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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023056336
(43)【公開日】2023-04-19
(54)【発明の名称】繊維積層体および分離膜複合体
(51)【国際特許分類】
   B32B 5/26 20060101AFI20230412BHJP
   D04H 1/4318 20120101ALI20230412BHJP
   B01D 69/10 20060101ALI20230412BHJP
   B01D 69/12 20060101ALI20230412BHJP
   B01D 71/32 20060101ALI20230412BHJP
   B32B 27/12 20060101ALI20230412BHJP
   H01M 50/426 20210101ALN20230412BHJP
   H01M 50/454 20210101ALN20230412BHJP
   H01M 50/44 20210101ALN20230412BHJP
【FI】
B32B5/26
D04H1/4318
B01D69/10
B01D69/12
B01D71/32
B32B27/12
H01M50/426
H01M50/454
H01M50/44
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021165626
(22)【出願日】2021-10-07
(71)【出願人】
【識別番号】000229542
【氏名又は名称】日本バイリーン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】若元 佑太
(72)【発明者】
【氏名】川津 善章
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 芳徳
(72)【発明者】
【氏名】多羅尾 隆
【テーマコード(参考)】
4D006
4F100
4L047
5H021
【Fターム(参考)】
4D006GA02
4D006GA41
4D006MA09
4D006MC22
4D006MC23
4D006MC28
4D006MC29
4D006MC30
4D006PB02
4D006PB62
4D006PB64
4D006PC80
4F100AK17B
4F100AK42A
4F100AK52C
4F100AK57A
4F100AT00A
4F100AT00C
4F100BA02
4F100BA03
4F100BA07
4F100BA10A
4F100BA10C
4F100DG01A
4F100DG01B
4F100DG15B
4F100EC03
4F100GB56
4L047AA18
4L047AB07
4L047CA02
4L047CA06
4L047CC12
5H021CC02
5H021CC04
5H021EE10
5H021HH03
(57)【要約】
【課題】
フィルム層に皺や亀裂が生じるという問題が発生するのを防止できると共に、意図せず気体や液体あるいはイオンの通過抵抗が高くなるという問題が発生し難い、強度に富む分離膜複合体を実現可能な繊維積層体、および、当該繊維積層体を備えた分離膜複合体の提供を目的とする。
【解決手段】
フィルム層に不織布層を接触させることで前記フィルム層を補強するため使用する、不織布層と繊維基材層とを有する繊維積層体において、不織布層はフッ素系樹脂を含有する繊維を構成繊維として含んでいること、繊維基材層は不織布層よりも構成繊維の平均繊維径が太いことによって、上述した課題を達成可能な繊維積層体、および、当該繊維積層体を備えた分離膜複合体を提供できる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルム層に不織布層を接触させることで前記フィルム層を補強するため使用する、前記不織布層と繊維基材層とを有する繊維積層体であって、
前記不織布層は、フッ素系樹脂を含有する繊維を構成繊維として含んでおり、
前記繊維基材層は前記不織布層よりも構成繊維の平均繊維径が太い、
繊維積層体。
【請求項2】
不織布層と繊維基材層とを有する繊維積層体における、前記不織布層上にフィルム層を備えた、分離膜複合体であって、
前記不織布層は、フッ素系樹脂を含有する繊維を構成繊維として含んでおり、
前記不織布層と前記フィルム層が接しており、
前記繊維基材層は前記不織布層よりも構成繊維の平均繊維径が太い、
分離膜複合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルム層を補強するため使用する不織布層と繊維基材層とを有する繊維積層体と、繊維積層体における不織布層上にフィルム層を備えた分離膜複合体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、様々な産業用途にフィルムからなる分離膜が活用されている。例えば、分離膜は気体透過膜(例えば、酸素分離膜や二酸化炭素分離膜)や液体透過膜(例えば、水濾過膜)、あるいは、二次電池やキャパシタあるいはレドックスフロー電池用のセパレータ、燃料電池用の電解質膜として利用されている。また、気体透過膜の一例として、特開2003-151585(特許文献1)や特開2012-28017(特許文献2)などにも開示されているように、燃料電池へ高濃度の酸素を提供するため使用される酸素富化膜としての活用も期待されている。
【0003】
そして、より様々な産業用途に活用可能となるよう分離膜の厚みを薄くすることが求められているものの、厚みの薄い分離膜は、取り扱い時や製造過程中における形状安定性、また、使用中における寸法安定性に劣るなど、強度に劣るという問題を有している。そのため、不織布で分離膜を補強して分離膜複合体を調製することが検討されている。
【0004】
このような分離膜複合体として、例えば、特開2018-23955(特許文献3)には、表面を樹脂多孔体で覆った繊維基材における当該樹脂多孔体上に分離膜を形成してなる積層体が開示されている。なお、特許文献3は薄く均質な分離膜を形成するため、繊維基材の表面を樹脂多孔体で覆い平滑化したことを特徴としている。
また、特開平03-108258(特許文献4)には比較例として、ポリプロピレン製の不織布上に酸素選択性透過膜を製膜してなる酸素富化膜が開示されている。
【0005】
更に、特開2009―183879(特許文献5)には、融着繊維を主体とする支持繊維シート上に極細繊維層を備えた、酸素富化膜などを製造する際に用いる分離膜用基材シートが開示されている。なお、特許文献5には実施例として、ポリアクリロニトリルからなる極細繊維層上に薄膜を積層してなる分離膜積層シートを製造したことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003-151585
【特許文献2】特開2012-28017
【特許文献3】特開2018-23955
【特許文献4】特開平03-108258
【特許文献5】特開2009―183879
