(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023056418
(43)【公開日】2023-04-19
(54)【発明の名称】定電位電解式ガスセンサおよび定電位電解式ガスセンサの製造方法
(51)【国際特許分類】
G01N 27/404 20060101AFI20230412BHJP
G01N 27/416 20060101ALI20230412BHJP
【FI】
G01N27/404 341B
G01N27/416 311G
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021165777
(22)【出願日】2021-10-07
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-01-12
(71)【出願人】
【識別番号】000190301
【氏名又は名称】新コスモス電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】林 剛史
(57)【要約】
【課題】フッ化水素ガスに対する感度の経時変化が抑制された定電位電解式ガスセンサおよび定電位電解式ガスセンサの製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明の定電位電解式ガスセンサ1は、フッ化水素ガスを検知するための電極2として、反応極21と、反応極21に対する、銀を含む対極22と、反応極21の電位の基準となる参照極23とを備え、反応極21、対極22および参照極23が接触する電解液3が、反応極21で電気化学反応を生じさせるための主成分として、臭素イオン、リチウムイオンおよび臭素酸イオンを含み、電解液3が、電気化学反応とは異なる合成化学反応を生じさせるための副成分として、電解液3中で臭化銀を生成するための銀イオンと、電解液3中でヨウ素酸銀を生成するためのヨウ素酸イオンとが添加されてなることを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ化水素ガスを検知するための定電位電解式ガスセンサであって、
前記定電位電解式ガスセンサが、前記フッ化水素ガスを検知するための電極として、反応極と、前記反応極に対する、銀を含む対極と、前記反応極の電位の基準となる参照極とを備え、
前記反応極、前記対極および前記参照極が接触する電解液が、前記反応極で電気化学反応を生じさせるための主成分として、臭素イオン、リチウムイオンおよび臭素酸イオンを含み、
前記電解液が、前記電気化学反応とは異なる合成化学反応を生じさせるための副成分として、前記電解液中で臭化銀を生成するための銀イオンと、前記電解液中でヨウ素酸銀を生成するためのヨウ素酸イオンとが添加されてなることを特徴とする定電位電解式ガスセンサ。
【請求項2】
前記ヨウ素酸イオンが、前記電解液中で、下記化学反応式(1)に従ってヨウ素酸銀を生成することで銀イオンを消費するように機能することを特徴とする請求項1に記載の定電位電解式ガスセンサ。
【請求項3】
前記ヨウ素酸イオンの添加が、ヨウ素酸カリウムの添加により行なわれ、前記ヨウ素酸カリウムの添加量が、0.01mol/L以上、0.1mol/L以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の定電位電解式ガスセンサ。
【請求項4】
フッ化水素ガスを検知するための定電位電解式ガスセンサを製造する方法であって、
前記フッ化水素ガスを検知するための電極として、反応極と、前記反応極に対する、銀を含む対極と、前記反応極の電位の基準となる参照極とを設ける工程と、
前記反応極、前記対極および前記参照極が接触する電解液を設ける工程と
を含み、
前記電解液を設ける工程が、
前記反応極で電気化学反応を生じさせるための主成分として臭素イオン、リチウムイオンおよび臭素酸イオンを含む電解液を作成する工程と、
前記電解液に、前記電気化学反応とは異なる合成化学反応を生じさせるための副成分として、前記電解液中で臭化銀を生成するための銀イオンと、前記電解液中でヨウ素酸銀を生成するためのヨウ素酸イオンとを添加する工程と
を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、定電位電解式ガスセンサおよび定電位電解式ガスセンサの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フッ化水素ガスを検知するためのセンサとして、たとえば、特許文献1に開示される定電位電解式ガスセンサが用いられる。特許文献1の定電位電解式ガスセンサでは、反応極で電気化学反応を生じさせるための主成分としてヨウ化カリウム(KI)およびヨウ素酸カリウム(KIO3)を含む電解液が用いられている。その電解液中では、第1の反応で、フッ化水素(HF)が水素イオン(H+)とフッ素イオン(F-)に分解し、第2の反応で、水素イオン(H+)、ヨウ素イオン(I-)およびヨウ素酸イオン(IO3
