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特開2023-55577蚊類誘引方法、蚊類誘引ガス及び蚊類誘引捕獲装置
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  • 特開-蚊類誘引方法、蚊類誘引ガス及び蚊類誘引捕獲装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023055577
(43)【公開日】2023-04-18
(54)【発明の名称】蚊類誘引方法、蚊類誘引ガス及び蚊類誘引捕獲装置
(51)【国際特許分類】
   A01N 59/00 20060101AFI20230411BHJP
   A01P 19/00 20060101ALI20230411BHJP
   A01N 31/02 20060101ALI20230411BHJP
   A01M 1/02 20060101ALI20230411BHJP
【FI】
A01N59/00 Z
A01P19/00
A01N31/02
A01M1/02 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021165081
(22)【出願日】2021-10-06
(71)【出願人】
【識別番号】000100539
【氏名又は名称】アース製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】内海 與三郎
(72)【発明者】
【氏名】木尾 幹広
【テーマコード(参考)】
2B121
4H011
【Fターム(参考)】
2B121AA13
2B121BA11
2B121CC11
2B121CC37
2B121EA21
2B121FA20
4H011AC07
4H011BA01
4H011BB03
4H011BB18
4H011DF04
(57)【要約】
【課題】本発明は優れた蚊類誘引方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、炭酸ガスを用いる蚊類誘引方法であって、前記炭酸ガス中にアルコールを容積比で0.06%以下の濃度となるように含有させ、空間に放出することを特徴とする、蚊類誘引方法に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭酸ガスを用いる蚊類誘引方法であって、
前記炭酸ガス中にアルコールを容積比で0.06%以下の濃度となるように含有させ、空間に放出することを特徴とする、蚊類誘引方法。
【請求項2】
前記炭酸ガス中にアルコールを容積比で0.0025~0.03%の濃度となるように含有させる、請求項1に記載の蚊類誘引方法。
【請求項3】
炭酸ガス中に容積比で0.06%以下のアルコールを含有する、蚊類誘引ガス。
【請求項4】
請求項3に記載の蚊類誘引ガスを発生させる、蚊類誘引ガス発生部と、
発生した前記蚊類誘引ガスを空間に放出する、蚊類誘引ガス放出部と、
蚊類を捕獲する蚊類捕獲部と、
を備える蚊類誘引捕獲装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は蚊類誘引方法、蚊類誘引ガス及び蚊類誘引捕獲装置に関する。
【背景技術】
【0002】
刺咬、吸血行動によって人体に被害を及ぼすアカイエカ等の蚊から身体を守るため、殺虫エアゾール剤や加熱蒸散剤などが開発され、予防や駆除を目的に広く用いられている。
【0003】
一方、殺虫剤の使用を抑えたい、野外で発生する蚊を減らしたい等の目的から、蚊に対する誘引捕獲器が従来使用されている。当該誘引捕獲器としては、例えば、炭酸ガスを利用して蚊を誘引し、殺虫、捕獲する技術が知られている。
特許文献1には、炭酸ガスを発生する誘引気体発生手段により蚊を誘引し、誘引された蚊を粘着剤で捕獲する蚊取器が開示されている。
