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  • 特開-天然酵母パンの製造・販売方式 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023005597
(43)【公開日】2023-01-18
(54)【発明の名称】天然酵母パンの製造・販売方式
(51)【国際特許分類】
   A21D 13/00 20170101AFI20230111BHJP
   A21D 8/02 20060101ALI20230111BHJP
   A21D 10/02 20060101ALI20230111BHJP
【FI】
A21D13/00
A21D8/02
A21D10/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021107612
(22)【出願日】2021-06-29
(71)【出願人】
【識別番号】506033850
【氏名又は名称】株式会社ブーランジェリーエリックカイザージャポン
(74)【代理人】
【識別番号】100108947
【弁理士】
【氏名又は名称】涌井 謙一
(74)【代理人】
【識別番号】100117086
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典弘
(74)【代理人】
【識別番号】100124383
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 一永
(74)【代理人】
【識別番号】100173392
【弁理士】
【氏名又は名称】工藤 貴宏
(74)【代理人】
【識別番号】100189290
【弁理士】
【氏名又は名称】三井 直人
(72)【発明者】
【氏名】木村 周一郎
【テーマコード(参考)】
4B032
【Fターム(参考)】
4B032DB01
4B032DK54
4B032DP08
4B032DP23
4B032DP25
4B032DP33
4B032DP38
4B032DP40
4B032DP80
(57)【要約】
【課題】生きている菌で乳酸発酵させる天然酵母パンの製造・販売をセントラル工場方式で行うにあたり、製造開始からパンの完成、販売までの工程でパン生地を冷凍する工程を採用する必要のない天然酵母パンの製造・販売方式。
【解決手段】パン生地を捏ね上げる工程と、一次発酵工程と、分割・成型工程と、二次発酵工程と、焼成工程とを経てパンの製造を行う天然酵母パンの製造・販売方式。二次発酵工程を5℃~15℃の温度範囲の発酵温度で、8時間~12時間の発酵時間で行う。パン生地を捏ね上げる工程及び、一次発酵工程と、分割・成型工程とを工場において大量生産方式で行い、焼成工程を天然酵母パンの販売を行う複数のパン販売店舗のそれぞれで行う。前記発酵温度範囲で冷蔵を行う冷蔵車により、前記発酵時間の間に、前記工場から複数の前記パン販売店舗のそれぞれに前記二次発酵工程中の成型された前記パン生地を輸送する工程を含む天然酵母パンの製造・販売方式。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
穀物粉と天然酵母とを含む材料を用いてパン生地を捏ね上げる捏ね上げ工程と、
捏ね上げ工程後に前記パン生地を発酵させる一次発酵工程と、
一次発酵工程後の前記パン生地を分割し、成型する分割・成型工程と、
分割・成型工程後、成型された前記パン生地を発酵させる二次発酵工程と、
二次発酵工程後に焼成を行う焼成工程と
を経てパンの製造を行う天然酵母パンの製造・販売方式であって、
前記二次発酵工程を5℃~15℃の温度範囲の発酵温度で、8時間~12時間の発酵時間で行うこととし、
前記捏ね上げ工程及び、前記一次発酵工程と、前記分割・成型工程とを工場において大量生産方式で行い、前記焼成工程を前記天然酵母パンの販売を行う複数のパン販売店舗のそれぞれで行うこととし、
前記発酵温度範囲で冷蔵を行う冷蔵車により、前記発酵時間の間に、前記工場から複数の前記パン販売店舗のそれぞれに前記二次発酵工程中の成型された前記パン生地を輸送する工程を含む
天然酵母パンの製造・販売方式。
