(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023055638
(43)【公開日】2023-04-18
(54)【発明の名称】治療装置用の高放射率遠赤外線セラミックモジュール
(51)【国際特許分類】
A61F 7/08 20060101AFI20230411BHJP
【FI】
A61F7/08 312
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022143421
(22)【出願日】2022-09-09
(31)【優先権主張番号】17/473,799
(32)【優先日】2021-09-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】521334631
【氏名又は名称】アルバート チン タン ウェイ
【氏名又は名称原語表記】Albert Chin-Tang Wey
(74)【代理人】
【識別番号】100116687
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 爾
(74)【代理人】
【識別番号】100098383
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 純子
(74)【代理人】
【識別番号】100155860
【弁理士】
【氏名又は名称】藤松 正雄
(72)【発明者】
【氏名】アルバート チン タン ウェイ
(57)【要約】 (修正有)
【課題】遠赤外線の照射によりヒトまたは動物の身体を治療する治療装置に組み込むためのセラミックモジュールを提供する。
【解決手段】セラミックモジュールは、黒体様熱放射と3~16μmの波長スペクトル内の誘発FIR光子放射を同時に放出することができ、8~14μmの波長範囲における全体的な放射は、前記セラミックモジュールの実際の本体温度よりも少なくとも1°K(または1°C)高い温度での近似黒体放射であると測定され、1.0より大きい実効放射率を示す。前記セラミックモジュールは、ヒトまたは動物の生理学的性能、免疫能力、健康、および平均寿命を向上させるために、単独で使用することも、治療装置の構成要素として機能することもできる。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトまたは動物の身体を治療する治療装置で使用されるセラミックモジュールであって、
前記セラミックモジュールは、3セットの粉末物質の混合物を含み、
第1セットの粉末物質は、元素周期表の第13族または第14族から選択される第1の元素の少なくとも1つの酸化物を含み、
第2セットの粉末物質は、元素周期表の第3族~第12族から選択される、部分的に満たされた3dまたは4d原子軌道を持つ遷移金属元素である第2の元素の少なくとも1つの酸化物を含み、
第3セットの粉末物質は、元素周期表の第1族または第2族から選択される金属元素である第3の元素の少なくとも1つの酸化物を含み、
前記混合物が860°C以上の温度で焼結される結果として、前記セラミックモジュールが不均一な結晶構造を有することで、前記セラミックモジュールは3~16μmの波長スペクトルの少なくとも一部をカバーする遠赤外線放射を放出し、
8~14μmの波長範囲における全体的な熱放射は、前記セラミックモジュールの実際の本体温度よりも少なくとも1°Kまたは1°C高い温度での黒体放射として近似され、1.0より大きい実効放射率を示す、
ことを特徴とするセラミックモジュール。
【請求項2】
請求項1に記載のセラミックモジュールにおいて、
前記第1セットの粉末物質は、ホウ素、アルミニウム、またはケイ素から選択される少なくとも1つの元素を含む、
ことを特徴とするセラミックモジュール。
【請求項3】
請求項1に記載のセラミックモジュールにおいて、
前記第2セットの粉末物質は、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、イットリウム、ジルコニウム、またはニオブのうちの少なくとも1つの元素を含む、
ことを特徴とするセラミックモジュール。
【請求項4】
請求項1に記載のセラミックモジュールにおいて、
前記第3セットの粉末物質は、リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、またはカルシウムのうちの少なくとも1つの元素を含む、
ことを特徴とするセラミックモジュール。
【請求項5】
請求項1に記載のセラミックモジュールにおいて、
前記粉末物質の混合物は、前記第1の元素の少なくとも1つの酸化物を含む鉱物を更に含む、
ことを特徴とするセラミックモジュール。
【請求項6】
請求項1に記載のセラミックモジュールにおいて、
前記粉末物質の混合物は、前記第2の元素の少なくとも1つの酸化物を含む鉱物を更に含む、
ことを特徴とするセラミックモジュール。
【請求項7】
請求項6に記載のセラミックモジュールにおいて、
前記少なくとも1つの鉱物は、トルマリンである、
ことを特徴とするセラミックモジュール。
【請求項8】
請求項6に記載のセラミックモジュールにおいて、
前記少なくとも1つの元素は、ジルコニウムである、
ことを特徴とするセラミックモジュール。
【請求項9】
請求項1に記載のセラミックモジュールにおいて、
前記実行放射率は、1.02より大きい、
ことを特徴とするセラミックモジュール。
【請求項10】
請求項1に記載のセラミックモジュールにおいて、
前記近似黒体放射温度は、前記セラミックモジュールの実際の本体温度よりも少なくとも2°Kまたは2°C高い、
ことを特徴とするセラミックモジュール。
【請求項11】
請求項1に記載のセラミックモジュールにおいて、
前記セラミックモジュールの実際の本体温度が約36℃である場合、前記近似黒体放射温度は、少なくとも38℃である、
ことを特徴とするセラミックモジュール。
【請求項12】
請求項1に記載のセラミックモジュールにおいて、
前記セラミックモジュールは、長方形、円形、円筒形、または球形である、
ことを特徴とするセラミックモジュール。
【請求項13】
請求項1に記載のセラミックモジュールにおいて、
前記セラミックモジュールは、治療される身体部分に取り付けるためのフレキシブル基板に固定される、
ことを特徴とするセラミックモジュール。
【請求項14】
ヒトまたは動物の身体を治療する治療装置で使用されるセラミックモジュールを製造する方法であって、
a)元素周期表の第13族または第14族から選択される第1の元素の少なくとも1つの酸化物を含む第1セットの粉末物質を所定量提供するステップと、
b)元素周期表の第3族~第12族から選択される第2元素の少なくとも1つの酸化物を含む第2セットの粉末状物質を所定量提供するステップと、
