(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023056455
(43)【公開日】2023-04-19
(54)【発明の名称】ポリマー材料の比誘電率および誘電損失を計算する方法
(51)【国際特許分類】
G16C 60/00 20190101AFI20230412BHJP
【FI】
G16C60/00
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022004908
(22)【出願日】2022-01-17
(31)【優先権主張番号】110137406
(32)【優先日】2021-10-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TW
(71)【出願人】
【識別番号】501296612
【氏名又は名称】南亞塑膠工業股▲分▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】NAN YA PLASTICS CORPORATION
【住所又は居所原語表記】NO.201,TUNG HWA N.RD.,TAIPEI,TAIWAN
(74)【代理人】
【識別番号】100081961
【弁理士】
【氏名又は名称】木内 光春
(74)【代理人】
【識別番号】100112564
【弁理士】
【氏名又は名称】大熊 考一
(74)【代理人】
【識別番号】100163500
【弁理士】
【氏名又は名称】片桐 貞典
(74)【代理人】
【識別番号】230115598
【弁護士】
【氏名又は名称】木内 加奈子
(72)【発明者】
【氏名】廖 ▲テ▼超
(72)【発明者】
【氏名】韓 孟淮
(72)【発明者】
【氏名】陳 其霖
(57)【要約】 (修正有)
【課題】ポリマー材料の比誘電率及び誘電損失を計算するために使用するポリマー材料の計算方法を提供する。
【解決手段】ポリマー材料の比誘電率及び誘電損失を計算する方法は、最適化された分子構造を有するポリマーを提供するステップS20と、最適化された分子構造を有するポリマーの双極子モーメント自己相関関数を分析するステップS30と、最適化された分子構造を有するポリマーの双極子モーメント自己相関関数を緩和関数によりフィッティングして、対応するフィッティング関数を得るステップS40と、最適化された分子構造を有するポリマーの静的誘電率を計算するステップS50と、フィッティング関数および静的誘電率により複素誘電率スペクトルを取得して、最適化された分子構造を有するポリマーの対応する比誘電率および誘電損失を計算するステップS70と、を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
最適化された分子構造を有するポリマーを提供するステップと、
前記最適化された分子構造を有する前記ポリマーの双極子モーメント自己相関関数を分析するステップと、
前記最適化された分子構造を有する前記ポリマーの前記双極子モーメント自己相関関数を緩和関数によりフィッティングして、対応するフィッティング関数を得るステップと、
前記最適化された分子構造を有する前記ポリマーの静的誘電率を計算するステップと、
前記フィッティング関数および前記静的誘電率により複素誘電率スペクトルを取得して、前記最適化された分子構造を有する前記ポリマーの対応する比誘電率および誘電損失を計算するステップと、
を含むポリマー材料の比誘電率および誘電損失を計算する方法。
【請求項2】
前記ポリマーが、ハロゲン官能基またはシアン酸エステル官能基を有する請求項1に記載のポリマー材料の比誘電率および誘電損失を計算する方法。
【請求項3】
前記ポリマーが、2500~3500の分子量を有する請求項1に記載のポリマー材料の比誘電率および誘電損失を計算する方法。
【請求項4】
前記ポリマーが、ハロゲン官能基またはシアン酸エステル官能基、および2500~3500の分子量を有する請求項1に記載のポリマー材料の比誘電率および誘電損失を計算する方法。
【請求項5】
前記緩和関数が、KWW緩和関数である請求項1に記載のポリマー材料の比誘電率および誘電損失を計算する方法。
【請求項6】
前記方法が、1GHz~500GHzの電磁波帯におけるポリマー材料の対応する比誘電率および誘電損失を計算する請求項1に記載のポリマー材料の比誘電率および誘電損失を計算する方法。
【請求項7】
初期推定分子構造を有する前記ポリマーを提供するステップと、
前記初期推定分子構造を有する前記ポリマーにより幾何構造の最適化を行って、前記最適化された分子構造を有する前記ポリマーを得るステップと、
をさらに含む請求項1に記載のポリマー材料の比誘電率および誘電損失を計算する方法。
【請求項8】
前記方法が、少なくともコンピュータによって実行され、前記コンピュータが、
前記初期推定分子構造を有する前記ポリマーを入力するのに適した入力ユニットと、
前記最適化された分子構造を有する前記ポリマーの対応する比誘電率および誘電損失を表示するのに適した出力ユニットと、
信号により前記入力ユニットおよび前記出力ユニットに接続された処理ユニットと、
