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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023055466
(43)【公開日】2023-04-18
(54)【発明の名称】焼鈍炉、焼鈍方法
(51)【国際特許分類】
   C21D 1/26 20060101AFI20230411BHJP
   C21D 1/74 20060101ALI20230411BHJP
   C21D 1/76 20060101ALI20230411BHJP
   F27B 5/06 20060101ALI20230411BHJP
   F27B 5/04 20060101ALI20230411BHJP
   F27D 7/06 20060101ALI20230411BHJP
【FI】
C21D1/26 N
C21D1/74 R
C21D1/76 R
C21D1/76 E
F27B5/06
F27B5/04
F27D7/06 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021164873
(22)【出願日】2021-10-06
(71)【出願人】
【識別番号】591114102
【氏名又は名称】大同プラント工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094190
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 清路
(74)【代理人】
【識別番号】100151127
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 勝雅
(74)【代理人】
【識別番号】100151644
【弁理士】
【氏名又は名称】平岩 康幸
(72)【発明者】
【氏名】前田 淳
(72)【発明者】
【氏名】川手 賢治
(72)【発明者】
【氏名】安藤 秀哲
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 智也
【テーマコード(参考)】
4K061
4K063
【Fターム(参考)】
4K061AA01
4K061BA02
4K061FA05
4K061FA13
4K061GA03
4K063AA05
4K063AA15
4K063BA02
4K063BA03
4K063CA03
4K063DA05
4K063DA07
4K063DA13
4K063DA24
4K063DA26
4K063DA34
(57)【要約】
【課題】被処理物を無脱炭かつ無浸炭で焼鈍することができる焼鈍炉、焼鈍方法を提供する。
【解決手段】有機化合物を含有する潤滑剤が付着した被処理物Wを焼鈍する焼鈍炉10であって、被処理物Wを収容する炉室111が内部に設けられた炉本体11と、炉本体11に接続されて、炉室111へ雰囲気ガスを供給するガス供給系12と、炉本体11に設けられて、炉室111を昇温する昇温手段13と、炉本体11に接続されて、炉室111と炉室111の外部との間で雰囲気ガスを循環させるガス循環系14と、ガス循環系14を介して炉本体11と接続されて、炉室111との間で循環される雰囲気ガスに含まれる一酸化炭素(CO)、二酸化炭素(CO)、酸素(O)、及び水(HO)を除去する除去装置15と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機化合物を含有する潤滑剤が付着した被処理物を焼鈍する焼鈍炉であって、
前記被処理物を収容する炉室が内部に設けられた炉本体と、
前記炉本体に接続されて、前記炉室へ雰囲気ガスを供給するガス供給系と、
前記炉本体に設けられて、前記炉室を昇温する昇温手段と、
前記炉本体に接続されて、前記炉室と前記炉室の外部との間で前記雰囲気ガスを循環させるガス循環系と、
前記ガス循環系を介して前記炉本体と接続されて、前記炉室との間で循環される前記雰囲気ガスに含まれる一酸化炭素(CO)、二酸化炭素(CO)、酸素(O)、及び水(HO)を除去する除去装置と、を備えることを特徴とする焼鈍炉。
【請求項2】
前記除去装置は、一酸化炭素(CO)、二酸化炭素(CO)、酸素(O)、及び水(HO)を吸着して前記雰囲気ガスから除去する吸着材を有している請求項1に記載の焼鈍炉。
【請求項3】
前記炉本体に接続されて、前記炉室の炉内ガスを前記炉本体の外部へ排気する炉内ガス排気手段を更に備える請求項1又は2に記載の焼鈍炉。
【請求項4】
前記ガス供給系は、前記炉室に窒素(N)ガスを供給する第1供給系と、前記炉室に水素(H)ガスを供給する第2供給系と、を備え、
前記第1供給系には、前記炉室の炉圧を調整する炉圧調整器が接続されている請求項1乃至3のうちいずれか一項に記載の焼鈍炉。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の焼鈍炉を用い、有機化合物を含有する潤滑剤が付着した被処理物を炉本体の炉室に収容し、雰囲気ガスで満たされた前記炉室を昇温して、前記被処理物を焼鈍する焼鈍方法であって、
前記炉室と、前記炉室にガス循環系を介して接続された除去装置と、の間で前記雰囲気ガスを循環させる循環工程と、
前記循環工程で前記炉室から送られた前記雰囲気ガス中から一酸化炭素(CO)、二酸化炭素(CO)、酸素(O)、及び水(HO)を、前記除去装置で除去する除去工程と、
前記除去工程で一酸化炭素(CO)、二酸化炭素(CO)、酸素(O)、及び水(HO)を除去した前記雰囲気ガスを前記炉室へ戻し、前記被処理物を無浸炭・無脱炭で焼鈍する焼鈍工程と、を備えることを特徴とする焼鈍方法。
【請求項6】
前記焼鈍工程において、前記雰囲気ガスの全量を100vol%として、一酸化炭素(CO)の含有濃度が0.3vol%以下、二酸化炭素(CO)の含有濃度が0.015vol%以下、酸素(O)の含有濃度が0.001vol%以下、水(HO)の含有濃度が0.013vol%以下である請求項5に記載の焼鈍方法。
【請求項7】
前記潤滑剤は、有機化合物として、ステアリン酸系化合物又はエステル系化合物を含有する請求項5又は6に記載の焼鈍方法。
【請求項8】
前記炉室内の温度が400℃以下の状態で、前記炉室の酸素濃度が0.1vol%以下になるまで前記炉室の炉内ガスを排気する排気工程を備える請求項5乃至7のうちいずれか一項に記載の焼鈍方法。
【請求項9】
前記排気工程の後、前記炉本体に接続された炉内ガス排気手段を閉じた状態とし、雰囲気ガスとして窒素(N)ガスを前記炉室に供給することにより、前記炉室の炉圧を調整する炉圧調整工程を備える請求項8に記載の焼鈍方法。
【請求項10】
前記除去工程の後、除去された一酸化炭素(CO)、二酸化炭素(CO)、酸素(O)、及び水(HO)の合計量と同量の雰囲気ガスを、前記炉本体に接続されたガス供給系から前記炉室に供給する供給工程を備える請求項5乃至9のうちいずれか一項に記載の焼鈍方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属を材料に用いた被処理物を、無脱炭、無浸炭で焼鈍する焼鈍炉、焼鈍方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属を材料に用いた被処理物は、内部応力の除去、硬さの調整、加工性の向上などを目的とした熱処理として、焼鈍(焼なまし)を施される場合がある。焼鈍は、炉内で被処理物を高温度に加熱し、その温度で一定時間保持した後、徐冷することで実施される。
焼鈍の際、炉内に存在する酸素、二酸化炭素、水蒸気等の酸素原子が被処理物の表面を酸化することで、被処理物の表面から炭素が喪われる、所謂「脱炭」が生じる場合がある。脱炭は、被処理物の表面を必要以上に軟らかくしてしまうため、脱炭を防止するべく、通常、炉内雰囲気を真空とする、中性ガスや還元性ガスを用いて炉内雰囲気を無脱炭にする等の工夫がされている。例えば、特許文献1には、無脱炭で低コストの実操業を可能にする方法として、無脱炭焼なまし方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9-41033号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
焼鈍の際、上述の脱炭に加え、炉内に存在する一酸化炭素等を炭素源とすることで、被処理物の表面に炭素が添加される、所謂「浸炭」が生じる場合がある。浸炭は、被処理物の表面を硬くしてしまうため、加工性の低下等の問題が生じることから、目的次第では、浸炭を防止するために炉内雰囲気を無浸炭にする必要がある。こうした炉内雰囲気を無浸炭とする工夫について、特許文献1では全く考慮されていない。
また、上述の炭素源は、排気時に空気中へ散逸されないように燃焼処理されているが、その際、大量の二酸化炭素が発生する。近時は、カーボンニュートラル等といった環境配慮への意識の高まりから、温室効果ガスである二酸化炭素の排出量が問題視されており、その排出量の削減が要求されている。そして、こうした温室効果ガスの排出量の削減には、無脱炭かつ無浸炭の焼鈍が必要となる。
【0005】
本発明は、このような従来技術が有していた問題点を解決しようとするものであり、被処理物を無脱炭かつ無浸炭で焼鈍することができる焼鈍炉、焼鈍方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するべく、請求項1に記載の発明は、有機化合物を含有する潤滑剤が付着した被処理物を焼鈍する焼鈍炉であって、
前記被処理物を収容する炉室が内部に設けられた炉本体と、
前記炉本体に接続されて、前記炉室へ雰囲気ガスを供給するガス供給系と、
前記炉本体に設けられて、前記炉室を昇温する昇温手段と、
前記炉本体に接続されて、前記炉室と前記炉室の外部との間で前記雰囲気ガスを循環させるガス循環系と、