c)元素周期表の第1族または第2族から選択される第3の元素の少なくとも1つの酸化物を含む第3セットの粉末状物質を所定量提供するステップと、
d)前記第1、第2、第3セットの粉末物質を結合剤および安定剤と混合するステップと、
e)ステップd)の混合物を860°C以上の温度で焼結して成形品にするステップとを有し、
焼結の結果として、前記成形品は3~16μmの波長スペクトルの遠赤外線放射を放出することができ、
8~14μmの波長範囲における全体的な熱放射は、前記セラミックモジュールの実際の本体温度よりも少なくとも1°Kまたは1°C高い温度での黒体放射として近似され、1.0より大きい実効放射率を示す、
ことを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明分野
本発明は、遠赤外線の照射によりヒトまたは動物の体を治療する治療装置に組み込むためのセラミックモジュールに関する。より具体的には、前記セラミックモジュールは、黒体様熱放射と3~16μmの波長スペクトル内の誘発FIR光子放射を同時に放出して、8~14μmの波長範囲における全体的な熱放射が前記セラミックモジュールの実際の温度よりも少なくとも1°K(または1°C)高い近似黒体温度を持つようにする。前記セラミックモジュールは、ヒトまたは動物の生理学的性能、免疫能力、健康、および平均寿命を向上させるために、単独で使用することも、治療装置の構成要素として機能することもできる。
【背景技術】
【0002】
先行技術の説明
材料の表面の放射率は、熱放射としてエネルギーを放出する際の有効性である。熱放射は、室温での赤外線放射を含む電磁放射である。定量的には、放射率εは、表面から放出される放射エネルギーと、同じ温度で黒体により放出される放射エネルギーとの比率であり、ステファン・ボルツマンの法則によって与えられる。比率は、0から1まで変化する(0<ε<1)。全ての実際の物体は、1.0未満の放射率を有し、放射量もそれに応じて少なくなる。例えば、布、ガラス、炭、コンクリート、磁器、ゴム、砂などの物体は、いずれも0.80~0.98の放射率を有する。
【0003】
遠赤外線(FIR)放射が有望な代替療法になるにつれて、望ましい放射率ε>0.9(つまり、0.9<ε<1.0)を念頭に置いて、金属酸化物で作製された高効率のFIR放出材料の開発に向けて数多くの発明が行われているが、放射率1.0は超えられない仮説上の限界値としてよく知られている。
【0004】
FIR複合物の製造に使用される未加工の酸化物は、通常、酸化と表面処理の程度に応じて、0.2~0.9の固有の放射率を有する。最も一般的に使用されるFIR放出酸化物には、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化マグネシウムなどがある。全ての材料は、焼結によってFIR放射率(輻射率)を向上させることを期待して、特定の形状の複合物を生成するように処理される。焼結に使用される代表的な温度は、材料の融解温度の約2/3である。
【0005】
従来のFIR放出複合物の設計における重要な側面の1つは、放射率を可能な限り1.0に近づけることである。しかしながら、従来技術におけるFIR複合物のほとんどは、全ての構成酸化物を単なるFIR放出酸化物と同一かつ無差別に扱ったため、約0.90~0.95の放射率しか得られなかった(例えば、米国特許第8,285,391号、第9,308,388号、および第9,962,441号の各々が、参照によりその全体が組み込まれる)。1.0よりも高い放射率は、理想的な黒体に割り当てられた理論上の限界値であり到達不可能と一般に考えられているため、どの先行技術でも目標としていない。
【0006】
本発明者は、以前に同様の見解を共有しており、より高い熱放射が必要な場合に加熱を必要とするFIR放出セラミックを使用した(例えば、米国特許第10,610,699号、および米国特許出願第2021/0228903号の両方が、参照によりその全体が組み込まれる)。しかしながら、本発明者は、高効率のFIR放射体としての遷移金属酸化物(TMO)のポテンシャルを発見しており、それらを使用して最終結晶構造のバンドギャップと格子定数を調整することで、3~16μmの波長スペクトルで高い放射率が得られる可能性を見出した。
【0007】
遷移金属酸化物(TMO)
TMOは、おそらく最も興味深い部類の固体の1つであり、様々な構造および特性を示す。TMO内の金属-酸素(M-O)結合の性質は、ほとんどイオン性のものから高度の共有結合または金属性のものまで様々である。TMOの特異な特性は、明らかに外側のd電子の独特な性質に起因している。特に、4s-3d(または5s-4d)遷移は、3~16μmのFIRスペクトルをカバーでき、適切な遷移金属元素を選択することで波長を調整できるため、非常に魅力的であった。しかしながら、これらの遷移は、分光学的な選択規則に基づいて、原子や陽イオンでは電気双極子が禁止されている。従って、如何にして4s-3d(または5s-4d)遷移を有効にして、高放射率FIR複合物を実現するかが重要な課題であった。
【0008】
本発明者は、遷移金属イオンを局所的な不均一電界に置くことによって、結晶構造の対称性を崩して極性構造を作り出すことが可能であることを発見した。そうすることで、電界は、3d(または4d)軌道を、異なる角運動量についてσ、π、δとして指定された、異なるエネルギーの3つのサブレベルに分割し、それにより、4s-σと3d-σの間、4s-σと3d-πの間(または、5s-σと4d-σの間、5s-σと4d-πの間)の電気双極子の遷移が可能になる。
【0009】
遷移金属が、特に周期の左側(Zr、Tiなど)に向かって、非常に低い第1のイオン化ポテンシャルを持っていることを考えると、これらの分子は実際、イオン分子として非常によく近似できる。従って、望ましい分子遷移は、基本的に遷移金属イオンの状態間の遷移であり、TMO分子内の両方のイオン間の静電相互作用(つまり、正のZr2+と負のO2-)によりエネルギーが多少シフトする。
【0010】
一方、局在電界を構築する最も簡単な方法は、正に帯電した金属イオンと負に帯電した酸素アニオン(陰イオン)をグリッド状に配置することである。補助的な遷移金属酸化物を追加して、酸素アニオン(O2+)またはオキソアニオン(SiO4
4-、AlSiO4-)に関して、より正の遷移金属イオン(Cr3+、Ti2+、Ni2+、Co2+、Cu2+)を提供できる。その他のドープされたカチオン(陽イオン)(例えば、Li+、Na+、K+、Mg2+、Ca2+、Zn2+)をグリッドに組み込んで電界を強化することもできる。
【0011】
FIR複合酸化物
