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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023056239
(43)【公開日】2023-04-19
(54)【発明の名称】変位検出装置
(51)【国際特許分類】
   G01D 5/20 20060101AFI20230412BHJP
【FI】
G01D5/20 110Q
G01D5/20 110B
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021165472
(22)【出願日】2021-10-07
(71)【出願人】
【識別番号】000006297
【氏名又は名称】村田機械株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118784
【弁理士】
【氏名又は名称】桂川 直己
(72)【発明者】
【氏名】清水 哲也
(72)【発明者】
【氏名】大友 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】木戸 崚平
【テーマコード(参考)】
2F077
【Fターム(参考)】
2F077AA13
2F077NN05
2F077NN24
2F077PP06
2F077QQ03
2F077TT33
2F077TT42
2F077TT82
(57)【要約】
【課題】2つのAD変換部の環境特性の違いに起因する誤差を抑制可能な変位検出装置を提供する。
【解決手段】変位検出装置100の処理装置3は、AD変換装置32と、スイッチング回路31と、演算処理部35と、を備える。AD変換装置32は、第1AD変換部33及び第2AD変換部34を有する。スイッチング回路31は、第1差動信号が第1AD変換部33でAD変換されて第2差動信号が第2AD変換部34でAD変換される第1接続態様と、第1差動信号が第2AD変換部34でAD変換されて第2差動信号が第1AD変換部33でAD変換される第2接続態様と、を周期的に切り替える。演算処理部35は、第1AD変換部33及び第2AD変換部34からそれぞれ出力された第1差動信号の加算平均値と、第1AD変換部33及び第2AD変換部34からそれぞれ出力された第2差動信号の加算平均値と、に基づいてスケールの変位情報を出力する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
変位検出方向に所定の検出ピッチで磁気応答部と非磁気応答部とが交互に配列されたスケールと、
サイン関数、コサイン関数、マイナスサイン関数及びマイナスコサイン関数で表現される出力信号のそれぞれを出力する少なくとも4つの磁気検出素子を有するセンサヘッドと、
前記磁気検出素子の出力信号が入力され、前記センサヘッドに対する前記スケールの相対変位、及び、前記相対変位の変化速度のうち少なくとも一方である変位情報を演算して出力する処理装置と、
を備え、
前記処理装置は、
第1AD変換部及び第2AD変換部を有し、前記コサイン関数及び前記マイナスコサイン関数の差分に基づく第1差動信号、及び、前記サイン関数及び前記マイナスサイン関数の差分に基づく第2差動信号をデジタル信号に変換するAD変換装置と、
前記第1差動信号が前記第1AD変換部でAD変換されて前記第2差動信号が前記第2AD変換部でAD変換される第1接続態様と、前記第1差動信号が前記第2AD変換部でAD変換されて前記第2差動信号が前記第1AD変換部でAD変換される第2接続態様と、を周期的に切り替えるスイッチング回路と、
前記第1AD変換部及び前記第2AD変換部からそれぞれ出力された前記第1差動信号の加算平均値と、前記第1AD変換部及び前記第2AD変換部からそれぞれ出力された前記第2差動信号の加算平均値と、に基づいて前記スケールの前記変位情報を出力する演算処理部と、
を備えることを特徴とする変位検出装置。
【請求項2】
請求項1に記載の変位検出装置であって、
前記演算処理部は、arctan演算により前記スケールの前記変位情報を算出することを特徴とする変位検出装置。
【請求項3】
請求項2に記載の変位検出装置であって、
