(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023056100
(43)【公開日】2023-04-19
(54)【発明の名称】作業車輌
(51)【国際特許分類】
A01B 63/08 20060101AFI20230412BHJP
A01B 69/00 20060101ALI20230412BHJP
【FI】
A01B63/08
A01B69/00 302
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021165208
(22)【出願日】2021-10-07
(71)【出願人】
【識別番号】000001878
【氏名又は名称】三菱マヒンドラ農機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003133
【氏名又は名称】弁理士法人近島国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 武二
【テーマコード(参考)】
2B043
2B304
【Fターム(参考)】
2B043AA04
2B043AB17
2B043BA02
2B043BB01
2B043BB03
2B043DA04
2B043DB06
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2B043EA02
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2B043EA13
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2B304KA13
2B304LA02
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2B304PB02
2B304PB05
2B304PB06
2B304QA04
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2B304QA12
2B304QB02
2B304QB05
2B304QB17
2B304QB18
2B304RA05
2B304RA06
2B304RA08
2B304RB01
2B304RB06
2B304RB07
(57)【要約】
【課題】運転者の操作やスリップしやすいなどの圃場の状態に拘わらず、隣接作業制御を実行可能な作業車輌を提供する。
【解決手段】オートダウン制御は、隣接作業制御と、隣接作業制御以外の通常制御とを有する。隣接作業制御では、第1の経路L1と第2の経路L2とが隣接する場合に、第1の経路L1から走行機体2を180°旋回させて第2の経路L2の耕耘作業を行うべく、第1の経路L1に沿った方向に関し、第2の経路L2における耕耘作業の開始位置を第1の経路L1における耕耘作業が終了した位置に合わせるように自動でロータリ耕耘機を下降させる。制御部は、オートダウン制御において、走行機体2の旋回を開始後、走行機体2の状態が前進状態及び同じ方向の旋回状態が維持された後、直進状態となった際に演算された前記機体角度が、180°に対して所定範囲内であれば、場合に、隣接作業制御を実行する。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右一対の前輪と前記前輪の後方に配置された左右一対の走行部とに支持される走行機体と、
前記走行機体を操向する操向部と、
前記走行機体の前進と後進を切り替える切替手段と、
前記走行機体の速度である車速を検知可能な車速検知手段と、
前記操向部の角度を検知可能な角度検知手段と、
作業機を昇降する昇降装置と、
第1の経路における作業が終了して前記作業機を上昇させた状態で、前記第1の経路とは別の第2の経路に対して作業を行うべく、前記走行機体を前記第1の経路から前記第2の経路に向けて旋回させた際に、前記車速検知手段と前記角度検知手段の検知結果から演算した、前記走行機体の旋回を開始した位置を基準座標位置とする座標と、前記走行機体のヨー角である機体角度とに基づいて、前記第2の経路における目標位置において自動で前記作業機を下降させるオートダウン制御を実行可能な制御部と、を備え、
前記オートダウン制御は、前記第1の経路と前記第2の経路とが隣接する場合に、前記第1の経路から前記走行機体を180°旋回させて前記第2の経路の作業を行うべく、前記第1の経路に沿った方向に関し、前記第2の経路における作業の開始位置を前記第1の経路における作業が終了した位置に合わせるように自動で前記作業機を下降させる隣接作業制御と、前記隣接作業制御以外の通常制御とを有し、
前記制御部は、前記オートダウン制御において、前記走行機体の旋回を開始後、前記走行機体の状態が前進状態及び同じ方向の旋回状態が維持された後、直進状態となった際に、演算された前記機体角度が180°に対して所定範囲内であれば、前記隣接作業制御を実行する、
ことを特徴とする作業車輌。
【請求項2】
前記制御部は、前記オートダウン制御が開始された場合に、前記隣接作業制御のための演算と前記通常制御のための演算とを同時に行い、前記隣接作業制御の条件を満たさない場合には前記通常制御を行う、
ことを特徴とする請求項1に記載の作業車輌。
【請求項3】
前記制御部は、前記オートダウン制御において、前記走行機体が旋回後に直進状態となった際に、演算された前記機体角度に基づいて、前記作業機を下降させる位置を補正する、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の作業車輌。
【請求項4】
前記制御部は、前進及び後進状態で前記走行部の周速度に対して前記前輪の周速度を増速させて旋回する増速旋回制御と、前進状態のみで旋回時に前記増速旋回制御を実行すると共に旋回内側の前記走行部に自動でブレーキをかけるオートブレーキ制御とを実行可能で、前記オートダウン制御時に、前進、後進、前記増速旋回制御、及び、前記オートブレーキ制御の設定によって旋回支点を変更する、
ことを特徴とする請求項1ないし3の何れか1項に記載の作業車輌。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トラクタ等の作業車輌に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、圃場で行われる耕耘や植付等の作業において、圃場端での旋回後に自動で作業機を下降させるオートダウン制御を行う作業車輌について提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、第1の経路の耕耘作業を終了した後に作業機を上昇させ、隣接する第2の経路に向けて走行機体を180°旋回させ、第2の経路の目標位置にて作業機を下降させて耕耘作業を開始する際に、上述のように作業機を目標位置にて自動で下降させるオートダウン制御を用いる隣接耕制御(隣接作業制御)を行う場合がある。隣接耕制御は、走行機体の座標位置や走行機体のヨー角度である機体角度から演算して、走行機体が180°旋回したと判断された場合に実行される。
【0005】
しかしながら、機体角度の条件は、運転者の操作やスリップしやすいなどの圃場の状態などの影響を受ける。このため、隣接耕制御を行うべく走行機体を第1の経路から旋回させ、第2の経路において走行機体が直進状態となっても、実際の走行機体の機体角度と演算上の機体角度との差が大きくなる場合がある。この場合、走行機体が180°旋回したと判断されず、作業機が目標位置で下降せずに走行機体が通り過ぎてしまう虞がある。
【0006】
本発明は、運転者の操作やスリップしやすいなどの圃場の状態に拘わらず、隣接作業制御を実行可能な作業車輌を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、左右一対の前輪と前記前輪の後方に配置された左右一対の走行部とに支持される走行機体と、
