(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023056489
(43)【公開日】2023-04-19
(54)【発明の名称】カーボンナノチューブ回収装置およびカーボンナノチューブ製造装置ならびにカーボンナノチューブの回収方法
(51)【国際特許分類】
C01B 32/16 20170101AFI20230412BHJP
D01F 9/127 20060101ALI20230412BHJP
D01F 9/133 20060101ALI20230412BHJP
【FI】
C01B32/16
D01F9/127
D01F9/133
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022154716
(22)【出願日】2022-09-28
(31)【優先権主張番号】P 2021165685
(32)【優先日】2021-10-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】306039120
【氏名又は名称】DOWAサーモテック株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】507046521
【氏名又は名称】株式会社名城ナノカーボン
(71)【出願人】
【識別番号】000108993
【氏名又は名称】株式会社大阪ソーダ
(74)【代理人】
【識別番号】100101557
【弁理士】
【氏名又は名称】萩原 康司
(74)【代理人】
【識別番号】100096389
【弁理士】
【氏名又は名称】金本 哲男
(74)【代理人】
【識別番号】100167634
【弁理士】
【氏名又は名称】扇田 尚紀
(74)【代理人】
【識別番号】100187849
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 隆史
(72)【発明者】
【氏名】長 信也
(72)【発明者】
【氏名】上岡 真弥
(72)【発明者】
【氏名】藤田 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】橋本 剛
(72)【発明者】
【氏名】高野 慶
(72)【発明者】
【氏名】香川 尚人
【テーマコード(参考)】
4G146
4L037
【Fターム(参考)】
4G146AA11
4G146AB06
4G146BA48
4G146BC03
4G146CA20
4L037CS03
4L037CS04
4L037FA02
4L037FA04
4L037FA20
4L037PA01
4L037PA05
4L037PA07
4L037PA09
4L037PA11
4L037PA19
4L037PA24
4L037PA28
(57)【要約】
【課題】カーボンナノチューブの量産製造時において、所望量のカーボンナノチューブを製造するまでの製造時間を短縮することが可能なカーボンナノチューブ回収装置およびカーボンナノチューブの製造装置ならびにカーボンナノチューブの製造方法を提供する。
【解決手段】カーボンナノチューブ回収装置3において、カーボンナノチューブ生成装置2と通じる開口部31を有する回収室30と、回収室30内に配置され、カーボンナノチューブ生成装置2から開口部31を通過したカーボンナノチューブを巻き取ってカーボンナノチューブ巻回体Rを形成する巻取部材42と、巻取部材42の基端側から先端側に向かってカーボンナノチューブ巻回体Rを移動させて該カーボンナノチューブ巻回体Rを巻取部材42から分離させる分離機構50と、を設ける。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンナノチューブ生成装置で生成されたカーボンナノチューブを回収するカーボンナノチューブ回収装置であって、
前記カーボンナノチューブ生成装置と通じる開口部を有する回収室と、
前記回収室内に配置され、前記カーボンナノチューブ生成装置から前記開口部を通過した前記カーボンナノチューブを巻き取ってカーボンナノチューブ巻回体を形成する巻取部材と、
前記巻取部材の基端側から先端側に向かって前記カーボンナノチューブ巻回体を移動させて該カーボンナノチューブ巻回体を前記巻取部材から分離させる分離機構と、を有することを特徴とする、カーボンナノチューブ回収装置。
【請求項2】
前記巻取部材の基端側に配置された、前記カーボンナノチューブ巻回体に接触する分離部材を有し、
前記分離機構は、前記巻取部材の先端と前記分離部材が相対的に接近するように前記巻取部材と前記分離部材の一方または両方を移動させる機構であることを特徴とする、請求項1に記載のカーボンナノチューブ回収装置。
【請求項3】
前記分離機構は、前記巻取部材を前記回収室から引き抜く方向に移動させる機構であることを特徴とする、請求項2に記載のカーボンナノチューブ回収装置。
【請求項4】
前記分離部材は、前記回収室内に配置された押出部材であり、
前記分離機構は、前記巻取部材の基端側から先端側に向かって前記押出部材を移動させて前記巻取部材の先端から前記カーボンナノチューブ巻回体を押し出して分離させる機構であることを特徴とする、請求項2に記載のカーボンナノチューブ回収装置。
【請求項5】
前記押出部材は、前記巻取部材の外周を取り囲むように形成されていることを特徴とする、請求項4に記載のカーボンナノチューブ回収装置。
【請求項6】
前記開口部を通過した前記カーボンナノチューブを前記巻取部材に案内するガイド部材を有することを特徴とする、請求項1~5のいずれか1つに記載のカーボンナノチューブ回収装置。
【請求項7】
前記巻取部材の基端が取り付けられた回転体と、
前記巻取部材に巻き取られた前記カーボンナノチューブ巻回体に接触する圧縮部材と、を有し、
前記圧縮部材は、前記回転体の回転軸方向に延伸し、かつ、前記回転体の回転軸方向から見て、前記巻取部材の側方に配置されていることを特徴とする、請求項1または2に記載のカーボンナノチューブ回収装置。
【請求項8】
前記圧縮部材は、前記回転体の回転方向とは逆方向に回転するように構成されていることを特徴とする、請求項7に記載のカーボンナノチューブ回収装置。
【請求項9】
前記巻取部材の基端が取り付けられた回転体を有し、
前記巻取部材は、前記回転体に対して片持ち梁状に支持されていることを特徴とする、請求項1または2に記載のカーボンナノチューブ回収装置。
【請求項10】
前記巻取部材が複数設けられ、
第1巻取部材の基端が取り付けられた第1回転体と、
第2巻取部材の基端が取り付けられた第2回転体と、を有し、
前記第1回転体と前記第2回転体の各々の回転軸は、前記開口部の中心線に対して垂直な方向であって、かつ、水平方向であることを特徴とする、請求項1または2に記載のカーボンナノチューブ回収装置。
【請求項11】
前記第1回転体の回転軸方向から見たときの前記開口部の中心線に垂直な方向における、前記第1回転体の回転軸の位置と前記第2回転体の回転軸の位置とが互いに異なることを特徴とする、請求項10に記載のカーボンナノチューブ回収装置。
【請求項12】
前記第1回転体の回転軸と前記第2回転体の回転軸との間に、前記開口部の中心線が位置していることを特徴とする、請求項11に記載のカーボンナノチューブ回収装置。
【請求項13】
前記開口部の中心線に沿って該開口部から前記回収室の内方に向かって延びた領域を前記開口部の出側領域と定義したとき、
前記第1回転体の回転軸方向から見たときの前記出側領域の幅と、前記開口部の幅が同じ長さであり、
前記出側領域には、複数の前記巻取部材がいずれも配置されていないことを特徴とする、請求項12に記載のカーボンナノチューブ回収装置。
【請求項14】
第3巻取部材の基端が取り付けられた第3回転体と、
第4巻取部材の基端が取り付けられた第4回転体と、を有し、
前記第3回転体と前記第4回転体の各々の回転軸は、前記開口部の中心線に対して垂直な方向であって、かつ、水平方向であり、
前記第1巻取部材は、前記回収室の前記開口部が設けられた壁面と、前記第3巻取部材との間に配置され、
前記第2巻取部材は、前記壁面と前記第4巻取部材との間に配置されていることを特徴とする、請求項11に記載のカーボンナノチューブ回収装置。
【請求項15】
前記第1回転体の回転軸と前記第2回転体の回転軸との間に、前記開口部の中心線が位置し、
前記第3回転体の回転軸と前記第4回転体の回転軸との間に、前記開口部の中心線が位置し、
前記第3巻取部材と前記第4巻取部材との間隔は、前記第1巻取部材と前記第2巻取部材との間隔よりも広いことを特徴とする、請求項14に記載のカーボンナノチューブ回収装置。
【請求項16】
カーボンナノチューブを生成する生成装置と、
請求項1または2に記載のカーボンナノチューブ回収装置と、を有することを特徴とする、カーボンナノチューブの製造装置。
【請求項17】
請求項1または2に記載のカーボンナノチューブ回収装置を用いたカーボンナノチューブの回収方法であって、
前記カーボンナノチューブ回収装置の前記開口部を通過したカーボンナノチューブを前記巻取部材で巻き取り、カーボンナノチューブ巻回体を形成する形成工程と、