上記の知見によれば、望ましいFIRベース酸化物候補は、ジルコニウムに近い4d-σ軌道と5s-σ軌道の交点付近に位置することが明らかである。酸化ジルコニウム(ZrO2)のスペクトルは、望ましい3~16μmのFIRスペクトル領域に、広くて強い帯域系を有しており、他の遷移金属元素の付加によって容易に変更できる可能性があるため、有望である。そこで、本発明者は、高放射率FIR放出セラミック複合物は、(1)ホスト酸化物、(2)FIRベース酸化物、および(3)カチオンドープ酸化物の3つの部分からなる場合にのみ可能であるとの結論に達した。
【0012】
ホスト酸化物 - ホスト酸化物の目的は、意図した不均一電界のための負電荷ネットワークの構築にも寄与する、FIR放出セラミック系のフレームワークを準備することである。そのようなものとして、周期表の第13族および第14族から選択される元素の酸化物が候補に含まれ得る。好ましい酸化物は、(SiO4
4-)負電荷イオンを提供する酸化ケイ素(SiO2)、または(AlSiO4-)オキソアニオンを提供する酸化ケイ素(SiO2)と酸化アルミニウム(Al2O3)の混合物である。更に、カオリン(Al2SiO5)のようなアルミノケイ酸塩鉱物が、シリコン、アルミニウム、および酸素の原子の必要な負電荷ネットワークを提供する代用品として使用され得る。
【0013】
FIRベース酸化物 - FIR放出メカニズムのベース材料として機能する第2セットの酸化物は、第3族~第12族から選択される遷移金属元素を含む遷移金属酸化物である。特に、部分的に満たされた3dまたは4d原子軌道を持つ元素が望ましい。酸化ジルコニウムが特に重要な役割を果たすが、チタン(Ti)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、イットリウム(Y)、またはニオブ(Nb)などの他の元素の酸化物を使用して、FIRスペクトルを微調整することができる。一方、Cr3+、Cu+、Cu2+、Fe2+、Fe3+、Zn2+などのカチオンも、局所電界の正電荷ネットワークの構築に寄与することができる。
【0014】
カチオンドープ酸化物 - 必要な第3セットの酸化物は、カチオンドープ酸化物である。ドーパントは、焼結の促進、機械的特性の改善、構造および光学的特性の変化など、様々な理由で追加される。カチオンドープ酸化物の元素は、第1族(アルカリ金属)または第2族(アルカリ土類金属)から選択することができる。リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、マグネシウム(Mg)、またはカルシウム(Ca)などの元素が好ましい。ドープされたカチオン(例えば、Li+、Na+、K+、Mg2+、Ca2+)を正電荷ネットワークに追加して、局所電界を更に強化することができる。
【0015】
上述したように、3~16μmの波長スペクトル内の特定のスペクトル輝度を持つ有効FIR放出セラミックは、選択的TMOと混合されたケイ酸塩またはアルミノケイ酸塩のホスト基盤で構成され、複合系内の酸素アニオンまたはオキソアニオン基盤に対する拡散カチオンドープ金属元素からの正電荷イオンを囲むことで形成された局所的な不均一電界の影響の下で、遷移金属イオンがFIR放射サイトとして機能する。
【0016】
同様に、意図した目的をより良く果たすために、特定のミネラルを混合物の一部として使用することができる。例えば、カオリナイト、アンダルサイト、カイヤナイト、シリマナイト、ゼオライト、コーディエライトなどは、オキソアニオンを供給するアルミノケイ酸塩の良好な供給源を提供し、ホスト酸化物の一部を置換するために使用することができる。
【0017】
トルマリンは、アルミニウム、鉄、ナトリウム、リチウム、カリウムなどの元素が配合された結晶性ホウ素ケイ酸塩鉱物である。これは酸化物の3つのカテゴリ(ホスト酸化物、FIRベース酸化物、カチオンドープ酸化物)のほぼ全ての元素をカバーするため、最終混合物の一部を置換する有力な候補である。更に、その本質的な焦電特性は、局所電界の効果を強めることもできる。このように、トルマリンは、本発明者によって利用される重要な成分となる(例えば、米国特許第9,388,735号が、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)。
【0018】
合成プロセスには、全ての材料と結合剤および安定剤の混合、研削、乾燥、成形、グリーン加工(生加工)、および焼結が含まれる。結果として得られるFIR放射スペクトルとそのスペクトル強度(放射率、または輻射率)は、選択された酸化物の混合物とそれらの粒子サイズ、焼結温度と加熱過程を組み込んだ合成プロセス、計画された最終生成物の多結晶構造などを含む、これらに限定されない多くの要因に依存する。
【0019】
予想されるFIR放出複合物を実現するために選択され得る前述の要因の様々な組み合わせがある。しかしながら、ホストアルミノケイ酸塩基盤に組み込まれたFIRベース遷移金属酸化物に対するカチオンドープ金属酸化物の正確な効果は、複雑で、予想が難しく、イオンの種類と濃度に依存する。更に、選択された酸化物の混合物と粒子サイズに対してカスタマイズされた合成プロセスは、結果を左右する重要な役割を担っている。
【0020】
焼結
FIR放出複合物に使用される遷移金属酸化物の多くは、860~1830°Cの相転移温度を有する。例を挙げると、ジルコニア(ZrO2)からのFIR放射は、1170°Cでの焼結による単斜晶から正方晶への相転移で、改善および安定化することができる。従って、酸化ジルコニウムが主要TMOに選択された場合、個々の双極子モーメントを整列させるには1200°Cを超える温度での制御焼結が必要となり、これにより仕上げ系のコヒーレントな双極子モーメントが得られ、FIR放射率が大幅に増加する。
【0021】
焼結は、圧縮された粉末粒子から多孔性を除去して固体の塊を形成するのに効果的なプロセスであるが、材料は高温によって促進される拡散によって粒界の細孔に移動する。粒子成長の推進力と動力学は、主に粒子サイズと粒度分布の影響を受ける。細孔は、境界面を形成する空隙に材料が拡散することで収縮する。一般に、温度が高いほど、全ての焼結メカニズムの速度が上がる。粒子成長は表面拡散によって制御されることが多いため、温度が高いほど、粒子成長に比べて高密度化が進むことになる。細孔を除去することで粒子間の接触面積を増やし、粒子の境界でのイオンの拡散と分散を促進する。従って、焼結の加熱速度は、カチオンドープ金属(例えば、Li+、Na+、K+、Mg2+、およびCa2+)からのイオンが再結晶化および方向性粒子成長のために結晶系内で自由に移動できる環境によって決定されるべきである。これは、提案した4s-3d(または5s-4d)軌道の電子遷移に強く影響する局所電界のグリッドを構築するのに役立つ。
【0022】
