(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023005550
(43)【公開日】2023-01-18
(54)【発明の名称】引抜き成形装置および繊維強化ポリアミドの製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 70/52 20060101AFI20230111BHJP
B29C 70/20 20060101ALI20230111BHJP
B29C 70/54 20060101ALI20230111BHJP
B29K 77/00 20060101ALN20230111BHJP
B29K 105/08 20060101ALN20230111BHJP
【FI】
B29C70/52
B29C70/20
B29C70/54
B29K77:00
B29K105:08
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021107546
(22)【出願日】2021-06-29
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「革新的新構造材料等研究開発のうち熱可塑性CFRPの開発及び構造設計・応用加工技術の開発」に係る委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(71)【出願人】
【識別番号】899000057
【氏名又は名称】学校法人日本大学
(71)【出願人】
【識別番号】304011902
【氏名又は名称】福井ファイバーテック株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000534
【氏名又は名称】弁理士法人真明センチュリー
(72)【発明者】
【氏名】井沢 省吾
(72)【発明者】
【氏名】山中 淳彦
(72)【発明者】
【氏名】平林 明子
(72)【発明者】
【氏名】中島 浩二
【テーマコード(参考)】
4F205
【Fターム(参考)】
4F205AA29
4F205AD16
4F205AK01
4F205HA05
4F205HA27
4F205HA34
4F205HA37
4F205HB02
4F205HC02
4F205HK04
4F205HK23
4F205HK28
(57)【要約】
【課題】ラクタムモノマーを効率良く除去できる引抜き成形装置および繊維強化ポリアミドの製造方法を提供すること。
【解決手段】繊維材料Fにε-カプロラクタム(ラクタムモノマー)を含浸させ、繊維材料Fに含浸させたε-カプロラクタムを重合して繊維強化ポリアミドPを得る。得られた繊維強化ポリアミドPは、開放系で加熱されるので、未反応のε-カプロラクタムを繊維強化ポリアミドPから気化させ易くできる。これにより、熱水抽出によってε-カプロラクタムを除去する場合に比べ、繊維強化ポリアミドPからε-カプロラクタムを効率良く除去できる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維強化ポリアミドを引抜き成形によって製造する引抜き成形装置において、
繊維材料にラクタムモノマーを含浸させる含浸部と、
前記含浸部で前記繊維材料に含浸させた前記ラクタムモノマーを重合して繊維強化ポリアミドを得る重合部と、
前記重合部で得られた前記繊維強化ポリアミドを加熱する加熱部と、を備え、
前記加熱部は、前記繊維強化ポリアミドを開放系で加熱して未反応の前記ラクタムモノマーを気化させることを特徴とする引抜き成形装置。
【請求項2】
前記加熱部は、前記繊維強化ポリアミドのポリアミドが溶融する温度であって290℃以下の温度で前記繊維強化ポリアミドを加熱することを特徴とする請求項1記載の引抜き成形装置。
【請求項3】
前記加熱部は、空気よりも酸素濃度が低い低酸素濃度の雰囲気で前記繊維強化ポリアミドを加熱することを特徴とする請求項2記載の引抜き成形装置。
【請求項4】
前記加熱部は、前記繊維強化ポリアミドを加熱する空間が内部に形成される加熱炉を備え、
前記加熱炉は、前記加熱炉の内部に低酸素濃度の気体を供給する供給口と、その供給口から前記加熱炉の内部に供給された前記低酸素濃度の気体を前記加熱炉の外部に排気する排気口と、を備え、
前記繊維強化ポリアミドから気化した未反応の前記ラクタムモノマーを前記排気口から排気することを特徴とする請求項3記載の引抜き成形装置。