前記巻取部材の基端側から先端側に向かって前記カーボンナノチューブ巻回体を移動させて該カーボンナノチューブ巻回体を前記巻取部材から分離させる分離工程と、を有し、
前記形成工程と、前記分離工程とを繰り返し行い、複数の前記カーボンナノチューブ巻回体を形成した後、前記カーボンナノチューブ回収装置から前記カーボンナノチューブ巻回体を回収することを特徴とする、カーボンナノチューブの回収方法。
【請求項18】
前記分離工程において、前記巻取部材を前記回収室から引き抜く方向に移動させることで、前記カーボンナノチューブ巻回体を前記巻取部材から分離させることを特徴とする、請求項17に記載のカーボンナノチューブの回収方法。
【請求項19】
前記分離工程において、前記巻取部材の基端側から先端側に向かって前記カーボンナノチューブ巻回体を押し出すことで、前記カーボンナノチューブ巻回体を前記巻取部材から分離させることを特徴とする、請求項17に記載のカーボンナノチューブの回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブを回収するカーボンナノチューブ回収装置およびそのカーボンナノチューブ回収装置を有するカーボンナノチューブ製造装置ならびにカーボンナノチューブの回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブは、導電性、熱伝導性、機械的強度等の優れた特性を有することから、多くの分野で注目されている新素材である。カーボンナノチューブの製造装置として、特許文献1には、炭素を含む原料(炭素源)を熱分解させてカーボンナノチューブを生成する化学気相成長法(すなわちCVD法)を用いた製造装置が知られている。
【0003】
また、特許文献2には、CVD法によるカーボンナノチューブの生成を行う反応炉の回収部内又はその近傍に回収装置を設けることが開示されている。特許文献2に記載の回収装置は、カーボンナノチューブを巻き取る巻取部材を回転させることでカーボンナノチューブをロール状に巻き取って巻回体を形成し、その巻回体を回収部に設けられた取り出し口から取り出してカーボンナノチューブを回収する装置である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-064918号公報
【特許文献2】特開2004-190166号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献2に記載のカーボンナノチューブの回収装置においては、カーボンナノチューブの巻回体が所定の径になった段階で回収部から巻回体を取り出している。そのため、カーボンナノチューブの巻回体を1つ製造する毎に、カーボンナノチューブの生成装置の停止、反応炉の降温、反応炉内の雰囲気置換を行う必要があり、また、カーボンナノチューブの回収後には反応炉内の雰囲気置換、反応炉の加熱を実施した後にカーボンナノチューブの生成装置を再稼働させる必要がある。すなわち、特許文献2に記載のカーボンナノチューブの回収装置では、1つの巻回体を回収する毎に生じる、カーボンナノチューブが生成されない時間が長い。このため、カーボンナノチューブを量産製造する場合は、所望量のカーボンナノチューブを製造するための製造時間が長くなるという問題があった。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、カーボンナノチューブの量産製造時において、所望量のカーボンナノチューブを製造するまでの製造時間を短縮することが可能なカーボンナノチューブ回収装置およびカーボンナノチューブの製造装置ならびにカーボンナノチューブの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するために、カーボンナノチューブの巻回体を巻取部材から分離させる分離機構を設けることで、カーボンナノチューブの巻回体の形成と分離を連続して行うことができるという知見を得た。そして、その分離機構を設けることによって、複数個のカーボンナノチューブの巻回体をまとめて回収することが可能となり、カーボンナノチューブの巻回体の回収頻度を少なくできることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
上記課題を解決する本発明の一態様を以下に開示する。
[1]カーボンナノチューブ生成装置で生成されたカーボンナノチューブを回収するカーボンナノチューブ回収装置であって、
前記カーボンナノチューブ生成装置と通じる開口部を有する回収室と、
前記回収室内に配置され、前記カーボンナノチューブ生成装置から前記開口部を通過した前記カーボンナノチューブを巻き取ってカーボンナノチューブ巻回体を形成する巻取部材と、
前記巻取部材の基端側から先端側に向かって前記カーボンナノチューブ巻回体を移動させて該カーボンナノチューブ巻回体を前記巻取部材から分離させる分離機構と、を有することを特徴とする、カーボンナノチューブ回収装置。
[2]前記巻取部材の基端側に配置された、前記カーボンナノチューブ巻回体に接触する分離部材を有し、
前記分離機構は、前記巻取部材の先端と前記分離部材が相対的に接近するように前記巻取部材と前記分離部材の一方または両方を移動させる機構であることを特徴とする[1]に記載のカーボンナノチューブ回収装置。
[3]前記分離機構は、前記巻取部材を前記回収室から引き抜く方向に移動させる機構であることを特徴とする、[2]に記載のカーボンナノチューブ回収装置。
[4]前記分離部材は、前記回収室内に配置された押出部材であり、
前記分離機構は、前記巻取部材の基端側から先端側に向かって前記押出部材を移動させて前記巻取部材の先端から前記カーボンナノチューブ巻回体を押し出して分離させる機構であることを特徴とする、[2]に記載のカーボンナノチューブ回収装置。
[5]前記押出部材は、前記巻取部材の外周を取り囲むように形成されていることを特徴とする、[4]に記載のカーボンナノチューブ回収装置。
[6]前記開口部を通過した前記カーボンナノチューブを前記巻取部材に案内するガイド部材を有することを特徴とする、[1]~[5]のいずれかに記載のカーボンナノチューブ回収装置。
[7] 前記巻取部材の基端が取り付けられた回転体と、前記巻取部材に巻き取られた前記カーボンナノチューブ巻回体に接触する圧縮部材と、を有し、
前記圧縮部材は、前記回転体の回転軸方向に延伸し、かつ、前記回転体の回転軸方向から見て、前記巻取部材の側方に配置されていることを特徴とする、[1]~[6]のいずれかに記載のカーボンナノチューブ回収装置。
[8]前記圧縮部材は、前記巻取部材の回転方向とは逆方向に回転するように構成されていることを特徴とする、[7]に記載のカーボンナノチューブ回収装置。
[9]前記巻取部材の基端が取り付けられた回転体を有し、
前記巻取部材は、前記回転体に対して片持ち梁状に支持されていることを特徴とする、[1]~[8]のいずれかに記載のカーボンナノチューブ回収装置。
[10] 前記巻取部材が複数設けられ、
第1巻取部材の基端が取り付けられた第1回転体と、
第2巻取部材の基端が取り付けられた第2回転体と、を有し、
前記第1回転体と前記第2回転体の各々の回転軸は、前記開口部の中心線に対して垂直な方向であって、かつ、水平方向であることを特徴とする、[1]~[9]のいずれかに記載のカーボンナノチューブ回収装置。
[11] 前記第1回転体の回転軸方向から見たときの前記開口部の中心線に垂直な方向における、前記第1回転体の回転軸の位置と前記第2回転体の回転軸の位置とが互いに異なることを特徴とする、[10]に記載のカーボンナノチューブ回収装置。
[12] 前記第1回転体の回転軸と前記第2回転体の回転軸との間に、前記開口部の中心線が位置していることを特徴とする、[11]に記載のカーボンナノチューブ回収装置。
[13] 前記開口部の中心線に沿って該開口部から前記回収室の内方に向かって延びた領域を前記開口部の出側領域と定義したとき、
前記第1回転体の回転軸方向から見たときの前記出側領域の幅と、前記開口部の幅が同じ長さであり、
前記出側領域には、複数の前記巻取部材がいずれも配置されていないことを特徴とする、[12]に記載のカーボンナノチューブ回収装置。
[14] 第3巻取部材の基端が取り付けられた第3回転体と、
第4巻取部材の基端が取り付けられた第4回転体と、を有し、
前記第3回転体と前記第4回転体の各々の回転軸は、前記開口部の中心線に対して垂直な方向であって、かつ、水平方向であり、
前記第1巻取部材は、前記回収室の前記開口部が設けられた壁面と、前記第3巻取部材との間に配置され、
前記第2巻取部材は、前記壁面と前記第4巻取部材との間に配置されていることを特徴とする、[11]~[13]のいずれかに記載のカーボンナノチューブ回収装置。
[15]前記第1回転体の回転軸と前記第2回転体の回転軸との間に、前記開口部の中心線が位置し、
前記第3回転体の回転軸と前記第4回転体の回転軸との間に、前記開口部の中心線が位置し、
前記第3巻取部材と前記第4巻取部材との間隔は、前記第1巻取部材と前記第2巻取部材との間隔よりも広いことを特徴とする、[14]に記載のカーボンナノチューブ回収装置。
[16]カーボンナノチューブを生成する生成装置と、