-)が反応してヨウ素(I2)が発生し、第3の反応で、反応極においてヨウ素(I2)の還元反応が生じる。この還元反応の結果として反応極と対極との間に流れる電解電流を検出することでフッ化水素ガスを検知することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
反応極で電気化学反応を生じさせるための主成分として、ヨウ化カリウムおよびヨウ素酸カリウムの組み合わせ以外にも、様々な成分の組み合わせが考えられる。たとえば、ヨウ化カリウムの代わりに臭化リチウム(LiBr)を用いることも考えられるが、臭化リチウムおよびヨウ素酸カリウムの組み合わせでは、上記反応が起こりにくく、フッ化水素ガスに対して十分な感度が得られない。一方、ヨウ素酸カリウムの代わりに臭素酸カリウム(KBrO3)などの臭素酸アルカリ金属を用いて、臭化リチウムおよび臭素酸アルカリ金属の組み合わせを採用することで、上記反応が起こりやすくなり、フッ化水素ガスに対する感度が向上する。ところが、電解液の主成分として臭化リチウムおよび臭素酸アルカリ金属を用いることで、フッ化水素ガスを高感度で検出することができる一方で、フッ化水素ガスに対する感度が経時により変化するという問題がある。
【0005】
本発明は、上記問題に鑑みなされたもので、フッ化水素ガスに対する感度の経時変化が抑制された定電位電解式ガスセンサおよび定電位電解式ガスセンサの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の定電位電解式ガスセンサは、フッ化水素ガスを検知するための定電位電解式ガスセンサであって、前記定電位電解式ガスセンサが、前記フッ化水素ガスを検知するための電極として、反応極と、前記反応極に対する、銀を含む対極と、前記反応極の電位の基準となる参照極とを備え、前記反応極、前記対極および前記参照極が接触する電解液が、前記反応極で電気化学反応を生じさせるための主成分として、臭素イオン、リチウムイオンおよび臭素酸イオンを含み、前記電解液が、前記電気化学反応とは異なる合成化学反応を生じさせるための副成分として、前記電解液中で臭化銀を生成するための銀イオンと、前記電解液中でヨウ素酸銀を生成するためのヨウ素酸イオンとが添加されてなることを特徴とする。
【0007】
また、前記ヨウ素酸イオンが、前記電解液中で、下記化学反応式(1)に従ってヨウ素酸銀を生成することで銀イオンを消費するように機能することが好ましい。
【0008】
また、前記ヨウ素酸イオンの添加が、ヨウ素酸カリウムの添加により行なわれ、前記ヨウ素酸カリウムの添加量が、0.01mol/L以上、0.1mol/L以下であることが好ましい。
【0009】
本発明の定電位電解式ガスセンサの製造方法は、フッ化水素ガスを検知するための定電位電解式ガスセンサを製造する方法であって、前記フッ化水素ガスを検知するための電極として、反応極と、前記反応極に対する、銀を含む対極と、前記反応極の電位の基準となる参照極とを設ける工程と、前記反応極、前記対極および前記参照極が接触する電解液を設ける工程とを含み、前記電解液を設ける工程が、前記反応極で電気化学反応を生じさせるための主成分として臭素イオン、リチウムイオンおよび臭素酸イオンを含む電解液を作成する工程と、前記電解液に、前記電気化学反応とは異なる合成化学反応を生じさせるための副成分として、前記電解液中で臭化銀を生成するための銀イオンと、前記電解液中でヨウ素酸銀を生成するためのヨウ素酸イオンとを添加する工程とを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、フッ化水素ガスに対する感度の経時変化が抑制された定電位電解式ガスセンサおよび定電位電解式ガスセンサの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態に係る定電位電解式ガスセンサの断面図である。
【
図2】臭化銀およびヨウ素酸カリウムを添加した電解液を用いた定電位電解式ガスセンサのフッ化水素ガスに対する応答強度の経時変化を示すグラフである。
【
図3】臭化銀およびヨウ素酸カリウムを添加した電解液を用いた定電位電解式ガスセンサの所定日数経過後のフッ化水素ガスに対する応答特性を示すグラフである。
【
図4】臭化銀を添加した電解液を用いた定電位電解式ガスセンサのフッ化水素ガスに対する応答強度の経時変化を示すグラフである。
【
図5】臭化銀を添加した電解液を用いた定電位電解式ガスセンサの所定日数経過後のフッ化水素ガスに対する応答特性を示すグラフである。
【
図6】臭化銀およびヨウ素酸カリウムを添加した電解液を用いて、異なる製造ロットで製造された複数の定電位電解式ガスセンサのフッ化水素ガスに対する応答特性を示すグラフである。
【
図7】臭化銀を添加した電解液を用いて、異なる製造ロットで製造された複数の定電位電解式ガスセンサのフッ化水素ガスに対する応答特性を示すグラフである。
【
