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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023056243
(43)【公開日】2023-04-19
(54)【発明の名称】固形食品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23C 19/08 20060101AFI20230412BHJP
   A23C 20/00 20060101ALI20230412BHJP
   A23G 1/32 20060101ALI20230412BHJP
   A23G 1/50 20060101ALI20230412BHJP
【FI】
A23C19/08
A23C20/00
A23G1/32
A23G1/50
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021165482
(22)【出願日】2021-10-07
(71)【出願人】
【識別番号】505223964
【氏名又は名称】株式会社舞昆のこうはら
(74)【代理人】
【識別番号】100100480
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100135839
【弁理士】
【氏名又は名称】大南 匡史
(72)【発明者】
【氏名】湯浅 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】鴻原 森蔵
【テーマコード(参考)】
4B001
4B014
【Fターム(参考)】
4B001AC03
4B001AC45
4B001AC46
4B001AC99
4B001BC03
4B001BC05
4B001BC11
4B001EC04
4B014GB01
4B014GG06
4B014GK08
4B014GL02
4B014GL03
4B014GL04
4B014GL11
4B014GP02
4B014GP27
4B014GQ05
(57)【要約】
【課題】耐熱保形性に優れたプロセスチーズ様又はチョコレート様の固形食品の新たな製造方法を提供する。
【解決手段】固形食品の製造方法であって、(a)チーズ類を主原料として含む食品用生地に、アルギン酸塩水溶液を添加して均一に含ませるとともに、リン酸三カルシウムを添加して均一に分散させて、第一の生地を得る工程、(b)前記第一の生地に、グルコノデルタラクトン水溶液を添加して均一に含ませて、第二の生地を得る工程、及び(c)所定時間経過後に、前記第二の生地を所望の形状に成形するとともにアルギン酸のゲル化を完了させて、プロセスチーズ様の固形食品を得る工程、を包含する、固形食品の製造方法が提供される。チーズ類に代えてチョコレート類を使用してもよい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固形食品の製造方法であって、
(a)チーズ類を主原料として含む食品用生地に、アルギン酸塩水溶液を添加して均一に含ませるとともに、リン酸三カルシウムを添加して均一に分散させて、第一の生地を得る工程、
(b)前記第一の生地に、グルコノデルタラクトン水溶液を添加して均一に含ませて、第二の生地を得る工程、及び
(c)所定時間経過後に、前記第二の生地を所望の形状に成形するとともにアルギン酸のゲル化を完了させて、プロセスチーズ様の固形食品を得る工程、
を包含する、固形食品の製造方法。
【請求項2】
固形食品の製造方法であって、
(a’)チョコレート類を主原料として含む食品用生地に、アルギン酸塩水溶液を添加して均一に含ませるとともに、リン酸三カルシウムを添加して均一に分散させて、第一の生地を得る工程、
(b)前記第一の生地に、グルコノデルタラクトン水溶液を添加して均一に含ませて、第二の生地を得る工程、及び
(c’)所定時間経過後に、前記第二の生地を所望の形状に成形するとともにアルギン酸のゲル化を完了させて、チョコレート様の固形食品を得る工程、