前記走行機体を操向する操向部と、
前記走行機体の前進と後進を切り替える切替手段と、
前記走行機体の速度である車速を検知可能な車速検知手段と、
前記操向部の角度を検知可能な角度検知手段と、
作業機を昇降する昇降装置と、
第1の経路における作業が終了して前記作業機を上昇させた状態で、前記第1の経路とは別の第2の経路に対して作業を行うべく、前記走行機体を前記第1の経路から前記第2の経路に向けて旋回させた際に、前記車速検知手段と前記角度検知手段の検知結果から演算した、前記走行機体の旋回を開始した位置を基準座標位置とする座標と、前記走行機体のヨー角である機体角度とに基づいて、前記第2の経路における目標位置において自動で前記作業機を下降させるオートダウン制御を実行可能な制御部と、を備え、
前記オートダウン制御は、前記第1の経路と前記第2の経路とが隣接する場合に、前記第1の経路から前記走行機体を180°旋回させて前記第2の経路の作業を行うべく、前記第1の経路に沿った方向に関し、前記第2の経路における作業の開始位置を前記第1の経路における作業が終了した位置に合わせるように自動で前記作業機を下降させる隣接作業制御と、前記隣接作業制御以外の通常制御とを有し、
前記制御部は、前記オートダウン制御において、前記走行機体の旋回を開始後、前記走行機体の状態が前進状態及び同じ方向の旋回状態が維持された後、直進状態となった際に、演算された前記機体角度が180°に対して所定範囲内であれば、前記隣接作業制御を実行する、
ことを特徴とする作業車輌である。
【0008】
例えば、前記制御部は、前記オートダウン制御が開始された場合に、前記隣接作業制御のための演算と前記通常制御のための演算とを同時に行い、前記隣接作業制御の条件を満たさない場合には前記通常制御を行う。
【0009】
例えば、前記制御部は、前記オートダウン制御において、前記走行機体が旋回後に直進状態となった際に、演算された前記機体角度に基づいて、前記作業機を下降させる位置を補正する。
【0010】
例えば、前記制御部は、前進及び後進状態で前記走行部の周速度に対して前記前輪の周速度を増速させて旋回する増速旋回制御と、前進状態のみで旋回時に前記増速旋回制御を実行すると共に旋回内側の前記走行部に自動でブレーキをかけるオートブレーキ制御とを実行可能で、前記オートダウン制御時に、前進、後進、前記増速旋回制御、及び、前記オートブレーキ制御の設定によって旋回支点を変更する。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に係る本発明によると、オートダウン制御において、走行機体の旋回を開始後、走行機体の状態が前進状態及び同じ方向の旋回状態が維持された後、直進状態となった際に、演算された前記機体角度が180°に対して所定範囲内であれば、隣接作業制御を実行するため、運転者の操作やスリップしやすいなどの圃場の状態に拘わらず、隣接作業制御を実行可能である。
【0012】
請求項2に係る本発明によると、オートダウン制御が開始された場合に、隣接作業制御のための演算と通常制御のための演算とを同時に行い、隣接作業制御の条件を満たさない場合には通常制御を行うため、隣接作業制御から通常制御への変更を円滑に行え、作業性を向上させることができる。
【0013】
請求項3に係る本発明によると、オートダウン制御において、走行機体が旋回後に直進状態となった際に、演算された機体角度に基づいて、作業機を下降させる位置を補正するため、オートダウン制御における作業開始位置のずれを抑制でき、作業性を向上させることができる。
【0014】
請求項4に係る本発明によると、オートダウン制御時に、前進、後進、増速旋回制御、及びオートブレーキ制御の設定によって旋回支点を変更するため、オートダウン制御において、その状況に応じた走行機体の旋回時における演算を高精度で行え、作業機の下降開始位置を安定させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図11】(a)通常制御における作業機の下降位置補正の説明図、(b)隣接耕制御における作業機の下降位置補正の説明図。
【
図12】(a)右旋回、前進時の旋回支点を示す図、(b)右旋回、後進時の旋回支点を示す図。
【
図13】オートダウン制御における旋回調整の条件を示す表。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[全体構成]
以下、本実施の形態について、図面に基づいて説明する。
図1に示すように、本実施の形態に係る作業車輌としてのトラクタ1は、走行機体2と、回転するロータリ3bを有して走行機体2の後部に昇降可能に連結される作業機としてのロータリ耕耘機3と、を有する。走行機体2は、各電気信号の入出力を制御する
図7に示す制御部52と、前輪5及び走行部としての後輪6を有している。前輪5及び後輪6は、それぞれ左右に配置されて一対ずつ設けられており、前輪5が左右に操舵されることにより走行機体2が操向操作される。また、走行機体2は、前輪5及び後輪6に支持される機体フレーム7と、オペレータが乗車する運転座席23を有する運転部10と、を有している。なお、本実施の形態では、特に記載が無い限りは水平面に載置されたトラクタ1の運転座席23に着座したオペレータが向く正面方向を走行機体2の向きである前方とし、これを基準に前後左右方向を定義する。制御部52の出力側には、放音によりオペレータに各種の情報を報知可能な報知ブザー53が設けられており、制御部52からの出力信号により作動する。
【0017】
[動力伝達構造]
機体フレーム7は、前輪5及び後輪6を駆動するための動力を発生する図示しないエンジンと、エンジンが収納されるエンジンルーム9と、左右の後輪6の間に配置されている図示しないミッションケースと、を備えている。
【0018】
ミッションケースの内部には、エンジンの動力を変速する図示しない走行トランスミッションが収納されており、走行トランスミッションには、エンジンの動力を多段状に変速する変速手段としての図示しない主変速機構と、主変速機構で変速された動力を更に多段状に変速する変速手段としての図示しない副変速機構と、図示しないPTO軸への動力を変速するPTO変速機構と、が組み込まれている。PTO軸の回転がロータリ耕耘機3に伝達され、ロータリ3bがロータリ軸3aを中心として回転することにより圃場が耕耘される。
【0019】
ミッションケースの内部は潤滑油で満たされており、この潤滑油はエンジンの動力によって駆動する図示しない油圧ポンプへ供給され、油圧ポンプによって発生した油圧は
図7に示すリフトアームバルブ20の操作によりロータリ耕耘機3を昇降する図示しないリフトアームシリンダに伝達される。
【0020】
主変速機構及び副変速機構を経由した動力は、図示しない後輪駆動軸によって図示しない後輪差動機構を介して左右の後輪6に分配され、図示しない前輪変速機構及び図示しない前輪駆動軸によって図示しない前輪差動機構を介して左右の前輪5に分配されて、走行機体2が前輪5の転舵により左右へ旋回する際に内輪と外輪の回転数に差を許容することにより、円滑な走行が可能となるように構成されている。
【0021】
後輪差動機構は、左右の後輪6を独立して制動可能な左右一対の図示しないブレーキ機構を介して、後輪駆動軸からの動力を左右の後輪6に伝達する。後輪駆動軸及び左右いずれか一方の後輪6の単位時間当たりの回転数は、それぞれ独立して車速検知手段としての車速センサ11(
図7)により検出され、後輪駆動軸及び左右いずれか一方の後輪6の単位時間当たりの回転数に基づいて走行機体2の走行速度としての車速が算出される。ここで、車速とは、
図8に示すように、後輪6の回転軸上における左右の後輪6の中心点である機体基準点2aの単位時間当たりの移動距離である。算出された時点における車速の情報は、電気信号により制御部52へ送信される。また、制御部52が、車速を時間で積分することにより、機体基準点2aの移動距離、即ち走行機体2の走行距離が得られる。
