(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023056213
(43)【公開日】2023-04-19
(54)【発明の名称】1,1-ジクロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンの製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 17/20 20060101AFI20230412BHJP
C07C 17/23 20060101ALI20230412BHJP
C07C 21/18 20060101ALI20230412BHJP
【FI】
C07C17/20
C07C17/23
C07C21/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021165422
(22)【出願日】2021-10-07
(71)【出願人】
【識別番号】000157119
【氏名又は名称】関東電化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100120754
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 豊治
(72)【発明者】
【氏名】谷口 智洋
【テーマコード(参考)】
4H006
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AC13
4H006AC30
4H006BC10
4H006BC13
4H006BD83
4H006BE01
4H006EA02
(57)【要約】
【課題】HCPの高温気相反応において蒸発器下流における配管や反応器において重合物の堆積を防止することである。
【解決手段】1,1,1,3,3,3-ヘキサクロロプロパンとフッ化水素を反応させる1,1-ジクロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンの製造方法であって、1,1,1,3,3,3-ヘキサクロロプロパンとの接触面がニッケルを主成分とする合金又はニッケルで構成される反応器において1,1,1,3,3,3-ヘキサクロロプロパンとフッ化水素を反応させることを含む1,1-ジクロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンの製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1,1,1,3,3,3-ヘキサクロロプロパンとフッ化水素を反応させる1,1-ジクロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンの製造方法であって、1,1,1,3,3,3-ヘキサクロロプロパンとの接触面がニッケルを主成分とする合金又はニッケルで構成される反応器において1,1,1,3,3,3-ヘキサクロロプロパンとフッ化水素を反応させることを含む1,1-ジクロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンの製造方法。
【請求項2】
前記合金がニッケルを56重量%以上含有する、請求項1に記載の1,1-ジクロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンの製造方法。
【請求項3】
前記反応器の温度が190℃~250℃である、請求項1又は2に記載の1,1-ジクロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンの製造方法。
【請求項4】
前記反応器における、1,1,1,3,3,3-ヘキサクロロプロパンとの接触面がニッケルで構成される、請求項1~3のいずれかに記載の1,1-ジクロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンの製造方法。
【請求項5】
1,1,1,3,3,3-ヘキサクロロプロパンを、1,1,1,3,3,3-ヘキサクロロプロパンとの接触面が前記合金又はニッケルで構成される蒸発器で気化し、前記反応器に導入する、請求項1~4のいずれかに記載の1,1-ジクロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンの製造方法。
【請求項6】
蒸発器の温度が200℃~250℃である請求項5に記載の1,1-ジクロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンの製造方法。
