(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023005629
(43)【公開日】2023-01-18
(54)【発明の名称】電力変換装置
(51)【国際特許分類】
H02P 21/26 20160101AFI20230111BHJP
H02P 6/08 20160101ALI20230111BHJP
【FI】
H02P21/26
H02P6/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021107665
(22)【出願日】2021-06-29
(71)【出願人】
【識別番号】502129933
【氏名又は名称】株式会社日立産機システム
(74)【代理人】
【識別番号】110001689
【氏名又は名称】青稜弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】戸張 和明
(72)【発明者】
【氏名】大橋 敬典
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 弘
(72)【発明者】
【氏名】大矢 将登
【テーマコード(参考)】
5H505
5H560
【Fターム(参考)】
5H505DD08
5H505EE41
5H505EE49
5H505GG02
5H505GG08
5H505HB01
5H505JJ04
5H505LL14
5H505LL22
5H505LL25
5H505LL41
5H560BB04
5H560BB12
5H560DA12
5H560DB12
5H560DC12
5H560EC01
5H560EC02
5H560TT15
5H560XA04
5H560XA10
5H560XA12
5H560XA13
(57)【要約】
【課題】
汎用のコントローラなどに誘起電圧データを持たなくても磁石モータの電流を正弦波にする電力変換装置を提供することにある。
【解決手段】
磁石モータの出力周波数と出力電圧と出力電流を可変にする信号を磁石モータに出力する電力変換器と、電力変換器を制御する制御部を有し、制御部は、磁石モータの位相に応じて変化するq軸の磁束成分のゲインを演算し、誘起電圧係数の設定値と、周波数推定値あるいは周波数指令値と、q軸の前記磁束成分のゲインとに基づいて、d軸の誘起電圧の指令値を演算する電力変換装置。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁石モータの出力周波数と出力電圧と出力電流を可変にする信号を前記磁石モータに出力する電力変換器と、
前記電力変換器を制御する制御部を有し、
前記制御部は、
前記磁石モータの位相に応じて変化するq軸の磁束成分のゲインを演算し、
誘起電圧係数の設定値と、周波数推定値あるいは周波数指令値と、q軸の前記磁束成分のゲインとに基づいて、d軸の誘起電圧の指令値を演算する電力変換装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電力変換装置において、
前記制御部は、
前記磁石モータの位相に応じて変化するd軸の磁束成分のゲインを演算し、
誘起電圧係数の設定値と、周波数推定値あるいは周波数指令値と、d軸の前記磁束成分のゲインとに基づいて、q軸の誘起電圧の指令値を演算する電力変換装置。
【請求項3】
請求項1に記載の電力変換装置において、
前記制御部は、
d軸の前記誘起電圧の指令値と、位相推定値とに基づいて、3相の誘起電圧の指令値を演算する電力変換装置。
【請求項4】
請求項2に記載の電力変換装置において、
前記制御部は、
d軸の前記誘起電圧の指令値と、q軸の前記誘起電圧の指令値と、位相推定値とに基づいて、3相の誘起電圧の指令値を演算する電力変換装置。
【請求項5】
請求項1に記載の電力変換装置において、
前記制御部は、
q軸の前記磁束成分のゲインは、位相推定値の正弦関数として演算する電力変換装置。
【請求項6】
請求項2に記載の電力変換装置において、
前記制御部は、
