(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023055996
(43)【公開日】2023-04-18
(54)【発明の名称】多能性幹細胞からの立体臓器の構築
(51)【国際特許分類】
C12N 5/071 20100101AFI20230411BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20230411BHJP
A01K 67/027 20060101ALI20230411BHJP
C12Q 1/04 20060101ALI20230411BHJP
A61L 27/38 20060101ALI20230411BHJP
【FI】
C12N5/071
C12N5/10
A01K67/027
C12Q1/04
A61L27/38 100
A61L27/38 300
【審査請求】有
【請求項の数】38
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023021331
(22)【出願日】2023-02-15
(62)【分割の表示】P 2019557347の分割
【原出願日】2018-11-30
(31)【優先権主張番号】P 2017230647
(32)【優先日】2017-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、[再生医療実現拠点ネットワークプログラム 疾患・組織別実用化研究拠点(拠点B)]「iPS細胞を用いた代謝性臓器の創出技術開発拠点」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】505155528
【氏名又は名称】公立大学法人横浜市立大学
(74)【代理人】
【識別番号】100098121
【弁理士】
【氏名又は名称】間山 世津子
(74)【代理人】
【識別番号】100107870
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 健一
(72)【発明者】
【氏名】谷口 英樹
(72)【発明者】
【氏名】武部 貴則
(72)【発明者】
【氏名】関根 圭輔
(57)【要約】
【課題】機能細胞を臍帯由来の血管内皮細胞及び骨髄由来の間葉系細胞と共培養することで立体構造(臓器原基)を構築する従来法における、[1]ドナーに依存して質が大きくばらついてしまう、[2]細胞ソースの増殖能は有限である、[3]由来が異なるために免疫適合性の担保が困難である、などの課題を解決すること。
【解決手段】血管系細胞、間葉系細胞、及び組織又は臓器細胞から作製された器官芽であって、前記血管系細胞、間葉系細胞、及び組織又は臓器細胞のそれぞれが多能性幹細胞から誘導されたものである、前記器官芽。血管系細胞、間葉系細胞、及び組織又は臓器細胞をin vitroで培養することを含む、器官芽の作製方法であって、前記血管系細胞、間葉系細胞、及び組織又は臓器細胞のそれぞれが多能性幹細胞から誘導されたものである、前記方法。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
血管系細胞、間葉系細胞、及び組織又は臓器細胞から作製された器官芽であって、前記血管系細胞、間葉系細胞、及び組織又は臓器細胞のそれぞれが多能性幹細胞から誘導されたものである、前記器官芽。
【請求項2】
器官芽は、成熟することで器官に分化することができる構造体である請求項1記載の器官芽。
【請求項3】
多能性幹細胞がヒト由来である請求項1又は2に記載の器官芽。
【請求項4】
多能性幹細胞が人工多能性幹細胞及び胚性幹細胞からなる群より選択される少なくとも1つの細胞である請求項1~3のいずれかに記載の器官芽。
【請求項5】
臓器細胞が肝細胞であり、器官芽が肝芽である請求項1~4のいずれかに記載の器官芽。
【請求項6】
肝細胞がTBX3陽性及びADRA1B陽性である請求項5記載の器官芽。
【請求項7】
間葉系細胞がCD166陽性及びCD31陰性である請求項1~6のいずれかに記載の器官芽。
【請求項8】
間葉系細胞がLHX2陽性及びWT1陽性である請求項1~7のいずれかに記載の器官芽。
【請求項9】
間葉系細胞のFOXF1、HLX1、COL4A及びALCAMの転写が活性化しており、間葉系細胞がLHX2陽性、WT1陽性及びMIIA陽性である請求項8記載の器官芽。
【請求項10】
血管系細胞がCD31陽性及びCD144陽性である請求項1~9のいずれかに記載の器官芽。
【請求項11】
血管系細胞のPECAM1、CDH5、KDR及びCD34からなる群より選択される少なくとも1つの遺伝子の発現が分化誘導前の多能性幹細胞より上昇している請求項10記載の器官芽。
【請求項12】
多能性幹細胞をROCK阻害剤の存在下で培養した後、トランスフォーミング増殖因子βファミリーに属する因子、Wntファミリーに属する因子及びclass I histone脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤の存在下で培養し、さらに、トランスフォーミング増殖因子βファミリーに属する因子及びWntファミリーに属する因子の存在下で培養する工程を経て得られた細胞をFGF及びTGFβスーパーファミリーに属する因子の存在下で培養して分化誘導したTBX3陽性及びADRA1B陽性である細胞を組織又は臓器細胞として用いる請求項1~11のいずれかに記載の器官芽。
【請求項13】
多能性幹細胞をROCK阻害剤の存在下で培養した後、βカテニン活性化剤、PI3K阻害剤及びトランスフォーミング増殖因子βファミリーに属する因子の存在下で培養し、さらに、トランスフォーミング増殖因子βファミリーに属する因子及びBMP阻害剤の存在下で培養する工程を経て得られた細胞をFGF及びTGFβスーパーファミリーに属する因子の存在下で培養して分化誘導したTBX3陽性及びADRA1B陽性である細胞を組織又は臓器細胞として用いる請求項1~11のいずれかに記載の器官芽。
【請求項14】
多能性幹細胞をROCK阻害剤の存在下で培養した後、トランスフォーミング増殖因子βファミリーに属する因子の存在下で培養する工程を経て得られた細胞をFGF及びTGFβスーパーファミリーに属する因子の存在下で培養して分化誘導したTBX3陽性及びADRA1B陽性である細胞を組織又は臓器細胞として用いる請求項1~11のいずれかに記載の器官芽。
【請求項15】
多能性幹細胞をROCK阻害剤の存在下で培養した後、トランスフォーミング増殖因子βファミリーに属する因子及びβカテニン活性化剤の存在下で培養し、さらに、トランスフォーミング増殖因子βファミリーに属する因子の存在下で培養する工程を経て得られた細胞をFGF及びTGFβスーパーファミリーに属する因子の存在下で培養して分化誘導したTBX3陽性及びADRA1B陽性である細胞を組織又は臓器細胞として用いる請求項1~12のいずれかに記載の器官芽。
【請求項16】
多能性幹細胞をβカテニン活性化剤及びTGFβスーパーファミリーに属する因子の存在下で培養した後、PDGF受容体活性化剤及びトランスフォーミング増殖因子βファミリーに属する因子の存在下で培養し、さらに、FGFの存在下で培養する工程を経て得られたLHX2陽性及びWT1陽性である細胞を間葉系細胞として用いる請求項1~15のいずれかに記載の器官芽。
【請求項17】
多能性幹細胞をβカテニン活性化剤及びTGFβスーパーファミリーに属する因子の存在下で培養した後、PDGF受容体活性化剤及びトランスフォーミング増殖因子βファミリーに属する因子の存在下で培養し、さらに、FGFの存在下で培養し、その後、間葉系細胞用培地で維持培養する工程を経て得られたCD166陽性及びCD31陰性である細胞を間葉系細胞として用いる請求項1~15のいずれかに記載の器官芽。
【請求項18】
多能性幹細胞をROCK阻害剤の存在下で培養した後、βカテニン活性化剤及びTGFβスーパーファミリーに属する因子の存在下で培養し、さらに、血管内皮細胞増殖因子受容体(VEGFR)活性化剤及びアデニル酸シクラーゼ活性化剤の存在下で培養する工程を経て得られたCD31陽性及びCD144陽性である細胞を血管系細胞として用いる請求項1~17のいずれかに記載の器官芽。
【請求項19】
多能性幹細胞をROCK阻害剤の存在下で培養した後、血管内皮細胞増殖因子受容体(VEGFR)活性化剤、トランスフォーミング増殖因子βファミリーに属する因子、βカテニン活性化剤及びTGFβスーパーファミリーに属する因子の存在下で培養し、さらに、血管内皮細胞増殖因子受容体(VEGFR)活性化剤及びTGF-βのI型受容体の阻害剤の存在下で培養する工程を経て得られたCD31陽性及びCD144陽性である細胞を血管系細胞として用いる請求項1~17のいずれかに記載の器官芽。
【請求項20】
多能性幹細胞をROCK阻害剤の存在下で培養した後、トランスフォーミング増殖因子βファミリーに属する因子の存在下で培養し、さらに、FGF及びTGFβスーパーファミリーに属する因子の存在下で培養し、その後、血管内皮細胞増殖因子受容体(VEGFR)活性化剤の存在下で培養する工程を経て得られたCD31陽性及びCD144陽性である細胞を血管系細胞として用いる請求項1~17のいずれかに記載の器官芽。
【請求項21】
多能性幹細胞をROCK阻害剤の存在下で培養した後、TGFβスーパーファミリーに属する因子の存在下で培養し、さらに、TGFβスーパーファミリーに属する因子、血管内皮細胞増殖因子受容体(VEGFR)活性化剤及びFGFの存在下で培養する工程を経て得られたCD31陽性及びCD144陽性である細胞を血管系細胞として用いる請求項1~17のいずれかに記載の器官芽。
【請求項22】
血管系細胞、間葉系細胞、及び組織又は臓器細胞をin vitroで培養することを含む、器官芽の作製方法であって、前記血管系細胞、間葉系細胞、及び組織又は臓器細胞のそれぞれが多能性幹細胞から誘導されたものである、前記方法。
【請求項23】
足場材料を用いることなく、細胞が培養される請求項22記載の方法。
【請求項24】
請求項1~21のいずれかに記載の器官芽を非ヒト動物に移植し、組織又は臓器に分化させることを含む、組織又は臓器の作製方法。
【請求項25】
請求項1~21のいずれかに記載の器官芽をヒト又は非ヒト動物に移植することを含む、器官芽の移植方法。
【請求項26】
請求項1~21のいずれかに記載の器官芽をヒト又は非ヒト動物に移植し、組織又は臓器に分化させることを含む、組織又は臓器の再生又は機能回復方法。
【請求項27】
請求項1~21のいずれかに記載の器官芽を非ヒト動物に移植し、組織又は臓器に分化させることを含む、非ヒトキメラ動物の作製方法。
【請求項28】
請求項1~21のいずれかに記載の器官芽、請求項24記載の方法によって作製された組織及び臓器、並びに請求項27記載の方法によって作製された非ヒトキメラ動物からなる群より選択される少なくとも一つを用いて、薬剤を評価する方法。
【請求項29】
多能性幹細胞をROCK阻害剤の存在下で培養した後、トランスフォーミング増殖因子βファミリーに属する因子、Wntファミリーに属する因子及びclass I histone脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤の存在下で培養し、さらに、トランスフォーミング増殖因子βファミリーに属する因子及びWntファミリーに属する因子の存在下で培養する工程を経て得られた細胞をFGF及びTGFβスーパーファミリーに属する因子の存在下で培養して、TBX3陽性及びADRA1B陽性である細胞へ分化誘導することを含む、TBX3陽性及びADRA1B陽性である細胞を作製する方法。
【請求項30】
多能性幹細胞をROCK阻害剤の存在下で培養した後、βカテニン活性化剤、PI3K阻害剤及びトランスフォーミング増殖因子βファミリーに属する因子の存在下で培養し、さらに、トランスフォーミング増殖因子βファミリーに属する因子及びBMP阻害剤の存在下で培養する工程を経て得られた細胞をFGF及びTGFβスーパーファミリーに属する因子の存在下で培養して、TBX3陽性及びADRA1B陽性である細胞へ分化誘導することを含む、TBX3陽性及びADRA1B陽性である細胞を作製する方法。
【請求項31】
多能性幹細胞をROCK阻害剤の存在下で培養した後、トランスフォーミング増殖因子βファミリーに属する因子の存在下で培養する工程を経て得られた細胞をFGF及びTGFβスーパーファミリーに属する因子の存在下で培養して、TBX3陽性及びADRA1B陽性である細胞へ分化誘導することを含む、TBX3陽性及びADRA1B陽性である細胞を作製する方法。
【請求項32】
多能性幹細胞をROCK阻害剤の存在下で培養した後、トランスフォーミング増殖因子βファミリーに属する因子及びβカテニン活性化剤の存在下で培養し、さらに、トランスフォーミング増殖因子βファミリーに属する因子の存在下で培養する工程を経て得られた細胞をFGF及びTGFβスーパーファミリーに属する因子の存在下で培養して、TBX3陽性及びADRA1B陽性である細胞へ分化誘導することを含む、TBX3陽性及びADRA1B陽性である細胞を作製する方法。
【請求項33】
多能性幹細胞をβカテニン活性化剤及びTGFβスーパーファミリーに属する因子の存在下で培養した後、PDGF受容体活性化剤及びトランスフォーミング増殖因子βファミリーに属する因子の存在下で培養し、さらに、FGFの存在下で培養することを含む、LHX2陽性及びWT1陽性である細胞を作製する方法。
【請求項34】
多能性幹細胞をβカテニン活性化剤及びTGFβスーパーファミリーに属する因子の存在下で培養した後、PDGF受容体活性化剤及びトランスフォーミング増殖因子βファミリーに属する因子の存在下で培養し、さらに、FGFの存在下で培養し、その後、間葉系細胞用培地で維持培養することを含む、CD166陽性及びCD31陰性である細胞を作製する方法。
【請求項35】
多能性幹細胞をROCK阻害剤の存在下で培養した後、βカテニン活性化剤及びTGFβスーパーファミリーに属する因子の存在下で培養し、さらに、血管内皮細胞増殖因子受容体(VEGFR)活性化剤及びアデニル酸シクラーゼ活性化剤の存在下で培養することを含む、CD31陽性及びCD144陽性である細胞を作製する方法。
【請求項36】
多能性幹細胞をROCK阻害剤の存在下で培養した後、血管内皮細胞増殖因子受容体(VEGFR)活性化剤、トランスフォーミング増殖因子βファミリーに属する因子、βカテニン活性化剤及びTGFβスーパーファミリーに属する因子の存在下で培養し、さらに、血管内皮細胞増殖因子受容体(VEGFR)活性化剤及びTGF-βのI型受容体の阻害剤の存在下で培養することを含む、CD31陽性及びCD144陽性である細胞を作製する方法。
【請求項37】
多能性幹細胞をROCK阻害剤の存在下で培養した後、トランスフォーミング増殖因子βファミリーに属する因子の存在下で培養し、さらに、FGF及びTGFβスーパーファミリーに属する因子の存在下で培養し、その後、血管内皮細胞増殖因子受容体(VEGFR)活性化剤の存在下で培養することを含む、CD31陽性及びCD144陽性である細胞を作製する方法。
【請求項38】
多能性幹細胞をROCK阻害剤の存在下で培養した後、TGFβスーパーファミリーに属する因子の存在下で培養し、さらに、TGFβスーパーファミリーに属する因子、血管内皮細胞増殖因子受容体(VEGFR)活性化剤及びFGFの存在下で培養することを含む、CD31陽性及びCD144陽性である細胞を作製する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多能性幹細胞からの立体臓器の構築に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明者らは、これまでに再生医療等に用いる機能細胞(多能性幹細胞由来臓器細胞など)を臍帯由来の血管内皮細胞、骨髄由来の間葉系細胞と混合することで立体組織(臓器原基)を構築する方法を開発し、この臓器原基はin vitroでの機能および、疾患モデル動物に対する治療効果等において、平面培養により分化誘導した細胞と較べて優れていることを報告している(非特許文献1:Nature2013, 非特許文献2:Cell Stem Cell 2015, 特許文献1,2)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Takebe T et al., Nature 499, pp481-484, 2013
【非特許文献2】Takebe T et al., Cell Stem Cell 16, pp556-565, 2015
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】WO2013/047639
【特許文献2】WO2015/012158
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
