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特開2023-56108空調気流予測装置及び空調気流予測方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023056108
(43)【公開日】2023-04-19
(54)【発明の名称】空調気流予測装置及び空調気流予測方法
(51)【国際特許分類】
   G06F 30/27 20200101AFI20230412BHJP
   G06F 30/23 20200101ALI20230412BHJP
   G06F 30/28 20200101ALI20230412BHJP
   F24F 11/52 20180101ALI20230412BHJP
   G06F 113/08 20200101ALN20230412BHJP
【FI】
G06F30/27
G06F30/23
G06F30/28
F24F11/52
G06F113:08
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021165222
(22)【出願日】2021-10-07
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-09-28
(71)【出願人】
【識別番号】521233943
【氏名又は名称】株式会社 SAI
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 徹
(72)【発明者】
【氏名】福間 康文
【テーマコード(参考)】
3L260
5B146
【Fターム(参考)】
3L260AB15
3L260BA75
3L260CA12
3L260CA14
3L260CA15
3L260CA29
3L260CA39
3L260CB90
3L260DA11
3L260EA04
3L260EA22
3L260FA20
3L260GA14
3L260GA17
5B146AA04
5B146DC01
5B146DC03
5B146DJ03
5B146DJ07
5B146EA01
5B146EC01
5B146FA02
(57)【要約】
【課題】空間内の換気をシミュレーションするために、空調設備により生じる空間内の気流を予測する空調気流予測装置を提供する。
【解決手段】本発明による空調気流予測装置は、気流予測に用いる入力パラメータを取得する入力パラメータ取得部と、対象となる空間の形状についての複数の2次元画像を取得し、前記2次元画像の各々をより低解像度の画像に変換する入力画像処理部と、少なくとも前記入力パラメータ取得部で取得した前記入力パラメータと、前記入力画像処理部で変換した前記2次元画像とのうちの1つ以上を入力として、ニューラルネットワークを用いた深層学習による学習済モデルを用いて空間の気流を予測し、前記空間の気流を示す複数の予測画像を出力する予測部と、前記予測部から出力された前記予測画像の各々をより高解像度の画像に変換する出力画像処理部とを備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
空調気流予測装置であって、
気流予測に用いる入力パラメータを取得する入力パラメータ取得部と、
対象となる空間の形状についての複数の2次元画像を取得し、前記2次元画像の各々をより低解像度の画像に変換する入力画像処理部と、
少なくとも前記入力パラメータ取得部で取得した前記入力パラメータと、前記入力画像処理部で変換した前記2次元画像とのうちの1つ以上を入力として、ニューラルネットワークを用いた深層学習による学習済モデルを用いて空間の気流を予測し、前記空間の気流を示す複数の予測画像を出力する予測部と、
前記予測部から出力された前記予測画像の各々をより高解像度の画像に変換する出力画像処理部と、
を備えることを特徴とする、空調気流予測装置。
【請求項2】
前記入力パラメータは、気流の速度、空間の大きさ、気温、気圧、天気のうちの少なくとも1つ以上を含むことを特徴とする、請求項1に記載の空調気流予測装置。
【請求項3】
前記2次元画像の各々は、ある高さにおける空間の断面の形状を示す画像であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の空調気流予測装置。
【請求項4】
前記予測部は、サロゲートモデリングにより構築されたサロゲートモデルを用いて前記空間の気流を予測することを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の空調気流予測装置。