また特許文献2には、殺蚊成分と炭酸ガスとをアルコールに混合した薬液を電熱ヒータで通電、加熱して、蚊を誘引し、かつ殺蚊する簡易蚊取器が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10-229801号公報
【特許文献2】実用新案登録第3144480号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のとおり、蚊を誘引捕獲する際に用いられる誘引成分としては炭酸ガスが知られているが、炭酸ガス単体では蚊の誘引効果として十分ではなかった。そのため炭酸ガスとアルコールを併用して蚊の誘引効果を改善することが行われているが、その効果はいまだ十分とは言えず依然として改善の余地があった。
そこで本発明は、加熱の手段を伴うような場合に限らず、自然条件においても蚊類を十分に誘引することのできる、優れた蚊類誘引方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、炭酸ガスとアルコールを併用し、かつ特定条件で両者を併用することにより、蚊類に対して、相乗的な誘引効果を発揮できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち本発明は、以下の(1)~(4)を特徴とする。
(1)炭酸ガスを用いる蚊類誘引方法であって、
前記炭酸ガス中にアルコールを容積比で0.06%以下の濃度となるように含有させ、空間に放出することを特徴とする、蚊類誘引方法。
(2)前記炭酸ガス中にアルコールを容積比で0.0025~0.03%の濃度となるように含有させる、上記(1)に記載の蚊類誘引方法。
(3)炭酸ガス中に容積比で0.06%以下のアルコールを含有する、蚊類誘引ガス。
(4)上記(3)に記載の蚊類誘引ガスを発生させる、蚊類誘引ガス発生部と、
発生した前記蚊類誘引ガスを空間に放出する、蚊類誘引ガス放出部と、
蚊類を捕獲する蚊類捕獲部と、
を備える蚊類誘引捕獲装置。
【発明の効果】
【0008】
本発明の蚊類誘引方法は、特定条件で炭酸ガスとアルコールを併用することで、両者が蚊類に対して相乗的に作用する。これにより、蚊類に対して優れた誘引効果を発揮できるため、蚊類の捕獲を効率的に行うことができる。また、上記の相乗的な作用により蚊類に対して探り針行動を惹起する。そのため、誘引された蚊類がその場に留まる時間が長くなり、蚊類の捕獲効果を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本発明の一実施形態の蚊類誘引捕獲装置を示す概略構成図である。
図2図2は、試験例1で用いた試験装置を示す概略構成図である。
図3図3は、試験例2で用いた試験装置を示す概略構成図である。
図4図4は、試験例2における供試虫の累計飛来数を示すグラフである。
図5図5は、試験例2において探り針行動を行った供試虫数を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の蚊類誘引方法、蚊類誘引ガス、及び蚊類誘引捕獲装置について詳細に説明する。
【0011】
(蚊類誘引方法)
本発明の炭酸ガスを用いる蚊類誘引方法においては、炭酸ガス中にアルコールを容積比で0.06%以下の濃度となるように含有させ、空間に放出することを特徴とする。
【0012】
本発明の蚊類誘引方法は、炭酸ガス中に、容積比で0.06%以下という特定濃度範囲のアルコールを含有させ、空間に放出することにより、蚊類に対し、特に優れた誘引作用を発揮することを見出したことに基づくものである。
また、本発明の蚊類誘引方法は、炭酸ガス中に、容積比で0.06%以下という特定濃度範囲のアルコールを含有させ、空間に放出することにより、蚊類の吸血行動の1つである探り針行動(吸血場所を定め針を刺す行動)を強く惹起することを見出したことに基づくものである。