前記ガス循環系を介して前記炉本体と接続されて、前記炉室との間で循環される前記雰囲気ガスに含まれる一酸化炭素(CO)、二酸化炭素(CO)、酸素(O)、及び水(HO)を除去する除去装置と、を備えることを要旨とする。
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記除去装置は、一酸化炭素(CO)、二酸化炭素(CO)、酸素(O)、及び水(HO)を吸着して前記雰囲気ガスから除去する吸着材を有していることを要旨とする。
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の発明において、前記炉本体に接続されて、前記炉室の炉内ガスを前記炉本体の外部へ排気する炉内ガス排気手段を更に備えることを要旨とする。
請求項4に記載の発明は、請求項1乃至3のうちいずれか一項に記載の発明において、前記ガス供給系は、前記炉室に窒素(N)ガスを供給する第1供給系と、前記炉室に水素(H)ガスを供給する第2供給系と、を備え、
前記第1供給系には、前記炉室の炉圧を調整する炉圧調整器が接続されていることを要旨とする。
請求項5に記載の発明は、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の焼鈍炉を用い、有機化合物を含有する潤滑剤が付着した被処理物を炉本体の炉室に収容し、雰囲気ガスで満たされた前記炉室を昇温して、前記被処理物を焼鈍する焼鈍方法であって、
前記炉室と、前記炉室にガス循環系を介して接続された除去装置と、の間で前記雰囲気ガスを循環させる循環工程と、
前記循環工程で前記炉室から送られた前記雰囲気ガス中から一酸化炭素(CO)、二酸化炭素(CO)、酸素(O)、及び水(HO)を、前記除去装置で除去する除去工程と、
前記除去工程で一酸化炭素(CO)、二酸化炭素(CO)、酸素(O)、及び水(HO)を除去した前記雰囲気ガスを前記炉室へ戻し、前記被処理物を無浸炭・無脱炭で焼鈍する焼鈍工程と、を備えることを要旨とする。
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の発明において、前記焼鈍工程において、前記雰囲気ガスの全量を100vol%として、一酸化炭素(CO)の含有濃度が0.3vol%以下、二酸化炭素(CO)の含有濃度が0.015vol%以下、酸素(O)の含有濃度が0.001vol%以下、水(HO)の含有濃度が0.013vol%以下であることを要旨とする。
請求項7に記載の発明は、請求項5又は6に記載の発明において、前記潤滑剤は、有機化合物として、ステアリン酸系化合物又はエステル系化合物を含有することを要旨とする。
請求項8に記載の発明は、請求項5乃至7のうちいずれか一項に記載の発明において、前記炉室内の温度が400℃以下の状態で、前記炉室の酸素濃度が0.1vol%以下になるまで前記炉室の炉内ガスを排気する排気工程を備えることを要旨とする。
請求項9に記載の発明は、請求項8に記載の発明において、前記排気工程の後、前記炉本体に接続された炉内ガス排気手段を閉じた状態とし、雰囲気ガスとして窒素(N)ガスを前記炉室に供給することにより、前記炉室の炉圧を調整する炉圧調整工程を備えることを要旨とする。
請求項10に記載の発明は、請求項5乃至9のうちいずれか一項に記載の発明において、前記除去工程の後、除去された一酸化炭素(CO)、二酸化炭素(CO)、酸素(O)、及び水(HO)の合計量と同量の雰囲気ガスを、前記炉本体に接続されたガス供給系から前記炉室に供給する供給工程を備えることを要旨とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、被処理物を無脱炭かつ無浸炭で焼鈍することができる焼鈍炉、焼鈍方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施形態の焼鈍炉の一例を示す概略説明図。
図2】実施形態の焼鈍炉の他例を示す概略説明図。
図3】実施形態の除去装置の一例を示す概略説明図。
図4】実施形態の除去装置の他例を示す概略説明図。
図5】実施形態の焼鈍炉の具体例を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
ここで示される事項は例示的なもの及び本発明の実施形態を例示的に説明するためのものであり、本発明の原理と概念的な特徴とを最も有効に且つ難なく理解できる説明であると思われるものを提供する目的で述べたものである。この点で、本発明の根本的な理解のために必要である程度以上に本発明の構造的な詳細を示すことを意図してはおらず、図面と合わせた説明によって本発明の幾つかの形態が実際にどのように具現化されるかを当業者に明らかにするものである。
【0010】
[1]焼鈍炉
本発明の焼鈍炉は、有機化合物を含有する潤滑剤が付着した被処理物Wを焼鈍する焼鈍炉10であって、
前記被処理物Wを収容する炉室111が内部に設けられた炉本体11と、
前記炉本体11に接続されて、前記炉室111へ雰囲気ガスを供給するガス供給系12と、
前記炉本体11に設けられて、前記炉室111を昇温する昇温手段13と、
前記炉本体11に接続されて、前記炉室111と前記炉室111の外部との間で前記雰囲気ガスを循環させるガス循環系14と、
前記ガス循環系14を介して前記炉本体11と接続されて、前記炉室111との間で循環される前記雰囲気ガスに含まれる一酸化炭素(CO)、二酸化炭素(CO)、酸素(O)、及び水(HO)を除去する除去装置15と、を備えることを特徴とする(図1参照)。
【0011】
(1)炉本体
炉本体11は、被処理物Wを焼鈍処理するためのものであり、その内部には被処理物Wを収容するための炉室111が設けられている(図1参照)。
炉本体11は、焼鈍に係る処理に適用可能であれば、被処理物の処理・搬送方式、構成、使用材料、形状、大きさ、炉内容積、加熱・冷却方式等は、特に問わない。
炉本体11の処理・搬送方式は、例えば、被処理物を連続的に処理することができる連続式のもの、被処理物を断続的に処理することができるバッチ式のものが挙げられる。
【0012】
バッチ式の炉本体11は、被処理物Wを炉室111に出し入れする開口部112と、その開口部112を開閉する扉113と、を備える構成とすることができる(図1参照)。
炉本体11は、バッチ式の場合、焼鈍処理中の炉室111を扉113によって閉塞し、炉室111への空気(外気)の流入を抑制することで、一酸化炭素(CO)、二酸化炭素(CO)、酸素(O)、及び水(HO)の発生を抑えることができる。
【0013】
連続式の炉本体は、被処理物を炉室に入れる入口と、炉室から被処理物を出す出口とを有する構成とすることができる(図示略)。連続式の炉本体において、入口と出口を開閉する扉の有無は、特に問わない。
炉本体は、連続式の場合、炉室を複数の領域に区分けした構成とすることができる。炉室の区分けは、炉本体の内部に1つ以上の隔壁(図示略)を設けることで実現することができる。
炉室が複数の領域に区分けされた炉本体は、複数の領域のうち一部の領域をプレ加熱領域とし、他の領域を加熱領域としたり、又は一部の領域を加熱領域とし、他の領域を徐冷領域や冷却領域としたりすることができる。
即ち、炉本体は、炉室が複数の領域に区分けされることにより、焼鈍処理における被処理物の加熱又は冷却を段階的に効率よく実施することができ、加熱又は冷却に要するエネルギーの低減を図ることができる。
【0014】
炉本体11は、炉室111への被処理物Wの出し入れを行いやすくするため、炉室111内で被処理物Wを搬送する搬送装置114を備えることができる(図5参照)。
搬送装置114は、被処理物Wを搬送することが可能であれば、その構成等について、特に限定されない。搬送装置114の具体例としては、ベルトコンベア、ローラコンベアが挙げられる。
搬送装置114は、バッチ式の炉本体11の場合、被処理物Wの出し入れに要する時間を短くすることで、扉113の開放時間を短くすることができる。このため、搬送装置114を有するバッチ式の炉本体11は、炉室111への空気(外気)の流入を最小限に留めることができるから、炉室111の炉内温度の低下を抑制したり、空気(外気)の流入による一酸化炭素(CO)等の発生を抑制したりすることができる。
【0015】
炉本体11は、炉室111の炉内ガスを炉本体11の外部へ排気する炉内ガス排気手段を備えることができる。
即ち、焼鈍の開始時等において、炉室111には炉内ガスが存在しているが、この炉内ガスは、雰囲気ガスとは異なり、無脱炭かつ無浸炭(以下、「無脱炭・無浸炭」とも記載する)の焼鈍に適さない。具体的に、炉内ガスとは、主に空気(外気)からなるガスであり、一酸化炭素(CO)、二酸化炭素(CO)、酸素(O)、及び水(HO)を含むため、無脱炭・無浸炭の焼鈍を阻害する。よって、炉内ガスは、炉本体11の外部へ排気することが望ましく、こうした炉内ガスの排気のために、炉内ガス排気手段を備えることができる。
炉内ガス排気手段としては、以下に示すものが挙げられる。
【0016】
炉内ガス排気手段として、炉本体11に接続されて、炉室111の炉内ガスを炉本体11の外部へ排気するガス排気系16と、ガス排気系16に接続された電磁バルブ61とを備えることができる(図1参照)。
炉内ガスの排気は、ガス供給系12から炉室111へ雰囲気ガスを供給しながら、電磁バルブ61によってガス排気系16を開放し、ガス排気系16から炉内ガスを排気することによって実行することができる。
【0017】
また、炉内ガス排気手段として、炉本体11に接続されて、炉室111の炉内ガスを炉本体11の外部へ排気する真空排気系17と、真空排気系17に接続された排気バルブ71及び排気用真空ポンプ72と、を備えることができる(図2参照)。
炉内ガスの排気は、排気用真空ポンプ72を作動させながら、排気バルブ71によって真空排気系17を開放し、真空排気系17から炉内ガスを真空吸引して強制的に排気して、ガス供給系12から炉室111へ雰囲気ガスを供給することにより、実行することができる。