2種類の臍帯・骨髄由来細胞を用いる従来法では 、[1]ドナーに依存して質が大きくばらついてしまう、[2]細胞ソースの増殖能は有限である、[3]由来が異なるために免疫適合性の担保が困難である、などの課題が実用化上の絶対的な課題であった。また、臍帯・骨髄由来細胞は成熟度の高い細胞であるために、臓器原基の作成にあたって要求される未熟な細胞とは分化段階が大きく異なっており、生体内の発生と大きく乖離があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、立体的な臓器原基を作製するために用いる3種類の細胞種をすべて人工多能性幹細胞(iPS細胞)から作製することで、分化段階の同期した未熟な細胞から臓器原基を作製することに成功した。具体的にはiPS細胞由来肝内胚葉細胞とiPS細胞由来血管内皮細胞とiPS細胞由来間葉系細胞の組み合わせによりヒト肝芽を作製し、従来法であるiPS細胞由来肝内胚葉細胞と臍帯由来血管内皮細胞、骨髄由来間葉系細胞の組み合わせで作製したヒト肝芽について、in vitroでのアルブミン分泌能、分化マーカーの遺伝子発現などを比較した。その結果、従来法と比較して大幅に機能改善を認めた。また、免疫不全動物(NOD/scidマウス)に6x10^6個のiPS細胞由来肝内胚葉細胞に相当する肝芽を移植した結果、血清中に分泌されたヒトアルブミン分泌量からも同様の結果が得られた。本発明により、大幅な機能改善を図るとともに、品質評価および製造にかかるコストおよび手間が削減可能となる。同様の効果は、iPS細胞の代わりに他の多能性幹細胞(例えば、胚性幹細胞(ES細胞))を用いた場合にも得られる蓋然性は高い。
【0007】
本発明の要旨は以下の通りである。
(1)血管系細胞、間葉系細胞、及び組織又は臓器細胞から作製された器官芽であって、前記血管系細胞、間葉系細胞、及び組織又は臓器細胞のそれぞれが多能性幹細胞から誘導されたものである、前記器官芽。
(2)器官芽は、成熟することで器官に分化することができる構造体である(1)記載の器官芽。
(3)多能性幹細胞がヒト由来である(1)又は(2)に記載の器官芽。
(4)多能性幹細胞が人工多能性幹細胞及び胚性幹細胞からなる群より選択される少なくとも1つの細胞である(1)~(3)のいずれかに記載の器官芽。
(5)臓器細胞が肝細胞であり、器官芽が肝芽である(1)~(4)のいずれかに記載の器官芽。
(6)肝細胞がTBX3陽性及びADRA1B陽性である(5)記載の器官芽。
(7)間葉系細胞がCD166陽性及びCD31陰性である(1)~(6)のいずれかに記載の器官芽。
(8)間葉系細胞がLHX2陽性及びWT1陽性である(1)~(7)のいずれかに記載の器官芽。
(9)間葉系細胞のFOXF1、HLX1、COL4A及びALCAMの転写が活性化しており、間葉系細胞がLHX2陽性、WT1陽性及びMIIA陽性である(8)記載の器官芽。
(10)血管系細胞がCD31陽性及びCD144陽性である(1)~(9)のいずれかに記載の器官芽。
(11)血管系細胞のPECAM1、CDH5、KDR及びCD34からなる群より選択される少なくとも1つの遺伝子の発現が分化誘導前の多能性幹細胞より上昇している(10)記載の器官芽。
(12)多能性幹細胞をROCK阻害剤の存在下で培養した後、トランスフォーミング増殖因子βファミリーに属する因子、Wntファミリーに属する因子及びclass I histone脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤の存在下で培養し、さらに、トランスフォーミング増殖因子βファミリーに属する因子及びWntファミリーに属する因子の存在下で培養する工程を経て得られた細胞をFGF及びTGFβスーパーファミリーに属する因子の存在下で培養して分化誘導したTBX3陽性及びADRA1B陽性である細胞を組織又は臓器細胞として用いる(1)~(11)のいずれかに記載の器官芽。
(13)多能性幹細胞をROCK阻害剤の存在下で培養した後、βカテニン活性化剤、PI3K阻害剤及びトランスフォーミング増殖因子βファミリーに属する因子の存在下で培養し、さらに、トランスフォーミング増殖因子βファミリーに属する因子及びBMP阻害剤の存在下で培養する工程を経て得られた細胞をFGF及びTGFβスーパーファミリーに属する因子の存在下で培養して分化誘導したTBX3陽性及びADRA1B陽性である細胞を組織又は臓器細胞として用いる(1)~(11)のいずれかに記載の器官芽。
(14)多能性幹細胞をROCK阻害剤の存在下で培養した後、トランスフォーミング増殖因子βファミリーに属する因子の存在下で培養する工程を経て得られた細胞をFGF及びTGFβスーパーファミリーに属する因子の存在下で培養して分化誘導したTBX3陽性及びADRA1B陽性である細胞を組織又は臓器細胞として用いる(1)~(11)のいずれかに記載の器官芽。
(15)多能性幹細胞をROCK阻害剤の存在下で培養した後、トランスフォーミング増殖因子βファミリーに属する因子及びβカテニン活性化剤の存在下で培養し、さらに、トランスフォーミング増殖因子βファミリーに属する因子の存在下で培養する工程を経て得られた細胞をFGF及びTGFβスーパーファミリーに属する因子の存在下で培養して分化誘導したTBX3陽性及びADRA1B陽性である細胞を組織又は臓器細胞として用いる(1)~(12)のいずれかに記載の器官芽。
(16)多能性幹細胞をβカテニン活性化剤及びTGFβスーパーファミリーに属する因子の存在下で培養した後、PDGF受容体活性化剤及びトランスフォーミング増殖因子βファミリーに属する因子の存在下で培養し、さらに、FGFの存在下で培養する工程を経て得られたLHX2陽性及びWT1陽性である細胞を間葉系細胞として用いる(1)~(15)のいずれかに記載の器官芽。
(17)多能性幹細胞をβカテニン活性化剤及びTGFβスーパーファミリーに属する因子の存在下で培養した後、PDGF受容体活性化剤及びトランスフォーミング増殖因子βファミリーに属する因子の存在下で培養し、さらに、FGFの存在下で培養し、その後、間葉系細胞用培地で維持培養する工程を経て得られたCD166陽性及びCD31陰性である細胞を間葉系細胞として用いる(1)~(15)のいずれかに記載の器官芽。
(18)多能性幹細胞をROCK阻害剤の存在下で培養した後、βカテニン活性化剤及びTGFβスーパーファミリーに属する因子の存在下で培養し、さらに、血管内皮細胞増殖因子受容体(VEGFR)活性化剤及びアデニル酸シクラーゼ活性化剤の存在下で培養する工程を経て得られたCD31陽性及びCD144陽性である細胞を血管系細胞として用いる(1)~(17)のいずれかに記載の器官芽。
(19)多能性幹細胞をROCK阻害剤の存在下で培養した後、血管内皮細胞増殖因子受容体(VEGFR)活性化剤、トランスフォーミング増殖因子βファミリーに属する因子、βカテニン活性化剤及びTGFβスーパーファミリーに属する因子の存在下で培養し、さらに、血管内皮細胞増殖因子受容体(VEGFR)活性化剤及びTGF-βのI型受容体の阻害剤の存在下で培養する工程を経て得られたCD31陽性及びCD144陽性である細胞を血管系細胞として用いる(1)~(17)のいずれかに記載の器官芽。
(20)多能性幹細胞をROCK阻害剤の存在下で培養した後、トランスフォーミング増殖因子βファミリーに属する因子の存在下で培養し、さらに、FGF及びTGFβスーパーファミリーに属する因子の存在下で培養し、その後、血管内皮細胞増殖因子受容体(VEGFR)活性化剤の存在下で培養する工程を経て得られたCD31陽性及びCD144陽性である細胞を血管系細胞として用いる(1)~(17)のいずれかに記載の器官芽。
(21)多能性幹細胞をROCK阻害剤の存在下で培養した後、TGFβスーパーファミリーに属する因子の存在下で培養し、さらに、TGFβスーパーファミリーに属する因子、血管内皮細胞増殖因子受容体(VEGFR)活性化剤及びFGFの存在下で培養する工程を経て得られたCD31陽性及びCD144陽性である細胞を血管系細胞として用いる(1)~(17)のいずれかに記載の器官芽。
(22)血管系細胞、間葉系細胞、及び組織又は臓器細胞をin vitroで培養することを含む、器官芽の作製方法であって、前記血管系細胞、間葉系細胞、及び組織又は臓器細胞のそれぞれが多能性幹細胞から誘導されたものである、前記方法。
(23)足場材料を用いることなく、細胞が培養される(22)記載の方法。
(24)(1)~(21)のいずれかに記載の器官芽を非ヒト動物に移植し、組織又は臓器に分化させることを含む、組織又は臓器の作製方法。
(25)(1)~(21)のいずれかに記載の器官芽をヒト又は非ヒト動物に移植することを含む、器官芽の移植方法。
(26)(1)~(21)のいずれかに記載の器官芽をヒト又は非ヒト動物に移植し、組織又は臓器に分化させることを含む、組織又は臓器の再生又は機能回復方法。
(27)(1)~(21)のいずれかに記載の器官芽を非ヒト動物に移植し、組織又は臓器に分化させることを含む、非ヒトキメラ動物の作製方法。
(28)(1)~(21)のいずれかに記載の器官芽、(24)記載の方法によって作製された組織及び臓器、並びに(27)記載の方法によって作製された非ヒトキメラ動物からなる群より選択される少なくとも一つを用いて、薬剤を評価する方法。
(29)多能性幹細胞をROCK阻害剤の存在下で培養した後、トランスフォーミング増殖因子βファミリーに属する因子、Wntファミリーに属する因子及びclass I histone脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤の存在下で培養し、さらに、トランスフォーミング増殖因子βファミリーに属する因子及びWntファミリーに属する因子の存在下で培養する工程を経て得られた細胞をFGF及びTGFβスーパーファミリーに属する因子の存在下で培養して、TBX3陽性及びADRA1B陽性である細胞へ分化誘導することを含む、TBX3陽性及びADRA1B陽性である細胞を作製する方法。
(30)多能性幹細胞をROCK阻害剤の存在下で培養した後、βカテニン活性化剤、PI3K阻害剤及びトランスフォーミング増殖因子βファミリーに属する因子の存在下で培養し、さらに、トランスフォーミング増殖因子βファミリーに属する因子及びBMP阻害剤の存在下で培養する工程を経て得られた細胞をFGF及びTGFβスーパーファミリーに属する因子の存在下で培養して、TBX3陽性及びADRA1B陽性である細胞へ分化誘導することを含む、TBX3陽性及びADRA1B陽性である細胞を作製する方法。
(31)多能性幹細胞をROCK阻害剤の存在下で培養した後、トランスフォーミング増殖因子βファミリーに属する因子の存在下で培養する工程を経て得られた細胞をFGF及びTGFβスーパーファミリーに属する因子の存在下で培養して、TBX3陽性及びADRA1B陽性である細胞へ分化誘導することを含む、TBX3陽性及びADRA1B陽性である細胞を作製する方法。
(32)多能性幹細胞をROCK阻害剤の存在下で培養した後、トランスフォーミング増殖因子βファミリーに属する因子及びβカテニン活性化剤の存在下で培養し、さらに、トランスフォーミング増殖因子βファミリーに属する因子の存在下で培養する工程を経て得られた細胞をFGF及びTGFβスーパーファミリーに属する因子の存在下で培養して、TBX3陽性及びADRA1B陽性である細胞へ分化誘導することを含む、TBX3陽性及びADRA1B陽性である細胞を作製する方法。
(33)多能性幹細胞をβカテニン活性化剤及びTGFβスーパーファミリーに属する因子の存在下で培養した後、PDGF受容体活性化剤及びトランスフォーミング増殖因子βファミリーに属する因子の存在下で培養し、さらに、FGFの存在下で培養することを含む、LHX2陽性及びWT1陽性である細胞を作製する方法。
(34)多能性幹細胞をβカテニン活性化剤及びTGFβスーパーファミリーに属する因子の存在下で培養した後、PDGF受容体活性化剤及びトランスフォーミング増殖因子βファミリーに属する因子の存在下で培養し、さらに、FGFの存在下で培養し、その後、間葉系細胞用培地で維持培養することを含む、CD166陽性及びCD31陰性である細胞を作製する方法。
(35)多能性幹細胞をROCK阻害剤の存在下で培養した後、βカテニン活性化剤及びTGFβスーパーファミリーに属する因子の存在下で培養し、さらに、血管内皮細胞増殖因子受容体(VEGFR)活性化剤及びアデニル酸シクラーゼ活性化剤の存在下で培養することを含む、CD31陽性及びCD144陽性である細胞を作製する方法。
(36)多能性幹細胞をROCK阻害剤の存在下で培養した後、血管内皮細胞増殖因子受容体(VEGFR)活性化剤、トランスフォーミング増殖因子βファミリーに属する因子、βカテニン活性化剤及びTGFβスーパーファミリーに属する因子の存在下で培養し、さらに、血管内皮細胞増殖因子受容体(VEGFR)活性化剤及びTGF-βのI型受容体の阻害剤の存在下で培養することを含む、CD31陽性及びCD144陽性である細胞を作製する方法。
(37)多能性幹細胞をROCK阻害剤の存在下で培養した後、トランスフォーミング増殖因子βファミリーに属する因子の存在下で培養し、さらに、FGF及びTGFβスーパーファミリーに属する因子の存在下で培養し、その後、血管内皮細胞増殖因子受容体(VEGFR)活性化剤の存在下で培養することを含む、CD31陽性及びCD144陽性である細胞を作製する方法。
(38)多能性幹細胞をROCK阻害剤の存在下で培養した後、TGFβスーパーファミリーに属する因子の存在下で培養し、さらに、TGFβスーパーファミリーに属する因子、血管内皮細胞増殖因子受容体(VEGFR)活性化剤及びFGFの存在下で培養することを含む、CD31陽性及びCD144陽性である細胞を作製する方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、2種類の臍帯・骨髄由来細胞を用いる従来法と較べ、[1]ドナーに依存しないため質の安定化につながる、[2]3種類全部がiPS細胞由来の細胞を用いた臓器原基は機能性に飛躍的に優れる、[3]免疫適合性の担保が容易になる、などの優位性がある。
本明細書は、本願の優先権の基礎である日本国特許出願、特願2017‐230647の明細書および/または図面に記載される内容を包含する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】(Figure 1)オムニウェルアレイプラットフォームの開発によるスケーラブルな肝芽の生産および分化。(A)大量生産用のオムニウェルアレイプレートの模式的なデザイン(中)。右の蛍光画像分析は、完全にヒトiPSCからの微小肝芽(LB)の大規模(> 20,000)生産を確認する。(B)1(オムニ)ウェルアレイプレートの外観(左)、および3Dプロフィルメーターによるプレートの平坦度(右)。(C)3種類の前駆細胞の共培養から生成されたiPSC-LBのSEM画像。(D)生成されたiPSC-LBの共焦点画像は、内皮発芽(白い矢印)を内部に示した。緑はiPSC-HEを示し、赤はHUVECを示す。(E)異なる内胚葉段階(0日から20日の範囲)から生成された肝芽の肉眼的形態。X軸は3D培養時間(累積)を意味し、Y軸は2D培養からのソース細胞のステージを示す。右の2つの列は、22日目の収集後の低倍率および高倍率の画像を示す。(F)種々の内胚葉由来の肝芽におけるサイズ均一性のバイオリンプロット分析。データは、3D培養の初日に対して累積22日目に600を超える肝芽の形態を定量化することによって収集する。
【
図2】(Figure 2)複数の前駆細胞を形成するヒトiPSC由来の肝芽の逆最適化。(A)時間経過に依存したAFP生産および20日目の2時間/ 2×10
5細胞あたりのALB生産のELISAに基づく定量。データは平均±s.d.を表す。n = 4、*:P <0.05(B)複数の段階の内胚葉細胞から生成された肝芽のPCA分析は、肝臓運命への重要な関与を明らかにした。X軸は、インビトロの実験に基づく成熟順によって示される。(C)多能性、胚体内胚葉および肝内胚葉細胞マーカーのqRT-PCR分析による各分化段階特異的に報告されたマーカーの特徴付け。様々な段階での細胞の顕微鏡形態が右のパネルに示されている。下のパネルは、8日目および10日目の段階でのHNF4Aの免疫染色を示す。(D)ボルケーノプロット遺伝子発現データ。p値が<0.05で、6日目と8日目の段階の間で、log2倍の変化レベルで異なって発現される遺伝子は、赤色の円として表示される。細胞表面タンパク質または核タンパク質は、赤い円の中の各遺伝子名と共に太字で示されている。(E)8日目の移行内胚葉細胞はqRT-PCRによってTBX3およびADRA1B遺伝子の両方によって標識され、タンパク質は免疫染色によって標識される(
図3A(Figure 3A)参照)。データは平均±s.d.を表す。n = 3、*:P <0.05(F)早期中胚葉遺伝子であるT(BRACHURY)、STM遺伝子であるHLX1、GATA4、FOXF1、COL4A1、およびALCAMのqRT-PCRに基づくスクリーニング。Meso:3日目のiPSC由来側板中胚葉、STM:FGF2およびPDGFB同時暴露後の10日目の細胞、MSC:STM継代後にMSC培地で維持された20日目の細胞。エラーバーは3回の独立した実験(n = 4)の値からのs.d.を表す。(G)iPSC-STMにおける成人ヒト肝間葉細胞特性による階層的クラスタリング(Asahina et al., 2009、Asahina et al., 2011、El Taghdouini et al., 2015)。(H)位相差顕微鏡によるiPSC-STMからの自己凝縮の時間経過画像解析。集合細胞運動の速度は、3回の独立した実験の平均として示される。 BMSCおよびiPSC-MSCを用いた2日間の培養組織を対照として示す。(I、J)iPSC-ECの顕微鏡的特徴付けおよびCD31およびCD144のFACSに基づく経時的定量化(I)、その後のマトリゲルの内皮発芽アッセイ(J)。(K)iPSC-STMおよびAAVS1::mCherry iPSC-ECの同時移植によるインビボでのヒト血管ネットワークの生成。デキストランは緑で、マウス特異的CD31は青色で表される。バーは500μmである。
【
