(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023056279
(43)【公開日】2023-04-19
(54)【発明の名称】探傷試験の欠陥検出方法
(51)【国際特許分類】
G01N 21/91 20060101AFI20230412BHJP
G01N 27/84 20060101ALI20230412BHJP
【FI】
G01N21/91 B
G01N27/84
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021165544
(22)【出願日】2021-10-07
(71)【出願人】
【識別番号】390002808
【氏名又は名称】マークテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100173406
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 真貴子
(74)【代理人】
【識別番号】100067301
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 順一
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 直樹
【テーマコード(参考)】
2G051
2G053
【Fターム(参考)】
2G051AB02
2G051CA04
2G051CB10
2G051EA11
2G051ED11
2G051GB02
2G051GE01
2G053AA11
2G053AB22
2G053BA03
2G053CA11
2G053CB21
2G053DC20
(57)【要約】
【課題】
探傷試験後の探傷画像中の欠陥指示模様候補領域と前記欠陥指示模様候補領域と同一領域の形状画像の類似度を算出することで、検査体の形状変化に起因するノイズを除去することができるので、形状変化を有する検査体であっても、探傷試験時に形状変化部分をマスクして検査対象から除外する必要がなくなるため、作業効率に優れ、形状変化部分近傍の欠陥も検出できる欠陥検出方法を提供する。
【解決手段】
探傷試験後の探傷画像中の欠陥指示模様候補領域と、前記欠陥指示模様候補領域と同一領域の検査体の形状画像との類似度を算出することにより欠陥を検出する欠陥検出方法。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁粉探傷試験及び浸透探傷試験の欠陥検出方法であって、
探傷試験後の探傷画像中の欠陥指示模様候補領域と、前記欠陥指示模様候補領域と同一領域の検査体の形状画像との類似度を算出することにより欠陥を検出する欠陥検出方法。
【請求項2】
前記探傷試験が蛍光磁粉探傷試験又は蛍光浸透探傷試験であり、前記欠陥指示模様候補領域が閾値以上の蛍光輝度を示す領域である請求項1記載の欠陥検出方法。
【請求項3】
前記探傷画像及び/又は形状画像が直線検出処理した画像である請求項1又は2記載の欠陥検出方法。
【請求項4】
前記探傷画像及び/又は形状画像が二値化した画像である請求項1乃至3いずれか記載の欠陥検出方法。
【請求項5】
請求項1乃至4いずれか記載の方法で欠陥を検出することを特徴とする探傷試験装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は探傷試験の欠陥を検出するための方法に関する。詳しくは、探傷試験後の探傷画像中の欠陥指示模様候補領域と、前記欠陥指示模様候補領域と同一領域の検査体の形状を表す形状画像との類似度を算出して欠陥を検出する方法であり、探傷試験時に形状変化部分をマスクして検査対象から除外する必要がなくなるから、探傷試験の作業効率に優れ、また、形状変化の近傍に発生した欠陥も検出可能な探傷試験の欠陥検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明は磁粉探傷試験及び浸透探傷試験の欠陥検出方法である。
【0003】
強磁性の検査体表面や表面付近に磁束を遮るような欠陥があると、その近くで磁束の一部が空間に漏洩し、磁極が形成される。
【0004】
磁粉探傷試験とは、検査体を磁化し、生じた磁極によって吸着された磁粉模様から表層部の欠陥を検出する方法である。
【0005】
しかし、歯車の歯のように溝や突出部等の形状変化があると、形状変化部分にも磁極が発生する。
【0006】
形状変化部分に発生した磁極に付着した磁粉は欠陥でない部分に付着した磁粉であるからいわゆるノイズである。
【0007】
