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特開2023-55537車両部品の温室効果ガス排出量の算出装置、車両部品の温室効果ガス排出量の算出方法、及びプログラム
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  • 特開-車両部品の温室効果ガス排出量の算出装置、車両部品の温室効果ガス排出量の算出方法、及びプログラム 図1A
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023055537
(43)【公開日】2023-04-18
(54)【発明の名称】車両部品の温室効果ガス排出量の算出装置、車両部品の温室効果ガス排出量の算出方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G06Q 50/26 20120101AFI20230411BHJP
【FI】
G06Q50/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021165001
(22)【出願日】2021-10-06
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100187702
【弁理士】
【氏名又は名称】福地 律生
(74)【代理人】
【識別番号】100162204
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 学
(74)【代理人】
【識別番号】100195213
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 健治
(74)【代理人】
【識別番号】100120499
【弁理士】
【氏名又は名称】平山 淳
(72)【発明者】
【氏名】久保 雅寛
(72)【発明者】
【氏名】樋渡 俊二
【テーマコード(参考)】
5L049
【Fターム(参考)】
5L049CC35
(57)【要約】      (修正有)
【課題】自動車を構成する個々の部品に対応する温室効果ガス量を算出する車両部品の温室効果ガス排出量の算出装置、車両部品の温室効果ガス排出量の算出方法及びプログラムを提供する。
【解決手段】温室効果ガス排出量の算出システムにおいて、プロセッサ112は、車両が製造される際の温室効果ガスの排出量である第1排出量を算出する第1排出量算出部112bと、車両が予定走行距離を走行した際の温室効果ガスの排出量である第2排出量を算出する第2排出量算出部112cと、車両を構成する部品の材料が素材として再利用される際のリサイクル効果量を算出するリサイクル効果量算出部112dと、第1排出量、第2排出量、及びリサイクル効果量を合算して車両の生涯における温室効果ガスの排出量である生涯排出量を算出する生涯排出量算出部112eと、対象部品の温室効果ガス排出量を算出する第3排出量算出部112fと、を備える。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両を構成する部品の材料および質量と、予め定められた材料毎の製造時の単位質量当たりの温室効果ガス排出量とに基づいて、前記車両が製造される際の温室効果ガスの排出量である第1排出量を算出する第1排出量算出部と、
前記車両の諸元に基づいて予め定められた走行時のエネルギー源の消費量と、前記車両の生涯の予定走行距離と、エネルギー源の生産時及び消費時の単位量当たりの温室効果ガス排出量とに基づいて、前記車両が前記予定走行距離を走行した際の温室効果ガスの排出量である第2排出量を算出する第2排出量算出部と、
前記車両を構成する部品の材料および質量と、予め定められた材料毎の再利用時の単位質量当たりのリサイクル効果量とに基づいて、前記車両を構成する部品の材料が素材として再利用される際のリサイクル効果量を算出するリサイクル効果量算出部と、
前記第1排出量、前記第2排出量、及び前記リサイクル効果量を合算して前記車両の生涯における温室効果ガスの排出量である生涯排出量を算出する生涯排出量算出部と、
前記車両が任意の第1車両である場合に算出された前記生涯排出量から、前記車両が前記第1車両から特定の対象部品を除いた第2車両である場合に算出された前記生涯排出量を減算することで、前記対象部品の温室効果ガス排出量を算出する第3排出量算出部と、
を備える、車両部品の温室効果ガス排出量の算出装置。
【請求項2】
前記対象部品の温室効果ガス排出量に関連するパラメータと、前記対象部品の単位質量当たりの温室効果ガス排出量との関係を表す関数を取得し、前記パラメータが変更されたときの前記対象部品の温室効果ガス排出量を算出するパラメータ影響分析部を更に備える、請求項1に記載の車両部品の温室効果ガス排出量の算出装置。
【請求項3】
前記パラメータ影響分析部は、前記対象部品の質量と前記対象部品の温室効果ガス排出量との相関関係に基づいて、前記材料毎の単位質量当たりの温室効果ガス排出量と前記対象部品の単位質量当たりの温室効果ガス排出量との関係を表す線形関数を取得し、前記線形関数に基づいて、前記材料毎の単位質量当たりの温室効果ガス排出量が変更されたときの前記対象部品の温室効果ガス排出量を算出する、請求項2に記載の車両部品の温室効果ガス排出量の算出装置。
【請求項4】
前記第1排出量算出部は、更に、前記材料から前記部品を製造する際の処理工程毎に予め定められた温室効果ガス排出量、または前記部品を組み立てる際の組み立て工程毎に予め定められた温室効果ガス排出量に基づいて、前記第1排出量を算出する、請求項1~3のいずれか1項に記載の車両部品の温室効果ガス排出量の算出装置。
【請求項5】
車両を構成する部品の材料および質量と、予め定められた材料毎の製造時の単位質量当たりの温室効果ガス排出量とに基づいて、前記車両が製造される際の温室効果ガスの排出量である第1排出量を算出するステップと、
前記車両の諸元に基づいて予め定められた走行時のエネルギー源の消費量と、前記車両の生涯の予定走行距離と、エネルギー源の生産時及び消費時の単位量当たりの温室効果ガス排出量とに基づいて、前記車両が前記予定走行距離を走行した際の温室効果ガスの排出量である第2排出量を算出するステップと、