を包含する、固形食品の製造方法。
【請求項3】
前記工程(a)又は(a’)において、前記食品用生地にアルギン酸塩水溶液を添加して均一に含ませた後、リン酸三カルシウムを添加して均一に分散させる、請求項1又は2に記載の固形食品の製造方法。
【請求項4】
さらに、
(d)前記工程(c)又は(c’)で得られた前記固形食品を、酢酸カルシウム水溶液、乳酸カルシウム水溶液、又は塩化カルシウム水溶液に浸漬する工程、
を包含する、請求項1~3のいずれかに記載の固形食品の製造方法。
【請求項5】
前記工程(a)で得られた前記第一の生地中における前記アルギン酸塩の含有割合が0.8~2質量%である、請求項1~4のいずれかに記載の固形食品の製造方法。
【請求項6】
前記アルギン酸塩が、アルギン酸ナトリウム又はアルギン酸カリウムである、請求項1~5のいずれかに記載の固形食品の製造方法。
【請求項7】
前記工程(a)で得られた前記第一の生地中における前記リン酸三カルシウムの含有量が、質量比で、前記アルギン酸塩の含有量の0.4倍以上である、請求項1~6のいずれかに記載の固形食品の製造方法。
【請求項8】
前記工程(b)で得られた前記第二の生地中における前記グルコノデルタラクトンの含有量が、質量比で、前記アルギン酸塩の含有量の0.3倍以上である、請求項1~7のいずれかに記載の固形食品の製造方法。
【請求項9】
前記工程(c)又は(c’)において、前記所定時間が1分以上である、請求項1~8のいずれかに記載の固形食品の製造方法。
【請求項10】
前記固形食品が直径10mm以上の球状である、請求項1~9のいずれかに記載の固形食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は固形食品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、直径10~20mm程度の球状である一口サイズのプロセスチーズが知られている。一般に、プロセスチーズ、チーズフード等のプロセスチーズ類は、加熱によって融解するので、成形後に加熱殺菌することが難しい。そこで、耐熱保形性を備えたプロセスチーズ類が種々開発されている。例えば、特許文献1には、ナチュラルチーズとアセチル化デンプンとクエン酸塩を含むプロセスチーズ類が開示されている。特許文献2には、ウェランガムを含有するプロセスチーズ類が開示されている。いずれのプロセスチーズ類も耐熱保形性に優れるとされている。
【0003】
耐熱性を有する基材として、アルギン酸塩がある。例えば、アルギン酸ナトリウムとカルシウムイオンが反応して形成されるゲルは熱に対して安定であり、加熱しても融解しない。特許文献3には、アルギン酸ナトリウムとチーズより成るチーズゲル状食品が開示されている。このチーズゲル状食品では、チーズに元々含まれているカルシウム塩がアルギン酸ナトリウムと反応してゲル化していると考えられる。
【0004】
また、アルギン酸ナトリウム水溶液とカルシウム塩の水溶液を接触させると瞬時にゲル化が起こることを利用して、人工いくらが製造されている。その関連技術として、特許文献4には、アルギン酸ナトリウムを主成分とし、離水が抑制されたゲル状食品が開示されている。
【0005】
チーズ以外でも、耐熱保形性を付与することによって従来にない機能を発揮できる可能性がある。例えば、熱で融解しないチョコレート類は、暑い夏季でも溶けたりベタついたりすることがなく、新たな食感を提供することができると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2021-7304号公報
【特許文献2】特開2018-134018号公報
【特許文献3】実開昭60-81789号公報
【特許文献4】特開2016-178923号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