d軸の前記磁束成分のゲインは、位相推定値の正弦関数として演算し、その演算結果を1から減算する電力変換装置。
【請求項7】
請求項2に記載の電力変換装置において、
前記制御部は、
前記磁石モータの駆動を正弦波駆動とするか、矩形波駆動とするかの指示を受け、
正弦波駆動の指示を受けた場合には、
q軸の前記磁束成分のゲインを0とし、d軸の前記磁束成分のゲインを1とし、
矩形波駆動の指示を受けた場合には、
q軸の前記磁束成分のゲインは位相推定値の正弦関数として演算して求め、d軸の前記磁束成分のゲインは、位相推定値の正弦関数として演算して、その演算結果を1から減算して求める電力変換装置。
【請求項8】
請求項2に記載の電力変換装置において、
前記制御部は、
前記磁石モータが矩形波駆動である選択の指示を受けた場合には、
位相推定値の正弦関数における次数Nの選択の指示を受けて、
前記次数Nに基づいて、q軸の前記磁束成分のゲインおよびd軸の前記磁束成分のゲインを演算する電力変換装置。
【請求項9】
請求項2に記載の電力変換装置において、
前記制御部は、
電圧指令値および電流検出値と、位相誤差の推定値や推定周波数を、
上位装置であるIOTコントローラに解析のためにフィードバックし、
q軸の前記磁束成分のゲインもしくはd軸の前記磁束成分のゲインを演算するのに必要な位相推定値の正弦関数における次数Nを、IOTコントローラからの解析に基づいて自動設定する電力変換装置。
【請求項10】
請求項1に記載の電力変換装置において、
前記制御部は、
q軸の前記磁束成分のゲインもしくはd軸の前記磁束成分のゲインを演算するのに必要な位相推定値の正弦関数における次数N、または前記磁石モータの駆動を正弦波駆動とするか、矩形波駆動とするかを、デジタル・オペレータやパーソナル・コンピュータあるいはタブレット、スマートフォン機器から設定・変更できる電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
磁石モータの誘起電圧に基本波周波数の5次成分と7次成分が重畳している場合、コントローラのメモリに磁石モータの誘起電圧データを記憶して、角周波数ωおよび回転位置θに基づいて、d軸およびq軸の誘起電圧の指令値を生成し、電流を正弦波にする制御技術が特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、コントローラのメモリに磁石モータの誘起電圧データを記憶する必要がある。また、特許文献1では、磁石モータの基本波周波数の5次成分と7次成分を含有する誘起電圧に起因する電流を正弦波にする技術であるが、誘起電圧が矩形波の場合、高調波成分の3の倍数を除く奇数成分(11次、13次、17次、19次、23次、25次・・・)による電流脈動の発生が考えられる。
【0005】
本発明の目的は、汎用のコントローラなどに誘起電圧データを持たなくても磁石モータの電流を正弦波にする電力変換装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の好ましい一例としては、磁石モータの出力周波数と出力電圧と出力電流を可変にする信号を前記磁石モータに出力する電力変換器と、
前記電力変換器を制御する制御部を有し、
前記制御部は、
前記磁石モータの位相に応じて変化するq軸の磁束成分のゲインを演算し、
誘起電圧係数の設定値と、周波数推定値あるいは周波数指令値と、q軸の前記磁束成分のゲインとに基づいて、d軸の誘起電圧の指令値を演算する電力変換装置である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、汎用のコントローラなどに誘起電圧データを持たなくても磁石モータの電流を正弦波にできる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施例1における電力変換装置などのシステム構成図。
【
図2】実施例1における磁束ゲイン演算部の構成図。
【
図3】実施例1におけるベクトル制御演算部の構成図。
【