【0022】
前輪変速機構は駆動状態切替手段としての図示しない摩擦多板式の油圧クラッチを備え、油圧クラッチが断接されることにより、走行機体2は左右の前輪5の平均周速度を左右の後輪6の平均周速度に対して増速駆動する前輪増速制御としての前輪倍速制御が実行される前輪倍速オン4駆モードと、左右の前輪5の平均周速度を左右の後輪6の平均周速度に対して略等速駆動する前輪倍速オフ4駆モードと、動力が前輪5に伝達されない2駆モードと、が切替え可能に設けられている。
【0023】
[ステアリング装置]
機体フレーム7には、操向部としてのステアリング装置12が配置されている。ステアリング装置12は、前輪5を操舵するためにオペレータが回動操作するステアリングホイール13と、ステアリングホイール13と一体に回動する
図6に示すステアリングコラム14と、左右に延設されてステアリングコラム14の回動を左右方向の略直線運動に変換する図示しない操舵機構と、操舵機構の両端と左右の前輪5とを接続する図示しないタイロッドと、を有する。オペレータがステアリングホイール13を回動させるとステアリングコラム14が回動し、ステアリングコラム14の回動角及び回動方向に基づいてタイロッドが左右に移動して左右の前輪5が操舵される。
【0024】
ステアリング装置12には、ステアリングホイール13を一方向への所定以上の回動が規制される図示しないストッパ部が左右の回動方向のそれぞれに設けられている。走行機体2が略直進するステアリングホイール13の中立位置から一方向への最大回動角度α1は、他方向への最大回動角度と略同角度となるように構成されている。ステアリングホイール13が中立位置から最大回動角度α1よりわずかに小さい所定角度α2以上回動されると、
図7に示す、ステアリング装置12の角度を検知可能な角度検知手段としてのステアリングセンサ15がオン状態となり、ステアリングホイール13がα2以上回動されていること及びステアリングホイール13の回動方向が検知される。また、ステアリングホイール13の回動角度が中立位置からα2未満であるとき、ステアリングセンサ15はオフ状態となり、ステアリングホイール13の回動角度がα2未満であることが検知される。ステアリングセンサ15のオン状態若しくはオフ状態及びステアリングホイール13の回動方向の情報は、電気信号により制御部52へ送信される。なお、ステアリングセンサ15は、中立位置と、左右何れかに所定の回動角度を検知するもの、或いは、ステアリングの回動角度をこれらの個所よりも細かく検知するものであっても良い。また、角度検知手段は、ステアリングホイール13から前輪5までの何れかの個所でステアリングホイール13に回動角度を検知できるものであれば良い。
【0025】
[昇降リンク機構]
走行機体2の後部には、機体フレーム7とロータリ耕耘機3とを連結すると共に、ロータリ耕耘機3を昇降する昇降装置としての昇降リンク機構16が設けられている。昇降リンク機構16は、走行機体2の後部に突設された図示しないリンクブラケットと、リンクブラケットに対し上下へ揺動可能に軸支されて後方へ延出する一本のトップリンク17と、トップリンクの下方に設けられてリンクブラケットに対し上下へ揺動可能に軸支されて後方へ延出する左右一対のロワリンク18と、を有し、トップリンク17及び左右のロワリンク18の後端部は、ロータリ耕耘機3に対し上下へ揺動可能に軸支されて3点リンク機構を形成している。左右のロワリンク18は、それぞれ左右に設けられた図示しないリフトロッドを介して図示しないリフトアームにより吊持されている。リフトアームは、前端がリンクブラケットに上下へ揺動可能に軸支されており、リフトアームシリンダの伸縮に伴うリフトアームの上下の揺動に伴ってロワリンク18が上下に揺動し、ロータリ耕耘機3が昇降する。リフトアームの揺動角は、リフトアームに設けられた
図7に示すリフトアームセンサ21により検出されて、電気信号により制御部52へ送信される。
【0026】
[運転部]
次いで、運転部10について
図2ないし
図6に沿って説明する。
図2に示すように、運転座席23の左側方には、揺動自在に支持されて副変速機構を変速操作する副変速レバー27が設けられている。副変速レバー27は高速段、中速段、低速段の3段階の変速位置に操作可能に設けられており、副変速レバー27の変速位置が高速段に位置するとき、エンジンの回転数を後輪駆動軸の回転数で除算した減速比が3段階のうちで最も小さく、低速段は減速比が最も大きく、中速段は減速比が高速段と低速段との間となるように構成されている。
【0027】
また、
図3に示すように、運転座席23の下方には、回動可能に支持されてロータリ耕耘機3の下降速度を調節する図示しない下降速度調節バルブを操作可能な下降速度設定手段としての作業機下降速度調節ノブ29やデフロックペダル28が、設けられている。作業機下降速度調節ノブ29は、オペレータにより時計回りに回動されると下降速度調節バルブが操作されることによりロータリ耕耘機3の下降速度が低下し、反時計回りに回動されると下降速度が上昇する。副変速レバー27の変速位置の情報及び作業機下降速度調節ノブ29の回動位置の情報は、電気信号により制御部52へ送信される。
【0028】
図4及び
図5に示すように、運転座席23の右側方には、各種の操作具やランプが配置されているサイドパネル26が設けられている。サイドパネル26には、揺動自在に支持されて主変速機構を変速操作する主変速レバー30、ロータリ耕耘機3を昇降操作するポジションレバー31、ロータリ耕耘機3の最大上昇高さを設定する上昇高さ調節手段としての上げ高さボリューム32及び下降開始領域調節手段としてのオートダウンタイミングボリューム33が配置されている。
【0029】
主変速レバー30による主変速機構の変速操作は、副変速レバー27による副変速機構の変速操作とは独立して行うことが可能であり、8段から1段まで8段階の変速位置、動力を前輪5並びに後輪6へ伝達しない中立位置及び図示しないアクセルペダルの操作により8段から4段までを自動で変速するアクセル変速位置に操作可能に設けられている。8段は主変速機構による減速比が最も小さく、段数が小さくなるにつれて減速比が大きくなるように構成されている。主変速レバー30の変速位置の情報は、電気信号により制御部52へ送信される。
【0030】
ポジションレバー31は、前後へ揺動可能に支持されており、オペレータが操作の手を離した時の揺動位置が保持されるように構成されている。ポジションレバー31が前後に揺動操作されると、ポジションレバー31が保持されている位置に対応する高さまでロータリ耕耘機3が昇降する。ポジションレバー31が保持されている位置の情報は、電気信号により制御部52へ送信される。
【0031】
上げ高さボリューム32は回動可能に支持されており、回動位置により、所定の回動範囲に設けられている上げ高さ調節位置と、油圧取り出し位置と、を選択可能に設けられている。上げ高さボリューム32の回動位置が上げ高さ調節位置に位置しているときは、オペレータが上げ高さボリューム32を時計回りに回動するとロータリ耕耘機3が昇降する際の上限高さが拡大し、反時計回りに回動すると上限高さが縮小する。上げ高さボリューム32の回動位置が油圧取り出し位置に位置しているときは、走行機体2は、図示しない油圧取り出し口より油圧が伝達されて、例えばフロントローダー等を作動させることができる状態となると共に、リフトシリンダへの油圧が遮断されてロータリ耕耘機3が昇降しない状態となる。上げ高さボリューム32の回動位置の情報は、電気信号により制御部52へ送信される。
【0032】