[1]~[15]のいずれかに記載のカーボンナノチューブ回収装置と、を有することを特徴とする、カーボンナノチューブの製造装置。
[17] [1]または[2]に記載のカーボンナノチューブ回収装置を用いたカーボンナノチューブの回収方法であって、
前記カーボンナノチューブ回収装置の前記開口部を通過したカーボンナノチューブを前記巻取部材で巻き取り、カーボンナノチューブ巻回体を形成する形成工程と、
前記巻取部材の基端側から先端側に向かって前記カーボンナノチューブ巻回体を移動させて該カーボンナノチューブ巻回体を前記巻取部材から分離させる分離工程と、を有し、
前記形成工程と、前記分離工程とを繰り返し行い、複数の前記カーボンナノチューブ巻回体を形成した後、前記カーボンナノチューブ回収装置から前記カーボンナノチューブ巻回体を回収することを特徴とする、カーボンナノチューブの回収方法。
[18]前記分離工程において、前記巻取部材を前記回収室から引き抜く方向に移動させることで、前記カーボンナノチューブ巻回体を前記巻取部材から分離させることを特徴とする、[17]に記載のカーボンナノチューブの回収方法。
[19]前記分離工程において、前記巻取部材の基端側から先端側に向かって前記カーボンナノチューブ巻回体を押し出すことで、前記カーボンナノチューブ巻回体を前記巻取部材から分離させることを特徴とする、[17]に記載のカーボンナノチューブの回収方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、カーボンナノチューブの量産製造時において、所望量のカーボンナノチューブを製造するまでの製造時間を短縮することが可能なカーボンナノチューブ回収装置およびカーボンナノチューブの製造装置ならびにカーボンナノチューブの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の第1実施形態に係るカーボンナノチューブ製造装置の概略構成を示す説明図である。
【
図2】巻取部材周辺の概略構成を示す斜視図である。
【
図5】押出部材が押出位置に移動した状態を示す図である。
【
図7】ガイド部材の固定位置の一例を示す図である。
【
図8】ガイド部材の固定位置の一例を示す図である。
【
図9】カーボンナノチューブ巻回体の分離動作を示す図である。
【
図10】カーボンナノチューブの量産製造時のサイクルフローの一例を示す図である。
【
図11】第2実施形態に係る分離機構の概略構成を示す説明図である。
【
図14】巻取部材が引抜位置に移動した状態を示す図である。
【
図15】第3実施形態に係る分離機構の概略構成を示す説明図である。
【
図18】ローラーで構成された巻取部材を複数設けた場合の巻取部材の配置例1について説明するための図である。
【
図19】
図18の回収室を上方から見た各巻取部材と回転体の配置を模式的に示した図である。
【
図20】ローラーで構成された巻取部材を複数設けた場合の巻取部材の配置例2について説明するための図である。
【
図21】
図20の回収室を上方から見た巻取部材と回転体の配置を模式的に示した図である。
【
図22】
図21の回収室を下方から見た巻取部材と回転体の配置を模式的に示した図である。
【
図23】開口部を通過したキャリアガスの流れとカーボンナノチューブの状態を説明するための図である。
【
図24】
図20に示した巻取部材でカーボンナノチューブを巻き取った状態を示す図である。
【
図25】反応管が回収室の側面部に設置された場合のキャリアガスの流れとカーボンナノチューブの状態を説明するための図である。
【
図26】反応管が回収室の側面部に設置された場合における開口部の出側領域を示す図である。
【
図27】ローラーで構成された巻取部材を複数設けた場合の巻取部材の配置例3について説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能構成を有する要素においては、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0012】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係るカーボンナノチューブ(以下、「CNT」と称す場合もある)を製造するCNT製造装置1の概略構成を示す説明図である。
図2は、巻取部材42周辺の概略構成を示す斜視図である。
図3は、
図2の巻取部材42の拡大図である。
図4は、
図1の矢印Aの方向から見た図である。なお、
図4では後述のカバー部材60を図示していない。
【0013】
図1に示すように、CNT製造装置1は、CNTを生成するCNT生成装置2と、CNT生成装置2の下端部に設けられたCNTを回収するCNT回収装置3を有している。以下の説明では、CNT生成装置2を「生成装置2」と称し、CNT回収装置3を「回収装置3」と称す場合もある。
【0014】
図中の“X方向”は回収装置3の奥行き方向であり、“Y方向”は回収装置3の幅方向であり、“Z方向”は回収装置3の高さ方向である。各方向X~Zは互いに垂直な方向である。なお、CNT製造装置1の構造は図面に示す構造に限定されないため、CNT製造装置1の構造によってはZ方向が高さ方向とならない場合もある。また、本明細書におけるCNTは、チューブ状の炭素同素体(典型的には、グラファイト構造の円筒型構造物)であり、いわゆる単層CNT、多層CNT、あるいはチューブ先端が角状のカーボンナノホーンを含むものである。
【0015】
<カーボンナノチューブ生成装置>
生成装置2の装置構成は、CNTを生成可能であれば特に限定されない。例えば特許文献1や特許文献2のように炭素を含む原料ガスを熱分解させてCNTを生成する化学気相成長法(すなわちCVD法)を用いた装置を生成装置2として適用することができる。
【0016】
図1に示す生成装置2は、反応管21と、反応管21の側方に設けられたヒータ22と、炭素源となるガスや触媒金属または触媒金属化合物などの原料を反応管21に供給する原料供給口23を有している。
【0017】
反応管21の形状は限定されないが、例えば直管状(すなわち、軸が直線状に延びる形状)であることが好ましい。また、反応管21の断面形状は、円形、楕円形、卵型、長円形等の丸みを帯びた形状、あるいは多角形状であってもよい。ヒータ22の形状や加熱方式は、反応管21をCNTの生成に適した温度に加熱可能であれば特に限定されない。例えばヒータ22は、反応管21を好ましくは500℃~2000℃、さらに好ましくは1000℃~1600℃に加熱可能であればよい。例えば反応管21を500℃~2000℃に加熱可能なタングステンヒータまたは600~1600℃に加熱可能な炭化珪素ヒータ(SiCヒータ)がヒータ22として用いられる。
【0018】
<カーボンナノチューブ回収装置>
回収装置3は、CNTを回収するための回収室30と、CNTを巻き取る巻取機構40と、CNT巻回体Rを分離させる分離機構50を有している。
【0019】
回収室30の形状は特に限定されないが、本実施形態における回収室30は、直方体状に形成されている。回収室30は、X方向に対して垂直な壁面である側面部30aと側面部30b、Y方向に対して垂直な壁面である側面部30c(図と側面部30d(
図4)、Z方向に対して垂直な壁面である天面部30eと底面部30fを有している。
【0020】
回収室30の天面部30eには、生成装置2の反応管21の下端に通じる開口部31が設けられている。反応管21で生成されたCNTは、原料ガスとともに開口部31を通じて回収室30内に運ばれる。回収室30は、後述する巻取部材42から分離されたCNT巻回体Rを複数個収容することが可能な体積を有している。
【0021】
CNTを巻き取るための巻取機構40は、回収室30の側面部30bに設けられている。巻取機構40は、回転体41と、巻取部材42と、駆動部43を有している。
【0022】
回転体41は、回収室30の側面部30bを貫くように設けられ、回転体41の一部は回収室30内に突出している。回転体41の形状は、例えば円柱状であることが好ましい。
【0023】
回転体41は、生成装置2の反応管21の軸線Lに対して垂直に延びるように配置されることが好ましい。なお、
図1に示した例では、軸線Lに対して垂直な方向の一例としてX方向に延びた回転体41が図示されているが、例えばY方向も軸線Lに垂直な方向であり、回転体41はY方向に延びていてもよい。また、軸線Lが鉛直方向に向いている場合、X方向およびY方向はいずれも鉛直方向に対して垂直な方向(すなわち水平方向)であるため、この場合におけるX方向またはY方向に延びた回転体41は、水平方向の延びていると言い換えることもできる。
【0024】
なお、反応管21は、軸線Lが水平方向に向くように配置される場合もある。例えば反応管21の軸線LがX方向を向いている場合、軸線Lに対して垂直な方向とは、例えばY方向やZ方向である。
【0025】
巻取部材42は、回転体41の軸方向に延伸する部材である。巻取部材42の基端は、回転体41の先端(回収室30側の端部)に取り付けられ、巻取部材42は、回転体41に対して片持ち梁状に支持されている。なお、巻取部材42の設置位置は特に限定されず、回収室30の開口部31を通過したCNTと接触可能な位置に設けられていればよい。