前記車両を構成する部品の材料および質量と、予め定められた材料毎の再利用時の単位質量当たりのリサイクル効果量とに基づいて、前記車両を構成する部品の材料が素材として再利用される際のリサイクル効果量を算出するステップと、
前記第1排出量、前記第2排出量、及び前記リサイクル効果量を合算して前記車両の生涯における温室効果ガスの排出量である生涯排出量を算出するステップと、
前記車両が任意の第1車両である場合に算出された前記生涯排出量から、前記車両が前記第1車両から特定の対象部品を除いた第2車両である場合に算出された前記生涯排出量を減算することで、前記対象部品の温室効果ガス排出量を算出するステップと、
を備える、車両部品の温室効果ガス排出量の算出方法。
【請求項6】
車両を構成する部品の材料および質量と、予め定められた材料毎の製造時の単位質量当たりの温室効果ガス排出量とに基づいて、前記車両が製造される際の温室効果ガスの排出量である第1排出量を算出する手段、
前記車両の諸元に基づいて予め定められた走行時のエネルギー源の消費量と、前記車両の生涯の予定走行距離と、エネルギー源の生産時及び消費時の単位量当たりの温室効果ガス排出量とに基づいて、前記車両が前記予定走行距離を走行した際の温室効果ガスの排出量である第2排出量を算出する手段、
前記車両を構成する部品の材料および質量と、予め定められた材料毎の再利用時の単位質量当たりのリサイクル効果量とに基づいて、前記車両を構成する部品の材料が素材として再利用される際のリサイクル効果量を算出する手段、
前記第1排出量、前記第2排出量、及び前記リサイクル効果量を合算して前記車両の生涯における温室効果ガスの排出量である生涯排出量を算出する手段、
前記車両が任意の第1車両である場合に算出された前記生涯排出量から、前記車両が前記第1車両から特定の対象部品を除いた第2車両である場合に算出された前記生涯排出量を減算することで、前記対象部品の温室効果ガス排出量を算出する手段、
としてコンピュータを機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両部品の温室効果ガス排出量の算出装置、車両部品の温室効果ガス排出量の算出方法、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近時においては、地球温暖化防止の観点から、温室室効果ガスの排出を抑制することがより重要となっている。このような状況の中、従来の内燃機関を動力とする自動車よりも二酸化炭素(CO)をはじめとする温室効果ガスの排出が抑えられた電気自動車、ハイブリッド自動車などの出現により、走行時に自動車から排出される温室効果ガス量を削減することが期待されている。また、自動車を構成する素材としてアルミニウムやカーボンなど軽量化に優位な材料を採用することで、走行時に自動車から排出される温室効果ガス量を削減することが期待されている。
【0003】
例えば、下記の非特許文献1には、部品への燃料の割り当てを精緻に行うことで,走行時のCO量を部品ごとに算出することが記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】一般社団法人 日本自動車部品工業会JAPIA LCI算出/製品環境指標ガイドライン(https://www.japia.or.jp/work/kankyou/lciguideline/)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
自動車のライフサイクルを考慮すると、地球環境下に排出される温室効果ガスの総量を削減するためには、上述したような車両の使用時(走行時)のみに着目した温室効果ガスの削減では不十分であり、「1.自動車を構成する材料の製造時に発生する温室効果ガス」、「2.自動車の製造時に発生する温室効果ガス」、「3.自動車の使用時に発生する温室効果ガス」、「4.自動車の廃棄時に発生する温室効果ガス」、を含めたトータルでの温室効果ガス量を削減する必要がある。
【0006】
自動車の設計時において、トータルでの温室効果ガス量を削減できる自動車とすることが求められる。このためには、自動車全体のみならず、自動車を構成する個々の部品毎に対応する温室効果ガス量を算出し、部品の材料または重量等を最適化することにより、温室効果ガス量を削減することが望ましい。
【0007】
しかし、上記非特許文献1に記載された手法では、部品への燃料の割り当てを精緻に行うために複雑な計算が必要であり、またリサイクル時の温室効果ガス排出量については想定していないという問題がある。このため、部品の素材または重量等を最適化することにより、車両のライフサイクルでの温室効果ガス量を削減することは困難である。
【0008】
そこで、本発明は、自動車を構成する個々の部品に対応する温室効果ガス量を算出し、部品の素材または重量等を最適化が可能な車両部品の温室効果ガス排出量の算出装置、車両部品の温室効果ガス排出量の算出方法、及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の要旨は以下のとおりである。
(1) 車両を構成する部品の材料および質量と、予め定められた材料毎の製造時の単位質量当たりの温室効果ガス排出量とに基づいて、前記車両が製造される際の温室効果ガスの排出量である第1排出量を算出する第1排出量算出部と、
前記車両の諸元に基づいて予め定められた走行時のエネルギー源の消費量と、前記車両の生涯の予定走行距離と、エネルギー源の生産時及び消費時の単位量当たりの温室効果ガス排出量とに基づいて、前記車両が予定走行距離を走行した際の温室効果ガスの排出量である第2排出量を算出する第2排出量算出部と、
前記車両を構成する部品の材料および質量と、予め定められた材料毎の再利用時の単位質量当たりのリサイクル効果量とに基づいて、前記車両を構成する部品の材料が素材として再利用される際のリサイクル効果量を算出するリサイクル効果量算出部と、
前記第1排出量、前記第2排出量、及び前記リサイクル効果量を合算して前記車両の生涯における温室効果ガスの排出量である生涯排出量を算出する生涯排出量算出部と、
前記車両が任意の第1車両である場合に算出された前記生涯排出量から、前記車両が前記第1車両から特定の対象部品を除いた第2車両である場合に算出された前記生涯排出量を減算することで、前記対象部品の温室効果ガス排出量を算出する第3排出量算出部と、