前記演算処理部は、arctan演算による前記変位情報に対して偶数段の移動平均処理を行うことを特徴とする変位検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として、測定対象物の変位情報を検出する変位検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、電磁誘導現象を利用して測定対象物の変位情報を測定する変位検出装置が知られている。特許文献1及び2は、この種の装置を開示する。
【0003】
特許文献1の位置検出装置は、鉄心と巻線部を備える誘導センサである。位置検出装置は、磁石で構成されるレールに対して相対移動可能である。位置検出装置は、レールに対して移動した際に発生する出力信号に基づいて、レールに対する相対位置を検出する。ここで、巻線部のインピーダンスが変化することに起因して、位相変動誤差が生じることがある。位相変動誤差に対応するため、特許文献1の位置検出装置は、出力信号のゼロクロスを検出するゼロクロス検出回路を備える。ゼロクロス検出回路の検出結果は、ラッチパルスとしてラッチ回路に出力される。ラッチ回路にラッチしたデータは、出力信号の位相ズレに対応しているため、それらのデータの平均に基づいて位相変動誤差が算出される。
【0004】
特許文献2の装置は、誘導センサを評価する評価回路である。この装置は、2つのスイッチ素子を含むアナログスイッチを備える。第1のスイッチ素子は、抵抗をアースと基準電圧に交互に接続することで、振動を発生させる。第2のスイッチ素子は、同期整流器のアナログスイッチに相当する。2つのスイッチ素子が同じチップに設けられるため、2つのスイッチ素子で発生する振動の位相位置を同じにすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3862033号公報
【特許文献2】特開平5-248891号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
電磁誘導現象を利用した変位検出装置では、誘導電流に基づく電気信号をアナログ信号からデジタル信号に変換する2つのAD変換部が設けられることがある。AD変換部には環境特性があるため、環境の変化に応じて特性が変化する。その結果、2つのAD変換部の環境特性の違いに起因して、変位情報の検出値に誤差が発生し得る。
【0007】
本発明は以上の事情に鑑みてされたものであり、その主要な目的は、2つのAD変換部の環境特性の違いに起因する誤差を抑制可能な変位検出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0008】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段とその効果を説明する。
【0009】
本発明の観点によれば、以下の構成の変位検出装置が提供される。即ち、変位検出装置は、スケールと、センサヘッドと、処理装置と、を備える。前記スケールは、変位検出方向に所定の検出ピッチで磁気応答部と非磁気応答部とが交互に配列される。前記センサヘッドは、サイン関数、コサイン関数、マイナスサイン関数及びマイナスコサイン関数で表現される出力信号のそれぞれを出力する少なくとも4つの磁気検出素子を有する。前記処理装置は、前記磁気検出素子の出力信号が入力され、前記センサヘッドに対する前記スケールの相対変位、及び、前記相対変位の変化速度のうち少なくとも一方である変位情報を演算して出力する。前記処理装置は、AD変換装置と、スイッチング回路と、演算処理部と、を備える。前記AD変換装置は、第1AD変換部及び第2AD変換部を有する。AD変換装置は、前記コサイン関数及び前記マイナスコサイン関数の差分に基づく第1差動信号、及び、前記サイン関数及び前記マイナスサイン関数の差分に基づく第2差動信号をデジタル信号に変換する。前記スイッチング回路は、前記第1差動信号が前記第1AD変換部でAD変換されて前記第2差動信号が前記第2AD変換部でAD変換される第1接続態様と、前記第1差動信号が前記第2AD変換部でAD変換されて前記第2差動信号が前記第1AD変換部でAD変換される第2接続態様と、を周期的に切り替える。前記演算処理部は、前記第1AD変換部及び前記第2AD変換部からそれぞれ出力された前記第1差動信号の加算平均値と、前記第1AD変換部及び前記第2AD変換部からそれぞれ出力された前記第2差動信号の加算平均値と、に基づいて前記スケールの前記変位情報を出力する。
