(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023056018
(43)【公開日】2023-04-18
(54)【発明の名称】植物のゲノム編集方法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/09 20060101AFI20230411BHJP
C12N 15/87 20060101ALI20230411BHJP
A01H 1/00 20060101ALI20230411BHJP
A01H 6/46 20180101ALI20230411BHJP
A01H 6/54 20180101ALI20230411BHJP
A01H 6/74 20180101ALI20230411BHJP
A01H 6/82 20180101ALI20230411BHJP
【FI】
C12N15/09 100
C12N15/87 Z ZNA
A01H1/00 A
A01H6/46
A01H6/54
A01H6/74
A01H6/82
【審査請求】有
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023022548
(22)【出願日】2023-02-16
(62)【分割の表示】P 2022000564の分割
【原出願日】2017-05-15
(31)【優先権主張番号】P 2016097465
(32)【優先日】2016-05-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構、SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)「次世代農林水産業創造技術」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(71)【出願人】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】濱田 晴康
(72)【発明者】
【氏名】柳楽 洋三
(72)【発明者】
【氏名】三木 隆二
(72)【発明者】
【氏名】田岡 直明
(72)【発明者】
【氏名】今井 亮三
(57)【要約】
【課題】in vitro培養系のカルス又は組織片を用いない植物のゲノム編集方法を提供する。
【解決手段】植物のゲノム編集方法であって、直径0.3μm以上1.5μm以下の微粒子を、少なくとも1種の核酸および/または少なくとも1種のタンパク質により被覆する工程と、該被覆した微粒子を遺伝子銃を用いて完熟種子の胚の茎頂に撃ち込む工程と、該被覆した微粒子を撃ち込んだ茎頂を生育させ、植物体を得る工程と、該植物体からゲノム編集された植物体を選択する工程とを含む、方法。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物のゲノム編集方法であって、微粒子を、少なくとも1種の核酸および/または少なくとも1種のタンパク質により被覆する工程と、該被覆した微粒子を遺伝子銃を用いて完熟種子の胚の茎頂に撃ち込む工程と、該被覆した微粒子を撃ち込んだ茎頂を生育させ、植物体を得る工程と、該植物体からゲノム編集された植物体を選択する工程とを含み、
前記核酸が、ヌクレアーゼをコードする核酸を含み、
前記タンパク質が、ヌクレアーゼを含み、
前記微粒子が、直径0.3μm以上0.8μm以下である、方法。
【請求項2】
植物のゲノム編集方法であって、微粒子を、少なくとも1種の核酸および/または少なくとも1種のタンパク質により被覆する工程と、該被覆した微粒子を遺伝子銃を用いて塊茎の幼芽の茎頂に撃ち込む工程と、該被覆した微粒子を撃ち込んだ茎頂を生育させ、植物体を得る工程と、該植物体からゲノム編集された植物体を選択する工程とを含み、
前記核酸が、修飾酵素をコードする核酸を含み、
前記タンパク質が、ヌクレアーゼを含み、
前記微粒子が、直径0.3μm以上0.8μm以下である、方法。
【請求項3】
前記完熟種子の胚の茎頂が、該完熟種子から胚乳、鞘葉、葉原基、および余分な胚盤を除去し、露出させた茎頂である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記塊茎の幼芽の茎頂が、該塊茎の幼芽から塊茎、葉原基を除去し、露出させた茎頂である、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記完熟種子が、その根長が1mm以下の完熟種子であることを特徴とする、請求項1または3に記載の方法。
【請求項6】
前記植物が、コムギ、オオムギ、イネ、トウモロコシ、ダイズ、ジャガイモおよびリンゴからなる群から選ばれるいずれか1であることを特徴とする、請求項1、3および5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記植物が、ジャガイモであることを特徴とする、請求項2または4に記載の方法。
【請求項8】
前記修飾酵素が、ヌクレアーゼまたはデアミナーゼであることを特徴とする、請求項2、4および7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記核酸が、それぞれが発現するようにプロモーターおよびターミネーターに結合された、少なくとも1つのガイドRNAを発現し得る核酸およびCasヌクレアーゼタンパク質をコードする核酸を含むことを特徴とする、請求項1~8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記タンパク質がCasヌクレアーゼである、請求項1~9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
インプランタゲノム編集方法である、請求項1~10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
前記茎頂に撃ち込む工程において、前記遺伝子銃に、ストッピングプレート、および前記茎頂を、前記ストッピングプレートと前記茎頂の距離が6cm以下となるように設置する、請求項1~11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
前記植物体を得る工程において、選択圧をかけずに生育させる、請求項1~12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
前記茎頂に前記微粒子を撃ち込む回数は、2回以上である、請求項1~13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
請求項1~14のいずれかに記載の方法を用いて、ゲノム編集された植物体を製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パーティクルガン法を用いた植物のインプランタゲノム編集方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在普及している植物の一般的な形質転換法は、in vitro培養系のカルス又は組織片に外来遺伝子をアグロバクテリウム・ツメファシエンス菌を介して又はパーティクルガン法などにより直接的に導入する方法である。しかしこれらの方法を用いた場合、ヌクレアーゼを細胞または組織に導入してゲノム編集がなされたとしても、植物品種によっては組織培養が困難で、植物体を再生してゲノム編集された植物個体を得ることが難しいという問題があった。また、遺伝子やタンパク質の導入効率が十分に高くなく、遺伝子導入個体を得るためには、選択マーカー遺伝子を導入してマーカー選抜を行わなければならないという問題があった。さらに、長期の組織培養を必要とすることに伴い、体細胞変異(ソマクローナル変異)が頻繁に生じる点も問題であった。ゲノム編集植物作製の労力軽減や遺伝子組換え植物の安全性の観点から、組織培養を伴わないインプランタゲノム編集技術およびゲノム編集個体の作製方法の開発が求められていた。
【0003】
一方、コムギやイネなどにおいて、in vitro培養系のカルス又は組織片を用いない形質転換法(インプランタ形質転換法)も知られている。インプランタ形質転換方法としては、露出させた未熟胚又は完熟胚の茎頂に、パーティクルガン法を用いて直接遺伝子導入する方法が知られている(非特許文献1)。また、特許文献1及び非特許文献2には、発芽直後の完熟胚にアグロバクテリウムを感染させ、遺伝子導入する方法が記載されている。
【0004】
しかし、これらの文献に記載の方法は、共通して、実験者の手技に大きく依存するため遺伝子導入効率が低調であり、再現性の点において改善の余地がある。また、非特許文献1は、導入遺伝子が次世代に伝達されることの実証に至っていない。このような要因から、上記の手法は、現在に至るまで汎用化されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Bilang et al. Transient gene expression in vegetative shot apical meristems of wheat after ballistic microtargeting. Plant Journal (1993) 4, 735-744.
【非特許文献2】Supartana et al. Development of simple and efficient in planta transformation for rice (Oryza sativa L.) using Agrobacterium tumefaciencs. Journal of Bioscience AND Bioengineering (2005) 4, 391-397.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、in vitro培養系のカルス又は組織片を用いない植物のゲノム編集方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前述の課題解決のために鋭意検討を行なった結果、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は以下を包含する。
(1)植物のゲノム編集方法であって、微粒子を、少なくとも1種の核酸および/または少なくとも1種のタンパク質により被覆する工程と、該被覆した微粒子を遺伝子銃を用いて完熟種子の胚の茎頂または塊茎の幼芽の茎頂に撃ち込む工程と、該被覆した微粒子を撃ち込んだ茎頂を生育させ、植物体を得る工程と、該植物体からゲノム編集された植物体を選択する工程とを含む、方法。
(2)前記完熟種子の胚の茎頂または塊茎の幼芽の茎頂のうち、L2細胞に打ち込む工程を特徴とする、(1)の方法。
(3)前記完熟種子の胚の茎頂または塊茎の幼芽の茎頂のうち、生殖細胞系列へ移行する茎頂幹細胞に打ち込む工程を特徴とする、(1)の方法。
(4)前記微粒子が、直径0.3μm以上1.5μm以下であることを特徴とする、(1)~(3)のいずれかに記載の方法。
(5)さらに、前記完熟種子の胚の茎頂が、該完熟種子から胚乳、鞘葉、葉原基、および余分な胚盤を除去し、露出させた茎頂である、(1)~(4)のいずれかに記載の方法。
(6)さらに、前記塊茎の幼芽の茎頂が、該塊茎の幼芽から塊茎、葉原基を除去し、露出させた茎頂である、(1)~(4)のいずれかに記載の方法。
(7)前記完熟種子が、その根長が1mm以下の完熟種子であることを特徴とする、(1)~(5)のいずれかに記載の方法。
(8)前記植物が、コムギ、オオムギ、イネ、トウモロコシ、ダイズ、ジャガイモおよびリンゴからなる群から選ばれるいずれか1であることを特徴とする、(1)~(7)のいずれかに記載の方法。
(9)前記核酸が、修飾酵素をコードする核酸を含むことを特徴とする、(1)~(8)のいずれかに記載の方法。
(10)前記修飾酵素が、ヌクレアーゼまたはデアミナーゼであることを特徴とする、(9)に記載の方法。
(11)前記核酸が、それぞれが発現するようにプロモーターおよびターミネーターに結合された、少なくとも1つのガイドRNAを発現し得る核酸およびCasヌクレアーゼタンパク質をコードする核酸を含むことを特徴とする、(1)~(10)のいずれかに記載の方法。
(12)前記タンパク質がヌクレアーゼである、(1)~(11)のいずれかに記載の方法。
(13)前記タンパク質がCasヌクレアーゼである(1)~(12)のいずれかに記載の方法。
(14)(1)~(13)のいずれかに記載の方法を用いて、ゲノム編集された植物体を製造する方法。
(15)植物のゲノム編集方法であって、直径0.3μm以上1.5μm以下の微粒子を、少なくとも1種の核酸および/または少なくとも1種のタンパク質により被覆する工程と、該被覆した微粒子を遺伝子銃を用いて完熟種子の胚の茎頂に撃ち込む工程と、該被覆した微粒子を撃ち込んだ茎頂を生育させ、植物体を得る工程と、該植物体からゲノム編集された植物体を選択する工程とを含む、方法。
(16)さらに、前記完熟種子の胚の茎頂が、該完熟種子から胚乳、鞘葉、葉原基、および余分な胚盤を除去し、露出させた茎頂である、(15)の方法。
