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特開2023-56592移植用毛様組織及びこれに関連する方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023056592
(43)【公開日】2023-04-20
(54)【発明の名称】移植用毛様組織及びこれに関連する方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/071 20100101AFI20230413BHJP
   A61K 35/36 20150101ALI20230413BHJP
   A61P 17/14 20060101ALI20230413BHJP
【FI】
C12N5/071
A61K35/36
A61P17/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021165889
(22)【出願日】2021-10-08
(71)【出願人】
【識別番号】504182255
【氏名又は名称】国立大学法人横浜国立大学
(71)【出願人】
【識別番号】317006683
【氏名又は名称】地方独立行政法人神奈川県立産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000154
【氏名又は名称】弁理士法人はるか国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福田 淳二
(72)【発明者】
【氏名】景山 達斗
(72)【発明者】
【氏名】穴竃 理樹
(72)【発明者】
【氏名】肥高 龍彦
【テーマコード(参考)】
4B065
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065BD14
4B065BD39
4B065CA44
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
4C087BB48
4C087NA14
4C087NA20
4C087ZA92
(57)【要約】
【課題】毛髪再生のための移植用毛様組織及びこれに関連する方法を提供する。
【解決手段】移植用毛様組織の製造方法は、細胞培養を行って、その表面に毛様組織が形成された細胞凝集塊を得ること、及び、前記毛様組織を、生体に移植するために、前記細胞凝集塊から切断して回収すること、を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞培養を行って、その表面に毛様組織が形成された細胞凝集塊を得ること、及び、
前記毛様組織を、生体に移植するために、前記細胞凝集塊から切断して回収すること、
を含む、移植用毛様組織の製造方法。
【請求項2】
前記毛様組織は、毛幹様構造を有する、
請求項1に記載の移植用毛様組織の製造方法。
【請求項3】
前記細胞凝集塊の毛様組織は、自由端である先端部分に毛乳頭様構造を有する、
請求項1又は2に記載の移植用毛様組織の製造方法。
【請求項4】
前記毛様組織は、毛細血管を含まない、
請求項1乃至3のいずれかに記載の移植用毛様組織の製造方法。
【請求項5】
前記細胞凝集塊は、立毛筋構造及び/又は皮脂腺構造を含まない、
請求項1乃至4のいずれかに記載の移植用毛様組織の製造方法。
【請求項6】
前記細胞凝集塊から切断され回収された前記毛様組織は、切断面を有しない一方の先端部分と、切断面を有する他方の先端部分とを有する、
請求項1乃至5のいずれかに記載の移植用毛様組織の製造方法。
【請求項7】
前記細胞培養は、上皮系細胞及び間葉系細胞を播種することを含む、前記上皮系細胞及び前記間葉系細胞の共培養である、
請求項1乃至6のいずれかに記載の移植用毛様組織の製造方法。
【請求項8】
前記共培養は、前記上皮系細胞及び前記間葉系細胞を、I型コラーゲン、フィブロネクチン、ラミニン及びエンタクチン、又はIV型コラーゲンが分散された培養液中で保持するマトリックス処理を含む、
請求項7に記載の移植用毛様組織の製造方法。
【請求項9】
前記マトリックス処理において、前記上皮系細胞及び前記間葉系細胞を、I型コラーゲンが分散された培養液中で保持する、
請求項8に記載の移植用毛様組織の製造方法。
【請求項10】
前記共培養は、
前記上皮系細胞及び前記間葉系細胞の浮遊培養を行って、細胞凝集塊を形成すること、及び、
前記浮遊培養により形成された細胞凝集塊をハイドロゲル中に包埋してさらに培養すること、
を含む、請求項7乃至9のいずれかに記載の細胞凝集塊の製造方法。
【請求項11】
自由端である一方の先端部分及び他方の先端部分を有し、
上皮系細胞及び間葉系細胞を含み、
毛細血管を含まない、
移植用毛様組織。
【請求項12】
毛幹様構造を有する、
請求項11に記載の移植用毛様組織。
【請求項13】
前記一方の先端部分に毛乳頭様構造を有する、
請求項11又は12に記載の移植用毛様組織。
【請求項14】
切断面を有しない前記一方の先端部分と、切断面を有する前記他方の先端部分とを有する、
請求項11乃至13のいずれかに記載の移植用毛様組織。
【請求項15】
請求項11乃至14のいずれかに記載の毛様組織を生体に移植することを含む、
毛髪再生方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移植用毛様組織及びこれに関連する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
非特許文献1には、マウスの胎児線維芽細胞から作製された人工多能性幹細胞(iPSCs)を96ウェルプレートに播種して培養することにより、in vitroで皮膚組織体(skin organoids)を形成することが記載されている。
【0003】
特許文献1には、規則的な配置の微小凹部からなるマイクロ凹版に、間葉系細胞及び上皮系細胞を播種し、酸素を供給しながら混合培養することにより、毛包原基を形成させる工程を備えることを特徴とする再生毛包原基の集合体の製造方法が記載されている。
【0004】
特許文献2には、皮膚付属器官を有する全層皮膚を製造する方法であって、当該「皮膚付属器官を有する全層皮膚」は、少なくとも下記(1)~(3);(1)表皮層と真皮層を含む皮膚、(2)少なくとも1種類の皮膚付属器官、及び(3)皮下組織を含み、当該方法は、下記ステップ;(a)胚様体を、Wnt経路を活性化させ得る生理活性物質で刺激するステップ、(b):下記(A)および(B)を含む結合体を調製するステップ;(A)ステップ(a)で刺激を行った当該胚様体の全部または一部(B)足場材料、(c):当該ステップ(b)で調製した当該結合体を動物に移植するステップ、および、(d):当該動物中において、前記結合体由来の全層皮膚を製造するステップ、を含むことを特徴とする方法が記載されている。
【0005】
特許文献3には、上皮系細胞及び間葉系細胞を播種すること;、(a)ラミニン及びエンタクチン、及び/又は(b)IV型コラーゲンが分散された培養液中で、前記上皮系細胞及び前記間葉系細胞を保持すること;及び、培養液中で、前記上皮系細胞及び前記間葉系細胞の共培養を行うことにより、毛包原基を形成すること、を含む、毛包原基の製造方法が記載されている。
【0006】
特許文献4には、哺乳動物の毛小嚢を作製する方法であって、以下の工程、(a)少なくとも1つのデノボ乳頭を提供する工程、(b)線維芽細胞、角化細胞及び/又はメラニン細胞の群から選択される少なくとも1つの他の細胞集団を提供する工程、及び(c)前記デノボ乳頭を前記少なくとも1つの他の細胞集団と一緒に非接着性培養条件下で同時培養する工程、を含み、前記工程(a)が、(1)少なくとも1つの哺乳動物毛嚢に由来する少なくとも1つの真皮乳頭(DP)を提供する工程、(2)DPを細胞培養容器の表面に機械的に固定し、それにより基底板に穴を開けて真皮性毛乳頭線維芽細胞(DPF)を流出させることによって、前記DPから前記DPFを単離する工程、(3)単離したDPFをコラーゲンのコーティング無しに単層培養で増やし、前記DPFを少なくとも1回継代する工程、(4)増やしたDPFを凝縮させて生理学的DPのサイズ及び形状を示す細胞凝集物にして、デノボ乳頭を取得する工程であって、前記DPFを1000~100000DFP/cmの培養容器表面当りの細胞濃度にて非接着性培養容器で分化させる工程、及び(5)前記細胞凝集物を細胞外マトリックスタンパク質で被覆する工程を含むことを特徴とする、哺乳動物の毛小嚢を作製する方法が記載されている。
【0007】
特許文献5には、スフェロイドの作製方法において、細胞接着性を有する複数の担体で構成される担体集団と、接着依存性の細胞とを、該担体集団が細胞と共に一体的に凝集しない混合条件で混合する混合工程と、該混合物を所定期間だけ培養する培養工程と、を含むスフェロイドの作製方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2017/073625号
【特許文献2】国際公開第2016/039279号
【特許文献3】国際公開第2020/225934号
【特許文献4】特表2011-515095号公報
【特許文献5】特開2003-219865号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Jiyoon Lee et al. (2018). Hair Follicle Development in Mouse Pluripotent Stem Cell-Derived Skin Organoids. Cell Reports 22, 242-254
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
一方、本発明の発明者らは、毛髪再生医療のための技術的手段について検討を行ってきた。
【0011】
本発明は、上記課題に鑑みて為されたものであり、毛髪再生のための移植用毛様組織及びこれに関連する方法を提供することをその目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するための本発明の一実施形態に係る移植用毛様組織の製造方法は、細胞培養を行って、その表面に毛様組織が形成された細胞凝集塊を得ること、及び、前記毛様組織を、生体に移植するために、前記細胞凝集塊から切断して回収すること、を含む。本発明によれば、毛髪再生のための移植用毛様組織の製造方法が提供される。
【0013】
また、前記毛様組織は、毛幹様構造を有することとしてもよい。また、前記細胞凝集塊の毛様組織は、自由端である先端部分に毛乳頭様構造を有することとしてもよい。また、前記毛様組織は、毛細血管を含まないこととしてもよい。また、前記細胞凝集塊は、立毛筋構造及び/又は皮脂腺構造を含まないこととしてもよい。また、前記細胞凝集塊から切断され回収された前記毛様組織は、切断面を有しない一方の先端部分と、切断面を有する他方の先端部分とを有することとしてもよい。
【0014】
また、前記細胞培養は、上皮系細胞及び間葉系細胞を播種することを含む、前記上皮系細胞及び前記間葉系細胞の共培養であることとしてもよい。この場合、前記共培養は、前記上皮系細胞及び前記間葉系細胞を、I型コラーゲン、フィブロネクチン、ラミニン及びエンタクチン、又はIV型コラーゲンが分散された培養液中で保持するマトリックス処理を含むこととしてもよい。さらにこの場合、前記マトリックス処理において、前記上皮系細胞及び前記間葉系細胞を、I型コラーゲンが分散された培養液中で保持することとしてもよい。
【0015】
また、前記共培養は、前記上皮系細胞及び前記間葉系細胞の浮遊培養を行って、細胞凝集塊を形成すること、及び、前記浮遊培養により形成された細胞凝集塊をハイドロゲル中に包埋してさらに培養すること、を含むこととしてもよい。
【0016】
上記課題を解決するための本発明の一実施形態に係る移植用毛様組織は、自由端である一方の先端部分及び他方の先端部分を有し、上皮系細胞及び間葉系細胞を含み、毛細血管を含まない。本発明によれば、毛髪再生のための移植用毛様組織が提供される。
【0017】
また、前記移植用毛様組織は、毛幹様構造を有することとしてもよい。また、前記移植用毛様組織は、前記一方の先端部分に毛乳頭様構造を有することとしてもよい。また、前記移植用毛様組織は、切断面を有しない前記一方の先端部分と、切断面を有する前記他方の先端部分とを有することとしてもよい。
【0018】
上記課題を解決するための本発明の一実施形態に係る毛髪再生方法は、前記いずれかの毛様組織を生体に移植することを含む。本発明によれば、効果的な毛髪再生方法が提供される。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、毛髪再生のための移植用毛様組織及びこれに関連する方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本実施形態に係る実施例1において形成された培養8日目の細胞凝集塊の顕微鏡写真を示す説明図である。
図2】本実施形態に係る実施例1における播種時の培養液中のI型コラーゲン濃度と、培養8日目の細胞凝集塊における毛様組織の形成効率とを対応させて示す説明図である。
図3】本実施形態に係る実施例1における播種時の培養液中のI型コラーゲン濃度と、培養8日目において1つの細胞凝集塊あたり形成されていた毛様組織の本数との関係を示す説明図である。
図4】本実施形態に係る実施例1において播種時の培養液中のI型コラーゲン濃度が120μg/mLであった培養系で形成された培養8日目の細胞凝集塊の顕微鏡写真を示す説明図である。
図5】本実施形態に係る実施例1において播種時の培養液中のI型コラーゲン濃度が120μg/mLであった培養系で形成された培養8日目の細胞凝集塊の凍結切片をHE染色した結果を示す説明図である。
図6】本実施形態に係る実施例1において播種時の培養液中のI型コラーゲン濃度が120μg/mLであった培養系で形成された培養8日目の細胞凝集塊の凍結切片においてVersicanを蛍光染色した結果を示す説明図である。
図7】本実施形態に係る実施例1において播種時の培養液中のI型コラーゲン濃度が120μg/mLであった培養系で形成された培養8日目の細胞凝集塊の凍結切片においてCD34を蛍光染色した結果を示す説明図である。
図8】本実施形態に係る実施例1において得られた毛様組織を有する細胞凝集塊を模式的に示す説明図である。
図9】本実施形態に係る実施例2においてハイドロゲル内に包埋された1つの細胞凝集塊について、培養8日目、12日目、18日目、22日目及び27日目に撮影された顕微鏡写真を示す説明図である。
図10図9に含まれる5つの写真のそれぞれにおいて点線の四角で囲まれた部分(毛様組織)を拡大して示す説明図である。
図11】本実施形態に係る実施例2において形成された毛様組織の長さの経時変化を示す説明図である。
図12】本実施形態に係る実施例3において形成された培養8日目の細胞凝集塊の顕微鏡写真を示す説明図である。
図13】本実施形態に係る実施例3における播種時の培養液中のフィブロネクチン濃度と、培養8日目の細胞凝集塊における毛様組織の形成効率とを対応させて示す説明図である。
図14】本実施形態に係る実施例3における播種時の培養液中のフィブロネクチン濃度と、培養8日目において1つの細胞凝集塊あたり形成されていた毛様組織の本数との関係を示す説明図である。
図15】本実施形態に係る実施例3において播種時の培養液中のフィブロネクチン濃度が100μg/mLであった培養系で形成された培養8日目の細胞凝集塊の凍結切片をHE染色した結果を示す説明図である。
図16】本実施形態に係る実施例4において形成された培養8日目の細胞凝集塊の顕微鏡写真を示す説明図である。
図17】本実施形態に係る実施例4におけるI型コラーゲンの添加タイミングと、培養8日目の細胞凝集塊における毛様組織の形成効率とを対応させて示す説明図である。
