(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023056646
(43)【公開日】2023-04-20
(54)【発明の名称】感染抑制装置
(51)【国際特許分類】
B61D 27/00 20060101AFI20230413BHJP
B60H 3/06 20060101ALI20230413BHJP
B60H 1/00 20060101ALI20230413BHJP
B61D 33/00 20060101ALI20230413BHJP
B64D 11/06 20060101ALI20230413BHJP
B64D 13/06 20060101ALI20230413BHJP
B60N 2/56 20060101ALI20230413BHJP
A47C 7/72 20060101ALI20230413BHJP
【FI】
B61D27/00 U
B60H3/06 E
B60H1/00 102V
B61D33/00 A
B61D27/00 T
B61D27/00 L
B64D11/06
B64D13/06
B60N2/56
A47C7/72
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021165975
(22)【出願日】2021-10-08
(71)【出願人】
【識別番号】000226242
【氏名又は名称】日機装株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】弁理士法人平田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】村田 浩貴
【テーマコード(参考)】
3B084
3B087
3L211
【Fターム(参考)】
3B084JA02
3B084JD00
3B087DE10
3L211AA05
3L211BA08
3L211BA10
3L211DA73
(57)【要約】
【課題】 感染抑制効果を向上させることができる感染抑制装置を提供する。
【解決手段】 前後方向及び左右方向に整列して配置された複数の座席11と、上下方向における上方から空気を供給し床下に排気する空調設備12と、を備えた新幹線に搭載され、複数の座席11に着席する複数の乗客間での感染を抑制するための感染抑制装置40であって、吸気口61、吸気口61から吸気した空気を清浄化して清浄空気とする空気清浄化機構63、及び、前後方向における前方に清浄空気を吹き出す吹出口81を有し、吹出口81が、上下方向に延びた層状の清浄空気を吹き出し可能なエアバリア形成ユニット51を備え、エアバリア形成ユニット51は、複数の座席11の背もたれ22にそれぞれ取り付けられると共に、吹出口81が、背もたれ22の左右方向の側端部から前方の座席11における背もたれ22の背面に向かって、層状の清浄空気を吹き出す。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
前後方向及び左右方向に整列して配置された複数の座席と、上下方向における上方から空気を供給し床下に排気する空調設備と、を備えた乗り物に搭載され、
吸気口、前記吸気口から吸気した空気を清浄化して清浄空気とする空気清浄化機構、及び、前記前後方向における前方に前記清浄空気を吹き出す吹出口を有し、前記吹出口が、前記上下方向に延びた層状の前記清浄空気を吹き出し可能なエアバリア形成ユニットを備え、
前記エアバリア形成ユニットは、
前記複数の座席にそれぞれ取り付けられると共に、
前記吹出口が、前記座席の前記左右方向の側端部から前記前方の前記座席における背もたれの背面に向かって、前記層状の清浄空気を吹き出す、
感染抑制装置。
【請求項2】
前記エアバリア形成ユニットは、前記座席に着座する乗客に面する前記層状の清浄空気の風速が0.3m/sec以下となるように、前記吹出口から前記層状の清浄空気を吹き出す、
請求項1に記載の感染抑制装置。
【請求項3】
前記エアバリア形成ユニットは、
前記背もたれの前記上下方向の上端部に位置し、前記吸気口が設けられた吸気口配設部と、