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本願出願人が検討したところ、特許文献3に開示されている分離膜複合体では、意図せずフィルム層における気体や液体あるいはイオンの通過抵抗が高くなるという問題が発生することがあった。特許文献3に開示されている分離膜複合体では、繊維基材層とフィルム層の層間において、気体や液体あるいはイオンの通過を妨げ得る樹脂多孔体が面状の接触部分をなしフィルム層と接触している。そのため、当該接触部分の各面積が広いことで、フィルム層を気体や液体あるいはイオンが通過し難いためだと考えられた。
【0008】
それに対し、特許文献4に比較例として開示されている分離膜複合体では、繊維基材層とフィルム層の層間において、気体や液体あるいはイオンの通過を妨げ得る繊維基材層の構成繊維が点状あるいは線状の接触部分をなしフィルム層と接触している。そのため、当該態様を備えた特許文献4に開示されている分離膜複合体は、特許文献3に開示されている面状の接触部分をなし接触している態様を備えた分離膜複合体よりも、当該接触部分の面積を小さくできる。しかし、本願出願人が検討したところ、特許文献4に開示されている分離膜複合体において、当該接触部分の面積を十分小さくして、意図せず気体や液体あるいはイオンの通過抵抗が高くなるという問題がより発生し難い分離膜複合体を提供するため、平均繊維径の細い構成繊維からなる繊維基材層を採用すると、フィルム層の補強が十分に行われず強度に富む分離膜複合体を提供できないという問題が発生することがあった。一方、フィルム層を十分補強して強度に富む分離膜複合体を提供できるよう、平均繊維径の太い構成繊維からなる繊維基材層を採用した場合には、当該接触部分の各面積が広くなるため、意図せず気体や液体あるいはイオンの通過抵抗が高くなるという問題が発生することがあった。
【0009】
このように、特許文献3~4に開示されているような従来技術を用いる限り、意図せず気体や液体あるいはイオンの通過抵抗が高くなるという問題の発生を防止すると共に、フィルム層を十分補強して強度に富む分離膜複合体を提供することが困難であった。
【0010】
また、従来技術では不織布層を構成可能な繊維ウェブあるいは不織布上にフィルム層を形成する方法として、特許文献5にも開示されている水面展開法を採用することがある。水面展開法とは、水面にフィルム層を構成可能な樹脂を展開することで水面に膜状の態様で存在させ、次いで、繊維ウェブあるいは不織布の主面上に当該膜状の樹脂を掬い上げ、繊維ウェブあるいは不織布の主面上にフィルム層を形成する方法である。
【0011】
水面展開法では、繊維ウェブあるいは不織布は水中に浸漬される。このとき、吸水して膨潤あるいは収縮した状態の繊維ウェブあるいは不織布上にフィルム層が形成され、その後、乾燥されるが、当該乾燥段階で繊維ウェブあるいは不織布が変形してフィルム層に皺や亀裂が生じるという問題が発生することがあった。実際、特許文献5の実施例で調製された分離膜積層シートでは、極細繊維層の構成繊維が吸水率の高いポリアクリロニトリルからなる繊維であったためか、フィルム層に皺や亀裂が生じ易いものであった。
【0012】
本願出願人は、フィルム層に皺や亀裂が生じるという問題が発生するのを防止できると共に、意図せず気体や液体あるいはイオンの通過抵抗が高くなるという問題が発生し難い、強度に富む分離膜複合体を実現可能な繊維積層体、および、当該繊維積層体を備えた分離膜複合体の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、
「(請求項1)フィルム層に不織布層を接触させることで前記フィルム層を補強するため使用する、前記不織布層と繊維基材層とを有する繊維積層体であって、
前記不織布層は、フッ素系樹脂を含有する繊維を構成繊維として含んでおり、
前記繊維基材層は前記不織布層よりも構成繊維の平均繊維径が太い、
繊維積層体。
(請求項2)不織布層と繊維基材層とを有する繊維積層体における、前記不織布層上にフィルム層を備えた、分離膜複合体であって、
前記不織布層は、フッ素系樹脂を含有する繊維を構成繊維として含んでおり、
前記不織布層と前記フィルム層が接しており、
前記繊維基材層は前記不織布層よりも構成繊維の平均繊維径が太い、
分離膜複合体。」
である。
【発明の効果】
【0014】
本発明にかかる繊維積層体を用いることで、不織布層と当該不織布層よりも構成繊維の平均繊維径が太い繊維基材層とを有する繊維積層体における、前記不織布層上にフィルム層を接した状態で備える分離膜複合体を調製できる。なお、当該分離膜複合体では、フィルム層が繊維積層体(換言すれば、不織布層よりも構成繊維の平均繊維径が太い繊維基材層によって補強された不織布層)によって補強されている。
【0015】
本発明にかかる分離膜複合体では、不織布層とフィルム層が直接接していることで、不織布層とフィルム層の層間において不織布層の構成繊維が点状あるいは線状の接触部分をなしフィルム層と接触している。そのため、特許文献3に開示されている分離膜複合体のような面状の接触部分をなし接触している態様よりも、当該接触部分の面積を小さくでき、意図せず気体や液体あるいはイオンの通過抵抗が高くなるという問題が発生し難い分離膜複合体を提供できる。
【0016】
そして、繊維基材層は不織布層と積層していると共に、当該繊維基材層は不織布層よりも構成繊維の平均繊維径が太いことで、当該繊維基材層によって当該不織布層が効果的に補強されている。そのため、前述した不織布層の構成繊維とフィルム層が接している接触部分の面積を十分小さくするため、平均繊維径の細い構成繊維からなる不織布層を採用した場合であっても、繊維積層体(換言すれば、不織布層よりも構成繊維の平均繊維径が太い繊維基材層によって補強された不織布層)によってフィルム層を十分補強して、強度に富む分離膜複合体を提供できる。
【0017】
また、本発明にかかる不織布層は、フッ素系樹脂を含有する繊維を構成繊維として含んでいる。そのため、本発明にかかる不織布層を構成可能な繊維ウェブあるいは不織布は、吸水して膨潤あるいは収縮しにくいという性質を有する。その結果、本発明にかかる繊維積層体を用いることで、例えば水面展開法を採用した場合であっても、フィルム層に皺や亀裂が生じるという問題が発生するのを防止して、分離膜複合体を提供できる。
【0018】
以上から本発明によって、フィルム層に皺や亀裂が生じるという問題が発生するのを防止できると共に、意図せず気体や液体あるいはイオンの通過抵抗が高くなるという問題が発生し難い、強度に富む分離膜複合体を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明では、例えば以下の構成など、各種構成を適宜選択できる。なお、本発明で説明する各種測定は特に記載や規定のない限り、大気下である常圧25℃温度条件下で測定を行った。そして、本発明で説明する各種測定結果は特に記載や規定のない限り、求める値よりも一桁小さな値まで測定で求め、当該一桁小さな値を四捨五入することで求める値を算出した。具体例として、小数第一位までが求める値である場合、測定によって小数第二位まで値を求め、得られた小数第二位の値を四捨五入することで小数第一位までの値を算出し、この値を求める値とした。また、本発明で例示する各上限値および各下限値は、任意に組み合わせることができる。
【0020】
本発明にかかる繊維積層体はフィルム層を補強する役割を担い、不織布層と繊維基材層とを有する。