合成プロセスのパラメータを慎重に設計することで、それに続く混合物は、結晶領域と非晶領域が混在したものを生成できる。各結晶領域は、分子の非対称性により電気双極子モーメントを持つ遷移金属イオンサイトで双極子として働く。構成酸化物とそれに伴う合成プロセスの直接的な結果である分子の非対称性は、双極子モーメントやラポート則に基づく許容分光遷移などの、複合系の化学的特性を決定する。一方、非晶領域は、局所電界のグリッドを確立するのに役立つ。このような本質的な不均一電界が与えられた場合、遷移金属イオン内の4s-σと3d-σの間、4s-σと3d-πの間(または、5s-σと4d-σの間、5s-σと4d-πの間)における電気双極子の遷移が可能になる。
【0023】
FIR放射
FIR放出セラミックシステムでは、微細な運動エネルギーと潜在的粒子エネルギーの拡散交換による温度勾配(つまり、周囲の放射熱の吸収によって引き起こされる温度差)から熱伝達が生じる。その結果、電磁放射を生成する双極子振動が発生し、その周波数νは双極子モーメントの変化に依存し、ΔUdipole=hνである。
【0024】
本発明のセラミックモジュールからのFIR放射には、セラミック表面からの従来の黒体様熱放射と、セラミック本体の内部で発生する本発明の誘発FIR光子放射の2つの部分が含まれる。これらの2つの放射は加算されて、前記セラミックモジュールからの全体的なFIR放射となり、実効放射率が1より大きい(ε>1)ことを特徴とする。
【0025】
FIR放射の第1の部分は、前記セラミックモジュールの表面からの従来の黒体様熱放射である。黒体放射は、その環境で熱力学的平衡状態にある物体の表面での熱電磁放射である。黒体放射は、プランクスペクトルまたはプランクの法則と呼ばれる、本体の温度のみに依存する特徴的な連続周波数(波長)スペクトルを有する。室温での放射のほとんどは、電磁スペクトルのFIR領域にある。前記セラミックモジュールからの黒体様熱放射の部分の放射率は、市販のFTIR分光計で測定すると、約0.90~0.95となる。
【0026】
本発明の重要な特徴であるFIR放射の第2の部分は、前記セラミックモジュール内部の遷移金属イオン内の4s-σと3d-σの軌道間、4s-σと3d-πの軌道間(または、5s-σと4d-σの軌道間、5s-σと4d-πの軌道間)の電気双極子遷移からの誘発FIR光子放射から生じる。エネルギーと波数の許容される状態は、まだ技術的には量子化されているが、多数の原子については、これらの状態が非常に接近しているため、連続していると見なされる。前記セラミックモジュール内部からの誘発FIR光子放射は、第1の部分である通常の黒体様放射に加わり、前記セラミックモジュールからの全体的な熱放射として現れる。
【0027】
黒体放射
先行技術によってFIR複合物の表面から放出される熱放射は全て、プランクの法則に従う黒体放射として近似される。プランクの法則は、物体とその環境の間に正味のエネルギーの流れがない場合にのみ、特定の温度で熱平衡状態にある黒体により放出される電磁放射のスペクトル密度を表す。また、先行技術では、プランク放射は、化学組成または表面構造が何であれ、熱平衡状態にある任意の物体がその表面から放出できる放射の最大量であると考えられている。媒体間の界面を横切る放射線の通過は、界面の放射率によって特徴付けることができるが、自然な界面の放射率は常に0と1の間である(0<ε<1)。
【0028】
しかしながら、光子放射を発生させる原子遷移を許容するFIR複合系に結晶構造が存在する場合、アルバート・アインシュタインによって開発された詳細なバランスの原則に従って、量子力学がより適切な説明を提供する。詳細なバランスの原則は、平衡状態では、各基本プロセスがその逆のプロセスによって平衡化されることを示している。1916年、アルバート・アインシュタインは、2つの特定のエネルギーレベル間の遷移により原子が放射線を放射および吸収する場合に原子レベルでこの原理を適用し、このタイプの放射に対する放射伝達の方程式とキルヒホッフの法則に深い洞察を与えた。
【0029】
光子は、帯電した素粒子間の電磁相互作用のキャリアと見なされる。光子数は保存されず、プランク分布で空洞を満たすように、光子が適切な数および適切なエネルギーで生成または消滅する。熱力学的平衡状態にある理想的な黒体の場合、内部エネルギー密度は、完全に温度によって決定される。これは、内部エネルギーが温度だけでなく異なる分子のそれぞれの数や固有の性質によっても独立して決定される熱力学的平衡状態の場合とは異なっており、異なる分子が独立して異なる励起エネルギーを伝達できるためである。電子密度の経時変化率は、自然放出、誘発放出、光子吸収の3つのプロセスによるものである。
【0030】
アインシュタイン係数として知られる3つのパラメータは、各プロセスにおける2つのエネルギーレベル(状態)間の遷移によって生成される光子周波数νに関連付けられる。スペクトルの各ラインには、関連する係数の独自のセットがある。その結果、誘発放出は、均一な黒体とは対照的な不均一な複合系を注意深く設計することによって実現できる。これが、本発明がTMOを利用して、局所電界の影響下で遷移金属イオン内に誘発FIR光子放出を引き起こす理由である。
【0031】
先行技術のFIR複合物は、個々の酸化物の特性や最終的な複合系における役割に関係なく、全ての成分酸化物をFIR放出酸化物として等しく無差別に扱うことによって製造される。その結果、以前の全てのFIR複合物は、キルヒホッフの法則とプランクの法則の両方に導かれて、均一な結晶構造を持つように処理される。
【0032】
対照的に、本発明は、関係する各酸化物の特性に従ってセラミック複合物を合成し、計画通りに不均一な結晶構造を生じさせる。主に、本発明は、TMOをFIRベース材料として扱い、原材料の混合物を相応に焼結して、遷移金属イオン内の4s-3d(または5s-4d)および関連する混成軌道遷移からの原子放射を可能にする。結晶構造の対称性を破り、本質的に不均一な極性構造を生成する。このように、従来技術による「粉末形態」に対して本発明による「成形品」を選択することの利点は、以下に説明するように自明である。
【0033】
媒体が熱力学的平衡状態に近いポイントでの放射伝達方程式は、以下のように記述できる:
dIν/ds=α(Bν-Iν)
ここで、α=吸収係数、ds=移動距離、Iν=周波数νでの入射ビームの分光放射輝度、Bν(T)=温度T(°K)での熱力学的平衡状態にある物体の表面の分光放射輝度である。
【0034】
放射場が材料媒体と平衡状態にある場合、放射は(位置に関係なく)均一であり、dIν=0、Bν(T)=Iν(T)となり、これはキルヒホッフの法則の別の記述であり、先行技術で教示される。この理解に基づいて、従来技術は、FIR複合物を理想的な均一黒体としてモデル化し、熱力学的平衡状態が維持されるように、熱放射を最大化して、吸収する放射熱を平衡させようとする。しかしながら、この発想は、本発明のように不均一な環境では成り立たない。