(17)前記完熟種子が、その根長が1mm以下の完熟種子であることを特徴とする、(15)または(16)に記載の方法。
(18)前記植物が、コムギ、イネ、トウモロコシ、および大豆からなる群から選ばれるいずれか1であることを特徴とする、(15)~(17)のいずれかに記載の方法。
(19)前記核酸が、ヌクレアーゼをコードする核酸を含むことを特徴とする、(15)~(18)のいずれかに記載の方法。
(20)前記核酸が、それぞれが発現するようにプロモーターおよびターミネーターに結合された、少なくとも1つのガイドRNAを発現し得る核酸およびCasヌクレアーゼタンパク質をコードする核酸を含むことを特徴とする、(15)~(19)のいずれかに記載の方法。
(21)前記タンパク質がヌクレアーゼである、(15)~(18)のいずれかに記載の方法。
(22)前記タンパク質がCasヌクレアーゼである(15)~(18)のいずれかに記載の方法。
(23)(15)~(22)のいずれかに記載の方法を用いて、ゲノム編集された植物体を製造する方法。
(24)インプランタ法により、茎頂分裂組織中の生殖細胞系列またはそれに移行し得る幹細胞のゲノム編集を行う方法。
(25)(1)~(13)のいずれかの方法を含むことを特徴とする、(24)の方法。
(26)(24)または(25)のいずれかに記載の方法を用いて、ゲノム編集された植物体を製造する方法。
(27)(26)の製造方法により製造された、ゲノム編集された植物体(出願時に公知のものを除く)。
【発明の効果】
【0010】
本発明の方法によれば、パーティクルガン法の標的として茎頂を用いることで、カルス化及び選択マーカー遺伝子を必要とせずに、再現性良く植物のゲノム編集を行うことができる。本発明によれば、茎頂中の生殖細胞系列へ移行する茎頂幹細胞のゲノム編集を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施例1に係る茎頂のGFPタンパク質の発現の様子を示した図である。
【
図2】本発明の実施例2に係るT
1世代形質転換体のゲノミックPCRによる導入遺伝子確認の結果を示した図である。
【
図3】
図3は、遺伝子導入個体のサザン解析の結果を示す写真である(実施例3)。
【
図4】
図4Aは本発明の実施例4に係るGFP蛍光観察したT
1世代種子の全体写真の図である。
図4Bは、本発明の実施例4に係るT
1世代の半切種子のGFP蛍光観察写真の図である。
図4Cは、本発明の実施例4に係るT
1世代の幼葉のGFP蛍光写真の図である。
図4Dは、本発明の実施例4に係るT
1世代の成葉のGFPタンパク質を検出したウェスタンブロット写真の図である。
【
図5A】
図5Aは、主茎から得られたT
1種子の幼葉から得られたゲノミックDNAのサザン解析の結果を示す写真である。
【
図5B】
図5Bは、主茎および分げつから得られたT
1種子の幼葉から得られたゲノミックDNAのサザン解析の結果を示す写真である(実施例5)。
【
図6】
図6は、トウモロコシのGFPの一過性発現を示す写真である(実施例6)。
【
図7】
図7は、ダイズのGFPの一過性発現を示す写真である(実施例7)。
【
図8】
図8は、オオムギのGFPの一過性発現を示す写真である(実施例8)。
【
図9】
図9は、ジャガイモのGFPの一過性発現を示す写真である(実施例9)。
【
図10】
図10は、標的遺伝子導入個体を示す図である(実施例12)。
【
図11】
図11は、遺伝子導入後1週間後の茎頂における標的遺伝子の変異導入を示す図である(実施例13)。
【
図12】
図12は、T
0世代成葉における標的遺伝子導入個体を示す図である(実施例13)。
【
図13】
図13は、T
1世代葉における標的遺伝子変異導入を示す図である(実施例13)。
【
図14】
図14は、Cas9タンパク質直接導入による標的遺伝子導入個体を示す図である(実施例14)。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明に係るインプランタゲノム編集方法においては、植物の完熟種子を吸水させる工程、次に種子における胚の茎頂を露出させる工程、次に茎頂の細胞をゲノム編集する工程、を含む。
【0013】
本明細書において、「ゲノム編集」とは、ニューブリーディングテクニック(NBT)といわれる技術の一部で、メガヌクレアーゼ、CRISPR-CASなどを用いて、ゲノム上の特定の遺伝子を切断して変異を導入することで遺伝子を破壊すること、もしくは、部位特異的にDNA断片を挿入または置換すること、または、CRISPRシステムから、ヌクレアーゼ活性を除去したものに、脱アミノ化酵素であるデアミナーゼを付加した人工酵素複合体を構築し、細胞中で発現させることで、狙った点変異を高効率に導入して遺伝子機能を改変することも含まれるがこれらに限られず、ゲノムを編集できる技術であればよい。ゲノム編集技術を用いることで、狙った遺伝子を高い効率で破壊できる。遺伝子破壊の場合、遺伝子組換えの痕跡を残さずに狙った遺伝子のみを破壊できることから組換え植物と取り扱わない国もある。また、ゲノム編集によれば、切断配列の両側の配列に相同な断片を、その部位に導入したいDNA断片の両側に連結しておくことで、効率よく部位特異的なDNA断片の挿入または置換が可能である。
【0014】
上記意味で、ゲノム編集は、外来遺伝子がほぼランダムに組み込まれる従来型の植物の形質転換法、例えば、直接導入法やアグロバクテリウム法などとは異なる技術とも言える。ゲノム編集技術では、切断部位をターゲティングできるヌクレアーゼまたはガイドRNAとヌクレアーゼを用いてゲノムDNAを切断する工程を含むことが特徴で、かかるターゲティングできるヌクレアーゼまたはガイドRNAとヌクレアーゼを用いない従来型の形質転換法とは区別できる。ここで、「ヌクレアーゼまたはガイドRNAとヌクレアーゼを用いて」という意味は、ヌクレアーゼタンパク質を細胞に導入してもよく、ヌクレアーゼ遺伝子をコードするDNAおよび/またはRNAを細胞に導入してヌクレアーゼタンパク質を発現させてもよいという意味である。また、ガイドRNAについてもRNAを細胞に導入してもよく、ガイドRNAを発現し得るDNAを導入してガイドRNAを発現させてもよい趣旨である。
【0015】
本明細書において、「種子」とは、植物を天然またはそれに近い条件下で栽培(または培養)して得られる天然の種子のみでなく、人工種子も含むが、好ましくは天然の種子である。ただし、形質転換可能な茎頂が取得できる人工種子が開発されればそれを用いることも可能である。天然の種子には、野外の畑などで得られる種子のみでなく、温室栽培により得られる種子や、インビトロ苗などの組織培養物から得られる種子も含まれる。組織培養(ダイレクト・リプログラミングなど)により得られる種子も茎頂が取得できる限り本発明の種子として使用し得る。
【0016】
なお、本発明においては、茎頂を取得する材料として完熟種子または地下茎を用いるのが好ましい。完熟種子とは、受粉後の登熟過程が終了して種子として完熟しているものをいう。地下茎とは、地下にある茎の総称で、塊状で多くの芽をもつ塊茎,球状で大きな頂芽をもつ球茎,短縮した茎に肥大した鱗片葉がついて球状となった鱗茎などをいう。
【0017】
本明細書において、茎頂とは、茎の先端の成長点(茎頂分裂組織)ならびに成長点および成長点から生じた数枚の葉原基からなる組織を含む意味である。本発明においては、葉原基を除去した半球状(ドーム状)の成長点のみを茎頂として用いても良く、成長点および葉原基を含む茎頂や該茎頂を含む植物組織を用いてもよい。葉原基を除去した成長点のみを用いることでウイルスフリーの組織が得られる。また、本明細書において、「生殖細胞系列」とは、生殖細胞の源である始原生殖細胞から最終産物である卵細胞や精細胞に至るまでの生殖細胞の総称であり、「L2層」とは、茎頂分裂組織の外側から2番目の細胞層をいう。
【0018】
1.ゲノム編集の前処理工程
本発明に係るインプランタゲノム編集方法は、広く一般に種子を生じる植物、地下茎を生じる植物および茎頂培養可能な植物に適用することができる。従って、本発明に係るインプランタゲノム編集方法の対象植物は、被子植物及び裸子植物を含む種子植物である。被子植物には、単子葉植物及び双子葉植物が含まれる。インプランタゲノム編集法とは、一般には組織培養の操作を含まないゲノム編集法であり,植物が成長する状態のまま成長点部位の細胞をゲノム編集させる方法である。ただし、本明細書においては、インプランタゲノム編集法は、茎頂培養を経て植物体を得る組織培養操作のみは含み、その他の組織培養の操作は含まれないという意味で使用する。インプランタ法も同様の意味である。
【0019】
単子葉植物としては、いずれの種類であってもよいが、例えば、イネ科植物、ユリ科植物、バショウ科植物、パイナップル科植物、ラン科植物などが挙げられる。
【0020】
イネ科植物としては、イネ、コムギ、オオムギ、トウモロコシ、エンバク、シバ、ソルガム、ライムギ、アワ、サトウキビなどが挙げられる。ユリ科植物としては、ネギ、アスパラガスなどが挙げられる。バショウ科植物としては、バナナなどが挙げられる。パイナップル科植物としては、パイナップルなどが挙げられる。ラン科植物としては、ランなどが挙げられる。
【0021】
双子葉植物としては、例えば、アブラナ科植物、マメ科植物、ナス科植物、ウリ科植物、ヒルガオ科植物、バラ科植物、クワ科植物、アオイ科植物、キク科植物、ヒユ科植物、およびタデ科植物などが挙げられる。
【0022】
アブラナ科植物としては、シロイヌナズナ、ハクサイ、ナタネ、キャベツ、カリフラワー、ダイコンなどが挙げられる。マメ科植物としては、ダイズ、アズキ、インゲンマメ、エンドウ、ササゲ、アルファルファなどが挙げられる。ナス科植物としては、トマト、ナス、ジャガイモ、タバコ、トウガラシなどが挙げられる。ウリ科植物としては、マクワウリ、キュウリ、メロン、スイカなどが挙げられる。ヒルガオ科植物としては、アサガオ、サツマイモ(カンショ)、ヒルガオなどが挙げられる。バラ科植物としては、バラ、イチゴ、リンゴなどが挙げられる。クワ科植物としては、クワ、イチジク、ゴムノキなどが挙げられる。アオイ科植物としては、ワタ、ケナフなどが挙げられる。キク科植物としては、レタスなどが挙げられる。ヒユ科植物としては、テンサイ(サトウダイコン)などが挙げられる。タデ科植物としては、ソバなどが挙げられる。
【0023】
一方、裸子植物としては、マツ、スギ、イチョウ及びソテツなどが挙げられる。
【0024】
本発明に係るインプランタゲノム編集方法の1実施態様としては、まず植物の完熟種子を吸水させる。必要により吸水前に春化処理をしてもよい。吸水は、種子を水に浸種し、インキュベートすることにより行われる。吸水温度は、例えば、コムギ、オオムギまたはイネの場合には、15~25℃が好ましく、トウモロコシまたはダイズでは25~35℃が好ましい。この際、一度以上、水を交換してもよい。吸水期間は、例えば、コムギの場合には、幼根が伸長を開始する前まで、又は新しい葉原基が形成される前までが好ましい。吸水時間で表すと、種子の休眠状態にもよるが、吸水後16時間未満であり、好ましくは12時間である。この吸水工程により、種子を柔らくすることで茎頂を露出させ易くすることができる。
【0025】
2.種子における胚の茎頂を露出させる工程
次いで、上記で吸水させた種子における胚の茎頂を露出させる。コムギ、オオムギ、イネ又はトウモロコシの場合には、鞘葉及び葉原基を除去することで、茎頂を露出させる。ダイズの場合には、種皮及び子葉を除去することで、茎頂を露出させる。ジャガイモの場合には、種芋から芽出しを行い、切り出した幼芽より葉原基を除去することで、茎頂を露出させる。リンゴの場合には、種子胚または摘出した頂芽もしくは側芽から葉原基を除去することで、茎頂を露出させる。露出手段としては、実体顕微鏡下において、鞘葉及び葉原基または種皮及び子葉を除去することができるものであればいずれのものであってよいが、例えば、直径0.2mm程度の針などの穿設するための器具、ピンセット、ピペット、注射器、並びにメスおよびカッターなどの切断器具が挙げられる。次いで、メスなどの切断器具を用いて胚乳及び余分な胚盤部分を切除し、露出した茎頂を含む胚及び胚盤を寒天培地上に、茎頂を上向きに置床する。ウイルスフリーの茎頂を得るために、茎頂を切り出す最終段階でメスを新規な滅菌メスに取り替えてもよい。この場合はウイルスフリーの植物体を得ることができる。
【0026】
3.茎頂の細胞に核酸および/またはタンパク質を導入する工程
部位特異的ヌクレアーゼなどの目的遺伝子の導入には、公知の遺伝子工学的手法を用いることができ、特に限定されない。一般的には、目的遺伝子を含む組換えベクターを作製して、完熟胚の茎頂を標的に、アグロバクテリウム法、エレクトロポレーション法、パーティクルガン法、PEG-リン酸カルシウム法、リポソーム法、マイクロインジェクション法、ウィスカー法、プラズマ法、レーザーインジェクション法などにより、核酸(組換えベクターなど)やタンパク質などを導入することができるが、コムギ、イネ、トウモロコシ又はダイズでは、植物体への導入効率から、パーティクルガン法を用いて完熟種子胚に導入する方法が好ましい。また、パーティクルガン法はジャガイモの茎頂に遺伝子を導入するのにも有効である。パーティクルガン法は、金属微粒子に核酸および/またはタンパク質をコーティングして細胞組織に打ち込む方法であり、単子葉植物のようにアグロバクテリウムの感染効率が低い場合に有効である。