図8】臭化銀を添加した電解液に添加するヨウ素酸カリウムの添加量を変えて作製した定電位電解式ガスセンサの所定日数経過後のヨウ素酸カリウムの添加量とフッ化水素ガスに対する応答強度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照して、本発明の一実施形態に係る定電位電解式ガスセンサおよび定電位電解式ガスセンサの製造方法を説明する。ただし、以下に示す実施形態は一例であり、本発明の定電位電解式ガスセンサおよび定電位電解式ガスセンサの製造方法は以下の例に限定されることはない。
【0013】
本実施形態の定電位電解式ガスセンサ1は、フッ化水素ガスを検知するために用いられる。定電位電解式ガスセンサ1は、
図1に示されるように、フッ化水素ガスを検知するための電極2と、電極2と接触する電解液3とを備えている。定電位電解式ガスセンサ1は、フッ化水素ガスが関与する電気化学反応によって電極2に生じる電解電流を検知することにより、フッ化水素ガスを検知する。
【0014】
定電位電解式ガスセンサ1は、本実施形態では、
図1に示されるように、電極2および電解液3を収容する電解槽4を備えている。電解槽4は、電解液3を収容する電解液収容部41と、電解液収容部41に電解液3を供給するための電解液供給孔42と、フッ化水素ガスを含む測定対象ガスが電解槽4の外部から電解液収容部41内に流入するガス流入孔43と、電気化学反応で生じたガスや未反応の測定対象ガスなどの電解液3中のガスが電解液収容部41から電解槽4の外部に流出するガス流出孔44とを備えている。
【0015】
ただし、電解槽は、電極および電解液を収容可能で、ガスが流入および流出可能に構成されていればよく、図示された構成に限定されることはない。電解槽を構成する材料もまた、特に限定されることはなく、たとえば、ポリカーボネート、塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレンなどの公知の樹脂材料を採用することができる。
【0016】
定電位電解式ガスセンサ1は、
図1に示されるように、フッ化水素ガスを検知するための電極2として、反応極21と、反応極21に対する、銀を含む対極22と、反応極21の電位の基準となる参照極23とを備えている。反応極21、対極22および参照極23は、電解液3に接触するように、電解槽4内に配置される。反応極21、対極22および参照極23は、たとえば、図示しない公知のポテンショスタットなどの制御手段にリード線を介して接続されて、所定の電圧が印加され、電気化学反応の結果として生じる電解電流が測定される。
【0017】
反応極21は、参照極23の電位を基準として一定の電圧が印加されて、フッ化水素が関与する電気化学反応を生じさせる電極である。反応極21は、本実施形態では、
図1に示されるように、ガス流入側ガス透過膜5上に、電極材料(たとえば、カーボン)により作製されたペーストが塗布・焼成されて、形成される。反応極21は、ガス流入側ガス透過膜5とともに、ガス流入孔43を液密に閉鎖するように配置される。より具体的には、積層された反応極21およびガス流入側ガス透過膜5は、反応極21が電解液収容部41に面し、ガス流入側ガス透過膜5がガス流入孔43に面するように配置されて、Oリング6などの公知の密封手段を介して、ガス流入側蓋部材7によって、電解液収容部41とガス流入孔43との間に固定される。
【0018】
ガス流入側ガス透過膜5は、電解液収容部41内の電解液3がガス流入孔43を介して電解槽4の外部に流出するのを抑制する一方で、フッ化水素ガスを含む測定対象ガスが電解槽4の外部から電解液収容部41内に流入するのを許容する。ガス流入側ガス透過膜5は、電解液3の流出を抑制し、測定対象ガスの流入を許容するように構成されていればよく、特に限定されることはないが、たとえば、ポリテトラフルオロエチレン、パーフルオロアルコキシアルカン、パーフルオロエチレンプロペンコポリマーなどのフッ素樹脂材料を用いて多孔質に形成されたフィルムを用いることができる。
【0019】
対極22は、銀を含み、反応極21でのフッ化水素が関与する電気化学反応に対応して、別の電気化学反応を生じさせる電極である。対極22は、本実施形態では、
図1に示されるように、ガス流出側ガス透過膜8上に固定された銀線として構成される。対極22は、電解液3を介して反応極21に対向して配置される。
【0020】
参照極23は、反応極21の電位の基準となる電極である。参照極23は、本実施形態では、
図1に示されるように、対極22とともに、ガス流出側ガス透過膜8上に固定された銀線として構成される。参照極23は、電解液3を介して反応極21に対向して配置される。
【0021】
ガス流出側ガス透過膜8は、電解液収容部41内の電解液3がガス流出孔44を介して電解槽4の外部に流出するのを抑制する一方で、電気化学反応で生じたガスや未反応の測定対象ガスなどの電解液3中のガスが電解液収容部41から電解槽4の外部に流出するのを許容する。ガス流出側ガス透過膜8は、