【0021】
フィルム層に接触する不織布層は、繊維同士がランダムに絡合してなるシート状の繊維層(例えば、繊維ウェブや不織布由来の繊維層)である。そのため、不織布層とフィルム層の層間において、気体や液体あるいはイオンの通過を妨げる不織布層の構成繊維が点状あるいは線状の接触部分をなしフィルム層と均一的に接触しており、フィルム層を気体や液体あるいはイオンが通過するのを妨げ難い。そして、不織布層では、構成繊維同士がなす空隙の形状や大きさが均一なものであり得ることから、不織布層とフィルム層の層間において、気体や液体あるいはイオンの通過が効率良く成されて、フィルム層を気体や液体あるいはイオンが通過するのを妨げ難い。
【0022】
また、不織布層の構成繊維が点状あるいは線状の接触部分をなしフィルム層と均一的に接触していることで、不織布層によってもフィルム層を効果的に補強できることから、様々な産業用途に使用可能な分離膜複合体を提供できる。
【0023】
そして、不織布層は、フッ素系樹脂を含有する繊維を構成繊維として含んでいる。フッ素系樹脂の吸水率は、特許文献5の実施例において採用されたポリアクリロニトリルの吸水率(0.3%)よりも低いものである。なお、ここでいう吸水率は、以下の方法で求めることができる。
【0024】
(吸水率の測定方法)
(1)測定対象とする、有機樹脂を用意する。
(2)前記有機樹脂を水分の蒸発による重量変化が生じなくなるまで乾燥し、乾燥後の前記有機樹脂の質量(W1)を量る。
(3)乾燥後の前記有機樹脂を、温度30℃、90RH%の雰囲気下に360時間さらすことで吸湿させ、吸湿後の前記有機樹脂の質量(W2)を量る、なお、RH%は飽和水蒸気量に対する比を示す相対湿度を意味する。
(4)得られた質量(W1)と質量(W2)の値を以下の式に代入し、算出された値を前記有機樹脂の吸水率(α、単位:%)とする。
α=100×(W2-W1)/W1
【0025】
なお、上述の測定方法において使用する有機樹脂の形状は適宜選択でき、ペレット状、フィルム状、繊維状、布帛状(例えば、ウェブや不織布、織物や編物)であってもよい。繊維や不織布を上述の測定へ供することによって、繊維や不織布を構成している有機樹脂の吸水率を求めることができる。
【0026】
フッ素系樹脂として、例えば、ポリテトラフルオロエチレン樹脂、ポリフッ化ビニリデン系樹脂などの分子構造中にフッ素原子を有するホモポリマーあるいは共重合体などを採用できる。これらのフッ素系樹脂は、直鎖状ポリマーまたは分岐状ポリマーのいずれからなるものでも構わず、また樹脂がブロック共重合体やランダム共重合体でもよい。また、フッ素系樹脂の立体構造や結晶性の有無がいかなるものでもよい。また、フッ素系樹脂の種類は一種類であっても、混合樹脂など複数種類のフッ素系樹脂が混合している樹脂であってもよい。
【0027】
特に、強度に富む繊維で構成された不織布層であることによって、不織布層によってもフィルム層を効果的に補強できるよう、不織布層の構成繊維を成す樹脂はポリフッ化ビニリデン系樹脂を含有するのが好ましい。なお、ここでいうポリフッ化ビニリデン系樹脂とは、主鎖の分子構造中に-(CHCF)-構造を有する樹脂を指し、フッ化ビニリデンのホモポリマーやPVDF-HFPなどのフッ化ビニリデン共重合体を例示できる。以降、ポリフッ化ビニリデン系樹脂をPVDFと略すことがある。
【0028】
不織布層の構成繊維を成す樹脂に占めるPVDFの質量百分率は適宜調整できる。しかし、当該質量百分率が高いほど、吸水による膨潤あるいは収縮が発生し難いことで、フィルム層に皺や亀裂が生じるという問題が発生するのを防止できると共に、意図せず気体や液体あるいはイオンの通過抵抗が高くなるという問題が発生し難い、強度に富む分離膜複合体を提供できる。そのため、不織布層の構成繊維はPVDFのみで構成されているのが好ましい。
【0029】
不織布層の構成繊維の平均繊維径が細いことによって、不織布層の構成繊維とフィルム層が接している接触部分の面積を十分小さくして、意図せず気体や液体あるいはイオンの通過抵抗が高くなるという問題が発生し難い分離膜複合体を提供できる。
【0030】
この観点から、不織布層の構成繊維の平均繊維径は1μm以下であるのが好ましく、450nm未満であるのが好ましく、400nm以下であるのが好ましい。下限値は適宜調整可能であるが、構成繊維の平均繊維径は10nm以上であるのが現実的であり、100nmより大きいのが好ましく、130nmより大きいのが好ましく、150nm以上であるのが好ましい。本発明でいう「平均繊維径」は、測定対象物の断面や表面などを撮影した5000倍の電子顕微鏡写真をもとに測定した、50点の繊維における各繊維径の算術平均値をいう。また、繊維径が細過ぎて測定が困難である場合には、5000倍よりも高い倍率の電子顕微鏡写真をもとに測定できる。なお、繊維の断面形状が非円形である場合には、断面積と同じ面積の円の直径を繊維径とみなすことができる。
【0031】
不織布層の構成繊維の繊維長は適宜選択するが、特定長を有する短繊維や長繊維、あるいは、実質的に繊維長を測定することが困難な程度の長さの繊維長を有する連続繊維であることができる。不織布層における繊維端部の数が少ないことで、フィルム層と接する不織布層側の表面が平滑となり、不織布層によってもフィルム層を効果的に補強できるよう、構成繊維として連続長を有する連続繊維を含んでいるのが好ましく、構成繊維は連続繊維のみであるのがより好ましい。本発明でいう「繊維長」は、測定対象物の断面や表面などを撮影した5000倍の電子顕微鏡写真をもとに測定できる。繊維の繊維長が長すぎて測定が困難である場合には、5000倍より低い倍率の電子顕微鏡写真をもとに測定できる。
【0032】
不織布層の構成繊維は単繊維以外にも、フィブリル状の繊維や複合繊維でもよい。複合繊維として、例えば、芯鞘型、海島型、サイドバイサイド型、オレンジ型、バイメタル型などの繊維であることができる。そして、構成繊維は横断面の形状が、略円形の繊維や楕円形の繊維以外にも異形断面繊維であってもよい。なお、異形断面繊維として、中空形状、三角形形状などの多角形形状、Y字形状などのアルファベット文字型形状、不定形形状、多葉形状、アスタリスク形状などの記号型形状、あるいはこれらの形状が複数結合した形状などの繊維断面を有する繊維を例示できる。
【0033】
不織布層の構成繊維の調製方法は、適宜選択できる。例えば、溶媒に樹脂を溶解させてなる紡糸液に電界を作用させ紡糸する方法である静電紡糸法、溶媒に樹脂を溶解させてなる紡糸液に遠心力を用いて紡糸する方法、特開2011-012372号公報などに記載の随伴気流を用いて溶媒に樹脂を溶解させてなる紡糸液を紡糸する方法、特開2005-264374号公報などに記載の前述した静電紡糸法の一種である中和紡糸法、あるいは、メルトブロー法やスパンボンド法、などの直接紡糸法を採用できる。
【0034】
なお、直接紡糸法(特に、静電紡糸法)を用いて紡糸した繊維を捕集することで、連続繊維のみで構成された繊維ウェブや不織布を調製できる。また、上述した方法を用いて調製される繊維ウェブや不織布には、その紡糸条件によっては主面上にショットと称されるフィルム様あるいは顆粒状の非繊維状物が付着していることがある。不織布層の主面に非繊維状物が存在するか否か、また不織布層の主面に非繊維状物が存在する場合にはその数や量は適宜調整できる。
