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特開2023-55656エンジンからの排気ガス内のNOx排出物を変換するためのEATS
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  • 特開-エンジンからの排気ガス内のNOx排出物を変換するためのEATS 図1
  • 特開-エンジンからの排気ガス内のNOx排出物を変換するためのEATS 図2
  • 特開-エンジンからの排気ガス内のNOx排出物を変換するためのEATS 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023055656
(43)【公開日】2023-04-18
(54)【発明の名称】エンジンからの排気ガス内のNOx排出物を変換するためのEATS
(51)【国際特許分類】
   F01N 3/08 20060101AFI20230411BHJP
   F01N 3/18 20060101ALI20230411BHJP
   B01D 53/94 20060101ALI20230411BHJP
【FI】
F01N3/08 B ZAB
F01N3/18 D ZHV
B01D53/94 222
B01D53/94 400
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022151524
(22)【出願日】2022-09-22
(31)【優先権主張番号】21200772.8
(32)【優先日】2021-10-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】512272672
【氏名又は名称】ボルボトラックコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100168642
【弁理士】
【氏名又は名称】関谷 充司
(74)【代理人】
【識別番号】100169018
【弁理士】
【氏名又は名称】網屋 美湖
(74)【代理人】
【識別番号】100217076
【弁理士】
【氏名又は名称】宅間 邦俊
(72)【発明者】
【氏名】イルマン・スヴラカ
(72)【発明者】
【氏名】ダン・ステンクヴィスト
(72)【発明者】
【氏名】マルティン・ウィルヘルムソン
(57)【要約】      (修正有)
【課題】冷間始動時におけるNOx排出物を低減すること。
【解決手段】排気ガス用の流路をもたらすための流体通路40と、流体通路40内に配置された選択触媒還元SCR触媒32であって、アンモニアを蓄えるように構成される、SCR触媒32と、アンモニアをSCR触媒32に供給するために還元剤を噴射するように構成された噴射装置34であって、SCR触媒32の上流に配置される、噴射装置34と、エンジンが停止している時に流体通路40の少なくとも一部に流体流れを誘発させるように構成された流体流れ誘発装置56,58と、還元剤を流体通路40内に噴射し、誘発された流体流れによって還元剤をSCR触媒32内に運び、アンモニアをSCR触媒32内に蓄えることによって、エンジン始動前に事前調整するように構成された制御装置17と、を備える。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン(15)からの排気ガス内のNOx排出物を変換するための排気後処理システムEATS(20)であって、
-排気ガス用の流路をもたらすための流体通路(40)と、
-前記流体通路内に配置された選択触媒還元SCR触媒(32)であって、アンモニアを蓄えるように構成される、SCR触媒と、
-アンモニアを前記SCR触媒に供給するために還元剤を噴射するように構成された噴射装置(34)であって、前記SCR触媒の上流に配置される、噴射装置と、
-前記エンジンが停止している時に前記流体通路の少なくとも一部に流体流れを誘発させるように構成された流体流れ誘発装置(56,58)と、
-前記還元剤を前記流体通路内に噴射し、前記誘発された流体流れによって前記還元剤を前記SCR触媒内に運び、アンモニアを前記SCR触媒内に蓄えることによって、エンジン始動前に前記EATSを事前調整するように構成された制御装置(17)と、
を備える、EATS。
【請求項2】
前記還元剤を加熱するための加熱機構(50,52,53)を更に備え、前記制御装置(17)は、前記加熱機構によって前記還元剤を加熱するように構成される、請求項1に記載のEATS。
【請求項3】
前記加熱機構(50,52)は、前記噴射装置の上流において前記流体通路内に配置され、前記加熱機構を通る前記誘発された流体流れを加熱し、又は前記加熱機構(53)は、前記還元剤の噴射の前に前記還元剤を加熱するように配置される、請求項2に記載のEATS。
【請求項4】
前記加熱機構(50,52,53)は、電気加熱要素又はバーナから構成される、請求項1-3のいずれか1つに記載のEATS。
【請求項5】
前記流体流れ誘発装置(56)は、ファン又はコンプレッサである、先行する請求項のいずれか1つに記載のEATS。
【請求項6】
前記流体流れ誘発装置(58)は、圧縮ガス源(60)と前記圧縮ガス源からの圧縮空気を前記流体通路内に放出するように構成された弁(61)とを備える、請求項1-4のいずれか1つに記載のEATS。
【請求項7】
前記流体流れ誘発装置(56,58)は、前記噴射装置の上流に配置される、先行する請求項のいずれか1つに記載のEATS。
【請求項8】
エンジン(15)からの排気ガス内のNOx排出物を変換するように構成された排気後処理システムEATS(20)の少なくとも一部を事前調整するための方法であって、前記EATSは、排気ガス用の流路をもたらすための流体通路(40)と、前記流体通路内に配置された選択触媒還元SCR触媒(32)であって、アンモニアを蓄えるように構成される、SCR触媒とを備える、方法において、
