(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023056207
(43)【公開日】2023-04-19
(54)【発明の名称】基礎構造及びその構築方法
(51)【国際特許分類】
E02D 27/12 20060101AFI20230412BHJP
E02D 27/16 20060101ALI20230412BHJP
E02D 27/34 20060101ALI20230412BHJP
【FI】
E02D27/12 Z
E02D27/16
E02D27/34 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021165402
(22)【出願日】2021-10-07
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 評定申込日 令和3年5月14日,公開日(評定日)令和3年7月9日,公開場所(ウェブサイトのアドレス) https://www.bcj.or.jp/db/,公開者 一般財団法人日本建築センター,公開内容 「評定書(工法等)(BCJ評定-FD0141-06),一般財団法人 日本建築センター,令和3年7月9日」 [刊行物等] ウェブサイトの掲載日 令和3年7月9日,ウェブサイトのアドレス http://www.ftpile.jp/working_rooms/shiryo.htm,公開者 F.T.Pile構法既製杭協会,公開内容 「評定書(工法等)(BCJ評定-FD0141-06),一般財団法人 日本建築センター,令和3年7月9日」
(71)【出願人】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】521443461
【氏名又は名称】青島 一樹
(74)【代理人】
【識別番号】100160299
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 卓
(72)【発明者】
【氏名】堀井 良浩
(72)【発明者】
【氏名】秋月 通孝
(72)【発明者】
【氏名】小林 治男
(72)【発明者】
【氏名】青島 一樹
【テーマコード(参考)】
2D046
【Fターム(参考)】
2D046CA05
2D046DA11
(57)【要約】
【課題】 半剛接合形式の既製杭と基礎構造部との接合部において、せん断破壊を防止することが可能となる基礎構造の構築方法を提供する。
【解決手段】 既製杭打設工程と、型枠3を既製杭1の杭頭部に被覆して杭頭部の側面と型枠3の内周面との間に間隙部Eを形成する型枠設置工程と、型枠3の周囲に均しコンクリートを打設する均しコンクリート打設工程と、型枠3の上面部を囲繞するように、籠状拘束筋40を配筋する拘束筋配筋工程と、均しコンクリートで型枠3を拘束した状態で、構造物基礎(パイルキャップ2)の基礎コンクリートを打設する構造物基礎コンクリート打設工程と、を含む基礎構造の構築方法とした。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤に設けられた既製杭の杭頭部に、鉄筋コンクリート造の構造物基礎を載置する基礎構造の構築方法において、
前記地盤に前記既製杭を打設する既製杭打設工程と、
周縁に鍔部が形成されている錘台形状の型枠を、前記杭頭部に被覆して前記杭頭部の側面と前記型枠の内周面との間に間隙部を形成する型枠設置工程と、
前記型枠の周囲に均しコンクリートを打設する均しコンクリート打設工程と、
前記型枠の上面部を囲繞するように、籠状の拘束筋を配筋する拘束筋配筋工程と、
前記均しコンクリートで前記型枠を拘束した状態で、前記均しコンクリート上に、前記構造物基礎の基礎コンクリートを打設する構造物基礎コンクリート打設工程と、を含むことを特徴とする基礎構造の構築方法。
【請求項2】
前記拘束筋は、複数本の鉛直筋と、
前記複数本の鉛直筋を囲繞する水平筋と、を有し、
前記各鉛直筋は、前記構造物基礎における最下部の下端筋の上下方向に延出するように配筋されていることを特徴とする請求項1に記載の基礎構造の構築方法。
【請求項3】
