(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023056123
(43)【公開日】2023-04-19
(54)【発明の名称】水制ユニット及びこれを用いた水制システム、水制施工方法
(51)【国際特許分類】
E02B 3/02 20060101AFI20230412BHJP
【FI】
E02B3/02 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021165250
(22)【出願日】2021-10-07
(71)【出願人】
【識別番号】521226978
【氏名又は名称】株式会社大和測量設計クリエイト
(74)【代理人】
【識別番号】100137338
【弁理士】
【氏名又は名称】辻田 朋子
(72)【発明者】
【氏名】飯田 啓司
(57)【要約】
【課題】非常時における水害対策として機能し、かつ、平時における隠匿性をより向上させた、利便性の高い水制ユニット及びこれを用いた水制システム、水制施工方法を提供する。
【解決手段】河川R内に設置され、河川Rの流れを制御するための水制ユニットXであって、河川Rの河床に設けられる水制本体1と、水制本体1を河川R内に格納するための格納部2と、水制本体1の、河床RBに対する立設/格納部2に対する格納を行うための駆動部3と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
河川内に設置され、河川の流れを制御するための水制ユニットであって、
前記河川の河床に設けられる水制本体と、
前記水制本体を前記河川内に格納するための格納部と、
前記水制本体の、前記河床に対する立設及び前記格納部に対する格納を行うための駆動部と、を備える水制ユニット。
【請求項2】
前記格納部は、前記河床に埋設されている、請求項1に記載の水制ユニット。
【請求項3】
前記水制本体は、伸縮可能に構成されている、請求項1又は2に記載の水制ユニット。
【請求項4】
前記水制本体は、略板状体である、請求項1~3の何れかに記載の水制ユニット。
【請求項5】
前記水制本体は、所定の曲率を有する、請求項4に記載の水制ユニット。
【請求項6】
河川の流れを制御するための水制システムであって、
前記河川内に設置される複数の、請求項1~5の何れかに記載の水制ユニットと、
前記河川外に設置される制御部と、を備え、
前記制御部は、複数の前記水制本体の、前記河床に対する立設及び前記格納部に対する格納を制御可能に構成されている水制システム。
【請求項7】
河川の流れを制御するための水制ユニットの施工方法であって、
複数の、請求項1~5の何れかに記載の水制ユニットを、
前記河川の流れに沿って一列に配置することで、
水制ラインを形成する水制施工方法。
【請求項8】
前記水制ラインを、複数配置する、請求項7に記載の水制施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、河川の流れを制御するための水制ユニット、水制システム、水制施工方法に係るものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、護岸や治水を目的として、種々の水制が考案されている。
【0003】
水制とは、水の勢いを弱める、あるいは、水の流れの方向を整えるために、水中に設置される工作物の総称である。
【0004】
例えば、特許文献1には、河川の流れに沿って河床上に複数の逆ハの字状の水制体を配設し、その中央部に河川の流れを誘導する河川の流れ制御方法に関する発明が記載されている。
【0005】
また、特許文献2には、平常時の景観を損なわない範囲で洪水や津波、高潮等の水害防止対策が迅速かつ確実にとれる高さ可変型堤防装置に関する発明が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9-279539号公報
【特許文献2】特開2020-139379号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記2件の発明を含む、従来型の水制は、設置した水制の一部又は全部が、平時において河川外に露出しており、周囲の景観を損ねるという問題がある。
【0008】
特に、特許文献2の発明は、平時において昇降壁が基台に格納されるものの、基台自体が堤防の天端から突き出た形で設置されるため、周囲の景観を全く損ねないとは言えない。
【0009】
一方で、集中豪雨及びそれに伴う水害が多発しつつある昨今、水害対策としての水制の必要性は高まりつつある。
【0010】