アルギン酸塩の水溶液とカルシウムイオンとが反応して起こるゲル化は瞬時に起こり、そのゲル化速度を制御することは難しい。このことは、均一なゲル化物を得るための障害となる。例えば、人工いくらの製法のように、カルシウム塩の水溶液中にアルギン酸塩の水溶液を滴下する方法では、滴下物の表面が瞬時にゲル化し、内部は基本的に液状のままである。そのため、均一にゲル化した固形食品を得ることは難しい。特許文献1に記載の方法では、チーズに元々含まれているカルシウム塩を利用するので、ゲル化は成り行きで進み、ゲル化速度を制御していない。そのため、所望の形状に成形する際の取扱いが難しくなる。そこで本発明は、アルギン酸塩を基材とし、耐熱保形性に優れたプロセスチーズ様又はチョコレート様の固形食品の新たな製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、耐熱保形性に優れる一口サイズのプロセスチーズ類を開発するために、基材としてアルギン酸塩を使用することを考えた。そこでまず、人工いくらの製法に準じて、アルギン酸塩とチーズを含む生地を作製し、これをカルシウム塩の水溶液中に滴下する方法を試みた。しかし、この方法では球状の固形物が一応得られたものの、表面のみがゲル化して内部のゲル化は進まず、均一にゲル化した固形物を得ることができなかった。なお、加熱殺菌を想定してこの固形物を加熱すると、破裂した。そこで、アルギン酸のゲル化速度を調節すること、均一なゲル化物を得ること、所望の形状に容易に成形できること、チーズ類以外にも応用できること、等を目指してさらに検討を進め、本発明を完成した。
【0009】
本発明の1つの様相は、固形食品の製造方法であって、
(a)チーズ類を主原料として含む食品用生地に、アルギン酸塩水溶液を添加して均一に含ませるとともに、リン酸三カルシウムを添加して均一に分散させて、第一の生地を得る工程、
(b)前記第一の生地に、グルコノデルタラクトン水溶液を添加して均一に含ませて、第二の生地を得る工程、及び
(c)所定時間経過後に、前記第二の生地を所望の形状に成形するとともにアルギン酸のゲル化を完了させて、プロセスチーズ様の固形食品を得る工程、
を包含する、固形食品の製造方法である。
【0010】
本様相は固形食品の製造方法に係るものであり、上記(a)~(c)の各工程を包含する。本様相では、まず、チーズ類を主原料として含む食品用生地に、アルギン酸塩水溶液を添加して均一に含ませるとともに、リン酸三カルシウムを添加して均一に分散させる(工程(a))。次に、グルコノデルタラクトン水溶液を添加して均一に含ませる(工程(b))。これにより、生地のpHが酸性側にシフトし、リン酸三カルシウムが徐々に溶解してカルシウムイオンが徐々に増え、アルギン酸のゲル化が徐々に進む。そして、所定時間経過後に、生地を所望の形状に成形するとともにアルギン酸のゲル化を完了させ、プロセスチーズ様の固形食品を得る(工程(c))。本様相によれば、高い耐熱保形性を有し、成形後の加熱殺菌が可能なプロセスチーズ様の固形食品を、容易に製造することができる。
【0011】
本発明の他の様相は、固形食品の製造方法であって、
(a’)チョコレート類を主原料として含む食品用生地に、アルギン酸塩水溶液を添加して均一に含ませるとともに、リン酸三カルシウムを添加して均一に分散させて、第一の生地を得る工程、
(b)前記第一の生地に、グルコノデルタラクトン水溶液を添加して均一に含ませて、第二の生地を得る工程、及び
(c’)所定時間経過後に、前記第二の生地を所望の形状に成形するとともにアルギン酸のゲル化を完了させて、チョコレート様の固形食品を得る工程、
を包含する、固形食品の製造方法である。
【0012】
本様相も固形食品の製造方法に係るものであり、上記(a’)~(c’)の各工程を包含する。本様相では、まず、チョコレート類を主原料として含む食品用生地に、アルギン酸塩水溶液を添加して均一に含ませるとともに、リン酸三カルシウムを添加して均一に分散させる(工程(a’))。次に、グルコノデルタラクトン水溶液を添加して均一に含ませる(工程(b))。そして、所定時間経過後に、生地を所望の形状に成形するとともにアルギン酸のゲル化を完了させ、チョコレート様の固形食品を得る(工程(c’))。本様相によれば、熱で融解しないチョコレート様の固形食品を容易に製造することができる。
