(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023056306
(43)【公開日】2023-04-19
(54)【発明の名称】高所作業用安全装置 並びにこれを具えた車輌
(51)【国際特許分類】
A62B 35/00 20060101AFI20230412BHJP
【FI】
A62B35/00 F
A62B35/00 J
A62B35/00 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021165587
(22)【出願日】2021-10-07
(71)【出願人】
【識別番号】508282270
【氏名又は名称】有限会社栄和自動車
(74)【代理人】
【識別番号】100086438
【弁理士】
【氏名又は名称】東山 喬彦
(74)【代理人】
【識別番号】100217168
【弁理士】
【氏名又は名称】東山 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】飯田 武
(72)【発明者】
【氏名】飯田 泰教
【テーマコード(参考)】
2E184
【Fターム(参考)】
2E184JA03
2E184LA07
2E184LA19
(57)【要約】
【課題】 基本的に一人の作業者が、例えば大型貨物車輌の荷台上部での作業を充分な安心感を持って行えるようにした新規な高所作業用安全装置並びにこれを具えた車輌の開発を技術課題とする。
【解決手段】 本発明の高所作業用安全装置1は、高所作業域内において安全確保が必要とされる位置に設けられる基部レール2と、この基部レール2に対し移動自在に支持される移動基台4と、この移動基台4に作業時に立ち上げられ、不使用時に格納されるように構成されたガード体5とを具え、作業者はガード体5を伴って作業位置まで移動し、その作業位置で作業の安全を確保することを特徴とする。また立ち上げ・格納自在のガード体5は、格納時には基部レール2に沿った倒伏状態とすることが好ましい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高所作業域内における安全確保を必要とされる位置に設けられる基部レールと、
この基部レールに対し移動自在に支持される移動基台と、
この移動基台に作業時に立ち上げられ、不使用時に格納されるように、立ち上げ・格納自在としたガード体と
を具えていることを特徴とする高所作業用安全装置。
【請求項2】
前記立ち上げ・格納自在としたガード体は、格納時には基部レールに沿った倒伏状態とすることを特徴とする請求項1記載の高所作業用安全装置。
【請求項3】
前記移動基台は、立ち上げ状態におけるガード体の下端部を嵌め込み得るポストブラケットを具えるものであり、
移動基台とガード体との支持構造は、ピンと、このピンに対応してガード体の長手方向に長孔状に開口したピン受孔との係合によって支持するものであり、
且つ立ち上げ状態では、ガード体をポストブラケットに嵌め込んで立ち上げ状態を得る一方、格納状態ではガード体をポストブラケットから引き上げた状態で、ピンを中心として回動させて格納状態とする構成であることを特徴とする請求項2記載の高所作業用安全装置。
【請求項4】
前記ガード体は、緩巻取傾向を有する緊急ロック式の安全ベルトを具え、
ガード体から作業者側までをつなぐベルト本体の長さが常に適切な長さになるように調整されるとともに、衝撃引出時にはベルト本体の繰り出しがロックされる構成であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項記載の高所作業用安全装置。
【請求項5】
前記基部レールは、横H形断面であり、上下のフランジ部と、それをつなぐウェブ部とを具え、ウェブ部を挟んで上下のフランジ間に形成される左右一対のスペースを滑走案内部とするとともに、上部のフランジ部の上面には断面下窄まり状の制動溝が設けられ、
一方、移動基台は、前記基部レールに対し跨座状態に配設される基台フレームと、この基台フレームに支持される主滑走輪と、制動球輪とを具え、
前記主滑走輪は、前記基部レールの左右の滑走案内部に位置するように左右に分配配置され、
また前記制動球輪は、基台フレームの上方において、前記制動溝に嵌まり込むように圧接状態に取り付けられる構成であることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項記載の高所作業用安全装置。
【請求項6】
前記制動球輪は、基台フレームに対し、上下方向の高さ位置が変更できるように取り付けられ、制動溝への圧接状態が調整可能に構成されていることを特徴とする請求項5記載の高所作業用安全装置。
【請求項7】
前記移動基台は、主滑走輪及び制動球輪に加えて、更に横ブレ防止輪を具えるものであり、
この横ブレ防止輪は、回転軸方向を直立方向とし、基台フレームの内側において左右一対を一組として、前後二組の計四輪設けられ、基部レールの垂直構成部位に接して転動する構成であることを特徴とする請求項6記載の高所作業用安全装置。
【請求項8】
前記基部レールは、一対のCチャンネル形材を背中合わせ状に組み合わせて成り、上面中央の合わせ部に形成される溝を制動溝とするものであり、
且つ上下のフランジ部の先端側が断面方向において滑走案内部の開放寸法を狭めるように直角に曲成されて巻込リブを構成し、この巻込リブに対して、横ブレ防止輪を内側から接するように配設する構成であることを特徴とする請求項7記載の高所作業用安全装置。
【請求項9】
前記左右一対で設けられた横ブレ防止輪は、基部レールに対する上下当接位置が異なるように配設され、
且つ平面視、対角位置に配置された前後の横ブレ防止輪は、基部レールに対する上下当接位置が同じ高さ位置になるように配設されていることを特徴とする請求項8記載の高所作業用安全装置。
【請求項10】
前記請求項1から9のいずれか1項記載の高所作業用安全装置を荷台の天板上部に具えていることを特徴とする車輌。
【請求項11】
