(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023055866
(43)【公開日】2023-04-18
(54)【発明の名称】毛髪の改善のための抗体
(51)【国際特許分類】
A61K 8/99 20170101AFI20230411BHJP
A61Q 5/00 20060101ALI20230411BHJP
A61Q 7/00 20060101ALI20230411BHJP
A61K 8/98 20060101ALI20230411BHJP
A61Q 5/02 20060101ALI20230411BHJP
A61Q 5/06 20060101ALI20230411BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20230411BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20230411BHJP
A61P 17/14 20060101ALI20230411BHJP
【FI】
A61K8/99
A61Q5/00
A61Q7/00
A61K8/98
A61Q5/02
A61Q5/06
A61Q19/00
A61K39/395 D
A61K39/395 N
A61P17/14
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023014661
(22)【出願日】2023-02-02
(62)【分割の表示】P 2018195862の分割
【原出願日】2018-10-17
(71)【出願人】
【識別番号】508198535
【氏名又は名称】オーストリッチファーマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】塚本 康浩
(57)【要約】 (修正有)
【課題】毛髪の改善のための組成物および方法を提供すること。
【解決手段】一つの実施形態では、抗体を使用して毛髪を改善する。一つの実施形態では、抗体は、頭皮または毛根に存在する細菌を免疫原として得られる。一つの局面では、本発明は、被験体の毛髪の改善の方法であって、微生物由来物を免疫原として作製した抗体を当該被験体に投与する工程を包含する方法も提供する。本発明の抗体は、組成物として投与されてもよい。本発明によって、育毛促進または脱毛抑制が達成され得る。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
本明細書に記載の発明。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、毛髪の改善のための抗体含有組成物、および抗体を用いる毛髪の改善の方法に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚は、体の表面を覆う器官であり、表皮、真皮および皮下組織などの層状構造を有する。皮膚は、外部刺激の感知、外部刺激からの保護、および外界との物質(例えば、水)交換の調整などの機能を担っている。また、粘膜も、体の表面を覆う器官であり、物質の吸収および分泌の調整を行っている。
【0003】
体表に適用するための外用薬として、軟膏剤、クリーム剤、ローション剤等が使用されている。しかし、タンパク質等の分子量の大きな分子は、一般的に皮膚または粘膜から体内に浸透するのは困難であり、そのため体表に適用して体内でその機能を発揮することも困難であると考えられている。
【0004】
また、皮膚は毛髪を有する。毛髪に関する制御機構、例えば、脱毛症の原因メカニズムには不明な点が多く、これまで画期的な治療法は見つかっていない。国際公開第2012/057336号に開示される3’-ホスホアデノシン5’-ホスホ硫酸など、育毛促進のためのいくつかの物質が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、抗体が毛髪の改善に有効であることを予想外に発見し、本発明を完成させた。実施例に示されるように、驚くべきことに、被験体には存在しない物質を免疫原とする抗体を当該被験体に投与することで毛髪育成促進および/または脱毛抑制効果が示された。
【0007】
したがって、本発明は以下を提供する。
(項目1)