図18】本実施形態に係る実施例4におけるI型コラーゲンの添加タイミングと、培養8日目において1つの細胞凝集塊あたり形成されていた毛様組織の本数との関係を示す説明図である。
図19】本実施形態に係る実施例4において細胞の播種直後にI型コラーゲンを添加した培養系で形成された培養8日目の細胞凝集塊の顕微鏡写真を示す説明図である。
図20】本実施形態に係る実施例4において細胞の播種直後にI型コラーゲンを添加した培養系で形成された培養8日目の細胞凝集塊から伸び出た毛様組織の拡大写真を示す説明図である。
図21】本実施形態に係る実施例5において、I型コラーゲンを含む培養液を用いて形成された細胞凝集塊と、I型コラーゲンを含まない培養液を用いて形成された細胞凝集塊とについて、マイクロアレイ解析を行った結果の一部を示す説明図である。
図22】本実施形態に係る実施例6において細胞凝集塊の移植から4週間後に再生していた毛髪の本数を目視にてカウントした結果を示す説明図である。
図23】本実施形態に係る実施例7において形成された細胞凝集塊から回収された毛様組織の顕微鏡写真を示す説明図である。
図24】本実施形態に係る実施例8において形成された培養8日目の細胞凝集塊の顕微鏡写真を示す説明図である。
図25】本実施形態に係る実施例8においてマトリゲルを含む培養液を用いて形成された細胞凝集塊に含まれる細胞の核を蛍光染色し、共焦点顕微鏡で観察した結果を示す説明図である。
図26】本実施形態に係る実施例8においてマトリゲルを含む培養液を用いて形成された細胞凝集塊のHE染色及び蛍光染色による観察結果を示す説明図である。
図27】本実施形態に係る実施例8においてマトリゲルを含む培養液を用いて形成された細胞凝集塊の毛様組織を観察した結果を示す説明図である。
図28】本実施形態に係る実施例8においてマトリゲルを含む培養液を用いて形成された細胞凝集塊の毛様組織と、マウスの体毛とを透過型顕微鏡にて観察した結果を示す説明図である。
図29】本実施形態に係る実施例9の例9-1において培養14日目の細胞凝集塊から回収された毛様組織の顕微鏡写真を示す説明図である。
図30】本実施形態に係る実施例9の例9-2において培養12日目及び22日目の細胞凝集塊から回収された毛様組織の顕微鏡写真を示す説明図である。
図31】本実施形態に係る実施例9の例9-2における培養23日目の細胞凝集塊の顕微鏡写真を示す説明図である。
図32】本実施形態に係る実施例10において細胞凝集塊から回収された毛様組織の顕微鏡写真を示す説明図である。
図33】本実施形態に係る実施例11においてハイドロゲル包埋培養された毛様移植片の顕微鏡写真を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、本発明の一実施形態について説明する。なお、本発明は本実施形態に限られるものではない。
【0022】
本実施形態は、その一側面として、細胞培養を行って、その表面に毛様組織が形成された細胞凝集塊を得ること、及び、当該毛様組織を、生体に移植するために、当該細胞凝集塊から切断して回収すること、を含む移植用毛様組織の製造方法を包含する。
【0023】
また、本実施形態は、他の側面として、上皮系細胞及び間葉系細胞を含み毛細血管を含まない毛様組織を生体に移植することを含む毛髪再生方法を包含する。すなわち、本実施形態は、上皮系細胞及び間葉系細胞を含み毛細血管を含まない毛様組織の、生体に移植するための使用を包含する。また、本実施形態は、さらに他の側面として、自由端である一方の先端部分及び他方の先端部分を有し、上皮系細胞及び間葉系細胞を含み、毛細血管を含まない、移植用毛様組織を包含する。
【0024】
移植用毛様組織の製造においては、まず、細胞培養を行って、その表面に毛様組織が形成された細胞凝集塊を得る。その表面に毛様組織を有する細胞凝集塊を得るための細胞培養は、本発明による効果が得られれば特に限られないが、例えば、上皮系細胞及び間葉系細胞を播種することを含む、当該上皮系細胞及び間葉系細胞の共培養であることが好ましい。すなわち、上皮系細胞及び間葉系細胞を播種し、当該播種された上皮系細胞及び間葉系細胞の共培養を行って、その表面に毛様組織が形成された細胞凝集塊を形成することが好ましい。
【0025】
細胞凝集塊の形成に用いられる上皮系細胞は、本発明の効果が得られれば特に限られないが、例えば、毛包上皮系細胞及びその前駆細胞からなる群より選択される1以上であることが好ましい。毛包上皮系細胞は、発毛に寄与する上皮系細胞(より具体的には、例えば、毛包間葉系細胞と協調して発毛に寄与する上皮系細胞)である。
【0026】
毛包上皮系細胞は、生体の毛包から採取されたものであってもよいし、in vitroで未分化細胞から分化誘導されたものであってもよい。in vitroにおける毛包上皮系細胞の分化誘導に用いられる未分化細胞は、in vitroで当該毛包上皮系細胞に分化する能力を有する細胞であれば特に限られないが、例えば、多能性幹細胞(例えば、iPS(induced Pluripotent Stem)細胞、ES(Embryonic Stem)細胞、Muse(Multilineage-differentiating stress-enduring)細胞又はEG(Embryonic Germ)細胞)、及び、当該多能性幹細胞以外の幹細胞(例えば、分化細胞のリプログラミングにより得られた幹細胞)からなる群より選択される1以上であることが好ましい。
【0027】
具体的に、毛包上皮系細胞は、毛包上皮幹細胞、毛母(hair matrix)細胞、外毛根鞘(outer root sheath)細胞、及び内毛根鞘(inner root sheath)細胞からなる群より選択される1以上であることが好ましく、毛包上皮幹細胞、毛母細胞、及び外毛根鞘細胞からなる群より選択される1以上であることが特に好ましい。
【0028】
毛包上皮系細胞の前駆細胞は、in vitroで当該毛包上皮系細胞に分化する能力を有する細胞であれば特に限られないが、例えば、胎児又は新生児の皮膚上皮系細胞(例えば、胎児又は新生児の皮膚の表皮層に由来する上皮系細胞)、及び、in vitroで当該毛包上皮系細胞に分化する能力を有する、多能性幹細胞以外の幹細胞からなる群より選択される1以上であることが好ましい。
【0029】
細胞凝集塊の形成に用いられる間葉系細胞は、本発明の効果が得られれば特に限られないが、例えば、毛包間葉系細胞及びその前駆細胞からなる群より選択される1以上であることが好ましい。毛包間葉系細胞は、発毛に寄与する間葉系細胞(より具体的には、例えば、毛包上皮系細胞と協調して発毛に寄与する間葉系細胞)である。
【0030】
毛包間葉系細胞は、生体の毛包から採取されたものであってもよいし、in vitroで未分化細胞から分化誘導されたものであってもよい。in vitroにおける毛包間葉系細胞の分化誘導に用いられる未分化細胞は、in vitroで当該毛包間葉系細胞に分化する能力を有する細胞であれば特に限られないが、例えば、多能性幹細胞(例えば、iPS細胞、ES細胞、Muse細胞又はEG細胞)、及び、当該多能性幹細胞以外の幹細胞(例えば、分化細胞のリプログラミングにより得られた幹細胞、及び、間葉系幹細胞(例えば、脂肪組織由来間葉系幹細胞)からなる群より選択される1以上)からなる群より選択される1以上であることが好ましい。
【0031】
具体的に、毛包間葉系細胞は、毛乳頭(dermal papilla)細胞、及び真皮毛根鞘(dermal sheath cup)細胞からなる群より選択される1以上であることが好ましく、毛乳頭細胞であることが特に好ましい。
【0032】
毛包間葉系細胞の前駆細胞は、in vitroで当該毛包間葉系細胞に分化する能力を有する細胞であれば特に限られないが、例えば、胎児又は新生児の皮膚間葉系細胞(例えば、胎児又は新生児の皮膚の真皮層に由来する間葉系細胞)、及び、in vitroで当該毛包間葉系細胞に分化する能力を有する、多能性幹細胞以外の幹細胞(例えば、脂肪組織由来間葉系幹細胞)からなる群より選択される1以上であることが好ましい。脂肪組織由来間葉系幹細胞は、本発明の効果が得られれば特に限られないが、例えば、生体の脂肪組織(皮下脂肪組織、及び/又は、他の脂肪組織)から採取される。
【0033】
共培養においては、上皮系細胞及び間葉系細胞のみを共培養して細胞凝集塊を形成してもよいが、さらに他の細胞を加えた共培養を行って細胞凝集塊を形成してもよい。他の細胞は、本発明の効果が得られれば特に限られないが、例えば、色素細胞、色素前駆細胞、及び色素幹細胞からなる群より選択される1以上であることが好ましい。
【0034】
他の細胞は、生体の毛包から採取されたものであってもよいし、in vitroで未分化細胞から分化誘導されたものであってもよい。in vitroにおける他の細胞の分化誘導に用いられる未分化細胞は、in vitroで当該他の細胞に分化する能力を有する細胞であれば特に限られないが、例えば、多能性幹細胞(例えば、iPS細胞、ES細胞、Muse細胞又はEG細胞)、及び、当該多能性幹細胞以外の幹細胞(例えば、分化細胞のリプログラミングにより得られた幹細胞)からなる群より選択される1以上であることが好ましい。
【0035】
共培養に用いる細胞は、毛包を有する動物に由来するものであれば特に限られず、ヒトに由来する細胞であってもよいし、ヒト以外の動物(非ヒト動物、例えば、霊長類(例えば、サル)、げっ歯類(例えば、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ)、食肉類(例えば、イヌ、ネコ)、及び有蹄類(例えば、ブタ、ウシ、ウマ、ヤギ、ヒツジ)等の非ヒト哺乳類))であってもよい。ただし、ヒトへの移植を目的とする場合には、ヒトの細胞を用いる。
【0036】
共培養に用いる細胞は、当該細胞を移植する個体に由来するものであることが好ましいが、当該細胞を移植する個体以外の個体に由来するものであってもよい。例えば、共培養に用いるヒト細胞は、当該ヒト細胞を移植するヒト患者に由来するものであることが好ましいが、当該患者以外のヒトに由来するもの(例えば、当該患者以外のヒトに由来する多能性幹細胞(例えば、セルバンクに保存されているiPS細胞、ES細胞、Muse細胞又はEG細胞)からin vitroで分化誘導された細胞)であってもよい。
【0037】
上皮系細胞及び間葉系細胞の共培養においては、まず当該上皮系細胞及び間葉系細胞を播種する。この点、その表面に毛様組織が形成された細胞凝集塊を得る細胞培養としては、上記非特許文献1に記載のように、多能性幹細胞の分化誘導により、当該毛様組織を有する細胞凝集塊を形成する方法も採用され得る。ただし、多能性幹細胞の分化誘導を含む方法は、長い培養時間と煩雑な操作が必須となる。また、多能性幹細胞の播種を含む方法においては、マトリゲル(登録商標)等の特殊な成分を培養液に添加する必要がある。また、多能性幹細胞の播種を含む方法においては、皮膚組織以外の組織も形成されることがある。
【0038】
これに対し、上皮系細胞及び間葉系細胞を播種する場合には、多能性幹細胞を用いる必要がない。このため、本実施形態に係る方法は、多能性幹細胞を播種することを含まないこととしてもよい。また、本実施形態に係る方法は、多能性幹細胞を分化させることを含まないこととしてもよい。また、本実施形態に係る方法は、多能性幹細胞を培養することを含まないこととしてもよい。
【0039】
上皮系細胞及び間葉系細胞の播種は、当該上皮系細胞及び間葉系細胞を培養容器(例えば、細胞培養用のウェル)に入れることにより行う。上皮系細胞及び間葉系細胞を共培養する培養容器は、本発明の効果が得られれば特に限られないが、例えば、1つの培養容器内において、当該培養容器に播種された上皮系細胞及び間葉系細胞を含む細胞から1つの細胞凝集塊を形成するのに適した、容量が比較的小さい培養容器が好ましく用いられる。
【0040】
具体的に、培養容器の底面(例えば、1つのウェルの底面)の面積は、例えば、1000mm以下であってもよく、500mm以下であることが好ましく、100mm以下であることがより好ましく、50mm以下であることがより一層好ましく、20mm以下であることが特に好ましい。
【0041】
また、培養容器の底面の面積は、例えば、0.01mm以上であってもよく、0.10mm以上であることが好ましく、0.30mm以上であることがより好ましく、0.50mm以上であることがより一層好ましく、0.70mm以上であることが特に好ましい。培養容器の底面の面積は、上述した下限値の一つと、上述した上限値の一つとを任意に組み合わせて特定されてもよい。
【0042】
上皮系細胞及び間葉系細胞の播種においては、当該上皮系細胞と間葉系細胞とを同時に播種することが好ましいが、当該上皮系細胞及び間葉系細胞のうち一方をまず播種し、その後、他方をさらに播種してもよい。
【0043】
上皮系細胞及び間葉系細胞の一方の播種と、他方の播種との時間間隔(すなわち、一方の細胞の播種から、両方の細胞の播種完了までの時間)は、本発明の効果が得られれば特に限られないが、例えば、48時間以下(0時間以上、48時間以下)であることとしてもよい。すなわち、この場合、上皮系細胞及び間葉系細胞の一方を播種してから48時間以内に、他方も播種して、当該上皮系細胞及び間葉系細胞の両方の播種を完了させる。
【0044】
上皮系細胞及び間葉系細胞の一方の播種と他方の播種との時間間隔は、例えば、45時間以下であることが好ましく、36時間以下であることがより好ましく、30時間以下であることがより一層好ましく、24時間以下であることが特に好ましい。
【0045】
さらに、上皮系細胞及び間葉系細胞の一方の播種と他方の播種との時間間隔は、例えば、18時間以下であることが好ましく、15時間以下であることがより好ましく、12時間以下であることがより一層好ましく、9時間以下であることが特に好ましい。
【0046】
さらに、上皮系細胞及び間葉系細胞の一方の播種と他方の播種との時間間隔は、例えば、6時間以下であることが好ましく、3時間以下であることがより好ましく、1時間以下であることがより一層好ましく、0時間であること(すなわち、上皮系細胞と間葉系細胞とを同時に播種すること)が特に好ましい。
【0047】
上皮系細胞及び間葉系細胞の播種においては、分散された当該上皮系細胞と、分散された当該間葉系細胞とを播種することが好ましい。すなわち、上皮系細胞及び間葉系細胞を同時に播種する場合には、当該上皮系細胞及び間葉系細胞が分散された細胞懸濁液を培養容器に入れる。また、上皮系細胞及び間葉系細胞の一方をまず播種し、その後、他方をさらに播種する場合には、まず当該一方の細胞が分散された細胞懸濁液を培養容器に入れ、次いで、当該他方の細胞が分散された細胞懸濁液を当該培養容器に追加的に入れる。
【0048】
上述のように細胞懸濁液を用いて播種された上皮系細胞及び間葉系細胞は、培養容器内の培養液中で分散され、混合される。培養液中に分散された個々の細胞は、実質的に他の細胞と結合しておらず、又は、他の細胞に付着しているがピペッティング等の操作により当該培養液を流動させることで当該他の細胞から容易に分離される。
【0049】
上皮系細胞及び間葉系細胞の播種密度は、本発明の効果が得られれば特に限られないが、例えば、播種された個々の細胞が培養容器内で隣接する細胞と接触可能となる程度の密度であることが好ましい。
【0050】
具体的に、上皮系細胞及び間葉系細胞の播種密度(培養容器の底面1cmあたりに播種する上皮系細胞及び間葉系細胞の総数)は、例えば、0.1×10個/cm以上であってもよく、0.5×10個/cm以上であることが好ましく、1.0×10個/cm以上であることがより好ましく、2.5×10個/cm以上であることがより一層好ましく、5.0×10個/cm以上であることが特に好ましい。また、上皮系細胞及び間葉系細胞の播種密度は、例えば、1000×10個/cm以下であってもよく、700×10個/cm以下であることが好ましく、500×10個/cm以下であることがより好ましく、400×10個/cm以下であることがより一層好ましく、300×10個/cm以下であることが特に好ましい。上皮系細胞及び間葉系細胞の播種密度は、上述した下限値の一つと、上述した上限値の一つとを任意に組み合わせて特定されてもよい。
