(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023056481
(43)【公開日】2023-04-19
(54)【発明の名称】放熱板材及びこれを含む半導体装置
(51)【国際特許分類】
H01L 23/373 20060101AFI20230412BHJP
C22C 1/10 20230101ALI20230412BHJP
C22C 9/00 20060101ALI20230412BHJP
B32B 9/00 20060101ALI20230412BHJP
H05K 1/03 20060101ALN20230412BHJP
【FI】
H01L23/36 M
C22C1/10 E
C22C9/00
B32B9/00 A
H05K1/03 610B
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022146529
(22)【出願日】2022-09-14
(31)【優先権主張番号】10-2021-0133413
(32)【優先日】2021-10-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(71)【出願人】
【識別番号】517434426
【氏名又は名称】ザ・グッドシステム・コーポレーション
【氏名又は名称原語表記】The Goodsystem Corporation
【住所又は居所原語表記】125, Mongnae-ro, Donwon-gu, Ansan-si, Gyeonggi-do, Korea 15602
(71)【出願人】
【識別番号】506365131
【氏名又は名称】DOWAメタルテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091362
【弁理士】
【氏名又は名称】阿仁屋 節雄
(74)【代理人】
【識別番号】100161034
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 知洋
(72)【発明者】
【氏名】チョ,ミョン-ファン
(72)【発明者】
【氏名】イ,ソク-ウ
(72)【発明者】
【氏名】キム,ヨン-ソク
(72)【発明者】
【氏名】青山 智胤
(72)【発明者】
【氏名】成枝 宏人
【テーマコード(参考)】
4F100
4K020
5F136
【Fターム(参考)】
4F100AA37A
4F100AA37B
4F100AA37C
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4F100AB01E
4F100AB16D
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4K020AA24
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5F136BB05
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5F136FA75
5F136FA82
5F136FA83
5F136GA22
(57)【要約】
【課題】本発明は、アルミナ(Al
2O
3)のようなセラミック素材を含む素子と接合させても良好な接合が可能となるように、セラミック素材と同レベルの熱膨張係数を有し、かつ、高出力素子から発生する多量の熱を速やかに外部に排出することができる高い熱伝導度を示す放熱板材を提供する。
【解決手段】本発明による放熱板材は、銅または銅合金からなる素地内に、板状の黒鉛粒子が分散している複合板材が、2層以上積層された放熱板材であって、積層した各複合板材において、前記黒鉛粒子が概ね同一方向に配向されており、任意の2つの複合板材の、前記黒鉛粒子の配向方向の交差角度の最大値が45°以上である。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅または銅合金からなる素地内に板状の黒鉛粒子が分散している複合板材が、2層以上積層された放熱板材であって、
積層した各複合板材において、前記黒鉛粒子が概ね同一方向に配向されており、
任意の2つの複合板材の、前記黒鉛粒子の配向方向の交差角度の最大値が45°以上である、放熱板材。
【請求項2】
前記放熱板材は、前記複合板材が3層以上積層されてなり、
前記複合板材のうち任意の1つの複合板材の前記黒鉛粒子の配向方向と、前記任意の1つの複合板材と隣接して積層されている複合板材の前記黒鉛粒子の配向方向との交差角度の最大値が45°以上である、請求項1に記載の放熱板材。
【請求項3】
前記複合板材を積層方向の下から第n層と数えたとき(nは正の整数)、偶数層における前記黒鉛粒子の配向方向が実質的に同一であり、奇数層における前記黒鉛粒子の配向方向が実質的に同一である、請求項2に記載の放熱板材。
【請求項4】
前記の各複合板材において、前記黒鉛粒子の配向方向は、積層されている複合板材の間の界面に略平行である、請求項1又は2に記載の放熱板材。
【請求項5】
前記の各複合板材のうち任意の1つの複合板材Aの前記黒鉛粒子の配向方向は、積層されている複合板材の間の界面に略平行な方向であり、
前記複合板材Aと隣接して積層されている複合板材Bの前記黒鉛粒子の配向方向は、積層されている複合板材の積層方向に略平行である、請求項1又は2に記載の放熱板材。
【請求項6】
前記の各複合板材のうち、最も厚い複合板材の厚さに対する他の全ての各複合板材の厚さの割合が0.8以上である、請求項1又は2に記載の放熱板材。
【請求項7】
前記放熱板材の横方向、縦方向および厚さ方向でのそれぞれの熱伝導率は300W/mK以上である、請求項1又は2に記載の放熱板材。
【請求項8】
前記放熱板材の横方向と縦方向の熱膨張係数は、5×10-6/K~16×10-6/Kである、請求項1又は2に記載の放熱板材。
【請求項9】
前記放熱板材において、前記黒鉛粒子は体積分率で30~80%含まれている、請求項1又は2に記載の放熱板材。
【請求項10】
前記黒鉛粒子の平均一次粒子径が1~500μmである、請求項1又は2に記載の放熱板材。
【請求項11】
前記放熱板材は、熱を板材の平面に広く伝導させながら、垂直に伝導させるように構成されている、請求項1又は2に記載の放熱板材。
【請求項12】
前記複合板材からなる積層構造の上面と下面に、または上面、下面および側面に金属層が形成されている、請求項1又は2に記載の放熱板材。