図5】実施例におけるq軸の磁束ゲイン演算部(N=4)の構成図。
【
図6】実施例1におけるd軸の磁束ゲイン演算部(N=4)の構成図。
【
図8】実施例1におけるq軸の磁束ゲイン演算部(N=1)の構成図。
【
図9】実施例1におけるd軸の磁束ゲイン演算部(N=1)の構成図。
【
図12】実施例2における電力変換装置などのシステム構成図。
【
図13】実施例3における電力変換装置などのシステム構成図。
【
図14】実施例4における電力変換装置などのシステム構成図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を用いて本実施例を詳細に説明する。なお、各図における共通の構成については同一の参照番号を付してある。また、以下に説明する各実施例は図示例に限定されるものではない。
【実施例0010】
図1は、実施例1における電力変換装置と磁石モータとを有するシステム構成図を示す。
【0011】
磁石モータ1は、永久磁石の磁束によるトルク成分と電機子巻線のインダクタンスによるトルク成分を合成したモータトルクを出力する。
【0012】
電力変換器2はスイッチング素子としての半導体素子を備える。電力変換器2は、3相交流の電圧指令値vu
*、vv
*、vw
*を入力し、3相交流の電圧指令値vu
*、vv
*、vw
*に比例した電圧値を出力する。電力変換器2の出力に基づいて、磁石モータ1は駆動され、磁石モータ1の出力電圧値と出力周波数値および出力電流値は可変に制御される。スイッチング素子としてIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)を使うようにしてもよい。
【0013】
直流電源3は、電力変換器2に直流電圧および直流電流を供給する。
【0014】
電流検出器4は、磁石モータ1の3相の交流電流iu、iv、iwの検出値であるiuc、ivc、iwcを出力する。また該電流検出器4は、磁石モータ1の3相の内の2相、例えば、u相とw相の交流電流を検出し、v相の交流電流は、交流条件(iu+iv+iw=0)から、iv=-(iu+iw)として求めてもよい。
【0015】
本実施例では、電流検出器4は、電力変換装置内に設けた例を示したが、電力変換装置の外部に設けてもよい。
【0016】
制御部は、以下に説明する座標変換部5、速度制御演算部6、磁束ゲイン演算部7、ベクトル制御演算部8、位相誤差推定演算部9、周波数および位相の推定演算部10、座標変換部11を備える。そして、制御部は、磁石モータ1の出力電圧値と出力周波数値および出力電流は可変に制御するように電力変換器2の出力を制御する。
【0017】
制御部は、マイコン(マイクロコンピュータ)やDSP(Digital Signal Processor)などの半導体集積回路(演算制御手段)によって構成される。制御部は、いずれかまたは全部をASIC(Application Specific Integrated Circuit)やFPGA(Field Programmable Gate Array)などのハードウェアで構成することができる。制御部のCPU(Central Processing Unit)が、メモリなどの記録装置に保持するプログラムを読み出して、上記した座標変換部5などの各部の処理を実行する。
【0018】
次に、制御部の各構成要素について、説明する。
座標変換部5は、3相の交流電流iu、iv、iwの検出値iuc、ivc、iwcと位相推定値θdcからd軸およびq軸の電流検出値idc、iqcを出力する。
【0019】
速度制御演算部6は、周波数指令値ωr
*と周波数推定値ωdcに基づいてトルク指令値τ*を演算し、トルク係数で除算することよりq軸の電流指令値iq
*を出力する。
【0020】
磁束ゲイン演算部7は、位相推定値θdcに基づいて、位相に応じて変化するd軸およびq軸の磁束成分のゲインGd(qdc)、Gq(qdc)を出力する。
【0021】
ベクトル制御演算部8は、d軸およびq軸の電流指令値id
*、iq