【0051】
共培養において播種される細胞の総数に対する、上皮系細胞の数と間葉系細胞の数との合計の割合は、本発明の効果が得られれば特に限られないが、例えば、50%以上であることとしてもよく、60%以上であることが好ましく、70%以上であることがより好ましく、80%以上であることがより一層好ましく、90%以上であることが特に好ましい。
【0052】
同様に、共培養により形成される細胞凝集塊を構成する細胞の総数に対する、上皮系細胞の数と間葉系細胞の数との合計の割合は、本発明の効果が得られれば特に限られないが、例えば、50%以上であることとしてもよく、60%以上であることが好ましく、70%以上であることがより好ましく、80%以上であることがより一層好ましく、90%以上であることが特に好ましい。
【0053】
また、共培養において播種される上皮系細胞の数と、播種される間葉系細胞の数との比率(間葉:上皮播種比)は、本発明の効果が得られれば特に限られないが、例えば、1:10~10:1の範囲内であることとしてもよく、1:9~9:1の範囲内であることが好ましく、1:8~8:1の範囲内であることがより好ましく、1:7~7:1の範囲内であることがより一層好ましく、1:6~6:1の範囲内であることが特に好ましい。
【0054】
さらに、間葉:上皮播種比は、例えば、1:5~5:1の範囲内であることが好ましく、1:4~4:1の範囲内であることがより好ましく、1:3~3:1の範囲内であることがより一層好ましく、1:2~2:1の範囲内であることが特に好ましい。
【0055】
共培養においては、培養液中で上皮系細胞と間葉系細胞とを混合して培養することにより、当該上皮系細胞及び当該間葉系細胞を凝集させて細胞凝集塊を形成する。より具体的に、共培養においては、上皮系細胞及び間葉系細胞を、培養液中、分散され且つ混合された状態で播種し、培養時間の経過に伴って、当該上皮系細胞同士を凝集させ、当該間葉系細胞同士を凝集させ、及び、一部の上皮系細胞と一部の間葉系細胞との細胞間結合を形成させる。その結果、上皮系細胞が凝集して形成された上皮系細胞凝集部分と、間葉系細胞が凝集して形成された間葉系細胞凝集部分と、一部の上皮系細胞と一部の間葉系細胞との細胞間結合とを含む細胞凝集塊が得られる。
【0056】
細胞凝集塊を形成するためには、培養液中で上皮系細胞及び間葉系細胞が凝集する必要があるため、当該細胞凝集塊を形成するための当該上皮系細胞及び間葉系細胞の共培養は、全体として流動性を有する培養液中で行う。
【0057】
また、共培養においては、上皮系細胞及び間葉系細胞の浮遊培養を行って、細胞凝集塊を形成することが好ましい。浮遊培養においては、上皮系細胞及び間葉系細胞を非接着状態で培養し、非接着状態の細胞凝集塊を形成する。
【0058】
浮遊培養には、非細胞接着性の底面を有する培養容器が好ましく用いられる。この場合、上皮系細胞及び間葉系細胞は、非細胞接着性の底面上で、当該底面に実質的に接着することなく(すなわち、非接着状態で)培養される。すなわち、例えば、非細胞接着性の底面上に沈降した上皮系細胞及び間葉系細胞は、培養液中、当該底面に接着せず、又は、ピペッティング等の操作で当該培養液を流動させることにより当該底面から容易に脱離する程度に弱く当該底面に付着する。非細胞接着性の底面上で培養される上皮系細胞及び間葉系細胞の形状は、ほぼ球形に維持される。
【0059】
また、細胞凝集塊は、非細胞接着性の底面上で、当該底面に実質的に接着することなく(すなわち、非接着状態で)形成される。すなわち、例えば、非接着性の底面上で形成された細胞凝集塊は、培養液中、当該底面に接着せず、又は、ピペッティング等の操作で当該培養液を流動させることにより当該底面から容易に脱離する程度に弱く当該底面に付着する。
【0060】
また、共培養においては、1つの培養容器(例えば、1つのウェル)内において、当該培養容器に播種された上皮系細胞及び間葉系細胞を含む細胞から1つの細胞凝集塊を形成することが好ましい。
【0061】
毛様組織を有する細胞凝集塊を製造するための上皮系細胞及び間葉系細胞の共培養は、本発明による効果が得られれば特に限られないが、例えば、当該上皮系細胞及び間葉系細胞を、I型コラーゲン、フィブロネクチン、ラミニン及びエンタクチン、又はIV型コラーゲン(以下、これらを「マトリックス」と総称することがある。)が分散された培養液中で保持するマトリックス処理を含むことが好ましい。
【0062】
マトリックス処理は、例えば、マトリックスとしてI型コラーゲンが分散された培養液中で上皮系細胞及び間葉系細胞を保持する処理である。また、マトリックス処理は、例えば、マトリックスとしてフィブロネクチンが分散された培養液中で上皮系細胞及び間葉系細胞を保持する処理である。
【0063】
また、マトリックス処理は、例えば、マトリックスとしてラミニン及びエンタクチン(例えば、ラミニン/エンタクチン複合体)が分散された培養液中で上皮系細胞及び間葉系細胞を保持する処理である。また、マトリックス処理は、例えば、マトリックスとしてIV型コラーゲンが分散された培養液中で上皮系細胞及び間葉系細胞を保持する処理である。
【0064】
マトリックス処理に用いられる、マトリックスが分散された培養液(以下、「マトリックス処理用培養液」ということがある。)は、基本培養液(例えば、上皮系細胞及び間葉系細胞の共培養に使用可能な培養液)に、当該マトリックスを添加することにより調製される。すなわち、マトリックス処理用培養液は、外的に添加されたマトリックスを含む。
【0065】
マトリックス処理用培養液は、添加されたマトリックスを可溶化した状態(不溶化されていない状態)で含む。すなわち、マトリックス処理用培養液は、分散されたマトリックスとして、可溶化されたI型コラーゲン(不溶化されていないI型コラーゲン)、可溶化されたフィブロネクチン(不溶化されていないフィブロネクチン)、可溶化されたラミニン及びエンタクチン(不溶化されていないラミニン及びエンタクチン)、又は、可溶化されたIV型コラーゲン(不溶化されていないIV型コラーゲン)を含む。
【0066】
基本培養液は、本発明の効果が得られれば特に限られないが、例えば、DMEM/F12培地(Advanced Dulbecco‘s Modified Eagle Medium/Ham’s F-12、GIBCO(登録商標))に1%GultaMax Supplement(GIBCO(登録商標))及び0.2%Normоcin(InvivoGen)を添加して調製された培養液が好ましく用いられる。
【0067】
マトリックス処理用培養液の調製において添加されるマトリックスは、本発明の効果が得られれば特に限られないが、例えば、後述の実施例で用いられているような、商業的に入手可能なマトリックス製品が好ましく用いられる。
【0068】
また、添加されるマトリックスは、動物(ヒト又は非ヒト動物)に由来するものであってもよいし、培養細胞に由来するものであってもよいし、遺伝子組み換え技術を用いて合成されたものであってもよい。
【0069】
また、添加されるマトリックスは、抗原性を低減する処理が施されたものであってもよい。すなわち、例えば、コラーゲンは、テロペプチド部分が除去されたアテロコラーゲンであってもよい。
【0070】
特定のマトリックスが分散されたマトリックス処理用培養液は、さらに他のマトリックスが添加されていることとしてもよいし、他のマトリックスは添加されていないこととしてもよい。
【0071】
すなわち、例えば、I型コラーゲンが分散されたマトリックス処理用培養液は、さらにフィブロネクチン、ラミニン、エンタクチン又はIV型コラーゲンが添加されていることとしてもよいし、フィブロネクチン、ラミニン、エンタクチン又はIV型コラーゲンが添加されていないこととしてもよい。
【0072】
また、例えば、フィブロネクチンが分散されたマトリックス処理用培養液は、さらにフィブロネクチン、ラミニン、エンタクチン又はIV型コラーゲンが添加されていることとしてもよいし、フィブロネクチン、ラミニン、エンタクチン又はIV型コラーゲンが添加されていないこととしてもよい。
【0073】
また、例えば、ラミニン及びエンタクチンが分散されたマトリックス処理用培養液は、さらにI型コラーゲン、フィブロネクチン又はIV型コラーゲンが添加されていることとしてもよいし、I型コラーゲン、フィブロネクチン又はIV型コラーゲンが添加されていないこととしてもよい。
【0074】
また、例えば、IV型コラーゲンが分散されたマトリックス処理用培養液は、さらにI型コラーゲン、フィブロネクチン、ラミニン又はエンタクチンが添加されていることとしてもよいし、I型コラーゲン、フィブロネクチン、ラミニン又はエンタクチンが添加されていないこととしてもよい。
【0075】
マトリックス処理用培養液としては、I型コラーゲンが分散されたマトリックス処理用培養液が特に好ましい。また、マトリックス処理用培養液は、マトリックスとして主にI型コラーゲンを含むことが好ましい。すなわち、I型コラーゲンが分散されたマトリックス処理用培養液における、I型コラーゲンの含有量、フィブロネクチンの含有量、ラミニンの含有量、エンタクチンの含有量、及びIV型コラーゲンの含有量の合計に対する、当該I型コラーゲンの含有量の重量割合は、例えば、50重量%以上であってもよく、60重量%以上であることが好ましく、70重量%以上であることがより好ましく、80重量%以上であることがより一層好ましく、90重量%以上であることが特に好ましい。
【0076】
また、フィブロネクチンが分散されたマトリックス処理用培養液は、マトリックスとして主にフィブロネクチンを含むこととしてもよい。すなわち、フィブロネクチンが分散されたマトリックス処理用培養液における、I型コラーゲンの含有量、フィブロネクチンの含有量、ラミニンの含有量、エンタクチンの含有量、及びIV型コラーゲンの含有量の合計に対する、当該フィブロネクチンの含有量の重量割合は、例えば、50重量%以上であってもよく、60重量%以上であることが好ましく、70重量%以上であることがより好ましく、80重量%以上であることがより一層好ましく、90重量%以上であることが特に好ましい。
【0077】
また、ラミニン及びエンタクチンが分散されたマトリックス処理用培養液は、マトリックスとして主にラミニン及びエンタクチンを含むこととしてもよい。すなわち、ラミニン及びエンタクチンが分散されたマトリックス処理用培養液における、I型コラーゲンの含有量、フィブロネクチンの含有量、ラミニンの含有量、エンタクチンの含有量、及びIV型コラーゲンの含有量の合計に対する、当該ラミニンの含有量と当該エンタクチンの含有量との合計の重量割合は、例えば、50重量%以上であってもよく、60重量%以上であることが好ましく、70重量%以上であることがより好ましく、80重量%以上であることがより一層好ましく、90重量%以上であることが特に好ましい。
【0078】
また、IV型コラーゲンが分散されたマトリックス処理用培養液は、マトリックスとして主にIV型コラーゲンを含むこととしてもよい。すなわち、IV型コラーゲンが分散されたマトリックス処理用培養液における、I型コラーゲンの含有量、フィブロネクチンの含有量、ラミニンの含有量、エンタクチンの含有量、及びIV型コラーゲンの含有量の合計に対する、当該IV型コラーゲンの含有量の重量割合は、例えば、50重量%以上であってもよく、60重量%以上であることが好ましく、70重量%以上であることがより好ましく、80重量%以上であることがより一層好ましく、90重量%以上であることが特に好ましい。
【0079】
マトリックス処理用培養液は、上皮系細胞及び間葉系細胞の共培養において当該培養液が全体として流動性を維持する範囲内の濃度でマトリックスを含む。この点、例えば、一般に、細胞をマトリックスのハイドロゲル内に包埋して培養する場合、まず当該マトリックスのゲル化を生じない条件(例えば、ゲル化が起こらない温度)で当該細胞とゲル化に適した濃度の当該マトリックスとを含む懸濁液を調製し、次いで、当該マトリックスのゲル化に適した条件(例えば、ゲル化が起こる温度)で培養容器内の当該細胞及びマトリックスを含む懸濁液の全体をゲル化する。この結果、培養容器を満たす、流動性を有しないハイドロゲルが形成される。
【0080】
これに対し、マトリックス処理用培養液は、培養容器(例えば、ウェル)内において当該マトリックス処理用培養液中で上皮系細胞及び間葉系細胞の共培養を行っても、当該培養容器内のマトリックス処理用培養液が全体として流動性を維持する範囲内の濃度(すなわち、当該培養容器を満たす、流動性を有しないハイドロゲルが形成されない範囲内の濃度)でマトリックスを含む。なお、全体として流動性を維持するマトリックス処理用培養液は、例えば、分散されたマトリックスの濃度の培養液中における局所的な偏り等のために形成された、当該培養液中を浮遊するゲル状物を含んでもよい。ただし、この場合のゲル状物は、例えば、意図的に形成されたハイドロゲルビーズ(例えば、細胞が包埋されたハイドロゲルビーズ))ではなく、球状等の特定の形状を有しない。
【0081】
マトリックス処理においてマトリックス処理用培養液中にマトリックスを分散する目的は、当該培養液全体のゲル化ではないため、当該培養液中の当該マトリックスの濃度は、一般に培養液の全体をゲル化するために用いられる濃度に比べて低い。
【0082】
I型コラーゲンが分散されたマトリックス処理用培養液中の当該I型コラーゲンの濃度は、本発明の効果が得られれば特に限られないが、例えば、480μg/mL未満の濃度であることが好ましく、460μg/mL以下であることがより好ましく、420μg/mL以下であることがより一層好ましく、400μg/mL以下であることが特に好ましい。
【0083】
また、マトリックス処理用培養液におけるI型コラーゲンの濃度は、さらに、例えば、380μg/mL以下であることが好ましく、350μg/mL以下であることがより好ましく、300μg/mL以下であることがより一層好ましく、260μg/mL以下であることが特に好ましい。
【0084】
また、マトリックス処理用培養液におけるI型コラーゲンの濃度は、例えば、3μg/mL以上であることが好ましく、5μg/mL以上であることがより好ましく、10μg/mL以上であることがより一層好ましく、12μg/mL以上であることが特に好ましい。
【0085】
また、マトリックス処理用培養液におけるI型コラーゲンの濃度は、さらに、例えば、14μg/mL以上であることが好ましく、16μg/mL以上であることがより好ましく、18μg/mL以上であることがより一層好ましく、20μg/mL以上であることが特に好ましい。マトリックス処理用培養液におけるI型コラーゲンの濃度は、上述した上限値の一つと、上述した下限値の一つとを任意に組み合わせて特定されてもよい。
【0086】
フィブロネクチンが分散されたマトリックス処理用培養液中の当該フィブロネクチンの濃度は、本発明の効果が得られれば特に限られないが、例えば、450μg/mL以下であることが好ましく、400μg/mL以下であることがより好ましく、350μg/mL以下であることがより一層好ましく、300μg/mL以下であることが特に好ましい。
【0087】
また、マトリックス処理用培養液におけるフィブロネクチンの濃度は、さらに、例えば、250μg/mL以下であることが好ましく、200μg/mL以下であることがより好ましく、150μg/mL以下であることがより一層好ましく、120μg/mL以下であることが特に好ましい。
【0088】
また、マトリックス処理用培養液におけるフィブロネクチンの濃度は、例えば、1μg/mL以上であることが好ましく、2μg/mL以上であることがより好ましく、3μg/mL以上であることがより一層好ましく、4μg/mL以上であることが特に好ましい。マトリックス処理用培養液におけるフィブロネクチンの濃度は、上述した上限値の一つと、上述した下限値の一つとを任意に組み合わせて特定されてもよい。