前記背もたれの前記左右方向の側端部にそれぞれ位置し、前記吹出口が設けられた一対の吹出口配設部と、を一体として有する、
請求項1又は2に記載の感染抑制装置。
【請求項4】
前記エアバリア形成ユニットは、前記吹出口の位置を、前記上下方向で調整可能に構成されている、
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の感染抑制装置。
【請求項5】
前記乗り物が、新幹線である、
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の感染抑制装置。
【請求項6】
前後方向及び左右方向に整列して配置された複数の座席と、上下方向における上方から空気を供給し床下に排気する空調設備と、を備えた施設又は乗り物に設置され、
吸気口、前記吸気口から吸気した空気を清浄化して清浄空気とする空気清浄化機構、及び、前記前後方向における前方に前記清浄空気を吹き出す吹出口を有し、前記吹出口が、前記上下方向に延びた層状の前記清浄空気を吹き出し可能なエアバリア形成ユニットを備え、
前記エアバリア形成ユニットは、
前記複数の座席にそれぞれ取り付けられると共に、
前記吹出口が、前記座席の前記左右方向の少なくとも一方の側端部から前記前方の前記座席における背もたれの背面に向かって、前記層状の清浄空気を吹き出す、
感染抑制装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、感染抑制装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、新幹線等の乗り物において、乗客間でのウィルスや細菌の感染が問題となっている。これに対し、従来、感染抑制装置として、複数の座席の左右側端部のそれぞれにエアバリア形成ユニットを取り付けたエアバリア方式の感染抑制装置がある(特許文献1参照)。このエアバリア形成ユニットは、前後方向における後方から吸気する吸気口と、吸気口から吸気した空気を清浄化して清浄空気とする空気清浄化機構と、前後方向における前方に清浄空気を吹き出す吹出口と、を有し、吹出口から左右方向に対して垂直な層状に清浄空気を吹き出し可能となっている。この感染抑制装置では、各エアバリア形成ユニットの吹出口から、左右方向に対して垂直な層状に吹き出された清浄空気によって、左右に隣り合う座席の間にエアバリアが形成されることで、乗客間での感染を抑制できるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、従来の感染抑制装置は、上方から空気を供給し床下に排気する空調設備を備えた乗り物では、上方から供給された空気が座席を避けて迂回して床下に排気される気流が生まれやすい。座席上を避けて迂回する気流が生まれると、当該気流が避けた左右に隣り合う複数の座席の間において循環する空気の流れが生じやすくなり、乗客間での感染抑制効果が低減する虞があった。
【0005】
そこで、本発明は、感染抑制効果を向上させることができる感染抑制装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記目的を達成するために、前後方向及び左右方向に整列して配置された複数の座席と、上下方向における上方から空気を供給し床下に排気する空調設備と、を備えた乗り物に搭載され、吸気口、前記吸気口から吸気した空気を清浄化して清浄空気とする空気清浄化機構、及び、前記前後方向における前方に前記清浄空気を吹き出す吹出口を有し、前記吹出口が、前記上下方向に延びた層状の前記清浄空気を吹き出し可能なエアバリア形成ユニットを備え、前記エアバリア形成ユニットは、前記複数の座席にそれぞれ取り付けられると共に、前記吹出口が、前記座席の前記左右方向の側端部から前記前方の前記座席における背もたれの背面に向かって、前記層状の清浄空気を吹き出す、感染抑制装置を提供する。
【0007】