図1に示されるように、対極22および参照極23が固定された面とは反対側の面がガス流出孔44に面するように配置されて、Oリング9などの公知の密封手段を介して、ガス流出側蓋部材10によって、電解液収容部41とガス流出孔44との間に固定される。ガス流出側ガス透過膜8は、電解液3の流出を抑制し、電解液3中のガスの流出を許容するように構成されていればよく、特に限定されることはないが、たとえば、ガス流入側ガス透過膜5と同様に、ポリテトラフルオロエチレン、パーフルオロアルコキシアルカン、パーフルオロエチレンプロペンコポリマーなどのフッ素樹脂材料を用いて多孔質に形成されたフィルムを用いることができる。
【0022】
定電位電解式ガスセンサ1では、反応極21に、参照極23の電位を基準として一定の電圧が印加され、参照極23との間に一定の電位差が付加される。このとき反応極21に印加する電圧は、反応極21においてフッ化水素が関与する電気化学反応を生じさせるように、適宜設定することができる。参照極23との間に一定の電位差が付加された反応極21は、反応極21に接触する電解液3中に流入したフッ化水素が関与する電気化学反応を生じさせる。フッ化水素が関与する電気化学反応が生じると、その電気化学反応に対応して、対極22側においても別の電気化学反応が生じる。反応極21および対極22において生じる電気化学反応の結果として、反応極21と対極22との間に電解電流が生じ、その電解電流を検知することで、フッ化水素ガスを検知することができ、電解電流の大きさに応じてフッ化水素ガスの濃度を求めることができる。
【0023】
定電位電解式ガスセンサ1は、反応極21、対極22および参照極23が接触する電解液3を備えている。電解液3は、反応極21で電気化学反応を生じさせるための主成分として、臭素イオンおよび臭素酸イオンを含んでいる。電解液3が臭素イオンおよび臭素酸イオンを含むことにより、一定の電圧が印加された反応極21おいて、(1)電解液3中に流入したフッ化水素の解離反応、(2)臭素の生成反応、および(3)臭素の還元反応が生じ、対極22において、反応極21における上述の電気化学反応に対応して、(4)臭素イオンの酸化反応が生じる。以下に、上述の(1)~(4)の反応式を示す。
【0024】
(反応極)
(1)HF → H+ + F-
(2)6H+ + 5Br- + BrO3
- → 3Br2 +3H2O
(3)Br2 + 2e- → 2Br-
(対極)
(4)2Ag + 2Br- → 2AgBr + 2e-
【0025】
本明細書において使用される「主成分」という用語は、フッ化水素が関与する電気化学反応を反応極21で生じさせるために電解液3に添加される成分のことを意味する。したがって、「主成分」は、電解液3中で電気化学反応とは異なる合成化学反応を生じさせるために添加される後述の「副成分」とは異なる意味で用いられる。「主成分」と「副成分」とは、それぞれ電気化学反応と合成化学反応とを生じさせるための成分という意味で異なっているが、それ以外にも、電解液3への添加量が互いに異なっていてもよい。電解液3中での「主成分」の添加量は、電解液3中での電気化学反応の促進の観点から、電解液3中での「副成分」の添加量より多いことが好ましい。
【0026】
電解液3への臭素イオンの添加は、特に限定されることはないが、本実施形態では臭化リチウムの添加により行なわれる。したがって、本実施形態では、電解液3に、主成分としてリチウムイオンも含まれる。電解液3に含まれる臭素イオンおよびリチウムイオンの添加量、すなわち臭化リチウムの添加量は、特に限定されることはなく、反応極21および対極22において、フッ化水素が関与する電気化学反応が生じるように、適宜設定することができる。
【0027】
電解液3への臭素酸イオンの添加は、特に限定されることはないが、たとえば臭素酸アルカリ金属の添加によって行なうことができる。したがって、電解液3に、主成分としてアルカリ金属イオンが含まれていてもよい。臭素酸アルカリ金属に含まれるアルカリ金属元素としては、いずれのアルカリ金属元素であっても適用可能であるが、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)およびカリウム(K)を含む群から選択される1つまたは複数であることが好ましく、カリウム(K)であることがさらに好ましい。電解液3に含まれる臭素酸イオンの添加量、たとえば臭素酸アルカリ金属の添加量は、特に限定されることはなく、反応極21および対極22において、フッ化水素が関与する電気化学反応が生じるように、適宜設定することができる。
【0028】
電解液3は、本実施形態では、電気化学反応とは異なる合成化学反応を生じさせるための副成分として、電解液3中で臭化銀を生成するための銀イオンが添加されている。定電位電解式ガスセンサ1では、電解液3中に対極22から自然溶解する銀イオンが存在するが、この自然溶解する銀イオンとは別に、電解液3に銀イオンが添加されている。定電位電解式ガスセンサ1は、電解液3に銀イオンが添加されることで、フッ化水素ガスに対する感度の経時変化を抑制することができる。それによって、定電位電解式ガスセンサ1を長寿命化することができる。これは、以下で詳しく述べるように、電解液3に銀イオンを添加することで、電解液3中で添加した銀イオンと臭素イオンとが反応して臭化銀が生成されて、フッ化水素ガスに対する感度の経時変化をもたらす炭酸リチウムや酸化リチウムが対極22上に析出するのを抑制することができるからであると考えられる。