【0035】
誘発放出と放射率の測定
一般に、放射率と吸収率はそれぞれ、材料の分子の個別の特性である。それらは、アルバート・アインシュタインによって発見された「誘発放出」として知られる現象により、その場の分子の励起状態の分布によって異なる。
【0036】
材料が局所熱力学的平衡として知られる状態にある場合にのみ、放射率と吸収率が等しくなる。一方、極結晶構造や局所電界などの不均一性を引き起こす要因は、局部熱力学的平衡を乱す可能性がある。不均一な構造は、計画されたセラミックモジュールの放射率を決定する際に、遷移金属元素からの原子放射が熱放射の放出と吸収を上回る可能性があることを示唆しており、dIν/ds=α(Bν-Iν)>0となる。これは、「誘発放出」から発生するFIR光子の数が距離(ds)に依存し、セラミックの厚さ全体にわたって収集できることを意味する。従って、黒体放射の総放射表面積を最大化するために粉末形態を好む従来技術とは対照的に、セラミックモジュールを実用的な厚さの「成形品」として設計することが有益である。
【0037】
セラミックモジュールの特徴的な誘発FIR光子放射を確認するために、VOx(酸化バナジウム)熱画像化装置を使用して8~14μmの波長帯域で熱放射を測定し、その結果を特定の温度での黒体放射として近似し、実際のセラミック本体の温度と比較して、実効放射率を決定することができる。
【0038】
例えば、VOxで測定された近似黒体温度が実際のセラミック本体の温度より3°K(または 3°C)高い場合、実効放射率εは、ステファン-ボルツマンの法則を使用して計算できる:
P=AσεT4
ここで、P=放射電力、A=表面積、T=温度(°K)、σ=ステファン-ボルツマン定数である。
【0039】
室温300°K(27°C)で測定された黒体放射温度が303°K(30°C)のセラミック モジュール本体の場合、実効放射率は、1.04(ε=1.04)と計算される。
【0040】
本発明のセラミックモジュールの背後にある動機は、熱放射が身体の奥深くまで浸透して、実際に体温を上昇させることなく「発熱」状態をシミュレートする「誘発加熱」環境を作り出す、「非加熱」の熱治療装置を提供できるように、1.0より大きい実効放射率を有するFIR放射源を探求することである。より明確には、前記セラミックモジュールは、治療中の身体の実際の温度よりも少なくとも1~3°C高い有効温度での黒体様放射を提供する。
【0041】
「発熱」状態
発熱は、病気や感染症の単なる症状ではない。体温が上昇すると、免疫システムを調節する一連のメカニズムが動き出す。健康なときの体温は、37°C(98°F)前後に留まる傾向がある。微熱は、体温がわずかに1°C上昇して約38°C(100°F)になることであり、大幅に3°C上昇して約40°C(104°F)になることは「高熱」とみなされる。
【0042】
体温の上昇は、免疫システムがウイルスや細菌に対して適切な行動を取るようにする細胞メカニズムを引き起こす。体温が高くなると、必要に応じて、身体の免疫反応を担う遺伝子のオンとオフを切り替える特定のタンパク質の活動が促進される。核因子カッパB(NF-κB)と呼ばれるシグナル伝達経路は、感染や疾患の状況における身体の炎症反応において重要な役割を果たす。NF-κBは、遺伝子の発現の統制や特定の免疫細胞の産生を助けるタンパク質である。これらのタンパク質は、システム内のウイルスや細菌分子の存在に反応し、免疫応答に関連する関連遺伝子のオンとオフを細胞レベルで切り替え始める。
【0043】
温熱療法技術は、身体の一部の体温を、規定の時間、通常よりも上昇させる手順であり、低温温熱療法(例えば、40°Cで、6時間)や中温温熱療法(42~45°Cで、15~60分)が含まれる。それにもかかわらず、研究者は、温熱療法技術は、深さ1cmで平均3.8°C、3cmでは0.78°Cしか上昇しないことを発見した。筋肉の浅部での3.8°Cの上昇は注目に値するが、深さ3cmでの0.78°Cの変化は臨床的には些細なことである。脂肪組織は優れた断熱材であるため、対象組織上のほぼ全ての量の脂肪が表面的な加熱を無意味なものにする。
【0044】
体温の上昇は、細菌の増殖の抑制やホスト防御機構の刺激など、プラスの効果をもたらす。発熱は、白血球の移動性の増加、白血球の食作用の増強、エンドトキシンの減少、T細胞の増殖の増加など、様々な方法で治癒プロセスを支援すると言われている。もちろん、心拍数、酸素消費量、および代謝の増加などの悪影響も伴う。これがまさに、局所領域の深部組織治療のための「浸透熱」による全てのプラスの効果を提供するが、全身の温度上昇に伴うマイナスの効果を回避する、本発明のFIR治療装置が必要とされる理由である。
【0045】
また、人体は37°Cの黒体放射に関連する9.4μmの波長で共振するという説も一般的である。残念ながら、38~40°Cで身体が共振して重要な生物学的効果を実現することを支援する非加熱FIRデバイスを提供し得る、先行技術で教示されるFIR技術は存在しない。本発明のセラミックモジュールは、身体全体の温度を上昇させることなく、体内の深部の局所領域で1~3°Cの温度上昇を伴う効果をもたらす可能性を提供する。
【0046】
生化学反応速度
更に、FIR光子は、体内の分子に吸収され、分子振動を引き起こす。その結果、化学反応の反応分子は内部エネルギーを増加させ、反応が起こるのに必要な活性化エネルギーを減少させる。従って、以下に説明するアレニウスの式によって支配されるように、反応速度を大幅に高めることができる。
k=A exp(-EA/RT)
ここで、kは速度定数であり、A=前指数因子、EA=活性化エネルギー、R=ガス定数、T=温度(°K)である。
【0047】
温度(T)が上昇すると、反応速度(k)も上昇する。室温付近で起こる多くの反応の大まかな概算では、温度が10°C(または10°K)上昇する毎に反応速度は2倍になる。
【0048】
しかしながら、1~3°Cのわずかな温度上昇は、化学反応速度に与える影響はごくわずかである。それよりも、セラミックモジュールから放射されるFIR光子は、反応温度Tを上昇させるよりもむしろ活性化エネルギーEAを低下させることにより、反応速度を更に高めることができる。
【0049】
例を挙げると、過酸化水素(H2O2)分子内の酸素-酸素(O-O)結合は、波長11.41μmのFIR光子を吸収して伸縮振動を発生させることができる。対応するエネルギーは約10.5KJであり、式:E(KJ)=120KJ/λ(μm)によって与えられる。
【0050】
過酸化水素から水と酸素への還元反応は、次のように表すことができる:
2H2O2(aq)→2H2O(1)+O2(g)