図3】(Figure 3) iPSC由来の複数の前駆細胞からの完全な肝芽の自己組織化。(A)フィーダーを含まないヒトiPSCからのすべてのiPSC-肝芽の生成に関するプロトコールの概要。プロセス検証は、免疫染色によってルーチン的に行われた。免疫染色は、tHE上ではTBX3(赤色)およびADRA1B(赤色)、STMにおいてはWT1(赤色)、LHX2(赤色)およびミオシンIIA(緑色)、EC上ではCD144(赤色)およびCD31(緑色)に対して行った。(B)培養72時間後の内皮発芽を伴う肝芽への自己組織化は、明視野(上)およびライトシート(下)の4Dタイムラプスイメージングによってそれぞれ確認された。緑はiPSC-tHEを表し、赤はiPSC-ECを表す。iPSC-STMは標識されていない。バーは500μmである。 (C)すべてのiPSC芽の共焦点撮像により、内皮ネットワークの存在が確認された。(D)発生したすべてのiPSC芽の肉眼的側面図。パネルには上面図が表示さる。バーは1,000μmである。(E)2日目にヒト血管の灌流を示す移植された全iPSC-LBの肉眼観察。点線で囲まれた領域は、移植された全てのiPSC-LBを示す。(F)iPSC-ECからのヒト血管の形成を実証する、移植された全てのiPSC-LBの生体内イメージング。赤はAAVS1 :: mCherry iPSC-ECsを表す。バーは500μmである。(G)28日目のすべてのiPSC-LB移植内のヒトiPSC由来血管と整列したiPSC-肝細胞の存在。緑はiPSC-tHEを表し、赤はiPSC-ECを表す。(H)デキストランおよび蛍光マウスCD31抗体を共注入した研究は、iPSC-ECおよび宿主マウス血管の間の接続(白い点線または矢印)を明らかにする。緑はデキストランを表し、赤はiPSC-ECを表し、青はマウスCD31を表す。(I)iPSC-STMとiPSC-ECとの密接な関連。緑はiPSC-STMを表し、赤はiPSC-ECを表す。
【
図4】(Figure 4)大量生産された小型化ヒト肝芽の機能検証。(A)インビトロおよびインビボ機能を評価することによる各10
8細胞スケールの生産サイクルにおける戦略的バッチ検証スキーム。中央パネルは、集められたLB形態の均一性を示す。緑はiPSC-tHEを表す。(B)分化したすべてのiPSC-LBにおけるアルブミン生産。対照として、2Dにおけるヒト成人肝細胞(AdHep 2D)、AdHep共培養(AdHep LB)および対照LB(iPSC-tHE、HUVECおよびBMSCから作製)が示された。データは平均±s.d.を表す。n = 6。(C)複数の肝細胞由来タンパク質生産、および(D)培養21日目のin vitroで培養したiPSC-LBのアンモニア代謝。データは、平均±s.d.を表す。(C)ではn = 6、(D)ではn = 3。(E)iPSC(全iPSC-LB)からの肝芽の肝臓成熟状態のtSNEに基づく視覚化。従来のアプローチおよびヒト初代サンプルと比較した。(F)ヒト成人肝細胞(F)とアスタープロットで示される分化したすべてのiPSC-LB(G)との間のAPRESプロファイル。(G)alb-Tk-NOGマウスを用いた亜急性肝不全モデル後の移植群および偽群のKaplan-Meier生存曲線。LBについてはn = 114、偽移植群についてはn = 39である。 **:P = 0.0013。 X軸は移植後の日数を示す。(H)全iPSC-LB移植(n = 48)またはヒト成人肝細胞移植(n = 12)における時間依存性ヒト血清アルブミン生産。データは平均±s.e.m.を表す。(I)iPSC LB移植マウスにおけるヒト特異的ジクロフェナク代謝産物の検出。3'-ヒドロキシ-4'-メトキシジフルオロフェナック(VI)を液体クロマトグラフィー-タンデム質量分析法(LC-MS / MS)によって定量した。3'-ヒドロキシ-4'-メトキシジフルオロフェナック(VI)は、血漿中に蓄積することが知られているヒト特異的代謝物である。
【
図5】(Fig. S1)大量生産されたLBのコーティングの最適化と回収。(A)細胞播種の前にpHEMAおよびMPCポリマーで被覆する。緑はHUVECを表し、赤はMSCを表す。(B)ピペット操作によるLBの回収。LB回収の前(左)および後(右)に得られた顕微鏡画像が示されている。回収後、残りのLBは検出されず、プレートからのLBの回収が成功したことを示唆している。
【
図6】(Fig. S2) LBを生成するための細胞用量および混合比依存性試験。(A)様々な割合の間葉系細胞(MC)を、LB生成に関して、Elplasiaプラットフォーム上で試験した。顕微鏡および電子顕微鏡写真が示されている。示されたMC比率で多数の生成されたLBが示された。(B)HNF4AおよびALBのqRT-PCR分析は、全細胞の1/20が肝芽の生成に最も効率的であることを明らかにした。データは平均±s.d. を表す。n = 3(C、D)1スポット当たり4000細胞までのLBの直径における総細胞に依存した増加。6000細胞は組織を形成しなかった。緑はHUVECを表し、赤はMSCを表す。LBサイズの定量化は、Dに示される。それぞれの指示された細胞用量でのLBの遺伝子発現(E)およびタンパク質生産能力(F)。データは平均±s.d. を表す。n = 3
【
図7】(Fig. S3)大規模生産用オムニウェルプレートの確立。(A)Elplasia 24ウェル、6 ウェル、1(omni)ウェルプレート。すべてのプレートはSBSフットプリント寸法を満たしている。デッドスペースを最小化することにより、プレート当たりのマイクロウェルの数は、14,400(600×24ウェル)、18,000(3,000×6ウェル)、20,000(1ウェル)のように増加した。(B)24ウェル、6ウェルおよびオムニ(1)ウェルプレートに由来するLB中の肝マーカー遺伝子HNF4A、RBP4、AFP、ALB、TTR、TAT、TDO2およびGLUT2のqRT-PCR分析。データは平均±s.d.を表す。n = 3
【
図8】(Fig. S4) iPSC由来内胚葉細胞誘導プロトコールの最適化。(A)胚体内胚葉細胞を生成するための3つの代表的なプロトコール。(B、C)DEステージでの多能性マーカーおよびHEステージでの肝内胚葉マーカーのそれぞれの指示されたプロトコールに続くqRT-PCR分析。データは平均±s.d. を表す。n = 12(D)異なるプロトコール由来の成熟肝細胞様細胞の顕微鏡形態。(E)iPSC-MH段階における肝細胞マーカーのqRT-PCR分析。データは平均±s.d. を表す。n = 6(F)複数のドナー由来iPSCクローンからのiPSC-MHの再現性のある生成。データは、ng / ml / 24時間/ 2×10
5細胞として示される。 n = 10。(G)4日目から10日目の移行中のDE分泌マーカーcerberus1のELISA定量。
【
図9】(Fig. S5) iPSC由来の肝芽形成プロトコールの最適化。(A)iPSCs(0日目)、DE(6日目または7日目)、HE(10日目)およびMH(14日目)細胞からの肝芽。遺伝子発現分析は、6日目および10日目の内胚葉細胞のみが、拡張培養後に最も高い肝機能を示したことを明らかにした。(B)2-D細胞および3-D組織の階層的クラスタリング。2-D細胞はiPSC、DE、HE、IHおよびMHである。3-D組織はヒトiPSC-肝芽、Si-Tayebら(Si-Tayeb et al.,2010)によって開発されたシグネチャーを用いたヒト胎児および成人の肝臓組織である。FLTは10gwkまたは22-40gwkプール胎児肝臓組織であり、ILTは0yr乳児肝臓組織であり、ALTは5yrs、30yrs、44yrsまたは55yrsの古い肝臓組織であり、AHEPはヒト初代肝細胞であり、AHEP-3Dは3D培養ヒト初代肝細胞である。(C)6日目と8日目の芽の間の血管新生の特徴遺伝子のGSEA分析およびヒートマップによる可視化。
【
図10】(Fig. S6) iPSC-tHEのマーカーとしてのTBX3およびADRA1Bの同定。(A、B)TBX3(a)およびADRA1B(b)の時間依存的発現。データは平均±s.d.を表す。n = 3
【
図11】(Fig. S7)フィーダーフリーのヒトiPSCからの原始的な内皮前駆細胞への高効率分化。(A)EC分化のための4つの独立した段階的特異的プロトコール。(B)それぞれの分化を受けたiPSC-ECの顕微鏡による特徴付け、およびそれに続くCD31およびCD144によるFACSベースの初期スクリーニング。(C)ECマーカーのqRT-PCRに基づく分析。(D)継代4回後のiPSC-ECの増殖曲線。
【
図12】(Fig. S8)ヒトiPSC肝芽のin vivo機能化。(A)40日目のすべてのiPSC-LB移植群におけるALB量のウィスカープロット比較(5~95パーセンタイル)。各グラフは、10匹の異なるマウスすべてから採取した生値を表している。(B)iPSC-ECおよびSTMの存在下または非存在下での時間依存性ヒト血清アルブミン生産。データは平均±s.e.m.を表す。n = 6。*:P = 0.0356。移植された細胞数は、パネルAおよびBにおいて3×10
6細胞相当のLBであった。
【
図13】iPSCからDEへの分化誘導においてWnt3aはCHIR99021に代替可能。
図13A: Wnt3aの代替としてCHIR99021を用いるプロトコールの模式図。条件検討の結果、DE分化誘導6日間の内、CHIR99021, 2μMを3日間添加する条件を選択。
図13B: Wnt3aを用いる従来法とCHIR99021, 2μMを3日間添加条件での各分化段階の細胞形態。Wnt3aを用いた場合と形態的な違いは見られない。
図13C: Wnt3aを用いる従来法とCHIR99021, 2μMを3日間添加条件でのDE段階でのフローサイトメトリーによるDEマーカーであるCXCR4陽性率解析。Wnt3aを用いた場合とCXCR4陽性率は同等である。
図13D: 定量PCR(qPCR)による各分化マーカーの発現解析Wnt3aを用いた場合と同等である。
図13E: MH段階での分泌アルブミン量のELISA解析。複数のiPSCクローンにおいてWnt3aを用いた場合と同等か高い傾向が見られた。
【
図14】Wnt3aとCHIR99021の比較(in vitro MH, LB)。
図14AおよびB: MH(
図14A)およびLB(
図14B)での細胞形態。Wnt3aを用いた場合と形態的な違いは見られない。
図14C: 定量PCR(qPCR)によるMHおよびLBでのマーカー発現解析。Wnt3aを用いた場合と同等であり、腸管マーカーなど他の細胞系譜のマーカー遺伝子の発現増加も見られない。
【
図15】EC induction。iPSC由来血管内皮細胞(iPSC-EC)の分化誘導プロトコール改変版。
【
図16】臨床応用に向けた分化誘導培地検討。
図16A: 分化誘導プロトコールの模式図。
図16B: 従来法及び改訂法の細胞形態。形態的な違いは見られない。
図16C: 従来法及び改訂法のフローサイトメトリーによるECマーカー陽性率の解析。
図16D:
図16Cのフローサイトメトリー解析のまとめ。改訂法では従来法と比べより安定的に高いCD31/CD144陽性率となる。
図16E: 定量PCR(qPCR)による各分化マーカーの発現解析。継代を経てもECマーカー発現量が安定している。
図16F: 継代ごとの細胞増殖。改訂法では従来法と比べ継代後の増殖能が高い
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0011】
本発明は、血管系細胞、間葉系細胞、及び組織又は臓器細胞から作製された器官芽であって、前記血管系細胞、間葉系細胞、及び組織又は臓器細胞のそれぞれが多能性幹細胞から誘導されたものである、前記器官芽を提供する。
【0012】
本発明において「器官芽」とは、成熟することで器官に分化することができる構造体であって、血管系細胞、間葉系細胞、及び組織又は臓器細胞の三種類の細胞を含む構造体をいう。ある構造体が器官芽であるかどうかは、例えば、その構造体を生体へ移植し、目的の器官に分化できるかどうかを調べること(目的の器官へ分化していれば器官芽であると判断できる。)、及び/又はその構造体が上述した三種類の細胞をすべて含んでいるかどうかを調べること(三種類の細胞をすべて含んでいれば器官芽であると判断できる。)により確認できる。器官芽は、例えば、脳、脊髄、副腎髄質、表皮、毛髪・爪・皮膚腺、感覚器、末梢神経、水晶体などの外胚葉性器官、脾臓、腎臓、尿管、心臓、血液、生殖腺、副腎皮質、筋肉、骨格、真皮、結合組織、中皮などの中胚葉性器官、肝臓、膵臓、消化管(咽頭、食道、胃、腸管)、肺、甲状腺、副甲状腺、尿路、胸腺などの内胚葉性器官などの器官に分化する器官芽などであってもよいが、肝臓に分化する器官芽(肝芽)、膵臓に分化する器官芽(膵芽)、腸管に分化する器官芽など内胚葉性器官に分化する器官芽が好ましい。ある構造体が内胚葉性器官に分化する器官芽であるかどうかは、マーカーとなるタンパク質の発現を調べることにより確認できる(後述するマーカータンパク質のいずれか一つあるいは複数が発現していれば器官芽であると判断できる。)。例えば、肝芽では、HHEX、SOX2、HNF4A、AFP、 ALBなどがマーカーになり、膵芽では、PDX1、SOX17、SOX9などがマーカーになり、腸管に分化する器官芽では、CDX2、SOX9などがマーカーになる。当業者間で使用されている用語のうち、liver bud、liver diverticula、liver organoid、pancreatic (dorsal or ventral) buds、pancreatic diverticula、pancreatic organoid、intestinal bud、intestinal diverticula、intestinal organoid(K. Matsumoto, et al. Science.19;294(5542):559-63.(2001))などは本発明における器官芽に含まれる。
【0013】
本発明の器官芽は、血管系細胞、間葉系細胞、及び組織又は臓器細胞の3種類の細胞全てが多能性幹細胞から誘導したものから作製される。
【0014】
多能性細胞としては、生体より得られた多能性細胞(例えば、ES細胞、再プログラムから誘導して得られた多能性細胞(例えば、iPS細胞、MUSE細胞(Multilineage-differentiating stress-enduring (Muse) cells are a primary source of induced pluripotent stem cells in human fibroblasts. PNAS, 2011)、iMPC 細胞(induced multipotent progenitor cell;Mouse liver repopulation with hepatocytes generated from human fibroblasts. Nature, 2014))、それらの組み合わせなどを例示することができる。
【0015】
多能性幹細胞はヒト由来であるとよいが、ヒト以外の動物(例えば、実験動物、愛玩動物、使役動物、競走馬、闘犬などに利用される動物、具体的には、マウス、ラット、ウサギ、ブタ、イヌ、サル、ウシ、ウマ、ヒツジ、ニワトリ、サメ、エイ、ギンザメ、サケ、エビ、カニなど)由来であってもよい。
【0016】
本発明の器官芽は、多能性幹細胞から誘導された3種類の細胞(血管系細胞、間葉系細胞、及び組織又は臓器細胞)をin vitroで共培養することにより作製することができる。本発明は、血管系細胞、間葉系細胞、及び組織又は臓器細胞をin vitroで培養することを含む、器官芽の作製方法であって、前記血管系細胞、間葉系細胞、及び組織又は臓器細胞のそれぞれが多能性幹細胞から誘導されたものである、前記方法を提供する。
【0017】