オートダウンタイミングボリューム33は回動可能に支持されており、所定の回動範囲に設けられているオン位置とオフ位置とに変更可能に設けられている。オートダウンタイミングボリューム33の回動位置がオン位置に位置しているときは、後述するオートダウン制御において、回動位置に対応してロータリ耕耘機3の下降開始タイミングを調節することができる。オートダウンタイミングボリューム33の回動位置の情報は、電気信号により制御部52へ送信される。
【0033】
図2及び
図6に示すように、運転座席23の前方にはステアリングホイール13が配置されており、ステアリングホイール13の下方には左右のブレーキ機構を操作するブレーキペダル25やアクセルペダル38などが配置されており、ステアリングホイール13の周囲には、走行機体2のメインスイッチであるスタータスイッチ34、オペレータが走行機体2の前進と後進とを切り替える切替手段としてのシャトルレバー35及び予め設定された上限高さと下限高さの間でロータリ耕耘機3を手動で昇降操作するクイックアップレバー36が配置されている。
【0034】
シャトルレバー35は前進位置、中立位置及び後進位置に操作可能に設けられており、シャトルレバー35が前進位置に位置するときは走行機体2が前進し、中立位置に位置するときは走行機体2の走行は停止し、後進位置に位置するときは走行機体2が後進する。シャトルレバー35の操作位置の情報は、電気信号により制御部52へ送信される。
【0035】
クイックアップレバー36は上げ位置、中央位置及び下げ位置の間で揺動可能に支持されており、オペレータがクイックアップレバー36を上昇位置へ上げ操作又は下げ位置へ下げ操作をした後で操作の手を離すと中央位置に復帰するように、図示しない付勢部材が設けられている。ロータリ耕耘機3の昇降が停止している状態において、クイックアップレバー36の短上げ操作をするとロータリ耕耘機3は上限高さまで上昇し、短下げ操作をするとロータリ耕耘機3は下限高さであるポジションレバー31の揺動位置に対応する高さまで下降する。クイックアップレバー36の操作方向及び操作時間は、電気信号により制御部52へ送信される。
【0036】
図6に示すように、ステアリングホイール13の前方には各種の操作具、表示装置及びランプを備えるフロントパネル24が配置されている。フロントパネル24は、走行機体2の、バックアップモードのオン状態とオフ状態とを切り替えるバックアップ切替スイッチ37と、旋回アップモードのオン状態とオフ状態とを切り替える旋回アップ切替スイッチ39と、を備える。走行機体2が、バックアップモードのオン状態であるとき、バックアップランプ40が点灯し、ロータリ耕耘機3が上限高さに位置していない状態でシャトルレバー35が中立位置から後進位置へ切り替わる後進操作が行われるとロータリ耕耘機3が上限高さまで上昇する。旋回アップモードのオン状態であるとき、旋回アップランプ41が点灯し、ロータリ耕耘機3が上限高さに位置していない状態でステアリングセンサ15がオフ状態からオン状態へ切り替わるとロータリ耕耘機3が上限高さまで上昇する。バックアップ切替スイッチ37及び旋回アップ切替スイッチ39の切り替え情報は、電気信号により制御部52へ送信される。
【0037】
また、フロントパネル24は、油圧クラッチの断接操作をする4駆切替スイッチ42と、油圧クラッチの断接操作及びブレーキ機構による制動操作をする旋回倍速切替スイッチ43と、を備える。オペレータが4駆切替スイッチ42を操作する毎に、走行機体2は、前輪5に動力を伝達する各モードと前輪5に動力を伝達しない2輪駆動状態としての2駆モードとが切り替わり、前輪5に動力を伝達する各モードである際には、4駆切替ランプ45が点灯する。4駆切替スイッチ42及び旋回倍速切替スイッチ43による切り替え操作の情報は、電気信号により制御部52へ送信される。
【0038】
4駆切替ランプ45が点灯している状態において、旋回倍速切替スイッチ43を操作する毎に、走行機体2は、4輪駆動状態としての、前輪倍速オフ4駆モード、前輪倍速オン4駆モード及びオートブレーキモード(オートブレーキ制御)が切り替わる。前輪倍速オン4駆モードにおいては、後輪6の周速度に対して前輪5の周速度を増速させて旋回する前輪倍速制御(増速旋回制御)が実行され、旋回倍速ランプ46が点灯する。オートブレーキモードにおいては、前輪倍速制御が実行されると共に、制御部52により旋回内側の後輪6が自動でブレーキをかけるオートブレーキ制御が実行され、オートブレーキ旋回ランプ47が点灯する。なお、前輪倍速制御は、前進及び後進状態で実行可能であり、オートブレーキ制御は、前進状態のみで実行可能である。
【0039】
フロントパネル24は、走行機体2が圃場で耕耘作業を行うための作業モードと圃場外で路上等を走行するための走行モードとを切替可能なおまかせ切替スイッチ49、及び走行機体2が作業モードと走行モードとのいずれであるかを表示するおまかせ切替ランプ50を備える。オペレータがおまかせ切替スイッチ49を操作する毎に、走行機体2の作業モードと走行モードとが交互に切り替わるよう構成されている。走行機体2が作業モードから走行モードに切り替わると、バックアップモード及び旋回アップモードが共にオフ状態となり、前輪倍速オン4駆モード又はオートブレーキモードであった際には前輪倍速オフ4駆モードとなり、2駆モードであった際には2駆モードを維持し、クイックアップレバー36によるロータリ耕耘機3の昇降が規制されると共に、主変速レバー30がアクセル変速位置である際には、アクセルペダルの操作により主変速機構の変速操作が可能な状態となる。走行機体2が走行モードから作業モードに切り替わると、作業モードから走行モードに切り替える前の、バックアップモード、旋回アップモード、前輪倍速オン4駆モード、オートブレーキモード及び2駆モードのいずれかの状態になり、クイックアップレバー36によるロータリ耕耘機3の昇降が可能な状態になると共に、アクセルペダルの操作による主変速機構の変速操作が規制される。おまかせ切替スイッチ49による作業モード及び走行モードの切り替え情報は、電気信号により制御部52へ送信される。
【0040】
また、フロントパネル24は、走行機体2の状態や耕耘作業に関する各種の情報を表示する液晶表示装置51を備え、液晶表示装置51は、オートダウン状態表示部51a及び報知表示部51bを有する。オートダウン状態表示部51aには、エンジンの温度表示並びに燃料の残量表示からなる温度・燃料表示又は後述するオートダウン制御に関する情報等が表示され、報知表示部51bには、エンジンの回転数表示並びに総使用時間表示からなるエンジン回転数・使用時間表示又はオートダウン制御に関する報知文等が表示される。
【0041】
図7は、本実施の形態における制御ブロック図を示しており、後述するオートダウン制御を実行可能な制御部52は、CPU52b、ROM52c、RAM52d、インターフェース52e等を有するマイクロコンピュータ52aを備えている。制御部52は、ステアリングセンサ15、リフトアームセンサ21、車速センサ11、クイックアップレバー36、主変速レバー30、副変速レバー27、ポジションレバー31、おまかせ切替スイッチ49、オートダウンタイミングボリューム33、上げ高さボリューム32、シャトルレバー35、旋回倍速切替スイッチ43、4駆切替スイッチ42、バックアップ切替スイッチ37、旋回アップ切替スイッチ39、作業機下降速度調節ノブ29及びスタータスイッチ34から入力された信号に基づくマイクロコンピュータ52aの演算により信号が出力され、リフトアームバルブ20及び報知ブザー53を作動すると共に、リフトアップランプ22、おまかせ切替ランプ50、旋回倍速ランプ46、4駆切替ランプ45、旋回アップランプ41、バックアップランプ40、オートブレーキ旋回ランプ47及び自動入ランプ48の点灯及び消灯を制御し、液晶表示装置51に各種の情報を表示させる。
【0042】
[オートダウン制御]
次に、制御部52が実行可能な旋回制御としてのオートダウン制御について説明する。まず、
図8を用いてオートダウン制御の概略について説明する。