ここで、エンタルピー:-196.1kJ/molである。
【0051】
反応の活性化エネルギーは、触媒の非存在下で約75kJ/molである。(血液中に見られる)カタラーゼ酵素は、活性化エネルギーを23kJ/mol未満に下げる可能性があり、生理学的温度での反応速度が約6×108倍に増加することに相当する。10.5KJの放射エネルギーを持つ、波長11.41μmの光子を吸収すると、活性化エネルギーは更に12.5kJ/mol以下に低下し、これは反応速度が合計で4×1010倍に増加したことに相当し、カタラーゼ酵素を単独で用いた場合よりも更に約100倍も増加することを表す。
【0052】
過酸化水素は、ヒトや動物の好気性細胞における正常な酸素代謝の副産物である。全ての生物は、H2O2を水と酸素に分解するペルオキシダーゼやカタラーゼ酵素を持っている。しかしながら、H2O2の継続的な生成は、ミトコンドリアマトリックスと細胞質ゾルの両方で、有害で生体システムに負担として作用する、活性酸素種(ROS)の濃度の増加に寄与する。スーパーオキシドおよびH2O2は、ROSの主な発生源である。リポ多糖類(LPS)などの様々な炎症性刺激は、ROSの産生の上昇を通じてヒトの病気を引き起こすと考えられている。従って、本発明は、波長5.95μmでH2O2分子内のO-H結合の屈曲を生じさせ、11.41μmでO-O結合の伸長を生じさせるFIRを照射することで、H2O2の還元の反応速度を著しく増加させることによって、ROSをブロックする治療効果を提供する。
【0053】
同様のシナリオは、反応速度の増加が有効な場合に、化学反応を伴うヒトや動物の体の全ての活動に対して適用することもできる。実際、体内のほとんど全ての生物学的または生化学的効果は、化学反応によるものである。地球上の全ての生命体には、生命に不可欠な、4種類の主要な有機高分子が存在する。それらは、タンパク質、脂質、炭水化物、およびDNA/RNAであり、それぞれ、アミノ酸、脂肪酸、糖残基、および核酸塩基から加工される。全ての加工物は、水の加水分解で生じる。
【0054】
加水分解は、水分子(H2O)が1つまたは複数の化学結合を切断する任意の化学反応である。生物学的加水分解は、生体分子(タンパク質、脂肪、炭水化物、多糖類など)の切断であり、水分子が消費されて、より大きな分子が構成要素に分離される。水分子および反応物へのFIR照射は、分子振動を引き起こして活性化障壁を低下させ、これにより反応速度を大幅に向上させて、加水分解の効率を向上させることができる。
【0055】
例えば、ATP(アデノシン三リン酸)は、細胞内でエネルギーを運ぶ分子である。全ての生細胞は、マイクロ分子と高分子の生合成と、細胞膜を横切るイオンと分子の能動輸送という2つの主な目的のために、エネルギーの継続的な供給を必要とする。人体では、栄養素の酸化に由来するエネルギーは直接使用されないが、特別なエネルギー貯蔵分子であるATPに送られる。
【0056】
ATPをADPと無機リン酸塩(Pi)に加水分解すると、30.5kJ/molのエンタルピーが放出され、自由エネルギーの変化は3.4kJ/molである。ATPのFIR吸収帯には、9.75~11.48μmでのP-O-P結合伸長と、8.33~9.09μmでのP=O結合伸長とが含まれる。FIR光子の吸収は、反応プロセスに約11~15KJ/mol寄与する可能性があり、反応速度を容易に100倍に高めることができる。
【0057】
FIR照射の影響下で、ATPの加水分解は、筋収縮、神経インパルス伝播、化学合成など、生細胞の多くのプロセスを駆動するためのエネルギーを効果的に提供できる。ATPに由来するエネルギーが増加すると、細胞はより効率的に機能し、自らを活性化し、損傷を修復することができる。
【0058】
身体に十分なATPがあると、臓器系間の効果的な情報伝達、DNAとRNAの合成、化学物質の細胞内外への輸送、必須タンパク質の生成、および細胞や生物の生存に必要な他の多くの重要なプロセスが可能となる。
【0059】
ATPは、細胞内の必須エネルギー源であることに加えて、細胞間の重要なメッセージを伝達し、細胞コミュニケーションのシグナル伝達経路で使用される。例えば、細胞は、増殖、代謝、特定のタイプへの分化、更には死滅するように、シグナルが与えられ得る。ATPは、身体の自然な癌と戦うツールの1つである。ATPシグナル伝達は、一部は腫瘍細胞のアポトーシスを促進し、一部は細胞分化を促進するように作用して、腫瘍細胞の増殖を遅らせる。研究室での研究によれば、前立腺癌、乳癌、結腸直腸癌、卵巣癌、食道癌、黒色腫細胞などの腫瘍の増殖をATPが阻害できることが示された。
【0060】
上記で開示したように、FIR放射への曝露は、化学反応速度を改善し、体内の重要な分子の生化学的挙動を変化させ、ヒトの健康を改善する珍しい機会を提供することができる。この新しい発見は、本発明によって提案されるように、信頼性が高く、持続的で、高効率なFIR放射源の必要性を促している。
【0061】
目的および利点
従って、本発明の1つの目的は、3~16μmの波長スペクトル内のFIR放射を放出するセラミックモジュールを提供することである。
【0062】
本発明の別の目的は、1より大きい実効放射率で8~14μmの波長スペクトル内のFIR放射を放出するセラミックモジュールを提供することである。
【0063】
本発明の別の目的は、ヒトや動物の健康状態を治療される身体の温度を上昇させずに効果的に改善するために、身体全体の温度を上昇させずに体内の深部の局所領域で約1~3°Cの温度上昇をシミュレートする、治療装置に組み込むためのセラミックモジュールを提供することである。
【0064】
本発明の別の目的は、プラスの生物学的効果のために治療される体内の関連する化学反応の反応速度を改善する、治療装置に組み込むためのセラミックモジュールを提供することである。
【0065】
また、本発明の別の目的は、治療を必要とするヒトや動物の身体の任意の部分に柔軟に取り付けることができる、単純で、使いやすく、メンテナンス不要の治療装置を提供することである。
【0066】
これらの目的は、黒体様熱放射と3~16μmの波長スペクトル内の誘発FIR放射を同時に放出するセラミックモジュールによって達成され、8~14μmの波長スペクトル内でFIRを放出するセラミックモジュールから予想されるより大きい実効放射率を有する。前記セラミックモジュールには、ホスティング、FIR放射、カチオンドーピングなどの、FIR複合系における異なる役割のために選択された酸化物の粉末の混合物から本質的に作製された成形セラミック物品が含まれる。前記セラミックモジュールは、柔軟な取り付け手段に固定され、治療を必要とする身体部分のすぐ近くに配置され得る。
【0067】
本発明の他の目的、特徴、および利点は、以下の説明から当業者に明らかになるであろう。