本発明において「組織又は臓器細胞」とは、組織又は臓器を構成する機能細胞に分化した細胞、又は機能細胞へと分化できる未分化細胞を含む概念であり、未分化細胞には、幹細胞、前駆細胞、内胚葉細胞、器官芽細胞などが含まれる。未分化細胞は、機能細胞への分化運命が決定されているが、まだ機能細胞に分化していない細胞であることが好ましい。「未分化な組織又は臓器細胞」としては、例えば、腎臓、心臓、肺臓、脾臓、食道、胃、甲状腺、副甲状腺、胸腺、生殖腺、脳、脊髄などの器官に分化可能な細胞などであってもよく、脳、脊髄、副腎髄質、表皮、毛髪・爪・皮膚腺、感覚器、末梢神経、水晶体などの外胚葉性器官に分化可能な細胞、脾臓、腎臓、尿管、心臓、血液、生殖腺、副腎皮質、筋肉、骨格、真皮、結合組織、中皮などの中胚葉性器官に分化可能な細胞、肝臓、膵臓、消化管(咽頭、食道、胃、腸管)、肺、甲状腺、副甲状腺、尿路、胸腺などの内胚葉性器官に分化可能な細胞などを挙げることができる。ある細胞が外胚葉性器官、中胚葉性器官又は内胚葉性器官に分化可能な細胞であるかどうかは、マーカーとなるタンパク質の発現を調べることにより確認できる(マーカータンパク質のいずれか一つあるいは複数が発現していれば外胚葉性器官、中胚葉性器官又は内胚葉性器官に分化可能な細胞であると判断できる。)。例えば、肝臓に分化可能な細胞では、HHEX、SOX2、HNF4A、AFP、 ALBなどがマーカーになり、膵臓に分化可能な細胞では、PDX1、SOX17、SOX9などがマーカーになり、腸管に分化可能な細胞では、CDX2、SOX9などがマーカーになり、腎臓に分化可能な細胞では、SIX2、SALL1、心臓に分化可能な細胞では、NKX2-5 MYH6、ACTN2、MYL7、HPPA、血液に分化可能な細胞では、C-KIT、SCA1、TER119、HOXB4、脳や脊髄に分化可能な細胞では、HNK1、AP2、NESTINなどがマーカーになる。当業者間で使用されている用語のうち、hepatoblast、hepatic progenitor cells、pancreatoblast、hepatic precursor cells、pancreatoblast、 pancreatic progenitors、pancreatic progenitor cells、pancreatic precursor cells、endocrine precursors、intestinal progenitor cells、intestinal precursor cells、intermediate mesoderm、metanephric mesenchymal precursor cells、multipotent nephron progenitor、renal progenitor cell、cardiac mesoderm、cardiovascular progenitor cells、cardiac progenitor cells、(JR. Spence, et al. Nature.;470(7332):105-9.(2011)、Self, et al. EMBO J.; 25(21): 5214-5228.(2006)、J. Zhang, et al. Circulation Research.; 104: e30-e41(2009)、G. Lee, et al. Nature Biotechnology 25, 1468 - 1475 (2007))などは本発明における未分化な組織又は臓器細胞に含まれる。未分化細胞は、人工多能性幹細胞(iPS細胞)、胚性幹細胞(ES細胞)などの多能性幹細胞から公知の方法に従って作製することができる。例えば、肝臓に分化可能な細胞は、K.Si-Taiyeb, et al. Hepatology, 51 (1): 297- 305(2010)、T. Touboul, et al. Hepatology. 51(5):1754-65.(2010)に従って作製することができ、膵臓に分化可能な細胞は、D. Zhang, et al. Cell Res.;19(4):429-38.(2009)に従って作製することができ、腸管に分化可能な細胞は、J. Cai, et al. J Mol Cell Biol.;2(1):50-60(2010)、R. Spence, et al. Nature.;470(7332):105-9.(2011)に従って作製することができ、心臓に分化可能な細胞は、J. Zhang, et al. Circulation Research.; 104: e30-e41(2009) に従って作製することができ、脳や脊髄に分化可能な細胞では、G. Lee, et al. Nature Biotechnology 25, 1468 - 1475 (2007) に従って作製することができる。臓器や組織を構成する機能細胞としては、膵臓の内分泌細胞、膵臓の膵管上皮細胞、肝臓の肝細胞、腸管の上皮細胞、腎臓の尿細管上皮細胞、腎臓の糸球体上皮細胞、心臓の心筋細胞、血液のリンパ球や顆粒球、赤血球、脳の神経細胞やグリア細胞、脊髄の神経細胞やシュワン細胞などを例示できる。
【0018】
本発明の器官芽の作製において、組織又は臓器細胞は、多能性幹細胞から作製(分化誘導)されたものを用いる。
【0019】
多能性幹細胞、例えば、iPS細胞より肝臓内胚葉細胞(iPSC-HE)への分化誘導については、分化段階の比較をすることにより、Day7のTBX3 ADR1AB共陽性の細胞を用いることにより、肝臓機能が大幅に改善した(後述の実施例)。
本明細書において、細胞表面マーカーについて、「陽性」、「+」などの表現は、細胞表面マーカーがその細胞に発現していることが免疫染色などの方法により確認できる状態にあることをいい、また、「陰性」、「-」などの表現は、免疫染色などの方法により発現が確認できない状態であることをいう。
TBX3 ADR1AB共陽性の肝臓内胚葉細胞(iPSC-HE)は、後述の実施例に記載の方法により作製することができる(
図8AのProtocol 1-3及び
図13A)。
図8AのProtocol 1によれば、多能性幹細胞をROCK阻害剤、トランスフォーミング増殖因子βファミリーに属する因子、Wntファミリーに属する因子及びclass I histone脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤(入れなくても良い)の存在下で培養した(例えば1~2日間)後、トランスフォーミング増殖因子βファミリーに属する因子、Wntファミリーに属する因子及びclass I histone脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤(入れなくても良い)の存在下で培養する(例えば、1~2日間)。さらに、トランスフォーミング増殖因子βファミリーに属する因子及びWntファミリーに属する因子の存在下で培養する(例えば、0~3日間)工程を経て得られた細胞(Definitive Endoderm)をFGF及びTGFβスーパーファミリーに属する因子の存在下で培養して(例えば、1~4日間)TBX3陽性及びADRA1B陽性である細胞へ分化誘導することができる。
図8AのProtocol 2によれば、多能性幹細胞をROCK阻害剤の存在下で培養した(例えば1~2日間)後、βカテニン活性化剤、PI3K阻害剤及びトランスフォーミング増殖因子βファミリーに属する因子の存在下で培養する(例えば1~2日間)。さらに、トランスフォーミング増殖因子βファミリーに属する因子及びBMP阻害剤の存在下で培養する(例えば2~4日間)工程を経て得られた細胞(Definitive Endoderm)をFGF及びTGFβスーパーファミリーに属する因子の存在下で培養して(例えば1~4日間)、TBX3陽性及びADRA1B陽性である細胞を分化誘導することができる。
図8AのProtocol 3によれば、多能性幹細胞をROCK阻害剤の存在下で培養した(例えば1~2日間)後、トランスフォーミング増殖因子βファミリーに属する因子の存在下で培養する(例えば2~5日間)工程を経て得られた細胞(Definitive Endoderm)をFGF及びTGFβスーパーファミリーに属する因子の存在下で培養して(例えば1~4日間)、TBX3陽性及びADRA1B陽性である細胞へ分化誘導することができる。
図13Aのプロトコルによれば、多能性幹細胞をROCK阻害剤の存在下、トランスフォーミング増殖因子βファミリーに属する因子及びβカテニン活性化剤及びclass I histone脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤(入れなくても良い)の存在下で培養した(例えば1~2日間)後、トランスフォーミング増殖因子βファミリーに属する因子及びβカテニン活性化剤及びclass I histone脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤(入れなくても良い)の存在下で培養する(例えば1~2日間)。さらに、トランスフォーミング増殖因子βファミリーに属する因子の存在下で培養する(例えば0~4日間)工程を経て得られた細胞(Definitive Endoderm)をFGF及びTGFβスーパーファミリーに属する因子の存在下で培養して(例えば1~4日間)、TBX3陽性及びADRA1B陽性である細胞を分化誘導することができる。
上述した、多能性幹細胞からTBX3陽性及びADRA1B陽性である細胞を分化誘導するまでの各培養工程の前後には、追加の培養工程が入ってもよい。
【0020】
本発明において「血管系細胞」とは、血管を構成する細胞に分化した細胞、又はそのような細胞へと分化できる未分化細胞を含む概念であり、未分化細胞には、幹細胞、前駆細胞、中胚葉細胞などが含まれる。未分化細胞は、血管系細胞への分化運命が決定しているが、まだ血管系細胞に分化していない細胞であることが好ましい。血管系細胞としては、血管内皮細胞、血管内皮前駆細胞、心内膜前駆細胞、血管芽細胞などが例示されるが、血管内皮細胞が好ましい。ある細胞が血管内皮細胞であるかどうかは、マーカータンパク質、例えば、TIE2、VEGFR-1、VEGFR-2、VEGFR-3、CD41が発現しているかどうかを調べることにより確認できる(前記マーカータンパク質のいずれか一つあるいは複数が発現していれば血管内皮細胞であると判断できる。)。本発明において用いる血管内皮細胞は、分化したものであっても、未分化なものであってもよい。血管内皮細胞が、分化した細胞であるかどうかは、CD31、CD144により、確認することができる。当業者間で使用されている用語のうち、endothelial cells、umbilical vein endothelial cells、endothelial progenitor cells、endothelial precursor cells、vasculogenic progenitors、hemangioblast(HJ. joo, et al. Blood. 25;118(8):2094-104.(2011))などは本発明における血管内皮細胞に含まれる。
【0021】
本発明の器官芽の作製において、血管系細胞は、多能性幹細胞から作製(分化誘導)されたものを用いる。
【0022】
多能性幹細胞、例えば、iPS細胞より血管内皮細胞(iPSC-EC)への分化誘導は、Rhoキナーゼ存在下で分散播種後、培地1(DMEM/F12培地+1-2%B27+1%Glutamax, 25ng/mL BMP4, 8uM CHIR 99021)で3日間培養し、培地2(StemPro34-SFM+200ng/mL VEGF + 2uM Forskolin)にて3-4日間培養したものを用いるとよい。また、培地3(StemPro34-SFM+)50ng/mL VEGF)にて7日間まで培養しても良い。作製した血管内皮細胞(iPSC-EC)は、血管内皮のマーカーであるCD31(PECAM1)発現は免疫染色法、FACSにより90%以上の細胞で発現するものを用いるとよい。遺伝子発現解析ではPECAM1、CDH5、KDR、CD34などの血管内皮マーカーの発現が高く見られ、分化誘導前のiPS細胞と比較して10倍から100倍以上の発現が見られる(後述の実施例)。血管内皮細胞のマーカーであるCD31に加えて、CD144、CD309のタンパクの発現が免疫染色法により確認できる(後述の実施例)。
本発明は、多能性幹細胞をROCK阻害剤、βカテニン活性化剤及びTGFβスーパーファミリーに属する因子の存在下で培養した(例えば1~2日間)後、βカテニン活性化剤及びTGFβスーパーファミリーに属する因子の存在下で培養し(例えば2~3日間)、さらに、血管内皮細胞増殖因子受容体(VEGFR)活性化剤及びアデニル酸シクラーゼ活性化剤の存在下で培養する(例えば4~8日間)ことを含む、CD31陽性及びCD144陽性である細胞を作製する方法を提供する(
図11AのPr1)。CD31陽性及びCD144陽性である細胞は、iPSC-ECでありうる。CD31陽性及びCD144陽性である細胞は、器官芽の作製に用いることができる。
本発明は、多能性幹細胞をROCK阻害剤、血管内皮細胞増殖因子受容体(VEGFR)活性化剤、トランスフォーミング増殖因子βファミリーに属する因子、βカテニン活性化剤及びTGFβスーパーファミリーに属する因子の存在下で培養した(例えば1~2日間)後、血管内皮細胞増殖因子受容体(VEGFR)活性化剤、トランスフォーミング増殖因子βファミリーに属する因子、βカテニン活性化剤及びTGFβスーパーファミリーに属する因子の存在下で培養し(例えば2~4日間)、さらに、血管内皮細胞増殖因子受容体(VEGFR)活性化剤及びTGF-βのI型受容体の阻害剤の存在下で培養する(例えば4~7日間)ことを含む、CD31陽性及びCD144陽性である細胞を作製する方法も提供する(
図11AのPr2)。CD31陽性及びCD144陽性である細胞は、iPSC-ECでありうる。CD31陽性及びCD144陽性である細胞は、器官芽の作製に用いることができる。
本発明は、多能性幹細胞をROCK阻害剤、トランスフォーミング増殖因子βファミリーに属する因子の存在下で培養した(例えば1~2日間)後、トランスフォーミング増殖因子βファミリーに属する因子の存在下で培養し(例えば1~3日間)、さらに、FGF及びTGFβスーパーファミリーに属する因子の存在下で培養し(例えば1~3日間)、その後、血管内皮細胞増殖因子受容体(VEGFR)活性化剤の存在下で培養する(例えば2~7日間)ことを含む、CD31陽性及びCD144陽性である細胞を作製する方法も提供する(
図11AのPr3)。CD31陽性及びCD144陽性である細胞は、iPSC-ECでありうる。CD31陽性及びCD144陽性である細胞は、器官芽の作製に用いることができる。
本発明は、多能性幹細胞をROCK阻害剤、TGFβスーパーファミリーに属する因子の存在下で培養した(例えば1~2日間)後、TGFβスーパーファミリーに属する因子の存在下で培養し(例えば2~4日間)、さらに、TGFβスーパーファミリーに属する因子、血管内皮細胞増殖因子受容体(VEGFR)活性化剤及びFGFの存在下で培養する(例えば2~7日間)ことを含む、CD31陽性及びCD144陽性である細胞を作製する方法も提供する(
図11AのPr4)。CD31陽性及びCD144陽性である細胞は、iPSC-ECでありうる。CD31陽性及びCD144陽性である細胞は、器官芽の作製に用いることができる。
上述した、多能性幹細胞からCD31陽性及びCD144陽性である細胞を分化誘導するまでの各培養工程の前後には、追加の培養工程が入ってもよい。
さらに、CD31陽性及びCD144陽性である細胞を再播種し、拡張培地で培養することで、CD31及び/又はCD144の陽性率を上げることも可能である(後述の実施例3)。拡張培地は一定の期間経過後に交換する際に種類を変更してもよい。再播種時の拡張培地としては、VEGF-Aを補充したStemPro-34SFMが好適であり、これと交換する培地としては、Miracell (登録商標) EC(タカラバイオ)が好適であるが、これらの培地に限定されるわけではない。再播種時に1日間 ROCK阻害剤を添加するとよい。
本発明の器官芽の作製において、血管系細胞は、CD31陽性であり、CD144陽性であるとよい。また、血管系細胞は、PECAM1、CDH5、KDR及びCD34からなる群より選択される少なくとも1つの遺伝子の発現が分化誘導前の多能性幹細胞より上昇しているとよい。
【0023】
本発明において「間葉系細胞」とは、主として中胚葉に由来する結合織に存在し、組織で機能する細胞の支持構造を形成する結合織細胞に分化した細胞、又はそのような細胞へと分化できる未分化細胞を含む概念であり、未分化細胞には、幹細胞、前駆細胞、中胚葉細胞などが含まれる。未分化細胞は、間葉系細胞への分化運命が決定しているが、まだ間葉系細胞に分化していない細胞であることが好ましい。ある細胞が未分化間葉系細胞であるかどうかは、マーカータンパク質、例えば、Stro-1、CD29、CD44、CD73、CD90、CD105、CD133、CD271、Nestinが発現しているかどうかを調べることにより確認できる(前記マーカータンパク質のいずれか一つあるいは複数が発現していれば未分化間葉系細胞であると判断できる。)。また、前項のマーカーのいずれも発現していない間葉系細胞は分化間葉系細胞と判断できる。当業者間で使用されている用語のうち、Septum Mesenchyme, Septum Transversum Mesenchyme, mesenchymal stem cells、mesenchymal progenitor cells、mesenchymal cells(R. Peters, et al. PLoS One. 30;5(12):e15689.(2010))などは本発明における間葉系細胞に含まれる。
【0024】
本発明の器官芽の作製において、間葉系細胞は、多能性幹細胞から作製(分化誘導)されたものを用いる。
【0025】
多能性幹細胞、例えば、iPS細胞より間葉系細胞(iPSC-MC)への分化誘導は、Rhoキナーゼ存在下で分散播種後、培地1(DMEM/F12培地+ 1-2%B27 + 1% Glutamax + 8uM CHIR 99021 + BMP4 25ng/ml)にて3日間培養し、培地2(DMEM/F12培地+ 1-2%B27 + 1% Glutamax + 10ng/ml PDGFBB + 2ng/ml Activin A)にて2日間培養するとよい。更に培地3(DMEM/F12培地+ 1-2%B27 + 1% Glutamax + 10ng/ml bFGF + 12ng/ml BMP4)にて2日間培養したものを用いるとよい。あるいは更にMSCGMなど間葉系細胞用の培地で維持培養したものを用いても良い。作製した間葉系細胞(iPSC-MC)は、CD166陽性であり血管内皮のマーカーであるCD31(PECAM1)を発現しない細胞でありうる。
本発明は、多能性幹細胞をROCK阻害剤、βカテニン活性化剤及びTGFβスーパーファミリーに属する因子の存在下で培養した(例えば1~2日間)後、βカテニン活性化剤及びTGFβスーパーファミリーに属する因子の存在下で培養し(例えば3~5日間)、PDGF受容体活性化剤及びトランスフォーミング増殖因子βファミリーに属する因子の存在下で培養し(例えば1~4日間)、さらに、FGF及びトランスフォーミング増殖因子βファミリーに属する因子の存在下で培養し(例えば2~6日間)、その後、間葉系細胞用培地で維持培養する(例えば3~20日間)ことを含む、CD166陽性及びCD31陰性である細胞を作製する方法も提供する。多能性幹細胞からCD166陽性及びCD31陰性である細胞を分化誘導するまでの各培養工程の前後には、追加の培養工程が入ってもよい。CD166陽性及びCD31陰性である細胞は、間葉系細胞(iPSC-MC)でありうる。CD166陽性及びCD31陰性である細胞は、器官芽の作製に用いることができる。
