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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023056593
(43)【公開日】2023-04-20
(54)【発明の名称】コンプレッサ羽根車の状態評価方法
(51)【国際特許分類】
   F02B 39/16 20060101AFI20230413BHJP
   G01M 99/00 20110101ALI20230413BHJP
【FI】
F02B39/16 H
G01M99/00 A
F02B39/16 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021165890
(22)【出願日】2021-10-08
(71)【出願人】
【識別番号】518131296
【氏名又は名称】三菱重工マリンマシナリ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】SSIP弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】辰巳 勝彦
(72)【発明者】
【氏名】松尾 哲也
(72)【発明者】
【氏名】金澤 真吾
【テーマコード(参考)】
2G024
3G005
【Fターム(参考)】
2G024AD04
2G024AD07
2G024BA12
2G024CA01
2G024CA26
2G024EA11
3G005EA03
3G005FA48
3G005GB81
(57)【要約】
【課題】コンプレッサ羽根車の余寿命に関する状態を精度良く評価できるコンプレッサ羽根車の余寿命評価方法を提供する。
【解決手段】コンプレッサが備えるコンプレッサ羽根車の余寿命に関する状態を評価するコンプレッサ羽根車の状態評価方法であって、コンプレッサ羽根車の表面に形成された被膜にコンプレッサ羽根車の余寿命に関する状態を評価するための指標となる基準形状を形成する基準形状形成ステップと、コンプレッサの点検時に、被膜の基準形状を転写されたレプリカを採取するレプリカ採取ステップと、基準形状形成ステップで基準形状が形成された時点における基準形状と、レプリカ採取ステップで採取されたレプリカとから求まる基準形状の変化に基づいて、コンプレッサ羽根車の余寿命に関する状態を評価する状態評価ステップと、を備える。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンプレッサが備えるコンプレッサ羽根車の余寿命に関する状態を評価するコンプレッサ羽根車の状態評価方法であって、
前記コンプレッサ羽根車の表面に形成された被膜に前記コンプレッサ羽根車の余寿命に関する状態を評価するための指標となる基準形状を形成する基準形状形成ステップと、
前記コンプレッサの点検時に、前記被膜の前記基準形状を転写されたレプリカを採取するレプリカ採取ステップと、
前記基準形状形成ステップで前記基準形状が形成された時点における前記基準形状と、前記レプリカ採取ステップで採取された前記レプリカとから求まる前記基準形状の変化に基づいて、前記コンプレッサ羽根車の余寿命に関する状態を評価する状態評価ステップと、
を備える、コンプレッサ羽根車の状態評価方法。
【請求項2】
前記基準形状形成ステップでは、コンプレッサ翼における翼根側に前記基準形状を形成する、請求項1に記載のコンプレッサ羽根車の状態評価方法。
【請求項3】
前記基準形状形成ステップでは、前記コンプレッサの運転状態におけるコンプレッサ翼の最大主応力の発生する箇所に前記基準形状を形成する、請求項1に記載のコンプレッサ羽根車の状態評価方法。
【請求項4】
前記基準形状形成ステップでは、前記被膜に前記基準形状としての溝を形成し、
前記状態評価ステップは、前記溝の幅の変化に基づいて、前記コンプレッサ羽根車の余寿命に関する状態を評価する、請求項1に記載のコンプレッサ羽根車の状態評価方法。
【請求項5】
前記基準形状形成ステップでは、前記コンプレッサの運転状態におけるコンプレッサ翼の最大主応力の方向と直交する方向に沿って前記溝を形成する、請求項4に記載のコンプレッサ羽根車の状態評価方法。
【請求項6】
前記基準形状形成ステップでは、前記被膜に前記基準形状としての基準マークを形成し、
前記状態評価ステップは、前記基準マークの形状の変化に基づいて、前記コンプレッサ羽根車の余寿命に関する状態を評価する、請求項1に記載のコンプレッサ羽根車の状態評価方法。
【請求項7】