また、本発明は、上記目的を達成するために、前後方向及び左右方向に整列して配置された複数の座席と、上下方向における上方から空気を供給し床下に排気する空調設備と、を備えた施設又は乗り物に設置され、吸気口、前記吸気口から吸気した空気を清浄化して清浄空気とする空気清浄化機構、及び、前記前後方向における前方に前記清浄空気を吹き出す吹出口を有し、前記吹出口が、前記上下方向に延びた層状の前記清浄空気を吹き出し可能なエアバリア形成ユニットを備え、前記エアバリア形成ユニットは、前記複数の座席にそれぞれ取り付けられると共に、前記吹出口が、前記座席の前記左右方向の少なくとも一方の側端部から前記前方の前記座席における背もたれの背面に向かって、前記層状の清浄空気を吹き出す、感染抑制装置を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、感染抑制効果を向上させることができる感染抑制装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施形態に係る感染抑制装置及びこれを搭載した新幹線の車両を示した模式正面図(a)及び模式平面図(b)である。
【
図3】エアバリア形成ユニットを示した上面図(a)及び正面図(b)である。
【
図4】(a)は、エアバリア形成ユニットの内部構造を示した模式上面図であり、(b)は、エアバリア形成ユニットの内部構造を示した模式正面図である。
【
図5】エアバリア形成ユニットにおける清浄空気の吹き出しを示した平面図である。
【
図6】エアバリア形成ユニットにおける清浄空気の吹き出しと、これに伴って生じる座席周りの気流を示した側面図である。
【
図7】エアバリア形成ユニットの清浄空気の吹き出しに伴って生じる車両室内全体の気流を示した模式正面図である。
【
図8】エアバリア形成ユニットの変形例を示した正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[実施形態]
以下、添付の図面を参照しながら、本発明の一実施形態に係る感染抑制装置について説明する。この感染抑制装置は、複数の乗客が着座する複数の座席を備えた乗り物に搭載され、複数の乗客間での感染を抑制するための装置であり、エアバリアを形成して感染を抑制するエアバリア方式の感染抑制装置である。特に、本感染抑制装置は、上方から空気を供給し床下に排気する空調設備を備えた乗り物において、エアバリア形成ユニットの吹出先を工夫することで、感染抑制効果を向上させたものである。なお、本実施形態では、乗り物が新幹線である場合を例示するが、感染抑制装置を搭載する乗り物は新幹線に限らず、特急電車等の他の長距離列車やバス、航空機等にも適用可能である。また、詳細は後述するが、本感染抑制装置では、細菌やウィルスの分解及び不活性化のみならず、臭いの抑制や粒子状物質(PM)の除去も可能であるため、多数の乗客が長時間閉鎖空間で過ごすことが強いられる乗り物において、特に好適に用いることができる。ここで感染抑制装置について説明する前に、感染抑制装置を搭載した新幹線の車両について説明する。
【0011】
(新幹線の車両の構成)
図1に示すように、新幹線の車両1は、左右方向及び前後方向に整列して配置された複数の座席11と、車両1内の空気を調和する空調設備12と、を備えている。具体的には、
図1(b)に示すように、複数の座席11は、通路を挟んで右3列、左2列に整列されている。
【0012】
図2に示すように、各座席11は、座面21と、座面21の後方の端部から上方に延びる背もたれ22と、座面21の両側部にそれぞれ設けられたアームレスト23、23と、背もたれ22の上部に設けられたヘッドレスト24と、を有している。背もたれ22は、後方に傾いており、背もたれ22の背面は、後方から前方に向かって下り傾斜を成している。また、各座席11は、座面21に対する背もたれ22の傾斜角度を調整可能なリクライニング機能を有していても良い。なお、座席11の左右方向、前後方向及び上下方向は、車両1の前後方向、左右方向及び上下方向と一致するものであり、座席11の背もたれ22側を後方とし、その反対側を前方としている。また、座席11のアームレスト23側の方向を左右方向としている。
【0013】
