(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023055719
(43)【公開日】2023-04-18
(54)【発明の名称】防曇膜付き樹脂基板、防曇膜付き透明物品、及び塗布液
(51)【国際特許分類】
B32B 27/18 20060101AFI20230411BHJP
B32B 27/28 20060101ALI20230411BHJP
C08J 7/054 20200101ALI20230411BHJP
C09K 3/00 20060101ALI20230411BHJP
G02B 1/10 20150101ALI20230411BHJP
【FI】
B32B27/18 C
B32B27/28
C08J7/054 CER
C08J7/054 CEZ
C09K3/00 R
G02B1/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023002710
(22)【出願日】2023-01-11
(62)【分割の表示】P 2022568669の分割
【原出願日】2022-06-09
(31)【優先権主張番号】P 2021098343
(32)【優先日】2021-06-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004008
【氏名又は名称】日本板硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(72)【発明者】
【氏名】林 清美
(72)【発明者】
【氏名】大家 和晃
(72)【発明者】
【氏名】高橋 康史
(57)【要約】 (修正有)
【課題】新規の防曇膜付き樹脂基板を提供する。
【解決手段】樹脂基板とその表面上の防曇膜と、を備え、防曇膜は、シランカップリング剤及び/又はそれに由来する架橋構造と、吸水性ポリマーと、ポリエーテル変性シロキサンと、炭素数2~8のジオールと、を含む防曇膜付き樹脂基板とする。シランカップリング剤は、シランカップリング剤Aと、シランカップリング剤B及び/又はシランカップリング剤Cと、を含む。シランカップリング剤Aは、アミノ基、シリコン原子、及びアミノ基とシリコン原子とに結合した炭素数1~3の炭化水素基を有し、シランカップリング剤Bは、アミノ基、シリコン原子、及びアミノ基とシリコン原子とに結合した炭素数4以上の炭化水素基を有し、シランカップリング剤Cは、複数のアミノ基を有するポリマーである。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂基板と、前記樹脂基板の表面上の防曇膜と、を備え、
25℃の水に100時間浸漬させて前記水から取り出し、前記防曇膜から鉛直方向下方に60mm離間させて配置した90℃~100℃の水から発生する水蒸気に前記防曇膜を30秒間曝し、前記防曇膜から前記方向下方に110mm離れて配置したQRコードの情報を前記防曇膜が形成された側とは反対側からカメラを使用して読み取ることができるかを判定する試験において、40mm四方のサイズを有するQRコードの情報を読み取ることができる、
防曇膜付き樹脂基板。
ここで、前記QRコードは、日本産業規格(JIS)X 0510:2018に従って、21×21モジュールのシンボルサイズ及びレベルHの誤り訂正の仕様により、前記情報として文字列「Rank:B」を符号化した二次元コードである。
【請求項2】
樹脂基板と、前記樹脂基板の表面上の防曇膜と、を備え、
前記防曇膜は、吸水性ポリマーを含み、
25℃の水に100時間浸漬させて前記水から取り出し、前記防曇膜から鉛直方向下方に60mm離間させて配置した90℃~100℃の水から発生する水蒸気に前記防曇膜を30秒間曝す試験を実施したときに、前記水蒸気に曝された前記防曇膜の前記表面に透明な連続膜が形成される、
防曇膜付き樹脂基板。
【請求項3】
前記防曇膜は、シランカップリング剤及びシランカップリング剤に由来する架橋構造からなる群より選択される少なくとも1つと、吸水性ポリマーと、ポリエーテル変性シロキサンと、炭素数2~8のジオールと、を含み、
前記シランカップリング剤は、シランカップリング剤Aと、シランカップリング剤B及びシランカップリング剤Cからなる群より選択される少なくとも1つに該当するシランカップリング剤と、を含み、
前記シランカップリング剤Aは、アミノ基、シリコン原子、及び前記アミノ基と前記シリコン原子とに結合した炭素数1~3の炭化水素基を有し、
前記シランカップリング剤Bは、アミノ基、シリコン原子、及び前記アミノ基と前記シリコン原子とに結合した炭素数4以上の炭化水素基を有し、
前記シランカップリング剤Cは、複数のアミノ基を有するポリマーである、
請求項1又は2に記載の防曇膜付き樹脂基板。
【請求項4】
樹脂基板と、前記樹脂基板の表面上の防曇膜と、を備え、
前記防曇膜は、シランカップリング剤及びシランカップリング剤に由来する架橋構造からなる群より選択される少なくとも1つと、吸水性ポリマーと、ポリエーテル変性シロキサンと、炭素数2~8のジオールと、を含み、
前記シランカップリング剤は、シランカップリング剤Aと、シランカップリング剤B及びシランカップリング剤Cからなる群より選択される少なくとも1つに該当するシランカップリング剤と、を含み、
前記シランカップリング剤Aは、アミノ基、シリコン原子、及び前記アミノ基と前記シリコン原子とに結合した炭素数1~3の炭化水素基を有し、
前記シランカップリング剤Bは、アミノ基、シリコン原子、及び前記アミノ基と前記シリコン原子とに結合した炭素数4以上の炭化水素基を有し、
前記シランカップリング剤Cは、複数のアミノ基を有するポリマーである、
防曇膜付き樹脂基板。
【請求項5】
前記ジオールは、プロピレングリコールを含む、請求項3又は4に記載の防曇膜付き樹脂基板。
【請求項6】
前記吸水性ポリマーは、ポリビニルアセタール樹脂を含む、請求項3~5のいずれか1項に記載の防曇膜付き樹脂基板。
【請求項7】
前記防曇膜の表面上の保護シートと、
前記樹脂基板の前記防曇膜が形成されている側とは反対側の表面に形成された粘着層と、をさらに備えた、
請求項1~6のいずれか1項に記載の防曇膜付き樹脂基板。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の防曇膜付き樹脂基板を備えた、防曇膜付き透明物品。
【請求項9】
シランカップリング剤と、吸水性ポリマーと、ポリエーテル変性シロキサンと、炭素数2~8のジオールと、を含み、
