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特開2023-5668繊維分散体、水系スラリー組成物、及び繊維分散体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023005668
(43)【公開日】2023-01-18
(54)【発明の名称】繊維分散体、水系スラリー組成物、及び繊維分散体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09K 23/52 20220101AFI20230111BHJP
   C09D 17/00 20060101ALI20230111BHJP
   C09C 3/10 20060101ALI20230111BHJP
   C09K 3/00 20060101ALI20230111BHJP
【FI】
B01F17/52
C09D17/00
C09C3/10
C09K3/00 103G
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021107728
(22)【出願日】2021-06-29
(71)【出願人】
【識別番号】501360821
【氏名又は名称】住友ファーマフード&ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】弁理士法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】伊東 信哉
【テーマコード(参考)】
4D077
4J037
【Fターム(参考)】
4D077AA03
4D077AB06
4D077CA01
4D077CA02
4D077CA03
4D077CA04
4D077CA12
4D077DA02X
4D077DB06X
4D077DD65X
4J037AA00
4J037CC01
4J037EE03
4J037EE28
4J037FF15
(57)【要約】
【課題】比較的容易に製造することができ、剪断安定性に優れ、粉体粒子を含む水系スラリー組成物に優れた分散安定性を発揮させることができる繊維分散体、該繊維分散体を含む水系スラリー組成物、及び、該繊維分散体の製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】水性溶媒と粉体粒子と食物繊維とを含む水系スラリー組成物の作製に用いられ、前記水性溶媒と前記食物繊維とを含み、前記食物繊維が柑橘類由来の食物繊維であり、コーンプレート型粘度計を用いて100rpmにおける粘度η100及び1rpmにおける粘度η1を測定したときに、粘度η100が35mPa・s~250mPa・sであり、且つ、[粘度η1]/[粘度η100]で算出されるTI値が12以上である、繊維分散体。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性溶媒と粉体粒子と食物繊維とを含む水系スラリー組成物の作製に用いられ、
前記水性溶媒と、前記食物繊維とを含み、
前記食物繊維が、柑橘類由来の食物繊維であり、
コーンプレート型粘度計を用いて100rpmにおける粘度η100及び1rpmにおける粘度η1を測定したときに、粘度η100が35mPa・s~250mPa・sであり、且つ、[粘度η1]/[粘度η100]で算出されるTI値が12以上である、繊維分散体。
【請求項2】
前記食物繊維が、水溶性食物繊維と水不溶性食物繊維とを含む、請求項1に記載の繊維分散体。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の繊維分散体と、前記粉体粒子とを含む、水系スラリー組成物。
【請求項4】
前記粉体粒子が、無機系粉体粒子である、請求項3に記載の水系スラリー組成物。
【請求項5】
水性溶媒と柑橘類由来の食物繊維とを含む繊維混合液を剪断処理する、繊維分散体の製造方法。
【請求項6】
前記繊維混合液を、媒体撹拌ミルを用いて剪断処理するか、又は、少なくとも5MPa以上の加圧条件下で剪断処理する、請求項5に記載の繊維分散体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維分散体、該繊維分散体を含む水系スラリー組成物、及び、該繊維分散体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、水性溶媒と粉体粒子と繊維とを含む水系スラリー組成物の作製に用いられ、前記水性溶媒と前記繊維とを含む繊維分散体が知られている。
【0003】
水系スラリー組成物として、例えば、特許文献1には、粉体粒子たる顔料を含む塗料が記載されている。また、該塗料は、水中で剪断処理されることによって得られたセルロース繊維と、キサンタンガム等の増粘剤とを含む繊維分散体を用いて作製されており、これによって、顔料の沈降が抑制された分散安定性を有するものになると評価されている。
【0004】
また、特許文献2には、N-オキシル化合物による酸化、セルラーゼによる加水分解処理、及び剪断処理を経て得られたセルロース繊維を含む繊維分散体が記載されている。かかる繊維分散体は、撹拌等による剪断応力が加えられた際に、その前後において粘度の低下が抑制された剪断安定性を有するものであると評価されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006-111699号公報