前記基準形状形成ステップでは、円に沿って形成された円形溝と、前記円形溝から前記円形溝の外周側に向けて直線状に延在する少なくとも1つの直線状溝とを含む基準マークを形成する、請求項6に記載のコンプレッサ羽根車の状態評価方法。
【請求項8】
前記基準形状形成ステップでは、前記円形溝と、前記円形溝の外周側に向けて直線状に延在する4つの直線状溝とを含む基準マークを形成し、
前記4つの直線状溝は、前記円形溝の中心の周りに90度間隔で配置され、
前記4つの直線状溝は、第1直線に沿って形成された2つの直線状溝と、前記第1直線と直交する第2直線に沿って形成された2つの直線状溝とを含む、請求項7に記載のコンプレッサ羽根車の状態評価方法。
【請求項9】
前記第1直線に沿って形成された前記2つの直線状溝は、前記コンプレッサの運転状態におけるコンプレッサ翼の最大主応力の方向に沿って形成された、請求項8に記載のコンプレッサ羽根車の状態評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、コンプレッサ羽根車の状態評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば過給機のコンプレッサが有するコンプレッサ羽根車は、その余寿命が正確には把握されておらず、予め設定された交換期間を目安にしてコンプレッサ羽根車の交換が行われていた。このため、交換期間が経過した場合やコンプレッサ羽根車に破損やクリープ等の問題が発生した場合に、コンプレッサ羽根車の寿命に余裕があるにも関わらずコンプレッサ羽根車の交換が行われる可能性があった。
【0003】
特許文献1には、圧縮機ホイールのクリープを監視するクリープ監視アルゴリズムを備える、ターボ過給機の寿命決定装置が開示されている。このクリープ監視アルゴリズムは、検出した圧縮機入口温度と、算出した圧縮機の圧力比との異なる組み合わせの下で動作する時間量を監視することで、クリープを監視している。上記組み合わせには、特定の組み合わせにより生じる圧縮機ホイール上の応力を表すクリープ評点が含まれており、特定の組み合わせ下における時間量とクリープ評点との積が上記特定の組み合わせにおいて生じるクリープ応力損傷となり、クリープ応力損傷の合計が監視されるクリープとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4589751号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の方法では、圧縮機の入口温度と圧力比との組み合わせの下で動作する時間量を監視することでコンプレッサ羽根車のクリープ余寿命を評価しており、コンプレッサ羽根車自体から取得する情報に基づいて余寿命を評価するものではないため、コンプレッサ羽根車の余寿命に関する状態の評価の精度が必ずしも高くなかった。
【0006】
上述の事情に鑑みて、本開示の少なくとも一実施形態は、コンプレッサ羽根車の余寿命に関する状態を精度良く評価できるコンプレッサ羽根車の余寿命評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本開示の少なくとも一実施形態に係るコンプレッサ羽根車の状態評価方法は、
コンプレッサが備えるコンプレッサ羽根車の余寿命に関する状態を評価するコンプレッサ羽根車の状態評価方法であって、
前記コンプレッサ羽根車の表面に形成された被膜に前記コンプレッサ羽根車の余寿命に関する状態を評価するための指標となる基準形状を形成する基準形状形成ステップと、
前記コンプレッサの点検時に、前記被膜の前記基準形状を転写されたレプリカを採取するレプリカ採取ステップと、
前記基準形状形成ステップで前記基準形状が形成された時点における前記基準形状と、前記レプリカ採取ステップで採取された前記レプリカとから求まる前記基準形状の変化に基づいて、前記コンプレッサ羽根車の余寿命に関する状態を評価する状態評価ステップと、
を備える。
【発明の効果】
【0008】
本開示の少なくとも一実施形態によれば、コンプレッサ羽根車の余寿命に関する状態を精度良く評価できるコンプレッサ羽根車の余寿命評価方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本開示に係るコンプレッサ羽根車の状態評価方法の概要を示すフロー図である。
図2図1に示したコンプレッサ羽根車の状態評価方法の評価対象であるコンプレッサ羽根車の構成の一例を示す概略斜視図である。
図3図2に示したコンプレッサ羽根車6におけるコンプレッサ翼10の表面近傍の構造を示す断面図である。