【0010】
これにより、第1AD変換部の環境特性と第2AD変換部の環境特性がそれぞれの差動信号に与える影響を均一化できる。そのため、環境が変化した場合の変位情報の誤差を抑制できる。
【0011】
前記の変位検出装置においては、前記演算処理部は、arctan演算により前記スケールの前記変位情報を算出することが好ましい。
【0012】
これにより、簡単な演算で変位情報を得ることができる。
【0013】
前記の変位検出装置においては、前記演算処理部は、arctan演算による前記変位情報に対して偶数段の移動平均処理を行うことが好ましい。
【0014】
これにより、移動平均処理を偶数段にすることで第1接続態様での検出値と第2接続態様での検出値を同数にして加算平均値を算出できるため、変位情報の誤差をより一層抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施形態に係る変位検出装置の構成を示すブロック図。
図2】第1接続態様を示す図。
図3】第2接続態様を示す図。
図4】スイッチング回路なしで変位を算出する処理の説明図。
図5】スイッチング回路ありで変位を算出する処理の説明図。
図6】環境を変化させた場合のスイッチング回路なしの検出値の変化量とスイッチング回路ありの検出値の変化量を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【0017】
図1に示す変位検出装置100は、測定対象物の所定の方向での変位を検出する。以下の説明では、測定対象物の変位(変位情報)が検出される方向を変位検出方向と称する。
【0018】
変位とは、基準位置に対する現在位置の変化量である。基準位置は、例えば初期位置である。基準位置の位置情報を定義することにより、基準位置と変位とに基づいて測定対象物の位置を算出できる。従って、変位検出装置100は、位置検出装置として使用可能である。
【0019】
変位検出装置100は、主として、スケール1と、センサヘッド2と、処理装置3と、を備える。
【0020】
スケール1及びセンサヘッド2のうち何れかが、測定対象物に取り付けられる。例えば、スケール1が図略の可動部材に取り付けられ、センサヘッド2が、測定対象物である図略の固定部材に取り付けられる。可動部材は、変位検出方向と平行な経路に沿って直線的に移動可能である。
【0021】
また、測定対象物である固定部材にスケール1が取り付けられ、可動部材にセンサヘッド2が取り付けられてもよい。更に、スケール1とセンサヘッド2の両方が、互いに相対変位する可動部材にそれぞれ取り付けられてもよい。この場合、変位検出装置100は、測定対象物(即ち、スケール1及びセンサヘッド2)の相対変位を検出する。
【0022】
スケール1は、測定対象物が当該スケール1の長手方向における変位を検出するための目盛として用いられる。スケール1は、可動部材の移動に伴うセンサヘッド2の移動ストロークを含むように、当該移動ストロークと平行な方向に細長く形成されている。スケール1は、細長いブロック状に形成されてもよいし、細長い棒状に形成されてもよい。
【0023】
スケール1は、非磁気応答部11と、磁気応答部12と、を備える。非磁気応答部11は、例えば、顕著な磁性を有しない金属、又は、磁性を有しないプラスチック等の材料から構成されている。磁気応答部12は、例えば、強磁性を有する金属等から構成されている。非磁気応答部11及び磁気応答部12は、スケール1の長手方向において、交互に配列されている。隣接する非磁気応答部11同士の間隔、及び、隣接する磁気応答部12同士の間隔は、予め定められた検出ピッチC0である。従って、スケール1は、長手方向で検出ピッチC0毎に、磁気応答性の有無又は強弱が交互に繰返し現れる。
【0024】
センサヘッド2は、図1に示すように、磁気応答部12と所定の間隔をあけて配置されている。例えば、スケール1は細長い棒状であり、センサヘッド2は筒状であり、センサヘッド2にスケール1が差し込まれる。ただし、センサヘッド2の形状は、この例に限定されない。センサヘッド2は、一次コイル21と、複数の二次コイル22と、を備える。二次コイル22は、本実施形態においては4つ設けられている。なお、一次コイル21を省略することができる。