【請求項7】
前記蒸発器における1,1,1,3,3,3-ヘキサクロロプロパンとの接触面がニッケルで構成される、請求項5又は6に記載の1,1-ジクロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンの製造方法。
【請求項8】
1,1,1,3,3,3-ヘキサクロロプロパンの高温気相反応において1,1,1,3,3,3-ヘキサクロロプロパンを気化させるための蒸発器及び当該蒸発器の下流における配管及び反応器において重合物の堆積を防止する方法であって、1,1,1,3,3,3-ヘキサクロロプロパンとの接触面がニッケルを主成分とする合金又はニッケルで構成される蒸発器、配管及び反応器を提供することを含む、方法。
【請求項9】
1,1,1,3,3,3-ヘキサクロロプロパンの高温気相反応における1,1,1,3,3,3-ヘキサクロロプロパンを気化させるための蒸発器及び当該蒸発器の下流における配管及び反応器としての、1,1,1,3,3,3-ヘキサクロロプロパンとの接触面がニッケルを主成分とする合金又はニッケルで構成される蒸発器、配管及び反応器の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1,1-ジクロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(以下、HCFO-1223zaということがある。)の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
1,1,1,3,3,3-ヘキサクロロプロパン(以下、HCPということがある。)は、脱塩化水素反応によるハロゲン化炭化水素の合成原料として有用である。特許文献1には、HCPとフッ化水素(HF)とを、触媒の存在下、気相で反応させて、HCPをフッ素化して、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン(以下、HFC-236faということがある。)を製造することが記載されている。HCPの標準沸点は約200℃なので、特許文献1に記載の気相反応は約200~400℃の温度で行われている。特許文献1には、反応生成物にHFC-236faのハロ前駆体であるCF3CH=CCl2、即ち、HCFO-1223za、などが複数種含まれているが、これらHFC-236faのハロ前駆体は反応生成物から分離されてHFC-236faに転化するように反応器へ戻されることが記載されている。特許文献1の実施例3には、ハステロイ(登録商標)ニッケル合金管反応器とCrCl3/炭素触媒を用いてHCPとHFを反応させた場合に95%の不飽和生成物C3HCl2F3異性体と4.4%のHFC-236faの混合物が得られたことが記載されているが、不飽和生成物C3HCl2F3は循環されてHFC-236faの製造に供されることが記載されている。特許文献1には、HCFO-1223zaが副生成物として記載されており、HCFO-1223zaを効率よく製造するための条件が記載されていない。
【0003】
特許文献2は、1,1,3,3,3-ペンタクロロプロペン(1220za)をフッ化水素で気相フッ素化するHCFO-1223zaの製造方法を開示する。特許文献2の実施例7-1には、ステンレス鋼製ラシヒリング(SUS316L)を充填したステンレス鋼製の反応器(SUS316)を用いて1220zaの気相フッ素化を行い、HCFO-1223zaを90%以上の収率(GC収率)で得たことが記載されている。しかし、本発明者の知るところによれば、HCPとフッ化水素から気相反応でHCFO-1223zaを最終製品として製造することを開示する先行技術文献は存在しない。
【0004】
一方、HCFO-1223zaは、溶剤、ハロゲン化合物の製造のための原料、などとして有用な化合物であり、生産効率を考慮すると、1台の製造装置で1年間に少なくとも数トンの規模(トン/年スケール)で製造する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表平10-503518号公報
