(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023056129
(43)【公開日】2023-04-19
(54)【発明の名称】高純度1,1-ジクロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(HCFO-1223za)、その製造方法及びその用途、並びに、HCFO-1223zaの酸性化を防ぐ方法
(51)【国際特許分類】
C07C 21/18 20060101AFI20230412BHJP
C07C 17/20 20060101ALI20230412BHJP
C07C 17/23 20060101ALI20230412BHJP
C07C 17/383 20060101ALI20230412BHJP
C07C 17/42 20060101ALI20230412BHJP
C07C 17/38 20060101ALI20230412BHJP
【FI】
C07C21/18 CSP
C07C17/20
C07C17/23
C07C17/383
C07C17/42
C07C17/38
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021165260
(22)【出願日】2021-10-07
(71)【出願人】
【識別番号】000157119
【氏名又は名称】関東電化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100120754
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 豊治
(72)【発明者】
【氏名】原田 晃典
(72)【発明者】
【氏名】谷口 智洋
【テーマコード(参考)】
4H006
【Fターム(参考)】
4H006AA01
4H006AA02
4H006AA03
4H006AC13
4H006AD11
4H006AD16
4H006BA14
4H006BA37
4H006BA55
4H006BC13
4H006BE01
4H006EA03
4H006EB02
(57)【要約】
【課題】1,1-ジクロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(HCFO-1223za)の酸性化を防ぎ、HCFO-1223zaの新規な用途を見出すこと。また酸性化しない高純度HCFO-1223za及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】下記式(1):
CX3CX2C(=O)X1 (1)
(式中、各Xは、独立に、塩素、フッ素または水素であり、X1は塩素またはフッ素である。)
で表される酸ハライド不純物の濃度が5ppm以下である純度が99.5%以上の高純度HCFO-1223za、その製造方法、その用途、及びHCFO-1223zaの酸性化を防ぐ方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1):
CX3CX2C(=O)X1 (1)
(式中、各Xは、独立に、塩素、フッ素または水素であり、X1は塩素またはフッ素である。)
で表される酸ハライド不純物の濃度が5ppm以下である純度が99.5%以上の高純度1,1-ジクロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン。
【請求項2】
式(1)で表される酸ハライド不純物が、CHClFCF2C(=O)Cl及びCF3CHClC(=O)Clからなる群から選ばれる少なくとも1種を含む、請求項1に記載の高純度1,1-ジクロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン。
【請求項3】
1,1,1,3,3,3-ヘキサクロロプロパンとフッ化水素を反応させて1,1-ジクロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンを含む反応液を得て、当該反応液を蒸留して1,1-ジクロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンの濃度が99.5%以上の精製物を得て、当該精製物を塩基性物質と接触させることを特徴とする、請求項1又は2に記載の高純度1,1-ジクロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンを製造する方法。
【請求項4】
前記塩基性物質が、金属水酸化物水溶液、金属炭酸塩水溶液、及び、金属重炭酸塩水溶液からなる群から選ばれる、請求項3に記載の高純度1,1-ジクロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンの製造方法。