【0027】
本発明に用いるベクターは特に限定されず、例えば、pAL系(pAL51、pAL156など)、pUC系(pUC18、pUC19、pUC9など)、pBI系(pBI121、pBI101、pBI221、pBI2113、pBI101.2など)、pPZP系、pSMA系、中間ベクター系(pLGV23Neo、pNCATなど)、カリフラワーモザイクウイルス(CaMV)、インゲンマメモザイクウイルス(BGMV)、タバコモザイクウイルス(TMV)などを用いることができる。
【0028】
目的遺伝子を含むベクターは、例えば以下のようにして作製することができる。ベクターに目的遺伝子を挿入するには、例えば、精製されたDNAを適当な制限酵素で切断し、適当なベクターDNAの制限酵素部位又はマルチクローニングサイトなどに挿入してベクターに連結する方法を用いることができる。また、二重交叉組換え(double cross-over)により中間ベクターに目的遺伝子を挿入してもよく、TAクローニング、In-Fusionクローニングなどを用いてもよい。
【0029】
ゲノム編集のターゲットとなる遺伝子は特に限定されず、その遺伝子の破壊または挿入・置換が望まれるものであればよい。また、導入するヌクレアーゼ遺伝子は、由来する生物種が異なるものであってもよく、例えば、動物、植物、微生物、ウイルスなどの遺伝子や、人工合成遺伝子を用いることができる。そのような遺伝子としては、例えば、メガヌクレアーゼ遺伝子、TALEN、CRISPR-CASシステム、TARGET AIDなどがあげられる。
【0030】
ゲノム編集のターゲットとなりうる遺伝子としては特に制限はないが、例えば、糖代謝関連遺伝子、脂質代謝関連遺伝子、有用物質(医薬、酵素、色素、芳香成分など)生産関連遺伝子、植物生長制御(促進/抑制)関連遺伝子、開花調節関連遺伝子、耐病虫害性(昆虫食害抵抗性、線虫、カビ(菌類)及び細菌病抵抗性、ウイルス(病)抵抗性など)関連遺伝子、環境ストレス(低温、高温、乾燥、塩、光障害、紫外線)耐性関連遺伝子、トランスポーター関連遺伝子、製粉特性・製パン特性・製麺特性関連遺伝子、組換え酵素関連遺伝子などが挙げられる。
【0031】
ゲノム編集の標的となる遺伝子については、切断した部位の間に組換えにより外来DNA挿入または置換することにより目的の変異を導入してもよい。
【0032】
部位特異的ヌクレアーゼ遺伝子がコードするタンパク質としては、例えば、ジンクフィンガーヌクレアーゼ、ジンクフィンガーヌクレアーゼ活性を発現するタンパク質またはTAL effector nuclease(TALLEN)などが挙げられる。ジンクフィンガーヌクレアーゼは、特定の塩基を認識するジンクフィンガーモチーフ数個とFokIヌクレアーゼの融合タンパク質である。TALLENはTranscription Activator Like (TAL) effectorとFokIヌクレアーゼの融合タンパク質である。部位特異的ヌクレアーゼは、他の追加の標的化技術、例えば、メガヌクレアーゼ、RNA誘発性CRISPR-Cas9、またはロイシンジッパーなどで構成される。
【0033】
部位特異的ヌクレアーゼを遺伝子銃を用いて茎頂に導入して、ゲノム編集することにより、1つ以上の遺伝子産物の発現を変更または改変することができる。すなわち、1つ以上の遺伝子産物をコードするDNA分子を含有し、発現し得る細胞中に、Casタンパク質およびDNA分子をターゲティングする1つ以上のガイドRNAを含み得るCRISPR-Casシステムを導入し、それにより1つ以上のガイドRNAが、1つ以上の遺伝子産物をコードするDNA分子のゲノム遺伝子座をターゲティングし、Casタンパク質が、1つ以上の遺伝子産物をコードするDNA分子のゲノム遺伝子座を開裂し、それにより1つ以上の遺伝子産物の発現を変更または改変することができる。
【0034】
遺伝子銃を用いてヌクレアーゼ遺伝子またはタンパク質を細胞に導入してゲノム編集を行う場合、必ずしもゲノムにインテグレートさせて安定な形質転換体を取る必要は無い。ヌクレアーゼ遺伝子を一過的に発現させ、それによりゲノム編集を行うことができる。また、タンパク質(およびガイドRNA)を細胞に導入することによってもゲノム編集を行うことができる。これらの方法によれば、得られたゲノム編集個体は遺伝子組換え体とはならない場合がある。
【0035】
Casタンパク質およびガイドRNAは、天然に存在するもの(組み合わせ)であってもよく、天然には存在しない組み合わせであってもよい。本発明においては、2つ以上の遺伝子産物の発現を変更または改変してもよい。ガイドRNAが、tracr配列に融合しているガイド配列を含んでいてもよい。
【0036】
ガイドRNAの長さは、少なくとも15、16、17、18、19、20ヌクレオチドである。好ましいヌクレオチド長の上限としては、30以下、より好ましくは25以下、さらに好ましくは22以下、最も好ましくは20以下である。
【0037】
好ましい実施形態において、ゲノム編集の対象となる細胞は、植物細胞であり、さらに好ましくは、茎頂分裂組織の細胞であり、もっとも好ましくは、茎頂分裂組織中の生殖細胞系列に移行する細胞である。
【0038】
本発明においては、Casタンパク質が1つ以上の核局在化シグナル(NLS)を含んでいてもよい。一部の実施形態において、Casタンパク質は、II型CRISPR系酵素である。一部の実施形態において、Casタンパク質は、Cas9タンパク質である。一部の実施形態において、Cas9タンパク質は、肺炎連鎖球菌(S.pneumoniae)、化膿性連鎖球菌(S.pyogenes)、またはS.サーモフィラス(S.thermophilus)Cas9であり、それらの生物に由来する突然変異Cas9を含み得る。タンパク質は、Cas9ホモログまたはオルソログであり得る。
【0039】
Casタンパク質は、真核細胞中の発現のためにコドン最適化されていてもよい。Casタンパク質は、標的配列の局在における1または2つの鎖の開裂を指向し得る。本発明の他の側面において、遺伝子産物の発現を減少させ、遺伝子産物はタンパク質である。
【0040】
ベクターには、目的遺伝子のほかに、例えばプロモーター、エンハンサー、インシュレーター、イントロン、ターミネーター、ポリA付加シグナル、選抜マーカー遺伝子などを連結することができる。
【0041】
ベクターに挿入する目的遺伝子は1ベクターあたり複数種であってもよく、微粒子に被覆する組換えベクターも1微粒子あたり複数種であってもよい。例えば、ヌクレアーゼ遺伝子を含む組換えベクターと、薬剤耐性遺伝子を含む組換えベクターを別々に作製し、混合して微粒子を被覆して植物組織に撃ち込んでもよい。
【0042】
ゲノム編集の目的遺伝子は2以上であってもよく、2以上の目的遺伝子を切断できるようにベクターを構築してもよい。その場合、2種類以上のベクターを作製してもよく、1つのプラスミド上に複数のガイドRNAを発現するように挿入してもよい。また、ガイドRNAがtracr配列に融合しているガイド配列を含んでいてもよい。
【0043】
ゲノム編集により、部位特異的に二本鎖を切断し、相同組換えを促進して部位特異的ゲノム編集を行ってもよい。この場合は切断領域の両側に相同な配列を有するDNAを導入して二重交叉組換えを起こせばよい。また、ニッカーゼ(一方のDNA鎖のみにnickを入れるDNA切断酵素)として機能することが知られているCas9のD10A変異体を用いても同様に相同組換えを行うことができる。
【0044】
プロモーターとしては、植物体内または植物細胞において機能し、構成的に発現するか、植物の特定の組織内あるいは特定の発育段階において発現を導くことのできるDNAであれば、植物由来のものでなくてもよい。具体例としては、例えば、カリフラワーモザイクウイルス(CaMV)35Sプロモーター、El2-35Sオメガプロモーター、ノパリン合成酵素遺伝子のプロモーター(Pnos)、トウモロコシ由来ユビキチンプロモーター、イネ由来のアクチンプロモーター、タバコ由来PRタンパク質プロモーター、ADHプロモーター、RuBiscoプロモーターなどが挙げられる。翻訳活性を高める配列、例えば、タバコモザイクウイルスのオメガ配列を用いて翻訳効率を上げることができる。また、翻訳開始領域としてIRES(internal ribosomal entry site)をプロモーターの3’-下流側で、翻訳開始コドンの5’-上流側に挿入することで複数のコーディング領域からタンパク質を翻訳させることもできる。
【0045】
ターミネーターとしては、前記プロモーターにより転写された遺伝子の転写を終結でき、ポリA付加シグナルを有する配列であればよく、例えば、ノパリン合成酵素(NOS)遺伝子のターミネーター、オクトピン合成酵素(OCS)遺伝子のターミネーター、CaMV 35S ターミネーターなどが挙げられる。
【0046】
選抜マーカー遺伝子としては、例えば、除草剤耐性遺伝子(ビアラホス耐性遺伝子、グリフォセート耐性遺伝子(EPSPS)、スルホニル尿素系耐性遺伝子(ALS))、薬剤耐性遺伝子(テトラサイクリン耐性遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、カナマイシン耐性遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子、スペクチノマイシン耐性遺伝子、クロラムフェニコール耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子など)、蛍光または発光レポーター遺伝子(ルシフェラーゼ、β-ガラクトシダーゼ、β-グルクロニターゼ(GUS)、グリーンフルオレッセンスプロテイン(GFP)など)、ネオマイシンホスホトランスフェラーゼII(NPT II)、ジヒドロ葉酸レダクターゼなどの酵素遺伝子が挙げられる。ただし、本発明によれば選抜マーカー遺伝子を導入しなくてもゲノム編集された植物体の作製は可能である。
【0047】
上記目的遺伝子を標的とするヌクレアーゼを含むベクターを、パーティクルガン法でコムギの完熟胚に撃ち込む。目的遺伝子を標的とするヌクレアーゼ遺伝子をコードする核酸および/またはタンパク質(ヌクレアーゼなど)は微粒子(マイクロキャリア)の表面に被覆して植物細胞に遺伝子銃で撃ち込むことができる。微粒子としては、細胞内への貫通力を高めるため、高比重で、かつ、化学的に不活性であり生体に害を及ぼしにくいという理由から金属微粒子が好ましく用いられる。金属微粒子の中でも、金粒子、タングステン粒子などが特に好ましく用いられる。
【0048】
パーティクルガン法では以下のようにして目的遺伝子を植物細胞に導入することができる。まず、金粒子またはタングステン粒子などの微粒子を洗浄滅菌し、該微粒子、核酸(組換えベクター、直鎖状DNA、RNAなど)および/またはタンパク質、CaCl2、スペルミジンをボルテックスミキサーなどで攪拌しながら加えて、DNA・RNAおよび/またはタンパク質を金粒子またはタングステン粒子にコーティングし、エタノールまたはリン酸緩衝生理食塩水(PBSなど)で洗浄する。
【0049】
前記微粒子の粒径(直径)は0.3μm以上1.5μm以下が好ましく、より好ましい粒径は0.4μm以上、さらに好ましくは0.5μm以上、特に好ましくは0.6μmを用いる。粒径のより好ましい上限としては、1.4μm以下、さらに好ましくは1.3μm以下、よりさらに好ましくは1.2μm以下、特に好ましくは1.1μm以下、最も好ましくは1.0μm以下である。
【0050】
金粒子またはタングステン粒子は、ピペットマンなどを用いてマクロキャリヤーフィルムに可能な限り均一に塗布した後、クリーンベンチなどの無菌環境中で乾燥させる。タンパク質をコートした微粒子の場合は、親水性のマクロキャリヤーフィルムを用いるのが好ましい。
【0051】
親水性のマクロキャリアフィルムは、マクロキャリアフィルムに親水性フィルムを貼付しても良いし、親水性コーティングを施しても良い。フィルムを親水化する手法としては、界面活性剤や光触媒、親水性ポリマーを利用する手法等が挙げられる。
【0052】
上記手法に用いられる親水性ポリマーとしては、ポリエチレングリコール、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、ジヒドロキシエチルメタクリレート、ジエチレングリコールメタクリレート、トリエチレングリコールメタクリレート、ポリエチレングリコールメタクリレート、ビニルピロリドン、アクリル酸、アクリルアミド、ジメチルアクリルアミド、グルコキシオキシエチルメタクリレート、3-スルホプロピルメタクリルオキシエチルジメチルアンモニウムベタイン、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン、1-カルボキシジメチルメタクリロイルオキシエチルメタンアンモニウム等の親水性モノマーの重合体が挙げられる。