【特許文献2】再公表WO2018/193884号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らの検討によれば、触媒を充填した触媒塔にHCPを液として導入すると触媒塔内で局所過熱が起こり反応を継続できず、また、250℃に加熱したSUS304製の蒸発器にHCPを導入すると徐々に重合物が堆積して閉塞し、HCPを反応器に供給できなくなり、反応を継続できないという問題があった。HCPの標準沸点を考慮するとHCPの蒸気を形成するためにはHCPを少なくとも蒸発器において200℃以上の温度に加熱することが必要である。また、1223zaを量産するためには触媒を使用して大量のHCPをHFと効率よく反応させる必要がある。また、装置の構造が複雑になる不利を考慮すると減圧条件でHCPの沸点を低下させて反応を行うことは現実的ではない。そこで、本発明の課題は、HCPの高温気相反応においてHCPを気体として供給する際に蒸発器下流における配管や反応器において重合物の堆積を防止し、反応を安定して行い、1223zaを量産できる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は以下のものを提供する。
[1]
1,1,1,3,3,3-ヘキサクロロプロパンとフッ化水素を反応させる1,1-ジクロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンの製造方法であって、1,1,1,3,3,3-ヘキサクロロプロパンとの接触面がニッケルを主成分とする合金又はニッケルで構成される反応器において1,1,1,3,3,3-ヘキサクロロプロパンとフッ化水素を反応させることを含む1,1-ジクロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンの製造方法。
[2]
前記合金がニッケルを56重量%以上含有する、[1]に記載の1,1-ジクロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンの製造方法。
[3]
前記反応器の温度が190℃~250℃である、[1]又は[2]に記載の1,1-ジクロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンの製造方法。
[4]
前記反応器における、1,1,1,3,3,3-ヘキサクロロプロパンとの接触面がニッケルで構成される、[1]~[3]のいずれかに記載の1,1-ジクロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンの製造方法。
[5]
1,1,1,3,3,3-ヘキサクロロプロパンを、1,1,1,3,3,3-ヘキサクロロプロパンとの接触面が前記合金又はニッケルで構成される蒸発器で気化し、前記反応器に導入する、[1]~[4]のいずれかに記載の1,1-ジクロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンの製造方法。
[6]
蒸発器の温度が200℃~250℃である[5]に記載の1,1-ジクロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンの製造方法。
[7]
前記蒸発器における1,1,1,3,3,3-ヘキサクロロプロパンとの接触面がニッケルで構成される、[5]又は[6]に記載の1,1-ジクロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンの製造方法。
[8]
1,1,1,3,3,3-ヘキサクロロプロパンの高温気相反応において1,1,1,3,3,3-ヘキサクロロプロパンを気化させるための蒸発器及び当該蒸発器の下流における配管及び反応器において重合物の堆積を防止する方法であって、1,1,1,3,3,3-ヘキサクロロプロパンとの接触面がニッケルを主成分とする合金又はニッケルで構成される蒸発器、配管及び反応器を提供することを含む、方法。
[9]
1,1,1,3,3,3-ヘキサクロロプロパンの高温気相反応における1,1,1,3,3,3-ヘキサクロロプロパンを気化させるための蒸発器及び当該蒸発器の下流における配管及び反応器としての、1,1,1,3,3,3-ヘキサクロロプロパンとの接触面がニッケルを主成分とする合金又はニッケルで構成される蒸発器、配管及び反応器の使用。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、HCPの高温気相反応において蒸発器及びその下流における配管や反応器において重合物の堆積を防止し、反応を安定して行い、1223zaを量産することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施例1及び比較例1で使用した反応装置の概略図である。
【
図2】比較例2で使用した反応装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[作用]
