IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日油株式会社の特許一覧

特開2023-56587新規化合物、分散剤および分散体組成物
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023056587
(43)【公開日】2023-04-20
(54)【発明の名称】新規化合物、分散剤および分散体組成物
(51)【国際特許分類】
   C08F 8/30 20060101AFI20230413BHJP
   C09K 23/52 20220101ALI20230413BHJP
   C08F 290/04 20060101ALI20230413BHJP
【FI】
C08F8/30
B01F17/52
C08F290/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021165882
(22)【出願日】2021-10-08
(71)【出願人】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097490
【弁理士】
【氏名又は名称】細田 益稔
(74)【代理人】
【識別番号】100097504
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 純雄
(72)【発明者】
【氏名】本田 拓也
(72)【発明者】
【氏名】小室 晴香
(72)【発明者】
【氏名】吉川 文隆
【テーマコード(参考)】
4D077
4J100
4J127
【Fターム(参考)】
4D077AA01
4D077AB03
4D077AC05
4D077BA01
4D077BA02
4D077BA03
4D077BA07
4D077DD03X
4D077DD12X
4D077DD18X
4D077DD19X
4D077DD30X
4D077DD32X
4D077DD33X
4J100AA06R
4J100AA15R
4J100AA20R
4J100AB02R
4J100AE18P
4J100AG04R
4J100AJ02R
4J100AJ09Q
4J100AK32Q
4J100AL08R
4J100AM02R
4J100AM15R
4J100AP01R
4J100BA04P
4J100BA08P
4J100BA56R
4J100CA04
4J100CA31
4J100DA01
4J100HA62
4J100HC09
4J100HC51
4J100HC85
4J100HE41
4J100HG23
4J100JA00
4J127AA05
4J127BB021
4J127BB101
4J127BB221
4J127BC021
4J127BC151
4J127BD221
4J127BE341
4J127BE34Y
4J127BE511
4J127BE51Z
4J127BF181
4J127BF18Y
4J127BF191
4J127BF19Y
4J127CB181
4J127CC181
4J127FA53
(57)【要約】      (修正有)
【課題】分散剤を表面処理する際の乾燥工程における耐熱性に優れかつグリーンシートの脱脂工程での熱分解性に優れる分散剤を提供する。
【解決手段】本発明の新規化合物および分散剤は、特定の一般式で表されるポリオキシアルキレン誘導体由来の構成単位(a)と、特定の一般式で表される(メタ)アクリロイル基を有するマレイン酸誘導体に対応する構成単位(b)を有する共重合体からなる。構成単位(a)と構成単位(b)との組成比((a):(b))がモル百分率で40:60~90:10であり、かつ前記共重合体の重量平均分子量が5,000~50,000である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)のポリオキシアルキレン誘導体由来の構成単位(a)と、式(2)の構成単位(b)を有する共重合体からなる化合物であって、前記構成単位(a)と前記構成単位(b)との組成比((a):(b))がモル百分率で40:60~90:10であり、かつ前記共重合体の重量平均分子量が5,000~50,000であることを特徴とする、化合物。

【化1】

(式(1)において、
1は炭素数1~4の炭化水素基を示し、
2は水素原子またはメチル基を示し、
AOは炭素数2~4のオキシアルキレン基の1種又は2種以上を示し、
nは、前記オキシアルキレン基AOの平均付加モル数であって、1~100の実数を示す。)

【化2】
(式(2)において、
3は炭素数1~10の炭化水素基を示し、
Xはアクリロイル基またはメタクリロイル基である。)
【請求項2】
請求項1記載の化合物からなる分散剤。
【請求項3】