前記荷台はバルクボディであり、高所作業用安全装置はバルクボディの上部に設けられていることを特徴とする請求項10記載の車輌。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば大型貨物車輌の荷台上部での作業の安全を図るために適切な高所作業用安全装置並びにこれを具えた車輌に関するものである。
【背景技術】
【0002】
大型貨物自動車等にあっては、積荷に特化した荷台構造が採られ、加えてその荷役作業も荷台上部に作業者が昇って行わなければならない場合も多くある。
例えば液体貨物を輸送するタンクローリーや、いわゆるバルク状貨物の一例である紛粒飼料を積載した飼料運搬車等である。このうち特に飼料運搬車の場合、その貨物を収容する函体状のバルクボディは、一般的には上面がほぼ平坦で且つ下窄まり状の断面形状を成し、粉粒体の貨物を下方に落とし易い構成を採っている。そして、この平らなボディ上面に点検や粉粒体投入用のハッチが設けられており、荷役作業の都度、作業者はバルクボディの上面に昇り、このハッチを開けて、内部のバルク状の貨物である飼料を観察や確認する作業を行っている。
【0003】
しかしながら、上面が平らなこともあって、従来この種の飼料運搬車にあっては足場については格別な考慮がされていなかった。一方で実際には使用を経るにつれ、バルクボディの上面に微細な飼料紛が付着し、滑り易い状態となってしまっていることも多い。そのためバルクボディの上面がほぼ平らであったとしても、ここでの作業は極めて危険なものとなっていた。
加えて、このような飼料運搬車の場合、上面のハッチは内部点検のために作業者が入り込めるような比較的大きな開口寸法で形成されており、不用意な作業をした場合、作業者が転落しそうな危険な状態も生じていた。
【0004】
このような状態が一部認識されていたとはいえ、危険な状況を回避するための高所作業用安全装置については、足元が比較的平坦であり、歩行移動も可能なこともあって従来はほとんど設置する考慮がされてなかった。しかし、現実には先に述べたような足元の滑り易さなど安全性を欠く作業環境となっている。
もちろん、このような貨物車輌であっても、例えばタンクローリー等、断面円形や楕円形の積荷容器たるタンクを具えた車輌では、荷台上面の作業はそのままでは行い得ないため、タンク最上部中央に一定幅のステップを設けたり、更に安全性を高めるための柵を設けたりする等の提案がなされている(例えば特許文献1参照)。
一方でこの種の飼料運搬車の荷室を構成するバルクボディは前後に長く、その前後にわたる作業範囲全域に安全柵を設けた場合には、装置として大掛かりなものとなり、ひいては、その分、積荷可能な重量も減らさざるを得なくなってしまうという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような背景を考慮してなされたものであって、基本的には一人の作業者が上部作業をすることを考え、その作業者がいる作業位置での安全確保ができればよいとの着想の下、新規な高所作業用安全装置並びにこれを具えた車輌の開発を技術課題としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち請求項1記載の高所作業用安全装置は、
高所作業域内における安全確保を必要とされる位置に設けられる基部レールと、
この基部レールに対し移動自在に支持される移動基台と、
この移動基台に作業時に立ち上げられ、不使用時に格納されるように、立ち上げ・格納自在としたガード体と
を具えていることを特徴として成るものである。
【0008】
また請求項2記載の高所作業用安全装置は、前記請求項1記載の要件に加え、
前記立ち上げ・格納自在としたガード体は、格納時には基部レールに沿った倒伏状態とすることを特徴として成るものである。
【0009】
また請求項3記載の高所作業用安全装置は、前記請求項2記載の要件に加え、
前記移動基台は、立ち上げ状態におけるガード体の下端部を嵌め込み得るポストブラケットを具えるものであり、
移動基台とガード体との支持構造は、ピンと、このピンに対応してガード体の長手方向に長孔状に開口したピン受孔との係合によって支持するものであり、
且つ立ち上げ状態では、ガード体をポストブラケットに嵌め込んで立ち上げ状態を得る一方、格納状態ではガード体をポストブラケットから引き上げた状態で、ピンを中心として回動させて格納状態とする構成であることを特徴として成るものである。
【0010】
また請求項4記載の高所作業用安全装置は、前記請求項1から3のいずれか1項記載の要件に加え、
前記ガード体は、緩巻取傾向を有する緊急ロック式の安全ベルトを具え、
ガード体から作業者側までをつなぐベルト本体の長さが常に適切な長さになるように調整されるとともに、衝撃引出時にはベルト本体の繰り出しがロックされる構成であることを特徴として成るものである。
【0011】
また請求項5記載の高所作業用安全装置は、前記請求項1から4のいずれか1項記載の要件に加え、
前記基部レールは、横H形断面であり、上下のフランジ部と、それをつなぐウェブ部とを具え、ウェブ部を挟んで上下のフランジ間に形成される左右一対のスペースを滑走案内部とするとともに、上部のフランジ部の上面には断面下窄まり状の制動溝が設けられ、
一方、移動基台は、前記基部レールに対し跨座状態に配設される基台フレームと、この基台フレームに支持される主滑走輪と、制動球輪とを具え、
前記主滑走輪は、前記基部レールの左右の滑走案内部に位置するように左右に分配配置され、
また前記制動球輪は、基台フレームの上方において、前記制動溝に嵌まり込むように圧接状態に取り付けられる構成であることを特徴として成るものである。
【0012】
また請求項6記載の高所作業用安全装置は、前記請求項5記載の要件に加え、
前記制動球輪は、基台フレームに対し、上下方向の高さ位置が変更できるように取り付けられ、制動溝への圧接状態が調整可能に構成されていることを特徴として成るものである。
【0013】
また請求項7記載の高所作業用安全装置は、前記請求項6記載の要件に加え、
前記移動基台は、主滑走輪及び制動球輪に加えて、更に横ブレ防止輪を具えるものであり、