【請求項5】
前記低酸素濃度の気体は、過熱水蒸気であることを特徴とする請求項4記載の引抜き成形装置。
【請求項6】
前記排気口から排気される前記ラクタムモノマーを冷却し、その冷却によって液化した前記ラクタムモノマーを回収する回収部を備えることを特徴とする請求項4又は5に記載の引抜き成形装置。
【請求項7】
前記重合部は、前記ラクタムモノマーを重合して0.1mm以上0.5mm以下の厚みの前記繊維強化ポリアミドを得ることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の引抜き成形装置。
【請求項8】
前記加熱部で加熱された前記繊維強化ポリアミドを冷却する冷却部と、その冷却部で冷却された前記繊維強化ポリアミドを引抜く引抜き部と、を備えることを特徴とする請求項7記載の引抜き成形装置。
【請求項9】
前記繊維強化ポリアミドには、体積含有率で50%以上75%以下の前記繊維材料が含有されることを特徴とする請求項8記載の引抜き成形装置。
【請求項10】
繊維材料にラクタムモノマーを含浸させる含浸工程と、
前記含浸工程で前記繊維材料に含浸させた前記ラクタムモノマーを重合して繊維強化ポリアミドを得る重合工程と、
前記重合工程で得られた前記繊維強化ポリアミドを加熱する加熱工程と、を備え、
前記加熱工程では、開放系で前記繊維強化ポリアミドを加熱して未反応の前記ラクタムモノマーを気化させることを特徴とする繊維強化ポリアミドの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、引抜き成形装置および繊維強化ポリアミドの製造方法に関し、特に、ラクタムモノマーを効率良く除去できる引抜き成形装置および繊維強化ポリアミドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維材料に含浸させたモノマーを重合することにより、繊維強化プラスチック(FRP)を製造する技術が知られている。例えば、特許文献1には、ガラス繊維に含浸させたε-カプロラクタムを加熱、重合することによって繊維強化ポリアミドを製造する技術が記載されている。ε-カプロラクタム(モノマー)は、重合後のポリアミド(ポリマー)に比べて溶融した時の粘度が低いため、ガラス繊維の繊維間にε-カプロラクタムを効果的に含浸できる。
【0003】
この種の技術において、重合後の繊維強化ポリアミドに未反応の(重合しきらなかった)ε-カプロラクタムが残存するという課題がある。この課題に対し、水への溶解度が高いというε-カプロラクタムの性質を利用して、ε-カプロラクタムが溶融する程度の温度(例えば、80℃)で熱水抽出を行う技術が知られている。この熱水抽出は、例えば熱水中に繊維強化ポリアミドを浸漬させることにより、未反応のε-カプロラクタムを繊維強化ポリアミドから抽出(除去)するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-007266号公報(例えば、段落0031~0035、
図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した従来の熱水抽出では、十分な量のε-カプロラクタムを除去するためには長時間(例えば、厚みが0.6mmの繊維強化ポリアミドであれば72時間程度)を要する。即ち、ε-カプロラクタムなどのラクタムモノマーを繊維強化ポリアミドから効率良く除去できないという問題点があった。
【0006】
本発明は、上述した問題点を解決するためになされたものであり、ラクタムモノマーを効率良く除去できる引抜き成形装置および繊維強化ポリアミドの製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的を達成するために本発明の引抜き成形装置は、繊維強化ポリアミドを引抜き成形によって製造するものであり、繊維材料にラクタムモノマーを含浸させる含浸部と、前記含浸部で前記繊維材料に含浸させた前記ラクタムモノマーを重合して繊維強化ポリアミドを得る重合部と、前記重合部で得られた前記繊維強化ポリアミドを加熱する加熱部と、を備え、前記加熱部は、前記繊維強化ポリアミドを開放系で加熱して未反応の前記ラクタムモノマーを気化させる。
【0008】