本発明者らは、HCPの重合は、反応装置の内壁が触媒として機能することにより起こっていると考え、反応装置の内壁の材質を種々検討した。その結果、HCPとの接触面がニッケルを主成分とする合金又はニッケルで構成される反応器を用いる場合に、HCPの重合が起こらず、重合物の堆積も確認されないことを見出した。
【0011】
[HCPとの接触面]
本発明において、HCPとの接触面は、ニッケルを主成分とする合金又はニッケルで構成される必要があり、ニッケルのみで構成されることがより好ましい。接触面のみをこれら金属で被覆してもよいし、部材の一部又は全部をこれら金属で構成してもよい。ニッケルを主成分とする合金において、ニッケルの割合は、合金全体の重量に対して、56重量%以上であることが好ましく、69重量%以上であることがより好ましい。
【0012】
合金としては、例えば、ハステロイ(登録商標)B-2、ハステロイB-3、ハステロイC-4、ハステロイC-2000、ハステロイC-22、ハステロイC-276、ハステロイN、ハステロイW、モネル(MONEL、登録商標)400、モネルK500、インコネル(INCONEL、登録商標)600、インコネル625、インコネルX750、などが挙げられる。
【0013】
[HCFO-1223zaの製造条件]
本発明において、HCFO-1223zaは、HCPとフッ化水素の気相反応によって製造される。反応は、通常、HCPを常圧で200℃以上、好ましくは200℃~300℃、より好ましくは210℃~250℃の温度で気化させた後、フッ化水素の蒸気と混合して行う。反応器の温度は、蒸発器の温度よりも低くてもよく、好ましくは190℃~250℃、より好ましくは190℃~230℃である。HCPとフッ化水素の供給比は、モル比(当量比、ガスの流量比)で、好ましくは1:1~1:10、より好ましくは1:1~1:7、さらに好ましくは1:1~1:5である。フッ化水素と対照的に、HCPの分子量は251と比較的大きいので、常圧では液化しやすい。このため、HCPを多量に供給することは望ましくなく、HCPの供給量は、反応器のサイズによって変わるが、例えば、反応器が40A×150cmの場合は、好ましくは930~1740sccm、より好ましくは1200~1470sccmである。一方、フッ化水素は過剰量に供給することができるが、余ったフッ化水素は除害処理しなければならないので、反応効率を考えて、通常、好ましくは930~17400sccm、より好ましくは1200~7350sccmの流量で供給する。なお、本明細書において、「sccm」は、1気圧、25℃での値に換算したガスの1分間あたりの流量(cc)として定義される。
【0014】
HCPとフッ化水素は、不活性ガスとともに供給してもよい。不活性ガスとしては、窒素のほか、ヘリウム、ネオン、アルゴン、キセノンなどの貴ガスが挙げられる。不活性ガスは、通常、好ましくは0~1340sccm、より好ましくは0~670sccmの流量で供給する。不活性ガスはまた、配管内を一時的にパージして物質の蓄積を防ぐためにも使用される。
【0015】
HCPとフッ化水素は、気体の状態で反応器に供給されるが、反応器には反応効率を向上するために触媒を存在させてもよい。この触媒としては、例えば、クロム、チタン、マンガン、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ニオブ、タンタルなどの金属のハロゲン化物、またはオキシハロゲン化物、または酸化物などが挙げられる。触媒は、活性炭、アルミナ、ゼオライトなどの担体に担持されていてもよく、担持させる触媒の濃度は、触媒全体の重量に対して好ましくは5~30%、より好ましくは10~25%である。
【0016】
[HCFO-1223zaの製造装置]
HCFO-1223zaの製造装置を示す
図1において、反応基質となる液体のHCPはHCP貯槽1からポンプによって配管2を通って蒸発器3に供給される。図示していないが、HCPが蒸発器3に供給される際に窒素ガス(N
2)などの不活性ガスと混合されてHCPの濃度と流量が調整されてもよい。一方、フッ化水素(HF)はHF貯槽4から配管5を通って蒸発器3に供給される。フッ化水素が蒸発器3に供給される際に窒素ガス(N
2)などの不活性ガスと混合されて濃度と流量が調整されてもよい。