前記シランカップリング剤は、シランカップリング剤Aと、シランカップリング剤B及びシランカップリング剤Cからなる群より選択される少なくとも1つに該当するシランカップリング剤と、を含み、
前記シランカップリング剤Aは、アミノ基、シリコン原子、及び前記アミノ基と前記シリコン原子とに結合した炭素数1~3の炭化水素基を有し、
前記シランカップリング剤Bは、アミノ基、シリコン原子、及び前記アミノ基と前記シリコン原子とに結合した炭素数4以上の炭化水素基を有し、
前記シランカップリング剤Cは、複数のアミノ基を有するポリマーである、
塗布液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防曇膜付き樹脂基板と、防曇膜を含む物品、さらには防曇膜を形成するための塗布液に関する。防曇膜を含む物品は、例えば、防曇膜付き透明物品である。
【背景技術】
【0002】
防曇性を付与するための防曇シートの開発が行われている。防曇シートは、防曇性が要求される部位又はその近傍に配置され、より具体的には貼り付けて、使用される。防曇シートは、樹脂基板と、樹脂基板の表面上の防曇膜とを備えている。防曇シートは、場合によっては、樹脂基板の防曇膜とは反対側の表面上に粘着層をさらに備え、必要に応じ、防曇膜の表面上に保護シートをさらに備えた防曇積層体の形態を有し得る。ただし、表面上に防曇膜を備えた樹脂基板は、そのままの状態で、言い換えると他の部材に貼り付けられることなく、防曇性を有する物品として使用されることもある。本明細書では、防曇膜を有する樹脂基板を、その使用の形態によらず「防曇膜付き樹脂基板」と記載する。
【0003】
例えば、特許文献1には、自動車のウインドシールドとして使用されるガラス板において、情報取得装置へと光が通過する情報取得領域の車内側の面に貼着するための防曇シートが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
防曇膜付き樹脂基板が配置又は使用される部位によって、防曇膜付き樹脂基板に含まれる防曇膜に求められる防曇性は大きく異なる。そこで、本発明は、新規の防曇膜付き樹脂基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以下、本明細書では、QRコードが登録商標であることの記載は省略する。
【0007】
本発明は、
樹脂基板と、前記樹脂基板の表面上の防曇膜と、を備え、
25℃の水に100時間浸漬させて前記水から取り出し、前記防曇膜から鉛直方向下方に60mm離間させて配置した90℃~100℃の水から発生する水蒸気に前記防曇膜を30秒間曝し、前記防曇膜から前記方向下方に110mm離れて配置したQRコードの情報を前記防曇膜が形成された側とは反対側からカメラを使用して読み取ることができるかを判定する試験において、40mm四方のサイズを有するQRコードの情報を読み取ることができる、
防曇膜付き樹脂基板、を提供する。
ここで、前記QRコードは、日本産業規格(JIS)X 0510:2018に従って、21×21モジュールのシンボルサイズ及びレベルHの誤り訂正の仕様により、前記情報として文字列「Rank:B」を符号化した二次元コードである。
【0008】
別の側面から、本発明は、
樹脂基板と、前記樹脂基板の表面上の防曇膜と、を備え、
前記防曇膜は、吸水性ポリマーを含み、
25℃の水に100時間浸漬させて前記水から取り出し、前記防曇膜から鉛直方向下方に60mm離間させて配置した90℃~100℃の水から発生する水蒸気に前記防曇膜を30秒間曝す試験を実施したときに、前記水蒸気に曝された前記防曇膜の前記表面に透明な連続膜が形成される、
防曇膜付き樹脂基板、を提供する。
【0009】
また別の側面から、本発明は、
樹脂基板と、前記樹脂基板の表面上の防曇膜と、を備え、
前記防曇膜は、シランカップリング剤及びシランカップリング剤に由来する架橋構造からなる群より選択される少なくとも1つと、吸水性ポリマーと、ポリエーテル変性シロキサンと、炭素数2~8のジオールと、を含み、
前記シランカップリング剤は、シランカップリング剤Aと、シランカップリング剤B及びシランカップリング剤Cからなる群より選択される少なくとも1つに該当するシランカップリング剤と、を含み、
前記シランカップリング剤Aは、アミノ基、シリコン原子、及び前記アミノ基と前記シリコン原子とに結合した炭素数1~3の炭化水素基を有し、
前記シランカップリング剤Bは、アミノ基、シリコン原子、及び前記アミノ基と前記シリコン原子とに結合した炭素数4以上の炭化水素基を有し、
前記シランカップリング剤Cは、複数のアミノ基を有するポリマーである、
防曇膜付き樹脂基板、を提供する。
【0010】
また、別の側面から、本発明は、
本発明の防曇膜付き樹脂基板を備えた防曇膜付き透明物品、を提供する。
【0011】
また、別の側面から、本発明は、
吸水性ポリマーと、ポリエーテル変性シロキサンと、炭素数2~8のジオールと、シランカップリング剤と、を含み、
前記シランカップリング剤は、シランカップリング剤Aと、シランカップリング剤B及びシランカップリング剤Cからなる群より選択される少なくとも1つに該当するシランカップリング剤と、を含み、
前記シランカップリング剤Aは、アミノ基、シリコン原子、及び前記アミノ基と前記シリコン原子とに結合した炭素数1~3の炭化水素基を有し、
前記シランカップリング剤Bは、アミノ基、シリコン原子、及び前記アミノ基と前記シリコン原子とに結合した炭素数4以上の炭化水素基を有し、
前記シランカップリング剤Cは、複数のアミノ基を有するポリマーである、
塗布液、を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、新規の防曇膜付き樹脂基板が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本実施形態に係る防曇膜付き樹脂基板を含む積層体(防曇シート)の一例を示す断面図である。
【
図2】本実施形態に係る防曇膜付き樹脂基板を含む積層体(防曇シート)の別の一例を示す断面図である。
【
図3A】高温水蒸気評価の概要を説明するための模式図である。
【
図3B】高温水蒸気評価の概要を説明するための別の模式図である。
【
図4A】高温水蒸気評価に用いたQRコードの一例(サイズ10mm×10mm、記録情報「Rank:SSS」)である。
【
図4B】高温水蒸気評価に用いたQRコードの一例(サイズ15mm×15mm、記録情報「Rank:SS」)である。
【