図1に示すように、空調設備12は、車両1の上下方向における上方から室内1aに空気を供給する供給口31と、室内1aの空気を車両1の床下に排気する複数の排気口32と、車両1の床下に配設され、室内1aに供給する空気を処理する空調装置33と、を備えている。複数の排気口32は、複数の座席11に対応し、各座席11の足元に配設されている。各座席11の足元の各排気口32から床下に排気された空気は、床下の空調ダクト34を介して、空調装置33に到り、換気処理や温度調整処理が行なわれた後、床下及び側壁内の空調ダクト34を介して、車両1上方の供給口31から室内1aに供給される。すなわち、空調設備12は、車両1の上方から空気を供給し床下に排気する構成を有している。
【0014】
(感染抑制装置の構成)
図1に示すように、感染抑制装置40は、左右方向及び前後方向に整列された複数の座席11に対し、その背もたれ22の上部にそれぞれ取り付けられた複数のエアバリア形成ユニット41を有している。
【0015】
図3に示すように、各エアバリア形成ユニット41は、背もたれ22の上下方向の上端部に位置し、吸気口61が設けられた吸気口配設部51と、背もたれ22の左右方向の側端部に位置し、吹出口81が形成された左右一対の吹出口配設部52と、を一体として有している。すなわち、エアバリア形成ユニット41は、座席11の背もたれ22の上部において、背もたれ22の上面及び両側面を囲うように取り付けられている。
【0016】
図4に示すように、吸気口配設部51は、外郭を成すケース60と、ケース60の後方に配設された吸気口61と、ケース60内に形成され、吸気口61に連通する内部流路62と、吸気口61及び内部流路62上に配設され、吸気口61から吸気した空気を清浄化して清浄空気とする空気清浄化機構63と、内部流路62上に配設され、空気の吸入(吸気)及び排出(吹き出し)を行うための2つのファン64と、を有している。
【0017】
吸気口61は、ケース60の後方且つ左右方向中央位置に配設され、左右方向に長い矩形状(長方形状)に形成された開口である。吸気口61は、座席11の後方に向かって開口しており、背もたれ22の上端部において、後方の座席11上の空気を吸入する。
【0018】
吸気口配設部51の内部流路62は、吸気口61に連通する部分から左右に分岐する2つの分岐流路62aを有し、各分岐流路62aは、それぞれ各吹出口配設部52に連通している。
【0019】
空気清浄化機構63は、吸気口61から導入された空気に対して、細菌やウィルスの分解及び不活性化を行い、かつ、臭いの抑制や粒子状物質の除去を行うものである。空気清浄化機構63は、吸気口61上に配設されたプレフィルタ71と、プレフィルタ71の後方に配設された光触媒担持フィルタ72と、プレフィルタ71及び光触媒担持フィルタ72の間に配設された光源73と、を有している。
【0020】
プレフィルタ71は、吸気口61上において、塵埃を捕集する捕集フィルタである。
【0021】
光触媒担持フィルタ72は、光源73からの紫外線の照射により光触媒機能を発揮する光触媒が担持され塵埃を捕集する。
【0022】
光源73は、光触媒担持フィルタ72に紫外線を照射する。本実施形態では、光触媒担持フィルタ72に深紫外線(例えば波長250nm以上280nm以下の紫外線)を照射する深紫外線LED(Light Emitting Diode)を用いている。
【0023】
このような構成の空気清浄化機構63を用いることで、細菌やウィルスの分解及び不活性化のみならず、臭いの原因物質の除去による臭いの抑制や粒子状物質の除去も可能となり、乗客の快適性を向上できる。この空気清浄化機構63では、NOX(窒素酸化物)等も分解可能であり、またPM2.5等の微粒子も除去可能である。
【0024】
各ファン64は、当該各分岐流路62aに配設された小型のDCファンであり、吸気口61からの空気の吸入及び吹出口81からの清浄空気の吹き出しを行う。この各ファン64の駆動量と、各吹出口81の開口面積とによって、各吹出口81から吹き出される清浄空気の風速を制御できるようになっている。詳細は後述するが、吹出口81から吹き出される清浄空気の風速は、乗客に面する清浄空気の風速が0.3m/sec以下となるように制御されている。
【0025】
各吹出口配設部52は、外郭を成すケース80と、ケース80の下部前方に配設された吹出口81と、ケース80内に形成され、吹出口81に連通する内部流路82と、を備えている。
