0029】
磁石車輪MW1、MW2は、磁石から構成される車輪である。図4に示すように、磁石車輪(第1の磁石車輪)MW1は、車軸(ホイールシャフト)WSF、永久磁石部材PM、電磁石部材EM1、EM2、及びヨーク部材Y11、Y12、Y21、Y22を備えている。磁石車輪(第2の磁石車輪)MW2の構成も、磁石車輪MW1の構成と同様である。
【0030】
すなわち、第1の実施形態に係る台車では、磁石車輪MW1、MW2が電磁石部材EM1、EM2を備え、磁石車輪MW1、MW2の磁力(配管10に対する吸着力)をダイナミックに変更できる。
なお、磁石車輪MW1、MW2の一方のみが磁力をダイナミックに変更できてもよい。
【0031】
図4に示すように、磁石車輪MW1は、モータ(第1の駆動源)MTによって回転駆動され、磁石車輪MW2も、磁石車輪MW1と同様に、モータ(第2の駆動源)MTによって回転駆動される。
また、図示されていないが、磁石車輪MW1、MW2の外周面は、樹脂材料によって被覆されていてもよい。磁石車輪MW1、MW2と配管10との間の摩擦係数を大きくすることができる。樹脂材料としては、例えばウレタン樹脂が好適である。
【0032】
以下では、磁石車輪MW1の構成の詳細について説明するが、磁石車輪MW2の構成も同様である。
永久磁石部材PMは、永久磁石から構成された円板状又はリング状の部材である。永久磁石部材PMは、複数に分割されていてもよい。すなわち、永久磁石部材PMは、円板状又はリング状に配置された複数の永久磁石から構成されていてもよい。図4に示すように、永久磁石部材PMは、磁石車輪MW1の車軸WSFの中央部に設けられている。永久磁石部材PMのy軸方向両側には、円板状のヨーク部材Y11、Y21が設けられている。このように、永久磁石部材PMは、ヨーク部材Y11、Y21によって、挟持されると共に、磁力が高められている。
【0033】
電磁石部材EM1は、環状コイルを備えた電磁石から構成されている。図4に示すように、電磁石部材EM1は、ヨーク部材Y11を介して、永久磁石部材PMのy軸負方向側に設けられている。ここで、電磁石部材EM1のy軸負方向側には、円板状のヨーク部材Y12がさらに設けられている。このように、電磁石部材EM1は、ヨーク部材Y11、Y12によって、挟持されると共に、磁力が高められている。
【0034】
電磁石部材EM2は、環状コイルを備えた電磁石から構成されている。図4に示すように、電磁石部材EM2は、ヨーク部材Y21を介して、永久磁石部材PMのy軸正方向側に設けられている。ここで、電磁石部材EM2のy軸正方向側には、円板状のヨーク部材Y22がさらに設けられている。このように、電磁石部材EM2は、ヨーク部材Y21、Y22によって、挟持されると共に、磁力が高められている。
【0035】
磁石車輪MW1を構成する永久磁石部材PM、電磁石部材EM1、EM2、及びヨーク部材Y11、Y12、Y21、Y22は、車軸WSFに固定されており、車軸WSFと共に回転する。図4に示すように、磁石車輪MW1は、モータ軸ギアMG及び車軸ギアWGを介して、モータMTによって回転駆動される。特に限定されないが、図4に示す例では、モータMTは、車輪支持部材WS1の側壁に固定されている。
【0036】
詳細には、図4に示すように、モータ軸ギアMGは、車輪支持部材WS1の側壁を貫通するモータMTの回転軸の先端部に固定されており、モータMTの回転軸の回転に伴って回転する。車軸ギアWGは、車輪支持部材WS1のy軸正方向側の側壁と磁石車輪MW1(すなわちヨーク部材Y22)との間に設けられており、車軸WSFに固定されている。モータ軸ギアMGと車軸ギアWGとは噛合しており、モータMTの回転がモータ軸ギアMG及び車軸ギアWGを介して車軸WSFに伝達される。このような構成によって、磁石車輪MW1は、モータMTによって回転駆動される。
【0037】
他方、図4に示すように、車輪支持部材WS1のy軸負方向側の側壁と磁石車輪MW1(すなわちヨーク部材Y12)との間には、スリップリングSRが設けられている。スリップリングSRは、回転する電磁石部材EM1、EM2に電流を供給するための電極部材であって、リング電極R1、R2及びブラシ電極B1、B2を備える。