間葉系細胞用培地としては、MSCGMなどを例示することができるが、これに限定されるわけではない。
本発明の器官芽の作製において、間葉系細胞は、中隔膜間葉(STM)細胞であってもよい。STM細胞は、LHX2陽性であり、WT1陽性であるうる。STM細胞は、FOXF1、HLX1、COL4A及びALCAMの転写が活性化しており、LHX2陽性、WT1陽性及びMIIA陽性でありうる。
本発明は、多能性幹細胞をROCK阻害剤、βカテニン活性化剤及びTGFβスーパーファミリーに属する因子の存在下で培養した(例えば1~2日間)後、βカテニン活性化剤及びTGFβスーパーファミリーに属する因子の存在下で培養し(例えば3~5日間)、PDGF受容体活性化剤及びトランスフォーミング増殖因子βファミリーに属する因子の存在下で培養し(例えば1~4日間)、さらに、FGF及びトランスフォーミング増殖因子βファミリーに属する因子の存在下で培養する(例えば2~6日間)ことを含む、LHX2陽性及びWT1陽性である細胞を作製する方法も提供する。多能性幹細胞からLHX2陽性及びWT1陽性である細胞を分化誘導するまでの各培養工程の前後には、追加の培養工程が入ってもよい。LHX2陽性及びWT1陽性である細胞は、中隔膜間葉(STM)細胞でありうる。LHX2陽性及びWT1陽性である細胞は、器官芽の作製に用いることができる。
【0026】
上述の多能性幹細胞から各種細胞(臓器細胞、血管系細胞、間葉系細胞)への分化誘導法において、使用可能な因子について説明する。
ROCK阻害剤としては、Y-27632、GSK429286A、SR3677、Ripasudil(K-115)、Fasudil、Thiazovivinなどを例示することができ、このうち、Y-27632が好ましい。
トランスフォーミング増殖因子βファミリーに属する因子としては、ActivinA、Nodalなどを例示することができ、このうち、ActivinAが好ましい。
Wntファミリーに属する因子としては、Wnt3a、Wnt3a-AFM、CHIR99021、R-Spondin-1、BIO(6-bromoindirubin-3′-oxime)などを例示することができ、このうち、Wnt3aが好ましい。Wntファミリーに属する因子はβカテニンを活性化することができるものであるとよい。
class I histone脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤としては、酪酸塩(例えば、Sodium butyrate)、Valproic Acid、Panobinosta(LBH589)、Apicidin、BML-210、Depudecin、HC Toxin、M344、Oxamflatin、Scriptaid、Splitomicin、Suberoyl bis-hydroxamic acid、Trichostatin A、Vorinostat (SAHA, MK0683)、Entinostat (MS-275)、Panobinostat (LBH589)、Mocetinostat (MGCD0103)、Biphenyl-4-sulfonyl chloride、ACY-738、Belinostat (PXD101)、Romidepsin (FK228, Depsipeptide)、MC1568、Tubastatin A、Givinostat (ITF2357)、Dacinostat (LAQ824)、CUDC-101、Quisinostat (JNJ-26481585)、Pracinostat (SB939)、PCI-34051、Droxinostat、Abexinostat (PCI-24781)、RGFP966、AR-42、Rocilinostat (ACY-1215)、Tacedinaline (CI994)、CUDC-907、Curcumin、Tubacin、RG2833 (RGFP109)、Resminostat、Divalproex Sodium、Sodium Phenylbutyrate、Tubastatin A、TMP269、Santacruzamate A (CAY10683)、TMP195、Tasquinimod、BRD73954、Citarinostat (ACY-241)、HPOB、LMK-235、Nexturastat A、Tucidinostat (Chidamide)、(-)-Parthenolide、CAY10603、4SC-202、BG45、ITSA-1 (ITSA1)などを例示することができ、このうち、Sodium butyrateが好ましい。
FGF(線維芽細胞増殖因子)としては、塩基性FGF(bFGF、FGF2と記すこともある)、FGF4、FGFC(Chimeric Fibroblast Growth Factor)などを例示することができ、このうち、塩基性FGFが好ましい。
TGFβスーパーファミリーに属する因子としては、BMP4、BMP2、BMPなどを例示することができ、このうち、BMP4が好ましい。
βカテニン活性化剤としては、CHIR99021、Wnt3a、Wnt3a-AFM、R-Spondin-1、BIO(6-bromoindirubin-3′-oxime)などを例示することができ、このうち、CHIR99021が好ましい。CHIR99021は、iPSCからDEへの分化誘導においてWnt3aの代替品となりうる(後述の実施例2、
図13AのCHIR d3)。
PI3K阻害剤としては、PI-103、ZSTK474、NVP-BEZ235、LY294002、Wortmanninなどを例示することができ、このうち、PI-103が好ましい。PI3K阻害剤は、PI3K、Akt、mTOR阻害剤であるとよい。
BMP阻害剤としては、LDN-193189、Galunisertib (LY2157299)、LY2109761、SB525334、SB505124、Pirfenidone、GW788388、LY364947、RepSox、K02288、SD-208、LDN-214117、SIS3 HCl、Vactosertib (TEW-7197)、DMH1、LDN-212854、ML347、Kartogenin、Hesperetin、Alantolactoneなどを例示することができ、このうち、LDN-193189が好ましい。BMP阻害剤は、ALK2およびALK3阻害剤であるとよい。
血管内皮細胞増殖因子受容体(VEGFR)活性化剤としては、VEGF、VEGF-A、VEGF-B、VEGF-C、VEGF-D、VEGF-E、PlGFなどを例示することができ、このうち、VEGFが好ましい。
アデニル酸シクラーゼ活性化剤としては、Forskolin、HJC0350、8-Br-cAMP、Adenosine 3′,5′-cyclic monophosphate (cAMP)、Dibutyryl-cAMP (Bucladesine)などを例示することができ、このうち、Forskolinが好ましい。アデニル酸シクラーゼ活性化剤は、細胞内cAMP濃度を上昇させるものであるとよい。
TGF-βのI型受容体の阻害剤としては、SB431542、LDN-193189、Galunisertib (LY2157299)、LY2109761、SB525334、SB505124、GW788388、LY364947、RepSox、LDN-193189、K02288、LDN-214117、SD-208、Vactosertib(TEW-7197)、ML347、LDN-212854、DMH1、Pirfenidone、Alantolactone、SIS3、Hesperetinなどを例示することができ、このうち、SB431542が好ましい。TGF-βのI型受容体の阻害剤は、ALK4、ALK5、ALK7阻害剤であり、アクチビン阻害剤であるとよい。
PDGF受容体活性化剤としては、PDGFBB、PDGF-AA、PDGF-AB、PDGF-CC、PDGF-DDなどを例示することができ、このうち、PDGFBBが好ましい。
【0027】
共培養における3種類の細胞の培養比は器官芽が形成できる範囲内であれば特に限定されないが、好適な細胞の数比は、組織又は臓器細胞:血管内皮細胞:間葉系細胞=10:10~5:2~1である。
【0028】
培養の際に使用する培地は、器官芽が形成されるものであればどのようなものでもよいが、血管系細胞(例えば、血管内皮細胞)培養用の培地、組織又は臓器細胞培養用の培地、前記2つの培地を混合したものなどを使用することが好ましい。血管内皮細胞培養用の培地はどのようなものを使用してもよいが、hEGF(組換えヒト上皮細胞成長因子)、VEGF(血管内皮細胞成長因子)、ヒドロコルチゾン、bFGF、アスコルビン酸、IGF1、FBS、Antibiotics(例えば、ゲンタマイシン、アンフォテリシンBなど)、Heparin、L-Glutamine、Phenolred、BBEの少なくとも1種を含むものを使用するのが好ましい。血管内皮細胞培養用の培地としては、EGM-2 BulletKit(Lonza社製)、EGM BulletKit(Lonza社製)、VascuLife EnGS Comp Kit(LCT社製)、Human Endothelial-SFM Basal Growth Medium(Invitrogen社製)、ヒト微小血管内皮細胞増殖培地(TOYOBO社製)などを用いることができる。組織又は臓器細胞培養用の培地はどのようなものを使用してもよいが、臓器細胞が肝細胞である場合、ascorbic acid、BSA- FAF、insulin、hydrocortisone、GA-1000の少なくとも1種を含むものを使用するのが好ましい。肝細胞培養用の培地としては、HCM BulletKit(Lonza社製)よりhEGF(組換えヒト上皮細胞成長因子)を除いたもの、RPMI1640(Sigma-Aldrich社製)に1% B27 Supplements (GIBCO社製) と 10ng/mL hHGF (Sigma-Aldrich社製)などを用いることができる。ヒト肝芽の形成に関しては、GM BulletKit(Lonza社製)とHCM BulletKit(Lonza社製)よりhEGF(組換えヒト上皮細胞成長因子)を除いたものを1:1で混ぜたものに、Dexamethasone、Oncostatin M、HGFを添加すると、肝芽の成熟に効果があることが判明している。
【0029】
細胞の培養にあたっては、足場材料を用いる必要はないが、3種類の細胞の混合物を間葉系細胞が収縮可能なゲル状支持体上で培養するとよい。
【0030】
間葉系細胞の収縮は、(顕微鏡、ないし肉眼で)形態学的に立体組織形成を認めることや、薬さじなどによる回収に伴い組織の形状が保たれる強度を有することを示すなど(Takebe et al. Nature 499 (7459), 481-484、2013))のようにして確認することができる。
【0031】
支持体は、適正な硬さ(例えば、ヤング率200kPa以下(マトリゲルをコートした形状が平坦なゲルの場合など)であるが、支持体の適正な硬さはコーティングと形状によって変化しうる。)を有するゲル状基材であるとよく、そのような基材としては、ハイドロゲル(例えば、アクリルアミドゲル、ゼラチン、マトリゲルなど)などを例示することができるが、それらに限定されることはない。なお、目的とする集合体の形・サイズ・量に応じて、支持体の硬さは均一である必然性はなく、硬さに空間的・時間的な勾配を設定することやパターン化することが可能である。支持体の硬さが均一である場合には、支持体の硬さは、好ましくは、100kPa以下、より好ましくは1~50kPaである。ゲル状支持体は、平面であってもよいし、あるいは、ゲル状支持体の培養する側の断面がU又はV字の形状であるとよい。ゲル状支持体の培養する側の断面がU又はV字の形状であることにより、支持体の培養面に細胞が集まるようになり、より少ない数の細胞及び/又は組織で細胞集合体が形成されるので有利である。また、支持体に、化学的・物理的な修飾を施してもよい。修飾物質としては、マトリゲル、ラミニン、エンタクチン、コラーゲン、フィブロネクチン、ビトロネクチンなどを例示することができる。
【0032】
ゲル状培養支持体の硬さに空間的な勾配を設定した一例は、中心部の硬さが周辺部の硬さより固いゲル状培養支持体である。中心部の硬さは、200kPa以下が適正であり、周辺部の硬さは、中心部より柔らかければよいが、支持体の中心部と周辺部の適正な硬さはコーティングと形状によって変化しうる。ゲル状培養支持体の硬さに空間的な勾配を設定した別の一例は、周辺部の硬さが中心部の硬さより固いゲル状培養支持体である。
【0033】
パターン化したゲル状培養支持体の一例は、中心部の硬さが周辺部の硬さより固いというパターンを1個以上有するゲル状培養支持体である。中心部の硬さは、200kPa以下が適正であり、周辺部の硬さは、中心部より柔らかければよいが、支持体の中心部と周辺部の適正な硬さはコーティングと形状によって変化しうる。パターン化したゲル状培養支持体の別の一例は、周辺部の硬さが中心部の硬さより固いというパターンを1個以上有するゲル状培養支持体である。周辺部の硬さは、200kPa以下が適正であり、中心部の硬さは、周辺部より柔らかければよいが、支持体の中心部と周辺部の適正な硬さはコーティングと形状によって変化しうる。
【0034】
培養時の温度は特に限定されないが、30~40℃とするのが好ましく、37℃とするのが更に好ましい。
【0035】
培養期間は特に限定されないが、3~10日とするのが好ましく、6日とするのが更に好ましい。
【0036】
本発明において、器官芽の作製に用いる3種類の細胞種をすべて多能性幹細胞から作製することで、3種類の細胞種の分化段階を同期させることができ、それらの細胞から器官芽を作製することで、器官芽の機能の改善を図ることができる。また、3種類の細胞種の品質評価あるいは製造にかかるコスト及び手間が削減可能となる。
【0037】
本発明の器官芽を非ヒト動物に移植し、その非ヒト動物内で成熟させることにより、組織又は臓器を作製することができる。すなわち、本発明は、上記の器官芽を非ヒト動物に移植し、組織又は臓器に分化させることを含む、組織又は臓器の作製方法も提供する。使用する非ヒト動物としては、実験動物、愛玩動物、使役動物、競走馬、闘犬などに利用される動物、具体的には、マウス、ラット、ウサギ、ブタ、イヌ、サル、ウシ、ウマ、ヒツジ、ニワトリ、サメ、エイ、ギンザメ、サケ、エビ、カニなどを挙げることができる。また、使用する非ヒト動物は、免疫拒絶反応を回避するために、免疫不全動物であることが好ましい。
【0038】
従って、本発明は、上記の器官芽をヒト又は非ヒト動物に移植することを含む、器官芽の移植方法も提供する。器官芽の移植部位は、移植可能であればどの部位であってもよいが、頭蓋内、腸間膜、肝臓、脾臓、腎臓、腎被膜下、門脈上などを例示することができる。頭蓋内に移植する場合には、in vitroで作製した1~3個程度の5mm大の器官芽を移植するとよく、腸間膜に移植する場合には、in vitroで作製した1~6個程度の5mm大の器官芽を移植するとよく、門脈上に移植する場合には、in vitroで作製した1~20個程度の5mm大の器官芽を移植するとよい。腎皮膜に移植する場合には、in vitroで作製した1~5個程度の5mm大の器官芽を移植するとよく、肝臓・脾臓・腎臓・に移植する場合には、in vitroで作製した100~200個程度の100μm大の器官芽を移植するとよい。
【0039】
以上のようにして作製した組織及び臓器は、創薬スクリーニングや再生医療などに使用することができる。
【0040】
従って、本発明は、上記の器官芽をヒト又は非ヒト動物に移植し、組織又は臓器に分化させることを含む、組織又は臓器の再生又は機能回復方法を提供する。非ヒト動物としては、実験動物、愛玩動物、使役動物、競走馬、闘犬などに利用される動物、具体的には、マウス、ラット、ウサギ、ブタ、イヌ、サル、ウシ、ウマ、ヒツジ、ニワトリ、サメ、エイ、ギンザメ、サケ、エビ、カニなどを挙げることができる。
【0041】
本発明の器官芽は、製剤化され、再生医療用組成物という形態で使用されうる。本発明の組成物を生体内に移植し、組織又は臓器を作製することができる。また、本発明の組成物を生体内に移植し、組織又は臓器の再生又は機能回復を行うことができる。
【0042】
本発明の組成物が生体に移植された後、器官芽は血管網を有する組織又は臓器に分化しうる。その血管網には血管灌流が生じうる。血管網に血管灌流が生じることにより、成体組織と同等若しくはそれに近い高度に秩序だった組織構造を有する組織・臓器を創出することが可能となると考えられる。
【0043】
本発明の組成物には、FGF2、HGF、VEGFなどの組織血管化促進剤、移植に伴う止血用ゼラチンスポンジ(商品名:スポンゼル、アステラス株式会社)、および、移植組織の固定に用いるボルヒール(帝人ファーマ株式会社)・ベリプラスト(CSLベーリング株式会社)・タココンブ(CSLベーリング株式会社)などの組織接着剤などを添加してもよい。
【0044】
また、本発明は、上記の器官芽を非ヒト動物に移植し、組織又は臓器に分化させることを含む、非ヒトキメラ動物の作製方法も提供する。器官芽を移植した非ヒト動物(例えば、マウス)は、器官芽の作製に用いた組織又は臓器細胞の由来生物種(例えば、ヒト)の生理機能を模倣しうる。
【0045】
さらに、本発明は、上記の器官芽、組織及び臓器、及び非ヒトキメラ動物からなる群より選択される少なくとも一つを用いて、薬剤を評価する方法も提供する。薬剤の評価としては、例えば、薬物代謝の評価(例えば、薬物代謝プロファイルの予測)、薬効評価(例えば、医薬品として有効な薬剤をスクリーニングすることなど)、毒性評価、薬物相互作用評価などを挙げることができる。