【0035】
また、直接紡糸を用いる以外にも、繊維基材層を構成可能な布帛の上に湿式法を用いて細い繊維を積層することで、繊維基材層上に不織布層を形成してもよい。また、繊維基材層を構成可能な布帛の上に、樹脂シートを延伸して形成された繊維の層を形成してもよい。
【0036】
不織布層の目付、厚みなど各種物性は、適宜選択できる。例えば、厚みは0.1~200μmであることができ、0.2~150μmであることができ、その上限は100μm以下であることができ、50μm以下であることができる。なお、本発明でいう「厚み」は、JIS B7502:1994に規定されている外側マイクロメーター(0~25mm)を用いて、JIS C2111 5.1(1)の測定法で、無作為に選んで測定した10点の平均値をいう。
【0037】
例えば、目付は0.05~10g/mであることができ、0.1~5g/mであることができ、0.3~3g/mであることができ、0.5~2g/mであることができる。なお、本発明の「目付」は、JIS L1085に準じて10cm×10cmとして測定した値を意味する。
【0038】
繊維基材層は不織布層を補強する役割を担う、シート状の繊維層である。繊維基材層の種類は適宜選択できるものであって、繊維ウェブや不織布以外にも織物や編物を採用できる。特に、繊維基材層は不織布層と同様に、繊維同士がランダムに絡合してなる繊維ウェブや不織布由来の繊維層であるのが好ましい。不織布層と諸物性が似ていることで、詳細は後述するが、繊維基材層と不織布層間を強固に積層一体化して、更に繊維基材層によって不織布層を効果的に補強できる。また、繊維基材層は、液体あるいは気体の拡散性を高まる効果、局所的に作用する液体あるいは気体から不織布層やフィルム層を保護する効果、不織布層やフィルム層が潰れるのを防止できるクッションとしての効果も発揮し得る。
【0039】
このような不織布層と繊維基材層との好ましい組み合わせとして、静電紡糸不織布層とスパンボンド不織布との組み合わせ、メルトブロー不織布とスパンボンド不織布との組み合わせ、静電紡糸不織布層と湿式不織布との組み合わせなどを挙げることができる。
【0040】
繊維基材層の構成樹脂の種類は適宜選択でき、例えば、ポリエーテル系樹脂(ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなど)、ポリフェニレンサルファイド樹脂、フェノール系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリアミド系樹脂(例えば、アラミド樹脂などの芳香族ポリアミド樹脂、芳香族ポリエーテルアミド樹脂、ナイロン樹脂など)、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリスルホン系樹脂(ポリスルホンなど)、ポリエーテルスルホン系樹脂(ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリエーテルスルホンなど)、フッ素系樹脂(ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン系樹脂(ポリフッ化ビニリデンのホモポリマーやポリフッ化ビニリデン共重合体など)、ビニルアルコール系樹脂(ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニルなど)、ポリカプロラクトン、ポリグリコール酸、ポリビニルピロリドン、ポリベンゾイミダゾール樹脂、アクリル系樹脂(例えば、アクリル酸エステルあるいはメタクリル酸エステルなどを共重合したポリアクリロニトリル系樹脂、アクリロニトリルと塩化ビニルまたは塩化ビニリデンを共重合したモダアクリル系樹脂など)など、公知の樹脂であることができ、一種類の樹脂のみであっても、混合樹脂など複数種類の樹脂であってもよい。
【0041】
特に、詳細は後述するが、繊維基材層の表面と不織布層の構成繊維の表面とが十分溶着した繊維積層体を提供できるよう、繊維基材層の構成繊維はポリエチレンテレフタレート(以降、PETと称することがある)を含んでいるのが好ましく、繊維基材層の構成繊維はPETのみであるのが好ましい。また、繊維積層体における不織布層上にフィルム層を設ける際、あるいは、分離膜複合体の製造工程において、加熱加圧処理が施されても繊維基材層の形状を維持し易いことから、繊維基材層の構成繊維はポリフェニレンサルファイド樹脂を含んでいるのが好ましく、繊維基材層の構成繊維はポリフェニレンサルファイド樹脂のみであるのが好ましい。
【0042】
繊維基材層の構成繊維は、不織布層の構成繊維と同様に、単繊維以外にもフィブリル状の繊維や複合繊維でもよい。また、繊維基材層の構成繊維は、横断面の形状が略円形の繊維や楕円形の繊維以外にも異形断面繊維であってもよい。そして、繊維基材層の構成繊維は、不織布層の構成繊維の調製方法として挙げた方法と同様にして調製できる。
【0043】
繊維基材層を構成する繊維の繊維径は適宜選択するが、繊維基材層の平均繊維径は1μmよりも太く1000μm以下であることができ、2~500μmであることができ、5~100μmであることができる。なお、繊維基材層の構成繊維は単繊維や複合繊維以外にも、複数の繊維が絡んでなる糸であってもよい。
【0044】
本発明では、繊維基材層は不織布層よりも構成繊維の平均繊維径が太いことを特徴としている。不織布層を補強する繊維基材層の構成繊維が、不織布層の構成繊維の平均繊維径よりも太いことで、繊維基材層によって不織布層を効果的に補強できる。
【0045】
そのため、不織布層の構成繊維とフィルム層が接している接触部分の面積を十分小さくするため、平均繊維径の細い構成繊維からなる不織布層を採用した場合であっても、繊維積層体(換言すれば、不織布層よりも構成繊維の平均繊維径が太い繊維基材層によって補強された不織布層)によってフィルム層を十分補強して強度に富む分離膜複合体を提供できる。
【0046】
繊維基材層を構成する繊維の繊維長は適宜選択するが、不織布層の構成繊維と同様に短繊維や長繊維あるいは連続繊維であることができる。繊維基材層における繊維端部の数が少ないことで、表面が平滑で厚みが均一かつ機械的強度などの各種物性に優れる結果、繊維基材層によって不織布層を効果的に補強できると共に、繊維基材層と不織布層間を強固に積層一体化して、更に繊維基材層によって不織布層を効果的に補強できることから、繊維基材層は構成繊維として連続長を有する連続繊維を含んでいるのが好ましく、繊維基材層の構成繊維は連続繊維のみであるのがより好ましい。
【0047】
繊維基材層の目付、厚みなど各種物性は、適宜選択できる。例えば、厚みは10μm~2mmであることができ、12μm~1mmであることができ、15μ~0.5mmであることができ、20μ~0.2mmであることができる。例えば、目付は2~500g/mであることができ、3~200g/mであることができ、4~100g/mであることができ、5~50g/mであることができる。
【0048】