を含む請求項7に記載のポリマー材料の比誘電率および誘電損失を計算する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマー材料の計算方法に関するものであり、特に、ポリマー材料の比誘電率(dielectric constant, Dk)および誘電損失(dielectric loss, Df)を計算する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
無線通信の発達に伴い、無線周波数識別技術は、2GHz以下の周波帯において飽和している。そのため、将来の技術において、より高い周波数の周波帯に移動する必要がある。一般的に、ミリ波周波数帯域(例えば、30GHz~300GHz)の使用が本分野の総意である。そのため、無線通信伝送では、対応する動作周波数および/または伝送速度の増加により、低い比誘電率および低い誘電損失を有する材料を使用して、信号遅延を改善する、および/または信号伝送損失を減らす必要性が出てくる。
【0003】
一般的に、ポリマーの物理特性を理解するために、まず、合成または他の適切な方法でポリマーを取得しなければならない。それから、ポリマーの対応する物理品質測定を行う。
【0004】
現在の実験では、通常、共振空胴を採用して、材料の比誘電率または誘電損失を測定する。しかしながら、一般的に、共振空胴で通常測定される周波帯は、2GHz、5GHz、または10GHzである。さらに、このような測定は、通常、対応するポリマー/ポリマー材料を提供しなければならない。そのため、それを応用する際に、準備時間がより長くかかる、および/または準備費用がより多くかかる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、ポリマー材料の比誘電率および誘電損失を計算するために使用することのできるポリマー材料の計算方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のポリマー材料の比誘電率および誘電損失を計算する方法は、最適化された分子構造を有するポリマーを提供するステップと、最適化された分子構造を有するポリマーの双極子モーメント自己相関関数を分析するステップと、最適化された分子構造を有するポリマーの双極子モーメント自己相関関数を緩和関数によりフィッティングして、対応するフィッティング関数を得るステップと、最適化された分子構造を有するポリマーの静的誘電率を計算するステップと、フィッティング関数および静的誘電率により複素誘電率スペクトルを取得して、最適化された分子構造を有するポリマーの対応する比誘電率および誘電損失を計算するステップと、を含む。
【0007】
本発明の1つの実施形態において、ポリマーは、ハロゲン官能基またはシアン酸エステル官能基を有する。
【0008】
本発明の1つの実施形態において、ポリマーは、2500~3500の分子量を有する。
【0009】
本発明の1つの実施形態において、ポリマーは、ハロゲン官能基またはシアン酸エステル官能基、および2500~3500の分子量を有する。
【0010】
本発明の1つの実施形態において、緩和関数は、KWW緩和関数である。
【0011】
本発明の1つの実施形態において、この方法は、1GHz~500GHzの電磁波帯におけるポリマー材料の対応する比誘電率および誘電損失を計算する。
【0012】
本発明の1つの実施形態において、この方法は、さらに、初期推定分子構造を有するポリマーを提供するステップと、初期推定分子構造を有するポリマーにより幾何構造の最適化を行って、最適化された分子構造を有するポリマーを得るステップと、を含む。
【0013】
本発明の1つの実施形態において、この方法は、少なくともコンピュータによって実行される。コンピュータは、入力ユニットと、出力ユニットと、処理ユニットと、を含む。入力ユニットは、初期推定分子構造を有するポリマーを入力するのに適している。出力ユニットは、最適化された分子構造を有するポリマーの対応する比誘電率および誘電損失を表示するのに適している。処理ユニットは、信号により入力ユニットおよび出力ユニットに接続される。
【発明の効果】
【0014】
以上のように、本発明の方法により、対応するポリマー/ポリマー材料を合成する前に、ポリマー/ポリマー材料の比誘電率および誘電損失を計算する、および/または推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
添付図面は、本発明の原理がさらに理解されるために含まれており、本明細書に組み込まれ、且つその一部を構成するものである。図面は、本発明の実施形態を例示しており、説明とともに、本発明の原理を説明する役割を果たしている。
【0016】
【
図1】本発明の1つの実施形態に係るポリマー材料の比誘電率および誘電損失を計算するのに適したコンピュータの概略図である。
【0017】
【