【0029】
ここで、参照極23を基準に一定の電圧が反応極21に印加されると、対極22上では、上述したように、対極22に含まれる銀と、電解液3中に含まれる臭素イオンとが反応して、臭化銀が生成する。この臭化銀は、反応極21における電気化学反応に対応して生じる、臭素イオンの電気化学反応(酸化反応)により生成するもので、非常に微量である。一方、対極22上では、電気化学反応により生じる臭化銀とは別に、対極22から溶出する銀イオンと、電解液3中の臭素イオンとが化学的に反応することによっても、対極22上に臭化銀が生成・析出する。この化学反応によって生成する臭化銀は、電気化学反応により生成する臭化銀よりも多い。化学反応により生成する臭化銀が対極22上に析出すると、炭酸リチウムや酸化リチウムが対極22上に析出する。これは、化学反応により表面に析出した臭化銀が触媒となって、炭酸リチウムや酸化リチウムの析出が促進されるためだと考えられる。対極22上に析出した炭酸リチウムや酸化リチウムは、対極22上での電気化学反応を阻害するだけでなく、電解液3中に溶出して検知対象であるフッ化水素とも反応するため、フッ化水素ガスの検出を阻害する。このように、対極22上では、電気化学反応とは別に、対極22から溶出する銀イオンと電解液3中の臭素イオンとの化学反応が経時により進行し、それに伴なって炭酸リチウムや酸化リチウムが表面に析出する。その結果、フッ化水素ガスに対する感度に経時変化が生じるものと考えられる。
【0030】
それに対して、対極22から電解液3中に自然溶解する銀イオンとは別に、電解液3に銀イオンを添加することにより、炭酸リチウムや酸化リチウムの析出が抑制される。これは、電解液3中に銀イオンを添加することで、添加した銀イオンと電解液3中の臭素イオンとが反応して臭化銀が生成されるので、対極22に含まれる銀が電解液3中に溶出するのが抑制され、対極22から溶出する銀イオンと、電解液3中の臭素イオンとの化学反応が抑制され、化学反応による臭化銀の対極22上への生成・析出が抑制されるためだと考えられる。その結果、フッ化水素ガスに対する感度の経時変化をもたらす炭酸リチウムや酸化リチウムが対極22上に析出するのが抑制され、フッ化水素ガスに対する感度の経時変化を抑制することができるものと考えられる。
【0031】
本実施形態の定電位電解式ガスセンサ1ではさらに、電解液3中に銀イオンを添加することにより、フッ化水素ガスに対する感度の製造ロット間の固体差を低減することができる。これは、以下で詳しく述べるように、電解液3に銀イオンを添加することで、フッ化水素ガスに対する感度に経時変化をもたらす炭酸リチウムや酸化リチウムが対極22上に析出するのを抑制することができるからであると考えられる。
【0032】
炭酸リチウムや酸化リチウムは、すでに述べたように、対極22上での化学反応による臭化銀の生成に伴なって、臭化銀の触媒作用により対極22上に析出するものと考えられる。対極22上での電気化学反応は、参照極23に対する電位によって制御されるが、対極22上での化学反応は、対極22の表面性状、対極22の純度(不純物濃度)、電解液の純度(不純物の種類、濃度)、電解液の濃度などに影響される。そして、対極22の表面性状や純度などは、製造ロット間で変動する。つまり、化学反応による臭化銀の生成や、それに伴う炭酸リチウムや酸化リチウムの析出は、対極22の表面性状や純度などに影響され、対極22の製造ロット間の変動の影響を受ける。したがって、対極22の製造ロット間の変動によって、炭酸リチウムや酸化リチウムの析出が変動し、フッ化水素ガスに対する感度の経時変化が変動する。しかし、対極22の表面性状や純度などに製造ロット間の変動があったとしても、電解液3に銀イオンを添加することで、炭酸リチウムや酸化リチウムの析出そのものを抑制することができるので、製造ロット間の変動による炭酸リチウムや酸化リチウムの析出の変動を抑制でき、フッ化水素ガスに対する感度の製造ロット間の固体差を低減することができるものと考えられる。
【0033】
本実施形態の定電位電解式ガスセンサ1ではさらに、電解液3中に銀イオンを添加することで、定電位電解式ガスセンサ1の設置環境における湿度変化によるフッ化水素ガスに対する感度の変動を抑制することができる。一般的に、定電位電解式ガスセンサを通常の湿度環境から異なる湿度環境に移すと、電解液の濃度が変化する。このとき、本実施形態のように、銀を含む対極22を用いている場合には、電解液3中の銀イオンの溶解度も変化するので、対極22からの銀イオンの溶出量も変化することになる。これによって、電解液3中の臭素イオンとの間で生じる化学反応の量も変動することになり、フッ化水素ガスに対する感度の変動をもたらす。それに対して、本実施形態の定電位電解式ガスセンサ1では、電解液3に銀イオンが添加されているので、対極22からの銀イオンの溶出が抑制される。したがって、定電位電解式ガスセンサ1の設置環境における湿度が変化しても、対極22からの銀イオンの溶出そのものが抑制されるので、銀イオンの溶出の変動が抑制されて、フッ化水素ガスに対する感度の変動が抑制されるものと考えられる。