請求項2記載の分散剤、溶媒、および前記分散剤によって分散された分散体を含有しており、前記分散体100質量部に対して、前記溶媒の含有量が10~1000質量部であり、前記分散剤の含有量が0.1~100質量部であることを特徴とする、分散体組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中、溶媒中における優れた分散性付与可能であり、熱的安定性に優れかつグリーンシートの脱脂工程にて残炭を生じない分散剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
積層セラミックスコンデンサ(MLCC)や積層チップインダクタなどの電子部品は、主にチタン酸バリウムやフェライトなどのセラミックスやバインダー樹脂からなるグリーンシートを積層する工法で製造されている。グリーンシートはセラミックス等の微粒子、溶剤、分散剤等を配合してビーズミルやボールミル等で解砕した後、ポリビニルブチラール樹脂やアクリル樹脂等を添加することにより調製されたスラリー組成物をPETフィルム等に塗布し、乾燥させることによって製造される。また、グリーンシートに含まれる分散剤や樹脂等の有機分は、グリーンシートを積層した後に、脱脂工程と呼ばれる300℃~600℃の加熱処理によって除去される。このとき、残炭が生じると電子分品の性能低下や不良品の発生に繋がるため、配合する有機分には良好な熱分解性が求められる。
【0003】
グリーンシート成形用スラリー組成物には、セラミックス粉や金属粉を溶剤中で効率良く解砕し、解砕後の分散安定性を得るため分散剤が用いられる。分散剤としては、ポリアミド系、ポリウレタン系、ポリエステル系等が分散性および熱分解性の観点からポリオキシアルキレンを含む分散剤が用いられる。
【0004】
例えば、特許文献1では、ポリオキシアルキレン誘導体と無水マレイン酸との共重合体からなる分散剤を含有するセラミックス製造用スラリー組成物が報告されている。また、特許文献2では、メタクリル酸とポリオキシアルキレン基を有するメタクリル酸エステルとの共重合体からなる分散剤を含有するセラミックシート成形用スラリー組成物が報告されている。また、近年では電子部品の高性能化に伴い、分散に対する要求および脱脂工程における熱分解性への要求はますます高まっている。
【0005】
一方で、微粒子の分散性を向上させる手法として、しばしば微粒子に分散剤を予め表面処理させる手法が用いられる。分散剤の表面処理は、微粒子を分散剤存在下で水中に分散させたのちに、分散剤が熱劣化しない温度で加熱乾燥することで行う。しかし、前述したようにポリオキシアルキレンを含む分散剤は熱分解しやすいことから、乾燥温度を上げることが出来ず、乾燥に時間を要する場合や、表面処理の際に添加される他の無機粉体によっては熱分解が促進されることがあり、耐熱性に課題があった。
【0006】
ポリオキシアルキレン化合物の耐熱性を向上させる方法として、酸化防止剤を添加する方法やポリオキシアルキレン化合物自体に酸化防止性を有する基を導入する方法などが報告されている(特許文献3、特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007-261911
【特許文献2】特開2013-193912
【特許文献3】特公昭61-13519
【特許文献4】特開昭57-36194号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献3、4記載のような組成物においても、耐熱性は十分ではなかった。また、酸化防止剤が、ポリビニルブチラール樹脂などの他の有機分の熱分解を阻害してしまう場合があった。
【0009】
これらの背景から、分散剤を表面処理する際の乾燥工程における耐熱性に優れかつグリーンシートの脱脂工程での熱分解性に優れる分散剤が求められていた。
【0010】
本発明の課題は、分散剤を表面処理する際の乾燥工程における耐熱性に優れかつグリーンシートの脱脂工程での熱分解性に優れる分散剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、ポリオキシアルキレン誘導体由来の構成単位と(メタ)アクリロイル基を有するマレイン酸誘導体由来の構成単位からなる共重合体が、分散剤を表面処理する際の乾燥工程における熱的安定性に優れかつグリーンシートの脱脂工程での熱分解性に優れる分散剤となり得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、下記の(1)および(2)および(3)に係るものである。
(1) 式(1)のポリオキシアルキレン誘導体由来の構成単位(a)と、式(2)の構成単位(b)を有する共重合体からなる化合物であって、前記構成単位(a)と前記構成単位(b)との組成比((a):(b))がモル百分率で40:60~90:10であり、かつ前記共重合体の重量平均分子量が5,000~50,000であることを特徴とする、化合物。