【請求項5】
前記サロゲートモデルは、予め作成された、入力パラメータ及び入力画像と、結果として出力されるべき正解画像との組み合わせを用いて、ニューラルネットワークを用いた深層学習を行うことにより、入力パラメータ及び入力画像と、出力画像としての予測画像との関係性を示す学習済モデルとして構築されたものであることを特徴とする、請求項4のいずれか一項に記載の空調気流予測装置。
【請求項6】
前記予測画像の各々は、ある高さにおける空間の断面の気流を示す画像であることを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の空調気流予測装置。
【請求項7】
前記予測部での予測に用いられる学習済モデルを作成する学習済モデル作成部をさらに備え、
前記学習済モデル作成部は、予め作成された、入力パラメータ及び入力画像と、結果として出力されるべき正解画像とを用いて、ニューラルネットワークを用いた深層学習を行い、入力パラメータ及び入力画像と、出力画像としての予測画像との関係性を示す学習済モデルを作成することを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載の空調気流予測装置。
【請求項8】
前記対象となる空間の3次元モデル内に前記出力画像処理部で変換された画像をマッピングして表示するユーザインターフェース部をさらに備え、
前記ユーザインターフェース部は、ユーザからの入力を受け付け、前記ユーザからの入力に従って前記3次元モデル内に配置されたオブジェクトの移動又はオブジェクトの属性の変更を行うことを特徴とする、請求項1~7のいずれか一項に記載の空調気流予測装置。
【請求項9】
前記ユーザインターフェース部は、前記オブジェクトの移動又は前記オブジェクトの属性の変更に伴い、前記オブジェクトの移動後の3次元モデルから2次元画像を切り出し、切り出された2次元画像を前記入力画像処理部に送信し、前記予測部による再度の予測処理をトリガすることを特徴とする、請求項8に記載の空調気流予測装置。
【請求項10】
空調気流予測方法であって、
気流予測に用いる入力パラメータを取得するステップと、
対象となる空間の形状についての複数の2次元画像を取得し、前記2次元画像の各々をより低解像度の画像に変換するステップと、
少なくとも取得した前記入力パラメータと、変換した前記2次元画像とのうちの1つ以上を入力としてニューラルネットワークを用いた深層学習により空間の気流を予測し、前記空間の気流を示す複数の予測画像を出力するステップと、
出力された前記予測画像の各々をより高解像度の画像に変換するステップと、
を備えることを特徴とする、空調気流予測方法。
【請求項11】
コンピュータに、請求項10に記載の方法の各ステップを実行させることを特徴とするプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空調気流予測装置に関し、特に、ニューラルネットワークによる深層学習を用いて空調気流の予測を行う空調気流予測装置及び空調気流予測方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、感染症対策として空間内の換気の重要性が再認識されている。店舗やオフィス、商業施設、医療施設、住宅等、様々な環境の中で、その空間の換気設備とその空間内に存在する人物周辺の換気状況の安全性を確認することが求められている。
【0003】
従来のCAE(Computer Aided Engineering)による数値解析シミュレーションを用いて空調の気流を予測することも可能であるが、計算コストが高く、シミュレーション結果の生成にも時間を要する。そのため、より低コストかつ短時間で様々な施設や利用目的に応じることができる換気シミュレーションシステムが求められている。
【0004】
特に、実際の施設の空間においては、家具等の様々な設備が配置されており、従来のCAEを用いて、施設ごとに家具等の設備の配置も考慮した空間を設定し、シミュレーションを行うことは計算コストがかかり過ぎることが問題となる。また、シミュレーション結果を参照しながら家具の配置を工夫する目的で利用する場合等には、高い計算コストは許容しにくく、より低コストかつ短時間での換気シミュレーションが求められる。
【0005】
例えば、特許文献1では、対象空間の抵抗体等の設定条件を優先順位順に3つに分け、第1の入力手段の空間寸法、最小排気口寸法、対称物体、気流の種類の各データからメッシュ分割様の時間刻みを算出し、第2条件の気流の種類、希望解析時間の各データと、前記時間刻みとから、メッシュ分割数を求め、第3条件の細部項目のブロック類の配置データから、精密な前記時間刻みを求め、該時間刻みからシミュレーションの反復回数を求める気流のシミュレーション方法が開示されている。