下面に凹部を有する鉄筋コンクリート造の構造物基礎が、
前記凹部において地盤に打設された既製杭の杭頭部に載置されている基礎構造であって、
前記凹部は下方に向かって幅広に形成されており、
前記凹部に一体的に設けられている、周縁に鍔部を有する型枠を備えているとともに、
前記型枠の上面部を囲繞するように、籠状の拘束筋が設けられており、
前記拘束筋は、複数本の鉛直筋と、
前記複数本の鉛直筋を囲繞する水平筋と、を備え、
前記各鉛直筋は、前記構造物基礎における最下部の下端筋の上下方向に延出するように配筋されていることを特徴とする基礎構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地盤に設置された既製杭の杭頭部に構造物基礎を載置する基礎構造及びその構築方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地震時に高いせん断力伝達能力を確保しつつ、杭頭部に生じる曲げモーメントを低減可能であるいわゆる半剛接合形式の基礎構造(地盤に設けられた既製杭の杭頭部に構造物基礎を載置する基礎構造であり、以下、単に、「半剛接合構造」という場合がある。)の構築方法として、本発明者の一人である青島らは下記構築方法を開発した。すなわち、この半剛接合構造の構築方法は、回転圧入装置と係合する治具が杭頭部に突設された既製杭を、上記回転圧入装置を用いて地盤に埋設する工程と、上記治具を除去する工程と内周面が傾斜した型枠を上記杭頭部に覆い被せ、上記杭頭部の側面と上記型枠の内周面との間に下方に向かって拡大する空隙を形成する工程と、上記型枠の周囲に、均しコンクリートを打設する工程と、硬化した上記均しコンクリート上に構造物基礎となる基礎コンクリートを打設する工程と、を含むことにより構成されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の構築方法により構築される基礎構造では、地震時又は強風時等(以下、「地震時等」という。)に水平力が作用した場合に、構造物基礎の下面における既製杭の杭頭部との接合部においてせん断破壊が生じるとともに、局所的に集中荷重が加わることにより押し抜きせん断破壊が生じる可能性があることから、その対応が求められていた。
【0005】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであり、半剛接合形式の基礎構造を前提として、構造物基礎の下面における既製杭の杭頭部との接合部において、せん断破壊を防止することが可能となる基礎構造及びその構築方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は、下面に凹部を有する鉄筋コンクリート造の構造物基礎が、上記凹部において地盤に打設された既製杭の杭頭部に載置されている基礎構造であって、上記凹部は下方に向かって幅広に形成されており、上記凹部に一体的に設けられている、周縁に鍔部を有する型枠を備えているとともに、上記型枠の上面部を囲繞するように、籠状の拘束筋が設けられており、上記拘束筋は、複数本の鉛直筋と、上記複数本の鉛直筋を囲繞する水平筋と、を備え、上記各鉛直筋は、上記構造物基礎における最下部の下端筋の上下方向に延出するように配筋されていること、を特徴とする基礎構造(以下、「本基礎構造」という。)を提供するものである。
【0007】
ここで、載置とは、地盤に打設(埋設)された既製杭の杭頭部に構造物基礎(構造物基礎の形状及び形式等は問わない)を載置する基礎構造の構築方法において、構造物造基礎を支持するにあたり、当該構造物基礎が既製杭の杭頭部の上に載せられているだけの状態であり、接合部の固定度を落として回転を許容する半剛接合状態にあることを意味する。
なお、上記を含めた各用語の説明は、本基礎構造及び下記本基礎構造の構築方法で共通するものである。
【0008】
また、型枠は、錐台形状(内周面が下方に向かって幅広となるように傾斜する形状)であり、かつ、下面の周縁(下縁部)に鍔部が形成されており、内側に空間部を有することが必要である。さらに、型枠は、上面を有する円錐台形状に形成されており、底面が開口し、内側空間を有しているとともに、底面の円周面の縁部に鍔部が形成されていることが好適である。なお、型枠(鍔部を含む)の寸法及び材質等には制限はないが、コンクリートの側圧に耐え得るように、鋼製等の金属製とすれば、破損を防止することができるため好適である。