【請求項5】
前記精製物と塩基性物質を接触させて混合液を得たのち、当該混合液を水層と有機層に分液させた後に有機相を分取することを特徴とする請求項4に記載の高純度1,1-ジクロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンの製造方法。
【請求項6】
前記分取した有機層を抵抗値0.1MΩ・cm以上を有する水で洗浄することを特徴とする請求項5に記載の高純度1,1-ジクロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンの製造方法。
【請求項7】
請求項1又は2に記載の高純度1,1-ジクロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンの溶剤としての使用。
【請求項8】
請求項1又は2に記載の高純度1,1-ジクロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンの金属表面の洗浄剤としての使用。
【請求項9】
金属表面と請求項1又は2に記載の高純度1,1-ジクロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンとを接触させることを含む金属表面の洗浄方法。
【請求項10】
1,1-ジクロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(HCFO-1223za)を塩基性物質と接触させることを特徴とする、HCFO-1223zaの酸性化を防ぐ方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高純度1,1-ジクロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(以下、HCFO-1223zaということがある。)及びその製造方法、並びに、HCFO-1223zaの酸性化を防ぐ方法、さらには、当該高純度HCFO-1223za新規な用途に関する。
【背景技術】
【0002】
1,1-ジクロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(HCFO-1223za)は、1,1,1,3,3,3-ヘキサクロロプロパン(沸点201℃)を気相でフッ化水素と触媒の存在下接触させて製造することができる(特許文献1)。HCFO-1223zaは、例えば、融点が-87℃、沸点が55℃なので、溶剤としての用途が期待できる。油脂分の溶解性を示す指標であるカウリブタノール値(KB値)が46と高く、優れた油溶解性を有する為、洗浄剤としての用途が期待できる。比重も1.44g/mLと高く、パーティクル除去用途も期待できる。また、引火点を持たず不燃性である為、消防法の規制を受けない。フッ素系溶剤であるため揮発性が高く、容易に乾燥できる。比熱が0.95kJ/kg・Kと低い上、潜熱が163kJ/kgと低い為、低エネルギーで蒸留回収できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らは、HCFO-1223zaの新規な用途を検討する段階で、上記の製法で得られたHCFO-1223zaは大気中で保管すると酸性に変化するという現象を見出した。酸性に変化した溶剤は、金属の洗浄に使用した場合に、その金属を腐食するので使用することができない。よって、本発明者らは、HCFO-1223zaの新規な用途、特に溶剤としての用途を開発するためにHCFO-1223zaの酸性化を防ぐ必要性を見出すに至った。そこで本発明の課題は、HCFO-1223zaの酸性化を防ぎ、HCFO-1223zaの新規な用途を見出すことにある。また本発明のさらなる課題は酸性化しない高純度HCFO-1223za及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は以下のものを提供する。
[1]
下記式(1):
CX3CX2C(=O)X1 (1)
(式中、各Xは、独立に、塩素、フッ素または水素であり、X1は塩素またはフッ素である。)
で表される酸ハライド不純物の濃度が5ppm以下である純度が99.5%以上の高純度1,1-ジクロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン。
[2]
式(1)で表される酸ハライド不純物が、CHClFCF2C(=O)Cl及びCF3CHClC(=O)Clからなる群から選ばれる少なくとも1種を含む、[1]に記載の高純度1,1-ジクロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン。