-還元剤を前記流体通路内に噴射すること(S10)と、
-前記流路の少なくとも一部に流体流れを誘発させ、前記還元剤を前記SCR触媒内に運び、アンモニアをSCR触媒内に蓄えること(S30)と、
を含む、方法。
【請求項9】
前記事前調整は、前記SCR触媒に蓄えられるアンモニアが所定レベルに達するように行われる、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記EATSは、アンモニアを前記SCR触媒に供給するために還元剤を噴射するように構成された噴射装置(34)と、前記流体流れを誘発させるように構成された流体流れ誘発装置(56,58)とを備え、前記流体流れ誘発装置は、前記噴射装置の上流に配置される、請求項8-9のいずれか1つに記載の方法。
【請求項11】
前記還元剤を加熱すること(S20,S5)を更に含む、請求項8-10のいずれか1つに記載される方法。
【請求項12】
前記EATSは、前記還元剤を加熱するための加熱機構(50,52,53)を備え、前記加熱機構(50,52)は、前記噴射装置の上流において前記流体通路内に配置され、前記方法は、前記加熱機構及び前記噴射装置を通る前記誘発された流体流れを加熱することによって、前記還元剤を加熱すること(S20)を含み、前記加熱機構(53)は、前記還元剤を加熱するように配置され、前記方法は、前記還元剤を噴射すること(S10)の前に前記還元剤を加熱すること(S5)を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
排気後処理システムEATS(20)を備える車両(1)のための制御装置(17)であって、請求項1-7のいずれか1つに記載の前記EATSに請求項8-12のいずれか1つに記載の方法のステップを行うことを指示するように構成される、制御装置。
【請求項14】
請求項1-7のいずれか1つに記載の排気後処理システムEATS(20)、又は請求項13に記載の制御装置を備える車両(1)。
【請求項15】
コンピュータプログラムであって、前記プログラムがコンピュータに実装された時に請求項1-7のいずれか1つに記載のEATS(20)に請求項8-12のいずれか1つに記載の方法のステップを実行させる指令を含むプログラムコード手段を含む、コンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンからの排気ガス内のNOx排出物を変換するための排気後処理システムEATS、及びEATSの少なくとも一部を事前調整するための方法に関する。更に、本発明は、車両のための制御装置、車両、及びコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
車両は、典型的には、車両を推進するためのエンジンを備える。エンジンは、例えば、液体燃料又は気体燃料によって動力供給される内燃エンジンであってもよいし、又は電気によって動力供給される電気機械であってもよい。更に、車両が内燃エンジン及び電気機械の両方によって推進されるハイブリッド解決策も存在する。
【0003】
エンジンがディーゼルエンジンのような燃焼エンジンである場合、エンジンからの排出物を処理するために、車両に排気後処理システムEATSを備えるのが一般的である。ディーゼルエンジン用のEATSは、典型的には、以下の構成要素:ディーゼル酸化触媒DOC、ディーゼル微粒子捕集フィルターDPF、及び選択触媒還元SCR触媒の1つ又は複数を備える。還元剤、例えば、尿素又はアンモニア含有物質が典型的にはSCR触媒の上流に噴射され、触媒の働きによってNOとも呼ばれる窒素酸化物を二原子窒素N、水、及び場合によっては(還元剤の選択に依存して)二酸化炭素COに変換するのを助長する。次いで、浄化された又は少なくとも排出物が低減された排気ガスは、EATSを出て、車両の尾管を通って車両から排出される。ディーゼルエンジンと同様の排出物を少なくとも部分的に生じる他の形式のエンジンが、同一又は同様のEATSを利用してもよい。
【0004】
政府規制は、車両の燃費向上に対する絶え間ない要求と共にEATSのより効率的な運用が必要であることを示唆している。例えば、EATSは、排気ガスの温度が低いエンジンの極低負荷時及び冷間始動時においても急速に暖められ、高変換効率を有しなければならない。また、厳しいCO要件を満たすための極めて効率的なエンジンの必要性が排気ガスの温度をより低くし、エンジンから排出されるNOxレベルをより高くし、そのために、SCR触媒の上流に多量の還元剤を噴射する必要がある。更に、尿素を還元剤として用いる時、尿素を蒸発させて加水分解によってアンモニアを生じさせるために、尿素を加熱する必要がある。例えば、もしエンジンの冷間始動中に尿素の温度が低いなら、大きなリスク、具体的には、EATSの効果を低下させる結晶化及び堆積物を生じるリスクを伴う。
【0005】
エンジン始動前に、EATSは、事前調整されるとよい。いくつかの例では、エンジンからの排気ガスを処理するために、EATSの作動前にEATSの構成要素又はサブシステムを加熱してその作動温度近くまで昇温させることによって、EATSの事前調整が行われる。EATSのこのような熱的な事前調整は、エネルギーを必要とする。更に、EATSは、互いに熱的に結合された構成要素を備える車両の大きな熱緩衝物を構成するので、供給される熱が予期されるよりもEATSの他の構成要素に分散かつ伝達され、比較的低精度の熱的な事前調整しか行われないことがある。また、もし熱的な事前調整があまりにも早急に行われたなら、すなわち、エンジン始動と比べて比較的早急に行われたなら、熱損失によって事前調整の効率が低下する可能性がある。従って、車両の排出物を低減するために、EATSの改良された事前調整が業界において必要とされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、周知の排気後処理システムに関する前述の欠点を少なくとも部分的に軽減すること、及び排気後処理システムの少なくとも一部の事前調整を改良することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様によれば、エンジンからの排気ガス内のNOx排出物を変換するための排気後処理システムEATSが提供される。このEATSは、