を備える、車両部品の温室効果ガス排出量の算出装置。
【0010】
(2) 前記対象部品の温室効果ガス排出量に関連するパラメータと、前記対象部品の単位質量当たりの温室効果ガス排出量との関係を表す関数を取得し、前記パラメータが変更されたときの前記対象部品の温室効果ガス排出量を算出するパラメータ影響分析部を更に備える、上記(1)に記載の車両部品の温室効果ガス排出量の算出装置。
【0011】
(3) 前記パラメータ影響分析部は、前記対象部品の質量と前記対象部品の温室効果ガス排出量との相関関係に基づいて、前記材料毎の単位質量当たりの温室効果ガス排出量と前記対象部品の単位質量当たりの温室効果ガス排出量との関係を表す線形関数を取得し、前記線形関数に基づいて、前記材料毎の単位質量当たりの温室効果ガス排出量が変更されたときの前記対象部品の温室効果ガス排出量を算出する、上記(2)に記載の車両部品の温室効果ガス排出量の算出装置。
【0012】
(4) 前記第1排出量算出部は、更に、前記材料から前記部品を製造する際の処理工程毎に予め定められた温室効果ガス排出量、または前記部品を組み立てる際の組み立て工程毎に予め定められた温室効果ガス排出量に基づいて、前記第1排出量を算出する、上記(1)~(3)のいずれかに記載の車両部品の温室効果ガス排出量の算出装置。
【0013】
(5) 車両を構成する部品の材料および質量と、予め定められた材料毎の製造時の単位質量当たりの温室効果ガス排出量とに基づいて、前記車両が製造される際の温室効果ガスの排出量である第1排出量を算出するステップと、
前記車両の諸元に基づいて予め定められた走行時のエネルギー源の消費量と、前記車両の生涯の予定走行距離と、エネルギー源の生産時及び消費時の単位量当たりの温室効果ガス排出量とに基づいて、前記車両が前記予定走行距離を走行した際の温室効果ガスの排出量である第2排出量を算出するステップと、
前記車両を構成する部品の材料および質量と、予め定められた材料毎の再利用時の単位質量当たりのリサイクル効果量とに基づいて、前記車両を構成する部品の材料が素材として再利用される際のリサイクル効果量を算出するステップと、
前記第1排出量、前記第2排出量、及び前記リサイクル効果量を合算して前記車両の生涯における温室効果ガスの排出量である生涯排出量を算出するステップと、
前記車両が任意の第1車両である場合に算出された前記生涯排出量から、前記車両が前記第1車両から特定の対象部品を除いた第2車両である場合に算出された前記生涯排出量を減算することで、前記対象部品の温室効果ガス排出量を算出するステップと、
を備える、車両部品の温室効果ガス排出量の算出方法。
【0014】
(6) 車両を構成する部品の材料および質量と、予め定められた材料毎の製造時の単位質量当たりの温室効果ガス排出量とに基づいて、前記車両が製造される際の温室効果ガスの排出量である第1排出量を算出する手段、
前記車両の諸元に基づいて予め定められた走行時のエネルギー源の消費量と、前記車両の生涯の予定走行距離と、エネルギー源の生産時及び消費時の単位量当たりの温室効果ガス排出量とに基づいて、前記車両が前記予定走行距離を走行した際の温室効果ガスの排出量である第2排出量を算出する手段、
前記車両を構成する部品の材料および質量と、予め定められた材料毎の再利用時の単位質量当たりのリサイクル効果量とに基づいて、前記車両を構成する部品の材料素材として再利用される際のリサイクル効果量を算出する手段、
前記第1排出量、前記第2排出量、及び前記リサイクル効果量を合算して前記車両の生涯における温室効果ガスの排出量である生涯排出量を算出する手段、
前記車両が任意の第1車両である場合に算出された前記生涯排出量から、前記車両が前記第1車両から特定の対象部品を除いた第2車両である場合に算出された前記生涯排出量を減算することで、前記対象部品の温室効果ガス排出量を算出する手段、
としてコンピュータを機能させるためのプログラム。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、自動車を構成する個々の部品に対応する温室効果ガス量を算出することが可能となり、温室効果ガス量を低減する最適な素材構成を具体化できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1A】本実施形態に係る車両部品の温室効果ガス排出量の算出の基本的な考え方を示す図である。
図1B】温室効果ガス排出量を算出する対象部品が自動車のバンパーである場合を示す模式図である。
図2】本実施形態に係る温室効果ガス排出量の算出システムの構成を示す模式図である。
図3】制御装置のプロセッサの機能ブロックを示す模式図である。
図4】材料および質量の異なる複数の対象部品について、製造時の温室効果ガスの排出量と部品の質量との関係を示す特性図である。
図5】使用時の温室効果ガスの排出量と部品の質量との関係を示す特性図である。
図6】材料および質量の異なる複数の対象部品について、リサイクル時の温室効果ガスの排出量と部品の質量との関係を示す特性図である。
図7】ライフサイクル全体での鋼板部品の温室効果ガス排出量とアルミ板部品の温室効果ガス排出量のGWP値に対する変化を示す特性図である。
図8】パラメータ影響分析部がパラメータを変更した場合の影響を分析するにあたり、変更可能なパラメータと、計算結果が表されたテーブルを示す模式図である。
図9】プロセッサが行う処理を示すフローチャートである。
図10】既存の車両1と、既存の車両1に対して引張強度1180MPa級以上の超ハイテン材を車体に多用した車両2と、車両2の車体の材料をアルミニウムに置換した車両3について、車両全体の温室効果ガス排出量と、対象部品の温室効果ガス排出量とを比較して示す特性図である。
図11図10に対し、車体による温室効果ガス排出量の削減への寄与分を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
自動車の温室効果ガス排出量は、走行時(使用時)だけでなく、製造時やリサイクル時も含めた自動車のライフサイクル全体で考える必要がある。本発明者らは、自動車のライフサイクル全体での温室効果ガス排出量を評価することにより、超ハイテン材の活用による車体軽量化によって、製造時、走行時、およびリサイクル時を含めた自動車のライフサイクル(生涯)での温室効果ガス排出量の低減の両立に有効であることの知見を得た。