【請求項2】
前記工場で前記冷蔵車に前記二次発酵工程中の成型された前記パン生地を搬入する間及び、複数の前記パン販売店舗のそれぞれにおいて前記冷蔵車から前記二次発酵工程中の成型された前記パン生地を搬入する間のいずれにおいても前記二次発酵工程中の成型された前記パン生地は前記発酵温度の温度範囲に維持される
請求項1記載の天然酵母パンの製造・販売方式。
【請求項3】
前記工場から複数の前記パン販売店舗のそれぞれに前記冷蔵車により前記二次発酵工程中の成型された前記パン生地を輸送することに要した時間が前記発酵時間の時間内であった場合、引き続き前記パン販売店舗において前記二次発酵工程を行う請求項1又は2記載の天然酵母パンの製造・販売方式。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、商業的なパンの製造、販売に関するものである。
【背景技術】
【0002】
店舗でパンを焼き、そのパンを販売するパン販売店(ベーカリー)では、一般的に、パンの焼き上がり時間から逆算し、生地の捏ね上げ、一次発酵、分割、成型、二次発酵、焼成というプロセスを経てパンを完成させている。
【0003】
上記のプロセスで採用されている工程は各ケースによって増減するものの、多くは、リテールベーカリーと呼ばれるパン販売店舗に隣接する厨房でパン製造プロセスが開始され、開始後4時間程度でパンが完成するのが一般的である。
【0004】
また上述のプロセスを分解し、パン製造会社がセントラル工場で冷凍パン生地まで製造を行い、その後、当該冷凍パン生地を複数のパン販売店(ベーカリー)へ配送し、各店舗で解凍及び2次発酵させ、最終的に焼成して顧客に提供・販売することも行われている(例えば、特許文献1、2)。
【0005】
上述したセントラル工場である程度の製造工程を完了したものをパン販売店(ベーカリー)へ配送するセントラル工場方式の中の一形態として、セントラル工場で2次発酵まで行い、2次発酵が終了して今まさに焼成段階に入る状態のパンを急速冷凍し、これを各店舗へ配送し、各店舗で解凍、焼成を行って顧客に提供・販売することも行われている。
【0006】
上述したセントラル工場方式で採用している冷凍技術には特殊な冷凍装置や、独特なノウハウが必要で、なおかつ、ある程度発生する冷凍による細胞破壊はパンの風味や食感に影響を与えることから、効率化の一手段としてはセントラル工場方式が優れているものの、風味、味わい、食感にこだわるベーカリーからは「冷凍パン」として敬遠されることがあった。
【0007】
特にパンの発酵を化学的に培養されたイースト菌のみに頼らず、生きている菌で乳酸発酵させる天然酵母パンは、その製造過程で完全に冷凍してしまった時点で天然酵母による発酵が期待できなくなる為、上述した方法は採用されないのが一般的であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第3783213号公報
【特許文献2】特許第4076696号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
この発明は、生きている菌で乳酸発酵させる天然酵母パンの製造・販売をセントラル工場方式で行うにあたり、製造開始からパンの完成、販売までの工程でパン生地を冷凍する工程を採用する必要のない天然酵母パンの製造・販売方式を提案することを目的にしている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
[1]
穀物粉と天然酵母とを含む材料を用いてパン生地を捏ね上げる捏ね上げ工程と、
捏ね上げ工程後に前記パン生地を発酵させる一次発酵工程と、
一次発酵工程後の前記パン生地を分割し、成型する分割・成型工程と、
分割・成型工程後、成型された前記パン生地を発酵させる二次発酵工程と、
二次発酵工程後に焼成を行う焼成工程と
を経てパンの製造を行う天然酵母パンの製造・販売方式であって、
前記二次発酵工程を5℃~15℃の温度範囲の発酵温度で、8時間~12時間の発酵時間で行うこととし、
前記捏ね上げ工程及び、前記一次発酵工程と、前記分割・成型工程とを工場において大量生産方式で行い、前記焼成工程を前記天然酵母パンの販売を行う複数のパン販売店舗のそれぞれで行うこととし、