【0034】
電解液3中への銀イオンの添加は、特に限定されることはないが、たとえばハロゲン化銀の添加によって行なうことができる。電解液3にハロゲン化銀が添加されることで、ハロゲン化銀が電解液3中で銀イオンとハロゲンイオンとに解離して、電解液3中に銀イオンを含有させることができる。
【0035】
ハロゲン化銀は、特に限定されることはないが、塩化銀(AgCl)、臭化銀(AgBr)およびヨウ化銀(AgI)を含む群から選択される1つまたは複数であることが好ましく、臭化銀(AgBr)であることがさらに好ましい。また、添加されるハロゲン化銀の量は、特に限定されることはなく、フッ化水素ガスに対する感度の経時変化を抑制するのに必要な銀イオンを添加するように、適宜設定することができる。たとえば、ハロゲン化銀は、電解液3中に0.025mol/L以上添加することができる。ハロゲン化銀を電解液3中に0.025mol/L以上添加することで、フッ化水素ガスに対する感度の経時変化をより安定して抑制することができる。
【0036】
電解液3はさらに、電気化学反応とは異なる合成化学反応を生じさせるための副成分として、電解液3中でヨウ素酸銀を生成するためのヨウ素酸イオンが添加されている。定電位電解式ガスセンサ1は、電解液3にヨウ素酸イオンが添加されることで、フッ化水素ガスに対する感度の経時変化をさらに抑制することができる。それによって、定電位電解式ガスセンサ1をさらに長寿命化することができる。これは、以下で詳しく述べるように、電解液3にヨウ素酸イオンを添加することで、電解液3中でヨウ素酸イオンと銀イオンとが反応してヨウ素酸銀が生成されて、フッ化水素ガスに対する感度の経時変化をもたらす酸化銀が反応極21上に析出するのを抑制することができるからであると考えられる。
【0037】
ここで、定電位電解式ガスセンサ1では、さまざまな要因で、経時に伴なって反応極21上に酸化銀が析出する。経時に伴なって反応極21上に酸化銀が析出することで、フッ化水素ガスに対する感度が低下する。これは、反応極21上に析出した酸化銀によって、反応極21上で生じる上記反応(1)~(3)が生じにくくなるからであると考えられる。経時に伴なって反応極21上に酸化銀が析出する1つの要因として、測定対象ガス中のオゾンガスが考えられる。測定対象ガス中のオゾンガスは、通常、反応極21を通過する際に、反応極21に含まれるカーボンによって還元される。ところが、経時に伴なって、反応極21の濡れ性が増加し、反応極21に含まれるカーボンの還元能力が低下する。それによって、反応極21上では、測定対象ガス中のオゾンガスと電解液3中の銀イオンとが反応して、酸化銀が析出する。また、経時に伴なって反応極21上に酸化銀が析出する別の要因として、反応極21において発生するベース電流反応が考えられる。ベース電流反応は、上述した電気化学反応とは別に反応極21上で発生する反応であり、酸素と水との反応で水酸化物イオンを発生させる反応である。このベース電流反応は、経時に伴なって反応極21の濡れ性が増加することで促進されて、水酸化物イオンの発生量を増加させる。それによって、反応極21上では、増加した水酸化物イオンと電解液3中の銀イオンとが反応して、酸化銀が析出する。
【0038】
それに対して、電解液3中にヨウ素酸イオンを添加することで、反応極21上への酸化銀の析出が抑制される。これは、電解液3中に添加したヨウ素酸イオンが、電解液3中で、下記化学反応式(1)に従ってヨウ素酸銀を生成することで電解液3中の銀イオンを消費するように機能するので、反応極21上において銀イオンがオゾンや水酸化物イオンと反応することが抑制されるためだと考えられる。その結果、フッ化水素ガスに対する感度の経時変化をもたらす酸化銀が反応極21上に析出することが抑制され、フッ化水素ガスに対する感度の経時変化を抑制することができるものと考えられる。
【0039】
本実施形態の定電位電解式ガスセンサ1ではさらに、電解液3中にヨウ素酸イオンを添加することにより、フッ化水素ガスに対する感度の製造ロット間の固体差を低減することができる。これは、以下で詳しく述べるように、電解液3にヨウ素酸イオンを添加することで、フッ化水素ガスに対する感度に経時変化をもたらす酸化銀が反応極21上に析出するのを抑制することができるからであると考えられる。
【0040】
酸化銀は、すでに述べたように、電解液3中の銀イオンが、反応極21を通過するオゾンガスや、反応極21で生じるベース電流反応によって発生する水酸化物イオンと反応することで、反応極21上に析出するものと考えられる。反応極21における酸化銀の析出反応は、反応極21の表面性状、反応極21の純度(不純物濃度)、電解液3の純度(不純物の種類、濃度)、電解液3の濃度などに影響される。そして、反応極21の表面性状や純度などは、製造ロット間で変動する。つまり、化学反応による酸化銀の析出は、反応極21の表面性状や純度などに影響され、反応極21の製造ロット間の変動の影響を受ける。したがって、反応極21の製造ロット間の変動によって、酸化銀の析出が変動し、フッ化水素ガスに対する感度が変動する。しかし、反応極21の表面性状や純度などに製造ロット間の変動があったとしても、電解液3にヨウ素酸イオンを添加することで、酸化銀の析出そのものを抑制することができるので、製造ロット間の変動による酸化銀の析出の変動を抑制でき、フッ化水素ガスに対する感度の製造ロット間の固体差を低減することができるものと考えられる。