本発明の繊維強化ポリアミドの製造方法は、繊維材料にラクタムモノマーを含浸させる含浸工程と、前記含浸工程で前記繊維材料に含浸させた前記ラクタムモノマーを重合して繊維強化ポリアミドを得る重合工程と、前記重合工程で得られた前記繊維強化ポリアミドを加熱する加熱工程と、を備え、前記加熱工程では、開放系で前記繊維強化ポリアミドを加熱して未反応の前記ラクタムモノマーを気化させる。
【発明の効果】
【0009】
請求項1記載の引抜き成形装置および請求項10記載の繊維強化ポリアミドの製造方法によれば、開放系で繊維強化ポリアミドを加熱するので、未反応のラクタムモノマーを繊維強化ポリアミドから気化させ易くできる。これにより、繊維強化ポリアミドからラクタムモノマーを効率良く除去できるという効果がある。
【0010】
請求項2記載の引抜き成形装置によれば、請求項1記載の引抜き成形装置の奏する効果に加え、次の効果を奏する。加熱部は、繊維強化ポリアミドのポリアミドが溶融する温度で加熱するので、例えばポリアミドが軟化する程度に加熱する場合に比べてラクタムモノマーをより効率良く除去できる。これは、ポリアミドが溶融することでポリアミド分子の分子運動が活発化し、未反応のラクタムモノマーの拡散速度が高くなるためだと考えられる。一方、加熱部は、290℃以下の温度で繊維強化ポリアミドを加熱するので、繊維強化ポリアミドの粘度低下による変形や、酸化による劣化を抑制できるという効果がある。
【0011】
請求項3記載の引抜き成形装置によれば、請求項2記載の引抜き成形装置の奏する効果に加え、次の効果を奏する。加熱部は、空気よりも酸素濃度が低い低酸素濃度の雰囲気で繊維強化ポリアミドを加熱するので、加熱による繊維強化ポリアミドの酸化を抑制できる。即ち、ポリアミドが溶融するような高温で加熱を行っても、繊維強化ポリアミドの酸化による劣化を抑制できるという効果がある。
【0012】
請求項4記載の引抜き成形装置によれば、請求項3記載の引抜き成形装置の奏する効果に加え、次の効果を奏する。加熱部は、繊維強化ポリアミドを加熱する空間が内部に形成される加熱炉を備え、加熱炉は、その内部に低酸素濃度の気体を供給する供給口を備えるので、加熱炉内に低酸素濃度の雰囲気を形成できる。供給口から加熱炉の内部に供給された低酸素濃度の気体が排気口から排気されるので、繊維強化ポリアミドから気化した未反応のラクタムモノマーを低酸素濃度の気体と共に排気口から排気できる。これにより、加熱炉内のラクタムモノマーの濃度が上昇することを抑制できるので、繊維強化ポリアミドからラクタムモノマーを効率良く除去できるという効果がある。
【0013】
請求項5記載の引抜き成形装置によれば、請求項4記載の引抜き成形装置の奏する効果に加え、次の効果を奏する。低酸素濃度の気体は、過熱水蒸気であるので、例えば加熱された不活性ガスを用いる場合に比べ、繊維強化ポリアミドが内部まで加熱され易くなる。これにより、繊維強化ポリアミドの表面だけでなく、内部に残存する未反応のラクタムモノマーも効率良く除去できるという効果がある。
【0014】
請求項6記載の引抜き成形装置によれば、請求項4又は5に記載の引抜き成形装置の奏する効果に加え、次の効果を奏する。排気口から排気されるラクタムモノマーを冷却し、その冷却によって液化したラクタムモノマーを回収する回収部を備えるので、加熱部で気化したラクタムモノマーが引抜き成形装置の外部に流出することを抑制できる。よって、引抜き成形装置の周囲の環境がラクタムモノマーで汚染されることを抑制できるという効果がある。
【0015】
請求項7記載の引抜き成形装置によれば、請求項1から6のいずれかに記載の引抜き成形装置の奏する効果に加え、次の効果を奏する。重合部は、ラクタムモノマーを重合して0.5mm以下の厚みの繊維強化ポリアミドを得るので、繊維強化ポリアミドが内部まで加熱され易くなる。これにより、未反応のラクタムモノマーが繊維強化ポリアミドから除去され易くなる。一方、重合部は、ラクタムモノマーを重合して0.1mm以上の厚みの繊維強化ポリアミドを得るので、繊維強化ポリアミドの成形時に割れや変形が生じることを抑制できる。よって、繊維強化ポリアミドを所望の形状に容易に成形できるという効果がある。
【0016】
