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特開2023-55905骨代謝の障害および低カルシウム血症などの治療誘発性副作用の処置および/または予防に適した、抗RANKL抗体、カルシウムおよびビタミンDを含む薬学的組成物
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  • 特開-骨代謝の障害および低カルシウム血症などの治療誘発性副作用の処置および/または予防に適した、抗RANKL抗体、カルシウムおよびビタミンDを含む薬学的組成物 図1
  • 特開-骨代謝の障害および低カルシウム血症などの治療誘発性副作用の処置および/または予防に適した、抗RANKL抗体、カルシウムおよびビタミンDを含む薬学的組成物 図2
  • 特開-骨代謝の障害および低カルシウム血症などの治療誘発性副作用の処置および/または予防に適した、抗RANKL抗体、カルシウムおよびビタミンDを含む薬学的組成物 図3
  • 特開-骨代謝の障害および低カルシウム血症などの治療誘発性副作用の処置および/または予防に適した、抗RANKL抗体、カルシウムおよびビタミンDを含む薬学的組成物 図4
  • 特開-骨代謝の障害および低カルシウム血症などの治療誘発性副作用の処置および/または予防に適した、抗RANKL抗体、カルシウムおよびビタミンDを含む薬学的組成物 図5
  • 特開-骨代謝の障害および低カルシウム血症などの治療誘発性副作用の処置および/または予防に適した、抗RANKL抗体、カルシウムおよびビタミンDを含む薬学的組成物 図6
  • 特開-骨代謝の障害および低カルシウム血症などの治療誘発性副作用の処置および/または予防に適した、抗RANKL抗体、カルシウムおよびビタミンDを含む薬学的組成物 図7
  • 特開-骨代謝の障害および低カルシウム血症などの治療誘発性副作用の処置および/または予防に適した、抗RANKL抗体、カルシウムおよびビタミンDを含む薬学的組成物 図8
  • 特開-骨代謝の障害および低カルシウム血症などの治療誘発性副作用の処置および/または予防に適した、抗RANKL抗体、カルシウムおよびビタミンDを含む薬学的組成物 図9
  • 特開-骨代謝の障害および低カルシウム血症などの治療誘発性副作用の処置および/または予防に適した、抗RANKL抗体、カルシウムおよびビタミンDを含む薬学的組成物 図10
  • 特開-骨代謝の障害および低カルシウム血症などの治療誘発性副作用の処置および/または予防に適した、抗RANKL抗体、カルシウムおよびビタミンDを含む薬学的組成物 図11
  • 特開-骨代謝の障害および低カルシウム血症などの治療誘発性副作用の処置および/または予防に適した、抗RANKL抗体、カルシウムおよびビタミンDを含む薬学的組成物 図12
  • 特開-骨代謝の障害および低カルシウム血症などの治療誘発性副作用の処置および/または予防に適した、抗RANKL抗体、カルシウムおよびビタミンDを含む薬学的組成物 図13
  • 特開-骨代謝の障害および低カルシウム血症などの治療誘発性副作用の処置および/または予防に適した、抗RANKL抗体、カルシウムおよびビタミンDを含む薬学的組成物 図14
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023055905
(43)【公開日】2023-04-18
(54)【発明の名称】骨代謝の障害および低カルシウム血症などの治療誘発性副作用の処置および/または予防に適した、抗RANKL抗体、カルシウムおよびビタミンDを含む薬学的組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/395 20060101AFI20230411BHJP
   A61P 19/10 20060101ALI20230411BHJP
   A61P 19/08 20060101ALI20230411BHJP
   A61P 3/14 20060101ALI20230411BHJP
   A61K 31/59 20060101ALI20230411BHJP
   A61K 31/593 20060101ALI20230411BHJP
   A61K 31/592 20060101ALI20230411BHJP
   A61K 33/06 20060101ALI20230411BHJP
   A61K 33/08 20060101ALI20230411BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20230411BHJP
   A61K 47/04 20060101ALI20230411BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20230411BHJP
   A61K 47/14 20170101ALI20230411BHJP
   A61K 47/18 20170101ALI20230411BHJP
   A61K 47/22 20060101ALI20230411BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20230411BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20230411BHJP
   A61K 47/42 20170101ALI20230411BHJP
   A61K 47/44 20170101ALI20230411BHJP
   A61K 47/46 20060101ALI20230411BHJP
   C07K 16/28 20060101ALI20230411BHJP
   C07K 16/24 20060101ALI20230411BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20230411BHJP
【FI】
A61K39/395 D ZNA
A61P19/10
A61P19/08
A61P3/14
A61K31/59
A61K31/593
A61K31/592
A61K33/06
A61K33/08
A61K47/02
A61K47/04
A61K47/12
A61K47/14
A61K47/18
A61K47/22
A61K47/26
A61K47/36
A61K47/42
A61K47/44
A61K47/46
C07K16/28
C07K16/24
C12N15/13
A61K39/395 N
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023016335
(22)【出願日】2023-02-06
(62)【分割の表示】P 2019513486の分割
【原出願日】2017-05-19
(31)【優先権主張番号】102016006557.5
(32)【優先日】2016-05-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(71)【出願人】
【識別番号】518411888
【氏名又は名称】カール、クリストフ
【氏名又は名称原語表記】KARL, Christoph
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】カール、クリストフ
(72)【発明者】
【氏名】ティエロルフ、リュディガー
(57)【要約】      (修正有)
【課題】骨代謝の障害および抗RANKL抗体の効果によって引き起こされる低カルシウム血症などの治療誘発性副作用の治療および/または予防に使用することができる、医薬組成物の使用を提供する。
【解決手段】抗RANKL抗体ならびにカルシウムおよびビタミンDを含む薬学的組成物の使用であって、抗RANKL抗体を含む該薬学的組成物は、好ましくは、1~2mlの溶液中において30~90mgの用量で、年1回または6ヶ月間隔で皮下投与され、カルシウムを含む該薬学的組成物は、1日あたり400~600mgの用量で経口投与され、ビタミンDは、1日あたり800~1200IUのビタミンDの用量で経口投与されることを特徴とする、使用である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
骨粗鬆症、閉経後骨粗鬆症、顕性骨粗鬆症、コルチコイド誘発性骨粗鬆症、男性または
女性の骨粗鬆症、パジェット病、骨形成不全症を処置するため、上述の障害における骨折
を予防するため、ならびに抗RANKL抗体療法によって誘発される低カルシウム血症の
処置および/または予防において使用するための、抗RANKL抗体ならびにカルシウム
およびビタミンDを含む薬学的組成物の使用であって、抗RANKL抗体を含む該薬学的
組成物は、好ましくは、1~2mlの溶液中において30~90mg(20~60mg/
ml)、より好ましくは、50~70mg、なおもより好ましくは、好ましくは1mlの
溶液中において60mg(60mg/ml)の用量で、年1回または6ヶ月間隔で皮下投
与され、カルシウムを含む該薬学的組成物は、1日あたり400~600mg、特に好ま
しくは、1日あたり500mgの用量で経口投与され、ビタミンDは、1日あたり800
~1200IUのビタミンD、特に好ましくは、1000IUのビタミンDの用量で経口
投与されることを特徴とする、使用。
【請求項2】
骨関連合併症、特に、固形腫瘍、特に、乳癌、前立腺癌、肺癌、腸癌または骨癌(骨肉
腫)に起因する骨関連合併症、病的骨折、骨の放射線照射、脊髄圧迫または骨の手術、骨
転移、骨転移における疼痛、神経絞扼、1つ以上の固形腫瘍、例えば、乳癌、前立腺癌、
肺癌または多発性骨髄腫に起因する変形を処置および/または予防するため、ならびに上
述の障害における骨折を予防するため、ならびに抗RANKL抗体療法によって誘発され
る低カルシウム血症の処置および/または予防において使用するための、抗RANKL抗
体ならびにカルシウムおよびビタミンDを含む薬学的組成物の使用であって、抗RANK
L抗体は、好ましくは、1~3mlの溶液中において60~180mg、より好ましくは
、80~150mg、なおもより好ましくは、特に1.7mlの溶液中において120m
g(70mg/ml)の用量で、少なくとも3~4週間、皮下投与され、1日に400~
600mgのカルシウム、特に好ましくは、1日に500mgのカルシウムが経口投与さ
れ、1日に800~1200IUのビタミンD、特に好ましくは、1日に1000IUの
ビタミンDが経口投与されることを特徴とする、使用。
【請求項3】
前記薬学的組成物が、前記抗RANKL抗体の有害作用、特に、顎の骨壊死、顎の崩壊
に至る非治癒性創傷、低カルシウム血症、心不整脈などの心血管有害作用、痙攣および二
次性副甲状腺機能亢進症の処置および/または予防において使用するのに適している、請
求項1又は2に記載の薬学的組成物の使用。
【請求項4】
前記抗RANKL抗体が、重鎖および軽鎖を含むことを特徴とし、該重鎖は、配列番号