【0089】
ラミニン及びエンタクチンが分散されたマトリックス処理用培養液中の当該ラミニン及びエンタクチンの濃度(ラミニンの濃度とエンタクチンの濃度との合計)は、本発明の効果が得られれば特に限られないが、例えば、1500μg/mL以下であることが好ましく、1000μg/mL以下であることがより好ましく、500μg/mL以下であることが特に好ましい。
【0090】
また、マトリックス処理用培養液におけるラミニン及びエンタクチンの濃度は、例えば、1μg/mL以上であることが好ましく、3μg/mL以上であることがより好ましく、5μg/mL以上であることが特に好ましい。マトリックス処理用培養液におけるラミニン及びエンタクチンの濃度は、上述した上限値の一つと、上述した下限値の一つとを任意に組み合わせて特定されてもよい。
【0091】
IV型コラーゲンが分散されたマトリックス処理用培養液中の当該IV型コラーゲンの濃度は、本発明の効果が得られれば特に限られないが、例えば、1000μg/mL以下であることが好ましく、500μg/mL以下であることがより好ましく、300μg/mL以下であることが特に好ましい。
【0092】
また、マトリックス処理用培養液におけるIV型コラーゲンの濃度は、例えば、1μg/mL以上であることが好ましく、3μg/mL以上であることがより好ましく、5μg/mL以上であることが特に好ましい。マトリックス処理用培養液におけるIV型コラーゲンの濃度は、上述した上限値の一つと、上述した下限値の一つとを任意に組み合わせて特定されてもよい。
【0093】
マトリックス処理において上皮系細胞及び間葉系細胞に接触させるマトリックスは、全体として流動性を有するマトリックス処理用培養液中に分散されている可溶化されたマトリックスである。すなわち、マトリックス処理において上皮系細胞及び間葉系細胞に接触させる分散されたマトリックスは、例えば、全体として流動性を有しないハイドロゲル(例えば、培養容器にハイドロゲルポリマーを含む溶液を注ぎ、当該培養容器内で当該溶液の全体をゲル化させて形成されるハイドロゲル)に上皮系細胞及び間葉系細胞が包埋されている場合において当該ハイドロゲルを構成しているマトリックスではない。また、マトリックス処理において上皮系細胞及び間葉系細胞に接触させる分散されたマトリックスは、例えば、全体として流動性を有しないハイドロゲルの表面に上皮系細胞及び間葉系細胞が保持されている場合において当該ハイドロゲルを構成しているマトリックスではない。また、マトリックス処理において上皮系細胞及び間葉系細胞に接触させる分散されたマトリックスは、例えば、上皮系細胞及び間葉系細胞が保持されている培養表面に予め固定化されているマトリックス(例えば、ウェル等の培養容器の底面に予めコーティングされたマトリックス)ではない。
【0094】
マトリックス処理においては、全体として流動性を有しないハイドロゲル(マトリックスを含むハイドロゲル、又は、マトリックスを含まないハイドロゲル)の表面上に保持されている上皮系細胞及び間葉系細胞を、全体として流動性を有するマトリックス処理用培養液中に保持して、当該培養液に分散されているマトリックスと接触させてもよい。
【0095】
ただし、マトリックス処理は、マトリックスを含み全体として流動性を有しないハイドロゲルの表面上に保持されている上皮系細胞及び間葉系細胞を、マトリックス処理用培養液中に保持して、当該培養液に分散されているマトリックスとを接触させることを含まないこととしてもよい。
【0096】
また、マトリックス処理は、マトリックスを含まず全体として流動性を有しないハイドロゲルの表面上に保持されている上皮系細胞及び間葉系細胞を、マトリックス処理用培養液中に保持して、当該培養液に分散されているマトリックスと接触させることを含まないこととしてもよい。
【0097】
また、マトリックス処理は、全体として流動性を有しないハイドロゲル(当該ハイドロゲルがマトリックスを含むかどうかに関わらず)の表面上に保持されている上皮系細胞及び間葉系細胞を、マトリックス処理用培養液中に保持して、当該培養液に分散されているマトリックスと接触させることを含まないこととしてもよい。
【0098】
マトリックス処理においては、マトリックスが予め固定化された培養表面上に保持されている上皮系細胞及び間葉系細胞を、マトリックス処理用培養液中に保持して、当該培養液に分散されている当該マトリックスとを接触させることを含んでもよい。
【0099】
ただし、マトリックス処理は、マトリックスが予め固定化された培養表面上に保持されている上皮系細胞及び間葉系細胞を、マトリックス処理用培養液中に保持して、当該培養液に分散されている当該マトリックスとを接触させることを含まないこととしてもよい。
【0100】
マトリックス処理は、細胞凝集塊が形成される前に、マトリックスを含むハイドロゲル中に上皮系細胞及び間葉系細胞を包埋して培養することを含まないこととしてもよい。また、マトリックス処理は、細胞凝集塊が形成される前に、マトリックスを含まないハイドロゲル中に上皮系細胞及び間葉系細胞を包埋して培養することを含まないこととしてもよい。また、マトリックス処理は、細胞凝集塊が形成される前に、ハイドロゲル(当該ハイドロゲルがマトリックスを含むかどうかに関わらず)中に上皮系細胞及び間葉系細胞を包埋して培養することを含まないこととしてもよい。
【0101】
マトリックス処理において、マトリックス処理用培養液中で上皮系細胞及び間葉系細胞を保持する温度は、本発明による効果が得られれば特に限られないが、例えば、当該上皮系細胞及び間葉系細胞の培養に適した温度(例えば、30℃以上、45℃以下の温度、好ましくは33℃以上、41℃以下の温度、より好ましくは34℃以上、40℃以下の温度、より一層好ましくは35℃以上、39℃以下の温度、特に好ましくは36℃以上、38℃以下の温度)であることが好ましい。
【0102】
マトリックス処理においてマトリックス処理用培養液中で上皮系細胞及び間葉系細胞を保持する時間は、本発明による効果が得られれば特に限られないが、例えば、3時間以上であることとしてもよく、6時間以上であることが好ましく、9時間以上であることがより好ましく、12時間以上であることが特に好ましい。
【0103】
さらに、マトリックス処理においては、マトリックス処理用培養液中で上皮系細胞及び間葉系細胞を15時間以上保持することが好ましく、18時間以上保持することがより好ましく、21時間以上保持することがより一層好ましく、24時間以上保持することが特に好ましい。
【0104】
マトリックス処理を開始するタイミングは、本発明の効果が得られれば特に限られないが、例えば、共培養のための上皮系細胞及び間葉系細胞の播種から72時間以内にマトリックス処理を開始することが好ましい。
【0105】
さらに、この上皮系細胞及び間葉系細胞の播種からマトリックス処理を開始するまでの時間間隔は、例えば、66時間以下であることがより好ましく、60時間以下であることがより一層好ましく、54時間以下であることが特に好ましい。
【0106】
さらに、上皮系細胞及び間葉系細胞の播種からマトリックス処理を開始するまでの時間間隔は、例えば、48時間以下であることが好ましく、45時間以下であることがより好ましく、42時間以下であることがより一層好ましく、39時間以下であることが特に好ましい。
【0107】
さらに、上皮系細胞及び間葉系細胞の播種からマトリックス処理を開始するまでの時間間隔は、例えば、36時間以下であることが好ましく、33時間以下であることがより好ましく、30時間以下であることがより一層好ましく、27時間以下であることが特に好ましい。
【0108】
さらに、上皮系細胞及び間葉系細胞の播種からマトリックス処理を開始するまでの時間間隔は、例えば、24時間以下であることが好ましく、21時間以下であることがより好ましく、18時間以下であることがより一層好ましく、15時間以下であることが特に好ましい。
【0109】
さらに、上皮系細胞及び間葉系細胞の播種からマトリックス処理を開始するまでの時間間隔は、例えば、12時間以下であることが好ましく、5時間以下であることがより好ましく、3時間以下であることがより一層好ましく、1時間以下であることが特に好ましい。
【0110】
マトリックス処理は、上皮系細胞及び間葉系細胞の播種と同時に開始すること(上皮系細胞及び間葉系細胞の播種からマトリックス処理を開始するまでの時間間隔は0時間)が好ましい。すなわち、この場合、例えば、上皮系細胞及び間葉系細胞をマトリックス処理用培養液中に分散して調製された細胞懸濁液を培養容器に入れることにより、当該上皮系細胞及び間葉系細胞を播種すると同時にマトリックス処理を開始する。
【0111】
一方、マトリックス処理を上皮系細胞及び間葉系細胞の播種後に開始する場合は、例えば、まずマトリックスが添加されていない培養液中で上皮系細胞及び間葉系細胞を播種し、その後、当該播種から上述した時間間隔の範囲内の時間が経過した時点で、マトリックス処理に必要な量のマトリックス(例えば、添加後の培養液中の濃度が、上述した上限値の一つ、及び/又は、上述した下限値の一つにより特定される範囲内の濃度となる量のマトリックス)を当該上皮系細胞及び間葉系細胞を含む培養液に添加して、マトリックス処理を開始する。
【0112】
マトリックス処理においては、マトリックス処理用培養液中で沈降した状態の上皮系細胞及び間葉系細胞を保持することが好ましい。すなわち、この場合、共培養は、播種された上皮系細胞及び間葉系細胞を培養液中で沈降させること、及び、当該沈降した上皮系細胞及び間葉系細胞を、マトリックス処理用培養液中で保持するマトリックス処理を含む。
【0113】
より具体的に、例えば、まず培養液中で、分散された上皮系細胞及び間葉系細胞を沈降させて、培養容器の底面上に堆積させる。そして、底面上に堆積した上皮系細胞及び間葉系細胞を、全体として流動性を有するマトリックス処理用培養液中で保持して、上皮系細胞及び間葉系細胞を当該培養液中に分散されたマトリックスと接触させる。
【0114】
上皮系細胞及び間葉系細胞を沈降させる方法は、本発明の効果が得られれば特に限られないが、例えば、当該上皮系細胞及び間葉系細胞が播種された培養容器を静置する方法、及び/又は、当該培養容器に遠心処理を施す方法が好ましく用いられる。
【0115】
上皮系細胞及び間葉系細胞の沈降は、当該上皮系細胞及び間葉系細胞の共培養を行う温度でマトリックス処理を開始する前に行うことが好ましい。すなわち、例えば、まず共培養を行う温度より低い温度(例えば、好ましくは10℃以下(0℃超、10℃以下)、より好ましくは7℃以下、特に好ましくは5℃以下)のマトリックス処理用培養液中で上皮系細胞及び間葉系細胞を沈降させ、その後、共培養を行う温度(例えば、30℃以上、45℃以下の温度、好ましくは33℃以上、41℃以下の温度、より好ましくは34℃以上、40℃以下の温度、より一層好ましくは35℃以上、39℃以下の温度、特に好ましくは36℃以上、38℃以下の温度)でマトリックス処理を行うこととしてもよい。
【0116】
また、例えば、まずマトリックスが添加されていない培養液中で上皮系細胞及び間葉系細胞を沈降させ、その後、当該培養液にマトリックス処理に必要な量のマトリックス(例えば、添加後の培養液中の濃度が、上述した上限値の一つ、及び/又は、上述した下限値の一つにより特定される濃度となる量のマトリックス)を添加し、共培養に適した温度でマトリックス処理を行うこととしてもよい。この場合、沈降した上皮系細胞及び間葉系細胞へのマトリックスの添加を、共培養を行う温度より低い温度(例えば、好ましくは10℃以下(0℃超、10℃以下)、より好ましくは7℃以下、特に好ましくは5℃以下)で行い、その後、共培養に適した温度でマトリックス処理を行うこととしてもよい。
【0117】
マトリックス処理は、上皮系細胞及び間葉系細胞の共培養の一部又は全部として行う。すなわち、共培養は、その全部をマトリックス処理用培養液中で行うこととしてもよい。また、共培養は、細胞凝集塊が形成されるまでマトリックス処理用培養液中で行うこととしてもよい。また、共培養は、その一部をマトリックス処理用培養液中で行い、他の部分を当該マトリックス処理用培養液よりマトリックスの濃度が低い培養液中で行ってもよい。
【0118】
より具体的に、例えば、共培養は、マトリックスを第一の濃度で含むマトリックス処理用培養液中で上皮系細胞及び間葉系細胞のマトリックス処理を行うこと、及び、当該マトリックス処理後、当該第一の濃度より小さい第二の濃度で当該マトリックスを含む培養液中で、当該上皮系細胞及び間葉系細胞の共培養を継続することを含んでもよい。
【0119】
この場合、第二の濃度は、本発明の効果が得られれば特に限られないが、第一の濃度に対する当該第二の濃度の割合は、例えば、90%以下であってもよいし、70%以下であってもよいし、50%以下であってもよいし、30%以下であってもよいし、10%以下であってもよい。また、第二の濃度としては、異なる2以上の濃度を採用することとしてもよい。すなわち、培養時間の経過に伴って、第二の濃度が変化する(例えば、第二の濃度が低下する)こととしてもよい。
【0120】
共培養中の培養液におけるマトリックスの濃度をマトリックス処理用培養液のそれより低減させる方法は、本発明の効果が得られれば特に限られないが、例えば、当該共培養の開始から一定の時間が経過した時点で、培養容器中のマトリックス処理用培養液の一部を除去し、代わりにマトリックスの濃度が当該マトリックス処理用培養液のそれより低い培養液(例えば、当該マトリックスが添加されていない培養液)を添加することとしてもよい。
【0121】
共培養においては、上皮系細胞及び間葉系細胞の播種、マトリックス処理、及び細胞凝集塊の形成を同一の培養容器(例えば、同一のウェル)内で連続的に行うことが好ましい。すなわち、いったん培養容器に上皮系細胞及び間葉系細胞を播種した後は、当該上皮系細胞及び間葉系細胞を当該培養容器から取り出すことなく、当該培養容器内でマトリックス処理及び細胞凝集塊の形成を行うことが好ましい。
【0122】
マトリックス処理を含む共培養によれば、マトリックス処理用培養液に代えてマトリックスが分散されていない培養液(すなわち、当該マトリックスが添加されていない培養液)を用いたこと以外は同一の条件で形成される細胞凝集塊(以下、「対照細胞凝集塊」ということがある。)に比べて、1以上の発毛関連遺伝子の発現量が増幅した細胞凝集塊を得ることができる。具体的に、例えば、上記対照細胞凝集塊に比べて、1以上の発毛関連遺伝子の発現量が2倍以上大きい細胞凝集塊が得られる。
【0123】
細胞凝集塊が発現する発毛関連遺伝子は、発毛に関連する遺伝子であれば特に限られないが、例えば、毛包発生に関連する1以上のマーカー遺伝子(例えば、Tgfb2、Sox21、Lgr5、Lhx2、Edaradd、Pdgfa、及びLgr4からなる群より選択される1以上)であることとしてもよい。
【0124】
すなわち、マトリックス処理を含む共培養により得られる細胞凝集塊は、上記対照細胞凝集塊に比べて、Tgfb2遺伝子の発現量が2倍以上であってもよく、Sox21遺伝子の発現量が2倍以上であってもよく、Lgr5遺伝子の発現量が2倍以上であってもよく、Lhx2遺伝子の発現量が2倍以上であってもよく、Edaradd遺伝子の発現量が2倍以上であってもよく、Pdgfa遺伝子の発現量が2倍以上であってもよく、又は、Lgr4遺伝子の発現量が2倍以上であってもよい。
【0125】
上皮系細胞及び間葉系細胞を播種することを含む当該上皮系細胞及び間葉系細胞の共培養を採用することにより、in vitroにおいて、その表面に毛様組織が形成された細胞凝集塊を効果的に製造することができる。
【0126】
また、その表面に毛様組織が形成された細胞凝集塊を得るための細胞培養は、例えば、上記非特許文献1に記載されているようなiPS細胞等の多能性幹細胞の分化誘導培養であってもよい。