請求項8記載の引抜き成形装置によれば、請求項7記載の引抜き成形装置の奏する効果に加え、次の効果を奏する。加熱部で加熱された繊維強化ポリアミドを冷却する冷却部と、その冷却部で冷却された繊維強化ポリアミドを引抜く引抜き部と、を備えるので、加熱部での加熱で軟化または溶融した繊維強化ポリアミドが引抜き部で引抜かれている(張力が付与されている)状態で、冷却部によって繊維強化ポリアミドを冷却できる。これにより、繊維強化ポリアミドの厚みが0.5mm以下の薄肉のものであっても、冷却後の繊維強化ポリアミドに反りなどの変形が生じることを抑制できる。よって、繊維強化ポリアミドを所望の形状に容易に成形できるという効果がある。
【0017】
請求項9記載の引抜き成形装置によれば、請求項8記載の引抜き成形装置の奏する効果に加え、次の効果を奏する。繊維強化ポリアミドには、体積含有率で50%以上の繊維材料が含有されるので、軟化または溶融したポリアミドの形状が繊維材料によって保持され易くなる。これにより、軟化または溶融状態の繊維強化ポリアミドが変形することを抑制できる。また、繊維強化ポリアミドには、体積含有率で75%以下の繊維材料が含有されるので、含浸部においてラクタムモノマーを繊維間に均一に含浸させることができる。よって、繊維強化ポリアミドを所望の形状に容易に成形できるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の一実施形態における引抜き成形装置の概要を示す模式図である。
【
図2】加熱部および回収部を模式的に示した斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の好ましい実施の形態について、添付図面を参照して説明する。まず、
図1を参照して、引抜き成形装置1の全体構成について説明する。
図1は、本発明の一実施形態における引抜き成形装置1の概要を示す模式図である。
【0020】
図1に示すように、引抜き成形装置1は、ε-カプロラクタムを含む成形材料Cを含浸部10で繊維材料F(本実施形態では、炭素繊維)に含浸させ、その繊維材料Fに含浸した成形材料Cを重合部20で重合させる引抜装置(繊維強化ポリアミド製造装置)である。重合部20での重合によって得られた繊維強化ポリアミドPは、加熱部30(ラクタムモノマーを除去する除去部)での加熱を経て冷却部40で冷却される。この冷却部40での冷却までの一連の工程は、引抜き部50で繊維強化ポリアミPが引抜かれながら連続的に行われる。引抜き部50で引抜かれた繊維強化ポリアミドPを、図示しないスリッターやロータリーカッター60で切断することにより、短冊状のプリプレグPrが製造される。
【0021】
スプールSに巻き付けられた繊維材料Fは、引抜き部50での引抜きによって含浸部10に引き込まれる。含浸部10は、繊維材料Fに含浸させるための材料を混合する混合タンク11,12と、それらの混合タンク11,12から供給される混合液を更に混合して成形材料Cとする混合部13と、その混合部13で混合された成形材料Cが供給される含浸槽14と、を備えている。
【0022】
混合タンク11は、加熱溶融させたε-カプロラクタムと活性剤(本実施形態では、ヘキサメチレンジイソシアネート)とを混合するタンクであり、混合タンク12は、加熱溶融させたε-カプロラクタムと重合触媒(本実施形態では、ε-カプロラクタム・ナトリウム塩)とを混合するタンクである。
【0023】
これらの混合タンク11,12で混合された混合液は、混合部13で更に混合されて成形材料Cとなり、この成形材料Cは、図示しないポンプによって含浸槽14に送液される。含浸槽14に貯留された成形材料Cに繊維材料Fが引き込まれることにより、ε-カプロラクタムを含む成形材料Cが繊維材料Fに含浸させられる(含浸工程)。
【0024】
成形材料C(ε-カプロラクタム)が含浸した繊維材料Fは、重合部20に引き込まれる。重合部20は、繊維材料Fに含浸した成形材料Cを重合させる金型を備えている。なお、この重合用の金型は、公知の構成を採用可能であるので詳細な説明を省略するが、公知の構成としては特開平07-096553号公報、特開2008-005572号公報、及び、特開2010-253733号公報などに記載される金型が例示される。
【0025】
重合部20の金型には加熱手段(例えば、ヒータ)が設けられており、この加熱手段による所定温度(例えば、130~200℃)での加熱により、繊維材料Fに含浸した成形材料Cが重合を開始する(重合工程)。
【0026】
なお、含浸部10及び重合部20は、図示しない筐体で覆われており、この筐体には、不活性ガス(例えば、乾燥窒素ガス)を供給・排出するための供給口および排出口が設けられている。よって、含浸部10における成形材料Cの含浸や、重合部20における成形材料Cの重合は、不活性ガスの雰囲気下(又は真空中)で行われる。