-排気ガス用の流路をもたらすための流体通路と、
-流体通路内に配置された選択触媒還元SCR触媒であって、アンモニアを蓄えるように構成される、SCR触媒と、
-アンモニアをSCR触媒に供給するために還元剤を噴射するように構成された噴射装置であって、SCR触媒の上流に配置される、噴射装置と、
-エンジンが停止している時に流体通路の少なくとも一部に流体流れを誘発させるように構成された流体流れ誘発装置と、
-還元剤を流体通路内に噴射し、誘発された流体流れによって還元剤をSCR触媒内に運び、アンモニアをSCR触媒内に蓄えることによって、エンジン始動前にEATSを事前調整するように構成された制御装置と、
を備える。
【0008】
これによって、SCR触媒は、有利に事前調整される。すなわち、SCR触媒は、少なくともSCR触媒内に蓄えられるアンモニアを増大させるように事前調整され、これによって、エンジン始動時の排気ガス内のNOx排出物の変換を改良することができる。典型的には、SCR触媒がエンジン始動前に事前調整されるので、冷間始動排出物に関連するNOx排出物が低減される。冷間始動排出物は、典型的に、エンジンの冷間始動の結果として排気ガス内に望ましくない化合物(例えば、NOx、微粒子、及びCO又は未燃HC)を含み、本開示に記載されるようにEATSを事前調整することによって、このような冷間始動排出物を低減することができる。これによって、冷間始動排出物を低減し、排出物が低減した排気ガスを、尾管を通してEATSから放出することができる。典型的には、エンジンが車両に含まれるので、排出物が低減した排気ガスを車両の尾管を通してEATSから放出することができる。
【0009】
少なくとも1つの例示的な実施形態によれば、制御装置は、SCR触媒内に蓄えられるアンモニアが所定レベルに達するようにEATSを事前調整するように、更に構成される。所定レベルのアンモニアを蓄えるようにSCR触媒を事前調整することによって、SCR触媒をエンジン始動前にその正常な作動条件に近づけることができる。これによって、エンジン始動時に、SCR触媒は、所定レベルのアンモニアを蓄えるように事前調整されなかった場合と比較してその正常な作動条件に近い量のアンモニアを有する。アンモニア貯蔵の所定レベルは、例えば、アンモニア貯蔵の閾レベルであるとよい。少なくとも1つの例示的な実施形態によれば、制御装置は、SCR触媒内に蓄えられたアンモニアの現在のレベルを決定するように構成され、閾レベルのアンモニア貯蔵を達成するように還元剤を噴射するように構成される。
【0010】
少なくとも1つの例示的な実施形態によれば、事前調整は、エンジン始動前の30分以内に行われる。これによって、本開示に記載されるEATSの十分な事前調整を達成することができる。例えば、事前調整は、エンジン始動前の20分以内又は10分以内に行われる。従って、例えば、事前調整は、エンジン始動前0―30分の間、例えば、0―20分の間又は0-10分の間に行われる。他の例によれば、事前調整は、エンジン始動前の1-30分の間、例えば、1-20分の間又は1-10分の間に行われる。
【0011】
少なくとも1つの例示的な実施形態によれば、流体流れ誘発装置によって誘発された流体流れが通る流体通路の少なくとも前記一部は、少なくとも噴射装置又は噴射装置によって定められる流体通路内の還元剤の噴射点からSCR触媒までの流路を含む。これによって、誘発された流体流れは、噴射された還元剤を噴射装置からSCR触媒に少なくとも運ぶことができる。流体流れ誘発装置は、質量流れ源又は流体流れ源と呼ばれることもある。
【0012】
「エンジン始動前」という用語は、エンジンが作動しておらず、これによって、エンジンからの排気ガスが事前調整中にEATSを通って流れていないことを意味することを理解されたい。従って、誘発された流体流れは、排気ガスの流れと異なる流体流れである。
【0013】
少なくとも1つの例示的な実施形態によれば、噴射装置は、アンモニアをSCR触媒にもたらすために液体還元剤を噴射するように構成される。従って、制御装置は、液体還元剤を流体通路内に噴射することによってエンジン始動前にEATSを事前調整するように、構成される。これによって、慣習的な還元剤源を流体通路内に容易に噴射することができる。液体還元剤は、例えば、尿素である。少なくとも1つの例示的な実施形態によれば、液体還元剤は、無水アンモニア、アンモニア水、尿素水、又はアンモニアを含むディーゼル排気液である。
【0014】
少なくとも1つの例示的な実施形態によれば、噴射装置は、アンモニアをSCR触媒に供給するためにガス状還元剤を噴射するように構成される。従って、制御装置は、ガス状還元剤を流体通路内に噴射することによってエンジン始動前にEATSを事前調整するように構成される。これによって、誘発された流体流れによるSCR触媒への還元剤の移送が促進される。SCR触媒内へのアンモニアの取込み又は貯蔵もガス状還元剤を用いることによって促進され、及び/又はガスの形態にある還元剤をSCR触媒に供給するために外部熱を殆ど必要としない。
【0015】
少なくとも1つの例示的な実施形態によれば、噴射装置は、アンモニアをSCR触媒に供給するために固体還元剤に噴射するように構成される。従って、制御装置は、固体還元剤を流体通路内に噴射することによってエンジン始動前にEATSを事前調整するように構成される。典型的には、例えば、固晶要素の形態にあるこのような固体還元剤は、SCR触媒が蓄えることができるアンモニアを供給するために加熱されねばならない。