[3]
1,1,1,3,3,3-ヘキサクロロプロパンとフッ化水素を反応させて1,1-ジクロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンを含む反応液を得て、当該反応液を蒸留して1,1-ジクロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンの濃度が99.5%以上の精製物を得て、当該精製物を塩基性物質と接触させることを特徴とする、[1]又は[2]に記載の高純度1,1-ジクロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンを製造する方法。
[4]
前記塩基性物質が、金属水酸化物水溶液、金属炭酸塩水溶液、及び、金属重炭酸塩水溶液からなる群から選ばれる、[3]に記載の高純度1,1-ジクロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンの製造方法。
[5]
前記精製物と塩基性物質を接触させて混合液を得たのち、当該混合液を水層と有機層に分液させた後に有機相を分取することを特徴とする[4]に記載の高純度1,1-ジクロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンの製造方法。
[6]
前記分取した有機層を抵抗値0.1MΩ・cm以上を有する水で洗浄することを特徴とする[5]に記載の高純度1,1-ジクロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンの製造方法。
[7]
[1]又は[2]に記載の高純度1,1-ジクロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンの溶剤としての使用。
[8]
[1]又は[2]に記載の高純度1,1-ジクロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンの金属表面の洗浄剤としての使用。
[9]
金属表面と[1]又は[2]に記載の高純度1,1-ジクロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンとを接触させることを含む金属表面の洗浄方法。
[10]
1,1-ジクロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(HCFO-1223za)を塩基性物質と接触させることを特徴とする、HCFO-1223zaの酸性化を防ぐ方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、高純度HCFO-1223za及びその製造方法が提供される。本発明の高純度HCFO-1223zaは大気中で保管しても酸性化せず、様々な用途、特に金属表面の洗浄剤に有用である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
[作用]
本発明者らは鋭意検討を進め、HCFO-1223zaの酸性化は、不純物として存在する酸ハライドが大気中の水分により加水分解して、ハロゲン化水素とカルボン酸を生成することに起因することを見出した。このような酸ハライドとしては、下記式(1):
CX3CX2C(=O)X1 (1)
(式中、各Xは、独立に、塩素、フッ素または水素であり、X1は塩素またはフッ素である。)
で表される化合物が特定されている。
【0008】
本発明者らは予想外にも酸ハライド不純物はアルカリ性水溶液でHCFO-1223zaを洗浄することにより容易に除去できることを見出した。酸ハライド不純物を除去した後のHCFO-1223zaは30日間大気中で加熱還流しても酸性化することがなかった。
【0009】
[高純度HCFO-1223za]
本発明の高純度HCFO-1223zaは、下記式(1):
CX3CX2C(=O)X1 (1)
(式中、各Xは、独立に、塩素、フッ素または水素であり、X1は塩素またはフッ素である)
で表される酸ハライド不純物の濃度が5ppm以下であること、及び、HCFO-1223zaの純度が99.5%以上、好ましくは、99.9%以上、より好ましくは、99.99%以上であることを特徴とする。なお、本明細書において、特に断らない限り、「%」及び「ppm」は全体の重量を100%とした場合の重量基準の割合である。
式(1)の酸ハライド不純物としては、例えば、CHClFCF2C(=O)Cl及びCF3CHClC(=O)Cl、などが挙げられる。
【0010】
