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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023056136
(43)【公開日】2023-04-19
(54)【発明の名称】製氷装置
(51)【国際特許分類】
   F25C 1/18 20060101AFI20230412BHJP
【FI】
F25C1/18 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021165278
(22)【出願日】2021-10-07
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和3年8月31日に雪氷研究大会(2021・千葉-オンライン)講演要旨集 第71頁にて公開 〔刊行物等〕 令和3年9月13日に雪氷研究大会(2021・千葉-オンライン)にて発表
(71)【出願人】
【識別番号】304021288
【氏名又は名称】国立大学法人長岡技術科学大学
(72)【発明者】
【氏名】上村 靖司
(72)【発明者】
【氏名】杉原 幸信
(57)【要約】
【課題】単結晶氷製造における初期段階の不透明部分の発生を抑制可能な製氷装置を提供する。
【解決手段】上部に開口部を有し原料液が充填された容器と、開口部を覆い、容器の上縁に載置された冷却槽と、冷却槽の上面又は内部に設けられた冷却装置と、容器の内部と連通する緩衝容器とを備え、冷却槽は容器に充填された原料液に当接する下板を有し、原料液中で且つ下板近傍に位置する電極対と電極対に電圧を印加する電源部を備え、電源部は一定間隔毎にパルス状の電圧を印加するパルス生成部を備える。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部に開口部を有し原料液が充填された容器と、
前記開口部を覆い、前記容器の上縁に載置された冷却槽と、
前記冷却槽の上面又は内部に設けられた冷却装置と、
前記容器の内部と連通する緩衝容器とを備え、
前記冷却槽は前記容器に充填された前記原料液に当接する下板を有し、
前記原料液中で且つ前記下板近傍に位置する電極対と
前記電極対に電圧を印加する電源部を備え、
前記原料液は大気に触れながら静置状態で温めた時の平衡状態となる溶存ガス濃度を維持する液であることを特徴とする製氷装置。
【請求項2】
前記電源部は一定間隔毎にパルス状の前記電圧を印加するパルス生成部を備える
ことを特徴とする請求項1に記載の製氷装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製氷装置に関する。
【背景技術】
【0002】
氷中に不透明な部分ができる主な要因は、原料水中の溶存ガスやミネラル分等の不純物が製氷過程において氷中に封じ込められ白濁することと、目視で確認しうる結晶粒界が存在するためである。従来、この白濁を抑制し透明な氷を製造する方法として、製氷容器を振動させたり、空気を送り込んだりしながら製氷する方法や、製氷する前に溶存ガスを脱気した原料液を用いて製氷する方法がとられてきた。
【0003】
単結晶氷は透明度が高く美しいことから特に飲料用としての商品価値が高い。また、結晶方位が揃った単結晶氷は硬度が高く、気泡が無く結晶粒が大きいと氷解し難いという特性をも有している。このような特性があることから、本出願人は単結晶氷を製造可能な製氷方法および製氷装置を開示した(特許文献1参照)。尚、ここでは結晶粒の大きさは等価円直径で示し、等価円直径が30mmを超える結晶粒で構成され、粒界が目視で判別できない氷を単結晶氷と呼ぶ。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-081110号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示される製氷方法および製氷装置(以下、「従来例」という)による単結晶氷を製造する際、製氷初期段階において氷中に不透明な部分が生じていた。
【0006】
製氷容器を振動させたり、空気を送り込んだりする氷中の不透明部分を抑制する技術は従来例には使えないという問題があり、従来例による製氷においては、製氷初期段階の不透明部分を単結晶氷製造後に物理的に除去する工程が必要となっている。そのため効率よく透明度が高い単結晶氷を製造可能な製氷装置が望まれている。
【0007】
本発明は上述した事情に鑑みてなされたものであり、単結晶氷製造における初期段階の不透明部分の発生を抑制可能な製氷装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは効率よく透明度が高い単結晶氷の製造について更なる研究を進め、鋭意検討を重ねた結果、以下の構成を具備することで前記の課題を解決することを見いだし、本発明の完成に至った。
【0009】