【発明の概要】
【0068】
本発明によれば、セラミックモジュールは、ホスト酸化物、FIRベース酸化物、およびカチオンドープ酸化物を含む、選択された酸化物の3セットの粉末の混合物を含み、前記混合物は、860°Cを超える温度で結合剤と共に焼結されて、黒体様熱放射と3~16μmの波長スペクトル内の誘発FIR放射を同時に放出する成形セラミック物品となり、特に8~14μmの波長範囲で1より大きい実効放射率を有し、誘発される仮想発熱状態に基づいてヒトまたは動物の身体の健康状態を改善する効果的な手段を提供するだけでなく、プラスの生物学的効果につながるFIR光子の吸収によって体内の化学反応速度を改善する。
【図面の簡単な説明】
【0069】
図1は、本発明の第1実施形態の斜視図であり、球体の形状のセラミックモジュールを示している。
図2は、本発明の第2実施形態の斜視図であり、円形板の形状のセラミックモジュールを示している。
図3は、本発明の第3実施形態の斜視図であり、長方形板の形状のセラミックモジュールを示している。
図4は、本発明の第4実施形態の斜視図であり、部分円筒体の形状のセラミックモジュールを示している。
図5は、本発明の第5実施形態の上面斜視図であり、治療される身体部分に取り付けるためのフレキシブル基板に固定された複数のセラミックモジュールを示しており、各セラミックモジュールは身体に面する凹面を有している。
図6は、
図5の実施形態の底面斜視図であり、凹型セラミックモジュールを収容するポケットを示している。
【0070】
(符号の説明)
11 セラミックモジュール
21 基板
22 ポケット
【発明を実施するための形態】
【0071】
(発明の詳細な説明)
本発明は、本発明の1つ又は複数のセラミックモジュールを含む治療装置であり、治療装置は、黒体様熱放射と3~16μmの波長範囲内の誘発FIRを放出する。
【0072】
各前記セラミックモジュールは、ホスト酸化物、FIRベース酸化物、およびカチオンドープ酸化物を含む、3セットの酸化物粉末の混合物で作製されており、粉末の各セットは、最終的なFIR複合系で自身に割り当てられた役割を持つ。
【0073】
ホスト酸化物のセットは、局所電界の負電荷ネットワークの構築にも寄与する前記セラミックモジュールのフレームワークを準備するために使用される。特に、周期表の第13族および第14族の元素の酸化物は、ホスト酸化物のために使用され得る。本発明の少なくとも1つの実施形態では、シリコン、アルミニウム、および酸素の原子の負電荷ネットワークの基盤の確立を助けるために、シリコン酸化物(SiO2)と酸化アルミニウム(Al2O3)を使用してSiO4
4-とAlSiO4-のオキソアニオンを提供する。
【0074】
FIRベース酸化物のセットは、FIR光子放出のベース材料として機能する。特に、第3族~第12族の中から選択される遷移金属元素、特に部分的に満たされた3dまたは4d原子軌道を持つ元素の酸化物が、FIRベース酸化物として使用され得る。本発明の少なくとも1つの実施形態では、酸化ジルコニウム(ZrO2)および/または酸化チタン(TiO2)が、FIRベース酸化物として使用される。更なる実施形態では、酸化ジルコニウムおよび/または酸化チタンを大部分として含むFIRベース酸化物のセットは、FIR光子放射スペクトルを微調整するために、少部分としてクロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、イットリウム(Y)、ニオブ(Nb)なども含み得る。
【0075】
カチオンドープ酸化物のセットは、局所電界をサポートする正電荷ネットワークを形成するために複合系に追加される。特に、カチオンドープ酸化物は、第1族(アルカリ金属)または第2族(アルカリ土類金属)の酸化物を含み得る。本発明の少なくとも一実施形態では、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)などの元素の酸化物が使用され得る。
【0076】
適切な酸化物を選択した後、治療装置で使用するモジュールに加工する必要がある。このプロセスには、3セットの酸化物の全てと結合剤および安定剤の混合、研削、乾燥、成形、グリーン加工(生加工)、および焼結が含まれる。その後のFIR放射スペクトルとそのスペクトル強度(つまり、所定の波長の光子の放射率)は、焼結温度および加熱過程、指定された加熱速度および冷却速度、誘発FIR光子放出を可能にする意図された多結晶構造など、多くの要因に依存する。
【0077】
前記セラミックモジュールの製造に使用される酸化物の多くは、860~1830°Cの範囲の相転移温度を有する。例えば、FIRベース酸化物としてジルコニア(ZrO2)が選択された場合、1170°Cの温度で焼結することにより、単斜晶系から正方晶系への相転移で安定化することができる。ただし、焼結温度は、構成粉末の粒子サイズと加熱過程にも依存しており、実験的に決定する必要がある。
【0078】
一般に、大きい粒子(>200nm)は、焼結中の主要な拡散メカニズムが粒子サイズと形状の両方によって変化する可能性があるため、反応させるにはより高い温度が必要である。更に、粒子成長の動力学も、粒子サイズ分布の影響を受ける。分布が大きい場合、小さい粒子と大きい粒子の間の圧力差が非常に大きくなり、その結果、小さい粒子を犠牲にして大きな粒子が成長する速度は、分布が狭い場合よりもはるかに速くなる。したがって、粉末サイズの分布が狭く(例えば、ナノ粉末の場合は約100~200nm、ミクロン粒子の場合は約1~10μm)、1240°C前後の焼結温度であることが好ましい。
【0079】
通常、温度が高いほど、焼結メカニズムの速度が速くなる。例えば、温度が高いほど、界面拡散に比べて体積拡散が加速する。粒子成長は表面拡散によって制御されることが多く、高密度化は体積拡散または粒界拡散によって制御されるため、温度が高いほど粒子成長に比べて高密度化が進むことが多い。界面拡散メカニズムは体積拡散よりも好ましいので、所定の加熱速度で、幾つかのステップに分割された加熱過程を使用する必要がある。本発明の少なくとも1つの実施形態では、2°C/分の加熱速度が使用される。
【0080】
このようなガイドラインにもかかわらず、ホスト酸化物構造のFIRベース酸化物に対するカチオンドープ金属酸化物の正確な効果は予測が難しく、イオンの種類と濃度に依存する。材料構造に対する高温での熱加熱の影響を観察するために多数の実験が行われ、実験サンプルが様々な加熱過程を受けた。この実験を通じて、混合物が適切な数のホスト酸化物、FIRベース酸化物、およびカチオンドープ酸化物を含む限り、放射率は各セットの構成酸化物の選択よりも合成プロセスによって強く影響を受けることが判明した。
【0081】