【0006】
また、特許文献2では、送風機が動作する室内に配置された複数の浮遊塵埃検知手段と気流予測手段によって構成され、前記気流予測手段は、前記浮遊塵埃検知手段によって検知される浮遊塵埃の量から、前記浮遊塵埃検知手段のそれぞれの周囲が前記送風機より吹き出された空気及び/または前記送風機に吸引される空気が流れる主流領域か、前記主流領域ではない副流領域のどちらに属するのかを予測し、その予測した前記主流領域同士と前記副流領域同士をそれぞれつなぎ合わせることで、前記室内全体の主流領域と副流領域の空間分布を予測する気流計測装置が開示されている。
【0007】
しかしながら、特許文献1及び2はいずれも、高い計算コストを必要とし、空間内の家具の配置の変更等に柔軟に対応するものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平4-38434号公報
【特許文献2】特開2011-24844号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明は、上記課題を解決し、空間内の換気をシミュレーションするために、空調設備により生じる空間内の気流を予測する空調気流予測装置を提供するものである。
【0010】
また、本発明は、空間内の家具等の設備の配置と人物又は座席の位置を考慮した空調気流予測装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明では、気流予測に用いる入力パラメータを取得する入力パラメータ取得部と、対象となる空間の形状についての複数の2次元画像を取得し、2次元画像の各々をより低解像度の画像に変換する入力画像処理部と、少なくとも入力パラメータ取得部で取得した入力パラメータと、入力画像処理部で変換した2次元画像とのうちの1つ以上を入力として、ニューラルネットワークを用いた深層学習による学習済モデルを用いて空間の気流を予測し、空間の気流を示す複数の予測画像を出力する予測部と、予測部から出力された予測画像の各々をより高解像度の画像に変換する出力画像処理部とを備える空調気流予測装置を提供する。
【0012】
本発明のある態様による空調気流予測装置において、入力パラメータは、気流の速度、空間の大きさ、気温、気圧、天気のうちの少なくとも1つ以上を含むことを特徴とする。
【0013】
本発明のある態様による空調気流予測装置において、2次元画像の各々は、ある高さにおける空間の断面の形状を示す画像であることを特徴とする。
【0014】
本発明のある態様による空調気流予測装置において、予測部は、サロゲートモデリングにより構築されたサロゲートモデルを用いて前記空間の気流を予測することを特徴とする。
【0015】
本発明のある態様による空調気流予測装置において、サロゲートモデルは、予め作成された、入力パラメータ及び入力画像と、結果として出力されるべき正解画像との組み合わせを用いて、ニューラルネットワークを用いた深層学習を行うことにより、入力パラメータ及び入力画像と、出力画像としての予測画像との関係性を示す学習済モデルとして構築されたものであることを特徴とする。
【0016】
本発明のある態様による空調気流予測装置において、予測画像の各々は、ある高さにおける空間の断面の気流を示す画像であることを特徴とする。
【0017】
本発明の他の態様による空調気流予測装置は、予測部での予測に用いられる学習済モデルを作成する学習済モデル作成部をさらに備え、学習済モデル作成部は、予め作成された、入力パラメータ及び入力画像と、結果として出力されるべき正解画像とを用いて、ニューラルネットワークを用いた深層学習を行い、入力パラメータ及び入力画像と、出力画像としての予測画像との関係性を示す学習済モデルを作成することを特徴とする。
【0018】
本発明の他の態様による空調気流予測装置は、対象となる空間の3次元モデル内に出力画像処理部で変換された画像をマッピングして表示するユーザインターフェース部をさらに備え、ユーザインターフェース部は、ユーザからの入力を受け付け、ユーザからの入力に従って3次元モデル内に配置されたオブジェクトの移動又はオブジェクトの属性の変更を行うことを特徴とする。
【0019】
本発明の他の態様による空調気流予測装置において、ユーザインターフェース部は、オブジェクトの移動又は前記オブジェクトの属性の変更に伴い、オブジェクトの移動後の3次元モデルから2次元画像を切り出し、切り出された2次元画像を入力画像処理部に送信し、予測部による再度の予測処理をトリガすることを特徴とする。