【0053】
そして、マクロキャリヤーフィルム、ターゲットの完熟胚の茎頂を置床したプレートをパーティクルガン装置に設置し、ガス加速管から高圧ヘリウムガスをマクロキャリヤーフィルムに向かって発射する。マクロキャリヤーフィルムはストッピングプレートで止まるが、金粒子はストッピングプレートを通過して、ストッピングプレートの下に設置したターゲットに貫入し、目的遺伝子が導入される。
【0054】
ストッピングプレートとターゲットとなる茎頂との距離は、微粒子の粒径にもよるが、例えば、9cm以下が好ましく、より好ましくは8cm以下、さらに好ましくは7cm以下、特に好ましくは6cm以下であり、距離の下限としては、例えば、2cm以上が好ましく、より好ましくは3cm以上、さらに好ましくは4cm以上である。ストッピングプレートとターゲットの距離は、微粒子の種類、粒径、ガス圧などに応じて、一過的発現実験などにより、適宜最適な値を決定することができる。
【0055】
ガス圧としては、微粒子の種類、ターゲットとの距離にもよるが、好ましくは、例えば、1,100~1,600psiが好ましく,より好ましくは1,200~1,500psiである。ガス圧については、微粒子の種類、ターゲットの種類、ターゲットとストッピングプレートとの距離などに応じて、一過的発現実験などにより、適宜最適な圧力を決定することができる。
【0056】
本発明において、茎頂に微粒子を撃ち込む回数としては、2回以上が好ましく、さらに好ましくは3回以上、より好ましくは4回以上である。茎頂に微粒子を撃ち込む回数の上限としては、20回以下が好ましく、より好ましくは15回以下、さらに好ましくは10回以下である。撃ち込む回数については、一過的発現実験などにより、適宜最適な回数を決定することができる。
【0057】
微粒子を撃ち込まれた細胞中では、核酸および/またはタンパク質が微粒子から遊離し、核酸が核に移行してヌクレアーゼを発現することでゲノムDNAを切断し、その修復の過程で変異が起こりゲノム編集された細胞が得られる。タンパク質の場合は、核移行シグナル(オルガネラ移行シグナルであってもよい)により核(オルガネラ)に移行し、DNAを切断することにより、ゲノム編集が起こる。ゲノム編集は核のゲノム遺伝子のみでなく、オルガネラ(葉緑体、ミトコンドリアなどの細胞内小器官)の遺伝子についても適用可能である。この場合は、各オルガネラへの移行シグナルをヌクレアーゼに連結させて導入してもよく、ヌクレアーゼなどに連結するプロモーターを各オルガネラでのみ発現するプロモーターを用いてもよい。
【0058】
ヌクレアーゼを導入し、ゲノム編集した完熟胚の茎頂を寒天培地上で1ヶ月程度生育させた後、土へ移植する。茎頂への撃ち込みの場合、薬剤などによる選択圧をかけずに(抗生物質などを含まない)通常の培地で生育させることによってもゲノム編集された植物個体を得ることができるが、ヌクレアーゼと薬剤耐性遺伝子を同時に導入することでゲノム編集個体を選択することもできる。薬剤耐性遺伝子を導入した場合は、薬剤によりヌクレアーゼ遺伝子および/またはヌクレアーゼが導入された細胞を選択的に培養することができる。茎頂培養に適した選択薬剤としては、例えば、スルフォニル尿素系除草剤クロロスルフロン(変異型ALS遺伝子(アセト酪酸合成酵素遺伝子)導入により耐性獲得可能)などが知られている。
【0059】
薬剤耐性遺伝子を導入する場合、該薬剤耐性遺伝子はヌクレアーゼ遺伝子と同じベクター上にあってもよく別のベクター上にあってもよい。別々のベクター上に挿入した場合は、それらが別々の染色体に組み込まれた場合、自家受粉や戻し交配を行って後代を取ることによりゲノム編集された植物個体と薬剤耐性遺伝子を有する植物個体とに分離できるというメリットがある。
【0060】
以上の手法により、目的遺伝子をゲノム編集された植物体を作出することができる。また、このようにして作出された植物は、安定的にゲノム編集された遺伝子の形質が発現し、または目的遺伝子の発現が抑制され、後代に正常に遺伝する(伝達される)。
【0061】
コムギへの遺伝子導入効率およびゲノム編集効率は、以下のようにして調べることができる。
【0062】
遺伝子の導入効率は、遺伝子導入処理後の生育個体からDNAを抽出して、PCR法および/またはサザンブロット法を行うことにより、目的遺伝子がゲノム編集されたか否かを検出することができ、導入に用いた外植片数と外来遺伝子を有していた生育個体数から、ゲノム編集効率を算出する。
【0063】
目的遺伝子のゲノム編集効率は、遺伝子の導入が確認された生育個体について、目的遺伝子から発現されたRNAの有無を調べる。RNAの有無は、例えばRT-PCR法などで確認することができる。ノザンブロッティングにより検出してもよい。
【0064】
また、ゲノム編集された目的遺伝子から発現されたタンパク質の有無を調べることもできる。タンパク質の有無は、例えば植物片の染色、電気泳動、ELISA法、RIA、ドットイミュノバイディングアッセイ、および/またはウエスタンブロット法などで確認することができる。そして導入に用いた外植片数と目的遺伝子がゲノム編集されたタンパク質の存在(または非存在)が確認された生育個体数から、目的遺伝子のゲノム編集効率を算出する。
【実施例0065】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0066】
[実施例1]遺伝子導入に最適な金粒子径の検討
適切な金粒子径を見出すため、遺伝子導入処理後の茎頂におけるGFP蛍光の有無又はその当代(T0世代)における導入遺伝子の有無を調査した。
【0067】
1.GFP蛍光タンパク質の一過的発現系を指標とした調査
(1)コムギ完熟種子の調製
コムギ(Triticum aestivum cv. Fielder)の完熟種子をハイター(次亜塩素酸濃度6%、花王株式会社)に浸漬し、室温で20分間振とう後、クリーンベンチ内で滅菌水で洗浄した。洗浄後、滅菌水で湿らせたキムタオル又はろ紙上に載せ、休眠打破のため4℃にて2日間インキュベートした。その後、22℃で約12時間インキュベートし、以下の実験に用いた。
【0068】
(2)完熟種子胚中の茎頂の露出
実体顕微鏡下において、上記発芽種子の胚部分の鞘葉及び第1葉原基から第3葉原基を針(直径0.20mm)の先端を用いて除去した。その後、滅菌済みナイフ(または滅菌済みメス)を用いて、胚乳及び余分な胚盤部分を除去し、茎頂部分を完全に露出させた。これを30個/プレートとなるようにMS-maltose培地(4.3g/L MS salt,MS vitamin,30g/L マルトース,0.98g/L MES,3%PPM(plant preservative mixture,ナカライテスク),7.0g/L phytagel(登録商標、シグマアルドリッチ),pH5.8)に置床した。
【0069】
(3)遺伝子導入
コムギ完熟胚の茎頂への遺伝子導入は、パーティクルガン法を用いて以下のようにして行った。
実施例においては、蛍光レポーター遺伝子GFP(S65T)を含むプラスミドDNA(pUC系プラスミド)を用いた。当該遺伝子は、トウモロコシのユビキチンプロモーターと第一イントロンの制御下で発現するよう設計されたものである。ターミネーターとしては、ノパリン合成酵素(NOS)遺伝子のターミネーターが付加されている。
0.3μmから1.6μmの各金粒子30mgをはかり取り、70%エタノール500μLを加え、ボルテックスにてよく懸濁した。その後、遠心により金粒子を沈殿させ、エタノールを除去した。その後、50%グリセロール500μLを加え滅菌金粒溶液とした。
【0070】
1.5mLチューブに、Qiagen Midi Kit(Qiagen)により精製したプラスミドDNA溶液(1μg/μL)を、金粒子750μgあたり5μgになるように入れた。滅菌金粒子含有溶液は使用前に、超音波発生器(多賀電機製超音波洗浄機UW-25)を使って念入りに懸濁し、上記チューブに適当量入れピペッティングにより攪拌した。次に上記チューブに、金粒子750μgあたり2.5M CaCl2(nacalai tesque)25μLと0.1M Spermidine(nacalai tesque)10μLを加えた。混合後すぐに、ボルテックスにより5分間激しく懸濁した。10分間室温にて静置後、9,100×gで2秒間遠心した。上清を除去し、70%エタノール及び99.5%エタノールで洗浄した。最後に、上清を除去して99.5%エタノールを24μL添加してよく懸濁した。クリーンベンチ内でマクロキャリアの中央に6μLずつ注ぎ、風乾させた。
【0071】
パーティクルガンは、Biolistic(登録商標) PDS-1000/He Particle Delivery System(BIO-RAD)を使用し、撃ち込み時の圧力は約94.9kgf/cm2(1,350psi)とし、標的組織までの距離は5cm(金粒子径0.6μm以上)または3.5cm(金粒子径0.6μm未満)とした。1シャーレにつき4回ずつ撃ち込んだ。撃ち込み後、22℃、暗所において一晩静置した。
【0072】
(4)GFPタンパク質の一過的な発現効率の調査
実体蛍光顕微鏡 (Leica社製MZFLIII)下で茎頂におけるGFP蛍光(励起:470/40 吸収:525/50)を観察することで(
図1)、茎頂におけるGFP遺伝子の導入効率を算出した。形質転換処理した完熟胚中、茎頂組織において5スポット以上のGFP蛍光が観察されたものを遺伝子導入個体として、遺伝子導入効率(遺伝子導入個体/処理完熟胚数×100)を算出した。その結果、金粒子径1.6μm及び1.0μmに比べ、金粒子径0.8μm、0.6μm、及び0.3μmの場合では茎頂における遺伝子導入効率が高かった(表1)。特に、0.6μmを用いたときは、他の金粒子径と比較して、茎頂における遺伝子導入効率が72.7%と最も高かった(表1)。また、後述するように、遺伝子導入効率についても、金粒子1.0μmよりも0.6μmの方が高かった。
【0073】
【0074】
2.T0世代植物におけるゲノミックPCRを指標とした調査
(1)コムギ完熟種子の調製
実施例1-1-(1)に記載の方法に準拠して行った。
(2)完熟種子胚中の茎頂の露出
実施例1-1-(2)に記載の方法に準拠して行った。
(3)遺伝子導入
0.6μm、1.0μmの2種の金粒子径を用い、実施例1-1-(3)に記載の方法に準拠して行った。
【0075】
(4)形質転換処理個体の生育
一晩静置した形質転換処理個体をMS-maltose培地を入れたディスポーザブル植物細胞培養容器(Sigma)に移植し、長日(22℃、16時間日長)で育成した。3-4週間生育させた後、第2-3葉が観察された時点で、園芸用育苗培土を入れたポットへ移植した。その後、長日の人工気象室(24℃、16時間日長、湿度50-70%)にて第4-6葉が出るまで育成した。
【0076】
(5)T0植物葉における導入遺伝子の有無
得られた植物体において、蛍光レポーター遺伝子であるGFP遺伝子の有無をPCR法により調査した。第4-6葉(50mg)から塩化ベンジル法を用いてゲノミックDNAを抽出し、これを鋳型として、GFP遺伝子に特異的な配列から作製したプライマーを用いてPCR反応を行った。
プライマーの配列:ACGGCCACAAGTTCAGCGT(配列番号1)
プライマーの配列:ACCATGTGATCGCGCTTCT(配列番号2)
【0077】
PCR反応液には、ゲノミックDNA20ng、ExTaqHS(登録商標、TaKaRa)0.25U、10×添付バッファー1.5μL、2mMdNTPs、プライマー対各2.5pmolを加え、滅菌蒸留水で合計15μLにフィルアップした。
【0078】
PCRは、TaKara PCR Thermal Cycler Dice(登録商標)を用いて、95℃で3分処理後、95℃を30秒、60℃を30秒及び72℃を1分の反応を1サイクルとしてこれを33サイクル行った。PCR反応後、1.0%のアガロースゲル電気泳動を行い、エチジウムブロマイドで染色してPCR産物を検出し、予想される601bpのGFP遺伝子断片が検出されたものを、遺伝子導入個体と判断した。
【0079】
遺伝子導入に用いた金粒子径1.0μm、0.6μmの2通りにおいて、それぞれ得られた遺伝子導入個体数から遺伝子導入処理を行った完熟胚数当たりの遺伝子導入効率(遺伝子導入個体数/処理完熟胚数×100)を算出した。
【0080】
その結果、1.0μm径の金粒子を用いた場合において、導入遺伝子は検出されなかった(表2)。一方、0.6μm径の金粒子を用いた場合において、導入遺伝子確認個体(T0世代)は3個体(遺伝子導入効率1.4%)検出された(表2)。このことから、金粒子径1.0μmと比較し、実施例1-1-(4)において一過的な発現効率が高かった金粒子径0.6μmを用いることで、遺伝子導入効率が向上することがわかった。
【0081】
【0082】
[実施例2]遺伝子導入に最適なガス圧の検討
適切なガス圧を見出すため、遺伝子導入処理後の茎頂におけるGFP蛍光の有無とその当代(T0世代)における導入遺伝子の有無を調査した。