図4図1に示した基準形状形成ステップ(S101)の一例を説明するための図であり、図2における範囲S1の拡大図の一例である。
図5図4における方向d1に沿った断面の一部を示す、コンプレッサ翼10の部分断面図である。
図6図4に示した溝18の位置の経時変化を示す図である。
図7図5に示した溝18の位置及び幅Wの経時変化を示す、コンプレッサ翼10の部分断面図である。
図8】レプリカ20の採取方法を説明するための、コンプレッサ翼10の部分断面図である。
図9】i番目の定期点検で採取されたレプリカ20から計測される溝18の幅Wを示す、コンプレッサ翼10の部分断面図である。
図10図1に示した基準形状形成ステップ(S101)の一例を説明するための図であり、図2における範囲S1の拡大図の一例である。
図11】基準マーク30の形状を説明するための図である。
図12】基準マーク30の形状の経時変化を示す図である。
図13】基準マーク30の形状の経時変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照して本開示の幾つかの実施形態について説明する。ただし、実施形態として記載されている又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
例えば、「ある方向に」、「ある方向に沿って」、「平行」、「直交」、「中心」、「同心」或いは「同軸」等の相対的或いは絶対的な配置を表す表現は、厳密にそのような配置を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の角度や距離をもって相対的に変位している状態も表すものとする。
例えば、「同一」、「等しい」及び「均質」等の物事が等しい状態であることを表す表現は、厳密に等しい状態を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の差が存在している状態も表すものとする。
例えば、四角形状や円筒形状等の形状を表す表現は、幾何学的に厳密な意味での四角形状や円筒形状等の形状を表すのみならず、同じ効果が得られる範囲で、凹凸部や面取り部等を含む形状も表すものとする。
一方、一の構成要素を「備える」、「具える」、「具備する」、「含む」、又は、「有する」という表現は、他の構成要素の存在を除外する排他的な表現ではない。
【0011】
図1は、本開示に係るコンプレッサ羽根車の状態評価方法の概要を示すフロー図である。
図1に示すコンプレッサ羽根車の評価方法は、コンプレッサ羽根車の表面に形成された被膜にコンプレッサ羽根車の状態を評価するための指標となる基準形状を形成する基準形状形成ステップ(S101)と、コンプレッサの点検時に、上記被膜の基準形状を転写されたレプリカを採取するレプリカ採取ステップ(S102)と、基準形状形成ステップ(S101)で形成された上記基準形状と、レプリカ採取ステップ(S102)で採取されたレプリカとから求まる基準形状の変化に基づいて、コンプレッサ羽根車の余寿命に関する状態を評価する状態評価ステップ(S103)と、を備える。
【0012】
図2は、図1に示したコンプレッサ羽根車の状態評価方法の評価対象であるコンプレッサ羽根車の構成の一例を示す概略斜視図である。図示するコンプレッサ羽根車6は、過給機2が備える遠心コンプレッサ4のコンプレッサ羽根車6であり、過給機2はコンプレッサ羽根車6に回転軸8を介して連結された不図示のタービンホイールを含む。コンプレッサ羽根車6は、ハブ9と、ハブ9の外周面に周方向に間隔を空けて設けられた複数のコンプレッサ翼10と、を含む。
【0013】
図3は、図2に示したコンプレッサ羽根車6におけるコンプレッサ翼10の表面10s近傍の構成を示す断面図である。
図3に示す例では、コンプレッサ翼10は、母材14と、母材14の表面に陽極酸化処理(アルマイト処理)によって形成された陽極酸化被膜16(以下、単に「酸化被膜16」と記載する。)と、を備える。以下では、母材14がアルミニウム材であり、酸化被膜16が酸化アルミニウム被膜である場合の例を説明する。
【0014】
ここで、図4図9を用いて、図1に示したコンプレッサ羽根車の状態評価方法の具体例を説明する。
【0015】
図4は、図1に示した基準形状形成ステップ(S101)の一例を説明するための図であり、図2に示したコンプレッサ翼10の翼根11側の範囲S1の拡大図の一例である。図5は、図4における方向d1に沿った断面の一部を示す部分断面図である。
【0016】