2または配列番号8に記載のアミノ酸配列を含み、該軽鎖は、配列番号4または配列番号
9に記載のアミノ酸配列を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の薬学的組成物の使
用。
【請求項5】
前記抗RANKL抗体が、配列番号5に記載のアミノ酸配列の重鎖の可変領域および/
または配列番号6に記載のアミノ酸配列の軽鎖の可変領域を含むことを特徴とする、請求
項1~4のいずれか一項に記載の薬学的組成物の使用。
【請求項6】
前記抗RANKL抗体が、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、単一特異性抗体
、二重特異性抗体、二機能性抗体、一本鎖抗体、合成抗体、組換え抗体、変異抗体、ヒト
抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体、IgG、IgA、IgMもしくはIgE抗体、抗原結合
フラグメントまたは抗体構築物、例えば、個別の鎖または抗体融合タンパク質もしくはそ
のフラグメント、特に、別個の軽鎖および重鎖から構成されるFv(scFv)、Fab
、Fab/c、Fv、scFv、Fd、dAb、Fab’またはF(ab ’)2であり
、フラグメントは、軽鎖の可変領域および/または重鎖の可変領域を含む、請求項1~5
のいずれか一項に記載の薬学的組成物の使用。
【請求項7】
カルシウムが、特に、グルコン酸乳酸カルシウム、グルコン酸カルシウム一水和物、乳
酸カルシウム五水和物、クエン酸カルシウム、クエン酸カルシウム四水和物、炭酸カルシ
ウム、リン酸カルシウム、リン酸二水素カルシウム、リン酸水素カルシウム、リン酸水素
カルシウム二水和物、酢酸カルシウム、アスコルビン酸カルシウム、塩化カルシウム、グ
ルコヘプトン酸カルシウム、グリセロリン酸カルシウムおよび/または硫酸カルシウムを
含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の薬学的組成物の使用。
【請求項8】
ビタミンDが、特に、ビタミンDおよび/またはビタミンD3および/またはビタミン
D2および/またはそれらの誘導体、特に、カルシトリオール(1,25-ジヒドロキシ
ビタミンD3)または1α,25-ジヒドロキシコレカルシフェロール、アルファカルシ
ドール(1α-ヒドロキシビタミンD3)、24,25-ジヒドロキシビタミンD3、カ
ルシフェジオール、ビタミンD2および/またはエルゴ-カルシフェロールを含む、請求
項1~7のいずれか一項に記載の薬学的組成物の使用。
【請求項9】
薬学的に好適な賦形剤および/または液体もしくは溶媒をさらに含む、請求項1~8の
いずれか一項に記載の薬学的組成物。
【請求項10】
前記薬学的組成物のための前記賦形剤が、ラクトース、デンプン、酸性化剤、特に、ク
エン酸、リンゴ酸、酸性制御剤、特に、炭酸水素ナトリウムおよび炭酸ナトリウム、保湿
剤、特に、ソルビトール、キシリトールおよびイヌリン、分離剤、特に、リン酸三カルシ
ウム、脂肪酸、特に、マグネシウム塩、特に、ステアリン酸マグネシウム、天然のおよび
天然と同一のおよび他の香味料および香味物質、甘味料、特に、サイクラミン酸ナトリウ
ム、アスパルテームおよびサッカリンナトリウム、マルトデキストリン、色素、特に、レ
ッドビートジュース粉末およびリボフラビン-5’-リン酸、二酸化ケイ素、特に、高分
散性、二酸化ケイ素水和物、フェニルアラニン、アラビアゴム、サッカロース、ゼラチン
、コーンスターチ、大豆油、グリセロール、DL-アルファトコフェロール、イソマルト
、炭酸水素ナトリウム、炭酸二水素ナトリウム、クエン酸ナトリウム、クエン酸二水素ナ
トリウム、カルメロースナトリウム、アセスルファムカリウム、アスコルビン酸ナトリウ
ム、トリグリセリド、特に中鎖トリグリセリドを含み、および/または薬学的に適合性の
液体、特に、水、等張食塩水溶液、等張性ソルビトール-酢酸ナトリウム-ポリソルベー
ト溶液、等張性ソルビトール-酢酸ナトリウム溶液、等張性グルコース溶液、または好適
なpHの他の薬学的に好適な等張性溶液における、請求項1~9のいずれか一項に記載の
薬学的組成物の使用。
【請求項11】
前記溶媒または液体が、水、等張食塩水またはグルコース溶液を含む、請求項1~10
のいずれか一項に記載の薬学的組成物の使用。
【請求項12】
抗RANKL抗体を含む前記薬学的組成物が、注入液、注入液濃縮物、即時注入液また
は充填済みシリンジとして提供され、カルシウムおよび/またはビタミンDを固体または
液体の形態で含む該薬学的組成物が、発泡錠、嚥下可能な錠剤もしくはカプセル剤、チュ
アブル錠、発泡顆粒剤、使用準備済の顆粒剤、飲用溶液、滴剤または舌下スプレー剤とし
て、個別にまたは組み合わせて、提供される、請求項1~11のいずれか一項に記載の薬
学的組成物の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、骨代謝の障害、および抗RANKL抗体の作用が原因である低カルシウム血
症などの治療誘発性有害作用の処置および/または予防に適した、抗RANKL抗体、カ
ルシウムおよびビタミンDを含む薬学的組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
骨粗鬆症、腫瘍疾患(誘発性骨減少(CTIBL、癌処置誘発性骨減少)を含む)、パ
ジェット病または低カルシウム血症などの骨代謝の障害の処置は、医学研究における試み
の重要な焦点となっている。ヒトの骨は、ヒドロキシアパタイト(Ca(PO
Ca(OH))の形態の無機塩(主にカルシウムおよびリン酸塩)と結合した有機マト
リックスから構成される。基本原理として、ヒトにおける骨生理学は、骨組織の恒常的な
形成および吸収(骨代謝回転)に基づく。持続的なリモデリングプロセスにおける骨の形
成および吸収は、ホルモンによって(本質的には、エストロゲンおよび副甲状腺ホルモン
(PTH)によって)、ならびにシグナル伝達経路(本質的にはRANKL(核因子-k
B活性化受容体リガンド)/OPG(オステオプロテゲリン)およびCa/PTH/ビタ
ミンD3)によって、制御される。小児期、特に思春期において、骨は、吸収されるより
も多く形成されるが、加齢に伴って、特に閉経中および閉経後の女性では、「正味の」骨
吸収に向かう傾向が増す。
【0003】
ヒトの生涯の経過にわたって、骨は、絶えず生理学的ストレスおよび機械的ストレスに
さらされ、しかるべく順応する。このことは、Julius Wolff 1862によ
って1862年に初めて報告され、Wolffの法則は、骨の生体力学的な理解の礎とな
っている。Wolffは、骨の形状がその機能に順応すること、および骨は絶えず負荷に
さらされていないと変性することを、大腿骨頭の研究において示すことができた。ゆえに
、「リモデリング」の経過において、負荷にさらされていない骨は吸収され、これは、6
0日間にわたって床上絶対安静した患者の床上安静研究において研究された現象である。
他方で、強い機械的負荷にさらされた骨は、当該の力線に沿って強化され、これは、テニ
ス選手の前腕骨の例を用いて実証された。
【0004】
骨に力がかかると、通常のリモデリングプロセスに加えて、微小損傷または連続性の遮
断(骨折)が、欠陥の形成を伴っておよび伴わずに生じ、これらは、瘢痕なしで治癒し得
る。無機材料の場合、破壊点未満の負荷が繰り返されると、材料疲労/材料疲労骨折に至
り、それらでは、小さなひびが生じ、そのひびは、臨界サイズに到達してその材料が壊れ
るまで伸びる。半脆性材料として、骨は、極めて小さなひび(いわゆる微小亀裂)を形成
することによってエネルギーを吸収することによって、破砕を回避できる。微小亀裂は、
早くも1960年にHarold Frostによって報告されており、主に間質骨に生
じる50~100μmの長さのはっきりと入ったひびである。概して、当該の生体力学的
負荷に応じて、微小亀裂の長手方向軸は、横手方向軸よりも長く、微小亀裂は、海綿骨お
よび皮質骨における生理学的な反復負荷(例えば、歩行またはランニング)の場合に生じ
、加齢とともに程度が有意に高まる。
【0005】
概して、微小亀裂は、リモデリングの経過において絶え間なく修復され、治癒されるの
で、臨床的には気付かれないままである。ひびが入ることにより、RANKLなどの因子
を放出する骨細胞のアポトーシスがもたらされる。これらは、破骨細胞性吸収を惹起し、
骨芽細胞骨再生をもたらす。
【0006】
健康な骨は、微小損傷の進行を阻害し、修復するが、老化した骨では、または例えば非
常に強力な骨吸収抑制剤(例えば、ビスホスホネートまたは抗RANKL抗体)によるリ
モデリング抑制下では、蓄積、およびいくつかの場合では骨折罹患率の上昇が、例えば、
非定型大腿骨折において、生じ得る。
【0007】
骨芽細胞、破骨細胞および骨細胞が、骨リモデリングにおいて生じる持続的な骨再生プ
ロセスに主に関与している。破骨細胞は、骨を破壊し、骨芽細胞は、骨を再生できる。
【0008】
最後に、骨細胞の役割は、まだ詳細に明らかにされていない。骨細胞は、互いに接続さ
れ連絡している、骨に包埋された骨芽細胞起源の高分化細胞である。骨細胞の分岐部に損
傷が起きたら、例えば、上に記載した微小亀裂の場合、まず、破骨細胞の吸収が始まり、
次いで、骨芽細胞による骨形成が続く。骨芽細胞と破骨細胞と骨細胞の間の相互作用は、
RANKL/OPGシグナル伝達経路(破骨細胞の分化)およびWNT/DKK/SOS
T経路(WNTは、wingless(Wg)タンパク質およびint-1タンパク質か
ら構成されるシグナルタンパク質である;DKK=Dickkopf;SOST=スクレ
ロスチンタンパク質に対するシンボル))(骨芽細胞の分化)によって本質的に制御され
る。
【0009】
骨形成に関与する主要な経路は、骨芽細胞の分化のためのWNT経路およびPTHシグ
ナル伝達経路である。造血幹細胞から破骨細胞への分化は、RANKL/OPGシグナル
伝達経路を介して制御される。
【0010】
骨は、ヒトの身体に対するカルシウムの貯蔵庫として機能するので、リン酸カルシウム
のホメオスタシスに決定的に関与している。骨の形成および吸収によって、過剰な貯蔵カ
ルシウムは、血液から貯蔵され得るか、または必要に応じて利用可能にされ得る。
【0011】
骨代謝の多種多様な障害では、この繊細なバランスが乱されている。骨代謝の最も頻度
の高い障害は、骨粗鬆症である。骨代謝に影響する他の障害としては、パジェット病、骨
形成不全症、原発性骨腫瘍、ならびに多発性骨髄腫(形質細胞腫)、骨肉腫および骨転移
が挙げられる。骨転移/骨腫瘍によって引き起こされる合併症は、英語では「skele
tal related events」(骨関連イベント)(SRE)と呼ばれる。用
語「骨関連イベント」(SRE)には、急性のイベント(例えば、病的骨折、脊髄圧迫、
骨痛または腫瘍誘発性高カルシウム血症)および治療的介入(例えば、骨転移または原発
性骨腫瘍を有する患者において実施され得る、例えば、骨の放射線照射または骨の手術)