【0026】
図3に示すように、巻取部材42は、回転体41の周方向に沿って等間隔で3本配置されている。巻取部材42の本数はこれに限定されず、少なくとも1本であってもよいが、巻取部材42を複数本設けることで、開口部31を通過したCNTと巻取部材42の接触頻度を高めることができる。これにより、CNTが巻取部材42に絡みやすくなり、CNT巻回体Rの形成を容易にすることが可能となる。この効果を得る観点において、巻取部材42は2~6本であることが好ましい。より好ましくは、3本~4本である。
【0027】
なお、巻取部材42の形状は、例えば円錐状、多角錐状、円柱状、多角柱状など、CNT巻回体Rを形成可能な形状であれば特に限定されないが、巻取部材42を回転体41の回転中心に1本設ける場合、巻取部材42は円柱状であることが好ましい。これにより、ドーナツ型のロール状のCNT巻回体Rの内径を一定にすることができ、CNT巻回体Rを巻取部材42から分離させる際のCNT巻回体Rの内周面と巻取部材42の摩擦係数を低減することができる。
【0028】
駆動部43は、回収室30の外部に設けられている。駆動部43としては例えばモータなどが使用される。巻取部材42が取り付けられた回転体41は、その駆動部43に接続され、駆動部43によって回転体41が回転することで、巻取部材42も回転体41と一体となって回転する。回転体41の回転速度は、CNTの生成速度や所望のCNT巻回体Rの大きさに応じて適宜設定され、例えば0.01~500rpmに設定される。
【0029】
以上のように構成された巻取機構40によれば、生成装置2で生成されて開口部31を通過したCNTが、回転体41と一体となって回転する巻取部材42に接触する。そして、巻取部材42に接触したCNTは、回転体41の回転時における巻取部材42の軌道である仮想円に沿ってドーナツ型のロール状に巻取られ、CNT巻回体Rが形成される。
【0030】
図1および
図2に示すように、CNT巻回体Rを巻取部材42から分離させる分離機構50は、回収室30の側面部30bに設けられている。分離機構50は、CNT巻回体Rを押し出す押出部材51と、押出部材51に接続された駆動ロッド52と、駆動ロッド52をX方向に移動させるための駆動力を与える駆動部53を有している。駆動ロッド52の一部は、回収室30の側面部30bから回収室30内に突出するように配置されている。
【0031】
押出部材51は、巻取部材42の基端側に配置された、CNT巻回体Rに接触する分離部材の一例である。本実施形態における押出部材51は、平板状に形成され、X方向に対して垂直となる向きで回収室30内に配置されている。この押出部材51は、回転体41および巻取部材42が通過可能な開口部51a(
図4)を有している。この開口部51aが設けられていることによって、押出部材51がX方向に移動しても押出部材51は回転体41および巻取部材42と干渉しない。
【0032】
押出部材51の形状は特に限定されず、押出部材51が巻取部材42の基端側から先端側に向かって移動した際にCNT巻回体Rに接触可能な形状であればよい。例えば
図4に示す押出部材51は、回転体41や巻取部材42の外周を取り囲む形状であるが、押出部材51は、
図6に示すように回転体41や巻取部材42の外周の一部のみを覆う形状であってもよい。なお、
図6の例における押出部材51の開口部51aは、押出部材51の下端部に形成された半円状の切欠きである。
【0033】
押出部材51は、接触するCNT巻回体Rとの貼りつきを抑制するため、表面にテフロン(登録商標)コーティングが施されてもよい。
【0034】
駆動部53は、回収室30の外部に設けられている。駆動部53には、押出部材51が取り付けられた駆動ロッド52が接続され、駆動ロッド52は、駆動部53によって巻取部材42の回転軸方向(X方向)に沿って移動可能に構成されている。これにより、押出部材51は巻取部材42の先端に対して接近または離隔するように移動することができる。なお、駆動部53の構成は、押出部材51を巻取部材42の基端側から先端側に向かって移動させる駆動力が発生するものであれば特に限定されないが、駆動部53としては、例えば押出部材51を直線運動させるシリンダを用いることが好ましい。シリンダとしては例えばエアシリンダ、油圧シリンダや電動シリンダ等を用いることができる。
【0035】
以上、回収装置3の回収室30、巻取機構40および分離機構50について説明したが、
図1および
図2に示すように、回収室30内にはカバー部材60を設けてもよい。カバー部材60は、回収室30の側面部30bの内側に設けられており、回転体41および駆動ロッド52の軸方向(X方向)における一部領域を覆う形状を有している。このようなカバー部材60を設けることで、回転体41や駆動ロッド52へのCNTの付着を抑制することができ、メンテナンス作業が容易になる。
【0036】
また、回収室30内にはガイド部材70を設けてもよい。ガイド部材70は、開口部31を通過したCNTを巻取部材42に案内するための部材である。ガイド部材70の形状や構成は特に限定されないが、本実施形態においては一対の板状部材71、72(
図4)で構成されている。各板状部材71、72は、回収室30の開口部31側から巻取部材42側に向かう方向に延伸し、巻取部材42を側方から挟むように配置されている。このため、一対の板状部材71、72は、巻取部材42の回転軸方向(X方向)から見て、上端と下端が開口している。そして、板状部材71、72同士の間隔は、上端から下端にかけて変化しており、板状部材71、72の間隔は、回収室30の開口部31側から巻取部材42側に向かって狭くなっている。
【0037】
上記形状を有するガイド部材70によれば、回収室30内に流入するガスの気流を制御し、巻取部材42に向けて気流が流れるよう整流することが可能となる。これにより、気流の乱れに起因する開口部31付近へのCNTの付着を抑制することができ、反応管21の下端部における閉塞の発生を抑制することができる。さらに、上記形状を有するガイド部材70によれば、より多くのCNTを巻取部材42に案内することが可能となり、CNTの回収率を高めることができる。これらの作用効果を高める観点では、板状部材71、72の上端(開口部31側の端部)の間隔は、開口部31の径よりも大きいことが好ましい。
【0038】
また、ガイド部材70が一対の板状部材71、72で構成される場合、
図7および
図8に示すように、各板状部材71、72のY方向における固定位置は調節可能であることが好ましい。
図7および
図8に示す例では、板状部材71、72の側面部30b側の端面(紙面奥側の端面)に平板73が接合され、その平板73が所定の複数の固定箇所74のうちの少なくとも2箇所において例えばボルト固定されている。このような構成のガイド部材70によれば、所望のCNT巻回体Rの大きさに応じて板状部材71、72の間隔を調節することができる。なお、巻取部材42や押出部材51の形状は、各板状部材71、72の固定位置に応じて適宜変更されてもよい。
【0039】
本実施形態に係るCNT製造装置1は以上のように構成されている。なお、CNT製造装置1を構成する各部材の材質は、CNTの形成処理を阻害しない材質であれば特に限定されないが、例えばステンレス鋼が採用される。本実施形態の場合、例えばCNT生成装置2の原料供給口23や、CNT回収装置3の回収室30、開口部31、回転体41、巻取部材42、押出部材51、駆動ロッド52、カバー部材60、ガイド部材70(板状部材71、72および平板73)の材質としてステンレス鋼が採用され得る。また、CNT製造装置1を構成する各部材のうち、CNTが接触し得る部材にはテフロンコーティングが施されてもよい。本実施形態の場合、例えば巻取部材42、押出部材51、カバー部材60、ガイド部材70にテフロンコーティングが施されてもよい。
【0040】
次に、CNT製造装置1を用いたCNTの回収方法について説明する。
【0041】
(CNT巻回体の形成工程)
まず、生成装置2の反応管21で生成されたCNTは、回収装置3の回収室30に設けられた開口部31から、キャリアガスとともに回収室30内に移動する。ここで回収室30に導入されたCNTは、開口部31の下方に配置された巻取部材42に到達する。このとき、巻取部材42は回転体41の回転軸を中心として回転した状態にあり、巻取部材42に到達したCNTが巻取部材42に巻き取られることで、CNT巻回体Rが形成される。
【0042】
上記のCNT巻回体Rの形成工程において、CNT巻回体Rが所定の大きさに形成された後、CNT巻回体Rを巻取部材42から分離させる分離工程を行う。
【0043】
(CNT巻回体の分離工程)
分離工程を行うにあたり、CNT生成を継続した状態でCNT巻回体Rの分離を行ってもよいが、例えば反応管21の加熱を維持した状態で、反応管21への原料供給量を減少させてCNTの生成量を減少させるか、あるいは原料の供給自体を停止させてCNTの生成を一時停止してもよい。このようにCNTの生成量を減少、またはCNTの生成を一時停止させることで、巻取部材42によって巻き取られないCNTの量を低減することができる。また、巻取機構40が複数設けられている場合、例えば1基の巻取機構でCNT巻回体Rの形成を行い、この巻取機構からCNT巻回体Rを分離させる際に、CNTを巻き取るために使用する巻取機構を他の巻取機構に切り替えるようにしてもよい。これにより、CNT巻回体Rの分離作業中であっても、他の巻取機構でCNTの巻き取りを行うことができ、CNTの生成量を維持しやすくなる。
