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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023005636
(43)【公開日】2023-01-18
(54)【発明の名称】コンクリート構造物の施工方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 40/04 20060101AFI20230111BHJP
   E04G 23/02 20060101ALI20230111BHJP
   E04G 21/02 20060101ALI20230111BHJP
   E04B 1/62 20060101ALI20230111BHJP
   B28B 11/24 20060101ALI20230111BHJP
   C04B 41/49 20060101ALI20230111BHJP
【FI】
C04B40/04
E04G23/02 A
E04G21/02 104
E04G21/02 103B
E04B1/62 Z
B28B11/24
C04B41/49
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021107673
(22)【出願日】2021-06-29
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和3年2月5日 月刊防水ジャーナル,2021年2月号,No.591,pp.21-25 〔刊行物等〕 平成3年6月3日 ダウンロード版の第73回土木学会中国支部研究発表会,2021年,pp.373-374 〔刊行物等〕 令和3年6月15日 DVDで配布されたコンクリート工学年次論文集,Vol.43,No.1,2021年,pp.1433-1438
(71)【出願人】
【識別番号】592199102
【氏名又は名称】株式会社アストン
(71)【出願人】
【識別番号】504147243
【氏名又は名称】国立大学法人 岡山大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002206
【氏名又は名称】弁理士法人せとうち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】綾野 克紀
(72)【発明者】
【氏名】藤井 隆史
(72)【発明者】
【氏名】大西 豊
(72)【発明者】
【氏名】森脇 拓也
(72)【発明者】
【氏名】安藤 尚
(72)【発明者】
【氏名】山本 昌宏
(72)【発明者】
【氏名】谷村 成
【テーマコード(参考)】
2E001
2E172
2E176
4G055
4G112
【Fターム(参考)】
2E001DH35
2E001EA01
2E001GA06
2E001HF00
2E172AA05
2E172DC02
2E172EA00
2E176AA01
2E176BB04
4G055AA01
4G055BA02
4G112RD00
(57)【要約】
【課題】湿潤養生が困難な施工場所であっても、湿潤状態を保持してけい酸塩系表面含浸材の反応を促進させることができるコンクリート構造物の施工方法を提供する。
【解決手段】コンクリート構造物の施工方法であって、けい酸塩系表面含浸材をコンクリート表面に塗布後、塗膜養生材を塗布する直前に散水してから当該塗膜養生材を塗布し、前記けい酸塩系表面含浸材の反応を促進させる施工方法である。
【選択図】なし

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート構造物の施工方法であって、けい酸塩系表面含浸材をコンクリート表面に塗布後、塗膜養生材を塗布する直前に散水してから当該塗膜養生材を塗布し、前記けい酸塩系表面含浸材の反応を促進させることを特徴とするコンクリート構造物の施工方法。
【請求項2】
塗膜養生材がパラフィン系塗膜養生材である請求項1に記載のコンクリート構造物の施工方法。
【請求項3】
けい酸塩系表面含浸材を1m当たり100~400g塗布する請求項1又は2に記載のコンクリート構造物の施工方法。
【請求項4】
塗膜養生材を塗布する直前に1m当たり50~300g散水する請求項1~3のいずれかに記載のコンクリート構造物の施工方法。
【請求項5】
塗膜養生材を1m当たり50~300g塗布する請求項1~4のいずれかに記載のコンクリート構造物の施工方法。