本発明にかかる繊維積層体は、上述した不織布層と繊維基材層の積層体である。不織布層と繊維基材層の積層態様は適宜選択できる。ただ重ね合っている態様、バインダによって接着され積層一体化している態様、超音波シールなどによって積層一体化している態様、不織布層および/または繊維基材層の構成繊維による繊維接着によって積層一体化している態様などであることができる。特に、より繊維基材層によって効果的に不織布層を補強できると共に、不織布層と繊維基材層の層間における気体や液体あるいはイオンの通過抵抗が意図せず高くなるのを防止できるよう、繊維基材層の構成繊維と不織布層の構成繊維とが接触している部分で溶着しており、それにより不織布層と繊維基材層が積層一体化しているのが好ましい。ここでいう溶着とは、繊維基材層の構成繊維と不織布層の構成繊維との接触部分において、当該接触部分の境界が明確でなくその境界を確認できない状態で溶融一体化していることを意味する。
【0049】
このような態様で不織布層と繊維基材層が積層一体化してなる繊維積層体は、例えば、不織布層の構成繊維を成す樹脂を溶媒(不織布層の構成樹脂と繊維基材層の構成樹脂を共に溶解可能な溶媒)に溶解して調製した紡糸液を用いて、繊維基材層を構成可能な基材上に直接紡糸して不織布層を形成することで調製できる。つまり、繊維基材層の構成繊維と不織布層の構成繊維とが接触した部分を、不織布層中に残留している前記溶媒によって溶解させ、次いで、残留する前記溶媒を除去することで調製できる。
【0050】
仮に、メルトブロー法を用いるなど、繊維基材層を構成可能な基材上へ溶融した樹脂を直接紡糸して不織布層を形成した場合には、繊維基材層の構成繊維と不織布層の構成繊維とが接触している部分において、当該接触部分の境界を確認できる。このような積層一体化の態様を成す繊維積層体では、不織布層と繊維基材層とが十分に積層一体化できず繊維基材層から不織布層が剥離する恐れがある。その結果、繊維基材層によって不織布層を意図せず十分に補強できない恐れがある。
【0051】
繊維基材層の構成繊維と不織布層の構成繊維とが接触している部分で溶着していることによって、繊維基材層と不織布層とが積層一体化しているか否かは、以下の方法で判断可能である。
【0052】
(溶着しているか否かの判断方法)
1.測定対象である繊維積層体から試料(形状:正方形あるいは長方形)を採取する。なお、後述する確認作業を容易にするため、染色液(例えば、カヤステインQ(日本化薬(株)製)など)を用いて試料の構成樹脂を染色してもよい。
2.試料の断面における、光学顕微鏡写真あるいは電子顕微鏡写真(以降、併せて顕微鏡写真と称する)を撮影(撮影範囲:3mm×3mmの正方形形状の範囲)する。
3.顕微鏡写真中に写る、測定対象の一方の主面を構成する繊維と同一種類の繊維(A)の表面と、測定対象のもう一方の主面を構成する繊維と同一種類の繊維(B)の表面とが、接触している部分を肉眼で確認する。
4.項目3で確認した部分における繊維(A)と繊維(B)の境界が明確でなく、その境界を確認できなかった場合(例えば、接触している部分で繊維(A)の表面部分と繊維(B)の表面部分とが混ざり合い一体化しているなど)、測定対象とした繊維積層体は、繊維基材層の表面と不織布層の構成繊維の表面とが溶着している部分を有すると判断する。
【0053】
繊維積層体の目付、厚みなど各種物性は、適宜選択できる。例えば、厚みは10μm~2mmであることができ、12μm~1mmであることができ、15μ~0.5mmであることができ、20μ~0.2mmであることができる。例えば、目付は2~500g/mであることができ、3~200g/mであることができ、4~100g/mであることができ、5~50g/mであることができる。
【0054】
また、繊維積層体における不織布層が露出している側の主面における、表面粗さ(Ra)は20μm以下であるのが好ましく、15μm以下であるのがより好ましく、9μm以下であるのが最も好ましい。当該表面粗さが20μm以下であることによって、不織布層によるフィルム層の補強が効率良く行われる傾向があり、意図せず気体や液体あるいはイオンの通過抵抗が高くなるという問題が発生し難い、強度に富む分離膜複合体を提供し易い。なお、本発明でいう表面粗さ(Ra)は、表面粗さ測定器(ミツトヨ製 小型表面粗さ測定器 サーフテスト(登録商標)SJ310)にて測定できる。
【0055】
このような好ましい表面粗さを有する繊維積層体を調製できることからも、静電紡糸不織布由来の不織布層を備える繊維積層体であるのが好ましい。
【0056】
また、繊維積層体の通気度は求められる分離膜複合体を提供できるよう、適宜調整する。具体例として、繊維積層体の通気度は以下であることができ、200cm/cm/s以下であることができ、100cm/cm/s以下であることができる。一方、下限値は0よりも高い値であるが、1cm/cm/s以上であるのが現実的である。
【0057】
そして、上述の構成を満たす繊維積層体における不織布層上にフィルム層を備えることで、不織布層とフィルム層とが直接接してなる分離膜複合体を提供できる。
【0058】
フィルム層は、酸素や二酸化炭素など特定の気体、あるいは、酢酸エチル、メチルエチルケトン、イソプロパノールなど特定の液体、あるいは、ナトリウムイオン、カルシウムイオン、塩化物イオンなど特定のイオン、あるいは、アミノ酸や乳酸などを選択的に透過させる役割を担うことが可能な被膜状あるいは膜状の層を指し、当該フィルム層は分離膜複合体における分離膜としての役割を担うものである。フィルム層は無孔でも多孔でも良いが、特定の気体や特定の液体あるいは特定のイオンを意図する通り効率よく透過できるよう、無孔構造を有するものを採用するのが好ましい。
【0059】
フィルム層を構成する成分は、有機樹脂などの有機成分あるいは無機成分で構成することができる。分離膜複合体の用途によって、フィルム層を構成する成分は適宜選択するが、有機成分として、後述する繊維基材層の構成繊維を成す樹脂として挙げた樹脂の他にも、ポリジメチルシロキサンやシリコーンゴムなどのシリコーンポリマー、エチレンビニルアルコール共重合体、有孔低密度ポリエチレン樹脂、ポリ(1-トリメチルシリル-1-プロピン)などを採用できる。また、無機成分としてシリカ、パラジウム、ゼオライトなどを採用できる。
【0060】
特に、酸素富化膜に適する分離膜複合体を提供可能であることから、フィルム層はポリジメチルシロキサンやシリコーンゴムなどのシリコーンポリマー、エチレンビニルアルコール共重合体、有孔低密度ポリエチレン樹脂、ポリ(1-トリメチルシリル-1-プロピン)などの有機成分を含んでいるのが好ましく、フィルム層は上述した有機成分のみで構成されているのが好ましい。
【0061】
フィルム層の目付、厚みなど各種物性は、適宜選択できる。例えば、厚みは20~1000nmであることができ、50~500nmであることができる。例えば、目付は0.01~1g/mであることができ、0.05~0.5g/mであることができる。
【0062】
本発明にかかる分離膜複合体は、繊維積層体における不織布層上にフィルム層を備えていることを特徴としている。不織布層上にフィルム層を備えることで、不織布層とフィルム層の層間において、不織布層の構成繊維が点状あるいは線状の接触部分をなしフィルム層と接触する。その結果、当該接触部分の面積を小さくでき、フィルム層を気体や液体あるいはイオンが通過するのを妨げ難いことで、意図せず気体や液体あるいはイオンの通過抵抗が高くなるという問題が発生し難い分離膜複合体を提供できる。
【0063】