が含まれる。
【0012】
骨粗鬆症は、骨の質の低下とともに骨折リスクを高める、骨密度の減少を引き起こす。
WHOは現在、骨粗鬆症を、DXA(二重エネルギーX線吸収測定法)によって測定され
たときの、健康集団(30歳の女性)よりも-2.5標準偏差低い骨密度(いわゆるTス
コア)という測定可能な低下として定義している。骨折が起きているときは、顕性骨粗鬆
症という。したがって、骨粗鬆症は、不完全な外傷に起因する骨折として顕れることが多
い骨の全身性障害である。ドイツでは、およそ600万人が広く一般的な疾患である骨粗
鬆症に罹患しており、骨粗鬆症患者は、毎年720,000を超える骨折を経験する。閉
経後骨粗鬆症が、椎骨および椎骨以外の脆弱性骨折の圧倒的に最も頻度の高い原因である
。骨折のリスクは、加齢とともにかなり高まる。
【0013】
閉経後最初の5年間は、エストロゲン産生の停止により、個体間で重症度が異なる骨質
量吸収がみとめられる。閉経後の骨質量減少は、1年あたり15%もの多さであることが
あり、ピークの骨質量が低い女性では、非常に速く最初の骨粗鬆症性骨折に至る。
【0014】
不十分なカルシウム供給および血中ビタミンDレベルの欠乏は、結局、骨によるカルシ
ウム吸収に至る。加齢に伴って骨吸収を直接または間接的に促進するさらなる病的な機構
が存在することも予想される。例えば、食物からカルシウムイオンを吸収する能力は、6
5歳までにおよそ50%低下する(若者と比べて)。加齢性の併存症(例えば、真性糖尿
病、腎機能障害、不動またはグリタゾン類による処置)は、骨吸収に対して相加効果を及
ぼすがゆえに骨粗鬆症の潜在性の進行を促進すると示された多くの危険因子の例のほんの
一部である。
【0015】
図1は、消化管において入手可能なカルシウムの量のたったおよそ3分の1しか吸収さ
れないことを明らかに示している。食事性カルシウムの65~70%は、便に排泄される
。さらに、吸収プロセス自体が、様々な因子によって正または負に影響され得る。例えば
、高濃度のリン酸塩を含む食物は、カルシウムの取り込みを極度に阻害し得る。
【0016】
カルシウムのホメオスタシスを調節する主要なホルモンとしては、性ホルモン(エスト
ロゲン、テストステロン)に加えて、カルシトニン、副甲状腺ホルモン(パラチリン)お
よびカルシトリオール(ビタミンD3の活性型)が挙げられる。カルシトリオールは、小
腸においてカルシウムおよびリン酸塩の吸収を可能にするために不可欠である。さらに、
カルシトリオールは、腎臓を介したカルシウムの再吸収を高め、骨石灰化(骨基質へのカ
ルシウムの取り込み)を刺激する。
【0017】
例えば、身体が、腸を介して吸収できるカルシウムよりも多くのカルシウムを排泄する
と、カルシウムの負のバランスが生じる。この状態が、長期間にわたって持続する場合、
結果は、骨吸収増加および二次性副甲状腺機能亢進症である。副甲状腺ホルモンは、「不
足している」カルシウムを骨から動員するために、副甲状腺によって形成される。図2
示されているように、副甲状腺ホルモンは、骨吸収を刺激し、ひいては血中カルシウム濃
度を高める。ゆえに、カルシウム濃度は、骨を犠牲にして血液中で比較的一定のままにさ
れ、カルシウム欠乏の場合、骨は、血液中のカルシウムレベルを上昇させるためにカルシ
ウムを放出する。
【0018】
図3は、加齢に伴うカルシウム減少の図である。40歳という早い段階で、1年あたり
2~3%という潜行性の骨密度低下が、男性および女性において始まる。20%超の女性
において、閉経後、年間の減少量が非常に増加し得る。罹患女性は、比較的短期間で自身
の骨質量(=カルシウム)の4分の1超をしばしば気づかずに失い、ゆえに、その後の生
涯において骨折のリスクが極度に高くなる。「骨粗鬆症」という疾患は、多くの場合、診
断されるのが遅すぎであり、通常、例えば、椎骨、股関節部または手関節の骨粗鬆症性骨
折(すなわち、外傷性イベントのない骨折)が起きるまで診断されない。
【0019】
50歳を超える罹患男性および罹患女性における過小評価されるべきでないさらなる問
題は、進行性のカルシウムの負のバランスに起因するカルシウム不均衡の増大である。図
4に示されているように、加齢に伴って、1日のカルシウム必要量と実際の消化管からの
カルシウム摂取量との差が大きくなる。加齢に関連してカルシウムの必要量が増加するの
は、本質的に以下の因子によって影響される:消化管におけるカルシウム吸収の減少、カ
ルシウム不足の食事(わずかな乳製品)、ビタミンD欠乏、運動不足、骨のカルシウム貯
蔵庫の補充の必要性(新しい骨質量の形成)、血液中の副甲状腺ホルモンの増加(骨吸収
の増加およびカルシウム減少)または腎機能障害(カルシウム再吸収の減少およびそれほ
ど活性でないビタミンD)。
【0020】
最終的には、皮膚および腎臓を介した天然のカルシウム減少を代償するため、ならびに
生存に必要な血液中のカルシウムレベルを一定に維持するために、ヒトの身体は、2つの
可能性しか有しない。
【0021】
1.)「骨カルシウム貯蔵庫」からカルシウムを動員すること。欠点:この目的のため
に必要な骨組織の吸収は、長期的に、安定性の喪失および骨折をもたらし得る。
【0022】
2.)消化管からのカルシウムの十分な吸収および腎臓におけるカルシウムの再吸収。
これらのプロセスの両方が、ビタミンDによって制御される。
【0023】
生物学的に活性な形態のビタミンD3(1α,25-ジヒドロキシコレカルシフェロー
ル;カルシトリオール)は、消化管から血液中へのカルシウムの吸収を促進する。取り込
み後3~6秒以内に、最大血清濃度に到達する。全体としては、ビタミンDは、体内への
カルシウムの取り込みを促進する。過量服用は、身体がビタミンDを貯蔵するので、ビタ
ミンD中毒に至ることがある。ビタミンD中毒は、骨の深刻な脱ミネラル化をもたらすこ
とがあり、そしてその脱ミネラル化は、骨折をもたらす。同時に、高カルシウム血清濃度
は、多種多様の軟部組織の異常な石灰化をもたらし得る。さらに、カルシウムの腎排泄の
増加により、腎結石が生じ得る。
【0024】
腸からの吸収の減少により、ビタミンD欠乏では、血液に到達する食事性カルシウムが
少なくなる。
【0025】
カルシウムおよび/またはビタミンDの欠乏は、カルシウムおよびビタミンDを含む製
剤の補給によって処置される。しかしながら、カルシウムおよびビタミンDの使用は、議
論の余地がある。カルシウムの許容度は、世界中で議論されており、一部の科学者は、カ
ルシウム補給が心血管リスクになると考えている。カルシウムは、心臓発作などの心血管
イベントのリスクを高めると主張されている。ドイツでは、この議論の結果は、カルシウ
ム補給を頻繁に行わないというものである。
【0026】
骨粗鬆症では、カルシウム欠乏は、骨折リスクの上昇とともに、その病態の悪化を意味
する。
【0027】
顕性骨粗鬆症では、骨塩量が減少し(Tスコア:<-2.5)、骨折、例えば、1~3
個の椎骨骨折がすでに起きている。
【0028】
長期の糖質コルチコイド治療は、糖質コルチコイド誘発性またはコルチコイド誘発性の
重度の骨粗鬆症を骨折とともにもたらし得る。>3ヶ月にわたる1日あたり>5mgのプ
レドニゾン等価物の投与では、予防的または治療的な措置が推奨される。特に、治療開始
後の最初の6ヶ月間において、その経過中に用量を大幅に増加させる場合、および長期間
の高用量治療の場合、処置を考慮すべき骨密度の有意な減少が予想され得る。糖質コルチ
コイド誘発性骨減少には、複数の原因がある。治療の開始時において、糖質コルチコイド
は、骨吸収を増加させる。ステロイドは、骨芽細胞の増殖および機能を阻害し、そのアポ
トーシスを増加させる。このように、ステロイドは、骨の新生を減少させる。同時に、ス
テロイドは、カルシウムの腸管吸収を阻害することおよびカルシウムの尿中排泄を増加さ
せることによって、カルシウムの負のバランスをもたらす。
【0029】
骨代謝のさらなる障害は、変形性骨形成異常症(osteodystrophy de
formans)、変形性骨炎、Paget症候群またはPaget病としても知られる
パジェット病であり、原因が不明であるこの障害では、議論中である考えられる病因は、
遺伝子、ウイルスおよび環境の影響である。パジェット病は、変形、慢性疼痛および骨折
のリスクならびに関節、神経および心臓の合併症を伴う、局所的に増加した骨リモデリン
グプロセスを特徴とする骨代謝の慢性障害である。
【0030】
原発固形腫瘍(例えば、乳癌、前立腺癌、肺癌、腸癌または骨癌(例えば、骨肉腫))
は、骨に顕われ得るので、骨転移または骨障害を引き起こし得る。骨転移は、骨に他の腫
瘍が移動してくることであり、それらは、疼痛および骨折を引き起こし得る。これは、骨
吸収の増加または質の悪い骨組織の過剰な産生に起因する。これにより、骨の安定性が低
下する。腫瘍誘発性骨合併症は、高罹患率、高骨折率、神経絞扼、およびいくつかの場合
では耐え難い疼痛を特徴とする。多量のカルシウムが骨から放出され、血流中に移動する
場合、腫瘍誘発性高カルシウム血症が発症し得る。例えば、転移性の乳癌、前立腺癌、肺
癌、腸癌または骨癌(例えば、骨肉腫)を有し、中程度または重度の骨痛(BPI-SF
[簡易疼痛調査]における≧4点)を有する患者の数は、80%超で最大であり、神経痛
がおよそ10%でそれに続くので、これを圧倒的に最も一般的な症状にしている(Cle
eland,C.S et al.,Ann.Onc.2005,16:972-980
)。
【0031】
用語「多発性骨髄腫」または「形質細胞腫」または「カーラー病」とは、抗体産生細胞
(形質細胞)が急激に増加する骨髄の癌のことを指す。これらの悪性の形質細胞は、制御
されない様式で増殖し、機能しない抗体またはその一部を形成する。この疾患の経過は、
かなり様々であり得、中程度から高度に悪性の経過をたどり、未処置で放置されると急速
に致命的になる。それらの症状は、それらの細胞の増殖によって、または産生される抗体
もしくはそのフラグメントによって引き起こされるものであり、それら自体が、血液中へ
のカルシウム放出の増加に伴う、骨痛、骨質量の減少および骨折として顕われ得、腫瘍誘
発性高カルシウム血症に至り得る。白血球数が減少する一方で、多くの抗体が、組織に沈
着し、数多くの器官の機能障害、腎不全および循環障害を引き起こす。
【0032】
骨代謝の障害を処置するための薬物は、従来技術において公知である。骨粗鬆症の薬学
的処置では、主目的は、病的な骨質量の減少を止めることである。負のバランス(骨組織
の形成と吸収との間の不均衡)は、破骨細胞(骨吸収)の阻害によって骨吸収抑制的に、
または骨芽細胞(骨形成)の刺激によって同化的に、代償され得る。形成のプロセスと吸
収のプロセスとのバランスが回復したときだけ、ならびにカルシウムおよびビタミンDの
十分な供給が保証されるときだけ、新しい骨質量が形成され得、骨粗鬆症性骨折のリスク
が低下し得る。
【0033】
骨粗鬆症を処置するために、一方では、抗RANKL抗体を用いて破骨細胞性骨吸収が