被験体における毛髪の改善のための組成物であって、該被験体には存在しない物質を免疫原とする抗体を含む、組成物。
(項目2)
前記被験体には存在しない物質が、微生物由来物またはアレルギー物質である、項目1に記載の組成物。
(項目3)
前記毛髪の改善が、育毛促進または脱毛抑制を含む、項目1または2に記載の組成物。
(項目4)
皮膚に適用するための、項目1~3のいずれか一項に記載の組成物。
(項目5)
前記皮膚が頭皮である、項目4に記載の組成物。
(項目6)
前記微生物由来物が、菌体、ホモジネート、毒素、細胞質、細胞壁またはこれらの任意の組み合わせを含む、項目1~5のいずれか一項に記載の組成物。
(項目7)
前記微生物が、頭皮または毛根に存在する微生物を含む、項目1~6のいずれか一項に記載の組成物。
(項目8)
前記微生物が、細菌を含む、項目7に記載の組成物。
(項目9)
前記細菌が、Staphylococcus属またはPropionibacterium属の細菌を含む、項目9に記載の組成物。
(項目10)
前記細菌が、Staphylococcus aureusまたはPropionibacterium acnesを含む、項目9に記載の組成物。
(項目11)
前記抗体が、鳥類由来である、項目1~10のいずれか一項に記載の組成物。
(項目12)
前記鳥類が、ダチョウである、項目11に記載の組成物。
(項目13)
シャンプー、リンス、毛髪用ワックス、または皮膚用クリームの形態である、項目1~12のいずれか一項に記載の組成物。
(項目14)
化粧品である、項目1~13のいずれか一項に記載の組成物。
(項目15)
女性用である、項目1~14のいずれか一項に記載の組成物。
(項目16)
男性用である、項目1~15のいずれか一項に記載の組成物。
【0008】
本発明において、上記の1つまたは複数の特徴は、明示された組み合わせに加え、さらに組み合わせて提供され得ることが意図される。本発明のなおさらなる実施形態および利点は、必要に応じて以下の詳細な説明を読んで理解すれば、当業者に認識される。
【発明の効果】
【0009】
本発明の被験体には存在しない物質を免疫原とする抗体は、毛髪の改善に有効であり得る。特に、脱毛抑制および/または毛髪育成促進に本発明の抗体は有用であり得る。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1A】Norwood scaleによる男性の毛髪状態の評価基準を示す。
【
図1B】Ludwig scaleによる女性の毛髪状態の評価基準を示す。
【
図2A】Norwood Type IIIと判定された男性型脱毛症(AGA)患者について、本発明の抗体処置の前(左)および3ヶ月目(右)における観察画像を示す。
【
図2B】Ludwig Type IIと判定された女性について、本発明の抗体処置の前(左)および3ヶ月目(右)における観察画像を示す。
【
図2C】10名の男性について、本発明の抗体処置の前(左)および3ヶ月目(右)のそれぞれの時点において面積当たりの毛根数をカウントした結果を示す。縦軸は、1cm
2当たりの毛根数を示し、横軸はそれぞれの男性の抗体処置前のNorwood scaleによる毛髪状態評価を示す。
【
図2D】4名の女性について、本発明の抗体処置の前(左)および3ヶ月目(右)のそれぞれの時点において面積当たりの毛根数をカウントした結果を示す。縦軸は、1cm
2当たりの毛根数を示し、横軸はそれぞれの女性の抗体処置前のLudwig scaleによる毛髪状態評価を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を最良の形態を示しながら説明する。本明細書の全体にわたり、単数形の表現は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。従って、単数形の冠詞(例えば、英語の場合は「a」、「an」、「the」など)は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。また、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。したがって、他に定義されない限り、本明細書中で使用される全ての専門用語および科学技術用語は、本発明の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。