図4及び図5に示す例では、S101において、コンプレッサ翼10の表面10sに形成された酸化被膜16に、コンプレッサ羽根車6の状態を評価するための指標となる基準形状(基準線)としての溝18(切込み)を形成する。S101では、例えば過給機2の運用開始前(過給機2の新品時)に酸化被膜16に溝18を形成する。S101では、予めFEM等の解析によって過給機2の運転状態におけるコンプレッサ翼10の最大主応力σ1が発生する箇所P1とその最大主応力σ1の方向d1を求めておき、その最大主応力σ1が発生する箇所P1に、最大主応力σ1の方向d1に直交する方向d2に沿って溝18を酸化被膜16に形成してもよい。図4に示す例示的な形態では、コンプレッサ翼10の翼根11側(コンプレッサ翼10の翼高さの半分の位置よりもハブ9側)においてコンプレッサ翼10の負圧面12に溝18が形成されている。なお、本明細書において、過給機2の運転状態とは、過給機2が運転している状態を意味し、コンプレッサ4の運転状態、すなわちコンプレッサ4が運転している状態を意味する。
【0017】
S101では、コンプレッサ翼10の溝18は、例えばレーザーマーキング、マイクロエッチング、又はその他の既知の手法によって形成されてもよい。また、S101では、図5に示すように、溝18は、母材14に傷を付けないように酸化被膜16のみに形成されることが望ましいが、母材14に達する深さまで形成されていてもよい。
【0018】
S101で溝18を形成した後に過給機2を運転すると、図6及び図7に示すように、過給機2の運転時間が増大するにつれて、母材14のクリープが進行することによって溝18の位置及び溝18の幅Wが変化する。図6には、過給機2の運転時間が増大するにつれて溝18の位置がハブ9から離れるように点線の位置から実線の位置へ変化することが示されている。図7には、過給機2の運転時間が増大するにつれて溝18の幅Wが増加することが示されている。なお、過給機2の運転に伴って母材14のクリープが進行すると溝18が起点となって酸化被膜16が破れ、微小に伸びた箇所が酸化されて酸化被膜が再生されるため、溝18の底部には、S101で形成された酸化被膜16よりも薄い酸化被膜16aが形成される。
【0019】
S102では、図8に示すように、過給機2の定期点検時(過給機2の開放点検時)に、コンプレッサ羽根車6を覆う不図示のケーシングを開放して、酸化被膜16における溝18を形成された部分のレプリカ20(酸化被膜16における溝18の形状を転写されたレプリカ20)を既知のレプリカ法を用いて採取する。例えば、過給機2の定期点検毎に上記レプリカ20の採取を行ってもよい。そして、採取された上記レプリカ20を計測することにより、上記レプリカ20が採取された時点での溝18の幅を計測する。以下では、図9に示すように、過給機2のi番目(iは1以上の整数である。)の定期点検時に採取されたレプリカ20から計測された溝18の幅をWiと記載する。なお、図9における破線は、時間の経過による溝18の移動及び形状の変化を示している。
【0020】
S103では、S101で溝18が形成された時点での溝18の幅W0(溝18の幅Wの初期値)と、S103で過給機2のi番目(iは1以上の整数である。)の定期点検時に採取されたレプリカ20から計測された溝18の幅をWiとから、溝18が形成された時点からi番目の定期点検の時点までの溝18の幅Wの変化量(Wi-W0)を算出し、算出した幅の変化量(Wi-W0)に基づいて、コンプレッサ羽根車6の余寿命に関する状態を評価する。
【0021】
この場合、例えば、溝18の幅の変化量(Wi-W0)とコンプレッサ羽根車6の余寿命との相関情報R1を予め取得しておき、溝18の幅の変化量(Wi-W0)と、相関情報R1とに基づいて、過給機2のi番目の定期点検の時点でのコンプレッサ羽根車6の余寿命を算出してもよい。例えば、溝18の幅の変化量(Wi-W0)が予め設定された閾値を上回った場合にコンプレッサ羽根車6の交換を行ってもよく、溝18の幅の変化量(Wi-W0)が予め設定された閾値以下である場合にコンプレッサ羽根車6を交換せずに引き続き使用する旨を判断してもよい。また、S103では、溝18の幅の変化量(Wi-W0)と溝18の底部における酸化被膜16aの進展状況とに基づいて、コンプレッサ羽根車6の余寿命を評価してもよい。このように、S103において評価するコンプレッサ羽根車6の「余寿命に関する状態」とは、例えばコンプレッサ羽根車6の余寿命自体であってもよいし、過給機2の点検時にコンプレッサ羽根車6を引き続き使用するか交換するかを判別するための指標となる状態であってもよいし、コンプレッサ羽根車6のその他の余寿命に関する状態であってもよい。
【0022】