図2】本発明の1つの実施形態に係るポリマー材料の比誘電率および誘電損失を計算する方法の部分的概略フローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本明細書において使用される技術用語は、特定の実施形態を説明することのみを目的とし、限定するものではない。ここで使用されるように、単数形「1つの(a, an)」および「その(the)」は、内容が別段に明示しない限り、「少なくとも1つ(at least one)」を含む複数形を含むことが意図されている。「または(or)」は、「および/または(and/or)」を意味する。本明細書において使用されるように、用語「および/または(and/or)」は、1つまたは複数の関連する列挙した項目のいずれか、および全ての組み合わせを含んでいる。
【0019】
他に定義されない限り、本明細書中で使用される全ての技術用語(技術および科学用語を含む)は、本発明が属する分野の当業者によって共通に理解されるものと同じ意味を有する。一般的に使用される辞書において定義される技術用語は、先行技術において、および本発明の明細書全体において、同じ定義を有しているものとして解釈されるべきであり、本明細書で明示的に定義されない限り、理想化された、または過度に正式な定義として解釈されるべきではないことが、さらに理解されるであろう。
【0020】
図1を参照すると、
図1は、分子/ポリマー/ポリマー材料の比誘電率および誘電損失を計算するのに適したコンピュータの例示的な図である。
【0021】
図1を参照すると、コンピュータ100は、対応するハードウェアまたはソフトウェアを含むことができる。ハードウェアを例に挙げると、コンピュータ100は、入力ユニット120と、出力ユニット130と、処理ユニット110と、保存ユニット140と、を含む。入力ユニット120、出力ユニット130、処理ユニット110、および記憶ユニット140のうちの少なくとも2つは、有線信号伝送(wired signal transmission)の方法で信号線を介して信号により接続されるが、本発明はこれに限定されない。1つの実施形態において、入力ユニット120、出力ユニット130、処理ユニット110、および保存ユニット140のうちの少なくとも2つは、無線信号伝送(wireless signal transmission)の方法で信号により接続されてもよい。つまり、本発明において言及する信号接続は、一般的に、有線信号伝送または無線信号伝送の接続方法を指すことができる。また、本発明は、全ての信号接続方法が同じであるか、異なるかを限定しない。
【0022】
本実施形態において、入力ユニット120は、マウス、キーボード、タッチパネル、および/またはグラフィカルユーザーインターフェース(graphical user interface, GUI)によりデータ/データ入力を行うのに適したデバイスを含むことができる。1つの実施形態において、入力ユニット120は、仮想現実の入力ユニット120を含むことができる。例えば、入力ユニット120は、信号受信素子(例えば、通信チップ、通信アンテナ、および/または通信ポート)を含むことができ、パラメータまたはコマンドを遠隔制御(remote-control)の方法で入力ユニット120により制御ユニットに伝送することができる。
【0023】
本実施形態において、出力ユニット130は、スクリーン、プリンタ、および/またはグラフィカルユーザーインターフェースを表示するのに適したデバイスを含むことができるが、本発明はこれに限定されない。1つの実施形態において、出力ユニット130は、仮想現実の出力ユニット130を含むことができる。例えば、出力ユニット130は、信号受信素子(例えば、通信チップ、通信アンテナ、および/または通信ポート)を含み、対応するパラメータまたはデータを出力ユニット130からユーザまたはオペレータに直接、または間接的に伝送することができるため、ユーザまたはオペレータは、対応するパラメータまたはデータを知ることができる。
【0024】
本実施形態において、保存ユニット140は、関連データを保存することのできるメモリ、ハードディスク、ディスクアレイ、クラウドシステム、および/またはデータを一時的に、または永久に保存することのできる他の電子素子またはデバイスを含むことができるが、本発明はこれに限定されない。1つの実施形態において、データを処理ユニット110で直接、または間接的に処理して、データ処理および/またはデータ演算を行ってもよい。
【0025】
本実施形態において、処理ユニット110は、中央処理装置(central processing unit, CPU)、グラフィック処理ユニット(graphics processing unit, GPU)、テンソルプロセッシングユニット(tensor processing unit, TPU)、および/またはニューラルネットワークのプロセシングユニット(neural-network processing unit, NPU)を含むことができるが、本発明はこれに限定されない。処理ユニット110は、出力ユニット130により指示入力に基づいて対応する演算を行うとともに、演算結果を保存ユニット140に保存する、および/またはその結果を出力ユニット130によりユーザまたはオペレータに表示することができる。
【0026】