*、電流検出値idc、iqc、周波数推定値ωdcと磁石モータ1の電気回路パラメータ、d軸およびq軸の磁束成分のゲインGd(qdc)、Gq(qdc)に基づき演算した電圧指令値vdc
**、vqc
**を出力する。
【0022】
位相誤差推定演算部9は、制御軸のd軸およびq軸の電圧指令値vdc
**、vqc
**、周波数推定値ωdc、電流検出値idc、iqcおよび磁石モータ1の電気回路パラメータを用いて、制御の位相である位相推定値θdcと磁石モータ1の磁石の位相θdとの偏差である位相誤差Δθの推定値Δθcを出力する。
【0023】
周波数および位相の推定演算部10は、位相誤差の推定値Δθcに基づいて、周波数推定ωdcと位相推定値θdcを出力する。
【0024】
座標変換部11は、d軸とq軸の電圧指令値vdc
**、vqc
**と、位相推定値θdcから3相交流の電圧指令値vu
*、vv
*、vw
*を出力する。
【0025】
最初に、本実施例の特徴である磁束ゲイン演算部7を用いた場合のセンサレスベクトル制御方式の基本動作について説明する。
【0026】
速度制御演算部6は、周波数指令値ωr
*に周波数推定値ωdcが追従するよう、比例制御と積分制御により(数式1)に従いトルク指令τ*とq軸の電流指令値iq
*を演算する。
【0027】
【数1】
ここに、
K
sp:速度制御の比例ゲイン、K
si:速度制御の積分ゲイン、P
m:極対数、
K
e:誘起電圧係数、L
d:d軸インダクタンス、L
q:q軸インダクタンス、
*:設定値、sはラプラス演算子
【0028】
図1の磁束ゲイン演算部7、ベクトル制御演算部8について説明する。
図2は、磁束ゲイン演算部7のブロックを示す。磁束ゲイン演算部7は、q軸の磁束ゲイン演算部71とd軸の磁束ゲイン演算部72より構成される。
【0029】
q軸の磁束ゲイン演算部71は、位相推定値θdcを用いて(数式2)に従い位相推定値の正弦関数を演算してq軸の磁束ゲインGq(θdc)を出力する。
【0030】
【0031】
d軸の磁束ゲイン演算部72は、位相推定値θdcを用いて(数式3)に従い位相推定値の正弦関数を演算してd軸の磁束ゲインGq(θdc)を出力する。Nは次数で自然数である。
【0032】
【0033】
図3にベクトル制御演算部8のブロックを示す。第1に、ベクトル制御演算部8のd軸の電圧指令値について説明する。
【0034】
永久磁石モータ1の誘起電圧係数Ke
*81とq軸の磁束ゲインGq(θdc)は乗算部82に入力される。乗算部82の出力は周波数推定値ωdcとともに乗算部83に入力され、その出力は(数式4)で示されるd軸の誘起電圧の指令値edc
*となる。ここでは周波数推定値ωdcを乗算部83の入力としたが、周波数推定値ωdcの代わりに周波数指令値ωr
*を乗算部83の入力として乗算部82の出力と乗算するように変形してもよい。
【0035】
【0036】
誘起電圧係数Ke
*81は一定値であり、回転位置に応じて変化する誘起電圧のデータなどではない。さらに演算部84は、永久磁石モータ1の電気回路パラメータである巻線抵抗の設定値R*、q軸のインダクタンスの設定値Lq
*、d軸の電流指令値id
*、q軸の電流指令値iq
*、周波数推定値ωdcを用いて(数式5)に従いd軸の電圧指令値vdc0
*を演算する。
【0037】
演算部84の出力vdc0
*はd軸の誘起電圧の指令値edc
*とともに加算部85に入力され、加算部85の出力は(数式6)に示すd軸の電圧指令値の基準値vdc
*となる。
【0038】
【0039】
【0040】
第2に、ベクトル制御演算部8のq軸の電圧指令値について説明する。永久磁石モータ1の誘起電圧係数Ke
*81とd軸の磁束ゲインGd(θdc)は乗算部87に入力される。乗算部87の出力は周波数推定値ωdcとともに乗算部88に入力される。乗算部88の出力は(数式7)で示されるq軸の誘起電圧の指令値eqc
*となる。ここでは周波数推定値ωdcを乗算部88の入力としたが、周波数推定値ωdcの代わりに周波数指令値ωr
*を乗算部88の入力として乗算部87の出力と乗算するように変形してもよい。