【請求項13】
前記金属層は、めっき、蒸着または箔の接合で形成され、Cu、AuおよびNiの中から選ばれた1種以上を含む、請求項12に記載の放熱板材。
【請求項14】
前記複合板材のうち任意の1つの複合板材の前記黒鉛粒子の配向方向は、積層されている複合板材の間の界面に略平行である、請求項1又は2に記載の放熱板材。
【請求項15】
前記黒鉛粒子の配向方向の交差角度の最大値が70°以上である、放熱板材。
【請求項16】
請求項1又は2に記載の放熱板材と、
前記放熱板材の一面に搭載されている半導体素子を含む、半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放熱板材とこれを含む半導体装置に関する。特に本発明は、アルミナ(Al2O3)のようなセラミック素材を含む電子素子と接合させても良好な接合ができるようにセラミック素材と同レベルの熱膨張係数を有し、かつ高出力素子から発生する多量の発熱を速やかに外部へ放出することができる高い熱伝導度を示す放熱板材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、情報通信及び国防分野の核技術として、GaN系化合物半導体を用いた高出力増幅素子が注目されている。このような高出力電子素子や光素子では、一般素子に比べて多くの熱が発生し、このように発生した多量の熱を効率的に排出することができるパッケージング技術が必要である。現在、GaN系化合物半導体を活用した高出力半導体素子を冷却する放熱板材には、タングステン(W)/銅(Cu)の2層複合素材、銅(Cu)とモリブデン(Mo)の2相(phase)複合素材、銅(Cu)/銅-モリブデン(Cu-Mo)合金/銅(Cu)の3層複合素材、銅(Cu)/モリブデン(Mo)/銅(Cu)/モリブデン(Mo)/銅(Cu)/モリブデン(Mo)/銅(Cu)の多層複合素材が使用されている。
【0003】
ところで、これら放熱板材の厚さ方向への熱伝導度は最大200~300W/mK程度であり、実際にそれ以上の高熱伝導度を実現することができないため、数百ワット級のパワートランジスタのような素子に適用するための新しい放熱素材あるいは放熱基板が市場で要求されている。また、銅(Cu)/モリブデン(Mo)/銅(Cu)/モリブデン(Mo)/銅(Cu)/モリブデン(Mo)/銅(Cu)の多層複合素材の場合、各層間の結合力が低い問題点もある。
【0004】
一方、半導体素子を製造する工程にはアルミナ(Al2O3)のようなセラミック素材とのブレージング接合工程が必須である。このようなブレージング接合工程は800℃程度またはそれ以上の高温で行われるため、金属複合材基板とセラミック素材との間の熱膨張係数の差により、ブレージング接合工程で反りや破損が発生し、このような反りや破損は半導体素子の信頼性に致命的な影響を与えることになる。
【0005】
このような要求に対応するため、本発明者は、下記特許文献2に開示されたように、銅(Cu)からなるカバー層(第1層、第5層)と、銅(Cu)とモリブデン(Mo)の合金からなる中間層(第2層、第4層)と、コア層(第3層)とからなる放熱用クラッドであって、前記コア層が、放熱用クラッドの厚み方向に垂直な方向に沿ってモリブデン(Mo)層と銅(Cu)層が交互に繰り返される構造を持つ、放熱用クラッドを提示した。当該放熱用クラッドは、厚さ方向と平行な面方向の熱伝導度が優れている。しかし、複雑な構造により製造工程数と工程費が増加する問題点もある。
【0006】
これにより、より簡単な工程で製造できる構造を持ちながら、厚み方向(z方向)はもちろん、厚み方向に垂直な面方向(x,y方向)(すなわち、板材の3方向)に対して良好な熱伝導性を示すとともに、面方向にセラミック素材と同レベルの熱膨張係数を実現できる放熱板材の開発が求められている。
【0007】
一方、特定の方向に高い熱膨張係数と、熱膨張係数の低さを示す異方性の大きいグラファイト板材を利用し、放熱板材に求められる熱伝導度と熱膨張係数を実現しようとする試みがあった。ところが、成形後のグラファイト板材表面は結合力が低く、接合する相手材がグラファイト材であったり金属材であっても、良好な層間接合力を得にくい問題点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2016-127197号公報
【特許文献2】韓国公開特許第2018-0097021号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、所定の厚さを有する板状の放熱板材であり、製造工程が比較的簡単で、層間結合力を保つのに問題がなく、放熱板材の面方向(x,y方向)と面方向に垂直な厚み方向(z方向)において優れた熱伝導性を示しながら放熱板材の面方向に5×10-6/K~16×10-6/Kの熱膨張係数を示すことができる放熱板材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために本発明は、銅又は銅合金からなる素地内に板状の黒鉛粒子が分散している複合板材が、2層以上積層された放熱板材であって、積層した各複合板材において、前記黒鉛粒子が概ね同一方向に配向されており、任意の2つの複合板材の、前記黒鉛粒子の配向方向の交差角度の最大値が45°以上である、放熱板材を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明による放熱板材は、銅または銅合金からなる素地内に板状の黒鉛粒子が複合化された板材を積層して形成され、積層された板材間の素地が同一で層間結合力が非常に良好である。また、本発明による放熱板材は、面に平行なx、y方向と面に垂直なz方向で優れた熱伝導性を示す。これにより、本発明に基づく放熱板材は、半導体素子のような電子素子が搭載された時に、上記電子素子から発生した発熱が速やかに放熱板材の面に幅広く広がりながら下方向に放出されるので、厚さ方向または特定の面方向へ、熱伝導性が良好な素材に比べ迅速に熱放出が行われ、電子素子の熱放出に対する設計自由度が高まる。
【0012】