1.GFP蛍光タンパク質の一過的発現系を指標とした調査
(1)コムギ完熟種子の調製
実施例1-1-(1)に記載の方法に準拠した。
(2)完熟種子胚中の茎頂の露出
実施例1-1-(2)に記載の方法に準拠した。
(3)遺伝子導入
金粒子径を0.6μm、ガス圧を1,100psiまたは1,350psiとし、実施例1-1-(3)に記載の方法に準拠した。
【0083】
(4)GFPタンパク質の一過的な発現効率の調査
実施例1-1-(4)に記載の方法に準拠した。その結果、実施例1-1-(4)に記載の遺伝子導入効率は、ガス圧1,350psiの場合では74.2%となり、ガス圧1,100psiの場合の13.3%に比べ高かった(表3)。また、後述するように、T0世代の遺伝子導入効率についても、ガス圧1,100psiよりもガス圧1,350psiの方が高かった。
【0084】
【0085】
2.T0世代植物におけるゲノミックPCRを指標とした調査
(1)形質転換処理個体の生育
実施例1-2-(4)に記載の方法に準拠した。
(2)T0植物葉における導入遺伝子の有無
実施例1-2-(5)に記載の方法に準拠した。その結果、実施例1-2-(5)に記載の遺伝子導入効率は、ガス圧1,350psiの場合では4.2%となり、ガス圧1,100psiの場合の0.8%に比べ高かった(表3)。このことから、ガス圧1,100psiと比較し、実施例2-1-(4)においてGFPタンパク質の一過的な発現効率が高かったガス圧1,350psiを用いることで、遺伝子導入効率が向上することがわかった。
[実施例3]遺伝子導入に最適な吸水時間の検討
適切な吸水時間を見出すため、遺伝子導入処理後の茎頂におけるGFP蛍光の有無とその当代(T0世代)及び次世代(T1世代)における導入遺伝子の有無を調査した。
【0086】
1.完熟胚の調製及び遺伝子導入操作
(1)コムギ完熟種子の調製
コムギ(Triticum aestivum cv. Fielder)の完熟種子をハイター(次亜塩素酸濃度6%)に浸漬し、室温で20分間振とう後、クリーンベンチ内で滅菌水で洗浄した。洗浄後、滅菌水で湿らせたキムタオル又はろ紙上に載せ、4℃にて2日間インキュベートした。その後、22℃で6~12時間、12~18時間の各時間インキュベートし、以下の実験に用いた。種子根長は、根鞘を切り開いた後に幼根の長さを測定することで調査した。
(2)完熟種子胚中の茎頂の露出
実施例1-1-(2)に記載の方法に準拠して行った。
(3)遺伝子導入
0.6μmの金粒子径を用い、実施例1-1-(3)に記載の方法に準拠して行った。
【0087】
2.T0世代及びT1世代植物におけるゲノミックPCRを指標とした調査
(1)形質転換処理個体の生育
実施例3-1-(3)において茎頂における一過的なGFP蛍光が観察された個体について、実施例1-(2)-4に記載の方法により育成した。
【0088】
(2)T0植物葉における導入遺伝子の有無
実施例1-2-(5)に記載の方法に準拠して行った。各吸水時間後の完熟胚を形質転換処理した場合において、それぞれ得られた導入遺伝子確認個体(T0世代)から遺伝子導入処理を行った完熟胚数当たりの遺伝子導入効率(遺伝子導入個体数/処理完熟胚数×100)を算出した。その結果、6~12時間、12~18時間吸水させた完熟種子を実験に用いた場合の遺伝子導入効率は、それぞれ3.1%、1.3%となり(表3)、吸水6~12時間後の完熟胚で特に高かった(表4)。
【0089】
【0090】
(3)T
1植物葉における導入遺伝子の有無
上記(2)で導入遺伝子が確認された個体を育成し、T
1種子を取得した。各T
1種子を10~20粒程度播種・育成し、第1葉(50mg)をサンプリングした。ゲノミックPCR及び電気泳動は実施例1-(2)-5に準拠して行った。各吸水時間後の完熟胚を形質転換処理した場合において、それぞれ得られた導入遺伝子確認個体(T
1世代)から遺伝子導入処理を行った完熟胚数当たりの遺伝子導入効率(遺伝子導入個体数/処理完熟胚数×100)を算出した。その結果、6~12時間、12~18時間吸水させた完熟種子を実験に用いた場合の遺伝子導入効率はそれぞれ3.1%(
図2系統1及び2、表3)、0.7%(
図2系統3~5、表3)となり、吸水6~12時間後の完熟胚で特に高かった。これらの結果から、遺伝子導入には完熟種子の吸水初期(6時間後から18時間程度であり、種子根長1.0mm以下)が適切であり、特に吸水6~12時間後が好ましいと判断した。
なお、表4に示した導入遺伝子確認個体(T
1世代)5系統については、GFP遺伝子領域をプローブとしたサザンブロット解析によっても、GFP遺伝子がゲノミックDNAへ挿入されているのを確認した(
図3)。
【0091】
[実施例4]T1世代における遺伝子発現の確認
当該遺伝子導入法により作製された形質転換コムギにおける導入遺伝子(GFP遺伝子)発現の有無を調査した。
【0092】
1.T
1種子におけるGFP蛍光観察
実施例3-2-(3)で取得したT
1種子を滅菌シャーレに置き、LAS3000(FujiFilm)下で、T
1種子のGFP蛍光(フィルター510DF10)を観察した結果、種子においてGFP蛍光が観察された(
図4A)。次に、GFP蛍光が観察された種子を半切し、実体蛍光顕微鏡(Leica社製MZFLIII)下で、胚乳のGFP蛍光観察(励起:470/40、 吸収:525/50)を行った。その結果、胚乳(E)においてGFP蛍光が観察された他、アリューロン層(Al)においてGFP蛍光が強く観察された(
図4B)。
【0093】
2.T
1世代幼葉におけるGFP蛍光タンパク質の発現解析
実施例3-2-(3)で育成させたT
1世代植物の幼葉をサンプリングし、実体蛍光顕微鏡(Leica社製MZFLIII)下で、葉におけるGFP蛍光(励起:470/40、 吸収:525/50)を観察した。その結果、
図4Cに示すように、ゲノミックPCR陽性個体(形質転換体)では葉の気孔細胞においてGFP蛍光が観察された。
【0094】
次に、野生型株及び形質転換体(遺伝子導入個体)のそれぞれの成葉から全タンパク質を抽出し、ウェスタンブロット法によるGFP蛍光タンパク質の検出を試みた。成葉1gを液体窒素で凍結・粉砕した後、タンパク抽出バッファー (0.25M sorbitol、50mM Tris/acetate, pH7.5、1mM EDTA、2mM DTT、1%PVP、10μM PMSF)に懸濁した。この抽出液を遠心分離(1,100×g、15分間、4℃)し、その上清をさらに遠心分離(12,800×g、15分間、4℃)した。この遠心分離の後得られた上清を全タンパク質画分とした。全タンパク質画分20μgを12.5%のSDSポリアクリルアミドゲルを用いて電気泳動し、セミドライ法によってニトロセルロースメンブレンに転写した。メンブレンをブロッキングバッファー(5%[w/v] Skim Milk Powder in TTBS(10mM Tris-HCl、150mM NaCl、0.05% Tween-20、pH 7.5))で1時間振盪した。メンブレンをTTBSで5分間×3回洗浄した後、一次抗体を1時間反応させた。メンブレンをTTBSで5分間×3回洗浄した後、二次抗体を1時間反応させた。メンブレンをTTBSで5分間×3回洗浄した後、Amersham ECL Western blotting analysis system (GE Healthcare)のinstruction manualに記載の方法に従って検出を行った。なお、一次抗体として、マウスIgG1κ由来GFP抗体(ROCHE)(2000倍希釈)を用い、二次抗体として上記キットに添付されたペルオキシダーゼ標識抗マウスIgG抗体(5000倍希釈)を使用した。
【0095】
ウェスタンブロット解析の結果、形質転換体ではGFPタンパク質の推定分子量27kDa付近にシグナルが見られたが、野生型株ではシグナルは検出されなかった(
図4D)。これらの結果から、当該遺伝子導入法により作製された形質転換植物では、正常に導入遺伝子が発現していることが確認された。
オオムギ、トウモロコシ、イネ、ダイズ、ジャガイモおよびリンゴについても、本質的にはコムギと同様の手法により形質転換体を得ることができる。
【0096】
[実施例5]T0世代1系統から取得したT1世代各個体における遺伝型の確認
本法において作製された遺伝子導入個体(T0世代)は、同一個体内において異なった遺伝情報を持つ細胞が混在したキメラになる。そこで、ある1系統の遺伝子導入個体(T0世代)から得られた複数のT1種子が、それぞれ異なる遺伝情報を有するか否かを調査するため、サザンブロット解析を行った。
【0097】
実施例3-2-(3)で得られたT0世代のFG1系統の個体から、主茎および5つの分げつ由来の穂ごとにT1種子を収穫し、そこから複数個体を播種した。播種したT1世代個体を生育し、実施例3-2-(3)に記載の方法に従い、各T1世代個体における導入遺伝子の有無を調査した。その結果、分げつ2以外の主茎および分げつ由来の穂から収穫したT1世代において、導入遺伝子を確認した(表5)。
【0098】
【0099】
次に、主茎から得られたT
1種子14個体(FG1-主茎-1~14)の幼葉から得られたゲノミックDNAに対しHindIII処理を行い、GFP遺伝子領域をプローブとしてサザンブロット解析を行った。その結果、全ての個体について同様のシグナルパターンが得られた(
図5A)。さらに、主茎および分げつ1、3、4、5から得られたT
1種子(FG1-主茎-1、FG1-分げつ1-1、FG1-分げつ3-1、FG1-分げつ4-1、FG1-分げつ5-1)の幼葉から得られたゲノミックDNAに対しHindIII処理を行い、上記と同様にサザンブロット解析を行った。その結果、全ての個体について同様のシグナルパターンが得られた(
図5B)。これらの結果から、ある1系統の遺伝子導入個体(T
0世代)から得られた複数のT
1種子は同じ遺伝情報を有することがわかった。これは、生殖細胞系列へ移行する茎頂幹細胞は極少数であることを示唆しており、当該方法によりこの極少数の茎頂幹細胞へ遺伝子導入が可能であることがわかった。
【0100】
[実施例6]トウモロコシにおける形質転換体の取得
コムギと同様の手法によりトウモロコシの形質転換体が得られるか確認するため、遺伝子導入処理後の茎頂におけるGFP蛍光の有無を調査した。
【0101】
1.GFP蛍光タンパク質の一過的発現系を指標とした調査
(1)トウモロコシ完熟種子の調製
トウモロコシ(スノーデント王夏)の完熟種子をハイター(次亜塩素酸濃度6%)に浸漬し、室温で20分間振とう後、クリーンベンチ内で滅菌水で洗浄した。洗浄後、滅菌水で湿らせたキムタオル又はろ紙上に載せ、30℃で約36時間インキュベートし、以下の実験に用いた。
【0102】
(2)完熟種子胚中の茎頂の露出
実体顕微鏡下において、滅菌済みナイフ(または滅菌済みメス)を用いて、胚乳及び余分な胚盤部分を除去した。その後、上記発芽種子の胚部分の子葉鞘及び葉原基を針(直径0.20mm)の先端を用いて除去し、茎頂部分を完全に露出させた。これを10個/プレートとなるようにMS-maltose培地(4.3g/L MS salt ,MS vitamin,30g/L マルトース,0.98g/L MES ,3%PPM(plant preservative mixture,登録商標、ナカライテスク),7.0g/L phytagel,pH5.8)に置床した。一処理区につき上記プレートを2枚用意した。
【0103】
(3)遺伝子導入
実施例1-1-(3)に記載の方法に従った。
【0104】
(4)GFPタンパク質の一過的な発現効率の調査
実体蛍光顕微鏡(Leica社製MZFLIII)下で茎頂におけるGFP蛍光(励起:470/40 吸収:525/50) 吸収:525/50)を観察することで(
図6)、茎頂におけるGFP遺伝子の導入効率を算出した。形質転換処理した完熟胚中、茎頂組織において5スポット以上のGFP蛍光が観察されたものを遺伝子導入個体として、遺伝子導入効率(遺伝子導入個体/処理完熟胚数×100)を算出した。その結果、金粒子径1.6μm及び1.0μmに比べ、金粒子径0.8μm、0.6μm、及び0.3μmの場合では茎頂における遺伝子導入効率が高かった(表6)。特に、0.6μmを用いたときは、他の金粒子径と比較して、茎頂における遺伝子導入効率が85%と最も高かった(表6)。
【0105】
【0106】
[実施例7]ダイズにおける形質転換体の取得
コムギと同様の手法によりダイズの形質転換体が得られるか確認するため、遺伝子導入処理後の茎頂におけるGFP蛍光の有無及びその後の形質転換体取得効率を調査した。
【0107】
1.GFP蛍光タンパク質の一過的発現系を指標とした調査
(1)ダイズ完熟種子の調製
ダイズ(ユキホマレ)の完熟種子をハイター(次亜塩素酸濃度6%)に浸漬し、室温で3分間振とう後、クリーンベンチ内で滅菌水で洗浄した。洗浄後、滅菌水で湿らせたキムタオル又はろ紙上に載せ、23℃で約40時間インキュベートし、以下の実験に用いた。
【0108】
(2)完熟種子胚中の茎頂の露出