ノイズは、欠陥検出精度を低下させるから、形状変化部分はマスクして検査対象から外す必要がある。
【0008】
形状変化部分にマスクをすると、形状変化部分の近傍に欠陥があったとしてもマスクで覆われるので、欠陥が検出できないという問題がある。
【0009】
また、マスクをする工程が必要なため作業効率が悪いという問題がある。
【0010】
浸透探傷試験においても、余剰の浸透液を洗浄除去する際に、形状変化部分では洗浄不足が発生し、余剰の浸透液が十分に除去できずノイズとなる。
【0011】
ノイズは、欠陥検出精度を低下させるから、磁粉探傷試験と同様に形状変化部分はマスクして検査対象から外す必要があるため作業効率が悪く、また、形状変化部分の近傍に欠陥があったとしても検出できないという問題がある。
【0012】
近年、ディープラーニング等に代表される機械学習により、欠陥に由来する指示模様の特徴を学習して検査を行うことが試みられている。
【0013】
しかし、機械学習のためには、多くの欠陥画像を用意する必要があるが、一般に工業製品における欠陥の発生率は低いため、欠陥画像を得るのが難しいという問題がある。
【0014】
正常品を学習させることで異常を検知する異常検知という手法も用いられることがある。
【0015】
しかし、検査体の検査領域に対して一般に欠陥の領域は小さく、検査画像において欠陥品と正常品との差を学習させるのが難しいという問題がある。
【0016】
そこで、形状変化がある検査体であっても、形状変化部分にマスクをして検査対象から除去しなくても、形状変化に発生した磁極によるノイズを除去でき、高い検出精度で欠陥を検出できる欠陥検出方法の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
特許文献1には、磁化された鋼片の表面に蛍光磁粉を付着させ、該鋼片に付着した蛍光磁粉が発する蛍光を撮像し、得られた撮像画像の微分画像を生成し、前記微分画像から欠陥候補領域を抽出すると共に、前記撮像画像を二値化した画像に現れた領域の大きさ及び形状に基づいて前記欠陥候補領域から欠陥を特定することでノイズ成分から欠陥を分離する方法が記載されている。
【0019】
しかし、特許文献1記載の方法は、蛍光磁粉の分散不足等により蛍光磁粉が凝集した、いわゆる磁粉溜まりによるノイズであって、比較的小さく、点状に現れるノイズを除去する方法であって、形状変化部分に生じる磁極に起因するノイズを除去することはできないという問題がある。
【0020】
本発明者らは、前記諸問題点を解決することを技術的課題とし、試行錯誤的な数多くの試作・実験を重ねた結果、探傷試験後の探傷画像中の欠陥指示模様候補領域と、前記欠陥指示模様候補領域と同一領域の検査体の形状画像との類似度を算出することにより欠陥を検出する欠陥検出方法であれば、形状変化を有する検査体であっても、形状変化部分にマスクをして検査対象から外さなくても、形状変化に起因するノイズを除去でき、また、形状変化部分近傍の欠陥も検出できるので高い検出精度で欠陥を検出できるという刮目すべき知見を得て、前記技術的課題を達成したものである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
前記技術的課題は、次のとおり本発明によって解決できる。
【0022】
本発明は、磁粉探傷試験及び浸透探傷試験の欠陥検出方法であって、探傷試験後の探傷画像中の欠陥指示模様候補領域と、前記欠陥指示模様候補領域と同一領域の検査体の形状画像との類似度を算出することにより欠陥を検出する欠陥検出方法である。
【0023】
また本発明は、前記探傷試験が蛍光磁粉探傷試験又は蛍光浸透探傷試験であり、前記欠陥指示模様候補領域が閾値以上の蛍光輝度を示す領域である前記の欠陥検出方法である。
【0024】
また本発明は、前記探傷画像及び/又は形状画像が直線検出処理した画像である前記の欠陥検出方法である。
【0025】
また本発明は、前記探傷画像及び/又は形状画像が二値化した画像である前記の欠陥検出方法である。
【0026】
また本発明は、前記記載の方法で欠陥を検出することを特徴とする探傷試験装置である。
【発明の効果】
【0027】
本発明は、探傷試験後の探傷画像中の欠陥指示模様候補領域と、前記欠陥指示模様候補領域と同一領域の検査体の形状画像との類似度を算出して、欠陥を検出する方法であるから、検査体の形状変化部分をマスクして検査対象から外さなくても、形状変化に起因するノイズを除去でき、また、形状変化部分近傍の欠陥も検出できるので高い検出精度で欠陥を検出することができる欠陥検出方法である。
【0028】