また、本発明による放熱板材は、面方向に5×10-6/K~16×10-6/Kレベルの熱膨張係数を示すが、このような熱膨張係数は半導体素子を構成するアルミナ(Al2O3)のようなセラミック素材と類似し、約800℃の高温で行われるブレージング接合工程における熱膨張係数の違いに起因する反りや破損の発生を防止することができる。また、本発明による放熱板材は、複雑な格子構造を形成することなく上記のような特性を実現でき、製造工程が相対的に簡単になる利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明による放熱板材から配向方向を求めるため、特定の断面における黒鉛粒子の長辺、短辺を求める過程を説明するためのレーザー顕微鏡写真である。
【
図2】
図1において外接四角形に接する接点が2つ以上の場合に長辺を求める過程を説明するための概略図である。
【
図3】100個以上の黒鉛粒子のαについて、10度間隔の度数分布を作成した例である。
【
図4】本発明による放熱板材の面の方向と厚さの方向を説明するための図面である。
【
図5】本発明の実施例1による放熱板材の構造を示した概略図である。
【
図6】本発明の実施例2による放熱板材の構造を示した概略図である。
【
図7】本発明の実施例3による放熱板材の構造を示した概略図である。
【
図8】本発明の実施例4による放熱板材の構造を示した概略図である。
【
図9】本発明の実施例で使用した黒鉛粉末の写真である。
【
図10】銅をコーティングした黒鉛粉末を金型に装入した状態を概略的に示したものである。
【
図11】金型に超音波振動を加えて銅をコーティングした黒鉛粉末を配列させる過程を表したものである。
【
図12】配列された、銅をコーティングした黒鉛粉末を加圧して成形体を作る段階を表したものである。
【
図13】成形体を焼結した状態を概略的に示したものである。
【
図14】焼結された成形体の切断方向に応じて黒鉛粒子の配向状態が異なることを示したものである。
【
図15】本発明の実施例1によって製造した放熱板材の断面写真である。
【
図16】本発明の実施例2によって製造した放熱板材の断面写真である。
【
図17】本発明の実施例3によって製造した放熱板材の断面写真である。
【
図18】本発明の実施例4によって製造した放熱板材の断面写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照し、本発明の望ましい実施例を詳細に説明する。しかし、以下に例示する本発明の実施例は様々な異なる形に変形することがあり、本発明の範囲が次に述べる実施例に限定されるものではない。本発明の実施例は、当業界において平均的な知識を有する者に本発明をより完全に説明するために提供されるものである。まず、本発明を説明するために使用される用語は次のように定義される。なお、本発明において特に定義されていない用語は、この技術分野で通常用いられる意味で使用されたものである。
【0015】
「板状の黒鉛粒子」とは、完全な板状からなる粒子はもとより、板状に類似した形状であるフレーク状、鱗状等の粒子のように、面の広さに比べて厚みの薄い形でなるものであれば、屈曲したものを含む包括的な意味で使用されるものである。具体的には、後述する黒鉛粒子の平均アスペクト比が好ましくは3~40である。
【0016】
「配向」とは、素地(マトリックス)に分散しているそれぞれの黒鉛粒子の向きがランダムに分布せず、所定方向に向かって配列されていることを意味する。本発明においては、各層ごとに(少なくとも積層体中の2つの層で)黒鉛粒子の配向方向が一定以上異なっている。この点について以下、詳細に説明する。
【0017】
<黒鉛粒子サイズ、アスペクト比、面積>
図1に示すように、放熱板材の縦割断面において、各層に含まれる各黒鉛粒子に外接する四角形(四つの角はいずれも90°)をその底辺が各層の接合面に平行となるようにとる。その外接四角形の対向する辺と黒鉛粒子との接点を結ぶ線分長のうち、長い方をその黒鉛粒子の長辺長さ(L1)という。長辺と直交する直線のうち、黒鉛粒子の輪郭内部を通る長さが最も長い直線の、前記輪郭内部を通る長さを黒鉛粒子短辺長さ(L2)という。なお、長辺と直交する直線が黒鉛粒子の輪郭内部を複数回通る場合は、それぞれの輪郭内部を通る長さで判断する。また、外接四角形と黒鉛粒子が線で交わる場合には、その線分の中点を上記接点とする。なお
図1は、本発明の放熱板材の断面をレーザー顕微鏡(KEYENCE製レーザマイクロスコープVK-X110)で対物レンズの倍率20倍で観察し、黒鉛粒子の折れ曲がりを説明するために観察視野の一部を拡大した例である。
【0018】
図2に図示されたように、粒子が外接四角形の一辺と接する接点が複数存在する場合、複数本の中で最も長い方の線分の長さを長辺長さ(L1)と定める。放熱板材の各層に含まれる各黒鉛粒子のアスペクト比(縦横比)をL1/L2で示す。
【0019】
一方、黒鉛粒子の面積Sは、S=L1×L2の値と定義する。
各黒鉛粒子のアスペクト比の平均値を、その層(複合板材)における黒鉛粒子の平均アスペクト比と定義する。本発明に使用する黒鉛粒子の平均アスペクト比は、好ましくは3~40である。また、平均アスペクト比が1に近い数値となった場合には、板状の黒鉛粒子の板面が見える断面を観察している可能性があるので、当該断面と直交する断面など、他の断面についても観察して平均アスペクト比を求める。
【0020】
<積層された各層に含まれる黒鉛粒子の配向角度>
「黒鉛粒子の長辺」と「外接四角形の底辺」の成す角をαという。積層された各層に含まれる黒鉛粒子の配向角度を測定するに当たり、好ましくは、視野内で最大面積の(面積Sが最大である)黒鉛粒子を基準粒子とし、基準粒子の面積が視野面積の1~5%を占めるように観察を行う。このとき、黒鉛粒子が曲がっている場合にも同様に行う(
図1参照)。
【0021】
そして、視野内で基準粒子の面積の3%未満の面積の粒子は、配向角度測定から除外し、3~100%の面積を持つ粒子個数が100個に満たないときは、視野内で2番目又は3番目に大きい粒子を基準粒子に変更する方法により観察を行う。黒鉛粒子の配向角度を測定する際には100個以上の黒鉛粒子の配向角度を測定することが望ましい。もし、黒鉛粒子の添加量が多くなく視野内の黒鉛粒子の数が100個未満である場合には、複数の視野を観察して100個以上の黒鉛粒子の角度αを求める。その際の基準粒子は視野ごとに定める。
【0022】
<各層で、黒鉛粒子が概ね同一方向に配向していること>
