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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023056368
(43)【公開日】2023-04-19
(54)【発明の名称】電力変換装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 1/40 20070101AFI20230412BHJP
   H02M 3/28 20060101ALI20230412BHJP
   H02M 7/48 20070101ALI20230412BHJP
【FI】
H02M1/40
H02M3/28 D
H02M7/48 M
H02M3/28 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021165680
(22)【出願日】2021-10-07
(71)【出願人】
【識別番号】000003115
【氏名又は名称】東洋電機製造株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100161148
【弁理士】
【氏名又は名称】福尾 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100163511
【弁理士】
【氏名又は名称】辻 啓太
(72)【発明者】
【氏名】野嵜 正浩
(72)【発明者】
【氏名】大山 裕二
【テーマコード(参考)】
5H730
5H740
5H770
【Fターム(参考)】
5H730AA20
5H730BB27
5H730BB57
5H730DD04
5H730DD41
5H730EE04
5H730EE08
5H730FD01
5H730FD51
5H730FG05
5H730XX04
5H730XX11
5H730XX25
5H730XX35
5H740BA12
5H740BB05
5H740BB08
5H740BC01
5H740BC02
5H740JA01
5H740JB01
5H740KK01
5H740MM11
5H740NN17
5H740NN18
5H770DA01
5H770DA11
5H770DA41
5H770EA01
5H770HA02Y
5H770HA03Z
5H770LB01
5H770LB07
(57)【要約】
【課題】偏磁の過補償、および、スイッチングの高周波化に伴うスイッチング周期と制御周期との接近による低分解能化を防ぎつつ、偏磁を抑制する。
【解決手段】電力変換装置1は、半導体スイッチング素子31~34をブリッジ接続し、直流電力を交流電力に変換して変圧器4の一次巻線に印加する逆変換器3と、変圧器4の他の巻線の端子間の交流電力を直流電力へ変換する順変換器5と、一次巻線に流れる一次巻線電流を検出する電流検出器7と、逆変換器3の出力電力を調整する制御部20と、を備え、制御部20は、デューティー指令値を演算する指令値演算部21と、一次巻線電流を標本化した値から変圧器4の偏磁量を検出する偏磁検出部24と、デューティー指令値を偏磁量に応じて調整した偏磁補償指令値を求める偏磁補償部25と、キャリア波と偏磁補償指令値とを比較して、ゲート信号を生成するゲートドライバ部23と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体スイッチング素子をブリッジ接続し、直流電力を交流電力に変換して変圧器の一次巻線に印加する逆変換器と、
前記変圧器の他の巻線の端子間の交流電力を直流電力へ変換する順変換器と、
前記一次巻線に流れる一次巻線電流を検出する電流検出器と、
前記半導体スイッチング素子のオンオフを制御して、前記逆変換器の出力電力を調整する制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記順変換器の出力電圧を制御するためのデューティー指令値を演算する指令値演算部と、
前記電流検出器により検出された前記一次巻線電流を標本化した値から、前記変圧器の偏磁量を検出する偏磁検出部と、
前記デューティー指令値を、前記偏磁検出部により検出された偏磁量に応じて調整した偏磁補償指令値を求める偏磁補償部と、
前記逆変換器のスイッチング周期を決定するキャリア波と前記偏磁補償指令値とを比較することにより、前記半導体スイッチング素子のゲート信号を生成するゲートドライバ部と、を備える、電力変換装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電力変換装置において、