【請求項6】
(I)前記けい酸塩系表面含浸材をコンクリート表面に塗布する前と、
(II)前記けい酸塩系表面含浸材をコンクリート表面に塗布した直後、
のいずれか又は両方を組み合わせた散水処理を行い、前記コンクリートを湿潤状態に保つことを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載のコンクリート構造物の施工方法。
【請求項7】
寒冷地におけるコンクリート構造物に対して施工することによりスケーリングを無処理の場合に比べて10分の1以下に抑制する請求項1~6のいずれかに記載のコンクリート構造物の施工方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、けい酸塩系表面含浸材をコンクリート表面に塗布する際のコンクリート構造物の施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート構造物が劣化してひび割れが生じた場合に、けい酸ナトリウム等を主成分とする無機系表面含浸材をコンクリート表面に塗布して補修する方法が知られている。
【0003】
特許文献1には、コンクリート表面が乾燥した状態で、珪酸アルカリ溶液を成分とする浸透性無機質反応型改良材(クリスタルシーラー)を塗布した後、3日間養生し、次に浸透性硬化型シリコーンを成分とする浸透性無機質溶液(テリオスシーラー)を重ねて塗布し4時間養生を行う施工方法が記載されている。これによれば、単に2種類の無色の浸透性無機質塗料を表面に刷毛やスプレーで塗布するだけの作業であり、時間の経過と共にコンクリート内部に浸透し不透水層を形成し、下地と一体となり剥がれや膨れが無いことで外部からの有害物質などの進入を阻止することで構造物本体の耐久性をより高めることになるとされている。
【0004】
しかしながら、特許文献1では、珪酸アルカリ溶液を主成分とするクリスタルシーラーを塗布した後に3日間放置しており、珪酸アルカリ溶液を塗布後に一定期間放置するとコンクリート表面が乾燥してしまい、ひび割れ内部での反応促進が不十分になると考えられる。そして、このような状態で浸透性硬化型シリコーンを成分とするテリオスシーラーを重ねて塗布した場合には、単にコンクリート表面の耐久性を向上させるのみである。コンクリート表面の乾燥を防ぐ観点から、湿潤養生を一定期間行うことが考えられるが、コスト高となり、また施工場所によっては湿潤養生を行うことが困難である場合もあり改善が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006-132299号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、湿潤養生が困難な施工場所であっても、湿潤状態を保持してけい酸塩系表面含浸材の反応を促進させることができるコンクリート構造物の施工方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題は、コンクリート構造物の施工方法であって、けい酸塩系表面含浸材をコンクリート表面に塗布後、塗膜養生材を塗布する直前に散水してから当該塗膜養生材を塗布し、前記けい酸塩系表面含浸材の反応を促進させることを特徴とするコンクリート構造物の施工方法を提供することによって解決される。
【0008】
このとき、塗膜養生材がパラフィン系塗膜養生材であることが好適であり、けい酸塩系表面含浸材を1m当たり100~400g塗布することが好適な実施態様である。塗膜養生材を塗布する直前に1m当たり50~300g散水することが好適な実施態様であり、塗膜養生材を1m当たり50~300g塗布することが好適な実施態様である。(I)前記けい酸塩系表面含浸材をコンクリート表面に塗布する前と、(II)前記けい酸塩系表面含浸材をコンクリート表面に塗布した直後のいずれか又は両方を組み合わせた散水処理を行い、前記コンクリートを湿潤状態に保つ施工方法であることが好適な実施態様である。また、寒冷地におけるコンクリート構造物に対して施工することによりスケーリングを無処理の場合に比べて10分の1以下に抑制する施工方法であることも好適な実施態様である。
【発明の効果】
【0009】