各層(複合板材)の各断面(x、y、zの3面)に対して求めた黒鉛粒子の平均アスペクト比を比較したとき、最も大きい面1を選択する。その面で上述したように測定した100個以上の黒鉛粒子のαについて、10度間隔の度数分布を作成し、最大度数の角度±90°の範囲にαが入るように補角(supplementary angle)を用いて度数分布を再作成する。
【0023】
例えば、-80°の度数について、その補角であり、-80°と等価である100°に変換する。この時、度数はA~B°という範囲で表記し、±90°の基準はA側とする。αを測定した全ての黒鉛粒子のL1の平均値をL
Aveとするとき(L
Aveは好ましくは1~500μmである)、各αの黒鉛粒子は、L1/L
Ave(個)存在するとして重み付けを行い、
図3に示すように、度数分布を作成し直す。なお
図3は相対度数分布を示している。
【0024】
本発明において,長辺長さによる存在個数の重み付けを行った黒鉛粒子の角度αの標準偏差を求めたとき,標準偏差≦20°となると,放熱板材の各層に含まれる黒鉛粒子が「概ね同一方向に配向」されているものと規定する。
【0025】
前記標準偏差について、長辺長さによる存在個数の重み付けを行った黒鉛粒子の平均配向角度(α
Ave)はα・L1/L
Aveの平均値として求めることができ、計算式で示すなら以下のとおりである。
【数1】
【0026】
本発明において、長辺長さによる存在個数の重み付けを行った黒鉛粒子の角度αの標準偏差σは、次式で求められるものとする。
【数2】
【0027】
なお、「長辺長さによる存在個数の重み付け」とは、例えば長辺長さがその平均値の2倍である黒鉛粒子は、2個分と換算することを意味し、逆に平均値の半分である黒鉛粒子は、0.5個分と換算することを意味する。また
図3の例の場合、黒鉛粒子の平均配向角度(α
Ave)は5.68°、標準偏差σは10.1°である。
【0028】
<各層の黒鉛粒子の配向を示すベクトルX>
各層の各断面(x、y、zの3面)に対して求めた黒鉛粒子の平均アスペクト比(各黒鉛粒子のアスペクト比の平均値)を比較した際、平均アスペクト比の大きな2つの面1と面2を選択する。その面から、黒鉛粒子の平均配向角度(αAve)を求める。
【0029】
以上のような過程を通じて、面1における平均配向角度(αAve)の線という三次元単位ベクトル1が生成される。同一の過程を面2に対しても行うことになれば、面2における単位ベクトル2が得られる。単位ベクトル1と単位ベクトル2とで形成された平面に直交する単位ベクトルX(法線)を求める。単位ベクトルXを、放熱板材を構成する特定の層(複合板材)における黒鉛粒子の配向方向を示すものと定義する。
【0030】
<ベクトルX間の角度>
各層で求めた単位ベクトルX間(2つの単位ベクトルに着目し、これらをベクトルa(aの上付き矢印)とベクトルb(bの上付き矢印)とする)の角度、すなわち、3次元ベクトル同士がなす角度(請求項1に規定する「交差角度」)は、下記計算式を通じて求める。
【0031】
【0032】
ベクトルX1、X2、X3、・・・について2つのベクトルがなす角度を求め、このうちいずれかが45°以上であることが本発明において要件とする黒鉛粒子の配向状態である。
【0033】
‘銅’とは不純物の含量が0.1質量%未満である銅を意味して、‘銅合金’とは銅(Cu)を80質量%以上、望ましくは90質量%以上、より望ましくは95質量%以上含み、銅のほかの合金元素1種以上を合計で0.1質量%以上含むことを意味する。
【0034】
本発明者は、放熱板材の製造が容易であり、アルミナ(Al
2O
3)のようなセラミック素材を含む電子素子とのブレージング接合する時、反りや破損が発生しない水準の面方向(
図4のx、y方向)の熱膨張係数を有し、積層された層間に良好な界面結合力が得られ、放熱板材の横方向、縦方向および厚さ方向の3方向でいずれも優秀な熱伝導度を有し、電子素子から発生した熱が放熱板材の面に幅広く放出されながら、下方向(厚さ方向、
図4のz方向)に排出されることから、電子デバイスから迅速な熱放出が可能であり、放熱設計の自由度を高められる放熱板材を提供するため研究した結果、次のような構造の放熱板材を案出した。
【0035】
(1)本発明による放熱板材は、銅又は銅合金からなる素地内に、板状の黒鉛粒子が分散している複合板材が、2層以上積層されたものであって、積層した各複合板材において、上記板状の黒鉛粒子がおおむね同一方向に配向されており、任意の2つの複合板材の、上記板状の黒鉛粒子の配向方向の交差角度の最大値が45°以上である、放熱板材である。
【0036】
(1)の放熱板材は、積層する複合板材等が同じように同種の銅(又は銅合金)素地に板状の黒鉛粒子が複合化したものとなっているため、複合板材同士のクラッディング時に異種物質間の接合ではないため、使用中に層間剥離が発生しない良好な接合力が得られる。また、同種の物質でも接合力が低い物質、例えばグラファイト板材で積層した放熱板材に比べても良好な接合力が得られる。なお前記「同種」とは、好ましくは放熱板材を構成する複合板材の素地における銅の含有割合の最大値と最小値の差が20質量%以下であることを意味し、より好ましくは10質量%以下であることを意味し、さらに好ましくは5質量%以下であることを意味し、特に好ましくは各複合板材の金属組成が同一であることを意味する。なお、例えば2層構造の放熱板材で、下の複合板材の素地における銅の割合が95質量%で上の複合板材の素地における銅の割合が93質量%ならば、前記最大値と最小値の差は2質量%と考える。
【0037】
また、積層されたそれぞれの複合板材を構成する黒鉛粒子が概ね同一方向に配向されており、任意の2つの複合板材の黒鉛粒子の配向方向の交差角度の最大値が45°以上になるように配置する場合、放熱板材内の熱を広げながら下に排出する構造を形成できるだけでなく、x方向とy方向に対する熱膨張係数もアルミナ(Al2O3)のようなセラミック系材や樹脂材を含む電子素子とのブレージング接合の際、曲げや破損が発生しない水準の熱膨張係数(5×10-6/K~16×10-6/K)を有することになる。
【0038】
また、放熱板材を構成する各複合板材の厚さ及び/又は複合化する黒鉛粒子の体積分率を互いに調節することにより、放熱板材の横方向及び縦方向の熱伝導度と熱膨張係数の調節が可能であるため、適用される素子の必要事項に合わせて容易に放熱板材の物性調節が可能である。また、本発明による放熱板材は格子構造のように複雑な構造を形成する必要がなく、相対的に製造工程が単純になる。具体的な製造工程については、実施例で説明する。このように、積層構造を有する放熱板材の良好な層間結合力、3方向(縦、横、厚さ方向)での優れた熱伝導度及び面方向(横、縦)で電子素子に使用されるセラミック素材と類似した熱膨張係数を全て満たすことができる放熱板材は、従来技術では実現が困難であった。