【0012】
以下に本明細書において特に使用される用語の定義および/または基本的技術内容を適宜説明する。
【0013】
(定義)
本明細書において「または」は、文章中に列挙されている事項の「少なくとも1つ以上」を採用できるときに使用される。「もしくは」も同様である。本明細書において「2つの値」の「範囲内」と明記した場合、その範囲には2つの値自体も含む。
【0014】
本明細書において、「約」とは、示される値の±10%の変動までが許容されることを指す。
【0015】
本明細書において、「被験体」とは、任意のヒトまたは非ヒト動物を意味する。非ヒト動物としては、例えば、イヌ、ネコ、ネズミ、ウサギ、ウマ、ブタ、サル、チンパンジーなどが挙げられ、一つの実施形態では、非ヒト動物は、ペット動物または鑑賞用動物であり得る。本明細書において、被験体には存在しない物質とは、被験体の体内(例えば、皮膚または粘膜の内部)に通常存在しない物質を指す。例えば、ヒトには存在しない物質は、ヒト表皮上に存在する微生物の成分、ヒト腸内に存在する微生物の成分、およびヒトに感染したウイルスまたはヒトに寄生した寄生虫の成分などであり得る。
【0016】
本明細書において、「毛髪の改善」とは、体毛における任意の所望の効果を指す。一つの実施形態では、毛髪の改善として、例えば、育毛促進、脱毛抑制、脱毛症の予防および/または治療、体毛の増加、体毛の伸長速度の増加、体毛密度の増加、体毛の全体的な外観の均質化などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0017】
本明細書において、「免疫原」とは、それに結合する抗体を取得しようとする標的物質を指す。免疫原は、例えば、細胞、細胞内成分、細胞外成分、細胞膜、細胞壁、生物の分泌物またはアレルギー物質などであり得、ここで、免疫原は、精製されていても、未精製でもよい。
【0018】
本明細書において「医薬」とは、当該分野でもっとも広義に解釈され、任意の薬を含み、薬事法上の医薬品、医薬部外品等のほか、人に適用するものだけでなく、動物に適用するもの(獣医薬)をも包含する概念として使用され、それを必要とする疾患、障害または状態の改善、治療または予防を意図する任意の用途の薬剤、組成物等を包含することが理解される。そのような例として、美容分野、ヘルスケア分野、医療分野、獣医科学等における応用が挙げられる。通常、医薬は固体、液体、乳液またはフォームの賦形剤を含むとともに、必要に応じて安定剤、pH調整剤、界面活性剤、乳化剤、保湿剤、緩衝剤、崩壊剤、香味剤、遅延放出剤、滑沢剤、結合剤、着色剤などの添加剤を含むことができる。医薬品の形態は、注射剤、パッチ剤、マイクロニードル、外用剤(例えば、軟膏、クリーム剤、ローション剤、シップ、スプレー剤)、坐剤、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、細粒剤、徐放製剤などを含むが、これらに限定されない。本発明の成分、抗体、化合物、組成物等は、医薬的に許容されうる一般的な担体または賦形剤などの成分と一緒にして医薬組成物とすることができる。
【0019】
本明細書において、「化粧品」とは、身体を清潔にし、美化し、魅力を増し、容貌を変え、又は皮膚若しくは毛髪をすこやかに保つために、身体に塗擦、散布その他これらに類似する方法で使用されることを目的とする任意の製品を指す。本明細書において、「化粧品」とは、いわゆる医薬品医療機器等法(旧薬事法)上の「化粧品」に限定されず、例えば、医薬部外品、医薬品、雑貨のいずれであってもよい。
【0020】
(抗体)
一つの局面では、本発明の抗体は、被験体には存在しない物質を免疫原とする任意の抗体であり得る。本明細書において、ある物質を免疫原として得られる抗体には、免疫系を有する動物に当該物質を投与した場合に産生される抗体、細胞表面に抗体の認識部分を発現する細胞のうち当該物質に結合する細胞から産生される抗体、および抗原結合性を変化させないようにこれらの抗体を改変した抗体が含まれる。例えば、このような改変された抗体として、CDRを変化させないように改変した抗体、定常ドメインのみを改変した抗体が挙げられるが、これらに限定されない。当業者であれば、任意の周知の技術を使用してこのような抗体を作製することができる。また、当業者であれば、免疫原である物質が特定されれば、いずれの抗体がこの物質を免疫原として得られる抗体であるかを容易に特定することができる。