実体顕微鏡下において、滅菌済みナイフ(または滅菌済みメス)を用いて、子葉を全てカットし、胚軸のみにした。その後、上記胚軸の初生葉と基部を針(直径0.20mm)の先端を用いて除去し、茎頂部分を完全に露出させた。これを約15個/プレートとなるようにBM培地(4.3g/L MS salt 、MS vitamin、3% スクロース、0.50g/L MES 、3%PPM(plant preservative mixture、ナカライテスク)、6.0g/L phytagel、pH5.7)に置床した。
【0109】
(3)遺伝子導入
プロモーターとして、カリフラワーモザイクウイルス(CaMV)の35Sプロモーターを用い、実施例1-1-(3)に記載の方法に従った。
【0110】
(4)GFPタンパク質の一過的な発現効率の調査
実体蛍光顕微鏡(Leica社製MZFLIII)下で茎頂におけるGFP蛍光(励起:470/40 吸収:525/50)を観察することで(
図7)、茎頂におけるGFP遺伝子の導入効率を算出した。形質転換処理した完熟胚中、茎頂組織において5スポット以上のGFP蛍光が観察されたものを遺伝子導入個体として、遺伝子導入効率(遺伝子導入個体/処理完熟胚数×100)を算出した。その結果、金粒子径1.6μmおよび1.0μmに比べ、金粒子径0.6μmの場合では茎頂における遺伝子導入効率が85.0%と高かった(表7)。
【0111】
【0112】
2.T0世代植物におけるゲノミックPCRを指標とした調査
(1)形質転換処理個体の生育
一晩静置した形質転換処理個体をRM培地(4.3g/L MS salt 、MS vitamin、3% スクロース、0.50g/L MES 、3%PPM(plant preservative mixture、ナカライテスク)、0.3% ゲルライト、pH5.7)を入れたディスポーザブル植物細胞培養容器(Sigma)に移植し、インキュベーター(23℃、16時間日長)で育成した。根の生育及び茎頂からの葉の分化が観察された時点で、園芸用育苗培土を入れたセルトレイへ移植した。その後、同インキュベーターにて第2葉目まで育成した。
【0113】
(2)T0植物葉における導入遺伝子の有無
得られた植物体において、蛍光レポーター遺伝子であるGFP遺伝子の有無をPCR法により調査した。第2葉(50mg)から塩化ベンジル法を用いてゲノミックDNAを抽出し、これを鋳型として、GFP遺伝子に特異的な配列から作製したプライマーを用いてPCR反応を行った。
プライマーの配列:ACGGCCACAAGTTCAGCGT(配列番号1)
プライマーの配列:ACCATGTGATCGCGCTTCT(配列番号2)
【0114】
PCR反応液には、ゲノミックDNA20ng、ExTaqHS(TaKaRa)0.25U、10×添付バッファー1.5μL、2mM dNTPs、プライマー対各2.5pmolを加え、滅菌蒸留水で合計15μLにフィルアップした。
【0115】
PCRは、TaKara PCR Thermal Cycler Diceを用いて、95℃で3分処理後、95℃を30秒、60℃を30秒及び72℃を1分の反応を1サイクルとしてこれを32サイクル行った。PCR反応後、1.0%のアガロースゲル電気泳動を行い、エチジウムブロマイドで染色して紫外線照射によりPCR産物を検出し、予想される601bpのGFP遺伝子断片が検出されたものを、遺伝子導入個体と判断した。
【0116】
遺伝子導入に用いた金粒子径1.0μm、0.6μmの2通りにおいて、それぞれ得られた遺伝子導入個体数から遺伝子導入処理を行った完熟胚数当たりの遺伝子導入効率(遺伝子導入個体数/処理完熟胚数×100)を算出した。
【0117】
その結果、0.6μm径の金粒子を用いた場合において、処理完熟胚470個体のうち導入遺伝子確認個体(T0世代)は63個体(遺伝子導入効率13.4%)であった。このことから、実施例7-1-(4)において一過的な発現効率が高かった金粒子径0.6μmを用いることで、高効率でダイズの遺伝子導入個体を取得することが可能であることがわかった。
【0118】
[実施例8]オオムギにおける形質転換体の取得
コムギと同様の手法によりオオムギの形質転換体が得られるか確認するため、遺伝子導入処理後の茎頂におけるGFP蛍光の有無を調査した。
【0119】
1.GFP蛍光タンパク質の一過的発現系を指標とした調査
(1)オオムギ完熟種子の調製
オオムギ(ワセドリ二条)の完熟種子をハイター(次亜塩素酸濃度6%)に浸漬し、室温で20分間振とう後、クリーンベンチ内で滅菌水で洗浄した。洗浄後、滅菌水で湿らせたキムタオル又はろ紙上に載せ、4℃にて2日間インキュベートした後、22℃で6~12時間インキュベートし、以下の実験に用いた。
【0120】
(2)完熟種子胚中の茎頂の露出
実体顕微鏡下において、滅菌済みメスを用いて、胚乳及び余分な胚盤部分を除去した。その後、上記発芽種子の胚部分の子葉鞘及び葉原基を針(直径0.20mm)の先端を用いて除去し、茎頂部分を完全に露出させた。これを30個/プレートとなるようにMS-maltose培地(4.3g/L MS salt 、MS vitamin、30g/L マルトース、0.98g/L MES 、3%PPM(plant preservative mixture、登録商標、ナカライテスク),7.0g/L phytagel,pH5.8)に置床した。
【0121】
(3)遺伝子導入
実施例1-1-(3)に記載の方法に従った。
【0122】
(4)GFPタンパク質の一過的な発現効率の調査
実施例1-1-(4)に記載の方法に従った。その結果、金粒子径1.6μm及び1.0μmに比べ、金粒子径0.8μm、0.6μm、及び0.3μmの場合では茎頂における遺伝子導入効率が高かった(表9)。特に、0.3μmを用いたときは、他の金粒子径と比較して、茎頂における遺伝子導入効率が80%と最も高かった(
図8、表8)。
【0123】
【0124】
[実施例9]ジャガイモにおける形質転換体の取得
コムギと同様の手法によりジャガイモの形質転換体が得られるか確認するため、遺伝子導入処理後の茎頂におけるGFP蛍光の有無を調査した。
【0125】
1.ジャガイモの調製
種芋(男爵)をハイター(次亜塩素酸濃度1%)で消毒し、水洗い、乾燥後、22℃で1-2週間蛍光灯下でインキュベートし、芽出しを行った。
【0126】
2.茎頂の露出
実体顕微鏡下において、滅菌済みメスを用いて、萌芽より葉原基を針(直径0.20mm)の先端を用いて除去し、茎頂部分を完全に露出させた。これを40個/プレートとなるようにMS培地(4.3g/L MS salt 、MS vitamin、30g/L ショ糖、0.98g/L MES 、3%PPM(plant preservative mixture、登録商標、ナカライテスク)、7.0g/L phytagel、pH5.8)に置床した。
【0127】
3.遺伝子導入
導入ベクターをpUC18-35S-GFPとし、実施例1-1-(3)に記載の方法に従った。
【0128】
4.GFPタンパク質の一過的な発現効率の調査
実施例1-1-(4)に記載の方法に従った。その結果、金粒子径0.6μmを用いることで、茎頂におけるGFP蛍光を観察することができた。(
図9)。
【0129】
[実施例10]イネにおける形質転換体の取得
イネについても、本質的にはコムギと同様の手法により形質転換体を得ることができる。
1.イネ完熟種子の調製
脱穀したイネ(品種:日本晴)の完熟種子を実施例1-1-(1)に記載の方法で殺菌、洗浄後、滅菌水で湿らせたキムタオル又はろ紙上に載せ、25℃で24時間~48時間インキュベートしたものを以下の実験に用いる。
2.完熟種子胚中の茎頂の露出
実施例1-1-(2)に記載の方法に従い、完熟種子胚中の茎頂を完全露出させる。茎頂を露出させた完熟胚を約30個/プレートとなるようにMS-maltose培地に置床する。
【0130】
3.遺伝子導入
イネ完熟胚の茎頂への遺伝子導入は、実施例1-1-(3)に記載の方法に従って行う。
4.GFPタンパク質の一過的な発現を指標とした選抜
実施例1-1-(4)に記載の方法に従い、金粒子径0.6μmを用いて形質転換処理した個体中、茎頂組織においてGFP蛍光が観察されたものを選抜する。
5.形質転換処理個体の生育
実施例1-2-(4)に記載の方法に従い、形質転換処理個体を生育する。
6.T0植物葉における導入遺伝子の確認
実施例1-2-(5)に記載の方法に従い、遺伝子導入確認個体を取得する。得られた個体を育成し、次世代種子を取得することで、安定的な形質転換体を取得することができる。
【0131】
[実施例11]リンゴにおける形質転換体の取得
リンゴについても、本質的にはコムギと同様の手法により形質転換体を得ることができる。
1.リンゴ茎頂の調製
リンゴ(品種:ジョナゴールド)の茎頂の調製は、植物組織培養, 9(2), 69-73 (1992)に記載の茎頂培養の誘導条件に沿って実施する。
【0132】
2.茎頂の露出
1.の手法にて調製した茎頂を、約30個/プレートとなるようにMS-maltose培地(4.3g/L MS salt 、MS vitamin、30g/L マルトース、0.98g/L MES 、3%PPM(plant preservative mixture、登録商標、ナカライテスク)、7.0g/L phytagel、pH5.8)に置床する。
【0133】
3.遺伝子導入
プロモーターとして、カリフラワーモザイクウイルス(CaMV)の35Sプロモーターを用い、実施例1-1-(3)に記載の方法に従う。
4.GFPタンパク質の一過的な発現を指標とした選抜
実施例1-1-(4)に記載の方法に従い、金粒子径0.6μmを用いて形質転換処理した個体中、茎頂組織においてGFP蛍光が観察されたものを選抜する。
5.形質転換処理個体の生育
【0134】
実施例1-2-(4)に記載の方法に従い、形質転換処理個体を生育する。
6.T0植物葉における導入遺伝子の確認
実施例1-2-(5)に記載の方法に従い、遺伝子導入確認個体を取得する。得られた個体を育成し、次世代種子を取得することで、安定的な形質転換体を取得することができる。
【0135】
[実施例12]当該遺伝子導入法を利用した標的変異導入
当該遺伝子導入法を利用してコムギのゲノム編集が可能か否かを検証するため、RNA誘発性CRISPR/Cas9による標的配列の変異導入を試みた。なお、実施例1-1-(4)より当該遺伝子導入法を用いて安定な形質転換体を作製する上では、金粒子径0.3μm以上0.9μm以下が良いが、ゲノム編集個体を作製する上では、植物細胞核内又はオルガネラ内で一過的にヌクレアーゼ等が発現すれば良いため、上記粒子径に限定されない。そこで、当該遺伝子導入法を用いてコムギのゲノム編集が可能な金粒子径の範囲を検討した。
【0136】
1.GFP蛍光を指標とした標的変異導入確認
(1)コムギ完熟種子の調製
コムギ(Triticum aestivum cv. Fielder)の完熟種子をハイター(次亜塩素酸濃度6%)に浸漬し、室温で20分間振とう後、クリーンベンチ内で滅菌水で洗浄した。洗浄後、滅菌水で湿らせたキムタオル又はろ紙上に載せ、休眠打破のため4℃にて2日間インキュベートした。その後、22℃で約12時間インキュベートし、以下の実験に用いた。
【0137】
(2)完熟種子胚中の茎頂の露出
実施例1-1-(2)に記載の方法に準拠して行った。
(3)遺伝子導入
コムギ完熟胚の茎頂への遺伝子導入は、パーティクルガン法を用いて以下のようにして行った。
【0138】
実施例においては、蛍光レポーター遺伝子(GFP)の開始コドン直後に標的配列としてTaMLO遺伝子内部の20bp部分配列(CCGTCACGCAGGACCCAATCTCC:配列番号3)が挿入された標的プラスミドDNA(pUC系プラスミド)を用いた。当該遺伝子は、トウモロコシのユビキチンプロモーターと第一イントロンの制御下で発現するよう設計されたものである。ターミネーターとしては、ノパリン合成酵素(NOS)遺伝子のターミネーターが付加されている。当該ベクターと、gRNA/Cas9一体型プラスミドを共導入することで、TaMLO遺伝子標的配列をCas9が切断し、修復過程で2塩基が欠失または1塩基が挿入される。その結果、翻訳フレームシフトが起こり、GFP遺伝子のコドンの読み枠が回復し、活性型のGFPタンパク質が発現する。
【0139】
当該一体型プラスミド(pUC系プラスミド)中のgRNAはコムギ由来U6プロモーターの制御下で発現するよう設計されたものである。当該Cas9遺伝子はトウモロコシのユビキチンプロモーターと第一イントロンの制御下で発現するよう設計されたものである。ターミネーターとしては、ノパリン合成酵素(NOS)遺伝子のターミネーターが付加されている。
【0140】
金粒子の調製及び導入操作は、実施例2-1-(3)の方法に準拠して行った。但し、標的プラスミドDNA溶液及びgRNA/Cas9一体型プラスミドを、金粒子750μgあたりそれぞれ2.5μg及び7.5μgになるように入れた。金粒子量は1回の撃ち込みあたり、金粒子径0.3μmでは375μg、それ以外の金粒子径では187.5μgになるように入れた。
【0141】
(4)TaMLO遺伝子配列切断によるGFP蛍光の確認