【化1】
(式(1)において、
1は炭素数1~4の炭化水素基を示し、
2は水素原子またはメチル基を示し、
AOは炭素数2~4のオキシアルキレン基の1種又は2種以上を示し、
nは、前記オキシアルキレン基AOの平均付加モル数であって、1~100の実数を示す。)

【化2】
(式(2)において、
3は炭素数1~10の炭化水素基を示し、
Xはアクリロイル基またはメタクリロイル基である。)
(2) (1)の化合物からなる分散剤。
(3) (2)の分散剤、溶媒、および前記分散剤によって分散された分散体を含有しており、前記分散体100質量部に対して、前記溶媒の含有量が10~1000質量部であり、前記分散剤の含有量が0.1~100質量部であることを特徴とする、分散体組成物。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、分散剤を表面処理する際の乾燥工程における熱的安定性に優れかつグリーンシートの脱脂工程での熱分解性に優れる分散剤および分散体組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の化合物および分散剤および分散体組成物の実施形態について順次説明する。
【0015】
(化合物および分散剤)
本発明の化合物および分散剤は、(a)および(b)を必須の構成単位とする。本分散剤は、実質的に構成単位(a)および構成単位(b)のみからなっていてよい。あるいは、本発明の分散剤は、構成単位(a)および(b)に加えて、任意の構成単位(c)を含んでいて良い。本発明分散剤を構成する共重合体の重量平均分子量は5,000以上~50,000以下である。
【0016】
構成単位(a)は、下記式(1)で表されるポリオキシアルキレン誘導体由来の構成単位である。
【化1】
【0017】
式(1)中、Rは炭素数1~4の炭化水素基を示し、直鎖状及び分枝状のいずれの形態であってもよく、直鎖状炭化水素基が特に好ましい。R1としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基などが挙げられ、中でも好ましくはメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、更に好ましくはメチル基またはブチル基、特に好ましくはブチル基である。
【0018】
R2は水素原子またはメチル基であり、好ましくは水素原子である。
【0019】
AOは炭素数2~4のオキシアルキレン基を示す。オキシアルキレン基AOは直鎖状及び分枝状のいずれの形態であってもよい。また、AOは1種であっても、2種以上であってもよい。AOが2種以上のとき、その付加形式はランダム状であっても、ブロック状であってもよい。
【0020】
AOとしては、例えば、オキシエチレン基、オキシプロピレン基、オキシブチレン基などが挙げられる。分散性の観点から、オキシエチレン基とオキシプロピレン基の2種類をランダム状に付加することがより好ましい。また、オキシエチレン基とオキシプロピレン基の組成比は、モル百分率(モル%)でオキシエチレン基:オキシプロピレン基=10:90~90:10が好ましく、25:75~75:25がより好ましく、40:60~60:40がさらに好ましい。
【0021】
nは、オキシアルキレン基AOの平均付加モル数であって、1~100の実数を示す。分散性の観点から、AOの平均付加モル数は5~50が好ましく、15~40がより好ましく、20~40が特に好ましい。nが100を超えると、粘度が高くなり扱い難くなる。
構成単位(a)は、単独又は2種以上組み合わせても良い。
【0022】
構成単位(a)は、式(3)に示すポリオキシアルキレン誘導体を重合することで得られる。
4O(AO)5 ・・・ (3)
【0023】
式(3)において、Rは、炭素数1~4の炭化水素基を示し、R5は、二重結合を1つ有する炭素数3~4の不飽和炭化水素基を示し、AOは炭素数2~4のオキシアルキレン基の1種又は2種以上を示し、nはオキシアルキレン基AOの平均付加モル数であって、1~100の実数を示す。
【0024】
式(3)のポリオキシアルキレン誘導体は、ポリオキシアルキレンモノアルキルエーテルに不飽和炭化水素基を導入しても、ポリオキシアルキレンモノアルケニルエーテルに炭化水素基を導入してもよい。すなわち、炭素数が1~4の炭化水素基を有するアルコールに炭素数2~4のアルキレンオキシドを付加重合させた後、炭素数3~4の不飽和炭化水素基を有するモノハロゲン化不飽和炭化水素とのエーテル化反応によりポリオキシアルキレン誘導体を得ることができる。あるいは、炭素数3~4の不飽和炭化水素基を有するアルコールに炭素数2~4のアルキレンオキシドを付加重合させた後、炭素数が1~4の炭化水素基を有するモノハロゲン化炭化水素とのエーテル化反応によりポリオキシアルキレン誘導体を得ることができる。