【特許文献2】特開2010-235679号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、製造上のコストや手間等を考慮すると、上記のような繊維分散体は、容易に製造できるものであることが好ましい。しかしながら、従来技術の繊維分散体は、セルロース繊維と増粘剤との併用や、化学修飾されたセルロース繊維の使用によって、分散安定性や剪断安定性を発揮するものであり、上記要望を十分に満足させるものではない。
【0007】
上記事情に鑑み、本発明は、比較的容易に製造することができ、剪断安定性に優れ、粉体粒子を含む水系スラリー組成物に優れた分散安定性を発揮させることができる繊維分散体、該繊維分散体を含む水系スラリー組成物、及び、該繊維分散体の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る繊維分散体は、
水性溶媒と粉体粒子と食物繊維とを含む水系スラリー組成物の作製に用いられ、
前記水性溶媒と、前記食物繊維とを含み、
前記食物繊維が、柑橘類由来の食物繊維であり、
コーンプレート型粘度計を用いて100rpmにおける粘度η100及び1rpmにおける粘度η1を測定したときに、粘度η100が35mPa・s~250mPa・sであり、且つ、[粘度η1]/[粘度η100]で算出されるTI値が12以上である、繊維分散体である。
【0009】
斯かる構成によれば、柑橘類由来の食物繊維を含み、前記粘度が35mPa・s~250mPa・sであり且つ前記TI値が12以上であることによって、剪断安定性に優れたものとなる。また、該繊維分散体を含む水系スラリー組成物に優れた分散安定性を発揮させることができる。さらに、化学修飾されたセルロース繊維等と比較して、容易に製造することができる。
【0010】
また、本発明に係る繊維分散体は、好ましくは、
前記食物繊維が、水溶性食物繊維と水不溶性食物繊維とを含む。
【0011】
斯かる構成によれば、食物繊維が水溶性食物繊維と水不溶性食物繊維とを含むことによって、更に剪断安定性に優れ、また、水系スラリー組成物に更に優れた分散安定性を発揮させることができる。
【0012】
また、本発明に係る水系スラリー組成物は、前記繊維分散体と、粉体粒子とを含む。
【0013】
斯かる構成によれば、前記繊維分散体を含むことによって、剪断安定性及び分散安定性に優れたものとなる。
【0014】
また、本発明に係る水系スラリー組成物は、好ましくは、前記粉体粒子が、無機系粉体粒子である。
【0015】
斯かる構成によれば、前記繊維分散体を含むことによって、粉体粒子が比較的比重が大きく沈降し易い無機系粉体粒子であっても、分散安定性に優れたものとなる。
【0016】
また、本発明に係る繊維分散体の製造方法は、
水性溶媒と柑橘類由来の食物繊維とを含む繊維混合液を剪断処理する。
【0017】
斯かる構成によれば、前記繊維混合液を剪断処理することによって、剪断安定性に優れ、水系スラリー組成物に優れた分散安定性を発揮させる繊維分散体を製造することができる。
【0018】
また、本発明に係る繊維分散体の製造方法は、前記繊維混合液を、媒体撹拌ミルを用いて剪断処理するか、又は、少なくとも5MPa以上の加圧条件下で剪断処理することが好ましい。
【0019】
斯かる構成によれば、前記繊維混合液を、媒体撹拌ミルを用いて剪断処理するか、又は、少なくとも5MPa以上の加圧条件下で剪断処理することによって、更に剪断安定性に優れ、水系スラリー組成物に更に優れた分散安定性を発揮させる繊維分散体を製造することができる。
【発明の効果】
【0020】
以上の通り、本発明によれば、比較的容易に製造することができ、剪断安定性に優れ、粉体粒子を含む水系スラリー組成物に優れた分散安定性を発揮させることができる繊維分散体、該繊維分散体を含む水系スラリー組成物、及び、該繊維分散体の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の一実施形態に係る繊維分散体、及び、該繊維分散体と粉体粒子とを含む水系スラリー組成物について説明する。
【0022】
本実施形態に係る繊維分散体は、水性溶媒と粉体粒子と食物繊維とを含む水系スラリー組成物の作製に用いられるものである。前記繊維分散体は、前記水性溶媒と、前記食物繊維として柑橘類由来の食物繊維とを含む。
【0023】
前記水性溶媒としては、例えば、水、及び、室温(通常20~30℃)で該水に混合されたときに分離せずに該水と混和する水溶性有機溶媒が挙げられる。
【0024】
前記水としては、例えば、蒸留水や脱イオン水が好ましい。また、前記水は、水道水であってもよい。
【0025】
前記水溶性有機溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール等の低級アルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール等のグリコール類、グリセリン等の3価アルコール、アセトン、ジオキサン、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、アセトアミド等が挙げられる。これらは単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0026】
