(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023056716
(43)【公開日】2023-04-20
(54)【発明の名称】水道メーターの器差低減方法とこれに用いるパッキン一体型逆止弁
(51)【国際特許分類】
G01F 1/06 20060101AFI20230413BHJP
F16K 15/06 20060101ALI20230413BHJP
E03C 1/02 20060101ALI20230413BHJP
【FI】
G01F1/06 Z
F16K15/06
E03C1/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021166089
(22)【出願日】2021-10-08
(71)【出願人】
【識別番号】000201593
【氏名又は名称】前澤給装工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100073623
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 幸吉
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【弁理士】
【氏名又は名称】森川 泰司
(74)【代理人】
【識別番号】100098246
【弁理士】
【氏名又は名称】砂場 哲郎
(72)【発明者】
【氏名】金井 宏之
(72)【発明者】
【氏名】金子 晃
【テーマコード(参考)】
2D060
2F030
3H058
【Fターム(参考)】
2D060AA01
2D060AB10
2F030CC02
2F030CD02
2F030CE11
2F030CF01
2F030CF05
3H058AA02
3H058BB14
3H058CA04
3H058CA06
3H058CB02
3H058CC02
3H058CC08
3H058CC11
3H058CD05
3H058DD02
3H058EE02
(57)【要約】
【課題】水道メーターの上流側直近に逆止弁を取付ける場合、パッキン一体型逆止弁の逆止弁体がわずかに開いた状態においては、逆止弁軸の後端によって水の流れが妨げられ、水流が乱れることで、水道メーターの器差が検定公差を超えてしまう問題があった。
【解決手段】逆止弁体弁軸後端の所定長さ部をテーパー・R等の形状を用いてに徐々に細くする、或いは、パッキン取付け部材の孔部に通す弁軸の断面形状を+形状として軸外表に溝状の凹陥を形成すると共に、2次側に向けて先細りの形状に構成した。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
パッキン一体型逆止弁の逆止弁体の弁軸後端部の通水部の水路容積を徐々に拡張させることにより水道メーターの器差を減少させることを特徴とする水道メーターの器差低減方法。
【請求項2】
カートリッジ本体への逆止弁体の挿嵌設定を、弁軸摺動支持孔の長さと弁軸摺動支持孔と重なる弁軸後端部の軸外表縮径部の長さの割合を0.1から0.9となる範囲に設定すると共に、弁軸後端部から、逆止弁座の水流流入部の開口径方向に拡開する拡開角度を5乃至150度に設定するようにした請求項1記載の水道メーターの器差低減方法。
【請求項3】
逆止弁体の弁軸後端の所定長さ部の形状を徐々に細くするようにしたことを特徴とするパッキン一体型逆止弁。
【請求項4】
パッキン取付け部材の弁軸摺動支持孔に通す逆止弁体の弁軸の断面形状を軸外表に溝状の凹陥を形成する+形状とすると共に、2次側に向けて先細りの形状とした請求項3記載のパッキン一体型逆止弁。
【請求項5】
パッキン一体型逆止弁が全開状態において、逆止弁体の弁軸後端がパッキン一体型逆止弁の2次側端面より外部に突き出ないようにした請求項3又は請求項4記載のパッキン一体型逆止弁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、平成17年3月、特定計量器(水道メーター・温水メーター等)の検定検査規則の改正に伴い注目されるようになったメーター機器に設定される逆止弁等の流量計測に与える影響について、その低減を図るための逆止弁の弁軸を備えたパッキン一体型逆止弁に関するものである。
【背景技術】
【0002】
水道メーターの計量要件については、JIS B 8570-2に記載があり、定格最大流量Q3[m3/h]を選択し、この流量から定格最小流量Q1[m3/h]を求めるためQ3/Q1の比を選択、ここから転移流量Q2[m3/h]はQ2/Q1=1.6で求めることとされている。
【0003】
水道メーターの器差検定は次の3点の流量にて計測する。
1) Q1と1.1×Q1との間 (検定公差±5%)
2) Q2と1.1×Q2との間 (検定公差±2%)
3) 0.9×Q3とQ3との間 (検定公差±2%)
例えば、呼び径13の場合、Q3=2.5[m3/h]としQ3/Q1=100とすると、Q1=0.025[m3/h]、Q2=0.04[m3/h]となる。これらの流量値より1) 2) 3)で確認を行い、器差が検定公差内であることを確認した水道メーターが出荷される。