【0013】
好ましくは、前記工程(a)又は(a’)において、前記食品用生地にアルギン酸塩水溶液を添加して均一に含ませた後、リン酸三カルシウムを添加して均一に分散させる。
【0014】
好ましくは、さらに、
(d)前記工程(c)又は(c’)で得られた前記固形食品を、酢酸カルシウム水溶液、乳酸カルシウム水溶液、又は塩化カルシウム水溶液に浸漬する工程、
を包含する。
【0015】
かかる構成により、固形食品の表面の固化がさらに強固となる。
【0016】
好ましくは、前記工程(a)で得られた前記第一の生地中における前記アルギン酸塩の含有割合が0.8~2質量%である
【0017】
好ましくは、前記アルギン酸塩が、アルギン酸ナトリウム又はアルギン酸カリウムである。
【0018】
好ましくは、前記工程(a)で得られた前記第一の生地中における前記リン酸三カルシウムの含有量が、質量比で、前記アルギン酸塩の含有量の0.4倍以上である。
【0019】
好ましくは、前記工程(b)で得られた前記第二の生地中における前記グルコノデルタラクトンの含有量が、質量比で、前記アルギン酸塩の含有量の0.3倍以上である。
【0020】
好ましくは、前記工程(c)又は(c’)において、前記所定時間が1分以上である。
【0021】
好ましくは、前記固形食品が直径10mm以上の球状である。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、高い耐熱保形性を有し、成形後の加熱殺菌が可能なプロセスチーズ様又はチョコレート様の固形食品を、容易に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の固形食品の製造方法は、アルギン酸塩を基材としたプロセスチーズ様又はチョコレート様の固形食品を製造するものである。まず、プロセスチーズ様の固形食品を製造する実施形態(第一実施形態)について説明する。本実施形態は上記(a)~(c)の各工程を包含する。
【0024】
工程(a)では、チーズ類を主原料として含む食品用生地に、アルギン酸塩水溶液を添加して均一に含ませるとともに、リン酸三カルシウムを添加して均一に分散させて、第一の生地を得る。
「チーズ類」には、ナチュラルチーズとプロセスチーズの両方が含まれ、さらにチーズフードが含まれる。チーズフードとは、一種以上のナチュラルチーズ又はプロセスチーズを粉砕し、混合し、加熱溶融し、乳化してつくられるもので、製品中のチーズ分の重量が51%以上のものをいう。
「主原料として含む」とは、付加的な原料として含む態様を除外する趣旨である。例えば、他に主たる原料があって、それに対して付加的に含まれる原料は、主原料ではない。チーズ類を主原料として含む食品用生地は、官能的にチーズを含んでいると認識される食品用生地である。
チーズ類を主原料として含む食品用生地は、例えば、市販のチーズソースを用いて作製することができる。例えば、チーズソース自体や、チーズソースに他の成分を適宜添加したものが、本実施形態における食品用生地になり得る。チーズソースに添加する他の成分としては、チーズパウダーが挙げられる。
食品用生地、第一の生地の形態としては、ペースト状、液体状、半固形状、等が挙げられる。
「生地」、「食品用生地」は、それぞれ「ベース」、「食品用ベース」と言い換えることができる。
【0025】
「アルギン酸塩」とは、アルギン酸のアルカリ金属塩を指す。アルギン酸塩の例としては、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウムが挙げられる。このうち、低コスト及び入手容易性の点で、アルギン酸ナトリウムを用いることが好ましい。アルギン酸塩は、昆布等の海藻から抽出及び精製することができる。
【0026】
工程(a)では、食品用生地にアルギン酸塩水溶液を添加して均一に含ませるので、アルギン酸塩は第一の生地中に溶け込んでいる。一方、リン酸三カルシウムは固体状であるから、第一の生地中には、固体状、例えば粉末状のリン酸三カルシウムが均一に分散している。