前記水性溶媒の総質量に対する水の含有量は、40質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましい。
【0027】
前記食物繊維は、柑橘類由来の食物繊維を含み、より具体的には、柑橘類の果実由来の食物繊維を含む。柑橘類は、ミカン属に分類されるものであり、例えば、レモン、ライム、オレンジ、グレープフルーツなどが挙げられる。また、前記食物繊維は、レモン由来の食物繊維及びライム由来の食物繊維の少なくとも一方を含むことが好ましい。さらに、前記食物繊維は、由来の異なる複数種の食物繊維を含むことがより好ましく、レモン由来の食物繊維及びライム由来の食物繊維の両方を含むことがより一層好ましい。
【0028】
前記食物繊維は、従来公知の方法によって取得され得る。例えば、前記食物繊維は、上記の果実を圧搾することによって果汁が除かれた残渣として、又は、該残渣を更に精製した精製物として取得される。
【0029】
前記食物繊維は、水溶性食物繊維及び水不溶性食物繊維の両方を含有することが好ましい。
【0030】
前記水溶性食物繊維としては、例えば、水溶性ヘミセルロース、ペクチン等が挙げられる。また、前記水不溶性食物繊維としては、例えば、セルロース、リグニン、水不溶性ヘミセルロース、プロトペクチン等が挙げられる。
【0031】
前記食物繊維に含まれる水溶性食物繊維の含有量は、該食物繊維の総質量に対して10質量%以上60質量%以下であることが好ましく、15質量%以上55質量%以下であることがより好ましい。また、前記食物繊維に含まれる水不溶性食物繊維の含有量は、該食物繊維の総質量に対して40質量%以上90質量%以下であることが好ましく、45質量%以上85質量%以下であることがより好ましい。
【0032】
前記繊維分散体の総質量に対する前記食物繊維の含有量は、0.1質量%以上であることが好ましく、0.5質量%以上であることがより好ましく、1.0質量%以上であることが更に好ましい。これによって、前記水系スラリー組成物における前記食物繊維の濃度を所望の値に調整し易くなる。また、前記含有量は、20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましい。これによって、前記繊維分散体の過度な粘度上昇が抑えられ、該繊維分散体が取り扱い易いものとなり、製造し易いものとなる。
【0033】
上記構成の繊維分散体は、所定の粘性を示すことが重要である。すなわち、1.0質量%の前記食物繊維を含む前記繊維分散体は、コーンプレート型粘度計を用い温度25℃で測定した粘度のうち、ローター回転数100rpmにおける粘度η100が35mPa・s以上250mPa・以下であることが重要である。また、ローター回転数1rpmにおける粘度をη1としたときに、[粘度η1]/[粘度η100]により算出されるTI値が、12以上であることが重要である。
【0034】
粘度η1は、1,000mPa・s以上であることが好ましく、1,500mPa・s以上であることがより好ましく、2,500mPa・s以上であることが更に好ましい。また、粘度η100は、50mPa・s以上であることが好ましく、70mPa・s以上であることがより好ましい。これによって、前記水系スラリー組成物が、例えば塗料の場合、タレ防止性に優れたものとなる。また、粘度η100は、200mPa・s以下であることが好ましく、150mPa・s以下であることがより好ましい。これによって、前記水系スラリー組成物が、例えば塗料の場合、塗布し易いものとなる。
【0035】
また、前記TI値は、15以上であることが好ましく、17以上であることがより好ましい。これによって、前記水系スラリー組成物中に前記食物繊維が十分に分散された状態となり、該水系スラリー組成物が分散安定性に優れたものとなる。また、前記水系スラリー組成物が塗料である場合、さらにタレ防止性に優れ、塗布し易いものとなる。
【0036】
前記繊維分散体は、添加剤として、顔料分散剤、消泡剤、防腐剤、pH調整剤等を含んでいてもよい。
【0037】
本実施形態の水系スラリー組成物は、例えば、前記水性溶媒と前記粉体粒子としての顔料とを含む水性塗料や、前記水性溶媒と前記粉体粒子としてのセラミックス粒子とを含むセラミック成形用スラリーとして好適に用いられ得る。
【0038】
前記粉体粒子としての顔料やセラミック粒子は、前記水性溶媒中で浮遊又は沈降し得る固形分であることが好ましい。
【0039】
前記顔料としては、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化鉄、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、バリウムイエロー、カドミウムレッド、クロムイエロー、カーボンブラック等の無機系顔料(無機系粉体粒子)が挙げられる。また、前記顔料は、アゾ系顔料、キナクリドン系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、ペリレン系顔料、ペリノン系顔料、ベンズイミダゾロン系顔料、イソインドリン系顔料、イソインドリノン系顔料、金属キレートアゾ系顔料、フタロシアニン系顔料、インダンスロン系顔料、ジオキサン系顔料、スレン系顔料、インジゴ系顔料等の有機系顔料(有機系粉体粒子)等であってもよい。