【0018】
真空排気系17において、ガス供給系12から炉室111へ雰囲気ガスの供給を開始するタイミングは、特に問わない。
具体的に、雰囲気ガスの供給の開始は、真空排気系17を使用した炉内ガスの真空吸引の開始と同時、炉内ガスの真空吸引中、炉内ガスの真空吸引の終了時、又は炉内ガスの真空吸引の終了後、の何れのタイミングとしてもよい。
即ち、真空排気系17を使用する場合、炉室111が減圧された状態となるため、雰囲気ガスの供給は、炉室111を無脱炭・無浸炭の焼鈍に適した雰囲気とする目的もさることながら、炉室111を復圧する目的も有している。
【0019】
上述のガス排気系16や真空排気系17等の炉内ガス排気手段は、炉室111を無脱炭・無浸炭の焼鈍に適した雰囲気とする目的で、炉室111の炉内ガスを雰囲気ガスと入れ換えるべく、炉内ガスを炉本体11の外部へ排気するために設けられたものである。
通常、ガス排気系16や真空排気系17等の炉内ガス排気手段は、被処理物Wを焼鈍している間、電磁バルブ61や排気バルブ71によって閉塞されることにより、炉本体11を、無脱炭・無浸炭の焼鈍に適した炉内雰囲気に維持する。
【0020】
ガス排気系16や真空排気系17等の炉内ガス排気手段における系路の開閉手段は、所望に応じた開閉が可能であれば、電磁バルブ61や排気バルブ71に限定されず、例えば、圧力に応じて開閉可能なダンパー付排気ダクト等としてもよい。
ガス排気系16と真空排気系17は、図1、2に示したように、何れか一方のみを設けてもよく、あるいは両方共に設けてもよい。
【0021】
なお、炉内ガス排気手段について、ガス排気系16は、その利点として、略大気圧条件下で炉内ガスを排気することができるから、炉室111の減圧に耐え得るように、炉本体11の強度向上や炉室111を気密するパッキン類の品質向上などを図る必要がなく、構成の簡易化を図ることができる。
炉内ガス排気手段について、真空排気系17は、炉内ガスを真空吸引して強制的に排気することができる。このため、真空排気系17の利点として、炉本体11に用いられた断熱材の内部や炉室111の微小な隙間に存在する炉内ガスまでも排気することができる、炉室111を無脱炭・無浸炭の焼鈍にさらに適した雰囲気とすることができる、ガス排気系16と比べると炉内ガスとの入れ換えのためにガス供給系12から供給される雰囲気ガスの供給量を少なくすることができる等が挙げられる。
【0022】
(2)ガス供給系
ガス供給系12は、炉室111へ雰囲気ガスを供給するためのものであり、炉本体11に接続されている(図1参照)。
雰囲気ガスの種類は、炉室111を、無脱炭・無浸炭の焼鈍が可能な雰囲気とするガスであれば、特に問わない。具体的な雰囲気ガスとしては、窒素(N)ガス、ヘリウムガス、ネオンガス、アルゴンガスなどの不活性ガス、水素(H)ガスなどの還元性ガスを挙げることができる。雰囲気ガスには、不活性ガス又は還元性ガスの何れか一方のみ、あるいは不活性ガス及び還元性ガスの両方を使用することができる。
【0023】
窒素(N)ガス等の不活性ガスは、焼鈍時における高温度の雰囲気下において、被処理物と化学反応等することがない、つまり、被処理物に対して不活性であるから、被処理物の表面における酸化と還元、つまり脱炭と浸炭を抑えるように作用する。
不活性ガスの中でも窒素(N)ガスは、入手が容易であり、その使用に係るコストを抑えることができ、有用である。
【0024】
水素(H)ガス等の還元性ガスは、炉室111に炉内ガスとして存在する酸素(O)と反応することで、その酸素(O)を奪う性質を有している。換言すると、還元性ガスは、酸素(O)を奪って炉室111を脱酸素状態とすることで、その酸素(O)が該被処理物の表面から炭素を奪うこと、つまり脱炭が生じることを抑えるように作用する。
還元性ガスの中でも水素(H)ガスは、酸素(O)と反応した際、水(HO)を生成するため、他の還元性ガスと比べて一酸化炭素(CO)や二酸化炭素(CO)が生成されにくく、有用である。
【0025】
炉本体11に接続されるガス供給系12の系路の数は、特に問わない。つまり、ガス供給系12の系路の数は、1つのみとすることができ、あるいは2以上とすることができる。
雰囲気ガスとして不活性ガス及び還元性ガスを用いる場合、ガス供給系12は、系路の数を2つとして、不活性ガスを供給する第1供給系21と、炉室に還元性ガスを供給する第2供給系22と、を備える構成とすることができる。この構成の場合、不活性ガスと還元性ガスは、各個別に炉室へ供給することができるから、例えば、還元性ガスの使用量を必要最小限に留めて、一酸化炭素(CO)や二酸化炭素(CO)の生成を好適に抑制することもできる。
あるいは、雰囲気ガスとして不活性ガス及び還元性ガスを用いる場合、ガス供給系12の系路の数を1つのみとして、不活性ガス及び還元性ガスを混合した状態で炉室に供給することもできる。
【0026】
炉本体11に対するガス供給系12の接続場所は、特に問わず、ガス供給系12は、炉本体11の何れの場所にも接続することができる。
なお、上述したガス排気系16や真空排気系17等の炉内ガス排気手段を炉本体11が備える場合、ガス供給系12は、ガス排気系16や真空排気系17等から離れた場所に接続することが好ましい。
【0027】
ガス供給系12(あるいは第1供給系21と第2供給系22)には、系路を開閉する開閉弁として、第1供給バルブ21Aや第2供給バルブ21B等を設けることができる(図5参照)。第1供給バルブ21Aや第2供給バルブ21B等の開閉弁は、その種類等について、特に問わず、逆止弁、電磁弁等で構成することができる。
第1供給バルブ21Aや第2供給バルブ21B等の開閉弁は、例えば、圧力計23、露点計、CO濃度計等の計測器や、炉室111の炉圧を調整する炉圧調整器24や、炉室111の雰囲気を制御する制御器等と、電気的に接続された構成とすることができる(図5参照)。
【0028】
ガス供給系12は、不活性ガスを供給する第1供給系21と、炉室に還元性ガスを供給する第2供給系22と、さらに、第1供給バルブ21Aや第2供給バルブ21B等の開閉弁、圧力計23、炉圧調整器24を備える場合、炉室111の炉圧を調整するための炉圧調整手段として用いることができる(図5参照)。
即ち、ガス供給系12は、炉圧調整手段として、第1供給系21と、第1供給系21に接続された開閉弁である第1供給バルブ21Aと、第1供給バルブ21Aと電気的に接続された炉圧調整器24と、炉室111の炉圧を計測する圧力計23と、を備えている。
【0029】
炉圧調整手段において、炉圧調整器24は、圧力計23、扉113と電気的に接続されている。この炉圧調整器24は、例えば、扉113を開閉した場合、あるいは除去装置15で一酸化炭素(CO)等を除去したことで雰囲気ガスが減量した場合などに炉圧が変化するため、その炉圧の変化に応じて第1供給バルブ21Aの開閉を制御する。
【0030】
具体的に、炉圧調整器24は、炉圧が降下した場合、第1供給バルブ21Aを開き、第1供給系21から炉室111へ不活性ガス(Nガス)を供給して、炉圧を上昇させる。
炉圧調整器24は、圧力計23で計測された炉圧が所望値に達している場合、第1供給バルブ21Aを閉じて、第1供給系21から炉室111への不活性ガス(Nガス)の供給を停止し、炉圧を維持する。
上述の炉圧調整手段によれば、炉圧の調整に用いられる不活性ガス(Nガス)は、焼鈍中に一酸化炭素(CO)や二酸化炭素(CO)を生成しないから、無脱炭・無浸炭の焼鈍において、有用である。
【0031】
(3)昇温手段
昇温手段13は、炉本体11の内部、つまり炉室111に設けられて、炉室111を昇温することにより、その炉室111を被処理物の焼鈍に適した温度とするためのものである(図1参照)。
昇温手段13は、焼鈍に要する高温度を得ることができるとともに、炉室111の温度を調整することができるのであれば、その構成等について、特に限定されない。
昇温手段13としては、具体的には、熱交換式のヒータ装置31、燃焼式のバーナー装置等が挙げられる。
【0032】
ヒータ装置31は、管状のラジアントチューブ(熱交換チューブ)の内部に、例えば燃焼ガス等の熱媒を通し、熱交換によって、炉本体11の炉室111をみたす雰囲気ガスを加熱するものである(図1図5参照)。ヒータ装置31としては、具体的に、ラジアントチューブ型バーナー、電熱器等を例示することができる。
ヒータ装置31は、バーナー装置と比べ、燃焼ガスが炉室111内に噴き出されないことから、炉室111における一酸化炭素(CO)や二酸化炭素(CO)の増加を抑制することができ、無脱炭・無浸炭の焼鈍において有用である。
【0033】
昇温手段13は、熱電対32等の炉室111の温度を計測可能な計測器、加熱のON/OFFを制御する温度調節計33を備えることができる(図5参照)。
即ち、図5に示すように、ヒータ装置31は、温度調節計33と電気的に接続されており、この温度調節計33には熱電対32が電気的に接続されている。温度調節計33は、熱電対32によって計測された炉室111の温度に応じて、ヒータ装置31をON/OFF操作する。
ヒータ装置31は、温度調節計33によるON操作で炉室111の雰囲気ガスを加熱して昇温し、OFF操作で雰囲気ガスの加熱を停止する。
【0034】
なお、ラジアントチューブ型バーナー等のラジアントチューブ型のヒータ装置31は、冷却装置として使用することもできる。
即ち、ラジアントチューブ型のヒータ装置31は、管状のラジアントチューブ(熱交換チューブ)と、ラジアントチューブの内部に熱媒体を送り込む供給部とを備えており、ラジアントチューブの内部に、例えば燃焼ガス等の熱媒を通す場合、周囲を加熱する機能を奏し、例えば空気等の冷媒を通す場合、周囲を冷却する機能を奏する。