【0013】
本発明の蚊類誘引方法において用いるアルコールの種類は特に制限されず、例えば、エタノール、メタノール、1-オクテン-3-オール、1-ヘプテン-3-オール等が挙げられる。これらは、単独で用いても、複数種用いてもよい。なかでも、蚊類の誘引作用および探り針行動惹起の観点から、エタノールであることが好ましい。
【0014】
本発明の蚊類誘引方法においては、炭酸ガス中におけるアルコール濃度が容積比で0.06%以下であることが重要である。本発明者らは、炭酸ガス中におけるアルコール濃度が容積比で0.06%以下であることにより、炭酸ガスとアルコールとが相乗的に作用し、炭酸ガス単体で使用する場合と比較して、蚊類に対し優れた誘引効果および探り針惹起効果が得られることを見出した。さらに、炭酸ガスにおけるアルコール濃度が容積比で0.06%を超えると、炭酸ガスによる蚊類の誘引効果が減退し、蚊類に対する忌避効果が生じることがあることを見出した。
炭酸ガス中におけるアルコール濃度は、蚊類の誘引作用および探り針行動惹起の観点から、容積比で0.0025~0.06%が好ましく、0.0025~0.03%がより好ましく、0.005~0.015%がさらに好ましい。
【0015】
炭酸ガス中におけるアルコール濃度は、炭酸ガスの発生方法に応じて、容積比で0.06%以下の範囲内で適宜調整が可能である。例えば実施例にて後述するように、クエン酸と炭酸水素ナトリウムを用いて炭酸ガスを発生させる方法では、クエン酸溶液中のアルコール濃度や、炭酸水素ナトリウムに反応させるクエン酸溶液の累計量、クエン酸溶液の滴下速度等を適宜調整することにより、炭酸ガス中におけるアルコール濃度を調整することが可能である。
【0016】
炭酸ガス中におけるアルコール濃度(容積比)の測定方法は特に制限されず、従来公知の方法を採用でき、例えば、当該炭酸ガスをサンプリングバッグ等のガス捕集袋に捕集し、検知管を接続させた気体採取器で当該炭酸ガスを採取することで測定できる。
【0017】
本発明の蚊類誘引方法においては、蚊類への誘引効果および探り針惹起効果を阻害しない範囲において、既知の他の誘引成分、殺虫成分、抗菌成分、着色剤、紫外線吸収剤、保持剤、滑沢剤、溶媒等の添加剤を炭酸ガスまたは炭酸ガスの発生源に含有させることができる。なお、上記添加剤がアルコールを含む場合は、炭酸ガス中のアルコール濃度が、全体として容積比で0.06%を超えないように、炭酸ガス中に含有させる。
【0018】
他の誘引成分としては、例えば、ブランデー、ウイスキー、ラム酒、ウォッカ、焼酎、日本酒等の酒類;黒酢、赤酢、食酢、リンゴ酢、米酢等の醸造酢;蜂蜜、液糖、メープルシロップ等の糖類;乳酸飲料、ヨーグルト、チーズ等の乳酸製品;果汁;果実調の香料等が挙げられる。
【0019】
殺虫成分としては、例えば、ジクロルボス、フェニトロチオン、IBTA、IBTE、トランスフルトリン、メトフルストン、プロフルトリン、エンペントリン、プロポクスル、フェノブカルブ、アミドフルメト、ジノテフラン、フィプロニル、ヒドラメチルノン、カルバリル、ホウ酸等が挙げられる。
【0020】
抗菌成分としては、例えば、二酸化塩素、ヨウ素、チモール、イソプロピルメチルフェノール、ホルムアルデヒド、グルタルアルデヒド、エタノール、プロピルアルコール、フェノール、クレゾール、フェノキシエタノール、塩化セチルピリジニウム、パラベン等が挙げられる。
【0021】
着色剤としては、例えば、青色1号、黄色4号等が挙げられる。
【0022】
紫外線吸収剤としては、例えば、トリスレゾルシノールトリアジン系化合物等が挙げられる。
【0023】
溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール等の低級アルコール、流動パラフィン等の炭化水素系溶剤、蒸留水,水道水,脱イオン水等の水等が挙げられる。