【0009】
また、拘束筋は、水平力が作用した場合に、構造物基礎の凹部の近傍(杭頭接合部の近傍)に生じるせん断力を抵抗するために設けられる。したがって、型枠の上面の近傍を囲繞するように適切に設ける必要がある。そのため、上記作用効果を奏するように、鉛直筋(鉛直方向に設けられている定着筋)及び水平筋(水平方向に設けられている横方向鉄筋)を配筋する必要があり、その本数、規格、重量及び設置態様等は、適切に定めることができる。
なお、水平筋は、鉄筋を折り曲げ加工して閉鎖状に形成した横補強筋であり、螺旋状のスパイラル筋及び複数本の輪状の帯筋等を用いることが好適である。
【0010】
また、構造物基礎における最下部の下端筋とは、構造物基礎に配筋されている下端筋を構成する複数本の鉄筋が存在する場合において、高さ方向において最下部に配筋されている鉄筋を意味する。
そして、鉛直筋の配筋に関し、「構造物基礎における最下部の下端筋の上下方向に延出するように配筋されている」とは、鉛直筋の上端部が、最下部の下端筋の上方位置に配筋され、かつ、鉛直筋の下端部は、当該最下部の下端筋の下方位置に配筋されていることを意味する。
【0011】
本構築構造によれば、構造物基礎において型枠の上面部を囲繞するように、籠状の拘束筋が形成されており、拘束筋を構成する各鉛直筋は、構造物基礎における最下部の下端筋の上下方向に延出するように配筋されているため、地震時等において構造物基礎の凹部の近傍(杭頭接合部の近傍)に生じるせん断破壊を効果的に防止することができる。
【0012】
また、本発明は、地盤に設けられた既製杭の杭頭部に、鉄筋コンクリート造の構造物基礎を載置する基礎構造の構築方法において、上記地盤に上記既製杭を打設する既製杭打設工程と、周縁に鍔部が形成されている錘台形状の型枠(以下、鍔部が形成されている型枠を「鍔付き型枠」という場合がある。)を、上記杭頭部に被覆して上記杭頭部の側面と上記型枠の内周面との間に間隙部を形成する型枠設置工程と、上記型枠の周囲に均しコンクリートを打設する均しコンクリート打設工程と、上記型枠の上面部を囲繞するように、籠状の拘束筋を配筋する拘束筋配筋工程と、上記均しコンクリートで上記型枠を拘束した状態で、上記均しコンクリート上に、上記構造物基礎の基礎コンクリートを打設する構造物基礎コンクリート打設工程と、を含むことを特徴とする基礎構造の構築方法(以下、「本構築方法」という。)を提供するものである。
【0013】
また、本構築方法において、上記拘束筋は、複数本の鉛直筋と、上記複数本の鉛直筋を囲繞する水平筋と、を備え、上記各鉛直筋を、上記構造物基礎における最下部の下端筋の上下方向に延出するように配筋することにより、施工性の向上を図ることができるため好適である。
【0014】
ここで、地盤材料とは、砕石(礫)、砂、粘土及び現場で使用される土等の総称である。
また、地盤材料を型枠の周囲に配置する場合には、型枠の外周に砕石などを盛土すること、及び、型枠の下端部を地盤(床付面)に埋設すること等、対象現場の状況に応じて、適切な方法を用いることができる。
【0015】
また、既製杭打設工程において、地盤に既製杭を打設する方法に制限はないが、回転圧入装置と係合する治具が杭頭部に突設された既製杭を、当該回転圧入装置を用いて地盤に埋設し、既製杭の杭頭部に型枠を被覆する前に、既製杭に設けられた回転圧入装置用の治具を除去することとすれば、施工時における騒音を防止することができるとともに、治具により打設後の既製杭の杭頭部の回転が拘束されるという不具合を解消することができるため好適である。
【0016】
本構築方法によれば、型枠の上面部を囲繞するように、籠状の拘束筋を配筋する拘束筋配筋工程を備えていることから、せん断破壊を防止することができる本基礎構造を簡易に構築することができる。
また、型枠設置工程に用いられている型枠は錐台形状であり、下面の周縁に鍔部が形成されていることから、施工時に取り扱い易いため、施工時の安全性の確保に資することになる。