【0044】
図9(A)に示すように、分離工程の開始時点において、押出部材51はCNT巻回体Rに接触しない位置(初期位置)にある。なお、押出部材51の初期位置は、巻取部材42の基端よりも回転体41側に位置していることが好ましい。これにより、CNT巻回体Rの形成工程において、CNTが押出部材51に付着しにくくなるため、CNT巻回体Rをロール状に形成しやすくなる。
【0045】
初期位置にある押出部材51は、その後、
図9(B)に示すように巻取部材42の先端側に向かって前進する。これにより、押出部材51とCNT巻回体Rが接触する。
【0046】
そして、
図9(C)に示すように、押出部材51と巻取部材42が接触した状態で、さらに押出部材51が前進して押出位置まで移動する。これにより、CNT巻回体Rの内周面が巻取部材42で支持されない状態となり、CNT巻回体Rが巻取部材42から脱落する。なお、押出部材51の押出位置は、巻取部材42の先端からCNT巻回体Rを脱落させることが可能な位置であればよい。
【0047】
押出部材51が以上のように動作することで、CNT巻回体Rが巻取部材42から分離する。その後、押出部材51が押出位置から
図9(A)に示す初期位置に後退することで分離工程が終了する。
【0048】
分離工程の終了後、CNT巻回体Rの形成工程を再度実施する。このようにしてCNT巻回体Rの形成工程と分離工程を繰り返し行うことで、回収室30の底部に複数個のCNT巻回体Rが貯まり、回収室30内に一時的に保管される。
【0049】
以上のように、本実施形態に係るCNT回収装置3によれば、巻取部材42によって形成されたCNT巻回体Rを、分離機構50によって巻取部材42から分離させることができる。これに伴い、分離させたCNT巻回体Rを回収室30内に一時的に保管することができるため、CNT巻回体Rを形成する度にCNT巻回体Rを回収しなくても、次のCNT巻回体Rの形成と分離を繰り返し行うことができる。そして、回収室30内に一時保管された各CNT巻回体Rは、所定のタイミングでまとめて回収することができる。
【0050】
CNTを量産製造する際に上記のような回収装置3を用いると、例えば
図10に示すサイクルフローに沿ってCNT巻回体Rを製造することができる。なお、
図10には、1つのCNT巻回体Rを形成する毎にCNT巻回体Rの回収が必要な従来構造の回収装置のサイクルフローも図示している。
図10に示すように、従来の回収装置の場合、1つのCNT巻回体Rを形成する毎にそのCNT巻回体Rを回収する必要があるため、1サイクルでCNT巻回体Rを1つしか製造できない。一方、本実施形態における回収装置3によれば、分離機構50が設けられていることにより、1サイクルの間に複数のCNT巻回体Rの形成と分離を繰り返し行うことができる。このため、従来の回収装置と比較して1サイクルあたりのCNT巻回体Rの生産量を増加させることができる。これにより、CNTを量産製造する場合において、所望量のカーボンナノチューブを製造するまでの製造時間を短縮することが可能となる。
【0051】
(第2実施形態)
上記の第1実施形態では、押出部材51によってCNT巻回体Rを巻取部材42の先端側に押し出すことで巻取部材42とCNT巻回体Rを分離していた。一方、第2実施形態では、巻取部材42を回収室30の外側に引き抜くことで、CNT巻回体Rを巻取部材42の基端側から先端側に向かって移動させて分離させる。以下、
図11~
図14を参照しながら第2実施形態について説明する。
【0052】
図11は、第2実施形態に係る分離機構50の概略構成を示す説明図である。
図12は、
図11の巻取機構40の周辺を上方から見た図である。
図13は、
図11の矢印Bの方向から見た図である。
図14は、巻取部材42が引抜位置に移動した状態を示す図である。
【0053】
図11に示すように、回収室30の天面部30eには、第1実施形態と同様に生成装置2の反応管21の下端に通じる開口部31が設けられ、反応管21で生成されたCNTは開口部31を通じて回収室30内に運ばれる。本実施形態においても巻取部材42の形状は特に限定されないが、
図11に示す例では、巻取部材42が一つの円柱状または円筒状の部材(すなわちローラー)で構成されている。回転体41の一端には巻取部材42が接続され、回転体41の他端には駆動部43が接続されている。また、回転体41の回転軸は、鉛直方向に延びた軸線L(
図1)に垂直な方向として水平方向に向いている。
【0054】
本実施形態における分離機構50は、上記の回転体41、巻取部材42および駆動部43を回収室30の内側から外側に向かう方向に移動させる機構である。換言すると、分離機構50は、巻取部材42を回収室30から引き抜く方向に移動させることが可能な機構であり、この分離機構50によって巻取部材42の先端側から基端側に向かって巻取部材42を移動させることができる。そのような機構の一例として、本実施形態においては回収室30の外部にシリンダ機構54が設けられている。巻取部材42は、そのシリンダ機構54の伸縮動作によって、
図11に示すCNTを巻き取る位置(巻取位置)から、
図14に示すCNT巻回体Rを巻取部材42から分離させる位置(引抜位置)の間を移動することができる。すなわち、巻取部材42は回収室30の側面部30bに対して接近または離隔するように移動することができる。
【0055】
上記構成の回収装置3によれば、巻取位置にある巻取部材42によってCNT巻回体Rを形成した後、巻取部材42を
図14に示す引抜位置まで後退させることで、CNT巻回体Rが回収室30の側面部30bの内面に接触する。そして、CNT巻回体Rが側面部30bの内面に接触した状態で、さらに巻取部材42を後退させることによって、CNT巻回体Rの内周面が巻取部材42で支持されない状態となり、CNT巻回体Rが巻取部材42から脱落する。これにより、CNT巻回体Rと巻取部材42が分離する。その後、巻取部材42が引抜位置から巻取位置に前進し、次のCNT巻回体Rを形成するためのCNTの巻き取りが開始される。
【0056】
このように第2実施形態における回収装置3においても、分離機構50によって巻取部材42からCNT巻回体Rを分離させることができる。このため、第1実施形態と同様に、CNTの量産製造時においては、1サイクルで製造可能なCNT巻回体Rの生産量を従前よりも増加させることができ、所望量のカーボンナノチューブを製造するまでの製造時間を短縮することが可能となる。
【0057】
また、第2実施形態のように巻取部材42を回収室30から引き抜く方向に移動させてCNT巻回体Rを分離させる回収装置3によれば、第1実施形態のような押出部材51を用いてCNT巻回体Rを分離させる場合よりも、所望量のカーボンナノチューブを製造するまでの製造時間を短縮することができる。
【0058】
なお、第1実施形態における分離部材は押出部材51であったが、第2実施形態では、回収室30の側面部30bがCNT巻回体Rに接触することから、第2実施形態における巻取部材42の基端側に配置された分離部材は、回収室30の側面部30bである。また、回収室30の側面部30bの内面には、例えばテフロンコーティングが施された板状部材(図示せず)が設けられてもよい。そのような板状部材が設けられている場合には、巻取部材42を巻取位置から引抜位置に後退させてCNT巻回体Rを分離させる際に、側面部30bの内面にCNTが付着しにくくなる。この場合の巻取部材42の基端側に配置された分離部材は、テフロンコーティングが施された板状部材である。
【0059】
本実施形態におけるCNT巻回体Rの分離工程の説明は以上の通りであるが、CNTを効率的に回収する観点においては、
図12および
図13に示すように、回収装置3に圧縮部材44を設けることが好ましい。圧縮部材44は、CNT巻回体Rを圧縮してCNT巻回体Rの密度を高めるための部材であり、例えばステンレス鋼で形成される。圧縮部材44は、巻取部材42の回転軸方向(X方向)に延伸する形状(例えば円柱状)であり、
図13に示すように、巻取部材42の回転軸方向(X方向)から見て、巻取部材42の側方に配置されている。
【0060】
このような圧縮部材44が設けられている場合、CNT巻回体Rの形成工程において、CNTの巻き取りが進むことでCNT巻回体Rの外径が大きくなると、CNT巻回体Rの外周面と圧縮部材44の外周面が接触する。そして、この状態でさらにCNTの巻き取りが進むと、CNT巻回体Rの外周面が常に圧縮部材44に接触し続けることになり、CNT巻回体Rの外径がそれ以上大きくならずに維持される。一方、CNT巻回体Rがそのような状態であっても、巻取部材42へのCNTの供給が続き、CNTの巻き取りが継続される。このため、CNT巻回体Rと圧縮部材44との接触部においては、CNTがCNT巻回体Rの外周面から中心部に向かって押し込まれる力が生じ、CNT巻回体Rが圧縮される。このようにCNT巻回体Rが圧縮されることで、CNT巻回体Rの密度が大きくなり、CNT巻回体Rの回収一回あたりのCNTの回収量を増加させることができる。またCNT巻回体Rが圧縮されることで、回収室30の容積をコンパクトにすることができ、省スペース化によるスペース生産性の向上が可能となる。