【0040】
前記セラミック粒子としては、例えば、アルミナ等の酸化アルミニウム、シリカ等の酸化ケイ素、ジルコニア等の酸化ジルコニウム、セリア等の酸化セリウム、ムライトやゼオライト等のアルミノケイ酸塩、炭化ケイ素、炭化タンタル、炭化タングステン等の炭化物、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、窒化ホウ素等の窒化物等の無機系粉体粒子が挙げられる。
【0041】
前記粉体粒子は、比重が1より大きい粉体粒子であることが好ましい。また、前記粉体粒子の比重は、1.1以上であってもよく、1.2以上であってもよく、更には2以上であってもよい。また、前記粉体粒子の比重は、10以下であることが好ましく、7以下であることがより好ましく、5以下であることがさらに好ましい。
【0042】
前記水系スラリー組成物における前記粉体粒子の含有量は、前記水系スラリー組成物の総質量に対して、1~70質量%であることが好ましく、1~50質量%であることがより好ましく、1~40質量%であることがさらに好ましい。
【0043】
前記水系スラリー組成物における前記食物繊維の含有量は、前記水系スラリー組成物の総質量に対して、0.05~5.0質量%であることが好ましく、0.05~2.0質量%であることがより好ましい。
【0044】
次に、前記繊維分散体の製造方法について説明する。
【0045】
前記繊維分散体の製造方法は、前記水性溶媒と、前記食物繊維とを混合して繊維混合液を作製する混合工程と、前記繊維混合液を剪断処理することによって前記繊維分散体を得る剪断工程とを備える。
【0046】
前記混合工程では、前記繊維混合液を作製する際の温度を10~40℃に設定することが好ましい。
【0047】
前記繊維混合液の総質量に対する前記食物繊維の含有量は、0.5~20質量%であることが好ましく、0.5~10質量%であることがより好ましく、0.5~5質量%であることがさらに好ましい。前記含有量が0.5質量%以上であることによって、製造における処理効率が向上する。また、前記含有量が20質量%以下であることによって、前記繊維混合液が適度な粘度を有するものとなり取扱性に優れたものとなる。
【0048】
前記剪断工程では、媒体撹拌ミル、高圧ホモジナイザー、高圧噴射装置等を用いることがより好ましい。前記媒体撹拌ミルは、砕料が加えられた前記繊維混合液を撹拌することによって、前記繊維混合液に(具体的には食物繊維に)砕料による衝突及び摩擦作用を加えつつ剪断処理する装置である。前記高圧ホモジナイザーは、前記繊維混合液を1MPa以上50MPa以下に加圧しつつ剪断処理する装置である。また、前記高圧噴射装置は、前記高圧ホモジナイザーよりも高圧力に加圧可能な装置であり、具体的には、50MPaよりも高い圧力で前記繊維混合液を加圧しつつ剪断処理する装置である。前記高圧噴射装置の加圧条件は、通常250MPa以下である。
【0049】
前記高圧ホモジナイザー又は前記高圧噴射装置を用いる場合の前記繊維混合液の加圧条件の下限は、5MPa以上であることが好ましく、8MPa以上であることがより好ましい。また、加圧条件の上限は250MPa以下であることが好ましい。
【0050】
前記剪断工程では、前記繊維分散体が所望の粘性を有するようになるまで、前記剪断処理を実施することが好ましい。例えば、前記粘度η100が35mPa・s以上、好ましくは50mPa・s以上、より好ましくは70mPa・s以上になるまで、前記剪断処理を繰り返し実施してもよい。また、前記粘度η1が500mPa・s以上、好ましくは1,000mPa・s以上、より好ましくは1,500mPa・s以上、更に好ましくは2,500mPa・s以上になるまで、前記剪断処理を実施してもよい。前記媒体撹拌ミルによる剪断処理時間は、10分以上であることが好ましい。また、前記高圧ホモジナイザー又は前記高圧噴射装置による前記剪断処理の回数は、通常1~10回、製造効率上好ましくは1~5回である。
【0051】
前記繊維分散体の製造においては、前記pH調整剤によって前記繊維分散体のpHを5.0~8.0に調整することが好ましい。これによって、酸性~アルカリ性の様々な水性スラリー組成物に対してpHの局所的な変化を生じさせ難く、粉体粒子の凝集リスクを低減し安定して使用できるため好ましい。前記pH調整剤としては、塩酸やリン酸等の無機酸、酢酸やクエン酸等の有機酸、水酸化ナトリウムや水酸化カリウム等のアルカリ水酸化物、トリエチルアミンやトリエタノールアミン等の有機アミン類などが挙げられる。なお、pH調整は、前記混合工程において行ってもよく、前記剪断工程において行ってもよく、前記剪断工程後に行ってもよい。
【0052】
上記構成の製造方法によれば、前記媒体撹拌ミル、前記高圧ホモジナイザー、又は前記高圧噴射装置を用いることによって、前記食物繊維に化学修飾を施さずに、前記繊維分散体を製造することができる。