阻害され得、他方では、同化薬を用いて骨形成が刺激され得る。この目的のために、副甲
状腺ホルモンの組換え1-34フラグメントが、骨粗鬆症の処置に対して承認されている
【0034】
抗RANKL抗体などの骨吸収抑制剤が、現在、代謝性骨障害を処置するための標準で
あり、それらは、骨吸収の効果的な阻害を必要とする。これには、骨粗鬆症を処置するた
め(非常に高い用量かつより短い処置間隔で)、ならびに腫瘍誘発性骨合併症の処置およ
び/または予防のための、このクラスの物質の使用が含まれる。
【0035】
抗RANKL抗体またはその誘導体は、通常、上述の障害(例えば、骨粗鬆症または腫
瘍誘発性骨障害)を処置するために使用される。
【0036】
抗RANKL抗体の使用の結果として、カルシウムは、骨に残る。これは、例えば副甲
状腺ホルモンによる骨吸収を様々な程度に阻害する。これは、低カルシウム血症のリスク
がある。血清中の全カルシウムが2.2mmol/l(9mg/dl)未満であるとき、
低カルシウム血症が存在する。破骨細胞の薬学的阻害では、血液中のカルシウム濃度は、
カルシウムを外から供給することによって(経口的または静脈内に)のみ、バランスが保
たれ得る。このことは、図5に示されている。PTHは、骨からのカルシウムの放出を活
性化するが、これは、抗RANKL抗体の使用に起因する破骨細胞の阻害によって阻害さ
れる。ゆえに、外からのカルシウム供給が不可欠である。
【0037】
低カルシウム血症のリスクは、ビタミンD欠乏に伴う二次性副甲状腺機能亢進症の存在
下においても有意に高まる。この一般に存在するビタミンD不足の状態では、血清中カル
シウム濃度のバランスを保つために、多量の副甲状腺ホルモンが分泌される。副甲状腺ホ
ルモンは、破骨細胞を活性化することによって血漿中カルシウム濃度を間接的に増加させ
る。
【0038】
骨吸収抑制治療は、破骨細胞が阻害されるので、この低カルシウム血症を増悪する。
【0039】
特に、抗RANKL抗体などの骨吸収抑制剤の腫瘍学的使用において、カルシウムおよ
び/またはビタミンDの供給不足は、劇的に悪化し得る。PROLIA(デノスマブ60
mg)とXGEVA(デノスマブ120mg)の両方に対して、それらの高い骨吸収抑制
効力が原因で、「既存の高カルシウム血症の場合を除くすべての患者においてカルシウム
およびビタミンDの補給が必要である」ことを医師に明確に指示するいわゆる「緊急安全
性情報」(red hand letter)が、2014年9月に発行された。
【0040】
このように引き起こされる低カルシウム血症は、心不整脈に至ることがあり、特に重度
の場合は、低カルシウム血症が発見されず、遅れずに処置されない場合、致命的にすらな
り得る。さらに、外来患者の臨床処置では、カルシウムレベルは検査値として頻繁な間隔
で測定されないので、低カルシウム血症は、検出されないままであることが多い。低カル
シウム血症の治療誘発性有害作用を予防するために、本発明は、低カルシウム血症を予防
し得る、抗RANKL抗体の使用におけるカルシウムおよびビタミンDの補給を提案する
【0041】
カルシウムおよびビタミンDの未検出の欠乏は、骨吸収抑制治療、例えば、抗RANK
L抗体による治療の結果全体に負の影響を及ぼし得るので、骨吸収抑制治療中にカルシウ
ムおよびビタミンDの補給が提供されない場合、新たな骨折に対する所望の保護を減少さ
せ得るか、または骨折の数を増加させることさえある。
【0042】
顎の骨壊死は、抗RANKLの有害作用として列挙されている。顎の骨壊死は、抗RA
NKL抗体による処置において生じることがあり、口腔内痛および非治癒性創傷をもたら
し、顎の崩壊に至り得る。
【0043】
骨吸収抑制治療のさらなる有害作用として、心不整脈などの心血管有害作用、痙攣およ
び二次性副甲状腺機能亢進症が生じることがある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0044】
本発明は、これらの課題を解決し、骨代謝の障害をよりうまく処置するためまたはこれ
らの障害を予防するため、最適な効果を保証するため、および治療誘発性有害作用(例え
ば、低カルシウム血症および/または不適切な使用)を妨げるかまたは予防するために、
抗RANKL抗体ならびにカルシウムおよびビタミンDおよび/またはそれらの誘導体の
新規の薬学的組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0045】
第1の実施形態において、本発明は、骨粗鬆症、閉経後骨粗鬆症、顕性骨粗鬆症、コル
チコイド誘発性骨粗鬆症、男性または女性の骨粗鬆症、パジェット病および骨形成不全症
を処置するため、上述の障害における骨折を予防するため、ならびに抗RANKL抗体療
法によって誘発される低カルシウム血症の処置および/または予防において使用するため
の、抗RANKL抗体および/またはその抗原結合フラグメントならびにカルシウムなら
びにビタミンDを含む薬学的組成物の使用に関し、抗RANKL抗体および/またはその
抗原結合フラグメントを含む薬学的組成物は、より好ましくは、1~2mlの溶液中にお
いて30~90mg(20~60mg/ml)、より好ましくは、50~70mg、なお
もより好ましくは、好ましくは1mlの溶液中において60mg(60mg/ml)の用
量で、年1回または6ヶ月間隔で皮下投与され、カルシウムを含む薬学的組成物は、1日
あたり400~600mg、特に好ましくは、1日あたり500mgの用量で経口投与さ
れ、ビタミンDは、1日に800~1200IU(国際単位)のビタミンD、特に好まし
くは、1000IUのビタミンDの用量で経口投与されることを特徴とする。
【0046】
さらなる例において、本発明は、骨関連合併症、特に、病的骨折、骨の放射線照射、脊
髄圧迫、骨の手術、骨転移、骨転移における疼痛、神経絞扼または1つ以上の固形腫瘍、
例えば、乳癌、前立腺癌、肺癌または多発性骨髄腫に起因する変形を予防するため、なら
びに上述の障害における骨折を予防するため、ならびに抗RANKL抗体療法によって誘
発される低カルシウム血症の処置および/または予防において使用するための、抗RAN
KL抗体および/またはその抗原結合フラグメントならびにカルシウムおよびビタミンD
を含む薬学的組成物の使用に関し、抗RANKL抗体および/またはその抗原結合フラグ
メントは、好ましくは、1~3mlの溶液中において60~180mg、より好ましくは
、80~150mg、なおもより好ましくは、特に1.7mlの溶液中において120m
g(70mg/ml)の用量の抗RANKL抗体で少なくとも3~4週間、皮下投与され
、1日に400~600mgのカルシウム、特に好ましくは、1日に500mgのカルシ
ウムが経口投与され、1日に800~1200IUのビタミンD、特に好ましくは、1日
に1000IUのビタミンDが経口投与されることを特徴とする。
【0047】
さらに、本発明は、さらなる態様において、上述の例における治療誘発性有害作用の処
置および/または予防における様々なカルシウム化合物およびビタミンDの使用、ならび
に薬学的に好適な賦形剤および溶媒の使用に関する。
【0048】
以下の図面および実施例は、例示目的であって、本発明を前記図面または実施例に限定
するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0049】
図1】消化管から血液および骨へのカルシウム供給ならびにカルシウム取り込みを増加または減少させる影響因子に関する図を示している。
【0050】
図2】食事における不十分なカルシウム取り込みの結果を示している。
【0051】
図3】ヒトの生涯にわたる骨質量の増加および減少、ならびに骨質量が低下した高齢者の高い骨折リスクを示している。
【0052】
図4】実際のカルシウム取り込みの低下に起因する、加齢に伴うカルシウム必要量の増加を示している。
【0053】
図5】血清中の全カルシウムが2.2mmol/l(9mg/dl)未満である場合、低カルシウム血症が存在する。破骨細胞の薬学的阻害では、血液中のカルシウム濃度は、カルシウムを外から供給することによって(経口的または静脈内に)のみ、バランスが保たれ得る。このことは、図5に示されている。
【0054】
図6】RANKLに対するタンパク質配列の例(配列番号7)を示している。
【0055】
図7】抗RANKL抗体の重鎖に対するcDNA配列の例(配列番号1)を示している。
【0056】
図8】抗RANKL抗体の重鎖に対するタンパク質配列の例(配列番号2)を示している。
【0057】
図9】抗RANKL抗体の軽鎖に対するDNA配列の例(配列番号3)を示している。
【0058】
図10】抗RANKL抗体の軽鎖に対するタンパク質配列の例(配列番号4)を示している。
【0059】
図11】抗RANKL抗体の重鎖の可変領域に対するタンパク質配列の例(配列番号5)を示している。
【0060】
図12】抗RANKL抗体の軽鎖の可変領域に対するタンパク質配列の例(配列番号6)を示している。
【0061】
図13】抗RANKL抗体の重鎖に対するタンパク質配列のさらなる例(配列番号8)を示している。
【0062】
図14】抗RANKL抗体の軽鎖に対するタンパク質配列のさらなる例(配列番号9)を示している。
【発明を実施するための形態】
【0063】
抗RANKL抗体は、非常に有効な骨吸収抑制剤であり、骨代謝の障害の処置に使用さ
れる。その有効性にもかかわらず、抗RANKL抗体による処置は、かなりの有害作用、
時折、重度の有害作用を伴う。本発明は、抗RANKL抗体による処置を有効性および安
全性に関して実質的に改善する薬学的組成物を提供する。それらの薬学的組成物は、抗R
ANKL抗体に加えて、カルシウムおよびビタミンDを含む。
【0064】
抗RANKL抗体は、RANKLに結合する。RANKLは、膜貫通タンパク質である
が、可溶性タンパク質としても存在し得る。RANKLは、破骨細胞の形成、機能および
生存において決定的な役割を果たす。多発性骨髄腫および骨転移では、RANKLによっ
て刺激される破骨細胞活性が増大する。これにより、骨吸収が増加する。
【0065】
ヒトRANKLタンパク質の配列は、図6に示されている。このタンパク質は、様々な
アイソフォームで存在する。アイソフォーム2は、アミノ酸1~73を欠き、アイソフォ
ーム3は、アミノ酸1~47を欠く。
【0066】
抗RANKL抗体は、RANK-RANKL相互作用を妨げる。これにより、破骨細胞
の数および機能が低下し、骨吸収が減少する。
【0067】
用語「抗RANKL抗体」には、破骨細胞の活性化が減少するかまたは阻害されるよう
に、RANKLの少なくとも1つのエピトープに結合し、ひいてはRANKLの活性に影
響する、すなわち、RANKへのRANKLの結合を阻止するかまたは減少させる、すべ
てのRANKL結合分子が含まれる。RANKLの選択されたヒトアミノ酸配列は、図6
(配列番号7)に示されている。
【0068】
用語「エピトープ」とは、抗原上の結合部位、この場合、抗RANKL抗体に特異的に