なお、不織布層を構成する繊維の繊維径が細いほど、当該構成繊維の曲率が小さくなり易い。その結果、上述したように、不織布層の構成繊維が点状あるいは線状の接触部分をなしフィルム層と接触できると考えられる。更に、不織布層を構成する繊維の繊維径が細いほど、当該構成繊維とフィルム層との各接触部分は、その大きさが小さくなると共に均一的に分散した状態になり易い。その結果、フィルム層を気体や液体あるいはイオンが通過するのを妨げ難い状態で、不織布層によってもフィルム層を効果的に補強して、強度に富む分離膜複合体を提供できると考えられる。
【0064】
不織布層とフィルム層が直接接しており積層している態様は適宜選択できる。ただ重ね合っている態様、圧力により接着している様態、超音波シールなどによって積層一体化している態様、不織布層の構成繊維による繊維接着によって積層一体化している態様、フィルム層を構成する成分による接着によって積層一体化している態様、不織布層の表面上に膜状に展開したフィルム層の構成樹脂を掬い上げ乾燥することで積層一体化させてなる態様などであることができる。
【0065】
次いで、本発明にかかる繊維積層体の製造方法について、具体的な製造例を挙げ説明する。なお、上述した項目と構成を同じくする点については説明を省略する。
(1)繊維基材層を構成可能な布帛を用意する工程、
(2)フッ素系樹脂を溶媒へ溶解した紡糸液を用意する工程、
(3)前記紡糸液を静電紡糸装置へ供し細径化してフッ素系樹脂を含有する繊維を紡糸する工程、
(4)紡糸された繊維中に溶媒が残留した状態で前記布帛の主面上に捕集することで、前記布帛の一方の主面上に前記フッ素系樹脂を含有する繊維からなる繊維ウェブを形成する工程、
(5)前記積層ウェブ中に残留する溶媒を除去して繊維積層体を調製する工程、
を備える、不織布層と当該不織布層よりも構成繊維の平均繊維径が太い繊維基材層が積層している、繊維積層体の製造方法を挙げることができる。
なお、本繊維積層体の製造方法によって、フッ素系樹脂を含有する繊維からなる繊維ウェブ由来の不織布層の構成繊維表面と、布帛由来の繊維基材層の構成繊維表面とを溶着して、不織布層と繊維基材層とが積層一体化した繊維積層体を製造可能である。
【0066】
まず、工程(2)について説明する。
溶媒の種類は、不織布層を構成可能な樹脂を溶解可能な溶媒であるよう、適宜選択する。一例として、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド、ギ酸、水、アルコールなどを挙げることができる。なお、当該溶媒として、繊維基材層を構成可能な樹脂を溶解可能な溶媒を採用することで、不織布層と繊維基材層が積層一体化してなる繊維積層体を製造できる。
【0067】
紡糸液の温度や粘度は求める不織布層を調製できるよう、適宜選択する。紡糸液の温度は5~40℃であることができ、10~35℃であることができ、15~30℃であることができる。また、紡糸液の粘度は0.05~8Pa・sであることができ、0.1~6Pa・sであることができ、0.2~5Pa・sであることができる。なお、この「粘度」は粘度測定装置を用い、温度25℃で測定したシェアレート100s-1時の値をいう。
【0068】
加えて、繊維基材層を構成可能な布帛の構成樹脂も溶解可能な溶媒を選択することで、不織布層の構成繊維表面と繊維基材層の構成繊維表面とを溶着して、不織布層と繊維基材層とが積層一体化した繊維積層体を製造できる。
【0069】
次いで、工程(3)および工程(4)について説明する。
紡糸液を細径化することで紡糸する方法は、求める不織布層を調製できるよう適宜選択するが、例えば、直接紡糸法を採用できる。静電紡糸法を採用する場合、紡糸液に電圧を付与すると共に、該紡糸液の吐出部分と離間させ設けた金属板などの対抗電極へ該電圧と反対の電圧を付与することで、紡糸液を対抗電極へ向け飛翔させ細径化させる。そして、細径化した紡糸液を吐出部分と対抗電極との間に設置した布帛の主面上に捕集することで、布帛上にフッ素系樹脂を含有する繊維からなる繊維ウェブを形成する。
【0070】
静電紡糸法を採用した場合、その紡糸条件は、溶媒が残留した状態で紡糸されたフッ素系樹脂を含有する繊維を布帛の主面上に捕集できるよう適宜調整する。具体的には、紡糸液に占める溶媒の割合が多い紡糸液を用いる、紡糸距離を短くする、紡糸量を多くする、紡糸空間における揮発した溶媒の濃度を高い状態に保つ、紡糸空間の温湿度を溶媒が揮発し難くなるよう調整するなどによって、紡糸されたフッ素系樹脂を含有する繊維に溶媒が含まれている状態で布帛の主面上に捕集し易くできる。
【0071】
そして、工程(5)について説明する。
積層ウェブに残留する溶媒を除去する方法は適宜選択できるが、一例として、加熱装置へ供する方法を採用できる。なお、加熱装置の種類は適宜選択でき、例えば、ロールにより加熱または加熱加圧する装置、オーブンドライヤー、遠赤外線ヒーター、乾熱乾燥機、熱風乾燥機、赤外線を照射し加熱できる装置などを用いた方法を採用できる。加熱装置による加熱温度は適宜選択するが、残留している溶媒を揮発させ除去可能であると共に、構成繊維などの構成成分が意図せず分解や変性しない温度であるように適宜調整する。
【0072】
なお、布帛や繊維ウェブの構成繊維中に接着成分や架橋可能な樹脂が存在する場合は、加熱装置へ供することで接着成分による繊維接着を行っても、当該架橋可能な樹脂を架橋させても良い。
【0073】
以上のようにして製造した繊維積層体は、その用途や使用態様に合わせて、カレンダー処理などの加圧処理する工程へ供し厚みを調整する、スルホン化処理やプラズマ処理あるいはフッ素ガス処理などの親水化処理へ供する、形状を打ち抜く、成型するなどしても良い。
【0074】
また、繊維積層体は単体で使用できるが、必要であれば、別途用意した布帛(繊維ウェブや不織布、織物や編物)やフィルム(多孔フィルムや無孔フィルム)あるいは発泡体などを積層し使用してもよい。積層方法は適宜選択できるが、ただ重ね合せる方法、構成成分を一部溶融接着させることによって、あるいは、バインダによって積層一体化する方法、超音波溶着などによって一体化する方法、縫い合わせる方法などを採用できる。
【0075】
次いで、本発明にかかる分離膜複合体の製造方法について、具体的な製造例を挙げ説明する。なお、上述した項目と構成を同じくする点については説明を省略する。
(1)フィルム層を構成可能な成分を溶媒に溶解させた溶液を用意する工程、
(2)前記成分を溶解しない、あるいは、溶解させ難い液体を用意する工程、
(3)前記液体を溜めた水槽へ前記溶液を注ぎ入れ、前記液体の表面に前記成分の膜を展開する工程、
(4)フッ素系樹脂を含有する繊維を構成繊維として含んでなる不織布層と、当該不織布層よりも構成繊維の平均繊維径が太い繊維基材層が積層している、繊維積層体を用意する工程、
(5)前記水槽中に前記繊維積層体を浸漬し、前記繊維積層体における不織布層が露出している主面上に、展開している前記成分の膜を掬い上げる工程、
(6)前記成分の膜を備えた繊維積層体を水槽中から引き揚げ、乾燥させることで、前記繊維積層体における不織布層上に前記成分からなるフィルム層を形成する工程、
を備える、分離膜複合体の製造方法を採用できる。
【0076】
または、
(1)フィルムを用意する工程、
(2)フッ素系樹脂を含有する繊維を構成繊維として含んでなる不織布層と、当該不織布層よりも構成繊維の平均繊維径が太い繊維基材層が積層している、繊維積層体を用意する工程、