【0021】
一つの実施形態では、本発明の抗体は、微生物由来物またはアレルギー物質を免疫原として得られる抗体であり得る。一つの実施形態では、本発明の抗体は、鳥類、微生物、哺乳動物、昆虫などの生物によって産生された抗体である。一つの実施形態では、本発明の抗体は、雌の鳥類(例えば、ニワトリ、ダチョウ、エミュー、ウズラ、アヒル、七面鳥、ガチョウ)に免疫原を接種し、その卵黄から回収することによって得られる抗体(例えば、IgY)であり得る。一つの実施形態では、本発明の抗体は、ダチョウ由来であり得る。一つの実施形態では、本発明の抗体は、生物において産生された抗体をさらに改変したものであってもよい。
【0022】
一つの実施形態では、本発明の抗体はポリクローナル抗体であってよく、ここで、ポリクローナル抗体は単一の物質(例えば、単一種の微生物、単一種のタンパク質など)を免疫原として得られる抗体であってもよいし、複数の物質(例えば、複数種の微生物、単一種の微生物における複数種のタンパク質など)を免疫原として得られる抗体であってもよい。一つの実施形態では、本発明の抗体は、単離、精製または濃縮された特定の1種または複数種の抗体であってもよい。一つの実施形態では、本発明の抗体または本発明の抗体のうちの少なくとも1種類は、当該抗体を得る際に使用した免疫原またはその成分に結合または特異的に結合する。
【0023】
公知の方法を利用して、雌の鳥類から所望の免疫原に対する抗体を取得することができる。免疫の際には、免疫原とともにアジュバンド、塩および安定化剤などの任意の添加成分を利用することができる。また、免疫の際には、免疫原は、任意の好適な条件(例えば、投与量、投与部位、pH、温度など)で投与できる。免疫は、初回免疫の後、追加免疫を行ってもよい。
【0024】
例えば、ダチョウへの免疫は、代表的には、以下のように行われるが、これに限定されない。
初回免疫:フロイントの完全アジュバントなどの適切なアジュバントに免疫原を混和し、雌のダチョウの腰部の筋肉内に接種する。
追加免疫:初回免疫後、隔週毎に3回追加免疫する。フロイントの不完全アジュバントなどの適切なアジュバントに免疫原を混和し、雌のダチョウの腰部の筋肉内に接種する。
追加免疫2週後以降に産卵されるダチョウ卵より抗体を精製する。
【0025】
本発明において免疫原として使用される微生物は、頭皮または毛根に存在する微生物であり得、細菌、ウイルス、真菌、蠕虫、昆虫などが挙げられ、例えば、黄色ブドウ球菌群、連鎖球菌、緑膿菌、マイクロコッカス、カンジダ、アスペルギルス、トリコフィトン、ダニ、マラセチアなどである。一つの実施形態では、免疫原として使用される微生物は、Staphylococcus属および/またはPropionibacterium属の細菌を含み得る。一つの実施形態では、免疫原として使用される微生物は、Staphylococcus aureusおよび/またはPropionibacterium acnesを含み得る。一つの実施形態では、本発明において免疫原として使用されるアレルギー物質としては、ハウスダスト、猫や犬のアレルゲンなどが挙げられる。
【0026】
本発明において使用される微生物由来物は、微生物自体であっても、微生物に含有・分泌される物質であっても、これらの物質の分解物であっても、これらの物質が被験体の成分と相互作用することで産生・形成される物質であってもよい。微生物由来物は、代表的には、未処理の菌体、ホモジネート、細菌が産生する毒素、酵素、多糖類、もしくは色素、細菌の細胞壁もしくは細胞質、芽胞、鞭毛または線毛、あるいはそれらの一部であり得、好ましくは細菌のホモジネートまたは毒素であり得る。好ましくは、免疫原としての微生物由来物はホモジネートである。好ましくは、免疫原としての細菌由来物は、細菌が産生する毒素、例えば、内毒素、外毒素、莢膜、芽胞であり得る。例えば、微生物の成分として、enterotoxins(エンテロトキシン)、TSST-1、コアグラーゼ、プロテアーゼ、リパーゼ、プロテインA、ピオシアニン、ピオベルジン、ピオルビン、エキソトキシンA、ヘモリジン、アルカリペプチダーゼ、エラスターゼ、エキソエンザイムS、ラムノリピド、カビ毒素:マイコトキシン)などが挙げられ、本発明の抗体または本発明の抗体のうちの少なくとも1種は、これらの成分のいずれかに結合または特異的に結合し得る。毛髪の改善のためには、微生物(例えば、細菌)のホモジネートを免疫原とした得られた抗体が好ましくあり得る。理論に束縛されることを意図するものではないが、微生物のホモジネートを免疫原とした得られた抗体は、微生物自体だけでなく、その他の微生物由来物に対しても作用することで特に優れた効果を発揮し得る。