結合するRANKL上の結合部位のことを指す。エピトープは、典型的には少なくとも3
個のアミノ酸、通常少なくとも5個、または例えば8~10個のアミノ酸を含む、RAN
KLのアミノ酸一次配列に結合する。RANKLの3次元構造に応じて、エピトープは、
互いに連続して続かないがその3次元構造のおかげで近くに配置されるアミノ酸にも結合
し得る。
【0069】
用語「特異的に結合する」は、抗体が、例えば、「鍵と鍵穴の原理」に従って、あるエ
ピトープの少なくとも2個、好ましくは3個、より好ましくは、4個のアミノ酸と相互作
用できることを意味する。
【0070】
用語「特異的」は、抗体が、RANKL分子に結合するが、他のタンパク質または分子
には本質的に結合しないことを意味する。抗体が、他の種のRANKL分子と交差反応す
ることもあり得る。しかしながら、抗体は、例えばRANKなどの他の分子に結合するべ
きでない。結合は、一般に、結合親和性が10-5Mを超えるとき、特異的であるとみな
される。特異的結合親和性は、好ましくは、およそ10-11~10-8M(KD)、よ
り好ましくは、およそ10-11~10-9Mである。
【0071】
用語「本質的に結合しない」は、本発明の抗RANKL抗体が、他の任意のタンパク質
に結合しないこと、特に、別のタンパク質または分子に対して、30%、好ましくは、2
0%、より好ましくは、10%未満の交差反応性しか示さないこと、特に、9、8、7、
6または5%未満の結合しか示さないことを意味する。
【0072】
用語「ポリペプチド」は、用語「タンパク質」と同じ意味を有する。タンパク質は、共
有結合によって互いに結合された1つ以上のアミノ酸を含む。タンパク質は、例えば、グ
リコシル化などの翻訳後修飾を受けることがある。このことは、当該分野で一般的に知ら
れている。
【0073】
用語「抗体」には、免疫グロブリン遺伝子またはその一部によって少なくとも部分的に
コードされる1つまたは複数の抗原結合ドメインを有するタンパク質が含まれる。「免疫
グロブリン」は、「抗体」である。抗体は、典型的には、各々およそ25kDaの2本の
軽鎖および各々およそ50kDaの2本の重鎖から構成されるグリコシル化された三量体
(タンパク質)を含む。抗体の軽鎖には2つのタイプが存在する:ラムダおよびカッパー
。それらの軽鎖は、それぞれ1つの可変ドメインおよび1つの定常ドメインから構成され
る。これらは、VLおよびCLと呼ばれる。重鎖の定常領域のアミノ酸配列に応じて、免
疫グロブリンは、5つのクラス、A、D、E、GおよびMに分けられ、いくつかは、さら
にサブグループ、例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1およびI
gA2に分けられる。各重鎖は、1つのドメイン、IgGおよびIgAの場合は3つの可
変ドメイン、またはIgMおよびIgEの場合は4つの定常ドメインを有する。同じよう
に、これらは、VHおよびCH1、CH2、CH3と呼ばれる。
【0074】
IgM抗体は、10個の抗原結合部位を含む。基本単位は、2本の重H鎖および2本の
軽L鎖から構成される。IgMは、免疫応答中に最初の免疫グロブリンとして産生され、
補体系を活性化する。内在性の天然に産生されるIgM抗体は、B1細胞(CD20
CD20,CD27,CD43およびCD70細胞)によって分泌される。侵入
微生物を防ぐことに加えて、IgM抗体は、補体依存性機構を用いて、アポトーシス細胞
および改変細胞のクリアランスを介する組織ホメオスタシスに関与する。それらは、炎症
性プロセスを阻害し、改変細胞を除去する。
【0075】
IgA抗体は、J鎖とともに単位を形成し得る4本の鎖単位のうち2~5個を含む。I
gAは、単量体(すなわち、ただ1つの分子)または二量体(抗体yの長端において結合
した2つの分子)として存在し得る。二量体の場合、これは、いわゆる分泌型IgA(s
IgA)である。
【0076】
各軽鎖は、N末端可変(V)ドメイン(VL)および定常ドメイン(CL)を含む。各
重鎖は、1つのN末端Vドメイン(VH)、3つまたは4つのCドメイン(CH)および
1つのヒンジ領域を含む。
【0077】
抗体の定常ドメインは、抗原結合に直接関与しないが、例えば、抗体依存性細胞毒性に
おいて、様々なエフェクター機能を有し得る。抗体が、細胞毒性を示す場合、それは、好
ましくは、IgG1サブタイプであるはずであり、IgG4サブタイプは、この能力を有
しない。
【0078】
VHおよびVLの結合によって、抗原結合部位が形成される。各L鎖は、共有結合性の
ジスルフィド架橋を介してH鎖に結合され、2本のH鎖は、H鎖アイソタイプに応じて1
つまたはいくつかのジスルフィド架橋によって互いに結合される。VHおよびVLドメイ
ンは、超可変配列、相補性決定領域、CDRを含む3つの領域に対してフレームワークを
形成する比較的高度に保存された配列を有する4つの領域(FR1、FR2、FR3およ
びFR4)から構成される。CDRは、抗原と抗体との相互作用に本質的に関わる。CD
Rは、より詳細には、CDR1、CDR2およびCDR3と表される。したがって、重鎖
のCDR領域は、H1、H2およびH3と表され、軽鎖のCDR領域は、L1、L2およ
びL3と表される。
【0079】
用語「可変」とは、配列に可変性を有し、ある特定の抗体の特異性および結合親和性を
定義する、免疫グロブリンドメインの一部、例えば、可変ドメインのことを指す。可変性
は、抗体において均一に分布しておらず、軽鎖および重鎖のそれぞれのサブドメインに集
中しており、それらのサブドメインは、超可変領域またはCDRと表される。
【0080】
可変ドメインのあまり保存されてない領域または非超可変領域は、いわゆるフレームワ
ーク領域(FR)であり、それらは、ベータ-折り畳み構造を有することが多い。FR領
域およびCDRは、抗原が認識し、結合する構造を形成する(Kabat E.A.,W
u,T.T.,Perry,H.,Gottesman,K.and Foeller,
C.(1991)Sequences of Proteins of Immunol
ogical Interest,Fifth Edition.NIH Public
ation No.91-3242)。定常ドメインは、抗原抗体結合に直接関与しない
が、他の反応(例えば、抗体依存性細胞傷害および細胞媒介性細胞傷害ならびに補体活性
化)を媒介する。
【0081】
用語「CDR」または「CDRs」とは、相補性決定領域(CDR)のことを指す。上
で述べたように、CDRは、CDR1~3と呼ばれ、軽鎖のCDRは、CDRL1、CD
RL2およびCDRL3と呼ばれ、重鎖の可変領域を含むCDRは、CDRH1、CDR
H2およびCDRH3と呼ばれる。CDRは、抗体の活性に決定的に寄与する。CDRの
正確な長さは、時折、様々な体系において異なって分類され、ナンバリングされる。CD
Rは、KabatおよびChothiaに従って以下において指定される。すべての体系
が、可変配列内の超可変領域の指定に関して重複する部分を有する(Kabat et
al.,Chothia et al.,J.Mol.Biol.,1987,196;
901およびMacCallum et al.,J.Mol.Biol.,1996,
262:732);本文書では、主にKabatのナンバリングを参照する。
【0082】
用語「アミノ酸」または「アミノ酸残基」とは、アラニン(AlaまたはA);アルギ
ニン(ArgまたはR);アスパラギン(AsnまたはN);アスパラギン酸(Aspま
たはD);システイン(CysまたはC)、グルタミン(GlnまたはQ);グルタミン
酸(GluまたはE);グリシン(GlyまたはG);ヒスチジン(HisまたはH);
イソロイシン(IleまたはI);ロイシン(LeuまたはL);リジン(Lysまたは
K);メチオニン(MetまたはM);フェニルアラニン(PheまたはF);プロリン
(ProまたはP);セリン(SerまたはS);トレオニン(ThrまたはT);トリ
プトファン(TrpまたはW);チロシン(TyrまたはY);バリン(ValまたはV
)の群から選択される当該分野で公知のアミノ酸のことを指し、改変されたアミノ酸、合
成アミノ酸または稀なアミノ酸も使用され得る。
【0083】
用語「超可変領域」または「CDR」は、アミノ酸配列において大きな差異を示す、免
疫グロブリンの軽鎖(L鎖)および重鎖(H鎖)における領域のセグメントのことを指す
。それらは、抗原の認識に関わる抗体またはT細胞レセプターの領域である。CDRは、
レセプターの最も可変的な部分であり、それらの多様性に関わる。3つの相補性決定領域
CDR1、CDR2およびCDR3は、抗体のVドメインの末端におけるループである。
それらは、抗原と直接接触する。従来技術では、CDRを特定するための方法が少なくと
も2つ知られている:異種間の配列可変性に基づくアプローチ(Kabat et al
.)および抗原-抗体複合体の結晶学的研究に基づく別のアプローチ(Chothia,
C.et al.,J.Mol.Biol.,196:901-917(1987))。
一般に、いわゆるKabatナンバリングに従ってCDRの特定を行うことが好ましい。
【0084】
用語「フレームワーク領域」は、当業者に公知であり、超可変領域であるCDRの間に
存在する抗体の可変領域の一部のことを指す。そのようなフレームワーク領域は、典型的
には、フレームワーク領域1~4(FR1、FR2、FR3およびFR4)と表され、抗
原結合表面を提供するために、3次元空間において6つのCDR(軽鎖の3つおよび重鎖
の3つ)に対してフレームワークを形成する。
【0085】
本発明は、Kabatナンバリングシステムに従って相互交換可能であると考えられ、
抗原結合機能を有する、すなわち、RANKLエピトープに結合できる、すべての抗RA
NKLを含む。
【0086】
「抗体」は、RANKL分子に結合する、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、
単一特異性抗体、二重特異性抗体、二機能性抗体、一本鎖抗体、合成抗体、組換え抗体、
変異抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体またはキメラ抗体(Harlow and Lane,
“Antibodies,A Laboratory Manual”,CSH Pre
ss,Cold Spring Harbor,USA)またはこの結合能を保持するか
もしくは本質的に保持する誘導体を意味する。ドメイン抗体(dAb)およびナノボディ
も用語「抗体」に含められる。
【0087】
二重特異性抗体または二機能性抗体は、2つの異なる重鎖/軽鎖および2つの異なる結
合部位を有する人工ハイブリッド抗体である。この用語およびそれを作製するための方法
は、当業者に公知である(例えば、Songsivilai&Lachmann,Cli
n.Exp.Immunol.79:315-321(1990);Kostelny
et al.,J.Immunol.148,1547-1553(1992)。