【0025】
構成単位(b)は、式(2)の(メタ)アクリロイル基を有するマレイン酸誘導体に対応する構成単位である。
【化2】
式(2)において、R3は炭素数1~10の炭化水素基であるが、脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基であってよく、脂肪族炭化水素基であることがより好ましい。Rの炭素数は1~6が好ましく、炭素数2が特に好ましい。
【0026】
Xはアクリロイル基またはメタクリロイル基であり、メタクリロイル基がより好ましい。
構成単位(b)は単独又は2種類以上組み合わせても良い。
【0027】
構成単位(b)は、マレイン酸、無水マレイン酸、マレイン酸エステル等のマレイン酸系化合物を重合した後にマレイン酸部位をアクリロイル基またはメタクリロイル基を有するイソシアネート化合物で変性することで得ても良いし、マレイン酸系化合物をアクリロイル基またはメタクリロイル基を有するイソシアネート化合物で変性した後に重合して得ても良い。
【0028】
前記構成単位(a)と前記構成単位(b)との組成比((a):(b))は、分散性の観点から、モル百分率で40:60~90:10とするが、50:50~90:10とすることが好ましく、50:50~80:20とすることが更に好ましく、50:50~70:30とすることがより好ましい。上記範囲外の場合、分散性または乾燥工程時の耐熱性が低下する。ただし、構成単位(a)と前記構成単位(b)との合計量を100モル%とする。
【0029】
また、本発明の共重合体には、所望により、任意の構成単位(c)を含ませることが出来る。構成単位(c)としては、例えば、スチレン、酢酸ビニル、ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、メタリルスルホン酸、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミド、メタクリルアミド、イソブチレン、ジイソブチレン、ビニルシクロヘキサンなどのエチレン性不飽和結合を有する化合物や、無水マレイン酸、マレイン酸、マレイン酸塩、マレイン酸エステル、マレイン酸アミドなどのマレイン酸系化合物などに由来する構成単位を含ませることが出来る。分散性の観点からマレイン酸系化合物由来の構成単位を含ませることが好ましく、更に好ましくはマレイン酸由来の構成単位である。
構成単位(c)は単独又は2種類以上組み合わせても良い。
【0030】
構成単位(a)と構成単位(b)との合計量を100モル%としたとき、構成単位(c)の組成比率は、分散性の観点から、0~90モル%が好ましく、0~50モル%がより好ましく、0~20モル%がさらに好ましい。
ただし、構成単位(a)、(b)、(c)の組成比率は、各構成単位を生成させるために配合した各単量体の配合比率から算出する。
【0031】
また、本発明の共重合体の重合型式は、溶液重合や塊状重合などの公知の方法で行うことができ、特に限定されるものではない。すなわち、重合反応は無溶媒下又は溶媒存在下で行なうことが可能であるが、重合反応を溶媒存在下で行なう場合には、水;メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール等のアルコール類;
アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類; テトラヒドロフラン、ジオキサン等の環状エーテル類、n-へキサン、2-エチルへキサン、メチルシクロへキサン等の脂肪族炭化水素類、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類などを使用することができ、トルエン、メチルシクロヘキサンが好適に使用される。
【0032】
構成単位(a)、(b)および(c)に対応する各単量体の合計質量を100質量%としたとき、溶媒の使用量は、通常1~50質量%、好ましくは5~30質量%である。反応に使用した溶媒は蒸留等の操作によって除去するか、あるいはそのまま製品の一部として使用することもできる。なお、溶液重合は回分式や連続式で行うことができる。
【0033】
重合開始剤としては、ベンゾイルペルオキシドなどの過酸化物系開始剤、2,2'-アゾビス(イソ酪酸)ジメチルなどのアゾ系重合開始剤、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウムなどの過硫酸系開始剤等が挙げられる。また、必要に応じて、連鎖移動剤を併用してもよい。また、重合温度は、通常50~130℃、好ましくは60~90℃