【0027】
繊維材料Fに含浸した成形材料C(ε-カプロラクタム)を重合部20で重合することにより、繊維材料Fで強化されたポリアミド(ナイロン6)、即ち、繊維強化ポリアミドPが得られる。繊維強化ポリアミドPには、重合部20で重合しきらなかった未反応のε-カプロラクタムが残存する。本実施形態では、この未反応のε-カプロラクタムが加熱部30で除去され、回収部70で回収されるが、これらの加熱部30及び回収部70の詳細構成について、
図2を参照して説明する。
図2は、加熱部30及び回収部70を模式的に示した斜視図である。
【0028】
図2に示すように、繊維強化ポリアミドPを加熱するための加熱部30は、直方体状の加熱炉31を備えている。加熱炉31の上流側(
図2の左側)および下流側(
図2の右側)の各々の端面には、シート状の繊維強化ポリアミドPの幅方向に延びる開口32が形成される。
【0029】
開口32は、繊維強化ポリアミドPの断面形状に対応する形状に形成されている。即ち、開口32は、維強化ポリアミドPの断面積よりも僅かに大きい(例えば、繊維強化ポリアミドPとの間の隙間が10mm以下となる)開口面積で開口しており、この開口32を通して繊維強化ポリアミドPが加熱炉31内を連続的に通過する。なお、本実施形態では、繊維強化ポリアミドPがシート状である場合を例示しているが、例えば複数本の帯状や棒状の繊維強化ポリアミドPを引抜き成形する場合には、それらの帯状や棒状の断面形状に対応した複数個の開口32を加熱炉31に形成すれば良い。
【0030】
加熱炉31の上流側および下流側の端面には、加熱炉31の内部を外部に繋ぐ供給口33及び排気口34が形成される。供給口33は、図示しない過熱水蒸気発生装置に供給管35を介して接続され、排気口34は、後述する回収部70に排気管36を介して接続される。よって、供給口33から供給される過熱水蒸気は、加熱炉31内を加熱しつつ排気口34から排気される。この過熱水蒸気により、加熱炉31の内部の温度は繊維強化ポリアミドP(ポリアミド)が溶融する程度の温度に加熱される。
【0031】
繊維強化ポリアミドP(ポリアミド)が溶融する温度(融点)は約225℃であり、この温度は、ε-カプロラクタムの融点(約70℃)を超える温度である。そして、加熱炉31では、重合部20のように重合金型に繊維強化ポリアミドPが接触しながら(閉鎖系で)加熱されるのではなく、加熱炉31の内部空間を通過する形で(他の部材に非接触の開放系で)繊維強化ポリアミドPが加熱される(加熱工程)。このように、重合部20での重合(加熱)の後、加熱炉31で再度加熱することにより、未反応のε-カプロラクタムを繊維強化ポリアミドPから気化(蒸発)させ易くできる。よって、例えば従来のような熱水抽出に比べ、繊維強化ポリアミドPからε-カプロラクタムを短時間で効率良く除去できる。
【0032】
なお、加熱炉31内の温度は、繊維強化ポリアミドPの温度が少なくともε-カプロラクタムの融点を超えるように設定すれば良いが、この温度は、繊維強化ポリアミドPが軟化する温度(例えば、200℃以上)に設定することが好ましく、繊維強化ポリアミドPが溶融する温度(例えば、260℃以上)に設定することがより好ましい。これは、繊維強化ポリアミドPの温度が上昇する(軟化または溶融する)につれてポリアミド分子の分子運動が活発化し、未反応のε-カプロラクタムの拡散速度が高くなる(気化し易くなる)ことが期待できるためである。更に、繊維強化ポリアミドPの温度がε-カプロラクタム(ラクタムモノマー)の沸点を超えるように(例えば、ε-カプロラクタムであれば、270℃以上)に設定することが最も好ましい。これにより、未反応のε-カプロラクタムが繊維強化ポリアミドPから気化し易くなる。
【0033】
この一方で、繊維強化ポリアミドPの温度が上昇し、例えば290℃を超えるとポリアミドの粘度が低下して変形し易くなる。また、本実施形態のように過熱水蒸気で加熱を行う場合には繊維強化ポリアミドPが酸化し難いため問題はないが、例えば空気中(酸素を含む雰囲気)で加熱を行う場合には、290℃を超えると酸化によって繊維強化ポリアミドPが劣化し易くなる。よって、加熱炉31では、繊維強化ポリアミドPが290℃以下となる温度で加熱することが好ましい。これにより、繊維強化ポリアミドPの粘度低下による変形や、酸化による劣化を抑制できる。