【0027】
理論に拘束されることを意図しないが、本発明の抗体は、以下のメカニズムによって効果を奏すると考えられる。すなわち、頭皮皮膚に存在する常在菌(正常細菌叢)が日々のシャンプーや洗髪によって崩壊している。常在菌は皮脂を栄養分としている場合が多く、毛根の皮脂がアクネ菌などにより変性しても常在菌はバランスを崩す。そのような状態では、黄色ブドウ球菌や緑膿菌などの病原性細菌や、真菌が増殖しやすく、それらの菌体や毒素や酵素などにより、毛根の炎症や毛根細胞のダメージを誘発するために脱毛が起こり、育毛が阻害されると考えられる。これらに対する抗体を頭皮に滴下することにより抗原抗体反応により、脱毛因子、育毛阻害因子が中和されるので、結果として育毛が促進する。
【0028】
好ましい実施形態においては、本発明の組成物において使用される抗体は、Staphylococcus aureusのホモジネートおよびPropionibacterium acnesのホモジネートを免疫原として鳥類を免疫することによって得られた抗体であり得る。特に好ましい実施形態においては、本発明の組成物において使用される抗体は、Staphylococcus aureusのホモジネートおよびPropionibacterium acnesのホモジネートを免疫原としてダチョウを免疫することによって得られた抗体であり得る。
【0029】
本発明の1つの実施形態において、免疫原は、菌体またはアレルゲンをリン酸緩衝液(PBS)中でホモジナイザーによってホモジナイズすることによって得ることができる。ホモジナイズは、pH約6~約8、好ましくはpH約7において、冷蔵下(4度)で行い得る。ホモジナイザーとしては、タンパク抽出用の高回転の機械を用いることができる。好ましくは、ホモジナイザー後は遠心分離をせずにそのまま、その液体を抗原として鳥類を免疫する。プロテアーゼ阻害剤や安定化剤は使用しないが、トレハロースを液体の4%となるように追加してもよい。さらに、このようにして得られた液体をアジュバントに混和して免疫してもよいが、アジュバントを用いなくても抗体は産生され得る。
【0030】
(方法)
一つの局面では、本発明は、抗体を被験体に投与する工程を包含する、当該被験体の毛髪の改善の方法も提供する。この方法において、本発明の抗体は、下で記載されるような組成物として投与されてもよい。一つの実施形態では、この方法で使用される抗体は、被験体には存在しない物質を免疫原とする任意の抗体であり得る。一つの実施形態では、この方法で使用される抗体は、微生物由来物またはアレルギー物質を免疫原として得られる抗体であり得る。
【0031】
本発明の抗体は、哺乳動物、好ましくはヒトに、皮膚表面(例えば、頭皮表面)、経皮、直腸、筋肉内、腹腔内、脳脊髄内、皮下、関節内、滑膜内、鞘内、経口、局所的または吸入経路によって、ボーラスとしてかまたはある期間にわたる持続的注入によって、薬学的に許容される任意の投薬形態で投与され得る。本発明は特に育毛促進または脱毛抑制に有用であり、この目的のためには皮膚表面(例えば、頭皮表面)への投与が特に好ましい。抗体は通常皮膚に浸透しないと考えられているが、本発明者は、驚くべきことに、ヒトには存在しない物質を免疫原とする抗体を皮膚表面に投与することで、毛髪の改善というヒト体内の機構に基づく効果が発揮されることを見出した。また、皮膚表面への局所適用では、経口投与されるミノキシジルなどの育毛剤と比較して、副作用が少ないことが期待される。
【0032】
本発明の抗体の適切な投与量は、目的とする毛髪の改善効果の種類および程度、毛髪の状態および経過、以前の適用、被験体の病歴および抗体への応答、ならびに主治医の自由裁量に依存し得る。本発明の抗体は、1回でまたは一連の処置にわたって適切に被験体に投与され得る。