本発明は上記のような課題に鑑みてなされたものであり、非常時における水害対策として機能し、かつ、平時における隠匿性をより向上させた、利便性の高い水制ユニット及びこれを用いた水制システム、水制施工方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明は、河川内に設置され、河川の流れを制御するための水制ユニットであって、
前記河川の河床に設けられる水制本体と、
前記水制本体を前記河川内に格納するための格納部と、
前記水制本体の、前記河床に対する立設及び前記格納部に対する格納を行うための駆動部と、を備える。
【0012】
本発明によれば、平時において、水制本体が、河川内に設置された格納部に格納されることで、極めて人目に付きにくくなり、周囲の景観を損ねない。
また、非常時においては、水制本体が、駆動部によって河床に対して速やかに立設されることで水害を防止することができる。
【0013】
本発明の好ましい形態では、前記格納部は前記河床に埋設されている。
【0014】
このような構成とすることで、水制本体格納時における、水制ユニット全体の隠匿性がさらに向上する。
【0015】
本発明の好ましい形態では、前記水制本体は、伸縮可能に構成されている。
【0016】
このような構成とすることで、水制本体格納時において、水制ユニット全体がコンパクトになるため、施工性や隠匿性が向上する。
【0017】
本発明の好ましい形態では、前記水制本体は、略板状体である。
【0018】
このような構成とすることで、水制ユニットの製造コストを抑えるとともに、水制本体に略平行な水の流れに対して抵抗が少なくなるため、立設及び格納時の省力化や、水の流れを効率良く制御することが可能となる。
【0019】
本発明の好ましい形態では、前記水制本体は、所定の曲率を有する。
【0020】
このような構成とすることで、水の流れを水制本体に沿って緩やかに変化させることができ、河川の湾曲部に設置するのに好適な水制ユニットを作ることができる。
【0021】
また、本発明は、河川の流れを制御するための水制システムであって、
前記河川内に設置される複数の、請求項1~5の何れかに記載の水制ユニットと、
前記河川外に設置される制御部と、を備え、
前記制御部は、複数の前記水制本体の、前記河床に対する立設及び前記格納部に対する格納を制御可能に構成されている。
【0022】
本発明によれば、平時においては、水制ユニットを人目に触れないように河川内に隠しつつも、非常時においては、河川外からの制御によって、複数の水制ユニットを河床に対して立設させ、安全かつ速やかに水害対策をとることができる。
【0023】
また、本発明は、河川の流れを制御するための水制施工方法であって、
複数の、請求項1~5の何れかに記載の水制ユニットを、
前記河川の流れに沿って一列に配置することで、
水制ラインを形成する。
【0024】
本発明によれば、水制ラインによって河道を分けることにより、河川の特定部分への流量集中を防止し、これに起因した堤防の決壊を防ぐことができる。
また、複数の水制ユニットによって水制ラインを形成することで、河川の規模や形状に合わせた施工が可能になるとともに、一枚壁の水制ラインを施工するよりも施工コストが抑えられる。
【0025】
本発明の好ましい形態では、前記水制ラインを複数配置する。
【0026】
このような構成とすることで、河川の特定部分への流量集中を防止する効果がさらに向上する。
【発明の効果】
【0027】
本発明は上記のような課題に鑑みてなされたものであり、非常時における水害対策として機能し、かつ、平時における隠匿性をより向上させた、利便性の高い水制ユニット及びこれを用いた水制システム、水制施工方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】本発明の実施形態に係る水制ユニットの概略図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る水制ユニットの例を示す図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る水制ユニットの例を示す図である。
【
図4】本発明の実施形態に係る水制施工方法の例を示す図である。
【
図5】本発明の実施形態に係る水制システムの例を示す図である。
【
図6】本発明の実施形態に係る水制システムの例を示す図である。
【
図7】本発明の実施形態に係る水制ユニットの他の実施形態を示す図である。
【
図8】本発明の実施形態に係る水制ユニットの他の実施形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、
図1~