【0127】
この点、上記非特許文献1には、次のような分化誘導培養方法が記載されている。まずiPS細胞を外胚葉分化培地(ectodermal differentiation medium)に懸濁して、低細胞接着性のU字底面を有するウェル(96-ウェルプレート)に3×10個/ウェル(100μL)の密度で播種する。
【0128】
培養1日目に、ウェル内の培養液の半量(50μL)を除去し、4%(v/v)のマトリゲル(登録商標)(添加後の終濃度は2%(v/v))を含む新鮮な外胚葉分化培地50μLを添加する。
【0129】
培養3日目に、50ng/mL~250ng/mLのBMP-4及び5μMのSB431542(ALK阻害剤)を含みマトリゲルを含まない新鮮な外胚葉分化培地25μLをウェルに添加する(添加後のBMP-4濃度は10ng/mL~50ng/mL、SB431542濃度は1μM、培養液量125μL/ウェル)。
【0130】
培養4日目に、6μMのLDN(ALK阻害剤)及び150ng/mLのFGF-2を含みマトリゲルを含まない新鮮な外胚葉分化培地25μLをウェルに添加する(添加後のLDN濃度は1μM、FGF-2濃度は25ng/mL、培養液量150μL/ウェル)。
【0131】
培養8日目に、ウェル内の細胞凝集塊を、マトリゲルを1%(v/v)含む成熟培地(maturation medium)500μLが入ったウェル(24-ウェルプレート)に移す。
【0132】
培養10日目からは、2日に一度、培養30日目まで、ウェル内の培養液の半量(250μL)を除去し、マトリゲルを含まない新鮮な成熟培地250μLを添加する培地交換を行う。
【0133】
ただし、iPS細胞等の多能性幹細胞の分化誘導を用いてin vitroで毛様組織を形成する方法は、操作が煩雑であることや、細胞凝集塊の表面に形成された毛様組織を構成する細胞を生体に移植するうえでの安全性の確保に注意を要する。
【0134】
これに対し、多能性幹細胞を用いることなく、上皮系細胞及び間葉系細胞を播種し、当該上皮系細胞及び間葉系細胞の共培養によって、毛様組織を有する細胞凝集塊を形成する方法は、操作が簡便であり、且つ、当該毛様組織を生体に移植するための安全性も確保しやすい。
【0135】
細胞凝集塊の毛様組織は、上皮系細胞及び間葉系細胞を含み、当該細胞凝集塊の表面から突出する構造として形成される。細胞凝集塊の表面に形成された毛様組織は、例えば、その自由端である先端部分に毛乳頭様構造を有する。なお、細胞凝集塊の表面に形成された毛様組織は、その根元部分(自由端である先端部分と反対側の端部)には毛乳頭様構造を有しない。
【0136】
毛様組織の毛乳頭様構造は、生体の毛包内の毛乳頭に類似した構造を有する。すなわち、毛乳頭様構造は、球状の形状を有する。また、毛乳頭様構造は、間葉系細胞(例えば、毛乳頭細胞)を含む。すなわち、毛乳頭様構造は、例えば、Versican陽性細胞の凝集塊として特定される。
【0137】
具体的に、毛乳頭様構造を構成する細胞の総数に対する、当該毛乳頭様構造に含まれる間葉系細胞(例えば、毛乳頭細胞)の数の割合は、例えば、50%以上であってもよく、60%以上であることが好ましく、70%以上であることがより好ましく、80%以上であることがより一層好ましく、90%以上であることが特に好ましい。
【0138】
また、毛様組織は、例えば、毛幹様構造を有する。毛様組織の毛幹様構造は、生体の毛包内の毛幹に類似した構造を有する。すなわち、毛幹様構造は、ケラチンを含む。また、毛幹様構造は、キューティクル構造を有する。また、毛様組織の毛幹様構造は、当該毛様組織の先端部分に含まれる毛乳頭様構造の近傍から、当該毛様組織の根元部分に向けて延びる。毛幹様構造は、メラニンを含むことが好ましい。
【0139】
また、毛様組織は、毛細血管を含まない。すなわち、例えば、毛様組織に含まれる毛乳頭様構造は、生体から採取される毛包に含まれる毛乳頭と異なり、毛細血管を含まない。
【0140】
細胞凝集塊の表面から突出する毛様組織の長さは、培養時間の経過に伴い変化するが、例えば、200μm以上であることとしてもよく、400μm以上であることが好ましく、600μm以上であることがより好ましく、800μm以上であることがより一層好ましく、1000μm以上であることが特に好ましい。
【0141】
さらに、細胞凝集塊の表面から突出する毛様組織の長さは、例えば、2mm(2000μm)以上であることが好ましく、4mm以上であることがより好ましく、6mm以上であることがより一層好ましく、8mm以上であることが特に好ましい。また、細胞凝集塊の表面から突出する毛様組織の長さは、例えば、100mm以下であってもよい。
【0142】
毛様組織を有する細胞凝集塊は、その内部にcyst(嚢胞)様構造を有することとしてもよい。このcyst様構造は、その外周を細胞核を有する細胞によって覆われた、細胞核を有しない構造として特定される。具体的に、cyst様構造は、例えば、HE(ヘマトキシリン・エオシン)染色された細胞凝集塊の断面の中央部において、その外周を細胞核を有する細胞によって覆われた、細胞核を有しない、ピンク色に染色される構造として観察される。
【0143】
また、例えば、多能性幹細胞を用いることなく細胞凝集塊を形成する場合、当該細胞凝集塊は、上記非特許文献1で形成される組織と異なり、立毛筋構造及び/又は皮脂腺構造を含まないこととしてもよい。また、細胞凝集塊は、毛髪再生能を有することが好ましい。細胞凝集塊の毛髪再生能は、当該細胞凝集塊を生体に移植した場合に、当該細胞凝集塊が移植された部位において発毛を生じさせる能力である。
【0144】
共培養は、上皮系細胞及び間葉系細胞の浮遊培養を行って、細胞凝集塊を形成すること、及び、当該浮遊培養により形成された細胞凝集塊をハイドロゲル中に包埋してさらに培養すること、を含むこととしてもよい。
【0145】
この場合、まず浮遊培養においては、その表面に毛様組織を有しない細胞凝集塊(例えば、その表面に毛様組織を形成する能力を有するが、その表面に未だ毛様組織が形成されていない細胞凝集塊)を形成してもよいし、又は、その表面に毛様組織を有する細胞凝集塊を形成してもよい。
【0146】
次に、浮遊培養により形成された細胞凝集塊をハイドロゲルに包埋して培養する。すなわち、まず培養容器内において、ハイドロゲルを形成するための溶液(以下、「ハイドロゲル形成用溶液」ということがある。)中に細胞凝集塊を保持し、次いで、当該培養容器内の当該溶液の全体をゲル化させることにより、当該細胞凝集塊が包埋され、全体として流動性を有しないハイドロゲルを形成する。
【0147】
ハイドロゲル形成用溶液は、本発明の効果が得られれば特に限られないが、例えば、マトリックスを含むことが好ましい。すなわち、ハイドロゲル形成用溶液は、I型コラーゲン、フィブロネクチン、ラミニン及びエンタクチン、及びIV型コラーゲンからなる群より選択される1以上を含むことが好ましく、I型コラーゲン、フィブロネクチン、及び、ラミニン及びエンタクチンからなる群より選択される1以上を含むことがより好ましく、I型コラーゲンを含むことが特に好ましい。
【0148】
また、細胞凝集塊が包埋されるハイドロゲルは、I型コラーゲン、フィブロネクチン、ラミニン及びエンタクチン、及びIV型コラーゲンからなる群より選択される1以上を含むことが好ましく、I型コラーゲン、フィブロネクチン、及び、ラミニン及びエンタクチンからなる群より選択される1以上を含むことがより好ましく、I型コラーゲンを含むことが特に好ましい。
【0149】
マトリックスを含むハイドロゲル形成用溶液、及び、マトリックスを含むハイドロゲルは、さらに他のマトリックスが添加されていることとしてもよいし、他のマトリックスは添加されていないこととしてもよい。
【0150】
すなわち、例えば、I型コラーゲンを含むハイドロゲル形成用溶液、及び、I型コラーゲンを含むハイドロゲルは、さらにフィブロネクチン、ラミニン、エンタクチン又はIV型コラーゲンが添加されていることとしてもよいし、フィブロネクチン、ラミニン、エンタクチン又はIV型コラーゲンは添加されていないこととしてもよい。
【0151】
マトリックスを含むハイドロゲル形成用溶液は、マトリックス処理用培養液と同様、基本溶液(例えば、上皮系細胞及び間葉系細胞の共培養に使用可能な培養液であってもよい、当該上皮系細胞及び間葉系細胞の生存を維持できる水溶液)に、当該マトリックスを添加することにより調製される。
【0152】
ハイドロゲル形成用溶液に含まれるマトリックスの濃度は、本発明による効果が得られれば特に限られないが、例えば、培養に適した温度において培養容器内の当該溶液の全体がゲル化する濃度であることが好ましい。
【0153】
具体的に、I型コラーゲンを含むハイドロゲルを形成する場合、ハイドロゲル形成用溶液中のI型コラーゲン濃度、及び当該溶液全体のゲル化により得られるハイドロゲル中のI型コラーゲン濃度は、例えば、500μg/mL以上であることが好ましく、1000μg/mL以上であることがより好ましく、1500μg/mL以上であることがより一層好ましく、2000μg/mL以上であることが特に好ましい。また、ハイドロゲル形成用溶液中のI型コラーゲン濃度、及び当該溶液全体のゲル化により得られるハイドロゲル中のI型コラーゲン濃度は、例えば、3500μg/mL以下であってもよい。
【0154】
また、フィブロネクチンを含むハイドロゲルを形成する場合、ハイドロゲル形成用溶液中のフィブロネクチン濃度、及び当該溶液全体のゲル化により得られるハイドロゲル中のフィブロネクチン濃度は、例えば、500μg/mL以上であることが好ましく、1000μg/mL以上であることがより好ましく、1500μg/mL以上であることがより一層好ましく、2000μg/mL以上であることが特に好ましい。また、ハイドロゲル形成用溶液中のフィブロネクチン濃度、及び当該溶液全体のゲル化により得られるハイドロゲル中のフィブロネクチン濃度は、例えば、3500μg/mL以下であってもよい。
【0155】
また、ラミニン及びエンタクチンを含むハイドロゲルを形成する場合、ハイドロゲル形成用溶液中のラミニン及びエンタクチンの濃度(ラミニンの濃度とエンタクチンの濃度との合計)、及び当該溶液全体のゲル化により得られるハイドロゲル中のラミニン及びエンタクチンの濃度は、例えば、1800μg/mL以上であることが好ましく、2000μg/mL以上であることがより好ましく、2200μg/mL以上であることが特に好ましい。また、ハイドロゲル形成用溶液中のラミニン及びエンタクチンの濃度、及び当該溶液全体のゲル化により得られるハイドロゲル中のラミニン及びエンタクチンの濃度は、例えば、3500μg/mL以下であってもよい。
【0156】
細胞凝集塊を包埋するハイドロゲルに含まれるマトリックスの種類は、当該細胞凝集塊の形成するための共培養におけるマトリックス処理で用いられたマトリックスの種類と同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0157】
すなわち、I型コラーゲン、フィブロネクチン、ラミニン及びエンタクチン、及びIV型コラーゲンからなる群より選択される1以上を用いたマトリックス処理を含む共培養によって細胞凝集塊を形成し、その後、I型コラーゲン、フィブロネクチン、ラミニン及びエンタクチン、及びIV型コラーゲンからなる群より選択される1以上を含むハイドロゲルに当該細胞凝集塊を包埋して培養してもよい。
【0158】
また、I型コラーゲン、フィブロネクチン、ラミニン及びエンタクチン、及びIV型コラーゲンからなる群より選択される1以上を用いたマトリックス処理を含む共培養によって細胞凝集塊を形成し、その後、I型コラーゲン、フィブロネクチン、ラミニン及びエンタクチン、及びIV型コラーゲンからなる群より選択される、当該マトリックス処理で用いられた1以上のマトリックスを含むハイドロゲルに当該細胞凝集塊を包埋して培養してもよい。
【0159】
なお、コスト及び安全性の観点から、I型コラーゲンを用いたマトリックス処理を含む共培養によって細胞凝集塊を形成し、その後、I型コラーゲンを含むハイドロゲルに当該細胞凝集塊を包埋して培養することが特に好ましい。
【0160】
細胞凝集塊のハイドロゲル包埋培養は、例えば、培養容器内のハイドロゲルの上に培養液を添加して、当該ハイドロゲルの内部で当該細胞凝集塊を培養することにより行うことが好ましい。
【0161】
その表面に毛様組織を有しない細胞凝集塊をハイドロゲルに包埋して培養することにより、当該ハイドロゲル内において当該細胞凝集塊の表面に毛様組織を効果的に形成することができる。また、その表面に毛様組織が形成された細胞凝集塊をハイドロゲルに包埋して培養することにより、当該ハイドロゲル内において当該毛様組織を効果的に成長させる(例えば、当該毛様組織の長さを効果的に増加させる)ことができる。このように、共培養が細胞凝集塊のハイドロゲル包埋培養を含むことにより、当該細胞凝集塊における毛様構造の形成を効果的に促進することができる。
【0162】
そして、移植用毛様組織の製造においては、上述のようにして細胞凝集塊の表面に形成された毛様組織を、生体に移植するために、当該細胞凝集塊から切断して回収する。細胞凝集塊から毛様組織を切断する方法は、本発明の効果が得られれば特に限られないが、例えば、ハサミ等の切断器具を用いて当該毛様組織の根元部分を切断することが好ましい。
【0163】
細胞凝集塊から切断され回収された毛様組織(すなわち、移植用毛様組織)は、生体に移植するために製造された移植片であり、当該細胞凝集塊から独立した、上皮系細胞及び間葉系細胞を含む組織体である。
【0164】
未だ生体に移植されていない移植用毛様組織(以下、「毛様移植片」ということがある。)は、自由端である一方の先端部分と、自由端である他方の先端部分とを有する。より具体的に、毛様移植片は、例えば、細胞凝集塊から切り離されたことに起因して、切断面を有しない一方の先端部分(細胞凝集塊の表面に形成された毛様組織において、自由端であった先端部分)と、切断面を有する他方の先端部分とを有する。
【0165】
毛様移植片は、例えば、一方の先端部分(例えば、切断面を有しない先端部分)に毛乳頭様構造を有する。毛様移植片の毛乳頭様構造は、生体の毛包内の毛乳頭に類似した構造を有する。すなわち、毛乳頭様構造は、球状の形状を有する。また、毛乳頭様構造は、間葉系細胞(例えば、毛乳頭細胞)を含む。すなわち、毛乳頭様構造は、主に間葉系細胞(例えば、毛乳頭細胞)から構成される。
【0166】
具体的に、毛乳頭様構造を構成する細胞の総数に対する、当該毛乳頭様構造に含まれる間葉系細胞(例えば、毛乳頭細胞)の数の割合は、例えば、50%以上であってもよく、60%以上であることが好ましく、70%以上であることがより好ましく、80%以上であることがより一層好ましく、90%以上であることが特に好ましい。なお、毛様移植片は、他方の先端部分(例えば、切断面を有する先端部分)には毛乳頭様構造を有しない。
【0167】
また、毛様移植片は、例えば、毛幹様構造を有する。毛様移植片の毛幹様構造は、生体の毛包内の毛幹に類似した構造を有する。すなわち、毛幹様構造は、ケラチンを含む。また、毛幹様構造は、キューティクル構造を有する。また、毛様移植片の毛幹様構造は、当該毛様移植片の一方の先端部分に含まれる毛乳頭様構造の近傍から、当該毛様移植片の他方の先端部分に向けて延びる。また、毛幹様構造は、メラニンを含むことが好ましい。
【0168】
また、毛様組織は、毛細血管を含まない。すなわち、例えば、毛様組織に含まれる毛乳頭様構造は、生体から採取される毛包に含まれる毛乳頭と異なり、毛細血管を含まない。
【0169】
毛様移植片の長さは、本発明の効果が得られれば特に限られないが、例えば、200μm以上であることとしてもよく、400μm以上であることが好ましく、600μm以上であることがより好ましく、800μm以上であることがより一層好ましく、1000μm以上であることが特に好ましい。