【0033】
本発明の抗体は、皮膚を保護する薬剤、毛根の働きを活性化する薬剤または微生物を抑制する薬剤(例えば抗生物質)と組み合わせて投与されてもよい。このような微生物を抑制する薬剤としては、βラクタム系(ペニシリン系、セフェム系)、アミノグリコシド系、マクロライド系、テトラサイクリン系、キノロン系、クリンダマイシン系、ゲンタマイシン系、クロラムフェニコール系、マイトマイシン系、バンコマイシン系、メシチリン系、ナイスタチン系、カルバペネム系、アンフォテリシン系、ポリエーテル系、ペプチド系の抗生物質、スルホンアミド系、ニトロフラン系、イソニコチン酸ヒドラジド系、ピラジナマイド系、ヒ素化合物系、アンチモン化合物系、キノリン化合物系の化学療法薬などが挙げられるが、これらに限定されない。毛根の働きを活性化する薬剤としては、ミノキシジル、アデノシン関連化合物、3’-ホスホアデノシン5’-ホスホ硫酸などが挙げられ、本発明の抗体をこれらと組み合わせて使用することで、より高い育毛作用が達成され得る。
【0034】
本発明の抗体は、免疫原として使用した微生物の抑制に有用であるだけでなく、当該微生物から派生し、当該微生物を殺傷する処置(放射線照射など)や薬剤に対して耐性を獲得した耐性微生物にも有用であり得る。耐性獲得のメカニズムはいくつかあるが、代表的には、薬剤分解酵素や修飾酵素の産生能の獲得、薬剤作用部位の変異、菌体内への薬剤侵入孔の減少、薬剤排出機構の獲得・増強などが挙げられる。理論に束縛されることを意図するものではないが、本発明の抗体は、これらの耐性獲得機構とは異なる機構によって微生物の増殖や機能を抑制することが可能であり得るため、ある微生物を免疫原として作製した抗体が、当該微生物から派生した耐性微生物に対しても効果を発揮するものと考えられる。あるいは、本発明の抗体は、微生物が耐性のために変異して獲得し産生する蛋白合成酵素(例えば、増殖のための酵素)、薬剤分解酵素などに対して抗体が結合し、中和することでその効果を発揮するものと考えられる。
(組成物)
一つの局面では、本発明の抗体は、本発明の抗体を含む組成物として提供される。
【0035】
一つの実施形態では、本発明の組成物は、化粧品であってもよい。このような化粧品としては、例えば、清浄用化粧品、頭髪用化粧品、基礎化粧品、メークアップ化粧品、芳香化粧品、日焼け・日焼け止め化粧品、口唇化粧品および入浴剤が挙げられる。
【0036】
一つの実施形態では、本発明の組成物は医薬であってもよい。このような医薬としては、例えば、脱毛症予防剤、脱毛症治療剤、育毛剤、洗髪剤、整髪剤などが挙げられる。
【0037】
本発明の組成物は、任意の好適な形態であり得、例えば、石鹸、シャンプー、リンス、トリートメント、毛髪用ワックス、ポマード等の整髪剤、外用剤(例えば、軟膏、クリーム剤、ローション剤、シップ、スプレー剤)、注射剤、点鼻薬、点眼薬、口腔内スプレー、洗浄薬、パッチ剤、マイクロニードル、坐剤、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、細粒剤、徐放製剤などの形態であり得る。
【0038】
本発明の組成物は、固体、液体、乳液またはフォームの賦形剤を含んでもよく、必要に応じて安定剤、pH調整剤、界面活性剤、乳化剤、保湿剤、緩衝剤、崩壊剤、香味剤、遅延放出剤、滑沢剤、結合剤、着色剤などの添加剤を含むこともできる。一つの実施形態では、本発明の組成物は、上記されるような皮膚を保護する薬剤、毛根の働きを活性化する薬剤または微生物を抑制する薬剤(例えば抗生物質)をさらに含んでもよい。
【0039】
一つの実施形態では、本発明の組成物は、女性用の組成物として提供されてもよく、この目的のために適当な成分(例えば、イソフラボンなど)が添加されてもよい。一つの実施形態では、本発明の組成物は、男性用の組成物として提供されてもよく、この目的のために適当な成分(例えば、メンソールなど)が添加されてもよい。好ましい実施形態においては、本発明の組成物は、被験体の性別を問わない。
【実施例0040】
黄色ブドウ球菌Staphylococcus aureus(S.aureus;NBRC102135)、アクネ菌Propionibacterium acnes(P.acnes;NBRC107605)の2つの細菌を免疫原として用いて、ダチョウ抗体の脱毛抑制・育毛促進効果を検討した。