【0018】
更に、本発明者らは、この知見が、自動車全体のみならず、自動車を構成する個々の部品にも適用可能であると想定し、「温室効果ガス排出量の削減」を1つの切り口として、温室効果ガス排出量の定量化ツール開発を鋭意検討し、図1Aに示す考え方で自動車の車体(モノコックボディ)の温室効果ガス排出量の算出方法を想到するに至った。また、本発明者らは、図1Aに示す観点での車体の温室効果ガス排出量算出の考え方を、任意の自動車部品へ展開し、図1Bに示す考え方で自動車部品の温室効果ガス排出量の算出方法を想到するに至った。さらに、材料による比較を容易にできるように、材料毎の重量と温室効果ガスの関係から温室効果ガス排出量を簡易的に算出する手法を検討した。なお、温室効果ガス排出量は、具体的には二酸化炭素当量(CO当量:単位は[kgCOeq])であり、CO等価質量で表される。CO等価質量は、CO(地球温暖化係数:1)と、CO以外のガス、例えば、メタンCH(単位質量あたりの温室効果がCOの25倍:地球温暖化係数25)、一酸化二窒素NO(単位質量あたりの温室効果がCOの298倍:地球温暖化係数298)、を地球温暖化係数で重みづけして、CO換算した質量を計算したものである。
【0019】
図1Aは、本実施形態に係る車両部品の温室効果ガス排出量の算出の基本的な考え方を示す図である。なお、以下では温室効果ガスとして二酸化炭素(CO)を例示する。図1Aは、温室効果ガス排出量を算出する対象部品が自動車の車体である場合を示している。図1Aに示すように、ライフサイクルにおける車両10の全体の温室効果ガス排出量が算出される。また、車両10のうち、車体14を除いた仮想車両12のライフサイクルにおける温室効果ガス排出量が算出される。そして、車両10の全体の温室効果ガス排出量から、車体14を除いた仮想車両12の温室効果ガス排出量を減算することで、車体14のライフサイクルにおける温室効果ガス排出量が算出される。
【0020】
また、図1Bは、温室効果ガス排出量を算出する対象部品が自動車のバンパー16である場合を示す模式図である。図1Bに示すように、ライフサイクルにおける車両10の全体の温室効果ガス排出量が算出される。また、車両10のうち、バンパー16を除いた仮想車両18のライフサイクルにおける温室効果ガス排出量が算出される。そして、車両10の全体の温室効果ガス排出量から、バンパー16を除いた仮想車両18の温室効果ガス排出量を減算することで、バンパー16のライフサイクルにおける温室効果ガス排出量が算出される。
【0021】
温室効果ガスの生涯排出量の計算には、ワールド・オート・スチール(WorldAutoSteel (WAS))が作成した公開されたツール(Life Cycle Energy and Greenhouse Gas (GHG) Assessments of Automotive Material Substitution)を使用した。WASは、ワールド・スチール・アソシエーション(世界鉄鋼連盟)の自動車分科会で、世界の鉄鋼メーカー17社で構成される。このツールにより、自動車の製造時、使用時(走行時)、リサイクル時の温室効果ガスの排出量が算出可能である。このツールにおいては、リサイクル効果を考慮する前提となっており、蓄積されるスクラップ量は一定という仮定が用いられている。なお、WASのツールは一例であり、温室効果ガスの生涯排出量は、他の計算プログラムを用いて算出してもよい。
【0022】
図2は、本実施形態に係る温室効果ガス排出量の算出システム100の構成を示す模式図である。このシステム100は、制御装置110と、入力部120と、ストレージ装置130と、出力部140と、を有している。
【0023】
制御装置110は、プロセッサ112と、メモリ114と、通信インターフェース116とを有する。プロセッサ112は、1個または複数個のCPU(Central Processing Unit)及びその周辺回路を有する。プロセッサ112は、論理演算ユニット、数値演算ユニットあるいはグラフィック処理ユニットといった他の演算回路をさらに有していてもよい。メモリ114は、例えば、揮発性の半導体メモリ及び不揮発性の半導体メモリを有する。通信インターフェース116は、制御装置110をシステム100内のネットワーク、またはシステム100の外部の通信ネットワークに接続するためのインターフェース回路を有する。
【0024】
入力部120は、ユーザの操作により車両に関わる各種情報が入力される構成要素であり、具体的には、マウス、キーボード、タッチセンサなどのユーザインタフェースを含む。
【0025】
ストレージ装置130は、例えば、ハードディスク装置または光記録媒体及びそのアクセス装置を有する。なお、ストレージ装置130は、プロセッサ112上で実行される処理を実行するためのコンピュータプログラムを記憶してもよい。
【0026】
出力部140は、システム100による算出結果を出力する構成要素であり、具体的にはLCD等の表示装置から構成される。
【0027】
図3は、制御装置110のプロセッサ112の機能ブロックを示す模式図である。制御装置110のプロセッサ112は、車両部品の温室効果ガス排出量の算出装置の一態様であり、取得部112aと、第1排出量算出部112bと、第2排出量算出部112cと、リサイクル効果量算出部112dと、生涯排出量算出部112eと、第3排出量算出部112fと、パラメータ影響分析部112gと、計算結果出力部112hと、を有している。プロセッサ112が有するこれらの各部は、例えば、プロセッサ112上で動作するコンピュータプログラムにより実現される機能モジュールである。つまり、プロセッサ112が有するこれらの各部は、プロセッサ112とこれを機能させるためのプログラム(ソフトウェア)から構成される。また、そのプログラムは、制御装置110が備えるメモリ114または外部から接続される記録媒体に記録されていてもよい。あるいは、プロセッサ112が有するこれらの各部は、プロセッサ112に設けられる専用の演算回路であってもよい。
【0028】
プロセッサ112の取得部112aは、入力部120に入力された各種情報を入力部120から取得する。
【0029】