【0053】
次に、前記水系スラリー組成物の製造方法について説明する。
【0054】
前記水系スラリー組成物は、前記繊維分散体と、前記粉体粒子とを混合することによって製造することができる。また、前記水系スラリー組成物は、前記繊維分散体と、前記水性溶媒及び前記粉体粒子を混合して得られる粒子混合液とを混合することによって製造してもよい。この場合、高速撹拌機やボールミル、ビーズミル等の媒体撹拌ミルを撹拌装置として用いることが好ましい。
【0055】
また、前記水系スラリー組成物は、前記水性溶媒と前記食物繊維と前記粉体粒子とを混合した繊維粒子混合液を作製し、該繊維粒子混合液に前記剪断処理を施すことによって製造することもできる。
【0056】
以上のように、例示として一実施形態を示したが、本発明に係る繊維分散体、水系スラリー組成物、及び前記繊維分散体の製造方法は、上記実施形態の構成に限定されるものではない。また、本発明に係る繊維分散体、水系スラリー組成物、及び前記繊維分散体の製造方法は、上記した作用効果により限定されるものでもない。本発明に係る繊維分散体、水系スラリー組成物、及び前記繊維分散体の製造方法は、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【実施例0057】
以下、実施例により本発明をさらに説明するが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0058】
[実施例1:柑橘類由来の食物繊維の増粘性及び粘度評価]
製造する繊維分散体の総質量に対して、96.95質量%の脱イオン水に、防腐剤として1.0質量%のフェノキシエタノール、pH調整剤として0.05質量%のトリエチルアミンを混合、溶解した後、2.0質量%のレモン由来及びライム由来の食物繊維(ヘルバセルAQプラスCF-D/100、ヘルバフード社製)を混合し十分に撹拌して、食物繊維の含有量2.0質量%、pH5.1の繊維混合液1を作製した。
次いで、得られた繊維混合液1に対して、高圧ホモジナイザーで3回剪断処理を施した後、脱イオン水を加えて混合し、食物繊維含有量が1.0質量%となるように希釈して実施例1の繊維分散体を作製した。なお、高圧ホモジナイザーは三和エンジニアリング社製の2段式圧力ホモジナイザーL-100型を使用し、加圧条件は1段目‐10MPa、2段目‐5MPaとした。
【0059】
[比較例1:柑橘類以外の果実由来の食物繊維の増粘性及び粘度評価]
食物繊維をリンゴ由来の食物繊維(ヘルバセルAQプラスアップルA09、ヘルバフード社製)とした以外は実施例1と同様にして、食物繊維の含有量2.0質量%、pH6.5の繊維混合液2を得た。その後の操作は実施例1と同様に実施し、食物繊維含有量が1.0質量%の繊維分散体2を作製した。
【0060】
[比較例2:果実由来ではない食物繊維の増粘性及び粘度評価]
製造する繊維分散体の総質量に対して、96.7質量%の脱イオン水に、防腐剤として1.0質量%のフェノキシエタノールを混合、溶解した後、2.0質量%の小麦由来の食物繊維(ビタセルWF200、レッテンマイヤージャパン社製)を混合し十分に撹拌して、小麦由来の食物繊維の含有量が2.0質量%、pH6.4の繊維混合液3を作製した。その後の操作は実施例1と同様に実施し、食物繊維含有量が1.0質量%の繊維分散体3を作製した。
【0061】
[参考例1:粉末セルロースの増粘性及び粘度評価]
小麦由来の食物繊維をパルプ由来の繊維である粉末セルロースとした以外は比較例2と同様にして、粉末セルロースの含有量が2.0質量%、pH6.8の繊維混合液4を作製した。なお、粉末セルロースはナカライテスク社の試薬を使用した。また、その後の操作は実施例1と同様に実施し、粉末セルロースの含有量が1.0質量%の繊維分散体4を作製した。
【0062】
[水溶性食物繊維、水不溶性食物繊維の含有量]
実施例1、比較例1、及び比較例2に関し、前記食物繊維に含まれる前記水溶性食物繊維及び前記水不溶性食物繊維の含有量は、「日本食品成分表分析マニュアル」に記載のプロスキー変法によって測定することができる。より具体的には、前記プロスキー変法では、まず、マニュアル規定の酵素反応条件下で、不溶性の画分と、可溶性ではあるが追加のエタノール添加等の処理によって不溶化する画分とに分画する。次いで、それぞれの画分の質量から、これらに含まれる灰分及びたんぱく質の質量を差し引き、全食物繊維中の水溶性食物繊維の含有量及び水不溶性食物繊維の含有量を算出する。
【0063】
[繊維分散体の増粘性]
実施例1、比較例1~2、参考例1の繊維分散体について、増粘性の発現を評価した。具体的には、剪断処理前の繊維混合液1~4に脱イオン水を加えて、繊維含有量が1.0質量%の希釈繊維混合液1~4をそれぞれ調製した(すなわち、繊維の含有量を繊維分散体に合わせた)。そして、希釈繊維混合液1~4及び繊維分散体1~4を目視比較し、下記評価基準によって増粘性を評価した。結果は表1に示したとおりである。
(評価基準)
〇:剪断処理後の繊維分散体が、剪断処理前の繊維混合液と比較して増粘が認められる。
×:剪断処理後の繊維分散体が、剪断処理前の繊維混合液と比較して増粘が認められない。
なお、評価結果が×の場合は、粘度計での粘度測定及び剪断安定性評価は実施しなかった。
