(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023005612
(43)【公開日】2023-01-18
(54)【発明の名称】高周波トランスの巻線構造
(51)【国際特許分類】
H01F 30/10 20060101AFI20230111BHJP
H01F 27/28 20060101ALI20230111BHJP
【FI】
H01F30/10 C
H01F27/28 147
H01F30/10 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021107639
(22)【出願日】2021-06-29
(71)【出願人】
【識別番号】000144393
【氏名又は名称】株式会社三社電機製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000970
【氏名又は名称】弁理士法人 楓国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】千本 純輝
(72)【発明者】
【氏名】服部 正蔵
【テーマコード(参考)】
5E043
【Fターム(参考)】
5E043AA06
(57)【要約】
【課題】二次側巻線の巻回構造を工夫することで、大型化することなく各二次側巻線の電流バランスを良くして高効率化を実現するトランスの巻線構造を提供する。
【解決手段】トランスの巻線構造は、コアの中心から前記積層方向に順に巻回された、第1の二次巻線NS(1)、第1の一次巻線NP(1)、第2の二次巻線NS(2)、第2の一次巻線(NP2)、第3の二次巻線NS(3)で構成された巻線を備え、前記第1の二次巻線NS(1)、前記第2の二次巻線NS(2)、前記第3の二次巻線NS(3)は、それぞれ2枚以下の銅平板を2回巻回し、その中央部にセンタータップを設けた構造である。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トランスのコアに一次巻線と低圧大電流が流れる二次巻線とで構成される巻線を積層方向に順次巻回する巻線構造において、
前記巻線は、コアの中心から前記積層方向に順に巻回された、第1の二次巻線NS(1)、第1の一次巻線NP(1)、第2の二次巻線NS(2)、第2の一次巻線(NP2)、第3の二次巻線NS(3)で構成され、
前記第1の二次巻線NS(1)、前記第2の二次巻線NS(2)、前記第3の二次巻線NS(3)は、それぞれ2枚以下の銅平板を2回巻回し、その中央部にセンタータップを設けた構造である、トランスの巻線構造。
【請求項2】
前記二次巻線は以下の構成である、請求項1に記載のトランスの巻線構造。
(A)第1の二次巻線NS(1)は、二次巻線NS11と二次巻線NS21で構成され、それぞれ1枚の銅平板を2回巻回し、その中央部にセンタータップを設ける。
(B)第2の二次巻線NS(2)は、二次巻線NS12と二次巻線NS22で構成され、それぞれ2枚の銅平板を2回巻回し、その中央部にセンタータップを設ける。
(C)第3の二次巻線NS(3)は、二次巻線NS13と二次巻線NS23で構成され、それぞれ1枚の銅平板を2回巻回し、その中央部にセンタータップを設ける。
【請求項3】
前記二次巻線は以下の構成である、請求項1に記載のトランスの巻線構造。
(A)第1の二次巻線NS(1)は、二次巻線NS11と二次巻線NS21で構成され、それぞれ2枚の銅平板を2回巻回し、その中央部にセンタータップを設ける。
(B)第2の二次巻線NS(2)は、二次巻線NS12と二次巻線NS22で構成され、それぞれ2枚の銅平板を2回巻回し、その中央部にセンタータップを設ける。
(C)第3の二次巻線NS(3)は、二次巻線NS13と二次巻線NS23で構成され、それぞれ2枚の銅平板を2回巻回し、その中央部にセンタータップを設ける。
【請求項4】
前記二次巻線は以下の構成である、請求項1に記載のトランスの巻線構造。
(A)第1の二次巻線NS(1)は、二次巻線NS11と二次巻線NS21で構成され、それぞれ1枚の銅平板を2回巻回し、その中央部にセンタータップを設ける。
(B)第2の二次巻線NS(2)は、二次巻線NS12と二次巻線NS22で構成され、それぞれ1枚の銅平板を2回巻回し、その中央部にセンタータップを設ける。
(C)第3の二次巻線NS(3)は、二次巻線NS13と二次巻線NS23で構成され、それぞれ1枚の銅平板を2回巻回し、その中央部にセンタータップを設ける。
【請求項5】
前記二次巻線は以下の構成である、請求項1に記載のトランスの巻線構造。