図8は、圃場Hの耕耘作業におけるトラクタ1の走行経路の一例を示している。オートダウン制御は、走行機体2が直進走行及び圃場端Jでの旋回を繰り返して往復走行をしながら行う圃場Hの耕耘などの作業において、圃場端Jに達したトラクタ1がロータリ耕耘機3などの作業機を上昇させて旋回を行った後で、作業機下降開始領域の境界としての下降開始線に達すると、自動的にロータリ耕耘機3などの作業機の下降を開始する制御である。以下の説明では、圃場内で行う作業として耕耘作業を行った場合について説明するが、このような作業としては、作業車輌がトラクタの場合には畝立てなどの他の作業であっても良いし、作業車輌が田植機の場合には田植などであっても良い。
【0043】
ここで、
図8に示すように、圃場H内で、互いに隣接する第1の経路L1、第2の経路L2に耕耘作業を行う場合について説明する。まず、トラクタ1が
図8の下方から第1の経路L1に沿って前進しつつ耕耘作業を行う。次いで、第1の経路L1における耕耘作業が終了してロータリ耕耘機(作業機)3を上昇させた状態で、第1の経路L1とは別の第2の経路L2に対して耕耘作業を行うべく、走行機体2を第1の経路L1から第2の経路L2に向けて旋回させる。オートダウン制御では、この際に、制御部52が、走行機体2の旋回を開始した位置を基準座標位置とする座標と、走行機体2のヨー角である機体角度とに基づいて、第2の経路L2における目標位置において自動でロータリ耕耘機3を下降させる。
【0044】
具体的には、運転者は、第1の経路L1の耕耘作業が終了したらステアリングホイール13を第2の経路L2に向けて操作する。
図8では、右旋回なのでステアリングホイール13を右側に回す。ここで、上述の旋回アップモードがオン状態であれば、ステアリングホイール13を回すことでロータリ耕耘機3が自動で上昇する。なお、旋回アップモードがオフ状態であれば、運転者がステアリングホイール13を回す前にクイックアップレバー36を操作することで、手動でロータリ耕耘機3を上昇させる。制御部52は、ステアリングホイール13を回した時の走行機体2のXY座標を取得する。XY座標は、第1の経路L1に沿った方向(
図8の上下方向)がY軸、Y軸と直交する方向がX軸(
図8の左右方向)である。
【0045】
制御部52は、ステアリングホイール13を回した時に取得したXY座標の位置、即ち、走行機体2の旋回を開始した位置を基準座標位置(原点О)とする座標を設定する。ここで、原点Оに対して
図8の上方向をY軸方向+、下方向をY軸方向-とする。即ち、第1の経路L1において前進方向が+、後進方向が-である。また、原点Оは、走行機体2の旋回開始時における左右一対の後輪6の回転軸方向(X軸方向)の中央位置、即ち、機体基準点2aとなる。座標系上における走行機体2の位置は、機体基準点2aのX座標及びY座標により特定される。
【0046】
制御部52は、オートダウン制御において、設定された座標系上に、Y座標のみで定義されて下降開始線を算出する基準となる下降基準線Fを設定する。また、制御部52は、車速に基づいてロータリ耕耘機3が下降を開始してから着地するまでに機体基準点2aが移動する下降走行距離Dを演算する。第2の経路L2に沿って走行機体2が走行中に、作業再開位置Gより下降走行距離D手前で下降が開始されると、走行機体2が圃場端Jで旋回をする際に走行機体2の走行を止めることなく、作業再開位置Gから耕耘作業を再開することができる。この場合における、作業再開位置GのY座標から下降走行距離Dを減算したY座標が下降基準線FのY座標となる。なお、運転者(オペレータ)は、オートダウンタイミングボリューム33の操作により、下降基準線Fに対してロータリ耕耘機3の下降を開始する位置のY座標を、所定長さであるSを用いて、最小-Sから最大+Sの範囲で調節した下降設定線を設定することができる。
【0047】
ここで、旋回後に着地したロータリ耕耘機3のロータリ軸3aの位置が、旋回開始時の着地した状態におけるロータリ耕耘機3のロータリ軸3aの位置である作業境界Cと一致する位置、即ち旋回開始時の走行機体2の向きと旋回後の走行機体2の向きが逆方向である状態で、機体基準点2aのY座標がヒッチ長さAの2倍と等しくなる作業再開位置Gでロータリ耕耘機3が着地して耕耘作業が再開されると、畦際Eからの枕地幅Mを揃えて耕耘作業をすることができる。ヒッチ長さAは、後輪6の回転軸とロータリ3bの着地時におけるロータリ軸3aとの平面視における距離である。
【0048】
したがって、制御部52は、オートダウン制御において、第1の経路L1に沿った方向、即ちY軸方向に関し、第2の経路L2における耕耘作業の開始位置を第1の経路L1における耕耘作業が終了した位置に合わせるように自動でロータリ耕耘機3を下降させるように、車速センサ11とステアリングセンサ15の検知結果から演算した、座標と走行機体2のヨー角である機体角度に基づいて、ロータリ耕耘機3の下降開始タイミングを制御する。即ち、オートダウン制御では、プログラム内で設定された旋回半径r、旋回円周の固定データをベースとして、走行機体2の座標系における位置と、機体角度を演算して、第2の経路L2における耕耘作業の開始位置を第1の経路L1における耕耘作業が終了した位置に合わせるようにロータリ耕耘機3の下降制御が行われる。
【0049】
また、オートダウン制御は、走行機体2を180°旋回させて隣接した経路の耕耘作業(隣接耕)を行う際に、自動でロータリ耕耘機3を下降させる隣接作業制御としての隣接耕制御と、隣接耕制御以外(隣接作業制御以外)の通常制御とを有する。即ち、隣接耕制御は、上述のように、第1の経路L1と第2の経路L2とが隣接する場合に、第1の経路L1から走行機体2を180°旋回させて第2の経路L2の耕耘作業を行うべく、第1の経路L1に沿った方向(Y軸方向)に関し、第2の経路L2における耕耘作業の開始位置を第1の経路L1における耕耘作業が終了した位置に合わせるように自動でロータリ耕耘機3を下降させる制御である。なお、作業が耕耘作業でない隣接作業制御、例えば、畝立てなどの他の作業を隣接する経路で行う制御も、上述と同様である。通常制御は、隣接耕制御の条件を満たさない場合に実行される制御であり、本実施形態では、隣接しない経路に対して耕耘作業を行う場合は勿論、仮に、隣接する経路に対して耕耘作業を行う場合であっても隣接耕制御の条件を満たさない場合に実行される制御である。
【0050】
したがって、制御部52は、オートダウン制御が開始された場合に、隣接耕制御のための演算と通常制御のための演算とを同時に行い、隣接耕制御の条件を満たさない場合には通常制御を行う。
【0051】
また、本実施形態では、走行機体2の180°旋回は、演算した機体角度が180°±30°(180-30°以上180°+30°以下)、或いは、-180°±30°(-180+30°以下-180°-30°以上)であれば、180°旋回したとみなす。これは、実際の走行機体2の状態と演算結果とにずれが生じる場合があるためである。したがって、走行機体2が直進状態となった場合に、演算した機械角度がこの範囲内であれば180°旋回とみなされる。
【0052】
[機体角度の演算]
ここで、機体角度の演算方法について説明する。機体角度は、車速と旋回円周に基づいて算出される。旋回円周は、前進用、後進用それぞれに設定されている。旋回円周は、予め設定されているが、後述するように、トラクタ1を360°旋回させることで更新される。機体角度の演算について、より具体的に説明すると、まず、旋回中の車速により機体角度の変化を演算し、それを積算することで機体角度を求める。左右の旋回、前進、後進に分けると、以下のような式により機体角度が演算される。なお、「Δ機体角度」は、旋回中の機体角度の変化である。また、右旋回を+、左旋回を-、前進を+、後進を-とする。
【0053】
(1)右旋回、前進の場合
Δ機体角度=360.0°×車速(mm/s)/前進用旋回円周(mm)