前記発酵温度範囲で冷蔵を行う冷蔵車により、前記発酵時間の間に、前記工場から複数の前記パン販売店舗のそれぞれに前記二次発酵工程中の成型された前記パン生地を輸送する工程を含む
天然酵母パンの製造・販売方式。
【0011】
[2]
前記工場で前記冷蔵車に前記二次発酵工程中の成型された前記パン生地を搬入する間及び、複数の前記パン販売店舗のそれぞれにおいて前記冷蔵車から前記二次発酵工程中の成型された前記パン生地を搬入する間のいずれにおいても前記二次発酵工程中の成型された前記パン生地は前記発酵温度の温度範囲に維持される[1]の天然酵母パンの製造・販売方式。
【0012】
[3]
前記工場から複数の前記パン販売店舗のそれぞれに前記冷蔵車により前記二次発酵工程中の成型された前記パン生地を輸送することに要した時間が前記発酵時間の時間内であった場合、引き続き前記パン販売店舗において前記二次発酵工程を行う[1]又は[2]の天然酵母パンの製造・販売方式。
【発明の効果】
【0013】
この発明によれば、生きている菌で乳酸発酵させる天然酵母パンの製造・販売をセントラル工場方式で行うにあたり、製造開始からパンの完成、販売までの工程でパン生地を冷凍する工程を採用する必要のない天然酵母パンの製造・販売方式を提供することができる。
【0014】
この発明の天然酵母パンの製造・販売方式によれば、パン生地を製造する中央の工場と、パンの焼成・販売を行う複数のパン販売店舗を分離し、より多くのパン販売店舗で、同レベルの小麦粉の風味が残り、風味、味わい、食感のよい天然酵母パンを販売することが可能になる。
【0015】
この発明の天然酵母パンの製造・販売方式によれば、中央の工場においてパン生地を急速冷凍する工程が不要になり、このための特殊な冷凍装置や、独特な技術・ノウハウが必要なくなる。
【0016】
この発明の天然酵母パンの製造・販売方式によれば、天然酵母パンの焼成、販売を行うパン販売店舗は従来から備えていた冷蔵装置や焼成装置を使用するだけでよく、新たな設備投資を行うことなしに、小麦粉の風味が残り、風味、味わい、食感のよい天然酵母パンを販売することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】同一の店舗内でパン生地捏ね上げ工程から焼成工程まで行った天然酵母パンの体積測定結果を表す図。
図2】二次発酵工程に冷蔵車での輸送工程を含んでいる以外は図1で体積測定を行った天然酵母パンと同一の条件で製造した天然酵母パンの体積測定結果を表す図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
穀物粉と天然酵母とを含む材料を用いて天然酵母パンを製造する場合、従来から知られている、いわゆる低温熟成の製造方法では、例えば、9℃程度の発酵温度で、15時間程度の長時間をかけて二次発酵を行うことがある。
【0019】
パン生地を捏ね上げる工程、その後の一次発酵工程、分割・成型工程の後、焼成を行うまでの待機時間を長くすることで材料に用いられている小麦粉の風味が残り、風味、味わい、食感のよい天然酵母パンを製造できるとされている。
【0020】
一方、従来のセントラル工場方式で工場においてパン生地を大量に生産し、焼成工程を行う複数のパン販売店舗へ前記パン生地を輸送する場合、前記パン生地を冷凍するのが従来は一般的であり、この場合は、冷凍することで天然酵母による発酵が期待できなくなることから、小麦粉の風味が残り、風味、味わい、食感のよい天然酵母パンの製造を目的とするとセントラル工場方式の採用は容易ではなかった。
【0021】
本願の発明者は、生きている菌で乳酸発酵させる天然酵母パンの製造・販売を、セントラル工場方式で行うにあたり、二次発酵の時間を長時間にし、この長時間の二次発酵の間に、パン生地を大量に生産する中央の工場から、パンの焼成、販売を行う複数のパン販売店舗への輸送を行うようにすることで、これを解決できることを見出して本願発明を完成させた。
【0022】
この実施形態の天然酵母パンの製造・販売方式は、パン生地を捏ね上げる捏ね上げ工程と、一次発酵工程と、分割・成型工程と、二次発酵工程と、焼成工程とを経てパンの製造を行うものである。