本実施形態において、ソフトウェアは、対応する商用ソフトウェア、および/または必要に応じてユーザ/オペレータによってコンパイル(compiled)/コード化(coded)されたソフトウェアを含むことができるが、本発明はこれに限定されない。商用ソフトウェアは、例えば、対応するオペレーティングシステム(operating system)および/または分子計算(molecular calculation)を実行するのに適した計算化学ソフトウェア(computational chemistry software)を含むが、本発明はこれに限定されない。計算化学ソフトウェアは、一般的な原子および分子電子構造システム(general atomic and molecular electronic structure system, GAMESS)、チャーム(Chemistry at HARvard Macromolecular Mechanics, CHARMm)、マテリアルスタジオ(Materials Studio)または他の適切なソフトウェアを含むことができるが、本発明はこれに限定されない。
【0027】
図2を参照しながら、本発明の1つの実施形態の分子/ポリマー/ポリマー材料の比誘電率および誘電損失を計算する方法について、以下の通り説明することができる。
【0028】
ステップS10:対応する初期推定分子構造(initial guess molecular geometry)を有する分子/ポリマーを作成する。初期推定分子構造は、デカルト座標系(Cartesian coordinate system)またはZー行列(Z-matrix)の形式で表示されるが、本発明はこれに限定されない。初期推定分子構造を出力ユニット(例えば、出力ユニット130)によりコンピュータ(例えば、コンピュータ100)に入力した後、処理ユニット(例えば、処理ユニット110)により適応計算を行うことができる。初期推定分子構造を作成する方法は、計算化学の分野における周知の技術であるため、ここでは説明を省略する。例えば、分子/ポリマーの対応する初期推定分子構造は、マテリアルスタジオソフトウェア内のビジュアライザー(Visualizer)モジュールによって作成することができる。
【0029】
ステップS20:最適化された分子構造を有する分子/ポリマーを提供する。最適化された分子構造を有する分子/ポリマーの対応するポテンシャルエネルギー(potential energy)は、ポテンシャルエネルギー曲面(potential energy surface)上の局所的最小値に位置することができる。分子/ポリマーの構造最適化計算(geometry optimization calculation)は、後で実行される分子/ポリマー計算の特性に基づいて調整することができるが、本発明はこれに限定されない。分子/ポリマーの電気特性を例に挙げると、上記で作成した初期推定分子構造によりマテリアルスタジオソフトウェア内のアモルファスセル(Amorphous Cell)モジュールを使用して、対応するユニットセルモデルを作成することができる。そして、マテリアルスタジオソフトウェア内のフォーサイト(Forcite)モジュールを使用して、そのモデルにエネルギー最適化、高温アニーリング、および/または動的平衡を実行し、分子/ポリマーの最適化された分子構造を得る。
【0030】
ステップS30:最適化された分子構造を有する分子/ポリマーの双極子自己相関関数(dipole moment autocorrelation function, DACF)を分析する。分析方法は、コンピュータの計算性能および/または対応するソフトウェアに応じて調整することができるが、本発明はこれに限定されない。例えば、マテリアルスタジオソフトウェア内のフォーサイトモジュールを使用して、最適化された分子構造を有する分子/ポリマーの双極子モーメント自己相関関数を分析することができる。
【0031】
ステップS40:最適化された分子構造を有する分子/ポリマーの双極子モーメント自己相関関数を緩和関数によりフィッティングして、対応するフィッティング関数を得る。1つの実施形態において、使用する緩和関数は、コールラウシューウィリアムズーワッツ緩和関数(Kohlrausch-Williams-Watts relaxation function, KWW relaxation function)を含むことができるが、本発明はこれに限定されない。
【0032】
1つの実施形態において、緩和関数の形式は、下記の[式1]で表すことができる。
【0033】
【0034】
特に、[式1]において、AおよびBは、対応するフィッティングパラメータ(fitting parameter)であり、tは、時間であり、τKWWは、対応する緩和時間(relaxation time)である。
【0035】
ステップS50:最適化された分子構造を有する分子/ポリマーの静的誘電率(static permittivity)を計算する。一般的に、分子/ポリマーの全双極子モーメント(total dipole moment)と対応する静的誘電率の間の関係は、下記の[式2]で表すことができる。
【0036】
【0037】