【0027】
工程(a)において、アルギン酸塩とリン酸三カルシウムの添加順序は問わない。アルギン酸塩を先に添加して均一に含ませた後に、リン酸三カルシウムを添加して均一に分散させてもよい。リン酸三カルシウムを先に添加して均一に分散させた後、アルギン酸塩を添加して均一に含ませてもよい。アルギン酸塩とリン酸三カルシウムを同時に又は並行して添加し、アルギン酸塩を均一に含ませるとともに、リン酸三カルシウムを均一に分散させてもよい。好ましい実施形態では、工程(a)において、食品用生地にアルギン酸塩水溶液を添加して均一に含ませた後、リン酸三カルシウムを添加して均一に分散させる。
【0028】
工程(b)では、第一の生地にグルコノデルタラクトン水溶液を添加して均一に含ませて、第二の生地を得る。工程(b)ではグルコノデルタラクトン(グルコノラクトンともいう)がpH調整剤として機能し、第二の生地のpHが酸性側にシフトする。これにより、第二の生地中に分散しているリン酸三カルシウムが徐々に溶解して、カルシウムイオンが放出される。そしてカルシウムイオンがアルギン酸塩と反応し、ゲル化が開始する。このゲル化は生地全体で徐々に進むので、生地が所望の固さになるまで待機することができる。少なくとも、本工程ではゲル化が瞬時に起こることはなく、局所的にゲル化が起こることもない。グルコノデルタラクトン水溶液は、グルコノデルタラクトンを水に溶解して調製した後、直ちに第一の生地に添加することが好ましい。
【0029】
工程(c)では、所定時間経過後に、第二の生地を所望の形状に成形するとともにアルギン酸のゲル化を完了させて、プロセスチーズ様の固形食品を得る。前記所定時間は、生地が所望の固さになる範囲で適宜設定すればよいが、例えば、1分以上、3分以上、5分以上、8分以上、等である。前記所定時間の上限は、例えば、15分以下、20分以下、30分以下、40分以下、等である。前記所定時間を1~10分、3~10分、5~10分、等に設定することができる。所定時間経過後、例えば生地が所望の固さになった時点で、所望の形状に成形するとともにゲル化を完了させる。例えば、金型に生地を導入し、金型内でゲル化を完了させる。これにより、所望の形状を有するプロセスチーズ様の固形食品が得られる。得られた固形食品はアルギン酸を基材とするので、耐熱保形性に優れ、成形後に加熱殺菌をしても融解することはない。
【0030】
固形食品の形状としては特に限定はなく、球状、サイコロ状、円盤状、円筒状、棒状、等、自由に設定することができる。例えば、直径10mm~20mm程度の球状とすることで、一口サイズのプロセスチーズ様固形食品を得ることができる。
【0031】
好ましい実施形態では、得られた固形食品を、酢酸カルシウム水溶液、乳酸カルシウム水溶液、又は塩化カルシウム水溶液に浸漬する(工程(d))。工程(d)を行うことにより、固形食品の表面の固化がより強固になる。
【0032】
工程(a)におけるアルギン酸塩の使用量については、ゲル化剤として機能する量であれば特に限定はないが、工程(a)で得られる第一の生地中におけるアルギン酸塩の含有割合が0.8~2質量%となるように設定することが好ましい。前記含有割合は、より好ましくは0.9~2質量%、さらに好ましくは1~2質量%である。
【0033】
工程(a)におけるリン酸三カルシウムの使用量については、アルギン酸塩とのゲル化が起こる量であれば特に限定はないが、工程(a)で得られる第一の生地中におけるリン酸三カルシウムの含有量が、質量比で、前記アルギン酸塩の含有量の0.4倍以上であることが好ましい。前記含有量は、より好ましくはアルギン酸塩の含有量の0.45倍以上、さらに好ましくは0.5倍である。リン酸三カルシウムの前記含有量の上限は特に限定されないが、例えば、アルギン酸塩の含有量の0.6倍以下、0.55倍以下、等とすることができる。リン酸三カルシウムの含有量が多すぎると、最終的に得られる固形食品中に白点が生じるおそれがあり、外観上好ましくない。リン酸三カルシウムの前記含有量が、アルギン酸塩の含有量の0.45~0.55倍であることが好ましい。