【0023】
パン生地を捏ね上げる捏ね上げ工程は、穀物粉と天然酵母とを含む材料を用いてパン生地を捏ね上げる工程であり、従来公知の天然酵母パンの製造工程で採用されている工程である。
【0024】
一次発酵工程は、捏ね上げ工程後に前記パン生地を発酵させる工程であり、従来公知の天然酵母パンの製造工程で採用されている工程である。
【0025】
分割・成型工程は、一次発酵工程後の前記パン生地を分割し、成型する工程であり、従来公知の天然酵母パンの製造工程で採用されている工程である。
【0026】
二次発酵工程は、分割・成型工程後に成型された前記パン生地を発酵させる工程であり、従来公知の天然酵母パンの製造工程で採用されている工程である。
【0027】
焼成工程は、二次発酵工程後に焼成を行う工程であり、従来公知の天然酵母パンの製造工程で採用されている工程である。
【0028】
この実施形態では、二次発酵工程を5℃~15℃の温度範囲の発酵温度で、8時間~12時間の発酵時間で行うことにしている。
【0029】
従来から知られている、いわゆる低温熟成のパン製造方法で、例えば、9℃程度の発酵温度で、15時間程度の長時間をかけて二次発酵を行うことがあるが、この実施形態では、パン生地を捏ね上げる捏ね上げ工程と、一次発酵工程と、分割・成型工程とを工場において大量生産方式で行い、焼成工程を天然酵母パンの販売を行う複数のパン販売店舗のそれぞれで行うこととし、前記工場から前記パン販売店舗へのパン生地の輸送時間を二次発酵工程の一部または全部にあてることを考慮して、二次発酵工程を5℃~15℃の温度範囲の発酵温度で、8時間~12時間の発酵時間で行うことにしている。
【0030】
この実施形態では、捏ね上げ工程、一次発酵工程、分割・成型工程を工場において大量生産方式で行い、焼成工程を天然酵母パンの販売を行う複数のパン販売店舗のそれぞれで行うこととし、前記工場から複数の前記パン販売店舗のそれぞれに前記パン生地を冷蔵車によって輸送することにしている。このようにして製造した天然酵母パンを、小麦粉の風味が残り、風味、味わい、食感のよいものとする上で、二次発酵工程を5℃~15℃の温度範囲の発酵温度で、8時間~12時間の発酵時間で行うようにすることが望ましかった。
【0031】
上述した発酵温度である5℃~15℃の温度範囲で、工場から各パン販売店舗まで、二次発酵工程中の成型された前記パン生地を輸送する上述の冷蔵車としては、従来から冷蔵食品の自動車輸送に使用されている冷蔵車であって、少なくとも8時間~12時間の輸送時間の間、輸送している成型・分割後の前記パン生地の温度を5℃~15℃の温度範囲に保つことができる冷蔵車を用いることができる。
【0032】
前述したように、この実施形態においては、捏ね上げ工程、一次発酵工程、分割・成型工程を中央の一つの工場において大量生産方式で行い、焼成工程を天然酵母パンの販売を行う複数のパン販売店舗のそれぞれで行うようにしている。
【0033】
また、この実施形態においては、前述したように、前記工場から複数の前記パン販売店舗のそれぞれに前記パン生地を冷蔵車によって輸送することにしているが、これは、上述した発酵温度範囲で冷蔵を行う冷蔵車により、上述した発酵時間の間に、前記工場から複数の前記パン販売店舗のそれぞれに二次発酵工程中の成型された前記パン生地を輸送するものである。
【0034】
上述したこの実施形態の天然酵母パンの製造・販売方式によれば、パン生地を製造する中央の工場と、パンの焼成・販売を行う複数のパン販売店舗を分離し、より多くのパン販売店舗で、同レベルの小麦粉の風味が残り、風味、味わい、食感のよい天然酵母パンを販売することが可能になる。
【0035】
また、上述したこの実施形態の天然酵母パンの製造・販売方式によれば、中央の工場においてパン生地を急速冷凍する工程が不要になり、このための特殊な冷凍装置や、独特な技術・ノウハウが必要なくなる。
【0036】