【0025】
一次コイル21は、交流磁界を発生させるために用いられる。一次コイル21に交流電流を流すと、その周囲に、向き及び強さが周期的に変化する磁界が発生する。処理装置3により生成された励磁波をDA変換して得られた周期的な励磁信号(A・sinωt)が、当該一次コイル21に印加されている。励磁信号の周期を励磁周期と称する。図1に示すように、一次コイル21は、センサヘッド2において、二次コイル22よりもスケール1から遠い側の部分に配置されている。
【0026】
4つの二次コイル22は、図1に示すように、スケール1の長手方向と平行な方向に並べて配置されている。二次コイル22は、センサヘッド2において、一次コイル21よりもスケール1に近い側の部分に配置されている。4つの二次コイル22には、磁気応答部12で強められた磁界によって発生した誘導電流が流れる。センサヘッド2は、この誘導電流に基づく電気信号(例えば電圧信号)を検出して出力する。
【0027】
図1に示すように、当該4つの二次コイル22は、変位検出方向において予め定められた単位ピッチC1毎に並べて配置されている。当該単位ピッチC1は、前述の検出ピッチC0との間で以下の関係を有する。具体的には、以下の式にて示すように、単位ピッチC1は、検出ピッチC0の整数倍と、検出ピッチC0の1/4と、の和となるように設定される。
C1=(n+1/4)・C0
ただし、nは整数である。本実施形態においては、n=0であるが、これに限定されない。
【0028】
以下の説明においては、当該4つの二次コイルのそれぞれを特定するために、図1に示す左側から順に、第1コイル22a、第2コイル22b、第3コイル22c、及び第4コイル22dと呼ぶことがある。
【0029】
ここで、各二次コイル22で出力する信号(例えば、電圧信号)について、簡単に説明する。一次コイル21に交流電流を流すと、一次コイル21には、向き及び強さが周期的に変化する磁界が発生する。一方、二次コイル22には、コイルの磁界の変化を妨げる向きの誘導電流が発生する。一次コイル21の近傍に強磁性体が存在すると、この強磁性体は、一次コイル21が発生させる磁界を強めるように作用する。この作用は、強磁性体が一次コイル21に近づく程大きくなる。
【0030】
磁気応答部12に着目すると、センサヘッド2がスケール1の長手方向一側から他側へ相対移動するにつれて、一次コイル21から磁気応答部12までの距離、及び、二次コイル22から磁気応答部12までの距離が変化する。具体的には、これらの距離は、センサヘッド2の移動につれて徐々に小さくなり最小値を超えた後は徐々に大きくなる。二次コイル22に発生する誘導電流は交流電流であるが、その振幅の大きさは、当該二次コイル22と、磁気応答部12と、の位置関係に応じて異なる。
【0031】
磁気応答部12は実際には検出ピッチC0毎に並べて配置されるので、振幅の大きさの変化は、検出ピッチC0毎に繰り返される。即ち、横軸にセンサヘッド2の位置をとり、縦軸に振幅の大きさをとると、振幅と位置との関係は、検出ピッチC0を周期とする周期曲線(具体的には、正弦曲線y=sinθ)となる。このθを求めることができれば、繰返し単位である検出ピッチC0の中でスケール1がセンサヘッド2に対してどの位置にあるかを取得することができる。
【0032】
しかし、正弦曲線y=sinθの1周期分を考えると、特別な場合を除いてyに対応するθの値は2つ考えられ、ただ1つに定まらない。そこで、本実施形態では、二次コイル22を、最も近い磁気応答部12との位置関係が検出ピッチC0の1/4ずつ実質的にズレるように、上述の単位ピッチC1で定められる間隔をあけて4つ配置している。
【0033】
図1に示すように、第1コイル22a、第2コイル22b、第3コイル22c、第4コイル22dのそれぞれは、互いに検出ピッチC0の1/4だけ離れているので、互いに位相が90°ズレている電圧信号を出力する。即ち、第1コイル22aが出力する電圧信号をcos+相と表現した場合、第2コイル22bはsin+相の電圧信号を出力し、第3コイル22cはcos-相の電圧信号を出力し、第4コイル22dはsin-相の電圧信号を出力する。