【0026】
各吹出口配設部52の内部流路82は、元側が、吸気口配設部51の各分岐流路62aに連通し、先側が、吹出口81に連通している。吸気口61から吸気された空気は、空気清浄化機構63によって、清浄空気に清浄化された後、吸気口配設部51の各分岐流路62a及び各吹出口配設部52の内部流路82を通って、各吹出口配設部52の各吹出口81に至り、各吹出口81から前方に吹き出される構成となっている。
【0027】
吹出口81は、ケース80の下部前方に配設され、上下方向に延びるスリット状のスリット開口91と、スリット開口91上に配設され、清浄空気の吹出方向を左右方向の内向きに変更するフィン92と、を備えている。吹出口81では、上下方向に延びるスリット開口91によって、上下方向に延びる層状の清浄空気が吹き出される。その一方、吹出口81では、
図5に示すように、フィン92によって、上記層状の清浄空気の吹出方向が、左右方向の内寄りに変更され、層状の清浄空気の吹出先が、前方の座席11における背もたれ22の背面となっている(
図5では、説明を容易にするため、前方の座席11のエアバリア形成ユニット41の図示省略する)。すなわち、吹出口81は、座席11の背もたれ22の側端部から、前方の座席11の背もたれ22の背面に向かって層状の清浄空気を吹き出す。具体的には、吹出口81は、当該背もたれ22の背面の左右方向中央部に向かって、層状の清浄空気を吹き出す。吹出口81から吹き出された層状の清浄空気は、その内外を隔離するエアバリアを成している。このエアバリアによって、エアバリア形成ユニット41を取り付けた座席11上に対し、隣の座席11の空気が入り込むのを抑制している。なお、吹出口81の上下方向の位置は、座席11に着座した一般的な乗客の顔の位置に合わせた位置になっている。
【0028】
図5において、左右の吹出口81から吹き出された層状の清浄空気の気流は、平面視したとき、座席11の中心線Oに対して傾き内寄りに吹き出されており、前方の座席11の背もたれ22に対して90度未満角度で吹き付けられている。層状の清浄空気の気流の、座席11の中心線Oに対する傾斜角度は、10度以上60度以下が好ましく、30度以上45度以下がより好ましい。
【0029】
なお、左右の清浄空気の気流は互いに衝突するように構成されても良い。清浄空気の気流の仮想の衝突点Pは前方の座席11の背もたれ22の背面より手前でも良い。この場合には、座席11から仮想の衝突点Pまでの距離は、座席11と前方の座席11との距離よりも短く、上面視したとき略三角形のエアバリアが形成されることになる。また、清浄空気の気流の仮想の衝突点Pが前方の座席11の背もたれ22の背面を超えるものでも良い。この場合には、座席11から仮想の衝突点Pまでの距離は、座席11と前方の座席11との距離よりも長く、平面視したとき略台形のエアバリアが形成されることになる。
また、本実施形態では、清浄空気は前方の座席11の背もたれ22に向かって吹き出されるように構成されているが、清浄空気の吹出方向は上記態様には限定されない。例えば、最前列の座席11にエアバリア形成ユニット41を取り付ける場合には、前方の壁に向かって清浄空気を吹き出し、乗客の顔の周囲にエアバリアを形成しても良い。座席11から仮想の衝突点Pまでの距離を座席11と前方の壁との距離より短くし、上面視したとき略三角形のエアバリアを形成しても良い。また、座席11から仮想の衝突点Pまでの距離を座席11と前方の座席11との距離よりも長くし、上面視したとき略台形のエアバリアが形成しても良い。
また、座席11から仮想の衝突点Pまでの距離を、対向する座席11同士の距離の半分よりも短く構成することにより、前後の複数の座席11を回転させてボックス席とし、乗客同士が対面して着席する場合であっても、乗客間での感染を抑制する効果を期待することができる。
【0030】
また、
図6に示すように、吹出口81からに前方の背もたれ22の背面に向かって吹き出された層状の清浄空気は、当該背もたれ22の背面に突き当たる。背もたれ22の背面は、後方から前方に向かって下り傾斜となっているため、背もたれ22の背面に突き当たった清浄空気の多くは、当該背面に倣って下方に流れる。この結果、座席11上に、上方から下方に流れる気流が生じる。