【0039】
(2)前記(1)の放熱板材において、前記放熱板材は、前記複合板材が3層以上積層されたものを含み、前記複合板材のうち任意の1つの複合板材の前記黒鉛粒子の配向方向と、前記任意の1つの複合板材と隣接して積層された複合板材の前記黒鉛粒子の配向方向との交差角度の最大値が45°以上であることができる。
【0040】
(2)のように、相互に隣接して積層された複合板材の黒鉛粒子の配向方向の交差角度の最大値が45°以上となるようにすることが、放熱板材の熱伝導度と熱膨張係数の調節に有利となり得る。
【0041】
(3)上記(2)による放熱板材において、前記複合板材を積層方向の下から第n層と数えたとき(nは正の整数)、偶数層における前記黒鉛粒子の配向方向が実質的に同一であり、奇数層における前記黒鉛粒子の配向方向が実質的に同一であることができる。
【0042】
(3)の放熱板材は、複合板材のいずれかの板状の黒鉛粒子の配向された形態をAとし、Aと交差角度の最大値が45°以上になるように配向された形態をBとすると、3層以上積層時に、実施形態の例としてほぼA-B-A(3層)、A-B-A-B(4層)のように交互に積層する形態である。ここで、二つのA層やB層同士の黒鉛粒子の配向方向(単位ベクトルX)の交差角度は0~10°である。
【0043】
(3)のように、交互に積層する場合、x軸(面方向)、y軸(面方向)、及びz軸(厚さ方向)に熱伝導度とx軸(面方向)及びy軸(面方向)への熱膨張係数の制御がより容易になり得る。例えば、3層積層構造を形成する際、Aが面方向に熱伝導度が高く、Bが厚み方向に熱伝導度が高い場合、A-B-Aの順に積層する場合、放熱板材全体における面方向の熱伝導度を厚み方向に比べて相対的に高く調節できる。また、B-A-Bの順で積層する場合、放熱板材全体において、面方向に比べて相対的に厚み方向の熱伝導度をより高く調節できる。同様に、放熱板材全体において面方向に対する熱膨張係数の調節が可能である。このように、三層構造は二層構造に比べ、特定の面方向の熱伝導度と熱膨張係数をより高く又は低く調節できるようにする構造である。
【0044】
放熱板材を構成する複合板材の層数が奇数であると、積層方向中央の層をはさんで対称な形になり、熱膨張で反りが生じにくいという利点がある。層数に制限はないが、好ましくは2~10層、より好ましくは3~7層である。なお、中央の層を挟んで対称とする点から、中央の層から数えた番号が同じ層の厚さは実質的に同じであることが好ましい。
【0045】
(4)前記(1)及び(3)のいずれかの放熱板材において、前記各複合板材において、前記黒鉛粒子の配向方向は、積層された複合板材の間の界面に略平行であり得る。
【0046】
本発明において、「積層された複合板材の間の界面に略平行」であるとは、黒鉛粒子の配向方向を示す単位ベクトルXと上記界面とのなす角度とが60°以上であることを意味する。なお面と直線のなす角度は、面の法線(面に直交する直線)と直線のなす角度として求められる(当該角度は90°以下の数値として表示するものとする)。
【0047】
板状の黒鉛粒子の配向方向が界面に平行であればあるほど、厚さ方向への熱伝導度を高くできるため、上記界面と単位ベクトルXとのなす角度は60°以上に保つことが望ましく、70°以上がより望ましく、80°以上が最も望ましい。通常90°以下である。
【0048】
(4)の放熱板材の一態様は、
図5及び
図6に図示されたように、積層界面において複合板材を構成する黒鉛粒子がほぼ平行に配向される場合、板状の黒鉛粒子が厚さ方向に立てられた形でありながら、2つの複合板材に複合された黒鉛粒子の配向方向を示す単位ベクトルXがそれぞれx軸方向と、y軸方向に平行であり、交差角度の最大値が45°以上(
図5及び
図6では、交差角度がほぼ90°からなる)となるように配置されたことを特徴とする。
【0049】
前記の放熱板材のように、板状の黒鉛粒子が厚さ方向に立てられた形で配向され、かつ、面方向に対して45°以上の交差角度を有するように配向されている構造を形成する場合、厚さ方向に対して優れた熱伝導度を有するとともに、面方向(x,y方向)に対しても優れた熱膨張係数を有する。このような構造の放熱板材は、四角形の板材からなる場合、横方向、縦方向、及び厚さ方向の3方向でいずれも300W/mK以上の優れた熱伝導度を実現することができ、同時に面方向(横方向、縦方向)で5×10-6/K~16×10-6/Kの低い熱膨張係数を持たせ、セラミックを基板とする電子素子とのブレージング接合時の反りや破損の発生を防止する。
【0050】
(5)前記(1)~(3)のいずれかの放熱板材において、前記各複合板材のうち任意の1つの複合板材Aの前記黒鉛粒子の配向方向は積層された複合板材の間の界面に略平行な方向であり、前記複合板材Aに隣接して積層された複合板材Bの前記黒鉛粒子の配向方向は前記複合板材の積層方向に略平行であり得る。
【0051】
(5)の放熱板材の一態様は、
図7及び
図8に図示されたように、積層された複合板材の一つは黒鉛粒子が複合板材間の界面に対してほぼ平行に配向され(黒鉛粒子の配向方向を示す単位ベクトルXと前記界面とがなす角度が60°以上、望ましくは70°以上、より望ましくは80°以上(通常90°以下))、もう一つは複合板材の積層方向におおむね平行(複合板材間の界面に対してほぼ垂直(黒鉛粒子の配向方向を示す法線ベクトルXと前記積層方向とがなす角度が30°以下、望ましくは20°以下、より望ましくは10°以下(通常0°以上))に配向されていることを特徴とする。すなわち、複合板材のうち一つの黒鉛粒子は立てられた状態で配向されており(例えば
図7の第2層(第2複合板材))、もう一つは側面から見て横になった状態で配向されているのである(例えば
図7の第1層(第1複合板材))。
【0052】
黒鉛粒子が横になった状態で配向されたものは放熱板材の面方向への熱伝導度が非常に優秀になり、黒鉛粒子が立てられた状態で配向されたものは放熱板材の厚み方向への熱伝導度が非常に優秀になる。したがって、例えば、電子素子のホットスポットから速やかに熱を面に広めた後に下方向に排出される必要性が高い場合、黒鉛粒子が横になったように配向された面に電子素子を搭載すると上記の効果が得られることになる。