【0020】
また、本発明では、気流予測に用いる入力パラメータを取得するステップと、対象となる空間の形状についての複数の2次元画像を取得し、2次元画像の各々をより低解像度の画像に変換するステップと、少なくとも取得した入力パラメータと、変換した2次元画像とのうちの1つ以上を入力としてニューラルネットワークを用いた深層学習により空間の気流を予測し、空間の気流を示す複数の予測画像を出力するステップと、出力された予測画像の各々をより高解像度の画像に変換するステップとを備えることを特徴とする、空調気流予測方法を提供する。
【0021】
また、本発明では、コンピュータに、上記の空調気流予測方法の各ステップを実行させることを特徴とするプログラムを提供する。
【0022】
本発明において、「サロゲートモデリング」とは、数値シミュレーションを行う代わりに、ニューラルネットワークなどで現象を予測する手法をいう。
【0023】
本発明において、「サロゲートモデル」とは、サロゲートモデリングにより構築されたモデルをいう。
【0024】
「サロゲートモデリング」あるいは「サロゲートモデル」は、一般に、数値シミュレーションを行うよりも高速に現象を予測できるため、形状最適化や概念設計などに使用される。
【0025】
本発明において、「オブジェクト」とは、対象となる空間の3次元モデル内に配置される、あらゆる任意の仮想的な物体のことをいう。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、空間内の家具等の設備の配置と人物又は座席の位置を考慮した空調気流予測を低コストかつ短時間で行うことができるという効果を奏する。
本発明の他の目的、特徴および利点は添付図面に関する以下の本発明の実施例の記載から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1図1は、本発明による空調気流予測装置の全体を示す概略図である。
図2図2は、予測部への入力パラメータ及び入力画像及びと予測部からの出力画像を示す図である。
図3図3は、本発明による入力画像処理部の入力画像処理の流れを示す図である。
図4図4は、本発明による予測部の予測処理の流れを示す図である。
図5図5は、本発明による出力画像処理部の出力画像処理の流れを示す図である。
図6図6は、本発明による学習済モデル作成部を示す概略図である。
図7図7は、本発明による学習済モデル作成部の学習処理の流れを示す図である。
図8図8は、本発明によるユーザインターフェース部の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例0028】
図1は、本発明による空調気流予測装置1の全体を示す概略図である。
本発明による空調気流予測装置1は、気流予測に用いる入力パラメータを取得する入力パラメータ取得部10と、対象となる空間の形状についての複数の2次元画像を取得し、2次元画像の各々をより低解像度の画像に変換する入力画像処理部20と、少なくとも入力パラメータ取得部で取得した入力パラメータと、入力画像処理部で変換した2次元画像とのうちの1つ以上を入力として、ニューラルネットワークを用いた深層学習による学習済モデルを用いて空間の気流を予測し、空間の気流を示す複数の予測画像を出力する予測部30と、予測部から出力された予測画像の各々をより高解像度の画像に変換する出力画像処理部40とを備える。
【0029】
入力パラメータ取得部10は、気流予測に用いる入力パラメータを取得する。入力パラメータは、例えば、気流の速度、空間の大きさ、気温、気圧、天気のうちの少なくとも1つ以上を含む。
【0030】
入力画像処理部20は、対象となる空間の形状についての複数の2次元画像を取得し、2次元画像の各々をより低解像度の画像に変換する。2次元画像の各々は、例えば、ある高さにおける空間の断面の形状を示す画像である。
【0031】
予測部30は、少なくとも入力パラメータ取得部で取得した入力パラメータと、入力画像処理部で変換した2次元画像とのうちの1つ以上を入力としてニューラルネットワークを用いた深層学習による学習済モデルを用いて空間の気流を予測し、空間の気流を示す複数の予測画像を出力する。予測部30は、入力として、好ましくは入力パラメータと2次元画像の両方を用いて予測を行うが、入力パラメータのみ、又は2次元画像のみを入力として用いてもよい。予測部30は、サロゲートモデリングにより構築されたサロゲートモデルを用いて前記空間の気流を予測するようにしてもよい。