【0064】
[繊維分散体の粘度測定]
十分に撹拌して均一な状態とした実施例1、比較例1~2、参考例1の繊維分散体をサンプリングし、コーンプレート型粘度計(TVE-35型、東機産業社製)を用い、角度1°34´、直径24mmのコーンローターを使用し、温度25℃の条件で、ローター回転数を1rpmから100rpmに連続的に変化させて、粘度η1及び粘度η100を測定した。また、測定した粘度η1及び粘度η100の値からTI値を算出した。結果は表1に示したとおりである。
【0065】
[繊維分散体の剪断安定性]
上記のコーンプレート型粘度計を用い、角度1°34´、直径24mmのコーンローターを使用し、温度25℃の条件で、ローター回転数を1rpmから100rpmに連続的に変化させて剪断を加えた後、それぞれの外観を下記の評価基準で目視評価した。結果は、表1に示したとおりである。
(評価基準)
○:剪断後の状態が剪断前の状態と同等である。
×:剪断後において、水と繊維との分離が認められる。
【0066】
【表1】
【0067】
表1の、柑橘類由来の食物繊維を含む実施例1の繊維分散体は(η100が81mPa・s、TI値が15.8)、増粘性を有し、剪断安定性に優れるものであることが認められた。これに対して、柑橘類由来ではない果実であるリンゴ由来の食物繊維を含む比較例1の繊維分散体は(η100が27mPa・s、TI値が15.1)、柑橘類由来の食物繊維と同等の水溶性食物繊維及び水不溶性食物繊維含量であり、増粘性を有するものであったが、剪断安定性に劣るものであることが認められた。また、果実由来ではない小麦由来の食物繊維を含む比較例2の繊維分散体は、望ましい水溶性食物繊維含有量を満たしておらず、剪断処理後も繊維が膨潤した様子が見られず、増粘性を有するものではなかった。また、粉末セルロースを繊維として含む参考例1の繊維分散体も同様に、剪断処理後に繊維が膨潤した様子が見られず、増粘性を有するものではなかった。これらの結果から、剪断安定性に優れる繊維分散体とするためには、柑橘類由来の食物繊維を用いることが有利であると分かる。
【0068】
[実施例2~4、比較例3~4:柑橘類由来の食物繊維に関する製造例]
実施例1と同様の操作で、柑橘類由来の食物繊維の含有量2.0質量%、pH5.1の繊維混合液1を作製した。次いで、表2に記載の装置及び条件にて繊維混合液1を剪断処理し、脱イオン水を加えて混合し、食物繊維含有量が1.0質量%となるように希釈して実施例2~4、比較例3~4の繊維分散体を作製した。なお、媒体撹拌ミルはアイメックス社製のRMB型ビーズミルを使用し、高圧噴射装置は常光社製のナノジェネシスを使用し、高速撹拌機はプライミクス社製のホモディスパー2.5型を使用し、高圧ホモジナイザーは三和エンジニアリング社製の2段式圧力ホモジナイザーL-100型を1段目のみを操作して使用した。
【0069】
上記の繊維分散体の粘度測定と同様にして、実施例2~4及び比較例3~4の繊維分散体の粘度η1及び粘度η100を測定し、TI値を算出した。また、上記の繊維分散体の剪断安定性の評価方法と同様にして、実施例2~4及び比較例3~4の繊維分散体の剪断安定性を評価した、結果は、表2に示したとおりである。
【0070】
【表2】
【0071】
表2に記載の通り、剪断条件の違いにより、粘性及び剪断安定性に違いが認められた。具体体には、少なくとも5MPa以上に設定した高圧ホモジナイザー、媒体撹拌ミル、又は、高圧噴射装置を用いて作製した実施例1~4の繊維分散体は(η100が67~126mPa・s、TI値が15.8~24.3)、増粘性を有し、剪断安定性に優れるものであることがわかった。これに対して、高速撹拌機を用いて作成した比較例3の繊維分散体は、十分な増粘性を有さず、このために、粘度測定を実施することができなかった。また、3MPaに設定した高圧ホモジナイザーを用いて作製した比較例4の繊維分散体は(η100が11、TI値が7.7)、増粘性を有するものであったが、剪断安定性に劣るものであった。これらの結果から、η100を35~250mPa・sに設定し、且つ、TI値を12以上に設定することにより、剪断安定性に優れる繊維分散体を取得できると考えられる。また、高圧ホモジナイザーを用いる場合、剪断処理における圧力を少なくとも5MPa以上に設定することが有利であり、この他の装置として、媒体撹拌ミル及び高圧噴射装置を用いることも有利であることも分かる。
【0072】
[実施例5、6:柑橘類由来の繊維分散体とアルミナを含む水系スラリー組成物]
まず、アルミナを含む粒子混合液を作製した。具体的には、作製する粒子混合液の総質量に対して、44.47質量%の脱イオン水に、0.23質量%の分散剤(DisperBYK-191、BYK社製)、0.3質量%の消泡剤(Drewplus TS-4385、Ashland社製)を十分に混合した後、55質量%のアルミナ(AES-11、住友化学社製、比重3.98)を加えて混合液を作製し、該混合液にこれと等体積量のΦ1mmジルコニアビーズを加えた後、媒体混合ミル(RMB型ビーズミル、アイメックス社製)を使用して30分処理して、アルミナを含む粒子混合液を作製した。