であり、重合時間は、通常5~25時間、好ましくは5~10時間である。
【0034】
なお、分散性の観点から、アゾ系重合開始剤を用いることが好ましく、2,2'-アゾビス(イソ酪酸)ジメチルが特に好ましい。アゾ系開始剤の使用量は、単量体の全質量に対して、通常1~10モル%、好ましくは2~5モル%である。
【0035】
また、所望により連鎖移動剤を使用することができる。連鎖移動剤としては、ドデシルメルカプタン、α-メチルスチレンダイマーなどが挙げられ、連鎖移動剤の使用量は、単量体の全質量に対して、通常1~20モル%である。なお、連鎖移動剤は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0036】
共重合体の重量平均分子量(Mw)は、5,000以上、50,000以下であり、より好ましくは5,000以上、30,000以下である。Mwが50,000を超える場合には、粘度が高くなり、扱い難くなる。なお、本明細書において、重量平均分子量とは、テトラヒドロフラン(THF)を展開溶媒とするゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による標準ポリエチレングリコール換算の重量平均分子量をいう。
【0037】
マレイン酸部位の変性方法について説明する。マレイン酸部位の変性に使用するアクリロイル基またはメタクリロイル基を有するイソシアネート化合物としてはアクリル酸2-イソシアナトエチル、メタクリル酸2-イソシアナトエチル、1,1-(ビスアクリロイルオキシメチル)エチルイソシアネート、2-(2-メタクリロイルオキシエチルオキシ)エチルイソシアネート等が挙げられる。
【0038】
(分散体組成物)
本発明の分散体組成物は分散剤、溶媒、分散体を含有する。
分散剤の含有量は、分散体100質量部に対して、0.1~100質量部が好ましく、0.5~50質量部がより好ましく、さらに好ましくは1~30質量部である。非水系分散剤の含有量が0.1質量部未満であると、十分な分散性が得られないおそれがあり、含有量が100質量部を超えても含有量に見合う効果が得られないおそれがある。
【0039】
本発明の分散体組成物に含まれる分散体としては、有機粉体あるいは無機粉体が挙げられる。
【0040】
有機粉体としては、例えば、アゾ系、ジアゾ系、縮合アゾ系、チオインジゴ系、インダスロン系、キナクリドン系、アントラキノン系、ベンゾイミダゾロン系、ペニレン系、フタロシアニン系、アントラピリジン系、およびジオキサジン系など有機顔料が挙げられる。
【0041】
無機粉体としては、例えば、鉄、アルミニウム、クロム、ニッケル、コバルト、亜鉛、タングステン、インジウム、錫、パラジウム、ジルコニウム、チタン、銅、銀、金、白金などの金属粉体、2種類以上の金属または金属と非金属とからなる合金粉体、金属粉体または合金粉体を複合化した複合粉体、2種類以上の無機粉体あるいは無機粉体と他の粉体とを混合した混合粉体が挙げられる。
【0042】
その他、無機粉体として、ケイ酸塩鉱物、その他のケイ酸化合物、炭酸化合物、硫酸化合物、水酸化化合物、酸化化合物、窒化化合物、炭化化合物、チタン酸化合物などの各粉体が挙げられる。例えば、カオリン、クレー、タルク、マイカ、ベントナイト、ドロマイト、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、硫酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、水酸化鉄、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化鉄、酸化亜鉛、三酸化アンチモン、酸化インジウム、酸化インジウムスズ、炭化ケイ素、炭化タングステン、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、窒化ホウ素、チタン酸バリウム、チタン酸カルシウム、チタン酸ストロンチウム、カーボンブラック、ガラス繊維、炭素繊維、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ(シングルウォールナノチューブ、ダブルウォールナノチューブ、マルチウォールナノチューブ)などの各粉体が挙げられる。
【0043】
分散体の含有量は、分散体組成物の全質量を100質量%としたとき、1~75質量%とすることが好ましく、10~50質量%とすることが更に好ましい。
【0044】