図4C】高温水蒸気評価に用いたQRコードの一例(サイズ20mm×20mm、記録情報「Rank:S」)である。
【
図4D】高温水蒸気評価に用いたQRコードの一例(サイズ30mm×30mm、記録情報「Rank:A」)である。
【
図4E】高温水蒸気評価に用いたQRコードの一例(サイズ40mm×40mm、記録情報「Rank:B」)である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について、適宜図面を参照しながら説明するが、本発明は、以下の実施形態に限定されない。本明細書において、「主成分」とは、含有率が最も高い成分を意味する。また、板状の物品について「主面」とは、厚みと呼ばれる所定の間隔を隔てて互いに反対側を向く2つの面を意味する。
【0015】
特許文献1に開示されているように、防曇膜には吸水性ポリマーが配合されることが多い。吸水性ポリマーの含有量が多くなるにつれて、膜の防曇性はその向上が期待できる。一方、吸水性ポリマーの含有量が多くなるにつれて、膜の耐摩耗性は通常低下する。このため、特許文献1に開示されているように、防曇膜には、耐摩耗性の低下を補う無機成分、典型的にはコロイダルシリカ等のシリカ成分、が添加されることが多い。これに対し、防曇膜には、高いレベルの耐摩耗性が要求されないものの、別の特性を有していることが要求されることもある。例えば、防曇膜が長期間厳しい環境に曝された場合であっても、防曇性を維持できることが要求されることがある。本実施形態による防曇膜付き樹脂基板は、かかる観点からさらに検討を進めて得られたものであって、防曇膜が厳しい環境に曝されても、高いレベルで光を散乱させずに透過させる機能を発揮しうる。
【0016】
図1において、防曇膜付き樹脂基板1は、基材である樹脂基板10と、樹脂基板10の表面上の防曇膜11とを備えている。防曇膜11は、樹脂基板10の表面の少なくとも一部、例えば樹脂基板10の主面に形成されている。
図1において、防曇膜付き樹脂基板1は、粘着層13等をさらに備えた防曇シート15の一部を構成している。ただし、防曇膜付き樹脂基板1は、粘着層その他の層又はシートを備えていない形態で使用してもよい。
【0017】
図1に示すように、防曇シート15は、防曇膜付き樹脂基板1と、防曇膜11の表面上の保護シート12と、防曇膜付き樹脂基板1の防曇膜11が形成されている側とは反対側の表面上の粘着層13と、を備えている。防曇シート15は、粘着層13に貼り付けられた剥離シート14をさらに備えている。保護シート12及び剥離シート14は、剥離可能に貼り付けられている。保護シート12、粘着層13、及び剥離シート14は、防曇膜付き樹脂基板1の保管、運搬及び固定に便利であるが必須ではない。例えば、防曇膜付き樹脂基板1の固定は、粘着層13によらず、別途準備した接着剤を塗布して実施してもよい。固定された一形態において、防曇膜付き樹脂基板1は、防曇膜11と、樹脂基板10と、粘着層13又はこれに代えて塗布された接着剤層とがこの順に積層された形態を有する。
【0018】
図2に示した防曇シート25は、樹脂基板20とその表面上の防曇膜21とを有する防曇膜付き樹脂基板2と、防曇膜21の表面上の保護シート22と、防曇膜付き樹脂基板2の防曇膜21が形成されている側とは反対側の表面に形成された粘着層23と、を備えている。保護シート22は剥離可能に防曇膜21に貼り付けられている。防曇シート25は、粘着層23の露出した表面が保護シート22の表面に接するように巻き回された巻回体であってもよい。この形態では、保護シート22が剥離シートとしても機能する。
図2において、符号23は裏面保護シートであってもよい。この場合、防曇膜付き樹脂基板2は、その最上層と最下層とに保護シート22及び23を備えている。以下、各層について説明する。
【0019】
[樹脂基板]
樹脂基板10及び20を構成する樹脂材料は、特に制限されず、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、メタクリル樹脂(PMMA)等のアクリル樹脂、ポリカーボネート(PC)、アクリロニトリル/スチレン樹脂(AS)、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン樹脂(ABS)、シクロオレフィンポリマー(COP)、塩化ビニル(PVC)、トリアセチルセルロース(TAC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステル,及びウレタンである。樹脂基板10及び20の厚さは、例えば0.02~7.0mmである。樹脂基板の厚さは、0.1~7.0mm、さらに0.2~7.0mmであってもよく、場合によっては3.0~5.0mmであってもよい。樹脂がアクリル樹脂の場合、樹脂基板の厚さは、好ましくは2.0~3.0mmである。樹脂がポリカーボネートである場合、樹脂基板の厚さは、好ましくは1.0~2.0mmである。樹脂基板は、好ましくは透明基板である。樹脂基板は、厚さ0.02~0.3mmのフィルム状であってもよい。樹脂フィルムは、他の物品に防曇性を付与するための防曇シートの基材として適している。フィルムと呼ぶにはやや厚い0.3mmを超える厚さを有する樹脂基板は、他の物品に貼り付けない用途に適している。
【0020】
例えば、濡れ性を確保するために、防曇膜を形成する前に、防曇膜を形成するべき樹脂基板の表面にプラズマ処理を実施してもよい。プラズマ処理は、樹脂基板をプラズマに曝す処理である。プラズマ処理は、減圧雰囲気下でのプラズマを用いた処理であっても、大気圧プラズマを用いた処理であってもよい。大気圧プラズマ処理は、APプラズマ処理であってもよく、コロナ放電処理であってもよい。
【0021】
[防曇膜]
防曇膜11及び21の膜厚は、特定の値に限定されず、0.1~15μm、好ましくは0.5~10μm、特に好ましくは0.8~6μm、である。
【0022】
防曇膜11及び21は、例えば、吸水性ポリマーと、ポリエーテル変性シロキサンと、炭素数2~8のジオールと、シランカップリング剤及び/又はシランカップリング剤に由来する架橋構造と、を含む。以下、各成分について説明する。
【0023】
(吸水性ポリマー)