図1の蒸発器では、円筒形の蒸発器の一方の端部からフッ化水素の蒸気を他方の端部へと水平に流し、フッ化水素の流れに直交するように蒸発器の側壁から液体のHCPが供給される。蒸発器の側壁は200℃以上となっており、液体のHCPは蒸発器流入時に気化する。気体のHCPはフッ化水素と混ざり合い、蒸発器の他方の端部へと水平に移動し、蒸発器を出る。蒸発器端部を出たHCPとフッ化水素と場合により不活性ガスからなる混合物は、配管6を通って垂直に立てた円筒形の触媒塔7の上端部に送られる。触媒塔7は、円筒形の反応器に触媒を充填して形成されており、上端部から基質ガスを流入し、下端部から生成物ガスを流出する構造となっている。触媒塔7(即ち、反応器)の温度は蒸発器の温度よりも低く設定することができる。触媒塔7の下端部を出た反応生成物は、配管8を通って、バッファータンク(空トラップ)9を経て、水を満たした捕集槽10に液体として回収される。
【0017】
本発明者らの検討により、触媒を充填した反応器に気体のHCPとHFを供給することにより、反応基質を均一に供給し、反応器の局部的な発熱を防いで反応を安定的に行うことができることがわかった。しかし、HCPを気化して得られる高温のHCPガスは蒸発器及びその下流の配管及び反応器に至る部材にHCPの重合物が蓄積する問題を起こした。本発明では、これら部材のHCPと接触する部分をニッケルを主成分とする合金又はニッケルで構成したことにより、この問題を解決した。
【0018】
[重合物の堆積を防止する方法]
本発明の別の態様は、HCPの高温気相反応においてHCPを気化させるための蒸発器及び当該蒸発器の下流における配管及び反応器において重合物の堆積を防止する方法であって、HCPとの接触面がニッケルを主成分とする合金又はニッケルで構成される蒸発器、配管及び反応器を提供することを含む、方法である。本発明者らの研究によれば、HCPとの接触面がニッケルを主成分とする合金又はニッケルで構成される蒸発器、配管及び反応器が、HCPに由来する重合物の生成を防ぐことがわかっている。この方法を行うためのガスの流量、温度などの条件は、HCFO-1223zaの製造条件について前述したとおりである。
【0019】
[重合物の堆積を防止する蒸発器、配管及び反応器の使用]
本発明の別の態様は、HCPの高温気相反応におけるHCPを気化させるための蒸発器及び当該蒸発器の下流における配管及び反応器としての、HCPとの接触面がニッケルを主成分とする合金又はニッケルで構成される蒸発器、配管及び反応器の使用である。本発明者らの研究によれば、HCPとの接触面がニッケルを主成分とする合金又はニッケルで構成される蒸発器、配管及び反応器が、HCPに由来する重合物の生成を防ぐことがわかっている。このような蒸発器、配管及び反応器を使用するためのガスの流量、温度などの条件は、HCFO-1223zaの製造条件について前述したとおりである。
【実施例0020】
本発明を以下の例により説明するが、本発明の範囲は以下の例により限定的に解釈されるものではない。
(参考例1(ニッケル(Ni)片))
ジムロート冷却器を具えた20mlすり付試験管に、1,1,1,3,3,3-ヘキサクロロプロパン(HCP) 7.00gとNi片 0.88gを入れ、窒素シール下250℃に加熱還流した。2時間後に加熱を止め、冷却を行った。回収した内容物は23.0重量%の1,1,3,3,3-ペンタクロロプロペン(PCP)と76.9重量%の1,1,1,3,3,3-ヘキサクロロプロパン(HCP)から成る黄色液体であった。重合物を含む副生成物は0.1重量%未満であった。
【0021】
(参考例2(SUS片))
ジムロート冷却器を具えた20mlすり付試験管に、1,1,1,3,3,3-ヘキサクロロプロパン 7.00gとSUS304片 0.78gを入れ、窒素シール下250℃に加熱した。2時間後に加熱を止め、冷却を行った。回収した内容物は、0.5重量%の1,1,3,3,3-ペンタクロロプロペンと0.1重量%の1,1,1,3,3,3-ヘキサクロロプロパン、99.4重量%の重合物から成る黒色固体であった。
【0022】
(参考例3(ハステロイC-22片))
ジムロート冷却器を具えた20mlすり付試験管に、1,1,1,3,3,3-ヘキサクロロプロパン 7.03gとハステロイC-22片 1.84gを入れ、窒素シール下250℃に加熱した。2時間後に加熱を止め、冷却を行った。回収した内容物は、94.1重量%の1,1,3,3,3-ペンタクロロプロペンと3.4%の1,1,1,3,3,3-ヘキサクロロプロパンと2.4%の重合物から成る茶色液体であった。
【0023】
(参考例4(ハステロイB-2片))
ジムロート冷却器を具えた20mlすり付試験管に、1,1,1,3,3,3-ヘキサクロロプロパン 10.06gとハステロイB-2片 3.71 gを入れ、窒素シール下250℃に加熱した。2時間後に加熱を止め、冷却を行った。回収した内容物は、43.1重量%の1,1,3,3,3-ペンタクロロプロペン(PCP)と56.7%の1,1,1,3,3,3-ヘキサクロロプロパン(HCP)と0.2%の重合物から成る黄色液体であった。