従って、ラジアントチューブ型のヒータ装置31は、炉室111の加熱と、炉室111の冷却の双方に使用することができ、さらに燃焼ガスや空気(外気)などの熱媒体はラジアントチューブ内を流動し、一酸化炭素(CO)や二酸化炭素(CO)などが炉室111に散逸されないため、無脱炭かつ無浸炭の焼鈍において有用である。
【0035】
(4)ガス循環系及び除去装置
ガス循環系14は、炉本体11に接続されて、炉室111と炉室111の外部との間で雰囲気ガスを循環させるためのものである。
具体的に、ガス循環系14は、炉本体11と除去装置15とを接続し、炉本体11と除去装置15の間で雰囲気ガスを循環させるものである(図1参照)。
このガス循環系14は、炉本体11の炉室111から除去装置15へ雰囲気ガスを送り出す循環往路41と、除去装置15から炉本体11の炉室111へ雰囲気ガスを戻す循環復路42と、を備えている。
【0036】
除去装置15は、ガス循環系14を介して炉本体11と接続されて、炉室111との間で循環される雰囲気ガスに含まれる一酸化炭素(CO)、二酸化炭素(CO)、酸素(O)、及び水(HO)を除去するものである(図1参照)。
つまり、除去装置15は、雰囲気ガスに含まれる一酸化炭素(CO)、二酸化炭素(CO)、酸素(O)、及び水(HO)を除去することで、炉室111を無脱炭・無浸炭の雰囲気としている。
【0037】
即ち、焼鈍中の雰囲気ガスは、炉室111に残留する酸素(O)、還元性ガス(Hガス)が変成して生じた水(HO)等を含んでしまい、特に、被処理物Wに付着する潤滑剤が変成して生じた一酸化炭素(CO)、二酸化炭素(CO)等を含んでしまう。
雰囲気ガスに含まれる二酸化炭素(CO)、酸素(O)、水(HO)等の酸素原子を有するガスは、被処理物Wの表面から炭素を奪うことで脱炭を発生させ、一酸化炭素(CO)等の炭素原子を有するガスは、炭素源となることで被処理物Wの表面に炭素を添加し、浸炭を発生させる。
【0038】
焼鈍中の炉室111を無脱炭・無浸炭の雰囲気とするには、雰囲気ガスに含まれる上述の一酸化炭素(CO)、二酸化炭素(CO)、酸素(O)、及び水(HO)を除去する必要がある。
上述の焼鈍炉10は、除去装置15を備えており、この除去装置15が一酸化炭素(CO)等を雰囲気ガス中から除去することにより、炉室111を無脱炭・無浸炭の雰囲気とすることができる。
【0039】
具体的に、除去装置15は、図3に示すように、一酸化炭素(CO)、二酸化炭素(CO)、酸素(O)、及び水(HO)を吸着して雰囲気ガスから除去する複数の吸着材51を有している。これら吸着材51は、除去装置15の上流側から下流側へ順番に、CO吸着用、O吸着用、CO吸着用、HO吸着用のものが配置されている。
除去装置15(あるいは、後述する「第1除去装置15A及び第2除去装置15B」)の詳細な構成は、特に限定されず、図3図5には簡略化して描かれている。通常、除去装置15(第1除去装置15A及び第2除去装置15B)は、塔や槽等といった複数の器を備えており、これら複数の器に上述の一酸化炭素(CO)用、二酸化炭素(CO)用、酸素(O)用、及び水(HO)用の各吸着材51が充填されて収容されている。
複数の器は、上流側から下流側へ順番に、一酸化炭素(CO)用、酸素(O)用、二酸化炭素(CO)用、水(HO)用の各吸着材51が充填されたものとなるように配置されている。そして、各器同士の間は、回路を介して相互に接続されており、一酸化炭素(CO)用、酸素(O)用、二酸化炭素(CO)用、水(HO)用の各吸着材51が充填された各器の間を、雰囲気ガス等が流動することができる。
【0040】
除去装置15の上流側には、吸着回路52として、第1吸着回路52Aが設けられており、この第1吸着回路52Aは、ガス循環系14の循環往路41と接続されている。
また、除去装置15の下流側には、吸着回路52として、第2吸着回路52Bが設けられており、この第2吸着回路52Bは、ガス循環系14の循環復路42と接続されている。
【0041】
炉室111から循環往路41へ送り出された雰囲気ガスは、第1吸着回路52Aを介して除去装置15の内部へ送り込まれ、この除去装置15の内部でCO吸着用、O吸着用、CO吸着用、HO吸着用の順番で各吸着材51を通過して、第2吸着回路52Bへ至る。
雰囲気ガスは、CO吸着用、O吸着用、CO吸着用、HO吸着用の各吸着材51を通過する際、ガス中に含まれる一酸化炭素(CO)、二酸化炭素(CO)、酸素(O)、及び水(HO)を吸着除去される。
そして、吸着材51によって一酸化炭素(CO)等を吸着除去された雰囲気ガスは、第2吸着回路52Bから循環復路42へと送り出され、この循環復路42を介して炉室111に戻される。
【0042】
焼鈍炉10は、上述した炉内ガス排気手段、ガス供給系、昇温手段等により、被処理物Wの焼鈍中における一酸化炭素(CO)、二酸化炭素(CO)、酸素(O)、及び水(HO)の発生量が低減されている。
このため、焼鈍炉10は、雰囲気ガス中に含まれる一酸化炭素(CO)等を少量に留めることができるから、除去装置15において、吸着材51による一酸化炭素(CO)等の吸着除去が可能となる。
【0043】
除去装置15は、一酸化炭素(CO)等を吸着した吸着材51を再生する再生手段53を有することができる。
即ち、図3に示すように、除去装置15は、吸着材51と、再生手段53と、再生手段53と吸着材51との間を繋ぐ第1再生回路53A及び第2再生回路53Bと、を備えている。
第1再生回路53Aは、除去装置15の上流側に設けられており、再生手段53として、排気により除去装置15の内部を減圧する。減圧された除去装置15の内部では、上流側に設けられた第1再生回路53Aに近い吸着材51から順番に、つまりCO吸着用、O吸着用、CO吸着用、HO吸着用の順番で、各吸着材51に吸着された一酸化炭素(CO)等のガスが脱着されて、各吸着材51が再生される。
第2再生回路53Bは、除去装置15の下流側に設けられており、再生手段53として、減圧された除去装置15を復圧する再生ガスを当該除去装置15へ送り込む。
第1再生回路53A及び第2再生回路53Bについて、第1再生回路53Aは、吸着材51の再生のために除去装置15を減圧する減圧回路ともいうことができ、第2再生回路53Bは、その減圧された除去装置15を復圧する復圧回路ともいうことができる。
【0044】
再生手段53に使用される排気の手段は、特に問わないが、例えば、第1再生回路53Aに真空ポンプ54を接続し、この真空ポンプ54による真空吸引により、吸着材51からの一酸化炭素(CO)等の脱着を行うことができる(図5参照)。つまり、吸着材51に吸着された一酸化炭素(CO)等は、再生手段53として真空吸引により、吸着材51から剥がすことが好ましい。
再生手段53に使用される再生ガスの種類は、特に問わないが、一酸化炭素(CO)等に対する吸着材51の吸着性能を維持する観点から、上述した不活性ガスが好ましく、窒素(N)ガスがより好ましい(図5参照)。
【0045】
除去装置15は、1基のみ備えることに限らず、2基以上を備えることができる。
具体的には、図4に示すように、除去装置15は、第1除去装置15Aと第2除去装置15Bの2基を備えることができる。
第1除去装置15A及び第2除去装置15Bには、一酸化炭素(CO)、二酸化炭素(CO)、酸素(O)、及び水(HO)を吸着して雰囲気ガスから除去する複数の吸着材51が充填されている。これら吸着材51は、第1除去装置15Aと第2除去装置15Bの双方において、上流側から下流側へ順番に、CO吸着用、O吸着用、CO吸着用、HO吸着用となるように配置されている。
【0046】
第1除去装置15A及び第2除去装置15Bの上流側には、吸着回路52として、第1吸着回路52Aがそれぞれ設けられている。第1除去装置15Aの第1吸着回路52Aと、第2除去装置15Bの第1吸着回路52Aは、2系路が途中で合流して1系路となり、その合流した1系路がガス循環系14の循環往路41と接続されている。
第1除去装置15A及び第2除去装置15Bの下流側には、吸着回路52として、第2吸着回路52Bがそれぞれ設けられている。第1除去装置15Aの第2吸着回路52Bと、第2除去装置15Bの第2吸着回路52Bは、2系路が途中で合流して1系路となり、その合流した1系路がガス循環系14の循環復路42と接続されている。
【0047】
炉室111から循環往路41へ送り出された雰囲気ガスは、第1吸着回路52Aで切り替えられて、第1除去装置15A又は第2除去装置15Bの内部へ送り込まれる。
第1除去装置15A又は第2除去装置15Bの内部へ送り込まれた雰囲気ガスは、CO吸着用、O吸着用、CO吸着用、HO吸着用の順番で各吸着材51を通過し、各吸着材51を通過する際に一酸化炭素(CO)等を吸着除去される。
一酸化炭素(CO)等を除去された雰囲気ガスは、第2吸着回路52Bを切り替えることで、第1除去装置15A又は第2除去装置15Bから第2吸着回路52Bを介して循環復路42へと送り出され、この循環復路42を介して炉室111に戻される。
【0048】
また、再生手段53から伸びる第1再生回路53Aは、1系路から途中で2系路に分岐して、第1除去装置15Aと第2除去装置15Bの上流側にそれぞれ接続されている。
再生手段53から伸びる第2再生回路53Bは、分岐して、第1除去装置15Aと第2除去装置15Bに接続されている。
再生手段53において、第1除去装置15A又は第2除去装置15Bは、第1再生回路53Aを切り替えることで、排気による内部の減圧が行われる。減圧された第1除去装置15A又は第2除去装置15Bの内部では、上流側に設けられた第1再生回路53Aに近い吸着材51から順番に、つまりCO吸着用、O吸着用、CO吸着用、HO吸着用の順番で各吸着材51に吸着された一酸化炭素(CO)等のガスが脱着されて、各吸着材51が再生される。
また、再生手段53において、第1除去装置15A又は第2除去装置15Bは、第2再生回路53Bを切り替えることで、減圧された内部に再生ガスが供給されて、復圧される。
【0049】