【0017】
さらに、鍔付き型枠を用いて均しコンクリートを打設しているため、鍔部の存在により、構造物基礎のコンクリートを打設する際に型枠のずれ及び変形が生じ難く、間隙へのコンクリート及び地盤材料の侵入を効果的に防止することができる。
【0018】
なお、本構築方法において、上記均しコンクリート打設工程の前に、固着具を用いて上記型枠を上記杭頭部に固定するとともに、上記基礎コンクリート打設工程の前に、上記固着具を取り外すこととすれば、均しコンクリートを打設する際に発生する可能性のある型枠の微細なずれを確実に防ぐことができるため、設計時に想定した通りの接合状態をより一層確実に得ることができるため好適である。
【0019】
また、本構築方法において、上記型枠の外周面には、その下端縁に沿って目印が記されており、上記均しコンクリート打設工程の前に、上記型枠の下端部の外周に、上記目印の位置にまで地盤材料又は均しコンクリートを配置することとすれば、施工時の便宜を図ることができ、かつ、杭頭部の側面と型枠の内周面との間に形成された間隙へのコンクリートの流入を防止することができるため、杭頭部周りの間隙を確実に確保することが可能となることから好適である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、半剛接合形式の既製杭と基礎構造物との接合部において、せん断破壊を防止することが可能となる基礎構造及びその構築方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の基礎構造を示す側断面図であり、(a)は、通常時、(b)は、地震時をそれぞれ示す。
【
図2】(a)は、本発明の基礎構造に用いられる既製杭を示す斜視図であり、(b)は、本発明の基礎構造に用いられる型枠を示す斜視図である。
【
図3】(a)は、本発明の基礎構造に用いられる籠状拘束筋を示す斜視図であり、(b)は、
図3(a)のX部の拡大図である。
【
図4】本発明の基礎構造の他の実施形態を示す側断面図である。
【
図5】(a)~(c)は、本発明の基礎構造の構築方法における既製杭打設工程を説明するための側断面図である。
【
図6】本発明の基礎構造の構築方法を説明するための側断面図であって、(a)は、型枠設置工程、(b)は、均しコンクリート打設工程をそれぞれ示す。
【
図7】本発明の基礎構造の構築方法における型枠設置工程の他の実施形態を示す側断面図である。
【
図8】本発明の基礎構造の構築方法を説明するための側断面図であって、(a)は、拘束筋配筋工程、(b)は、構造物基礎コンクリート打設工程をそれぞれ示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照しつつ、本基礎構造及び本構築方法の実施形態の一例について、詳細に説明する。なお、図面に基づく説明では、同一要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。また、
図1(a),
図1(b),
図4,
図8(a)及び
図8(b)では、作図上、籠状拘束筋40を簡略化して図示している。
【0023】
[本基礎構造]
まず、本構築方法を説明する前に、本基礎構造Kを説明する。
本基礎構造Kは、せん断力伝達能力を確保しつつ、杭頭部に加わる曲げモーメントを低減する半剛接合形式の基礎構造であり、鉄筋コンクリート造の構造物基礎であるパイルキャップ2が地盤Gに打設された既製杭1の杭頭部に載置される構造である(
図1(a))。
【0024】
(既製杭)
既製杭1は、内部が中空になった円筒状の本体部11と、当該本体部11の上端面に取り付けられた環状の端板12を備えている(
図2(a))。
本実施形態において、本体部11は、長手方向(鉛直方向)にPC鋼棒(図示せず)が配筋されている。
なお、本体部11は、所定の強度を得ることができるものであれば、その材質は問わないものであり、プレストレスを付与したコンクリート、外殻鋼管付のコンクリート及び鋼管等により形成することができる。
【0025】