【0024】
【0025】
表1から、ニッケル含有量が多いほど重合物の生成が少なく、重合物の生成を防いで反応装置の閉塞を防ぐためには、56重量%以上のニッケル含有量を有する合金(例えば、ハステロイC-22)を採用する必要があることが分かった。69重量%以上のニッケル含有量を有する合金(例えば、ハステロイB-2)を採用すれば重合物の生成はさらに抑制でき、ニッケル単独であれば、重合物は0.1重量%未満に抑制できることがわかった。なお、参考例1で使用したニッケルは、純度99重量%以上のものであり、ニッケル以外の残部は不純物であり、実質的にニッケルのみからなるといえる。
【0026】
(実施例1)
ニッケル製蒸発器(40A×20cm)と、17wt%CrF3-活性炭触媒を1.1kg充填したニッケル製触媒塔(40A×150cm)からなる装置を、蒸発器を250℃、触媒塔を内温190℃に加熱し、3.90SLM(指示値)で30分間 HFをフローさせた。その後、HFを0.24kg/h(11.8mol/h,3.6eq)でフローさせながら、1,1,1,3,3,3-ヘキサクロロプロパン(HCP)を9.03ml/min(=0.84kg/h(3.35mol/h))設定で蒸発器に供給して蒸発器内で気化させ、HCPとHFの混合物を触媒塔に通気して反応させた。1,1,1,3,3,3-ヘキサクロロプロパンを64.3kg通気後、水トラップからHCFO-1223zaを93.2重量%の割合で含む有機層を38.8kg、収率85%で得た。その後、1,1,1,3,3,3-ヘキサクロロプロパン(HCP)を369.6kg供給後に蒸発器の開放点検をしたところ、重合物はみられなかった。
【0027】
(比較例1)
図1に示した反応装置であって、SUS304製蒸発器(40A×20cm)と、17重量%CrF
3-活性炭触媒を1.1kg充填したSUS304製触媒塔(40A×150cm)を備えた装置において、蒸発器を250℃、触媒塔を内温190℃に加熱し、580SCCM(指示値)で30分間 フッ化水素(HF)を流した。その後、HFを0.22kg/h(10.99mol/h,3.6eq)で流しながら、1,1,1,3,3,3-ヘキサクロロプロパン(HCP)を8.45ml/min(=0.76kg/h(3.03mol/h))の流速で蒸発器に供給して蒸発器内で気化し、HCPとHFの混合物を触媒塔に通気して反応させた。1,1,1,3,3,3-ヘキサクロロプロパンを150時間通気したところで、蒸発器の閉塞が起こり、1,1,1,3,3,3-ヘキサクロロプロパンとHFが供給できなくなった。開放点検したところ、黒色固体により蒸発器が閉塞していた。
【0028】
(比較例2)
図2に示した反応装置であって、17重量%CrF
3-活性炭触媒を1.1kg充填したSUS304製触媒塔(40A×150cm)を備えた装置において、触媒塔を内温190℃に加熱し、580SCCM(指示値)で30分間HFを流した。その後、HFを0.22kg/h(10.99mol/h,3.6eq)で流しながら、1,1,1,3,3,3-ヘキサクロロプロパン(HCP)を8.45ml/min(=0.76kg/h(3.03mol/h))設定で、蒸発器を通さずに、直接触媒塔に供給して触媒塔に通気して反応させた。1,1,1,3,3,3-ヘキサクロロプロパン(HCP)を供給開始後まもなく、触媒塔の一部の温度上昇がみられ、30分間供給通気したところで、300℃以上に発熱し更に温度上昇する傾向が見られたため、1,1,1,3,3,3-ヘキサクロロプロパンの供給を停止し、反応を中断した。
【0029】
本発明の要件を満たす実施例1によれば、反応装置内部の表面をニッケルを主成分とする金属とすることで、重合物による反応装置の閉塞無しに80%を超える収率でHCFO-1223zaが得られることがわかった。反応装置内部の表面がSUS304で構成された比較例2では、蒸発器を使用して原料ガスの流量を調整して安定な製造を試みたが、150時間HCPを通気したところで蒸発器の閉塞が起こった。蒸発器を使用しない比較例4では、原料を30分間供給通気したところで、触媒塔が300℃以上に発熱し更に温度上昇する傾向が見られたため反応を中止した。このように本発明によれば、重合物が生じることなく高収率でHCFO-1223zaが得られる。本発明によれば、長時間安定して大量のHCFO-1223zaを製造できるので、HCFO-1223zaを量産する場合に非常に有利である。