【0032】
サロゲートモデルは、予め作成された、入力パラメータ及び入力画像と、結果として出力されるべき正解画像との組み合わせを用いて、ニューラルネットワークを用いた深層学習を行うことにより、入力パラメータ及び入力画像と、出力画像としての予測画像との関係性を示す学習済モデルとして構築されたものである。
【0033】
出力画像処理部40は、予測部から出力された予測画像の各々をより高解像度の画像に変換する。予測画像の各々は、例えば、ある高さにおける空間の断面の気流を示す画像である。
【0034】
図2は、予測部への入力パラメータ及び入力画像及びと予測部からの出力画像を示す図である。
予測部30には、入力パラメータと入力画像が入力され、予測画像が出力される。入力パラメータは、例えば、気流の速度、空間の大きさ、気温、気圧、天気等である。入力画像は、例えば、ある高さにおける空間の断面の形状を示す2次元画像である。出力画像は、例えば、ある高さにおける空間の断面の気流を示す予測画像である。
【0035】
気流予測の対象となる空間は、その内部に配置された家具等の設備を含めて、3次元データとしてモデリングされている。気流予測の対象となるモデリングされた空間を高さ方向に分割し、各断面についての2次元画像を取得する。図2では、例として高さ20cmごとの断面を示している。それぞれの高さにおける空間の断面の2次元画像を入力画像とする。図2の例では、入力画像において、各断面ないに椅子やテーブル等のオブジェクトがある場合は、その領域が黒で表示されている。図2の例では、空間を高さ方向に分割しているが、奥行き方向に分割してもよい。
【0036】
出力画像としての予測画像は、入力画像に基づいて予測した気流の画像であり、気流の速度、即ち気流の方向及び速さを画像化したものである。図2の例では、空間内の椅子やテーブル等のオブジェクトが白で表示され、気流が黒で表示されている。
【0037】
以下、本発明による空調気流予測方法について説明する。本発明による点群データを用いた空調気流予測方法は、気流予測に用いる入力パラメータを取得するステップと、対象となる空間の形状についての複数の2次元画像を取得し、2次元画像の各々をより低解像度の画像に変換するステップと、取得した入力パラメータと、変換した2次元画像とを入力としてニューラルネットワークを用いた深層学習により空間の気流を予測し、空間の気流を示す複数の予測画像を出力するステップと、出力された予測画像の各々をより高解像度の画像に変換するステップとを備える。
【0038】
また、本発明では、コンピュータに、本発明による空調気流予測方法の各ステップを実行させるプログラムを提供する。プログラムはコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録されるようにしてもよい。また、プログラムはサーバー内に格納され、サーバー上で実行され、及び/又はネットワークを介してその機能を提供するようにしてもよい。
【0039】
図3は、本発明による入力画像処理部20の入力画像処理の流れを示す図である。
入力画像処理部20における入力画像処理では、まず、ステップS301において、気流予測の対象となる空間の3次元空間から切り出された2次元の原画像を取得する。即ち、3次元空間を高さ方向または奥行き方向に分割し、各断面についての2次元画像を取得する。ここで、前処理として、各断面内の椅子やテーブル等のオブジェクトがある領域を黒にするようにしてもよい。次に、ステップS302において、現画像を濃淡画像(グレースケール画像)に変換する。RGBの3次元データを濃淡画像(グレースケール)の1次元データにすることでデータ量を減らす。次に、ステップS303において、濃淡画像に変換された画像のサイズを縮小する。次に、ステップS304において、縮小された画像をより低解像度の画像に変換する。これにより、図2に示されたような入力画像が得られる。
【0040】
図4は、本発明による予測部30の予測処理の流れを示す図である。
予測部30における予測処理では、まず、ステップS401において、図2に示されるような入力パラメータを取得する。入力パラメータは、入力されるデータのうち、3次元空間の形状以外の特徴である。次に、ステップS402において、図3の入力画像処理により得られた入力画像を取得する。即ち、3次元空間の高さ方向又は奥行き方向に分割し、各断面についての2次元画像を取得する。取得する2次元画像は、例えば、各断面内の椅子やテーブル等のオブジェクトがある領域が黒で表示されているものであってもよい。次に、ステップS403において、ニューラルネットワークを用いた深層学習による学習済モデルを用いて、入力パラメータ及び入力画像を入力とした予測を行う。学習済モデルは、入力画像及び入力パラメータと予測画像との関係性を示すものであり、事前に作成されたものである。次に、ステップS404において、学習済モデルによる予測結果として予測画像を出力する。