すなわち、本発明の一の観点に係る製氷装置は、上部に開口部を有し原料液が充填された容器と、開口部を覆い、容器の上縁に載置された冷却槽と、冷却槽の上面又は内部に設けられた冷却装置と、容器の内部と連通する緩衝容器とを備え、冷却槽は容器に充填された原料液に当接する下板を有し、原料液中で且つ下板近傍に位置する電極対と電極対に電圧を印加する電源部を備え、原料液は大気に触れながら静置状態で温めた時の平衡状態となる溶存ガス濃度を維持する液であることを特徴とするものである。
【0010】
本観点において電源部は一定間隔毎にパルス状の電圧を印加するパルス生成部を備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
以上、本発明によれば、単結晶氷製造における初期段階の不透明部分の発生を抑制可能な製氷装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施形態の製氷装置の断面図である。
図2】本発明に係る冷却槽の一例の断面図である。
図3】比較例による製氷初期段階の下板近傍の観察写真である。
図4】比較例により製氷した単結晶氷の写真である。
図5】本実施例による製氷初期段階の下板近傍の観察写真である。
図6】本実施例により製氷した単結晶氷の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照しながら説明する。ただし、本発明は以下に示す実施形態、実施例に記載された具体的な例示にのみ限定されるわけではない。
【0014】
(製氷装置)
図1は、本発明の一の実施形態に係る製氷装置10を示す縦断面図である。本発明は従来例の製氷装置に、更に電極対41と電源部42を備える製氷装置である。
すなわち、上部に開口部13を有し原料液11が充填された容器12と、開口部13を覆い、容器12の上縁に載置された冷却槽18と、冷却槽18の上面又は内部に設けられた冷却装置21と、容器12の内部と連通する緩衝容器17とを備え、冷却槽21は容器に充填された原料液11に当接する下板20を有し、原料液11中で且つ下板20近傍に位置する電極対41と電極対41に電圧を印加する電源部42を備える製氷装置である。
氷結させる原料液11は大気に触れながら静置状態で温めた時の平衡状態となる溶存ガス濃度を維持する液である。
【0015】
(容器)
容器12は有底筒状をしており、上部に開口部13を有している。容器12の水平断面形状は矩形としているが、矩形以外の多角形とすることもできるし、単純な円形とすることもできる。容器12の底部近くの側面には孔15が設けられ、流路16を介して緩衝容器17が液密に連通される。
【0016】
(冷却槽)
容器12の上部の開口部13には当該上部開口部13全体を覆うよう容器12の上縁に冷却槽18が配設される。冷却槽18の形状は上部開口部13全体を覆う形状であれば、平面視矩形や円形等どのような形状であっても構わない。冷却槽18は、後述する冷却装置21が冷却槽18外部上面に配置するときには上板19と下板20を備え、冷却装置21が冷却槽18内部に配置する時には下板20を備える。冷却槽18の内部は、真空とすることで冷却効率を高めることができる。なおここで「真空」とは、大気圧よりも低い圧力状態を意味する。
【0017】
(温度計)
冷却槽18には、原料液11中で且つ下板20近傍に温度計51を備えることが好ましい。製氷中に原料液11の温度を測定することは、原料液11の過冷却状態を正確に把握することができ、電源部42の制御に有用となる。温度計51は公知の熱電対、白金測温抵抗体等が使用でき、0℃付近の温度を精度良く測れる温度計がより好ましい。
【0018】
(冷却装置)
低温熱源としての冷却装置21は、原料液11に当接する下板20から冷却槽18を介して放射される原料液11の熱を吸収することで、原料液11を冷却・冷凍する。冷却装置21としては、原料液11の凝固点よりも低い温度に到達可能な装置であればどのようなものでも使用できる。
【0019】
(電極対および電極部)
電極対41は、原料液11中で且つ下板20近傍に位置するよう配設される。すなわち電極対41の先端は、下板20の外表面あるいは下板20の外側に位置するよう設置されることが好ましく、より好ましくは電極対41の先端が下板20から突出するよう配置される。このとき電極対41は下板20を貫通しても良く、下板20の外表面を沿うように配置されても良い。
【0020】
電源部42は、電極対41に高電圧を印加する電気回路を備える。電源部42は一定間隔毎にパルス状の電圧を印加するパルス生成部43(図示せず)を備えることが好ましい。パルス生成部43は、電源部42の電気回路の一部として備えても良く、電源部42の外部から制御可能に接続しても良く、その形態は問わない。
【0021】
(製氷方法)
次に、上述した製氷装置10を用いて原料液11から単結晶氷を製造する方法について説明する。ここでは簡便上、原料液11を水111として説明する。以下具体的に説明する。
【0022】
(脱気)
始めに水111を大気に触れる状態で自然環境下と同じような条件において、静置状態で温め水111中の溶存ガス濃度を低下させることで水111中に溶存するガスの一部を脱気する。
【0023】
(予冷)