【0034】
処理装置3は、第1コイル22a、第2コイル22b、第3コイル22c、第4コイル22dから出力された電圧信号を処理し、センサヘッド2に対するスケール1の相対変位を算出して出力する。
【0035】
処理装置3は、例えば、図1に示すように、スイッチング回路31と、AD変換装置32と、演算処理部35と、フィルタ処理部36と、を備える。AD変換装置32は、第1AD変換部33と、第2AD変換部34と、を備える。
【0036】
本実施形態において、スイッチング回路31及びAD変換装置32は、アナログ回路及び回路に実装された電子部品から構成される。演算処理部35及びフィルタ処理部36は、処理装置3を構成するFPGA等がプログラムを実行することにより実現されている。FPGAは、Field Programmable Gate Arrayの略称である。
【0037】
スイッチング回路31は、二次コイル22とAD変換装置32の間に配置されている。スイッチング回路31は、複数のスイッチ素子を有しており、二次コイル22から出力された電圧信号の出力先を切り替える。具体的には、スイッチング回路31は、FPGAからの指令に応じて、図2に示す第1接続態様と、図3に示す第2接続態様と、を切替可能である。
【0038】
図2に示す第1接続態様では、第1コイル22aが出力するcos+相の電圧信号と、第3コイル22cが出力するcos-相の電圧信号と、が第1AD変換部33に入力される。更に、第1接続態様では、第2コイル22bが出力するsin+相の電圧信号と、第4コイル22dが出力するsin-相の電圧信号と、が第2AD変換部34に入力される。図3に示す第2接続態様では、第2コイル22bが出力するsin+相の電圧信号と、第4コイル22dが出力するsin-相の電圧信号と、が第1AD変換部33に入力される。更に、第2接続態様では、第1コイル22aが出力するcos+相の電圧信号と、第3コイル22cが出力するcos-相の電圧信号と、が第2AD変換部34に入力される。FPGAが第1接続態様と第2接続態様とを切り替えるタイミング及びその効果については後述する。
【0039】
AD変換装置32は、2チャンネル式であり、2系統のアナログ信号をデジタル信号に変換する。以下では、アナログ信号からデジタル信号への変換をAD変換と称する。第1AD変換部33によるAD変換と、第2AD変換部34によるAD変換と、を行うことができる。本実施形態では、1つのAD変換装置32が2系統のAD変換を行うが、これに代えて、2つのAD変換装置を備えてもよい。第1AD変換部33及び第2AD変換部34は、それぞれ差動増幅器を備えている。差動増幅器は、入力された2つの信号の差分を増幅して差動信号を生成する。
【0040】
第1接続態様において、第1AD変換部33は、cos+相の電圧信号とcos-相の電圧信号に基づく第1差動信号を生成する。第1接続態様において、第2AD変換部34は、sin+相の電圧信号とsin-相の電圧信号に基づく第2差動信号を生成する。センサヘッド2に対するスケール1の変位を表す位相をθとしたとき、第1差動信号y1及び第2差動信号y2は、以下の式で表すことができる。
y1=acosθ・sinωt
y2=asinθ・sinωt
第1AD変換部33は、第1差動信号をAD変換して演算処理部35に出力する。第2AD変換部34は、第2差動信号をAD変換して演算処理部35に出力する。
【0041】
第2接続態様では、第1AD変換部33は第2差動信号を生成し、第2差動信号をAD変換して演算処理部35に出力する。第2接続態様では、第2AD変換部34は第1差動信号を生成し、第1差動信号をAD変換して演算処理部35に出力する。
【0042】
本実施形態ではAD変換装置32に差動増幅器が内蔵されている。この構成に代えて、AD変換装置32とは個別に差動増幅器が設けられていてもよい。この場合、差動増幅器とAD変換装置32の間にスイッチング回路31が配置されてもよい。このスイッチング回路31には、第1差動信号と第2差動信号が入力され、第1差動信号を第1AD変換部33に出力して第2差動信号を第2AD変換部34に出力する第1接続態様と、第1差動信号を第2AD変換部34に出力して第2差動信号を第1AD変換部33に出力する第2接続態様と、を切り替える。