端板12は鋼製であり、底面に突設されたアンカー(図示せず)を本体部11に埋設することにより、当該本体部11の上端面に固着されている。また、端板12には、複数の雌ネジ穴12aが周方向に所定間隔で形成されている(
図2(a)では、本構築方法の既製杭打設工程で用いられる治具13が記載されている)。
なお、本体部11が鋼製である場合には、端版12は溶接により固着されることが通常であるが、場合によっては、端板12を省略することも可能である。
【0026】
(パイルキャップ)
パイルキャップ2は、鉄筋コンクリート製の構造体であり、その底面には錐台形状である凹部21(下方に向かって幅広に形成されている凹部)が形成されている。すなわち、型枠3が既製杭1の杭頭部に覆い被せられた状態で、パイルキャップ2となる基礎コンクリートが打設されている。上記構成により、型枠3と基礎コンクリートが一体となり、当該型枠3の空間部と同一形状である凹部21が形成されている。
【0027】
型枠3は、内周面が傾斜した既製杭1の上端面(端板12の上面)に当接する円板状の上面部31と、既製杭1の杭頭部を取り囲む側部32とを備えており、円錐台形状の外観を呈している(
図2(b))。
【0028】
上面部31は、既製杭1における杭頭部の上端面と同一の平面形状を備えている。上面部31には、端板12を仮固定するための透孔31aが、当該端板12の一部の雌ネジ穴12aに対応する複数個所(本実施形態では2箇所)に形成されている。
また、側部32は、上面部31の外周縁に設けられ、その内径は、下方に向かうにしたがって漸増しており、下面の周縁に鍔部32bが形成されている。
【0029】
さらに、側部32の外周面には、当該側部32を砕石層Sに埋め込む際の目安となる目印32aが型枠3の下端縁に沿って記されている。
なお、目印32aは、型枠3の下端縁から少なくとも2cm上方の位置に形成することが好ましいものである。また、本実施形態において、側部32の全周に亘って連続するように目印32aが記されているが、これに限定されることはなく、断続して記されていてもよい。
【0030】
既製杭1の杭頭部は、型枠3の上面部31の内側面に当接した状態で配設されており、当該型枠3の存在により、既製杭1の杭頭部の周囲に間隙Eが形成されている。
【0031】
また、地盤G上には、所定厚の砕石層Sが形成されており、当該砕石層Sの上部には、側部32の目印32aの位置を底面とした所定厚の均しコンクリート層Cが設けられている。但し、地盤条件等によっては、砕石層Sを設ける構造としなくてもよい。
【0032】
パイルキャップ2は、均しコンクリート層Cの上面に構築されている。上記パイルキャップ2には、上面から所定高さ下方となる所定位置において、水平方向に複数本の上端筋22が配筋されている。また、底面(型枠3の上面部31)から所定高さ上方となる所定位置において、水平方向に複数本の下端筋23が配筋されている。なお、符号24は、上端筋22及び下端筋23の周囲に設けられるあばら筋である。
【0033】
また、籠状拘束筋40は、型枠3の上面部31及び側部32の上部を囲繞するように設けられている。籠状拘束筋40を構成する下記の各鉛直筋41は、型枠3の上面部31及び側部32から所定間隔離間させることにより、かぶり厚が確保されている。
【0034】
籠状拘束筋40は、本数に応じた一定の間隔で設けられている複数本(本実施形態では8本)の鉛直筋41と、複数本の当該鉛直筋41を囲繞する上下一対の2体のリング部材43と、上下のリング部材43の間に設けられるスパイラル筋42(閉鎖型の水平筋)と、を有している(
図3(a),(b))。
鋼製薄板状のリング部材43は、鉛直筋41の配置精度を確保するために水平方向に設けられる部材であり、鉛直筋41の各取付位置にU字ボルト46の取付孔43aが各2箇所設けられている。
【0035】
所定間隔となるように立設した各鉛直筋41は、各鉛直筋41の内側側面が、各リング部材43の外側側面に当接した状態で、取付孔43aにおいて、U字ボルト46及びナット47により、上下のリング部材43に取り付けられている。また、上下のリング部材43の間には、スパイラル筋42が高さ方向に所定間隔となるように配筋されている。
【0036】