パッキン一体型逆止弁を水道メーター直近の上流側に設置した試験の結果、特に1) 2)の近傍の流量で器差が大きくなり、検定公差(基準)を超える場合があることが判明している。
【0004】
上記のQ1とQ2の流量を単位換算すると、
Q1=0.025[m3/h]≒0.417[L/min]
Q2=0.04[m3/h]≒0.667[L/min]
となり、Q1とQ2の流量は1[L/min]未満である。
日本水道協会規格JWWA B 129「水道用逆流防止弁」の呼び径13の基準流量16[L/min]と比べ、微小な流量でありパッキン一体型逆止弁の逆止弁体がわずかに開いた状態であり、このわずかに開いた状態では、弁軸の後端によって水の流れが妨げられ、水流が乱れることで、水道メーターの器差が検定公差を超えてしまうことがあることが判明した。
【0005】
水道メーターの流量計測と器差調整については、例えば特許文献1においては、調整盤に回転可能に支持された抵抗板の回転数によって計測し、抵抗板の支持位置を調整することによって器差調整を行うことが提案され、特許文献2においては、水道メーター内の流路を流れる水量に応じたデジタル(パルス)信号を取得することによって、より細かい単位で使用した水量を把握することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7-270201号公報
【特許文献2】特開2021-76390号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前記特定計量器(水道メーター・温水メーター等)の検定検査規則の改正に伴い、JIS規格による圧力損失基準が採用されることによって、前記のような水道メーターに、逆流防止のために設定される逆止弁、特に、水道メーター直近の上流に設置される逆止弁の水流に対する影響が問題となる。
【0008】
従来の水道メーターの下流側直近に逆止弁を取付ける場合、水道メーターに流入する水に影響を与える要素はないので、基準を超える器差(メーター内を実際に通過した量に対して、メーターが示す量の差)は発生しない。
【0009】
しかしながら、前記1) Q1と1.1×Q1との間 (検定公差±5%)、2) Q2と1.1×Q2との間 (検定公差±2%)の近傍の流量で器差が大きくなり、検定公差(基準)を超える場合があることが、試験の結果判明している。
Q1とQ2の流量は、単位換算により、Q1は 0.025[m3/h]≒0.417[L/min]、Q2は 0.04[m3/h]≒0.667[L/min] となり、何れも、1[L/min]未満である。
【0010】
日本水道協会規格JWWA B 129「水道用逆流防止弁」の呼び径13の基準流量16[L/min]と比べ、微小な流量でありパッキン一体型逆止弁の逆止弁体がわずかに開いた状態であり、このわずかに開いた状態では、弁軸の後端によって水の流れが妨げられ、水流が乱れることで、水道メーターの器差が検定公差を超えてしまうものであるが、水道メーターに基準を超える器差が発生すると、水道メーターで計測された水量により水道使用者に対して水道料金が請求されるので、水道使用者に対して水道料金の過大請求や過少請求が発生し、水道料金請求システムに対する公明さと信用が失われるという大きな問題にも繋がるものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願発明は、前記課題を解決する手段として、逆止弁の弁軸後端の通水部の水路容積を徐々に拡張させることにより弁軸の後端によって水の流れが妨げられることを防止し、水の流れが整流され、逆止弁体がわずかに開いた微小な流量時であっても、水道メーターの器差を減少させることができる。
すなわち、実施例1として、パッキン一体型逆止弁の逆止弁体の弁軸の後端側を徐々に細くすることにより上記の効果を得ることができる。この手段によれば、他の作用的効果として、組立て時に逆止弁体を取付ける際、弁軸の後端が細くなっているので、パッキン取付け部材の弁軸摺動支持孔に逆止弁体を挿し込み易くなり組立性が向上するものである。
【0012】
更に、実施例2として、パッキン取付け部材の弁軸摺動支持孔に通す弁軸の断面形状を、○形状ではなく、+形状とすることで、通水部の断面積を○形状よりも拡げる(水路容積を拡張する)ことができる。これによっても、水道メーターの器差を減少させることができる。
【発明の効果】
【0013】
以上の構成は、逆止弁体がスプリングと逆止弁座と逆止弁パッキンによってカートリッジ本体内に収容固定されていることを前提とし、これにより、逆止弁体の後端から水道メーターの流入口まで一定の距離が確保でき、水道メーターの器差を減少させる効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施例を示すもので、本発明による弁軸を有する逆止弁体がパッキン一体型逆止弁のカートリッジ本体に挿嵌されている状態を示すパッキン一体型逆止弁の正面断面図である。
【
図2】同じく、
図1のパッキン一体型逆止弁における水流の微小な流量時における水流の通水状態を矢印で示すパッキン一体型逆止弁の正面断面図である。
【