吸水性ポリマーとしては、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、及びポリビニルアルコール樹脂からなる群より選択される少なくとも1種を例示できる。ウレタン樹脂としては、ポリイソシアネートとポリオールとで構成されるポリウレタン樹脂が挙げられる。ポリオールとしては、アクリルポリオール及びポリオキシアルキレン系ポリオールが挙げられる。エポキシ系樹脂としては、グリシジルエーテル系エポキシ樹脂、グリシジルエステル系エポキシ樹脂、グリシジルアミン系エポキシ樹脂、環式脂肪族エポキシ樹脂が挙げられる。好ましいエポキシ樹脂は、環式脂肪族エポキシ樹脂である。以下、好ましい吸水性ポリマーであるポリビニルアセタール樹脂(以下、単に「ポリビニルアセタール」)について説明する。
【0024】
ポリビニルアセタールは、ポリビニルアルコールにアルデヒドを縮合反応させてアセタール化することにより得ることができる。ポリビニルアルコールのアセタール化は、酸触媒の存在下で水媒体を用いる沈澱法、アルコール等の溶媒を用いる溶解法等公知の方法を用いて実施すればよい。アセタール化は、ポリ酢酸ビニルのケン化と並行して実施することもできる。アセタール化度は、2~40モル%、さらには3~30モル%、特に5~20モル%、場合によっては5~15モル%が好ましい。アセタール化度は、例えば13C核磁気共鳴スペクトル法に基づいて測定することができる。アセタール化度が上記範囲にあるポリビニルアセタールは、吸水性及び耐水性が良好である防曇膜の形成に適している。
【0025】
ポリビニルアルコールの平均重合度は、200~4500、さらに500~4500が好ましい。高い平均重合度は、吸水性及び耐水性が良好である防曇膜の形成に有利であるが、平均重合度が高すぎると溶液の粘度が高くなり過ぎて膜の形成に支障をきたすことがある。ポリビニルアルコールのケン化度は、75~99.8モル%が好適である。
【0026】
ポリビニルアルコールに縮合反応させるアルデヒドとしては、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ブチルアルデヒド、ヘキシルカルバルデヒド、オクチルカルバルデヒド、デシルカルバルデヒド等の脂肪族アルデヒドを挙げることができる。また、ベンズアルデヒド;2-メチルベンズアルデヒド、3-メチルベンズアルデヒド、4-メチルベンズアルデヒド、その他のアルキル基置換ベンズアルデヒド;クロロベンズアルデヒド、その他のハロゲン原子置換ベンズアルデヒド;ヒドロキシ基、アルコキシ基、アミノ基、シアノ基等のアルキル基を除く官能基により水素原子が置換された置換ベンズアルデヒド;ナフトアルデヒド、アントラアルデヒド等の縮合芳香環アルデヒド等の芳香族アルデヒドを挙げることができる。疎水性が強い芳香族アルデヒドは、低アセタール化度で耐水性に優れた吸水性膜を形成する上で有利である。芳香族アルデヒドの使用は、水酸基を多く残存させながら吸水性が高い膜を形成する上でも有利である。ポリビニルアセタールは、芳香族アルデヒド、特にベンズアルデヒドに由来するアセタール構造を含むことが好ましい。
【0027】
防曇膜における吸水性ポリマーの含有率は、例えば20~90質量%であり、好ましくは30~80質量%、さらに好ましくは、35~75質量%である。吸水性ポリマーは、防曇膜の主成分であってもよい。
【0028】
(ポリエーテル変性シロキサン)
ポリエーテル変性シロキサンは、シロキサンの主鎖の末端に結合した分子鎖、及びシロキサンの主鎖の側鎖として結合した分子鎖から選択される少なくとも1つとしてポリエーテル鎖を有する化合物である。シロキサンは、シロキサン結合(Si-O-Si)を骨格とする化合物である。ポリエーテル鎖の構成単位は、特に限定されないが、例えば、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイドである。ポリエーテル鎖は、構成単位として、1種のみを含んでいてもよく、2種以上を含んでいてもよい。
【0029】
ポリエーテル変性シロキサンは、ポリエーテル変性シリコーンであってもよい。シリコーンは、シロキサン結合(Si-O-Si)を骨格とするポリマーである。ポリエーテル変性シリコーンの例は、日信化学工業社製のシルフェイスSAG503Aである。
【0030】
防曇膜におけるポリエーテル変性シロキサンの含有率は、例えば0.5~30質量%であり、好ましくは1~25質量%、さらに好ましくは、3~20質量%である。
【0031】
(ジオール)
炭素数2~8のジオール、言い換えると2~8個の炭素原子を有するジオールは、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、及びヘキサンジオールからなる群より選択される少なくとも1つを含んでいてもよい。ジオールは、炭素数2~6のジオールであってもよい。好ましいジオールとしては、ブタンジオール、プロピレングリコール、及びジプロピレングリコールからなる群より選択される少なくとも1つを例示できる。防曇膜は、特に好ましいジオールとして、プロピレングリコール及び/又はジプロピレングリコールを含んでいてもよい。
【0032】
防曇膜における炭素数2~8のジオールの含有率は、例えば0.01~30質量%であり、好ましくは0.05~20質量%、さらに好ましくは、0.1~10質量%である。
【0033】
(シランカップリング剤及びこれに由来する架橋構造)
シランカップリング剤は、アミノ基を有するシランカップリング剤(以下、「アミノシラン」と記載することがある)を含む。アミノ基は、第一級、第二級、第三級のいずれであってもよいが、第一級及び第二級のアミノ基が好ましい。アミノシランは、シランカップリング剤Aと、シランカップリング剤B及び/又はシランカップリング剤Cに該当するシランカップリング剤とを含むことが望ましい。シランカップリング剤は、アミノシラン以外にシランカップリング剤Eを含むことが望ましい。シランカップリング剤Eは、アミノ基以外の反応性官能基を含む。以下、各シランカップリング剤について説明する。
【0034】
(シランカップリング剤A)
シランカップリング剤Aは、アミノ基、シリコン原子、及びアミノ基とシリコン原子とに結合した炭素数1~3の炭化水素基を有する。炭化水素基はアルキレン基であってもよい。シランカップリング剤Aは、1つの分子内に1つのシリコン原子を有するものであってもよい。シランカップリング剤Aとしては、以下の式(I)で表される加水分解性基を有するシリコン化合物を例示できる。式(I)で表される加水分解性基を有するシリコン化合物は、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0035】
H2N-L1-SiY3-nXn (I)
【0036】
式(I)において、nは、1~3の整数を表す。
【0037】