【0034】
即ち、加熱炉31では、繊維強化ポリアミドPが溶融する温度以上であって290℃以下となる温度で加熱を行うことが好ましい。これにより、繊維強化ポリアミドPから未反応のε-カプロラクタムを効率良く除去しつつ、繊維強化ポリアミドPの粘度低下による変形や酸化による劣化を抑制できる。
【0035】
このように、繊維強化ポリアミドPは、酸素を含む雰囲気での加熱では酸化劣化するため、本実施形態では、過熱水蒸気の気流下での加熱を採用している。これにより、空気よりも酸素濃度が低い低酸素濃度の雰囲気で繊維強化ポリアミドPを加熱できる。よって、融点以上の高温で繊維強化ポリアミドPを加熱する場合であっても、繊維強化ポリアミドPの酸化による劣化を効果的に抑制できる。
【0036】
ここで、本実施形態のように、加熱炉31を連続的に通過する繊維強化ポリアミドPを加熱する場合、繊維強化ポリアミドPから気化したε-カプロラクタムが加熱炉31内に充満する。これによって加熱炉31内のε-カプロラクタムの濃度が上昇すると、繊維強化ポリアミドPからε-カプロラクタムが気化し難くなる(所定の濃度を超えるとε-カプロラクタムが気化しなくなる)。
【0037】
これに対して本実施形態の加熱炉31は、その内部に過熱水蒸気を供給する供給口33と、その供給口33から供給された過熱水蒸気を加熱炉31の外部に排気する排気口34と、を備えるので、繊維強化ポリアミドPから気化した未反応のε-カプロラクタムを過熱水蒸気と共に排気口34から排気できる。これにより、加熱炉31内のε-カプロラクタムの濃度が上昇することを抑制しつつ、加熱炉31を連続的に通過する繊維強化ポリアミドPからε-カプロラクタムをより効率良く除去できる。
【0038】
また、過熱水蒸気で繊維強化ポリアミドPを加熱することにより、例えば加熱された窒素ガスを加熱炉31内に供給して加熱する場合に比べ、繊維強化ポリアミドPが内部まで加熱され易くなる。よって、繊維強化ポリアミドPからε-カプロラクタムをより効率良く除去できる。更に、加熱後の乾燥が早い点からも、過熱水蒸気による加熱が好ましい。
【0039】
更に、繊維強化ポリアミドPを過熱水蒸気で加熱することにより、例えば加熱された不活性ガス(例えば、窒素ガス)を用いる場合に比べ、繊維強化ポリアミドPが内部まで加熱され易くなる。これにより、繊維強化ポリアミドPの表面だけでなく、内部に残存する未反応のε-カプロラクタムも効率良く除去できる。
【0040】
なお、本実施形態では、加熱炉31内への過熱水蒸気の供給圧を利用して排気口34からε-カプロラクタム(過熱水蒸気)を排気しているが、吸引ポンプなどを利用して排気口34からε-カプロラクタムを吸引する構成でも良い。この構成によれば、開口32からε-カプロラクタムが外部に流出することを抑制できる。
【0041】
排気口34から排気されたε-カプロラクタム(過熱水蒸気)は、排気管36を通して回収部70に供給される。回収部70は、上端が閉塞される筒状(即ち下端部のみが開放する)ホッパーである。回収部70は、排気管36が接続される大径部71と、その大径部71の下端部から下方に延びるテーパ部72と、そのテーパ部72の下端から下方に延びる小径部73と、から構成される。大径部71及び小径部73は共に筒状であり、テーパ部72は大径部71から小径部73にかけて徐々に縮径している。
【0042】
排気管36から大径部71に供給されるε-カプロラクタム(過熱水蒸気)は、大径部71での冷却によって液化する。液化したε-カプロラクタムはテーパ部72に沿って小径部73側に滴下するため、小径部73の下端部の開口から液状のε-カプロラクタム(水溶液)を回収できる。これにより、加熱炉31で気化したε-カプロラクタムを回収部70で回収できるので、引抜き成形装置1の周囲の環境がε-カプロラクタムで汚染されることを抑制できる。
【0043】
加熱炉31での加熱によってε-カプロラクタムが除去された繊維強化ポリアミドPは、冷却部40(
図1参照)で冷却される。本実施形態では、冷却部40での冷却は自然冷却であるが、公知の冷却機構(例えば、冷却ローラや、加熱炉31のような流体での冷却を行うチャンバ)を使用しても良い。冷却部40での冷却によって繊維強化ポリアミドP(ポリアミド)が固化し、ε-カプロラクタムが除去された繊維強化ポリアミドPが得られる。