【0024】
本発明の蚊類誘引方法において、アルコールを含有する炭酸ガスを空間に放出する具体的な方法は特に制限されない。以下では、本発明の蚊類誘引方法について、例を挙げて具体的に説明するが、本発明は以下の態様に制限されるものではない。
【0025】
炭酸ガスの発生方法としては、従来公知の方法を任意に適用できるが、ここではクエン酸と炭酸水素ナトリウムを用いて炭酸ガスを発生させる方法について例示的に説明する。
【0026】
まず、アルコールを含有するクエン酸溶液を準備する。ここで、クエン酸溶液中のアルコール含有量は、後述する炭酸ガスを空間に放出する際に、炭酸ガス中のアルコール濃度が容積比で0.06%以下となるように適宜調整される。これは、実施例にて後述するように、クエン酸溶液中のアルコール濃度や、炭酸水素ナトリウムに反応させるクエン酸溶液の累計量、クエン酸溶液の滴下速度等により適宜調整される。
【0027】
次に、アルコールを含有するクエン酸溶液を、炭酸水素ナトリウムに滴下する。滴下速度は、炭酸ガス中の所望のアルコール濃度に応じて適宜調整できるが、例えば、0.25~3mL/分である。アルコールを含有するクエン酸溶液と炭酸水素ナトリウムとが反応することにより、所定量のアルコールを含有する炭酸ガスが発生する。
例えば、アルコールとしてエタノールを用いた場合、エタノールを容積比で0.1%配合した1モルのクエン酸溶液2Lを、6モルの炭酸水素ナトリウムを充填した炭酸水素ナトリウム槽に、1.5mL/分の速度で滴下し、炭酸水素ナトリウム槽から接続したチューブを介して理論上約100mL/分の速度で蚊に対して誘引活性を発揮する濃度のエタノールを含む炭酸ガスを約22時間にわたり放出することができる。
【0028】
アルコールを含有する炭酸ガスを空間に放出する手段としては、例えば、発生した蚊類誘引ガスを所定の場所へ移動させて当該ガスを空間へ放出させるチューブや、蚊類誘引ガスを空間へ放出するエアストーン、風を送ることで蚊類誘引ガスを空間へ放出するファン等であってよい。
【0029】
(蚊類誘引ガス)
上記の蚊類誘引方法で発生させる上記炭酸ガスは、アルコールを容積比で0.06%以下含有しており、蚊類を強く誘引する効果を有し、蚊類誘引ガス(蚊類誘引ガス組成物ともいう)として機能する。
蚊類誘引ガスは、炭酸ガスやアルコールの他に、上述した添加剤を含んでいてもよい。
【0030】
(蚊類誘引捕獲装置)
本発明の蚊類誘引捕獲装置は、炭酸ガス中にアルコールを容積比で0.06%以下含有する、蚊類誘引ガスの発生装置を備える。当該装置は、上記蚊類誘引ガスを発生させることができるのであればその態様は特に制限されない。
【0031】
本発明の蚊類誘引捕獲装置の一態様としては、蚊類誘引ガスを発生させる蚊類誘引ガス発生部と、発生した蚊類誘引ガスを空間に放出する蚊類誘引ガス放出部と、蚊類を捕獲する蚊類捕獲部とを備える。
【0032】
蚊類誘引ガス発生部としては、例えば、図1に示すとおり、クエン酸溶液111が充填されるクエン酸溶液槽11、クエン酸溶液111を炭酸水素ナトリウム131に滴下するための滴下部12、炭酸水素ナトリウム131が充填される炭酸水素ナトリウム槽13を備えてよい。滴下部12により、クエン酸溶液111の滴下速度が調整される。
クエン酸溶液槽11内のクエン酸溶液111が、滴下部12を介して、炭酸水素ナトリウム槽13内の炭酸水素ナトリウム131に滴下されることで、蚊類誘引ガスが発生する。
【0033】
また、蚊類誘引ガス放出部としては、例えば、図1に示すとおり、発生した蚊類誘引ガスを所定の場所へ移動させるチューブ14や、蚊類誘引ガスを放出するエアストーン15等を備えてよい。上記蚊類誘引ガス発生部から発生した蚊類誘引ガスがチューブ14を通り、エアストーン15から空間に放出される。
【0034】