本発明のコンクリート構造物の施工方法により、湿潤養生が困難な施工場所であっても、湿潤状態を保持してけい酸塩系表面含浸材の反応を促進させることができる。したがって、ひび割れが生じたコンクリート構造物の補修方法や、寒冷地におけるコンクリート構造物のスケーリングを抑制する施工方法として好適に採用される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】凍結融解試験1サイクルにおける凍結工程と融解工程の経過時間を示したグラフである。
図2】凍結融解試験における質量残存率を示したグラフである。
図3】スケーリング試験(乾燥期間0日)の結果を示したグラフである。
図4】スケーリング試験(乾燥期間14日)の結果を示したグラフである。
図5】実構造物において各材料を塗布した箇所を示した模式図である。
図6】実構造物において各材料を塗布した実施態様を示した模式図である。
図7】表層透気試験の結果を示すグラフである。
図8】表面吸水試験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のコンクリート構造物の施工方法は、けい酸塩系表面含浸材をコンクリート表面に塗布後、塗膜養生材を塗布する直前に散水してから当該塗膜養生材を塗布し、前記けい酸塩系表面含浸材の反応を促進させることを特徴とするものである。
【0012】
本発明で用いられるけい酸塩系表面含浸材としては、アルカリ金属けい酸塩を含有する水溶液からなるものであることが好ましい。アルカリ金属けい酸塩のカチオン種としては、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオンなどが例示されるが、入手の容易さやコスト面などからナトリウムイオンであることが好ましい。また、アルカリ金属けい酸塩のアニオン種も特に限定されず、オルトけい酸アニオン[SiO 4-]やメタけい酸アニオン[SiO 2-]などのアニオン種のみならず、けい酸[SiO]単位が複数個連結してアニオン種を形成したものであっても良い。
【0013】
具体的な化合物としては、オルトけい酸ナトリウム、オルトけい酸カリウム、オルトけい酸リチウム、メタけい酸ナトリウム、メタけい酸カリウム、メタけい酸リチウム、水ガラスなどが例示される。
【0014】
中でもけい酸塩系表面含浸材として好適に使用されるのは水ガラスである。水ガラスはアルカリ金属けい酸塩の水溶液であって、けい酸[SiO]単位が複数個連結してアニオン種を形成したものである。ここで使用されるアルカリ金属はカリウムの場合もあるが、ナトリウムであることが好ましい。けい酸ナトリウムの場合の固形分の一般式はNaO・nSiOで示される。前記けい酸ナトリウムのモル比としては、1.2~3.6であることが好ましく、2.5~3.3であることがより好ましい。また、けい酸塩系表面含浸材に含まれる固形分としては、15~40%であることが好ましく、20~35%であることがより好ましい。
【0015】
本発明で用いられるけい酸塩系表面含浸材は、本発明の効果を阻害しない範囲であれば、その他の成分を含有しても構わない。しかしながら、不溶成分を実質的に含有しない均一な水溶液であることが好ましい。
【0016】
本発明で用いられる塗膜養生材としては、パラフィン系、セルロース系、ポリビニルアルコール系、酢酸ビニル系、アクリル共重合体系、シラン化合物系等の塗膜養生材が挙げられる。これらの塗膜養生材は、エマルション又は溶液の状態で好適に使用することができる。中でも、保湿性と保水性を確保する観点から、パラフィン系塗膜養生材が好適に採用される。前記パラフィン系塗膜養生材としては、固形パラフィンを含む水系エマルションが好適に採用され、固形パラフィンの含有量としては5~30%であることが好ましく、10~20%であることがより好ましい。
【0017】
本発明のコンクリート構造物の施工方法では、けい酸塩系表面含浸材をコンクリート表面に塗布する。これにより、コンクリート表層部の微細空隙に浸透したけい酸塩系表面含浸材の乾燥固化物、およびコンクリート中の水酸化カルシウムとの反応により生成される反応物(CSH系結晶)により、微細空隙が充填されて表層部を緻密化し、水や劣化因子の侵入を抑制することができる。前記けい酸塩系表面含浸材の塗布前に下地処理を行うことが好適な実施態様である。下地処理としては、コンクリート表面の汚れ、ホコリなどを高圧洗浄、水洗い等により除去する工程を行い、コンクリート表面が乾燥している場合には散水してコンクリート表面を表乾状態とする。ここで、表乾状態とは、コンクリート内部の空隙に水が満たされているが、触っても濡れない程度にコンクリート表面が乾燥している状態(表面乾燥状態ということもある)をいう。