【0053】
このような積層構造からなる放熱板材も、四角形の板材からなる場合、横方向(x)、縦方向(y)及び厚さ方向(z)の3方向から共に300W/mK以上の優れた熱伝導度を実現することができ、同時に面方向(横方向、縦方向)で5×10-6/K~16×10-6/Kの低い熱膨張係数を実現することができる。
【0054】
(6)上記(1)~(5)のいずれかの放熱板材において、各複合板材のうち、最も厚い複合板材の厚さに対する他の全ての各複合板材の厚さの割合が0.8以上になるよう調節することができる。これは複合板材の間の厚さの差が大きい場合は物性制御が容易でないため、最も厚い複合板材の厚さに対する他の各複合板材の厚さの比率が少なくとも0.8以上のようにするのが、物性制御が容易になるからである。しかし、放熱板材に求められる特性に合わせて複合板材の間の厚さは多様に調節されることができ、必ずしもこれに制限されることはない。また、前記複合板材の厚さは、10μm以上であり得る。これは放熱板材を構成する各複合板材の厚さが10μm未満の場合、黒鉛粒子が複合化された板材の製造が困難になる可能性があるからである。また複合板材の厚さは、好ましくは3mm以下である。
【0055】
(7)前記(1)~(6)のいずれかの放熱板材における、前記放熱板材の横方向、縦方向及び厚さ方向でのそれぞれの熱伝導度は、好ましくは300W/mK以上であり得る。横方向、縦方向及び厚さ方向からの熱伝導度がいずれも300W/mK以上の場合、より迅速な熱放出が可能であるためである。
【0056】
(8)上記(1)~(7)のいずれかの放熱板材における、上記放熱板材の横方向と縦方向の熱膨張係数は、5×10-6/K~16×10-6/Kであり得る。上記放熱板材の横方向と縦方向の熱膨張係数は、適用される電子素子によって異なり得るが、電子素子に使用されるセラミック物質の熱膨張係数を考慮すると、5×10-6/K~16×10-6/Kであることが望ましく、7×10-6/K~13×10-6/Kであることがより望ましい。
【0057】
(9)上記(1)~(8)のいずれかの放熱板材において、上記板状の黒鉛粒子は体積分率で30~80%含まれ得る。各複合板材における黒鉛粒子の混合量が体積分率で30%未満の場合、低い熱膨張係数を実現することが難しい場合があり、80%を超過する場合、炭素フリーゾーンと複合相を接合する際、接着力が落ちる問題が生じることがある。より望ましい黒鉛粒子の混合量は体積分率で40~75%である。
【0058】
各層(複合板材)の各断面(x、y、zの3面)に対して求めた黒鉛粒子の平均アスペクト比を比較したとき、最も大きい面1において積層された各層に含まれる黒鉛粒子の配向角度を求めたのと同様のレーザー顕微鏡写真を、二値化処理して、黒鉛粒子の面積分率を求めることができ、この面積分率を上記、黒鉛粒子の体積分率の代用とすることができる。
【0059】
(10)上記(1)~(9)のいずれかの放熱板材において、前記黒鉛粒子の平均一次粒子径が1~500μmでありうる。黒鉛粒子の平均一次粒子径が1μm未満の場合、過度に微細化し複合化のためのめっき工程で均一なめっき層が形成され難いことがあり、500μmを超過する場合、最終放熱板材の薄板化を難しくして、放熱板材の強度を低下させる場合がある。このため、前記平均一次粒子径は1~500μmであることが望ましく、50~300μmであることがより望ましい。平均一次粒子径は、配向角度αを測定した全ての黒鉛粒子のL1の平均値LAveとする。
【0060】
(11)前記(1)から(10)までのいずれかの放熱板材において、本発明による放熱板材は、熱を板材の平面に広く伝導させながら同時に垂直に伝導させるように構成されることができる。このような構造の場合、実装された電子素子のホットスポットから熱をより迅速かつ効率的に放出することができる。
【0061】
(12)前記(1)から(11)までのいずれかの放熱板材において、前記複合板材からなる積層構造の上面と下面に、又は上面、下面及び側面に金属層が形成されていることができる。
【0062】
上記金属層(Metalizing層)は、銅(又は銅合金)-黒鉛複合材が表面に露出した状態に比べ、放熱板材のはんだ付け性、はんだ濡れ性、金めっき性のような物性を向上させるための用途に形成され得る。金属層の厚さは、例えば1~10μmとすることができるが、上記の目的を達成できる程度であれば、必ずしも上記範囲に制限されない。
【0063】
(13)前記(12)の放熱板材において、前記金属層はめっき、蒸着または箔(foil)の接合により形成される。また、上記金属層は、Cu、Au、及びNiの中から選択された1種以上を含むことができる。そのような金属層として例えば、Cu層、CuNiAu層、NiAu層、Ni層などが挙げられる。
【0064】
(14)前記(1)から(13)までのいずれかの放熱板材において、前記複合板材のうち任意の1つの複合板材の前記黒鉛粒子の配向方向は、積層されている複合板材の間の界面に略平行であることができる。
【0065】
前記の放熱板材において、黒鉛粒子の配向方向が積層されている複合板材の間の界面に略平行である複合板材は、厚さ方向への熱伝導度を高くできる。
【0066】
(15)前記(1)から(14)までのいずれかの放熱板材において、前記黒鉛粒子の配向方向の交差角度の最大値は、70°以上であることができる。なお交差角度は90°以下の数値で表すものとする。
【0067】
前記の放熱板材においては、より効果的に、放熱板材内の熱を広げながら下に排出する構造を形成できると同時に、x方向とy方向に対する熱膨張係数もアルミナ(Al2O3)のようなセラミック系材や樹脂材を含む電子素子とのブレージング接合の際、曲げや破損が発生しない水準の好適な熱膨張係数を達成することができる。
【0068】
(16)本発明の半導体装置は、上記(1)~(15)のいずれかの放熱板材と、上記放熱板材の一面に搭載される半導体素子とを含む。
【実施例0069】
[実施例1]
複合板材を製造するための黒鉛粉末は、
図9に示すようなフレーク状からなり、粒度約130μmのものを使用した。この粉末は、500μm(ふるい番号:35)の篩を通過し、75μm(ふるい番号:200)の篩を通過しなかった粉末である。この黒鉛粉末の表面に銅粉末との焼結により複合板材を作るため、銅コーティング層を形成した。
【0070】