【0046】
薬物代謝の評価は、上記の方法によって作製された器官芽、組織及び臓器、及び非ヒトキメラ動物からなる群より選択される少なくとも一つにおいて、医薬品の候補化合物を投与したのちの生物試料を採取・解析することにより、ヒト型の薬物代謝プロファイルを取得することができる。これにより従来の技術では達成が極めて難しかったヒトでの医薬品の分布・代謝・排泄過程を予測することが可能となり、安全で効果のある医薬品の開発を飛躍的に加速できるものと期待される。
【0047】
医薬品として有効な薬剤のスクリーニングは、疾病患者より樹立した細胞から、上記の方法によって作製した器官芽、組織及び臓器、及び非ヒトキメラ動物からなる群より選択される少なくとも一つに、新規の医薬品候補化合物を投与することにより解析することが可能となる。これにより、従来のin vitro試験で不十分であった、実際ヒトに投与した際の薬効の予測精度を大幅に改善できる可能性が期待される。
【0048】
毒性評価は、上記の方法によって作製された器官芽、組織及び臓器、及び非ヒトキメラ動物からなる群より選択される少なくとも一つに、被験物質を投与したのちに、組織障害マーカーなどを測定することにより、障害予測の精度向上が可能となる。
【0049】
薬物相互作用評価は、上記の方法によって作製された器官芽、組織及び臓器、及び非ヒトキメラ動物からなる群より選択される少なくとも一つを用いて、複数の薬剤を投与したのちに、その後の各薬剤の分布・代謝・排泄過程などの薬物動態や毒性評価、薬効評価を行うことにより行うことができる。
【0050】
また、本発明の方法により作製した組織及び臓器から組織幹細胞を創出することも可能であり、本発明はヒト組織細胞や臓器細胞の大量創出の細胞操作技術への応用が可能である。
【実施例0051】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。
〔実施例1〕
ヒト多能性幹細胞からの肝芽の大量製造手法の確立
【0052】
要約
オルガノイド移植療法は、革新的な疾患治療パラダイムとなる可能性があるが、主に再現性およびスケーラビリティの確保が最重要課題であった。本研究では、ヒト人工多能性幹細胞(iPSC)から器官芽の大量生産プラットフォームを構築することにより、これらの課題解決を試みた。まず、大規模な「逆」スクリーニング実験を行うことにより、再現性高く肝芽を生成するための効果的な前駆細胞集団(肝内胚葉、内皮、および横中隔間充織)を同定した。さらに、我々は、>108スケールで均質で小型化された肝芽を量産するためのオムニウェルアレイ培養プラットフォームを開発することにより、移植治療に求められるレベルの容量を達成した。すべてiPSCから生成され、血管が形成され、かつ機能的な肝臓組織は、段階的な発生上の前駆細胞の相互作用により増強されるその後の肝臓の機能化を有意に改善した。また、この肝臓組織は、移植により、急性肝不全に対する機能的救済を可能にした。本研究は、多細胞からなる肝芽オルガノイド供給のための製造プラットフォームを実現するものであり、将来的に肝疾患の治療のための臨床および創薬応用を大幅に加速するものと期待される。
【0053】
イントロダクション
「オルガノイド技術」は、難治性疾患の治療、並びにヒトの発生および疾患モデルに対する最近進化しているアプローチである(Huch and Koo, 2015、Lancaster and Knoblich, 2014、Sasai, 2013)。自己凝縮原理に基づいて、我々は最近、種々のマウス疾患モデルに対して治療可能性を有する肝芽、膵芽、および腎臓芽などの多細胞臓器芽を発達させることにより、オルガノイドにさらなる複雑性を構築することに成功した(Takebe et al., 2015、Takebe et al., 2013、Takebe et al., 2014)。それにもかかわらず、ヒトにおける移植および薬物試験のために十分に大きい安定したオルガノイドを生成することができるようにするため、オルガノイドに基づくアプローチのより広い応用は、スケーラビリティおよび再現性の課題にさらされている(Ding and Cowan, 2013)。将来的に臓器芽をベースにしたアプローチの治療応用を促進するために、我々は、フィーダーフリーのヒトiPSCから血管形成されたヒト肝芽(LB)を完全に生成するための包括的でスケーラブルで再現性のある方法を確立し、移植適用のためのそれらの機能的能力を検証することを目的とした。
【0054】
結果
最初に、肝芽(LB)の例を用いてスケーラブルな3次元オルガノイド培養プラットフォームを確立することを目指した。全体的な戦略は
図1A、B(Figure 1A, B)に要約されている。簡潔には、我々は、樹脂膜に正確に鋳型構造を転写することによって微細構造の膜を開発するコンビナトリアルケミストリー技術によってU字底型マイクロウェルプレートを開発した。我々のマイクロウェルアレイは非常に高いアスペクト比を有する(
図1C(Figure 1C)に示すように、各窪みの開口径は約500μmであり、深さは400μmであり、窪みは30μm間隔で密接かつ三角形状に配置された。)。このようなアスペクト比は、従来の成形機では広く転写することが困難である。このため、我々は、内部で最適化した成形機を使用することによって転写精度を改善した(方法を参照)。その結果、プロトタイピングは、24ウェルおよび6ウェルフォーマット、すなわちElplasia
TM RB(丸底)(24ウェルで600スポット/ウェル;6ウェルで3,000スポット/ウェル)で成功したことが示された。その後、我々は、ヒトiPSC由来肝内胚葉(iPSCHE)、ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)、および骨髄間葉系幹細胞(BMSC)を以前に記述したように(Takebe et al., 2013)混合することにより、このプレートを肝芽培養に適応させた。コーティング材料(
図5(Fig. S1))、窪みの形状(データは示されていない)、混合比(
図6A-C(Fig. S2 A-C))および細胞数(
図6D-F(Fig. S2 D-F))の最適化により、このマイクロウェルアレイに基づくアプローチを用いて小型肝芽を効果的に形成することができる(サプリメンタリーテキスト)。
【0055】
この戦略を集中的にスケールアップするために、我々は、1ウェル当たり20,000個以上のマイクロスポットを含むオムニ(1)ウェルアレイプレートを考案した(
図7A(Fig. S3A))。オムニウェルアレイプレートのフレーム(長さ、幅、高さ)の外寸は、一般的なマイクロプレートと同様にSBS規格を満たしている。プレートは2つのモジュールで構成された。即ち、ボトムレスプレートフレームとマイクロウェル転写フィルムである。これらは、レーザー溶接で組み立てられた(
図1A(Figure 1A)、左)。中央部分の有意な窪みが異常なオルガノイド置換とその後の融合を引き起こしたため、24/6ウェルフォーマットで使用されたマイクロウェル転写フィルムの適用は、オムニウェルフォーマットには有効ではなかった(
図1B(Figure 1B)、中央)。このため、我々は、以下の2つの戦略に従って平坦性を改善しようとした:1.フィルムの残留応力を低減する、2.フィルムの剛性を高める。まず、我々は、成形温度やプレス時間などの成形条件の最適化とレーザー溶着時のフィルムのたわみの改善により、パターンを転写する成形圧力を最小限に抑え、鋳型転写の限界を抑えた。次に、フィルムを厚くすることによって剛性を高めた(
図1B(Figure 1B)、キャプション)。0.8mmから1.4mmの範囲内の様々な厚さの条件の中で、1.1mmの膜厚が顕微鏡観察を妨げることなく許容可能な剛性を満足することがわかった。3D表面形状測定装置は、改善された条件下で最小の高さ変動を示し、その後のより大きなスケールでのLB培養を可能にした(
図1B(Figure 1B)、右)。重要なことに、生成されたLBの99%以上が、簡単な手動ピペッティングによって首尾よく収集された(
図5B(Fig. S1B))。一度三種類の前駆細胞をオムニウェルプレートに播種すると、20,000を超える内皮化LBが自己組織化されたのに対し、単一iPSC-HE培養は自己組織化しなかった(
図1C、D(Figure 1C, D))。qRT-PCRによる品質確認分析は、オムニウェルでのLBが24ウェル/ 6ウェルフォーマットのLBと同等の特性を有することを示した(
図7B(Fig. S3B))。まとめると、我々は大規模なオルガノイド生産のためのオムニウェルアレイプレートのプロトタイプデザインを開発した。
【0056】
次に、ヒトにおける肝芽形成のための最適な内胚葉細胞集団の表現型を定義しようと試みた。そこで、得られたオルガノイドの質に基づいて複数の内胚葉段階を比較することにより、大規模な「逆」スクリーニング実験を行った。最も再現性のある公表された成熟肝細胞分化プロトコール(
図8A-F(Fig. S4A-F)およびサプリメンタルテキスト)(Kajiwaraet al., 2012、 Lohet al., 2014、 Si-Tayeb et al., 2010)の選択後、我々はさらに0日目から20日目の細胞から肝芽培養を開始することにより、iPSC-LB機能の最良の内胚葉段階を正確に決定しようとした(
図9(Fig. S5))および
図2A、B(Figure 2A, B))。最初に、複数の段階(0~20日)から生成された回収LBの形態学的変化の蛍光に基づく定量的評価により、8日目の細胞が100~200μmのサイズで高度に均質なLBを維持することができる唯一の集団であることが明らかになった(
図1E、F(Figure 1E, F))。その後の肝マーカー遺伝子のqRT-PCR(
図9A(Fig. S5A))およびタンパク質生産のELISA(
図2A(Figure 2A))は、8日目の細胞由来iPSC-LBが0日目(iPSC)、5日目、6日目、7日目、10日目および20日目の由来の肝芽培養よりも高品質であることを示した。トランスクリプトーム分析は、LBの発現特性が、2-D分化細胞よりもヒト成人肝臓組織に類似していることを示した(
図9B(Fig. S5B))。一貫して、全体的な遺伝子発現の主成分分析は、PC1軸が、他のステージと比較して、8日目の肝芽のプロファイルがヒト成人の肝臓組織サンプルのプロファイルに最も近いことを示した(
図2B(Figure 2B))。興味深いことに、8日目の肝芽では血管新生の特徴となる遺伝子セットにおける顕著な強化が観察されたが、7日目の芽では見られなかった(
図9C(Figure S5C))。このことは、インビボでの好適な血管新生の結果に役立つ可能性がある。
【0057】
これらの「逆に」同定された8日目の集団をさらに特徴づけるために、我々は、SOX17 / HNF4A共免疫染色、qRT-PCR、FACS、およびCerberus1 ELISAに基づくプロファイリングを行い、8日目の細胞が胚体内胚葉から肝内胚葉細胞への移行期の集団を表すことを同定した(
図8G(Fig. S4G)および
図2C(Figure 2C))。ここでは、この細胞を移行性肝内胚葉細胞(tHE)と定義することにする。8日目の細胞はDEマーカーに対して陰性であるが、HNF4AのようなHEマーカーを発現しないので(
図2C(Figure 2C))、我々は、6日目と8日目の集団間の比較トランスクリプトーム解析で定義可能なマーカーを同定することによって細胞を定義しようと試みた。ボルケーノプロット解析(iPSC-DEとiPSC-tHEとの比較)から、トランスクリプトームダイナミクスに基づいてTボックス転写因子3(TBX3)およびアドレナリン受容体アルファ1B(ADRA1B)が同定された(
図2D(Figure 2D)および
図10(Fig. S6))。これは、免疫染色およびqRT-PCRにより確認された(
図2E(Figure 2E)、および
図3A(Figure 3A))。まとめると、この逆に同定された集団の発生上の関連性は依然として分かっていないが、我々は、TBX3およびADRA1B共陽性tHEが肝芽生成のための最も有効な段階であると結論した。
【0058】
このようなLBベースのアプローチの将来的な応用に対して、1つの大きな障害は、出生後組織由来の間質前駆細胞(すなわちHUVECおよびBMSC)の使用に関連する。そこで、我々は、ヒトiPSCから2つの肝芽間質前駆細胞を誘導することを目指した。肝臓の臓器形成初期に、肝内胚葉細胞は、LIM Homeobox 2(LHX2)およびWilms tumor 1(WT1)陽性中隔膜間葉(STM)へ移行し、肝芽を形成する(Delgado et al., 2014、Kolterud et al., 2004)。STMは、肝芽形成だけでなく、少なくともSTM由来のパラクリン因子によって媒介される肝芽細胞の増殖および生存にも関与している(Zaret, 2002)。しかし、STM細胞の分化プロトコールは開発されていない(Iyer et al., 2015、Witty et al., 2014)。STMの運命を指示するために、我々は、4日目にiPSC由来側板中胚葉(iPSC-Meso)において潜在的誘導物質およびそれらの組み合わせを曝した。PSCマーカーであるNANOG、早期中胚葉マーカーTはほとんど検出されなかったが、STMマーカーであるFOXF1、HLX1、COL4AおよびALCAMの転写活性化は、10日目にFGF2およびPDGFB同時暴露で首尾よく誘導された(
図2F(Figure 2F))。WT1、MIIAおよびLHX2の免疫染色もまた、推定STM細胞における正しい細胞運命の誘導を確認した(
図3A(Figure 3A))。グローバル遺伝子アレイ解析により、iPSC-STMの特性が、報告されたヒト成人肝臓間葉細胞の特性に顕著な変化を示すことが示唆された(Asahina et al., 2009、Asahina et al., 2011、 El Taghdouini et al., 2015)(
図2G(Figure 2G))。我々は以前に、LB世代における間葉系細胞の1つの機能がミオシンIIA依存性自己凝集であることを示した。一貫して、我々は、iPSC-STMの自己凝縮能力が従来のBMSCと同等であることをタイムラプス画像により実証した(
図2H(Figure 2H))。
【0059】
内皮前駆細胞(iPSC-EC)を再現可能に生成するために、我々は、フィーダーフリーのiPSCの培養に適応した後に、以前の文献から改変した4つの独立したプロトコールを開発した(Narazaki et al., 2008、Orlova et al., 2014、Patsch et al., 2015、Samuel et al., 2013)(
図11A(Fig. S7A))。各プロトコールの下で完全分化プログラムに供されたiPSC-ECをフローサイトメトリー分析(FACS)およびqRT-PCRによって評価した(
図11B、C(Fig. S7B, C))。この結果、プロトコール1に従う細胞が、ECマーカーの最も高い発現を示し、多分化能マーカーを最小化したことが明らかになった。VEGFとForskolinの組み合わせは、磁気ビーズに基づく選別を行わなくても、定期的なFACS分析(> 92.8%、n = 12)により、最高レベルのCD144(VE-Cadherin)とCD31の同時発現を誘導することができる(
図2I(Figure 2I))。連続継代後、ECは、厳密に増殖し(~200倍の増加)(
図11D(Fig. S7D))、そしてこの発現は4回の継代まで維持された。このことは、内皮マーカーの免疫染色によって確認された;マトリゲルプラグ上にプレーティングした後、細胞は厳密な移行とその後の内皮発芽能を示した(
図2J(Figure 2J))。さらに重要なことに、柔らかい基質上のiPSC-ECとiPSC-STMとの共培養は、凝縮した組織の形成をもたらし(Takebe et al., 2015)、移植48時間後に開存性の血管を生成することができる。このことは、蛍光デキストラン注入後のAAVS1 :: mCherry iPSC-ECを用いた細胞の共焦点イメージングによって確認された(
図2K(Figure 2K))。これらの結果は、ヒトiPSC-STMおよび-EC集団が、自己凝集および血管新生のための機能的能力を有するフィーダーフリーiPSCから首尾よく分化されることを示唆した。
【0060】
三種類の前駆細胞の強力な誘導は、iPSC(全てiPSC-LB)から肝芽の生成の可能性を調べることを可能にした(
図3A(Figure 3A))。これらの3つの異なる前駆細胞は、Ff-l01およびFf-l14などのHLAホモ接合体クローンを含む複数のヒトフィーダーフリーiPSC供給源(試験された5つの独立したドナー由来クローン)からうまく誘導された。4D明視野とライトシート画像分析は、STMの存在下で成功した自己凝集(
図3B(Figure 3B)、上部)と自己組織化iPSC-ECネットワーク(
図3B(Figure 3B)、下部)をそれぞれ示した。3日間の培養組織の共焦点広視野撮像により、iPSC-tHEと整列した発芽したiPSC-ECが確認された(
図3C、D(Figure 3C, D))。免疫不全マウスの頭蓋窓への移植により、さらに血管新生の可能性を評価した。生体内イメージングは、48時間での機能性血管の形成および最終的なiPSC-tHEの生着を示した(
図3E~G(Figure 3E-G))。iPSC-ECは、マウスCD31内皮細胞に直接吻合し(
図3H(Figure 3H))、血管周囲の位置でiPSC-STMに囲まれた(
図3I(Figure 3I))。したがって、我々は、ヒトiPSCから完全に血管新生および機能性肝臓組織を首尾よく生成した。