[高純度HCFO-1223zaの製造方法]
本発明の高純度HCFO-1223zaは、
(a)1,1,1,3,3,3-ヘキサクロロプロパン(以下、「HCP」ということがある。)とフッ化水素(HF)を反応させて1,1-ジクロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(HCFO-1223za)を含む反応液を得て、
(b)当該反応液を蒸留してHCFO-1223zaの濃度が99.5%以上、好ましくは99.9%以上、より好ましくは99.99%以上の精製物を得て、
(c)当該精製物を塩基性物質と接触させること、
を含む方法により得られる。
【0011】
工程(a):
工程(a)は、気相反応とすることもできるし、液相反応とすることもできる。気相反応を常圧で行うときはHCPの沸点が約201℃なので、この温度を超える温度に加熱した蒸発器に液体のHCPを導入し、HCPを気化させて反応させる。蒸発器に液体のHCPを導入する際には、スプレーノズルを使用して液体のHCPを霧状にして蒸発器に導入することができ、気化の効率を高めることができる。
【0012】
気相反応においては気体のHCPとHFを連続的に反応器に導入することができる。気相反応におけるHCPとHFの導入量は、モル比で、好ましくは1:1~1:20、より好ましくは1:1~1:10、最も好ましくは、1:1~1:5である。気相反応を小スケールで行う場合、例えば、HCPを5g/min~50g/minの流量で、HFを1g/min~15g/minの流量で流す。
【0013】
気相反応において反応器の温度は、100~400℃、好ましくは200℃~400℃、より好ましくは200℃~350℃、最も好ましくは250℃~350℃である。
【0014】
気相反応の触媒としては、金属フッ化物、例えば、アルカリ金属フッ化物、アルカリ土類金属フッ化物、遷移金属フッ化物、などが挙げられ、これらは2種以上の組み合わせでもよい。アルカリ金属フッ化物としては、例えば、フッ化リチウム、フッ化ナトリウム、フッ化カリウムなどが挙げられる。アルカリ土類金属フッ化物としては、例えば、フッ化マグネシウム、フッ化カルシウム、フッ化バリウムなどが挙げられる。遷移金属フッ化物としては、例えば、フッ化クロム、フッ化モリブデン、フッ化アンチモン、フッ化ニオブ、フッ化マンガン、フッ化鉄、フッ化コバルト、フッ化銅、フッ化ニッケル、フッ化亜鉛、フッ化銀などが挙げられる。フッ化クロムとしては、フッ化クロム(III)、フッ化クロム(VI)及びこれらの混合物のいずれも使用できる。フッ化モリブデンとしては、フッ化モリブデン(IV)、フッ化モリブデン(V)、フッ化モリブデン(VI)及びこれらの混合物のいずれも使用できる。フッ化アンチモンとしては、フッ化アンチモン(III)、フッ化アンチモン(V)及びこれらの混合物のいずれも使用できる。フッ化ニオブとしては、フッ化ニオブ(II)、フッ化ニオブ(III)、フッ化ニオブ(IV)、フッ化ニオブ(V)及びこれらの混合物のいずれも使用できる。フッ化マンガンとしては、フッ化マンガン(II)、フッ化マンガン(III)、フッ化マンガン(IV)及びこれらの混合物のいずれも使用できる。フッ化鉄としては、フッ化鉄(II)、フッ化鉄(III)及びこれらの混合物のいずれも使用できる。フッ化コバルトとしては、フッ化コバルト(II)、フッ化コバルト(III)及びこれらの混合物のいずれも使用できる。フッ化銅としては、フッ化銅(I)、フッ化銅(II)及びこれらの混合物のいずれも使用できる。フッ化ニッケル及びフッ化亜鉛については、2価の金属フッ化物が安定に存在する。フッ化銀としては、フッ化銀(I)、フッ化銀(II)、フッ化銀(III)及びこれらの混合物のいずれも使用できる。
【0015】
本発明では、金属フッ化物は担体に担持させて使用することができる。担体としては、例えば、活性炭、アルミナ、ゼオライト、発泡金属などの多孔質の物質などが挙げられ、これらは2種以上の組み合わせであってもよい。金属フッ化物を担体に担持させることにより、金属フッ化物担持体の成形性が向上し、粉末として使用する他に、ペレット状(円柱状)(例えば、粒径0.5~30mm)、ハニカム状、粒状(紡錘状)(例えば、粒径0.5~30mm)、球状(例えば、粒径0.5~30mm)、その他粉体を除く塊状などに当該担持体を成形することができる。金属フッ化物を担体に担持させることにより、金属フッ化物を粉末で使用するよりも取り扱い性が向上する。例えば、金属フッ化物同士の固化により原料ガスの流路が形成されてしまい反応効率が低下するという問題が起こりにくい、未反応の金属フッ化物と反応後副生する金属塩化物との焼結が起こりづらい、などの利点が得られる。
【0016】