プロセッサ112の第1排出量算出部112bは、車両を構成する部品の材料および質量と、予め定められた材料毎の製造時の単位質量当たりの温室効果ガス排出量とに基づいて、車両が製造される際の温室効果ガスの排出量である第1排出量を算出する。
【0030】
車両を構成する部品の材料および質量は、車両を構成する個々の部品毎に、ユーザにより入力部120から入力される。あるいは、車両を構成する部品の材料および質量は、車両毎(車種毎)に予めメモリ114またはストレージ装置130に記憶されていてもよい。WASのツールを利用する場合、特定の車両については、車両を構成する部品の材料および質量が予めデフォルト値として設定されているので、これらの値を使用してもよい。
【0031】
例えば、車両を構成する部品の材料として、鋼板、棒線材、鋳鉄、アルミニウム板(AL板)、アルミニウム押出材(AL押出材)、アルミニウム鋳物(AL鋳物)、CFRP、樹脂等が挙げられる。第1排出量算出部112bは、車両を構成する部品のこれらの材料毎の質量と、材料毎の製造時の単位質量当たりの温室効果ガス排出量とに基づいて、第1排出量を算出する。
【0032】
材料毎の製造時の単位質量当たりの温室効果ガス排出量は、材料毎の地球温暖化係数(GWP)であり、1kgの材料を製造する際に排出される温室効果ガスの量(kg)を材料毎に定めた値である。例えば、材料が鉄(転炉スラグ)の場合、GWPは2.08とされる。また、例えばアルミニウムのインゴットの場合、GWPは10.70とされる。これらの材料毎の製造時のGWPは、ユーザにより入力部120から入力されるか、あるいは、予めメモリ114またはストレージ装置130に記憶されていてもよい。
【0033】
車両を構成する部品の材料および質量に基づいて、材料毎の製造量は製造歩留まりに基づいて求まる。例えば、車両の炭素鋼の板金部品の質量が605kgであり、製造歩留まりが55%の場合、車両を製造するために必要な炭素鋼の質量は605/0.55=1100[kg]である。したがって、第1排出量算出部112bは、より具体的には、車両を構成する部品の材料毎の質量と製造歩留まりに基づいて、材料毎の製造量を求め、これに単位質量当たりの温室効果ガス排出量を乗算することで、第1排出量を算出する。材料毎の製造歩留まりは、ユーザにより入力部120から入力されるか、あるいは、予めメモリ114またはストレージ装置130に記憶されていてもよい。材料毎の製造歩留まりは、地域(国)に応じて異なる値であってもよい。
【0034】
第1排出量算出部112bは、車両を構成する部品の材料毎に、その製造量とGWPを乗算することで第1排出量を算出する。部品が複数の材料から構成される場合、その部品の材料毎の質量の内訳とそれぞれの材料のGWPとに基づいて第1排出量が算出される。
【0035】
また、第1排出量算出部112bは、更に、材料から部品を製造(加工)する際の処理工程毎に予め定められた温室効果ガス排出量、または部品を組み立てる際の組み立て工程毎に予め定められた温室効果ガス排出量に基づいて、第1排出量を算出する。例えば、鋼鋳物を製造する処理工程の温室効果ガス排出量は、部品1kg当たり0.14kgとされる。また、アルミニウム押出材を製造する処理工程の温室効果ガス排出量は、部品1kg当たり0.73kgとされる。
【0036】
プロセッサ112の第2排出量算出部112cは、車両の諸元に基づいて予め定められた走行時のエネルギー源の消費量と、車両の生涯の予定走行距離と、エネルギー源の生産時及び消費時の単位量当たりの温室効果ガス排出量とに基づいて、車両が予定走行距離を走行した際の温室効果ガスの排出量である第2排出量を算出する。
【0037】
走行時のエネルギー源の消費量は、車両の車格(車種)毎に定められた、車両が予定走行距離を走行するのに消費するエネルギー量である。車両の予定走行距離は、例えば予め100000kmに設定されており、予めメモリ114に記憶されている。エネルギー源の消費量は、車格(コンパクトカー、ミッドサイズ、SUV等)、車重、駆動方式(エンジン車、ハイブリッド車、電気自動車等)、およびエネルギー源の種別(ガソリン、ディーゼル、水素、電気等、あるいはこれらの組み合わせ)に応じて定められている。
【0038】
例えば、車格がコンパクトカーであり、車重が1260kg程度、駆動方式がエンジン車、エネルギー源の種別がガソリンである場合、走行時のエネルギー源の消費量は167.6(MJ/100km)とされている。これを基準として、同じ車格で車重が変更されると、車格等に応じて予め定められた、車重が単位質量だけ変化した場合のエネルギー消費量の変化量に基づいて、基準のエネルギー源の消費量から変化量を加減算することで、変更後の車重の車両についての走行時のエネルギー源の消費量が算出される。例えば、車格がコンパクトカー、駆動方式がエンジン車、エネルギー源の種別がガソリンの場合、車重が単位質量だけ変化した場合のエネルギー消費量の変化量は、7.8MJ/100km・100kg)とされている。基本的には、車格が大きいほど、また車重が重いほど、エネルギー源の消費量は大きくなる。駆動方式については、上述した3つの例の中では、電気自動車のエネルギー源の消費量が最も少なく、ハイブリッド車、エンジン車の順に大きくなる。車格、駆動方式、エネルギーの種別に応じたエネルギー源の消費量、および、車格等に応じて予め定められた、車重が単位質量だけ変化した場合のエネルギー消費量の変化量は、予めメモリ114またはストレージ30に記憶されている。
【0039】
エネルギー源の生産時及び消費時の単位量当たりの温室効果ガス排出量は、予めメモリ114またはストレージ30に記憶されている。例えば、エネルギーの種別がガソリンの場合、生産時の単位量当たりの温室効果ガス排出量は15.7kgであり、使用時の単位量当たりの温室効果ガス排出量は72.0kgである。また、エネルギーの種別が電気の場合、製造時の単位量当たりの温室効果ガス排出量は184.0kg(日本の場合)であり、使用時の単位量当たりの温室効果ガス排出量は0kgである。なお、単位量とは、例えば1MJのエネルギーを発生させる量に相当する。
【0040】
なお、エネルギー源が電気の場合、経済協力開発機構(OECD)、国際エネルギー機関(IEA)等が国別の発電量1kW当たりのCO排出量を公表しているため、エネルギー源の生産時の単位量当たりの温室効果ガス排出量は、これに基づいて予め定められており、メモリ114に記憶されている。
【0041】