Xは、加水分解性基又はハロゲン原子である。加水分解性基としては、例えば、アルコキシル基、アセトキシ基、アルケニルオキシ基及びアミノ基から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。好ましいアルコキシル基としては、炭素数1~4のアルコキシル基(メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基)を例示できる。好ましいハロゲン原子としては、塩素を例示できる。
【0038】
Yは、炭素数1~3のアルキル基である。好ましいアルキル基は、メチル基及びエチル基である。
【0039】
L1は、炭素数1~3の炭化水素基であり、好ましくはアルキレン基である。炭化水素基としては、メチレン基、エチレン基、n-プロピレン基、イソプロピレン基、ビニレン基、プロペニレン基を例示できる。
【0040】
式(I)におけるXがアルコキシル基である化合物は、シリコンアルコキシドと呼ばれる。式(I)において、好ましくは、nは、3である。すなわち、シランカップリング剤Aは、好ましくは、式(I)において、H2N-L1-SiX3で表される反応性官能基を有する3官能シリコンアルコキシドである。
【0041】
反応性官能基を有する3官能シリコンアルコキシドの例は、アミノアルキルトリアルコキシシランである。アミノアルキルトリアルコキシシランの例は、3-アミノプロピルトリメトキシシラン(APTMS)及び3-アミノプロピルトリエトキシシラン(APTES)である。
【0042】
(シランカップリング剤B)
シランカップリング剤Bは、アミノ基、シリコン原子、及びアミノ基とシリコン原子とに結合した炭素数4以上、好ましくは6以上、の炭化水素基を有する。炭化水素基はアルキレン基であってもよい。シランカップリング剤Bは、1つの分子内に1つのシリコン原子を含むものであってもよい。シランカップリング剤Bとしては、以下の式(II)で表される加水分解性基を有するシリコン化合物を例示できる。式(II)で表される加水分解性基を有するシリコン化合物は、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0043】
R2HN-L2-SiY3-nXn (II)
【0044】
式(II)において、nは、1~3の整数を表す。
【0045】
L2は、炭素数4以上の炭化水素基であり、好ましくはアルキレン基である。炭化水素基の炭素数は、好ましくは6以上であり、12以下であってもよい。好ましいアルキレン基としては、ブチレン基、ヘキシレン基、ヘプチレン基、オクチレン基、及びドデシレン基を例示できる。
【0046】
R2は、水素原子、又は置換基を有していてもよい炭化水素基である。この炭化水素基の炭素数は、特に制限されず、例えば4~12であるが、3以下であってもよい。置換基は、反応性官能基であってもよい。反応性官能基は、例えばエポキシ基、アミノ基、メルカプト基、イソシアネート基、アクリル基、及びメタクリル基から選ばれる少なくとも1種であり、好ましくはアミノ基である。
【0047】
Xは、加水分解性基又はハロゲン原子である。加水分解性基及びハロゲン原子の具体例は、上記したとおりである。Yは、炭素数1~3のアルキル基である。炭素数1~3のアルキル基の具体例は、上記したとおりである。
【0048】
上述した好ましい構造を有するシランカップリング剤Bの具体例は、信越シリコーン社製のKBM-6803である。
【0049】
(シランカップリング剤C)
シランカップリング剤Cは、複数のアミノ基を有するポリマーである。シランカップリング剤Cは、有機ポリマー型シランカップリング剤であってもよい。有機ポリマー型シランカップリング剤は、主鎖を構成する有機ポリマーに、加水分解性基が結合したシリコン原子を含む官能基と、アミノ基を含む官能基とがそれぞれ複数結合した構造を有していてもよい。シランカップリング剤Cは、典型的には3以上のアミノ基を含む構造を有している。
【0050】
上述した好ましい構造を有するシランカップリング剤Cの具体例は、信越シリコーン社製のX-12-972Fである。
【0051】
(シランカップリング剤E)
シランカップリング剤は、アミノシラン以外のシランカップリング剤Eを含んでいてもよい。シランカップリング剤Eは、アミノ基を含まず、アミノ基以外の反応性官能基を含む。アミノ基以外の反応性官能基は、エポキシ基、メルカプト基、及びイソシアネート基から選ばれる少なくとも1種であってもよい。シランカップリング剤Eは、1つの分子内に1つのシリコン原子を含むものであってもよい。シランカップリング剤Eとしては、以下の式(III)で表される加水分解性基を有するシリコン化合物を例示できる。式(III)で表される加水分解性基を有するシリコン化合物は、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0052】
R3SiY3-nXn (III)
【0053】
式(III)において、nは、1~3の整数を表す。
【0054】
R3は、少なくとも1つの水素原子が反応性官能基により置換されている炭化水素基である。炭化水素基の炭素数は、特に制限されないが、例えば1~6、特に1~3である。反応性官能基は、好ましくはエポキシ基である(以下、エポキシ基を有するシランカップリング剤を「エポキシシラン」と記載することがある)。エポキシ基は、グリシジル基の一部として含まれていてもよい。
【0055】
Xは、加水分解性基又はハロゲン原子である。加水分解性基及びハロゲン原子の具体例は、上記したとおりである。Yは、炭素数1~3のアルキル基である。炭素数1~3のアルキル基の具体例は、上記したとおりである。
【0056】
式(III)におけるXがアルコキシル基である化合物は、シリコンアルコキシドと呼ばれる。式(III)において、好ましくは、nは、3である。すなわち、シランカップリング剤Eは、好ましくは、式(III)において、R3SiX3で表される反応性官能基を有する3官能シリコンアルコキシドである。
【0057】
シランカップリング剤Eの好ましい具体例は、グリシドキシアルキルトリアルコキシシランである。グリシドキシアルキルトリアルコキシシランの例は、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(GPTMS)、及び3-グリシドキシプロピルトリエトキシシランである。
【0058】
シランカップリング剤は、防曇膜において、少なくともその一部が他の成分と反応し、架橋構造を形成する。他の成分としては、吸水性ポリマー等の有機成分、基材表面の水酸基が挙げられる。