また、蚊類捕獲部としては、例えば、図1に示すとおり、誘引した蚊類を捕獲する捕獲器16であってよい。捕獲器16としては従来公知のものを使用することができ、粘着シートを備えた捕獲器や、風の引力で蚊を吸い込み捕獲する吸引ファンを用いた捕獲器等が挙げられる。
【0035】
また、本発明の蚊類誘引捕獲装置において、蚊類誘引ガスで誘引した蚊を捕獲器16内で殺虫するために、捕獲器16内に蚊類の殺虫成分を含ませておいてもよい。
【0036】
本発明において誘引対象となる蚊類としては、例えば、ヒトスジシマカ、ネッタイシマカ等のシマカ、アカイエカ、ネッタイイエカ、コダカアカイエカ、チカイエカ等のイエカ、ハマダラカ等が挙げられるが、これらの例示の蚊類に限定されるものではない。
【実施例0037】
以下、具体的な試験例に基づき本発明を更に説明するが、本発明は下記例に何ら制限されるものではない。
【0038】
(試験例1)
本試験では、炭酸ガス発生システムにおいて、クエン酸溶液中のエタノール濃度と、発生した炭酸ガス中のエタノール濃度の関係を確認した。
【0039】
(試験方法)
試験方法について、図2を用いて説明する。
1.クエン酸濃度が1モル/L(192g/L)、エタノール濃度が0.1v/v%、0.3v/v%、1v/v%、3v/v%、または10v/v%となるように、1000mLのクエン酸溶液211を調製した。
2.上記調製した1000mLのクエン酸溶液211を5L容量のクエン酸溶液槽21に充填した。また、3モル(252g)の炭酸水素ナトリウム231を5L容量の炭酸水素ナトリウム槽23に充填した。そして、まず、表1に記載の初期クエン酸溶液滴下量のクエン酸溶液211を、滴下部22を介して、炭酸水素ナトリウム231に滴下した。その後、クエン酸溶液211を1.5mL/分の速度で10分間、炭酸水素ナトリウム231に滴下し、エタノールを含有する炭酸ガス(蚊類誘引ガス)を発生させた。
3.発生させた炭酸ガスを、長さ1mのチューブ24aを介して約100mL/分の速度で10分間、1L容量のテドラーバッグ25へと流した。そして、テドラーバッグ25内に捕集された炭酸ガスを、長さ18cmのチューブ24bを介して検知管を接続させた気体採取器(ガステック社製)で100mL採取して、発生させた炭酸ガス中のエタノール濃度を測定した。
【0040】
表1に、クエン酸溶液中のエタノール濃度及びクエン酸溶液の累計滴下量と、放出された炭酸ガス中のエタノール濃度との関係を示す。なお、表1中の「初期クエン酸溶液滴下量」とは、予め炭酸水素ナトリウムに滴下したクエン酸溶液の量を意味し、「滴下速度×滴下時間」とは、予め上記所定量のクエン酸溶液を滴下した状態から、炭酸水素ナトリウムに対しクエン酸溶液を滴下した際の滴下速度とその時間を意味する。
【0041】
【表1】
【0042】
(試験例2)
本試験では、炭酸ガス発生システムで発生させた炭酸ガス中のエタノール濃度とヒトスジシマカに対する誘引活性および探り針行動惹起との関係性を確認した。
【0043】
(試験方法)
試験方法について、図3を用いて説明する。
1.供試虫として、羽化後16~19日のヒトスジシマカ雌成虫(吸血意欲の高い成虫を選別)を用いた。
2.飼育ケージの側面に手をあてて吸血意欲を示す供試虫を吸虫管で600頭選別し、ステンレス製の試験ケージ36(25cm立方、16メッシュ)内に入れて馴化させた。
3.クエン酸濃度が1モル/L(192g/L)、エタノール濃度が0v/v%、0.1v/v%、0.3v/v%、1v/v%、3v/v%、または10v/v%となるように、1000mLのクエン酸溶液311を調製した。
4.上記クエン酸溶液311を5L容量のクエン酸溶液槽31に充填した。また、3モル(252g)の炭酸水素ナトリウム331を5L容量の炭酸水素ナトリウム槽33に充填した。そして、まず、表2に記載の初期クエン酸溶液滴下量のクエン酸溶液311を、滴下部32を介して、炭酸水素ナトリウム331に滴下した。その後、クエン酸溶液311を1.5mL/分の速度で10分間、炭酸水素ナトリウム331に滴下し、炭酸ガスを発生させた。