前記偏磁検出部は、
前記キャリア波のキャリア周期よりも所定値だけ大きいサンプリング周期ごとに、前記一次巻線電流の値を出力するサンプリング部と、
直列に接続された複数の遅延部と、
前記複数の遅延部のうち、最後尾の遅延部以外の遅延部それぞれに対応して設けられ、直列に接続された複数の加算部と、
減算部と、を備え、
前記複数の遅延部のうち、先頭の遅延部は、前記サンプリング部の出力を前記サンプリング周期だけ遅延させて後段の遅延部および対応する加算部に出力し、
前記複数の遅延部のうち、前記先頭の遅延部および前記最後尾の遅延部以外の遅延部は、前段の遅延部の出力を前記サンプリング周期だけ遅延させて後段の遅延部および対応する加算部に出力し、
前記最後尾の遅延部は、前段の遅延部の出力を前記サンプリング周期だけ遅延させて前記減算部に出力し、
前記複数の加算部のうち、先頭の加算部は、前記サンプリング部の出力と、前記先頭の遅延部の出力とを加算して後段の加算部に出力し、
前記複数の加算部のうち、前記先頭の加算部および最後尾の加算部以外の加算部は、前段の加算部の出力と、対応する遅延部の出力とを加算して後段の加算部に出力し、
前記複数の加算部のうち、前記最後尾の加算部は、前段の加算部の出力と、対応する遅延部の出力とを加算して前記減算部に出力し、
前記減算部は、前記最後尾の加算部の出力から前記最後尾の遅延部の出力を減算して、前記偏磁量として出力する、電力変換装置。
【請求項3】
請求項1に記載の電力変換装置において、
前記偏磁検出部は、
前記キャリア波のキャリア周期の半周期よりも所定値だけ大きいサンプリング周期ごとに、前記一次巻線電流の値を出力するサンプリング部と、
前記サンプリング部の出力を前記サンプリング周期だけ遅延させて出力する遅延部と、
前記サンプリング部の出力と、前記遅延部の出力とを加算して出力する加算部と、
前記加算部の出力から高周波成分を除去して、前記偏磁量として出力するローパスフィルタと、を備える電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力変換装置に関し、特に、変圧器を用いて電力変成を行う電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
変圧器の鉄心を通る磁束の密度には断面積と素材とに依存する上限があり、許容される磁束密度よりも磁束が増加すると、磁気飽和が発生し巻線に過電流を発生させる。
【0003】
また、鉄心に発生する磁束は巻線に印加される電圧の積分に比例することから、巻線に印加される交流電圧の正負が不平衡であった場合には、正負いずれかに偏磁が発生し、過電流が発生する。
【0004】
半導体スイッチング素子によるDC/AC変換と変圧器とを使用した電力変成は幅広く使用されている。また、半導体スイッチング素子のスイッチング周波数の高周波化によって、鉄心が磁気飽和しにくくなるので、変圧器の小型化を図ることができる。
【0005】
しかしながら、スイッチング周波数の高周波化が進むと、スイッチング素子自体あるいはドライブ回路の個体差などの要因によるオンオフ時間の正負不平衡がスイッチング周期に占める割合が増加するため、スイッチングの正負不平衡が偏磁に繋がる。偏磁による過電流が発生すると、半導体スイッチング素子あるいは周辺回路が破損するおそれがある。
【0006】
そこで、変圧器を用いる電力変換装置の偏磁抑制に関する技術が提案されている。例えば、特許文献1には、変圧器の偏磁量を検出し、偏磁量の大きさに対して、変圧器の一次巻線へ交流電力を印加するインバータ部のスイッチング素子のオンオフ信号のデューティー比を変化させることにより、偏磁を抑制する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2019-103200号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に開示された技術では、偏磁が発生すると、各スイッチング周期においてスイッチング素子のオンオフ時間を補正しているため、偏磁量が小さい場合、あるいは、スイッチング周期に対して制御周期が十分に短くない場合には、過補償となって逆方向の偏磁が発生し、過電流が流れるおそれがある。
【0009】