【0059】
シランカップリング剤Aと、シランカップリング剤B及び/又はシランカップリング剤Cとは、質量比で、例えば1:5~5:1、特に1:3~3:1の範囲となるように添加するとよい。これらのアミノシランの合計量と、シランカップリング剤Eとは、質量比で1:2~5:1、特に1:1~3:1の範囲となるように添加するとよい。
【0060】
防曇膜におけるシランカップリング剤の含有率は、例えば1~40質量%であり、好ましくは3~30質量%、さらに好ましくは、6~25質量%である。
【0061】
シランカップリング剤Aは、ポリエーテル変性シロキサンを防曇膜から溶出しにくくすることに寄与しうる成分である。防曇膜が水分に長時間接した後においても、ポリエーテル変性シロキサンが防曇膜から溶出しにくくなれば、防曇膜は、親水性を維持しやすい。シランカップリング剤Bは、防曇膜に適度な疎水性を付与しうる成分である。防曇膜が水分に長時間接した後においても、防曇膜の適度な疎水性により防曇膜と樹脂基板との間に水の侵入が抑制できれば、防曇膜は、樹脂基板との密着性を維持しやすい。シランカップリング剤Cは、複数のアミノ基により防曇膜の樹脂基板への密着性を向上させうる成分である。
【0062】
(その他の成分)
防曇膜は、上述の成分以外にも、適宜、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、レベリング剤(表面調整剤)、光安定化剤等を含んでいてもよい。ただし、これらの成分は、防曇膜の20質量%以下、さらに10質量%以下、特に5質量%以下の範囲で添加することが望ましい。防曇膜において、コロイダルシリカその他のシリカ微粒子は、含まれていてもよく、含まれていなくてもよい。防曇膜におけるシリカ微粒子の含有率は、例えば10~60質量%であってもよいが、5質量%未満、さらに3質量%未満、特に1質量%未満に制限されていてもよい。シリカ微粒子を含む酸化物微粒子の含有率も、シリカ微粒子について上述した程度であってもよい。防曇膜は、シリカ微粒子に代表される酸化物微粒子を含んでいてもよく、含んでいなくてもよい。ただし、シリカ微粒子を含まない場合であっても、防曇膜は、ポリエーテル変性シロキサン、シランカップリング剤等に含まれるシロキサン成分を含みうる。
【0063】
[粘着層]
粘着層13は、後述するように、防曇膜付き樹脂基板1を貼付する場所又は部位に十分な強度で固定できるものであればよい。具体的には、常温でタック性を有する(メタ)アクリル系、ゴム系等のモノマーを重合し、所望のガラス転移温度に設定した粘着剤を使用できる。アクリル系モノマーとしては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸ステアリル及びアクリル酸2-エチルヘキシル等を適用することができ、メタクリル系モノマーとしては、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸イソブチル及びメタクリル酸ステアリル等を適用することができる。ヒートラミネート等で施工をする場合には、ラミネート温度で軟化する有機物を用いてもよい。ガラス転移温度は、例えばモノマーの配合比を変更することによって調整することができる。
【0064】
[保護シート及び剥離シート]
保護シート12及び剥離シート14は、防曇膜11及び粘着層13をそれぞれ保護するために配置されている。剥離シート14は、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリエチレン等のシート状の基材に、シリコーン等の離型剤が塗布されたものを用いることができる。すなわち、離型剤が塗布された基材の面が粘着層13に貼り付けられる。保護シート12は、剥離シート14と同様の基材の面に剥離が容易な弱い粘着剤が塗布されたものを用いることができる。
【0065】
[防曇膜付き樹脂基板の製造方法]
次に、防曇膜付き樹脂基板1の製造方法について説明する。まず、樹脂基板10の一方の面に防曇膜11の成膜を行う。防曇膜は、防曇膜を形成するための塗布液(防曇膜形成用塗布液)を樹脂基板の表面に塗布し、塗布液により塗膜を形成した樹脂基板を加熱することにより、成膜できる。塗布液の調製に用いる溶媒、塗布液の塗布方法は、従来から公知の材料及び方法を用いればよい。塗布方法の例は、スピンコート法、ロールコート法、スプレーコート法、ディップコート法、フローコート法、スクリーン印刷法、及び刷毛塗法である。塗膜は、加熱の前に適宜乾燥させてもよい。
【0066】
塗膜を形成した樹脂基板の加熱温度は、特に限定されないが、例えば100~180℃であり、加熱時間は、例えば5分~1時間である。
【0067】
[防曇膜付き透明物品]
本実施形態の防曇膜付き樹脂基板は、防曇性を付与するための防曇シートとして、防曇性が要求される物品に適宜貼り付けられて使用することができる。具体的に、貼り付けられる物品は、例えば、車両及び建築物の窓;建築物のファサード;住宅、住宅設備、車両及び携帯用の鏡;レンズ、光学フィルタ等の光学部材;画像表示装置のカバー部材;車両のヘッドライト;電子黒板等のタッチパネル付き液晶ディスプレイ;VR(仮想現実)ゴーグル等に用いられるヘッドマウントディスプレイ;冷凍冷蔵ショーケース、窓付き冷蔵庫、スキー及び水泳に使用されるゴーグル、バイク等に使用されるヘルメット、安全眼鏡、サングラス、飛沫防止フェイスシールド等であり、典型的には透明物品である。透明物品は、ガラス又は樹脂により構成されていてもよい。樹脂としては、メタクリル樹脂(PMMA)等のアクリル樹脂、ポリカーボネート(PC)、アクリロニトリル/スチレン樹脂(AS)、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン樹脂(ABS)、塩化ビニル(PVC)、トリアセチルセルロース(TAC)、及びポリエチレンテレフタレート(PET)であってもよい。ただし、上述したとおり、本実施形態の防曇膜付き樹脂基板は、他の物品に貼り付けない形態、すなわちそれ自体を上記に例示した各種の物品として使用することも可能である。
【0068】
[防曇膜付き樹脂基板の特性]
本実施形態による防曇膜は、防曇膜にとって厳しい環境、例えば水と接触した状態で長い期間置かれた後であっても、高いレベルで透過光を散乱させずに透過させる機能を発揮しうる。この機能を発揮するために、防曇膜は、透明性及び吸水性と共に、耐水性を有し、さらに親水性を有することが望ましい。耐水性が十分でない防曇膜は、水分に長時間接するとその成分が溶出することがある。また、防曇膜は、自身による吸水が飽和状態に達したときに、その表面に余剰の水が連続した膜として保持される程度に親水性であれば、透過光は過度に散乱することなく透過しうる。