除去装置15は、第1除去装置15A、第2除去装置15B等の2基以上を備える場合、被処理物Wの焼鈍中において、何れか一基では雰囲気ガス中に含まれる一酸化炭素(CO)等の吸着除去を実行することができ、この吸着除去と平行して、残りの他基では再生手段53による吸着材51の再生処理を実行することができる。
例えば、図4において、第1除去装置15Aでは、雰囲気ガス中に含まれる一酸化炭素(CO)等の吸着除去を実行しており、第2除去装置15Bでは、吸着材51の再生処理を実行している。
【0050】
即ち、第1除去装置15Aと第2除去装置15Bは、吸着除去を実行するものと、吸着材51の再生処理を実行するものと、に適宜切り替えることができる。換言すると、第1除去装置15Aと第2除去装置15Bは、一方で吸着材51の吸着量が満杯になる前に、他方に切り替えることで、雰囲気ガス中に含まれる一酸化炭素(CO)等の吸着除去を継続して実行することができる。
このため、焼鈍炉10は、除去装置15が第1除去装置15A、第2除去装置15B等の2基以上を備える場合、無脱炭かつ無浸炭の焼鈍を途中で止めることなく継続して行うことができ、作業の効率化、作業量の増加、作業継続時間の長期化を図ることができる。
【0051】
上述した第1吸着回路52A及び第2吸着回路52Bにおける切り替えと、第1再生回路53A及び第2再生回路53Bにおける切り替えと、について、切り替えのための手段は、特に問わない。
この切り替えのための手段としては、通常、開閉バルブ、切換バルブ、電磁バルブ等を使用することができる。
また、第1吸着回路52A及び第2吸着回路52Bの切り替えのタイミングは、特に問わず、作業時間や、吸着後における雰囲気ガス中の一酸化炭素(CO)等のガス濃度等に応じて、切り替えを適宜行うことができる。
【0052】
上述の吸着材51は、一酸化炭素(CO)、二酸化炭素(CO)、酸素(O)、及び水(HO)を吸着できるものであれば、特に問わない。
吸着材51の具体例としては、活性炭、ゼオライト、シリカゲル、活性アルミナが挙げられる。通常、吸着材51には、吸着対象に応じて、前述した中から選択される何れか1種のみ又は2種以上を使用することができる。
例えば、吸着対象が二酸化炭素(CO)の場合、活性炭とゼオライトを用いることができる。吸着対象が水(HO)の場合、活性炭、ゼオライト、シリカゲル、及び活性アルミナを用いることができる。吸着対象が酸素(O)の場合、ゼオライトを用いることができる。吸着対象が一酸化炭素(CO)の場合、活性炭、ゼオライト、シリカゲル、及び活性アルミナを用いることができる。
【0053】
上述の活性炭、ゼオライト、シリカゲル、活性アルミナは、何れも多数の細孔を備える粒状の多孔質体であり、組成比率、細孔径(平均細孔直径)、全細孔容積、比表面積、細孔分布などに応じて吸着性能を変えることができる。
例えば、ゼオライトは、組成に含まれるアルミナ(酸化アルミニウム)とシリカ(二酸化ケイ素)の比率に応じて吸着性能を変えることができ、シリカゲルは、細孔径と細孔容積に応じて吸着性能を変えることができる。
つまり、吸着材51には、吸着対象である一酸化炭素(CO)、二酸化炭素(CO)、酸素(O)、及び水(HO)に応じて、組成比率、細孔径(平均細孔直径)、全細孔容積、比表面積、細孔分布などを調整又は調節した複数種を使用することができる。
【0054】
通常、吸着材51には、吸着対象とするガスの粒子の大きさに応じて細孔径が異なるものが使用され、吸着対象のガスが一酸化炭素(CO)、二酸化炭素(CO)、酸素(O)、及び水(HO)の場合、細孔径が大きい順に、CO吸着用、O吸着用、CO吸着用、HO吸着用の吸着材51となる。
上述の除去装置15において、複数の吸着材51は、上流側から下流側へ順番に、CO吸着用、O吸着用、CO吸着用、HO吸着用となるように配置されている。言い換えると、複数の吸着材51は、除去装置15の上流側から下流側へ向かうに従い、細孔径が小さなものとなるように配置されている。
【0055】
雰囲気ガス中から一酸化炭素(CO)、二酸化炭素(CO)、酸素(O)、及び水(HO)を除去装置15で除去する除去工程において、雰囲気ガスは、除去装置15の内部を上流側から下流側へ向かって流れる。
このため雰囲気ガスは、除去装置15の内部で、まず、細孔径が最も大きなCO吸着用の吸着材51を通過し、その後、CO吸着用よりも細孔径が小さなO吸着用の吸着材51を通過し、続いて、O吸着用よりも細孔径が小さなCO吸着用の吸着材51を通過し、最後に細孔径が最も小さなHO吸着用の吸着材51を通過する。
従って、除去工程では、雰囲気ガスが複数の吸着材51を、細孔径が大きなものから小さなものへ順番に通過することで、粒子の大きなガスが細孔径の小さな吸着材51に吸着されることを抑制することができ、除去工程における吸着材51の目詰まりが防止されている。
【0056】
また、除去装置15において、複数の吸着材51は、除去装置15の下流側から上流側へ向かうに従い、細孔径が大きなものとなるように配置されている。
除去装置15の吸着材51を再生処理する再生工程において、再生手段53として排気による除去装置15の内部の減圧は、複数の吸着材51に対し、除去装置15の上流側のものから下流側のものへと順番に影響を及ぼす。
このため、再生工程では、複数の吸着材51を、細孔径が大きなものから小さなものへ順番にガスを脱着することで、粒子の大きなガスが排気時に細孔径の小さな吸着材51に再吸着されることを抑制することができ、除去工程における吸着材51の目詰まりが防止されている。
【0057】
即ち、減圧された除去装置15の内部では、まず、細孔径が最も大きなCO吸着用の吸着材51でCOガスが脱着されて、そのCOガスが第1再生回路53Aを介して排気される。
次に、COガスの脱着が進行すると、O吸着用の吸着材51に減圧の影響が及び、O吸着用の吸着材51からOガスが脱着される。このOガスはCOガスよりも粒子が小さいため、細孔径が大きなCO吸着用の吸着材51を通過し、第1再生回路53Aを介して排気される。
【0058】
続いて、Oガスの脱着が進行すると、CO吸着用の吸着材51に減圧の影響が及ぶことで、CO吸着用の吸着材51からCOガスが脱着される。このCOガスはCOガス及びOガスよりも粒子が小さいため、O吸着用及びCO吸着用の吸着材51を通過して、第1再生回路53Aを介して排気される。
最後に、COガスの脱着が進行すると、HO吸着用の吸着材51に減圧の影響が及ぶことで、HO吸着用の吸着材51からHOガスが脱着される。このHOガスはCOガス、Oガス及びCOガスよりも粒子が小さいため、CO吸着用、O吸着用及びCO吸着用の吸着材51を通過して、第1再生回路53Aを介して排気される。
【0059】
活性炭には、分子篩炭を含むことができる。分子篩炭は、多数の細孔を備える木炭、石炭、コークス、ヤシガラ、合成樹脂、ピッチなどの炭化物を賦活処理して得られたものである。この賦活処理では、処理温度、賦活ガスの量、処理時間に応じ、細孔径のサイズを調整することができる。
即ち、分子篩炭は、一酸化炭素(CO)、二酸化炭素(CO)、酸素(O)、及び水(HO)の各ガスにおける粒子(分子)の大きさの差を利用し、各ガスの粒子(分子)の大きさに応じて細孔径のサイズを調整することで、一酸化炭素(CO)等のガスを吸着可能なものとすることができる。
通常、一酸化炭素(CO)、二酸化炭素(CO)、酸素(O)、及び水(HO)を吸着可能な分子篩炭は、細孔径が約3~5オングストロームに調整される。
【0060】
分子篩炭は、窒素(N)ガスに比べ、一酸化炭素(CO)、二酸化炭素(CO)、酸素(O)、及び水(HO)の各ガスを吸着しやすい性質を有している。
このため、雰囲気ガスに不活性ガスとして窒素(N)ガスを使用した場合、除去装置15において一酸化炭素(CO)等を選択的に吸着除去し、雰囲気ガスとして窒素(N)ガスのみを炉本体11の炉室111へ戻すことができる。また、吸着材51の再生処理において、再生ガスとして窒素(N)ガスを使用した場合には、吸着材51の一酸化炭素(CO)等に対する吸着性能が良好に維持される。
【0061】
加えて、分子篩炭は、加圧状態でより多くのガスを吸着し、減圧状態でその吸着したガスを好適に脱着させる性質を有する。
即ち、分子篩炭は、一酸化炭素(CO)等のガスの吸着材51への吸着時において、ガスを加圧状態にすることで、より多くのガスを吸着することができる。よって、除去装置15へ雰囲気ガスを送り込むガス循環系14の循環往路41及び/又は吸着回路52には、循環ファン45、加圧ポンプ等の加圧手段を接続することで、吸着材51による吸着性能の向上を図ることができる(図5参照)。
一方、吸着材51の再生処理において、分子篩炭は、真空吸引等によって減圧状態にすることで、吸着したガスを好適に脱着させることができる。よって、排気に用いられる再生手段53には、真空ポンプ54等の減圧装置の使用が好ましい(図5参照)。
【0062】
(5)被処理物
被処理物Wは、有機化合物を含有する潤滑剤が塗布されたものであれば、材質、形状、大きさ等は、特に問わない。
この被処理物Wは、例えば、鉄、アルミニウム、銅などの金属や、鉄鋼、ステンレス鋼等の鉄合金、ジュラルミン等のアルミニウム合金、インコネル、ハステロイ等のニッケル合金、真鍮、白銅等の銅合金などの合金からなる線材、管材、柱材等を挙げることができる。
【0063】
潤滑剤は、有機化合物を含有するものであれば、種類、組成、用途、形態等は、特に問わない。この潤滑剤は、例えば、粉状で被処理物の表面に付着させて使用する固形潤滑剤、液状で被処理物を浸漬させたり、被処理物の表面に塗工したりして使用する液体潤滑剤を挙げることができる。
有機化合物は、種類、組成等について、特に問わない。この有機化合物としては、例えば、カルボキシル基、ヒドロキシル基、エノール基を持つ化合物を挙げることができる。
【0064】
上述の潤滑剤は、例えば、有機化合物として、ステアリン酸系化合物又はエステル系化合物を含有するものを挙げることができる。