かかる事情に鑑みてなされた本発明の目的は、偏磁の過補償、および、スイッチングの高周波化に伴うスイッチング周期と制御周期との接近による低分解能化を防ぎつつ、偏磁を抑制することができる電力変換装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明に係る電力変換装置は、半導体スイッチング素子をブリッジ接続し、直流電力を交流電力に変換して変圧器の一次巻線に印加する逆変換器と、前記変圧器の他の巻線の端子間の交流電力を直流電力へ変換する順変換器と、前記一次巻線に流れる一次巻線電流を検出する電流検出器と、前記半導体スイッチング素子のオンオフを制御して、前記逆変換器の出力電力を調整する制御部と、を備え、前記制御部は、前記順変換器の出力電圧を制御するためのデューティー指令値を演算する指令値演算部と、前記電流検出器により検出された前記一次巻線電流を標本化した値から、前記変圧器の偏磁量を検出する偏磁検出部と、前記デューティー指令値を、前記偏磁検出部により検出された偏磁量に応じて調整した偏磁補償指令値を求める偏磁補償部と、前記逆変換器のスイッチング周期を決定するキャリア波と前記偏磁補償指令値とを比較することにより、前記半導体スイッチング素子のゲート信号を生成するゲートドライバ部と、を備える。
【0011】
また、本発明に係る電力変換装置において、前記偏磁検出部は、前記キャリア波のキャリア周期よりも所定値だけ大きいサンプリング周期ごとに、前記一次巻線電流の値を出力するサンプリング部と、直列に接続された複数の遅延部と、前記複数の遅延部のうち、最後尾の遅延部以外の遅延部それぞれに対応して設けられ、直列に接続された複数の加算部と、減算部と、を備え、前記複数の遅延部のうち、先頭の遅延部は、前記サンプリング部の出力を前記サンプリング周期だけ遅延させて後段の遅延部および対応する加算部に出力し、前記複数の遅延部のうち、前記先頭の遅延部および前記最後尾の遅延部以外の遅延部は、前段の遅延部の出力を前記サンプリング周期だけ遅延させて後段の遅延部および対応する加算部に出力し、前記最後尾の遅延部は、前段の遅延部の出力を前記サンプリング周期だけ遅延させて前記減算部に出力し、前記複数の加算部のうち、先頭の加算部は、前記サンプリング部の出力と、前記先頭の遅延部の出力とを加算して後段の加算部に出力し、前記複数の加算部のうち、前記先頭の加算部および最後尾の加算部以外の加算部は、前段の加算部の出力と、対応する遅延部の出力とを加算して後段の加算部に出力し、前記複数の加算部のうち、前記最後尾の加算部は、前段の加算部の出力と、対応する遅延部の出力とを加算して前記減算部に出力し、前記減算部は、前記最後尾の加算部の出力から前記最後尾の遅延部の出力を減算して、前記偏磁量として出力することが好ましい。
【0012】
また、本発明に係る電力変換装置において、前記偏磁検出部は、前記キャリア波のキャリア周期の半周期よりも所定値だけ大きいサンプリング周期ごとに、前記一次巻線電流の値を出力するサンプリング部と、前記サンプリング部の出力を前記サンプリング周期だけ遅延させて出力する遅延部と、前記サンプリング部の出力と、前記遅延部の出力とを加算して出力する加算部と、前記加算部の出力から高周波成分を除去して、前記偏磁量として出力するローパスフィルタと、を備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る電力変換装置によれば、偏磁の過補償、および、スイッチングの高周波化に伴うスイッチング周期と制御周期との接近による低分解能化を防ぎつつ、偏磁を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の第1の実施形態に係る電力変換装置の構成例を示す図である。
図2図1に示す偏磁検出部の構成例を示す図である。
図3A】偏磁が発生していない場合の、観測対象波形、三角波、および、図1に示す偏磁検出部によるサンプリングタイミングの一例を示す図である。
図3B図3Aに示すサンプリングタイミングで得られた値の波形を示す図である。
図3C図3Bの波形を長時間記録した波形を示す図である。
図4A】偏磁が発生した場合の、観測対象波形、三角波、および、図1に示す偏磁検出部によるサンプリングタイミングの一例を示す図である。
図4B図4Aに示すサンプリングタイミングで得られた値の波形を示す図である。
図4C図4Bの波形を長時間記録した波形を示す図である。
図5】本発明の第1の実施形態に係る電力変換装置の構成例を示す図である。
図6図5に示す偏磁検出部の構成例を示す図である。