【0061】
また、圧縮部材44は、例えばベアリングで支持されることによって、CNT巻回体Rと接触した際に回転するように構成されていることが好ましい。そのような構成であれば、CNT巻回体Rが圧縮部材44に接触した際に圧縮部材44が回転するため、CNT巻回体Rの回転抵抗が軽減され、CNT巻回体Rがロール状に形成されやすくなる。
【0062】
また、圧縮部材44は、巻取部材42と同様に、回収室30から引き抜く方向に移動可能に構成されていることが好ましい。これにより、圧縮部材44に付着したCNTを圧縮部材44から脱落させて、CNTの回収量を増加させることができる。
【0063】
(第3実施形態)
上記の第2実施形態では、圧縮部材44がCNT巻回体Rと接触することで従動回転する構成例を説明したが、第3実施形態では、圧縮部材44がCNT巻回体Rとの接触の有無によらず自転する構成例について説明する。以下、
図15~
図17を参照しながら第3実施形態について説明する。
【0064】
図15は、第3実施形態に係る分離機構50の概略構成を示す説明図である。
図16は、
図15の巻取機構40の周辺を上方から見た図である。
図17は、
図15の矢印Cの方向から見た図である。
【0065】
図15に示すように、回収室30の天面部30eには、第2実施形態と同様に生成装置2の反応管21の下端に通じる開口部31が設けられ、反応管21で生成されたCNTは開口部31を通じて回収室30内に運ばれる。第3実施形態においても、第2実施形態と同様に巻取部材42を回収室30の外側に引き抜き、CNT巻回体Rを巻取部材42の基端側から先端側に向かって移動させることでCNT巻回体Rを分離させる。このため、第2実施形態における回収装置3と同様、CNTの量産製造時においては第1実施形態のような押出部材51を用いた回収装置3よりも、所望量のカーボンナノチューブを製造するまでの製造時間を短縮することができる。
【0066】
図16に示すように、本実施形態における圧縮部材44には、巻取部材42と同様に回転体45が接続されている。これらの回転体45と回転体41の回転軸は、鉛直方向に延びた軸線L(
図1)に垂直な方向として水平方向に向いている。また、回転体45と回転体41は、複数の歯車46を介して連結され、駆動部43により回転体41が回転した際には、回転体45と回転体41が互いに逆方向に回転するように構成されている。すなわち、圧縮部材44と巻取部材42は互いに逆方向に回転するように構成されている。
【0067】
具体的には、回転体41の回転軸方向(X方向)を回収室30の内方から見た
図17に示すように、圧縮部材44は、時計回りに回転し、巻取部材42は、反時計回りに回転することが好ましい。これにより、開口部31から下方に向かうCNTの流れに逆らわずに、そのCNTを巻き取ることができる。このため、開口部31と巻取部材42の間に生じ得るCNTの滞留を抑制でき、これにより、CNTの巻き取りをより長い時間継続することができる。なお、回転体45の材質としては例えばステンレス鋼が採用され、歯車46の材質としては例えば炭素鋼が採用される。
【0068】
上記のように圧縮部材44が自転する構成の回収装置3によれば、圧縮部材44が第2実施形態のように従動回転する場合に比べ、CNT巻回体Rの回転抵抗がさらに軽減され、CNT巻回体Rをロール状に形成しやすくなる。
【0069】
なお、本実施形態では、駆動部43の駆動力を複数の歯車46を用いることによって、圧縮部材44が接続された回転体45に伝達していたが、回転体45専用の他の駆動部(図示せず)が設けられてもよい。
【0070】
以上で説明した第1~第3実施形態に係る回収装置3の構成は、巻取部材42とCNT巻回体Rを分離させる機能を阻害しない範囲で組み合わせることができる。例えば第1~第3実施形態では、巻取部材42の先端と分離部材が相対的に接近するように、巻取部材42または分離部材のいずれかを移動させる回収装置3について説明したが、巻取部材42と分離部材の両方を移動させて巻取部材42の先端と分離部材を相対的に接近させてもよい。例えば第1実施形態では、CNT巻回体Rを分離させる際に分離部材の一例である押出部材51を巻取部材42の基端側から先端側に向かって移動させているが、その際に第2~第3実施形態のように巻取部材42を回収室30から引き抜く方向に移動させてもよい。このように巻取部材42と分離部材の両方を移動させる構成であれば、CNT巻回体Rの分離をより短時間で行うことができる。
【0071】
また例えば第1実施形態においては、ガイド部材70に代えて、第2~第3実施形態における圧縮部材44を適用してもよい。また例えば、第2~第3実施形態においては、圧縮部材44に代えて、第1実施形態におけるガイド部材70を適用してもよい。
【0072】
次に、円柱状または円筒状のローラーで構成された複数の巻取部材42を設けた場合の各巻取部材42の配置例について説明する。なお、前述の第1~第3実施形態に係る分離機構50は、以下で説明する巻取部材42に対しても適用可能である。以下の例では、第2実施形態で説明した巻取部材42を引き抜くタイプの分離機構50が適用されているが、以下の説明で参照する図面では分離機構50の図示は省略されている。
【0073】
(配置例1)
まず、配置例1について説明する。
図18は、各巻取部材42a、42bの配置例1について説明するための図である。
図19は、
図18の回収室30を上方から見た巻取部材42a、42bと回転体41a、41bの配置を模式的に示した図であり、本図ではCNT巻回体Rの図示を省略している。
【0074】
図18及び
図19に示すように、本配置例では、回収室30の開口部31の下方に2つの巻取部材42a、42bが設けられている。また、それらの巻取部材42a、42bに対応する2つの回転体41a、41bが設けられており、第1巻取部材42aの基端は、第1回転体41aに取り付けられ、第2巻取部材42bの基端は、第2回転体41bに取り付けられている。
【0075】
第1回転体41aの回転軸D
1と第2回転体41bの回転軸D
2は、それぞれ開口部31の中心線Eに対して垂直な方向であって、かつ、水平方向(
図18の例ではX方向)に向いている。「開口部の中心線E」とは、開口部31の中心を通り、かつ、開口面に対して垂直な方向に延びた直線(
図18の例では鉛直線)である。開口部31の中心とは、開口部31の形状の重心である。具体的には、例えば開口部31の形状が
図19の二点鎖線で示すように円形である場合には、円の中心が開口部31の中心であり、開口部31の形状が四角形である場合には、対角線の交点が開口部31の中心である。
【0076】
なお、本明細書で例示したCNT製造装置1では、開口部31の中心線Eと
図1に示した軸線Lが同一直線上に位置する。
【0077】
第1巻取部材42aは、第1回転体41aの回転軸D
1を中心として回転し、第2巻取部材42bは、第2回転体41bの回転軸D
2を中心として回転する。第1回転体41aと第2回転体41bは、互いに間隔を空けて配置されており、
図18に示すように、その間隔は、第1巻取部材42aに巻き取られたCNT巻回体Rと、第2巻取部材42bに巻き取られた他のCNT巻回体Rとが互いに接触可能となる長さである。
【0078】
このような間隔で回転体41a、41b及び巻取部材42a、42bが配置されていることによって、2つのうちの一方のCNT巻回体Rが他方のCNT巻回体Rを互いに圧縮し合う状態となる。これによって、2つのCNT巻回体Rの各々の外径の大きさが制限されるため、CNTの巻き取りをより長い時間継続することができる。その結果、CNT巻回体Rの回収を一回行うあたりのCNTの回収量を増加させることができる。
【0079】
なお、
図18に示した例では、第1巻取部材42aと第2巻取部材42bを左右に並べて配置したが、上下に並べて配置してもよいし、左上と右下あるいは左下と右上のように斜めに並べて配置してもよい。このような配置であっても、各巻取部材42a、42bで巻き取られたCNT巻回体R同士が互いに接触するように各巻取部材42a、42bを配置すれば、2つのCNT巻回体Rが互いに圧縮し合う状態とすることができる。
【0080】
また、第1回転体41aの回転軸D
1方向から見たときの横方向(
図18の例ではY方向)を回収室30の幅方向と定義したときに、幅方向における第1回転体41aの回転軸D
1の位置と、幅方向における第2回転体41bの回転軸D
2の位置は、互いに異なることが好ましい。換言すると、第1回転体41aの回転軸D
1の位置と第2回転体41bの回転軸D
2の位置は、幅方向において一致していないことが好ましい。これによって、開口部31を通過したCNTが、2つの巻取部材42a、42bのいずれかに接触し易くなり、巻き取られないCNTの量を低減することが可能となる。