【0018】
けい酸塩系表面含浸材の塗布量としては特に限定されないが、1m当たり100~400g塗布することが好適な実施態様である。前記塗布量が1m当たり100g未満の場合、浸透した表層部の微細空隙を乾燥固化物および反応物により充填する効果があまり期待できず、十分な効果が得られないおそれがある。前記塗布量は、1m当たり120g以上であることがより好ましく、150g以上であることが更に好ましく、180g以上であることが特に好ましい。一方、前記塗布量が1m当たり400gを超える場合、コンクリート表面にけい酸塩系表面含浸材の溜まりが生じ、白化(けい酸塩系表面含浸材が乾燥により表面で白い固化物となり外観が変化すること)と剥離(けい酸塩系表面含浸材が乾燥により表面で層状に固化し剥がれること)が生じるおそれがある。前記塗布量は、1m当たり350g以下であることがより好ましく、300g以下であることが更に好ましく、250g以下であることが特に好ましい。塗布方法としては特に限定されず、ローラー、ハケ、ブラシ、スプレー、噴霧等により塗布することができる。
【0019】
けい酸塩系表面含浸材をコンクリート表面に塗布した直後に散水することが好適な実施態様である。これにより、コンクリート内部にけい酸塩系表面含浸材を十分に浸透させることが可能となる。散水する水の量としては、1m当たり50~300gであることが好ましく、1m当たり100~200gであることがより好ましく、1m当たり120~180gであることが更に好ましい。散水方法としては特に限定されず、噴霧器等で水を散布してローラー、ハケ等で引き延ばす方法が好適に採用される。また、散水後にけい酸塩系表面含浸材を再度塗布することも好適な実施態様である。上記と同様に、再度けい酸塩系表面含浸材を塗布した直後に散水する方法が好適に採用される。
【0020】
次いで、本発明のコンクリート構造物の施工方法では塗膜養生材を塗布するが、塗膜養生材を塗布する直前に散水してから当該塗膜養生材を塗布する。このことにより、けい酸塩系表面含浸材をコンクリート表面に塗布した後に繰り返し散水する湿潤養生を行うことなくコンクリートを湿潤状態に保つことができ、けい酸塩系表面含浸材の反応を促進させることが可能となる。散水する水の量と散水方法としては、上記説明した内容が好適に採用される。後述する実施例における実構造物による表面含浸材塗布後の養生効果確認の結果で示されるように、(1)けい酸塩系表面含浸材+散水+不織布湿布養生+ビニールシートの実施態様と、(2)けい酸塩系表面含浸材+散水+塗膜養生材の実施態様は、表層透気試験及び表面吸水試験の結果が良好であった。なお、塗膜養生材を塗布する直前に散水を行うことなく当該塗膜養生材を塗布した場合には、コンクリートを湿潤状態に保つことができないため、前記けい酸塩系表面含浸材の反応の進行が不十分となることを本発明者らは確認している。したがって、コンクリートを湿潤状態に保つように、塗膜養生材を塗布する直前に散水してから当該塗膜養生材を塗布することが重要であることが分かる。
【0021】
上述のように、本発明のコンクリート構造物の施工方法は、塗膜養生材を塗布する直前に散水することが重要であるが、これに加えて、けい酸塩系表面含浸材をコンクリート表面に塗布する前や、けい酸塩系表面含浸材をコンクリート表面に塗布した直後に散水することも好適な実施態様である。すなわち、(I)前記けい酸塩系表面含浸材をコンクリート表面に塗布する前と、(II)前記けい酸塩系表面含浸材をコンクリート表面に塗布した直後のいずれか又は両方を組み合わせた散水処理を行い、前記コンクリートを湿潤状態に保つ施工方法であることが好適な実施態様である。
【0022】
塗膜養生材の塗布量としては特に限定されないが、1m当たり50~300g塗布することが好適な実施態様である。前記塗布量が1m当たり50g未満の場合、コンクリートを湿潤状態に保つことが困難となるおそれがある。前記塗布量は、1m当たり100g以上であることがより好ましく、120g以上であることが更に好ましく、150g以上であることが特に好ましい。一方、前記塗布量が1m当たり300gを超える場合、塗布・浸透させたけい酸塩系表面含浸材と、コンクリート中の水酸化カルシウムとの反応を遅延させてしまうおそれがある。前記塗布量は、1m当たり280g以下であることがより好ましく、260g以下であることが更に好ましく、240g以下であることが特に好ましい。塗布方法としては特に限定されず、ローラー、ハケ、ブラシ、スプレー、噴霧等により塗布することができる。