【0016】
少なくとも1つの例示的な実施形態によれば、EATSは、還元剤を加熱するための加熱機構を更に備え、制御装置は、加熱機構によって還元剤を加熱するように構成される。
【0017】
これによって、SCR触媒のアンモニア貯蔵が改良される。例えば、もし液体又は固定還元剤が流体通路内に噴射されたなら、典型的には、その加熱が液体又は固体還元剤のガス化をもたらす。ガス状還元剤又はガス状アンモニアは、誘発された流体流れによってSCR触媒内により容易に運ばれ、及び/又はSCR内のアンモニアの取込み又は貯蔵もガス状還元剤又はガス状アンモニアによって促進される。加熱機構は、好ましくは、SCR触媒の上流又はSCR触媒の前に配置される。これによって、加熱機構から与えられる熱が十分に用いられる。加熱機構は、典型的には、還元剤に外部熱を与えるように構成される。
【0018】
少なくとも1つの例示的な実施形態によれば、加熱機構は、その加熱機構を通る誘発された流体流れを加熱するために、噴射装置の上流において流体通路内に配置され、又は加熱機構は、還元剤の噴射前に還元剤を加熱するように配置される。
【0019】
これによって、還元剤に熱を与える少なくとも2つの異なる代替的位置が提示される。例えば、加熱機構が噴射装置の上流において流体通路内に配置される実施形態では、加熱機構は、流体通路内に配置された被加熱部材を備えるとよく、誘発された流体流れは、この被加熱部材を通ることによって加熱されるとよい。被加熱部材は、例えば、格子、枠組み、コイル、又はプレートであるとよい。従って、噴射された還元剤は、加熱された誘発流体流れが噴射された還元剤を加熱する時に、加熱機構によって間接的に加熱されることになる。これによって、噴射された還元剤が加熱されて蒸発し、加水分解によってアンモニアを生じる。他の例によれば、加熱機構が還元剤の噴射前に還元剤を加熱するように配置される実施形態では、加熱機構は、噴射装置又は噴射装置に流体的に接続された任意の還元剤投与容器に接触して配置された被加熱部材を備えるとよい。これによって、還元剤を流体通路内への噴射前に加熱することができる。
【0020】
少なくとも1つの例示的な実施形態によれば、加熱機構は、電気加熱要素又はバーナを備える。
【0021】
これによって、還元剤を加熱する少なくとも2つの異なる代替例が提示される。加熱機構が電気加熱要素から構成される実施形態では、加熱要素は、電気によって加熱されるように構成される。電気加熱要素は、前述の被加熱要素を備えてもよいし、又は前述の被加熱要素に熱伝導的に接続されてもよい。少なくとも1つの例示的な実施形態によれば、被加熱要素は、格子、枠組み、コイル、又はプレートを備えるとよく、該格子、枠組み、コイル、又はプレートを通って導かれる電気によって加熱されるように構成される。電気加熱要素は、他の形状、例えば、平坦な又は湾曲した加熱薄板の形状を有してもよいし、又は異なる形式、例えば、抵抗フォームの加熱要素から構成されてもよい。少なくとも1つの例示的な実施形態によれば、電気加熱要素は、正の温度係数PTCに基づく要素である。少なくとも1つの例示的な実施形態によれば、電気加熱要素は、誘発加熱要素と呼ばれることもある誘発加熱に基づくものである。加熱機構がバーナから構成される実施形態では、バーナは、熱をもたらすために燃料を燃焼させるように構成され、前述の被加熱要素に熱伝導的に接続されるとよい。
【0022】
少なくとも1つの例示的な実施形態によれば、流体流れ誘発装置は、ファン又はコンプレッサである。
【0023】
ファン又はコンプレッサは、流体流れを誘発させるために流体通路内に比較的容易に配置され、又は流体通路の外部に配置され、接続通路によって流体通路に流体的に接続される。すなわち、後者の場合、ファン又はコンプレッサは、接続通路内に流体流れを誘発させるように構成されるとよく、接続通路は、誘発された流体流れを流体通路の少なくとも前記一部に供給するように流体通路に接続される。ファン又はコンプレッサは、容易かつ迅速に始動され、容易かつ迅速に停止される。更に、制御装置は、ファン又はコンプレッサの作動を簡単に制御するように構成されるとよい。また、ファン又はコンプレッサによって、誘発された流体流れのレベル又は流量を容易に変化(増大又は低減)させることができる。
【0024】
少なくとも1つの例示的な実施形態によれば、流体流れ誘発装置は、圧縮ガス源と、圧縮ガス源からの圧縮空気を流体通路内に放出するように構成された弁と、を備える。
【0025】
圧縮ガス源及び弁は、誘発された流体流れをもたらすための確実な手段である。また、弁を操作することによって、比較的高レベル又は比較的高流量の誘発された流体流れを迅速に流体通路内に供給することができる。
【0026】
少なくとも1つの例示的な実施形態によれば、流体流れ誘発装置は、噴射装置の上流に配置される。
【0027】
これによって、流体流れの誘発に続いて、噴射装置から噴射された還元剤がこの誘発された流体流れによって運ばれることになる。少なくとも1つの例示的な実施形態によれば、流体流れ誘発装置は、加熱機構の上流において流体通路内に配置される。すなわち、誘発された流体流れは、還元剤の噴射点に達する前に加熱機構によって加熱されるとよい。従って、誘発された流体流れは、SCR触媒に到達する前に加熱機構及び還元剤の噴射点を通るように構成される。噴射装置は、例えば、加熱された誘発流体流れが噴射装置によって噴射された還元剤を加熱することを可能にするために、加熱機構から所定距離を隔てて配置されるとよい。
【0028】
少なくとも1つの実施形態によれば、EATSは、SCR触媒を加熱するための二次加熱機構を更に備え、制御装置は、二次加熱機構によってSCR触媒を加熱するように更に構成される。
【0029】