特に、[式2]において、ε0は、対応する静的誘電率であり、ε∞は、対応する光学誘電率であり、Mは、分子/ポリマーの全双極子モーメントであり、Vは、分子/ポリマーの対応する体積(通常、ファンデルワールス体積(Van der Waals volume))であり、kBは、ボルツマン定数(Boltzmann constant)であり、tは、対応する温度である。一般的に使用される誘電体材料について、対応する分子/ポリマーの光学比誘電率は、通常、1に近いか、あるいは直接1とみなしてもよい。
【0038】
また、双極子モーメント自己相関関数は、分極崩壊関数であってもよく、下記の[式3]で表すことができる。
【0039】
【0040】
特に、[式3]において、Ф(t)は、双極子モーメント自己相関関数であり、M(t)は、時間tにおける対応する双極子モーメントである。
【0041】
1つの実施形態において、最適化された分子構造を有する分子/ポリマーの静的誘電率および/または双極子モーメント自己相関関数は、一般的な分子動力学シミュレーションにより得ることができる。例えば、マテリアルスタジオソフトウェア内のフォーサイトモジュールを使用して、構造を有する分子/ポリマーの対応する双極子モーメント自己相関関数を得ることができる。
【0042】
ステップS60:フィッティング関数および静的誘電率により、複素誘電率スペクトル(complex permittivity spectrum)を取得する。一般的に、誘電緩和理論(dielectric relaxation theory)に基づき、誘電体の複素誘電率の重畳関係は、下記の[式4]で表すことができる。
【0043】
【0044】
特に、[式4]において、ε0は、対応する静的誘電率であり、ε∞は、対応する光学誘電率である。対応する物理的意義において、静的誘電率は、超低周波(例えば、周波数は0、または0に近い)の電場における誘電体の誘電率に対応することができ、光学誘電率は、超高周波(例えば、周波数は無限大)の電場における誘電体の誘電率に対応することができる。
【0045】
ステップS70:最適化された分子構造を有する分子/ポリマーの対応する比誘電率および誘電損失を複素誘電率スペクトルにより計算する。具体的に説明すると、最適化された分子構造を有する分子/ポリマーの対応する静的誘電率(例えば、[式2]の結果に対応する)および/または双極子モーメント自己相関関数(例えば、[式3]の結果に対応する)は、フィッティング関数および静的誘電率(例えば、[式4]の結果に対応する)により得られた複素誘電率スペクトル関係式に入れることができる。このようにして、最適化された分子構造を有する分子/ポリマーの対応する周波数内の対応する比誘電率値および対応する誘電損失値を推測することができる。具体的に説明すると、[式4]の複素関数(complex function)(すなわち、[式4]のexp(-iωt))において、実部値(real part value)は、比誘電率(dielectric constant, Dk)に対応し、実部値で割った虚部値(imaginary part value)(すなわち、虚部値/実部値)は、誘電損失値(dielectric loss, Df)に対応することができる。
【0046】
上述した理論部分は、以下の文献において提供されている:Chemical Reviews, 1972, Vol. 472, No. 1 p55-69および/またはJ. Chem. Phys., 117, 10350 (2002)。
【0047】
1つの実施形態において、上述した方法およびKWW緩和関数による計算により、1GHz~500GHzの範囲の電磁波帯において、ハロゲン官能基またはシアン酸エステル官能基を有する分子/ポリマーを計算すると、より優れた(例えば、実験値に比較的近い)比誘電率および誘電損失を得ることができる。
【0048】
1つの実施形態において、上述した方法およびKWW緩和関数による計算により、1GHz~500GHzの範囲の電磁波帯において、2500~3500の分子量を有するポリマー分子/ポリマーを計算すると、より優れた(例えば、実験値に比較的近い)比誘電率および誘電損失を得ることができる
【0049】
1つの実施形態において、上述した方法により得られた結果(例えば、対応する比誘電率および/または誘電損失)は、出力ユニット(例えば、出力ユニット130)により表示することができる。
【0050】
以上のように、本発明の方法により、分子/ポリマーの比誘電率および誘電損失を計算する、および/または推定することができる。このようにして、対応する分子/ポリマーを合成する前に、本発明の方法により、分子/ポリマー/ポリマー材料の比誘電率および誘電損失を予め推定することができるため、生産または合成の効率を向上させることができる。
【0051】
[実例]
【0052】
以下に示す実例を用いて本発明を例示的に説明するが、本発明は、以下の実例に限定されない。
【0053】
以下の実例において、ポリマーAは、2500~3500の分子量を有するフルオロポリマー(例えば、テフロン(登録商標))である。ポリマーAの化学式は、下記の[化1]で表すことができる。
【0054】
【0055】