【0023】
本発明のコンクリート構造物の施工方法は、新設するコンクリート構造物に対して行ってもよいし、既存のコンクリート構造物に対して行ってもよい。後述する実施例における凍結融解試験の結果で示されるように、無塗布と塗膜養生材のみ塗布した場合には凍結融解8サイクルで小片が完全に崩壊し、けい酸塩系表面含浸材のみ塗布した場合には凍結融解13サイクルで小片が完全に崩壊していたことに対し、けい酸塩系表面含浸材を塗布後に塗膜養生材を塗布した場合には凍結融解40サイクル以上でも小片が残存しており、抵抗性が大幅に向上することが明らかとなった。したがって、本発明は、寒冷地におけるコンクリート構造物に対して施工することによりスケーリングを抑制するコンクリート構造物の施工方法に特に適していることが分かる。
【実施例0024】
以下、実施例を用いて本発明を更に具体的に説明する。
【0025】
[けい酸塩系表面含浸材]
本実施例で使用したけい酸塩系表面含浸材は、けい酸ナトリウム(NaO・nSiO、モル比:3.15±0.1)を主成分(含有量:25~35%)とする無色透明の液体である(土木学会における材料分類名:反応型けい酸塩系表面含浸材)。コンクリート表面から塗布することで、表層部の微細空隙に浸透する低粘性であり、水酸化カルシウムとの反応性を有している。
【0026】
[塗膜養生材]
本実施例で使用した塗膜養生材は、パラフィン系エマルション型塗膜養生剤(太平洋マテリアル株式会社製「キュアキーパー」、固形パラフィン10~15%含有)である。
【0027】
[小片試験体の作製]
モルタルを練り混ぜ後、40×40×160mmの型枠に打ち込み、24時間室内で養生した後に脱型し、温度が20±2℃の水中養生を行った。材齢6日以降に、ダイヤモンドカッターを用いて1辺が10±2mmとなる小片試験体を作製した。この時、材料の均質性を確保するため、型枠端部から10mmと、打込み面から10mmの部分は破棄した。また、側面から5mm程度の型枠に接する部分も廃棄し、6面全てが切断面になるようにした。
【0028】
[凍結融解試験]
ポリプロピレン製の容器に小片試験体6個と質量パーセント濃度で5%の塩化ナトリウム水溶液を150mL入れ、図1に示されるように16時間の凍結工程(-20℃)と、8時間の融解工程(20℃)の計24時間を1サイクルとして小片試験体を凍結融解させ、残存した試験片の質量を測定して、スケーリングを評価した。無塗布、塗膜養生材のみ塗布、けい酸塩系表面含浸材のみ塗布、けい酸塩系表面含浸材を塗布後に塗膜養生材を塗布した場合の質量残存率の結果を図2に示す。無塗布と塗膜養生材のみ塗布した場合、凍結融解8サイクルで小片が完全に崩壊した。また、けい酸塩系表面含浸材のみ塗布した場合、凍結融解13サイクルで小片が完全に崩壊した。これに対し、けい酸塩系表面含浸材を塗布後に塗膜養生材を塗布した場合、凍結融解40サイクル以上でも小片が残存しており、抵抗性が大幅に向上していた。
【0029】
[スケーリング試験]
1.概要
100×100×100mmの角柱供試体を用いたスケーリング試験を行った。試験は、JSCE-K572「けい酸塩系表面含浸材の試験方法(案)」のスケーリングに対する抵抗性試験に準拠して行った。
【0030】
2.角柱供試体の作成方法
スケーリング試験に用いた角柱供試体は、モルタルを練り混ぜ後、100×100×400mmの型枠に打ち込み、24時間室内で養生した後に脱型し、温度が20±2℃の水中養生を行った場合と、その水中養生後、恒温恒湿度室内で乾燥させた場合の2通りとした。養生が終了した100×100×400mmのモルタル供試体を、ダイヤモンドカッターを用いて、100×100×100mmの角柱供試体に成形した。切り出した角柱供試体には、型枠側面に接する2面を除く4面をエポキシ樹脂で被覆した。
【0031】
3.スケーリング試験の結果