図7に示すように、各座席11で、上方から下方に流れる気流が生じることで、車両1全体として、供給口31から供給された空気が、各座席11上を通り、各座席11の足元の各排気口32から床下に排気される気流が生じる。このように、吹出口81が、前方の座席11の背もたれ22の背面に向かって層状の清浄空気を吹き出すことにより、座席11上及び車両1室内1aの気流を清流する。
【0031】
また、吹出口81から吹き出す層状の清浄空気の風速は、座席11に着座した乗客に面する層状の清浄空気の風速が、0.3m/sec以下となるように制御(調整)されている。風速0.3m/sec以下という値は、発汗時の蒸気によって発生する気流の風速と同等のものであり、疲れ、寒さ、騒々しさ等の不快感を生じない風速である。すなわち、エアバリア形成ユニット41は、乗客に面する層状の清浄空気の風速が、当該乗客が不快感を与えない風速(0.3m/sec以下)となるように、吹出口81から層状の清浄空気を吹き出す構成となっている。清浄空気の風速が0.3m/sec以下の場合には、エアバリアの形成によって感染を抑制しつつ、隣席に着席した乗客同士が違和感を覚えることなく会話することができる。
【0032】
なお、ビューフォート風力階級表によれば、風速が0.15m/sec以下であれば、顔に風を感じないとされる。また、ISO7730によれば、風速が0.15m/secを超える場合、寒さを感じる虞があるとされる。そのため、乗客の不快感のみを考えるのであれば、吹出口81から吹き出す層状の清浄空気の風速は、座席11に着座した乗客に面する層状の清浄空気の風速が、0.15m/sec以下となるように制御されることが、より好ましい。
【0033】
また、風速が0.15m/sec以上であれば、層状の清浄空気によって形成されるエアバリアにおいて十分な空間隔離性能が得られる。そのため、層状の清浄空気によって形成されるエアバリアの空間隔離性能を考えると、吹出口81から吹き出す層状の清浄空気の風速は、座席11に着座した乗客に面する層状の清浄空気の風速が、0.15m/sec以上となるように制御されることが好ましい。すなわち、乗客の不快感に加え、層状の清浄空気によって形成されるエアバリアの空間隔離性能を考えるのであれば、吹出口81から吹き出す層状の清浄空気の風速は、座席11に着座した乗客に面する層状の清浄空気の風速が、0.15m/sec以上0.3m/sec以下となるように制御されることが、より好ましい。
【0034】
より言えば、層状の清浄空気によって形成されるエアバリア全域の風速が、0.15m/sec以上0.3m/sec以下となり、エアバリア内の乗客の顔周りにおける風の風速が、0.15m/sec以下となるように、吹出口81から吹き出す層状の清浄空気の風速を制御することが好ましい。
【0035】
(実施形態の作用及び効果)
以上、上記実施形態の構成によれば、吹出口81が前方の座席11の背もたれ22の背面に向かって層状の清浄空気を吹き出すことで、座席11上に上方から下方に流れる気流を生じさせることができ、上方から空気を供給し床下に排気する空調設備12を備えた車両1において、各座席11上を通る気流を生じさせることができる。これにより、隣り合う座席11間で空気が循環するのを抑制することができ、感染抑制効果を向上させることができる。
【0036】
また、上記実施形態の構成によれば、吹出口81が層状の清浄空気を内寄りに吹き出す構成であるため、層状の清浄空気を前後方向に平行に吹き出す構成と比べ、清浄空気を乗客に近づけることができ、乗客近傍の空気の換気を行うことができる。これにより、乗客近傍の空気を、より清浄化することができる。
【0037】
また、上記実施形態の構成によれば、背もたれ22の上端部の位置に吸気口61を配設したことで、背もたれ22に突き当たって上方に流れた空気を回収することができる。これにより、座席11上の空気が室内1a上方に舞い上がり、他の座席11に移動してしまう事態を抑制することができる。
【0038】