予冷段階では、大気中ガスが水111に再溶解しないよう密閉状態で冷却する。これにより前述の脱気で大気に触れながら静置状態で温めた時の平衡状態となる溶存ガス濃度を維持することができる。この段階では水111が凍らない程度に冷やす。
【0024】
(製氷)
製氷装置10の設置される雰囲気温度は、2℃程度にコントロールされることが好ましい。製氷装置10の運転開始に先立って、容器12内に前述の予冷段階で予冷された水111を充填する。水111は容器12の上部開口部13まで完全に充填する。このようにして冷却装置21の下板20と電極対41を水111と完全に接触させる。温度計51も水111と完全に接触させる。このとき、水111と下板20との間に一切の気泡を入れないことが望ましい。本実施形態の製氷装置10による製氷は、容器12の上部開口部13からの熱放射により冷却されるものであることから、水111の氷結は容器12の上部開口部13から始まる。
【0025】
容器12内の水111の液体体積は、水111が氷結し固体となった分だけ減少する。氷結前後において水111の液体中に溶解しているガスの量が同じであるならば、液体体積の減少に伴い、水111の液体中溶存ガス濃度が上昇する。さらに氷結が進み、水111中の液体中溶存ガス濃度が、氷結温度0℃における飽和溶存ガス濃度よりも高くなると、氷を白濁させる一因である気泡が析出する。
【0026】
(微気泡群)
気泡の中でも氷の初期形成段階からある厚さまでに取り込まれる微小な気泡を微気泡群と呼ぶ。微気泡群はデンドライトと呼ばれる樹枝状晶の周辺に多く析出する。これは水111中における溶存ガスの拡散速度よりも、氷結晶の成長速度が速くなった結果、デンドライト部分を中心に局所的に溶存ガス濃度が飽和に達し微気泡群が形成され、氷を白濁させる。そのため氷製造における初期段階の不透明部分の発生を抑制するためには、デンドライトの成長速度を抑制することが好適である。
【0027】
(電圧印加)
過冷却度(凍結しない状態を維持する氷点下の温度の絶対値)の大きさと、その過冷却している原料液の体積の大きさに依存して、過冷却が破れたときの氷結晶の成長速度が大きくなる。この成長速度を抑制するために、過冷却度が小さい温度範囲(-3.2~-0.9°)にある状態で、高電圧のパルスを水111に印加することで強制的に過冷却を破り、氷結晶の成長速度を抑制して微気泡の発生を防ぐ。これにより製氷初期の白濁を防止する。高電圧のパルスは過冷却を破ることができる電圧であればよい。印加周期は過冷却度が小さい温度範囲にある状態でも1パルスの印加をするとよい。過冷却度が小さい温度範囲にあるかどうかは温度計51による観測値を利用するとより正確に把握できる。
【0028】
本実施形態の装置による製氷では、従来例で製氷初期段階に必ず生ずる不透明部分を抑制でき、製氷後に除去する工程が不要となり効率的に透明な単結晶氷を製造することができる。
【実施例0029】
ここで、上記実施形態の製氷装置について実際に確認を行った。以下具体的に説明する。
【0030】
(比較例)
特許文献1に記載の従来例による製氷を比較例とした。
【0031】
(実施例)
電極対は、φ0.38mmの導線を使用し、電源部に接続した。パルス生成部は1.5V直流を交流変換しトランスで300Vまで昇圧させ、さらにコッククロフト・ウォルトン回路により6000Vまで昇圧できるように電源部内に構成した。印加電圧は約6000V。電源部からの電圧はパルス状に印加した。温度計はT種、0.38mmの熱電対を用いた。製氷開始後、原料液の温度が0℃以下になった段階で、1分毎にパルス電圧を印加した。
【0032】
製氷は比較例および実施例ともに3回行った。そして製氷中及び製氷後の微気泡群の発生状況を比較した(図3~6)。
【0033】
表1は比較例および実施例における過冷却状態が解消するまでの時間と、過冷却状態が解消したときの水温の測定結果である。
【0034】
【表1】
【0035】
図3および図4は、比較例の微気泡群の発生状況の写真であり、図3は下板近傍、図4は製氷後に製氷装置から取り出した氷の写真である。図5および図6は、本実施例の微気泡群の発生状況の写真であり、図5は下板近傍、図6は製氷後に製氷装置から取り出した氷の写真である。比較例の印可なしではデンドライトが厚さ方向に最大10mm程度まで成長しているのに対して、本実施例の印可ありではデンドライトの厚さ方向の成長がほぼ確認できない。
【0036】
以上、本実施例により、本製氷装置の効果を確認することができた。
【産業上の利用可能性】
【0037】
従来例による製氷では最大10mmの製氷時間が無駄になっていたが、このように本発明の製氷方法によれば、製氷時間をおおよそ20%短縮(50時間から40時間に)することができ、効率よく透明度が高い単結晶氷を製造可能となる。
【符号の説明】
【0038】
10 製氷装置
11 原料液
111 水
12 容器(水槽)
13 開口部(上部開口部)
16 流路
17 緩衝容器
19 上板
20 下板
21 冷却装置
41 電極対
42 電源部
51 温度計


図1
図2
図3
図4
図5
図6