合成パラメータを慎重に選択することで、結晶領域と非晶領域が混在したセラミック複合物が作り出される。ジルコニウム-酸素(Zr-O)サイトの各結晶領域は、5s-σと4d-σの間、または5s-σと4d-πの間の電子遷移を可能にする分子の非対称性により、双極子として機能する。3~16μmの波長スペクトル内の誘発FIR光子が生成されるが、スペクトル周波数と放射率は、他の遷移金属イオンの存在や、カチオンドープ金属イオンとオキソアニオンによって形成される局所電界の影響を受ける。
【0082】
本明細書に開示されるように準備された、本発明のセラミックモジュールは、前記セラミックモジュールの実際の本体温度よりも少なくとも1°Kまたは1°C高い温度で黒体放射として近似できる、黒体様熱放射と誘発FIR光子放射の両方を含む全体的なFIR放射を有し、実効放射率が1.0より大きいこと(ε>1.0)を示す。
【0083】
図1~
図3は、様々な形状の本発明の3つの別々の実施形態を示しており、
図1では、セラミックモジュール11は球体として成形され、
図2では、セラミックモジュール11は円形板として成形され、
図3では、セラミックモジュール11は長方形板として成形されている。
【0084】
本発明のセラミックモジュール11は、特定の用途に応じて、様々な形状およびサイズに形成することができる。少なくとも1つの実施形態では、IR放出素子は、形状が円形であってもよく、厚さが1~10mmで、直径が2~50mmの円形であってもよい。別の実施形態では、IR放出素子は、厚さが1~10mmで、2×3mmの長方形から40×50mmの長方形の寸法を有する、長方形であってもよい。長方形や円形のセラミックは、一般的に他の形状よりも製造が容易である。
【0085】
それにもかかわらず、セラミックモジュール11を凹形状に形成することが有利な場合がある。理解できるように、各セラミックモジュール11は、表面から黒体様熱放射を放出し、物体の内部から誘発FIR光子放射を全方向に放出する。凹状面は、治療装置の表面から離れた領域またはポイントにセラミックモジュールによって放出される放射線を集束させるのに役立つと予想される。集束された放射線は、平らな表面を持つセラミックからの集束していない光線よりも少ない減衰で身体に浸透し、それにより、同様の質量および寸法の平らなセラミックと比較して治療効果が高まる。凹状面は、半球、ボウル形、または部分円筒体など、様々な形状をとり得る。
図4は、本発明の一実施形態を示しており、セラミックモジュール11が部分円筒形状を有している。
【0086】
図5は、本発明の好ましい実施形態を示しており、シリコン(ポリジメチルシロキサン)、硫化亜鉛、塩化ナトリウム、臭化カリウム、または同様の材料から作製できる基板21に複数のセラミックモジュール11が埋め込まれている。基板21は、多数のポケット22を含む略平坦なシートであり、ポケット22は、セラミックモジュール11を収容するような寸法の湾曲した突出部である。
図6は、治療される身体部分とは反対側に向けられる、基板21の裏面を示している。この実施形態では、全てのセラミックモジュール11が同じ寸法を有するので、全てのポケット22は同じ寸法を有する。しかしながら、他の実施形態では、ポケット22は、様々なセラミックモジュール11の特定の用途または配置に合うように、異なるサイズまたは形状を有してもよい。
【0087】
また、
図5のセラミックモジュール11、部分円筒形状を有している。部分円筒形状のセラミックモジュールは、治療される身体部分に凹面が向くように配置される。この構成は、装置の表面から約1インチ上にFIR放射を集束させるのに役立つ。使用中に装置を身体に密着させると、放射線は体組織内の約1インチの深さに集束するため、身体内の放射線効果が大幅に高まる。
【0088】
これまでに説明した本発明の実施形態は、パッシブな装置である。セラミックモジュール11は、周囲の放射熱を吸収し、その熱をFIR光子に変換する。セラミックモジュール11からのFIR放射は、周囲温度が絶対零度(すなわち、0°Kまたは-273°C)より高い場合はいつまでも持続する。当然ながら、体温がセラミックモジュール11の自然熱源となって遠赤外線を放出する。
【0089】
実験では、セラミックモジュールを、I.D.(内径)15mm、O.D.(外径)30mmで、長さ12mmの円筒管を円周りに1/3に切り取った形状に作成した。セラミックモジュールの特定のスペクトル輝度を、3~16μmの波長スペクトルをカバーするように測定した。更に、黒体様熱放射と波長8~14μmの誘発FIR光子放射を合計した熱放射を測定し、温度39°Cの黒体放射として近似したが、前記セラミックモジュールの実際の本体温度は36°Cに過ぎず、3°Cの仮想温度上昇を示しており、実効放射率が1.04より大きいこと(ε>1.04)を意味する。
【0090】
全ての実験サンプルを、
図5に示すようにアレイ状で配置し、ポリスルフィドゴム成形複合物で固定した。凹面側が、治療する身体に向くように配置した。体内への浸透深さは約1インチと予想される。体内に吸収されたFIR光子放射は、血液循環によって体内を運ばれ、健康に有益な影響を与えると考えられる。このような効果は、仮想的な3°Cの温度上昇によりシミュレートされた「発熱」状態の直接的な結果であり、生物学的または生化学的効果のための化学反応に関与する反応体生体分子による誘発FIR光子放射の吸収がもたらす化学反応速度の向上である。
【0091】
本発明の装置は、創傷治癒、以前に損傷した細胞の修復・成長、および幹細胞の増殖に関して、実験動物実験および臨床試験において、対照のものに比べて、有望な結果が観察された。 臨床試験の予備結果では、潰瘍、疼痛、過敏性腸症候群、クローン病、および、外傷性脳損傷、脳卒中、認知症、アルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)などの神経変性疾患の治療に対するプラスの効果も示されている。
【0092】
(結論、影響、および範囲)
本発明によれば、ヒトまたは動物の体を治療するためのセラミックモジュールは、黒体様熱放射と3~16μmの波長スペクトル内の誘発FIR光子放射を同時に放出することができ、放射の全体が合計されて実効放射率が1より大きくなる(ε>1.0)。前記セラミックモジュールは、ヒトまたは動物の生理学的性能、免疫能力、健康、および平均寿命を向上させるために、単独で使用することも、治療装置の構成要素として機能することもできる。
【0093】
以上、本発明について説明した。上記の教示に照らして、本発明の多数の変更および変形が可能であることが明らかである。そのような変形は、本発明の思想および範囲から逸脱するものとは見なされず、当業者に明らかな全てのそのような修正は、以下の特許請求の範囲内に含まれる。
【外国語明細書】