【0170】
さらに、毛様移植片の長さは、例えば、2mm以上であることが好ましく、4mm以上であることがより好ましく、6mm以上であることがより一層好ましく、8m以上であることが特に好ましい。
【0171】
また、毛様移植片の長さは、例えば、100mm以下であってもよく、50mm以下であることが好ましく、30mm以下であることがより好ましく、20mm以下であることが特に好ましい。毛様移植片の長さは、上述した上限値の一つと、上述した下限値の一つとを任意に組み合わせて特定されてもよい。
【0172】
本実施形態に係る方法は、生体への移植のために回収した毛様移植片を冷却保存することを含んでもよい。この場合、例えば、毛様移植片を、生体に移植されるまでの間、冷却保存する。具体的に、例えば、培養容器から回収された毛様移植片を、当該培養容器とは別の容器に移して冷却保存する。
【0173】
毛様移植片を冷却保存する温度は、本発明の効果が得られれば特に限られないが、例えば、10℃以下(0℃超、10℃以下)であることが好ましく、7℃以下であることがより好ましく、5℃以下であることが特に好ましい。
【0174】
本実施形態に係る毛髪再生方法は、上述のようにしてin vitroで製造された毛様移植片を生体に移植することを含む。毛様移植片の生体への移植は、移植後の当該毛様移植片の構造が、生体の毛包の構造に類似するように実施する。
【0175】
すなわち、生体の毛包においては、毛乳頭が当該生体の内部側に配置され、毛幹の自由端が当該生体の外側に配置される。このため、移植後の毛様移植片の毛乳頭様構造を含む一方の先端部分が生体の内部側となるように、当該毛様移植片を当該生体に移植する。また、移植後の生体において、毛様移植片の毛乳頭様構造を含まない他方の先端部分が自由端となるように、当該毛様移植片を当該生体に移植することが好ましい。
【0176】
毛様移植片を移植する生体は、ヒトであってもよいし、非ヒト動物であってもよいが、ヒトであることが好ましい。毛様移植片の生体への移植は、当該生体の皮膚への移植であることが好ましく、当該生体の頭皮への移植であることが特に好ましい。
【0177】
毛様移植片の生体への移植は、医学的用途であってもよいし、研究用途であってもよい。毛様移植片の生体への移植は、脱毛を伴う疾患の治療又は予防のためであることが好ましい。すなわち、毛様移植片の生体への移植は、脱毛を伴う疾患を患っている又は患う可能性のあるヒト患者への移植であることが好ましい。したがって、本実施形態に係る毛髪再生方法は、脱毛を伴う疾患の治療又は予防方法であることが好ましい。
【0178】
脱毛を伴う疾患は、特に限られないが、例えば、男性型脱毛症(Androgenetic Alopecia:AGA)、女子男性型脱毛症(Female Androgenetic Alopecia:FAGA)、分娩後脱毛症、びまん性脱毛症、脂漏性脱毛症、粃糠性脱毛症、牽引性脱毛症、代謝異常性脱毛症、圧迫性脱毛症、円形脱毛症、神経性脱毛症、抜毛症、全身性脱毛症、及び症候性脱毛症からなる群より選択される1以上であることとしてもよい。
【0179】
また、in vitroで製造された毛様移植片は、例えば、脱毛を伴う疾患の治療又は予防に使用され得る物質の探索、当該疾患に関与する物質の探索、当該疾患のメカニズムに関する研究のために用いてもよい。
【0180】
次に、本実施形態に係る具体的な実施例について説明する。
【実施例0181】
[上皮系細胞及び間葉系細胞の採取]
胎齢18日のC57BL/6マウス胎児より背部の皮膚組織を採取し、ディスパーゼ処理を4℃で1時間、20~30rpm振とう条件で行い、当該皮膚組織の上皮層と間葉層とを分離した。その後、上皮層に100U/mLのコラゲナーゼ処理を80分施し、さらにトリプシン処理を10分施すことで、上皮系細胞を単離した。また、間葉層に100U/mLのコラゲナーゼ処理を80分施すことで間葉系細胞を単離した。
【0182】
[細胞凝集塊の製造]
まずDMEM/F12培地(Advanced Dulbecco‘s Modified Eagle Medium/Ham’s F-12、GIBCO(登録商標))に1%GultaMax Supplement(GIBCO(登録商標))及び0.2%Normоcin(InvivoGen)を添加して基本培地を調製した。
【0183】
次いで、4℃に冷却した基本培地に、4℃に冷却したI型コラーゲン原液(Cellmatrix(登録商標) Type I-A、I型コラーゲン濃度2.4mg/mL、新田ゼラチン株式会社)を、終濃度が2.4μg/mL、24μg/mL、120μg/mL、240μg/mL、360μg/mL、又は480μg/mLとなるように添加し、I型コラーゲン濃度が異なる6種類の培養液を調製した。
【0184】
その後、4℃の各培養液に、それぞれの細胞密度が5×10cells/mLとなる量(総細胞密度が1×10cells/mLとなる量)の上皮系細胞及び間葉系細胞を懸濁し、細胞懸濁液(すなわち、上皮系細胞及び間葉系細胞が分散され、且つ、2.4μg/mL、24μg/mL、120μg/mL、240μg/mL、360μg/mL、又は480μg/mLの濃度でI型コラーゲンが分散されたマトリックス処理用培養液)を調製した。そして、4℃の細胞懸濁液を96ウェルプレートの各ウェルに200μLずつ注ぐことで、1×10cells/ウェルの上皮系細胞及び1×10cells/ウェルの間葉系細胞を播種した。
【0185】
播種後、96ウェルプレートを4℃の冷蔵庫内で30分静置して、細胞をウェルの底面上に沈降させ、堆積させた。その後、96ウェルプレートを37℃のインキュベータに移し、共培養(浮遊培養)を開始した。
【0186】
8日間の共培養期間中、2日に一度、培養液の交換を行った。培養液の交換は、各ウェルの培養液の半量(100μL)を除去し、その後、I型コラーゲンを添加していない培養液(基本培地)100μLを添加することにより行った。なお、全ての条件において、培養期間を通じて、ウェル内の培養液は、全体として流動性を維持していた。
【0187】
[結果]
図1には、培養8日目の顕微鏡写真を示す。図1に示すように、播種時の培養液中のI型コラーゲン濃度(すなわち、マトリックス処理におけるI型コラーゲン濃度)が異なる6つの培養系の全てにおいて、上皮系細胞及び間葉系細胞が凝集し、各ウェルに1つずつ細胞凝集塊が形成された。
【0188】
また、播種時の培養液中のI型コラーゲン濃度が24μg/mL、120μg/mL、240μg/mL又は360μg/mLであった4つの培養系において、毛様組織(図1に含まれる4つの写真のそれぞれにおいて矢印で示す部分)を有する細胞凝集塊の形成が確認された。
【0189】
すなわち、これら4つの培養系においては、まず浮遊培養の開始後、上皮系細胞及び間葉系細胞が凝集し始め、培養1日目には細胞凝集塊が形成された。その後、培養4日目から6日目には細胞凝集塊の表面に毛様組織が形成され始めた。細胞凝集塊の毛様組織は、培養時間の経過に伴って伸長した。
【0190】
図2には、播種時(マトリックス処理時)の培養液中のI型コラーゲン濃度と、培養8日目の細胞凝集塊における毛様組織の形成効率とを対応させて示す。図2に示すように、I型コラーゲン濃度が24μg/mL、120μg/mL又は240μg/mLであった培養系では、全ての細胞凝集塊において毛様組織が形成された(毛様組織の形成効率100%)。また、I型コラーゲン濃度が360μg/mLであった培養系では、6個の細胞凝集塊のうち3個において毛様組織が形成された(毛様組織の形成効率50%)。一方、I型コラーゲン濃度が2.4μg/mL及び480μg/mLであった培養系では、全ての細胞凝集塊において毛様組織は形成されなかった(毛様組織の形成効率0%)。
【0191】
図3には、播種時の培養液中のI型コラーゲン濃度と、培養8日目において1つの細胞凝集塊あたりに形成されていた毛様組織の本数との関係を示す。すなわち、図3において横軸は播種時の培養液中のI型コラーゲン濃度を示し、縦軸は細胞凝集塊に形成された毛様組織の総数を当該細胞凝集塊の個数で除して得られた算術平均値を示す。
【0192】
図3に示すように、I型コラーゲン濃度が24μg/mL、120μg/mL又は240μg/mLであった培養系では、1つの細胞凝集塊に平均して3~5本の毛様組織が形成された。
【0193】
図4には、播種時の培養液中のI型コラーゲン濃度が120μg/mLであった培養系における培養8日目の細胞凝集塊の顕微鏡写真を示す。図4の写真(ii)には、写真(i)に示す四角の枠内の部分を拡大して示す。
【0194】
図4の写真(i)において矢印で示すように、1つの細胞凝集塊に少なくとも4本の毛様組織が形成されているのが確認された。また、図4の写真(ii)において矢頭で示すように、細胞凝集塊から伸び出た毛様組織の自由端である先端部分には、膨らみのある構造が観察された。
【0195】
図5には、播種時の培養液中のI型コラーゲン濃度が120μg/mLであった培養系における培養8日目の細胞凝集塊の切片をHE染色した結果を示す。図5の写真(ii)には、写真(i)に示す四角の枠内の部分を拡大して示す。
【0196】
図5の写真(i)において黒色矢印で示すように、この切片において2本の毛様組織が確認された。さらに、写真(ii)において白色矢印で示すように、毛様組織の先端には、生体の毛乳頭に類似した毛乳頭様構造と、当該毛乳頭様構造の近傍に形成され、生体の毛幹に類似した黒色の毛幹様構造の一部とが確認された。
【0197】
また、写真(i)において白色矢印で示すように、細胞凝集塊の中央部分には、ピンク色に染色された、cyst(嚢胞)様構造が確認された。このcyst様構造は、細胞核を有しない構造であった。また、cyst様構造の外周は、細胞核を有する細胞によって覆われていた。
【0198】
図6には、播種時の培養液中のI型コラーゲン濃度が120μg/mLであった培養系で形成された培養8日目の細胞凝集塊の切片においてVersicanを蛍光染色した結果を示す。図6の写真(ii)には、写真(i)に示す四角の枠内の部分を拡大して示す。写真(ii)において白色の点線で囲んだ部分は毛幹様構造を示す。
【0199】
図6に示すように、細胞凝集塊に形成された毛様組織は、その先端部分にVersican陽性細胞の凝集塊、すなわち毛乳頭細胞の凝集塊(毛乳頭様構造)を有していることが確認された。
【0200】
図7には、播種時の培養液中のI型コラーゲン濃度が120μg/mLであった培養系で形成された培養8日目の細胞凝集塊の切片においてCD34を蛍光染色した結果を示す。図7において白色の点線で囲んだ部分は毛様組織の先端部分を示す。
【0201】
図7に示すように、毛様組織の先端部分においては、毛幹様構造の毛乳頭様構造に近い部分の外周にCD34陽性細胞、すなわち毛包上皮幹細胞が含まれていることが確認された。
【0202】
図8には、上述した観察結果に基づき、本実施例で得られた、毛様組織を有する細胞凝集塊を模式的に示す。なお、図8は、あくまでも模式図であり、細胞凝集塊、毛様組織及びこれらに含まれる細胞や構造の大きさや配置は、本発明に係る細胞凝集塊を何ら限定するものではない。
【0203】
図8に示すように、本実施例において上皮系細胞と間葉系細胞との共培養により形成された細胞凝集塊は、その中央部にcyst様構造を有していた。また、細胞凝集塊は、その表面に1以上の毛様組織を有していた。この毛様組織は、その自由端である先端部分に形成された毛乳頭様構造(Versican陽性細胞の凝集塊)と、当該毛乳頭様構造の近傍から当該毛様組織の根元部分まで伸びた毛幹様構造とを有していた。また、毛様組織は、毛幹様構造の毛乳頭様構造に近い部分の外周に毛包上皮幹細胞(CD34陽性細胞)を含んでいた。
【実施例0204】
[細胞凝集塊の製造]
終濃度が12μg/mLとなるようにI型コラーゲンを添加した培養液を用いたこと以外は上述の実施例1と同様にして、96ウェルプレートの各ウェルに、1×10cells/ウェルの上皮系細胞及び1×10cells/ウェルの間葉系細胞を播種した。
【0205】
播種後、96ウェルプレートを4℃の冷蔵庫内で30分静置して、細胞をウェルの底面上に沈降させ、堆積させた。その後、96ウェルプレートを37℃のインキュベータに移し、共培養(浮遊培養)を開始した。
【0206】
4日間の共培養期間中、培養液の交換は、上述の実施例1と同様に行った。培養4日目の時点で、各ウェルに1つずつ細胞凝集塊が形成されていた。ただし、培養4日目の細胞凝集塊において毛様組織の形成は確認されなかった。
【0207】
次いで、培養4日目の毛様組織を有しない細胞凝集塊7個を、容積15mLの遠沈管に回収し、当該遠沈管から培養液を可能な限り除去した。その後、遠沈管にI型コラーゲン原液(Cellmatrix(登録商標) Type I-A、I型コラーゲン濃度:2.4mg/mL、新田ゼラチン製)を添加し、当該I型コラーゲン原液に細胞凝集塊を懸濁した。
【0208】
その後、細胞凝集塊及びI型コラーゲンを含むハイドロゲル形成用溶液0.4mLを6ウェルプレートの1つのウェルに滴下し、37℃のインキュベーターで20分間保持することにより、I型コラーゲンをゲル化した。この結果、ウェル内の溶液の全体がゲル化し、流動性を有しないハイドロゲルが形成された。また、ハイドロゲル内において、7つの細胞凝集塊は3次元的に分散され、互いに離れた状態で包埋された。
【0209】
その後、ウェル内のハイドロゲル上に基本培地を2mL添加し、当該ハイドロゲル内で、細胞凝集塊の包埋培養をさらに23日間行った。すなわち、合計で27日間の共培養を行った。
【0210】
[結果]
図9には、ハイドロゲル内に包埋された1つの細胞凝集塊について、培養8日目(ハイドロゲル包埋培養を開始してから4日目)、12日目、18日目、22日目及び27日目に撮影された顕微鏡写真を示す。図10には、図9に含まれる5つの写真のそれぞれにおいて点線の四角で囲まれた部分(毛様組織)を拡大して示す。図11には、図9及び図10に示す毛様組織の長さの経時変化を示す。図11において横軸は培養日数(日)を示し、縦軸は毛様組織の長さ(μm)を示す。
【0211】
図9図11より、培養8日目から培養22日目までのハイドロゲル包埋培養においては、培養時間の経過に伴って、細胞凝集塊の表面の毛様組織が伸長してその長さが増加した。毛様組織の長さは、培養22日目で約2mm(2000μm)に達した。
【0212】
一方、培養22日目から27日目にかけては、毛様組織が退縮してその長さが減少した。このような毛様組織の変化は、マウスの1回目の毛成長周期(3週間から4週間)と整合するものであった。なお、ハイドロゲル包埋培養においては、当該ハイドロゲル包埋培養の2日目(細胞の播種から6日目)に、細胞凝集塊の表面に毛様組織が形成され始めた。
【実施例0213】
[細胞凝集塊の製造]
I型コラーゲンに代えて、フィブロネクチン原液(フィブロネクチン溶液(ヒト血漿由来)、富士フィルム和光純薬株式会社製)を、終濃度が6μg/mL、12μg/mL、25μg/mL、50μg/mL又は100μg/mLとなるように基本培地に添加して調製した培養液を使用したこと以外は上述の実施例1と同様にして、96ウェルプレートの各ウェルに、1×10cells/ウェルの上皮系細胞及び1×10cells/ウェルの間葉系細胞を播種した。
【0214】
播種後、96ウェルプレートを4℃の冷蔵庫内で30分静置して、細胞をウェルの底面上に沈降させ、堆積させた。その後、96ウェルプレートを37℃のインキュベータに移し、共培養(浮遊培養)を開始した。
【0215】
8日間の共培養期間中、培養液の交換は、上述の実施例1と同様に行った。なお、全ての条件において、培養期間を通じて、ウェル内の培養液は、全体として流動性を維持していた。
【0216】
[結果]
図12には、培養8日目の顕微鏡写真を示す。図12に示すように、播種時の培養液中のフィブロネクチン濃度が異なる5つの培養系の全てにおいて、上皮系細胞及び間葉系細胞が凝集し、各ウェルに1つずつ細胞凝集塊が形成された。