【0041】
【0042】
さらに演算部86は、永久磁石モータ1の電気回路パラメータである巻線抵抗の設定値R*、d軸のインダクタンスの設定値Ld
*、d軸の電流指令値id
*、q軸の電流指令値iq
*、周波数推定値ωdcを用いて(数式8)に従いq軸の電圧指令値vqc0
*を演算する。
【0043】
演算部86の出力vqc0
*はq軸の誘起電圧の指令値eqc
*とともに加算部89に入力される。加算部89の出力は(数式9)に示すq軸の電圧指令値の基準値vqc
*となる。
【0044】
【0045】
【0046】
第3に、ベクトル制御の電流制御演算について説明する。d軸およびq軸の電流指令値id
*、iq
*に各成分の電流検出値idc、iqcが追従するよう比例制御と積分制御により、(数式10)に従いd軸およびq軸の電圧補正値Δvdc、Δvqcを演算する。
【0047】
【数10】
ここに、
K
pd:d軸の電流制御の比例ゲイン、K
id:d軸の電流制御の積分ゲイン
K
pq:q軸の電流制御の比例ゲイン、K
iq:q軸の電流制御の積分ゲイン
【0048】
さらに(数式11)に従い、d軸およびq軸の電圧指令値vdc
**、vqc
**を演算する。
【0049】
【0050】
位相誤差推定演算部9は、d軸およびq軸の電圧指令値vdc
**、vqc
**、電流検出値idc、iqcと磁石モータ1の電気回路パラメータ(R*、Lq
*)、周波数推定ωdcに基づき、拡張誘起電圧式(数式12)に従い、位相誤差の推定値Δθcを演算する。
【0051】
【0052】
周波数および位相の推定演算部10について説明する。
位相誤差の推定値Δθcを指令値Δθc
*に追従するようP(比例)+I(積分)制御演算により、(数式13)に従い周波数推定値ωdcを、I制御演算により(数式14)に従い位相推定値θdcをそれぞれ演算する。
【0053】
【数13】
ここに、
Kp
pll:PLL制御の比例ゲイン、Ki
pll:PLL制御の積分ゲイン
【0054】
【0055】
つぎに本発明でモータ電流が正弦波となる原理について説明する。
図4は、d軸およびq軸の磁束ゲインを、それぞれG
q(θ
dc)=0、G
d(θ
dc)=1とした場合の制御特性1を示す。誘起電圧が矩形波である磁石モータ1を駆動したシミュレーション結果である。
【0056】
図4において、上段はd軸およびq軸の誘起電圧の指令値e
dc
*とe
qc
*、中段はu相の矩形波誘起電圧e
uとu相の誘起電圧の指令値相当e
u
*、下段はu相の交流電流i
uを表示している。G
q(θ
dc)=0、G
d(θ
dc)=1なので、d軸およびq軸の誘起電圧の指令値e
dc
*とe
qc
*は(数式15)となりe
u
*は正弦波となる。
【0057】
【0058】
その結果、u相の交流電流iuは正弦波の電流ではなく、5次調波と7次調波が重畳した歪んだ電流となってしまう。
【0059】
本発明の磁束ゲイン演算部7を用いるにあたり、(数式2)中に示す次数Nを例えば4に設定する。
図5にN=4に設定したq軸の磁束ゲイン演算部71aのブロック(24次調波までの補償)を示す。
【0060】
n=1の位相は演算部71a1、磁束ゲインは演算部71a2で演算される。n=2の位相は演算部71a3、磁束ゲインは演算部71a4で演算される。n=3の位相は演算部71a5、磁束ゲインは演算部71a6で演算される。n=4の位相は演算部71a7、磁束ゲインは演算部71a8で演算される。これらは一義的に決まり、n=1からn=4の演算結果を加算した信号はGq(θdc)となる。
【0061】
つぎに(数式3)中に示すN=4に設定する。
図6にN=4に設定したd軸の磁束ゲイン演算部72aのブロック(24次調波までの補償)を示す。
【0062】
n=1の位相は演算部72a1、磁束ゲインは演算部72a2で演算される。n=2の位相は演算部72a3、磁束ゲインは演算部72a4で演算される。n=3の位相は演算部72a5、磁束ゲインは演算部72a6で演算される。n=4の位相は演算部72a7、磁束ゲインは演算部72a8で演算される。定数「1」は設定部72a9に設定される。n=1からn=4の演算結果と定数「1」を加算した信号はGd(θdc)となる。