ここで、上述したコンプレッサ羽根車6の状態評価方法が奏する効果について説明する。
上記のように、S101で酸化被膜16に形成された溝18は、過給機2の運転時間が経過するにつれてクリープの進行により変形する。このため、S101で溝18が形成された時点における溝18の形状と、S102で採取されたレプリカ20とから求まる溝18の形状の経時変化に基づいてコンプレッサ羽根車6の余寿命に関する状態を評価することにより、コンプレッサ羽根車6が過給機2の運転中に受けた影響を反映されたコンプレッサ羽根車6の余寿命に関する状態を精度良く評価することができる。また、過給機2の点検時にコンプレッサ羽根車6を引き続き使用するか否かを適切に評価することができ、コンプレッサ羽根車6の限界使用及びコンプレッサ羽根車6の交換時期の最適化が可能となる。
【0023】
また、S101において、コンプレッサ翼10において比較的大きな応力が発生しやすい翼根11側に溝18を形成することにより、コンプレッサ羽根車6における応力に起因する余寿命に関する状態を精度良く評価することができる。特に、コンプレッサ翼10における最大主応力σ1の発生する箇所P1に最大主応力σ1の方向と直交する方向d2に沿って溝18を形成することにより、過給機2の運転に伴って溝18の幅Wが最大主応力σ1の方向へ広がるため、溝18の幅Wの広がりが明瞭となるとともに、コンプレッサ羽根車6の応力状態の逆解析が可能となる。
【0024】
また、過給機2の運転時間が経過するにつれてクリープの進行によりコンプレッサ羽根車6の表面の溝18の幅Wが大きくなる。このため、溝18の幅の変化量(Wi-W0)に基づいてコンプレッサ羽根車6の余寿命に関する状態を評価することにより、コンプレッサ羽根車の余寿命に関する状態を精度良く評価することができる。
【0025】
次に、図10図13を用いて、図1に示したコンプレッサ羽根車の状態評価方法の他の具体例を説明する。
図10は、図1に示した基準形状形成ステップ(S101)の一例を説明するための図であり、図2における範囲S1の拡大図の一例である。
【0026】
図10に示す例では、S101において、コンプレッサ翼10の表面に形成された酸化被膜16に、コンプレッサ羽根車6の状態を評価するための指標となる基準形状としての基準マーク30を形成する。S101では、例えば過給機2の運用開始前(過給機2の新品時)に酸化被膜16に基準マーク30を形成する。S101では、予めFEM等の解析によって過給機2の運転状態におけるコンプレッサ翼10の最大主応力σ1が発生する箇所P1とその最大主応力σ1の方向d1を求めておき、その最大主応力σ1が発生する箇所P1に、基準マーク30を形成してもよい。図10に示す例示的な形態では、コンプレッサ翼10の翼根11側(コンプレッサ翼10の翼高さの半分の位置よりもハブ9側)においてコンプレッサ翼10の負圧面12に基準マーク30が形成されている。また、基準マーク30は、例えばレーザーマーキング、マイクロエッチング、又はその他の既知の手法によって形成されてもよい。基準マーク30は、母材14(図3参照)に傷を付けないように酸化被膜16のみに形成されることが望ましいが、母材14に達する深さまで形成されていてもよい。
【0027】
図10に示す例では、S101において、円C1に沿って形成される円形溝32と、円形溝32から円形溝32の外周側に向けて直線状に延在する4つの直線状溝34と、を含む基準マーク30を形成する。4つの直線状溝34は、円形溝32の中心(円C1の中心)の周りに90度間隔で配置されている。4つの直線状溝34は、第1直線L1(図11参照)に沿って形成された2つの直線状溝34aと、第1直線L1と直交する第2直線L2(図11参照)に沿って形成された2つの直線状溝34bとを含む。ここで、第1直線L1は、過給機2の運転状態におけるコンプレッサ翼10の最大主応力σ1の方向に沿った直線であってもよい。すなわち、2つの直線状溝34aは、過給機2の運転状態におけるコンプレッサ翼10の最大主応力σ1の方向に沿って形成されてもよい。
【0028】
S101で基準マーク30を形成した後に過給機2を運転すると、図12に示すように、過給機2の累積運転時間が増大するにつれて、母材14(図3参照)のクリープが進行することによって基準マーク30が変形する。基準マーク30の変形はクリープの進行に限らず、過給機2の過回転によってコンプレッサ羽根車6が損傷を受けた場合にも生じ得る。図12に示す例では、基準マーク30の形状が破線で示される形状から実線で示される形状に変化している。
【0029】