また、探傷画像及び/又は形状画像に直線検出処理を行って欠陥指示模様や検査体の形状を強調する処理を行なえば、さらに高い検出精度で欠陥を検出することができる。
【0029】
また、探傷画像及び/又は形状画像を二値化すれば、高い検出精度で欠陥を検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図4】探傷画像と直線検出処理した探傷画像の比較である。
【
図5】形状画像と直線検出処理した形状画像の比較である。
【
図6】正常部の探傷画像と形状画像と類似度である。
【
図7】欠陥部の探傷画像と形状画像と類似度である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明は、探傷試験後の探傷画像中の欠陥指示模様候補領域と、前記欠陥指示模様候補領域と同一領域の形状画像との類似度を算出することにより、欠陥を検出する方法である。
【0032】
欠陥指示模様候補領域とは、指示模様が呈されている領域である。
【0033】
本明細書における「指示模様」とは欠陥に起因する指示模様及びノイズに起因する指示模様をいう。
【0034】
本発明における探傷画像とは、探傷試験後の検査体をカメラ等の画像取得手段で取得した画像であればよく、蛍光画像であっても、可視光画像であってもよい。
【0035】
探傷画像の例として、グレースケールで取り込んだ画像、RGB画像、RGB画像から赤(R)、緑(G)又は青(B)の色を抽出した画像、HSV色空間画像、HSL色空間画像を挙げる。
【0036】
本発明における形状画像とは、検査体の形状を表す画像であればよく、検査体をカメラ等の撮像取得手段で取得した画像であってもよいし、CAD(Computer-aided Design)図であってもよいし、蛍光画像であっても、可視光画像であってもよい。
【0037】
本発明における探傷画像及び形状画像には各種画像処理を行ってもよい。
【0038】
画像処理として、直線検出処理を例示する。
【0039】
本明細書における直線検出処理とは、画像中の直線部分が強調されるようにする処理を言い、詳しくは、明るさの変化を強調することで輪郭を明瞭にする処理を言う。
【0040】
探傷画像に直線検出処理を行うと、蛍光磁粉探傷試験であると蛍光部分が、また、浸透探傷試験であると、現像剤層に吸い上げられた浸透液部分の輪郭が強調されるので類似度の算出に資する場合があるからである。
【0041】
ギアに使用される歯車のように直線部が多い検査体には直線検出処理を行えば形状が強調されるので類似度の算出に資する場合がある。
【0042】
指示模様が途切れている場合には、領域を結合して一つの指示模様にする処理をおこなって、欠陥指示模様候補領域としても良い。
【0043】
領域を結合する方法の一例として、ある閾値で画像を二値化した後、結合したい方向に対して膨張処理を行った後に、膨張とは反対方向に収縮処理を行うことで近傍領域を連結して一つの領域とするものがある。
【0044】
欠陥指示模様候補領域を探傷画像から切り出した後、欠陥指示模様候補領域と同一の領域を形状画像から切り出し、類似度を算出する。
【0045】
領域を切り出す画像は元の画像を使用してもよいし、各種画像処理した画像を使用してもよい。
【0046】
類似度の算出方法としては特に限定されず、平均二乗誤差(MSE)や Structual Similarity(SSIM)を例示する。
【0047】
本発明における類似度の算出方法は乖離度を算出して類似度を求める方法であってもよい。
【0048】
MSEは、探傷画像と同一領域の形状画像の同じ位置のピクセルの輝度の差を2乗した値の平均値を使用する。
【0049】
MSEの算出方法は[数1]のとおりである。
【0050】
【0051】
SSIMはピクセル平均、分散、共分散を使用して周囲のピクセルとの相関を取り込んだ指標である。
【0052】
SSIMの算出方法は[数2]の通りである。
【0053】
【0054】
類似度を算出した後、閾値の類似度より高ければ正常部、閾値の類似度よりも低ければ欠陥として評価することができる。
【0055】
閾値は模擬欠陥部との類似度との比較により適宜決定すればよい。
【0056】
例えば、予め、模擬欠陥部を有する検査体を使用して探傷試験を行い、模擬欠陥部の探傷画像と形状画像との類似度を算出し、算出した類似度を基準として決定すればよい。
【0057】
本発明における画像処理は公知の画像処理ソフトを使用することができる。
【実施例0058】
本発明を実施例及び比較例を挙げてより詳しく説明するが、本発明はこれに限られるものではない。
【0059】