[化1]において、nは、25以上および34以下の整数であってもよい。実際の応用において、製造過程(例えば、反応物の純度、反応環境の純度、または生成物の純度に影響を与える可能性のある他の要因であるが、本発明はこれに限定されない)により、および/または使用過程(例えば、他の物質との接触、切屑、研磨、切断、または他の適切な使用方法であるが、本発明はこれに限定されない)により、テフロンポリマーにおける小部分のフッ素原子を水素原子、重水素原子、または他の可能な原子(例えば、塩素原子であるが、本発明はこれに限定されない)に置き換えることができる。しかしながら、少量の置換は、テフロンポリマーの使用、物理特性、および/または化学特性に影響を与えずに、および/またはわずかな影響を与えるだけで、合理的に、および/または同様にテフロンポリマーとみなすことができる。
【0056】
以下の実例において、ポリマーBは、2500~3500の分子量を有するシアン酸エステル含有ポリマーである。ポリマーBの化学式は、下記の[化2]で表すことができる。
【0057】
【0058】
[化2]において、mは、11以上および22以下の整数であってもよい。[化2]において、R1およびR2は、それぞれハロゲン、重水素、メチル、またはエチルであってもよい。
【0059】
[実例1]
【0060】
[実例1]において、上述した方法により分子/ポリマーの比誘電率および誘電損失を計算するために、相違点は、KWW緩和関数とは異なる緩和関数Dおよび緩和関数Eを使用したことである。緩和関数Dは、下記の[式5]で表すことができ、単一の指数関数的崩壊関数(simple exponential decay function)であってもよい。緩和関数Eは、下記の[式6]で表すことができ、二重指数関数的崩壊関数(double exponential decay function)であってもよい。
【0061】
【0062】
特に、[式5]において、A1は、対応するフィッティングパラメータであり、tは、時間であり、τ1は、対応する緩和時間である。
【0063】
【0064】
特に、[式6]において、A2およびA3は、それぞれ対応するフィッティングパラメータであり、tは、時間であり、τ1およびτ2は、対応する緩和時間である。
【0065】
また、[実例1]の計算結果と実験値の間の比較を下記の[表1]に記載する。特に、[表1]に記載した結果において、各緩和関数の対応するパラメータ/緩和時間は、既に対応する実験値に一番近くなるように最適化されている。
【0066】
【0067】
[表1]に示すように、分子量が2500~3500で、且つハロゲン官能基(例えば、ポリマーA)を有するポリマー、またはシアン酸エステル官能基(例えば、ポリマーB)を有するポリマーに対し、KWW緩和関数を使用してフィッティングを行うことによって、より良い計算結果を出すことができる。
【0068】
[実例2]
【0069】
[実例2]において、上述した方法により分子/ポリマーの比誘電率および誘電損失を計算するために、そして、KWW緩和関数を用いてフィッティングを行うために、相違点は、KWW緩和関数(例えば、[式1])におけるパラメータ(例えば、[式1]のパラメータAおよびパラメータB)および緩和時間(例えば、[式1]のτKWW)をそれぞれ調整したことである。また、[実例2]の計算結果と実験値の間の比較を下記の[表2]および[表3]に記載する。
【0070】
【0071】
【0072】
[表2]および[表3]に示すように、分子量が2500~3500で、且つハロゲン官能基(例えば、ポリマーA)を有するポリマー、またはシアン酸エステル官能基(例えば、ポリマーB)を有するポリマーに対し、KWW緩和関数を使用してフィッティングを行った時、より好ましいパラメータ範囲/緩和時間は、A:0.5~1.0、B:0.0~1.0、およびτKWW:0.0~0.5である。
【0073】
上述した[実例]に示すように、本発明の方法により、本発明の分子/ポリマー/ポリマー材料の比誘電率および誘電損失を計算する方法において、計算された、および/または推定された分子/ポリマーの比誘電率および誘電損失は、対応する実験値に近づくことができる。より好ましくは、本発明の方法は、ハロゲン官能基またはシアン酸エステル官能基、および分子量が2500~3500のポリマー分子を有する、および/または1GHz~500GHzの電磁波帯における分子の比誘電率および誘電損失に対応する分子/ポリマーに適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明の方法において、対応する分子/ポリマーを合成する前に、分子/ポリマー/ポリマー材料の比誘電率および誘電損失を計算する、および/または推定することができるため、生産または合成の効率を向上させることができる。さらに、本発明の方法により、材料または分子/ポリマー/ポリマー材料が高周波(例えば、1GHz~500GHzの電磁波帯)無線通信伝送に適しているかどうかを予め評価することができる。
【符号の説明】
【0075】
100 コンピュータ
110 処理ユニット
120 入力ユニット
130 出力ユニット
140 保存ユニット
【外国語明細書】