従って、還元剤を加熱するように構成された加熱機構とは別に、SCR触媒を加熱することができる。これによって、EATSの事前調整を更に改良することができる。何故なら、SCR触媒を有利に事前調整することができるからである。例えば、SCR触媒を熱的に事前調整することによって、SCR触媒をエンジン始動前にその作動温度に近づけることができる。更に、SCR触媒内へのアンモニアの取込み又は貯蔵を熱的に事前調整されたSCR触媒によって促進されすることができる。
【0030】
本発明の第2の態様によれば、エンジンからの排気ガス内のNOx排出物を変換するように構成された排気後処理システムEATSの少なくとも一部を事前調整するための方法であって、EATSは、排気ガス用の流路をもたらすための流体通路と、流体通路内に配置された選択触媒還元SCR触媒であって、アンモニアを蓄えるように構成される、SCR触媒とを備える、方法が提供される。この方法は、
-還元剤を流体通路内に噴射することと、
-流路の少なくとも一部に流体流れを誘発させ、還元剤をSCR触媒内に運び、アンモニアをSCR触媒内に蓄えることと、
を含む。
【0031】
本発明の第2の態様の効果及び特徴は、本発明の第1の態様に関連して前述した効果及び特徴とほぼ同様である。本発明の第1の態様に関して述べた実施形態は、本発明の第2の態様とほぼ互換性がある。以下、本発明の第2の態様の一部について、典型的には有利な効果を繰り返すことなく、例示する。
【0032】
少なくとも1つの例示的な実施形態によれば、この方法の事前調整は、SCR触媒内に蓄えられるアンモニアが所定レベルに達するように行われる。
【0033】
少なくとも1つの例示的な実施形態によれば、EATSは、アンモニアをSCR触媒内に供給するための還元剤を噴射するように構成された噴射装置と、流体流れを誘発させるように構成された流体流れ誘発装置とを備える。流体流れ誘発装置は、噴射装置の上流に配置される。噴射装置及び流体流れ誘発装置、及びそれらの任意の実施形態については、本発明の第1の態様において述べた通りである。
【0034】
少なくとも1つの例示的な実施形態によれば、この方法は、還元剤を加熱することを更に含む。
【0035】
少なくとも1つの例示的な実施形態によれば、EATSは、還元剤を加熱するための加熱機構を備える。加熱機構は、噴射装置の上流において流体通路内に配置され、この方法は、加熱機構及び噴射装置を通る誘発された流体流れを加熱することによって還元剤を加熱することを含み、又は加熱機構は、還元剤を加熱するように配置され、この方法は、還元剤を噴射する前に還元剤を加熱することを含む。本発明の第1の態様において述べたように、加熱機構が噴射装置の上流において流体通路内に配置される実施形態では、加熱機構は、典型的には、加熱機構を通る誘発された流体流れを加熱するように構成され、加熱された誘発流体流れが噴射された還元剤を加熱する。
【0036】
本発明の第3の態様によれば、排気後処理システムEATSを備える車両用の制御装置が提供される。制御装置は、本発明の第1の態様のEATSに本発明の第2の態様による方法のステップを行うことを指示するように構成される。
【0037】
従って、制御装置は、本発明の第2の態様の方法に関して述べた対応するステップの少なくともいくつかを実行又は達成するように構成される。少なくとも1つの例示的な実施形態によれば、制御装置は、本発明の第1の態様のEATSに指示することによって、本発明の第1の態様に関して述べた実施形態のいずれかによる方法ステップを実行又は達成するように構成される。制御装置は、例えば、車両の電気制御ユニット(ECU)であってもよいし、又は車両の電気制御ユニット(ECU)内に含まれてもよい。
【0038】
本発明の第4の態様によれば、車両が提供される。車両は、本発明の第1の態様による排気後処理システムEATS、又は本発明の第3の態様による制御装置を備える。
【0039】
少なくとも1つの例示的な実施形態では、車両は、エンジンに加えて車両を推進するための電気機械を備えるハイブリッド車である。
【0040】
これによって、エンジン(例えば、ディーゼルエンジン又は水素エンジン)の運転時間又は動力を低減させることができる。更に、少なくともいくつかの車両運転において、エンジンが停止されてもよく、車両が電気機械のみによって推進されてもよい。典型的には、車両は、電気機械に電力供給するためのエネルギー貯蔵装置又はエネルギー変換装置、例えば、バッテリー又は燃料電池を備える。
【0041】
本発明の第5の態様によれば、コンピュータプログラムであって、コンピュータに実装された時に本発明の第1の態様のEATSに本発明の第2の態様による方法のステップを実行させる指令を含むプログラムコード手段を含む、コンピュータプログラムが提供される。
【0042】
本発明の第6の態様によれば、コンピュータプログラムを有するコンピュータ可読媒体であって、コンピュータプログラムは、コンピュータに実装された時に本発明の第1の態様のEATSに本発明の第1の態様による方法のステップを実行させる指令を含むプログラムコード手段を含む、コンピュータ可読媒体が提供される。
【0043】
本発明の第3-第6の態様の効果及び特徴は、本発明の第1及び第2の態様に関連して前述した効果及び特徴とほぼ同様である。本発明の第1及び第2の態様に関して述べた実施形態は、本発明の第3-第6の態様とほぼ互換性がある。
【0044】
本発明の第2の態様に記載され、本発明の他の態様のいくつかにおいて実施される方法ステップの順序は、本開示に記載されるものに制約されない。ステップの1つ又はいくつかは、本発明の範囲から逸脱することなく置き換えられてもよいし又は異なる順序で行われてもよい。しかしながら、少なくとも1つの例示的な実施形態によれば、方法ステップは、本発明の第2の態様に記載される連続的な順序で行われる。
【0045】