【0044】
ここで、加熱炉31での加熱によってε-カプロラクタムを除去する場合、繊維強化ポリアミドPの内部まで迅速に加熱を行うために繊維強化ポリアミドPの厚みが極力薄い方が良い。この一方で、繊維強化ポリアミドPが薄すぎると、重合部20で所望の形状(帯状)に成形(重合)することが困難になるため、重合部20では、繊維強化ポリアミドPを0.1mm以上0.5mm以下の厚みで重合することが好ましい。これにより、繊維強化ポリアミドPを内部まで加熱し易くしつつ、重合部20における繊維強化ポリアミドPの成形性を確保できる。
【0045】
また、本実施形態では、重合部20で重合された繊維強化ポリアミドPをシート状のまま加熱炉31で加熱しているが、例えばロータリーカッター60(
図1参照)で切断された短冊状のプリプレグPrを加熱する構成でも良い。しかしながら、そのような構成では、本実施形態のようにプリプレグPrが0.5mm以下の薄肉のものであると、加熱して冷却されるまでの間に反りなどの変形が生じ易くなる。更に、プリプレグPrを加熱する場合、例えば連続加熱を行う際にはコンベアに置く必要があるため、ポリアミドを溶融させるような加熱は実質的に不可能である。
【0046】
これに対して本実施形態では、加熱炉31で加熱された繊維強化ポリアミドPを冷却部40(
図1参照)で冷却し、その冷却部40で冷却された繊維強化ポリアミドPを引抜き部50で引抜く構成である。つまり、引抜き部50の引抜きによって繊維強化ポリアミドPに張力が付与された状態で、加熱炉31での加熱と冷却部40での冷却とを行う構成であるため、繊維強化ポリアミドPの厚みが0.5mm以下の薄肉のものであっても、冷却後の繊維強化ポリアミドP(プリプレグPr)に反りなどの変形が生じることを抑制できる。よって、繊維強化ポリアミドP(プリプレグPr)を所望の形状に容易に成形できる。
【0047】
更に、引抜き部50によって引抜かれている(繊維強化ポリアミドPに張力が付与されている)間に加熱を行う構成であるため、切断後のプリプレグPrを加熱する場合とは異なり、繊維強化ポリアミドPを浮かせた状態で加熱を行うことができる。つまり、繊維強化ポリアミドPをコンベア等に載置することなく、他の部材と非接触の状態で加熱できるので、繊維強化ポリアミドPが溶融するまで加熱できる。これにより、ε-カプロラクタムが気化し易くなるので、繊維強化ポリアミドPからε-カプロラクタムを効率良く除去できる。
【0048】
また、繊維強化ポリアミドPには、体積含有率で50%以上(本実施形態では、60%)の繊維材料Fが含有されるので、ポリアミドが溶融するまで加熱しても、繊維強化ポリアミドPの形状が繊維材料Fによって保持され易くなる。つまり、溶融したポリアミドが繊維材料Fの繊維間から流れ落ちることを抑制できるので、繊維強化ポリアミドFが変形することを抑制できる。また、体積含有率で75%以下の繊維材料Fを繊維強化ポリアミドPに含有させることにより、含浸部10(
図1参照)において、繊維間に成形材料C(ε-カプロラクタム)を均一に含浸させることができる。よって、繊維強化ポリアミドPを所望の形状に容易に成形できる。
【0049】
以上、上記実施形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の変形改良が可能であることは容易に推察できるものである。
【0050】
上記実施形態では、繊維材料Fの一例として炭素繊維を例示したが、必ずしもこれに限られるものではない。例えば、繊維材料Fは、ガラス繊維、金属繊維、アラミド繊維、炭化珪素繊維など、公知の繊維材料を使用できるし、それらの公知の繊維材料を組み合わせても良い。
【0051】
上記実施形態では、ラクタムモノマーの一例としてε-カプロラクタムを例示したが、必ずしもこれに限られるものではない。ラクタムモノマーの他の例としては、γ-ブチロラクタム、δ-バレロラクタム、ω-ラウロラクタム、ω-デカノラクタム、ω-ウンデカンラクタムなどが例示される。即ち、ラクタムモノマーは、これら例示したものに限定されるものではなく、重合によってポリアミドが得られるラクタムモノマーであれば、上記実施形態の技術思想を適用できる。
【0052】