実体蛍光顕微鏡(Leica、MZFLIII)下で茎頂におけるGFP蛍光(励起:470/40 吸収:525/50)を観察することで、TaMLO遺伝子標的配列の切断の有無を調査した。遺伝子導入処理した完熟胚中、茎頂組織において1スポット以上のGFP蛍光が観察されたものを標的配列切断個体として、標的配列切断導入効率(標的配列切断個体/処理完熟胚数×100)を算出した。実験は2度行い、標的配列切断導入効率の平均値を表11に示した。その結果、標的プラスミドDNA及びgRNA/Cas9一体型プラスミドを共導入した場合、金粒子径0.3μmから1.0μmでは標的配列切断を示すGFP蛍光が観察されたが、金粒子径1.6μmでは観察されなかった(表9)。また、その効率は金粒子径0.6μmを用いた場合、23.5%と最も高かった(表9,
図10)。これらの結果から、当該遺伝子導入法を用いてゲノム編集個体を作製するためには、金粒子径が1.6μm未満が良く、金粒子径0.6μmが好ましいことがわかった。
【0142】
【0143】
[実施例13]当該遺伝子導入法を利用した標的変異導入(T0世代、T1世代)
当該遺伝子導入法を利用してコムギに内在する標的遺伝子のゲノム編集が可能か否かを検証するため、RNA誘発性CRISPR/Cas9によるTaQsd1遺伝子(alanine aminotransferase遺伝子)、TaLOX2遺伝子(lipoxygenase遺伝子)、及びTaGASR7遺伝子(Snakin/GASA遺伝子)の変異導入を試みた。なお、TaQsd1遺伝子の変異導入には実用品種「春よ恋」を、その他には「Bobwhite」を用いた。
【0144】
1.遺伝子導入後一週間目における標的遺伝子変異導入確認
(1)コムギ完熟種子の調製
コムギ(Triticum aestivum cv. Bobwhite、Triticum aestivum cv. Haruyokoi)の完熟種子を用い、実施例1-1-(1)の方法に従った。
【0145】
(2)完熟種子胚中の茎頂の露出
実施例1-1-(2)に記載の方法に準拠して行った。
【0146】
(3)遺伝子導入
コムギ完熟胚の茎頂への遺伝子導入は、パーティクルガン法を用いて以下のようにして行った。
実施例においては、gRNA発現用プラスミドとして、pTAKN-2ベクターのマルチクローニングサイトへコムギU6プロモーター及びgRNA scaffoldをクローニングした。その後、内部のBbsIサイトへ各標的遺伝子の標的配列を導入し、各gRNA発現用プラスミドとした。
TaQsd1標的配列:ACGGATCCACCTCCCTGCAGCGG (配列番号4)
TaLOX2標的配列:GTGCCGCGCGACGAGCTCTTCGG(配列番号5)
TaGASR7標的配列:CCGCCGGGCACCTACGGCAAC(配列番号6)
【0147】
上記各gRNA発現用プラスミド、Cas9遺伝子発現用プラスミド及びGFP発現用プラスミド(実施例1-1-(3)参照)を金粒子750μgあたり各々5μg、2.5μg、2.5μg入れた。金粒子径は0.6μmとし、金粒子量は1回の撃ち込みあたり、187.5μgになるように入れた。
【0148】
(4)各標的遺伝子配列切断による変異導入の確認
実体蛍光顕微鏡(Leica、MZFLIII)下で茎頂におけるGFP蛍光(励起:470/40 吸収:525/50)が見られた個体をMS-maltose培地を入れたディスポーザブル植物細胞培養容器(Sigma)に移植し、長日(22℃、16時間日長)で育成した。約1週間後に各個体中の茎頂を切り出し、2μLのDNAzol Direct(登録商標、コスモバイオ)が添加された8連PCRチューブへ入れ、ゲノミックDNAを抽出した。
【0149】
これを鋳型として、各遺伝子に特異的な配列から作製されたプライマーを用いてPCR反応を行った。
TaQsd1-F:CAGCCTGGAGGGAATGACC (配列番号7)
TaQsd1-R:ACCTGGTGGAATCCAGAGC (配列番号8)
TaLOX2-F:CGTCTACCGCTACGACGTCTACAACG(配列番号9)
TaLOX2-R:GGTCGCCGTACTTGCTCGGATCAAGT(配列番号10)
TaGASR7-F:CCTTCATCCTTCAGCCATGCAT(配列番号11)
TaGASR7-R:CCACTAAATGCCTATCACATACG(配列番号12)
【0150】
PCR反応液には、ゲノミックDNA0.5μL、KODFXNeo(TOYOBO)0.4U、2×添付バッファー10μL、0.4mMdNTPs、プライマー対各0.2μMを加え、滅菌蒸留水で合計20μLにフィルアップした。
【0151】
PCRは、TaKara PCR Thermal Cycler Diceを用いて、98℃を10秒、68℃を1分の反応を1サイクルとしてこれを35サイクル行った。PCR反応後、各PCR産物を1μL、10×添付バッファー1μL,適当な制限酵素5Uを加え、滅菌蒸留水で合計10μLにフィルアップした。37℃、オーバーナイトで反応させた後、2.0%のアガロースゲル電気泳動を行い、エチジウムブロマイドで染色した。
【0152】
野生型株ではPCR産物が制限酵素により完全に切断されるのに対し、変異が導入された個体ではPCR産物に切れ残りが生じた。切れ残ったバンドからDNAを抽出・精製し、シークエンス解析にかけ、標的遺伝子配列に変異が導入されているものについて、標的遺伝子変異導入個体と判断した(
図11)。その結果、全ての標的遺伝子について、ゲノム編集用ベクター導入後1週間目の茎頂中の細胞群における変異導入が確認された。
【0153】
2.T0世代成葉及びT1世代幼葉における標的遺伝子変異導入確認
(1)コムギ完熟種子の調製
実施例13-1-(1)に記載の方法に従った。
(2)完熟種子胚中の茎頂の露出
実施例13-1-(2)に記載の方法に準拠して行った。
(3)遺伝子導入
実施例13-1-(3)に記載の方法に従った。
【0154】
(4)遺伝子導入個体の生育
一晩静置した遺伝子導入個体をMS-maltose培地を入れたディスポーザブル植物細胞培養容器(Sigma)に移植し、長日(22℃、16時間日長)で育成した。2週間生育させた後、第2-3葉が観察された時点で、園芸用育苗培土を入れたポットへ移植した。その後、長日の人工気象室(24℃、16時間日長、湿度50-70%)にて育成した。
【0155】
(5)T0植物葉における標的遺伝子変異導入の確認
得られた植物体において、標的遺伝子に変異が導入されているかを調査した。第5葉又は止葉(50mg)から塩化ベンジル法を用いてゲノミックDNAを抽出し、これを鋳型として、各遺伝子に特異的な配列から作製したプライマーを用いてPCR反応を行った。
【0156】
PCR反応液には、ゲノミックDNA0.7μL、KODFXNeo(TOYOBO)0.4U、2×添付バッファー5μL、0.4mMdNTPs、プライマー対各0.2μMを加え、滅菌蒸留水で合計10μLにフィルアップした。
【0157】
PCRは、TaKara PCR Thermal Cycler Diceを用いて、98℃を10秒、68℃を1分の反応を1サイクルとしてこれを32サイクル行った。PCR/制限酵素解析は実施例13-1-(4)に記載の方法に従った。
【0158】
野生型株ではPCR産物が制限酵素により完全に切断されるのに対し、変異が導入された個体ではPCR産物に切れ残りが生じた。切れ残ったバンドからDNAを抽出・精製し、シークエンス解析にかけ、標的遺伝子配列に変異が導入されているものについて、標的遺伝子変異導入個体と判断した。その結果、全ての標的遺伝子について、T
0世代成葉における標的遺伝子変異導入を確認した(
図12、表10)。
【0159】
【0160】
(6)T
1植物葉における標的遺伝子変異導入の確認
上記(5)で変異が確認されたTaQsd1変異導入個体からT
1種子を回収し、T
1世代植物の幼葉(50mg)から塩化ベンジル法を用いてゲノミックDNAを抽出した。その後の標的遺伝子変異導入の確認は、上記(5)に記載の方法に従った。その結果、T
1世代2系統について、T
1世代幼葉における標的遺伝子変異導入を確認した。
図13に、T
1世代1系統における解析結果を示した。16個体中9個体について標的遺伝子に変異が導入されていることを確認した。当該遺伝子導入法を用いることで、茎頂中の生殖細胞系列へ移行する茎頂幹細胞をゲノム編集することが可能だとわかった。
【0161】
[実施例14]当該遺伝子導入法を利用したCas9タンパク質導入による標的変異導入
当該遺伝子導入法を利用したgRNA/Cas9タンパク質導入によって、コムギに内在する標的遺伝子のゲノム編集が可能か否かを検証した。検証するにあたり、TaLOX2遺伝子を標的としたgRNA及びCas9タンパク質の複合体をコムギ茎頂へ導入した。
【0162】
1.遺伝子導入後一週間目における標的遺伝子変異導入確認
(1)コムギ完熟種子の調製
コムギ(Triticum aestivum cv.Bobwhite)の完熟種子を用い、実施例1-1-(1)の方法に従った。
【0163】
(2)完熟種子胚中の茎頂の露出
実施例1-1-(2)に記載の方法に準拠して行った。
【0164】
(3)gRNA/Cas9タンパク質導入
コムギ完熟胚の茎頂への遺伝子導入は、パーティクルガン法を用いて以下のようにして行った。
実施例においては、gRNAとしてcrRNA及びtracrRNA(ファスマック)の混合物(0.5μg/μL)を用いた。Cas9タンパク質として、Streptococcus pyogenes 由来EnGen Cas9 NLS(NEB)を用いた。
【0165】
crRNA:
GUGCCGCGCGACGAGCUCUUguuuuagagcuaugcuguuuug(配列番号13)
tracrRNA:
AAACAGCAUAGCAAGUUAAAAUAAGGCUAGUCCGUUAUCAACUUGAAAAAGUGGCACCGAGUCGGUGCU(配列番号14)
【0166】
上記各gRNA 4μg、Cas9タンパク質 7μg、10×Cas9バッファー2μL、Ribolock RNase Inhibitor 0.5μLを加え、滅菌蒸留水で合計20μLにフィルアップした。室温で15分間静置した後、金粒子750μgまたは1500μgを入れ、氷上で10分間静置した。上清を捨てた後、GFP発現用プラスミド(実施例1-1-(3)参照)2.5μgおよび滅菌蒸留水を32μL加え、これを金粒子/Cas9複合体と使用した。なお、金粒子径は0.6μmとし、金粒子量は1回の撃ち込みあたり、187.5または375μgになるように入れ、1プレートあたり4回の撃ち込みを行った。クリーンベンチ内でマクロキャリアの中央に、1.0~1.5cm角に切った親水性フィルム(3M、SH2CLHF)を貼りつけた。これに上記金粒子/Cas9複合体を8μLずつ注ぎ、風乾させた。撃ち込み条件は実施例1-1-(3)に従った。
【0167】
(4)TaLOX2標的遺伝子配列切断による変異導入の確認
解析は実施例13-1-(4)に記載の方法に従った。
親水性フィルムを未使用時には、茎頂におけるGFP蛍光が観察されなかったのに対し、使用時にはGFP蛍光が観察された(表11)。さらに、1撃ち込み当たりの金粒子量を187.5μgから375μg増やすことで、GFP蛍光の発現効率が23.3%から66.7%に向上した(表11)。親水性フィルムを使用することで、水系溶媒に分散させた金粒子が効率的に茎頂に導入されることがわかった。GFP蛍光が観察された個体について実施例13-1-(4)に従ってPCR/制限酵素解析を行った結果、野生型株ではPCR産物が制限酵素により完全に切断されるのに対し、変異が導入された個体ではPCR産物に切れ残りが生じた。切れ残ったバンドからDNAを抽出・精製し、シークエンス解析にかけた結果、標的遺伝子配列に変異が導入されていることが確認された(
図14)。その結果、TaLOX2標的遺伝子について、gRNA/Cas9タンパク質導入後1週間目の茎頂中の細胞群における変異導入が確認された。
【0168】
【0169】
[実施例15]当該遺伝子導入法を利用したダイズにおける標的変異導入
ダイズについても、本質的にはコムギと同様の手法により標的遺伝子変異導入個体を得ることができる。
【0170】
1.ダイズ完熟種子の調製
ダイズ(フクユタカ、エンレイ)の完熟種子を用い、実施例7-1-(1)に記載の方法に従い調製する。
【0171】
2.完熟種子胚中の茎頂の露出
実施例7-1-(2)に記載の方法に従う。
【0172】
3.遺伝子導入
完熟胚の茎頂への遺伝子導入は、パーティクルガン法を用いて以下のようにして行う。
実施例においては、gRNA発現用プラスミドとして、pTAKN-2ベクターのマルチクローニングサイトへダイズU6プロモーター及びgRNA scaffoldをクローニングする。その後、内部のBbsIサイトへ標的遺伝子の標的配列を導入し、各gRNA発現用プラスミドとする。
Glyma.10G244400.1標的配列:CCTCCGCCCAAGGCTCCGCCACC (配列番号15)
Glyma.20G150000.1標的配列:CCTCCGCCCAAGGCTCCGCCACC(配列番号15)