この横ブレ防止輪は、回転軸方向を直立方向とし、基台フレームの内側において左右一対を一組として、前後二組の計四輪設けられ、基部レールの垂直構成部位に接して転動する構成であることを特徴として成るものである。
【0014】
また請求項8記載の高所作業用安全装置は、前記請求項7記載の要件に加え、
前記基部レールは、一対のCチャンネル形材を背中合わせ状に組み合わせて成り、上面中央の合わせ部に形成される溝を制動溝とするものであり、
且つ上下のフランジ部の先端側が断面方向において滑走案内部の開放寸法を狭めるように直角に曲成されて巻込リブを構成し、この巻込リブに対して、横ブレ防止輪を内側から接するように配設する構成であることを特徴として成るものである。
【0015】
また請求項9記載の高所作業用安全装置は、前記請求項8記載の要件に加え、
前記左右一対で設けられた横ブレ防止輪は、基部レールに対する上下当接位置が異なるように配設され、
且つ平面視、対角位置に配置された前後の横ブレ防止輪は、基部レールに対する上下当接位置が同じ高さ位置になるように配設されていることを特徴として成るものである。
【0016】
また請求項10記載の車輌は、
前記請求項1から9のいずれか1項記載の高所作業用安全装置を荷台の天板上部に具えていることを特徴として成るものである。
【0017】
また請求項11記載の車輌は、前記請求項10記載の要件に加え、
前記荷台はバルクボディであり、高所作業用安全装置はバルクボディの上部に設けられていることを特徴として成るものである。
そして、これら各請求項記載の発明の構成を手段として前記課題の解決が図られる。
【発明の効果】
【0018】
まず請求項1記載の発明によれば、作業者の落下防止を図るガード体自体は移動基台に取り付けられて、基部レールに対し移動自在に設けられているから、作業者がガード体を伴って作業位置に移動し、その作業位置で作業の安全を確保することができる。加えてガード体自体は作業時以外には、格納しておくことができ、コンパクトな収納形態が得られる。
【0019】
また請求項2記載の発明によれば、立ち上げ・格納自在としたガード体は、格納時には基部レールに沿うように倒伏させるものであるから、例えば高所作業用安全装置を車輌に適用した場合には、法制上規制されている車輌寸法(高さ寸法)内に高所作業用安全装置を搭載することができる。
【0020】
また請求項3記載の発明によれば、移動基台とガード体との支持構造は、ピンと、長孔状のピン受孔との係合によるものであるから、立ち上げ状態では、ガード体をポストブラケットに嵌め込んでガード体を強固に立設することができる一方、格納状態ではガード体をポストブラケットから引き上げた状態で、ピンを中心として回動させて倒伏状態とすることができ、極めてシンプルな構成の下にガード体の姿勢切り換えが行い得る。
【0021】
また請求項4記載の発明によれば、ガード体は、リトラクタ式の安全ベルトを具えているから、ベルト本体の繰出先端を作業者側に接続することにより、万が一の転落事故等を安全に回避することができ、作業者は安心して高所作業に専念することができる。
【0022】
また請求項5記載の発明によれば、横H形断面の基部レールと、この基部レールを跨座状態に覆いながら移動する基台フレームとの間において、制動溝に対し制動球輪が圧接状態に取り付けられるから、ガード体を伴う移動基台の緩固定状態を得ることができる。
【0023】
また請求項6記載の発明によれば、制動球輪の制動溝に対する圧接状態を調節自在としているから、最適な緩固定状態が得られる。
【0024】
また請求項7記載の発明によれば、移動基台は、更に横ブレ防止輪を具えるから、移動基台の左右方向への倒れ込みが防止され、結果的にガード体の直立状態を維持するとともに、前後方向への直進性も確保することができる。
【0025】
また請求項8記載の発明によれば、基部レールは、Cチャンネル形材を背中合わせ状に組み合わせて構成され、このものにおける巻込リブに横ブレ防止輪を内接状態に当接させるものであるから、より確実に横ブレ防止効果を発揮させることができる。
【0026】
また請求項9記載の発明によれば、左右一対の横ブレ防止輪は、基部レールに対する上下当接位置が異なるものの、対角位置に配置された横ブレ防止輪同士は、上下当接位置が同じ高さになるように配設されるから、横ブレ防止輪による横ブレ防止効果をより一層確実に発揮させることができる。
【0027】
また請求項10記載の発明によれば、高所の荷台位置において、作業者が必要とする位置にガード体を設けることができ、且つ不使用時においては、ガード体を格納状態とすることにより法制上規制されている車輌寸法、特に高さ方向の寸法規制内にガード体を格納することができる。
【0028】
また請求項11記載の発明によれば、特に従来、荷台上部での荷役作業において安全柵等の設置が試みられていなかった飼料運搬車等であっても、高所作業用安全装置が設置され、荷役作業中の安全性を充分に確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】本発明の高所作業用安全装置を具えた車輌の一例を示す側面図(a)、並びに平面図(b)、並びに車輌後方から視た背面図(c)、並びに高所作業用安全装置を示す斜視図(d)である。
【
図2】高所作業用安全装置を拡大して示す斜視図(a)、並びに本図(a)のII方向から視た矢視図(平面図)(b)である。
【
図3】高所作業用安全装置を示す正面図(a)、並びに本図(a)のA-A線における側面断面図(b)、並びに図(a)のB-B線における側面断面図(c)、並びに図(a)のC方向から視た投影図(下面図)(d)である。
【
図4】立ち上げ状態のガード体を、基部レールに沿った倒伏状態に格納する様子を段階的に示す説明図である。
【
図5】基部レール自体を縦長断面の板状部材とし、且つこのレールの上下を移動基台のローラで挟むように構成した改変例を示す説明図(a)、並びにガード体を長手方向に幾つかに分断した分割体を伸縮自在として、ガード体を立ち上げ・格納自在とした改変例を示す説明図(b)である。
【