上記実施形態では、ε-カプロラクタム(成形材料C)に混合する活性剤としてヘキサメチレンジイソシアネートを例示したが、必ずしもこれに限られるものではない。例えば、ε-カプロラクタム(成形材料C)に混合する活性剤は、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソシアネート及びブロックトイソシアネート、イソフタロイルビスカプロラクタム、テトラフタロイルビス-カプロラクタム、ジメチルフタレート-ポリエチレングリコールのようなエステル、ビス酸塩化物と組合せたポリオール又はポリジエンのプレポリマー、ホスゲンをカプロラクタムと反応させて得たカルボニルビスカプロラクタムなど、公知の活性剤を使用できる。
【0053】
上記実施形態では、ε-カプロラクタム(成形材料C)に混合する重合触媒としてε‐カプロラクタム・ナトリウム塩を例示したが、必ずしもこれに限られるものではない。例えば、ε-カプロラクタム(成形材料C)に混合する重合触媒は、ナトリウムカプロラクタメート、カリウムカプロラクタメート及びリチウムカプロラクタメート、臭化マグネシウムを付加したアルミニウム又はマグネシウムカプロラクタム、アルコキシドなど、公知の重合触媒を使用できる。
【0054】
上記実施形態では、加熱炉31に過熱水蒸気を供給することで(過熱水蒸気の気流下で)繊維強化ポリアミドPを加熱する場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。例えば、加熱された不活性ガス(窒素ガスやアルゴンガス)又は他の低酸素濃度の気体(酸素濃度が20vol%以下であることが好ましく、15vol%以下であることがより好ましい)の雰囲気や、真空中で繊維強化ポリアミドPを加熱しても良い。即ち、少なくとも空気よりも酸素濃度が低い低酸素濃度の雰囲気で繊維強化ポリアミドPを加熱することが好ましいが、酸素を含む雰囲気(例えば、空気中)で加熱しても良い。
【0055】
上記実施形態では、加熱炉31の供給口33から過熱水蒸気を供給して排気口34から排気する場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。例えば、供給口33及び排気口34を省略し、過熱水蒸気を上流側の開口32から供給して下流側の開口32から排気しても良い。
【0056】
また、繊維強化ポリアミドPの加熱は、加熱炉31のような繊維強化ポリアミドPを取り囲む炉内ではなく、例えば繊維強化ポリアミドPの上面、下面、及び、側面のいずれか(又は複数面)をヒータや加熱流体で加熱し、それ以外の面を開放させる構成でも良い。
【0057】
また、繊維強化ポリアミドPを引抜き部50よりも前の工程で加熱を行うのではなく、繊維強化ポリアミドPを切断してプリプレグPrの状態にしてから加熱を行っても良い。プリプレグPrを加熱する場合、スチールベルトを有するコンベアを用いて連続的に加熱する構成や、工業用のオーブンなどでバッチ式に加熱する構成が例示される(これらの構成による加熱も、プリプレグPrの少なくとも一部が他の部材と非接触となる「開放系」での加熱と定義できる)。いずれの構成においても、上記実施形態のように低酸素濃度の雰囲気で加熱する構成や、気化したε-カプロラクタムを排気する構成が好ましい。
【0058】
上記実施形態では、排気口34から排気されるε-カプロラクタムを回収部70で冷却・液化して回収する場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。例えば、ε-カプロラクタムを固化させて回収する構成でも良いし、回収部70を省略する構成でも良い。
【0059】
上記実施形態では、繊維強化ポリアミドPを0.1mm以上0.5mm以下の厚みで重合する場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。例えば、0.1mm未満または0.5mmを超える厚みで繊維強化ポリアミドPを重合しても良い。
【0060】
上記実施形態では、繊維強化ポリアミドPに体積含有率で50%以上75%以下の繊維材料Fが含有される場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。例えば、50%以上未満または75%を超える体積含有率で繊維材料Fを繊維強化ポリアミドPに含有させても良い。
【符号の説明】
【0061】
1 引抜き成形装置
10 含浸部
20 重合部
30 加熱部
31 加熱炉
33 供給口
34 排気口
40 冷却部
50 引抜き部
70 回収部
F 繊維材料
P 繊維強化ポリアミド