本発明の第1-第6の態様のいずれか1つに適用可能な少なくとも1つの実施形態によれば、EATSは、車両、例えば、大型トラックのエンジンからの排気ガス内のNOx排出物を変換するように構成される。EATSは、種々の形式のエンジン、例えば、ディーゼルエンジン又は水素エンジンからの排気ガスを浄化するために用いられるとよい。例えば、このEATSは、CNG(圧縮天然ガス)、LPG(液化加圧ガス)、DME(ジメチルエーテル)、及び/又はH(水素)に基づく内燃エンジンの排気ガスからのNOx排出物を変換することによって排気ガスを浄化するために用いられてもよい。
【0046】
少なくとも1つの例示的な実施形態によれば、EATSは、車両の水素エンジンからの排気ガス内のNOx排出物を変換するように構成される。このような実施形態では、EATSは、排気ガス内の微粒子を濾過するように構成された微粒子フィルターを更に備えるとよい。この微粒子フィルターは、有利には、SCR触媒の上流に配置される。
【0047】
本開示の更なる利点及び特徴は、以下の記載及び添付の図面に開示され、かつ検討される。
【0048】
以下、添付の図面を参照して、本発明の例示的な実施形態を更に詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0049】
図1】本発明の例示的な実施形態によるエンジン、EATS、及び制御装置を備える車両の略側面図である。
図2】本発明の例示的な実施形態に適用可能な図1のエンジン、EATS、及び制御装置の概略的な例の構成を更に詳細に示す図である。
図3】本発明の例示的な実施形態による方法のステップを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0050】
図1を参照すると、本開示に記載される種類の排気後処理システムEATS20が有利な車両1、ここでは大型トラック1として具体化される車両1が開示される。しかしながら、EATS20は、同様のエンジンシステムを有する他の形式の車両、例えば、バス、軽トラック、乗用車、海洋用途、等に組み入れられてもよい。図1の車両1は、エンジン15、具体的には、ディーゼルエンジン15及び電気機械22を備えるハイブリッド車1である。ディーゼルエンジン15は、典型的には燃料タンク(図示せず)内に含まれるディーゼル燃料によって動力供給され、電気機械22は、少なくとも1つのエネルギー貯蔵装置又はエネルギー変換装置、例えば、バッテリー又は燃料電池から供給される電気によって動力供給される。ディーゼルエンジン15及び電気機械22は、典型的には、車両1のパワートレインの互いに異なる部分、例えば、トランスミッション、駆動シャフト、及び車輪(詳細に図示せず)に別々に連結されることによって車両1を個別に推進するように配置構成される。すなわち、車両1は、ディーゼルエンジン15のみによって推進されてもよいし、電気機械22のみによって推進されてもよいし、又はディーゼルエンジン15及び電気機械22によって推進されてもよい。エンジン15及びEATS20は、一般的にエンジンシステムと呼ばれることもある。
【0051】
図1では、EATS20は、エンジン15からの排気ガス内の排出物を低減するように構成される。EATS20は、エンジン15からの排気ガス用の流路をもたらすための流体通路40と、流体通路40内に配置された選択触媒還元SCR触媒32とを備える。SCR触媒32は、触媒の働きによってNOxとも呼ばれる窒素酸化物を二原子窒素N及び水HO(及び場合によっては二酸化炭素CO)に変換するように配置構成される。還元剤、例えば、無水アンモニア、アンモニア水、又は尿素溶液を噴射するように構成された噴射装置34が、SCR触媒32の上流に配置される。噴射された還元剤は、アンモニアをもたらし、このアンモニアがSCR触媒32内の触媒上に吸収され、これによって、SCR触媒32内におけるNOxの変換を促進する。従って、SCR触媒32は、アンモニアを蓄えるように構成される。EATS20は、流体流れ誘発装置56及び制御装置17(制御ユニット17)を更に備える。流体流れ誘発装置56は、エンジンが停止した時に流体通路40の少なくとも一部に流体流れを誘発させるように構成される。制御装置17は、還元剤を流体通路40内に噴射し、誘発された流体流れによって還元剤をSCR触媒内に運び、アンモニアをSCR触媒32内に蓄えることによって、エンジン始動前にEATS20を事前調整するように構成される。従って、図1のEATS20は、エンジン始動前に事前調整されるように構成されるが、これについては、図2-3を参照して更に説明する。
【0052】
図2は、種々の任意選択的な構成要素及び更なる代替品を備える図1のEATS20を更に詳細に示す概略図である。図2のEATS20は、図1を参照して述べたように、流体通路40、SCR触媒32、及び噴射装置34を備える。更に、EATS20は、DOC30と微粒子フィルター、この実施形態ではDPF31とを備える。DOC30は、DPF31の上流に配置され、一酸化炭素及び炭化水素を二酸化炭素に変換するように構成される。DPF31は、SCR触媒32の上流に配置され、微粒子、すなわち、ディーゼル粒子状物質又は煤をディーゼルエンジン15の排気ガスから除去するように配置構成される。
【0053】
車両の初期運転中、例えば、エンジン及びEATSの温度が作動温度に達する時点までの間、EATSから放出される排出物(例えば、走行距離当たりの排出物又は単位運転時間当たりの排出物)は、典型的には、エンジン及びEATSの温度が作動温度に達している時と比較して高くなる。このような排出物は、冷間始動排出物と呼ばれ、典型的には、エンジンの冷間始動の結果としてEATSから放出される排ガス内に望ましくない化合物(例えば、NOx、微粒子、及びCO又は未燃HC)を含む。このような冷間始動排出物を回避又は少なくとも低減するために、EATSは、エンジン始動前に事前調整されるとよい。すなわち、EATSの少なくとも一部が、エンジンの初期運転中の排出物が低減されるように準備されるとよい。