図6】二本の杆状部材をリンク機構によって連結したガード体の改変例を示す説明図(a)、並びに一本の筒状体で構成したガード体に対し、格納・張出自在の拡張ガード片を複数本配設した改変例を示す説明図(b)である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明の高所作業用安全装置並びにこれを具えた車輌は、以下述べる実施例を最良の形態の一つとするものであり、更にその技術思想に基づき種々の改変した実施の形態が含まれるものである。
【実施例0031】
以下、本発明を図示の実施例に基づいて具体的に説明する。
本発明の高所作業用安全装置1は、高所作業域内において安全確保を必要とされる位置に設けられる基部レール2と、この基部レール2に支持される移動ガードユニット3とを具えて成る。また、当該移動ガードユニット3は、基部レール2に移動自在に支持される移動基台4と、この移動基台4に対し作業時に立ち上げられる一方、不使用時に格納されるように、立ち上げ・格納自在としたガード体5とを具えて成る。
ここで高所作業の典型的な例としては、例えば貨物用車輌の荷台上で行う荷役作業が挙げられものであり、特に本実施例では、車輌10として飼料等を対象とした飼料運搬車を例示する。
【0032】
以下、高所作業用安全装置1の説明に先立ち、上記車輌10について概略的に説明する。
車輌10は、一例として
図1に示すように、荷台にバルクボディ11を設けるものであって、このものは、ほぼ平板状の天板12から、ボディ側部の下方を下窄まり状とした断面形状を有する。また、バルクボディ11の内部を収容室11aとするものであり、ここに輸送対象となる飼料等が貯留される。この収容室11aは、バルクボディ11の長手方向に沿って複数室に区画されて成り、各収容室11aに応じて前記天板12にハッチ13が複数前後方向に並ぶように形成される。因みに、このハッチ13は、積荷物が粉粒体であり、内部においてブリッジ現象等、移送を滞らせるような現象が生じた場合の対応や、内部の消毒等の都度、作業者が入り込めること等を考慮して、比較的大きな開口寸法に設定される。
【0033】
更にバルクボディ11の下方には、スクリューコンベヤ14が設けられ、更にこのスクリューコンベヤ14の端部、多くは後端部から更に上方に延びる移送パイプ15が設けられている。またバルクボディ11の後端あるいは更に加えて前方には、作業者がバルクボディ11の天板12に昇るためのステップ16を具える。
なお収容室11aが複数設けられているのは、例えば給飼対象となる畜鶏類の種類あるいは成長状態等に応じて異なる飼料を運搬することに対応するためである。またこのバルクボディ11は、車輌10の後部に設けられた、いわゆるトラックタイプのものであってもいいし、トラクターに牽引されるトレーラタイプのもの、更にはトラック後方に接続されるトレーラタイプのもの(いわゆるフルトレーラタイプ)等、種々の形態が採り得る。
因みに、バルクボディ11を具えた車輌10として、本実施例では上述したように飼料運搬車を主に図示したが、車輌10としては、このような飼料運搬車の他、パラセメント輸送車やチップ運搬車なども想定される。
【0034】
そして、このような車輌10に対し、一例として
図1~
図3に示すように、本発明の高所作業用安全装置1が適用(搭載)される。
この高所作業用安全装置1は、上述したように基部レール2と移動ガードユニット3とを具えて成るものであり、まず基部レール2について説明する。
基部レール2は、前記バルクボディ11の天板12の外端部に沿って設けられるものであり、天板12の長手方向左右両側に設けてもよいが、実際の作業形態を考慮すると、例えばハッチ13の開閉方向等により、作業は左右いずれかの片側で行われることが多く、このため一方の側縁に沿った形態とすることが多い。因みに、本実施例では、例えば上記
図1に示すように、基部レール2は、車輌10(天板12)の右側縁に沿って設けられている。
基部レール2は、例えば取付ブラケット21を介して、バルクボディ11あるいは他の構造部材等に適宜取り付けられるものであり、基部レール2は、基本的には、断面横H形を成すように設けられる。具体的には、一般的な規格材として提供されているCチャンネル形材を背中合わせ状に組み合わせて一体化し、この一体化物を本実施例では基部レール2として用いている。このようにCチャンネル形材を背中合わせ状に組み合わせたことにより、例えば
図3(c)に示すように、レールの上下にフランジ部22が構成され、その間をレール幅方向中央部で上下につなぐウェブ部23が構成されるものであり、ウェブ部23を挟んで上下フランジ部22間に形成される左右両側のスペースを滑走案内部24とする。
【0035】
そして基部レール2の構成部材がCチャンネル形材であることに因み、上下フランジ部22の端縁部には、滑走案内部24の開放寸法を幾らか狭めるように、巻込リブ25が直角に曲成されている。
更に基部レール2は、その上側のフランジ部22のレール幅方向中央部にCチャンネル形材を合わせたことに伴う、断面ほぼV字状の凹陥部を成す制動溝26を具える。
更にまた基部レール2は、例えば
図3(a)・(c)に示すように、車輌10の前後方向の端部において、このものが支持する移動ガードユニット3の抜け落ちを防止する閉鎖板27を具えるが、少なくともその一方の閉鎖板27は、基部レール2に対し着脱自在とする。これは移動ガードユニット3を基部レール2に対し移動自在に支持させるにあたっては、後述する移動基台4の主滑走輪45や横ブレ防止輪46を、滑走案内部24内に収めるようにセットするためである。換言すれば、例えば移動ガードユニット3のメンテナンスや調整等を行う場合、基部レール2から移動ガードユニット3を取り外して、滑走案内部24内から主滑走輪45や横ブレ防止輪46を露出させて当該作業を行うためである。
【0036】
以下、閉鎖板27について更に説明する。
閉鎖板27は、一例として
図2に示すように、基部レール2の端部(ここでは後端部)に、差込片27aを有する閉鎖板27をあてがい、この差込片27aに適宜のメネジを形成して、基部レール2における留め孔27bから固定ボルト27cを差込片27aにネジ込み、常時は基部レール2に閉鎖板27を固定状態に取り付けておくものである。