図3は、水中養生を材齢28日まで行った角柱供試体を用いたスケーリング試験の結果を示したものである。図中の左側から、含浸材が無塗布のもの、1回塗布後に湿潤養生を行ったもの、1回塗布後に気中養生を行ったもの、1回塗布後に膜養生材を用いて養生を行ったもの、および7回塗布したものの結果である。小片凍結融解試験と同様に、含浸材を塗布することで、スケーリング量が大幅に小さくなっていることが分かる。塗布後の養生方法の差を見ると、塗布後に湿潤養生を行ったものと気中養生を行ったもののスケーリング量に明確な差が認められず、小片凍結融解試験の結果と異なる傾向を示した。角柱供試体の場合、小片に比べて母材側の水分の総量が多く、塗布後の養生として気中に置いても、内部より水分が供給されるため、含浸材の反応に必要な水分量が確保でき、養生方法の違いによる効果の差が見られなかったと推察する。また、膜養生や含浸材を繰り返し塗布した場合において、無塗布の場合と比較してスケーリング量は小さくなっており,スケーリングに対する抑制効果が認められた。図4は、水中養生を28日間行った後に14日間乾燥させた角柱供試体を用いたスケーリング試験の結果を示したものである。塗布前に乾燥させた角柱供試体では、小片凍結融解試験の結果と同様に、塗布後に湿潤養生を行うことで、十分な効果が得られたのに対し、気中養生を行った場合には、効果が小さくなる結果が得られた。また、膜養生や繰り返し塗布を行った場合には、気中養生を行ったものよりもスケーリングが抑制されている。含浸材によるスケーリング抑制効果を高めるためには、含浸材の反応が生じやすい環境を保持することが重要である。
【0032】
[実構造物による表面含浸材塗布後の養生効果確認]
1.概要
施工対象とした商業ビル階段室は、コンクリートが乾燥しており、散水しても直ちに乾いてしまう環境であった。そのため、塗布した材料はそのまま乾燥して反応が全く進まないと考えられる。そこで、ひび割れが目視できる箇所を選定し、散水により湿潤状態にした後、各材料を塗布して効果を確認した。下記(1)~(5)の実施態様について、図6(無処理の(5)は省略)に示されるように、2週間後に表層透気試験と表面吸水試験を行ってそれぞれを比較した。
(1)けい酸塩系表面含浸材+散水+不織布湿布養生+ビニールシート
(2)けい酸塩系表面含浸材+散水+塗膜養生材
(3)けい酸塩系表面含浸材
(4)散水+塗膜養生材
(5)無処理
【0033】
2.表面含浸材の施工手順
(a)下地処理
コンクリート表面の汚れ、ホコリなどを水拭きにより除去し、コンクリート表面から散水する。
(b)けい酸塩系表面含浸材の塗布
表乾状態を確認後、けい酸塩系表面含浸材を1m当たり200gローラー、刷毛、噴霧器等により塗布して含浸させる。次いで、表面の表乾状態を確認し、粘度調整のため水を1m当たり150g散水してローラー等で引き延ばす。けい酸塩系表面含浸材を複数回塗布する場合は、けい酸塩系表面含浸材と散水の工程を繰り返す。
(c)塗膜養生材の塗布
散水により湿潤状態とした後、塗膜養生材を1m当たり200g噴霧器等により満遍なく塗布する。なお、上記(1)では、散水により湿潤状態にした後、塗膜養生材の代わりに不織布を貼り付け、その上から再度散水により不織布を湿潤状態にした後、ビニールシートで覆い、3辺をシールした。
【0034】
3.表層透気試験
表層透気試験(Torrent法)は、ダブルチャンバーの吸引によってコンクリート表層を真空状態にし、その後吸引を停止し、チャンバー内の気圧が回復するまでの時間から一次元方向の表層透気係数kT(×10-16)を算出する手法である。透気試験機(エフティーエス社製「パーマ・トール」)を用いて、上記(1)~(5)の実施態様についての評価を行った。得られた結果を表1と図7にまとめて示す。
【0035】
4.表面吸水試験
表面吸水試験は、吸水カップをコンクリート表面に密着させ、吸水カップに水を満たした直後から、コンクリート表面における経過時間あたりの吸水速度を算出する手法である。吸水試験機(横浜国立大学製「SWAT」)を用いて、上記(1)~(5)の実施態様についての評価を行った。注水してから10分間経過したときの吸水量から吸水速度を算出した。得られた結果を表1と図8にまとめて示す。
【0036】
表層透気試験及び表面吸水試験において、上記(1)と(2)の実施態様は、上記(3)~(5)の実施態様と比較して、明確に数値が減少した。上記(1)のように含浸材塗布後に散水して不織布を用いて湿潤状態を保つ湿布養生も有効と考えられるが、実構造物に対して湿布養生を行うことが困難な場合が多い。したがって、上記(2)のようなけい酸塩系表面含浸材を塗布後に散水して塗膜養生材を塗布する実施態様が非常に有効である。
【0037】
【表1】

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8