【0041】
ステップS403におけるニューラルネットワークを用いた深層学習による学習済モデルとして、例えば、サロゲートモデリングにより構築されたサロゲートモデルを用いるようにしてもよい。予測部30において、サロゲートモデルを用いる場合には、予め学習処理が行われ、学習済のサロゲートモデルが作成される。学習処理については、図6において後述する。
【0042】
図5は、図5は、本発明による出力画像処理部40の出力画像処理の流れを示す図である。
出力画像処理部40における出力画像処理では、まず、ステップS501において、図2に示されるような予測部30から出力された予測画像を取得する。予測画像は、サロゲートモデル等の学習済モデルによる予測結果として出力されたものである。次に、ステップS502において、予測画像をより高解像度の画像に変換する。次に、ステップS503において、高解像度の画像に変換された画像のサイズを拡大する。次に、ステップS504において、濃淡画像(グレースケール画像)をカラー画像に変換する。これにより、図2に示されるような予測画像が得られる。
【0043】
図6は、本発明による学習済モデル作成部50を示す概略図である。
学習済モデル作成部50は、予測部30での予測に用いられる学習済モデルを作成する。学習済モデルは、ニューラルネットワークを用いた深層学習により作成される。学習済モデル作成部50は、予め作成された、入力パラメータ及び入力画像と、結果として出力されるべき正解画像との組み合わせを用いて、ニューラルネットワークを用いた深層学習を行い、入力パラメータ及び入力画像と、出力画像としての予測画像との関係性を示す学習済モデルを作成する。
【0044】
学習済モデルは、サロゲートモデルであってもよく、例えば、時刻tの渦度画像とレイノルズ数から、時刻t+Δtの渦度画像を予測するモデルとして構築されるようにしてもよい。
【0045】
学習済モデル作成部50において、ニューラルネットワークを用いた深層学習を行うために、訓練用のデータとして、入力パラメータ及び入力画像と、結果として出力されるべき正解画像との組み合わせのデータが必要となる。これらのデータは、予め実験やシミュレーションにより作成される。ここでの実験やシミュレーションには、既存の任意の手法を用いてよく、例えば有限要素法や格子ボルツマン法(Lattice Boltzmann Method)等の既存の任意の流体解析シミュレーション手法を用いてもよい。
【0046】
学習済モデル作成部50は、空調気流予測装置1の外部に設けるようにしてもよいし、空調気流予測装置1が学習済モデル作成部50をさらに備えるようにしてもよい。
【0047】
図7は、本発明による学習済モデル作成部50の学習処理の流れを示す図である。
学習済モデル作成部50における学習処理では、まず、ステップS701において、入力パラメータ、入力画像、及び正解画像を取得する。これらの訓練用のデータは、入力パラメータ及び入力画像と、正解画像とが関連付けられて格納されたデータベースから取得するようにしてもよい。次に、ステップS702において、ステップS701で取得した入力パラメータ及び入力画像と、正解画像との組み合わせを用いて、ニューラルネットワークを用いた深層学習を行うことにより、入力パラメータ及び入力画像と、正解画像とのの関係性を示す学習済モデルを作成する。
【0048】
図8は、本発明によるユーザインターフェース部の概略図である。
本発明の応用例として、本発明による空調気流予測装置1において得られた予測画像を用いて、ユーザに空調気流のシミュレーション結果を表示できるユーザインターフェースを提供することができる。例えば、ユーザの端末の画面上に予測対象の空間が表示され、例えば、スクロールバー等のユーザインターフェースの操作により、高さを指定すると、空間内のその高さにおける気流を示した予測画像を提示するようにしてもよい。
【0049】
また、予測対象の空間内には家具等の設備を示すオブジェクトが配置されており、ユーザがユーザインターフェースを介して空間内のオブジェクトをドラッグ・アンド・ドロップする等により移動させると、オブジェクトを移動させた後の空間を対象として、再度、空調気流予測装置1による処理が行われ、リアルタイム又は比較的短時間で、予測画像が得られるようにしてもよい。