(2)右旋回、後進の場合
Δ機体角度=-360.0°×車速(mm/s)/後進用旋回円周(mm)
(3)左旋回、前進の場合
Δ機体角度=-360.0°×車速(mm/s)/前進用旋回円周(mm)
(4)左旋回、後進の場合
Δ機体角度=360.0°×車速(mm/s)/後進用旋回円周(mm)
上述のΔ機体角度を旋回開始後に積算することで、機体角度を演算する。
【0054】
[隣接耕制御]
上述のように、オートダウン制御では、走行機体2の座標系における位置と、機体角度を演算して、ロータリ耕耘機3の下降制御を行っている。そして、隣接耕制御においても、この座標と機体角度に基づいて走行機体が180°旋回したと判断した場合に制御が実行される。しかしながら、前述したように、機体角度の条件は、運転者の操作やスリップしやすいなどの圃場の状態などの影響を受ける。このため、隣接耕制御を行うべく走行機体を第1の経路から旋回させ、第2の経路において走行機体が直進状態となっても、実際の走行機体の機体角度と演算上の機体角度との差が大きくなる場合がある。この場合、走行機体が180°旋回したと判断されず、作業機が目標位置で下降せずに走行機体が通り過ぎてしまう虞がある。
【0055】
そこで、本実施形態では、制御部52は、オートダウン制御において、走行機体2の旋回を開始後、走行機体2の状態が前進状態及び同じ方向の旋回状態が維持された後、直進状態となった場合に、隣接耕制御を実行するようにしている。即ち、制御部52は、ステアリングホイール13が回され、走行機体2が所定方向に旋回を開始した場合に、シャトルレバー35の位置が前進位置に維持されたままであり、走行機体2の旋回方向が所定方向のまま、走行機体2が直進状態となった場合には、演算された機体角度が、走行機体の180°旋回と一致していなくても、走行機体2が180°旋回したとみなして隣接耕制御を実行する。言い換えれば、演算された機体角度が、180°±30°、或いは、-180°±30°の範囲内でなくても、上述の条件を満たせば、隣接耕制御を実行する。
【0056】
これにより、運転者の操作やスリップしやすいなどの圃場の状態に拘わらず、隣接耕の制御を実行可能である。即ち、走行機体2が直進状態となって際に、演算結果が180°旋回と一致しなくても、上述の旋回開始から走行機体2が直進状態となるまで条件が成立していれば、隣接耕制御を実行するようにすることで、スリップなどにより演算結果がずれても、隣接耕制御が実行されないことを抑制でき、作業効率を向上させることができる。
【0057】
但し、制御部52は、走行機体2の旋回を開始後、走行機体2の状態が前進状態及び同じ方向の旋回状態が維持された後、直進状態となった際に、上述のように演算された機体角度が、180°に対して所定範囲内であれば、隣接耕制御を実行し、所定範囲から外れている場合には隣接耕制御を実行しないようにしている。所定範囲は、例えは、右旋回を+とした場合、180-30°以上300°以下(180-30°~300°)の範囲と、-180+30°以下-300°以上(-180+30°~-300°)の範囲である。具体的には、演算された機体角度が180°+30°を超えても、300°以下であれば、180°+30°として扱う。左旋回の場合も同様である。これにより、運転者の操作やスリップしやすいなどの圃場の状態に拘わらず、隣接耕の制御をより正確に実行可能である。
【0058】
以上のオートダウン制御の流れの一例について、
図9を用いて説明する。まず、制御部52は、ステアリングセンサ15などの信号から走行機体2が旋回走行中であるか否かを判断する(S1)。旋回走行中でなければ(S1のNO)、走行機体2の機体角度は0°である(S2)。一方、旋回走行中であれば(S1のYES)、制御部52が走行機体2の機体角度を演算する(S3)。
【0059】
そして、制御部52は、演算した機体角度が90°に達したか、即ち、走行機体2が90°旋回したか否かを判断する(S4)。90°旋回が完了していなければ(S4のNO)、制御部52は「旋回未達状態」を記憶し(S5)、90°旋回が完了していれば(S4のYES)、制御部52は「旋回済状態」を記憶する(S6)。
【0060】
次いで、制御部52は、旋回中に後進操作があったか否かを判断する(S7)。言い換えれば、シャトルレバー35が前進状態に維持されていたか否かを判断する。後進操作がなかった場合(S7のNO)、演算された機体角度が、180°に対して所定範囲内であるか否かを判断する(S8)。即ち、機体角度が180-30°以上300°以下、或いは、-180+30°以下-300°以上であるか否かを判断する。そして、機体角度が所定範囲内であれば(S8のYES)、その旋回動作は隣接耕制御のための動作であると判断する(S9)。機体角度が所定範囲外であれば(S8のNO)、隣接耕制御以外の通常制御と判断する(S10)。S7で後進操作があった場合も(S7のYES)、通常制御と判断する(S10)。
【0061】
次に、制御部52は、機体角度が条件達成か否かを判断する(S11)。即ち、走行機体2の旋回が完了し、走行機体2が直進状態となったか否かを判断する。条件達成していなければ(S11のNO)、制御部52は、「条件未達状態」を記憶する(S12)。条件達成していれば(S11のYES)、制御部52は、「条件達成状態」を記憶する(S13)。
図9の制御フローは、オートダウン制御の実行中は繰り返し実行され、制御部52は、この制御フローの判断結果に基づいて、オートダウン制御において、隣接耕制御又は通常制御を実行する。
【0062】
[下降位置の補正]
上述のように本実施形態では、オートダウン制御において、走行機体2の旋回を開始後、走行機体2の状態が前進状態及び同じ方向の旋回状態が維持された後、直進状態となった場合に、隣接耕制御を実行するようにしている。したがって、演算上の走行機体2の位置と実際の走行機体2の位置にずれが生じている場合があり、この場合にそのままロータリ耕耘機3の下降開始の制御を行うと、下降開始の位置がずれてしまう虞がある。このため、本実施形態では、制御部52は、オートダウン制御において、走行機体2が旋回後に直進状態となった際に、演算された機体角度に基づいて、ロータリ耕耘機3を下降させる位置を補正するようにしている。
【0063】
この点について、
図10及び
図11を用いて説明する。ロータリ耕耘機3の下降位置の補正は、隣接耕制御と通常制御とで異なるが、まず、下降位置の演算の流れについて、
図10を用いて説明する。
図10で登場する「下降目標設定値位置」は、例えば
図8で説明した「下降基準線F」に対応し、「下降目標基準位置」は、例えば
図8で説明した、旋回後に着地したロータリ耕耘機3のロータリ軸3aの位置が、旋回開始時の着地した状態におけるロータリ耕耘機3のロータリ軸3aの位置である作業境界Cと一致する位置に対応する。
【0064】
まず、制御部52は、隣接耕制御の状態か否かを判断する(S21)。隣接耕制御でなければ(S21のNO)、下降位置の補正は、通常制御に対応した演算を行う(S22)。一方、隣接耕制御であれば(S21のYES)、下降位置の補正は、隣接耕制御に対応した演算を行う(S23)。次に、制御部52は、オートダウン制御中か否かを判断する(S24)。オートダウン制御中でなければ(S24のNO)、下降位置を「下降目標設定値位置」とする(S25)。オートダウン制御中であれば(S24のYES)、「下降目標設定値位置」が「下降目標基準位置」以上か否か、即ち、
図8のY軸方向において「下降目標設定値位置」が「下降目標基準位置」と同じか、「下降目標設定値位置」が「下降目標基準位置」よりも下側(+側)にあるか否かを判断する(S26)。
【0065】
S26において、「下降目標設定値位置」が「下降目標基準位置」以上であれば(S26のYES)、下降位置を「下降目標設定値位置」とする(S27)。一方、そうでなければ(S26のNO)、走行機体2の現在位置が「下降目標設定値位置」以下か否か、即ち、