【0043】
演算処理部35は、第2差動信号を第1差動信号で除算する。この結果は、tanθの値に相当する。その後、演算処理部35は、計算結果のarctanの値を求める。これにより、センサヘッド2に対するスケール1の変位を表す位相θを得ることができる。θは厳密には位相であるが、実質的には、センサヘッド2に対するスケール1の相対変位を示している。従って、以下ではθを変位と呼ぶことがある。
【0044】
フィルタ処理部36は、演算処理部35で求められた変位θに対してフィルタ処理を行う。フィルタ処理部36は、例えば信号値の可算平均値を算出する移動平均フィルタである。フィルタ処理部36は変位θの可算平均値を算出する処理を行う。この処理は、cos相検出値の可算平均値とsin相検出値の可算平均値とを算出して、これらの加算平均値を用いて変位θを算出する処理と実質的に同じである。つまり、フィルタ処理部36が加算平均値を算出する対象が変位θであっても、フィルタ処理部36は、cos相検出値の可算平均値とsin相検出値の可算平均値に基づいて最終的な変位θを算出する処理を行っていることになる。
【0045】
フィルタ処理部36は、例えばシフトレジスタを用いて構成することができる。このシフトレジスタは、複数のレジスタをカスケード接続する構成を有する。各レジスタに共通のシフトクロックが入力されるたびに、変位θ(t)を示すデータが次段のレジスタに順次転送されていく。レジスタの段数がN段であれば、フィルタ処理部36は、最大N段の移動平均処理を行うことができる(Nは正の整数)。N段の移動平均処理とは、時系列で並ぶN個の検出値に対して可算平均値を算出し、これを時刻に応じて繰り返し行う処理である。フィルタ処理部36のフィルタ処理によって、変位θ(t)に含まれる高周波成分が除去される。これにより、ノイズ等を除去することができる。なお、変位θではなく、例えば第1差動信号及び第2差動信号に対してフィルタ処理を行ってもよい。
【0046】
フィルタ処理部36により出力されたフィルタ処理後変位は、図1に示すように、直線性較正、高速予測演算等の後処理を経った後、位置情報として出力される。
【0047】
次に、図4及び図5を参照して、環境の変化が変位θに及ぼす影響及びそれを解消する方法について説明する。
【0048】
初めに、スイッチング回路31を有していない変位検出装置において、環境1から環境2に変化した状況を考える。環境1と環境2は、例えば温度が異なる。AD変換装置32は環境特性を有しており、環境が変化することにより、ゲイン変動が生じる。環境1から環境2に変化したときの第1AD変換部33のゲイン変動をdとし、第2AD変換部34のゲイン変動をeとする。環境特性は個体差があるので、一般的にはdとeは異なる。
【0049】
環境1で算出される変位は、上述したようにθである(図4の(1)を参照)。一方、環境1から環境2に変化した場合、第1差動信号を第1AD変換部33が変換しているため、cos相検出値の係数がaからd・aに変化する。第2差動信号を第2AD変換部34が変換しているため、sin相検出値の係数がaからe・aに変化する。その結果、算出される変位は、図4の(2)に示すように、tan-1(e/d・tanθ)となる。つまり、環境2で算出される変位には、eとdの比に応じた誤差が生じる。この式が示すように、誤差は、第1AD変換部33の温度特性と、第2AD変換部34の温度特性と、が異なることに起因する。
【0050】
次に、スイッチング回路31を有する変位検出装置100で行われる変位の算出について説明する。図5の(1)に示すように、スイッチング回路31は、切替周期毎に第1接続態様と第2接続態様を切り替える。切替周期は励磁周期と一致しているが、後述するように切替周期が励磁周期と異なっていてもよい。
【0051】
cos相検出値は第1接続態様での検出値と第2接続態様での検出値とを含む。sin相検出値も同様に第1接続態様での検出値と第2接続態様での検出値とを含む。フィルタ処理部36は、移動平均処理を行うことにより、第1接続態様での検出値と第2接続態様での検出値の両方を考慮した変位を算出する。具体的には、フィルタ処理部36は、第1接続態様での検出値に基づく変位θと第2接続態様での検出値に基づく変位θとの可算平均に基づいて変位を算出する。本実施形態ではフィルタ処理部36は算出した変位θに対して移動平均処理を行うが、図5の(2)では、第1接続態様と第2接続態様の検出値に取扱いを分かり易く示すために、cos相検出値の加算平均値とsin相検出値の可算平均値を記載している。