【0054】
EATS20の少なくとも一種の事前調整を達成するために、図2のEATS20は、エンジンが停止した時に流体通路40の少なくとも一部に流体流れを誘発させるように構成された流体流れ誘発装置56,58を備える。図2には、2つの異なる流体流れ誘発装置56,58が示されているが、この内の1つのみが前記流体流れを誘発させるのに必要である。第1の選択枝として、第1の流体流れ誘発装置56は、噴射装置34の上流において流体通路40内に配置され、エンジンが停止した時に第1の流体流れ誘発装置56の下流の流体通路40の少なくとも一部に流体流れを誘発させるように構成される。第1の流体流れ誘発装置56は、例えば、コンプレッサ又はファンであるとよい。第2の選択枝として、第2の流体流れ誘発装置58は、圧縮ガス源60と圧縮ガス源60からの圧縮空気を流体通路40内に放出するように構成された弁61とを備える。従って、第2の流体流れ誘発装置58は、弁61(又は弁61を流体通路40に流体的に接続する任意の接続通路)の下流の流体通路40の少なくとも一部に流体流れを誘発させるように構成される。これによって、第1及び第2の選択枝の両方において、流体流れ誘発装置56,58は、エンジン始動前に噴射装置34の上流に流体流れを誘発させるように構成される。
【0055】
図2のEATS20の制御装置17は、噴射装置34によって還元剤を流体通路40内に噴射し、噴射された還元剤を流体流れ誘発装置56,58によって誘発された流体流れによってSCR触媒32内に運び、アンモニアをSCR触媒32内に蓄えることによって、SCR触媒32の事前調整を少なくとも制御するように構成される。これによって、例えば、エンジン15の冷間始動によって生じる望ましくないNO排出物を低減するEATS20の望ましい事前調整が達成される。
【0056】
任意選択的に、EATS20は、還元剤を加熱するための加熱機構50,52,53を更に備える。図2において、3つの異なる加熱機構50,52,53が示されるが、その内の1つのみが還元剤の前記加熱を達成するために必要である。第1の代替例では、第1の加熱機構50が、噴射装置34の上流において流体通路40内に配置される。図2に示されるように、第1の加熱機構50は、噴射装置34のすぐ上流に配置され、例えば、それらの間に他のEATS構成要素が介在しない。例えば、第1の加熱機構50と噴射装置34又は流体通路40内への還元剤の噴射点との間の流体流れの距離は、0.1mから1mの間である。これによって、第1の加熱機構50は、第1の加熱機構50を通る誘発された流体流れを加熱することができる。単独で用いられてもよいし又は第1の代替例と組合わせて用いられてもよい第2の代替例では、第2の加熱機構52が、噴射装置34の上流において流体通路40内に配置される。図2に示されるように、第2の加熱機構52は、流体流れ誘発装置56,58(又は誘発された流体流れが流体通路40内に送られる点)のすぐ下流に配置され、例えば、それらの間に他のEATS構成要素が介在しない。例えば、第2の加熱機構52と流体流れ誘発装置56,58(又は誘発された流体流れが流体通路40内に送られる点)との間の流体流れの距離は、0.1mから1mの間である。これによって、第2の加熱機構52は、第2の加熱機構52を通る誘発された流体流れを加熱することができる。好ましくは、第1及び/又は第2の加熱機構50,52は、電気加熱要素である。前述したように、第1及び第2の加熱機構50,52は、誘発された流体流れの加熱を高めるために組み合わされてもよい。
【0057】
単独で用いられてもよいし又は第1及び/又は第2の代替例と組合わせて用いられてもよい第3の代替例では、第3の加熱機構53は、還元剤の噴射前に還元剤を加熱するように配置される。図2に示されるように、第3の加熱機構53は、噴射装置34に隣接して配置されるか又は噴射装置34と熱伝導的に接続して配置される。例えば、第3の加熱機構53は、噴射装置34又は噴射装置34に流体的に接続する任意の還元剤投与源に直接接触しているとよい。これによって、第3の加熱機構53は、流体通路40内への還元剤の噴射前に還元剤を直接加熱することができる。例えば、還元剤は、流体通路40への噴射前に加熱及び蒸発されてもよい。第3の加熱機構53は、電気加熱要素であってもよいし、バーナであってもよい。バーナの場合、例えば、HCの燃焼によって、熱を生じる。前述したように、第1、第2,及び/又は第3の加熱機構50,52,53は、還元剤の加熱を高めるために組み合わされてもよい。
【0058】
加熱機構50,52,53の各1つは、格子、枠組み、コイル、又はプレートを備え、該格子、枠組み、コイル、又はプレートを通って導かれる電気によって加熱されるように構成されるとよい。電気加熱要素50,52、53の少なくとも1つは、他の形状、例えば、平坦な又は湾曲した加熱薄板の形状を有してもよいし、又は異なる形式、例えば、抵抗フォームの加熱要素から構成されてもよい。加熱機構50,52,53の少なくとも1つは、正の温度係数PTCに基づく要素であってもよいし、誘導加熱要素と呼ばれる誘導加熱に基づくものであってもよい。
【0059】
これに応じて、図2のEATS20の制御装置17は、加熱機構50,52,53によって還元剤を加熱するように構成されるとよい。従って、制御装置17は、第1,第2,及び/又は第3の加熱機構50,52,53の作動を開始し、第1及び第2の加熱機構50,52を用いる場合には、還元剤を間接的に(すなわち、誘発された流体流れを介して)加熱し、第3の加熱機構を用いる場合には、還元剤を直接的に加熱するように構成される。これによって、EATS20の望ましい事前調整が達成され、これによって、例えば、エンジン15の冷間始動によって生じる望ましくないNOx排出物を低減することができる。
【0060】