第2排出量算出部112cは、ユーザが入力部120に入力した車両の諸元を表す車両情報(車格、車重、駆動方式およびエネルギーの種別等)に基づいて、車両の諸元に基づいて予め定められた走行時のエネルギー源の消費量を取得し、エネルギー源の消費量と、車両の生涯の予定走行距離と、エネルギー源の生産時及び消費時の単位量当たりの温室効果ガス排出量とに基づいて、第2排出量を算出する。
【0042】
プロセッサ112のリサイクル効果量算出部112dは、車両を構成する部品の材料および質量と、予め定められた材料毎の再利用時の単位質量当たりのリサイクル効果量とに基づいて、車両を構成する部品の材料が素材として再利用される際のリサイクル効果量を算出する。なお、リサイクル効果量とは、素材として新材を使った場合に対し、素材として再生材を使った場合の温室効果ガス排出量の削減量を表す。このため、単位質量当たりのリサイクル効果量は負の値である。
【0043】
材料毎の再利用時の単位質量当たりのリサイクル効果量は、予め定められており、予めメモリ114またはストレージ装置130に格納されている。例えば、鉄の再利用時の単位質量(1kg)当たりのリサイクル効果量は、-1.6kg程度とされる。また、アルミニウムの単位質量(1kg)当たりのリサイクル効果量は、-10.2kg程度とされる。リサイクル効果量算出部112dは、車両を構成する部品の材料毎に、リサイクル量と単位質量当たりのリサイクル効果量を乗算することで、材料毎のリサイクル効果量を算出する。
【0044】
車両を構成する部品の材料および質量に基づいて、材料毎のリサイクル量はリサイクル率(再生歩留まり)に基づいて求まる。例えば、車両の炭素鋼の板金部品の質量が605kgであり、車両を製造するために必要な炭素鋼の質量が1100[kg]である上述した例において、炭素鋼のリサイクル率が57%である場合、炭素鋼のリサイクル量は1100×0.57=627kgである。鉄の再利用時の単位質量(1kg)当たりのリサイクル効果量が-1.6kgであるとすると、炭素鋼のリサイクル効果量は、627×(-1.6)=-1003.2kgとなる。材料毎のリサイクル率の値は、ユーザにより入力部120から入力されるか、あるいは、予めメモリ114またはストレージ装置130に記憶されていてもよい。材料毎のリサイクル率は、地域(国)に応じて異なる値であってもよい。また、材料毎のリサイクル率は、スクラップの種別(加工スクラップ、老廃スクラップ)に応じて異なる値であってもよい。
【0045】
プロセッサ112の生涯排出量算出部112eは、第1排出量、第2排出量、及びリサイクル効果量を合算して車両の生涯における温室効果ガスの排出量である生涯排出量を算出する。
【0046】
プロセッサ112の第3排出量算出部112fは、車両が任意の第1車両(図1A及び図1Bに示す車両10)である場合に算出された生涯排出量から、車両が第1車両から特定の対象部品を除いた第2車両(図1A及び図1Bに示す仮想車両12,18)である場合に算出された生涯排出量を減算することで、対象部品の温室効果ガス排出量を算出する。
【0047】
例えば、図1Aに示す例では、対象部品が車体14であり、車両10が第1車両に相当し、仮想車両12が第2車両に相当する。また、図1Bに示す例では、対象部品がバンパー16であり、車両10が第1車両に相当し、仮想車両18が第2車両に相当する。
【0048】
以上のように、車両の製造時の温室効果ガスの排出量である第1排出量、車両の使用時の温室効果ガスの排出量である第2排出量、及び車両のリサイクル時のリサイクル効果量を合算して車両の生涯における温室効果ガスの排出量である生涯排出量が算出される。そして、車両が任意の第1車両である場合に算出された生涯排出量から、車両が第1車両から特定の対象部品を除いた第2車両である場合に算出された生涯排出量を減算することで、対象部品の温室効果ガス排出量が算出される。
【0049】
したがって、車両を構成する個々の対象部品について、温室効果ガス排出量の算出が可能であるため、例えば車両の設計段階において、温室効果ガス排出量が多い部品の質量を削減することで、あるいは温室効果ガス排出量が多い部品を使用しないことで、温室効果ガス排出量が低減された車両を構築することが可能となる。
【0050】
図4図5及び図6は、材料および質量の異なる複数の対象部品について、以上の手法により算出した温室効果ガスの排出量と部品の質量との関係の一例を示す特性図であって、材料毎にGWPを変化させて算出した結果を示す図である。ここでは、製造時、使用時、およびリサイクル時のそれぞれにおいて、車両が任意の第1車両である場合に算出された値から、車両が第1車両から特定の対象部品を除いた第2車両である場合に算出された値を減算することで、製造時、使用時、およびリサイクル時のそれぞれにおいて、対象部品の第1排出量(第1排出量のうち対象部品に相当する排出量)、対象部品の第2排出量(第2排出量のうち対象部品に相当する排出量)、対象部品のリサイクル効果量(リサイクル効果量のうち対象部品に相当するリサイクル効果量)を算出している。図4は製造時の対象部品の第1排出量、図5は使用時の対象部品の第2排出量、図6はリサイクル時の対象部品のリサイクル効果量をそれぞれ示している。
【0051】
図4において、特性A1~A3は、対象部品の材料がアルミニウムの場合の特性であり、特性A1はGWPが25.0[kgCOeq/kg]の場合を、特性A2はGWPが16.4[kgCOeq/kg]の場合を、特性A3はGWPが3.0[kgCOeq/kg]の場合を、それぞれ示している。また、特性S1~S3は、材料が鉄の場合の特性であり、特性S1はGWPが3.0[kgCOeq/kg]の場合を、特性S2はGWPが2.08[kgCOeq/kg]の場合を、特性S3はGWPが1.5[kgCOeq/kg]の場合を、それぞれ示している。
【0052】
図4に示すように、温室効果ガスの排出量は対象部品の質量に対して比例関係であることが判る。また、GWPが大きいほど温室効果ガス排出量は大きくなる。鉄とアルミニウムの新材のGWPが同じであれば、温室効果ガス排出量はほぼ同様である。アルミニウムの新地金のGWPが鉄鋼スラブのGWP以下にならない限りは、鉄の方がアルミニウムよりも温室効果ガスの排出低減に関して優位である。
【0053】