本発明の分散体組成物において分散体を分散させる分散媒としては、水または有機溶媒が挙げられる。有機溶媒としては、例えば、トルエンやキシレンなどの芳香族炭化水素系溶媒、シクロヘキサンなどの炭化水素系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、などのケトン系溶媒、酢酸エチル、酢酸n-プロピルなどのエステル系溶媒、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテルなどのグリコールエーテル系溶媒、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどのグリコールエーテルエステル系溶媒、ターピネオール、ジヒドロターピネオール、ジヒドロターピニルアセテートなどのテルペン系溶媒、メタノール、エタノール、イソプロパノールなどのアルコール系溶媒が挙げられ、溶媒は1種または2種以上を用いることができる。
【0045】
溶媒の含有量は、分散体100質量部に対して、10~1000質量部が好ましく、50~500質量部がより好ましく、100~300質量部が更に好ましい。
【0046】
本発明の分散体組成物には、その目的が損なわれない範囲で、他の界面活性剤、バインダー、可塑剤および消泡剤などの各種添加剤を配合させることができる。
【0047】
本発明の分散体組成物は、公知の分散体組成物の製造方法に準じて製造することができる。例えば、分散剤を溶解した溶媒中に分散体を添加した後、室温下にて攪拌し混合する方法、分散体に溶媒および分散剤を添加した後、室温下にて攪拌し混合する方法などが挙げられる。攪拌、混合、あるいは分散するための分散機器としては、公知の分散機を使用することができる。例えば、ロールミル、ボールミル、ビーズミル、サンドミル、ホモジナイザー、ディスパー、自転公転型ミキサーなどが挙げられる。また超音波発生浴中において分散処理を行うこともできる。
【実施例0048】
以下、具体例により本発明を説明する。
(分散剤の調製)
(合成例1)
攪拌機、温度計、窒素ガス導入管を装着した0.3リットルフラスコに、表1のポリオキシアルキレン誘導体1を220g(0.15モル)、無水マレイン酸14.5g(0.15モル)、α-メチルスチレンダイマー1.4g(0.006モル)を加え、窒素ガス雰囲気下、重合開始剤としての2,2'-アゾビス(イソ酪酸)ジメチルを2.4g(0.01モル)加え、第1段階:85±5℃にて1時間、第2段階:125±5℃にて8時間、反応を行った後に、イオン交換水110gを加え、85±5℃にて8時間撹拌し、減圧下、100±5℃にて6時間脱水した。室温まで冷却した後、ジブチルヒドロキシトルエン0.01g、ジブチル錫ジラウレート0.02g、メタクリル酸2-イソシアナトエチル23.3g(0.15モル)を加え、2時間撹拌し共重合体1を得た。これによって無水マレイン酸由来の構成単位が、メタクリル酸2-イソシアナトエチルとの反応により、表2に示す構成単位(b)に変わっている。得られた共重合体の分子量をGPCにより測定した結果、重量平均分子量は20,000であった。
【0049】
(合成例2)
攪拌機、温度計、窒素ガス導入管を装着した0.3リットルフラスコに、表1のポリオキシアルキレン誘導体2を220g(0.28モル)、無水マレイン酸27.5g(0.28モル)、α-メチルスチレンダイマー2.6g(0.011モル)を加え、窒素ガス雰囲気下、重合開始剤としての2,2'-アゾビス(イソ酪酸)ジメチルを3.9g(0.017モル)加え、第1段階:85±5℃にて1時間、第2段階:125±5℃にて8時間、反応を行った後に、イオン交換水110gを加え、85±5℃にて8時間撹拌し、減圧下、100±5℃にて6時間脱水した。室温まで冷却した後、ジブチルヒドロキシトルエン0.01g、ジブチル錫ジラウレート0.02g、メタクリル酸2-イソシアナトエチル43.4g(0.28モル)を加え、2時間撹拌し共重合体2を得た。得られた共重合体の分子量をGPCにより測定した結果、重量平均分子量は15,000であった。
【0050】
(合成例3)
攪拌機、温度計、窒素ガス導入管を装着した0.3リットルフラスコに、表1のポリオキシアルキレン誘導体1を220g(0.15モル)、無水マレイン酸14.5g(0.15モル)、α-メチルスチレンダイマー1.4g(0.006モル)を加え、窒素ガス雰囲気下、重合開始剤としての2,2'-アゾビス(イソ酪酸)ジメチルを2.4g(0.01モル)加え、第1段階:85±5℃にて1時間、第2段階:125±5℃にて8時間、反応を行った後に、イオン交換水110gを加え、85±5℃にて8時間撹拌し、減圧下、100±5℃にて6時間脱水した。室温まで冷却した後、ジブチルヒドロキシトルエン0.01g、ジブチル錫ジラウレート0.02g、メタクリル酸2-イソシアナトエチル11.6g(0.08モル)を加え、2時間撹拌し共重合体3を得た。これによって無水マレイン酸由来の構成単位の一部が、メタクリル酸2-イソシアナトエチルとの反応により、表2に示す構成単位(b)に変わっている。未反応の無水マレイン酸由来の構成単位が構成単位(c)として残留している。得られた共重合体の分子量をGPCにより測定した結果、重量平均分子量は20,000であった。