次いで、製造する水系スラリー組成物の総質量に対して、54.5質量%の上記粒子混合液と、40質量%の実施例2に記載の繊維分散体と、5.5質量%の脱イオン水とを混合し、十分に撹拌することで、アルミナの含有量が30質量%であり且つ繊維の含有量が0.8質量%である実施例5の水系スラリー組成物を作成した。また、実施例5の水系スラリー組成物の一部を分取して脱イオン水で希釈し、十分に撹拌することで、アルミナの含有量が22.5質量%であり且つ繊維の含有量が0.6質量%である実施例6の水系スラリー組成物を製造した。
【0073】
[実施例7、8:柑橘類由来の繊維分散体と酸化チタンを含む水系スラリー組成物]
まず、酸化チタンを含む粒子混合液を作製した。具体的には、作製する粒子混合液の総質量に対して、43.4質量%の脱イオン水に、1.2質量%の分散剤(DisperBYK-191、BYK社製)、0.4質量%の消泡剤(Drewplus TS-4385、Ashland社製)を十分に混合した後、55質量%の酸化チタン(Ti-Pure R-902+、Dupont社製、比重4.0)を加え、高速撹拌機(ホモディスパー2.5型、プライミクス社製)を使用して2,000rpmで15分撹拌し、酸化チタンを含む粒子混合液を作製した。
次いで、使用する粒子混合液が上記酸化チタンを含む粒子混合液であること以外は実施例5、6の水系スラリー組成物の作製と同様にして、酸化チタンの含有量が30質量%であり且つ繊維の含有量が0.8質量%である実施例7の水系スラリー組成物、及び、酸化チタンの含有量が22.5質量%であり且つ繊維の含有量が0.6質量%である実施例8の水系スラリー組成物を製造した。
【0074】
[実施例9、10:柑橘類由来の繊維分散体とアルミナを含む水系スラリー組成物]
実施例5、6における水系スラリー組成物に混合する繊維分散体を、実施例3で作製した繊維分散体とする以外は、実施例5、6と同様にしてアルミナの含有量が30質量%であり且つ繊維の含有量が0.8質量%である実施例9の水系スラリー組成物、及び、アルミナの含有量が22.5質量%であり且つ繊維の含有量が0.6質量%である実施例10の水系スラリー組成物を製造した。
【0075】
[実施例11、12:柑橘類由来の繊維分散体と酸化チタンを含む水系スラリー組成物]
実施例7、8における水系スラリー組成物に混合する繊維分散体を、実施例3で作製した繊維分散体とする以外は、実施例7、8と同様にして酸化チタンの含有量が30質量%であり且つ繊維の含有量が0.8質量%である実施例11の水系スラリー組成物、及び、酸化チタンの含有量が22.5質量%であり且つ繊維の含有量が0.6質量%である実施例12の水系スラリー組成物を製造した。
【0076】
[実施例13、14:柑橘類由来の繊維分散体とアルミナを含む水系スラリー組成物]
実施例5、6における水系スラリー組成物に混合する繊維分散体を、実施例4で作製した繊維分散体とする以外は、実施例5、6と同様にしてアルミナの含有量が30質量%であり且つ繊維の含有量が0.8質量%である実施例13の水系スラリー組成物、及び、アルミナの含有量が22.5質量%であり且つ繊維の含有量が0.6質量%である実施例14の水系スラリー組成物を製造した。
【0077】
[実施例15、16:柑橘類由来の繊維分散体と酸化チタンを含む水系スラリー組成物]
実施例7、8における水系スラリー組成物に混合する繊維分散体を、実施例4で作製した繊維分散体とする以外は、実施例7、8と同様にして酸化チタンの含有量が30質量%であり且つ繊維の含有量が0.8質量%である実施例15の水系スラリー組成物、及び、酸化チタンの含有量が22.5質量%であり且つ繊維の含有量が0.6質量%である実施例16の水系スラリー組成物を製造した。
【0078】
[比較例5、6:パルプ由来の繊維分散体とアルミナを含む水系スラリー組成物]
製造する繊維分散体の総質量に対して、79.0質量%の脱イオン水に、防腐剤として1.0質量%のフェノキシエタノールを混合、溶解した後、20.0質量%のパルプ由来セルロース繊維(セリッシュKY100G、ダイセルミライズ社製、固形分10質量%)を、高速撹拌機(ホモディスパー2.5型、プライミクス社製)を使用して3000rpmで10分間分散して、セルロース繊維の含有量2.0質量%の繊維分散体を作製した。
次いで、繊維分散体を上記のパルプ由来の繊維分散体を用いること以外は実施例5、6と同様にしてアルミナの含有量が30質量%であり且つ繊維の含有量が0.8質量%である比較例5の水系スラリー組成物、及び、アルミナの含有量が22.5質量%であり且つ繊維の含有量が0.6質量%である比較例6の水系スラリー組成物を製造した。
【0079】
[比較例7、8:パルプ由来の繊維分散体と酸化チタンを含む水系スラリー組成物]
実施例7、8における水系スラリー組成物に混合する繊維分散体を比較例5、6で作製したパルプ由来の繊維分散体とする以外は、実施例7、8と同様にして酸化チタンの含有量が30質量%であり且つ繊維の含有量が0.8質量%である比較例7の水系スラリー組成物、及び、酸化チタンの含有量が22.5質量%であり且つ繊維の含有量が0.6質量%である比較例8の水系スラリー組成物を製造した。
【0080】
[参考例2、3:水溶性増粘剤であるヒドロキシエチルセルロース及びアルミナを含む水系スラリー組成物]