また、図5に示すように、走行時の温室効果ガスの排出量は対象部品の質量に応じて、鉄、アルミニウムのいずれも同様の値となる。
【0054】
図6において、特性A11~A13は、対象部品の材料がアルミニウムの場合の特性であり、特性A11はGWPが25.0[kgCOeq/kg]の場合を、特性A12はGWPが16.4[kgCOeq/kg]の場合を、特性A13はGWPが3.0[kgCO2eq/kg]の場合を、それぞれ示している。また、特性S11~S13は、材料が鉄の場合の特性であり、特性S11はGWPが3.0[kgCOeq/kg]の場合を、特性S12はGWPが2.08[kgCOeq/kg]の場合を、特性S13はGWPが1.5[kgCOeq/kg]の場合を、それぞれ示している。
【0055】
図6の計算においては、加工スクラップのリサイクル効果を考慮している。上述したように、部品の材料の質量にリサイクル率を乗算することで、その材料のリサイクル量が算出される。GWPが大きいほどリサイクル効果は大きくなるため、温室効果ガス排出量は小さい傾向となる。また、鉄とアルミニウムの新材のGWPが同じであっても、鉄のリサイクル効果の方がアルミニウムよりも大きい傾向となる。これは、鋼板のリサイクル率(再生歩留まり)がアルミニウム板よりも大きいことに起因する。
【0056】
図4図6の結果を用いて、鋼板部品(質量msteel)、アルミ板部品(質量mAL)の温室効果ガス排出量について考察するため、GWP値の変化、リサイクル率Rrecycleの変化を考慮して、線形近似によりモデル化を行い、以下の自動車部品のCO排出量の簡易計算式を得た。なお、以下に示すMproduction図4の特性を線形近似することにより求まり、Muse図5の特性を線形近似することにより求まり、MEoL図6の特性を線形近似することにより求まる。
【0057】
(鋼板)
production=(1.2275[鉄鋼スラブGWP値]+1.1926)*msteel
use=6.8128 msteel
EoL=Rrecycle(-1.0315[鉄鋼スラブGWP値]+0.49513)*msteel
リサイクル率を90%と仮定すると、ライフサイクル全体での鋼板部品の温室効果ガス排出量MLCA,steelは以下で計算できる。
LCA,steel=Mproduction+Muse+MEoL=(0.296[鉄鋼スラブGWP値]+8.4525)msteel
【0058】
(アルミニウム板)
production=(1.1701[アルミ地金GWP値]+1.348)*mAL
use=6.8128mAL
EoL=Rrecycle(-0.9114[アルミ地金GWP値]+0.46553)*mAL
リサイクル率を79%と仮定すると、ライフサイクル全体でのアルミ板部品の温室効果ガス排出量MLCA,ALは以下で計算できる。
LCA,AL=Mproduction+Muse+MEoL=(0.451[アルミ地金GWP値]+8.5281)*mAL
【0059】
図7は、MLCA,steelとMLCA,ALのGWP値に対する変化を示す特性図である。想定されるGWPの範囲において、鋼板部品の1kg当たりの温室効果ガス排出量はアルミニウム部品の1kg当たりの温室効果ガス排出量よりも小さい。つまり、ハイテン鋼板を用いてアルミ同等の重量部品を実現すれば、ハイテン鋼板を用いた方が温室効果ガスの低減性能に優れることがわかる。なお、鉄鋼スラブの製造時の地球温暖化係数(GWP)については、1.5~2.18程度の値とすることが好ましい。また、アルミ新地金の製造時の地球温暖化係数(GWP)については、4.9~23.3程度の値とすることが好ましい。
【0060】
プロセッサ112のパラメータ影響分析部112gは、対象部品の温室効果ガス排出量に関連するパラメータと、対象部品の単位質量当たりの温室効果ガス排出量との関係を表す関数を取得し、パラメータが変更されたときの対象部品の温室効果ガス排出量を算出する。
【0061】
より具体的には、パラメータ影響分析部112gは、対象部品の質量と対象部品の温室効果ガス排出量との相関関係に基づいて、材料毎の単位質量当たりの温室効果ガス排出量と対象部品の単位質量当たりの温室効果ガス排出量との関係を表す線形関数を取得し、線形関数に基づいて、材料毎の単位質量当たりの温室効果ガス排出量が変更されたときの対象部品の温室効果ガス排出量を算出する。
【0062】
地球温暖化係数(GWP)は、車両が製造される地域(国)、車両がリサイクルされる地域等に応じて異なる場合がある。このため、パラメータ影響分析部112gは、図4図7に示した特性を取得し、地球温暖化係数(GWP)などのパラメータを変更した場合の影響を分析する。
【0063】
例えば、パラメータ影響分析部112gは、異なる材料と質量からなる対象部品のそれぞれについて第3排出量を算出し、図7に示した特性を予め取得しておく。そして、パラメータ影響分析部112gは、対象部品の温室効果ガス排出量を計算するにあたり、対象部品の材料のGWPの値が適宜変更されると、変更後のGWPに応じて対象部品1kg当たりの温室効果ガス排出量が求まるため、これに対象部品の質量を乗算することで対象部品の温室効果ガス排出量を算出する。
【0064】
また、上述した製造歩留まり、再生歩留まり(リサイクル率)などのパラメータも地域(国)によって異なる場合がある。パラメータ影響分析部112gは、製造歩留まり、再生歩留まりの値に応じて図4図7に示した特性を取得する。また、図4図7では鋼板部品とアルミ板部品を例示したが、パラメータ影響分析部112gは、鋼板、棒線材、鋳鉄、アルミニウム板(AL板)、アルミニウム押出材(AL押出材)、アルミニウム鋳物(AL鋳物)、CFRP、樹脂など車両を構成する部品の材料毎に図4図7と同様の特性を予め取得する。
【0065】
更に、上述したように、第2排出量は、車格、車重、車両の駆動方式、エネルギー源の種別等に応じて異なる値となるため、パラメータ影響分析部112gは、図5に示す特性を、車格、車重、車両の駆動方式、エネルギー源の種別等に応じた特性として取得する。
【0066】