図8のY軸方向において現在位置が「下降目標設定値位置」と同じか、或いは、現在位置が「下降目標設定値位置」よりも上側(-側)にあるか否かを判断する(S28)。S28において、現在位置が「下降目標設定値位置」以下であれば(S28のYES)、下降位置を「下降目標設定値位置」とする(S29)。一方、そうでなければ(S28のNO)、走行機体2の現在位置が「下降目標基準位置」以上か否か、即ち、
図8のY軸方向において現在位置が「下降目標基準位置」と同じか、或いは、現在位置が「下降目標基準位置」よりも下側(+側)にあるか否かを判断する(S30)。
【0066】
S30において、現在位置が「下降目標基準位置」以上である場合には(S30のYES)、下降位置を「下降目標基準位置」とする(S31)。一方、そうでなければ(S30のNO)、走行機体2が旋回中であるか否か、或いは、後進中であるか否かを判断する(S32)。S32において、走行機体2が旋回中又は後進中であれば(S32のYES)、下降位置を現在位置にヒステリシスを加えた位置とする(S33)。一方、そうでなければ(S32のNO)、S21に戻る。本実施形態では、制御部52は、
図10のフローチャートを繰り返し実行し、制御部52は、この制御フローの判断結果に基づいて下降位置を設定する。
【0067】
次に、
図11(a)、(b)を用いて、通常制御と隣接耕制御におけるロータリ耕耘機3の下降位置の補正について説明する。まず、
図11(a)により通常制御における下降位置の補正について説明する。通常制御の下降位置(接地位置)の補正は、以下の式で行う。
接地位置Y=A+((A+S)×-cos(θv))
【0068】
上述のように、Aは後輪6の回転軸(車軸)とロータリ耕耘機3のロータリ軸3aとの間の距離である。Sは調整ボリューム(オートダウンタイミングボリューム33)の設定で変化する値である。θvは機体角度である。
【0069】
図11(a)では、S=0の場合を示している。走行機体2が旋回終了後に直進状態となっていても、座標上における演算上の車体角度が180°からずれていた場合、演算上の車体角度が180°である場合に対して、演算により設定される下降位置がずれてしまう。
図11(a)のライン100は、演算上の車体角度が180°であり、旋回後の実際の車体角度と演算上の車体角度が一致している場合を示している。この場合、旋回が終了した地点から2×Aの距離、走行機体2が前進すれば、ロータリ耕耘機3の下降位置を、旋回開始時にロータリ耕耘機3を上昇させた位置と一致させることができる。
【0070】
一方、
図11(a)のライン101は、演算上の車体角度が180°よりも小さい場合であり、旋回後の実際の車体角度よりも演算上の車体角度が小さい場合を示している。この場合、Y軸方向に関して座標上における目標下降位置まで走行機体2を前進させようとすると、2×Aよりも長い距離が演算される。即ち、制御部52は、車体角度が180°未満と演算しており、Y軸方向において、ロータリ耕耘機3の下降位置を、旋回開始時にロータリ耕耘機3を上昇させた位置と一致させるように、ライン101の先端で示すような位置を下降位置と設定するように演算してしまう。このため、
図11(a)の右側の各ラインの長さの比較から明らかなように、旋回終了地点から下降開始の目標位置までの演算上の距離は、2×Aよりも長い距離となってしまう。しかしながら、実際には運転者が走行機体2を直進状態に戻した時の車体角度は、概ね180°となっていると考えられるので、この演算で求められた距離だけ進むと、下降位置がずれてしまう。このため、上述の式により、演算上の車体角度による補正を行うことで、下降位置のずれを抑制できる。
【0071】
次に、
図11(a)のライン102は、演算上の車体角度が180°よりも大きい場合であり、旋回後の実際の車体角度よりも演算上の車体角度が大きい場合を示している。この場合、Y軸方向に関して座標上における目標下降位置まで走行機体2を前進させようとすると、2×Aよりも短い距離が演算される。即ち、制御部52は、車体角度が180°よりも大きいと演算しており、Y軸方向において、ロータリ耕耘機3の下降位置を、旋回開始時にロータリ耕耘機3を上昇させた位置と一致させるように、ライン101の先端で示すような位置を下降位置と設定するように演算してしまう。このため、
図11(a)の右側の各ラインの長さの比較から明らかなように、旋回終了地点から下降開始の目標位置までの演算上の距離は、2×Aよりも短い距離となってしまう。しかしながら、実際には運転者が走行機体2を直進状態に戻した時の車体角度は、概ね180°となっていると考えられるので、この演算で求められた距離だけ進むと、下降位置がずれてしまう。このため、上述の式により、演算上の車体角度による補正を行うことで、下降位置のずれを抑制できる。
【0072】
次に、
図11(b)により隣接耕制御における下降位置の補正について説明する。隣接耕制御の下降位置(接地位置)の補正は、以下の式で行う。
接地位置Y=TY+((-BSY+A+A+S)×-cos(θv))
【0073】
BSYは、ロータリ耕耘機3が上昇してからトラクタ1が直進した距離であり、旋回時にロータリ耕耘機3が自動で上昇する場合は0となる。手動でロータリ耕耘機3を上昇させた場合は、上昇させた位置から旋回開始位置までの距離となる。TYは、旋回終了時の走行機体2のY座標である。
図11(b)では、S=0、BSY=0の場合を示している。上述のように、本実施形態では、オートダウン制御において、走行機体2の旋回を開始後、走行機体2の状態が前進状態及び同じ方向の旋回状態が維持された後、直進状態となった場合、演算上の機体角度が180-30°以上300°以下、或いは、-180+30°以下-300°以上の範囲内であれば、隣接耕制御が実行される。このため、実際上の走行機体2の車体角度及び旋回終了時のY座標と、演算上の走行機体2の車体角度及び旋回終了時のY座標との差が大きくなる虞がある。このため、上述の式により下降位置の補正を行うことで、演算上の走行機体2の車体角度及び旋回終了時のY座標が実際とはずれていても、下降位置のずれを抑制できる。
【0074】
[旋回支点の演算]
上述したように、本実施形態のトラクタ1は、旋回時に前輪倍速制御(増速旋回制御)やオートブレーキ制御を実行可能である。また、前輪倍速制御は、前進及び後進状態で実行可能であり、オートブレーキ制御は、前進状態のみで実行可能である。このため、オートダウン制御において、旋回時に前進、後進が切り替わったり、右旋回、左旋回が切り替わったりした場合、その都度、旋回支点が変わるため、演算がしにくかった。そこで、本実施形態では、オートダウン制御時に、前進、後進、前輪倍速制御、及び、オートブレーキ制御の設定によって旋回支点を変更するようにしている。
【0075】
具体的には、制御部52は、常に前後進の左右支点(4箇所)演算し、直進中,旋回中に関係なく前後進を切り替えた時に旋回支点を変更して、機体角度,座標の演算を行うようにしている。この点について、
図12(a)、(b)を用いて説明する。
図12(a)は右旋回、前進時の旋回支点を示し、
図12(b)は右旋回、後進時の旋回支点を示している。また、前輪倍速制御をQT、オートブレーキ制御をABと示す。更に、図に示すAR0、BR0などの、A、B、R、Lは、それぞれAはQTのみ、BはQT+AB、Lは前進方向に対して左側支点、Rは前進方向に対して右側支点、数字は各支点の演算の順番を示している。即ち、ALはQTのみの左側支点、ARはQTのみの右側支点、BLはQT+ABのみの左側支点、BRはQT+ABの右側支点をそれぞれ示す。
【0076】
また、