【0081】
なお、上述した回収室30の幅方向は、第1回転体41aの回転軸D1方向から見たときの開口部31の中心線Eに対して垂直な方向と言い換えることもできる。
【0082】
図18に示すように、第1回転体41aの回転軸D
1と第2回転体41bの回転軸D
2との間には、開口部31の中心線Eが位置することが好ましい。第1回転体41aの回転軸D
1と第2回転体41bの回転軸D
2が、開口部31の中心線Eを間に挟んで配置されていることによって、2つの巻取部材42a、42bのいずれかに接触する可能性を高めることができ、巻き取られないCNTの量をさらに低減できる。
【0083】
なお、以上で説明した巻取部材42a、42bの配置例1においては、巻取部材42を2つのみを設けているが、3つ以上設けてもよい。その場合であっても、各々の巻取部材同士の間隔(換言すれば、各々の回転体同士の間隔)を適切な間隔に設定すれば、上述したようなCNT巻回体同士が圧縮し合う効果が得られる。この効果を高める観点では、隣り合う巻取部材同士の間隔d
rは、幅方向(
図18の例ではY方向)における開口部31の長さ(幅W)の0.1~0.9倍の長さであることが好ましい。
【0084】
(配置例2)
次に、巻取部材42の配置例2について説明する。以下の説明においては、配置例1と同様の説明となる内容について説明を省略する場合がある。
【0085】
図20は、巻取部材42a~42dの配置例2について説明するための図である。
図21は、
図20の回収室30を上方から見た巻取部材42a、42bと回転体41a、41bの配置を模式的に示した図である。
図22は、
図21の回収室を下方から見た巻取部材42c、42dと回転体41c、41dの配置を模式的に示した図である。
【0086】
図20~
図22に示すように、本配置例では、4つの回転体41a~41dと、4つの巻取部材42a~42dが設けられている。そして、第1巻取部材42aの基端は、第1回転体41aに取り付けられ、第2巻取部材42bの基端は、第2回転体41bに取り付けられている。また、第3巻取部材42cの基端は、第3回転体41cに取り付けられ、第4巻取部材42dの基端は、第4回転体41dに取り付けられている。
【0087】
第1回転体41aの回転軸D1、第2回転体41bの回転軸D2、第3回転体41cの回転軸D3、第4回転体41dの回転軸D4は、いずれも水平方向に向いている。また、第1回転体41aの回転軸D1と第2回転体41bの回転軸D2は、開口部31の中心線Eを間に挟んで配置され、第3回転体41cの回転軸D3と第4回転体41dの回転軸D4もまた、開口部31の中心線Eを間に挟んで配置されている。
【0088】
加えて、第3回転体41c及び第3巻取部材42cは、第1回転体41a及び第1巻取部材42aの下方に位置し、第3回転体41cの回転軸D3と第1回転体41aの回転軸D1の幅方向(Y方向)における位置は、互いに一致している。同様に、第4回転体41d及び第4巻取部材42dは、第2回転体41b及び第2巻取部材42bの下方に位置し、第4回転体41dの回転軸D4と第2回転体41bの回転軸D2の幅方向(Y方向)における位置は、互いに一致している。
【0089】
換言すると、第1巻取部材42aは、開口部31が設けられた回収室30の壁面30eと、第3巻取部材42cとの間に位置し、第2巻取部材42bは、その壁面30eと、第4巻取部材42dとの間に位置している。
【0090】
第1巻取部材42aと第3巻取部材42cの回転方向は、逆方向であることが好ましく、具体的には、第1回転体41aの回転軸D1方向(X方向)を回収室30の内方から見たときに、第1巻取部材42aが、時計回りに回転し、第3巻取部材42cが、反時計回りに回転することが好ましい。これにより、開口部31を通過したCNTの流れに逆らわずにCNTを巻き取ることができる。同様の理由によって、第2回転体41bの回転軸D1方向(X方向)を回収室30の内方から見たときに、第2巻取部材42bは、反時計回りに回転し、第4巻取部材42dは、時計回りに回転することが好ましい。
【0091】
そして、
図20に示すように、各々の巻取部材42a~42dは、いずれも開口部31の出側領域32(
図20の斜線部領域)には配置されていない。出側領域32とは、開口部31の中心線Eに沿って当該開口部31から回収室30の内方に向かって延びた領域であると定義される。この出側領域32において、第1回転体41aの回転軸D
1から見たときの開口部31の中心線Eに垂直な方向(
図20の例ではY方向)の長さを出側領域32の幅としたとき、この幅は、同方向における開口部31の長さ(幅W)と同じ長さである。換言すると、中心線Eに対して垂直に切断された出側領域32の断面積と、開口部31における開口面積は互いに等しい。
【0092】
ここで、開口部31を通過したキャリアガスの流れとCNTの状態について説明する。
図23は、その説明を行うための図であり、キャリアガスは点線矢印で図示されている。まず、開口部31から回収室30内に流入するキャリアガスは、主に開口部31の下方に向かって流れる。
【0093】
前述の
図18に示した配置例1のように、開口部31の下方に複数の巻取部材42a、42bが幅方向に並んで配置される場合には、各巻取部材42a、42bにCNT巻回体Rが形成されることによって、開口部31の下方においてキャリアガスの流路が狭まる。このため、巻取部材42a、42bによるCNTの巻き取りが進むにつれて、開口部31と巻取部材42a、42bとの間では、キャリアガスが下方に流れ難くなり、X-Y平面と平行な方向に流れ易くなる。
【0094】
この際、キャリアガスの流量や開口部31の面積、CNTの生成条件等によっては、X-Y平面内を流れるキャリアガスの影響を受けて、開口部31を通過したCNTもX-Y平面内を流れて、CNTが巻取部材42a、42bに接触し難くなる場合がある。したがって、巻取部材42a、42bが
図18のように配置される場合には、CNTが巻き取られない状態を生じることを避けるために、CNTの巻き取りを一定時間実施した後に、CNT巻回体Rが回収される。
【0095】
一方、
図23に示した配置例2のように、開口部31の下方領域に巻取部材42a~42dが配置されていない場合には、開口部31から下方に向かうキャリガスの流れが阻害されないため、キャリアガスの流れる方向が安定し易い。
【0096】
また、開口部31から排出されるキャリアガスは、流路が制限された開口部31から、その流路と比較して広大な空間である回収室30内に流入するため、キャリガスは、開口部31から放射状に拡散するように回収室30内に放出される。このため、開口部31から排出されるキャリアガスは、開口部31の下方のみならず、斜め方向にも流れる。これにより、紐状に生成されたCNTは、斜め方向に流れるキャリアガスの影響を受けて、開口部31から斜め方向に排出され易い。
【0097】
例えば開口部31を通過したCNTは、回収室30の幅方向(Y方向)において左右に振られるように動くため、CNTの生成中は、CNTが開口部31の左斜め下方向に排出される状態や、右斜め下方向に排出される状態が発生する。
【0098】
配置例2においては、開口部31の出側領域32に巻取部材42a~42dが配置されていないが、上述のように開口部31から斜め方向にCNTが排出された際に、巻取部材42a~42dのいずれかにCNTが接触することになるため、
図24に示すように、CNTを巻き取ることができる。
【0099】
なお、
図20に示したように、巻取部材42a~42dが開口部31の出側領域32に配置されている場合、幅方向(Y方向)における第1巻取部材42aと開口部31の周縁との間隔dは、開口部31の幅Wの0.15~0.65倍の長さであることが好ましい。これにより、開口部31を通過するCNTが第1巻取部材42aに接触し易くなる。また、第2巻取部材42bと開口部31の周縁との間隔も同様の間隔にすることが好ましい。
【0100】
以上説明したように、巻取部材42a~42dの配置例2によれば、開口部31の出側領域32におけるキャリアガスの流れを阻害せずに、巻取部材42a~42dによるCNTの巻き取りを行うことができる。これにより、配置例1と比較してCNT巻回体Rの回収頻度を少なくすることができ、CNTの巻き取りをさらに長時間継続することができる。これによって、CNT巻回体Rの回収を一回行うあたりのCNTの回収量を増加させることができる。
【0101】
また、
図24に示すように、開口部31の周縁には、微細なCNTが付着することがあり、そのCNTが付着した箇所に他の微細なCNTがさらに付着して堆積することによって、CNTの膜が形成されることがある。そのようなCNT膜が成長して拡大すると、CNT膜に点在する隙間からキャリアガスが噴出することによってCNTが塵状に飛散する場合がある。塵状に飛散したCNTは、巻取部材42a~42dに接触しないことがあり、飛散したCNTについては回収できないこともある。
【0102】
一方、巻取部材42a~42dが開口部31の出側領域32(