まず、増粘剤含有水溶液を作製した。具体的には、該水溶液の総質量に対して、97.0質量%の脱イオン水に、防腐剤として1.0質量%のフェノキシエタノールを混合、溶解した後、2.0質量%ヒドロキシエチルセルロース水溶液(Natrosol 250MR、Ashland社製、推定分子量720,000)を添加し、十分に撹拌して溶解させて増粘剤含有水溶液を得た。
次いで、実施例5、6の繊維分散体の代わりに上記増粘剤含有水溶液を用いること以外は実施例5、6と同様にして、アルミナの含有量が30質量%であり且つヒドロキシセルロースの含有量が0.8質量%である参考例2の水系スラリー組成物、及び、アルミナの含有量が22.5質量%であり且つヒドロキシセルロースの含有量が0.6質量%である参考例3の水系スラリー組成物を製造した。
【0081】
[参考例4、5:水溶性増粘剤であるヒドロキシエチルセルロース及び酸化チタンを含む水系スラリー組成物]
参考例2、3で作製した増粘剤含有水溶液を用い、実施例7、8の繊維分散体の代わりに上記増粘剤含有水溶液を用いること以外は実施例7、8と同様にして、酸化チタンの含有量が30質量%であり且つヒドロキシセルロースの含有量が0.8質量%である参考例4の水系スラリー組成物、及び、酸化チタンの含有量が22.5質量%であり且つヒドロキシセルロースの含有量が0.6質量%である参考例5の水系スラリー組成物を製造した。
【0082】
[水系スラリー組成物の粘度測定]
十分に撹拌して均一な状態となった実施例5~16、比較例5~8、参考例2~5に記載の水系スラリー組成物を、上記のコーンプレート型粘度計を用い、各水系スラリー組成物に対して、角度1°34´、直径24mmのコーンローター、温度25℃の条件で、ローター回転数を1rpmから100rpmに連続的に変化させて、50rpmのときの粘度値η50を水系スラリー組成物の粘度として採用した。また、それぞれの粘度η1及び粘度η100を測定し、TI値を算出した。結果は、下記表3~4に示したとおりである。
【0083】
[水系スラリー組成物の剪断安定性]
上記した繊維分散体の評価方法により、剪断安定性を評価した。結果は、下記表3~4に示したとおりである。
【0084】
[水系スラリー組成物の分散安定性]
各水系スラリー組成物を15mL容量の遠沈管に10cm高さまで充填し、蓋をして室温で3日間静置保管した。目視にて上澄み部分の高さを測定し、以下の評価基準で評価した。本試験においては◎及び〇であれば分散安定性が良好であると評価した。結果は、下記表3~4に示したとおりである。
◎:上澄み部分の高さが3mm未満である。
〇:上澄み部分の高さが3mm以上12mm未満である。
△:静置2時間で上澄み部分が認められ、3日後の上澄み部分の高さが3mm以上12mm未満である。
×:静置2時間で上澄み部分が認められ、3日後の上澄み部分の高さが12mm以上である。
【0085】
[水系スラリー組成物のタレ防止性]
3~12ミルのスリットからなるタレ試験機を用い、各水系スラリー組成物を試験片に塗装し、12ミル塗膜が最も下に配されるように試験片を直ちに垂直に立て、1日静置し、目視にて以下の評価基準で評価した。結果は、下記表3~4に示したとおりである。
〇:7ミル以上でタレを防止している。
×:7ミル未満でタレが発生する。
【0086】
【表3】
【0087】
【表4】
【0088】
表3において、柑橘類由来の食物繊維であり、η100が35~250mPa・sかつTI値が12以上となった繊維分散体を使用した実施例5、6、9、10、13、14は剪断安定性、分散安定性、タレ防止性に優れた水系スラリー組成物となった。
パルプ由来の繊維分散体を使用した比較例5は実施例5、9、13に、比較例6は実施例6、10、14に近いη50、TI値となり、水系スラリー組成物ではタレ防止性が得られたものの、剪断安定性、分散安定性で良好な結果が得られず、水系スラリー組成物に使用した際の安定性に劣る結果となった。この要因として、パルプ由来の繊維分散体は水性溶媒中で膨潤した繊維の膨潤度合や安定性が柑橘類由来の食物繊維と比較して低いために、強い剪断や経時により水性溶媒と繊維等の成分が分離したと推察される。
水溶性増粘剤であるヒドロキシエチルセルロースを使用した参考例2、3では剪断安定性と分散安定性では良好な結果となったが、タレ防止性で良好な結果が得られなかった。この要因としてヒドロキシエチルセルロースのη1及びTI値が実施例5、6、9、10、13、14に記載の繊維分散体と比較して大幅に低いために、タレ試験機で塗装した後に塗膜のタレを防止できなかったと推察される。
【0089】
表4においても、表3と同様に柑橘類由来の食物繊維であり、η100が35~250mPa・sかつTI値が12以上となった繊維分散体を使用した実施例7、8、11、12、15、16は剪断安定性、分散安定性、タレ防止性に優れた水系スラリー組成物となった。また、表3と同様にパルプ由来の繊維分散体を使用した比較例7、8は剪断安定性、分散安定性に劣る結果となり、水溶性増粘剤であるヒドロキシエチルセルロースを使用した参考例4、5では、酸化チタンおよびヒドロキシエチルセルロースの含有量の多い参考例4ではタレ防止性が得られるものの、これらの含有量が減る参考例5ではタレ防止性が得られず、効果は限定的であった。