図7を用いて本発明の実施形態に係る水制ユニット、水制システムの例を説明する。なお、以下に示す実施形態は本発明の一例であり、本発明を以下の実施形態に限定するものではない。
また、これらの図において、符号Xは本実施形態に係る水制ユニットを示す。
【0030】
図1に示すように、水制ユニットXは、水制本体1と、格納部2と、を備え、特に、水制本体1は、伸縮可能に構成されている。
さらに、
図1に示すように、水制本体1は、略板状体であり、所定の曲率を有している。
なお、駆動部3は、水制本体1の内部に設けられており(図示せず)、
図2以降で詳述する。
【0031】
図2は、水制ユニットXのA-A′断面図であって、ユニット内部の駆動部3の例を示した図である。
平時において、
図2(A)に示すように、水制本体1は、格納部2内に格納されている。
この例では、水制本体1の内部に設けられた、ジャッキ状の駆動部3が、
図2(B)に示すように、水制本体1を押し上げることで、水制本体1は立設し、駆動部3が元に戻ることで、水制本体1は、重力によって格納部2に再度格納される。
なお、この例で、駆動部3の動力源は、歯車gを回転させるモーターであると想定されるが、駆動部3が同様の挙動をするものであれば特に限定されない。
【0032】
図3(A)は、水制ユニットXのA-A′断面図であって、ユニット内部の駆動部3の別の例を示した図である。
この例では、水制本体1の内部に設けられた、伸縮するポール状の駆動部3が、水制本体1を押し上げることで、水制本体1は立設し、駆動部3が元に戻ることで、水制本体1は、重力によって格納部2に再度格納される。
【0033】
なお、
図3(B)には、伸縮するポール状の駆動部3の例として、ワイヤーsw、ウィンチwi、滑車shを使用したワイヤー式のものを示したが、水制本体1の重量を支えることができるものであれば、特に限定されない。
例えば、油圧やその他の流体圧を利用する伸縮ポール等も駆動部3として好適に用いられる。
なお、この例で、駆動部3の動力源は、ウィンチWiを回転させるモーターであると想定されるが、駆動部3が同様の挙動をするものであれば特に限定されない。
【0034】
なお、
図2、
図3に示した実施例は、本発明の水制ユニットXの実施形態のあくまで一例であって、水制本体1が河床に対して立設可能であれば、格納部2や駆動部3の構成や機構を問わない。
【0035】
図4は、本発明の実施形態に係る水制施工方法を説明するための、河川Rの平面図であり、水制ユニットXが河川R内に設置された様子を示している。
図4に示すように、複数の水制ユニットXは、河川の流れ(図中矢印方向)に沿って一列に配置され、水制ラインLを形成するように施工される。ここでは、説明のために一列の水制ラインLのみを図示したが、水制ラインLは、複数施工される場合もある。
なお、水制ラインLは、複数の水制ユニットXが一列に並んでいる様子を示す仮想の線であり、以降は特に図示しない。
【0036】
図5は、本発明の実施形態に係る水制システムを説明するための、河川Rの、(A)断面図、(B)拡大図、(C)平面図であって、各水制ユニットXの水制本体1が格納部2に格納された状態、即ち、平時における水制システムを示している。
【0037】
図5(C)の平面図に示すように、本実施形態の水制システムは、河川R内に配置される複数の水制ユニットXと、河川R外に設置される制御部4と、河床RBに埋設される配線Cを備えており、複数の水制ユニットXは、3列の水制ラインLを形成している。
なお、水制ユニットX及び水制ラインLについて、その数や形状は特に限定されず、設置箇所に合わせて適宜変更可能である。
【0038】
制御部4は、家屋を伴った制御室、管理棟などに含まれるように設計されていると、豪雨等にあっても使用者の安全が保たれるため、より好ましい。
また、他の実施形態として、制御部4が、受信部を有し、遠隔操作可能に構成されていてもよい。このようにすると、使用者は、より遠方から水制システムを操作することができるため、使用者の安全を考慮すると、より好ましい。
【0039】
また、本水制システムは、非常時、豪雨時での作動を前提としているため、制御部4の近辺には、本水制システムの非常用電源となりうる非常用発電設備等(図示せず)が設けられていることが好ましい。
このようにすることで、非常事態に伴う停電発生時であっても、非常用発電設備を電源として、本水制システムを遅滞なく作動させることが可能となる。
【0040】
図5(A)の断面図及び
図5(B)の拡大図に示すように、本実施形態の水制システムは、制御部4によって、各水制ユニットXの水制本体1を格納部2に格納することで、各水制ユニットXを人目に付きにくくすることができる。
【0041】