(A)第1の二次巻線NS(1)は、二次巻線NS11と二次巻線NS21で構成され、それぞれ2枚の銅平板を2回巻回し、その中央部にセンタータップを設ける。
(B)第2の二次巻線NS(2)は、二次巻線NS12と二次巻線NS22で構成され、それぞれ1枚の銅平板を2回巻回し、その中央部にセンタータップを設ける。
(C)第3の二次巻線NS(3)は、二次巻線NS13と二次巻線NS23で構成され、それぞれ2枚の銅平板を2回巻回し、その中央部にセンタータップを設ける。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、DC-DCコンバータ等に使用され、二次側に低圧大電流が流れる高周波トランスの巻線構造に関する。
【背景技術】
【0002】
DC-DCコンバータ等に使用されるトランスの損失、特に二次側に低圧大電流が流れる高周波トランスの損失を減少させる事は、回路の高効率化と発熱抑制の見地から重要であり、従来から様々な工夫が施されている。
【0003】
例えば、大電流が流れる二次側巻線を撚り線で構成することで表皮効果や内部近接効果の影響を低減させることが可能である(引用文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、二次側巻線を撚り線で構成すると、巻線間に空隙が形成され全体が大型化してしまう問題がある。さらに、電流の大きさを稼ぐために撚り線の層を複数にすると、層間の内部近接効果による有効断面積の減少を避けられない。
【0006】
そして、上記の表皮効果や内部近接効果による影響を少なくしようとすると、二次巻線の厚みや径を大きくすることで断面積を大きくしたり、発熱対策のために冷却装置を設けることが必要となり、全体が大型化する問題があった。
【0007】
そこで、本発明の目的は、二次側巻線の巻回構造を工夫することで、大型化することなく各二次側巻線の電流バランスを良くして高効率化を実現するトランスの巻線構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のトランスの巻線構造は、
トランスのコアに一次巻線と低圧大電流が流れる二次巻線とで構成される巻線を積層方向に順次巻回する巻線構造において、
前記巻線は、コアの中心から前記積層方向に順に巻回された、第1の二次巻線NS(1)、第1の一次巻線NP(1)、第2の二次巻線NS(2)、第2の一次巻線(NP2)、第3の二次巻線NS(3)で構成され、
前記第1の二次巻線NS(1)、前記第2の二次巻線NS(2)、前記第3の二次巻線NS(3)は、それぞれ2枚以下の銅平板を2回巻回し、その中央部にセンタータップを設けた構造である。
【0009】
トランスのコアに、コアの中心から、第1の二次巻線NS(1)、第1の一次巻線NP(1)、第2の二次巻線NS(2)、第2の一次巻線(NP2)、第3の二次巻線NS(3)の順に巻回される。各巻線は銅平板で構成され、低圧大電流が流れる二次巻線NS(1)~NS(3)は2枚以下の銅平板を2回巻回し、その中央部にセンタータップが設けられた構造である。
【0010】
このような巻線構造であることから、低圧大電流が流れる二次巻線はNS(1)~NS(3)に分割され、二次電流はNS(1)~NS(3)に分散されるため、表皮効果による電流密度の低下が抑制され、内部近接効果も小さくなるため、全体として二次巻線NS(1)~NS(3)の電流バランスが良くなる。
【発明の効果】
【0011】
本発明では、二次巻線のNS(1)、NS(2)、NS(3)を、それぞれ2枚以下の銅平板を2回巻回し、その中央部にセンタータップを設けた構造としたので、内部近接効果と表皮効果による部分的な電流密度の低下を防止し、各二次巻線の電流バランスを向上することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は本発明の実施形態であるトランスの結線図である。
【
図3】
図3は一次巻線と二次巻線の巻回状態を模式的に示す図である。
【
図4】
図4は、二次巻線の各タップの位置D1~D4、F1~F4で実測した電流実効値比率を示す。
【
図7】
図7は比較例の二次巻線の各タップの位置D1~D4、F1~F4で実測した電流実効値比率を示す。
【
図8】
図8は、二次巻線の組み合わせパターン例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は本発明の実施形態であるトランスの結線図であり、
図2は同トランスの巻線構造図、
図3は一次巻線と二次巻線の巻回状態を模式的に示す図である。