銅コーティング層の形成には次のような無電解メッキ法を用いた。具体的には、黒鉛粉末を300~400℃で30~90分程度加熱して黒鉛粉末の活性化処理を行った。次いで、活性化処理された黒鉛粉末に黒鉛粉末全体に対して質量比で3質量%の氷酢酸を添加した後、得られた黒鉛粉末と氷酢酸との混合物20質量部、CuSO4 70質量部、脱イオン水10質量部を混合してスラリーを作った。このように作ったスラリーに、銅塩水溶液の金属より電気陰性度が大きい平均粒度約0.7mmのZn顆粒物を上記スラリー100質量部に対して約20質量部程度となるように添加した後、得られた混合物(スラリー)を常温で25rpm程度の速度で撹拌して黒鉛粉末の表面に銅メッキ層が形成されるようにした。
【0071】
そして、無電解メッキが完了した銅コーティング黒鉛粉末が大気中で腐食することを防止するために不動態化を実施したが、そのために銅コーティング黒鉛粉末を、蒸留水、H2SO4、H3PO4、酒石酸が質量比で75:10:10:5に混合した溶液に20分間浸漬した。最後に、黒鉛粉末表面に残存する酸を除去するために水洗した後、大気中で50~60℃に加熱乾燥することにより、黒鉛粉末の表面に銅がコーティングされた黒鉛粉末(銅コート黒鉛粉末における銅の量は50質量%である)を製造した。
【0072】
このように銅がコーティングされた黒鉛粉末を
図10に図示されたものと同じ金型に装入する。そして、超音波振動子を使用して金型に10分間振動を加える。振動を加えると、銅がコーティングされたフレーク状の黒鉛粉末は、
図11に図示されたように概ね水平方向に配向が行われる。配向が行われた後は、
図12に図示されたように、パンチを用いて上部から一軸加圧力を加えることにより、焼結用成形体を作製する。次いで、焼結用成形体を930℃、80MPa、20分の条件で加圧焼結すると、
図13に図示されたように、銅素地に黒鉛粒子が概ね水平に配向された組織を有するバルク材を得た。
【0073】
このように得られたバルク材をダイヤモンドワイヤ切断機を使用して配向された方向に平行に切断すると、板材の側端面から見て、フレーク状の黒鉛粒子が平行に寝た状態の複合板材を得る。また、前記バルク材を
図14に図示したように、水平方向に配向された方向に垂直な方向に所定厚さで切断することになり、板材の側端面から見て、フレーク状の黒鉛粒子が垂直に立っている状態の複合板材を得る。このような過程により、ダイヤモンドワイヤ切断機の切断方向に沿って、黒鉛粒子が多様な角度で配向された複合板材が得られるようになる。
【0074】
このように製造された複合板材の中から、黒鉛粒子が厚さ方向に概ね平行に配向されており、面方向に対して所定方向に配向されている複合板材を選択した。選択された複合板材は寸法が27mm×27mm×0.635mm(横×縦×厚さ)である。この複合板材において、黒鉛粒子が概ね同一方向に配向していることを、本明細書の定義に従って確認した。角度αの標準偏差は9.1°だった。
【0075】
次に、
図5に図示されたように、黒鉛粒子が厚さ方向に概ね平行に配向された2つの複合板材を使用し、第1複合板材は黒鉛粒子がx方向(横方向)に向かい、第1複合板材の上に黒鉛粒子がy方向(縦方向)に向かうように配向された第2複合板材を積層した。
第1複合板材と第2複合板材を積層した後、80MPa、950℃、10分の条件で加圧焼結を行って放熱板材を得た。
【0076】
図15は、本発明の実施例1に従って製造された放熱板材の、厚さ方向に平行な断面の写真である。この断面から、本発明の実施例1に従って、厚さ方向に対して平行に配向された第1複合板材の黒鉛粒子と第2複合板材の黒鉛粒子がx方向又はy方向を基準におおよそ90°の交差角度を有するように配置された構造を有すると考えられ、実際に本発明で定義した交差角度を求めたところ、86.9°だった。
【0077】
また、放熱板材における黒鉛粒子の体積分率を本明細書で定義した方法で求めたところ、約70%だった。
【0078】
[実施例2]
実施例2による放熱板材は、実施例1による積層構造でさらに1つの複合板材が積層されて3層構造をなすところに違いがあり、複合板材を製造する工程は実施例1と同様である。
【0079】
図6に図示されたとおり、黒鉛粒子が積層方向におおむね平行に配向された3つの複合板材を使用して放熱板材を製造した。
【0080】
まず、黒鉛粒子がx方向(横方向)に向かうように第1複合板材を配置した後、第1複合板材の上側に黒鉛粒子がy方向(縦方向)に向かうように第2複合板材を積層し、第2複合板材の上側に再び黒鉛粒子がx方向(横方向)に向かうように第3複合板材を積層した。
【0081】
このように積層された第1複合板材、第2複合板材及び第3複合板材について、80MPa、950℃、10分の条件で加圧焼結を行って放熱板材を得た。
【0082】
図16は、本発明の実施例2に従って製造された放熱板材の断面写真である。この断面から、本発明の実施例2に従って、厚さ方向に対して平行に配向された黒鉛粒子がx方向とy方向におよそ90°の交差角度を有するように配置された構造を有すると考えられ、実際に本発明で定義した各層間での交差角度を求めたところ、その最大値は87.8°だった。また、隣接する層間での交差角度はいずれも80°以上だった。
【0083】
[実施例3]
実施例3による放熱板材は、実施例1の積層方向に平行に配向された複合板材にさらに界面方向に平行に(すなわち、積層方向に垂直に)配向された複合板材を一緒に使用することに違いがあり、複合板材を製造する工程は、実施例1と同様であり、複合板材に含まれる黒鉛粒子の配向方向は、前述したように、バルク材の切断工程を介して調節され得る。
【0084】
図7に図示されたように、黒鉛粒子が複合板材間の界面方向に平行に配向された第1複合板材を配置した後、前記第1複合板材の上側に黒鉛粒子が積層方向に平行に配向された(すなわち、界面方向に垂直に配向された)第2複合板材を積層した。
【0085】
積層された第1複合板材と第2複合板材について、80MPa、950℃、10分の条件で加圧焼結を行って放熱板材を得た。
【0086】
図17は、本発明の実施例3に従って製造された放熱板材の断面写真である。この断面から、本発明の実施例3に従い、第1複合板材の黒鉛粒子と、第2複合板材の黒鉛粒子は、z方向を基準に概ね90°の交差角度を有するように配置された積層構造(すなわち、垂直-水平)を有すると考えられ、実際に本発明で定義した交差角度を求めたところ、85.6°だった。