上述の実施形態において、前記工場で前記冷蔵車に前記二次発酵工程中の成型された前記パン生地を搬入する間及び、複数の前記パン販売店舗のそれぞれにおいて前記冷蔵車から前記二次発酵工程中の成型された前記パン生地を搬入する間のいずれにおいても前記二次発酵工程中の成型された前記パン生地は前記発酵温度の温度範囲に維持されるようにすることが望ましい。
【0037】
この実施形態の天然酵母パンの製造・販売方式では、生きている菌で乳酸発酵させているので、二次発酵工程の間は上述した発酵温度範囲(5℃~15℃)に保つことが望ましいからである。
【0038】
また、上述の実施形態において、前記工場から複数の前記パン販売店舗のそれぞれに前記冷蔵車により前記二次発酵工程中の成型された前記パン生地を輸送することに要した時間が前記発酵時間(8時間~12時間)の時間内であった場合、引き続き前記パン販売店舗において前記二次発酵工程を行うことが望ましい。
【0039】
例えば、工場からパン販売店舗までが近いため、4時間程度で工場からパン販売店舗までの輸送が完了した場合、二次発酵に少なくとも8時間をかけた方が望ましいので、引き続き、パン販売店舗において、上述した発酵温度範囲(5℃~15℃)で、少なくとも、引き続き4時間の二次発酵を行うことが望ましい。
【0040】
このようにパン販売店舗において上述した二次発酵を行う場合でも、パン販売店舗は通常の業務で使用している冷蔵設備であって、この実施形態で採用している、8時間~12時間の二次発酵時間の間、上述した成型・分割後の前記パン生地の温度を5℃~15℃の温度範囲に保つことができる冷蔵設備を用いて上述した二次発酵を行うことができる。すなわち、この実施形態の天然酵母パンの製造・販売方式をパン販売店舗において実施する上で、パン販売店舗は新たな設備増強を行う必要がなく、従来から使用している設備(すなわち、少なくとも8時間~12時間、5℃~15℃の温度範囲に保つことができる冷蔵設備であるならば、その設備)のままで、小麦粉の風味が残り、風味、味わい、食感のよい天然酵母パンを販売することが可能になる。
【0041】
(比較・検討試験)
一つのパン販売店舗内でパン生地を捏ね上げる捏ね上げ工程、一次発酵工程、分割・成型工程、二次発酵工程、焼成工程を行って製造した天然酵母パンと、一つのパン販売店舗内でパン生地を捏ね上げる捏ね上げ工程、一次発酵工程、分割・成型工程を行った後、他のパン販売店舗へ冷蔵車で輸送を行って、当該他のパン販売店舗で焼成工程を行って製造した天然酵母パンについて、焼成直後のそれぞれの体積、食べたときの小麦粉の風味、味わい、食感のよさについて比較、検討を行った。
【0042】
2021年1月4日、5日、6日、7日、8日の5日にわたって、特許出願人に所属する一店舗であるメゾンカイザー五反田店(東京都品川区五反田2丁目)(以下「甲店舗」という)でパン生地を捏ね上げる捏ね上げ工程、一次発酵工程、分割・成型工程を行い、引き続き、甲店舗において二次発酵、焼成工程を行って製造した天然酵母パンと、甲店舗において分割・成型工程まで行ったものを、特許出願人に所属する他の一店舗であるメゾンカイザーラゾーナ川崎店(神奈川県川崎市幸区)(以下「乙店舗」という)へ冷蔵車を用いて輸送し、乙店舗で焼成工程を行って製造した天然酵母パンについて比較、検討した。
【0043】
比較・検討試験の実施日のそれぞれにおいて、甲店舗において、天然酵母パンを製造するための穀物粉と天然酵母とを含む材料を少しづつ異ならせた3種類の天然酵母パン(商品A、商品B、商品C)を少なくともそれぞれ20個以上製造できる分量で用いて、それぞれ、パン生地を捏ね上げる捏ね上げ工程と、一次発酵工程とを行い、引き続いて、分割・成型工程を行って、商品A、商品B、商品Cのそれぞれについて、甲店舗で焼成を行う10個と、乙店舗で焼成を行う10個との合計20個を成型した。
【0044】
この分割・成型工程ではその後の二次発酵工程、焼成工程を経て製造した天然酵母パン(商品A、商品B、商品C)の体積(単位:cc)を比較検討することを考慮して、商品A、商品B、商品Cそれぞれについて、甲店舗で二次発酵工程、焼成工程を行う10個と、乙店舗に輸送して乙店舗で焼成する10個とがいずれも同一の体積(容量)で分割・成型されるように注意して分割・整形工程を行った。
【0045】