図7A】偏磁が発生していない場合の、観測対象波形、三角波、および、図5に示す偏磁検出部によるサンプリングタイミングの一例を示す図である。
図7B図7Aに示すサンプリングタイミングで得られた値の波形を示す図である。
図7C図7Bの波形を長時間記録した波形を示す図である。
図7D図7Cに示す各値と、当該値の直近の値とを加算した波形を示す図である。
図8A】偏磁が発生した場合の、観測対象波形、三角波、および、図5に示す偏磁検出部によるサンプリングタイミングの一例を示す図である。
図8B図8Aに示すサンプリングタイミングで得られた値の波形を示す図である。
図8C図8Bの波形を長時間記録した波形を示す図である。
図8D図8Cに示す各値と、当該値の直近の値とを加算した波形を示す図である。
図9】従来の電力変換装置の構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照しながら説明する。
【0016】
図9に、本発明との比較のために、従来の電力変換装置100の構成例を示す。従来の電力変換装置100は、制御部200と、逆変換器3と、変圧器4と、順変換器5と、入力平滑コンデンサ6と、電流検出器7と、出力リアクトル8と、出力平滑コンデンサ9と、出力電圧検出器91と、を備える。
【0017】
制御部200は、指令値演算部21と、三角波発生部22と、ゲートドライバ部23と、を備える。
【0018】
指令値演算部21は、出力電圧検出器91により検出された出力電圧VOutを、目標とする電圧に制御するためのデューティー指令値Pref,Nrefを演算し、ゲートドライバ部23に出力する。
【0019】
三角波発生部22は、逆変換器3のスイッチング周期を決定するキャリア波(三角波)Vtriを発生し、ゲートドライバ部23に出力する。
【0020】
ゲートドライバ部23は、三角波発生部22から出力された三角波Vtriと、指令値演算部21から出力されたデューティー指令値Pref,Nrefとを比較することにより、PWM(Pulse Width Modulation)制御されたゲート信号G31,G32,G33,G34を生成し、逆変換器3に出力する。
【0021】
<第1の実施形態>
図1は、本発明の第1の実施形態に係る電力変換装置1の構成例を示す図である。電力変換装置1は、制御部2と、逆変換器3と、変圧器4と、順変換器5と、入力平滑コンデンサ6と、電流検出器7と、出力リアクトル8と、出力平滑コンデンサ9と、出力電圧検出器91と、を備える。電力変換装置1の制御部2の構成が、従来の電力変換装置100の制御部200と相違する。
【0022】
電力変換装置1は、直流電源10から入力された直流電力を絶縁および変成し、負荷11へ出力する。
【0023】
入力平滑コンデンサ6は、直流電源10から入力された直流電力を平滑化する。
【0024】
逆変換器3は、半導体スイッチング素子31,32,33,34をブリッジ接続して、中間点a,bを変圧器4の一次巻線に接続する。これにより、逆変換器3は、入力平滑コンデンサ6により平滑化された直流電力を交流電力に変換して、変圧器4の一次巻線に印加する。
【0025】
変圧器4は、巻線が複数設けられており、一次巻線と他の巻線とが独立している。変圧器4は、逆変換器3により生成された交流電力を絶縁しつつ、図1の例では、二次巻線の端子間に交流電力を発生させて、順変換器5に出力する。
【0026】
変圧器4は図1に示す二巻線変圧器に限定されるものではなく、三巻線変圧器であってもよい。変圧器4が三巻線変圧器である場合には、電力変換装置1は、変圧器4の鉄心を共有する順変換器5と、出力リアクトル8と、出力平滑コンデンサ9とを更にもう1組備える。出力電圧検出器91および制御部2は、1つのままでよい。
【0027】
順変換器5は、変圧器4の他の巻線の端子間の交流電力を直流電力へ変換する。なお、変圧器4の他の巻線とは、変圧器4が二巻線変圧器である場合には二次巻線であり、変圧器4である三巻線変圧器の場合には二次巻線および三次巻線である。
【0028】
出力リアクトル8および出力平滑コンデンサ9は、順変換器5により生成された直流電力の品質を整え、電力変換装置1の外部の負荷11に出力する。
【0029】
電流検出器7は、変圧器4の一次巻線に流れる一次巻線電流IPriを検出し、制御部2に出力する。
【0030】
出力電圧検出器91は、出力平滑コンデンサ9の両端にて出力電圧VOutを検出し、制御部2に出力する。