S102では、過給機2の定期点検時に、コンプレッサ羽根車6を覆う不図示のケーシングを開放して、酸化被膜16における基準マーク30を形成された部分のレプリカ(酸化被膜16における基準マーク30の形状を転写された不図示のレプリカ)を既知のレプリカ法を用いて採取する。上記レプリカの採取は、例えば過給機2の定期点検毎に行われてもよい。
【0030】
S103では、S101の基準マーク30が形成された時点における基準マーク30の形状(過給機2の新品時における基準マーク30の初期形状)と、S102の過給機2のi番目の定期点検時に採取された上記レプリカから求まるi番目の定期点検時における基準マーク30の形状(図13参照)と、を比較して、S101の基準マーク30が形成された時点からS102の過給機2のi番目の定期点検の時点までの基準マーク30の形状の変化を観察する。そして、S101の基準マーク30が形成された時点からS102の過給機2のi番目の定期点検の時点までの基準マーク30の形状の経時変化に基づいて、i番目の定期点検の時点におけるコンプレッサ羽根車6の余寿命に関する状態を評価する。
【0031】
ここで、図10図13等を用いて説明したコンプレッサ羽根車の状態評価方法が奏する効果について説明する。
【0032】
上記のように、過給機2の運転時間が経過するにつれて、コンプレッサ羽根車6の表面における基準マーク30の形状は、クリープの進行によって2次元的に変化する。このため、S101で基準マーク30が形成された時点における基準マーク30の形状と、S102で採取されたレプリカ20とから求まる基準マーク30の形状の2次元的な変化(コンプレッサ翼10の表面10sでの2次元的な変化)に基づいて、主応力方向を把握するとともにその主応力方向に沿った基準マーク30の変形量を把握することができ、コンプレッサ羽根車6の余寿命に関する状態を精度良く評価することができる。また、基準マークの変化(楕円形状への変化及び十字マークの角度変化)を観察することにより、主応力方向を把握でき、コンプレッサ羽根車6の応力状態の逆解析が可能となる。また、過給機2の定期点検時にコンプレッサ羽根車6を引き続き使用するか否かを適切に評価することができ、コンプレッサ羽根車6の限界使用及びコンプレッサ羽根車6の交換時期の最適化が可能となる。
【0033】
特に、上記基準マーク30における円形溝32の変形(図13に示す例では円から徐々に扁平化する変形)に基づいて主応力方向を把握し、直線状溝34の傾きの変化に基づいて円形溝32の中心の周りの基準マーク30の回転方向の変形(捩じれ)を把握することにより、コンプレッサ羽根車6の余寿命に関する状態を精度良く評価することができる。
【0034】
また、互いに直交する2つの直線L1,L2に沿って4つの直線状溝34が円形溝32の周りに配置されるため、基準マーク30の変形を明瞭に把握することができる。これにより、コンプレッサ羽根車6の余寿命に関する状態を精度良く評価することができる。特に、直線L1を過給機2の運転状態におけるコンプレッサ翼10の最大主応力σ1の方向に沿った直線とすることにより(2つの直線状溝34aを上記最大主応力σ1の方向に沿って形成することにより)、主応力に沿った方向における基準マーク30の変形を明瞭に把握することができる。これにより、コンプレッサ羽根車6の余寿命に関する状態を精度良く評価することができる。
【0035】
本開示は上述した実施形態に限定されることはなく、上述した実施形態に変形を加えた形態や、これらの形態を適宜組み合わせた形態も含む。
【0036】
例えば、エンジンの運転状態を示すエンジンデータ等、過給機2の余寿命に影響を与える幾つかのデータをリアルタイムでオンラインデータとして取得し、そのオンラインデータに基づいて羽根車の余寿命をリアルタイムで評価する余寿命評価方法と、本開示の上述のコンプレッサ羽根車の状態評価方法とを組み合わせてもよい。この場合、過給機2の定期点検時に上述のレプリカを用いて評価したコンプレッサ羽根車の余寿命を用いて、過給機2の定期点検後にオンラインデータに基づいてリアルタイムで評価するコンプレッサ羽根車の余寿命を補正してもよい。これにより、コンプレッサ羽根車6の余寿命に関する状態を更に精度良く評価することができる。
【0037】