また、上記実施形態の構成によれば、エアバリア形成ユニット41が、背もたれ22の上端部に位置する吸気口配設部51と、背もたれ22の側端部に位置する吹出口配設部52とを一体に有している構成であるため、背もたれ22の側端部に位置するユニット単体で、吸気、空気の清浄化及び清浄空気の吹き出しを行う構成に比べ、空気清浄化機構63やファン64等の内蔵機構を無理なく配設することができ、また、内蔵機構を追加して、除菌機能や消臭機能の向上や、アロマ機能の追加等を図ることができる。
【0039】
また、上記実施形態の構成によれば、車両1の排気口32が、各座席11の足元に配設されていることで、エアバリア形成ユニット41による座席11上を通る気流の発生がしやすくなっている。
【0040】
また、上記実施形態の構成によれば、乗客に面する層状の清浄空気の風速を0.3m/sec以下にすることで、吹出口81から吹き出す清浄空気の風による不快感(寒さや疲れ、騒々しさ)を抑制することができる。さらに、隣席に着席した乗客同士が違和感を覚えることなく会話することができる。
【0041】
(変形例)
以上、本発明の実施形態を説明したが、上記に記載した実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【0042】
例えば、
図8に示すように、エアバリア形成ユニット41において、吸気口配設部51と各吹出口配設部52との間や各吹出口配設部52上に、可動部101を設け、吹出口81の位置を、上下方向で調整可能に構成しても良い。かかる場合、可動部101は、吸気口61から各吹出口81までの連通状態を維持しつつ、各吹出口81の上下方向の位置を可変可能にする構成を有しており、例えば、蛇腹構造や入り子構造によって実現する。かかる構成によれば、乗客が子供であったとしても、各吹出口81の上下方向の位置を子供の顔の位置に合わせることができ、感染抑制効果を向上させることができる。
【0043】
また、上記実施形態においては、エアバリア形成ユニット41がヘッドレスト24の近傍のみで清浄空気を吹き出すように構成したが、座席11の下方(座面21の近傍)まで延びる縦長の形状にエアバリア形成ユニット41(の吹出口81)を形成し、エアバリアを形成する範囲をより広くすることも当然に可能である。
【0044】
また、上記実施形態においては、吹出口配設部52を左右で2つ備え、座席11の左右方向の側端部の両方から清浄空気を吹き出す構成であったが、吹出口配設部52を1つのみ備え、座席11の左右方向の側端部の一方のみから清浄空気を吹き出す構成であっても良い。すなわち、上記実施形態においては、エアバリア形成ユニット41が、座席11における背もたれ22の左右方向の各側端部に位置した一対の吹出口配設部52を備え、一対の吹出口配設部52における2つの吹出口81によって、背もたれ22の左右方向の側端部の両方から、前方の座席11の背もたれ22の背面に向かって層状の清浄空気を吹き出す構成であったが、エアバリア形成ユニット41が、一対の吹出口配設部52のうちのいずれか1つのみを備え、当該吹出口配設部52の吹出口81が、背もたれ22の左右方向の側端部の一方から、前方の座席11の背もたれ22の背面に向かって層状の清浄空気を吹き出す構成であっても良い。かかる場合でも、各座席11において、左右方向の一方側にエアバリアを形成することで、各座席11の空間をそれぞれ隔離することができ、感染抑制効果を得ることができる。
【0045】
また、上記実施形態においては、エアバリア形成ユニット41を、座席11の背もたれ22に取り付ける構成であったが、エアバリア形成ユニット41を、座席11に取り付ける構成であれば、これに限るものではない。例えば、エアバリア形成ユニット41を、座席11の座面21に取り付ける構成であっても良い。
【0046】
また、上記実施形態においては、感染抑制装置40を、複数の座席11と空調設備12とを備えた乗り物(新幹線)に搭載する構成であったが、感染抑制装置40を、複数の座席11と空調設備12とを備えた施設(例えば、映画館やスタジアム、劇場等)に搭載する構成であっても良い。
【0047】
(実施形態のまとめ)