図12(a)、(b)は、旋回制御=QT+ABで、ステアリングを右に切って車体角度が60°まで前進で旋回し、ステアリングはそのままで、車体角度が0°まで後進した時の旋回支点の変化と座標を示している。右旋回の旋回支点は、前進ではポイントBRになるが、後進ではポイントARに変わる。そのため、前進右旋回ではBRを支点としてC基準でAL,BL,ARの座標を演算する。後進ではARを支点としてC,AL,BL,BRの座標を演算する。旋回制御=QTのみでは前後進の左右支点の位置は変わらないので、上述操作を行った場合は同じ位置に戻ることとなる。即ち、前後進とも旋回支点はAL,ARとなる。
【0077】
本実施形態では、このようにリアルタイムで前後進の左右支点(4点)の座標位置を演算している。そして、旋回支点を変更しながら、座標位置や車体角度を演算するようにしている。具体的には、車体角度を演算し、旋回支点よりトラクタ1の基準点を演算し、トラクタ1の基準点より残りの支点を演算する。これにより、その状況に応じた走行機体の旋回時における演算を高精度で行え、即ち、前後進操作、左右旋回時に精度の高い演算が可能となり、オートブレーキ制御において、下降開始位置を安定させることができる。
【0078】
[旋回半径と旋回円周の演算]
上述のように、オートダウン制御では、プログラム内で設定された旋回半径r、旋回円周の固定データをベースとして、走行機体2の座標系における位置と、機体角度を演算するが、実際の走行機体2の状態と演算上の状態とのずれが大きいと、下降位置がずれたり、オートブレーキ制御が行われなかったりする虞がある。そこで、本実施形態では、旋回半径と旋回円周の調整を行うための調整モードを実行可能である。この調整モードは、例えば、サービスマンが現地において実行する。
【0079】
具体的には、トラクタ1を1周旋回させ、その間の車速と経過時間により、旋回の円周と半径を演算し、EEPROMなどの不揮発性メモリに記憶し、以降のオートダウン制御に反映する。このような調整モードでは、設定によっては旋回中にトラクタ1が倒れるなどの危険や、データを十分に取れない可能性がある。このような場合として、例えば、以下の条件がある。
(1)主変速レバーの設定などにより自動的に変速アップする。
(2)旋回制御の設定や4駆の切り替えの設定などによりオートダウン制御条件になっていない。
(3)車速が遅すぎることにより、情報量が足りなかったり、情報が不安定になる。
(4)車速が速すぎて旋回が危険である。
【0080】
このために本実施形態では、
図6に示したような液晶表示装置51に、
図13の表に示すような各条件が成立していない場合には、画面に条件が成立していない旨、或いは、成立させるための情報を表示したり、調整モードを開始又は終了するスイッチ(SW)の操作時、或いは、演算終了時にブザーなどを鳴らすようにしている。
図13において、まず、演算開始前条件として、「旋回自動」、「主変速レバー」、「車速」、「シャトルレバー」、「ステアリング切れ角」がある。
【0081】
「旋回自動」は、旋回を、前輪倍速制御(旋回倍速)と、旋回倍速+オートブレーキ制御との何れで行うかの条件確認である。「主変速レバー」は、自動変速アップが機能しない1速~4速の何れかが選択されているかの条件確認である。本実施形態では、5速以上となると自動変速アップが機能するため、このようにしている。
【0082】
「車速」は、安全である車速の上限と、必要な情報を得るための車速の下限の条件確認である。本実施形態では、上限を3.0km/h、下限を0.9km/hとしている。「シャトルレバー」は、シャトルレバー35の条件確認である。表では「前進」と示しているが、「後進」が選択されていても良い。但し、後進ではオートブレーキ制御が機能しない。「ステアリング切れ角」は、ステアリングホイール13が切れているかの条件確認である。
【0083】
次に、演算中条件としては、「最低半径」、「最大半径」、「タイムアウト」がある。「最低半径」は、条件成立のためのトラクタ1の旋回半径の下限値であり、トラクタ1の種類によって定まる値であり、本実施形態では500mmとしている。「最大半径」は、条件成立のためのトラクタ1の旋回半径の上限値であり、本実施形態では3000mmとしている。「タイムアウト」は、調整モードの上限時間であり、本実施形態では、演算開始から75秒以上経過したら演算不成立としている。なお、演算開始条件は、演算中も有効であり、演算中に演算開始条件の何れかを満たさなければ、演算不成立となる。これにより、サービスマンを含む運転者が調整モードの条件の詳細を知らなくても、画面表示などを参考に調整モードを実行可能となる。
【0084】
なお、本実施形態では、調整モードにより設定した旋回半径、旋回円周を工場出荷時の値に戻すことも可能である。例えば、所定のスイッチを所定の時間押すことで、対象のデータをクリアすると共にブザーを鳴らし、工場出荷時の状態に戻す。また、調整モードの実行中に意図せずにロータリ耕耘機3が下降してしまうことを防止するために、調整モードの実行時は、オートダウン制御の実行を禁止するようにしている。
【0085】
また、調整モードの実行により設定された旋回半径や旋回円周は、手動により調整可能である。また、データの優先度は、手動により設定した値、調整モードで設定した値、デフォルトの値(工場出荷時の値)の順番とする。但し、手動で設定後に調整モードを実行した場合には、手動で設定されたデータはクリアされ、調整モードで設定されたデータに更新される。
【0086】
[他の実施形態]
なお、車速は一方の後輪6の回転及び後輪駆動軸の回転を検出することとしたが、代わりに他の部分の回転を検出してもよく、例えば後輪駆動軸の回転の代わりにドライブシャフトの回転を検出しても良いし、左右両方の後輪6の回転を検出してもよい。なお、主変速機構及び副変速機構は多段状の変速機構であることとしたが、エンジンの回転数と後輪6の回転数の比である総減速比が検知できるようになっていれば、主変速機構及び副変速機構は無段状の変速機構でもよいし、いずれか一方のみを備える構成としてもよい。なお、旋回開始動作としてポジションレバー31の操作によるロータリ耕耘機3の上昇操作を加えてもよい。
【0087】
なお、オペレータに対する視覚的な報知は液晶表示装置51の図柄や報知文の変化によることとしたが、代わりに液晶以外の有機ELディスプレイや、LEDランプのドットマトリクス表示装置による表示でもよいし、発光する表示装置の色や位置の変化で報知を行ってもよい。なお、制御部52に対する入力を行う各種の操作具は、代わりに液晶表示装置51に設けられたタッチパネルであってもよいし、無線通信が可能な走行機体2の外部に設けられた入力装置であってもよい。なお、オペレータが乗車せずに離れたところからトラクタ1を操縦する遠隔操作装置を備える構成とし、モーターや油圧制御等によりステアリング装置が駆動されて前輪5が操舵される構造としてもても良い。なお、ステアリングホイール13は、揺動又は水平動可能なレバーやボタン等でもよいし、ステアリングホイール13の操作はオン状態とオフ状態とのいずれかの検知に限られず、操作角度を数値で検出可能として操作角度に応じて算出した旋回半径rに基づいて制御部52が演算を可能な構成としてもよい。なお、ステアリングホイール13の操作はステアリングホイール13の回動を直接検知してもよいし、タイロッドの移動量や前輪5の傾き量で検知する構成としてもよい。なお、制御部52はディスクリート回路により形成されていてもよいし、半導体集積回路素子として一体に形成されていてもよい。
【0088】
なお、上記実施の形態はロータリ耕耘機3を備えるトラクタ1について説明したが、これに限られず、作業機は代掻き作業機やプラウ等でもよいし、田植機等、走行機体2に昇降可能な作業機が設けられている他の作業車輌にも同様に適用可能である。
【符号の説明】
【0089】
1 トラクタ(作業車輌)
2 走行機体
3 ロータリ耕耘機(作業機)
5 前輪
6 後輪(走行部)
12 ステアリング装置(操向部)
16 昇降リンク機構(昇降装置)
35 シャトルレバー(切替手段)
52 制御部