【0069】
(透明性/透過光の非拡散性)
本実施形態による防曇膜付き樹脂基板は、透過光を過度に散乱することなく透過させうる。具体的に、防曇膜付き樹脂基板は、例えば、5%以下、さらに3%以下、特に1%以下、場合によっては0.4%以下、のヘイズ率を有しうる。防曇膜付き樹脂基板は、0.3%以下、さらには0.2%以下のヘイズ率を有していてもよい。ヘイズ率は、JIS K 7136:2018に規定されている。
【0070】
(耐水性/親水性)
本実施形態による防曇膜付き樹脂基板によれば、耐水性と親水性とが両立しうる。これらの特性は、実施例の欄で詳細を記述する高温水蒸気評価と呼ぶ方法により評価できる。この方法では、防曇膜を鉛直方向下方に向けた状態で防曇膜に高温かつ過剰の水蒸気が供給される。この水蒸気に接した際、親水性かつ耐水性に優れた防曇膜の表面には、水蒸気に直接曝された部分において水の透明な連続膜が形成される。「透明な連続膜」であるかは、水滴ではなく膜としての連続性が確保され、かつその膜が白濁していないことを目視により確認することにより判断できる。膜の白濁は、耐水性の不足による膜の白化により、又は防曇性の不足による膜表面の結露により、生じうる。親水性が不足している膜の表面では、水は、連続膜として保持されず、水滴として分散して付着する。耐水性が不足している膜には、高温水蒸気との接触により白濁が観察され、膜の成分の溶出や膜の欠損が生じることもある。表面の親水性は、一般に、水の接触角により評価される。しかし、この評価法では、ごく少量の水滴が膜に滴下されるのみであるから、厳しい環境を十分に再現したことにはならない。なお、透明な連続膜は、水蒸気に曝された防曇膜の表面の80%以上、さらに90%以上を被覆していてもよい。
【0071】
より詳細に、或いはより段階的に膜を評価するためには、QRコードを用いた情報読み取り評価を実施することができる。この評価法の詳細も実施例の欄で後述する。この評価法において、本実施形態による防曇膜付き樹脂基板は、室温の水に100時間浸漬した後においても、好ましくは30mm四方のサイズを有するQRコード「A」を、より好ましくは20mm四方のサイズを有するQRコード「S」を、さらに好ましくは15mm四方のサイズを有するQRコード「SS」を、特に好ましくは10mm四方のサイズを有するQRコード「SSS」の読み取りが可能な程度に、良好な親水性を発揮しうる。
【0072】
本実施形態による塗布液は、シランカップリング剤と、吸水性ポリマーと、ポリエーテル変性シロキサンと、炭素数2~8のジオールと、を含み、シランカップリング剤は、シランカップリング剤Aと、シランカップリング剤B及びシランカップリング剤Cからなる群より選択される少なくとも1つに該当するシランカップリング剤と、を含む。各成分には、例えば、上述した化合物が使用できる。塗布液における各成分の含有率は、防曇膜における各成分の含有率が上述した範囲になるように適宜調節すればよい。また、塗布液には、その他の成分が含まれていてもよい。その他の成分の例は、水及びアルコールである。
【実施例0073】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。まず、各実施例又は比較例から得た防曇膜付き樹脂基板の評価方法を説明する。
【0074】
(水浸漬試験)
室温(約25℃)の純水を保持したプラスチック製容器に防曇膜付き樹脂基板を浸漬させ、この状態で100時間保持した。その後、防曇膜付き樹脂基板を取り出し、ホルダーに立てかけて乾燥させた。乾燥後のサンプルについて、以下の外観評価及び高温水蒸気評価を実施した。
【0075】
・外観評価
膜面の状態が下記のいずれに該当するかを肉眼で評価した。
G :試験前と比較して変化なし。
F :若干の白化が観察される。
NG:白化が観察される。
Y :膜の溶出が観察される。
【0076】
・高温水蒸気を用いた防曇性評価(高温水蒸気評価)
図3Aに示すように、沸騰させた水70を内部に保持したステンレス製保温カップ80の上方に、防曇膜11が形成された面が保温カップ80側を向くように防曇膜付き樹脂基板1を水平に保持した。水蒸気を供給する間、水70の温度は90~100℃に維持されていた。防曇膜11と水面との間の距離D
1は60mmとした。なお、保温カップ80の内部空間は開口部の直径が64mmの円柱状であり、水70の体積は約130ccとした。保温カップ80上で防曇膜付き樹脂基板1を30秒間保持して防曇膜11に高温の水蒸気を供給した。その後、
図3Bに示すように、保温カップ80を撤去し、これに代えて所定のQRコード90を印刷した台紙95を配置した。防曇膜11と台紙95との間の距離D
2は110mmとした。この状態で、防曇膜付き樹脂基板1を介してその上方からカメラ100によりQRコード90を撮影し、QRコード90が有する情報を読み取れるかを確認した。樹脂基板10とカメラ100のレンズ101との間の距離D
3は80mmとした。保温カップ80の撤去、すなわち高温水蒸気の供給の停止からQRコードの撮影までは30秒以内に実施した。
【0077】
QRコードとしては、
図4Aから
図4Eに示した5種類を用い、情報を読み取ることができる最小のQRコードを特定し、そのQRコードを評価結果とした。用いたQRコードの大きさとそれが有する情報は、以下のとおりである。例えば、QRコードSSSを読み取ることができた場合は、文字情報「Rank:SSS」が表示されることになる。
QRコード「SSS」:10mm×10mm、情報「Rank:SSS」(
図4A)
QRコード「SS」 :15mm×15mm、情報「Rank:SS」(
図4B)
QRコード「S」 :20mm×20mm、情報「Rank:S」(
図4C)
QRコード「A」 :30mm×30mm、情報「Rank:A」(
図4D)
QRコード「B」 :40mm×40mm、情報「Rank:B」(
図4E)
【0078】
いずれのQRコードも読み取ることができなかった場合は「X」、高温水蒸気との接触により膜が溶出又は剥離した場合は「Y」と評価した。
【0079】
図4Aに記載されたQRコード「SSS」は、JIS X 0510:2018に従い、25×25モジュールのシンボルサイズ及びレベルHの誤り訂正の仕様により、情報として上記文字列を符号化した。