気相反応の好ましい触媒としては、CrF3/Cなどの活性炭担持フッ化クロム触媒、などが挙げられる。例えば、CrF3/Cは、反応器にCrCl3/Cを充填し、反応器にHFを流し、HFによりハロゲン交換を行い、調製することができる。
【0017】
反応器としては、例えば、反応温度を調節するためのヒータを備えた円筒管に種々の形状の金属フッ化物を充填し、管の一端から他端へ向けて原料ガスを流せるように構成したものが挙げられる。原料ガスを流す方向は、金属フッ化物を装填した円筒管を垂直方向に延在させた場合、上から下に向けて少しずつ均一に流すようにすることが重力を利用して少しずつ原料ガスを流せるので、好ましい。円筒管を垂直方向に延在させ、原料ガスを下から上に流す場合、円筒管の下部に粒径の大きなペレット状の金属フッ化物を配置し、円筒管の上部に粒径の小さな粉末状の金属フッ化物を配置することが、反応効率の点で望ましい。反応装置の材質としては、例えば、ステンレス、インコネル、モネル、ハステロイ、ニッケルなどの耐腐食性金属などが挙げられる。これらの中でも、ニッケルが耐腐食性の観点から好ましい。
【0018】
液相反応を行うときは反応容器に液体のHCPを充填し、液体もしくは気体のHFを導入することにより行うことができる。液相反応の条件としては、反応温度や触媒は気相反応と同様のものを採用できる。
【0019】
工程(b)は、公知の蒸留方法により行うことができるが、HCFO-1223zaの純度99.5%以上を達成するためには、5段以上の蒸留を行うことが好ましく、純度とエネルギー効率を考えて、10~50段の蒸留を行うことがより好ましい。HCFO-1223zaの濃度が99.5%未満である場合、次工程で塩基性物質と接触させて処理しても、最終製品のHCFO-1223zaの濃度が99.5%未満なので、高純度品として使用できないので、望ましくない。
【0020】
工程(c)は、工程(b)で得られた精製物を塩基性物質と接触させる。HCFO-1223zaは常温常圧(25℃、1気圧)で液体であり且つ水不溶性なので、この工程は、例えば、当該精製物に塩基性物質の水溶液を混合し、HCFO-1223zaを含む有機層と塩基性物質を含む水層に分離させ、有機層を分取することで行うことができる。さらに好ましくは、前記分取した有機層を純水(即ち、抵抗値0.1MΩ・cm以上を有する水)で洗浄する。純水により洗浄することで、有機層に残留する塩基性物質を有意に除去することができる。
【0021】
塩基性物質としては、例えば、金属水酸化物水溶液、金属炭酸塩水溶液、金属重炭酸塩水溶液、これらの組みわせ、などが挙げられる。金属水酸化物としては、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属の水酸化物、水酸化バリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウムなどのアルカリ土類金属の水酸化物、などが挙げられる。金属炭酸塩としては、例えば、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどのアルカリ金属の炭酸塩、炭酸バリウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウムなどのアルカリ土類金属の炭酸塩、などが挙げられる。金属重炭酸塩としては、例えば、重炭酸リチウム、重炭酸ナトリウム、重炭酸カリウムなどのアルカリ金属の重炭酸塩、重炭酸バリウム、重炭酸マグネシウム、重炭酸カルシウムなどのアルカリ土類金属の重炭酸塩、などが挙げられる。
【0022】
洗浄の対象となる精製物中の不純物濃度が少ないので、上記塩基性物質の水溶液の濃度としては、好ましくは0.1~20%、より好ましくは、0.3~10%、さらに好ましくは0.5~7%、最も好ましくは1~5%である。
【0023】
[本発明の高純度HCFO-1223zaの用途]
本発明の高純度HCFO-1223zaは、塩素原子を2つ有するので、有機物の溶解性、特に油の溶解性に優れている。この特性を利用して以下の用途に有用である。
【0024】
(1)溶剤及び洗浄剤としての用途