図20)の外側に配置されている場合には、開口部31の周縁におけるCNT膜が拡大した際に、第1巻取部材42aまたは第2巻取部材42bによって、そのCNT膜を巻き取ることができる。すなわち、巻取部材42a~42dの配置例2においては、開口部31の周縁からCNT膜を剥ぎ取り易くなるという利点もある。
【0103】
なお、第3巻取部材42cは、第1巻取部材42aで巻き取られたCNT巻回体Rと第3巻取部材42cで巻き取られたCNT巻回体Rとが接触可能となる位置に配置されることが好ましい。これにより、2つのCNT巻回体R同士が互いに圧縮し合う状態とすることができ、第1巻取部材42aで形成されるCNT巻回体Rの外径の大きさを制限できる。
【0104】
このため、第1巻取部材42aのCNT巻回体Rの外縁が開口部31の出側領域32に侵入しないように、そのCNT巻回体Rを圧縮可能な位置に第3巻取部材42cを配置すれば、開口部31の出側領域32でキャリアガスの流れが阻害されない状態をより長い時間維持できる。その結果、CNTの巻き取りをさらに長い時間継続することができる。
【0105】
同様の理由によって、第4巻取部材42dは、第2巻取部材42bで巻き取られたCNT巻回体Rと第4巻取部材42dで巻き取られたCNT巻回体Rとが接触可能となる位置に配置されることが好ましい。
【0106】
ところで、開口部31の出側領域32におけるキャリアガスの流れを阻害しないという観点では、第3巻取部材42cと第4巻取部材42dを設けることは必須ではない。ただし、これらの巻取部材42c、42dを設けることによって、開口部31を通過したCNTと巻取部材との接触機会を増やすことができ、CNTの回収量を増加させることができる。
【0107】
なお、CNT製造装置1(
図1)の反応管21は、
図25及び
図26に示すように、例えば回収室30の天面部30eではなく、側面部30cに配置される場合もある。この場合における開口部31の出側領域32は、当該開口部31の側方に形成される。また、
図25及び
図26に示す例においても、各回転軸D
1~D
4が開口部31の中心線Eに対して垂直な方向であって、かつ、水平方向に向いている。
【0108】
このように回収室30に対して反応管21が水平に接続されている場合であっても、CNTは軽量であるために、開口部31から排出されるCNTは、開口部31から放射状に拡散するように回収室30内に放出される。このため、巻取部材が出側領域32の上方に配置されている場合であっても、その巻取部材によってCNTを巻き取ることは可能である。
【0109】
したがって、反応管21が回収室30に対して鉛直方向ではなく水平方向に接続されている場合であっても、上述した配置例1~2または以下の配置例3のような巻取部材の配置を応用することによって、配置例1~3と同様の有利な効果を得ることができる。
【0110】
(配置例3)
次に、巻取部材42の配置例3について説明する。以下の説明においては、配置例1又は配置例2と同様の説明となる内容について説明を省略する場合がある。
【0111】
図27に示すように、配置例3では、配置例2に対して第3巻取部材42cと第4巻取部材42dの設置位置が異なっており、第3巻取部材42cと第4巻取部材42dとの間隔が、第1巻取部材42aと第2巻取部材42bの間隔よりも広い。
【0112】
換言すると、第1回転体41aの回転軸D1は、開口部31の中心線Eと第3回転体41cの回転軸D3との間に位置し、第2回転体41bの回転軸D2は、開口部31の中心線Eと第4回転体41dの回転軸D4との間に位置している。巻取部材42a~42dをこのように配置することが好ましい理由は、以下の通りである。
【0113】
CNTの生成条件によっては、開口部31から排出されるCNTの密度が小さくなる場合があるが、その場合、第1巻取部材42aと第2巻取部材42bの回転によって生じる雰囲気の乱流によってCNTが浮遊することがある。この浮遊したCNTの一部は、第1巻取部材42aと第2巻取部材42bに接触せずに、それらの巻取部材42a、42bの幅方向外側から回収室30の底部に落下する。
【0114】
一方、
図27のように、第1巻取部材42aと第2巻取部材42bの幅方向外側に、第3巻取部材42cと第4巻取部材42dを配置しておけば、巻取部材42a、42bで回収しきれない浮遊したCNTを、巻取部材42c、42dで回収することができる。なお、浮遊したCNTの回収効果を高める観点では、第1巻取部材42aと第2巻取部材42bの間隔d
r1と、第3巻取部材42cと第4巻取部材42dとの間隔d
r2は、d
r1:d
r2=1:1.1~3.0を満たすことが好ましい。
【0115】
以上、ローラーで構成された複数の巻取部材42を設けた場合の配置例1~3について説明した。
【0116】
なお、いずれの配置例においても、各回転体が全て駆動軸として機能する必要はない。例えば第1回転体41aが駆動軸であって、第3回転体41cが従動軸である場合、第3回転体41cの回転は、第1巻取部材42aのCNT巻回体Rが、第3巻取部材42cに接触することで開始する。
【0117】
ただし、第3回転体41cの回転が開始する以前は、開口部31から通過した第3巻取部材42cにCNTが接触しても、そのCNTは第3巻取部材42cでは巻き取られない。また、CNT巻回体Rは剛性が低いため、第1巻取部材42aのCNT巻回体Rと第3巻取部材42cとの接触によって、第3回転体41cの回転が開始したとしても、回転抵抗によって第1巻取部材42aのCNT巻回体Rの形状が崩れる可能性もある。
【0118】
したがって、巻き取られないCNTの量を低減させ、かつ、CNT巻回体Rの形状崩れを抑制する観点では、複数の回転体41は全て駆動軸であることが好ましい。駆動軸となる回転体41の回転速度は、例えば0.01~500rpmに設定される。加えて、隣り合う回転体41同士の回転速度は、回転速度比が0.9~1.1の範囲内に設定されることが好ましく、同一速度に設定されることがより好ましい。
【0119】
上述したように、配置例1~3においても第1~第3実施形態に係る分離機構50の適用が可能であるが、第1実施形態に係る分離機構50を適用する場合、例えば
図2に示した押出部材51、カバー部材60及びガイド部材70が使用され得る。その場合、押出部材51、カバー部材60及びガイド部材70は、それぞれ1つずつ設けられてもよいし、巻取部材42としてのローラーの設置箇所ごとに複数設けられてもよい。
【0120】
例えば
図24では、4つの巻取部材42a~42dが配置されているが、1枚の押出部材(図示せず)による押し出し動作によって、4つの巻取部材42a~42dのCNT巻回体を一斉に分離させてもよい。あるいは、小型の押出部材を4枚用い、それらの押出部材を4つの巻取部材42a~42dの設置箇所ごとに取り付けて、1つの押出部材の押し出し動作に対して1つの巻取部材のCNT巻回体を分離させてもよい。
【0121】
また、上述した配置例1~3においては、巻取部材42がローラーで構成されていたが、例えば
図3に示したように1つの回転体41に対して複数本の巻取部材42を取り付ける構成が採用されてもよい。
【0122】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到しうることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0123】
例えば上記実施形態の構成要件は任意に組み合わせることができる。当該任意の組み合せからは、組み合わせにかかるそれぞれの構成要件についての作用及び効果が当然に得られるとともに、本明細書の記載から当業者には明らかな他の作用及び他の効果が得られる。
【0124】
また、本明細書に記載された効果は、あくまで説明的または例示的なものであって限定的ではない。つまり、本開示に係る技術は、上記の効果とともに、又は、上記の効果に代えて、本明細書の記載から当業者には明らかな他の効果を奏しうる。
【産業上の利用可能性】
【0125】
本発明は、カーボンナノチューブの回収装置および製造装置に適用することができる。
【符号の説明】
【0126】
1 CNT製造装置(カーボンナノチューブ製造装置)
2 CNT生成装置(カーボンナノチューブ生成装置)
3 CNT回収装置(カーボンナノチューブ回収装置)
21 反応管
22 ヒータ
23 原料供給口
30 回収室
30a 側面部
30b 側面部
30c 側面部
30d 側面部
30e 天面部
30f 底面部
31 開口部
32 開口部の出側領域
40 巻取機構
41 回転体
41a 第1回転体
41b 第2回転体
41c 第3回転体
41d 第4回転体
42 巻取部材
42a 第1巻取部材
42b 第2巻取部材
42c 第3巻取部材
42d 第4巻取部材
43 駆動部
44 圧縮部材
45 回転体
46 歯車
50 分離機構
51 押出部材
51a 開口部
52 駆動ロッド
53 駆動部
54 シリンダ機構
60 カバー部材
70 ガイド部材
71 板状部材
72 板状部材
73 平板
74 固定箇所
D1 第1回転体の回転軸
D2 第2回転体の回転軸
D3 第3回転体の回転軸
D4 第4回転体の回転軸
E 開口部の中心線
L 反応管の軸線
R CNT巻回体(カーボンナノチューブ巻回体)
W 開口部の幅