更に、基部レール2とは別体の部材であるが、一例として上記
図2に示すように、車体後部側における基部レール2の端部の延長上に格納スタンド28を設ける。この格納スタンド28は、前記移動ガードユニット3のガード体5を水平に倒した格納状態とした際に、ガード体5の自由端側を支持固定する部材である。
【0037】
格納スタンド28は、具体的には、筒状部材の上方に受台部28aを設けるとともに、その側面にクランプバックル29を設ける。このクランプバックル29は、格納したガード体5の一部、すなわち自由端側に設けられた固定用ボルト51aを保持するものであって、詳細は省略するが、ガード体5の固定用ボルト51aに係止するフック29aと、このフック29aを適宜のリンクを介して下方に引き下げるハンドル29bとを具えている。
【0038】
次に、このような基部レール2に対し、移動自在に支持される移動ガードユニット3について説明する。なお、移動ガードユニット3は、基部レール2に対し移動できるように構成されるものの、荷役作業等を行う作業者が積極的に移動ガードユニット3を押さない限り移動することはないため、このような状態を本明細書では「緩固定状態」と称している。
移動ガードユニット3は、上述したように基部レール2に沿って移動する移動基台4と、この移動基台4に対し立ち上げ・格納自在に構成されるガード体5とを具えて成る。
【0039】
まず移動基台4について説明する。
移動基台4は、基部レール2に対し跨座状態に配設され、各機能部材を支持するための基台フレーム40を骨格部材として具える。
この基台フレーム40は、平面視で前後方向が横幅寸法よりも長く形成された天板部41を具えるものであり、この天板部41は、例えば天板部底板41aの左右両側から天板部側板41bを連続して直角に立ち上げるように形成され、言わば断面U字状に構成されている(例えば
図3(c)参照)。
また、天板部41の左右両側面(天板部側板41b)には、側板42が面合わせ状態に設けられており、この側板42の下端縁は、天板部底板41aよりも下方に突出するように構成されている。
更に、基台フレーム40は、ガード体5を立ち上げ状態で支持するためのポストブラケット43を具えるとともに(
図3(b)参照)、基台フレーム40の後端縁において立ち上がり状に設けられるロックピンブラケット44とを具える。
【0040】
以下、これら基台フレーム40の各部材に支持される機能部材について説明する。
まず、両側板42には、その内側に左右一対を成す主滑走輪45を一組とし、これを前後にわたって二組、計四輪の主滑走輪45が設けられる(例えば
図3(d)参照)。これら主滑走輪45は、その支持軸45aを側板42から内側に延長させて片持状態に取り付けられるものであり、結果的に左右一対の対向的に設けられた一組の主滑走輪45は、適宜の対向間隙45Gを有する(
図3(b)参照)。なお、この対向間隙45Gは、主滑走輪45を滑走案内部24に収めた実使用時には、基部レール2のウェブ部23の受入間隙となる。
【0041】
更に、側板42は、横ブレ防止輪46をも支持する。この横ブレ防止輪46は、基部レール2における巻込リブ25に内接して、移動基台4とガード体5との横ブレを抑えるものである。横ブレ防止輪46の具体的構成は、例えば
図3(c)に示すように、両側板42からそれぞれ対向的に内側に向かうように軸支ブラケット47を張り出させ、ここに軸を直立配置して横ブレ防止輪46を設けるものである。この横ブレ防止輪46も、左右一対で対向配置されたものを一組とし、これを前後にわたって二組、計四輪の横ブレ防止輪46が設けられる(例えば
図3(d)参照)。
【0042】
ただし、左右一対で設けられた横ブレ防止輪46は、基部レール2の巻込リブ25に対する上下当接位置が異なるように配設される一方、平面視、対角位置に配置された前後の横ブレ防止輪46は、巻込リブ25に対する上下当接位置が同じ高さ位置になるように配設されている。すなわち一方の対角線上に配置された横ブレ防止輪46同士は、前記軸支ブラケット47に対し上方、つまり天板部41側に配設され、もう一方の対角線上に配置された横ブレ防止輪46同士は、軸支ブラケット47の下方に配設され、互いに横ブレ防止輪46の取付位置が上下に異なるように構成されている。この結果、上側の横ブレ防止輪46は、基部レール2の上方の巻込リブ25の内側に接し、下側の横ブレ防止輪46は、下方の巻込リブ25の内側に接するように配設されている。そして、このような構成によって、横ブレ防止輪46による横ブレ防止効果を、より一層確実に発揮させることができるものである。
【0043】
次に天板部41に支持される制動球輪48について説明する。
制動球輪48は、天板部41(天板部底板41a)の前後両端近くにおいて、天板部底板41aより下方に突出するように設けられる(
図3(b)参照)。この制動球輪48は、使用時において前記基部レール2の制動溝26に圧着する。また制動球輪48は、ボールキャスタと称される転動自在の球輪であって、そのボルト状の取付軸48aは、天板部底板41aから上方に突出し、天板部底板41aの上方に配置した支持バー49に対し、これを挟む上下の固定ナット49aにより固定されている。この構成から理解できるように固定ナット49aの締込みを調節することにより、制動球輪48の下方への突出状態を適宜調整することができ、結果的に基部レール2の制動溝26に対する圧着状態を適宜設定することができる。
【0044】
次に、ガード体5を立ち上げ状態で支持するためのポストブラケット43について説明する。
ポストブラケット43は、一例として
図2に示すように、内側に矩形状の空間を形成するように構成され、この空間内に前記ガード体5の下端部を内嵌め状態に落とし込むように構成される。具体的には、ポストブラケット43は、平面から視て直角状に折り曲げられたポストブラケット本体431を二つ用いて構成され、角筒状を成すガード体5を取り囲むように、二つのポストブラケット本体431が、天板部側板41bの内側に立設される。
ポストブラケット43は、このようにしてガード体5を立ち上げ支持するものであるが、ガード体5を倒伏状態に格納できるようにも構成されており、以下、これについて説明する。