ギアの歯車の歯を模した形状の検査体を使用した。なお、検査体は模擬欠陥部を有する。
【0060】
(探傷画像)
軸通電法で検査体を磁化し、検査液を連続法で適用しながら蛍光磁粉探傷試験を行った。
【0061】
探傷試験後の検査体をカラー(RGB)画像として撮影して、緑成分のみを抽出した画像を探傷画像とした。
【0062】
探傷画像から、次のa~dの処理を行って欠陥指示模様候補領域を抽出した。
【0063】
a:探傷画像全体に7×7のフィルターマスクを適用して平滑化し、この画像を閾値画像とし、探傷画像が閾値画像よりも輝度が5以上明るいピクセルを抽出
b:欠陥指示模様候補領域で近傍にあるピクセル同士を連結して一つの領域に結合
c:欠陥指示模様候補領域中で30ピクセルよりも大きく、かつ、1000ピクセルよりも小さい面積の領域を抽出
d:前記領域に半径2ピクセルの円形構造要素を用いた領域膨張を実施して領域を抽出
【0064】
a~dの処理を行って抽出した欠陥指示模様候補領域を探傷画像と形状画像から切り出して類似度算出用の画像とした。
【0065】
類似度算出用の探傷画像及び形状画像は直線検出処理を行ったものと行っていないものの両方を用意した。
【0066】
類似度算出用の探傷画像と直線検出処理した探傷画像を
図4に示す。
【0067】
直線検出処理には、5×5のフィルタ([数3])を使って畳み込み演算を行った。
【0068】
各ピクセルにおいて計算値が0以下となった場合は0の値を使用し、255を超えた場合は255の値を輝度の値として使用した。
【0069】
【0070】
本実施例及び比較例における直線検出処理は同一の方法で行った。
【0071】
(形状画像)
今回は探傷方法として蛍光磁粉探傷を採用したため、形状画像として、検査体を可視光下でカメラにより取得したグレースケールの画像を使用した。
【0072】
できる限り可視光下と紫外線下で検査体やカメラの位置がずれないようにした。
【0073】
対応する可視光と紫外線下の画像中における検査体の位置と大きさが同じとなり、探傷画像から指定される領域を形状画像から切り出すのが簡単になるからである。
【0074】
形状画像と探傷画像の位置と比率が撮影時に同じとなるように調整されていない場合や、CAD図を形状画像として使用する場合は、検査体の特徴点等を用いて探傷画像と形状画像の位置や比率を求める必要がある。
【0075】
可視光下で得たRGB画像についてはグレースケールに変換して形状画像の元画像とした。
【0076】
可視光下で探傷結果の観察を行う染色浸透探傷や、蛍光でない磁粉を使用する場合は、形状画像として、検査前の検査体画像や、あらかじめ撮影したワーク画像、あるいはワークのCAD図を使用すればよい。
【0077】
形状画像から、先に類似度算出用に切り出した探傷画像の範囲と同一の範囲を切り出して類似度算出用の形状画像とした。
【0078】
また、形状画像に直線検出を施したものについても同様にして類似度算出用の形状画像を作成した。
【0079】
取得した類似度算出用形状画像と直線検出処理した形状画像を
図5に示す。
【0080】
取得した類似度算出用の探傷画像と形状画像を使用し、SSIM([数2]:C1=(0.01*255)2 C2= (0.03*255)2)によって類似度を算出した。
【0081】
【0082】
模擬欠陥部領域を探傷画像及び形状画像から全て切り出し、それらに対して算出した類似度をもとに閾値を決定した。
【0083】
直線検出処理を行わなかった場合、全ての欠陥を正しく判定するための閾値は0.74で、これを閾値として正常部を評価すると、類似度が閾値よりも高く計算されたものは正常領域全体の約28%であった。
【0084】
欠陥の95%を正しく判定するように閾値を0.58とすれば正常領域の約66%の類似度が閾値よりも高い値となった。
【0085】
同様に直線検出処理行った場合、全ての欠陥を正しく判定するための閾値は0.42であった。
【0086】
0.42を閾値として正常部を評価すると、欠陥候補領域のうち実際は正常部であるものの約74%の類似度が閾値よりも高くなった。
【0087】
このように類似度を算出することで形状変化によるノイズを選別して排除でき、欠陥を検出することができることが証明された。
本発明は、探傷試験後の探傷画像中の欠陥指示模様候補領域と前記欠陥指示模様候補領域と同一領域の形状画像の類似度を算出することで、形状変化に起因するノイズを除去することができるので、探傷試験時に形状変化部分をマスクして検査対象から除外する必要がなくなるため、作業効率に優れ、また、形状変化部分近傍の欠陥も検出できる欠陥検出方法である。
よって、本発明の産業上の利用可能性は高い。