(3)前記繊維積層体における不織布層が露出している主面上に、前記フィルムを積層して積層体を調製する工程、
(4)前記積層体を加熱することで前記不織布層の構成繊維をフィルム層と繊維接着させ、放冷することで、前記繊維積層体における不織布層上に前記フィルム由来のフィルム層を形成する工程、
を備える、分離膜複合体の製造方法を採用できる。
【0077】
あるいは、
(1)フィルム層を構成可能な成分を溶媒に溶解させた溶液、あるいは、フィルム層を分散媒に分散させた分散液を用意する工程、
(2)フッ素系樹脂を含有する繊維を構成繊維として含んでなる不織布層と、当該不織布層よりも構成繊維の平均繊維径が太い繊維基材層が積層している、繊維積層体を用意する工程、
(3)前記繊維積層体における不織布層が露出している主面上に、前記溶液あるいは分散液を膜状となるよう塗工する工程、
(4)前記溶液あるいは分散液を塗工した前記繊維積層体を加熱し、前記溶媒あるいは分散媒を除去し放冷することで、前記繊維積層体における不織布層上に前記成分からなるフィルム層を形成する工程、
を備える、分離膜複合体の製造方法を採用できる。
【0078】
以上のようにして製造した分離膜複合体は、その用途や使用態様に合わせて、カレンダー処理などの加圧処理する工程へ供し厚みを調整する、スルホン化処理やプラズマ処理あるいはフッ素ガス処理などの親水化処理へ供する、形状を打ち抜く、成型するなどしても良い。
【0079】
また、分離膜複合体は単体で使用できるが、必要であれば、別途用意した布帛(繊維ウェブや不織布、織物や編物)やフィルム(多孔フィルムや無孔フィルム)あるいは発泡体などを積層し使用してもよい。積層方法は適宜選択できるが、ただ重ね合せる方法、構成成分を一部溶融接着させることによって、あるいは、バインダによって積層一体化する方法、超音波溶着などによって一体化する方法、縫い合わせる方法などを採用できる。
【実施例0080】
以下に、本発明の実施例を記載するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0081】
(基材の用意)
以下の基材を用意した。
・ポリプロピレン(高融点成分、融点:168℃)を芯成分とし、高密度ポリエチレン(低融点成分、融点:135℃)を鞘成分とする、一部融着型の熱融着性複合繊維(繊度:0.8dtex(平均繊維径:10μm)、繊維長:5mm、吸水率:0.01%)を湿式抄造してなる、ポリオレフィン系湿式不織布(目付:10g/m、厚み:35μm)。
・PET短繊維(繊度:0.8dtex(平均繊維径:9μm)、繊維長:5mm、吸水率:0.1%)を湿式抄造してなる、PET湿式不織布(目付:9g/m、厚み:30μm)。
・PET連続繊維(平均繊維径:20μm、吸水率:0.1%)で構成された、PETスパンボンド不織布(目付:15g/m、厚み:80μm、主面の表面粗さ(Ra):27.8μm)。
【0082】
(紡糸液の用意)
ポリフッ化ビニリデンホモポリマー(吸水率:0.03%)をジメチルホルムアミド(以降、DMFと略する、沸点:153℃)に溶解させ、固形分濃度が16質量%の紡糸液Aを調製した。なお、DMFはPETを溶解可能な溶媒であるが、PEを溶解しない溶媒である。
また、ナイロン6(吸水率:1.1%)をギ酸(沸点:101℃)に溶解させ、固形分濃度が15質量%の紡糸液Bを調製した。なお、ギ酸はPETを溶解しない溶媒である。
【0083】
(実施例1)
紡糸液Aを以下の紡糸条件へ供することで静電紡糸し、紡糸された繊維に溶媒が含まれている状態でポリオレフィン系湿式不織布における一方の主面上に捕集した。このようにして、ポリオレフィン系湿式不織布上に、ポリフッ化ビニリデンホモポリマーの連続繊維で構成された繊維ウェブが積層してなる積層ウェブを調製した。
・金属製ノズル(紡糸液の吐出部分)における、紡糸液の吐出部分の形状:円形状
・金属製ノズルの先端と、捕集体(繊維基材層を構成可能な基材を乗せた金属板)との距離:10cm
・紡糸液へ印加した電圧:15kV
・金属製ノズルから吐出された紡糸液:1g/時間
・静電紡糸環境の雰囲気:温度25℃、湿度30%RH
そして、調製した積層ウェブを、表面温度を130℃に調整した加熱ロールと接触させ、積層ウェブに残留する溶媒を除去して繊維積層体(繊維ウェブ由来の不織布層の目付:1.00g/m、繊維ウェブ由来の不織布層の厚み:3μm、繊維ウェブ由来の不織布層を構成する繊維の平均繊維径:200nm)を調製した。
なお、実施例1で調製した繊維積層体では、ポリオレフィン系湿式不織布由来の繊維基材層の構成繊維表面と、繊維ウェブ由来の不織布層の構成繊維であるポリフッ化ビニリデンホモポリマー繊維の表面とは溶着していなかった。また、前記繊維ウェブ由来の不織布層における、露出する主面の表面粗さを測定したところ、その表面粗さ(Ra)は2.4μmであった。
【0084】
(実施例2)
ポリオレフィン系湿式不織布の代わりにPET湿式不織布を用いたこと以外は、実施例1と同様にして繊維積層体を製造した。つまり、紡糸液Aを実施例1と同一の紡糸条件へ供することで静電紡糸し、紡糸された繊維に溶媒が含まれている状態でPET湿式不織布における一方の主面上に捕集した。このようにして、PET湿式不織布上に、ポリフッ化ビニリデンホモポリマーの連続繊維で構成された繊維ウェブが積層してなる積層ウェブを調製した。
そして、調製した積層ウェブを、表面温度を130℃に調整した加熱ロールと接触させ、積層ウェブに残留する溶媒を除去して繊維積層体(繊維ウェブ由来の不織布層の目付:1.00g/m、繊維ウェブ由来の不織布層の厚み:3μm、繊維ウェブ由来の不織布層を構成する繊維の平均繊維径:200nm)を調製した。
なお、実施例2で調製した繊維積層体では、PET湿式不織布由来の繊維基材層の構成繊維表面と、繊維ウェブ由来の不織布層の構成繊維であるポリフッ化ビニリデンホモポリマー繊維の表面とが溶着していた。また、前記繊維ウェブ由来の不織布層における、露出する主面の表面粗さを測定したところ、その表面粗さ(Ra)は2.1μmであった。
【0085】
(実施例3)
ポリオレフィン系湿式不織布の代わりにPETスパンボンド不織布を用いたこと以外は、実施例1と同様にして繊維積層体を製造した。つまり、紡糸液Aを実施例1と同一の紡糸条件へ供することで静電紡糸し、紡糸された繊維に溶媒が含まれている状態でPETスパンボンド不織布における一方の主面上に捕集した。このようにして、PETスパンボンド不織布上に、ポリフッ化ビニリデンホモポリマーの連続繊維で構成された繊維ウェブが積層してなる積層ウェブを調製した。
そして、調製した積層ウェブを、表面温度を130℃に調整した加熱ロールと接触させ、積層ウェブに残留する溶媒を除去して繊維積層体(繊維ウェブ由来の不織布層の目付:1.00g/m、繊維ウェブ由来の不織布層の厚み:3μm、繊維ウェブ由来の不織布層を構成する繊維の平均繊維径:200nm)を調製した。
なお、実施例3で調製した繊維積層体では、PETスパンボンド不織布由来の繊維基材層の構成繊維表面と、繊維ウェブ由来の不織布層の構成繊維であるポリフッ化ビニリデンホモポリマー繊維の表面とが溶着していた。また、前記繊維ウェブ由来の不織布層における、露出する主面の表面粗さを測定したところ、その表面粗さ(Ra)は9.0μmであった。