【0041】
電解液3中へのヨウ素酸イオンの添加は、特に限定されることはないが、たとえばヨウ素酸アルカリ金属の添加によって行なうことができる。電解液3にヨウ素酸アルカリ金属が添加されることで、ヨウ素酸アルカリ金属が電解液3中でヨウ素酸イオンとアルカリ金属イオンとに解離して、電解液3中にヨウ素酸イオンを含有させることができる。ヨウ素酸アルカリ金属に含まれるアルカリ金属元素としては、いずれのアルカリ金属元素であっても適用可能であるが、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)およびカリウム(K)を含む群から選択される1つまたは複数であることが好ましく、カリウム(K)であることがさらに好ましい。
【0042】
電解液3中に添加されるヨウ素酸イオンの添加量は、特に限定されることはなく、フッ化水素ガスに対する感度の経時変化を抑制するのに必要な量に応じて、適宜設定することができる。ただし、ヨウ素酸イオン、たとえばヨウ素酸カリウムの添加量は、フッ化水素ガスに対する感度の経時変化をより安定して抑制するという観点から、0.01mol/L以上であることが好ましく、0.02mol/L以上であることがさらに好ましく、0.03mol/L以上であることがよりさらに好ましい。また、ヨウ素酸イオン、たとえばヨウ素酸カリウムの添加量は、電気化学反応の促進の観点から、0.1mol/L以下であることが好ましく、0.09mol/L以下であることがさらに好ましく、0.08mol/L以下であることがよりさらに好ましい。
【0043】
以上に示した定電位電解式ガスセンサ1の製造方法は、特に限定されることはないが、概して、フッ化水素ガスを検知するための電極2として反応極21、対極22および参照極23を設ける工程と、反応極21、対極22および参照極23が接触する電解液3を設ける工程とを含んでいる。電極2を設ける工程では、上述した電解槽4が提供され、電解槽4内に反応極21、対極22および参照極23が上述したように設けられる。電解液3を設ける工程では、電極2が設けられた電解槽4内に電解液3が供給される。
【0044】
電解液3を設ける工程は、反応極21で電気化学反応を生じさせるための主成分として臭素イオン、リチウムイオンおよび臭素酸イオンを含む電解液3を作成する工程を含んでいる。そして、電解液3を設ける工程は、作成された電解液3に、電気化学反応とは異なる合成化学反応を生じさせるための副成分として、電解液3中で臭化銀を生成するための銀イオンと、電解液3中でヨウ素酸銀を生成するためのヨウ素酸イオンとを添加する工程を含んでいる。これにより製造される定電位電解式ガスセンサ1によれば、フッ化水素ガスに対する感度の経時変化が抑制される。
【実施例0045】
以下において、実施例をもとに本実施形態の定電位電解式ガスセンサの優れた効果を説明する。ただし、本発明の定電位電解式ガスセンサは、以下の実施例に限定されるものではない。
【0046】
(定電位電解式ガスセンサ)
図1に示される定電位電解式ガスセンサを、公知の方法により作製した。定電位電解式ガスセンサの電解液を除く基本構成は、以下の通りとした。
反応極:カーボン
対極:銀線
参照極:銀線
透過膜:ポリテトラフルオロエチレン製多孔質膜
【0047】
(電解液)
実施例の定電位電解式ガスセンサの電解液として、電解液(8mol/L臭化リチウム(LiBr)+0.4mol/L臭素酸カリウム(KBrO3))に、0.1mol/L臭化銀(AgBr)および0.01~0.125mol/Lヨウ素酸カリウム(KIO3)を添加したものを用いた。比較例の定電位電解式ガスセンサの電解液として、電解液(8mol/L臭化リチウム(LiBr)+0.4mol/L臭素酸カリウム(KBrO3))に0.1mol/L臭化銀(AgBr)を添加し、ヨウ素酸カリウム(KIO3)を添加していないものを用いた。
【0048】
(応答特性測定)
定電位電解式ガスセンサを公知のポテンショスタットに接続し、参照極を基準にして反応極に一定電圧を一定時間継続して印加し、反応極と対極との間に生じる電解電流を測定した。
【0049】
(測定対象ガス)
測定対象ガスは、大気中に3.2ppmのフッ化水素ガスを混入したものを用いた。測定対象ガスは、反応極への一定電圧印加開始後の所定時間経過後から、定電位電解式ガスセンサに供給した。
【0050】
(経時条件)
電解液がそれぞれ収容された状態の実施例および比較例の定電位電解式ガスセンサを、温度が20±3℃、湿度が44~73%RHの環境で、通電状態を維持した状態で所定期間放置した。
【0051】
(経時特性)