【0038】
図4に示すように、電気的には、リング電極R1は電磁石部材EM1、EM2の一端に共通に接続され、リング電極R2は電磁石部材EM1、EM2の他端に共通に接続されている。すなわち、リング電極R1、R2の間において、電磁石部材EM1、EM2が並列接続されている。リング電極R1は、機械的には、電磁石部材EM1、EM2と共に回転する。
【0039】
ブラシ電極B1、B2は、例えば車輪支持部材WS1に固定されている(図4では図示せず)。回転するリング電極R1の外周面にブラシ電極B1が当接することによって、両者が電気的に接続される。同様に、回転するリング電極R2の外周面にブラシ電極B2が当接することによって、両者が電気的に接続される。
【0040】
図4に示す例では、ブラシ電極B2及びリング電極R2を介して、電磁石部材EM1、EM2に電流が供給され、リング電極R1及びブラシ電極B1を介して、電磁石部材EM1、EM2から電流が排出される。当然のことながら、電流が流れる方向は適宜決定される。電磁石部材EM1、EM2に供給する電流量を変化させることによって、電磁石部材EM1、EM2の磁力(すなわち磁石車輪MW1の磁力)を変化させることができる。
【0041】
ここで、磁石車輪MW1、MW2を駆動するモータMTの動作及び電磁石部材EM1、EM2の磁力は、例えば図示しない制御部によって制御される。当該制御部は、コンピュータとしての機能を有し、例えばCPU(Central Processing Unit)等の演算部と、各種制御プログラムやデータ等が格納されたRAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)等の記憶部と、を備えている。
【0042】
図4に示すように、磁石車輪MW1は、鋼等から構成される配管10に吸着しつつ、配管10の外周面上を進行できる。図3図4において、台車がx軸正方向に進行する場合、磁石車輪MW1が後輪となり、磁石車輪MW2が前輪となる。他方、図3図4において、台車がx軸負方向に進行する場合、磁石車輪MW1が前輪となり、磁石車輪MW2が後輪となる。すなわち、磁石車輪MW1、MW2は、台車の進行方向に応じて、前輪もしくは後輪となり得る。
【0043】
なお、本実施形態に係る台車では、磁石車輪MW1、MW2において、一対の電磁石部材EM1、EM2が、永久磁石部材PMを介して対向配置されているが、これに限定されない。例えば、図4において、永久磁石部材PMを電磁石部材に置換すると共に、一対の電磁石部材EM1、EM2を永久磁石部材に置換した構成でもよい。あるいは、電磁石部材EM1、EM2のいずれか一方のみが設けられていてもよい。また、磁石車輪MW1、MW2が、永久磁石部材PMを備えず、電磁石部材のみから構成されていてもよい。
【0044】
さらに、図4に示すように、本実施形態に係る台車は、速度センサRE及び傾斜センサTSを備えている。
速度センサREは、特に限定されないが、例えばロータリエンコーダである。図4に示す例では、速度センサREは、車輪支持部材WS1に回転可能に支持されている。速度センサREが、配管10に接触しながら回転することによって、台車の速度を検出できる。
図4に示すように、傾斜センサTSは、例えばプラットフォームPFに搭載されており、台車の傾斜角を検出できる。
なお、速度センサRE及び傾斜センサTSは、必須ではない。
【0045】
以上に説明したように、本実施形態に係る台車では、磁石車輪MW1が、電磁石部材EM1、EM2を含み、磁石車輪MW1の磁力(配管10に対する吸着力)をダイナミックに変更できる。後述する図9に示すように、磁石車輪MW1を後輪として当該後輪が配管10のフランジ部12を乗り越えようとする際、磁石車輪MW1の磁力を一時的に小さくし、磁石車輪MW1を配管10の本体部11から浮上させ、磁石車輪MW1がフランジ部12に乗り上げる。そのため、本実施形態に係る台車は、磁石車輪MW1を後輪として走行する場合、フランジ部12を乗り越えられる。
【0046】