【0088】
モノクローナル抗体の作製は、従来技術において公知である(例えば、Kohler
and Milstein(1975),Nature,256:495-499);さ
らなる方法としては、いわゆるファージディスプレイ(Ladner et al.,米
国特許第5,223,409号)が挙げられる。
【0089】
これらの抗体の好ましい誘導体は、例えば、マウスまたはラットの可変領域およびヒト
の定常領域を含む、キメラ抗体である。用語「抗体」には、二機能性抗体または二重特異
性抗体および抗体構築物(例えば、個々の鎖または抗体融合タンパク質から構成されるF
v(scFv))も含まれる。用語「scFv」(一本鎖Fvフラグメント)は、当業者
に公知であり、そのフラグメントは組換え的に作製され得るので、好ましい。
【0090】
抗体は、ヒト抗体またはヒト化抗体であり得る。用語「ヒト化抗体」は、少なくとも1
つの抗体結合部位(相補性決定領域(CDR))、例えば、CDR3、好ましくは、6つ
すべてのCDRが、所望の特異性のヒト抗体のCDRによって置換されていることを意味
する。必要に応じて、抗体の非ヒト定常領域が、ヒト抗体の定常領域によって置換される
。ヒト化抗体を作製するための方法は、例えば、EP0239400A1およびWO90
/07861に記載されている。
【0091】
ヒト化抗体の代わりに、ヒト抗体が提供される。トランスジェニック動物、例えば、マ
ウスは、免疫化後に、典型的なマウス抗体配列を有しないヒト抗体を産生することができ
る。それらは、完全なヒト抗体を形成し得る(例えば、Jakobovits et a
l.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,90:2551(1993))
。あるいは、いわゆるファージディスプレイ技術が、ヒト抗体または抗原結合フラグメン
トを作製するために使用され得る。この手法は、従来技術において公知である(McCa
fferty et al.,Nature 348:552-553(1990);J
ohnson,Kevin S.and Chiswell,David J.,Cur
r.Opin.Struct.Biol.3:564-571(1993))。
【0092】
抗原結合フラグメントという用語は、上で定義されたような「抗体」のフラグメント、
例えば、別個の軽鎖および重鎖、Fab、Fab/c、Fv、scFv、Fd、dAb、
Fab’、F(ab’)2のことを指す。抗原結合フラグメントは、軽鎖の可変領域およ
び重鎖の可変領域を含み得るが、必ずしも両方を同時に含むとは限らない。
【0093】
抗体を作製および単離するための方法は、従来技術において公知であり、例えば、Ha
rlow and Lane;Antibodies:A Laboratory Ma
nual,Cold Spring Harbor Laboratory,New Y
ork(1988)を参照のこと。一般的な抗体精製方法としては、塩析(例えば、硫酸
アンモニウムを用いるもの);イオン交換クロマトグラフィー(例えば、中性pHで行う
ことができ、イオン強度を上げる段階的勾配で溶出される、陽イオンまたは陰イオン交換
カラムにおけるもの);ゲル濾過クロマトグラフィー(ゲル濾過HPLCを含む)および
親和性樹脂(例えば、プロテインA、プロテインG、ヒドロキシアパタイトまたは抗Ig
)におけるクロマトグラフィーが挙げられる。抗体は、抗原セグメントを含むアフィニテ
ィーカラムでも精製され得る。好ましいフラグメントは、プロテインA CLセファロー
ス4Bクロマトグラフィーの後、DEAEセファロース4Bイオン交換カラムにおけるク
ロマトグラフィーによって精製される。
【0094】
本発明は、H鎖とL鎖との一方の対が第1の抗体から得られ、他方の対が別の第2の抗
体のH鎖およびL鎖から得られる、ハイブリッド抗体も含む。本発明の目的で、L鎖とH
鎖との対は、抗RANKLに由来する。一例において、各L-H鎖対は、RANKL特異
的抗原の様々なエピトープに結合する。そのようなハイブリッドは、ヒト化H鎖またはヒ
ト化L鎖を用いて形成することもできる。本発明は、他の二重特異性抗体、例えば、定常
領域を介して共有結合的に結合された2つの別個の抗体を含む抗体も含む。
【0095】
抗原結合フラグメントのサイズは、所望の機能を提供するために必要な最小のサイズに
すぎないことがあり得る。それは、所望であれば、抗原結合フラグメントに対して天然で
あるかまたは異種起源のさらなるアミノ酸配列を必要に応じて含み得る。抗RANKL抗
原結合フラグメントは、抗体V領域配列からの5つ連続したアミノ酸残基を含み得る。抗
体のL鎖またはH鎖のV領域からの7個アミノ酸残基、より好ましくは、例えば、10個
のアミノ酸残基、より好ましくは、例えば、15個のアミノ酸残基、より好ましくは、例
えば、25個のアミノ酸残基、より好ましくは、例えば、50個のアミノ酸残基、より好
ましくは、例えば、75個のアミノ酸残基を含むポリペプチドも含まれる。抗体のL鎖ま
たはH鎖のV領域全体を含むポリペプチドが、さらにより好ましい。
【0096】
置換は、1つ以上のアミノ酸残基を変更または改変することから、例えばV領域などの
ある領域を完全に新しくデザインすることにまで及び得る。アミノ酸置換は、存在する場
合、好ましくは、そのペプチドの折り畳みまたは機能特性に悪影響を及ぼさない保存的置
換である。保存的置換が行われ得る機能的に関係するアミノ酸残基の群は、グリシン/ア
ラニン、バリン/イソロイシン/ロイシン;アスパラギン/グルタミン、アスパラギン酸
/グルタミン酸;セリン/トレオニン/メチオニン;リジン/アルギニンおよびフェニル
アラニン/チロシン/トリプトファンである。抗体は、グリコシル化されることもあるし
、グリコシル化されないこともあるし、翻訳後に修飾されることもあるし(例えば、アセ
チル化およびリン酸化)、合成的に修飾されることもある(例えば、標識基の結合)。
【0097】
さらに、アミノ酸配列が変更された抗RANKL抗体が提供される。これらの変更には
、個々のまたは複数のアミノ酸の欠失、挿入および置換が含まれ得る。このため、翻訳後
修飾が、変更を受けることもある。
【0098】
軽鎖および重鎖のCDRの変更、特に、超可変領域における変更が、最も有用であるが
、軽鎖および/または重鎖におけるFRの変更も考えられ得る。CDR配列が、6個のア
ミノ酸を含む場合、1~3個のアミノ酸が変更され得る。CDR配列が、15個のアミノ
酸を含む場合、1~6個のアミノ酸が変更され得る。CDRが、軽鎖および/または重鎖
において変更される場合、その変更されたアミノ酸配列は、元のCDR配列と少なくとも
60%、より好ましくは、65%、なおもより好ましくは、70%、特に好ましくは、7
5%、最も好ましくは、80%同一であるべきである。このため、元のCDRとの同一性
の程度は、それぞれのCDRの長さに依存する。5個のアミノ酸および1つの変更を含む
CDRは、80%同一であるのに対して、1個のアミノ酸の変更を有するより長いCDR
における変更は、パーセンテージベースでは、より低い。ゆえに、CDRは、元のCDR
と異なる程度の同一性を有し得、例えば、CDRH1は、90%同一であり得るが、CD
RL2は、83%同一である。
【0099】
抗RANKL抗体における好ましい変更を表1に示す。
【0100】
【表1】
【0101】
これらは、例として列挙されており、元のCDR配列と、好ましくは、60%、より好
ましくは、65%、なおもより好ましくは、70%、なおもより好ましくは、75%、最
も好ましくは、80%同一である。RANKLに特異的に結合する配列が含まれる。さら
に、CDRの変更に関する方法が知られている(例えば、米国特許第6,180,370
号;同第5,693,762号;同第5,693,761号;同第5,585,089号
および同第5,530,101号)。
【0102】
抗RANKL抗体の重鎖に対するcDNA配列の例は、図7(配列番号1)に示されて
いる。
【0103】
抗RANKL抗体の重鎖に対するタンパク質配列の例は、図8(配列番号2)に示され
ている。
【0104】
抗RANKL抗体の軽鎖に対するDNA配列の例は、図9(配列番号3)に示されてい
る。
【0105】
抗RANKL抗体の軽鎖に対するタンパク質配列の例は、図10(配列番号4)に示さ
れている。
【0106】
抗RANKL抗体の重鎖の可変領域に対するタンパク質配列の例は、図11(配列番号
5)に示されている。
【0107】
抗RANKL抗体の軽鎖の可変領域に対するタンパク質配列の例は、図12(配列番号
6)に示されている。
【0108】
RANKLに対するタンパク質配列の例は、図13(配列番号7)に示されている。
【0109】
抗RANKL抗体の重鎖に対するタンパク質配列のさらなる例は、図14(配列番号8
)に示されている。
【0110】
抗RANKL抗体の軽鎖に対するタンパク質配列のさらなる例は、図15(配列番号9
)に示されている。
【0111】
本発明によると、抗RANKL抗体の抗原結合フラグメントも含まれる。
【0112】
Prolia(医薬製剤として承認された抗RANKL抗体であるデノスマブを含む)
は、Amgen GmbHによって販売されている。それは、60mgのデノスマブ注射
溶液を含む。各充填済みシリンジは、1mlの溶液中に60mgのデノスマブを含む(6
0mg/ml)。Proliaの推奨用量は、6ヶ月ごとに1回の皮下注射として投与さ
れる60mgである(大腿、腹部または上腕)。Proliaは、椎骨および椎骨以外の
骨折を予防するために閉経後の女性における骨粗鬆症を処置するため、骨粗鬆症および高
い骨折リスクを有する男性において骨塩量を増加させるように処置するため、ならびに高
い骨折リスクがある場合、アロマターゼ阻害剤による補助療法下の乳癌を有する女性およ
びホルモン遮断療法下の前立腺癌を有する男性における併用処置として、使用される。
【0113】
Xgevaという医薬製剤も、抗RANKL抗体を含む(デノスマブ、Amgen、各
注射バイアルが、1.7mlの溶液中に120mgのデノスマブを含む(70mg/ml
))。Xgevaは、固形腫瘍に起因する骨転移を有する成人における骨関連合併症(病
的骨折、骨の放射線照射、脊髄圧迫または骨の手術)を予防するため、ならびに切除不可
能な骨の巨細胞腫を有するか外科的切除が重篤な病的状態に至る可能性がある、成人およ
び骨格的に成熟した若者を処置するために、使用される。製品特性の要旨は、カルシウム
およびビタミンDの十分な摂取を推奨しているだけであり、正確な投与量は、示されてい
ない。
【0114】
十分な1日の総カルシウム供給量は、1000mgである。カルシウムは、食事を介し
て吸収されるため、必要な1日量は、カルシウムが豊富な食事を消費することによって達
成され得る。1日あたり2500mgを超えるカルシウムの摂取量は、他の理由の中でも
、これによって腎結石形成のリスクが高まり得るので、問題であると考えられる。過剰な