【0061】
特定の代謝肝機能を修正するには少なくとも10
8個の肝細胞の移植が必要であるため(Martin et al., 2014)、すべてのiPSC-LB戦略をオムニウェルアレイ規模で実施可能な培養プラットフォームに適応させることが最大の課題である。この目的のために、大量生産およびすべてのiPSC-LBのバッチ検証への我々の戦略は、
図4A(Figure 4A)に概説されている。簡単に説明すると、我々は、培養当たり10
8細胞規模の肝芽を製造するための5-10のオムニウェルアレイプレートを調製し、インビトロでの機能およびインビボでの治療可能性を明らかにした。その結果、10日間培養した後、大量生産されたすべてのiPSC-LBは、従来のLB(HUVEC / BMSC)や成人ヒト肝細胞(AdHep)よりも高いアルブミン生産を示した(10μg/ ml / 24hr / 10
6細胞以上)(
図4B(Figure 4B)および
図9B(Fig. S5B))。それだけでなく、このiPSC-LBは、補体因子H、凝固因子VIII、トランスフェリンおよびAATを含むいくつかの重要な肝臓血清タンパク質も生産した(
図4C(Figure 4C))。注目すべきことに、長期培養されたすべてのiPSC-LBのアンモニウムクリアランス能力は、培養中の初代成人ヒト肝細胞のものと同等であった(
図4D(Figure 4D))。さらなるグローバルトランスクリプトーム解析は、分化したすべてのiPSC-LBが従来のLBよりも成熟しており、AdHepと同等であることを示した(但し、30歳の成人肝臓組織ほどは成熟していない。)(
図4E(Figure 4E)および
図9B(Fig. S5B))。ヒトAdHepとの公正な比較を行うために、我々は、肝臓機能遺伝子特性データに基づくスコアリング方法を開発した。このスコアリング方法は、APRES(Aster Plot of Relative Enrichment Score)と名付けられた。MSigDBバージョン5.0(Subramanian et al., 2005)における特徴的な遺伝子セットを用いて、我々は、胎児肝臓に関するヒト成人肝細胞(AdHep 2D)における進行性の特性の発現レベルから計算したmNESスコアの相対的な大きさを用いてアスタープロットの各成分の幅を決定した(方法を参照)。各組織または細胞タイプについて、相対mNESスコアは、成分の幅および高さを掛けた後にアスタープロットの各成分の高さとして示され、次いで総相対スコアを合計として定義された。偏りのないAPRESベースのスコアリングは、分化した全iPSC-LBのプロフィールが、補体、血管新生およびコレステロールホメオスタシスカスケードを含むAdHepおよび従来のiPSC-MHのプロフィールと類似していることを明らかに示した(
図4F(Figure 4F))。
【0062】
最後に、肝不全の免疫不全マウスモデルにおいて、大量生産されたヒトLBの機能的バッチ検証を行った。10
8個の肝細胞に相当する肝芽を調製し、大量生産ごとに10
7個の細胞に相当するLBを約10匹のマウスに分け、全肝芽の治療可能性を判定することによってそれらを評価した。Alb-Tk-NOGマウスの腎嚢下に移植を行った。全体的にみて、114匹の移植マウスから得られた結果は、総肝機能障害を救済することによって生存性が改善することについて統計学的有意性を有する強い証拠を提供した(
図4G(Figure 4G))。重要なことに、フォローアップ血清分析も、生産サイクルとは無関係に、インビボでALBを生産し、AFPを減少させること(検出されない)によって、大量生産された肝芽が機能的に安定であるという事実を支持した(
図12A(Fig. S8A))。注目すべきことに、ヒトアルブミンの大きさおよび持続性は、ヒト初代肝細胞(N = 12、4ドナー)移植から得られたものよりも有意に高かった(
図4H(Figure 4H))。LBの薬物代謝能力は、ヒト特異的ジクロフェナク代謝産物検出によっても確認された(
図4I(Figure 4I))。間質細胞が存在しないiPSC-tHE細胞の移植は、移植されたマウスにおいてヒトALBによって評価される限りほとんど機能しなかった(
図12B(Fig. S8B))。このことは、シングルセルRNAシーケンスの最近の研究(Camp et al., 2017)において示されているように、iPSC-STMおよび-ECの肝機能化に対する潜在的役割を示唆した。以上をまとめると、私たちのオルガノイド大量生産培養プラットフォームは、スケーリングの問題を解決するだけでなく、10
8個以上の成人肝細胞と同等の機能のヒトiPSC由来のヒト肝臓組織に対する厳密で再現性のある分化プラットフォームを提供する。
【0063】
ディスカッション
結論として、この研究で概説された技術は、薬剤試験および再生応用へiPSCベースの多細胞性オルガノイドを供給することに対するエキサイティングな戦略を明らかにする。特に、本実施例で得られた108細胞スケール以上の肝芽の生産は、ヒト移植応用への合理的な規模と考えられる。なぜなら、細胞移植試験の数は、特に小児患者のための最低用量の108細胞で臨床的有効性を実証しているからである(Enosawa et al., 2014、Jorns et al., 2012)。標準的な治療規模が患者1人当たり109個の肝細胞であるとしたら、あるいはそれ以上であるとしたら(Horslen and Fox, 2004)、代謝障害の動物モデルにおける対応する有効性の研究では継続的なスケーリングの努力が予想されるであろう。それにもかかわらず、このプロトコールは、臨床的グレード成分の使用による複数の学術的および産業的共同作業努力によって開発されている。臨床的グレード成分には、遺伝的に特徴付けられたiPSC、規定された培地および基質、マイクロウェルアレイプレート、並びに将来の臨床試験のための準備としての顕微鏡検査が含まれる。これを加速するために、すべてのiPSC-LB戦略をcGMPグレードシステムに完全に適合させることは、将来の臨床応用ならびに臨床的に適切な移植ルートを通じた安全性評価にとって重要である。最終的には、一連の製造技術の統合により、現在困難な肝疾患を治療するための臨床的に効果的な肝芽移植療法を開発することが実現可能であると我々は考えている。
【0064】
実験手順
マイクロウェルにおけるヒト肝芽の培養
全てのiPSC系統は、Laminin 511 E8断片(iMatrix-511(商標)、Nippi, Inc.から親切に提供された)をコートしたディッシュ上で、StemFit(登録商標)(Ajinomoto Co., Inc.)中で維持した。各系統への特異的分化のための方法は補足的方法に記載された。インビトロでヒトLBを生成するために、マイクロウェル当たり合計1140~10,140細胞を、10:7:2(=ヒトiPSC-tHE:iPSC-EC:iPSC-STM)の比で、EGMと肝細胞培養培地(HCM)(Cambrex, Baltimore, MD)の混合培地に再懸濁した。この混合培地は、デキサメタゾン(0.1 μM, Sigma-Aldrich, St Louis, MO)、オンコスタチンM(10 ng/ml, R&D System, Minneapolis, MN)、HGF(20 ng/ml, PromoKine)、およびSingleQuots(Lonza)を含む。再懸濁された細胞を、24ウェルプレート、又は24ウェル、6ウェル若しくは1ウェルプレート中のElplasia(商標)プラットフォーム(Kuraray, Inc.によって共同開発された)のいずれかの上に播種した。
図3B(Figure 3B)の上に示される位相差コロニー像獲得は、BioStation CT培養インキュベーター、顕微鏡、およびデジタルイメージングシステム(Nikon, Tokyo, Japan)を用いて達成された。
図3B(Figure 3B)の下に示す蛍光時間経過イメージングを、Lightsheet Z.1顕微鏡(Zeiss, Germany)で画像化した。生成したヒトiPSC-LBを、穏やかなピペッティングにより収集し、インビトロ成熟評価およびインビボ移植実験に使用した。対照として、我々は、5つの異なるヒト初代成人肝細胞(ロット番号:H768、H737、HC2-8、H4.1およびロット番号:M00995、XenoTech, KS, USA およびVeritas, Tokyo, Japanから購入)を使用した。
【0065】
数量化と統計分析
データは説明中で特定される独立した実験の平均±s.e.m又は平均±s.d.として表される。この研究では無作為化または盲検化法を用いなかった。生産されたアルブミン量の統計的有意性は、非パラメトリックマンホイットニーU検定によって評価した。0.05より小さい両側p値を有意とみなした。生存分析のために、GraphPad Prism Softwareバージョン6.0を統計解析に使用した。
【0066】
補足情報
補足情報には、補足的な実験手順、8つの図(
図5~12(Figs. S1-S8))が含まれている。
【0067】
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【0068】
実験モデルおよびサブジェクト詳細
マウス
インビトロで生成されたLBを採取し、非肥満糖尿病/重症複合免疫不全(NOD / SCID)マウス(Sankyo Lab. Co., Tsukuba, Japan)の予め形成された頭蓋窓または他の示された部位に移植した。移植された細胞のin vivo運命を、Leica TCS SP8共焦点顕微鏡(Leica Microsystems, Germany)を用いた生体内イメージングによってモニターした。in vivoでの機能化研究のために、8週齢の雄性NOGマウス(体重約20-30g)を使用した(Central Institute for Experimental Animals (CIEA), Kanagawa, Japanにより供給)(Hasegawa et al., 2011 )。生存曲線については、アルブミン-TK-NOGマウス(体重約20-30g)をこの研究で使用した(CIEA, Kanagawa, Japanにより供給)。移植に先立ってトランスジェニック肝臓実質細胞の組織特異的アブレーションを誘導するために、ヒトまたはマウス組織に毒性のない薬物であるガンシクロビル(GCV, 50mg / kg, i.p.)を投与し、各マウスあたり1×107細胞に相当するiPSC-LBを腎臓の肩甲下部位に移植した。試料のサイズは、分泌されたアルブミンタンパク質に30%の変化があった場合、80%の出力で有意な差(P <0.05)を得るために必要な最小サイズによって決定された。安楽死の時点はランダムに割り当てられた。移植実験の除外基準に関しては、病気により安楽死させたマウスからデータを除外することを事前に決定した。このようなデータは移植に関連しないものである。マウスは、実験動物の使用に関する横浜市立大学の施設ガイドラインに従って飼育し、維持した。
【0069】
方法の詳細
ヒトiPSC培養およびtHE分化
ヒトiPSC系統(TkDA3-4,1231A3,1383D2,1383D6およびFf01)は、京都大学および東京大学から提供された。1231A3,1383D2および1383D6は、京都大学CiRAのePBMC(登録商標)(Cellular Technology Limited, OH)から確立された系統である。全てのiPSC系統を、Laminin 511 E8断片(iMatrix-511(商標)、Nippi, Inc.から親切に提供された)をコートしたディッシュ上でStemFit(登録商標)(Ajinomoto Co., Inc.)中で維持した。インビトロおよびインビボでのライブイメージング分析のために、アデノ関連ウイルス組み込み部位1(AAVS1 :: EGFPまたはmCherry)の発現下での蛍光タンパク質ノックインレポーターを使用した。iPSC-tHEを導出するために、我々は2段階分化法を開発した(サプリメンタルテキストを参照)。第1段階において、ヒトiPSCを、10μM ROCK阻害剤Y-27632(Wako, カタログ番号253-00513)と共に、iMatrix-511被覆ディッシュ上に播種し、1%B27を加え、ヒト100ng / mlアクチビンA(Ajinomoto Co., Inc.から提供)および50ng / ml Wnt3a(R&D Systems)を含むRPMI-1640を培地として6日間用いた。iPSCプレーティングの最初の日に、1mM酪酸ナトリウム(Sigma)を添加した。成功した内胚葉の特異化は、Cerberus 1 ELISAキット(Dojin Kagaku, Kumamoto, Japan)を用いて定量的に評価した。続いて、ヒトiPSC由来内胚葉細胞を、1%B27、10ng / mlヒト塩基性FGFおよび20ng / mlヒトBMP4を含むRPMI-1640でさらに2日間処理して、TBX3およびADRA1B陽性移行肝内胚葉集団に誘導した。iPSCクローンごとに記述されたプロトコールを適合させる前に、我々は、注意深い顕微鏡観察に加えて、ヒトiPSCのそれぞれの特異化マーカーを、免疫染色および遺伝子発現研究によって分化の各時点で調べることを強く推奨する。なぜなら、成功した肝芽の生成は、インビボでの機能的成熟にとって重要だからである。この実施例でのヒトiPSCの使用は、横浜市立大学の倫理委員会で承認された。
【0070】
ヒトiPSC-ECおよびSTM分化
EC分化のために、ヒトiPSCを、Accutaseを用いて解離させ、Laminin 511 E8断片(iMatrix-511(商標)、Nippi, Inc.から提供された)上にプレーティングした。ヒトiPSCは、10μMのROCK阻害剤Y-27632を含むStemFit(登録商標)(Ajinomoto Co., Inc.)中で、様々な最適密度(細胞系に依存して)になるようにした。翌日、培地をプライミング培地に置き換えた。プライミング培地は、8μMのCHIR99021(Tocris Bioscience)と25 ng/ml BMP4 (R&D Systems)を含むB27培地(1%Glutamaxおよび1%B27(すべてLife Technologies)を含むDMEMとF12の1:1の混合培地)からなる。さらに3日後、プライミング培地をEC誘導培地に置き換えた。EC誘導培地は、200ng / ml VEGF(Life Technologies)および2μMフォルスコリン(Sigma-Aldrich)を補充したStemPro-34 SFM培地(Life Technologies)からなる。誘導培地を毎日更新した。分化の7日目に、ECを0.05%トリプシンで解離させ、FACS分析に供した。iPSC由来のECは、CD144およびCD31の接合部局在化を伴う典型的な内皮形態を示すはずである。 ECを、1μg / cm2のフィブロネクチン(Sigma-Aldrich)でコーティングしたディッシュ上に、EC拡張培地中に、50,000細胞cm-2の密度で再プレーティングした。EC拡張培地は、50ng / mlのVEGF-Aを補充したStemPro-34SFMからなる。EC拡張培地を1日おきに交換した。STM分化のために、ヒトiPSCを、Accutaseを用いて解離させ、Laminin 511 E8断片上に、10μMのROCK阻害剤Y-27632を含むStemFit(登録商標)中に、2000~8000細胞/cm2でプレーティングし、誘導前の4~6日間培養した。中胚葉誘導段階では、維持培地を、中胚葉誘導培地で置き換え、続いて 2ng / mlアクチビンAおよび10ng / ml PDGFBB(R&D Systems)に3日間暴露した。中胚葉誘導培地は、1%Glutamaxおよび1%B27を含むDMEMとF12の1:1の混合培地であり、B27は8 μM CHIR99021および 25 ng/ml BMP4を含む。3日後、中胚葉誘導培地をSTM誘導培地に置き換え、3日間培養した。STM誘導培地は、10ng / mlのFGF2および10ng / mlのPDGFBBを補充したStmePro-34 SFM培地からなる。
【0071】
Elplasia(商標)マイクロウェルプレートの製造工程
Elplasia(商標)マイクロウェルプレートは、2つの技術の組み合わせによって工業的に製造された。一つは、細かく構造化された金型を作製することであり、別の一つは鋳型から樹脂膜へ正確に構造を転写することである。細かく構造化された金型の作製は、マスターブロックの準備工程から始めた。我々は、精密な金属切削加工により等間隔で金属板にマイクロウェルを彫った。各マイクロウェルはU字底型であり、開口径は約500μm、深さは400μmであった。播種した細胞のすべてが各マイクロウェルに分けられるようにするために、これらを30μm間隔で密接かつ三角形状に配置した。金属切削加工の後、正方形に切り出し、裏面を研磨し、金型からの樹脂の剥離を改善する離型処理を行った。以上の工程を通じて、その表面に、マイクロウェルの反転された形状としての微細な柱状体を持つ金型としてのニッケル板を作製した。金型から樹脂フィルムへのマイクロウェル形状の転写は、内部で開発した転写成形機を用いて行った。一般的な射出成形機と比較して、我々の成形機は、特にプレートの形状のような高アスペクト比領域の部分で転写精度を著しく改善する(「アスペクト比」は微細構造の高さと幅の比である。)。実際、我々のマイクロウェル(深さ:400μm、間隔;30μm)は、従来の成形機では転写が困難な非常に高いアスペクト比を有する。我々は、金型を成形機に取り付け、溶融したポリスチレン樹脂を金型に塗布した。温度、プレス重量および保持時間を含むいくつかの条件最適化により、我々は、最終的に完全にマイクロウェルを転写した樹脂フィルムを得た。トリムされたフィルムは、底部のない予め作製されたウェルプレートフレームに結合され、これにより、プレートの底にマイクロウェルアレイを有するElplasia(商標)マイクロウェルプレートが完成された。1cm2あたり約320個のマイクロウェルがあるので、24ウェルフォーマットにおいてはウェル当たり約600個のマイクロウェルが存在し、6ウェルフォーマットにおいてはウェル当たり約3,000個のマイクロウェルが存在し、オムニウェルフォーマットにおいてはプレート当たり約20,000個のマイクロウェルが存在する。