【0050】
また、ユーザインターフェースにおける予測画像を提示する画面において、空調設計を行うにあたり注意すべき領域を表示するようにしてもよい。例えば、空間内で気流が滞る部分を表示したり、空間内の人物や座席の位置における気流の状況が所望のものでない部分を表示したり、換気が所望の位置から所望の方向へと行われていない部分を表示したりしてもよい。
【0051】
このようなユーザインターフェースを備える実施例においては、空調気流予測装置1は、対象となる空間の3次元モデル内に出力画像処理部40で変換された画像をマッピングして表示するユーザインターフェース部60をさらに備える。ユーザインターフェース部60は、ユーザからの入力を受け付け、ユーザからの入力に従って3次元モデル内に配置されたオブジェクトの移動又はオブジェクトの属性の変更を行う。
【0052】
ユーザインターフェース部60は、オブジェクトの移動又はオブジェクトの属性の変更に伴い、オブジェクトの移動後の3次元モデルから2次元画像を切り出し、切り出された2次元画像を入力として再度の予測処理を行うため、切り出された2次元画像を入力画像処理部20に送信し、予測部30による再度の予測処理をトリガする。これにより、空調気流予測装置1の予測部30において、再度の予測処理が行われる。
【0053】
ここで、オブジェクトとは、対象となる空間の3次元モデル内に配置される、あらゆる任意の仮想的な物体のことをいう。オブジェクトには、机、テーブル、椅子、台、棚、収納家具等の家具や、衝立、移動壁、段差、小上がり、ロフト、吸気口、排気口、空調機器等の設備等の物体の他、人物、座席等が含まれる。人物や座席は、実際の人物や座席を模した物理的な形状を有するものの他、特定の形状を有さず、人物や座席の位置又は領域のみを示すものであってもよい。また、空調機器は、空調機器の風力や風の向き等の性能や機能、状態を示す情報をオブジェクトの属性として有するようにしてもよい。また、人物は、ウィルスや細菌等による疫病の感染者、濃厚接触者、非感染者、非濃厚接触者、ワクチン接種者、ワクチン非接種者等の人物の状態を示す情報、又はこれらの状態のレベルを示す情報をオブジェクトの属性として有するようにしてもよい。
【0054】
上記実施例においては、予測部30の出力結果として、気流の速度、即ち気流の方向及び速さを示す予測画像を出力したが、変形例においては、予測部30の出力結果として、圧力を示す予測画像を出力するようにしてもよい。この変形例は、予測部30において予測に用いる学習済モデルを、圧力を出力することが可能な学習済モデルに変更することにより実現し得る。即ち、学習済モデル作成部50における正解画像を空間の圧力を示す画像に変更し、学習済モデルを生成することにより実現し得る。
【0055】
また、他の変形例においては、ユーザインターフェース部60において、人物に関するオブジェクトの属性を にしてもよい。この変形例は、予測部30において予測に用いる学習済モデルを、圧力を出力することが可能な学習済モデルに変更することにより実現し得る。即ち、学習済モデル作成部50における正解画像を空間の圧力を示す画像に変更し、学習済モデルを生成することにより実現し得る。
【0056】
以上により説明した本発明による空調気流予測装置1によれば、空間内の家具等の設備の配置と人物又は座席の位置を考慮した空調気流予測を低コストかつ短時間で行うことができる。そのため、例えば、空間内の換気シミュレーションを行う際に、壁、テーブル、給排気口の位置、衝立等の位置を様々に変更しながら、対象となる空間の最適な換気状況を検討したい場合等に有益である。また、飲食店等の店舗や劇場や集会場等の施設において、個々の座席の換気効率を把握したい場合にも有益である。さらに、本発明は、低コストかつ短時間で空調気流予測を行うことが可能であるため、例えばウィルスや細菌等による疫病の感染者の空間内での位置を把握し、感染者の周囲を通過する気流が店舗や施設等の空間内でどのように伝播し、気流に乗ったエアロゾル等の微粒子がどのように希薄するのかについてシミュレーションする際にも応用可能である。
上記記載は実施例についてなされたが、本発明はそれに限らず、本発明の精神と添付の請求の範囲の範囲内で種々の変更および修正をすることができることは当業者に明らかである。
【符号の説明】
【0057】
1 空調気流予測装置
10 入力パラメータ取得部
20 入力画像処理部
30 予測部
40 出力画像処理部
50 学習済モデル作成部
60 ユーザインターフェース部
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