【0173】
上記各gRNA発現用プラスミド、Cas9遺伝子発現用プラスミド及びGFP発現用プラスミド(実施例7-1-(3)参照)を金粒子750μgあたり各々5μg、2.5μg、2.5μg入れる。金粒子径は0.6μmとし、金粒子量は1回の撃ち込みあたり、187.5μgになるように入れる。
【0174】
4.GFPタンパク質の一過的な発現を指標とした選抜
実体蛍光顕微鏡(Leica、MZFLIII)下で茎頂におけるGFP蛍光(励起:470/40 吸収:525/50)が見られた個体をRM培地(4.3g/L MS salt ,MS vitamin,3% スクロース,0.50g/L MES ,3%PPM(plant preservative mixture,ナカライテスク),0.3% ゲルライト,pH5.7)を入れたディスポーザブル植物細胞培養容器(Sigma)に移植し、インキュベーター(23℃、16時間日長)で育成する。
【0175】
5.遺伝子導入個体の生育
実施例7-2-(1)に記載の方法に従う。
6.T0植物葉における標的遺伝子変異導入の確認
得られた植物体において、標的遺伝子に変異が導入されているかを調査する。新たに生育した葉(50mg)から塩化ベンジル法を用いてゲノミックDNAを抽出し、これを鋳型として、各遺伝子に特異的な配列から作製したプライマーを用いてPCR反応を行う。PCR/制限酵素解析は実施例13-1-(4)に記載の方法に従って行う。変異が導入された個体をそのまま育成し、次世代の種子を取得することで、安定的に標的遺伝子に変異が導入された個体を取得することができる。
【0176】
[実施例16]当該遺伝子導入法を利用したCas9タンパク質導入によるダイズへの標的変異導入
ダイズについても、本質的にはコムギと同様の手法により標的遺伝子変異導入個体を得ることができる。例えばGlyma.10G244400.1遺伝子を標的としたgRNA及びCas9タンパク質の複合体を茎頂へ導入する。
1.ダイズ完熟種子の調製
実施例15-1に記載の方法に従って行う。
2.完熟種子胚中の茎頂の露出
実施例15-2に記載の方法に従って行う。
【0177】
3.gRNA/Cas9タンパク質導入
ダイズ完熟胚の茎頂への遺伝子導入は、パーティクルガン法を用いて以下のようにして行う。
実施例においては、gRNAとしてcrRNA及びtracrRNA(ファスマック)の混合物(0.5μg/μL)を用いる。Cas9タンパク質として、Streptococcus pyogenes 由来EnGen Cas9 NLS(NEB)を用いる。
crRNA:
GGUGGCGGAGCCUUGGGCGGguuuuagagcuaugcuguuuug(配列番号16)
tracrRNA:
AAACAGCAUAGCAAGUUAAAAUAAGGCUAGUCCGUUAUCAACUUGAAAAAGUGGCACCGAGUCGGUGCU(配列番号14)
撃ち込み条件は、実施例14-1-(3)に記載の方法に従う。
【0178】
4.GFPタンパク質の一過的な発現を指標とした選抜
実施例15-4の記載の方法に従う。
5.遺伝子導入個体の生育
実施例15-5に記載の方法に従う。
6.T0植物葉における標的遺伝子変異導入の確認
実施例15-6に記載の方法に従って、安定的に標的遺伝子に変異が導入された個体を取得することができる。
【0179】
[実施例17]当該遺伝子導入法を利用したCas9タンパク質導入によるイネへの標的変異導入
イネについても、本質的にはコムギと同様の手法により標的遺伝子変異導入個体を得ることができる。例えばOsPDS(イネphytoene desaturase)遺伝子を標的としたgRNA及びCas9タンパク質の複合体をイネ茎頂へ導入する。
【0180】
1.イネ完熟種子の調製
実施例10-1に記載の方法に従って行う。
2.完熟種子胚中の茎頂の露出
実施例10-2に記載の方法に従って行う。
【0181】
3.gRNA/Cas9タンパク質導入
イネ完熟胚の茎頂への遺伝子導入は、パーティクルガン法を用いて以下のようにして行う。
実施例においては、gRNAとしてcrRNA及びtracrRNA(ファスマック)の混合物(0.5μg/μL)を用いる。Cas9タンパク質として、Streptococcus pyogenes 由来EnGen Cas9 NLS(NEB)を用いる。
crRNA:
GUUGGUCUUUGCUCCUGCAGguuuuagagcuaugcuguuuug(配列番号17)
tracrRNA:
AAACAGCAUAGCAAGUUAAAAUAAGGCUAGUCCGUUAUCAACUUGAAAAAGUGGCACCGAGUCGGUGCU(配列番号14)
撃ち込み条件は、実施例14-1-(3)に記載の方法に従う。
【0182】
4.GFPタンパク質の一過的な発現を指標とした選抜
実施例10-4の記載の方法に従う。
5.遺伝子導入個体の生育
実施例10-5に記載の方法に従う。
6.T0植物葉における標的遺伝子変異導入の確認
実施例15-6に記載の方法に従って、安定的に標的遺伝子に変異が導入された個体を取得することができる。
【0183】
[実施例18]当該遺伝子導入法を利用したCas9タンパク質導入によるリンゴへの標的変異導入
リンゴについても、本質的にはコムギと同様の手法により標的遺伝子変異導入個体を得ることができる。例えばリンゴPDS(phytoene desaturase)遺伝子を標的としたgRNA及びCas9タンパク質の複合体をリンゴ茎頂へ導入する。
【0184】
1.リンゴ茎頂の調製
実施例11-1に記載の方法に従う。
2.茎頂の露出
実施例11-2に記載の方法に従う。
3.gRNA/Cas9タンパク質導入
リンゴの茎頂への遺伝子導入は、パーティクルガン法を用いて以下のようにして行う。
実施例においては、gRNAとしてcrRNA及びtracrRNA(ファスマック)の混合物(0.5μg/μL)を用いる。Cas9タンパク質として、Streptococcus pyogenes 由来EnGen Cas9 NLS(NEB)を用いる。
crRNA:
ACCUGAUCGAGUAACUACAGguuuuagagcuaugcuguuuug(配列番号18)
tracrRNA:
AAACAGCAUAGCAAGUUAAAAUAAGGCUAGUCCGUUAUCAACUUGAAAAAGUGGCACCGAGUCGGUGCU(配列番号14)
撃ち込み条件は、実施例14-1-(3)に記載の方法に従う。但し、実施例7-1-(3)に記載のGFPベクターを用いる。
【0185】
4.GFPタンパク質の一過的な発現を指標とした選抜
実施例11-4の記載の方法に従う。
5.遺伝子導入個体の生育
実施例11-5に記載の方法に従う。
6.T0植物葉における標的遺伝子変異導入の確認
実施例15-6に記載の方法に従って、安定的に標的遺伝子に変異が導入された個体を取得することができる。
【0186】
[実施例19]当該遺伝子導入法を利用したCas9タンパク質導入によるジャガイモへの標的変異導入
ジャガイモについても、本質的にはコムギと同様の手法により標的遺伝子変異導入個体を得ることができる。例えばStIAA2(an Auxin/Indole-3-Acetic Acid family member)遺伝子を標的としたgRNA及びCas9タンパク質の複合体をジャガイモ茎頂へ導入する。
【0187】
1.ジャガイモ茎頂の調製
実施例9-1に記載の方法に従う。
2.茎頂の露出
実施例9-2に記載の方法に従う。
【0188】
3.gRNA/Cas9タンパク質導入
ジャガイモの茎頂への遺伝子導入は、パーティクルガン法を用いて以下のようにして行う。
実施例においては、gRNAとしてcrRNA及びtracrRNA(ファスマック)の混合物(0.5μg/μL)を用いる。Cas9タンパク質として、Streptococcus pyogenes 由来EnGen Cas9 NLS(NEB)を用いる。
crRNA:
GAUGUUUAGCUCCUUUACUAguuuuagagcuaugcuguuuug(配列番号19)
tracrRNA:
AAACAGCAUAGCAAGUUAAAAUAAGGCUAGUCCGUUAUCAACUUGAAAAAGUGGCACCGAGUCGGUGCU(配列番号14)
撃ち込み条件は、実施例14-1-(3)に記載の方法に従う。但し、実施例7-1-(3)に記載のGFPベクターを用いる。
【0189】
4.GFPタンパク質の一過的な発現を指標とした選抜
実施例9-(4)の記載の方法に従う。
5.遺伝子導入個体の生育
実施例1-2-(4)に記載の方法に従う。
6.T0植物葉における標的遺伝子変異導入の確認
実施例15-6に記載の方法に従って、安定的に標的遺伝子に変異が導入された個体を取得することができる。
【0190】
[実施例20]当該遺伝子導入法を利用したCas9タンパク質導入によるトウモロコシへの標的変異導入
トウモロコシについても、本質的にはコムギと同様の手法により標的遺伝子変異導入個体を得ることができる。例えばZmALS2(トウモロコシacetolactate synthase)遺伝子を標的としたgRNA及びCas9タンパク質の複合体をトウモロコシ茎頂へ導入する。
【0191】
1.トウモロコシ茎頂の調製
実施例6-1-(1)に記載の方法に従う。
2.茎頂の露出
実施例6-1-(2)に記載の方法に従う。
【0192】
3.gRNA/Cas9タンパク質導入
トウモロコシの茎頂への遺伝子導入は、パーティクルガン法を用いて以下のようにして行う。
実施例においては、gRNAとしてcrRNA及びtracrRNA(ファスマック)の混合物(0.5μg/μL)を用いる。Cas9タンパク質として、Streptococcus pyogenes 由来EnGen Cas9 NLS(NEB)を用いる。
crRNA:
GCUGCUCGAUUCCGUCCCCAguuuuagagcuaugcuguuuug(配列番号20)
tracrRNA:
AAACAGCAUAGCAAGUUAAAAUAAGGCUAGUCCGUUAUCAACUUGAAAAAGUGGCACCGAGUCGGUGCU(配列番号14)
撃ち込み条件は、実施例14-1-(3)に記載の方法に従う。
【0193】
4.GFPタンパク質の一過的な発現を指標とした選抜
実施例1-1-(4)に記載の方法に従い、金粒子径0.6μmを用いて形質転換処理した個体中、茎頂組織においてGFP蛍光が観察されたものを選抜する。
5.遺伝子導入個体の生育
実施例1-2-(4)に記載の方法に従う。
6.T0植物葉における標的遺伝子変異導入の確認
実施例15-6に記載の方法に従って、安定的に標的遺伝子に変異が導入された個体を取得することができる。
【0194】
[実施例21]当該遺伝子導入法を利用したCas9タンパク質導入によるオオムギへの標的変異導入
オオムギについても、本質的にはコムギと同様の手法により標的遺伝子変異導入個体を得ることができる。例えばHvPM19(オオムギABA-inducible plasma membrane protein)遺伝子を標的としたgRNA及びCas9タンパク質の複合体をオオムギ茎頂へ導入する。
【0195】
1.オオムギ茎頂の調製
実施例8-1-(1)に記載の方法に従う。
2.茎頂の露出
実施例8-1-(2)に記載の方法に従う。
【0196】
3.gRNA/Cas9タンパク質導入
オオムギの茎頂への遺伝子導入は、パーティクルガン法を用いて以下のようにして行う。
実施例においては、gRNAとしてcrRNA及びtracrRNA(ファスマック)の混合物(0.5μg/μL)を用いる。Cas9タンパク質として、Streptococcus pyogenes 由来EnGen Cas9 NLS(NEB)を用いる。
crRNA:
GCUCUCCACUCUGGGCUCUUguuuuagagcuaugcuguuuug(配列番号21)
tracrRNA:
AAACAGCAUAGCAAGUUAAAAUAAGGCUAGUCCGUUAUCAACUUGAAAAAGUGGCACCGAGUCGGUGCU(配列番号14)
撃ち込み条件は、実施例14-1-(3)に記載の方法に従う。
【0197】
4.GFPタンパク質の一過的な発現を指標とした選抜
実施例1-1-(4)に記載の方法に従い、金粒子径0.6μmを用いて形質転換処理した個体中、茎頂組織においてGFP蛍光が観察されたものを選抜する。
5.遺伝子導入個体の生育
実施例1-2-(4)に記載の方法に従う。
6.T0植物葉における標的遺伝子変異導入の確認
実施例15-6に記載の方法に従って、安定的に標的遺伝子に変異が導入された個体を取得することができる。
植物のゲノム編集方法であって、微粒子を、少なくとも1種の核酸および/または少なくとも1種のタンパク質により被覆する工程と、該被覆した微粒子を遺伝子銃を用いて頂芽若しくは側芽の茎頂に撃ち込む工程と、該被覆した微粒子を撃ち込んだ茎頂を生育させ、植物体を得る工程と、該植物体からゲノム編集された植物体を選択する工程とを含み、
前記核酸が、ヌクレアーゼをコードする核酸を含み、
前記タンパク質が、ヌクレアーゼを含み、
前記微粒子が、直径0.3μm以上0.8μm以下である、方法。