【0014】
トランス1の一次巻線は、NP1、NP2で構成され、センタータップbを有する。NP1は本発明の第1の一次巻線NP(1)に対応し、NP2は本発明の第2の一次巻線NP(2)に対応している。トランス1の二次巻線は、NS11、NS21からなる第1の二次巻線NS(1)と、NS12、NS22からなる第2の二次巻線NS(2)と、NS13、NS23からなる第3の二次巻線NS(3)で構成されている。NS(1)~NS(3)は、外部端子のタップd(d1~d3)とタップf(f1~f3)と、センタータップeとを有する。なお、タップd(d1~d3)は外部で接続される。同様に、タップf(f1~f3)も、外部で接続され、3つのセンタータップeも外部で接続される。
【0015】
一次巻線のNP1、NP2は、それぞれ1パラ(1枚の銅平板)・6ターン(6回の巻回)で構成する。
【0016】
二次巻線のNS(1)は、1パラ(1枚の銅平板)・2ターン(2回の巻回)で構成し、センタータップeを設ける。したがって、NS(1)は、1パラ・1ターンのNS11とNS21で構成される。
【0017】
二次巻線のNS(2)は、2パラ(2枚の銅平板)・2ターン(2回の巻回)で構成し、センタータップeを設ける。したがって、NS(2)は、2パラ・1ターンのNS12とNS22で構成される。
【0018】
二次巻線のNS(3)は、1パラ(1枚の銅平板)・2ターン(2回の巻回)で構成し、センタータップeを設ける。したがって、NS(3)は、1パラ・1ターンのNS13とNS23で構成される。
【0019】
なお、各巻線間には巻線同士の絶縁をするための絶縁層(絶縁紙)が挟まれている。
【0020】
図2では、コア3内に設けられているボビン2と、ボビン2にコア3の中心位置から積層方向に向けて巻回されている巻線を示している。同図は、ボビン2の上半分の断面図である。
【0021】
コアの中心位置から周囲に向けて(巻線の積層方向に向けて)、NS(1)、NP(1)、NS(2)、NP(2)、NS(3)の順に巻回されている。二次巻線は、NS(1)では、NS11とNS21が、それぞれ1パラ・1ターン巻回され、NS(2)では、NS12とNS22が、それぞれ2パラ・1ターン巻回され、NS(3)では、NS13とNS23が、それぞれ1パラ・1ターン巻回されている。また、一次巻線は、NP(1)、NP(2)とも、それぞれ1パラ・6ターン巻回されている。
【0022】
図3を参照して、一次巻線と二次巻線の巻回状態をさらに具体的に説明する。
【0023】
コア3に対して、その中心位置からNS11、NS12・・・・NS23の順に巻回されている。点線は一次巻線NP1、NP2を示し、実線は二次巻線NS11~NS23を示している。
【0024】
コア3の中心から、二次巻線NS11がタップd1からセンタータップe1まで1パラ・1ターン巻回し、その上に二次巻線NS21がセンタータップeからタップf1まで1パラ・1ターン巻回する。
【0025】
一次巻線NP1がタップaからセンタータップbまで1パラで6ターン巻回する。
【0026】
二次巻線NS12がタップd2からセンタータップeまで2パラで1ターン巻回する。
【0027】
二次巻線NS22がセンタータップeからタップf2まで2パラで1ターン巻回する。
【0028】
一次巻線NP2がセンタータップbからタップcまで1パラで6ターン巻回する。
【0029】
二次巻線NS13がタップd3からセンタータップeまで1パラで1ターン巻回する。
【0030】
二次巻線NS23がセンタータップeからタップf3まで1パラで1ターン巻回する。
【0031】
一次巻線ではセンタータップb同士が外部で接続され、二次巻線ではタップd1~d3、タップf1~f3、センタータップeがそれぞれ外部で接続される。
【0032】
上記の構成で、NS(2)(NS12とNS22)は、NP(1)とNP(2)でサンドイッチされ、NS(1)(NS11とNS21)はNP(1)に近接して巻回され、NS(3)(NS13とNS23)はNP(2)に近接して巻回されている。したがって、全ての二次巻線NS(1)~NS(3)は、一次巻線NP(1)又はNP(2)に密結合しているため、トランスの効率の低下はない。
【0033】
また、NS(1)、NS(2)、NS(3)の二次巻線は、いずれも1パラか2パラの1ターンの組み合わせ構造である。このため、二次巻線では内部近接効果による有効断面積の減少が抑制され、電流密度のアンバランスをなくすことが出来る。
【0034】
図4は、二次巻線の各タップの位置D1~D4、F1~F4(