そして、型枠3の上面部31及び側部32の上部が、籠状拘束筋40における各鉛直筋41で囲まれる中央の空間部に挿通されている。また、各鉛直筋41は、上端部が上端筋22の近傍に配筋され、かつ、下端部がパイルキャップ2の底面の近傍(下端筋23の下方)に配筋されており、下端筋23の上下方向に延出している。
【0037】
なお、上下のリング部材43の鉛直方向の間隔は、スパイラル筋42による補強範囲(既製杭1の杭頭部から±10cmの範囲内で定めることが好ましい)とすることが必要となる。また、スパイラル筋42は、各鉛直筋41と交差する箇所において、結束線48で取り付けられている。
【0038】
(作用効果)
本基礎構造Kによれば、既製杭1の杭頭部を被覆する型枠3の存在により、当該杭頭部の周囲に間隙Eが存在しているため、地震時等においては、杭頭部の回転が許容され、構造物に作用した水平力Q(せん断力)が既製杭1に作用した場合であっても、その杭頭部に大きな曲げモーメントが発生することがないという作用効果を奏することになる(
図1(b))。
【0039】
また、本構築構造Kによれば、パイルキャップ2において型枠3の上面部を囲繞するように籠状拘束筋40が設けられており、その鉛直筋41は、上端部が上端筋22の近傍に配筋され、かつ、下端部が下端筋23の下方に配筋されているため、地震時等において、パイルキャップ2における凹部21の近傍に生じるせん断破壊を効果的に防止することができる。
【0040】
(変形例)
上記実施形態の本基礎構造Kは、既製杭1に引抜力が作用しない場合に好適に用いることができる。
一方、既製杭1に引抜力が作用する場合には、パイルキャップ2’において、鉛直筋41と略同じ長さとなるように垂直方向に、所定本数の引抜抵抗棒14を設けた構造を採用することにより、引抜力に効果的に対応することが可能となる(以下、「変形例の本基礎構造K’」という。)。引抜抵抗棒14は、型枠3の上面部31に設けられている円孔31bに挿通され、既製杭1の端板12に定着されている(
図4)。
【0041】
変形例の本基礎構造K’における他の構造は、上記本基礎構造Kとほぼ同様であり、本基礎構造Kと同様の作用効果を奏させることができる。
なお、引抜抵抗棒14には、例えば、PC鋼棒や建設構造用圧延棒鋼(SNR)を使用することができるが、その本数や強度は、半剛接合状態を維持できる程度に設定するものであり、定着板15への取付方法についても制限はない。
【0042】
[本構築方法]
次に、本実施形態の本構築方法を詳細に説明する。
本構築方法は、(1)既製杭打設工程と、(2)型枠設置工程と、(3)均しコンクリート打設工程と、(4)拘束筋配筋工程と、(5)構造物基礎コンクリート打設工程と、を含む工程から構成されている。
【0043】
(1)既製杭打設工程
既製杭打設工程は、既製杭を地盤Gに打設する作業を行う工程であり、本実施形態では、回転圧入装置と係合する治具13が杭頭部に突設された既製杭1を、回転圧入装置(図示せず)を用いて地盤Gに打設する作業を行う。
【0044】
上記治具13は、回転圧入装置の駆動軸と係合し、回転圧入時に既製杭1に発生する捩れを防止するために設けられるものであり、逆L字形状を呈する鋼材から形成されており、溶接されることにより端板12に固着されている(
図2(a))。
なお、機械的接合方法を利用して、治具13を着脱自在に端板12に固着させるものであってもよい。また、既製杭1の本体部11が鋼管や外殻鋼管付のコンクリートで形成されている場合には、本体部11の上端部の側面に溶接等により固着させるものであってもよい。
【0045】
本工程では、回転圧入装置を用いて既製杭1を地盤Gに打設する(
図5(a))。なお、既製杭1を回転圧入する際に端板12の雌ネジ穴12aに土砂等が詰まらないように、事前に、雌ネジ穴12aにボルトB1を螺合する。
【0046】
既製杭1の打設後、その周囲の地盤Gを掘り下げて杭頭部を露出させる(
図5(b))。そして、既製杭1の端板12に取り付けられている治具13の根元を溶断する等、適宜な方法で除去し、断面をグラインダー等により研磨することにより、既製杭1の上端面を平滑にし、雌ネジ穴12aに螺合されているボルトB1を取り外す(