図6は、本発明の実施形態に係る水制システムを説明するための、河川Rの、(A)断面図、(B)拡大図、(C)平面図であって、各水制ユニットXの水制本体1が河床RBに対して立設された状態、即ち、集中豪雨やその他増水時等の、非常時における水制システムを示している。
【0042】
本実施形態の水制システムは、配線Cによって各水制ユニットXと接続された制御部4によって、各水制ユニットXの立設及び格納を一元的に制御可能である。
詳述すれば、配線Cは、複数の水制ユニットXの各駆動部3と、制御部4と、を電気的に接続しており、使用者が、制御部4を操作することにより、各駆動部3の動力源(モーター等)が発動し、各駆動部3は、各水制ユニットXを立設又は格納させる。
【0043】
即ち、非常時において、本システムの使用者は、制御部4を操作することで、複数の水制ユニットXを速やかに立設させることができる。
【0044】
河川の湾曲部において、増水時、河川の流量は遠心力によって外周部に偏るため、流量が集中する河川外周部は、堤防が決壊しやすい。
本水制システムを使用した場合、河床に対して立設した各水制ユニットXは、平面図に示すように河川Rの流れ(図中矢印)を平均化することができる。このため、上記した、流量集中に起因する堤防の決壊や、これに伴う水害を防止することができる。
【0045】
本発明の水制ユニットに関する本実施形態によれば、平時において、水制本体1が、河川R内に設置された格納部2に格納されることで、極めて人目に付きにくくなり、周囲の景観を損ねない。
そして、非常時には、駆動部3によって、水制本体1が速やかに立設されることで水害を防止することができる。
【0046】
また、格納部2が河床RBに埋設されていることで、水制本体1の格納時における、水制ユニットX全体の隠匿性がさらに向上する。
【0047】
また、水制本体1が、伸縮可能に構成されていることで、水制本体1の格納時において、水制ユニットXは全体がコンパクトになるため、施工性や隠匿性が向上する。
【0048】
また、水制本体1が、略板状体であることで、水制ユニットXの製造コストを抑えるとともに、水制本体1に略平行な水の流れに対して抵抗が少なくなるため、立設及び格納時の省力化や、水の流れを効率良く制御することが可能となる。
【0049】
また、水制本体1が、所定の曲率を有することで、水の流れを水制本体1に沿って緩やかに変化させることができ、河川の湾曲部に設置するのに好適な水制ユニットXを作ることができる。
【0050】
また、本発明の水制システムに関する本実施形態によれば、平時においては、水制ユニットXを人目に触れないように河川R内に隠しつつも、非常時においては、河川R外に設けられた制御部4からの制御によって、複数の水制ユニットXを河床RBに対して立設させ、安全かつ速やかに水害対策をとることができる。
【0051】
また、本発明の水制施工方法によれば、水制ラインLによって河道を分けることにより、河川Rにおける流量集中を防止し、これに起因した堤防の決壊を防ぐことができる。
また、複数の水制ユニットXによって水制ラインLを形成することで、河川Rの規模や形状に合わせた施工が可能になるとともに、一枚壁の水制ラインLを施工するよりも施工コストが抑えられる。
【0052】
また、水制ラインLを複数配置することで、河川Rの特定部分への流量集中を防止する効果がさらに向上する。
【0053】
なお、上述の実施形態において示した各構成部材の諸形状や寸法等は一例であって、設計要求に基づき種々変更可能である。
【0054】
例えば、
図7は、水制ユニットXの、他の実施形態を示した図である。
この例では、水制本体1の内部に設けられた歯車式の駆動部3の回転によって、水制本体1の立設と格納を制御する。
また、平時において、水制本体1は、格納部2内、図中点線の位置に格納されるため、格納部2が河床内に埋設されることで、人目に付きにくい形で設置可能である。
【0055】
また、
図8も、水制ユニットXの、他の実施形態を示した図である。
この例では、駆動部3を軸として、水制本体1を回転させることで、水制本体1の立設と格納を制御する。平時において、水制本体1は、格納部2内、図中点線の位置に格納されるため、格納部2が河床RB内に埋設されることで、人目に付きにくい形で設置可能である。
【0056】
図7、
図8に示した水制ユニットXは、構造が簡単であるため製造しやすい、という利点があり、本発明の水制システムや水制施工方法に利用可能である。
【0057】
また、本発明の水制システムや水制施工方法では、本発明の水制ユニットXに限らず、設置箇所や施工目的に合わせた種々の水制構造体を利用可能である。
【符号の説明】
【0058】
X 水制ユニット
1 水制本体
2 格納部
3 駆動部
4 制御部
R 河川
RB 河床
L 水制ライン
C 配線