また、上述した幾つかの実施形態では、S101で基準形状を設ける箇所の例として、図2における範囲S1を示したが、基準形状を設ける箇所は複数であってもよく、例えば図2におけるコンプレッサ翼10の後縁近傍の範囲S2に設けてもよい。また、基準形状はコンプレッサ翼10の各々に設けてもよい。また、基準形状はコンプレッサ翼10の圧力面に形成してもよいし、コンプレッサ翼10の先端側に形成してもよい。なお、基準形状を設ける箇所を複数とすることにより、事前の解析結果を検証することができ、将来の解析精度の向上につながる。また、経年運転によるコンプレッサ羽根車6の全体の変形(クリープ形態)を把握できる。また、コンプレッサ翼10の先端側に基準形状を設けることにより、コンプレッサ羽根車6の温度勾配の影響を検証することができる。例えば、コンプレッサ翼10の先端側と翼根側の各々に基準形状を設けることにより、コンプレッサ4の運転中におけるコンプレッサ翼10の翼高さ方向の温度勾配の影響を検証することができる。また、例えば、コンプレッサ翼10に空気の流れ方向に間隔を空けて複数の基準形状を設けることにより、コンプレッサ4の運転中における空気の流れ方向の温度勾配の影響を検証することができる。
【0038】
上記各実施形態に記載の内容は、例えば以下のように把握される。
【0039】
(1)本開示の少なくとも一実施形態に係るコンプレッサ羽根車の状態評価方法は、
コンプレッサ(例えば上述のコンプレッサ4)が備えるコンプレッサ羽根車(例えば上述のコンプレッサ羽根車6)の余寿命に関する状態を評価するコンプレッサ羽根車の状態評価方法であって、
前記コンプレッサ羽根車の表面に形成された被膜(例えば上述の酸化被膜16)に前記コンプレッサ羽根車の余寿命に関する状態を評価するための指標となる基準形状(例えば上述の溝18又は基準マーク30)を形成する基準形状形成ステップと、
前記コンプレッサの点検時に、前記被膜の前記基準形状を転写されたレプリカ(例えば上述のレプリカ20)を採取するレプリカ採取ステップと、
前記基準形状形成ステップで前記基準形状が形成された時点における前記基準形状と、前記レプリカ採取ステップで採取された前記レプリカとから求まる前記基準形状の変化に基づいて、前記コンプレッサ羽根車の余寿命に関する状態を評価する状態評価ステップと、
を備える。
【0040】
上記(1)に記載のコンプレッサ羽根車の状態評価方法によれば、基準形状形成ステップで被膜に形成された基準形状は、コンプレッサの運転時間が経過するにつれてクリープの進行により変形する。このため、コンプレッサの点検時に基準形状を転写されたレプリカを採取し、基準形状の変化に基づいてコンプレッサ羽根車の余寿命に関する状態を評価することにより、コンプレッサ羽根車がコンプレッサの運転中に受けた影響を反映されたコンプレッサ羽根車の余寿命に関する状態を精度良く評価することができる。また、コンプレッサの点検時にコンプレッサ羽根車を引き続き使用するか否かを適切に評価することができ、コンプレッサ羽根車の限界使用及びコンプレッサ羽根車の交換時期の最適化が可能となる。
【0041】
(2)幾つかの実施形態では、上記(1)に記載のコンプレッサ羽根車の状態評価方法において、
前記基準形状形成ステップでは、コンプレッサ翼(例えば上述のコンプレッサ翼10)における翼根側(例えば上述の翼根11側)に前記基準形状を形成する。
【0042】
上記(2)に記載のコンプレッサ羽根車の状態評価方法によれば、コンプレッサ翼において比較的大きな応力が発生しやすい翼根側に基準形状を形成することにより、コンプレッサ羽根車における応力に起因する余寿命に関する状態を精度良く評価することができる。
【0043】
(3)幾つかの実施形態では、上記(1)又は(2)に記載のコンプレッサ羽根車の状態評価方法において、
前記基準形状形成ステップでは、前記コンプレッサの運転状態におけるコンプレッサ翼の最大主応力の発生する箇所(例えば上述の箇所P1)に前記基準形状を形成する。
【0044】
上記(3)に記載のコンプレッサ羽根車の状態評価方法によれば、コンプレッサ翼における最大主応力の発生する箇所に基準形状を形成することにより、コンプレッサ羽根車における応力に起因する余寿命に関する状態を精度良く評価することができる。
【0045】
(4)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(3)の何れかに記載のコンプレッサ羽根車の状態評価方法において、
前記基準形状形成ステップでは、前記被膜に前記基準形状としての溝(例えば上述の溝18)を形成し、
前記状態評価ステップは、前記溝の幅の変化(例えば上述の変化量(Wi-W0))に基づいて、前記コンプレッサ羽根車の余寿命に関する状態を評価する。
【0046】
上記(4)に記載のコンプレッサ羽根車の状態評価方法によれば、コンプレッサの運転時間が経過するにつれてクリープの進行によりコンプレッサ羽根車の表面の溝の幅が大きくなる。このため、溝の幅の変化に基づいてコンプレッサ羽根車の余寿命に関する状態を評価することにより、コンプレッサ羽根車の余寿命に関する状態を精度良く評価することができる。