その後、甲店舗に残す商品A、商品B、商品Cの10個ずつは、甲店舗に配備されている冷蔵装置内で二次発酵を行った。
【0046】
一方、乙店舗で焼成する商品A、商品B、商品Cの10個ずつについては、工場からパン販売店舗へのパン商品輸送に特許出願人が従来から使用している冷蔵車に、上述の分割・成型工程後、直ちに、搬入し、この冷蔵車で甲店舗から乙店舗へ輸送した。
【0047】
乙店舗に冷蔵車で到着したものは、直ちに、乙店舗に配備されている冷蔵装置内へ搬入した。
【0048】
比較・検討試験の実施日のそれぞれで交通事情により、冷蔵車での輸送に2時間前後を要したが、2次発酵の時間を同じにするため、上述した分割・成型工程後、甲店舗に配備されている冷蔵装置内に搬入してから二次発酵工程を終えるまでの時間と、上述した分割・成型工程後、冷蔵車に搬入してから乙店舗の冷蔵装置で二次発酵工程を終えるまでの時間とが同一になるようにした。
【0049】
この二次発酵工程の時間(乙店舗で焼成したものについては冷蔵車に搬入してから乙店舗の冷蔵装置で二次発酵工程を終えるまでの時間)は、1月4日が8時間、1月5日が9時間、1月6日が10時間、1月7日が11時間、1月8日が12時間とした。
【0050】
甲店舗における冷蔵装置は、1月4日が5℃、1月5日が8℃、1月6日が11℃、1月7日が13℃、1月8日が15℃で二次発酵が行われるように温度調節を行った。
【0051】
一方、冷蔵車及び、甲店舗における冷蔵装置は、1月4日が5℃、1月5日が8℃、1月6日が11℃、1月7日が13℃、1月8日が15℃で輸送及び、二次発酵が行われるように温度調節を行った。
【0052】
こうして二次発酵を終えた後、甲店舗及び、乙店舗においてそれぞれ同一の条件(焼成温度、焼成時間)で焼成を行って、比較・検討対象となる甲店舗の商品A、乙店舗の商品A、甲店舗の商品B、乙店舗の商品B、甲店舗の商品C、乙店舗の商品Cをそれぞれ10個ずつ製造し、焼成直後に各商品の体積(単位:cc)を測定した。
【0053】
結果は図1図2の通りであった。図2で、乙店舗における1月5日の商品C、1月8日の商品Aが欠番になっているが、これは焼成が不良で欠番にしたものである。
【0054】
体積測定結果は以下の表1の通りであった。
【0055】
【表1】
【0056】
この結果、製造された天然酵母パン(商品A、B、C)の体積の点では、甲店舗で製造されたものと、甲店舗から乙店舗に冷蔵車で輸送し、乙店舗で焼成したものとの間にほとんど誤差がないことが示された。
【0057】
上述した体積測定を完了した後、特許出願人が従来からパン商品輸送に使用している自動車を用いて、甲店舗内において商品A、B、Cが保存されているのと同程度の温度状態に維持しながら乙店舗で焼成した商品A、B、Cを甲店舗に輸送し、甲店舗及び、乙店舗のパン職人が、甲店舗で製造された商品A、B、Cと、甲店舗から乙店舗に冷蔵車で輸送し、乙店舗で焼成した商品A、B、Cとを食べ比べて、風味、味わい、食感を比較・検討した。
【0058】
このパン職人が喫食しての比較・検討では、小麦粉の風味が残っている程度及び、風味、味わい、食感のいずれにおいても、甲店舗で製造された商品A、B、Cと、甲店舗から乙店舗に冷蔵車で輸送し乙店舗で焼成した商品A、B、Cとは、ほぼ同一のレベルであるとの評価が下された。
【0059】
この比較・検討試験の結果、パン生地を捏ね上げる工程、一次発酵工程、分割・成型工程を工場において大量生産方式で行い、分割・成型工程後のパン生地を冷蔵車を用いてパン販売店舗に輸送する工程を二次発酵工程に取り込んで、前記パン販売店舗で焼成工程を行って天然酵母パンを製造しても、単一のパン販売店内においてパン生地を捏ね上げる工程、一次発酵工程、分割・成型工程、二次発酵工程、焼成工程を行って製造した天然酵母パンと同一レベルの小麦粉の風味をはじめとする風味のよさ、味わいのよさ、食感のよさを備えている天然酵母パンを製造・販売できることがわかかった。
【0060】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明は上述した実施の形態に限られることなく特許請求の範囲の記載から把握される技術的範囲において種々に変更可能である。
図1
図2