図5(c))。
【0047】
さらに、治具13を除去する前後に、床付面G1の不陸を整正したうえで、床付面G1上に砕石を敷設・転圧して砕石層Sを形成する。
なお、地盤条件等により、砕石層Sを設けない場合には、砕石層Sを形成する工程は省略する。
【0048】
(2)型枠設置工程
型枠設置工程は、上記型枠3を既製杭1の杭頭部に覆い被せ、当該杭頭部の側面と型枠3の側部32の内周面との間に下方に向かって拡大する間隙Eを形成するとともに、当該型枠3の下端部の外周に地盤材料S’を配置する作業を行う工程である。
【0049】
本工程では、型枠3の上面部31を既製杭1の上端面に密着させた状態で、型枠3を既製杭1の杭頭部に覆い被せ、当該杭頭部の側面11aと、型枠3における側部32の内周面との間に、下方に向かうにしたがって拡径する間隙Eを形成する。
なお、型枠3により杭頭部の端板12を被覆する際に、事前に、型枠3の透孔31aと端板12の雌ネジ穴12aの位置を合せておく必要がある(
図2(a),(b))。
【0050】
続いて、型枠3により既製杭1の杭頭部を被覆した後、雌ネジ穴12aに螺合するボルト(固着具)B2を用いて型枠3を杭頭部に仮固定する。
なお、端板12に雌ネジ穴12aを設けることなく、杭頭部の回転性能を低下させない程度の強度で、接着や溶接等により型枠3を杭頭部に固定することもできる。
【0051】
型枠3を既製杭1の杭頭部に仮固定した後、外周面に記した目印32aを目安として、当該型枠3の下端部の外周に地盤材料S’を盛土する等して、当該型枠3の下端縁と砕石層Sの上面との間に存在している隙間を閉塞する(
図6(a))。
【0052】
なお、現場の状況に応じて、型枠3の下端部を目印32aの位置にまで砕石層S(地盤材料S’に相当)に埋め込むことにより、型枠3の下端部及び鍔部32bの外周に地盤材料S’を配置することもできる(図示せず)。
また、地盤Gの床付面G1を掘り下げたうえで、その外周に砕石や土砂などの地盤材料S’を配置すること(
図7は、本工程の他の実施形態を示す)、あるいは、型枠3の下端部及び鍔部32bを地盤Gに埋め込んだ上で、床付面G1上に砕石層S(地盤材料S’に相当)を形成することにより対応することができる(
図4)。
【0053】
なお、本実施形態では、砕石層Sを形成する前に、型枠3により既製杭1の杭頭部を被覆しているが、砕石層Sを形成した後に、型枠3により既製杭1の杭頭部を被覆するものであってもよい。
また、本実施形態では、型枠3の外周に地盤材料S’を盛土する前に、ボルトB2を用いて型枠3を杭頭部に固定したが、地盤材料S’を盛土した後に固定してもよい。
【0054】
(3)均しコンクリート打設工程
コンクリート打設工程は、型枠3の周囲に、均しコンクリートを打設する作業を行う工程である。
【0055】
本工程では、型枠3の下端部の外周に地盤材料S’を配置した後、型枠3の周囲に、均しコンクリートを打設して、均しコンクリート層Cを形成する(
図6(b))。
なお、均しコンクリート層Cの厚さに制限はないが、均しコンクリート層Cの上面から型枠3の上面までの高さが5cm以上となるように設定することが好適である。
【0056】
均しコンクリートが硬化した後、ボルトB2を取り外す。このとき、型枠3の上面部31を木槌等で叩いて、上面部31が既製杭1の上端面に密着していることを再度確認するとともに、側部32を木槌等で叩いて、間隙Eに均しコンクリートが流入していないことを確認する。
【0057】
(4)拘束筋配筋工程
拘束筋配筋工程は、パイルキャップ2に設けられる諸鉄筋(マットやフーチング等の基礎に必要な鉄筋であり、上端筋22、下端筋23及びあばら筋24を含む)を配筋するとともに、型枠3の上面部を囲繞するように、予め製作した籠状拘束筋40を配筋する作業を行う工程である(
図8(a))。
【0058】