実施例および比較例の定電位電解式ガスセンサを用いて、定電位電解式ガスセンサの製造後から経過する期間に亘る、フッ化水素ガスに対する応答特性の変化を調べた。電解液としては、上述した実施例の電解液(実施例1)および比較例の電解液(比較例1)を用い、実施例1の電解液に添加したヨウ素酸カリウムの量は、0.05mol/Lとした。
図2および
図4はそれぞれ、実施例1および比較例1の定電位電解式ガスセンサから得られた応答強度(電極で発生する電解電流に対応する定電位電解式ガスセンサの出力値)の経時に伴う変化を示している。ここでは、経過日数0日における応答強度を1として、経過日数0日における応答強度に対する比を変化量として示している。
図3および
図5はそれぞれ、所定期間経過後の実施例1および比較例1の定電位電解式ガスセンサから得られた測定時間内における応答特性(応答強度の変化)を示している。ここでは、測定開始から60秒後に定電位電解式ガスセンサ内への測定対象ガスの供給を開始し、測定開始から240秒後に測定対象ガスの供給を停止した。
【0052】
まず、実施例1および比較例1の経時に伴う応答強度の変化(
図2および
図4)を比較する。電解液にヨウ素酸カリウムを添加していない比較例1(
図4)では、経時初期に応答強度がわずかに増加した後、経時に伴なって応答強度が緩やかに減少している。それに対して、電解液にヨウ素酸カリウムを添加した実施例1(
図2)では、比較例1と比べて、経時に伴う変化が小さくなっている。この結果から、電解液にヨウ素酸カリウムによってヨウ素酸イオンを添加することにより、フッ化水素ガスに対する感度の経時変化を抑制することができることが分かる。つぎに、実施例1および比較例1の所定期間経過後の応答特性(
図3および
図5)を比較する。電解液にヨウ素酸カリウムを添加していない比較例1(
図5)では、経過日数の増加に伴なって、応答強度の低下が見られるとともに、フッ化水素ガスを含む測定対象ガスの供給開始時(測定時間:60秒)および供給停止時(測定時間:240秒)における応答強度の変化が緩やかである。それに対して、電解液にヨウ素酸カリウムを添加した実施例1(
図3)では、比較例1と比べて、経過日数の増加に伴う応答強度の低下が小さく、フッ化水素ガスを含む測定対象ガスの供給開始時(測定時間:60秒)および供給停止時(測定時間:240秒)における応答強度の変化が急峻である。この結果から、電解液にヨウ素酸カリウムによってヨウ素酸イオンを添加することにより、フッ化水素ガスに対する感度の経時変化を抑制することができるだけでなく、フッ化水素ガスに対する応答速度も改善できることが分かる。
【0053】
(製造ロット間の変動)
異なる製造ロットで製造した複数の実施例および比較例の定電位電解式ガスセンサの応答特性を調べた。電解液としては、上述した実施例1および比較例1と同じものを用いた。
図6および
図7はそれぞれ、実施例1および比較例1の定電位電解式ガスセンサから得られた測定時間内における応答特性(応答強度の変化)を示している。ここでは、測定開始から25秒後に定電位電解式ガスセンサ内への測定対象ガスの供給を開始した。
【0054】
電解液にヨウ素酸カリウムを添加していない比較例1(
図7)では、製造ロットの違いによって、応答強度の変動が見られるとともに、フッ化水素ガスを含む測定対象ガスの供給開始時(測定時間:25秒)における応答強度の変化が緩やかであり、その応答強度の変化の割合に製造ロット間で変動が見られる。それに対して、電解液にヨウ素酸カリウムを添加した実施例1(
図6)では、比較例1と比べて、製造ロットの違いによる応答強度の変動が小さく、フッ化水素ガスを含む測定対象ガスの供給開始時(測定時間:25秒)における応答強度の変化が急峻であり、その応答強度の変化の割合の製造ロット間の変動が小さい。この結果から、電解液にヨウ素酸カリウムによってヨウ素酸イオンを添加することにより、製造ロット間におけるフッ化水素ガスに対する感度の変動を抑制することができるとともに、フッ化水素ガスに対する応答速度を改善し、製造ロット間における応答速度の変動を改善することができることが分かる。
【0055】
(ヨウ素酸イオン濃度の変化の影響)
実施例および比較例の定電位電解式ガスセンサの所定期間(30日)経過後の、電解液中に添加したヨウ素酸カリウムの添加量とフッ化水素ガスに対する応答強度との関係を調べた。ヨウ素酸カリウムの添加量は、0mol/L(比較例)、0.01、0.025、0.04、0.05、0.06、0.075、0.1、0.125mol/L(実施例)とした。
図8は、ヨウ素酸カリウムの添加量が変化したときのフッ化水素ガスに対する応答強度の変化を示している。
図8において、所定期間経過後の定電位電解式ガスセンサのフッ化水素ガスに対する応答強度は、電解液にヨウ素酸カリウムを添加することで増加しており、ヨウ素酸カリウムの添加量が0.01mol/L、0.025mol/Lと増加するに従って増加し、それ以上の添加量ではほぼ一定である。この結果から、電解液にヨウ素酸カリウムを添加することで、経時に伴う応答強度の低下を抑制することができ、応答強度の低下をより安定して抑制するという観点から、ヨウ素酸カリウムの添加量が0.01mol/L以上であることが好ましいことが分かる。