同様に、本実施形態に係る台車では、磁石車輪MW2も、電磁石部材EM1、EM2を含み、磁石車輪MW2の磁力(配管10に対する吸着力)をダイナミックに変更できる。磁石車輪MW2を後輪として当該後輪が配管10のフランジ部12を乗り越えようとする際、磁石車輪MW2の磁力を一時的に小さくし、磁石車輪MW2を配管10の本体部11から浮上させ、磁石車輪MW2がフランジ部12に乗り上げる。そのため、本実施形態に係る台車は、磁石車輪MW2を後輪として走行する場合も、フランジ部12を乗り越えられる。
【0047】
<第1の実施形態に係る台車の動作>
次に、図6図13を参照して、第1の実施形態に係る台車の動作について説明する。図6は、第1の実施形態に係る台車の動作を説明するためのタイミングチャートである。図7図13は、それぞれ図6に示された時刻t1~t7における台車の姿勢を模式的に示す側面図である。
【0048】
なお、図7図13では、理解を容易にするため、台車のプラットフォームPF、車輪支持部材WS1、WS2、及び磁石車輪MW1、MW2のみが模式的に示されている。図7図9には、図1図2と同様に、磁石車輪MW1、MW2に作用する吸着力及びモーメント反力が示されている。他方、図10図13では、磁石車輪MW1、MW2に作用する吸着力及びモーメント反力は省略されている。
【0049】
図6は、図7図13に示すように、磁石車輪MW1を後輪、磁石車輪MW2を前輪として、台車が一定速度でx軸正方向に走行し、フランジ部12を乗り越える場合のタイミングチャートである。
図6には、上から順番に、磁石車輪MW1の電磁石のON/OFF、磁石車輪MW2の電磁石のON/OFF、台車の傾斜角θ(-90°<θ<90°)、及び台車の速度が、示されている。
【0050】
図6に示すように、磁石車輪MW1、MW2の電磁石(図4に示す電磁石部材EM1、EM2)は、いずれも通常はON状態である。磁石車輪MW1、MW2の電磁石がON状態とは、図4に示す電磁石部材EM1、EM2に電流が供給されている状態である。他方、磁石車輪MW1、MW2の電磁石がOFF状態とは、図4に示す電磁石部材EM1、EM2への電流の供給が遮断された状態である。
【0051】
図6に示す傾斜角θは、水平面に対するプラットフォームPFの主面の角度である。図7に示すように、プラットフォームPFの主面が水平面と平行であれば、傾斜角θ=0°である。例えば図8に示すように、磁石車輪MW1の位置よりも磁石車輪MW2の位置が高い場合、傾斜角θは正の値となる。反対に、例えば図11に示すように、磁石車輪MW1の位置よりも磁石車輪MW2の位置が低い場合、傾斜角θは負の値となる。
【0052】
図6に示すタイミングチャートに沿って、詳細に説明する。
まず、図7に示す時刻t1までは、傾斜角θ=0°のまま、台車が一定速度でx軸正方向に走行する。図7に示す時刻t1では、前輪である磁石車輪MW2がフランジ部12に当接する。
【0053】
図7に示す時刻t1から図8に示す時刻t2までは、台車が速度を維持したまま、磁石車輪MW1は本体部11上をx軸正方向に進みつつ、磁石車輪MW2はフランジ部12を上方向(z軸正方向)に進むため、徐々に傾斜角θが大きくなる。図8に示す時刻t2では、磁石車輪MW2がフランジ部12に乗り上げ、傾斜角θが最大になる。
【0054】
図8に示す時刻t2から図9に示す時刻t3までは、台車が速度を維持したまま、磁石車輪MW1は本体部11上をx軸正方向に進みつつ、磁石車輪MW2はフランジ部12上をx軸正方向に進むため、傾斜角θは維持される。図9に示す時刻t3では、後輪である磁石車輪MW1がフランジ部12に当接する。
図2を参照して説明したように、そのままの状態では、磁石車輪MW1を配管10の本体部11から浮上させることができない。すなわち、モータMTが駆動したまま、台車は停止する。そのため、時刻t3において、台車の速度が0になる。
【0055】
本実施形態に係る台車では、モータMTが駆動したまま台車が停止した場合、後輪である磁石車輪MW1がフランジ部12に当接したと判定する。そして、図6に示すように、後輪である磁石車輪MW1の電磁石を時刻t3から一時的にOFF状態にする。OFF状態の期間は、例えば1秒以内である。図9に示すように、磁石車輪MW1の電磁石を一時的にOFF状態にすると、磁石車輪MW1の吸着力が小さくなり、磁石車輪MW1を配管10の本体部11から浮上させることができる。