【0031】
制御部2は、指令値演算部21と、三角波発生部22と、ゲートドライバ部23と、偏磁検出部24と、偏磁補償部25と、を備える。制御部2は、出力電圧検出器91により検出された出力電圧VOutと、電流検出器7により検出された一次巻線電流IPriとに基づいて、ゲート信号G31,G32,G33,G34を生成することにより、半導体スイッチング素子31,32,33,34のオンオフを制御して逆変換器3の出力電力を調整する。
【0032】
指令値演算部21は、出力電圧検出器91により検出された出力電圧VOutを、目標とする電圧に制御するためのデューティー指令値Pref,Nrefを演算し、偏磁補償部25に出力する。すなわち、指令値演算部21は、順変換器5の出力電圧を制御するためのデューティー指令値Pref,Nrefを演算する。
【0033】
三角波発生部22は、逆変換器3のスイッチング周期を決定するキャリア波(三角波)Vtriを発生し、ゲートドライバ部23に出力する。なお、キャリア波はのこぎり波であってもよい。
【0034】
偏磁検出部24は、電流検出器7により検出された一次巻線電流IPriを一定のサンプリング周期Tsごとに取得した値(一次巻線電流IPriを標本化した値)から得られた一周期分の値を積分して変圧器4の偏磁量ISatを検出し、偏磁補償部25に出力する。
【0035】
偏磁補償部25は、偏磁検出部24により検出された、変圧器4の偏磁量ISatに応じて、デューティー指令値Pref,Nrefの値を調整し、偏磁補償指令値PrefComp,NrefCompを求める。本明細書において、「値を調整」とは、値を変化させないことも含む。すなわち、偏磁補償指令値PrefComp,NrefCompは、三角波Vtriのある周期においてはデューティー指令値Pref,Nrefから変化し、別のある周期においてはデューティー指令値Pref,Nrefから変化しなくてもよい。
【0036】
ゲートドライバ部23は、三角波発生部22により発生された三角波Vtriと、偏磁補償部25により生成された偏磁補償指令値PrefComp,NrefCompとを比較することによりPWM制御されたゲート信号G31,G32,G33,G34を生成し、逆変換器3に出力する。
【0037】
<偏磁検出部>
図2は、偏磁検出部24の構成例を示すブロック図である。図2に示す偏磁検出部24は、サンプリング部240と、スケール調整部241と、複数の遅延部242(遅延部242-1~242-(n+1))と、複数の加算部243(加算部243-1~243-n)と、減算部244と、を備える。
【0038】
サンプリング部240は、電流検出器7により検出された一次巻線電流IPriを標本化した値を出力する。具体的には、サンプリング部240は、キャリア波のキャリア周期T(三角波Vtriの出力周期)に時間次元で微小な所定値ΔTを加えたサンプリング周期Tsごとに一次巻線電流IPriの値を保持して、スケール調整部241に出力する。
【0039】
スケール調整部241は、サンプリング部240から出力された一次巻線電流IPriの値を調整して、遅延部242-1および加算部243-1に出力する。具体的には、スケール調整部241は、標本化された一次巻線電流IPriが後述する加算部243で加算された結果、オーバーフローしないレベルに、サンプリング部240の出力のレベルを調整する。なお、実運用上はスケール調整部241を設ける方が好ましいが、スケール調整部241による一次巻線電流IPriのレベルの調整は必ずしも必要ではない。したがって、スケール調整部241は、必須の構成ではない。
【0040】
遅延部242-1~242-(n+1)は直列に接続される。遅延部242は、(T/Δt)+1個だけ設けられる。加算部243-1~加算部243-nは直列に接続される。加算部243-1~加算部243-nはそれぞれ、遅延部242-1~242-nに対応して設けられる。すなわち、複数((T/Δt)個)の加算部243はそれぞれ、最後尾の遅延部242-(n+1)以外の遅延部242それぞれに対応して設けられ、直列に接続される。
【0041】
直列に接続された複数の遅延部242のうち、遅延部242-1(先頭の遅延部)は、サンプリング部240から出力され、スケール調整部241によりレベルが調整された一次巻線電流IPriを、サンプリング周期Tsだけ遅延させ、遅延部242-2(後段の遅延部)および遅延部242-1に対応する加算部243-1に出力する。なお、上述したように、スケール調整部241は必須の構成ではない。したがって、スケール調整部241が設けられない場合、遅延部242-1は、サンプリング部240の出力をサンプリング周期Tsだけ遅延させ、遅延部242-2および加算部243-1に出力する。