【0086】
(実施例4)
ポリトリメチルシリルプロペンをヘキサンに溶解させた、溶液を用意した。次いで、この溶液を、注射針を用いて純水の水面上に滴下して、水面にポリトリメチルシリルプロペンの膜を形成した。
実施例1で調製した繊維積層体を純水中に落とし込み、繊維積層体における不織布層上にポリトリメチルシリルプロペンの膜を直接掬い上げるようにして、繊維積層体を純水中から静かに引き上げた。その後、乾燥することで水分およびトルエンを除去し、繊維積層体における不織布層上に前記ポリトリメチルシリルプロペンからなるフィルム層を備えた、分離膜複合体を調製した。
このようにして調製した分離膜複合体では、繊維ウェブ由来の不織布層とフィルム層が直接接していた。なお、調製した分離膜複合体のフィルム層を目視で確認したところ、フィルム層に皺と亀裂は発生していなかった。
【0087】
(実施例5)
実施例1で調製した繊維積層体の代わりに、実施例2で調製した繊維積層体を用いたこと以外は、実施例4と同様にして分離膜複合体を調製した。
このようにして調製した分離膜複合体では、繊維ウェブ由来の不織布層とフィルム層が直接接していた。なお、調製した分離膜複合体のフィルム層を目視で確認したところ、フィルム層に皺と亀裂は発生していなかった。
【0088】
(実施例6)
実施例1で調製した繊維積層体の代わりに、実施例3で調製した繊維積層体を用いたこと以外は、実施例4と同様にして分離膜複合体を調製した。
このようにして調製した分離膜複合体では、繊維ウェブ由来の不織布層とフィルム層が直接接していた。なお、調製した分離膜複合体のフィルム層を目視で確認したところ、フィルム層に皺と亀裂は発生していなかった。
【0089】
(比較例1)
実施例4と同一の方法を用いて、PETスパンボンド不織布における一方の主面上に、前記ポリトリメチルシリルプロペンからなるフィルム層を備えた、分離膜複合体を調製した。
このようにして調製した分離膜複合体では、PETスパンボンド不織布とフィルム層が直接接していた。なお、調製した分離膜複合体のフィルム層を目視で確認したところ、フィルム層に皺と亀裂が発生していた。
【0090】
(比較例2)
紡糸液Aを上述した紡糸条件へ供することで静電紡糸し、紡糸された繊維に溶媒が含まれている状態で捕集体上に捕集した。このようにして、捕集体上にポリフッ化ビニリデンホモポリマーの連続繊維で構成された繊維ウェブを調製した。そして、調製した繊維ウェブを回収し、表面温度を130℃に調整した加熱ロールと接触させ、繊維ウェブに残留する溶媒を除去して静電紡糸不織布(目付:5.00g/m、厚み:15μm、平均繊維径:200nm)を調製した。また、露出する主面の表面粗さを測定したところ、その表面粗さ(Ra)は2.1μmであった。
実施例4と同一の方法を用いて、このようにして調製した静電紡糸不織布における一方の主面上に、前記ポリトリメチルシリルプロペンからなるフィルム層を備えた、分離膜複合体を調製した。
このようにして調製した分離膜複合体では、静電紡糸不織布とフィルム層が直接接していた。なお、調製した分離膜複合体のフィルム層を目視で確認したところ、フィルム層に皺と亀裂は発生していなかった。
【0091】
(比較例3)
紡糸液Aの代わりに紡糸液Bを用いたこと以外は、実施例3と同様にして繊維積層体を製造した。つまり、紡糸液Bを実施例1と同一の紡糸条件へ供することで静電紡糸し、紡糸された繊維に溶媒が含まれている状態でPETスパンボンド不織布における一方の主面上に捕集した。このようにして、PETスパンボンド不織布上に、ナイロン6の連続繊維で構成された繊維ウェブが積層してなる積層ウェブを調製した。
そして、調製した積層ウェブを、表面温度を130℃に調整した加熱ロールと接触させ、積層ウェブに残留する溶媒を除去して繊維積層体(繊維ウェブ由来の不織布層の目付:1.00g/m、繊維ウェブ由来の不織布層の厚み:3μm、繊維ウェブ由来の不織布層を構成する繊維の平均繊維径:200nm)を調製した。また、前記繊維ウェブ由来の不織布層における、露出する主面の表面粗さを測定したところ、その表面粗さ(Ra)は9.0μmであった。
なお、比較例3で調製した繊維積層体では、PETスパンボンド不織布由来の繊維基材層の構成繊維表面と、繊維ウェブ由来の不織布層の構成繊維であるナイロン6繊維の表面とが溶着していなかった。
【0092】
(比較例4)
実施例3で調製した繊維積層体の代わりに、比較例3で調製した繊維積層体を用いたこと以外は、実施例6と同様にして分離膜複合体を調製した。
このようにして調製した分離膜複合体では、繊維ウェブ由来の不織布層とフィルム層が直接接していた。なお、調製した分離膜複合体のフィルム層を目視で確認したところ、フィルム層に皺と亀裂が発生していた。
【0093】
また、以上の実施例および比較例で調製した分離膜複合体における、フィルム層の厚みをSEMを用いて確認したところ、その厚みはいずれも500nmであった。
【0094】
以上のようにして調製した各分離膜複合体を比較したところ、次のことが判明した。
・比較例1で調製した分離膜複合体に比べ、実施例4~6で調製した分離膜複合体では、平均繊維径の細い構成繊維からなる不織布層(静電紡糸法を用いて調製された繊維ウェブ由来の不織布層)がフィルム層と直接接しており、当該接触部分の面積が小さいものであった。
・比較例2で調製した分離膜複合体は、実施例4~6で調製した分離膜複合体に比べ、取り扱い時や製造過程中における形状安定性に劣り、取り扱い時に皺や亀裂が発生し強度に劣るものであった。この理由として、平均繊維径の細い構成繊維からなる静電紡糸不織布だけでは、フィルム層の補強が十分に行えないためだと考えられた。それに比べ、実施例4~6で調製した分離膜複合体は、取り扱い時や製造過程中における形状安定性に優れ、取り扱い時に皺や亀裂が発生することなく強度に富むものであった。この理由として、前述した静電紡糸不織布よりも平均繊維径が太い繊維層を備える繊維基材層の存在によって、フィルム層が十分補強されているためだと考えられた。
・比較例1および4で調製した分離膜複合体はフィルム層に皺と亀裂が発生していたのに対し、実施例4~6で調製した分離膜複合体はフィルム層に皺と亀裂が発生していなかった。この理由として、分離膜複合体を構成する不織布層が、フッ素系樹脂を含有する繊維を構成繊維として含んでいることで、フィルム層に隣接して存在する繊維の層(不織布層など)が吸水して膨潤あるいは収縮するのが防止されているためだと考えられた。加えて、フィルム層を形成する不織布層の表面粗さ(Ra)が低いことで、フィルム層を不織布層で効率良く補強できたためだと考えられた。
【0095】
以上から本発明の繊維積層体によって、フィルム層に皺や亀裂が生じるという問題が発生するのを防止できると共に、意図せず気体や液体あるいはイオンの通過抵抗が高くなるという問題が発生し難い、強度に富む分離膜複合体を提供できることが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明によって、例えば、分離膜は気体透過膜(例えば、酸素分離膜や二酸化炭素分離膜)や液体透過膜(例えば、水濾過膜)、あるいは、二次電池やキャパシタあるいはレドックスフロー電池用のセパレータ、燃料電池用の電解質膜、燃料電池へ高濃度の酸素を提供するため使用される酸素富化膜などを提供できる。