【0063】
図7は、磁束ゲイン演算部7を用いた(N=4を使用した)場合の制御特性2を示す。誘起電圧が矩形波である磁石モータ1を駆動したシミュレーション結果である。
【0064】
図7において、上段はd軸およびq軸の誘起電圧の指令値e
dc
*とe
qc
*、中段はu相の矩形波誘起電圧e
uとu相の誘起電圧の指令値相当e
u
*、下段はu相の交流電流i
uを表示している。G
q(θ
dc)は
図5のブロック、G
d(θ
dc)は
図6のブロックで示した場合である。d軸およびq軸の誘起電圧の指令値e
dc
*とe
qc
*は24次の高調波成分まで含んでおり、誘起電圧の指令値相当e
u
*は高調波を含んだ正弦波とは離れた波形となるが、u相の交流電流i
uは正弦波の電流であることがわかる。本発明の効果が明白であることがわかる。
図4の場合ではd軸の誘起電圧の指令値e
dc
*はゼロになっているが、d軸の誘起電圧の指令値e
dc
*が、
図4のようなゼロではなく、高調波成分を含む形状(のこぎり波)になっていることが特徴のひとつである。
【0065】
さらに
図1の磁束ゲイン演算部7のN=1に設定する。(数式2)においてN=1にする。
図8にN=1に設定したq軸の磁束ゲイン演算部71bのブロック(6次調波の補償)を示す。n=1の位相は演算部71b1、磁束ゲインは演算部71b2で演算される。この信号はG
q(θ
dc)となる。
【0066】
つぎに(数式3)においてN=1にする。
図9は、N=1に設定したd軸の磁束ゲイン演算部72bのブロック(6次調波の補償)を示す。n=1の位相は演算部72b1、磁束ゲインは演算部72b2で演算される。定数「1」は設定部72b3に設定される。定数「1」とn=1との加算信号はG
d(θ
dc)となる。
【0067】
図10は、本発明である磁束ゲイン演算部7を用いた(N=1を使用した)場合の制御特性3を示す。誘起電圧が矩形波である磁石モータ1を駆動したシミュレーション結果である。
【0068】
図10において、上段はd軸およびq軸の誘起電圧の指令値e
dc
*とe
qc
*、中段はu相の矩形波誘起電圧e
uとu相の誘起電圧の指令値相当e
u
*、下段はu相の交流電流i
uを表示している。G
q(θ
dc)は
図8のブロック、G
d(θ
dc)は
図9のブロックで演算した場合である。
【0069】
d軸およびq軸の誘起電圧の指令値edc
*とeqc
*は6次の高調波成分を含んでおり、誘起電圧の指令値相当eu
*は正弦波とは離れた波形となるが、u相の交流電流iuは正弦波と比べて多少歪んではいるが、本発明の効果が明白であることはわかる。本実施例の効果を確認するため、例として次数NをN=4とN=1に設定したが、Nは自然数でかつ、Nの値が大きい程、u相の交流電流はより正弦波に近づくことができる。
【0070】
本実施例によれば、汎用のコントローラなどで誘起電圧データを持たなくても磁石モータの電流を正弦波にできる。
【0071】
ここで、
図11を用いて本実施例を採用した場合の検証方法について説明する。磁石モータ1を駆動する電力変換装置20に、電圧検出器21、電流検出器22を取り付け、磁石モータ1のシャフトにエンコーダ23を取り付ける。
【0072】
ベクトル電圧・電流成分の計算部24に、電圧検出器21の出力である3相交流の電圧検出値(vuc、vvc、vwc)、3相交流の電流検出値(iuc、ivc、iwc)とエンコーダの出力である位置検出値θが入力され、ベクトル電圧成分のvdcc、vqcc、ベクトル電流成分のidcc、iqccと、位置θを微分した検出値ωrcを演算する。
各部波形の観測部25では、(数式16)を用いてd軸およびq軸の誘起電圧edc
^、eqc
^を計算する。
【0073】
【0074】
edc
^、eqc
^の電圧波形を観測すれば、本発明を採用していることが明白となる。