【0042】
複数の遅延部242のうち、遅延部242-1(先頭の遅延部)および遅延部242-(n+1)(最後尾の遅延部)以外の遅延部242-2~242-nは、前段の遅延部242の出力をサンプリング周期Tsだけ遅延させて後段の遅延部242および対応する加算部243に出力する。
【0043】
複数の遅延部242のうち、遅延部242-(n+1)(最後尾の遅延部)は、遅延部242-n(前段の遅延部)の出力をサンプリング周期Tsだけ遅延させて、減算部244に出力する。
【0044】
複数の加算部243のうち、加算部243-1(先頭の加算部)は、サンプリング部240から出力され、スケール調整部241によりレベルが調整された一次巻線電流IPriと、遅延部242-1(先頭の遅延部)の出力とを加算して、加算部243-2(後段の加算部)に出力する。なお、上述したように、スケール調整部241は必須の構成ではない。したがって、スケール調整部241が設けられない場合、加算部243-1は、サンプリング部240の出力と、遅延部242-1の出力とを加算して加算部243-2に出力する。
【0045】
複数の加算部243のうち、加算部243-1(先頭の加算部)および加算部243-n(最後尾の遅延部)以外の加算部243-2~243-(n-1)は、前段の加算部243の出力と、対応する遅延部242の出力とを加算して、後段の加算部243に出力する。
【0046】
複数の加算部243のうち、加算部243-n(最後尾の加算部)は、加算部243-(n-1)(前段の加算部)の出力と、対応する遅延部242-nの出力とを加算して、減算部244に出力する。
【0047】
減算部244は、加算部243-n(最後尾の加算部)の出力から、遅延部242-(n+1)(最後部の遅延部)の出力を減算して、偏磁量ISatとして出力する。
【0048】
<偏磁検出方法>
次に、偏磁検出部24による偏磁検出方法について、図3A図3Cおよび図4A図4Cを参照して説明する。図3A図3Cおよび図4A図4Cにおいて、横軸は時間を示す。
【0049】
図3A,4Aは、観測対象波形target、サンプリングタイミング用の三角波triおよびサンプリングタイミング指令値refの波形を示す図である。図3B,4Bは、サンプリングタイミングで観測対象波形targetを読み取った値の波形を示す図である。図3C,4Cは、図3B,4Bに示す波形を長時間記録した波形を示す図である。図3A~3Cは、偏磁が発生していない場合を示し、図4A図4Cは、偏磁が発生している場合を示す。また、図3A図3Cおよび図4A図4Cにおいて、観測対象波形targetの周波数は50Hzであり、三角波triの周波数は49Hzであり、キャリア周期Tは20msであり、Δtは0.408msであるとする。したがって、サンプリング周期Tsは、20.408msである。三角波triの位相は、観測対象波形targetの位相に同期してもよいし、同期していなくてもよい。
【0050】
図3A,4Aに示すように、サンプリング部240は、三角波triがサンプリングタイミング指令値refと一致した瞬間の観測対象波形targetの値をサンプリングする。上述したように、サンプリング周期Tsは、キャリア周期TよりもΔTだけ大きい値である。したがって、図3B,4Bに示すように、サンプリングタイミングが少しずつ移動する。そのため、観測対象波形targetの値を高分解能に読み取ることができる。
【0051】
キャリア周期Tは20msであり、Δtは0.408msであるため、観測対象波形targetを一周期分サンプリングするには、T/ΔT個のデータが必要となる。三角波triの周波が49Hzであるため、1sで観測対象波形targetの一周期分をサンプリングすることができる。
【0052】
偏磁が発生している場合(図4C)、偏磁が発生していない場合(図3C)と比べて、観測対象波形targetの正側のピーク値が非線形に変化している(図4Cの丸印部分)。そのため、図3C,4Cに示す観測対象波形targetの一周期分のサンプリング値の総和を求めると、偏磁が発生していない場合は0となり、偏磁が発生している場合は偏差が発生する。したがって、減算部244による、加算部243-nの出力からの遅延部242-(n+1)の出力の減算により、偏磁量ISatを検出することができる。