ステアリン酸系化合物は、分子中にカルボン酸骨格(-COOH)を有するステアリン酸からなる化合物である。エステル系化合物は、分子中にエステル結合(R-COO-R’)を有する化合物である。
上述の有機化合物の具体例としては、ステアリン酸、ラウリン酸、リシノール酸、オクチル酸などの脂肪酸と、リチウム、マグネシウム、カルシウム、バリウム、亜鉛などの金属とからなる金属石鹸、より具体的にステアリン酸カルシウムやステアリン酸ナトリウムを挙げることができる。
【0065】
上述の有機化合物を含有する潤滑剤は、例えば、焼鈍のような炉内温度が400℃を超え1000℃以下の高温度環境下において、熱分解したり、変成したりすることにより、一酸化炭素(CO)、二酸化炭素(CO)及び水素(H)を含む還元性ガスを発生させる。
潤滑剤から発生する還元性ガスは、上述した雰囲気ガスとして供給する還元性ガスと同じ作用を奏する。このため、潤滑剤から発生する還元性ガスを利用することで、雰囲気ガスとしての還元性ガス(Hガス)の供給量の低減を図ることができる。
一方、潤滑剤から発生する還元性ガスは、無脱炭・無浸炭の焼鈍を阻害する要因とも成り得る。このため、潤滑剤から発生する還元性ガスは、その利用について、無脱炭・無浸炭の焼鈍のための炉内雰囲気の調整に若干量のみを利用するのが好ましい。
そして、炉内雰囲気の調整に利用されなかった還元性ガスは、雰囲気ガスに含ませ、雰囲気ガスとともに除去装置15へと送られ、当該除去装置15で吸着除去される。
【0066】
(6)焼鈍炉の具体例
本発明の焼鈍炉10を更に具体化した具体例を、図5に示す。
焼鈍炉10は、被処理物Wを焼鈍する焼鈍炉であり、より詳しくは、潤滑剤が付着した被処理物Wを、無脱炭かつ無浸炭で焼鈍する焼鈍炉である。
焼鈍炉10は、炉室111が内部に設けられた炉本体11と、炉本体11に接続されたガス供給系12と、炉本体11に設けられた昇温手段13と、炉本体11に接続されたガス循環系14と、ガス循環系14を介して炉本体11と接続された除去装置15と、を備えている。
焼鈍炉10は、炉本体11に接続されて、炉室111の炉内ガスを炉本体11の外部へ排気するガス排気系16と、ガス排気系16に接続された電磁バルブ61と、を更に備えている。
【0067】
炉本体11は、被処理物Wを炉室111に収容し、その炉室111で当該被処理物Wを焼鈍するように構成されている。
炉本体11は、炉室111に被処理物Wを出し入れする開口部112を有している。
さらに、炉本体11は、開口部112を開閉する扉113を有している。
即ち、炉本体11は、焼鈍中は扉113で開口部112を塞ぎ、炉室111を閉塞することで、被処理物Wを断続的に処理するバッチ式のものである。
また、炉本体11は、炉室111において被処理物Wを搬送する搬送装置114を有している。
【0068】
ガス供給系12は、雰囲気ガスとして窒素(N)ガス及び水素(H)ガスを炉室111に供給するものであり、窒素(N)ガスを供給する第1供給系21と、水素(H)ガスを供給する第2供給系22と、を有している。
第1供給系21には、逆止弁による第1供給バルブ21Aが接続されており、この第1供給バルブ21Aにより、窒素(N)ガスの供給量を調整することができる。
第2供給系22には、電磁弁による第2供給バルブ22Aが接続されており、この第2供給バルブ22Aにより、水素(H)ガスの供給を許容又は規制することができる。
【0069】
炉本体11には、炉室111の炉内圧力を計測する圧力計23が設けられている。
扉113、第1供給バルブ21A及び圧力計23は、炉圧調整器24と電気的に接続されている。
炉圧調整器24は、扉113の開閉や、圧力計23が計測した炉内圧力に応じ、第1供給バルブ21Aの開放量を制御することにより、窒素(N)ガスの供給量を調節している。つまり、炉圧調整器24は、窒素(N)ガスの供給量の調節により、炉室111の炉内圧力が設定された範囲となるように調整している。
【0070】
昇温手段13として、炉室111には複数のヒータ装置31が配設されている。
ヒータ装置31には、チューブ内で熱媒を流通させ、熱交換によって炉室111の雰囲気ガスを加熱するラジアントチューブ型バーナーが使用されており、炉室111への燃焼ガスの散逸が防止されている。
炉本体11には、炉室111の炉内温度を計測する熱電対32が設けられている。
熱電対32及びヒータ装置31は、温度調節計33と電気的に接続されている。
温度調節計33は、熱電対32が計測した炉内温度に応じ、ヒータ装置31による炉室111の加熱を制御することにより、炉室111の炉内温度が設定された範囲となるように調節している。
【0071】
ガス循環系14は、炉室111と炉室111の外部との間で雰囲気ガスを循環させるものである。
ガス循環系14は、炉室111から雰囲気ガスを送り出す循環往路41と、炉室111へ雰囲気ガスを送り返す循環復路42とを備えている。
【0072】
循環往路41には、クーラ43が接続されている。クーラ43は、炉室111から高温度で送り出された雰囲気ガスの温度を下げることで、除去装置15に充填されている吸着材51を熱から保護するために設けられている。具体的に、クーラ43は、吸着材51の耐熱温度まで雰囲気ガスを降温することにより、吸着材51を熱から保護するとともに、雰囲気ガスを炉室111に送り返した際の炉内温度の低下を抑制している。
循環往路41には、フィルタ44が接続されている。フィルタ44は、炉室111から送り出された雰囲気ガスに含まれる塵埃、煤(スス)、タール、被処理物Wに付着していた潤滑剤等といった固状及び/又は液状の雑物を除去するために設けられている。つまり、フィルタ44は、固状及び/又は液状の雑物を除去することで、こうした固状及び/又は液状の雑物が吸着材51に吸着されることを阻止し、吸着材51によるガスの吸着性能を維持している。
【0073】
循環往路41には、循環ファン45が接続されている。循環ファン45は、循環往路41を介して炉室111から雰囲気ガスを吸引し、その雰囲気ガスを除去装置15へ送り出すために設けられている。さらに、循環ファン45は、ガス循環系14における雰囲気ガスの循環量を調節する機能と、除去装置15へ雰囲気ガスを加圧状態で送り出す機能とを有している。
炉本体11には、第1分析計46が電気的に接続されており、この第1分析計46は、循環ファン45と電気的に接続されている。第1分析計46は、炉本体11の炉室111において、一酸化炭素(CO)、二酸化炭素(CO)、酸素(O)、及び水(HO)の各ガスの濃度を分析する機能を有している。そして、第1分析計46は、各ガスの濃度の分析結果に基づき、循環ファン45を制御することにより、雰囲気ガスの循環量を調節している。
【0074】
除去装置15は、循環往路41と循環復路42との間に接続されている。除去装置15は、循環往路41から送り込まれた雰囲気ガス中から、一酸化炭素(CO)、二酸化炭素(CO)、酸素(O)、及び水(HO)の各ガスを除去するものである。また、一酸化炭素(CO)等の各ガスを除去された雰囲気ガスは、循環復路42を介して炉本体11の炉室111に戻される。
除去装置15から炉室111に戻された雰囲気ガスは、含まれていた一酸化炭素(CO)等の各ガスが除去された分、炉室111から除去装置15へ送り出されたときと比べ、減量されている。この雰囲気ガスの減量分は、炉内圧力の低下等として炉圧調整器24に検出され、炉圧調整器24が窒素(N)ガスの供給量を制御することによって補填される。
【0075】
除去装置15は、第1除去装置15Aと第2除去装置15Bとを備えている。第1除去装置15A及び第2除去装置15Bのそれぞれには、一酸化炭素(CO)、二酸化炭素(CO)、酸素(O)、及び水(HO)の各ガスを吸着する複数の吸着材51が充填されている。
第1除去装置15Aと第2除去装置15Bは、何れか一方が一酸化炭素(CO)、二酸化炭素(CO)、酸素(O)、及び水(HO)の各ガスの吸着除去を実行している間、他方が再生手段53による吸着材51の再生処理を実行するように、相互に切り替えて使用される。
なお、図5中では、第1除去装置15Aが各ガスの吸着除去を実行しており、第2除去装置15Bが吸着材51の再生処理を実行している。
【0076】
第1除去装置15Aは、図5中に実線で示すように、第1吸着回路52A及び第1切換バルブ521を介して、循環往路41に接続された循環ファン45と繋がっている。
また、第1除去装置15Aは、図5中に実線で示すように、第2吸着回路52B及び第3切換バルブ523を介して、循環復路42に接続されている。
循環ファン45から送り出された雰囲気ガスは、第1除去装置15Aへ送り込まれ、吸着材51によって一酸化炭素(CO)、二酸化炭素(CO)、酸素(O)、及び水(HO)の各ガスを吸着除去された後、循環復路42を介して炉室111へ戻される。
【0077】
図5中に鎖線で示すように、第1吸着回路52Aは、分岐し、第2切換バルブ522を介して、第2除去装置15Bとも繋がっている。
また、図5中に鎖線で示すように、第2吸着回路52Bは、分岐し、第4切換バルブ524を介して、第2除去装置15Bとも繋がっている。
図5に示した状態において、第1切換バルブ521及び第3切換バルブ523は開かれ、第2切換バルブ522及び第4切換バルブ524は閉じられており、雰囲気ガスは、第1除去装置15Aのみへ送り込まれ、第2除去装置15Bへは送り込まれない。
【0078】
循環復路42には、第2分析計47が電気的に接続されており、この第2分析計47は、第1切換バルブ521及び第2切換バルブ522と電気的に接続されている。
第2分析計47は、循環復路42において、一酸化炭素(CO)、二酸化炭素(CO)、酸素(O)、及び水(HO)の各ガスの濃度を分析する機能を有している。
第2分析計47は、各ガスの濃度の分析結果に基づき、各ガスの濃度の上昇が検出された場合、第1切換バルブ521及び第2切換バルブ522を制御し、開閉を操作することにより、第1除去装置15Aと第2除去装置15Bとを切り替える。