【0045】
ポストブラケット43には、車輌10の幅方向にピン43Pが設けられ、ポストブラケット43の上部には、車輌10の前後方向のいずれか一方または双方に倒伏用切欠43aが形成される。
また、後述するガード体5の本体51には、一例として
図3(a)に示すように、下端部において前記ピン43Pの対応位置に、上下方向に沿った長孔状のピン受孔52が形成されており、このピン受孔52内に前記移動基台4におけるピン43Pが挿入され、ガード体5を倒伏自在に構成している。すなわち、このような構成によって、使用時にはガード体5がポストブラケット43によって直立状態の支持が維持されるとともに、不使用時にはガード体5を倒伏できるような構成としている。
【0046】
ガード体5の立ち上げ・格納の具体的な操作としては、例えば
図4に示すように、立ち上げ状態のガード体5を倒伏させる際には、一旦、本体51を引き上げてピン受孔52の下端部が前記ピン43Pの位置まで引き上げるようにしてから、ピン43Pを回動軸として本体51を倒伏用切欠43a側に倒伏させるものであり、これによりガード体5は、基部レール2に沿う横倒し状態に格納することができる(
図2(a)参照)。
一方、倒伏状態のガード体5を立ち上げる際には、上記と逆の操作、すなわちピン43Pを中心として、横倒し状態の本体51を直立状態まで回動させ、その後、ガード体5の下端を、ポストブラケット43によって形成された内側の筒状空間内に落とし込むようにするものであり、これにより立ち上げ状態としたガード体5をポストブラケット43によって強固に保持することができ、ガード体5の支持状態が維持されるものである。なお、このようなガード体5の支持構造を「上下落とし込みによる嵌め合い起立構造」と称することがある。
【0047】
次に、基台フレーム40の後端縁において立ち上がり状に設けられたロックピンブラケット44について説明する。
ロックピンブラケット44は、不使用時において基部レール2の後端部まで移動させた移動基台4を移動しないように固定するものである。そして、このロックピンブラケット44には、一例として
図3(a)に示すように、ロックハンドル441が上下方向に回動するように取り付けられており、このロックハンドル441を下方に回動操作することにより、ロックハンドル441に対して、適宜のリンク機構を介して接続されたロックピン442が下方に突出するように構成されている。
そして、ロックを行う際には、このようにして下方に突出させたロックピン442を、基部レール2に予め形成されているピン孔22aに差し込んで、移動基台4の移動を阻止するものである。
【0048】
ここで、上述した格納スタンド28とロックピンブラケット44との作用上の相違について説明する。
格納スタンド28は、上述したように、倒伏させた格納状態のガード体5を固定ロックし、例えば車輌10の走行に伴いガード体5が不用意に立ち上がらないようにしたり、ガード体5が揺れ動いたりしないようにするためのものである。これに対し、ロックピンブラケット44によるロック構造は、移動基台4自体の移動を阻むものであり、これらを両者同時に併用することで、高所作業用安全装置1の格納状態がより一層確実に維持される。しかしながら、高所作業用安全装置1の適用において走行を伴わないなど、使用環境等によって、どちらか一方でも上記格納状態が充分に確保し得るのであれば、いずれか一方のみを適用するだけでもちろん構わない。
【0049】
次にガード体5について説明する。このものは一例として杆状の本体51を具えるものであり、上述したように前記移動基台4におけるポストブラケット43に対して、本体51の下端部を一例として内嵌状態として支持される。そして、ガード体5を格納する際には、ガード体5の本体51を一旦引き上げ状態として、ピン受孔52の下端部が前記ピン43Pの位置まで引き上げると、本体51はピン43Pを回動軸として倒伏用切欠43a側に倒伏できるような位置関係となり、ガード体5は基部レール2に沿ったような横倒し状に倒伏できるものである。
一方、この倒伏状態からガード体5における本体51を起こして行くと、ピン43Pを中心に、一定角度、直立近くまで持ち上がるが、その後は本体51の引き上げ状態を解除すると、本体51はその自重で前記ピン受孔52の長孔に従い降下し、その下端部がポストブラケット43に内嵌めされる状態となり、直立状態が維持される。
なお、
図2中の符号51aは、ガード体5の倒伏状態を維持するための固定用ボルトであり、ガード体5を倒伏させた際、この固定用ボルト51aが、格納スタンド28のクランプバックル29によって固定される。
【0050】
更に本体51の回動自由端側の端部、すなわち使用時においては上方に位置する端部にはグリップ53を設ける。このグリップ53の近傍には適宜のアイフック54を設けておくものであり、このアイフック54を利用して一例として安全ベルト6を係止させる。
【0051】
安全ベルト6は、作業者側のハーネス等とガード体5とを結ぶ保安部材であって、これにより作業者が高所作業域から転落(落下)することを防止している。
安全ベルト6は、巻き取り・引き出し自在の一定長を有する「リトラクタ式墜落阻止器具」と称される安全ベルト6を適用することが好ましい。このものは巻取ケース61内に一定長さのベルト本体62が収納されており、巻取ケース61の接続用の取付リング63を、カラビナ64を介して前記ガード体5のアイフック54に接続する。一方、巻取ケース61内のベルト本体62の繰出先端には、ベルトフック65が設けられ、このものを作業者が装備したハーネスにおける接続用のカラビナ等に係止できるように構成されている。そして前記ベルト本体62自体は、常に適切な長さになるように調整されるとともに、衝撃引出時など一定の加速度が生じた場合、すなわち作業者の落下事故等が起きた場合には、これを検知して安全用のラチェット機構等のブレーキ作用により、それ以上のベルト本体62の繰り出しがされないようにして作業者の転落を防止するものである。なお、このような機構自体は、自動車に採用されているシートベルトと同様の構造である。また、このような構造の安全ベルト6を「緩巻取傾向を有する緊急ロック式の安全ベルト」と称することがある。