本発明の高純度HCFO-1223zaは、アセトン、アセトフェノン等のケトン類、アセトニトリル、プロピオニトリル等のニトリル類、ジイソプロピルエーテル、t-ブチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジグライム、1,4-ジオキサン等のエーテル類、ジメチルスルホキシド、スルホラン等のスルホキシド類、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン等のアミド類、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン等の炭化水素類、メタノール、エタノールイソプロパノール等のアルコール類等の有機溶媒と任意の割合で混合することができる。このため、混合溶媒として幅広い用途に使用できる。また、本発明の高純度HCFO-1223zaは、特に油の溶解性に優れており、洗浄剤として好適に用いる事ができる。本発明の高純度HCFO-1223zaの沸点は、55℃である。このため、容易に揮発させ除去する事ができる。本発明の高純度HCFO-1223zaは、30日間大気中で加熱還流しても酸性化することがない。このため、酸による腐食が問題となる金属表面の洗浄用途に特に適している。なお、金属表面は酸のみならずアルカリからも影響を受けるので、純水により洗浄して残留する塩基性物質を有意に除去した高純度HCFO-1223zaを、金属表面の洗浄用途に使用することがさらに好ましい。
【0025】
(2)発泡剤としての用途
本発明の高純度HCFO-1223zaの有機物の溶解性を利用して、ポリウレタンなどの熱硬化性樹脂やポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレンなどの熱可塑性樹脂の発泡性組成物の調製に利用できる。
【0026】
[HCFO-1223zaの酸性化を防ぐ方法]
本発明の高純度HCFO-1223zaは、30日間大気中で加熱還流しても酸性化することがない。前述したように、HCFO-1223zaを塩基性物質と接触させることによって、酸性化の原因となる酸ハライドが除去される。
【実施例0027】
本発明を以下の例により具体的に説明するが、本発明の範囲は以下の例に限定して解釈されるものではない。以下の例において、特に断らない場合は、%は全体を100重量%とした割合を示す。また、「純水」は蒸留などの精製操作により抵抗値0.1MΩ・cm以上を有する水を意味する。
【0028】
(参考例:HCFO-1223za試料の調製)
300℃に加熱した蒸発器にて気化させた1,1,1,3,3,3-ヘキサクロロプロパンを14g/minで、無水フッ化水素を4g/minで円筒型反応器へ連続的に導入した。反応器には活性炭担持フッ化クロム触媒を予め充填しておいた。200℃に加熱した反応器の出口ガスを30kgの氷水を張った捕集槽に対して24時間導入した。捕集槽内の液を分層した結果、12.6kgの有機物を得た。この有機物を蒸留精製し、下記組成のHCFO-1223zaを得た。
【0029】
【0030】
なお、酸ハライド不純物の特定は、ガスクロマトグラフ-質量分析法(GC-MS)を用い、EI(電子イオン化)法とPI(光イオン化)法で行った。GC-MSより得たフラグメントから、酸ハライド不純物として、CHClFCF2C(=O)Cl及びCF3CHClC(=O)Clが特定された。酸ハライド不純物が酸クロライド構造を有することは、低電子イオン化法(LEI法)によっても確認できた。
【0031】
(実施例1)
ガラス製バイアルに10mLの上記で調製したHCFO-1223za試料、5mLの1%NaOH水溶液を導入し、フタをして50回振とうした。10分静置して分層した後に有機層のみ分取した。この有機層をガラスバイアルに密閉し、55℃下加熱静置し、2日および7日経過後にpHを確認した。その結果、7日後でも中性を維持していた。
【0032】
(実施例2)
ガラス製バイアルに10mLの上記で調製したHCFO-1223za試料、5mLの1%KOH水溶液を導入し、フタをして50回振とうした。10分静置して分層した後に有機層のみ分取した。この有機層をガラスバイアルに密閉し、55℃下加熱静置し、2日および7日経過後にpHを確認した。その結果、7日後でも中性を維持していた。
【0033】
(実施例3)
ガラス製バイアルに10mLの上記で調製したHCFO-1223za試料、5mLの4%NaHCO3水溶液を導入し、フタをして50回振とうした。10分静置して分層した後に有機層のみ分取した。この有機層をガラスバイアルに密閉し、55℃下加熱静置し、2日および7日経過後にpHを確認した。その結果、7日後でも中性を維持していた。
【0034】
(実施例4)
ガラス製バイアルに10mLの上記で調製したHCFO-1223za試料、5mLの4%Na2CO3水溶液を導入し、フタをして50回振とうした。10分静置して分層した後に有機層のみ分取した。この有機層をガラスバイアルに密閉し、55℃下加熱静置し、2日および7日経過後にpHを確認した。その結果、7日後でも中性を維持していた。
【0035】
(比較例1)