次に、以上説明した実施形態から把握される技術思想について、実施形態における符号等を援用して記載する。ただし、以下の記載における各符号等は、特許請求の範囲における構成要素を実施形態に具体的に示した部材等に限定するものではない。
【0048】
[1]前後方向及び左右方向に整列して配置された複数の座席(11)と、上下方向における上方から空気を供給し床下に排気する空調設備(12)と、を備えた乗り物に搭載され、吸気口(61)、前記吸気口(61)から吸気した空気を清浄化して清浄空気とする空気清浄化機構(63)、及び、前記前後方向における前方に前記清浄空気を吹き出す吹出口(81)を有し、前記吹出口(81)が、前記上下方向に延びた層状の前記清浄空気を吹き出し可能なエアバリア形成ユニット(41)を備え、前記エアバリア形成ユニット(41)は、前記複数の座席(11)にそれぞれ取り付けられると共に、前記吹出口(81)が、前記座席(11)の前記左右方向の側端部から前記前方の前記座席(11)における背もたれ(22)の背面に向かって、前記層状の清浄空気を吹き出す、感染抑制装置(40)。
これにより、上方から空気を供給し床下に排気する空調設備(22)を備えた乗り物において、各座席(11)上を通る気流を生じさせることができるため、感染抑制効果を向上させることができる。
[2]前記エアバリア形成ユニット(41)は、前記座席(11)に着座する乗客に面する前記層状の清浄空気の風速が0.3m/sec以下となるように、前記吹出口(81)から前記層状の清浄空気を吹き出す、[1]に記載の感染抑制装置(40)。
これにより、吹出口(81)から吹き出す清浄空気の風による不快感(寒さや疲れ、騒々しさ)を抑制することができる。
[3]前記エアバリア形成ユニット(41)は、前記背もたれ(22)の前記上下方向の上端部に位置し、前記吸気口(61)が設けられた吸気口配設部(51)と、前記背もたれ(22)の前記左右方向の側端部にそれぞれ位置し、前記吹出口(81)が設けられた一対の吹出口配設部(52)と、を一体として有する、[1]又は[2]に記載の感染抑制装置(40)。
これにより、空気清浄化機構(63)やファン(64)等の内蔵機構を無理なく配設することができ、また、内蔵機構を追加して、除菌機能や消臭機能の向上や、アロマ機能の追加等を図ることができる。
[4]前記エアバリア形成ユニット(41)は、前記吹出口(81)の位置を、前記上下方向で調整可能に構成されている、[1]乃至[3]のいずれか1つに記載の感染抑制装置(40)。
これにより、乗客が子供であったとしても、各吹出口(81)の上下方向の位置を子供の顔の位置に合わせることができ、感染抑制効果を向上させることができる。
[5]前記乗り物が、新幹線である、[1]乃至[4]のいずれか1つに記載の感染抑制装置(40)。
これにより、新幹線において、乗客間での感染を抑制することができる。
[6]前後方向及び左右方向に整列して配置された複数の座席(11)と、上下方向における上方から空気を供給し床下に排気する空調設備(12)と、を備えた施設又は乗り物に設置され、吸気口(61)、前記吸気口(61)から吸気した空気を清浄化して清浄空気とする空気清浄化機構(63)、及び、前記前後方向における前方に前記清浄空気を吹き出す吹出口(81)を有し、前記吹出口(81)が、前記上下方向に延びた層状の前記清浄空気を吹き出し可能なエアバリア形成ユニット(41)を備え、前記エアバリア形成ユニット(41)は、前記複数の座席(11)にそれぞれ取り付けられると共に、前記吹出口(81)が、前記座席(11)の前記左右方向の少なくとも一方の側端部から前記前方の前記座席(11)における背もたれ(22)の背面に向かって、前記層状の清浄空気を吹き出す、感染抑制装置(40)。
これにより、上方から空気を供給し床下に排気する空調設備(22)を備えた施設又は乗り物において、各座席(11)上を通る気流を生じさせることができるため、感染抑制効果を向上させることができる。
【符号の説明】
【0049】
11:座席、 12:空調設備、 22:背もたれ、 40:感染抑制装置、 41:エアバリア形成ユニット、 51:吸気口配設部、 52:吹出口配設部、 61:吸気口、 63:空気清浄化機構63、 81:吹出口