【0052】
本発明の好ましい実施例は以上述べたとおりであって、次のように用いられる。
(1)高所作業用安全装置の初期状態(待機状態)
まず高所作業用安全装置1の一般的な初期状態(待機状態)について説明する。例えば、高所作業(荷役作業)を行うにあたり、作業者が車輌10すなわちバルクボディ11の後部から天板12の上部に昇って作業を行う場合には、移動基台4は、基部レール2上においてバルクボディ11の後端側近くに待機させておき、且つガード体5も後方に向けて倒伏した状態で待機させておくことが望ましい。もちろん、この待機状態では、移動基台4については、ロックハンドル441の回動操作によってロックピン442を、基部レール2(フランジ部22)のピン孔22aに差し込んで、基部レール2上を移動しないようにロックしておくものである。更に、ガード体5については、クランプバックル29によって格納スタンド28に保持し、倒伏状態を強固に維持しておくものである。
【0053】
なおガード体5の倒伏方向が、車輌前方側のみに設定されている場合、作業者はバルクボディ11の前方から天板12の上部に昇る態様が望ましい。またこの場合、装置の初期状態として、移動基台4については、バルクボディ11の前端側近くに待機させておき、ガード体5も上記のように前方に向けて倒伏した状態で待機させておくことが望ましい。
因みにガード体5の倒伏方向が、前方または後方のどちらも採り得る場合には、作業者がバルクボディ11の前方または後部のいずれからでも天板12の上部に昇ることができるようにステップ16も前後に設けておくことが好ましい。また、この場合には、移動基台4を待機させておいた方(バルクボディ11の前方あるいは後方)に、ガード体5の先端を倒伏させておき、作業者も至近のステップ16を利用して、そこから天板12の上部にアクセスすることが好ましい。
【0054】
(2)作業開始
作業者は、まずステップ16を幾分か上りながら、安全ベルト6の取付リング63をガード体5の先端付近に設けられたアイフック54に対し、カラビナ64を介して係止させる。一方、巻取ケース61から延びたベルト本体62のベルトフック65を作業者のハーネスに設けたカラビナ等を利用して係止させ、両者の係合を図る。
その後、作業者は更にステップ16を上りながら、ガード体5の倒伏状態を維持していたクランプバックル29を解除し、ガード体5を立ち上げ可能な状態とする。また、移動基台4についても、ロックハンドル441の回動操作によって基部レール2に差し込まれていたロックピン442を抜くようにして、移動基台4が基部レール2上を移動できる状態とする。
【0055】
(3)ガード体の立ち上げ
次いで、作業者は、ガード体5の自由端の上端(グリップ53)を上方に持ち上げるように回動させて、ピン43Pを中心に、ガード体5を起こし上げるようにする。最終的にはガード体5の本体51が、ほぼ直立状態となるように立ち上げる。なお、この立ち上げ状態でピン43Pとピン受孔52とは上下方向での規制がほぼなくなり、本体51の自重で本体51を、移動基台4のポストブラケット43によって形成された矩形状空間内に落とし込むような状態で降下させる。この結果、ガード体5は、ポストブラケット43に内嵌状態となって強固に保持されるとともに、ピン受孔52とピン43Pの係合により、その直立状態が維持される。
【0056】
(4)移動ガードユニットの移動
移動ガードユニット3は、基部レール2に対し緩固定状態に支持されているから、作業者が積極的に移動ガードユニット3を押さない限り、移動することはない。
この緩固定作用は、作業者がガード体5を介して移動基台4を押す(引く)手動操作と、制動球輪48と、基部レール2における制動溝26とが奏するものである。すなわち移動基台4は、制動球輪48が制動溝26に食い込むように押し付けられているため、この反力により、移動基台4の基台フレーム40が持ち上げられるようになり、これに支持される主滑走輪45が基部レール2における上方のフランジ部22の下面(内側面)に当接した状態となる。この状態で特に制動球輪48は、制動溝26に食い込むようになっているから、自由転動が幾分か阻まれた状態を呈し、結果的に移動基台4の自由移動(フリー移動)が阻止される。
【0057】
このような作動状態から理解できるように、主滑走輪45は、基部レール2の下部側のフランジ部22の上面に載って走行するのではなく、上方のフランジ部22の下面に接して転動して行くのである(
図3(b)参照)。
そして、このような静止状態から作業者が移動ガードユニット3を押して行くと、前記緩固定状態となっている移動ガードユニット3は、いずれも転動自在である主滑走輪45と制動球輪48との回転を許容し移動して行く。そして目的の場所まで移動したら、作業者は移動ガードユニット3を押す操作を停止するものであり、これを受けて移動ガードユニット3も、即座にその位置で停止する。
このように本実施例では、制動溝26に対し、上方から食い込み状態に設けた制動球輪48によって、作業者が積極的に移動ガードユニット3を押さない限り、このものの静止状態が維持されるような構成を採っているが、作業者による天板12上での実作業は、ハッチ13付近で行われることから、移動ガードユニット3(移動基台4)をハッチ13付近で、より積極的に固定することも可能である。具体的には、各ハッチ13付近の基部レール2に、位置決め用のピン孔を開口しておき、ここに位置決めピンを差し込んで、移動ガードユニット3(移動基台4)を目的のハッチ13付近で強固に固定することが考えられる。なお、この場合の位置決めピンは、上述したロックピン442を兼用することができる。
その後、作業者は、目的の場所で、自らの背後に移動ガードユニット3のガード体5を設置した状態で作業を行う。もちろん、移動ガードユニット3の移動中及び停止中も、作業者は前記安全ベルト6におけるベルト本体62と接続されているため、作業の安全性がより確保される。
【0058】
(5)移動ガードユニットの安定