図3参照)で実測した電流実効値比率を示す。同図において、縦軸は波形観測によって求めた電流実効値
比率(%)、横軸は二次巻線の各タップの位置D1~D4、F1~F4(
図3参照)である。
【0035】
図示のように、各巻線あたり(1パラあたり)の電流の大きさのずれの平均は次式から6.5%である。
【0036】
Σ(25(%)-a%)/8(パラ)
上記式において、aはD1~D4、F1~F4の各電流実効値比率で、25%は、D1~D4又はF1~F4の理想的な電流比率である。
【0037】
比較のため、二次巻線全体を一次巻線の間にサンドイッチ状に挟んだ比較例の巻線構造を
図5~
図7に示す。この比較例は、従来から広く使用されている巻線構造である。
【0038】
図5、
図6に示すように、一次巻線NP(1)とNP(2)は、それぞれ1パラ・6ターンで上記実施形態と同じ構成である。二次巻線NS(1)とNS(2)は、それぞれ4パラ・1ターンで、
図6のように、NS(1)の上にNS(2)が巻回されている。
【0039】
図7は、二次巻線NS(1)、NS(2)の4パラ・1ターンの各巻線の電流バランスを示している。同図において、縦軸は波形観測によって求めた電流実効値比率(%)、横軸は二次巻線の各タップの位置D1~D4、F1~F4である(
図5参照)。
【0040】
図示のように、各巻線の電流の大きさのずれの平均は次式から16%である。
【0041】
Σ(25(%)-a%)/8(パラ)
上記式において、aはD1~D4、F1~F4の各電流実効値比率で、25%は、D1~D4又はF1~F4の理想的な電流比率である。
【0042】
図7に示すように、二次巻線NS(1)、NS(2)の4パラ・1ターンの巻線構造では、NS(1)の内側の2枚の巻線(D2、D3が対応)とNS(2)の内側の2枚の巻線(F2、F3が対応)は、内部近接効果が大きいために電流実効値比率は非常に小さく、ずれの平均が16%と大きくなっている。このためNS(1)、NS(2)の電流バランスは非常に悪い。
【0043】
これに対して、本願発明の実施形態では、
図4に示すように、二次巻線を、NS(1)、NS(2)、NS(3)に分割し、それぞれを1パラ・1ターンか2パラ・1ターンの組み合わせで構成しているため、内部近接効果による有効断面積の減少が抑制され、電流密度のアンバランスを大きく改善出来ている。
【0044】
このように、二次巻線を、2パラ以下の2ターンの巻線に分割して、各分割巻線にセンタータップを設けることで、各分割巻線において内部近接効果による有効断面積の減少が抑制され、電流密度のアンバランスを大きく改善出来る。
【0045】
図8は、二次巻線の組み合わせパターン例(1)~(4)を示している。
【0046】
組み合わせパターン例(1)は、
図2に示す巻線構造である。
【0047】
組み合わせパターン例(2)は、以下の巻線構造である。
【0048】
NS(1)では、NS11とNS21が、それぞれ2パラ・1ターン巻回され、NS(2)では、NS12とNS22が、それぞれ2パラ・1ターン巻回され、NS(3)では、NS13とNS23が、それぞれ2パラ・1ターン巻回されている。また、一次巻線は、NP(1)、NP(2)とも、それぞれ1パラ・6ターン巻回されている。
【0049】
組み合わせパターン例(3)は、以下の巻線構造である。
【0050】
NS(1)では、NS11とNS21が、それぞれ1パラ・1ターン巻回され、NS(2)では、NS12とNS22が、それぞれ1パラ・1ターン巻回され、NS(3)では、NS13とNS23が、それぞれ1パラ・1ターン巻回されている。また、一次巻線は、NP(1)、NP(2)とも、それぞれ1パラ・6ターン巻回されている。
【0051】
組み合わせパターン例(4)は、以下の巻線構造である。
【0052】
NS(1)では、NS11とNS21が、それぞれ2パラ・1ターン巻回され、NS(2)では、NS12とNS22が、それぞれ1パラ・1ターン巻回され、NS(3)では、NS13とNS23が、それぞれ2パラ・1ターン巻回されている。また、一次巻線は、NP(1)、NP(2)とも、それぞれ1パラ・6ターン巻回されている。
【0053】
上記いずれの組み合わせパターンも、NS(1)~NS(3)は、それぞれ2パラ以下の銅平板を2ターン巻回し、その中央部にセンタータップを設けた構造である。また、銅平板の枚数(パラ数)と巻線構造は、巻線の積層方向中心から上下に対称である。
【符号の説明】
【0054】
1:トランス
2:ボビン
3:コア
NP(1):一次巻線
NP(2):一次巻線
NS(1):二次巻線
NS(2):二次巻線
NS(3):二次巻線