本工程では、上記諸鉄筋に加えて、籠状拘束筋40(本基礎構造Kにおける説明を参照)を配筋する。このとき、型枠3の上面部31及び側部32の上部を、籠状拘束筋40の各鉛直筋41で囲まれる中央の空間部に挿設し、当該籠状拘束筋40が型枠3を囲繞するように設置する。また、型枠3の上面部31及び側部32との間に所定間隔が確保されるように鉛直筋41を離間させるとともに、当該鉛直筋41の上端部を上端筋22の近傍に配筋し、かつ、下端部を均しコンクリート層Cの上面(パイルキャップ2の底面)の近傍(下端筋23の下方)に配筋して、当該鉛直筋41を下端筋23の上下方向に延出させるように配筋する必要がある。
なお、型枠3と籠状拘束筋40の間には、少なくとも3か所以上に、鉛直方向及び水平方向にスペーサ(図示せず)を介装させ、当該籠状拘束筋40が型枠3の周囲に均等の間隔を有するように配置する必要がある。
【0059】
(5)構造物基礎コンクリート打設工程
構造物基礎コンクリート打設工程は、硬化した均しコンクリート層Cで型枠3を拘束した状態で、当該均しコンクリート層C上にパイルキャップ2となる基礎コンクリートを打設し、パイルキャップ2を構築する作業を行う工程である。
【0060】
本工程では、均しコンクリート層Cの上に、パイルキャップ2の鉄筋及び型枠(図示せず)を設置し、均しコンクリート層Cの上に基礎コンクリートを打設して硬化させることにより、本基礎構造Kの構築が完了することになる(
図8(b))。
【0061】
(作用効果)
本構築方法によれば、予め製作されている籠状拘束筋40を、型枠3の上面部31及び側部32の上部を囲繞するように配筋する拘束筋配筋工程を備えていることから、せん断破壊を防止することができる本基礎構造Kを簡易に構築することができる。
また、型枠設置工程に用いられている型枠3は、円錐台形状であり、下縁に鍔部32bが形成されていることから、施工時に取り扱い易いため、施工時の安全性の確保に資することになる。
さらに、パイルキャップ2のコンクリートを打設する際に、型枠3のずれ及び変形が生じ難く、間隙Eへのコンクリート及び地盤材料S’の侵入を効果的に防止することができる。なお、型枠3の下端部(鍔部)の周囲に配置した地盤材料S’により、型枠3の下端部周縁が密閉されているため、均しコンクリートが間隙Eに流入することを防止することができる。
【0062】
また、本構築方法を採用することにより、既製杭1とパイルキャップ2との接合状態を設計時に想定した通りの半剛接合状態を実現させることができる。すなわち、既製杭1の杭頭部に型枠3を被覆する前に、既製杭1に設けられた回転圧入装置用の治具13を除去するため、治具13によって杭頭部の回転が拘束されるという不具合を解消することができる。
さらに、均しコンクリート層Cによって型枠3を拘束することができるため、パイルキャップ2のコンクリートを打設したときに、型枠3にずれや変形が生じ難く、さらには、型枠3によって形成された杭頭部周りの間隙Eに基礎コンクリートが浸入することを防止することができる。
【0063】
また、均しコンクリートを打設する前に、ボルトB2を用いて型枠3を既製杭1の杭頭部に固定しているため、均しコンクリートを打設する際に発生する型枠3の微細なずれを確実に防ぐことができ、その結果、設計で想定した通りの接合状態をより一層確実に得ることができる。なお、ボルトB2は、基礎コンクリートを打設する前に取り外されるため、杭頭部の回転が拘束されることはなく、回転の自由度が確保されることになる。
【0064】
以上、本発明について、好適な実施形態についての一例を説明したが、本発明は当該実施形態に限られず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で各要素に関して、適宜設計変更が可能である。
既製杭及び構造物基礎の形態、本発明の施工場所には制限はなく、本発明の各構成要素には、最適な構成要素を採用することができる。また、上記発明特定事項は、必要最低限の構成要素を定めたものであり、その作用効果を阻害しない限り、他の構成要素を付加するものであってもよい。
【符号の説明】
【0065】
K,K’ 基礎構造
G 地盤
S’ 地盤材料
S 砕石層
C 均しコンクリート層
E 間隙
1 既製杭
2 パイルキャップ
3 型枠
11 本体部
21 凹部
22 上端筋
23 下端筋
24 あばら筋
31 上面部
32 側部
32a 目印
32b 鍔部
40 籠状拘束筋
41 鉛直筋
42 スパイラル筋
43 リング部材