【0053】
このように本実施形態においては、一次巻線電流IPriを標本化した値(キャリア周期Tよりも所定値Δtだけ大きいサンプリング周期でサンプリングした値)から、変圧器4の偏磁量ISatを検出する。そのため、高周波化した変圧器4の偏磁量ISatを高精度に検出することができる。その結果、偏磁の過補償、および、スイッチングの高周波化に伴うスイッチング周期と制御周期との接近による低分解能化を防ぎつつ、偏磁を抑制することができる。また、本実施形態に係る電力変換装置1は、従来の電力変換装置100に、偏磁検出部24および偏磁補償部25を追加するだけで構成することができる。
【0054】
<第2の実施形態>
図5は、本発明の第2の実施形態に係る電力変換装置1aの構成例を示す図である。図5において図1と同様の構成には同じ符号を付し、説明を省略する。
【0055】
図5に示すように、本実施形態に係る電力変換装置1aは、第1の実施形態に係る電力変換装置1と比較して、制御部2を制御部2aに変更した点が異なる。制御部2aは、制御部2と比較して、偏磁検出部24を偏磁検出部24aに変更した点が異なる。
【0056】
<偏磁検出部24a>
図6は、偏磁検出部24aの構成例を示す図である。
【0057】
図6に示すように、偏磁検出部24aは、サンプリング部240aと、スケール調整部241aと、遅延部242aと、加算部243aと、ローパスフィルタ(LPF:Low Pass Filter)245と、を備える。
【0058】
サンプリング部240aは、電流検出器7により検出された一次巻線電流IPriを標本化した値を出力する。具体的には、サンプリング部240aは、キャリア波のキャリア周期Tの半周期(T/2)に時間次元で微小な所定値ΔTを加えたサンプリング周期Tsごとに一次巻線電流IPri値を保持して、スケール調整部241aに出力する。
【0059】
スケール調整部241aは、サンプリング部240aから出力された一次巻線電流IPriの値を調整して、遅延部242aおよび加算部243aに出力する。具体的には、スケール調整部241は、標本化された一次巻線電流IPriが後述する加算部243aで加算された結果、オーバーフローしないレベルに、サンプリング部240aの出力のレベルを調整する。なお、実運用上はスケール調整部241aを設ける方が好ましいが、スケール調整部241aによる一次巻線電流IPriのレベルの調整は必ずしも必要ではない。したがって、スケール調整部241aは、必須の構成ではない。
【0060】
遅延部242aは、サンプリング部240aから出力され、スケール調整部241aによりレベルが調整された一次巻線電流IPriを、サンプリング周期Tsだけ遅延させ、加算部243aに出力する。なお、上述したように、スケール調整部241aは必須の構成ではない。したがって、スケール調整部241aが設けられない場合、遅延部242aは、サンプリング部240aの出力をサンプリング周期Tsだけ遅延させ、加算部243aに出力する。
【0061】
加算部243aは、サンプリング部240aから出力され、スケール調整部241aによりレベルが調整された一次巻線電流IPriと、遅延部242aの出力とを加算して、LPF245に出力する。
【0062】
LPF245は、加算部243aの出力から高周波成分を除去し、低周波成分のみを偏磁量ISatとして出力する。
【0063】
<偏磁検出方法>
次に、偏磁検出部24aによる偏磁検出方法について、図7A図7Dおよび図8A図8Dを参照して説明する。図7A図7Dおよび図8A図8Dにおいて、横軸は時間を示す。
【0064】
図7A,8Aは、観測対象波形target、サンプリングタイミング用の三角波triおよびサンプリングタイミング指令値refの波形を示す図である。図7B,8Bは、サンプリングタイミングで観測対象波形targetを読み取った値の波形を示す図である。図7C,8Cは、図7B,8Bに示す波形を長時間記録した波形を示す図である。図7D,8Dは、図7C,8Cで得られた値と直前の値とを加算した波形を示す図である。図7A~7Dは、偏磁が発生していない場合を示し、図8A図8Dは、偏磁が発生している場合を示す。また、図7A図7Dおよび図8A図8Dにおいて、観測対象波形targetの周波数は50Hzであり、三角波triの周波数は99Hzであり、キャリア周期Tは20msであり、Δtは0.101msであるとする。したがって、サンプリング周期Tsは、10.101msである。三角波triの位相は、観測対象波形targetの位相に同期してもよいし、同期していなくてもよい。