図8は、パラメータ影響分析部112gがパラメータを変更した場合の影響を分析するにあたり、変更可能なパラメータと、計算結果(温室効果ガス排出量)が表されたテーブルの一例を示す模式図である。図8において、濃い濃度(ドット)が付されたセルは、変更可能なパラメータを示しており、薄い濃度(ドット)が付されたセルは、パラメータを変更した場合の出力結果を示している。図8に示す例では、車両の生産地を日本、車両の駆動方式を電気自動車(BEV)、部品重量を6kg、リサイクル効果を“1”、部品の素材重量構成をアルミニウム押出材100%、アルミニウム押出材のGWPを11.1、製造歩留まり(加工歩留まり)を80%、再生歩留まりを67%とした場合に、計算結果として、製造時、使用時、リサイクル時、および生涯の温室効果ガス排出量が出力される様子が示されている。パラメータ影響分析部112gは、図4図7に示した特性をパラメータ毎に取得しておくことで、製造時、使用時、リサイクル時、および生涯の温室効果ガス排出量を算出する。
【0067】
プロセッサ112の計算結果出力部112hは、第3排出量算出部112f、パラメータ影響分析部112gによる計算結果を出力部140に出力する。出力された計算結果は出力部140に表示される。
【0068】
図9は、プロセッサ112が行う処理を示すフローチャートである。先ず、プロセッサ112の取得部112aが、入力部120に入力された各種情報を取得する。次に、プロセッサ112の第1排出量算出部112bが第1排出量を算出し(ステップS12)、第2排出量算出部112cが第2排出量を算出し(ステップS14)、リサイクル効果量算出部112dがリサイクル効果量を算出する(ステップS16)。そして、プロセッサ112の生涯排出量算出部112eが、第1排出量、第2排出量、及びリサイクル効果量を合算して車両の生涯における温室効果ガスの排出量である生涯排出量を算出する(ステップS18)。ステップS12~S18では、車両が任意の第1車両である場合と、車両が第1車両から特定の対象部品を除いた第2車両である場合のそれぞれについて、第1排出量、第2排出量、リサイクル効果量、及び生涯排出量が算出される。
【0069】
次に、プロセッサ112の第3排出量算出部112fが、車両が任意の第1車両である場合に算出された生涯排出量から、車両が第1車両から特定の対象部品を除いた第2車両である場合に算出された生涯排出量を減算し、対象部品の温室効果ガス排出量を算出する(ステップS20)。
【0070】
次に、プロセッサ112の取得部112aが、入力部120に入力されたパラメータが変更されると、変更されたパラメータを取得する(ステップS22)。例えば、取得部112aは、対象部品の材料の地球温暖化係数(GWP)が変更され、変更後の値が入力部120に入力されると、変更後の地球温暖化係数(GWP)を取得する。
【0071】
次に、プロセッサ112のパラメータ影響分析部112gが、変更後のパラメータによる温室効果ガス排出量への影響を分析する(ステップS24)。例えば、パラメータ影響分析部112gは、図7に示したような、材料毎の製造時の単位質量当たりの温室効果ガス排出量と対象部品の単位質量当たりの温室効果ガス排出量との関係を表す線形関数を取得し、この線形関数に基づいて、材料毎の製造時の単位質量当たりの温室効果ガス排出量が変更されたときの対象部品の温室効果ガス排出量を算出する。
【0072】
次に、プロセッサ112の計算結果出力部112hが、最終計算結果を出力部140に出力する(ステップS26)。これにより、最終計算結果が出力部140に表示される。なお、ステップS22,S24の処理は行わなくてもよく、その場合、計算結果出力部112hは、ステップS20で算出された対象部品の温室効果ガス排出量を最終出力結果として出力する。
【0073】
図10は、既存の車両1と、既存の車両1の車体の材料を変更し、引張強度1180MPa級以上の超ハイテン材を車体に多用することで車両1に対して100kg程度軽量化した車両2と、車両2と同等重量になるように車両2の車体の材料をアルミニウムに置換した車両3について、車両全体の温室効果ガス排出量と、対象部品の温室効果ガス排出量とを比較して示す特性図である。
【0074】
図10では、車両1~3のそれぞれについて、製造時、走行時(使用時)、リサイクル時のそれぞれにおける温室効果ガス排出量(第1排出量、第2排出量、リサイクル効果量)が示されており、また生涯排出量(全体)が示されている。第1排出量、第2排出量、リサイクル効果量、生涯排出量は、濃度(ドット)を付していない部分が車体に相当する排出量であり、濃度を付した部分が車両以外に相当する排出量である。
【0075】
図10に示すように、製造時、走行時、リサイクル時を合計した生涯排出量(全体)を比較すると、車両1よりも車両2の方が温室効果ガスの排出量は少なく、車両3よりも車両2の方が温室効果ガスの排出量は少なくなっている。したがって、車体の材料に引張強度1180MPa級以上の超ハイテン材を多用することで、車両全体としての温室効果ガスの排出量が削減され、同等重量のアルミ多用車と比較してもよりも車両全体としての温室効果ガスの排出量が削減されることがわかる。
【0076】
図11は、図10に示した車体に相当する排出量のみを示す図であって、車体による温室効果ガス排出量の削減への寄与分を示す特性図である。車両2の車体の温室効果ガス排出量の低減効果は、車両1の車体に対し-27%である。一方、車両3の車体は、アルミニウムを多用したことにより、車両1の車体に対し温室効果ガスの排出量が12%増加する。したがって、上述の方法で対象部品としての車体の温室効果ガス排出量を算出すると、車両2は、ハイテン材を多用したことにより、「走行時」に加えて「製造時」の温室効果ガスの排出量の低減が大きく貢献し、ライフサイクル視点で温室効果ガスの排出量を比べると、車体にアルミニウムを多用した車両3に対して約40%の削減効果の優位性を有する。
【符号の説明】
【0077】
10 車両
12 仮想車両
14 車体
16 バンパー
18 仮想車両
100 システム
110 制御装置
112 プロセッサ
112a 取得部
112b 第1排出量算出部
112c 第2排出量算出部
112d リサイクル効果量算出部
112e 生涯排出量算出部
112f 第3排出量算出部
112g パラメータ影響分析部
112h 計算結果出力部
114 メモリ
116 通信インターフェース
120 入力部
130 ストレージ装置
140 出力部
210 制御装置
212 プロセッサ
図1A
図1B
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11