図3のフローチャートを参照すると、EATS、例えば、図1,2のEATS20の少なくとも一部を事前調整するための方法のステップが概略的に示される。従って、EATSは、エンジン、例えば、エンジン15からの排気ガス内のNOx排出物を少なくとも変換するように構成される。EATSは、例えば、(図1,2の流体通路40及びSCR触媒32に対応する)排気ガス用の流路をもたらすための流体通路及び流体通路内に配置された選択触媒還元SCR触媒を備える。SCR触媒は、アンモニアを蓄えるように構成される。
【0061】
ステップS1では、EATSの少なくとも一部の事前調整が初期化される。事前調整の初期化(S1)は、エンジンが停止している時、従って、排気ガスがEATSを通って流れていない時に行われる。ステップS1は、例えば、エンジン始動前の30分以内に行われるとよい。
【0062】
ステップS10では、還元剤が流体通路内に噴射される。例えば、還元剤は、図1,2を参照して述べた噴射装置34のような噴射装置によって噴射されるとよい。還元剤は、アンモニアをSCR触媒に供給する。
【0063】
任意選択的なステップS20では、噴射された還元剤が加熱される。追加的又は代替的に、任意選択的なステップS5では、還元剤は、流体通路内に噴射される(S10)前に、加熱される。従って、還元剤は、流体通路内に噴射される前に加熱されてもよいし、及び/又は流体通路内に噴射された後に加熱されてもよい。例えば、還元剤は、加熱機構、例えば、図1,2を参照して述べた第1,第2,及び/又は第3の加熱機構50,52,53によって加熱される。
【0064】
ステップS30では、流体流れが流路の少なくとも一部に誘発され、還元剤をSCR触媒内に運び、アンモニアをSCR触媒内に蓄える。従って、流体流れは、排気ガスがEATSを通って流れないエンジン停止状態において誘発される。流体流れは、図1,2を参照して述べた第1の流体流れ誘発装置56又は第2の流体流れ誘発装置58のような流体流れ誘発装置によって誘発されるとよい。従って、流体流れ誘発装置は、噴射装置の上流に配置される。
【0065】
還元剤が加熱される(S5,S20)実施形態では、誘発された流体流れは、加熱された還元剤をSCR触媒内に運ぶ。噴射された還元剤が加熱機構によって加熱される実施形態では、加熱機構は、噴射装置の上流の流体通路内に又は流体通路内への還元剤の噴射点に配置されるとよい。更に、誘発された流体流れを受ける流路の部分は、典型的には、加熱機構及び噴射装置又は流体通路内への還元剤の噴射点を含み、これによって、噴射された還元剤は、加熱機構及び噴射装置を通る誘発された流体流れによって加熱される。追加的又は代替的に、還元剤は、噴射される前に加熱機構によって加熱される。従って、加熱された還元剤が流体通路内に噴射され、更に誘発された流体流れによってSCR触媒に運ばれる。
【0066】
任意選択的なステップS40では、SCR触媒内に蓄えられるアンモニアが所定レベルに達したかどうかが判断される。SCR触媒内に蓄えられたアンモニアが所定レベルに達したことが決定されたことに応じて、事前調整が停止される(S50)。しかしながら、SCR触媒内に蓄えられたアンモニアが所定レベルに達していないことが決定されたことに応じて、ステップS1に戻ることによって(又は代替的に噴射前に還元剤を加熱する任意選択的なステップS5又は還元剤を流体通路内に噴射するステップS10に戻ることによって)、事前調整が再開される。
【0067】
図3を参照して述べた方法、少なくともステップS10,S30において述べた方法によって、EATSは、少なくともSCR触媒内に蓄えられるアンモニアが増大するように事前調整され、これによって、エンジン始動後の排気ガス内のNO排出物の変換を改良することができる。
【0068】
少なくとも1つの例示的な実施形態によれば、図3の方法のステップは、連続的に実行される。従って、例えば、還元剤の一部が流体通路内への噴射前に加熱され(ステップS5)、同時に、加熱された還元剤の他の部分が流体通路内に噴射され(ステップS10)、加熱された還元剤の他の部分が(加熱された)誘発流体流れによってSCR触媒内に運ばれる(ステップS30)。ステップの名称は、必ずしも必要ではないが、少なくとも1つの例示的な実施形態によれば、それらのステップが実行される順番に関連するとよいことに留意されたい。従って、ステップの順番は、明示的に互いに従属しない限り、明細書に記載される順番と異なっていてもよい。
【0069】
本発明は、図面を参照して前述した実施形態に制限されないことを理解されたい。むしろ、当業者であれば、多くの変更及び修正が添付の請求項の範囲内においてなされ得ることを認識するだろう。本発明は、ある種のエンジンシステム及び/又はEATSに制限されるものではない。例えば、EATS20又は同様のEATSは、ディーゼルエンジン以外のエンジンの排気ガスを浄化するために用いられてもよい。例えば、EATSは、CNG(圧縮天然ガス)、LPG(液化加圧ガス)、DME(ジメチルエーテル)、及び/又はH(水素)を燃料として用いる内燃エンジンの排気ガスからのNOx排出物を変換することによって排気ガスを浄化するために用いられてもよい。従って、エンジンシステムは、ディーゼルエンジン以外の燃焼エンジン、例えば、水素エンジンを含んでもよい。
【0070】
加えて、開示された実施形態の変更例は、図面、開示内容、及び添付の請求項の検討から請求された本発明の概念を具体化する際に、当業者によって理解され、かつ当業者に影響を与えることになるだろう。請求項において、「備える(comprising)」という用語は、他の要素又はステップを排除するものではなく、不定冠詞「a, an」は、複数を排除するものではない。いくつかの手段が互いに異なる従属請求項に記載されるが、これは、単なる事実にすぎず、これらの手段の組合せを用いても利点を得ることができないことを示すものではない。
図1
図2
図3
【外国語明細書】