【0034】
工程(b)におけるグルコノデルタラクトンの使用量については特に限定はなく、目標とするpH等に応じて適宜選択すればよいが、工程(b)で得られる第二の生地中におけるグルコノデルタラクトンの含有量が、質量比で、アルギン酸塩の含有量の0.3倍以上であることが好ましい。前記含有量は、より好ましくはアルギン酸塩の含有量の0.35倍以上、さらに好ましくは0.4倍である。グルコノデルタラクトンの前記含有量の上限は特に限定されないが、例えば、アルギン酸塩の含有量の0.5倍以下、0.45倍以下、等とすることができる。グルコノデルタラクトンの含有量が多すぎると、生地のpHが急激に変化するおそれがあり、生地の取扱い性の点で好ましくない。グルコノデルタラクトンの前記含有量が、アルギン酸塩の含有量の0.35~0.45倍であることが好ましい。
【0035】
続いて、チョコレート様の固形食品を製造する実施形態(第二実施形態)について説明する。本実施形態は、チョコレート類を主原料として含む食品用生地を用いる(工程(a’))以外は、主原料としてチーズ類を用いる第一実施形態と基本的に同じである。工程(c)と工程(c’)も操作は同じである。
【0036】
「チョコレート類」には、「チョコレート類の表示に関する公正競争規約」第2条で定義される、チョコレート、準チョコレート、チョコレート菓子、準チョコレート菓子、カカオマス、ココアバター、ココアケーキ、ココアパウダー(ココア)及び調整ココアパウダー(調整ココア)が含まれる。また「チョコレート類」には、スイートチョコレート、ミルクチョコレート、及びホワイトチョコレートが含まれる。
チョコレート類を主原料として含む食品用生地は、官能的にチョコレートを含んでいると認識される食品用生地である。
チョコレート類を主原料として含む食品用生地は、例えば、市販のチョコレートソースや、チョコレート風味のフラワーペーストを用いて作製することができる。例えば、チョコレートソース、フラワーペースト自体や、これらに他の成分を適宜添加したものが、本実施形態における食品用生地になり得る。チョコレートソース等に添加する他の成分としては、ミルク、ココアパウダー、果物系パウダー、各種香料、等が挙げられる。
【実施例0037】
〔実施例1〕
ゴルゴンゾーラ入チーズソースN(六甲バター株式会社製)600gにチーズパウダーSA(六甲バター株式会社製)600gを加えて均一に混ぜて、チーズ入り生地(食品用生地)を作製した。一方、水980mLにアルギン酸カリウム20gを加えて完全に溶解させて、アルギン酸カリウム水溶液を作製した。前記チーズ入り生地に前記アルギン酸カリウム水溶液全量を加えて均一に混ぜた。続いて、リン酸三カルシウム(粉末)10gを加えて混ぜ、生地内にリン酸三カルシウムの粉末を均一に分散させて、第一の生地を作製した。
【0038】
水192gにグルコノデルタラクトン8gを溶解させてグルコノデルタラクトン水溶液を作製し、直ちにその全量を前記第一の生地に加えて均一に混ぜて、第二の生地を作製した。グルコノデルタラクトン水溶液を加えてから1~10分間経過した後、前記第二の生地が適度な硬さになった時点で、団子製造用と同等の金型に導入した。
【0039】
約1時間経過後、アルギン酸のゲル化が進んで形状が定まったことを確認し、金型から固形物を回収した。得られた固形物を1%酢酸カルシウム水溶液に浸漬し、固形物の表面を完全に硬化させた。水分を切って乾燥させ、プロセスチーズ様の固形食品を得た。得られた固形食品は、直径約10mmの球状であった。
【0040】
得られた固形食品は120℃に加熱しても融解せずに球状を保っており、成形後の加熱殺菌が可能なものであった。
【0041】
〔実施例2〕
チーズソースとチーズパウダーに代えて、プチールマイティーチョコフラワーR(ミルクチョコレート風味のフラワーペースト、田中食品興業所社製)600gとチョコパウダーH(フルタ製菓社製)600gを用いる以外は実施例1と同様の操作を行い、チョコレート様の固形食品を得た。得られた固形食品は120℃に加熱しても融解せず、球状を保っていた。