【0052】
環境1では、第1AD変換部33でAD変換された差動信号の検出値の係数をaとし、第2AD変換部34でAD変換された差動信号の検出値の係数もaとしている。つまり、何れのAD変換部で変換がされても検出値に差異はない。従って、環境1で変位検出装置100が算出する変位は、スイッチング回路31を有していない変位検出装置が算出する変位と同じくθである(図5の(3)を参照)。
【0053】
環境2では、第1AD変換部33でAD変換された差動信号の検出値の係数がd・aであり、第2AD変換部34でAD変換された差動信号の検出値の係数がe・aである。しかし、スイッチング回路31により第1AD変換部33によるAD変換と第2AD変換部34によるAD変換が均等に行われるため、それぞれの検出値の係数は、ともに、d・aとe・aの加算平均値である。つまり、環境が変化した場合においても、cos相検出値とsin相検出値の係数は等しい状態を維持する。その結果、変位演算によって係数が打ち消し合うので、環境2においても変位検出装置100が算出する変位はθである(図5の(4)を参照)。以上により、スイッチング回路31を設けることにより、環境が変化した場合においてもAD変換装置32の環境特性に起因する誤差を抑制できる。
【0054】
なお、第1AD変換部33の温度特性と第2AD変換部34の温度特性の違いに起因する誤差をより小さくするためには、移動平均処理を偶数段にして、第1接続態様の検出値と第2接続態様の検出値とが略均等に含まれるようにすることが好ましい。
【0055】
上述した例では、スイッチング回路31が第1接続態様と第2接続態様を切り替える切替周期は励磁周期に一致する。ただし、切替周期が励磁周期の整数倍であってもよい。具体的には、移動平均処理に用いられる検出値において、第1接続態様の検出値と第2接続態様の検出値が略均等の割合であることが好ましい。従って、N段の移動平均処理を行う場合、切替周期はN個の検出値が検出される時間の半分より短いことが好ましい。また、AD変換装置32がΣΔ方式である場合、AD変換装置32は前回の検出値に基づいて誤差を算出するため周期が長い方が直線性が高くなることがあるため、切替周期を励磁周期に一致させるよりは、切替周期を励磁周期の複数倍にすることが好ましい。
【0056】
図6には、スイッチング回路31を有することにより、環境の変化時の検出値の変化が抑制されることを確かめた実験の結果が示されている。この実験では、センサヘッド2を常温の環境に配置し、処理装置3を第1温度の環境1に配置して、センサヘッド2を移動させたときの検出値を記録する。次に、センサヘッド2を常温に配置したままで、処理装置3を第2温度の環境2に配置して、センサヘッド2を移動させたときの検出値を記録する。図6のグラフの横軸はセンサヘッド2の位置であり、図6のグラフの縦軸は環境1での検出値に対する環境2での検出値の変化量である。
【0057】
スイッチング回路31を有しない変位検出装置の検出値は、環境の変化に伴って検出値が大きく変化している。これに対し、スイッチング回路31を有する変位検出装置100の検出値は、環境の変化が生じても検出値の変化が小さい。従って、スイッチング回路31を有することにより、環境の変化に起因する誤差が生じにくいことが確かめられた。
【0058】