【0051】
(合成例4)
攪拌機、温度計、窒素ガス導入管を装着した0.3リットルフラスコに、表1のポリオキシアルキレン誘導体1を220g(0.15モル)、無水マレイン酸14.5g(0.15モル)、α-メチルスチレンダイマー1.4g(0.006モル)を加え、窒素ガス雰囲気下、重合開始剤としての2,2'-アゾビス(イソ酪酸)ジメチルを2.4g(0.01モル)加え、第1段階:85±5℃にて1時間、第2段階:125±5℃にて8時間、反応を行った後に、イオン交換水110gを加え、85±5℃にて8時間撹拌し、減圧下、100±5℃にて6時間脱水した。室温まで冷却した後、ジブチルヒドロキシトルエン0.01g、ジブチル錫ジラウレート0.02g、メタクリル酸2-イソシアナトエチル4.7g(0.03モル)を加え、2時間撹拌し共重合体4を得た。得られた共重合体の分子量をGPCにより測定した結果、重量平均分子量は20,000であった。
【0052】
(合成例5)
攪拌機、温度計、窒素ガス導入管を装着した0.3リットルフラスコに、表1のポリオキシアルキレン誘導体1を220g(0.15モル)、無水マレイン酸14.5g(0.15モル)、α-メチルスチレンダイマー1.4g(0.006モル)を加え、窒素ガス雰囲気下、重合開始剤としての2,2'-アゾビス(イソ酪酸)ジメチルを2.4g(0.01モル)加え、第1段階:85±5℃にて1時間、第2段階:125±5℃にて8時間、反応を行った後に、イオン交換水110gを加え、85±5℃にて8時間撹拌し、減圧下、100±5℃にて6時間脱水し、共重合体5を得た。得られた共重合体の分子量をGPCにより測定した結果、重量平均分子量は20,000であった。
【0053】
【表1】
【0054】
【表2】
【0055】
【表3】
【0056】
(共重合体1~5の分散性能の評価)
本発明の要件を満たす共重合体1~5(実施例1~4および比較例1)の分散性能を以下のようにして評価した。詳しくは、50mLサンプル瓶に、チタン酸バリウム(堺化学工業社製、品名BT-03)1.0g、水またはトルエン/エタノール=50/50(重量比)混合溶媒9.0g、共重合体1~5のいずれか0.03gを加え、ハイブリッドミキサーを用いて、2,000rpmで5分混合・粉砕した。
また、参考のために、50mLサンプル瓶に、チタン酸バリウム(堺化学工業社製、品名BT-03)1.0g、水またはトルエン/エタノール=50/50(重量比)混合溶媒9.0g、ハイブリッドミキサーを用いて、2,000rpmで5分混合・粉砕し、共重合体無添加の分散液を調製した。
得られた分散液を2時間静置した後、分散液における前記粉体の沈降の有無を目視にて確認した。

(評価基準)
〇:沈降無し
×:沈降有り
【0057】
(乾燥工程での耐熱性評価)
共重合体1~5(実施例1~4および比較例1)の乾燥工程での耐熱性を以下の様に評価した。
熱重量(TG)測定において、空気下、200℃で2時間保持した際の共重合体1~5の重量減少率を測定した。重量減少率は、下記式にて算出した。重量減少率が小さいほど、乾燥工程での耐熱性が良好である。

重量減少率(%)=(重量減少量(g)/初期重量(g))×100

(評価基準)
◎:15.0以下
○:15.1~75.0%
×:75.1%以上
【0058】
(脱脂工程での熱分解性評価)
共重合体1~5(実施例1~4および比較例1)の脱脂工程での熱分解性を以下の様に評価した。
ポリビニルブチラール(積水化学工業社製、品名:エスレックBM-2)1.0g、トルエン/エタノール=50/50(重量比)混合溶媒6.0g、共重合体1~5のいずれか1.0gを混合した溶液を調整し、熱重量(TG)測定において、空気下、400℃で2時間保持した際の重量減少率を測定した。重量減少率は、下記式にて算出した。重量減少率が大きいほど、脱脂工程での熱分解性が良好である。

重量減少率(%)=(重量減少量(g)/初期重量(g))×100

(評価基準)
◎:99.0%以上
○:98.9~95.1%以上
×:95.0%以下
【0059】
【表4】
【0060】
本発明に係る共重合体1~4を用いた実施例1~4は、分散性、分散剤を表面処理する際の乾燥工程における耐熱性およびグリーンシートの脱脂工程での熱分解性に優れていた。
【0061】
共重合体5を用いた比較例1は、分散剤を表面処理する際の乾燥工程における耐熱性が不十分であった。
【0062】
上記の実施例と比較例の結果から、本発明の分散剤が、分散剤を表面処理する際の乾燥工程における耐熱性に優れかつグリーンシートの脱脂工程での熱分解性に優れる分散剤であることが分かる。