【0217】
また、播種時(マトリックス処理時)の培養液中のフィブロネクチン濃度が6μg/mL、12μg/mL、25μg/mL、50μg/mL又は100μg/mLであった5つの培養系の全てにおいて、毛様組織(図12に含まれる5つの写真のそれぞれにおいて矢印で示す部分)を有する細胞凝集塊の形成が確認された。
【0218】
すなわち、これら5つの培養系においては、まず浮遊培養の開始後、上皮系細胞及び間葉系細胞が凝集し始め、培養1日目には細胞凝集塊が形成された。その後、培養4日目から6日目には細胞凝集塊の表面に毛様組織が形成され始めた。細胞凝集塊の毛様組織は、培養時間の経過に伴って伸長した。
【0219】
図13には、播種時の培養液中のフィブロネクチン濃度と、培養8日目の細胞凝集塊における毛様組織の形成効率とを対応させて示す。図13に示すように、毛様組織の形成効率は、40%~70%であった。
【0220】
図14には、播種時の培養液中のフィブロネクチン濃度と、培養8日目において1つの細胞凝集塊あたりに形成されていた毛様組織の本数との関係を示す。図14に示すように、1つの細胞凝集塊あたり平均して1~3本の毛様組織が形成された。
【0221】
図15には、播種時の培養液中のフィブロネクチンが100μg/mLであった培養系における培養8日目の細胞凝集塊の切片をHE染色した結果を示す。図15において矢印で示すように、この切片において2本の毛様組織が確認された。また、毛様組織の先端部分には毛乳頭様構造が確認された。一方、細胞凝集塊の中央部分には、cyst様構造が確認された。
【実施例0222】
[細胞凝集塊の製造]
I型コラーゲンを添加するタイミングが互いに異なる6つの培養系(I型コラーゲンの添加タイミング:細胞の播種から0時間(例4-1)、6時間(例4-2)、12時間(例4-3)、24時間(例4-4)、36時間(例4-5)又は48時間(例4-6)が経過した時点)において、上述の実施例1と同様に、上皮系細胞と間葉系細胞との共培養を行った。
【0223】
まず上述の実施例1と同様にして、I型コラーゲンが添加されていない基本培地を調製した。次いで、4℃に冷却した基本培地に、それぞれの細胞密度が1×10cells/mLとなる量(総細胞密度が2×10cells/mLとなる量)の上皮系細胞及び間葉系細胞を懸濁し、細胞懸濁液を調製した。一方、4℃に冷却した基本培地に、4℃に冷却したI型コラーゲン原液を添加して、I型コラーゲンを240μg/mLの濃度で含む培養液を調製した。
【0224】
そして、4℃の細胞懸濁液を96ウェルプレートの各ウェルに100μLずつ注ぐことで、1×10cells/ウェルの上皮系細胞及び1×10cells/ウェルの間葉系細胞を播種した。
【0225】
例4-1のウェルには、播種直後に(播種から0時間で)、I型コラーゲンを240μg/mLの濃度で含み4℃に冷却した培養液を100μL添加した。この結果、例4-1のウェル内では、I型コラーゲンが120μg/mLの濃度で分散されたマトリックス処理用培養液中に上皮系細胞及び間葉系細胞が保持された。
【0226】
次いで、96ウェルプレートを4℃の冷蔵庫内で30分静置して、細胞をウェルの底面上に沈降させ、堆積させた。その後、96ウェルプレートを37℃のインキュベータに移し、共培養(浮遊培養)を開始した。
【0227】
細胞の播種から5時間40分が経過した時点で、96ウェルプレートを4℃の冷蔵庫内に移して20分静置し、ウェル内の細胞を含む培養液を冷却した。20分の冷却後、すなわち細胞の播種から6時間が経過した時点で、例4-2のウェルに、I型コラーゲンを240μg/mLの濃度で含み4℃に冷却した培養液を100μL添加した。この結果、例4-2のウェル内では、I型コラーゲンが120μg/mLの濃度で分散されたマトリックス処理用培養液中に上皮系細胞及び間葉系細胞が保持された。
【0228】
例4-2のウェルに対するI型コラーゲンの添加後、96ウェルプレートを4℃の冷蔵庫内で20分間振とうした。その後、96ウェルプレートを37℃のインキュベータに移し、共培養(浮遊培養)を継続した。
【0229】
同様にして、細胞の播種から12時間が経過した時点、24時間が経過した時点、36時間が経過した時点、及び48時間が経過した時点で、それぞれ例4-3、例4-4、例4-5及び例4-6のウェルにI型コラーゲンを添加してマトリックス処理を開始した。また、全てのウェルにおいて、培養3日目に初めて培養液の交換を行い、その後は2日に一度、培養液の交換を行った。培養液の交換は、上述の実施例1と同様に行った。
【0230】
[結果]
図16には、培養8日目の顕微鏡写真を示す。図16に示すように、I型コラーゲンの添加タイミングが異なる6つの培養系の全てにおいて、上皮系細胞及び間葉系細胞が凝集し、各ウェルに1つずつ細胞凝集塊が形成された。
【0231】
また、I型コラーゲンの添加タイミングが異なる6つの培養系の全てにおいて、その表面に毛様組織(図16に含まれる6つの写真のそれぞれにおいて矢印で示す部分)が形成された細胞凝集塊が得られた。
【0232】
図17には、I型コラーゲンの添加タイミング(細胞の播種からI型コラーゲン添加までの時間)と、培養8日目の細胞凝集塊における毛様組織の形成効率とを対応させて示す。図17に示すように、細胞の播種直後(0時間)にI型コラーゲンを添加した培養系では、12個の細胞凝集塊のうち9個の細胞凝集塊において毛様組織が形成された(毛様組織の形成効率75%)。また、細胞の播種から6時間、12時間、24時間、36時間、及び48時間が経過した時点でI型コラーゲンを添加した培養系における毛様組織の形成効率は、それぞれ58%、58%、50%、33%、及び25%であった。すなわち、I型コラーゲンを添加するタイミングが遅くなるにつれて、毛様組織の形成効率は低下する傾向が確認された。
【0233】
図18には、I型コラーゲンの添加タイミングと、培養8日目において1つの細胞凝集塊あたり形成されていた毛様組織の本数との関係を示す。図18に示すように、I型コラーゲンを添加するタイミングが遅くなるにつれて、1つの細胞凝集塊に形成される毛様組織の数は減少する傾向が確認された。
【0234】
図19には、細胞の播種直後にI型コラーゲンを添加した培養系における培養8日目の細胞凝集塊の顕微鏡写真を示す。図19の写真(ii)には、写真(i)に示す四角の枠内の部分を拡大して示す。図19に示すように、細胞凝集塊の表面に突出した毛様組織の自由端である先端部分には、膨らみのある構造が観察された。
【0235】
図20には、細胞の播種直後にI型コラーゲンを添加した培養系における培養8日目の細胞凝集塊の表面に形成された毛様組織の拡大写真を示す。図20において白色の点線で囲まれた部分が毛様組織である。図20に示すように、毛様組織の自由端である先端部分には、膨らみのある構造が観察され、且つ、当該膨らみのある構造から当該毛様組織の根元に向けて伸びる黒色の毛幹様構造が観察された。
【実施例0236】
[細胞凝集塊の製造]
例5-1として、終濃度が120μg/mLとなるようにI型コラーゲンを添加した培養液を用い、上述の実施例1と同様にして、上皮系細胞及び間葉系細胞の共培養(浮遊培養)を開始した。
【0237】
また、例5-2として、I型コラーゲンが添加されていない培養液(基本培地)を用いたこと以外は上述の実施例1と同様にして、上皮系細胞及び間葉系細胞の共培養(浮遊培養)を開始した。
【0238】
[結果]
例5-1及び例5-2のいずれにおいても、培養2日目の時点において、毛様組織を有しない細胞凝集塊が形成されていた。培養2日目に回収された細胞凝集塊からRNeasy mini-kit(QIAGEN)を用いてRNAを抽出し、Mouse Genome 430 2.0 Array (Applied Biosystems)を用いたマイクロアレイ解析を行った。
【0239】
図21には、例5-1においてI型コラーゲンが分散された培養液を用いて形成された細胞凝集塊と、例5-2においてI型コラーゲンが分散されていない培養液を用いて形成された細胞凝集塊とについて、マイクロアレイを用いたGO(Gene Ontology)解析を行った結果を示す。すなわち、図21には、例5-1の細胞凝集塊において、例5-2の細胞凝集塊に比べて有意(Fold change>2)に増加した遺伝子群(すなわち、例5-1の細胞凝集塊において、発現量が例5-2の細胞凝集塊の2倍以上であった遺伝子群)を示す。
【0240】
図21に示すように、例5-1の細胞凝集塊において優位に増加した遺伝子群の上位10個に、発毛関連遺伝子のGO Termが5つ抽出された(hair cycle、skin development、epidermis development、hair follicle development及びhair cycle process)。
【0241】
すなわち、I型コラーゲンを用いたマトリックス処理を含む共培養により形成された例5-1の細胞凝集塊においては、当該マトリックス処理を含まない共培養により形成された例5-2の細胞凝集塊に比べて、発毛関連遺伝子の発現量が有意に増加していることが確認された。
【0242】
具体的に、例えば、例5-1の細胞凝集塊は、毛包発生に関連するマーカー遺伝子であるTgfb2、Sox21、Lgr5、Lhx2、Edaradd、Pdgfa、及びLgr4の発現量がいずれも、例5-2の細胞凝集塊の2倍以上であった。
【0243】
したがって、I型コラーゲンを用いたマトリックス処理を含む共培養により形成された例5-1の細胞凝集塊は、当該マトリックス処理を含まない共培養により形成された例5-2の細胞凝集塊に比べて、毛髪再生能が顕著に向上していると考えられた。
【実施例0244】
[細胞凝集塊の製造]
例6-1として、終濃度が120μg/mLとなるようにI型コラーゲンを添加した培養液を用い、上述の実施例1と同様にして、96ウェルプレートの各ウェルに、1×10cells/ウェルの上皮系細胞及び1×10cells/ウェルの間葉系細胞を播種した。
【0245】
播種後、96ウェルプレートを4℃の冷蔵庫内で30分静置して、細胞をウェルの底面上に沈降させ、堆積させた。その後、96ウェルプレートを37℃のインキュベータに移し、共培養(浮遊培養)を開始した。
【0246】
例6-2として、I型コラーゲンに代えて、終濃度が2v/v%となる量のマトリゲル原液(Matrigel(登録商標) Basement Membrane Matrix、CORNING(登録商標))を添加した培養液を用いた以外は上述の例6-1と同様にして、上皮系細胞及び間葉系細胞の共培養(浮遊培養)を開始した。
【0247】
なお、マトリゲル原液は、EHS(Engelbreth-Holm-Swarm)マウス腫瘍から抽出された可溶性基底膜マトリクスを10.6mg/mL(Lowry法で測定されるタンパク質量)含み、当該基底膜マトリクスにおける組成比率は、ラミニンが56%、エンタクチンが8%、及びIV型コラーゲンが31%であった。
【0248】
よって、終濃度が2v/v%となる量のマトリゲル原液が添加された培養液は、118μg/mLのラミニン、16μg/mLのエンタクチン、及び66μg/mLのIV型コラーゲンを含有していたと算出される。
【0249】
例6-3として、I型コラーゲン及びマトリゲルのいずれも添加されていない培養液(基本培地)を用いたこと以外は上述の例6-1と同様にして、上皮系細胞及び間葉系細胞の共培養(浮遊培養)を開始した。
【0250】
[細胞凝集塊の移植]
例6-1、例6-2及び例6-3のいずれの培養系においても、培養3日目の時点で、毛様組織を有しない細胞凝集塊が形成されていた。例6-1、例6-2及び例6-3のそれぞれの培養系から、培養3日目の細胞凝集塊を回収し、当該細胞凝集塊を、パッチ法にて、5週齢のSCID-nuマウスの皮膚に移植した。具体的に、マウスの皮膚の真皮又は筋膜の付近に形成した互いに離れた3つの移植部位に、例6-1の細胞凝集塊を10個、例6-2の細胞凝集塊を50個、及び例6-3の細胞凝集塊を50個、それぞれ注入した。
【0251】
[結果]
図22には、移植から4週間後に、マウスの各移植部位において再生していた毛髪の本数を目視にてカウントした結果を示す。図22に示すように、I型コラーゲンもマトリゲルも分散されていない培養液(基本培地)を用いた条件(図中の「マトリクスなし」)で形成された50個の細胞凝集塊の移植部位において再生した毛髪は128本であった。すなわち、移植された細胞凝集塊1個あたりの再生毛髪数は、2.6本であった。
【0252】
また、マトリゲルが分散された培養液を用いた条件(図中の「マトリゲル」)で形成された50個の細胞凝集塊の移植部位において再生した毛髪は285本であった。すなわち、移植された細胞凝集塊1個あたりの再生毛髪数は、5.7本であった。マトリゲルを用いて形成された細胞凝集塊1個あたりの再生毛髪数は、I型コラーゲン及びマトリゲルを用いることなく形成された細胞凝集塊のそれの2.2倍であった。
【0253】
また、I型コラーゲンが分散された培養液を用いた条件(図中の「コラーゲン」)で形成された10個の細胞凝集塊の移植部位において再生した毛髪は208本であった。すなわち、移植された細胞凝集塊1個あたりの再生毛髪数は、20.8本であった。
【0254】
すなわち、I型コラーゲンを用いて形成された細胞凝集塊1個あたりの再生毛髪数は、I型コラーゲン及びマトリゲルを用いることなく形成された細胞凝集塊のそれの8倍であり、マトリゲルを用いて形成された細胞凝集塊のそれの3.6倍であった。
【実施例0255】
[細胞凝集塊の製造]
上述の実施例2と同様に、まず終濃度が12μg/mLとなるようにI型コラーゲンを添加した培養液を用いて、上皮系細胞及び間葉系細胞の共培養(浮遊培養)を4日間行った。次いで、培養4日目の毛様組織を有しない細胞凝集塊を回収してI型コラーゲンのハイドロゲルに包埋し、当該細胞凝集塊のハイドロゲル包埋培養を行った。
【0256】
[毛様組織の回収]
培養14日目(ハイドロゲル包埋培養10日目)の時点において、細胞凝集塊の表面に毛様組織が形成されていることが確認された。培養14日目のハイドロゲル内に包埋された細胞凝集塊の毛様組織の根元部分をハサミで切断し、切断された当該毛様組織を回収した。
【0257】
[結果]
図23には、上述のようにして細胞凝集塊から切断され回収された毛様組織の顕微鏡写真を示す。図23に示す3つの毛様組織のそれぞれについて、白色の矢頭は、細胞凝集塊から切断される前から自由端であった一方の先端部分を示し、黒色の矢頭は、当該切断によって形成された他方の先端部分(当該切断前は細胞凝集塊と結合していた根本部分)を示す。図23に示すように、細胞凝集塊の表面に形成された毛様組織は、当該細胞凝集塊から切り離して回収することができた。
【実施例0258】
[細胞凝集塊の製造]
例8-1として、I型コラーゲンに代えて、終濃度が2v/v%となる量(ラミニン終濃度が118μg/mL、エンタクチン終濃度が16μg/mL、及びIV型コラーゲンの終濃度が66μg/mLとなる量)のマトリゲル原液を添加した培養液を用いた以外は上述の実施例1と同様にして、上皮系細胞及び間葉系細胞の共培養(浮遊培養)を行った。
【0259】
例8-2として、I型コラーゲンに代えて、増殖因子の含有量が低減されたマトリゲル原液(Matrigel(登録商標) Basement Membrane Matrix(Growth Factor Reduced)、CORNING(登録商標))を、終濃度が1v/v%となる量で添加した培養液を用いた以外は上述の実施例1と同様にして、上皮系細胞及び間葉系細胞の共培養(浮遊培養)を行った。
【0260】