なお移動ガードユニット3は、移動中・停止中ともに安定した直立姿勢を、横ブレ防止輪46の作用により確保する。すなわち横ブレ防止輪46は、例えば
図3(c)・(d)に示すように、平面から視て一方の対角線上に配置された横ブレ防止輪46同士が、前記軸支ブラケット47に対し上方、つまり天板部41側に配設され、もう一方の対角線上に配置された横ブレ防止輪46同士が、軸支ブラケット47の下方に配設され、互いに横ブレ防止輪46の取付位置が上下に異なるように構成されている。そのため、横ブレ防止輪46は、基部レール2に対する接触位置を均等に分けるような状態を呈し、特に移動方向に対し直交する方向への傾きを有効に抑えている。
【0059】
(6)実作業後
なお、所望の作業が完了した後、作業者は、移動ガードユニット3を伴って、例えばバルクボディ11の天板12上を後端まで戻り、移動基台4をロックハンドル441の回動操作によって基部レール2上にロックするものである。またガード体5を後端側に倒伏させて、その自由端側を格納スタンド28に支承させ、更にクランプバックル29により、両者の固定を図るものである。
また、作業者はステップ16を利用して天板12から降りるが、適宜、作業し易い高さでガード体5におけるアイフック54と巻取ケース61の取付リング63との係合を解除して、車輌10から離れるものである。
【0060】
(7)保守点検
更に本高所作業用安全装置1の稼働部材である移動ガードユニット3については、主滑走輪45をはじめとする移動部材がある。このように常時可動する部材については、使用を経るにつれて保守点検が必要となる。このような場合には、基部レール2における端部の閉鎖板27を取り外せば、ここから移動ガードユニット3全体を基部レール2から抜き取って露出させることができ、可動輪等の点検を容易に且つ確実に行うことができる。
【0061】
〔他の実施例〕
本発明は以上述べた実施例を一つの基本的な技術思想とするものであるが、更に次のような改変が考えられる。
まず上述した基本の実施例では、基部レール2は、断面横H形を成すように形成され、且つこのものの上方に移動基台4が覆い被さるように構成されていたが、例えば
図5(a)に示すように、基部レール2自体を縦長断面の板状部材として形成し、且つこの基部レール2の上下をローラ401で挟むように移動基台4を構成し、このような移動基台4によって前記ガード体5等を支持することが可能である。
【0062】
また、ガード体5と移動基台4との関係において、これを格納自在とする構成については、必ずしもガード体5を倒伏させて格納状態とするだけなく、例えば
図5(b)に示すように、ガード体5を長手方向に幾つかに分断し(これを分割体511とする)、これらを嵌合状態に構成し、全体的に長手方向(上下方向)に伸縮自在とすることが可能である。この場合、もちろん使用時にはガード体5を上方に伸長状態に引き上げて、ガード体5の立ち上げ姿勢を実現するものである。
なお、このような伸長スライド式は、倒伏式に比べると、不使用時における格納状態の全高寸法として、まだ高いことは否めない。しかし、そもそも上述した基本の実施例で充分な長さ(高さ)を有するガード体5を倒伏させて格納状態としたのは、車輌10では、使用時においてガード体5を立ち上げた際の高さが、法制上の規制を超える場合があるため、格納状態での高さ寸法を極力低く抑えるべく、ガード体5を倒伏させて格納するようにしたものである。従って、高所作業用安全装置1の適用対象が車輌10でない場合や、高所作業用安全装置1の設置環境において格別高さに法制上の規制がない場合などには、このような伸長スライド式でも充分に対応し得るものである。
【0063】
更にまた、先に述べた基本の実施例では、ガード体5は、本体51を一本の杆状体で構成したが、例えば
図6(a)で示すように、二本の杆状部材512で本体51を構成し、更にその自由端側及び回動基端側を接続用のリンク機構513で連結するようにしても構わない。このように構成した場合には、立ち上げ状態としたガード体5が作業者の背後における安全確保範囲を一層広くガードするため、作業者は、より強い安心感を持って高所作業にあたることができる。
また、このような二本の杆状部材512で構成した本体51による安全確保範囲の拡張の他、例えば
図6(b)に示すように、一本の杆状体で構成した本体51に対し、翼杆状に形成した拡張ガード片514を上下に複数本配置し(いわゆるヘリンボーン状)、適宜のロッド操作等によって、上記拡張ガード片514を本体51に沿うように格納させたり、本体51から張り出させたりすることも可能である。
【0064】
また、上述した基本の実施例では、例えば不使用時に移動基台4を基部レール2に固定すべく、ロックピン442を基部レール2のピン孔22aに嵌め込む操作は、天板12上に昇った作業者が直接ロックハンドル441を手動操作して行う形態を基本的に説明した。しかしながら、このようなロック操作やその解除操作は、必ずしも作業者がロックハンドル441を直接手動操作するだけでなく、ロックハンドル441(ロックピン442)から比較的遠く離れた位置から操作することも可能である。具体的には、立ち上げ状態のガード体5の上部、例えばグリップ53付近にレバー等の操作片を設けておき、この操作片とロックピン442までの間を、ワイヤやリンク部材等で接続しておき、これらを介してグリップ53付近に設けた当該操作片の操作をロックピン442まで伝達し、移動基台4の固定及び解除操作を行うことも可能である(いわゆる間接操作)。
【0065】
更に、本高所作業用安全装置1を用いた高所作業は、必ずしも車輌10に限定されるものではなく、例えば高層建築構造物の構築作業、より詳細には当該作業の安全柵足場等に本高所作業用安全装置1を用いることもできる。
また基部レール2は、必ずしもシンプルな一直線状に形成される必要はなく、現場の状況などに応じて屈曲形成しても構わない。要は移動基台4の移動(作業者が積極的にガード体5を押した場合に作用する移動が好ましい)が許される曲率であれば、基部レール2を屈曲状に形成することも可能である。もちろん、基部レール2は、必ずしも水平状に設ける必要はなく、仮設階段等に沿って傾斜状に設けるようにしても構わない。