カルシウム摂取に起因する心血管有害作用の様々な報告を理由に、多くの患者は、抗RA
NKL抗体による処置中でさえ、十分な量のカルシウムを摂取することを控えていた。
【0115】
多くの場合、このことは、抗RANKL抗体による処置の結果を概して危うくし、不十
分なカルシウム供給に起因して、または骨から血液中へのカルシウムの吸収を阻害する抗
RANKL抗体での処置による骨吸収の強い阻害に起因して、心血管有害作用を引き起こ
す。
【0116】
これにより、心血管有害作用をもたらす低カルシウム血症に至る。原理上、これは、所
望の結果のまさに正反対の結果を引き起こす。カルシウムの過剰供給ではなくカルシウム
欠乏が理由で、高い心血管有害作用が生じるが、これは、抗RANKL抗体による処置中
に適切なカルシウム供給を提供することによって予防され得る。
【0117】
十分なカルシウムを含む食事を消費する人における1日あたり1000~1500mg
のカルシウムを含む薬学的組成物による補給は、カルシウムの過剰な摂取をもたらし得、
それにより、心血管有害作用のリスクが高まる。Aclastaの製品特性の要旨におけ
る1000~1500mgのカルシウムの1日量を含む研究デザインとは対照的に、低カ
ルシウム血症および心血管有害作用を処置または予防するために、本発明では、より低い
投与量を提供する。
【0118】
一方では、カルシウム不足の食事をとっている患者において基本レベルのカルシウムを
達成するために、他方では、上述のリスクに関連するがゆえに患者にとって許容できない
カルシウムの過剰供給を避けるために、薬学的組成物中のカルシウムの好ましい量は、1
日あたり400~600mgのカルシウム、特に好ましくは、1日あたり500mgのカ
ルシウムである。ドイツで行われたNational Consumption Stu
dy IIの結果報告によると、男性の46%および女性の55%が、1日推奨量のカル
シウムを摂取していない。51~80歳の年齢群では、平均カルシウム摂取量は、1日あ
たり490~1790mgのカルシウムの範囲である。
【0119】
Xgevaの製品特性の要旨によると、1日あたり400IUのビタミンDと併用して
、1日あたり500mgのカルシウムを摂取すべきである。Xgevaに対する研究は、
米国の患者に適合されていた。米国では、多くの食品(例えば、乳、オレンジジュース、
様々なパンまたは朝食用シリアル)にビタミンDが補給されている。ドイツおよびEUで
は、これは、通常、事実と異なるため、本発明によると、1日あたり800~1200I
Uというより多量のビタミンD、特に好ましくは、1日あたり1000IUのビタミンD
が提供される。より多い量のビタミンDは、潜在的により少ない量のカルシウムを消化管
から血液中に輸送することを促進できるので、より少量のカルシウムであっても、十分な
血清中カルシウムレベルが達成される。
【0120】
ゆえに、Xgevaに対する製品特性の要旨とは対照的に、抗RANKL抗体、1日に
400~600mgのカルシウムおよび800~1200IUのビタミンDを用いた併用
療法が、低カルシウム血症の予防および処置のために提供される。このように、ビタミン
Dの増加によって、1日に400~600mg、好ましくは、500mgのカルシウムと
いう低カルシウム用量が、カルシウム濃度を2.2mmol/l(9mg/dl)を超え
る標準的なレベルで維持することが保証される。
【0121】
ビタミンDレベルは、容易に測定できる。本発明に係る併用は、20ng/ml(50
nmol/l血清)以上のビタミンD血清濃度のために提供される。
【0122】
重度の欠乏(<10ng/ml血清)では、10日間にわたって200,000IU、
次いで、毎週20,000IUの置換が行われるべきである。著しい欠乏(10~20n
g/ml血清)では、100,000IUの最初の置換が行われた後、20,000IU
/週の維持が行われるべきである。通常の欠乏(21~30ng/ml血清)の場合、2
0,000IU/週の置換が行われるべきである。正常なビタミンDレベルに到達したら
(31~60ng/ml血清)、800~1200IU、特に好ましくは、1000IU
のビタミンDという本発明に係る毎日の置換が行われるべきである。
【0123】
抗RANKL抗体およびカルシウムの本発明に係る薬学的組成物の投与において、40
0IUのビタミンDの補給は、ビタミンDレベルを31~60ng/ml血清という正常
範囲で維持するためには十分でない。
【0124】
したがって、抗RANKL抗体、カルシウムおよびビタミンDの本発明に係る薬学的組
成物を用いて、低カルシウム血症が予防される。
【0125】
本発明によると、骨粗鬆症、閉経後骨粗鬆症、顕性骨粗鬆症、コルチコイド誘発性骨粗
鬆症、男性または女性の骨粗鬆症、パジェット病、骨形成不全症を処置するため、上述の
障害における骨折を予防するため、ならびに抗RANKL抗体療法によって誘発される低
カルシウム血症の処置および/または予防において使用するための、抗RANKL抗体を
含む薬学的組成物は、好ましくは、1~2mlの溶液中において30~90mg(20~
60mg/ml)、より好ましくは、50~70mg、なおもより好ましくは、好ましく
は1mlの溶液中において60mg(60mg/ml)の用量で、年1回または6ヶ月間
隔で皮下投与される。
【0126】
本発明によると、抗RANKL抗体を含む薬学的組成物は、腫瘍学の分野において、骨
関連合併症、特に、固形腫瘍、特に、乳癌、前立腺癌、肺癌、腸癌または骨癌(骨肉腫)
に起因する骨関連合併症、病的骨折、骨の放射線照射、脊髄圧迫または骨の手術、骨転移
、骨転移における疼痛、神経絞扼、1つ以上の固形腫瘍(例えば、乳癌、前立腺癌、肺癌
または多発性骨髄腫)に起因する変形を処置および/または予防するため、ならびに上述
の障害における骨折を予防するため、ならびに抗RANKL抗体療法によって誘発される
低カルシウム血症の処置および/または予防において使用するために、好ましくは、1~
3mlの溶液中において60~180mg、より好ましくは、80~150mg、なおも
より好ましくは、特に1.7mlの溶液中において120mg(70mg/ml)の用量
の抗RANKL抗体を、少なくとも3~4週間にわたって、皮下投与される。
【0127】
本発明によると、上に列挙された薬学的組成物が使用され、ここで、抗RANKL抗体
は、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、単一特異性抗体、二重特異性抗体、二機
能性抗体、一本鎖抗体、合成抗体、組換え抗体、変異抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体または
キメラ抗体、IgG、IgA、IgMもしくはIgE抗体、抗原結合フラグメントまたは
抗体構築物(例えば、個々の鎖または抗体融合タンパク質またはそれらのフラグメント、
特に、別個の軽鎖および重鎖から構成されるFv(scFv))、Fab、Fab/c、
Fv、scFv、Fd、dAb、Fab’またはF(ab’)2を含み、ここで、フラグ
メントは、軽鎖の可変領域および/または重鎖の可変領域を含む。
【0128】
用語「カルシウム」には、薬学的に許容され得る公知のすべてのカルシウム化合物が含
まれ、それらとしては、特に以下のものが挙げられるが、これらに限定されない:クエン
酸カルシウム、さらなる名称:クエン酸三カルシウム、TCC、二クエン酸三カルシウム
、トリカルシウム-ジ-[2-ヒドロキシ-1,2,3-プロパントリカルボキシレート
]-四水和物、E333、C1210Ca14、CAS番号:813-94-5(
無水)、5785-44-4(四水和物);グルコン酸カルシウム一水和物(C12
CaO14・HO、CAS番号:299-28-5(無水)および66905-23
-5(一水和物));グルコン酸乳酸カルシウム、混合物の形態の乳酸とグルコン酸との
複塩、さらなる名称:CLG、グルコン酸乳酸カルシウム、ラクトグルコン酸カルシウム
、E327、E578、CAS番号:11116-97-5、814-80-2(乳酸カ
ルシウム五水和物)、18016-24-5(グルコン酸カルシウム一水和物)または炭
酸カルシウムCaCO、CAS番号:471-34-1、リン酸カルシウム、リン酸二
水素カルシウム、リン酸水素カルシウム、リン酸水素カルシウム二水和物、酢酸カルシウ
ム、アスコルビン酸カルシウム、塩化カルシウム、グルコヘプトン酸カルシウム、グリセ
ロリン酸カルシウムおよび/または硫酸カルシウム。
【0129】
用語「ビタミンD」には、ビタミンDまたはその誘導体が含まれ、それらとしては、特
に、ビタミンD3(コレカルシフェロール、C2744O、CAS番号:67-97-
0)、カルシトリオール(1,25-ジヒドロキシビタミンD3、1α,25-ジヒドロ
キシコレカルシフェロール、1,25(OH)ビタミンD3、1,25(OH)D3
,(5Z,7E)-(1S,3R)-9,10-セココレスタ-5,7,10(19)-
トリエン-1,3,25-トリオール、CAS番号:32222-06-3)または1α
,25-ジヒドロキシコレカルシフェロール(生物学的活性型のビタミンD3)、アルフ
ァカルシドール(1α-ヒドロキシビタミンD3)、24,25-ジヒドロキシビタミン
D3またはカルシフェジオール(25-ヒドロキシビタミンD3 25-ヒドロキシコレ
カルシフェロール、CAS番号:19356-17-3,IUPAC名:(6R)-6-
[(1R,3aR,4E,7aR)-4-[(2Z)-2-[(5S)-5-ヒドロキシ
-2-メチリデン-シクロヘキシリデン]エチリデン]-7a-メチル-2,3,3a,
5,6,7-ヘキサヒドロ-1H-インデン-1-イル]-2-メチル-ヘプタン-2-
オール)、ビタミンD2(3β,5Z,7E,22E)-9,10-セコエルゴスタ-5
,7,10(19),22-テトラエン-3-オール、カルシフェロール、エルゴ-カル
シフェロール、CAS番号:50-14-6またはそれらの生物学的形態が挙げられるが
、これらに限定されない。
【0130】
ビタミンD製剤および抗RANKL抗体(デノスマブ、ProliaおよびXgeva
,Amgen Inc.)の両方およびカルシウムが、商業的に入手可能であり、それを
生成するための方法は、当業者に公知である。
【0131】
さらなる例において、薬学的組成物は、抗RANKL抗体の有害作用、特に、口腔内痛
に伴う顎の骨壊死、顎の崩壊に至る非治癒性創傷、低カルシウム血症、心不整脈などの心
血管有害作用、痙攣および二次性副甲状腺機能亢進症の処置および/または予防において
使用するために適している。
【0132】
一例において、上に示された量の抗RANKL抗体が、薬学的に許容され得る溶液(例
えば、等張食塩水溶液または等張性ソルビトール-酢酸ナトリウム-ポリソルベート溶液
、等張性ソルビトール-酢酸ナトリウム溶液、等張性グルコース溶液または好適なpHの
他の薬学的に好適な等張性溶液)における1~3mlの注入溶液として提供される。