【0087】
[実施例4]
実施例4による放熱板材は、実施例3による積層構造でさらに1つの複合板材が積層されて3層構造をなすところに違いがあり、複合板材を製造する工程は実施例1と同様である。
【0088】
図8に図示されたように、黒鉛粒子が界面方向に平行に配向された第1複合板材を配置した後、前記第1複合板材の上側に黒鉛粒子が積層方向に平行に配向された(界面方向に垂直に配向された)第2複合板材を配置し、前記第2複合板材の上側に再び黒鉛粒子が界面方向に平行に配向された第3複合板材を積層して配置した。
【0089】
次いで、積層された複合板材を、80MPa、950℃、10分の条件で加圧焼結を行って、放熱板材を得た。
【0090】
図18は、本発明の実施例4に従って製造された放熱板材の断面写真である。断面で確認されるように、本発明の実施例4に従い、側断面で黒鉛粒子が水平に横になった層と、垂直に立てられた層と、水平に横になった層とが3層構造となる。すなわち、隣接層間の交差角度は概ね垂直だが横になった層、立てられた層、横になった層の3層構造となっていると考えられる。実際に本発明で定義した各層間での交差角度を求めたところ、その最大値は88.4°だった。また、隣接する層間での交差角度はいずれも80°以上だった。
【0091】
[比較例1]
本発明の実施例1~4による放熱板材との比較のために、実施例1による放熱板材と同一寸法に加工された純粋な銅板材を製造した。
【0092】
[比較例2]
本発明の実施例1~4による放熱板材との比較のために、実施例1において得られた、黒鉛粒子が厚さ方向に対して平行に配向された(すなわち、側端面から見て黒鉛粒子が立設した(立てられた)形で配向された)複合板材1層を放熱板材とした。
【0093】
[比較例3]
本発明の実施例1~4による放熱板材との比較のために、厚さ100μmの銅(Cu)層と厚さ400μmのMo-Cu(Mo7Cu3)合金層と厚さ100μmの銅(Cu)層がこの順に積層された3層構造からなる放熱板材を製造した。
【0094】
<層間結合力テスト>
本発明の実施例1~4に従った放熱板材の層間接合力を評価するため、万能材料試験機(AG-300kNX)を使用し、試験機のジグを放熱板材の上下面にろう付け(JIS Z3261規定のBAg-8を使用)し、界面が破断するまで一定の変形速度(1mm/min)でジグを上下に引っ張る試験をしたが、素地が一体化しているため、当該試験機の最大荷重までテストするまで界面分離が行われなかった。そして放熱板材と試験機のジグとの分離が起きたので、放熱板材内の界面が分離するときの荷重を確認できなかったが、これにより、本発明の実施例によって製造された放熱板材の層間結合力が非常に優れていることが確認された。
【0095】
<熱伝導度及び熱膨張係数>
下表1は、本発明の実施例1~4と比較例1~3に従って製造した放熱板材の面方向(横方向及び縦方向)の熱膨張係数と、横方向、縦方向及び厚さ方向の3方向に対する熱伝導度(放熱板材から任意の10箇所を選定して測定した結果を平均した値)を測定した結果を示すものである。
【0096】
上記熱伝導度はシンチレーション法(laserlight flash method)を使用する熱伝導度測定器で測定した結果である。より具体的には、Z方向の熱伝導度測定には、Netzsch社製キセノンフラッシュアナライザーLFA467を用いた。X,Y方向の熱伝導度測定には、同装置のIn-Plane Slit model(馬場哲也・馬場貴弘氏開発モデル)を用いて、測定した。また、熱膨張係数は熱膨張係数測定器(Dilatometer)で測定した結果である。
【0097】
【0098】
半導体素子には、z方向(厚さ方向)の特性だけでなく、x、y方向(面方向)の特性も含め、異方性の改善のために、下記式(1)と(2)の条件を同時に満たす放熱板材が要求されており、さらに望ましくは(3)の条件も満たすことが要求されている。
【0099】
【0100】
ところで、表1で確認されるように、本発明の実施例1~4による放熱板材は横方向熱伝導度(TCx)、縦方向熱伝導度(TCy)及び厚み方向熱伝導度(TCz)の和(TCx+TCy+TCz)は1000W/mK以上(好ましくは1200W/mK以上、さらに好ましくは1250W/mK以上)と、全体的な熱伝導性に優れ、迅速な熱放出が可能である。
【0101】
のみならず、本発明の実施例1~4による放熱板材は、横方向、縦方向及び厚み方向のそれぞれの熱伝導度が200W/mK以上(好ましくは250W/mK以上、より好ましくは300W/mK以上)と良好であり、面方向と厚み方向の熱伝導度特性の異方性が従来の放熱板材に比べ著しく減った。
【0102】
また、本発明の実施例1~4による放熱板材は、上記のような熱伝導度を有するとともに、横方向熱膨張係数(CTEx)と縦方向熱膨張係数(CTEy)がそれぞれ5×10-6/K~16×10-6/Kの範囲にあり、さらにそれらの和(CTEx+CTEy)が25×10-6/K以下(好ましくは23×10-6/K以下、さらに好ましくは20×10-6/K以下)と低く保持され得る。
【0103】
すなわち、本発明の実施例1~4による放熱板材は、上記式(1)~(3)の条件を同時に満たすことができる。
【0104】
一方、比較例1の場合、熱伝導度は優れているが、面方向(x,y)における熱膨張係数が38×10-6/Kと非常に大きく、金属複合材基板とセラミック素材との間の熱膨張係数の違いにより、ブレージング接合過程でたわみや破損が発生することになる。
【0105】
また、比較例2の場合、TCx+TCy+TCzは高いが、TCyが40W/mKに過ぎず、面方向からの異方性が非常に大きいだけでなく、CTEyが25.5×10-6/Kと大きく、CTEx+CTEyも31.4××10-6/Kとかなり大きな問題点がある。
【0106】
また、比較例3の場合、CTExとCTEyそれぞれが5×10-6/K~16×10-6/Kの範囲にあり、これらの和が16.0×10-6/Kと良好であるが、TCx+TCy+TCzが717W/mKに過ぎず、高出力素子用半導体のように多くの熱を速やかに排出すべき素子に使用するには適さない。
【0107】
以上のように、本発明の実施例1~4による板材は、層間結合力に優れていながら、上記式(1)~(3)の条件を同時に満たす点で、従来の放熱板材に比べて向上した特性を示すものといえる。