なお、第3切換バルブ523は、第1切換バルブ521と連動して同様に開閉するように機能し、また、第4切換バルブ524は、第2切換バルブ522と連動して同様に開閉するように機能する。
【0079】
第2除去装置15Bは、図5中に実線で示すように、第1再生回路53Aと第1再生バルブ531を介して、繋がっている。
また、第2除去装置15Bは、図5中に実線で示すように、第2再生回路53Bと第3再生バルブ533を介して、繋がっている。
さらに、第1再生回路53Aには、再生手段53として真空ポンプ54が接続されており、第2再生回路53Bには、再生手段53として窒素(N)ガスが供給されている。
【0080】
再生処理において、第2除去装置15Bは、真空ポンプ54により、第1再生回路53Aを介して真空吸引され、内部が減圧状態とされる。この減圧状態で、一酸化炭素(CO)、二酸化炭素(CO)、酸素(O)、及び水(HO)の各ガスは、吸着材51から脱着され、第1再生回路53Aを介して排気される。
また、第2除去装置15Bは、一酸化炭素(CO)等の各ガスが吸着材51から脱着された後、真空ポンプ54を停止し、第2再生回路53Bを介して再生ガスである窒素(N)ガスが供給されることにより、内部を復圧されて、再生される。
【0081】
図5中に鎖線で示すように、第1再生回路53Aは、分岐し、第2再生バルブ532を介して、第1除去装置15Aとも繋がっている。
また、図5中に鎖線で示すように、第2再生回路53Bは、分岐し、第4再生バルブ534を介して、第1除去装置15Aとも繋がっている。
【0082】
図5に示した状態において、第1再生バルブ531及び第3再生バルブ533は開かれ、第2再生バルブ532及び第4再生バルブ534は閉じられており、再生手段53による真空吸引と、窒素(N)ガスの供給による復圧は、第2除去装置15Bのみに影響を及ぼし、第1除去装置15Aには影響を及ぼさない。
なお、第1再生バルブ531は、第2切換バルブ522と連動して同様に開閉するように機能し、第3再生バルブ533は、第1再生バルブ531から遅れて開閉するように機能する。
また、第2再生バルブ532は、第1切換バルブ521と連動して同様に開閉するように機能し、第4再生バルブ534は、第2再生バルブ532から遅れて開閉するように機能する。
【0083】
ガス排気系16は、炉本体11に接続されて、炉室111の炉内ガスを炉本体11の外部へ排気するものである。
この炉内ガスとは、ガス供給系12によって供給される雰囲気ガスではなく、焼鈍の開始時等に炉室111に存在するガスであり、主として空気(外気)、あるいは炉室111に残留した雰囲気ガスと空気(外気)との混合ガスである。
即ち、ガス排気系16は、炉室111のガスを、炉内ガスから雰囲気ガスへと入れ換える目的で、炉内ガスを排気するために使用されるものである。
ガス排気系16は、その使用時に、電磁バルブ61によって系路が開かれることで、炉内ガスを排気するように機能する。
また、ガス排気系16は、無脱炭・無浸炭の焼鈍を行うため、扉113とともに炉室111を閉塞するように、焼鈍中は電磁バルブ61によって系路を閉塞される。
【0084】
[2]焼鈍方法
本発明の焼鈍方法は、上述の焼鈍炉10を用い、有機化合物を含有する潤滑剤が付着した被処理物Wを炉本体11の炉室111に収容し、雰囲気ガスで満たされた前記炉室111を昇温して、前記被処理物Wを焼鈍する焼鈍方法であって、
前記炉室111と、前記炉室111にガス循環系14を介して接続された除去装置15と、の間で前記雰囲気ガスを循環させる循環工程と、
前記循環工程で前記炉室111から送られた前記雰囲気ガス中から一酸化炭素(CO)、二酸化炭素(CO)、酸素(O)、及び水(HO)を、前記除去装置15で除去する除去工程と、
前記除去工程で一酸化炭素(CO)、二酸化炭素(CO)、酸素(O)、及び水(HO)を除去した前記雰囲気ガスを前記炉室111へ戻し、前記被処理物Wを無浸炭・無脱炭で焼鈍する焼鈍工程と、を備えることを特徴とする。
【0085】
即ち、本発明の焼鈍方法は、図5に示した焼鈍炉10を使用して実施される。
焼鈍方法の開始時には、炉本体11の扉113を開き、開口部112を介して炉室111に被処理物Wを、搬送装置114を利用して収容した後、扉113を閉じて炉室111を閉塞する。
閉塞後の炉室111は、ガス供給系12を使用することにより、雰囲気ガスで満たされる。
その後、昇温手段13であるヒータ装置31を使用し、雰囲気ガスで満たされた炉室111を昇温して、所定温度に保つことにより、被処理物Wを焼鈍する。
【0086】
焼鈍時における炉室111の炉内温度は、被処理物Wの材質に応じて適宜設定され、特に限定されない。
炉内温度は、例えば、400℃を超えて1000℃以下とすることができる。
炉内温度は、好ましくは450℃以上950℃以下、より好ましくは500℃以上900℃以下、さらに好ましくは550℃以上850℃以下である。
【0087】
上述の焼鈍において、被処理物Wには潤滑剤が付着しており、この潤滑剤は有機化合物、特にステアリン酸系化合物又はエステル系化合物を含有する。
高温の炉内温度条件下において、ステアリン酸系化合物、エステル系化合物等の有機化合物は、化学反応により、一酸化炭素(CO)、二酸化炭素(CO)、酸素(O)、及び水(HO)を発生させる。
これら一酸化炭素(CO)、二酸化炭素(CO)、酸素(O)、及び水(HO)の各ガスは、金属を材料とする被処理物Wの表面において、当該表面に存在する炭素と反応し、浸炭及び脱炭を発生させる。
【0088】
詳述すると、浸炭は、以下の反応式(a1)に従って進行する。
C+CO ← 2CO ・・・(a1)
また、脱炭は、以下の反応式(a2)、(b1)、(b2)、(c)に従って進行する。
C+CO → 2CO ・・・(a2)
C+1/2O → CO ・・・(b1)
C+O → CO ・・・(b2)
C+HO → CO+H ・・・(c)
上記の反応式(a1)、(a2)、(b1)、(b2)、(c)は、何れも平衡反応であり、その平衡定数であるKは、以下の式(d)で求められる。
(CO×HO)/(H×CO)=K ・・・(d)
【0089】
上記の反応式(a1)、(a2)、(b1)、(b2)、(c)は、式(d)で求められるK(平衡定数)に従い、雰囲気ガス中に含まれる一酸化炭素(CO)、二酸化炭素(CO)、酸素(O)、及び水(HO)の各ガスの濃度次第で逆反応を起こすことから、焼鈍時には浸炭及び脱炭の何れもが発生し得る。
従って、焼鈍中における被処理物Wの浸炭及び脱炭を防止する、つまり被処理物Wを無浸炭・無脱炭で焼鈍するには、一酸化炭素(CO)、二酸化炭素(CO)、酸素(O)、及び水(HO)の各ガスの除去が必要となる。
本発明の焼鈍方法は、雰囲気ガス中から一酸化炭素(CO)、二酸化炭素(CO)、酸素(O)、及び水(HO)の各ガスを除去し、被処理物Wを無浸炭・無脱炭で焼鈍するため、循環工程と、除去工程と、焼鈍工程と、を備えている。
【0090】
(1)循環工程
循環工程は、図5に示した焼鈍炉10において、ガス循環系14を介することにより、炉室111と除去装置15との間で雰囲気ガスを循環させる工程である。
具体的に、循環工程は、第1分析計46が炉室111の一酸化炭素(CO)、二酸化炭素(CO)、酸素(O)、及び水(HO)の各ガスの濃度を分析し、その分析結果として各ガスの濃度が所定値を超えている場合に実行される。
循環工程は、第1分析計46が制御する循環ファン45の作動に伴って開始される。
【0091】
つまり、循環ファン45の作動に伴い、炉室111から雰囲気ガスが循環往路41へ吸い出され、この雰囲気ガスは、循環往路41を介して除去装置15へと送り込まれる。
除去装置15へ送り込まれた雰囲気ガスは、除去装置15の内部を通過した後、循環復路42へと送り出され、この循環復路42を介して炉室111へと戻される。
そして、循環ファン45の作動中、雰囲気ガスは、炉本体11(炉室111)、循環往路41、除去装置15、及び循環復路42の間を繰り返し循環される。
【0092】
(2)除去工程
除去工程は、図5に示した焼鈍炉10において、除去装置15を利用し、雰囲気ガス中から一酸化炭素(CO)、二酸化炭素(CO)、酸素(O)、及び水(HO)を除去する工程である。
具体的に、除去工程は、循環工程で循環されている雰囲気ガスが、除去装置15の第1除去装置15A又は第2除去装置15Bの内部を通過することによって実施される。
除去工程の開始タイミングは、特に問わないが、通常、循環工程と略同時に開始することができる。
【0093】
第1除去装置15A又は第2除去装置15Bの内部には、吸着材51が充填されている。この吸着材51は、一酸化炭素(CO)、二酸化炭素(CO)、酸素(O)、及び水(HO)の各ガスを吸着するように調製されたものである。
従って、除去工程では、雰囲気ガスが第1除去装置15A又は第2除去装置15Bの内部を通過する際、含まれる一酸化炭素(CO)、二酸化炭素(CO)、酸素(O)、及び水(HO)の各ガスが吸着材51に吸着されることにより、除去される。
【0094】
(3)焼鈍工程
焼鈍工程は、図5に示した焼鈍炉10において、炉本体11の炉室111で被処理物Wを無浸炭・無脱炭で焼鈍する工程である。
具体的に、焼鈍工程において、炉室111を満たす雰囲気ガスは、上述の循環工程及び除去工程を経たことにより、一酸化炭素(CO)、二酸化炭素(CO)、酸素(O)、及び水(HO)の各ガスを除去される。
このため、被処理物Wの表面において、上記の反応式(a)~(c)の反応が起こり得ず、脱炭及び浸炭の発生を防止された無浸炭・無脱炭の焼鈍が実施される。
焼鈍工程の開始タイミングは、特に問わないが、通常、循環工程及び除去工程と略同時に開始するか、あるいは循環工程及び除去工程が開始された後で開始することができる。
【0095】