ガラス製バイアルに10mLの上記で調製したHCFO-1223za試料をガラスバイアルに密閉し、55℃下加熱静置し、2日および7日経過後にpHを確認した。その結果、2日後、7日後ともにpH=4で変化は無かった。
【0036】
(比較例2)
ガラス製バイアルに10mLの上記で調製したHCFO-1223za試料、5mLの純水を導入し、フタをして50回振とうした。10分静置して分層した後に有機層のみ分取した。この有機層をガラスバイアルに密閉し、55℃下加熱静置し、2日および7日経過後にpHを確認した。その結果、2日後にはpH=6に、7日後にはpH=5に変化した。
【0037】
比較例1~2、実施例1~4の結果を表2に示す。
【表2】
【0038】
比較例1及び2の結果から、HCFO-1223za試料を塩基性物質水溶液で洗浄しなかった場合、試料中の酸ハライド濃度が経過時間0日における酸ハライド濃度が7ppm(比較例1)及び6ppm(比較例2)であり、時間の経過とともに酸性化が起こることが分かった。HCFO-1223za試料を塩基性物質水溶液で洗浄した実施例1~4では、経過時間0日において酸ハライドが検出されず、その後も酸ハライドが検出されなかった。HCFO-1223zaの酸性化を防ぐためには、経過時間0日における酸ハライド濃度が5ppm以下であることが必要であると考えられる。
【0039】
(実施例5:耐久性試験)
300mLの上記で調製したHCFO-1223za試料に対し、4%Na2CO3水溶液100mLを加え、分液漏斗を用いて50回振とうした後に10分間静置した。有機層(下層)を分層し、この有機層(約300mL)に対し純水を100mL加え、分液漏斗を用いて50回振とうした後に10分間静置した。そののちに分層して得た有機層を試験に用いた。100mLナスフラスコに対し、上述したように4%Na2CO3水溶液及び純水で洗浄したHCFO-1223za試料を75g量り入れた。フラスコにジムロート冷却器(循環冷媒温度:-10℃)を取り付け、上部は窒素シールなど施さず開放状態とした。フラスコを65℃に設定したオイルバスに浸漬し、加熱還流試験を開始した。分析の際はオイルバスより各フラスコを上げて十分に冷却し、GC分析、pHチェックを行った。その後、有機層を約2gサンプリングし、純水10mLで洗浄した。この純水層を5mL分取し、0.001M NaOH水溶液を用いて滴定して酸分値を求めた。その結果、30日加熱継続後もpHは7を維持し、酸分も0.0ppmのままであった。結果を表3に示す。
【0040】
【0041】
表3から、30日経過しても滴定法により酸分(HClのppm濃度)が検出されず、HCFO-1223zaの濃度が99.99以上の高い純度で維持されることがわかる。
【0042】
[洗浄力評価試験]
本発明の高純度HCFO-1223zaに対する各評価対象の溶解度(洗浄能力)を下表に示した。
【表4】
*1:参考資料 洗浄技術の展開 シーエムシー出版
*2:CELEFIN(登録商標)1233Z、AMOLEA(登録商標)AS-300、アサヒクリン(登録商標)AK-225、ゼオローラ(登録商標)HTA、アサヒクリン(登録商標)AE-3000、はいずれも洗浄剤商品名である。
【0043】
上記表からわかるように、本発明の高純度HCFO-1223zaは、いずれの加工油に対しても重量比1:1で完全に混和する事から優れた油溶解力を有する。
【0044】
[金属表面洗浄試験]
本発明の高純度HCFO-1223zaは酸性化しないので金属表面の洗浄に適している。このことを評価するために、以下の試験を行った。
実験方法:ガラス製バイアルに鉄のテストピース(寸法:10mm×10mm×1mm)を入れ、HCFO-1223zaを10g加え、55℃下で4日間保管した。HCFO-1223zaとして以下のものを使用した。
酸性HCFO-1223za:参考例のHCFO-1223za試料であってアルカリ洗浄を行う前のpH=4のもの。GC純度99.993%。酸ハライド6ppm含有。
高純度HCFO-1223za:アルカリ洗浄、純水洗浄を行ったpH=7のもの。GC純度99.995%。酸ハライド不純物を含まず。
試験結果を下表に示した。
【表5】
【0045】
上記表からわかるように、酸性HCFO-1223zaに接触したテストピースは4日後には表面に赤褐色の錆が生じた(試験後のテストピースの右下部分の汚れを参照)。一方、本発明の高純度HCFO-1223zaに接触したテストピースは4日経過しても表面に変化がなく、金属光沢を維持しており、錆が発生しなかった。このように、本発明の高純度HCFO-1223zaは、金属表面の油分などの有機物の洗浄力に優れるだけでなく、洗浄後の金属表面に錆が発生しにくいという点でも優れている。本発明の高純度HCFO-1223zaによって特に金属表面の洗浄に適した洗浄剤が提供できる。