【0047】
(5)幾つかの実施形態では、上記(4)に記載のコンプレッサ羽根車の状態評価方法において、
前記基準形状形成ステップでは、前記コンプレッサの運転状態におけるコンプレッサ翼の最大主応力の方向と直交する方向に沿って前記溝を形成する。
【0048】
上記(5)に記載のコンプレッサ羽根車の状態評価方法によれば、コンプレッサの運転状態におけるコンプレッサ翼の最大主応力の方向と直交する方向に沿って溝を形成することにより、コンプレッサの運転中の最大主応力の影響を反映した溝の幅の変化量に基づいて、コンプレッサ羽根車の余寿命に関する状態を精度良く評価することができる。
【0049】
(6)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(3)の何れかに記載のコンプレッサ羽根車の状態評価方法において、
前記基準形状形成ステップでは、前記被膜に前記基準形状としての基準マーク(例えば上述の基準マーク30)を形成し、
前記状態評価ステップは、前記基準マークの形状の変化に基づいて、前記コンプレッサ羽根車の余寿命に関する状態を評価する。
【0050】
上記(6)に記載のコンプレッサ羽根車の状態評価方法によれば、コンプレッサの運転時間が経過するにつれてクリープの進行によりコンプレッサ羽根車の表面の基準マークの形状が2次元的に変化する。このため、基準マークの形状の2次元的な変化に基づいて、主応力方向及びその主応力方向に沿った基準マークの変形量を把握し、コンプレッサ羽根車の余寿命に関する状態を精度良く評価することができる。
【0051】
(7)幾つかの実施形態では、上記(6)に記載のコンプレッサ羽根車の状態評価方法において、
前記基準形状形成ステップでは、円に沿って形成された円形溝と、前記円形溝から前記円形溝の外周側に向けて直線状に延在する少なくとも1つの直線状溝(例えば上述の4つの直線状溝34)とを含む基準マークを形成する。
【0052】
上記(7)に記載のコンプレッサ羽根車の状態評価方法によれば、円形溝の変形に基づいて主応力方向を把握することができ、直線状溝の傾きの変化に基づいて円形溝の中心の周りの基準マークの回転(捩じれ)を把握することができる。これにより、コンプレッサ羽根車の余寿命に関する状態を精度良く評価することができる。
【0053】
(8)幾つかの実施形態では、上記(7)に記載のコンプレッサ羽根車の状態評価方法において、
前記基準形状形成ステップでは、前記円形溝と、前記円形溝の外周側に向けて直線状に延在する4つの直線状溝とを含む基準マークを形成し、
前記4つの直線状溝は、前記円形溝の中心の周りに90度間隔で配置され、
前記4つの直線状溝は、第1直線(例えば上述の第1直線L1)に沿って形成された2つの直線状溝(例えば上述の2つの直線状溝34a)と、前記第1直線と直交する第2直線(例えば上述の第2直線L2)に沿って形成された2つの直線状溝(例えば上述の2つの直線状溝34b)とを含む。
【0054】
上記(8)に記載のコンプレッサ羽根車の状態評価方法によれば、互いに直交する2つの直線に沿って4つの直線状溝が円形溝の周りに配置されるため、基準マークの変形を明瞭に把握することができる。これにより、コンプレッサ羽根車の余寿命に関する状態を精度良く評価することができる。
【0055】
(9)幾つかの実施形態では、上記(8)に記載のコンプレッサ羽根車の状態評価方法において、
前記第1直線に沿って形成された前記2つの直線状溝は、前記コンプレッサの運転状態における前記コンプレッサ羽根車のコンプレッサ翼の最大主応力の方向に沿って形成される。
【0056】
上記(9)に記載のコンプレッサ羽根車の状態評価方法によれば、主応力に沿った方向における基準マークの変形を明瞭に把握することができる。これにより、コンプレッサ羽根車の余寿命に関する状態を精度良く評価することができる。
【符号の説明】
【0057】
2 過給機
4 遠心コンプレッサ
6 コンプレッサ羽根車
8 回転軸
9 ハブ
10 コンプレッサ翼
11 翼根
12 負圧面
14 母材材
16,16a 酸化被膜
18 溝
20 レプリカ
30 基準マーク
32 円形溝
34,34a,34b 直線状溝
C1 円
L1 第1直線
L2 第2直線
R1 相関情報
S1,S2 範囲
Wi,W0 幅
d1,d2 方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13