5.発生した炭酸ガスを、長さ1mのチューブ34を介して、約100mL/分の速度でエアストーン35(直径10.8cm、厚み1.9cmの円形)へ流した。そして当該エアストーン35から炭酸ガスを放出させ、試験ケージ36(暗条件)内の供試虫に供試した。
6.供試開始から30秒毎に10分後まで、エアストーン35上に飛来する供試虫数を観察し、10分後までの累計の飛来数を算出した。また、探り針行動を行った供試虫数も算出した。試験は繰り返し3回行い、平均の結果を算出した。
【0044】
累計の飛来数の結果を表2および図4に示す。また、探り針行動を行った供試虫数の結果を表2および図5に示す。なお、表2中の「放出された炭酸ガス中のエタノール濃度(%)」は、上記試験例1にて確認した、クエン酸溶液中のエタノール濃度及びクエン酸溶液の累計滴下量と、放出された炭酸ガス中のエタノール濃度との関係に基づく。
【0045】
【表2】
【0046】
表2および図4、5に示したように、炭酸ガス中にエタノールを容積比で0.06%以下の濃度となるように含有させ、空間に放出することで、エタノールを含有しない炭酸ガスを空間に放出した場合と比較して、累計飛来数が多く、また、蚊の探り針行動を強く示すことが分かった。
また、炭酸ガス中のエタノール濃度が溶液比で0.06%を超えると、エタノールを含有しない炭酸ガスを空間に放出した場合と比較して、累計飛来数が少なく、また、蚊の探り針行動が弱くなることが分かった。
【0047】
(試験例3)
野外に生息する蚊を対象として、上記試験例2と同様の方法で、エタノールを含有する炭酸ガスの蚊類誘引効果および探り針行動惹起効果を確認した。
(試験方法)
試験場所を野外におけるヒトスジシマカが生息する公園(試験期間の温湿度:約26℃/約75%RH)とし、対象を野外に生息するヒトスジシマカとしたことを除いては、試験例2と同様の方法で試験を行い、供試開始から30分後までの観察において、炭酸ガスの放出口であるエアストーンへのヒトスジシマカの誘引活性及び探り針活性について観察し、以下の基準で評価した。
<評価>
++(強い活性あり):エアストーン上に蚊が飛来するのが観察され、かつ強い探り針行動も観察される
+(活性あり):エアストーン上に蚊が飛来するのが観察されるが、探り針行動は観察されない
-:(活性なし):エアストーン上に蚊が飛来するのが観察されない、かつ探り針行動が観察されない
【0048】
誘引活性及び探り針活性の結果を表3に示す。なお、表3中の「放出された炭酸ガス中のエタノール濃度(%)」は、上記試験例1と同様の試験により算出した。
【0049】
【表3】
【0050】
表3に示したように、クエン酸溶液中にエタノールを配合しない条件で発生させた炭酸ガスには、ヒトスジシマカに対して誘引活性は観察されたが、探り針活性は観察されなかった。
炭酸ガス中のエタノール濃度を容積比で0.013%とした場合は、ヒトスジシマカに対して強い誘引活性と探り針活性が観察された。
炭酸ガス中のエタノール濃度を容積比で0.09%とした場合は、ヒトスジシマカに対して誘引活性および探り針活性はみられなかった。
したがって、炭酸ガス中にエタノールを容積比で0.06%以下の濃度となるように含有させ、空間に放出するという本発明の方法によれば、野外の蚊に対しても、誘引効果および探り針行動惹起効果が得られることがわかった。
【符号の説明】
【0051】
10 蚊類誘引捕獲装置
11、21、31 クエン酸溶液槽
111、211、311 クエン酸溶液
12、22、32 滴下部
13、23、33 炭酸水素ナトリウム槽
131、231、331 炭酸水素ナトリウム
14、24a、24b、34 チューブ
15、35 エアストーン
25 テドラーバッグ
16 捕獲器
36 試験ケージ
図1
図2
図3
図4
図5