図4B~4Eに記載されたQRコード「SS」~QRコード「B」は、JIS X 0510:2018に従い、21×21モジュールのシンボルサイズ及びレベルHの誤り訂正の仕様により、情報として上記各文字列を符号化した。なお、各文字列は、全角文字ではなく半角文字(1バイトコード)により構成されている。
【0080】
カメラは、ソニー社製のスマートフォン「Xperia XZ2」(機種名:SO-03K、OS:Android(登録商標)(ver.10))を用いた。QRコードの読み取りにはLINE(登録商標)アプリ(ver.11.7.2)のQRコード読み取り機能を用いた。
【0081】
(実施例1)
(塗布液の調製)
ポリビニルアセタール樹脂含有溶液(積水化学工業社製「エスレックKX-5」、固形分8質量%、アセタール化度9モル%、ベンズアルデヒドに由来するアセタール構造を含む)72.3質量%、ポリエーテル変性ジメチルシロキサン(日信化学工業社製「シルフェイスSAG503A」)1.1質量%、3-アミノプロピルトリエトキシシラン(APTES、信越シリコーン社製「KBE-903」、シランカップリング剤A)1.3質量%、N-2-(アミノエチル)-8-アミノオクチルトリメトキシシラン(信越シリコーン社製「KBM-6803」、シランカップリング剤B)0.5質量%、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(GPTMS、信越シリコーン社製「KBM-403」、シランカップリング剤E)0.7質量%、プロピレングリコール20.0質量%、精製水3.3質量%、アルコール溶媒(大伸化学社製「ネオエタノールP-7」)0.8質量%、塩酸0.05質量%、レベリング剤(信越シリコーン社製「KP-341」)0.01質量%をガラス製容器に投入して攪拌し、塗布液を調製した。
【0082】
(防曇膜の形成)
樹脂基板に塗布液を塗布することによって防曇膜付き樹脂基板を得た。樹脂基板として、A4サイズを有するポリエステル樹脂基板(東洋紡社製「コスモシャインA4300」)を用いた。樹脂基板の表面には、予めプラズマ処理等は実施しなかった。塗布液の塗布は、アプリケーターを用いて、100μmのスリットで実施して塗膜を形成した。次に、140℃、9分間の条件で塗膜を形成した樹脂基板を加熱し、防曇膜付き樹脂基板を得た。
【0083】
(実施例2及び3)
塗布液の調製において、表1に記載した原料及び量を用いたことを除き、実施例1と同様にして防曇膜付き樹脂基板を得た。実施例3では、シランカップリング剤Bに代えて、ポリマー型の多官能アミノシラン(信越シリコーン社製「X-12-972F」;シランカップリング剤C)を使用した。実施例2及び3ではシランカップリング剤の増量分だけアルコール溶媒を減量した。
【0084】
(実施例4)
(塗布液の調製)
塗布液の調製において、表1に記載した原料及び量を用いたことを除き、実施例1と同様にして塗布液を得た。実施例4では吸水性ポリマーの減量分だけ精製水及びアルコール溶媒を増量した。詳細には、実施例4では、塗布液の調製において、精製水を18.5質量%使用し、アルコール溶媒を9.6質量%使用した。
【0085】
(防曇膜の形成)
樹脂基板に塗布液を塗布することによって防曇膜付き樹脂基板を得た。樹脂基板として、サイズ50mm×50mm、厚さ2mmのポリカーボネート基板(タキロンシーアイ社製「PC1600」)を用いた。樹脂基板の表面には、予めプラズマ処理を実施した。塗布液の塗布は、スピンコーターを用いて塗膜を形成した。次に、130℃、30分間の条件で塗膜を形成した樹脂基板を加熱し、防曇膜付き樹脂基板を得た。
【0086】
(実施例5)
塗布液の調製において、表1に記載した原料及び量を用いたことを除き、実施例4と同様にして防曇膜付き樹脂基板を得た。実施例5ではプロピレングリコールの増量分だけアルコール溶媒を減量した。
【0087】
(比較例1~14)
塗布液の調製において、表2に記載した原料及び量を用いたことを除き、実施例1と同様にして防曇膜付き樹脂基板を得た。また、比較例1~14では、添加しないこととした成分の量だけアルコール溶媒を増量した。
【0088】
水浸漬試験の結果を表1及び2に示す。なお、比較例のうち、防曇膜が白化又はその一部が溶出していたものは高温水蒸気評価を実施しなかった。
【0089】
【0090】
【0091】
各実施例による防曇膜付き樹脂基板は、水浸漬試験後の高温水蒸気評価が「SSS」となった。各実施例による防曇膜は、いずれも、高温の水蒸気の供給を停止した時点において、その表面に均一な厚みの水の連続膜が形成され、かつ膜自体の白化及び結露による曇りのいずれも観察されずに防曇膜付き樹脂基板の透明性が確保されていた。なお、各実施例において評価「SSS」を得た透明な連続膜は、水蒸気に曝された防曇膜の表面の90%以上、より具体的には上記表面の実質的にすべて、を被覆していた。これに対し、比較例では、水浸漬試験後に、防曇膜の溶出や膜の白化による外観上の欠陥が確認され、そうでないとしても、高温の水蒸気を供給すると防曇膜の表面に大きな水滴が分散して付着している状態であった。なお、比較例13の「NG,Y」は、部分的に膜が溶出し、残存した膜も白化していたことを示す。
【0092】
さらに、実施例1~5について、以下の評価を実施した。結果を表3に示す。
【0093】
【0094】
(初期状態)
防曇膜を形成した初期状態で、上記と同様にして、外観評価を実施し、さらにヘイズ率を測定した。
【0095】
(繰り返し防曇試験)
防曇膜を形成した初期状態において、高温水蒸気評価と同様にして、高温の水蒸気を防曇膜に供給した。その後、防曇膜付き樹脂基板を取り出し、ホルダーに立てかけて乾燥させた。乾燥後のサンプルに、再度、高温の水蒸気を防曇膜に供給し、乾燥させることを繰り返し、高温の水蒸気を防曇膜に10回供給した。その後、上記と同様にして、外観評価及び高温水蒸気評価を実施した。なお、高温水蒸気評価において、QRコードの撮影は、11回目の水蒸気の供給を省いて(10回目の水蒸気供給を終えた後直ちに)実施した。
【0096】
(アルコール摩耗試験)
エタノールを主成分とするアルコール溶媒(双葉化学薬品社製「ファインエターA-10」)0.5ccを25mm幅にカットした不織布ウエス(旭化成社製「ベンコットM-3II」)に滴下して染み込ませた後、防曇膜付き樹脂基板と共に往復摩耗試験にセットした。ウエスに400gの荷重を加えた状態で、長さ30mmを20往復させた。その後、上記と同様にして、外観評価及び高温水蒸気評価を実施した。