焼鈍工程において、炉室111を満たす雰囲気ガスの全量を100vol%とした場合、一酸化炭素(CO)の含有濃度は、0.3vol%以下が好ましい。COの含有濃度を前述の範囲とすることで、浸炭の発生を好適に防止することができる。
二酸化炭素(CO)の含有濃度は、0.015vol%以下が好ましい。酸素(O)の含有濃度は、0.001vol%以下が好ましい。水(HO)の含有濃度は、0.013vol%以下が好ましい。CO、O、HOの含有濃度を前述の範囲とすることで、脱炭の発生を好適に防止することができる。
【0096】
なお、上述の各ガスの含有濃度は、焼鈍の際の炉内温度における含有濃度とし、具体的には雰囲気ガスが680℃以上の場合の含有濃度とする。
循環工程は、雰囲気ガス(100vol%)中のCO、CO、O、HOの含有濃度が上述の範囲を超えたことが、第1分析計46で検出された場合に実行することもできる。
即ち、循環工程は、第1分析計46の分析結果として、COの含有濃度が0.3vol%、COの含有濃度が0.015vol%、Oの含有濃度が0.001vol%、HOの含有濃度が0.013vol%を超えている場合に実行してもよい。
【0097】
(4)排気工程
本発明の焼鈍方法は、炉室111の炉内ガスを排気する排気工程を備えることができる。
排気工程は、焼鈍炉10が備える炉内ガス排気手段として、ガス排気系16及び電磁バルブ61(図5参照)、及び/又は真空排気系17、排気バルブ71及び排気用真空ポンプ72(図2参照)を利用し、炉室111の炉内ガスを排気する工程である。
この排気工程は、焼鈍工程の前に実施されることが好ましい。
【0098】
具体的に、排気工程は、電磁バルブ61によってガス排気系16を開放した後、ガス供給系12から炉室111へ雰囲気ガスを供給することにより、開始される。
排気工程は、ガス排気系16から炉内ガスが十分に排気され、炉室111のガスが炉内ガスから雰囲気ガスに入れ替わった後、電磁バルブ61によってガス排気系16を閉塞することにより、終了される。
【0099】
また、排気工程は、真空排気系17を使用する場合、排気バルブ71によって真空排気系17を開放し、排気用真空ポンプ72を作動させることで、炉室111の炉内ガスを真空排気系17から真空吸引し、強制的に排気することで実行される。
ある程度、炉内ガスが真空吸引により排気された後、排気用真空ポンプ72を停止し、排気バルブ71によって真空排気系17を閉塞して、ガス供給系12から炉室111へ雰囲気ガスを供給し、炉室111を復圧することにより、排気工程が終了される。
【0100】
排気工程において、炉内ガスの排気は、炉室111の酸素濃度を測定することによって確認することができる。
詳しくは、排気工程では、炉室111の雰囲気を、被処理物Wの酸化が開始される前の状態に保ちながら、炉室111の酸素濃度を所定値以下とすることにより、炉室111を脱酸素状態にすることが可能となり、無脱炭・無浸炭の焼鈍を好適に実現することができる。
具体的に、排気工程は、炉室111内が400℃を超える雰囲気で被処理物Wの酸化が開始されるため、炉室111内の温度が400℃以下に保たれた状態で、炉室111の酸素濃度が0.1vol%以下になるまで実施されることが好ましい。酸素濃度は、より好ましくは、0.05vol%以下、さらに好ましくは0.01vol%以下である。
【0101】
(5)炉圧調整工程
本発明の焼鈍方法は、排気工程の後、炉室111の炉圧を調整する炉圧調整工程を備えることができる。
炉圧調整工程は、排気工程の後、図5に示した焼鈍炉10において、炉内ガスを排気するガス排気系16を閉じた状態とし、第1供給系21から炉室111へ雰囲気ガスとして窒素(N)ガスを供給することにより、炉室111の炉圧を調整する工程である。
つまり、炉圧調整工程は、排気工程の後、炉内ガスの排気によって減圧した炉室111を、無脱炭・無浸炭の焼鈍に適した炉内圧力に復圧する工程、ともいうことができる。
【0102】
(6)供給工程
本発明の焼鈍方法は、除去工程の後、雰囲気ガスを炉室111に供給する供給工程を備えることができる。
供給工程は、除去工程の後、図5に示した焼鈍炉10において、除去装置15で除去された一酸化炭素(CO)、二酸化炭素(CO)、酸素(O)、及び水(HO)の合計量と同量の雰囲気ガスを、ガス供給系12から炉室111に供給する工程である。
【0103】
つまり、供給工程は、除去工程の後、除去装置15で一酸化炭素(CO)等が除去された分、循環して炉室111に戻された雰囲気ガスは減量しており、その減量分に相当する雰囲気ガスを、ガス供給系12から供給し、補填する工程、ともいうことができる。
また、焼鈍炉10は、扉113等によって炉室111を完全に密閉することは困難であり、焼鈍中に雰囲気ガスが炉本体11の外部へ若干漏出する場合がある。このため、供給工程は、このような漏出分を補填する工程、ともいうことができる。
具体的に、雰囲気ガスの減量分や漏出分は、炉内圧力の低下等として炉圧調整器24によって検出され、この炉圧調整器24が、減量分や漏出分に相当する量を補填分として、第1供給系21から炉室111へ窒素(N)ガスを供給する。
【0104】
(7)再生工程
本発明の焼鈍方法は、除去装置15において、複数の吸着材51を再生処理する再生工程を備えることができる。
再生工程は、図5に示した焼鈍炉10において、第2除去装置15Bを、再生手段53を利用して再生処理する工程である。
この再生工程は、除去装置15が2基以上の場合、除去工程と略同時のタイミングで実施することができ、除去装置15が1基の場合、除去工程と前後するタイミングで実施することができる。
【0105】
具体的に、再生工程の手順は、まず、第1再生バルブ531により第1再生回路53Aを開放し、真空ポンプ54を作動させ、第1再生回路53Aを介した真空吸引を行うことにより、第2除去装置15Bの内部を減圧する。減圧された第2除去装置15Bの内部では、CO吸着用、O吸着用、CO吸着用、及びHO吸着用の各吸着材51から一酸化炭素(CO)、二酸化炭素(CO)、酸素(O)、及び水(HO)のガスがそれぞれ脱着され、その脱着された各ガスは、第1再生回路53Aを介して第2除去装置15Bの外部へ排気される。
次いで、第1再生バルブ531により第1再生回路53Aを閉塞し、真空ポンプ54の作動を停止した後、第3再生バルブ533により第2再生回路53Bを開放する。第2再生回路53Bを開放すると、この第2再生回路53Bを介して第2除去装置15Bの内部へ窒素(N)ガスが供給され、減圧されていた第2除去装置15Bの内部が復圧される。
そして、第2除去装置15Bの内部が復圧されることで、その内部に充填されている吸着材51が再生され、この状態で第3再生バルブ533により第2再生回路53Bを閉塞し、再生工程を終了する。
【0106】
なお、再生工程において、除去装置15(第1除去装置15A及び第2除去装置15B)の内部の復圧は、上述のように再生ガス(窒素(N)ガス)を複数の吸着材51に対し、下流側から上流側へ直列的な順送りで供給して行うことに限定されない。
例えば、除去装置15(第1除去装置15A及び第2除去装置15B)は、一酸化炭素(CO)用等の各吸着材51を収容する複数の器を備えている場合、第2再生回路53Bを複数に分岐して複数の器と接続することができる。
そして、除去装置15(第1除去装置15A及び第2除去装置15B)の各器へ再生ガス(窒素(N)ガス)を並列的に供給して、一酸化炭素(CO)用等の器毎に内部が復圧されてもよい。
この場合、除去装置15(第1除去装置15A及び第2除去装置15B)の復圧に要する時間の短縮化を図ることができる。
【0107】
また、再生工程において、除去装置15(第1除去装置15A及び第2除去装置15B)の内部の減圧は、上述のように真空吸引を複数の吸着材51に対し、上流側から下流側へ直列的な順送りで行うことに限定されない。
例えば、第1再生回路53Aを複数に分岐し、除去装置15(第1除去装置15A及び第2除去装置15B)の複数の器と接続することができる。
そして、除去装置15(第1除去装置15A及び第2除去装置15B)において、一酸化炭素(CO)用等の器毎に、第1再生回路53Aを介した真空吸引を並列的に行い、各器の内部を減圧して、各器に充填された吸着材51からCO等のガスを脱着することもできる。
この場合、各器の間を接続する回路は閉じておくことが好ましく、また、除去装置15(第1除去装置15A及び第2除去装置15B)の再生に要する時間の短縮化を図ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0108】
本発明は、金属部品、金属線材、金属工具などの金属材料からなり、焼鈍を必要とする被処理物について、広範な製品で利用することができ、特に無脱炭・無浸炭の焼鈍として有用である。
【符号の説明】
【0109】
10;焼鈍炉、
11;炉本体、111;炉室、112;開口部、113;扉、114;搬送装置、
12;ガス供給系、21;第1供給系、21A;第1供給バルブ、22;第2供給系、22A;第2供給バルブ、23;圧力計、24;炉圧調整器、
13;昇温手段、31;ヒータ装置、32;熱電対、33;温度調節計、
14;ガス循環系、41;循環往路、42、循環復路、43;クーラ、44;フィルタ、45;循環ファン、46;第1分析計、47;第2分析計、
15;除去装置、15A;第1除去装置、15B;第2除去装置、51;吸着材、
52;吸着回路、52A;第1吸着回路、52B;第2吸着回路、521;第1切換バルブ、522;第2切換バルブ、523;第3切換バルブ、524;第4切換バルブ、
53;再生手段、53A;第1再生回路、53B;第2再生回路、531;第1再生バルブ、532;第2再生バルブ、533;第3再生バルブ、534;第4再生バルブ、
54;真空ポンプ、
16;ガス排気系、61;電磁バルブ、
17;真空排気系、71;排気バルブ、72;排気用真空ポンプ、
W;被処理物。
図1
図2
図3
図4
図5