以上に説明したように、変位検出装置100は、スケール1と、センサヘッド2と、処理装置3と、を備える。スケール1は、変位検出方向に所定の検出ピッチで磁気応答部12と非磁気応答部11とが交互に配列される。センサヘッド2は、サイン関数、コサイン関数、マイナスサイン関数及びマイナスコサイン関数で表現される出力信号のそれぞれを出力する少なくとも4つの磁気検出素子(第1コイル22a、第2コイル22b、第3コイル22c、第4コイル22d)を有する。処理装置3は、磁気検出素子の出力信号が入力され、センサヘッド2に対するスケール1の相対変位、及び、相対変位の変化速度のうち少なくとも一方である変位情報を演算して出力する。処理装置3は、AD変換装置32と、スイッチング回路31と、演算処理部35と、を備える。AD変換装置32は、第1AD変換部33及び第2AD変換部34を有し、コサイン関数及びマイナスコサイン関数の差分に基づく第1差動信号、及び、サイン関数及びマイナスサイン関数の差分に基づく第2差動信号をデジタル信号に変換する。スイッチング回路31は、第1差動信号が第1AD変換部33でAD変換されて第2差動信号が第2AD変換部34でAD変換される第1接続態様と、第1差動信号が第2AD変換部34でAD変換されて第2差動信号が第1AD変換部33でAD変換される第2接続態様と、を周期的に切り替える。演算処理部35は、第1AD変換部33及び第2AD変換部34からそれぞれ出力された第1差動信号の加算平均値と、第1AD変換部33及び第2AD変換部34からそれぞれ出力された第2差動信号の加算平均値と、に基づいてスケールの変位情報を出力する。
【0059】
これにより、第1AD変換部33の環境特性と第2AD変換部34の環境特性がそれぞれの差動信号に与える影響を均一化できる。そのため、環境が変化した場合の変位情報の誤差を抑制できる。
【0060】
本実施形態の変位検出装置100において、演算処理部35は、arctan演算によりスケール1の変位情報を算出する。
【0061】
これにより、簡単な演算で変位情報を得ることができる。
【0062】
本実施形態の変位検出装置100において、演算処理部35は、arctan演算による変位情報に対して偶数段の移動平均処理を行う。
【0063】
これにより、移動平均処理を偶数段にすることで第1接続態様での検出値と第2接続態様での検出値を同数にして加算平均値を算出できるため、変位情報の誤差をより一層抑制できる。
【0064】
以上に本発明の好適な実施の形態を説明したが、上記の構成は例えば以下のように変更することができる。
【0065】
スケール1は、上述の構成に限定されず、互いに異なる磁気的な性質(磁性の強弱、発生する磁界の方向等)が繰り返されるのであれば、適宜の構成とすることができる。例えば、磁気応答部12が、強磁性体と弱磁性体/非磁性体を、当該スケール1の長手方向に交互に並べることで構成されてもよい。磁石のN極とS極を並べることで、磁気的な性質の変化の繰返しを実現してもよい。
【0066】
磁気検出素子は、二次コイル22の代わりに、プリント基板の導電パターン、ホール素子等から構成されてもよい。
【0067】
二次コイル22がスケール1(磁気応答部12)からの変位に応じた変化を捉えることが可能であれば、一次コイル21がスケール1に近い側に配置され、二次コイル22がスケール1から遠い側に配置されてもよい。
【0068】
演算処理部35は、tanθを計算する以外の方法で、θを得ることもできる。具体的には、公知のシフト回路により第2差動信号y2の位相が90°シフトされて、第1差動信号y1に加算される。加算後の信号は、周知の三角関数の加法定理により、asin(ωt+θ)と表すことができる。演算処理部35は、この信号と、基準差動信号asinωtと、の位相差(具体的には、各信号がゼロと交差するタイミングの差)を計測することにより、θを得る。また、演算処理部35は、PD(Phase-Digital)変換によってθを得ることもできる。
【0069】
フィルタ処理部36におけるスケール1の相対速度に対する判別は、リアルタイムで行われなくてもよい。例えば、予め設定された一定の時間間隔で判別が行われてもよいし、スケール1の相対速度に応じて変化する時間間隔で行われてもよい。
【0070】
変位検出装置は、スケール1の相対変位に代えて、又はそれに加えて、相対変位の変化速度(変位情報)を出力することもできる。相対変位の変化速度とは、実質的に、スケール1の相対速度を意味する。相対変位の変化速度は、スケール1の現在の相対変位と、所定時間前の相対変位と、の差を計算することにより、容易に得ることができる。
【符号の説明】
【0071】
1 スケール
2 センサヘッド
3 処理装置
31 スイッチング回路
32 AD変換装置
33 第1AD変換部
34 第2AD変換部
35 演算処理部
36 フィルタ処理部
図1
図2
図3
図4
図5
図6