【0041】
上記2つの細菌の培養懸濁液をそれぞれ遠心分離し、沈殿させた。培養液を除去し、リン酸緩衝液(pH7)を加え細菌を浮遊させ、ホモジナイザーにて細菌菌体を4℃で破砕した。この破砕液(ホモジネート)を免疫原としてダチョウに免疫した。
【0042】
<ダチョウへの免疫>
初回免疫:フロイントの完全アジュバントにタンパク質量として100μgの上記それぞれのホモジネートを混和し、雌のダチョウの腰部の筋肉内に接種した。
【0043】
追加免疫:初回免疫後、上記2種類のホモジネートを、ともに隔週毎に3回追加免疫した。この追加免疫も、フロイントの不完全アジュバントに100μgのバクテリアホモジネート液を混和し、すでに免疫化した雌のダチョウの腰部の筋肉内に接種した。
【0044】
<抗体の精製>
追加免疫から2週間以降に産卵されたダチョウ卵より抗体を精製した。抗体の精製法を以下に示す。卵黄からの抗体(IgY)の精製は以下のように行った。
【0045】
まず、卵黄に5倍量のTBS(20mM Tris-HCl、0.15M NaCl,0.5%NaN3)と同量の10%デキストラン硫酸/TBSを加え20分攪拌した。そして1M CaCl2/TBSを卵黄と同量加え攪拌し、12時間静置した。その後、15000rpmで20分間遠心し上清を回収した。次に、最終濃度40%になるように硫酸アンモニウムを加え、4℃で12時間静置した。その後、15000rpmで20分遠心し、沈殿物を回収した。最後に、卵黄と同量のTBSに再懸濁し、TBSにて透析した。この過程により90%以上の純度のIgYの回収が可能であった。1個の卵黄から2~4gのIgYを精製することができた。
抗体液の調製
20%エチルアルコール、79%蒸留水および1%抗体原液(リン酸緩衝液1mLにつき抗S.aureus抗体15mgおよび抗P.acnes抗体15mgを添加したもの。)となるように各成分を混合して抗体液を調製した。
【0046】
3ヶ月間にわたって毎日朝晩2回、男性(10名)および女性(4名)の患部(薄毛になっている頭皮)に適量(約1~10mL)を滴下し、そのまま放置することで、上記抗体液を適用した。洗髪などは通常通りに行った。試験した男性は、男性型脱毛症(AGA)を有し、40歳であった。試験した女性は、59歳であった。
【0047】
抗体液使用開始前および3ヶ月目の2つの時点で、Norwood scale(
図1A)およびLudwig scale(
図1B)(Mrinal Gupta et. al., J Cutan Aesthet Surg. 2016 Jan-Mar;9(1):3-12.)に従って頭皮の状態を観察し、育毛効果を確かめた。また、単位面積あたりの毛髪数(毛根数)をカウントした。
【0048】
その結果、男性では10名中9名で育毛効果が認められ(
図2AB)、女性では4名中3名で育毛効果が認められた(
図2CD)。
考察
S.aureus/P.acnesの粉砕物を免疫原として作製したダチョウ抗体液には高率で育毛効果が認められた。ミノキシジルなどの育毛剤は男性に効果的であるが、脱毛のメカニズムが異なるため、女性の場合の薄毛には効果がないと報告されている。しかし、本実施例では、男性および女性の両方について育毛効果が観察された。これは、皮膚に存在する微生物の増殖や産生される毒素や酵素などが抗体で抑制されることで、薄毛や脱毛の原因物質が不活性化され、毛根が活性化されたためであると考えられる。
【0049】
また、ミノキシジルは、経口服用により性欲減退などの副作用が生じることが報告されているが、他方、本実施例は、抗体を皮膚表面に直接投与することで頭皮の微生物が特異的に抑制されることを示すものであり、簡便に育毛効果が得られている。特に、治療法が少ない女性の薄毛に対しても効果が認められているので、本発明の有用性は高いと期待される。
【0050】
同様の育毛促進および/または脱毛抑制効果が、他の微生物、例えば、黄色ブドウ球菌群、連鎖球菌、緑膿菌、真菌(マイクロコッカス、カンジダ、アスペルギルス、トリコフィトン、マラセチア)、またはアレルギー物質(ハウスダスト、ダニ、猫や犬のアレルゲン)を免疫原として使用して作製された抗体でも奏されると予想される。また、ダチョウ抗体に限らず、任意の好適な生物において産生される抗体において、同様の効果が得られると予想される。