なお、増殖因子の含有量が低減されたマトリゲル原液(GFR)は、EHSマウス腫瘍から抽出された可溶性基底膜マトリクスを8~12mg/mL(Lowry法で測定されるタンパク質量)含み、当該基底膜マトリクスにおける組成比率は、ラミニンが61%、エンタクチンが7%、及びIV型コラーゲンが30%であった。よって、終濃度が1v/v%となる量のマトリゲル原液(GFR)が添加された培養液は、49~73μg/mLのラミニン、6~8μg/mLのエンタクチン、及び24~36μg/mLのIV型コラーゲンを含有していたと算出される。
【0261】
例8-3として、I型コラーゲンに代えて、終濃度が1v/v%となる量の高濃度ラミニン/エンタクチン複合体原液(HIGH CONCENTRATION LAMININ/ENTACTIN COMPLEX、CORNING(登録商標))を添加した培養液を用いた以外は上述の実施例1と同様にして、上皮系細胞及び間葉系細胞の共培養(浮遊培養)を行った。
【0262】
なお、高濃度ラミニン/エンタクチン複合体原液は、EHSマウス腫瘍から抽出された可溶性基底膜マトリクスを15.2mg/mL含み、SDS-PAGEによる純度90%以上でラミニン/エンタクチン複合体を含み、ラミニンとエンタクチンとは等モル比で含まれていた。よって、終濃度が1v/v%となる量の高濃度ラミニン/エンタクチン複合体原液が添加された培養液は、137~152μg/mLのラミニン/エンタクチン複合体(すなわち、それぞれ68~76μg/mLのラミニン及びエンタクチンを)を含有していたと算出される。
【0263】
例8-4として、I型コラーゲンに代えて、終濃度が1v/v%となる量のIV型コラーゲン原液(COLLAGEN IV,MOUSE、CORNING(登録商標))を添加した培養液を用いた以外は上述の実施例1と同様にして、上皮系細胞及び間葉系細胞の共培養(浮遊培養)を行った。
【0264】
なお、IV型コラーゲン原液は、EHSマウス腫瘍から抽出された可溶性基底膜マトリクスを1.25mg/mL含み、SDS-PAGEによる純度90%以上でIV型コラーゲンを含んでいた。よって、終濃度が1v/v%となる量のIV型コラーゲン原液が添加された培養液は、11~13μg/mLのIV型コラーゲンを含有していたと算出される。
【0265】
例8-5として、I型コラーゲンに代えて、終濃度が1v/v%となる量の高濃度ラミニン/エンタクチン複合体原液と、終濃度が1v/v%となる量のIV型コラーゲン原液とを添加した培養液を用いた以外は上述の実施例1と同様にして、上皮系細胞及び間葉系細胞の共培養(浮遊培養)を行った。なお、全ての条件において、培養期間を通じて、ウェル内の培養液は、全体として流動性を維持していた。
【0266】
[結果]
図24には、培養8日目の細胞凝集塊の顕微鏡写真を示す。図24に示すように、マトリゲルが分散された培養液を用いた例8-1、増殖因子の含有量が低減されたマトリゲルが分散された培養液を用いた例8-2、ラミニン/エンタクチン複合体が分散された培養液を用いた例8-3、IV型コラーゲンが分散された培養液を用いた例8-4、及び、ラミニン/エンタクチン複合体及びIV型コラーゲンが分散された培養液を用いた例8-5の培養系の全てにおいて、培養8日目の時点で、各ウェルに1つずつ、毛様組織を有する細胞凝集塊が形成されていた。なお、図24に含まれる5つの写真のそれぞれにおいて、矢印は細胞凝集塊の表面に形成された毛様組織を示す。
【0267】
図25には、マトリゲルが分散された培養液を用いて形成された細胞凝集塊に含まれる細胞の核を蛍光染色し、共焦点顕微鏡で観察した結果を示す。図25に示されるように、細胞凝集塊の表面に形成された複数の毛様組織も含め、当該細胞凝集塊の全体が染色された。
【0268】
図26には、マトリゲルが分散された培養液を用いて形成された細胞凝集塊のHE染色及び蛍光染色による観察結果を示す。図26において、写真(i)はHE染色画像を示し、写真(ii)には当該写真(i)において点線で囲んだ部分を拡大して示す。図26の写真(i)(ii)に示されるように、細胞凝集塊に形成された毛様組織は、その自由端である先端部分に形成された毛乳頭様構造と、当該毛乳頭様構造の近傍から当該毛様組織の根元部分まで伸びる毛幹様構造とを有していた。
【0269】
図26において、写真(iii)はCD34を蛍光染色した細胞凝集塊の蛍光顕微鏡画像を示し、写真(iv)には当該写真(iii)において点線で囲んだ部分を拡大して示す。図26の写真(iii)(iv)に示されるように、細胞凝集塊の毛幹様構造の外周に沿ってCD34陽性細胞(すなわち毛包上皮幹細胞)が観察された。
【0270】
図26において、写真(v)は毛乳頭細胞のマーカーであるVersicanを蛍光染色した細胞凝集塊の蛍光顕微鏡画像を示し、写真(vi)には当該写真(v)において点線で囲んだ部分を拡大して示す。図26の写真(v)(vi)に示されるように、細胞凝集塊の毛様組織の自由端である先端部分には、Versican陽性細胞(すなわち毛乳頭細胞)の凝集塊(毛乳頭様構造)が観察された。
【0271】
図26において、写真(vii)は色素細胞のマーカーであるGp100を蛍光染色した細胞凝集塊の蛍光顕微鏡画像を示し、写真(viii)には当該写真(vii)において点線で囲んだ部分を拡大して示す。図26の写真(vii)(viii)に示されるように、細胞凝集塊の毛様組織の自由端である先端部分には、毛乳頭様構造の周囲にGp100陽性細胞(すなわち色素細胞)が観察された。
【0272】
図27には、マトリゲルが分散された培養液を用いて形成された細胞凝集塊の毛様組織を観察した結果を示す。図27の写真(i)は、細胞凝集塊の表面に形成された毛様組織の根元部分を走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影した画像である。この写真(i)に示されるように、毛様組織に含まれる毛幹様構造は、キューティクル構造を有していることが確認された。
【0273】
写真27の写真(ii)は、細胞凝集塊の表面に形成された毛様組織の自由端である先端部分を顕微鏡の明視野で撮影した画像である。この写真(ii)に示されるように、毛様組織は、その先端部分に毛乳頭様構造を有し、当該毛乳頭様構造の近傍から、当該毛様組織の根元部分に向けて毛幹様構造が伸びていることが確認された。なお、上皮系細胞はメラニンを取り込むため、顕微鏡下で黒い細胞として観察されるが、毛乳頭細胞はメラニンを取り込まないため、顕微鏡下で黒くない細胞として特定される。
【0274】
図28には、マトリゲルが分散された培養液を用いて形成された細胞凝集塊の毛様組織と、マウスの体毛とを透過型顕微鏡(TEM)にて観察した結果を示す。図28に示すように、細胞凝集塊において形成された毛様組織は、マウスの体毛の毛幹に類似した毛幹様構造、マウスの体毛と同様のメラノソーム及びキューティクル構造を有することが確認された。
【実施例0275】
[細胞凝集塊の製造]
例9-1として、I型コラーゲンに代えて、終濃度が2v/v%となる量(ラミニン終濃度が118μg/mL、エンタクチン終濃度が16μg/mL、及びIV型コラーゲンの終濃度が66μg/mLとなる量)のマトリゲル原液を添加した培養液を用いた以外は上述の実施例1と同様にして、上皮系細胞及び間葉系細胞の共培養(浮遊培養)を行った。例9-1の浮遊培養においては、培養4日目から6日目に細胞凝集塊の表面に毛様組織が形成され始めた。その後、細胞凝集塊の毛様組織の長さは経時的に増加した。
【0276】
例9-2においては、まず上述の例9-1と同様にして、上皮系細胞及び間葉系細胞の共培養(浮遊培養)を開始した。次いで、培養1日目の毛様組織を有しない細胞凝集塊を遠沈管に回収し、当該遠沈管から培養液を可能な限り除去した。その後、遠沈管にマトリゲル原液を添加し、当該マトリゲル原液に細胞凝集塊を懸濁した。
【0277】
その後、細胞凝集塊及びマトリゲルを含む溶液0.4mLを6ウェルプレートのウェルに滴下し、37℃のインキュベーターで30分間保持することにより、マトリゲルをゲル化した。この結果、ウェル内の溶液の全体がゲル化し、流動性を有しないハイドロゲルが形成された。また、ハイドロゲル内において、細胞凝集塊は3次元的に分散され、互いに離れた状態で包埋された。
【0278】
その後、ウェル内のハイドロゲル上に基本培地を2mL添加し、細胞凝集塊のハイドロゲル包埋培養を開始した。例9-2のハイドロゲル包埋培養においては、培養4日目から6日目(ハイドロゲル包埋培養の開始から3日目から5日目)に細胞凝集塊の表面に毛様組織が形成され始めた。その後、細胞凝集塊の毛様組織の長さは経時的に増加した。
【0279】
[毛様組織の回収]
例9-1においては、培養14日目の培養液中に浮遊する細胞凝集塊の毛様組織の根元部分をハサミで切断し、切断された当該毛様組織を回収した。例9-2においては、培養12日目(ハイドロゲル包埋培養11日目)及び培養22日目(ハイドロゲル包埋培養21日目)の細胞凝集塊の毛様組織の根元部分をハサミで切断し、切断された当該毛様組織を回収した。
【0280】
[結果]
図29には、例9-1の培養14日目の細胞凝集塊から切断され回収された毛様組織の顕微鏡写真を示す。図29の写真(i)に示す2つの毛様組織、及び写真(ii)に示す2つの毛様組織のそれぞれについて、白色の矢頭は、細胞凝集塊から切断される前から自由端であった一方の先端部分を示し、黒色の矢頭は、当該切断によって形成された他方の先端部分(当該切断前は細胞凝集塊と結合していた根本部分)を示す。
【0281】
図30には、例9-2の培養12日目(写真(i))及び22日目(写真(ii))の細胞凝集塊から回収された毛様組織の顕微鏡写真を示す。図30の写真(i)に示す1つの毛様組織、及び写真(ii)に示す3つの毛様組織のそれぞれについて、白色の矢頭は、細胞凝集塊から切断される前から自由端であった一方の先端部分を示し、黒色の矢頭は、当該切断によって形成された他方の先端部分(当該切断前は細胞凝集塊と結合していた根本部分)を示す。図29及び図30に示すように、細胞凝集塊の表面に形成された毛様組織は、当該細胞凝集塊から切り離して回収することができた。
【0282】
図31には、例9-2における培養23日目(ハイドロゲル包埋培養22日目)の細胞凝集塊の顕微鏡写真を示す。図31に示すように、細胞凝集塊の表面に形成された毛様組織の1つは、その長さが約4cmに達していた。この毛様組織は、培養30日目には、その長さが5cmを超えた。
【0283】
図31において、部分写真(i)は、毛様組織の自由端である先端部分(黒い四角で囲まれた部分)を拡大して示す。この部分写真(i)に示すように、毛様組織は、その先端部分に膨らんだ構造を有し、当該先端部分から根元にかけて伸びる毛幹様構造を有していた。
【0284】
図31において、部分写真(ii)は、細胞凝集塊の表面に形成された小さな突起(白い四角で囲まれた部分)を拡大して示す。この部分写真(ii)に示すように、細胞凝集塊の表面には、長く伸びた2つの毛様組織に加えて、さらに新たな毛様組織が形成されつつあった。
【実施例0285】
[細胞凝集塊の製造]
上述の例9-2と同様にして、マトリゲルを含むハイドロゲル内で細胞凝集塊の包埋培養を行った。培養6日目(ハイドロゲル包埋培養の開始から5日目)の細胞凝集塊において毛様組織の形成が確認された。その後、細胞凝集塊の毛様組織の長さは経時的に増加した。
【0286】
[毛様組織の回収]
培養15日目(ハイドロゲル包埋培養14日目)のハイドロゲル内に包埋されている細胞凝集塊の表面に形成された毛様組織の根元部分をハサミで切断し、切断された当該毛様組織を回収した。
【0287】
[結果]
図32には、細胞凝集塊から回収された毛様組織の顕微鏡写真を示す。図32の写真(i)は、回収された毛様組織の明視野顕微鏡写真である。図32の写真(ii)は、写真(i)に示す毛様組織をCalcein-AM染色し、蛍光顕微鏡で観察した結果を示す。図32の2つの写真(i)(ii)のそれぞれにおいて、白色の矢頭は、細胞凝集塊から切断される前から自由端であった一方の先端部分を示し、黒色の矢頭は、当該切断によって形成された他方の先端部分(当該切断前は細胞凝集塊と結合していた根本部分)を示す。
【0288】
この写真(ii)に示されるように、回収された毛様組織(毛様移植片)を構成する細胞はCalcein-AM染色され、生存していることが確認された。
【実施例0289】
[細胞凝集塊の製造]
I型コラーゲンに代えて、終濃度が2v/v%となる量(ラミニン終濃度が118μg/mL、エンタクチン終濃度が16μg/mL、及びIV型コラーゲンの終濃度が66μg/mLとなる量)のマトリゲル原液を添加した培養液を用いた以外は上述の実施例1と同様にして、上皮系細胞及び間葉系細胞の共培養(浮遊培養)を行った。
【0290】
次いで、培養1日目の毛様組織を有しない細胞凝集塊を遠沈管に回収し、当該遠沈管から培養液を可能な限り除去した。その後、遠沈管にマトリゲル原液を添加し、当該マトリゲル原液に細胞凝集塊を懸濁した。
【0291】
その後、細胞凝集塊及びマトリゲルを含む溶液0.4mLを6ウェルプレートのウェルに滴下し、37℃のインキュベーターで30分間保持することにより、マトリゲルをゲル化した。この結果、ウェル内の溶液の全体がゲル化し、流動性を有しないハイドロゲルが形成された。また、ハイドロゲル内において、細胞凝集塊は3次元的に分散され、互いに離れた状態で包埋された。
【0292】
その後、ウェル内のハイドロゲル上に基本培地を2mL添加し、細胞凝集塊のハイドロゲル包埋培養を開始した。ハイドロゲル包埋培養においては、培養4日目から6日目(ハイドロゲル包埋培養の開始から3日目から5日目)に細胞凝集塊の表面に毛様組織が形成され始めた。その後、細胞凝集塊の毛様組織の長さは経時的に増加した。
【0293】
[毛様組織の回収]
培養14日目(ハイドロゲル包埋培養10日目)の細胞凝集塊の毛様組織の根元部分をハサミで切断し、切断された当該毛様組織を回収した。
【0294】
[毛様移植片のハイドロゲル包埋培養]
上述のようにして回収された毛様組織(毛様移植片)をマトリゲル原液に添加し、当該毛様移植片及びマトリゲルを含む溶液0.4mLを6ウェルプレートのウェルに滴下し、37℃のインキュベーターで30分間保持することにより、マトリゲルをゲル化した。この結果、ウェル内の溶液の全体がゲル化し、流動性を有しないハイドロゲルが形成された。その後、ウェル内のハイドロゲル上に基本培地を2mL添加し、毛様移植片のハイドロゲル包埋培養を開始した。なお、毛様移植片を包埋したハイドロゲルは、当該毛様移植片を移植する生体の組織を模した人工組織として用いた。
【0295】
[結果]
図33には、ハイドロゲル包埋培養された毛様移植片の顕微鏡写真を示す。図33の写真(i)にはハイドロゲル包埋培養の開始直後(d0)、写真(ii)にはハイドロゲル包埋培養1日目(d1)、写真(iii)にはハイドロゲル包埋培養2日目(d2)、写真(iv)にはハイドロゲル包埋培養3日目(d3)、写真(v)にはハイドロゲル包埋培養5日目(d5)、写真(vi)にはハイドロゲル包埋培養7日目(d7)、及び写真(vii)にはハイドロゲル包埋培養8日目(d8)における毛様移植片をそれぞれ示す。
【0296】
図33において、白色の矢頭は、細胞凝集塊から切断される前から自由端であった一方の先端部分を示し、黒色の矢頭は、当該切断によって形成された他方の先端部分(当該切断前は細胞凝集塊と結合していた根本部分)を示す。
【0297】
図33に示すように、毛様移植片は、細胞凝集塊から切断された後も生存し、当該毛様移植片の長さ(特に当該毛様移植片に含まれる毛幹様構造の長さ)は経時的に増加した。この結果は、細胞凝集塊から切断された毛様組織の毛様移植片としての有用性を裏付けるものであった。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
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図9
図10
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図33