【0056】
図9に示す時刻t3から図10に示す時刻t4までは、台車が速度を維持したまま、磁石車輪MW1はフランジ部12を上方向(z軸正方向)に進みつつ、磁石車輪MW2はフランジ部12上をx軸正方向に進むため、徐々に傾斜角θが小さくなる。図10に示す時刻t4では、傾斜角θ=0°になっている。
【0057】
図10に示す時刻t4から図11に示す時刻t5までは、台車が速度を維持したまま、磁石車輪MW1はフランジ部12上をx軸正方向に進みつつ、磁石車輪MW2はフランジ部12を下方向(z軸負方向)に進むため、傾斜角θが0°から徐々に小さくなる。図11に示す時刻t5では、磁石車輪MW2が本体部11に当接し、傾斜角θが最小になる。
【0058】
図11に示す時刻t5から図12に示す時刻t6までは、台車が速度を維持したまま、磁石車輪MW1はフランジ部12上をx軸正方向に進みつつ、磁石車輪MW2は本体部11上をx軸正方向に進むため、傾斜角θは最小のまま維持される。
【0059】
図12に示す時刻t6から図13に示す時刻t7までは、台車が速度を維持したまま、磁石車輪MW1はフランジ部12を下方向(z軸負方向)に進みつつ、磁石車輪MW2は本体部11上をx軸正方向に進むため、徐々に傾斜角θが大きくなり、図13に示す時刻t7において、磁石車輪MW1が本体部11に当接し、傾斜角θ=0°になる。
そして、図13に示す時刻t7以降は、台車が速度を維持したまま、磁石車輪MW1、MW2が本体部11上をx軸正方向に進み、傾斜角θは0°に維持される。
【0060】
以上に説明したように、本実施形態に係る台車では、磁石車輪MW1を後輪として走行する場合、磁石車輪MW1がフランジ部12に当接し、台車が停止すると、図6に示すように、磁石車輪MW1の電磁石を一時的にOFF状態にする。図9に示すように、磁石車輪MW1の電磁石を一時的にOFF状態にすると、磁石車輪MW1の吸着力が小さくなり、後輪である磁石車輪MW1を配管10の本体部11から浮上させることができる。そのため、本実施形態に係る台車は、磁石車輪MW1を後輪として走行する場合、フランジ部12を乗り越えられる。
【0061】
同様に、本実施形態に係る台車では、磁石車輪MW2を後輪として走行する場合、磁石車輪MW2がフランジ部12に当接し、台車が停止すると、磁石車輪MW2の電磁石を一時的にOFF状態にする。磁石車輪MW2の電磁石を一時的にOFF状態にすると、磁石車輪MW2の吸着力が小さくなり、後輪である磁石車輪MW2を配管10の本体部11から浮上させることができる。そのため、本実施形態に係る台車は、磁石車輪MW2を後輪として走行する場合も、フランジ部12を乗り越えられる。
【0062】
なお、磁石車輪MW1、MW2の吸着力が小さくできれば、磁石車輪MW1、MW2の電磁石(図4に示す電磁石部材EM1、EM2)をOFF状態にする必要はない。例えば、図4に示す電磁石部材EM1、EM2に供給する電流を遮断する代わりに、電流を小さくしてもよい。
【0063】
以上、本発明者によってなされた発明を実施形態に基づき具体的に説明したが、本発明は既に述べた実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能であることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0064】
AR アーム
B1、B2 ブラシ電極
EM1、EM2 電磁石部材
MG モータ軸ギア
MT モータ
MW1、MW2 磁石車輪
PF プラットフォーム
PM 永久磁石部材
PR プローブ
R1、R2 リング電極
RE 速度センサ
SR スリップリング
TS 傾斜センサ
WG 車軸ギア
WS1、WS2 車輪支持部材
WSF 車軸(ホイールシャフト)
Y11、Y12、Y21、Y22 ヨーク部材
10 配管
11 本体部
12 フランジ部
13 連結部材
13a ボルト
13b ナット
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13