図3】同じく本発明による弁軸を有する逆止弁体のカートリッジ本体内への挿嵌構造を示すもので、(a)はパッキン一体型逆止弁の正面断面図、(b)は逆止弁体の正面断面図である。
【
図4】同じく本発明の他の実施例によるもので、弁軸の断面を+形状とした実施例の逆止弁体の正面図と右側面図を対応させた対応図である。
【
図5】同じく本発明による弁軸を有する逆止弁体を挿嵌するパッキン一体型逆止弁を、止水栓、伸縮管、水道メーターを順次連結したその他の配管を省略した状態を示す要部を切欠して示す全体正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明すると、1は逆止弁体で、弁傘11とその中心部に植設されて逆止弁体を支持する弁軸12から成り、水道メーターXの1次側に伸縮管Yを介して設定されるパッキン一体型逆止弁のカートリッジ本体2の中に、伸張方向に付勢して張設されたスプリング4を介してカートリッジ本体2の1次側に設定された逆止弁座5に圧接して挿嵌される。
【0016】
パッキン一体型逆止弁の1次側から水流が流入すると、逆止弁体1の弁傘11に負荷される流圧が逆止弁体1を付勢するスプリング4を圧縮して逆止弁体1を2次側に移動させ、同逆止弁体1を逆止弁パッキン6から離間させてその隙間から水流を2次側に通水させるものである。
【0017】
しかし、この通水については、前記のように逆止弁体がわずかに開いた状態では、弁軸の後端によって水の流れが妨げられ、水流が乱れることで、水道メーターの器差が検定公差を超えてしまう問題があるため、出願人において検討実験した結果、これを避けるためには、逆止弁体のカートリッジ本体2への挿嵌設定構造を次のような構造とする必要があることが判明した。
【0018】
すなわち、
図3に示すように、水流の流圧によって移動する逆止弁体1の弁軸12を支持するパッキン取付け部材の弁軸摺動支持孔の長さをA、弁体部通水部の水路容積拡張のための、弁軸後端部の軸外表縮径部の始点から弁軸摺動支持孔の後端まで(弁軸外表縮径部と弁軸摺動支持孔の重なっている部分)の長さをBとして、B/Aの値が0.1から0.9となる範囲に設定すると共に、弁軸後端部から、逆止弁座の水流流入部の開口径方向に拡開する拡開角度をCとして、その角度を5乃至150度に設定する挿嵌設定構造とする。
【0019】
この挿嵌設定構造を呼び径13のJWWA B 129に相当するパッキン一体型逆止弁について実施適用したところ、Aが5.5ミリ、Bが2.8ミリ、B/Aの値が0.51となり、Cは30度であった。
因みに、弁軸後端部の先端から軸外表縮径部の開始位置までの長さをDとして、出願人において実施適用したところ、配管の呼び径13で、Dは2.9ミリとなっている。
【0020】
各呼び径に対応するDの寸法は、呼び径13で0.7から5.1ミリ、20で1.4から7.0ミリ、25で1.4から8.6ミリ、30で2.1から10.9ミリ、40で2.6から15.4ミリである。
【0021】
軸外表縮径部の実施例1は、逆止弁体の弁軸12の後端をテーパー状に徐々に細くする場合である。流入開口部51に通水する水流は、逆止弁体1の弁傘11に流圧を負荷し、逆止弁体1を付勢するスプリング4を圧縮して逆止弁体1を2次側に移動させ、逆止弁体を逆止弁パッキン6から離間させてその隙間から水流を2次側に通水させ、水流の一部は弁傘11の裏面から弁軸外表に沿ってパッキン一体型逆止弁の2次側に通水する。
【0022】
弁軸の後端部には、軸外表縮径部があることにより水路容積が徐々に拡張することで流出開口部32から水道メーターXに通水するものであり、これにより水道メーターの器差を減少させることができた。
【0023】
実施例2は、パッキン取付け部材3の弁軸摺動支持孔31に通す弁軸12の断面形状を、○形状ではなく、+形状とするものである。これによる弁軸の軸外表部は
図4に示されるように軸外表に溝状の凹陥25を形成すると共に、2次側に向けて先細りの形状に形成される。これにより、通水部の断面積(水路容積)は○形状の場合より更に拡げられる。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明に係る水道メーターの器差の低減方法とこれに用いる逆止弁の弁軸は、上記のように、弁軸の後端によって水の流れが妨げられることを防止し、水路容積が徐々に拡張し水の流れが整流され、逆止弁体がわずかに開いた微小な流量時であっても、水道メーターの器差を減少させることができるので水道機器産業において極めて有為に利用することができる。
【符号の説明】
【0025】
1 逆止弁体
11 逆止弁体の弁傘
12 逆止弁体の弁軸
13 +状弁軸の溝状凹陥
2 カートリッジ本体
21 逆止弁座の雄ねじと螺合する雌ねじ
3 パッキン取付け部材
31 弁軸摺動支持孔
32 流出開口部
4 スプリング
5 逆止弁座
51 流入開口部
6 逆止弁パッキン
7 パッキン
A パッキン取付け部材の弁軸摺動支持孔の長さ
B 逆止弁軸後端部の軸外表縮径部の長さ
C 逆止弁座の水流流入部の開口径方向に拡開する拡開角度
X 水道メーター
Y 止水栓の伸縮管
Z 止水栓
D 弁軸後端部の先端から軸外表縮径部の開始位置までの長さ