【0072】
インビトロイメージング
図3B(Figure 3B)の上に示す位相差コロニー画像の獲得は、BioStation CT培養インキュベーター、顕微鏡、並びに提供される指示に従ってオートフォーカスおよび細胞画像タイリング取得機能を最適化するように調整されたデジタルイメージングシステム(Nikon, Tokyo, Japan)を用いて、達成された。
図3B(Figure 3B)の下に示す蛍光時間経過イメージングは、Lightsheet Z.1顕微鏡(Zeiss, Germany)で画像化された。
【0073】
生体内イメージング
1%テトラメチルローダミン結合デキストラン(MW 2,000,000)、フルオレセインイソチオシアネート結合デキストラン(MW 2,000,000)およびテキサスレッド結合デキストラン(70,000MW、ニュートラル)の尾静脈注射を用いて、血管内腔(すべてInvitrogen, Carlsbad, CA, USAから)を同定した。静脈内注射したAlexa647結合マウス特異的CD31(BD)を用いて、宿主内皮細胞を視覚化した。共焦点画像スタックを、移植された血管およびデキストランについて取得した。
【0074】
遺伝子発現解析
qRT-PCR分析は以前に記載されたように行った(Takebe et al., 2013)。マイクロアレイについては、RNeasy Mini Kit(Qiagen, Valencia, CA)を用いて全RNAを調製した。遺伝子発現プロファイリングのためのRNAは、Whole Human Genome Agilent 4x44K v2オリゴヌクレオチドマイクロアレイまたはWhole Human Genome Agilent 8x60K v2オリゴヌクレオチド(Agilent Technologies、Palo Alto、CA)上で製造者の指示に従ってハイブリダイズさせた。対照サンプルとして、上述したヒト初代肝細胞サンプルに加え、ヒトのFLT (10gwk or 22-40gwk pool Fetal Liver Tissue)、ILT (0yr Infant Liver Tissue)およびALT (5yrs, 30yrs, 44yrs or 55yrs old Adult Liver Tissues)RNAサンプルを、Biochain Institute(Hayward, CA, USA)から入手した。
【0075】
階層的クラスタリング分析
マイクロアレイデータはGeneSpring標準プロトコールを用いて処理した。手短に言えば、1未満の信号強度は1(検出されなかった)に補正され、次に75パーセントシフト正規化が行われた。レプリケートスポット内のシグナル強度を平均した後、異なる8x60k v2アレイチップ内で観察された(データは示さず)バッチ効果は、同じ分化段階の共変量でCombat(Leek et al., 2012)によって除去された。4x44k v2アレイのデータと比較するときは、我々は、チップ間の差異とバッチ効果を確実に除去するための分位数標準化を行った。ゲノムワイドの分化状態を解析するために、我々は、タンパク質コード遺伝子のスケールされた発現レベルを用いて主成分分析(PCA)を行った(Le et al., 2008)。上層主成分(PC)は、2-D培養されたiPSCから臨床検体までのすべてのサンプルの分散の約40%を説明したので、我々は主にPC1を使用した(
図2D(Figure 2D))。教師なしの階層的クラスタリングは、ピアソンの相関に基づく距離および平均結合方法を用いて実施された。開発の特徴を明らかにするために、我々は、http://discovery.lifemapsc.com/in-vivo-development/、2015/4/8からディスカバリー・ライフマップ・シグネチャーを使用し、また、Gene Set Enrichment Analysis(GSEA)(Subramanian et al.,2005)からのp値は、ヒートマップ(
図2H(Figure 2H)、比較はこの図に記載されている)によって示された。特記しない限り、データ処理および分析は、統計ソフトウェアRバージョン3.0.1を使用して実施した。
【0076】
APRES(相対的濃縮スコアのAsterプロット)アルゴリズム
最初に、MSigDBバージョン5.0(Subramanian et al., 2005)に特徴的な遺伝子セットを用いて、我々は、ヒト胎児肝組織(FLT、10w)といくつかの異なる分化段階の組織/細胞を比較する濃縮分析を行った。GSEAソフトウェアによる計算された正規化濃縮スコア(NES)は、以下のように改変NES(mNES)に変換された:NES> 1の場合、mNESはNESであり; -1 <NES <1ならば、mNESは1であり; 他は、mNESは1 / | NES |である。この変換により、サンプルまたはFLTの比較において標的遺伝子セットが濃縮されたかどうかにかかわらず、NESを比較することが可能になる。次に、我々は、ヒト成人肝細胞(AHEP 2D)とFLTとの比較から計算したmNESの相対的なサイズを用いて、アスタープロットの各成分の幅を決定した。各組織または細胞タイプについて、相対mNESスコアをAHEP 2D対FLTのmNESで割って計算し、このスコアをアスタープロットの各成分の高さとして示した。最後に、我々は、コンポーネントの幅と高さを掛け、それらを加えて総相対スコアと定義した。総相対スコアは、アスタープロットの中心に示された(
図4F(Figure 4F))。
【0077】
ELISA
血液サンプルを室温で遠心チューブ(約5分)中で凝固させ、チューブの側面からゆるめ、4℃(融解氷)で20分間インキュベートした。凝固した血液を、10~15分間、400g、4℃で遠心分離し、赤血球または凝固した物質を排除するよう注意しながら血清画分を除去した。ヒトCER1、ALBおよびAATは、マウス血清サンプル中で、Human Cerberus 1 Quantification Kit (Dojin Kagaku, Kumamoto, Japan)、Human Albumin ELISA Quantitation Kit (Bethyl Laboratories Inc., Montgomery, TX, USA)、および human alpha 1-antitrypsin ELISA Quantitation Kit (GenWay Biotech, Inc., San Diego, CA, USA)を用い、製造者の指示に従って、測定された。盲検研究者が、インビトロ培養上清またはインビボ血清を用いて、すべてのELISA実験を行った。
【0078】
データとソフトウェアの有効性
この実施例で報告されたマイクロアレイデータの受託番号は、データがNCBI GEOを介してアップロードされると更新される。
【0079】
サプリメンタルテキスト
小型肝芽培養
コーティング材料の選択(
図5(Fig. S1))の後、我々はまず、混合比および用量依存性試験を実施することによって細胞培養条件を最適化した。内皮細胞対全細胞の混合プロトコールは、効率的な移植後血管新生に基づいて以前に最適化されていた(Takebe et al., 2014)。しかし、間葉系細胞のプロトコールは未だ決定されていない。SEM分析から、間葉系細胞混合物の10%~1.4%(内胚葉細胞の1/5~1/40)が再現性のあるLB生成を可能にすることが確認され(
図6A(Fig. S2A))、その後の遺伝子発現分析により、2.8%(内胚葉細胞の1/20)が安定した肝臓分化および組織形成のための最も効率的な割合であるが示唆された(
図6B、C(Fig. S2B, C))。次に、我々は、機能的LB生産のための最小細胞数を決定するための用量減少研究を行った(
図6D-F(Fig. S2D-F))。細胞数に依存するLBサイズを
図6D(Fig. S2D)に示す。LBサイズは、4000個の細胞(マイクロウェルあたり6000個を超える細胞はLBを形成できなかった。)まで用量依存性の増加を示した。長期間分化させたLBに関するELISAに基づく機能スクリーニングは、LBあたり600個のiPSC-tHE細胞(合計1130細胞)を含むことが、それよりも多い量または少ない量(LBあたり150-1200個のiPSC-tHE細胞の範囲)に比べ、ヒトアルブミンを最も多く生産することを示した(
図6F(Fig. S2F))。これは、追加の肝臓分化マーカーの遺伝子発現分析によりも確認された(
図6D、E(Fig. S2 D, E))。
【0080】
肝細胞様細胞を生成するための高効率分化プロトコールの選択
我々は、複数の分化段階の内胚葉細胞を用いて、分化した肝芽の形態および機能性を比較することによって、多数の「逆」スクリーニング実験を行った。莫大な数の刊行物が、遺伝子およびタンパク質の逐次的な添加によるそれぞれの特異的方法が肝細胞様細胞の生産をもたらすことを報告した。しかし、比較分析はほとんど行われなかった。最初に、3つの有望な段階的分化プロトコール(Kajiwara et al., 2012、 Loh et al., 2014、Si-Tayeb et al., 2010)を選択するために、2Dベースのスクリーニングを行った(
図8A(Fig. S4A))。そこで、細胞密度、サイトカイン曝露期間および基礎培地を最適化することによって、3つの主要なプロトコールを我々のフィーダーフリーiPSC培養に変更した後、プロトコール(Pr)1における分化細胞は、Pr 2およびPr 3と比較して、多能性マーカー(OCT4およびNANOG)の最小限の発現および胚体内胚葉(DE)および成熟肝細胞様(MH)細胞における肝マーカー(FOXA2、HNF4A、ALBおよびAFP)のより高い発現を明らかにした(
図8B-E(Fig. S4B-E))。これらの結果は、ELISAによるヒトアルブミン分泌分析によって確認され、Pr 1のMHからの分泌はPr 2および3の分泌の約2.5倍であることが明らかになった(データ示さず)。Wntシグナル伝達経路を増幅するPr1の下で、4つの異なる患者由来iPSCクローンが、機能的な肝細胞様細胞を非常に再現性のある様式で分化させることができた(
図4F(Figure 4F))。まとめると、早期内胚葉明特異化におけるWnt3A曝露は、2D培養において機能性肝細胞様細胞を生成するのに有効である。
【0081】
CER1分泌を検出することによる将来の検証
アルブミン高(良好)/低(不良)MHと元のDE細胞のトランスクリプトームに基づく比較は、将来の検証マーカーを同定するために、2D MH機能のより良い結果がDE特異化の効率と相関することを示唆した(データは表示されない)。したがって、我々は、成功した肝臓成熟が、特にDEステージにおいて、初期内胚葉特異化の質に大きく依存すると仮定した。良好なDEマーカーを同定するために、良好DEと不良DE(最終的なiPSC-MH機能によって区別される)の全体的な遺伝子発現プロファイルを比較することにより、良好なDEは、Cerberus 1(CER1)をはるかに高いレベルで発現する傾向があることが明らかになった(Iwashita et al., 2013)。Cerberus 1は分泌タンパク質であり、既知の胚体内胚葉マーカーである。その量は培養上清中でELISAによって測定することができる。したがって、我々は、6日目の培地中のCER1タンパク質の検出は、20日目の最終ALB検出に少なくとも必須であることを見出した(
図4G(Figure 4G))。このことは、6日目の分泌タンパク質の量は最終分化の完了後の肝機能の潜在的な必要性であることを示唆した。
【0082】
SUPPLEMENTAL REFERENCES
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【0083】
〔実施例2〕
ヒトiPSCからtHE分化誘導について、実施例1のヒトiPSC培養およびtHE分化部分と同様の分化方法を実施したが、
下記の点を変更した。
第1段階において、ヒトiPSCを、10μM ROCK阻害剤Y-27632(Wako, カタログ番号253-00513)と共に、iMatrix-511被覆ディッシュ上に播種し、1%B27を加え、100ng / mlヒトアクチビンA(Ajinomoto Co., Inc.から提供)および
50ng / ml Wnt3a(R&D Systems)を含むRPMI-1640を培地として6日間用いた。上記の50ng / ml Wnt3a(R&D Systems)について2uM CHIR99021 3日間添加に代替する事で、コスト低減及びxeno-free化および生物由来原料基準に適合可能になる(
図13, 14)。
Wnt3aの代替としてCHIR99021を用いるプロトコールの模式図を
図13Aに示す。条件検討の結果、DE分化誘導6日間の内、CHIR99021, 2μMを3日間添加する条件を選択した。
Wnt3aを用いる従来法とCHIR99021, 2μMを3日間添加条件での各分化段階の細胞形態を
図13Bに示す。Wnt3aを用いた場合と形態的な違いは見られない。
Wnt3aを用いる従来法とCHIR99021, 2μMを3日間添加条件でのDE段階でのフローサイトメトリーによるDEマーカーであるCXCR4陽性率解析を
図13Cに示す。Wnt3aを用いた場合とCXCR4陽性率は同等である。
定量PCR(qPCR)による各分化マーカーの発現解析を
図13Dに示す。CHIR d3における各ステージのマーカー発現量は、Wnt3aを用いた場合と同等である。
MH段階での分泌アルブミン量のELISA解析を
図13Eに示す。複数のiPSCクローンにおいて、CHIR d3におけるALB分泌量は、Wnt3aを用いた場合と同等か高い傾向が見られた。
MH(
図14A)およびLB(
図14B)での細胞形態において、Wnt3aを用いた場合と形態的な違いは見られない。
定量PCR(qPCR)によるMHおよびLBでのマーカー発現解析を
図14Cに示す。マーカー発現量とALB分泌量について、Wnt3aとCHIR間に有意差は認められなかった。腸管マーカーなど他の細胞系譜のマーカー遺伝子の発現増加も見られない。
【0084】
〔実施例3〕
EC拡張培養について、実施例1のヒトiPSC-ECおよびSTM分化部分と同様の分化方法を実施したが、
下記の点を変更した。
EC分化のために、ヒトiPSCを、Accutaseを用いて解離させ、Laminin 511 E8断片(iMatrix-511(商標)、Nippi, Inc.から提供された)上にプレーティングした。
培地はRock阻害剤を含むプライミング培地に置き換えた。プライミング培地は、8μMのCHIR99021(Tocris Bioscience)と25 ng/ml BMP4 (R&D Systems)を含むB27培地(1%Glutamaxおよび1%B27(すべてLife Technologies)を含むDMEMとF12の1:1の混合培地)からなる。
翌日にはRock阻害剤を含まないプライミング培地に置き換える。
さらに3日後、プライミング培地をEC誘導培地に置き換えた。EC誘導培地は、200ng / ml VEGF(Life Technologies)および2μMフォルスコリン(Sigma-Aldrich)を補充したStemPro-34 SFM培地(Life Technologies)からなる。誘導培地を毎日更新した。分化の7日目に、ECを0.05%トリプシンで解離させ、FACS分析に供した。iPSC由来のECは、CD144およびCD31の接合部局在化を伴う典型的な内皮形態を示すはずである。 ECを、
Laminin 511 E8断片(iMatrix-511(商標)、Nippi, Inc.から提供された)上に、Rock阻害剤を含むEC拡張培地中に、50,000細胞cm-2の密度で再プレーティングした。EC拡張培地は、50ng / mlのVEGF-Aを補充したStemPro-34SFMからなる。
翌日Miracell (登録商標) EC(タカラバイオ)に培地交換し、1日おきに交換した。
これにより、より安定して高いCD31/CD144共陽性細胞を得ることが可能である(
図15, 16)。
iPSC由来血管内皮細胞(iPSC-EC)の分化誘導プロトコール改変版を
図15に示す。
分化誘導プロトコールの模式図を
図16Aに示す。
従来法及び改訂法の細胞形態を
図16Bに示す。形態的な違いは見られない。
従来法及び改訂法のフローサイトメトリーによるECマーカー陽性率の解析を
図16Cに示す。
図16Cのフローサイトメトリー解析のまとめを
図16Dに示す。改訂法では従来法と比べより安定的に高いCD31/CD144陽性率となる。
定量PCR(qPCR)による各分化マーカーの発現解析を
図16Eに示す。継代を経てもECマーカー発現量が安定している。
継代ごとの細胞増殖を
図16Fに示す。改訂法では従来法と比べ継代後の増殖能が高い
以上のことから、EC P0 時で陽性率が安定しなくとも、再播種により安定的なECの作出が可能であった。EC完成後の増殖に成功した。
本明細書で引用した全ての刊行物、特許および特許出願をそのまま参考として本明細書にとり入れるものとする。