【0133】
さらなる例において、カルシウムおよびビタミンDは、薬学的に好適な賦形剤、特に、
ラクトース、デンプン、酸性化剤、特に、クエン酸およびリンゴ酸、酸性制御剤、特に、
炭酸水素ナトリウムおよび炭酸ナトリウム、保湿剤、特に、ソルビトール、キシリトール
およびイヌリン、分離剤、特に、リン酸三カルシウム、脂肪酸、特に、マグネシウム塩、
特に、ステアリン酸マグネシウム、天然のおよび天然と同一のおよび他の香味料および香
味物質、甘味料、特に、サイクラミン酸ナトリウム、アスパルテームおよびサッカリンナ
トリウム、マルトデキストリン、色素、特に、レッドビートジュース粉末およびリボフラ
ビン-5’-リン酸、二酸化ケイ素、特に、高分散性、二酸化ケイ素水和物、フェニルア
ラニン、アラビアゴム、サッカロース、ゼラチン、コーンスターチ、大豆油、グリセロー
ル、DL-アルファトコフェロール、イソマルト、炭酸水素ナトリウム、炭酸二水素ナト
リウム、クエン酸ナトリウム、クエン酸二水素ナトリウム、カルメロースナトリウム、ア
セスルファムカリウム、アスコルビン酸ナトリウム、トリグリセリド、特に、中鎖トリグ
リセリドとともに、および/または薬学的に適合性の液体、特に、水、等張食塩水または
グルコース溶液中に提供される。
【0134】
さらなる例において、抗RANKL抗体、カルシウムおよびビタミンDは、必要に応じ
て、薬学的に好適な賦形剤および/または液体とともに、特に、発泡錠、嚥下可能な錠剤
もしくはカプセル剤、チュアブル錠、発泡顆粒剤、使用準備済の顆粒剤、飲用溶液、滴剤
、舌下スプレー剤として、注入液濃縮物、即時注入液、注射液濃縮物、注射液または充填
済みシリンジとして、個別にまたは組み合わせて、提供される。
【実施例0135】
ビタミンD欠乏は、骨学の診療において一般的な診断である。治療の開始時に、423
人のうち89人の患者が、20ng/ml血清または50nmol/lという標準値より
低いビタミンD欠乏を示した。維持量は、1日あたり1000IUのビタミンDであった
。1日あたり400IUのビタミンDという維持量は、ビタミンD濃度を標準レベルで維
持するには十分ではなかった。表2は、1000IUのビタミンDという維持量が、ビタ
ミンDレベルを正常範囲で維持するために適していることを示している。
【0136】
【表2】
【実施例0137】
さらに37人の患者のビタミンDレベルを解析した。治療の開始時、患者のおよそ51
%(n=19)に、ビタミンD欠乏[25(OH)VitD血清濃度<30ng/ml血
清または75nmol/l]が存在した。患者の27%(n=10)では、25(OH)
VitD血清濃度が、20ng/ml血清または50nmol/l未満(=重度のビタミ
ンD欠乏)であった。下記の表3のそれぞれの左の欄は、食事におけるカルシウムの1日
摂取量を、mgを単位として示している。食事における1000mg未満の1日摂取量は
、カルシウムの負のバランスをもたらす。これにより、二次性副甲状腺機能亢進症が生じ
、骨組織が失われる。500mg未満というカルシウムの1日供給量は、椎骨以外の骨折
に対する骨折リスクの上昇に関連する。
【0138】
【表3】
【実施例0139】
いわゆる「椅子立ち上がり試験」(起立試験)を3人の患者において行った。
【0140】
椅子立ち上がり試験(起立試験)によって、被験者の強さおよび転倒リスクに関する測
定を行うことが可能である。被験者は、胸の前で腕を組んだ状態で、通常の高さ(およそ
46cmのシート高)の椅子から手を使わずにできるだけ速く5回起立して着席するよう
に要請される。患者がこれをできなかった場合、秒数ではなく、成功した回数をカウント
する。患者が10~11秒より長い時間を要した場合、その患者は、転倒リスクが高いと
推定されなければならない。
【0141】
表4:60mgの抗RANKL抗体/デノスマブ(Prolia)+500mgのカル
シウム+1000IEのビタミンD3による治療を開始する前に、椅子立ち上がり試験を
3人の骨粗鬆症患者において行い(左の欄)、その後、6ヶ月間繰り返した(中央の欄)
。右の欄に、%を単位として改善が示されている。
【0142】
【表4】
【0143】
治療は、転倒リスクを11~29%低下させた。
【実施例0144】
以下の表5における癌患者(前立腺癌)からのデータは、4週間ごとの120mgのデ
ノスマブ(抗RANKL抗体,Xgeva)の投与ならびに1日に500mgのカルシウ
ムおよび1日に1000IUのビタミンD3の経口投与における、カルシウムおよびビタ
ミンD3の血清レベルを示している。
【0145】
【表5】
【0146】
以下の表6における骨粗鬆症患者からのデータは、6ヶ月ごとの60mgの抗RANK
L抗体/デノスマブ(Prolia)の投与ならびに1日に500mgのカルシウムおよ
び1日に1000IUのビタミンD3の経口投与における、カルシウムおよびビタミンD
3の血清値を示している。
【0147】
【表6】
【0148】
<20ng/mlの25(OH)ビタミンD血清濃度において、重度のビタミンD欠乏
が存在すると考えられ、これは、DVOガイドラインによると、高い骨折リスクを意味す
る。実施例4におけるデータは、本発明に係る併用が、3~6ヶ月以内に25(OH)ビ
タミンDレベルを20ng/mlまたは20μg/l超に正常化すること、およびゆえに
骨折リスクを低下させることに適していることを示している。
【0149】
一般に、骨粗鬆症を有する患者におけるカルシウム血清濃度は、正常範囲内である。癌
患者では、血液中のカルシウム濃度は、治療に起因して、上昇している(=腫瘍誘発性高
カルシウム血症)か、または低下している(治療誘発性低カルシウム血症)ことがある。
ゆえに、カルシウム不足の食事を摂っている患者は、低カルシウム血症に対するリスクが
高い。本発明に係る1日に500mgのカルシウムの補給によって、バランスのとれたカ
ルシウムが提供される。
【0150】
高PTHレベル(=二次性副甲状腺機能亢進症)、および抗RANKL抗体(デノスマ
ブ)での骨吸収抑制治療によって誘発される低カルシウム血症は、顎壊死の発生に対する
危険因子である。このため、カルシウムおよびビタミンDの本発明に係る補給は、顎壊死
のリスクを低下させる。
【0151】
上記データは、本発明に係る併用が、3~6ヶ月以内に25(OH)ビタミンD血清濃
度を20ng/mlまたは20μg/l超に正常化すること、およびほぼすべての患者に
おいてカルシウムの正のバランスを達成することに適していることを示している。患者は
、有害作用を示さず、特に、顎の骨壊死、顎の崩壊に至る非治癒性創傷、治療誘発性低カ
ルシウム血症、心血管有害作用(例えば、心臓発作、心房細動、心不整脈)、二次性副甲
状腺機能亢進症、痙攣および/またはしびれが無かった。
【0152】
さらに、骨関連合併症、特に、固形腫瘍、特に、乳癌、前立腺癌、肺癌、腸癌または骨
癌(骨肉腫)に起因する骨関連合併症が無く、(病的)骨折、骨の放射線照射、脊髄圧迫
または骨の手術が無く、骨転移、骨転移における疼痛、神経絞扼、1つまたは複数の固形
腫瘍(例えば、乳癌、前立腺癌、肺癌または多発性骨髄腫)に起因する変形が無かった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
【配列表】
2023055905000001.xml
【手続補正書】
【提出日】2023-03-06
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
前立腺癌、腸癌または骨癌(骨肉腫)による骨関連合併症のために抗RANKL抗体で処置する間の低カルシウム血症の処置および/または予防において使用するための、抗RANKL抗体ならびにカルシウムおよびビタミンDを含む薬学的組成物あって、
抗RANKL抗体は1~3mlの溶液中において60~180mg用量で、少なくとも3~4週間に1回皮下投与され、
カルシウムは1日に400~500mgの用量で、ビタミンD3は1日に1000IUの用量で経口投与され
カルシウム及び/又はビタミンD3使用準備済の顆粒剤して供給される、
薬学的組成物。
【請求項2】
前記骨関連合併症が、病的骨折、骨転移及び骨の変形からなる群より選択される、請求項1に記載の薬学的組成物。
【請求項3】
前記抗RANKL抗体が、重鎖および軽鎖を含むことを特徴とし、該重鎖は、配列番号2または配列番号8に記載のアミノ酸配列を含み、該軽鎖は、配列番号4または配列番号9に記載のアミノ酸配列を含む、請求項1または2に記載の薬学的組成
【請求項4】
前記抗RANKL抗体が、配列番号5に記載のアミノ酸配列の重鎖の可変領域および/または配列番号6に記載のアミノ酸配列の軽鎖の可変領域を含むことを特徴とする、請求項1~のいずれか一項に記載の薬学的組成
【請求項5】
前記抗RANKL抗体が、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、単一特異性抗体、二重特異性抗体、二機能性抗体、一本鎖抗体、合成抗体、組換え抗体、変異抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体、IgG、IgA、IgMもしくはIgE抗体、または、抗原結合フラグメントまたは抗体構築物であり、前記フラグメントは、軽鎖の可変領域および/または重鎖の可変領域を含む、請求項1~のいずれか一項に記載の薬学的組成
【請求項6】
カルシウムがグルコン酸乳酸カルシウム、グルコン酸カルシウム一水和物、乳酸カルシウム五水和物、クエン酸カルシウム、クエン酸カルシウム四水和物、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、リン酸二水素カルシウム、リン酸水素カルシウム、リン酸水素カルシウム二水和物、酢酸カルシウム、アスコルビン酸カルシウム、塩化カルシウム、グルコヘプトン酸カルシウム、グリセロリン酸カルシウムおよび/または硫酸カルシウムを含む、請求項1~のいずれか一項に記載の薬学的組成
【請求項7】
薬学的に好適な賦形剤および/または液体もしくは溶媒をさらに含む、請求項1~のいずれか一項に記載の薬学的組成物。
【請求項8】
記賦形剤が、ラクトース、デンプン、酸性化剤酸性制御剤保湿剤分離剤脂肪酸天然のおよび天然と同一のおよび他の香味料および香味物質、甘味料色素二酸化ケイ素フェニルアラニン、アラビアゴム、サッカロース、ゼラチン、コーンスターチ、大豆油、グリセロール、DL-アルファトコフェロール、イソマルト、炭酸水素ナトリウム、炭酸二水素ナトリウム、クエン酸ナトリウム、クエン酸二水素ナトリウム、カルメロースナトリウム、アセスルファムカリウム、アスコルビン酸ナトリウム、トリグリセリドおよび/または薬学的に適合性の液体を含む、請求項に記載の薬学的組成
【請求項9】
前記溶媒または液体が、水、等張食塩水またはグルコース溶液を含む、請求項7または8に記載の薬学的組成
【請求項10】
抗RANKL抗体、注入液、注入液濃縮物、即時注入液または充填済みシリンジとして提供され、請求項1~のいずれか一項に記載の薬学的組成