【0065】
図7A,8Aに示すように、サンプリング部240aは、三角波triがサンプリングタイミング指令値refと一致した瞬間の観測対象波形targetの値をサンプリングする。上述したように、サンプリング周期Tsは、キャリア周期Tの半周期(10ms)よりもΔTだけ大きい値である。したがって、図7B,8Bに示すように、サンプリングタイミングが少しずつ移動する。そのため、観測対象波形targetの値を高分解能に読み取ることができる。
【0066】
サンプリング部240aによるサンプリング周期Tsは、キャリア周期Tの半周期よりもΔtだけ大きい(T/Δ+2)ため、図7C,8Cに示すように、サンプリング部240aは、正負交互に値をサンプリングすることができる。
【0067】
偏磁が発生していない場合、図7Dに示すように、図7Cに示す各値と、その値の直前の値とを加算すると、正負交互にサンプリングされるため、ほとんどのサンプリングタイミングでほぼ0の値となる。
【0068】
一方、偏磁が発生している場合、図8Dにおいて丸印で示すように、偏磁が発生している正側に直流成分が現われている。
【0069】
図7D,8Dで得られた半周期ごとの変化量をLPF245に通すことで、偏磁量ISatを検出することができる。
【0070】
このように本実施形態においては、一次巻線電流IPriを標本化した値(キャリア周期Tの半周期よりも所定値Δtだけ大きいサンプリング周期でサンプリングした値)から、変圧器4の偏磁量ISatを検出する。そのため、高周波化した変圧器4の偏磁量ISatを高精度に検出することができる。その結果、偏磁の過補償、および、スイッチングの高周波化に伴うスイッチング周期と制御周期との接近による低分解能化を防ぎつつ、偏磁を抑制することができる。また、本実施形態に係る電力変換装置1aは、従来の電力変換装置100に、偏磁検出部24aおよび偏磁補償部25を追加するだけで構成することができる。
【0071】
また、特許文献1に開示された技術では、偏磁検出に単純なLPFを用いているため、離散的な値を用いた場合は、その標本化周期によって偏磁検出の精度に影響を及ぼす。また、連続的な値を用いてアナログ回路によるLPFとした場合は、アナログ回路を構成するハードウェアが必要となる。一方、本発明に係る電力変換装置1,1aにおいては、キャリア周期Tと微小な差(ΔT)あるいはキャリア周期Tの半周期と微小な差(ΔT)を有するサンプリング周期TsにおけるΔTを調整することで、サンプリングタイミング周期を、キャリア周期Tまたはキャリア周期Tの半周期程度の周期で高精度に偏磁を高精度に検出することが可能となる。また、本発明に係る偏磁検出方法は、一般的な電力変換装置が備える制御部上でソフトウェアにより実現可能であるため、別途ハードウェアを設ける必要が無い。
【0072】
また、本発明に係る電力変換装置1,1aは、独立して存在する偏磁検出部24あるいは偏磁検出部24aと、偏磁補償部25とにより偏磁補償を実現する。そのため、偏磁補償を行っていない既存の電力変換装置に対して、偏磁検出部24あるいは偏磁検出部24aと、偏磁補償部25とに相当する構成を追加するだけで、容易に実現することができる。
【0073】
上述の実施形態は代表的な例として説明したが、本発明の趣旨および範囲内で、多くの変更および置換が可能であることは当業者に明らかである。したがって、本発明は、上述の実施形態によって制限するものと解するべきではなく、特許請求の範囲から逸脱することなく、種々の変形および変更が可能である。
【符号の説明】
【0074】
1,1a 電力変換装置
2,2a 制御部
3 逆変換器
4 変圧器
5 順変換器
6 入力平滑コンデンサ
7 電流検出器
8 出力リアクトル
9 出力平滑コンデンサ
10 直流電源
11 負荷
21 指令値演算部
22 三角波発生部
23 ゲートドライバ部
24,24a 偏磁検出部
25 偏磁補償部
240,240a サンプリング部
241,241a スケール調整部
242,242a 遅延部
243,243a 加算部
244 減算部
245 LPF
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図4A
図4B
図4C
図5
図6
図7A
図7B
図7C
図7D
図8A
図8B
図8C
図8D
図9